説明

押出装置及びそれに用いられる成形用金型

【課題】口金の開口部から湾曲したゴム成形物を所定長さ押し出し、その端部同士を接合して環状部材を成形する場合、ゴム成形物を容易に所望の曲率を有するように湾曲させることのできる押出装置、及びそれに用いられる成形用金型を提供する。
【解決手段】口金4の開口部41から湾曲したゴム成形物Mを所定長さ押し出し、その端部同士を接合して環状部材を成形するための押出装置1であって、ゴム材料Rを押し出す押出機2と、押出機2の押出方向下流側に接続され、押出機2から押し出されたゴム材料Rを口金4へ導くための複数の流路5が内部に形成された成形用金型3と、を有し、複数の流路5は、ゴム成形物Mの径方向に並べて形成され、ゴム成形物Mの湾曲外周部M3へゴム材料Rを導く外周側流路53の断面積が、湾曲内周部M1へゴム材料Rを導く内周側流路51の断面積よりも大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口金の開口部から湾曲したゴム成形物を所定長さ押し出し、その端部同士を接合して環状部材を成形するための押出装置、及びそれに用いられる成形用金型に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、空気入りタイヤを製造する場合には、インナーライナー、サイドウォール、ビード、トレッドなどの各タイヤ構成部材を未加硫の状態で貼り合わせてグリーンタイヤを成形し、これを加硫成形することで製造するようにしている。
【0003】
ビードは、補強材となるビードワイヤーと、断面が略三角形状のゴムからなるビードフィラーとから構成されている。従来、環状のビードフィラーは、押出機から上記断面形状を有する帯状ゴムを押し出し、一定の長さに切り出し、その端部同士を接合することで成形している。しかし、ビードフィラーのような環状部材を成形する際、押出機により押し出されたゴム成形物の端部同士を環状となるように単に接合するだけでは、内外周差に起因して外周部分に周方向の引張応力が作用し、接合部で剥がれたり、全体が反り返ったりする問題が生じる。そのため、押出機からゴム材料を押し出して環状部材を成形する場合、所望の曲率を有する湾曲したゴム成形物を押し出す必要がある。
【0004】
押出機を用いて湾曲したゴム成形物を成形する方法としては、例えば、下記特許文献1に記載された方法が公知である。具体的には、押出機における回転ダイの可動口金部の向きを、押出機の押出方向の中心軸に対して任意の角度横振り回転させることにより、この可動口金部から成形素材を傾斜して押し出しして、湾曲形状を付与する。こうして傾斜して押し出される湾曲成形物を、可動口金部の指向する円周方向へ押出速度と同じ速度で回転運行するターンテーブル上に乗載して円弧方向に搬送案内することにより、回転ダイの回転角度に応じた湾曲度の湾曲成形物を製造している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−103262号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の方法は、可動口金部を横振り回転させる機構を持たせるために、余分なスペースと費用が必要となり好ましくない。
【0007】
また、押出機から湾曲したゴム成形物を押し出す場合、外周側のゴム材料の流速を速くし、内周側のゴム材料の流速を遅くして湾曲させることが考えられる。しかし、湾曲したゴム成形物の断面形状が、内周側が厚く、外周側が薄い特殊な形状、例えばビードフィラーのような形状の場合、外周側ではゴム材料が極端に流れにくくなり、可動口金部の向きを回転させて湾曲させる特許文献1の方法では対応することが困難である。
【0008】
そこで、本発明の目的は、口金の開口部から湾曲したゴム成形物を所定長さ押し出し、その端部同士を接合して環状部材を成形する場合、ゴム成形物を容易に所望の曲率を有するように湾曲させることのできる押出装置、及びそれに用いられる成形用金型を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため本発明に係る押出装置は、
口金の開口部から湾曲したゴム成形物を所定長さ押し出し、その端部同士を接合して環状部材を成形するための押出装置であって、
ゴム材料を押し出す押出機と、
前記押出機の押出方向下流側に接続され、前記押出機から押し出されたゴム材料を前記口金へ導くための複数の流路が内部に形成された成形用金型と、を有し、
複数の前記流路は、前記ゴム成形物の径方向に並べて形成され、
前記ゴム成形物の湾曲外周部へゴム材料を導く外周側流路の断面積が、湾曲内周部へゴム材料を導く内周側流路の断面積よりも大きいことを特徴とするものである。
【0010】
この構成による押出装置の作用効果を説明する。本発明の押出装置は、押出機から押し出されたゴム材料を、成形用金型の複数の流路を介して口金へ送り、口金の開口部からゴム成形物を押し出す。成形用金型の内部に形成された複数の流路は、ゴム成形物の径方向(成形される環状部材の径方向)に並べて形成されており、外周側流路の断面積が内周側流路の断面積よりも大きくなっている。流路の断面積を大きくすると、流路にかかるゴム圧力が減るため、ゴム材料のゴム流量が増える。これにより、内周側流路よりも断面積の大きい外周側流路は、内周側流路よりもゴム流量が大きくなり、結果として、口金の開口部から押し出されるゴム成形物の押出量は、湾曲内周部よりも湾曲外周部が多くなるので、容易に湾曲したゴム成形物を押し出すことができる。また、内周側流路と外周側流路の断面積を適宜調節することで、ゴム成形物を所望の曲率を有するように湾曲させることも容易である。
【0011】
本発明の押出装置において、前記外周側流路の断面積は、少なくとも押出方向上流側において内周側流路の断面積よりも大きいことが好ましい。
【0012】
流路にかかるゴム圧力を減らすためには、押出機に接続されている押出方向上流側の流路の断面積を大きくすることが有効であるため、上記構成によれば、外周側流路のゴム流量を内周側流路よりも確実に大きくすることができる。
【0013】
本発明の押出装置において、前記成形用金型は、分割可能な金型本体と、前記金型本体内に収容され、前記流路が形成された入れ子とを備えることが好ましい。
【0014】
この構成によれば、任意の曲率を有するようにゴム成形物を湾曲させることのできる入れ子を複数準備しておくことで、入れ子を入れ替えるだけで所望の曲率を有するように湾曲させたゴム成形物を押し出すことができる。
【0015】
本発明の押出装置において、前記環状部材が、径方向に縦長となる断面略三角形状をなす環状のビードフィラーであることが好ましい。
【0016】
径方向に縦長となる断面略三角形状をなすビードフィラーを押出成形するためには、口金の開口部を、ビードフィラーに対応して径方向に縦長となる略三角形状にする必要があるが、このような開口部形状では、外周側が細くなっているため、ゴム材料が非常に流れにくくなる。そのため、本発明は、環状部材としてビードフィラーを成形する場合に特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の押出装置の全体構成を示しており、(a)は斜視図、(b)は縦断面図
【図2】成形用金型及び口金の分解斜視図
【図3】入れ子の横断面図
【図4】入れ子の別実施形態を示す横断面図
【図5】入れ子の別実施形態を示す横断面図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の押出装置の全体構成を示しており、(a)は斜視図、(b)は縦断面図である。図の矢印Xは、押出方向を示している。
【0019】
図のように、本発明の押出装置1は、押出機2と、成形用金型3と、口金4とを備えている。本発明の押出装置1は、口金4の開口部41から湾曲したゴム成形物Mを所定長さ押し出し、その端部同士を接合して環状部材を成形するためのものである。
【0020】
押出機2は、不図示のホッパーから供給されたゴム材料Rを内部で混練して押出機先端2aから押し出すことができる。押出機2としては、従来公知の押出機をいずれも使用することができる。
【0021】
成形用金型3は、押出機2の押出方向Xの下流側、すなわち押出機先端2aに接続されている。成形用金型3は、押出機2から押し出されたゴム材料Rを口金4へ導くための複数の流路5が内部に形成されている(詳しくは後述する)。
【0022】
口金4は、成形用金型3の押出方向Xの下流側に接続されている。口金4は、押出方向Xに沿って貫通孔が設けられており、成形用金型3によって口金4へと導かれたゴム材料Rは、下流側の開口部41から押し出される。開口部41は、押出成形したいゴム成形物Mの断面形状に対応した形状に形成されている。本実施形態では、開口部41は矩形状をしている。また、貫通孔の上流側の開口部も矩形状をしている。
【0023】
図2は、成形用金型3及び口金4の分解斜視図である。成形用金型3は、分割可能な金型本体31と、金型本体31内に収容される入れ子32とを備える。全体として直方体状の金型本体31は、上型311と下型312とで構成されている。上型311と下型312には、対向する面にそれぞれ押出方向Xに沿った凹溝311a、312aが形成されている。さらに、凹溝311a,312aの中央部には、嵌合穴311b,312bがそれぞれ設けられている。金型本体31は、流路内のゴム材料Rを温めるための温度調節機構等を備えていてもよい。
【0024】
入れ子32は、直方体状の流路部32aと、流路部32aから上下方向にそれぞれ突出する凸部32b,32cとで構成される。流路部32aは、成形用金型3の凹溝311a、312aに嵌合し、凸部32b、32cは、成形用金型3の嵌合穴311b,312bにそれぞれ嵌合するように構成されている。
【0025】
流路部32aの内部には、複数の流路5が形成されている。本実施形態では、3つの流路51,52,53が形成されている例を示しており、3つの流路をまとめて流路5と称している。図3は、図2の入れ子32の横断面図を示す。流路5は、いずれも押出方向Xに沿って形成された貫通孔となっている。本実施形態では、図2に示すように、いずれの流路の断面も円形状である。なお、流路の断面は、円形状に限定されず、四角形状などでもよいが、加工性、ゴム流動性等の観点から円形状が好ましい。
【0026】
3つの流路51,52,53は、湾曲したゴム成形物Mの径方向、すなわち、成形される環状部材の径方向に並べて配置されている。ここで、内周側流路51、中央部流路52、外周側流路53は、図1に示される湾曲したゴム成形物Mの湾曲内周部M1、中央部M2、湾曲外周部M3にそれぞれ対応するゴム材料Rを口金4へと導く。
【0027】
押出方向Xの下流側において、内周側流路51の内径D1、中央部流路52の内径D2、外周側流路53の内径D3は、いずれも同じ大きさとなっている。また、押出方向Xの上流側において、内周側流路51の内径D4は、下流側における内径D1と同じ大きさとなっている。一方、中央部流路52の上流側の内径D5、及び外周側流路53の上流側の内径D6は、上流側から所定の長さL1,L2まで下流側の内径D2、内径D3よりも大きく、拡径している。このように、流路5の内径を大きくして断面積を大きくすると、流路5にかかるゴム圧力が減るため、ゴム材料Rのゴム流量が増える。これにより、中央部流路52及び外周側流路53を流れるゴム流量は、内周側流路51を流れるゴム流量よりも大きくなる。
【0028】
また、この例では、内径D5と内径D6は等しく、かつ、外周側流路53における上流側からの長さL2は、中央部流路52における上流側からの長さL1よりも長い。これにより、外周側流路53の拡径部分の体積は、中央部流路52の拡径部分の体積よりも大きくなり、外周側流路53を流れるゴム流量は、中央部流路52を流れるゴム流量よりも大きくなる。
【0029】
この結果、図3のように流路5を形成することで、流路5を流れるゴム流量は、内周側、中央部、外周側の順番で大きくなるため、口金4の開口部41から押し出されるゴム成形物Mは図1に示されるような湾曲した形状となる。
【0030】
湾曲したゴム成形物Mの曲率をさらに大きくしたい場合には、図4に示すように長さL1,L2を図3の場合よりも適宜長くして、中央部流路52、外周側流路53のゴム流量を増やせばよい。
【0031】
また、湾曲したゴム成形物Mの曲率をさらに大きくしたい場合には、上流側における中央部流路52の内径D5と外周側流路53の内径D6をさらに大きくしてもよい。例えば、口金4の開口部41を径方向に縦長となる略三角形状にして、ビードフィラーを成形するような場合、図5のように中央部流路52と外周側流路53において、L1,L2を長くしたり、内径D5、内径D6を大きくしたりすることで、ゴム流量を調節することができる。この例では、D4<D5<D6としている。
【0032】
<他の実施形態>
環状部材は、上記のビードフィラーのほか、サイドウォールなどの環状の部材であってもよい。
【0033】
上記の実施形態では、流路5は、図3のように上流側から所定の長さL1,L2まで内径を大きくしているが、上流側から下流側まで一定の内径としてもよい。すなわち、それぞれの内径の関係をD1=D4<D2=D5<D3=D6としてもよい。
【0034】
上記の実施形態では、流路5の数を3つにしているが、流路5の数は2つでもよく、4つ以上であってもよい。
【符号の説明】
【0035】
1 押出装置
2 押出機
3 成形用金型
4 口金
5 流路
31 金型本体
32 入れ子
41 開口部
51 内周側流路
52 中央部流路
53 外周側流路
R ゴム材料
M ゴム成形物
M1 湾曲内周部
M3 湾曲外周部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
口金の開口部から湾曲したゴム成形物を所定長さ押し出し、その端部同士を接合して環状部材を成形するための押出装置であって、
ゴム材料を押し出す押出機と、
前記押出機の押出方向下流側に接続され、前記押出機から押し出されたゴム材料を前記口金へ導くための複数の流路が内部に形成された成形用金型と、を有し、
複数の前記流路は、前記ゴム成形物の径方向に並べて形成され、
前記ゴム成形物の湾曲外周部へゴム材料を導く外周側流路の断面積が、湾曲内周部へゴム材料を導く内周側流路の断面積よりも大きいことを特徴とする押出装置。
【請求項2】
前記外周側流路の断面積は、少なくとも押出方向上流側において内周側流路の断面積よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載の押出装置。
【請求項3】
前記成形用金型は、分割可能な金型本体と、前記金型本体内に収容され、前記流路が形成された入れ子とを備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の押出装置。
【請求項4】
前記環状部材が、径方向に縦長となる断面略三角形状をなす環状のビードフィラーである請求項1〜3いずれか1項に記載の押出装置。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか1項に記載の押出装置に用いられる成形用金型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−183750(P2011−183750A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−53456(P2010−53456)
【出願日】平成22年3月10日(2010.3.10)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】