説明

押出用ダイスの製造方法

【課題】従来よりも容易に製作できる押出用ダイスの製造方法の提供を目的とする。
【解決手段】押出用ダイスの製造方法において、1回目の熱処理を施した一次熱処理済み材料に、少なくとも切削加工を含む加工を施して押出材に対応する形状に成形し、これを一次熱処理ダイスとし、この一次熱処理ダイスで押出材を押出した後に、2回目の熱処理を施して一次熱処理ダイスよりも硬度の高い二次熱処理ダイスとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム等の金属の押出加工に用いる押出用ダイスの製造方法に関する。
なお、本明細書において「アルミニウム」の語はアルミニウムおよびその合金を含む意味で用いる。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム等の金属の押出用ダイスは、ダイス素材を概略形状に成形した後に熱処理を行ってダイスの硬度調整を行い、その後に放電加工等により最終形状に加工して製作するのが一般的である。例えば、ポートホールダイスの雄型の製作工程は、ダイス用原材から材料取りを行い、荒旋盤による外周面の加工、ケガキ、マシニング加工による切削によりメタルホールの成形やマンドレルの概略形状の成形を行って最終形状に近い形状に加工する。次いで、焼入れ、焼戻し、焼なまし等の熱処理を施して所定の硬度や靱性を得た後、さらに放電加工等によりベアリング部の細部形状を成形して最終形状に成形する、というものである(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−315717号公報(段落番号0008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の製作工程では最終的なダイス硬度を得た状態で細部形状の加工を行うために、特に複雑形状のダイス製作では困難性を伴うという問題点があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上述した技術背景に鑑み、従来よりも容易に製作できる押出用ダイスの製造方法の提供を目的とする。
【0006】
即ち、本発明の押出用ダイスの製造方法は下記[1]〜[6]に記載の構成を有する。
【0007】
[1]1回目の熱処理を施した一次熱処理済み材料に少なくとも切削加工を含む加工を施して押出材に対応する形状に成形し、これを一次熱処理ダイスとし、この一次熱処理ダイスで押出材を押出した後に、2回目の熱処理を施して一次熱処理ダイスよりも硬度の高い二次熱処理ダイスとすることを特徴とする押出用ダイスの製造方法。
【0008】
[2]前記一次熱処理ダイスのショア硬度(Hs)が30〜66であり、前記二次熱処理ダイスのショア硬度(Hs)が53〜79である前項1に記載の押出用ダイスの製造方法。
【0009】
[3]1回目の熱処理において、1000〜1050℃の焼入れ、530〜680℃の焼戻しを順次行う前項1または2に記載の押出用ダイスの製造方法。
【0010】
[4]2回目の熱処理において、820〜870℃の焼きなまし、1000〜1050℃の焼入れ、530〜680℃の焼戻しを順次行う前項1〜3のいずれかに記載の押出用ダイスの製造方法。
【0011】
[5]未加工のダイス素材に1回目の熱処理を施す前項1〜4のいずれかに記載の押出用ダイスの製造方法。
【0012】
[6]ダイス素材を概略形状に加工した後に1回目の熱処理を施す前項1〜4のいずれかに記載の押出用ダイスの製造方法。
【発明の効果】
【0013】
上記[1]に記載の発明によれば、硬度の低い一次熱処理済み材料に対して切削加工を行うから最終形状への加工が容易であり、加工に伴う困難性を低減できる。また、一時熱処理ダイスで押出材の製造は可能であるが、硬度を高くした二次熱処理ダイスは押出材の量産に適したものとなる。さらに、一次熱処理済み材料の状態で準備しておけば、所望形状のダイス製作を切削加工から開始できるので、短時間でのダイス製作が可能である。また、一次熱処理済み材料からダイス製作から開始すれば一次熱処理ダイスによる押出までは短時間で行えるから、押出材の試作を速やかに行うことができる。さらに、一次熱処理ダイスは押出材の材料流量に応じた研磨状態となり、その状態で二次熱処理するので、押出に適した研磨状態と押出に適した硬さのダイスとなる。
【0014】
上記[2][3][4]に記載の各発明によれば、アルミニウム押出用ダイスとして好適なダイスを製造することができる。
【0015】
上記[5]に記載の発明によれば、平ダイス、中空ダイス等の多彩な形状に対応できる。
【0016】
上記[6]に記載の発明によれば、より短時間でダイスを加工できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の押出用ダイスの製造方法を適用するポートホールダイスの断面図である。
【図2A】本発明の押出用ダイスの製造方法の一例を示す工程図である。
【図2B】本発明の押出用ダイスの製造方法の他の例を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、雌型(10)と雄型(20)とを組み合わせたポートホールダイス(1)の一例であり、二穴中空材(図示せず)を押出加工するために使用されるものである。
【0019】
前記ポートホールダイス(1)において、雌型(10)は二穴中空材の外周面を成形するベアリング孔(11)を有し、このベアリング孔(11)の周囲には溶着室用凹部(12)が後端面に開口して設けられている。また、後端面の外縁には嵌合凸部(13)が形成されている。一方、雄型(20)は、二穴中空材の中空部を形成するためのマンドレル(21)が前方に突出し、このマンドレル(21)を囲んで押出方向に貫通する複数個のポートホール(22)が設けられている。前記マンドレル(21)は、先端側が2つに分岐して押出材の内周面を成形するベアリング部(23)が形成されている。また、前記雌型(10)との当接面の外周縁には雌型(10)の嵌合凸部(13)が嵌合される嵌合凹部(24)が形成されている。
【0020】
前記雌型(10)および雄型(20)は、外周縁の嵌合凸部(13)と嵌合凹部(24)とを嵌め合わせることにより組み合わされ、この組合せ状態において、雌型(10)のベアリング孔(11)内に雌型(10)のマンドレル(23)の2つのベアリング部(23)が配置されるとともに、溶着室用凹部(12)が雄型(20)のポートホール(22)に連通して溶着室が形成される。そして、複数のポートホール(22)から流入したビレットが溶着室(溶着室用凹部(23))で合流し、雌型(10)のベアリング孔(11)と雄型(20)のベアリング部(23)との隙間から押し出されて、二穴中空材が押し出される。
【0021】
前記雄型(20)およびポートホールダイス(1)は下記の工程で製作される(図2A参照)とともに、このポートホールダイス(1)を用いて二穴中空材が製作される。
(i)工具鋼からなる原材から雄型(20)の外径相当の円柱体の材料取りを行う。この円柱体をダイス素材とする。
(ii)前記ダイス素材に対して1回目の熱処理を行って硬度調整を行い、一次熱処理済み材料とする。1回目の熱処理では、最終的な硬度よりも低くなるように調節する。
(iii)前記一次熱処理済み材料に対して、荒施盤により外周面を加工し、ケガキを行い切削加工によりマンドレル(21)の概略形状を成形するとともに、ポートホール(22)、嵌合凹部(24)を成形する。さらに切削加工および放電加工により細部形状の加工を行ってベアリング部(23)を成形する。前記細部形状の加工により雄型(20)のベアリング部(23)は二穴中空材の内周面に対応する形状となる。即ち、目的の押出材を成形し得る形状となる。このダイスを一次熱処理ダイスとする。
(iv)別途製作した雌型(10)と前記一次処理ダイス(雄型(20))と組み合わせてポートホールダイス(1)とし、このポートホールダイス(1)を押出機に取付けてアルミニウムビレットを押出し、二穴中空材を製作する。
(v)ポートホールダイス(1)を押出機から取り外し、一次熱処理ダイス(雄型(20))に対して2回目の熱処理を行ってダイスの硬度を高くし、二次熱処理ダイスとする。
(vi)再び雌型(10)と前記二次処理ダイス(雄型(20))と組み合わせてポートホールダイス(1)とし、このポートホールダイス(1)を押出機に取付けてアルミニウムビレットを押出し、二穴中空材を製作する。
【0022】
本発明において、ダイスの材料は熱処理によって硬度調整可能な材料、具体的には工具鋼であれば限定されない。例えば、アルミニウムの押出用ダイスであればSKD61、SKT4、SKD4、SKD5、SKD7、SKD8、SKD11、SKD12等の工具鋼を例示できる。
【0023】
上述したように、押出用ダイスの製作工程において2段熱処理を行い、1回目よりも2回目の熱処理で硬くなるように各回の熱処理条件を設定し、1回目の熱処理と2回目の熱処理との間に、少なくとも切削加工を含む加工により押出材の形状に対応した形状に成形する。一次熱処理済み材料は相対的に硬度が低いので加工が容易であり、加工に伴う困難性を低減することができる。そして、一次熱処理ダイスで所要量の材料を押出すことにより、押出材の試作品を早期に製作できる。しかも、一次熱処理ダイスによる押出において、材料がダイスに接触することにより接触面が研磨され、材料流量に応じた表面研磨状態が得られる。ダイスの研磨はダイヤモンドヤスリ等の研磨用工具によっても可能であるが、正確な研磨が難しく、広範囲の研磨が必要となるので手間がかかる。押出による研磨であれば、研磨面積、換言すれば接触面積の大きさに関係なく押出と同時に研磨することができる。
【0024】
一次熱処理ダイスによる押出条件は、二次熱処理ダイスによる押出条件で行えば良い。なお、メタルフローが大きく異ならなければ、必ずしも同じ条件で押出す必要はない。ただし、ビレット温度および押出速度はメタルフローに大きな影響を及ぼすので、これらの条件は揃えることが好ましい。一次熱処理ダイスによる押出時ビレット温度は、二次熱処理ダイスによる押出時ビレット温度の±50℃の範囲内が好ましく、より好ましくは±20℃の範囲内が良い。一次熱処理ダイスによる押出速度は、二次熱処理ダイスによる押出速度の±50%の範囲内が好ましく、より好ましくは±30%の範囲内が良い。また、一次熱処理ダイスによる押出量は限定されないが、0.01〜1tが好ましい。押出量が少なすぎると上述した研磨効果が乏しく、多すぎると硬度の低い一次熱処理ダイスは変形するおそれがある。また、押出材の量産は硬度の高い二次熱処理ダイスで行えば良いので、一次熱処理ダイスによる大量押出は材料が無駄になる。
【0025】
本発明において、一次熱処理ダイスは所要形状の押出材を製造しうるものであるが、2回目の熱処理で硬度を高めることでさらに量産性に適したダイスとなる。従って、一次熱処理ダイスで上記効果を得た後、押出材の量産には二次熱処理ダイスを用いることで高品質の押出材を効率良く製造することができる。
【0026】
また、ダイス製作に際して、一次熱処理済み材料の状態で準備しておけば、所望形状のダイス製作を切削加工から開始できるので、短時間でのダイス製作が可能である。また、一次熱処理済み材料からダイス製作から開始すれば一次熱処理ダイスによる押出までは短時間で行えるから、押出材の試作を速やかに行うことができる。また、試作した押出材を評価して、さらにダイスに加工を施すこともできる。
【0027】
本発明において、ダイス硬度は金属の押出が可能で、かつ二次熱処理ダイスの硬度が一次熱処理ダイスよりも高くなる限り、硬度値および硬度差は限定されず、押出材料や押出材の形状に応じて適宜設定すれば良い。例えば、アルミニウム押出用ダイスとして好ましい硬度は、一次熱処理ダイスのショア硬度(Hs)が30〜66であり、特に43〜63が好ましく、さらに56〜60が好ましい。また、二次熱処理ダイスの好ましいショア硬度(Hs)は53〜79であり、特に60〜74が好ましく、さらに65〜69が好ましい。
【0028】
上記範囲の硬度を得るための熱処理条件として以下の条件を推奨できる。1回目の熱処理において、1000〜1050℃の焼入れ、530〜680℃の焼戻しを順次行うことが好ましい。1回目の熱処理において、焼入れ温度に保持する時間は2〜7時間、焼戻しに温度に保持する時間は4〜9時間が好ましい。また、2回目の熱処理において、820〜870℃の焼きなまし、1000〜1050℃の焼入れ、530〜680℃の焼戻しを順次行うことが好ましい。2回目の熱処理において、焼きなまし温度に保持する時間は3〜8時間、焼入れ温度に保持する時間は2〜7時間、焼戻し温度に保持する時間は4〜9時間が好ましい。各回の熱処理において、冷却速度、焼入れの昇温の段階数、焼きなましの回数等の条件は限定されず、所望の硬度に調整されるように適宜設定する。また、熱処理はひずみが最小限となる真空炉内で行うことが好ましく、冷却は大気放冷が好ましい。
【0029】
本発明において、一次熱処理ダイスに対する加工は、少なくとも切削加工を含む加工を施して押出材に対応する形状への加工、換言すれば細部形状への加工を行えば良い。そして、細部形状への加工の前に行う概略形状への加工は、1回目の熱処理の後(図2A)に行っても良いし、1回目の熱処理の前(図2B)に行っても良い。図2Aの製造工程は、未加工のダイス素材に1回目の熱処理を施し、一時熱処理済み材料に対して概略形状への加工および細部形状への加工を行い、さらに2回目の熱処理を行うことを示している。一方、図2Bの製造工程は、未加工のダイス素材に対して概略形状に加工した状態で1回目の熱処理を行い、一次熱処理済み材料に対して細部形状への加工を行うことを示している。さらに、概略形状への加工を1回目の熱処理の前後に分けて行っても良い。本発明において概略形状および概略形状への加工とは切削加工、施盤加工等によって得られる形状への加工であり、細部形状および細部形状への加工とはワイヤーカット加工、放電加工、切削加工、研削加工等によって得られる形状への加工である。
【0030】
図2Aに示す製造工程、即ち未加工のダイス素材に対して1回目の熱処理を行い、全ての加工を一次熱処理済み材料に対して行うメリットは、一次熱処理済み材料をストックしておけば短時間で一次熱処理ダイスを製作できることである。また、図2Bに示す製造工程、即ち1回目の熱処理前にダイス素材を概略形状に加工するメリットは、切削加工を容易に行うことができることである。
【0031】
また、一次熱処理ダイスで押出す前に、ダイスの材料接触面を研磨しても良い。またダイスに窒化処理等の表面処理を施す場合は、二次熱処理ダイスに対して行うことが好ましい。
【0032】
上記製造例ではポートホールダイスの雄型(20)のみを本発明の2段熱処理方法により製作したが、雌型(10)に対しても本発明の2段熱処理方法を適用して製作することができる。さらに、本発明の2段熱処理方法を適用する押出用ダイスの種類は何ら限定されず、上述したポートホールダイスの他、ブリッジダイス、ソリッドダイス、ホローダイス、セミホローダイス、平ダイス等であっても良い。また、複数のダイスで構成される組合せダイスにおいては、2段熱処理を全ての構成ダイスに適用することもできるし、一部の構成ダイスにのみ適用することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、アルミニウム等の金属の押出加工に用いるダイスの製造に適用し、量産性に優れたダイスを製造できる。
【符号の説明】
【0034】
1…ポートホールダイス(押出用ダイス)
10…雌型
20…雄型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1回目の熱処理を施した一次熱処理済み材料に少なくとも切削加工を含む加工を施して押出材に対応する形状に成形し、これを一次熱処理ダイスとし、この一次熱処理ダイスで押出材を押出した後に、2回目の熱処理を施して一次熱処理ダイスよりも硬度の高い二次熱処理ダイスとすることを特徴とする押出用ダイスの製造方法。
【請求項2】
前記一次熱処理ダイスのショア硬度(Hs)が30〜66であり、前記二次熱処理ダイスのショア硬度(Hs)が53〜79である請求項1に記載の押出用ダイスの製造方法。
【請求項3】
1回目の熱処理において、1000〜1050℃の焼入れ、530〜680℃の焼戻しを順次行う請求項1または2に記載の押出用ダイスの製造方法。
【請求項4】
2回目の熱処理において、820〜870℃の焼きなまし、1000〜1050℃の焼入れ、530〜680℃の焼戻しを順次行う請求項1〜3のいずれかに記載の押出用ダイスの製造方法。
【請求項5】
未加工のダイス素材に1回目の熱処理を施す請求項1〜4のいずれかに記載の押出用ダイスの製造方法。
【請求項6】
ダイス素材を概略形状に加工した後に1回目の熱処理を施す請求項1〜4のいずれかに記載の押出用ダイスの製造方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【公開番号】特開2010−194551(P2010−194551A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−38933(P2009−38933)
【出願日】平成21年2月23日(2009.2.23)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】