説明

押釦スイッチ用カバー部材

【課題】 キートップを押下したときのクリック感触を向上させる。
【解決手段】 押釦スイッチ用カバー部材1は、複数のキートップ10と、キートップ10の下面側に形成されるシリコーンゴム層20と、シリコーンゴム層20の下面側に形成され、キートップ10を下方側から照光するためのELシート30と、ELシート30の下面側の一部に形成される樹脂層40と、樹脂層40の下面側に形成される突起部41とを備える。樹脂層40は、キートップ10、透明電極側導線32wおよび対向電極側導線35wの直下部分、ならびにリブ42の直上部分を含む範囲に形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、照光機能を有する電子機器に用いる押釦スイッチ用カバー部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば携帯電話機等の入力部に用いられる押釦スイッチ用カバー部材には、暗所での視認性を確保するために、押釦を構成するキートップ部を照光する照光機能が備えられている。これにより、ユーザが暗所で携帯電話機を使用した場合であっても、各押釦の機能を容易に認識することができる。
【0003】
下記特許文献1には、上述した照光機能を実現するための部材としてEL(エレクトロルミネッセンス)シートが用いられた照光式押釦スイッチ用部材に関する技術が開示されている。特許文献1に開示されたELシートは、シリコーンゴムまたは合成樹脂からなる上部パッド部材とベースパッド部材との間に緊密に面接触された状態で位置している。
【特許文献1】特開2003−7161号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述のように構成された押釦スイッチ用部材では、ELシートの非発光面の全面にベースパッド部材が形成されているため、キートップを押下したときのクリック感触が低下してしまう。
【0005】
そこで、本発明は、上述した課題を解決するために、キートップを押下したときのクリック感触を向上させることができる押釦スイッチ用カバー部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の押釦スイッチ用カバー部材は、複数のキートップと、キートップの下面側に形成される弾性体層と、弾性体層の下面側に形成され、キートップを下方側から照光するためのELシートと、ELシートの下面側の一部に形成される樹脂層と、樹脂層の下面側に形成される突起部と、を備え、樹脂層は、少なくとも突起部の直上部分を含む範囲に形成されることを特徴とする。
【0007】
この発明によれば、ELシートの下面側の一部にのみ樹脂層を形成させることができるため、キートップを押下したときのクリック感触を向上させることができる。また、樹脂層を、少なくとも突起部の直上部分を含む範囲に形成させることができるため、キートップの押下時に突起部にかかる応力を分散させることができる。これにより、ELシートの発光部分の特定箇所が損傷してしまう事態を防止することができる。
【0008】
本発明の押釦スイッチ用カバー部材において、上記ELシートは、少なくとも透明電極、発光層、誘電体層および対向電極を有し、上記樹脂層は、透明電極同士および対向電極同士を結線するための導線の直下部分を含む範囲にもさらに形成されることが好ましい。
【0009】
このようにすれば、キートップの押下が繰り返されることにより生じ得る透明電極側導線および対向電極側導線の断線を防止することができる。これにより、発光部分の不点灯を防止することができる。
【0010】
本発明の押釦スイッチ用カバー部材において、上記樹脂層の下面側であって、かつキートップの直下部分の間に、リブをさらに備え、上記樹脂層は、リブの直上部分を含む範囲にもさらに形成されることが好ましい。
【0011】
このようにすれば、キートップの押下時にリブとキートップとの間で局所的に発生する変形を低減させることができる。
【0012】
本発明の押釦スイッチ用カバー部材において、上記ELシートと樹脂層との間に形成される接着層をさらに備えることが好ましい。
【0013】
このようにすれば、ELシートと樹脂層とを熱プレス成形により一体成形することなく、接着工程により接着することができるため、熱履歴および圧力による変形を抑えることができ、位置ずれやカールの発生を減少させることができる。したがって、歩留まりを良くすることができるとともに、発光輝度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る押釦スイッチ用カバー部材によれば、キートップを押下したときのクリック感触を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に係る押釦スイッチ用カバー部材の実施形態を図面に基づき説明する。なお、各図において、同一要素には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0016】
まず、図1〜図3を参照して、本発明の実施形態における押釦スイッチ用カバー部材の構成について説明する。図1は、実施形態における押釦スイッチ用カバー部材を真上から見た図であり、図2は、図1のII−II矢視図である。図3は、図2に示す押釦スイッチ用カバー部材の一部を拡大して示した図である。
【0017】
押釦スイッチ用カバー部材1は、キートップ10と、シリコーンゴム層20(弾性体層)と、ELシート30と、樹脂層40とに大別される。
【0018】
樹脂層40のうち、キートップ10の直下部分には、下方側に突出するプッシャー41(突起部)が形成され、各キートップ10の直下部分の間には、下方側に突出するリブ42が形成される。プッシャー41は、回路基板90上の金属製皿バネ部材91を押圧するために設けられるものである。リブ42は、押釦スイッチ用カバー部材1が製品に組み込まれた際に、キートップ10の押下によって、キートップ10が沈み込んでしまう事態や、隣接したキートップ10が連動してしまう事態を防止するために設けられるものである。つまり、リブ42は、キートップ10の移動方向に対する押釦スイッチ用カバー部材1の位置決めを目的として設けられる。
【0019】
キートップ10とシリコーンゴム層20との間、およびELシート30と樹脂層40との間には、それぞれの部材を接着させるための接着層50,55が形成される。接着層50,55は、接着剤または粘着剤により形成される。接着剤または粘着剤としては、例えば、アクリル系、エポキシ系、シリコーン系、ウレタン系、シアノアクリレート系、ウレタンアクリレート系の接着剤または粘着剤を用いることができる。
【0020】
図2に示すように、押釦スイッチ用カバー部材1は、回路基板90上に位置決め固定されることによって押釦スイッチの一部として製品に組み込まれる。押釦スイッチは、プッシャー41により押し下げられた金属製皿バネ部材91が固定接点92に接触することによって導通状態となる。
【0021】
シリコーンゴム層20は、ELシート30の発光面側に形成される。これにより、押釦スイッチ用カバー部材1の上部を覆う製品のケースとの密着性を向上させることができ、防水性を高めることができる。すなわち、シリコーンゴム層20を形成することによりパッキン効果を奏することができる。さらに、シリコーンゴム層20の外周にリブ20rを設けることによって、シリコーンゴム層20に厚みを持たせることができるため、上部を覆う製品のケースとの密着性をさらに向上させることができる。
【0022】
シリコーンゴム層20の厚さは、0.01mm〜0.3mmにするのが好ましく、より好ましくは0.04mm〜0.2mmにするのがよい。これにより、発光輝度を確保することができ、押釦スイッチの薄型化を実現することができる。シリコーンゴム層20の厚さが薄すぎると、シリコーンゴム層20を均一な厚さに成形することが困難となり、厚さにムラができる要因となる。
【0023】
シリコーンゴム層20をELシート30に積層させる方法としては、例えば、ELシート30の発光面側にプライマーを塗布し、その後、未硬化のシリコーンゴムを射出成形または圧縮成形により硬化させる方法がある。この場合に用いるシリコーンゴムは、液状タイプまたはミラブルタイプのいずれのシリコーンゴムであってもよいが、低粘度の液状タイプのシリコーンゴムを用いることによって、ELシート30へのダメージをより低減させることができ、好ましい。また、他の方法として、例えば、ELシート30の発光面側に液状シリコーンをスクリーン印刷またはコーター等により均一に塗布し、その後、熱処理をして硬化させる方法がある。ここで、液状タイプまたはミラブルタイプのシリコーンとして、接着成分が付与されたものを用いることによって、プライマー処理等の煩雑な工程を省くことができ、作業効率を向上させることができる。
【0024】
図3を参照して、ELシート30について説明する。図3に示すように、ELシート30は、透明絶縁層31と、透明電極32と、発光層33と、誘電体層34と、対向電極35と、絶縁層36とを有する。ここで、ELシート30の透明絶縁層31が発光面となり、絶縁層36が非発光面となる。なお、透明電極32、発光層33、誘電体層34、および対向電極35によりEL素子が形成される。
【0025】
図1および図3に示すように、ELシート30の内部には、透明電極32同士を結線する透明電極側導線32wと、対向電極35同士を結線する対向電極側導線35wとが、ELシート30の端子(不図示)を一端として配線されている。これにより、各電極に所定の電圧が供給されることとなる。
【0026】
透明絶縁層31は、例えば、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと記載する)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリメチルメタクリレート、ポリウレタン、ポリアミド、もしくはそのアロイ、共重合体などの変性物からなるフィルム、またはそのフィルム数種をラミネーションした複層品により形成される。特に、厚さ12μm〜100μm、より好ましくは厚さ25μm〜75μmのPETにより形成するのがよい。また、例えば、ウレタン系、アクリル系、ウレタンアクリレート系、ポリエステル系、エポキシ系、ビニル系の透明インクを印刷することにより形成してもよい。
【0027】
透明電極32は、例えば、酸化インジウム・スズ(ITO)により形成される。また、透光性を有するポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェン等の導電性ポリマーにより形成してもよい。特に、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)により形成すると、より低抵抗かつ高透明を実現することができる。
【0028】
発光層33は、例えば、防湿被膜をコーティングした硫化亜鉛等の無機蛍光体粉を、バインダーに分散することにより形成される。バインダーとしては、例えば、フッ素系、ポリエステル系、アクリル系およびエポキシ系の樹脂やゴム、またはこれらの共重合体が該当する。
【0029】
誘電体層34は、例えば、チタン酸バリウム、酸化チタン等の誘電体粉を、バインダーに分散することにより形成される。なお、バインダーは、発光層33に用いられるバインダーと同様である。
【0030】
対向電極35は、例えば、金、銀、銅、ニッケル等の金属もしくは合金、またはカーボンブラック、グラファイト等の導電性フィラーを、ポリエステル系、アクリル系、ウレタン系、シリコーン系、エポキシ系の樹脂もしくはゴム、またはこれらの共重合体に分散したものからなる導電膜により形成される。
【0031】
絶縁層36は、例えば、ポリエステル系、アクリル系、ポリカーボネート系、シリコーン系もしくはフッ素系の樹脂やゴム、またはこれらの複合物により形成される。
【0032】
図4に示すように、樹脂層40は、キートップ10、透明電極側導線32wおよび対向電極側導線35wの直下部分、ならびにリブ42の直上部分を含む範囲に形成される。このように、各キートップ10間の一部にのみ樹脂層40を形成することによって、各キートップ10間の厚みが薄くなり、各キートップ10が独立して動き易くなるため、良好なクリック感触を実現することができる。
【0033】
また、樹脂層40を、少なくともプッシャー41との接触面よりも広い範囲を含むように形成することによって、キートップ10の押下時にプッシャー41にかかる応力を分散させることができる。これにより、ELシート30の発光部分の特定箇所が損傷してしまう事態を防止することができる。一方、樹脂層40を、キートップ10の外周を超える範囲にまで形成すると、キートップ10を押下したときのクリック感触が低下してしまうため、樹脂層40は、キートップ10の外周とほぼ同等の範囲内に形成することが好ましい。
【0034】
また、樹脂層40を、透明電極側導線32wおよび対向電極側導線35wの直下部分を含む範囲にもさらに形成することによって、キートップ10の押下が繰り返されることにより生じ得る透明電極側導線32wおよび対向電極側導線35wの断線を防止することができ、ひいては、発光部分の不点灯を防止することができる。なお、この範囲に形成させる樹脂層40は、透明電極側導線32wおよび対向電極側導線35wの幅と同等以上の幅で形成させることが好ましい。
【0035】
さらに、樹脂層40を、リブ42の直上部分を含む範囲にもさらに形成することによって、キートップ10が押下されたときにリブ42とキートップ10との間で局所的に発生する変形を低減させることができる。
【0036】
樹脂層40は、例えば、ポリアクリル、ポリスチレン、ポリエステル、ポリエステルポリオール、ポリエステルエーテル、ポリウレタン、ポリフェニレンサルファイド、シリコーン、ポリカーボネート、もしくはそのアロイ、共重合体などの変性物からなる樹脂、またはシリコーンゴム、ウレタンゴムなどの熱硬化性エラストマーや熱可塑性エラストマーにより形成される。
【0037】
樹脂層40の厚さは、12μm〜100μmにするのが好ましく、より好ましくは25μm〜75μmにするのがよい。また、硬度がデュロメーターAで50度以上の樹脂またはエラストマーであることが好ましい。これにより、クリック感触に優れるとともに、補強効果をも奏する樹脂層40を形成させることができる。
【0038】
プッシャー41は、ポリアクリル、ポリスチレン、ポリエステル、ポリエステルポリオール、ポリエステルエーテル、ポリウレタン、ポリフェニレンサルファイド、シリコーン、ポリカーボネート、もしくはそのアロイ、共重合体などの変性物からなる樹脂、またはシリコーンゴム、ウレタンゴムなど熱硬化性エラストマーや熱可塑性エラストマーにより形成される。良好なクリック感触を考慮すると、プッシャー41は、硬度がデュロメーターAで50度以上の上記樹脂または上記エラストマーであることが好ましく、より好ましくは、硬度がデュロメーターAで70度以上であることがよい。
【0039】
樹脂層40とプッシャー41とを一体化する方法としては、例えば、光硬化性樹脂(例えば、アクリル系、メタクリル系、スチレン系、ポリエステル系、ポリエステルポリオール系、ポリエステルエーテル系、アリルフタレート系、ウレタン系、シリコーン系、エポキシ系またはフェノール系等の樹脂)をプッシャー形状に掘り込まれた成形金型に注入し、その上に樹脂層40(例えば、アクリル系、メタクリル系、スチレン系、ポリエステル系、ウレタン系、シリコーン系、エポキシ系またはポリカーボネート系等の樹脂)を被せ、紫外線を照射して一体化する方法がある。
【0040】
また、他の方法として、例えば、樹脂層40を形成させる上記樹脂または上記エラストマーからなるシート上に樹脂をポッティングすることによりプッシャー41を形成させて一体化する方法がある。
【0041】
さらに、他の方法として、例えば、樹脂層40およびプッシャー41の形状が掘り込まれた成形金型により、シリコーンゴムを圧縮成形または射出成形により成形して一体化する方法がある。
【0042】
[実施例1]
次に、図5および図6を参照して、本発明に係る押釦スイッチ用カバー部材1の実施例について説明する。
【0043】
まず、図5(a)に示すように、厚さ25μmのPETフィルム31(ルミラー:東レ社製商品名)上に導電性ポリマー(オーガコンP3040:アグファ社製商品名)をスクリーン印刷して透明電極32を形成した。
【0044】
次に、図5(a)に示す透明電極32上に、発光体ペースト(8155N ELミディアム:デュポン社製商品名)、誘電体ペースト(8153N EL絶縁体ペースト:デュポン社製商品名)、カーボンペースト(7144 ELカーボン導体ペースト:デュポン社製商品名)、銀ペースト(ED6022SS:アチソン社製商品名)、絶縁塗料(ED452SS:アチソン社製商品名)を順次スクリーン印刷していき、発光層33、誘電体層34、対向電極35、対向電極側導線35w、絶縁層36を形成した。これにより、図5(b)に示すELシート30が成形された。
【0045】
次に、図5(c)に示すように、成形されたELシート30の絶縁層36側にハンドリング用の保護フィルムFを密着させた一方、ELシート30の透明絶縁層31上にプライマー(DY39−115:東レ・ダウコーニング社製商品名)を塗布し、その上に硬化前の2液状シリコーンゴム(KE−1950−60A/B:信越化学社製商品名)を配置して、120℃、3分間の条件で熱プレス成形して厚さ0.1mmのシリコーンゴム層20を成形した。
【0046】
次に、2液状シリコーンゴム(KE−1950−60A/B:信越化学社製商品名)を成形金型内に塗布して、120℃、3分間の条件で圧縮成型した後、200℃で1時間乾燥機に投入した。この成形金型には、樹脂層40形状、プッシャー41形状およびリブ42形状の掘り込みが設けられている。これにより、図6(d)に示すプッシャー41およびリブ42を有する樹脂層40が成形された。その後、プッシャー41およびリブ42を有する樹脂層40から、キートップ10および導線32w,35wに対応する部分以外を裁断して、図4に示す樹脂層40を得た。
【0047】
次に、図6(d)に示す樹脂層40のプッシャー41が形成されていない面上に、接着剤(Silgrip529:Permacol社製商品名)100重量部、硬化剤(SRC18:Permacol社製商品名)6重量部、希釈材としてトルエン10重量部を混合したものを塗布して接着層55を形成し、その上に、図5(c)に示すシリコーンゴム層20と一体化されたELシート30の絶縁層36側を載せて接着した。これにより、図6(e)に示す部材が成形された。
【0048】
最後に、図6(e)に示す部材のシリコーンゴム層20上に接着剤を塗布して接着層50を形成し、その上にキートップ10を載せて接着した。これにより、図3に示す押釦スイッチ用カバー部材1が成形された。
【0049】
このように、本発明に係る押釦スイッチ用カバー部材1では、ELシート30の非発光面に樹脂層40を形成している。したがって、シリコーンゴム層20は、ELシート30の発光面側にのみ成形すればよい。これにより、シリコーンゴムを熱プレス成形する工程を片面のみにすることができるため、両面にそれぞれ熱プレス成形する場合に比べて、熱履歴および圧力による変形を抑えることができ、位置ずれやカールの発生を減少させることができる。したがって、歩留まりを良くすることができるとともに、発光輝度を向上させることができる。
【0050】
[樹脂層の変形例]
上述した実施形態における樹脂層40は、キートップ10、透明電極側導線32wおよび対向電極側導線35wの直下部分、ならびにリブ42の直上部分を含む範囲に形成されているが、樹脂層40の形成範囲は、これに限られない。例えば、図7に示すように、樹脂層40を、キートップ10の直下部分、およびリブ42の直上部分を含む範囲に形成することとしてもよいし、キートップ10の直下部分を含む範囲にのみ形成することとしてもよい。このように、各キートップ10間に、樹脂層40を極力形成しないようにすることで、各キートップ間の厚みを薄くすることができるため、良好なクリック感触を実現することができる。また、樹脂層40をELシートの下面側の一部にのみ形成するのであれば、例えば、図8に示すように、樹脂層40を、1枚のシート状に形成することとしてもよい。
【0051】
ここで、本発明に係る押釦スイッチ用カバー部材を製造する方法について説明する。本発明に係る押釦スイッチ用カバー部材を製造する方法は、キートップ10を下方側から照光するELシート30の発光面側にシリコーンゴム層20を成形する工程と、プッシャー41を下面側に有する樹脂層40を成形する工程と、樹脂層40を所定の形状に裁断する工程と、ELシート30の非発光面と樹脂層40の上面とを接着する工程と、キートップ10を、シリコーンゴム層20上に接着する工程と、を含み、上記所定の形状は、樹脂層40を、ELシート30の下面側の一部に形成させ、少なくともプッシャー41の直上部分を含む範囲に形成させるための形状であることを特徴とする。また、ELシート30は、少なくとも透明電極32、発光層33、誘電体層34および対向電極35を有し、上記所定の形状は、樹脂層40を、透明電極32同士および対向電極35同士を結線するための導線32W,35Wの直下部分を含む範囲にもさらに形成させるための形状であることを特徴とする。さらに、樹脂層40は、当該樹脂層40の下面側であって、かつキートップ10の直下部分の間に、リブ42をさらに有し、上記所定の形状は、樹脂層40を、リブ42の直上部分を含む範囲にもさらに形成させるための形状であることを特徴とする。
【0052】
[比較結果]
次に、上述した実施例1と同様にして、図7に示す樹脂層40を有する押釦スイッチ用カバー部材を、実施例2として成形した。なお、実施例2の成形方法は、上述した実施例1と同様であるため、その説明を省略する。
【0053】
また、実施例1および実施例2の効果を確認するために、比較例を成形した。この比較例は、実施例1における押釦スイッチ用カバー部材1の樹脂層を、シリコーンゴムを用いて熱プレス成形することによりシート状に成形したものである。この比較例の成形方法について簡単に説明する。まず、ELシートを成形する方法、およびこのELシートの透明絶縁層上にシリコーンゴム層を成形する方法については、実施例1と同様であるため、それらの説明を省略する。次に、ELシートの絶縁層上にプライマー(DY39−115:東レ・ダウコーニング社製商品名)を塗布して、成形金型内に配置した。成形金型内に配置する際には、成形金型の樹脂層、プッシャーおよびリブの各形状が掘り込まれた面と対向する面上に、絶縁層側が上になるようにして配置した。次に、その絶縁層上に2液状シリコーンゴム(KE−1950−60A/B)を塗布し、熱プレス成形することによって樹脂層を成形した。最後に、実施例1と同様にしてシリコーンゴム層上に塗布された接着剤の上にキートップを載せて接着した。これにより、比較例としての押釦スイッチ用カバー部材が成形された。なお、比較例では、初期状態で不点灯部分が生じるいわゆる不良品が発生した。これは、比較例では、シリコーンゴムの熱プレス成形が2回実施されているため、ELシートに過剰な熱や圧力が加わり、ELシートの各層に微細なクラックが発生したことに起因する。
【0054】
次に、上述した実施例1、実施例2および比較例を試験体として打鍵試験を試みた結果を表1に示す。
【表1】



【0055】
一の打鍵試験として、荷重3kgで5万回の打鍵を行い、打鍵前後の点灯状態を測定した。また、他の打鍵試験として、荷重500gで100万回の打鍵を行い、打鍵後の点灯状態を測定した。
【0056】
上記表1に示す各項目の測定条件は、以下の通りである。輝度は、AC100V、400Hzの印加電圧にて試験体の発光部の輝度を測定した。クリック感触は、試験体の可動接点を固定電極上に設置して、手押しにより判定した。打鍵試験後の点灯状態は、打鍵試験後にAC100V、400Hz印加したときの点灯状態を目視により判定した。
【0057】
まず、輝度については、表1に示すように、比較例に比べて実施例1および実施例2が高い値を示している。これは、実施例1および実施例2では、シリコーンゴムの熱プレス成形が1回であるのに対し、比較例では、シリコーンゴムの熱プレス成形が2回実施されていることに起因する。EL素子は、高温なほど寿命が短くなる傾向にある。この寿命は、一般に、輝度の半減期によって表される。したがって、高温状態により長時間さらされた比較例の方が、輝度が低くなる。
【0058】
次に、クリック感触については、表1に示すように、実施例2が最も良好であった。これは、実施例2における樹脂層の形成範囲が、キートップの直下部分およびリブの直上部分を含む範囲に限定されており、キートップの直下部分がそれぞれ独立して形成されていることに起因する。実施例1では、実施例2に比べて、樹脂層が導線の直下部分にもさらに形成され、この形成された部分でキートップの直下部分が連結されているため、実施例2よりもクリック感触がやや劣りはするものの、良好なクリック感触が得られた。これに対して、比較例では、樹脂層がELシートの非発光面の全面を覆っているため、クリック感触が著しく悪かった。
【0059】
次に、打鍵試験後の点灯状態については、表1に示すように、実施例1と実施例2は、いずれの打鍵試験後においても、点灯状態に異常は見られなかった。ここで、実施例1では、実施例2に比べて樹脂層が導線の直下部分にもさらに形成されているため、実施例2よりも導線部分が補強されている。したがって、打鍵による繰り返し変形に起因する断線を防止する効果が増大する。これに対して、比較例は、一の打鍵試験後には、プッシャー周辺に不点灯部分が発生しており、他の打鍵試験後には、断線により不点灯になっていた。これは、比較例では、シリコーンゴムの熱プレス成形が2回実施されているため、上述したようにELシートの各層に微細なクラックが発生してしまい、さらに打鍵による繰り返し変形や衝撃によって導線が断線したものと考えられる。
【0060】
ここで、一般に、市場から要求される耐久性は100万回であるため、実施例1および実施例2は、ともに市場の要求レベル以上の耐久性を達成している。さらに、打鍵回数が100万回を越えるような厳しい条件下では、実施例1のように、透明電極側導線32wおよび対向電極側導線35wをも保護する樹脂層40を形成することが好ましいと考えられる。
【0061】
なお、上述した実施形態における樹脂層40とELシート30は、接着剤または粘着剤により形成された接着層55により一体化されているが、樹脂層40とELシート30は、接合されていればよく、必ずしも全面が接着されていなくてもよい。図9〜図11に、樹脂層40への接着剤または粘着剤の塗布例を示す。図9は、樹脂層40の全面に接着剤または粘着剤を塗布した状態を示したものであり、図10は、プッシャー41の直上部分周辺41rおよびリブ42の直上部分の一部42rにのみ接着剤または粘着剤を塗布した状態を示したものであり、図11は、スクリーン印刷によりドット状に接着剤または粘着剤を塗布した状態を示したものである。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】実施形態における押釦スイッチ用カバー部材を真上から見た図である。
【図2】図1のII−II矢視図である。
【図3】図2に示す押釦スイッチ用カバー部材の一部を拡大して示した図である。
【図4】樹脂層を真上から見た図である。
【図5】押釦スイッチ用カバー部材の製造方法を説明するための図である。
【図6】押釦スイッチ用カバー部材の製造方法を説明するための図である。
【図7】変形例における樹脂層を真上から見た図である。
【図8】変形例における樹脂層を真上から見た図である。
【図9】樹脂層への接着剤または粘着剤の塗布例を示す図である。
【図10】樹脂層への接着剤または粘着剤の塗布例を示す図である。
【図11】樹脂層への接着剤または粘着剤の塗布例を示す図である。
【符号の説明】
【0063】
1・・・押釦スイッチ用カバー部材、10・・・キートップ、20・・・シリコーンゴム層、20r・・・リブ、24・・・金属製皿バネ部材、30・・・ELシート、31・・・透明絶縁層、32・・・透明電極、32w・・・透明電極側導線、33・・・発光層、34・・・誘電体層、35・・・対向電極、35w・・・対向電極側導線、36・・・絶縁層、40・・・樹脂層、41・・・プッシャー、42・・・リブ、50,55・・・接着層、90・・・回路基板、91・・・金属製皿バネ部材、92・・・固定接点。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のキートップと、
前記キートップの下面側に形成される弾性体層と、
前記弾性体層の下面側に形成され、前記キートップを下方側から照光するためのELシートと、
前記ELシートの下面側の一部に形成される樹脂層と、
前記樹脂層の下面側に形成される突起部と、を備え、
前記樹脂層は、少なくとも前記突起部の直上部分を含む範囲に形成されることを特徴とする押釦スイッチ用カバー部材。
【請求項2】
前記ELシートは、少なくとも透明電極、発光層、誘電体層および対向電極を有し、
前記樹脂層は、前記透明電極同士および前記対向電極同士を結線するための導線の直下部分を含む範囲にもさらに形成されることを特徴とする請求項1記載の押釦スイッチ用カバー部材。
【請求項3】
前記樹脂層の下面側であって、かつ前記キートップの直下部分の間に、リブをさらに備え、
前記樹脂層は、前記リブの直上部分を含む範囲にもさらに形成されることを特徴とする請求項1または2記載の押釦スイッチ用カバー部材。
【請求項4】
前記ELシートと前記樹脂層との間に形成される接着層をさらに備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の押釦スイッチ用カバー部材。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2007−42505(P2007−42505A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−226836(P2005−226836)
【出願日】平成17年8月4日(2005.8.4)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】