説明

担体およびその製造方法

【課題】非特異性吸着を抑制し、S/Nの高い測定を可能とする。
【解決手段】担体を、基材と、この基材上に、7.8×1015個/mm3以上4.5×1017個/mm3以下の密度で3次元的に結合しているリガンド、または、2.0×1011個/mm2以上1.0×1013個/mm2以下の平面密度で2次元的に結合しているリガンドと、このリガンドに固定された金属イオンと、この金属イオンに固定されたヒスチジンタグを有する生理活性物質と、この生理活性物質が固定されていない金属イオンに固定された配位子を有するブロッキング剤とを有するものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生理活性物質を固定した担体およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、臨床検査における免疫反応など生理活性物質に由来する機能を利用した測定が数多く行われている。それらの測定においては、様々な生理活性物質を基材に固定し、その生理活性物質と披験物質(検体物質)間の特異的な結合反応を測定する方法がしばしば利用される。
【0003】
例えば、特定のタンパク質と、既知もしくは未知の物質の相互作用を解析する手法としてプロテインチップによる解析がある。プロテインチップではタンパク質を基材表面に固定して使用するが、その固定方法としてタンパク質に予め発現時に付加しておいたヒスチジンタグ(His-tag)を介して結合させると、生理活性を維持した状態で固定されやすいため有用性が高い。このチップを利用することによって、固定したHis-tagタンパク質に特異的に結合する披験物質をスクリーニングすることが可能である(非特許文献1)。
【0004】
特に、ニトリロトリ酢酸(NTA:Nitrilotriacetic acid)と金属イオンとによるNTA-金属錯体を用いたHis-tagタンパク質を固定したプロテインチップでは、錯体中の2つの配位座に配位した水分子がHis-tagタンパク質のオリゴヒスチジン残基の2つのイミダゾール基の窒素原子と置換することによって、His-tagタンパク質が特異的かつ一定方向に基材表面に結合している。
【0005】
ところで免疫学的測定などの一般的な生理活性物質による相互作用分析においては、プレート、ビーズ、カラムなどの基材に生理活性物質を結合させるが、生理活性物質が結合していない部位は、測定対象である披験物質などの非特異的な吸着を防ぐためにブロッキング剤を固定することが行われている(非特許文献2)。披験物質が生理活性物質自体との特異的結合によらない非特異的な吸着を起こすと正確な分析を行うことができないため、S/Nの高い高感度測定を行うにあたっては、非特異的吸着を抑制することは極めて重要である。
【非特許文献1】Science Vol.293,14,SEPTEMBER 2001,2101-2105
【非特許文献2】Proteomics 2003,3,254-264
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のHis-tagタンパク質を固定した基材においても、His-tagタンパク質が結合していない部位に、ブロッキング剤を固定すれば、非特異的吸着を抑制することが可能であると考えられるが、His-tagタンパク質とNTA-金属錯体との組み合わせは、アフィニティーカラムによる精製を目的として開発されているため、その結合は充分に強固ではなく、解離平衡が存在する。このため、ブロッキング剤の固定を行おうとすると、NTA-金属錯体を介して固定されたHis-tagタンパク質が、徐々に基材から解離してしまうという新たな問題が生じる。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みなされたものであって、非特異的吸着を抑制することが可能であって、S/Nの高い測定を可能とする担体およびその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の担体は、基材と、該基材上に、7.8×1015個/mm3以上4.5×1017個/mm3以下の密度で3次元的に結合しているリガンド、または、2.0×1011個/mm2以上1.0×1013個/mm2以下の平面密度で2次元的に結合しているリガンドと、該リガンドに固定された金属イオンと、該金属イオンに固定されたヒスチジンタグを有する生理活性物質と、該生理活性物質が固定されていない金属イオンに固定された配位子を有するブロッキング剤と、を有することを特徴とするものである。
前記ヒスチジンタグは近接したヒスチジン残基を6個以上有するペプチドであることが好ましい。
【0009】
前記配位子は4個以上のイミダゾール基を有するものであって、前記ブロッキング剤1分子中に前記配位子を1つ有することが好ましい。
【0010】
前記ブロッキング剤は水溶性高分子または水溶性タンパク質を含むことが好ましく、前記水溶性タンパク質の有する配位子はヒスチジン由来のイミダゾール基であることが好ましく、前記水溶性タンパク質はアルブミンまたはカゼインであることがより好ましい。
【0011】
前記水溶性高分子はポリエチレングリコール、ホスホリルコリン基含有高分子、多糖、ポリビニルアルコールまたはポリヒドロキシエチルメタクリレートであることがより好ましい。
【0012】
前記リガンドは、ヒドロゲルを介して3次元的に前記基材に結合していることが好ましく、前記ヒドロゲルはデキストランのカルボキシル基誘導体であることが好ましい。
前記リガンドはニトリロトリ酢酸誘導体であることが好ましい。
【0013】
本発明の担体は、前記生理活性物質が固定された部位と固定されていない部位を同一担体表面に有する態様としてもよい。
【0014】
本発明の担体の製造方法は、前記リガンドに固定された金属イオンに対し、前記生理活性物質を接触させて該生理活性物質を固定し、その後、前記ブロッキング剤を接触させて該ブロッキング剤を固定することを特徴とするものである。
前記ブロッキング剤を接触させる工程におけるブロッキング剤の濃度は0.1nM以上20μM以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の担体は、基材と、該基材上に、7.8×1015個/mm3以上4.5×1017個/mm3以下の密度で3次元的に結合しているリガンド、または、2.0×1011個/mm2以上1.0×1013個/mm2以下の平面密度で2次元的に結合しているリガンドと、該リガンドに固定された金属イオンと、該金属イオンに固定されたヒスチジンタグを有する生理活性物質と、該生理活性物質が固定されていない金属イオンに固定された配位子を有するブロッキング剤とを有するので、生理活性物質の解離を抑えながら、固定用生理活性物質以外の非特異的吸着を抑制することができ、S/Nの高い測定を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の担体を図面を用いて説明する。図1は本発明の担体の一実施の形態を示す概略模式図である。図1に示すように、本発明の担体は、基材と、この基材上に7.8×1015個/mm3以上4.5×1017個/mm3以下の密度で3次元的に結合しているリガンドと、このリガンドに固定された金属イオンと、この金属イオンに固定されたヒスチジンタグを有する生理活性物質と、この生理活性物質が固定されていない金属イオンに固定された配位子を有するブロッキング剤とを有する。本発明の担体は、ブロッキング剤の配位子部分によって金属イオンに対する非特異吸着が抑制され、ブロッキング剤の配位子以外の部分によって生理活性物質の非特異吸着が抑制される(以下、ブロッキング剤の配位子以外の部分を生理活性物質非特異吸着抑制部分という)。
【0017】
リガンドは基材上に7.8×1015個/mm3以上4.5×1017個/mm3以下の密度で3次元的に結合しており、1.0×1016個/mm3以上であることがより好ましく、さらには1.0×1017個/mm3以上の密度で結合していることがより好ましい。なお、このようにリガンドを3次元的に結合させるには、基材上にヒドロゲルを設け、このヒドロゲルを介してリガンドを結合させることが好ましい。一方、自己組織化膜(SAM)の上あるいは疎水性ポリマー等の上に結合させた場合には、リガンドは2次元的に結合する。2次元的に結合する場合には、そのリガンドの平面密度は2.0×1011個/mm2以上1.0×1013個/mm2以下であり、5.0×1011個/mm2以上であることがより好ましく、さらには1.0×1012個/mm2以上であることがより好ましい。
【0018】
リガンドが3次元的に結合している場合、7.8×1015個/mm3よりも高い密度では、生理活性物質のヒスチジンタグに由来する複数のイミダゾール基が、リガンドに固定された金属に多点で固定されるため、生理活性物質の実質的解離速度が劇的に低下する。ここで実質的解離速度とは、生理活性物質と基材との間の解離速度を意味する。また、リガンドが2次元的に結合している場合、2.0×1011個/mm2よりも高い密度では、3次元の時と同様に多点での固定が促進され実質的解離速度が劇的に低下する。
【0019】
リガンド密度は以下のようにして求めることができる。実際に測定を行って求める場合は、支持体上にリガンドを結合した後、金属イオンを付与し、支持体上に固定された金属イオンの数をICP分析装置などで求め、この金属イオンの数とリガンドが結合している部分の支持体の面積から、単位面積あたりのリガンドの数を求めることができる。計算によって求める場合は、リガンドの体積をCHEM3D(CambridgeSoft社製)などの計算ソフトを使用して求めることで、単位面積あたりのリガンドの数を求めることができる。リガンドの体積を計算ソフトで求めた場合、例えばNTAであれば0.3nm3程度と見積もられるので、リガンドが3次元的に結合している場合、4.5×1017個/mm3よりも高い密度で、リガンドが2次元的に結合している場合、1.0×1013個/mm2よりも高い密度で理論上リガンドを結合することは困難である。
【0020】
図1に示す担体に対して披験物質を接触させると、図2に示すように、金属イオンに固定された生理活性物質に特異的に披験物質が結合し、生理活性物質が固定されていない金属イオンに固定されたブロッキング剤によって非特異的吸着が抑制される。この非特異的吸着抑制は、ブロッキング剤の生理活性物質非特異吸着抑制部分によって生理活性物質の非特異吸着が抑制されるとともに、ブロッキング剤の配位子部分によって金属イオンに対する非特異的吸着が抑制されるものである。従って、本発明における配位子を有するブロッキング剤は、生理活性物質非特異吸着抑制部分がないブロッキング剤、換言すれば配位子のみで構成されているブロッキング剤であっても、金属イオンに対する非特異的吸着を抑制することが可能であるため、S/Nの高い測定を行うことができる。もちろん、配位子のみで構成されているブロッキング剤に対して、さらに生理活性物質非特異吸着抑制部分を固定化すれば、金属イオンに対する非特異的吸着と、生理活性物質の非特異吸着を供に抑制することが可能である。
【0021】
ブロッキング剤がない場合には、図3に示すように披験物質は金属イオンに固定された生理活性物質に結合するが、ブロッキング剤の配位子部分によってブロックされていない金属イオンや、リガンドにも非特異的に吸着するため特異的結合を正確に検出することができない。また、配位子を有していないブロッキング剤で処理をした場合には、図4に示すようにブロッキング剤は金属イオンには固定されず、リガンドの隙間などに結合してしまって、金属イオンやリガンドに対するブロッキング剤としての機能をなさず、この場合も特異的結合を正確に検出することができない。
【0022】
ブロッキング剤は、ブロッキング剤が有する配位子によって金属イオンに固定される。ブロッキング剤の配位子としては、孤立電子対を持ち金属と相互作用すれば特に限定されず、単座配位子でも多座配位子でもよい。具体的にはエチレンジアミン、アセチルアセトナト、グリシナトや含窒素複素環などの誘導体を利用することができる。含窒素複素環としては、窒素原子を含む3員環から7員環の単環及び縮合環構造のいずれであってもよく、環中の窒素原子は単数でも複数であってもよい。
【0023】
好ましくは、5員環から6員環のものを挙げることができる。このような含窒素複素環を有する配位子として具体的には、ピロール、イミダゾール、ピラゾール、オキサゾール、イソオキサゾール、チアゾール、イソチアゾール、1,2,3−トリアゾール、1,2,4−トリアゾール、1,3,4−チアジアゾ−ル、テトラゾール、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、1,2,3−トリアジン、1,2,4−トリアジン、1,3,5−トリアジン、1,2,4,5−テトラジン、アゼピン、アゾニン、キノリン、アクリジン、フェナンスリジン、インドール、イソインドール、カルバゾール、ベンズイミダゾール、1,8−ナフチリジン、プリン、プテリジン、ベンゾトリアゾール、キノキサリン、キナゾリン、ペリミジン、シンノリン、フタラジン、1,10−フェナンスロリン、フェノキサジン、フェノチアジン、フェナジン、8−ヒドロキシキノリン、8−メルカプトキノリン、2,2’−ビピリジン、2,2’−ジピリジルアミン、ジ(2−ピコリルアミン)、2,2’,2”−ターピリジン、ポルフィリン、フタロシアニン、およびそれらの誘導体が挙げられる。
【0024】
得られる金属錯体の安定性の観点から好ましくはピロール、イミダゾール、ピラゾール、オキサゾール、チアゾール、ピリジン、およびそれらの誘導体が好ましい。金属錯体の安定性と生理活性物質由来のイミダゾールとの交換反応を抑制する目的からはイミダゾールであることがより好ましい。また、ブロッキング剤がタンパク質である場合、配位子はヒスチジン由来のイミダゾール基であることがより好ましい。これらの配位子は適宜複数種を組み合わせて、例えば、イミダゾール-○-イミダゾール-○-イミダゾール-○や、イミダゾール-イミダゾール-○-イミダゾール-イミダゾールなどのように別の構造種を有するものであってもよい。
【0025】
また、ブロッキング剤は、ブロッキング剤を多点で固定させるためにブロッキング剤1分子当たり2個以上100個以下の配位子を有することが好ましい。さらにブロッキング剤1分子当たり4個以上25個以下の配位子を有することが好ましい。ブロッキング剤の多点固定を促進する目的で配位子は多い方が好ましいが、合成法や付加法などに応じて適切な長さを選択することができる。
【0026】
ブロッキング剤は水溶性タンパク質または水溶性高分子であることが好ましく、水溶性タンパク質としては、アルブミン、カゼイン、ゼラチン等を好ましくあげることができ、非特異的吸着抑制能の観点からはアルブミンまたはカゼインであることがより好ましい。水溶性高分子としては、ポリエチレングリコール、ホスホリルコリン基含有高分子、多糖、ポリビニルアルコール、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、双性イオン含有ポリマー等を好ましくあげることができ、非特異的吸着抑制能の観点からは、ポリエチレングリコール、ホスホリルコリン基含有高分子、多糖、ポリビニルアルコールまたはポリヒドロキシエチルメタクリレートであることが好ましい。
【0027】
水溶性タンパク質または水溶性高分子は、その1分子に対して1つの配位子を有していることが好ましく、より好ましくは1分子に対して4個以上の近接したヒスチジンを有していることが望ましい。
以下、本発明の担体を構成するその他の要素および担体の製造方法についてさらに詳細に説明する。
【0028】
(1)基材
本発明の担体における基材は、生理活性物質を固定することができる基材を意味し、平坦基板、凹凸付き基板、粗面基板、粒子、微粒子、ロッド状粒子、カラム、メッシュ、プローブ先端などの任意の形状を選択することができる。担体の材質としては、金、銀、アルミ、ステンレスなどの金属、ガラス、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、インジウムスズ酸化物(ITO)などの酸化物、窒化ケイ素、窒化ガリウム、窒化アルミニウム、窒化インジウムなどの窒化物、ポリスチレン、ポリアクリル酸エステル、ポリエステル、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマー、セルロース誘導体などの高分子、など任意の材料を単独、またはそれらの複合体として利用することができる。
【0029】
(2)リガンド固定部
本発明で用いることができるリガンド固定部としては、ヒドロゲル、自己組織化膜、シランカップリング層、疎水性ポリマー膜、無機物多孔性膜、有機無機ハイブリッド膜などのリガンド固定層を有してもよい。また、その組み合わせとして、基材表面に自己組織化膜やシランカップリング層を形成させ、その層を介してヒドロゲルや疎水性ポリマー膜をさらに形成させても良い。この時、リガンドはヒドロゲルを介して結合していると、水中における可動性が高く生理活性物質やブロッキング剤の多点結合しやすさを促進するため、好ましい。以下、リガンド固定状態として2次元的な固定と3次元的な固定に関してさらに詳細に説明する。
【0030】
(2−1)2次元的固定部
2次元的な固定方法としては、基材表面に形成させた自己組織化膜やシランカップリング層、基材表面に塗布した疎水性ポリマー膜層、基材表面に転写させたLangmuir-Blodgett膜(LB膜)を介して固定する方法、基材の表面近傍のみを酸化、還元、加水分解などの処理を行った表面処理層を介して固定化する方法などが挙げられる。
【0031】
具体的には、金属表面に対する自己組織化膜を好ましく利用することができる。自己組織化膜を用いた金属膜の被覆法は、ハーバード大のWhitesides教授らにより精力的に展開されており、その詳細は例えばChemical Review, 105, 1103-1169 (2005)に報告されている。金属として金を用いた場合、自己組織化膜形成化合物として一般式A-1(一般式A-1において、nは3から20、より好ましくはnは6から15のの整数を示し、Xは官能基を示す)に示すアルカンチオール誘導体を用いることにより、Au-S結合とアルキル鎖同士のvan der Waals力に基づき、配向性を持つ単分子膜が自己組織的に形成される。
【化1】

【0032】
自己組織化膜形成化合物として具体的には、6-アミノ-1-ヘキサンチオール、11-アミノ-1-ウンデカンチオール、10-カルボキシ-1-デカンチオール、7−カルボキシ−1−へプタンチオール、16-カルボキシ-1-メルカプトヘキサデカンチオール、11-ヒドロキシ-1-ウンデカンチオールなどが挙げられる。自己組織化膜は、アルカンチオール誘導体の溶液中に金基板を浸漬するという極めて簡便な手法で作製される。一般式A-1において例えばX=NH2である化合物を用いて自己組織化膜を形成させることで、アミノ基を有する有機層で金表面を被覆することが可能となる。
【0033】
別の例として、シリカ、窒化ケイ素などの金属酸化物や窒化物あるいはその薄膜を有する基材に対しては、シランカップリング剤により形成されたシランカップリング層を介して結合することもできる。シランカップリング剤として一般式A-2(一般式A-2において、Xは官能基を示し、Lは直鎖、分岐鎖、環状鎖の炭素鎖を含むリンカー部位を示し、Rは水素、もしくは炭素数1〜6のアルキル基を示し、Yは加水分解基を示す。また、m,nはそれぞれ0〜3の整数を示しm+n=3とする。)に示すケイ素含有化合物を利用することにより、金属酸化物や窒化物との間に金属(ケイ素)−酸素−ケイ素−炭素といった共有結合を形成させることにより、基材表面を官能基で被覆することができる。
【化2】

【0034】
ここで、加水分解基(Y)とは、アルコキシ基、ハロゲン、アシロキシ基などが挙げられ、より具体的にはメトキシ基、エトキシ基、塩素などが挙げられる。シランカップリング剤として具体的には、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。シランカップリング剤の反応方法としては一般的な方法に従えば良く、例えば書籍、シランカップリング剤の効果と使用法(サイエンス&テクノロジー社)に記載の方法を利用することができる。
【0035】
また、自己組織化膜形成化合物やシランカップリング剤などが有する官能基(X)としては、生理活性物質と結合すれば特に限定はされず、アミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、アルデヒド基、チオール基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、エポキシ基、シアノ基、ヒドラジノ基、ヒドラジド基、ビニルスルホン基、ビニル基など任意の官能基とその組み合わせやその誘導体を利用することができる。
【0036】
(2−2)3次元的固定部
3次元的固定部としてはヒドロゲルを用いることが好ましい。ヒドロゲルとしては、ゼラチン、アガロース、キトサン、デキストラン、カラゲナン、アルギン酸、澱粉、セルロース、又はこれらの誘導体、例えばカルボキシメチル誘導体、又は水膨潤性有機ポリマー、例えばポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリエチレングリコール又はこれらの誘導体などを挙げることができる。
【0037】
本発明で用いるヒドロゲルとしてはさらに、カルボキシル基含有合成ポリマーおよびカルボキシル基含有多糖類を用いることが可能である。カルボキシル基含有合成ポリマーとしては、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、およびこれらの共重合体、例えば特開昭59-53836号明細書3頁20行〜6頁49行、特開昭59-71048号明細書3頁41行〜7ページ54行明細書に記載されているようなメタクリル酸共重合体、アクリル酸共重合体、イタコン酸共重合体、クロトン酸共重合体、マレイン酸共重合体、部分エステル化マレイン酸共重合、水酸基を有するポリマーに酸無水物を付加させたものなどが挙げられる。カルボキシル基含有多糖類は、天然植物からの抽出物、微生物発酵の生産物、酵素による合成物、または化学合成物の何れであってもよく、具体的には、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、ヘパリン、デルマタン酸硫酸、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、セロウロン酸、カルボキシメチルキチン、デキストランのカルボキシル基誘導体、特にはカルボキシメチルデキストラン、カルボキシメチルデンプン等が挙げられる。カルボキシル基含有多糖類は、市販の化合物を用いることが可能であり、具体的には、カルボキシメチルデキストランであるCMD、CMD-L、CMD-D40(名糖産業社製)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(和光純薬社製)、アルギン酸ナトリウム(和光純薬社製)、等を挙げることができる。
【0038】
本発明で用いるヒドロゲルの分子量は特に限定されないが、一般的には200以上5000000以下であることが好ましい。さらに好ましいヒドロゲルの分子量は10000以上2000000以下である。
【0039】
上記したようなヒドロゲルは、基材に直接結合されても、間接的に結合されていてもよい。あるいはモノマーを含む溶液から直接基材上に形成させることもできる。さらに、上記したヒドロゲルは架橋することもできる。ヒドロゲルの架橋は当業者に自明である。
【0040】
後述するバイオセンサーに適用する場合のセンサー表面に結合するヒドロゲルは、水溶液中の膜厚が1nm以上0.5mm以下であることが好ましく、より好ましくは1nm以上1μm以下であることが望ましい。膜厚が薄いと生理活性物質固定量が減少し、被験物質との相互作用が起こりにくくなる。一方、膜厚が厚いと被験物質が膜内に拡散するため好ましくない。水溶液中のヒドロゲルの膜厚はAFM、エリプソメトリーなどで評価することができる。
【0041】
(2−3)ヒドロゲルの基材固定
ヒドロゲルは基材に直接、もしくは2次元的固定部で述べた自己組織化膜やシランカップリング層のような反応層を介して固定することができる。ヒドロゲルとしてカルボキシル基を含有するポリマーを使用する場合、カルボキシル基を活性化することによって、基材の官能基、又は2次元固定部で述べた、自己組織化膜やシランカップリング層上のアミノ基などの官能基に固定することができる。カルボキシル基を含有するポリマーを活性化する方法としては、公知の手法、例えば1-(3-Dimethylaminopropyl)-3 ethylcarbodiimide(EDC)、N,N'-Dicyclohexylcarbodiimide(DCC)、N,N'-diisopropylcarbodiimide(DIC)などのカルボジイミドと、N-Hydroxysuccinimide(NHS)、3-Hydroxy-3,4-dihydro-4-oxo-1,2,3-benzotriazine(HO Dhbt)、Pentafluorophenol、p-nitrophenol、などの活性エステル生成化合物を共に利用する系、もしくは単独で使用する方法が挙げられる。更に、EDCとNHSにより活性化する方法、又はEDC単独により活性化する方法をより好ましく用いることができる。この手法で活性化されたカルボキシル基を含有するポリマーを、アミノ基を有する基材と反応させることで、基材上にヒドロゲルを結合させることが可能となる。
【0042】
本発明において活性エステル化されたカルボキシル基を含有するポリマーは、溶液として基材と反応させてもよく、また、スピンコート等の手法を用いて基材上の薄膜を形成させた状態で反応させてもよい。好ましくは、薄膜を形成させた状態での反応である。
【0043】
上記の通り、本発明において活性エステル化されたカルボキシル基を含有するポリマーは、薄膜状態で基材と反応させることが好ましい。基材上に薄膜を形成させる方法は、公知の方法を用いることが可能であるが、具体的には、エクストルージョンコート法、カーテンコート法、キャスティング法、スクリーン印刷法、スピンコート法、スプレーコート法、スライドビードコート法、スリットアンドスピン方式、スリットコート方式、ダイコート法、ディップコート法、ナイフコート法、ブレードコート法、フローコート法、ロールコート法、ワイヤバーコート方式、転写印刷法、等を用いることが可能である。これらの薄膜形成法については、「コーティング技術の進歩」原崎勇次著、総合技術センター(1988)、「コーティング技術」技術情報協会(1999)、「水性コーティングの技術」シーエムシー(2001)、「進化する有機薄膜 成膜編」住べテクノリサーチ(2004)、「高分子表面加工学」岩森暁著、技報堂出版(2005)、等に説明されている。膜厚制御された塗布膜を簡便に作製可能であることから、本発明において基材上に薄膜を形成させる方法としては、スプレーコート法またはスピンコート法が好ましく、スピンコート法がさらに好ましい。
【0044】
(3)リガンド
リガンドとなる化合物としては、各種キレート剤を用いることができ、ニトリロトリ酢酸(NTA)、イミノジ酢酸(IDA)、フェナンスロリン、テルピリジン、ビピリジン、トリエチレンテトラアミン、ビ(エチレントリアミン)、トリス(カルボキシメチル)エチレンジアミン、ジエチレントリアミンペンタ酢酸、ポリピラゾリルホウ酸、1,4,7−トリアゾシクロノナン、ジメチルグリオキシム、ジフェニルグリオキシム、またはそれらの誘導体等の多座配位子を好ましくあげることができる。この中でも、ニトリロトリ酢酸、イミノジ酢酸、又はそれらの誘導体であることがさらに好ましい。リガンドの結合は、例えば、カルボキシル基を有するヒドロゲルを用いる場合には、このカルボキシル基を活性化した後に、リガンドとなる化合物を反応させることによって、リガンドをヒドロゲルに結合することができる。
【0045】
このリガンドの結合の際には有機溶剤を用いることが好ましい。有機溶剤を用いることによってリガンドを、7.8×1015個/mm3以上4.5×1017個/mm3以下の密度で3次元的に、あるいは2.0×1011個/mm2以上1.0×1013個/mm2以下の平面密度で2次元的に結合することができる。
【0046】
有機溶剤としては、ジメチルスルホキサイド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、アセトニトリル、N−メチルピロリドン、アセトン、メチルエチルケトン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、ブチルセロソルブ、テトラヒドロフラン、ジグライム等を好ましくあげることができ、リガンドの溶解性および副反応の抑制の観点からはジメチルスルホキサイドあるいはN、N−ジメチルホルムアミドを用いることがより好ましい。
【0047】
(4)金属イオン
金属イオンは、不飽和金属錯体を形成する金属イオンであればよく、得られる金属錯体の安定性の観点からは遷移金属イオンが好ましく、具体的には、Ni(II)、Cu(I)、Cu(II)、Co(II)、Co(III)、Fe(II)、Fe(III)、Ga(III)のいずれかのイオンであり、リガンドの種類に応じて適宜選択することができる。中でも好ましくは、Ni(II)、Cu(II)、Co(III)、Fe(III)であり、さらに好ましくは、Ni(II)、Cu(II)である。金属イオンは、価数によって結合力が異なるが、Co(II)、Fe(II)の場合は、特開平6-157600 号の[0037]、[0038]に記載されている酸化還元方法で、金属イオンの酸化数を変化させ、結合力を変えることが可能である。
金属イオンとリガンド密度の組み合わせとしては、金属イオンがCu(II)の場合、リガンド密度は1.7×1016以上であることが好ましい。
【0048】
(5)生理活性物質
生理活性物質は、例えば免疫タンパク質、非免疫タンパク質、免疫タンパク質結合性タンパク質、糖結合性タンパク質、酵素、核酸、低分子有機化合物、糖を認識する糖鎖、脂肪酸もしくは脂肪酸エステル、微生物、ウイルスなどが挙げられる。生理活性物質の有するヒスチジンタグはイミダゾール基を有するアミノ酸であるヒスチジンを4残基以上有するペプチドであることが好ましい。ヒスチジンタグは生理活性物質に対して化学結合にて付加してもよく、また生理活性物質がタンパク質である場合は遺伝子工学的に付加してもよい。イミダゾール基は近接に多数存在していると、その分多数のリガンド・金属に多点で固定されるため、ヒスチジンタグは近接したヒスチジン残基を6個以上有するペプチドであることがより好ましい。また、より強固に固定されるという観点からは10個以上がより好ましい。ただし、ヒスチジンが多くなりすぎると生理活性物質の活性阻害を起こしやすくなるため、100個以下であることが好ましい。この時、近接したヒスチジン残基とはヒスチジン間に0〜3個の任意の数のアミノ酸を有することを示す。
【0049】
(6)生理活性物質の固定
生理活性物質の固定は、生理活性物質を含む溶液を基材に接触させることによって行う。生理活性物質がヒスチジンタグ由来のイミダゾール基を有する場合、金属イオンに配位結合し、錯体を形成することによって固定される。
【0050】
基材に結合したリガンドに対して、金属イオンと、ヒスチジンタグを有する生理活性物質とを付与すると、金属イオンに、(1)リガンドと、(2)生理活性物質のヒスチジンタグと、(3)場合により水分子または水酸化イオンと、が配位し、錯体を形成する。
【0051】
例えば、リガンドとしてNTAを使用し、6配位可能な金属イオンを付与した場合、6配位部位中4つの配位部位を、(1)NTAが保有する3つのカルボキシル基と1つの窒素原子が占有し、残りの2つの配位部位は、(2)生理活性物質のヒスチジンタグと、(3)水分子または水酸化イオンなどと、が占有することにより、6配位の錯体を形成する。
【0052】
リガンドとして、イミノジ酢酸を使用し、6配位可能な金属イオンを付与した場合は、6配位部位中3つの配位部位を、(1)イミノジ酢酸が保有する2つのカルボキシル基と1つの窒素原子が占有し、残りの3つの配位部位は、(2)生理活性物質のヒスチジンタグと、(3)水分子または水酸化イオンなどと、が占有することにより、6配位の錯体を形成する。
【0053】
ここでは、金属イオンは、6配位可能な金属イオンを例に挙げて説明したが、配位数については7配位以上でもよく、5配位以下でもよい。また、錯体を形成するカルボキシル基は、1つのリガンドから供給されずともよく、複数のリガンドから供給され、錯体を形成してもよい。
【0054】
さらに、担体に対して生理活性物質が固定された部位と固定されていない部位を形成することが好ましい。ここでいう生理活性物質が固定されていない部位とは、生理活性物質の固定処理を行ったにもかかわらず生理活性物質が固定されていない隙間ではなく、生理活性物質の固定処理を行わずに、ブロッキング処理のみを行った部位(リファレンス部位)を指す。例えば、測定のための多数の生理活性物質が固定されている測定領域が担体上に離散して設けられており、この測定領域以外の部分はブロッキング処理が行われている状態の担体を意味する。このような生理活性物質が固定されていない部位はブロッキング剤の固定を行うことによって、特異的結合による信号も非特異的吸着による信号も抑えられているため、担体自体に由来するいわゆるバックグラウンドの信号値を得ることができる。
【0055】
(7)ブロッキング剤の固定
ブロッキング剤の固定は、生理活性物質の固定と同様に、ブロッキング剤を含む溶液を担体に接触させることによって、ブロッキング剤の配位子が金属イオンに配位結合し、錯体を形成することによって固定される。配位子を有するブロッキング剤を付与すると、金属イオンに、(1)リガンドと、(2) ブロッキング剤の配位子と、(3)場合により、水分子または水酸化イオンと、が配位し、錯体を形成する。
【0056】
なお、ブロッキング剤は生理活性物質が固定されている部位にも固定されていない部位にも固定することが好ましい。ここでいう生理活性物質が固定されていない部位とは、上述したと同様に、生理活性物質の固定処理を行ったのに生理活性物質が固定されていない隙間ではなく、生理活性物質の固定処理を行わずに、ブロッキング処理のみを行った部位を指す。
【0057】
この際のブロッキング剤の濃度は、0.1nM以上20μM以下であることが好ましい。この濃度は一般的な免疫学的測定法において非特異的吸着を防ぐために使用されるブロッキング剤の濃度よりも薄いが、このような薄い濃度であっても、用いるブロッキング剤が配位子を有し、この配位子によって金属イオンに固定されるので、効果的にブロッキングを行うことが可能である。また、ブロッキング剤濃度が一般的な免疫学的測定法と同様に20μMよりも高い濃度であると、ブロッキング剤由来の配位子が生理活性物質由来の配位子であるイミダゾールと交換反応で固定され、生理活性物質の解離速度を早めてしまうため、好ましくない。但し、このような効果を損なわなければ、ブロッキング剤の濃度をさらに高濃度としてもよい。
【0058】
(8)担体の製造
本発明の担体は、例えば以下の工程によって製造することができる。例えば基材としてガラス板を用いた場合、まずガラス板にγ-アミノプロピルトリエトキシシランを反応させてガラス板表面にアミノ基を導入する。続いて、シランカップリング層上にヒドロゲルを形成する。固相担体表面はシランカップリング剤のアミノ基により被覆されているので、ヒドロゲルがカルボキシル基を含有する場合には、このカルボキシル基を活性化することによって、基材にヒドロゲルを固定化することができる。
【0059】
次ぎに、ヒドロゲルにリガンドを結合させる。リガンドの結合は、例えば、ヒドロゲルが、カルボキシル基を有する場合には、このカルボキシル基を活性化した後に、リガンドとなる化合物を有機溶媒中で反応させることによって、リガンドをヒドロゲルに固定することができる。
【0060】
続いて、金属イオンを結合させる。結合した金属イオンに対し生理活性物質を接触させて固定し、最後に配位子を有するブロッキング剤を接触させて、生理活性物質が固定していない金属イオンに対しブロッキング剤を固定する。
【0061】
(9)本発明の担体の適用
本発明の担体は、バイオセンサーに適用することができる。バイオセンサーとは最も広義に解釈され、生体分子間の相互作用を電気的信号等の信号に変換して、対象となる物質を測定・検出するセンサーを意味する。
【0062】
通常のバイオセンサーは、検出対象とする化学物質を認識するレセプター部位と、そこに発生する物理的変化又は化学的変化を電気信号に変換するトランスデューサー部位とから構成される。生体内には、互いに親和性のある物質として、酵素/基質、酵素/補酵素、抗原/抗体、ホルモン/レセプターなどがある。バイオセンサーでは、これら互いに親和性のある物質の一方を基材に固定してレセプター部位として用いることによって、対応させるもう一方の物質を選択的に計測するという原理を利用するものである。
【0063】
また、本発明の担体は、測定のための多数の生理活性物質が固定されている測定領域が担体上に離散して設けられているプロテインチップやマイクロアレイなどにも適用することができる。更に、微粒子や凹凸のある基材などの平坦ではない担体を用いたバイオセンサーにも適用することができる。
以下に本発明の担体についての実施例を示す。
【実施例】
【0064】
(実施例1)
(アミノ化ガラススライドの作製)
γ-アミノプロピルトリエトキシシラン(東京化成工業株式会社製)0.1質量% トルエン溶液を作製し、この中にUV洗浄したスライドグラス(松浪硝子工業株式会社製 白縁磨)を60℃で12分間浸漬させた。取り出したスライドグラスをトルエン、エタノール、超純水の順で洗浄し、120℃で1時間ベーキング処理を行った。
【0065】
(CMD被覆スライドの形成)
超純水に0.1重量%となるようにCMD(名糖産業製:分子量100万)を溶解した後、CMD溶液10ml当たり、40mMのEDC(1-(3-Dimethylaminopropyl)-3-ethylcarbodiimide)および10mMのNHS(N-Hydroxysuccinimide)混合溶液を100μl加えた。このアミノ化ガラスの上に、活性エステル化したCMD溶液を滴下し7,000rpmで45秒間スピンコートした。スピンコート後室温で1時間静置後0.1M NaOH、超純水の順で洗浄を行った。
【0066】
(3次元NTA化スライドの作製)
1mmol のEDCおよび0.2mmolのNHSをDMSO1mlに添加した溶液を上記で作製したCMD被覆スライドの上に300μl載せ、DMSO雰囲気中室温で30分間反応させた。溶液を除去後、DMSOで一回洗浄し、0.1mmolのAB-NTA(同仁化学製)をDMSO1mlに添加した液を12時間反応させた。溶液を除去して、超純水で1回洗浄し、3次元NTA化スライドを作製した。
【0067】
(ブロッキング剤の作製)
C末端カルバモイル化His6ペプチド(NeoMPS社製:2HN-(His)6-CONH2)の4mM PBS溶液200ulと400nM BSA(Sigma-Aldrich社製)PBS溶液200ul、0.8M EDC水溶液200ul、0.2M NHS水溶液200μlを混合し、室温で一晩反応させた。フリーのHis6ペプチドを除く為に反応溶液をPD-10(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)を用いて精製し、His6ペプチドの結合処理をしたBSA(以下、His-BSAという)を作製した。精製後のBSA濃度をBCA法を用いて測定し、得られた値に基づいてPBSで100nMに調製した。
【0068】
(ヒスタグ付きタンパク質の結合とブロッキング処理)
3次元NTA化スライドに1mMのCuCl2水溶液を載せて3分間静置させた後溶液を除去し、超純水で2回洗浄した。次にヒスタグ付きGFP(Upstate社製:以下、His-GFPという)20nMを含む大腸菌ライセートを5μlずつ複数箇所にスポットし、湿箱中室温で30分間静置した。スポットした溶液を除いてからPBSで2回洗浄を行った。次ぎに、His-BSA 100nM PBS水溶液を3次元NTA化スライド全面に載せて湿箱中室温で30分間静置した。His-BSA溶液を除き、PBSで2回洗浄を行った。
【0069】
(標識化合物の結合量と非特異的吸着量解析)
Cy5(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)で標識化した抗GFP抗体(Rockland Immunochemicals社製)をPBSで0.1mg/mlに調製し、ブロッキング処理したNTA化基板全面に載せて湿箱中室温で30分間静置した。抗体溶液を除き、PBSで3回洗浄を行い、窒素ガスで乾燥させた。抗GFP抗体を接触させたスライドをFLA-8000(富士フイルム株式会社製)を用いて、スポット部の波長635nm励起光に対する波長675nmの蛍光強度を測定し、検量線から抗GFP抗体の結合量、非特異的吸着量を見積もった。His-GFPを含むライセートをスポットした部位の周囲の平均信号強度(抗体非特異的吸着量:N)に対する、スポットした部位の平均信号強度(抗体結合量:S)の比率をS/N比として算出した。
【0070】
(実施例2)
実施例1におけるブロッキング剤の作製において、BSAの代わりにカゼイン(Sigma−Aldrich社製)を用いた以外は実施例1と同様に操作を行った。
【0071】
(実施例3)
実施例1のブロッキング処理におけるHis-BSA濃度を300μMとした以外は実施例1と同様に操作を行った。
【0072】
(比較例1)
実施例1におけるブロッキング処理を除いた以外は実施例1と同様に操作を行った。
【0073】
(比較例2)
実施例1におけるHis-BSAによるブロッキングの代わりにHis6ペプチドの結合処理を行わない無処理BSAを用いた以外は実施例1と同様に操作を行った。
【0074】
(比較例3)
実施例1におけるAB-NTA化処理の反応溶媒をDMSOではなく超純水を用いた以外は実施例1と同様に操作を行った。
【0075】
(実施例4)
(2次元NTA化ガラスの作製)
ガラス板(50mm×50mm)上に3nmのクロム膜および20nmの金膜をスパッタにより形成した。11-ヒドロキシ-1-ウンデカンチオール(Aldrich社製)9.2mg、16-メルカプトヘキサデカン酸(Aldrich社製)1.4mg、超純水2ml及びエタノール8mlを40℃にて充分混合した。金スパッタガラス板をUV/オゾン処理で表面洗浄後、上記のチオール溶液に浸漬させ、40℃で1時間反応させた。反応後、エタノールおよび超純水にて1回ずつ洗浄を行った。実施例1と同様にDMSO中でAB-NTAと反応させて2次元NTA化スライドを作製した。
【0076】
(結合アッセイ)
実施例1と同様にCuCl2水溶液、ヒスタグ付きGFP含有ライセート、His-BSA溶液、Cy5標識抗GFP抗体溶液の接触と洗浄を順に行った。
【0077】
(標識化合物の結合量と非特異的吸着量解析)
His-GFP含有ライセートをスポットした部位に10mMグリシンバッファー(pH1.5)を90μl接触させ、結合しているCy5化抗体を回収し、1M 重炭酸ナトリウムバッファー10μlと混合させた。回収したCy5化抗体溶液の蛍光強度からCy5化抗体の結合量を定量した(抗体結合量:S)。His-GFP含有ライセートを接触させていないスライドから回収されるCy5抗体量(非特異的吸着量:N)を定量した。S/N比を算出した。
【0078】
(比較例4)
実施例1におけるHis-BSAによるブロッキングの代わりにHis6ペプチドの結合処理を行わない無処理BSAを用いた以外は実施例4と同様に操作を行った。
【0079】
(比較例5)
実施例4におけるAB-NTA化処理の反応溶媒をDMSOではなく超純水を用いた以外は実施例4と同様に操作を行った。
【0080】
(実施例5)
実施例1のCMD被覆スライドの形成において、超純水に1重量%となるようにCMD(名糖産業製:分子量100万)を溶解した後、CMD溶液1gに10mMのEDC(1-(3-Dimethylaminopropyl)-3-ethylcarbodiimide)水溶液を1ml加えた。アミノ化ガラスの上に、活性エステル化したCMD溶液を滴下し7,000rpmで45秒間スピンコートした。スピンコート後室温で1時間静置後0.1M NaOH、超純水の順で洗浄を行い、CMD被覆スライドを作製した。次ぎに3次元NTA化スライドの作製において、1mmol のEDCおよび0.2mmolのNHSをDMSO 0.94mlとDBU(東京化成製) 0.06mlに添加した溶液を上記で作製したCMD被覆スライドの上に300μl載せ、DMSO雰囲気中室温で30分間反応させた。さらに溶液を除去後、DMSOで一回洗浄し、0.1mmolのAB-NTA(同仁化学製)をDMSO1mlに添加した液を2時間反応させた。溶液を除去して、超純水で数回洗浄し、3次元NTA化スライドを作製した。さらに、ヒスタグ付きタンパク質の結合とブロッキング処理において、His-BSAの代わりに20μmのHHHHHHペプチド(Hはヒスチジンを表し、HHHHHH はヒスチジンが6個繋がったもの:オペロン社製)をブロッキング剤として使用した以外は実施例1と同様に操作を行った。
【0081】
(実施例6)
実施例5におけるHHHHHHペプチドの代わりにHHHHHHHHペプチド(Hはヒスチジンを表し、HHHHHHHH はヒスチジンが8個繋がったもの:オペロン社製)をブロッキング剤として使用した以外は実施例1と同様に操作を行った。
【0082】
(実施例7)
実施例5におけるHHHHHHペプチドの代わりにHHHHHHHHHHペプチド(Hはヒスチジンを表し、HHHHHHHHHH はヒスチジンが10個繋がったもの:オペロン社製)をブロッキング剤として使用した以外は実施例1と同様に操作を行った。
【0083】
(実施例8)
実施例5におけるHHHHHHペプチドの代わりにHSHSHSHSHSHSHSHSHSHSペプチド(Hはヒスチジン、Sはセリンを表し、HSHSHSHSHSHSHSHSHSHSはヒスチジンとセリンが結合したHSが10個繋がったもの:オペロン社製)をブロッキング剤として使用した以外は実施例1と同様に操作を行った。
【0084】
(実施例9)
実施例5におけるHHHHHHペプチドの代わりにHKHKHKHKHKHKペプチド(Hはヒスチジン、Kはリシンを表し、HKHKHKHKHKHKはヒスチジンとリシンが結合したHKが6個繋がったもの:オペロン社製)をブロッキング剤として使用した以外は実施例1と同様に操作を行った。
【0085】
(実施例10)
実施例5におけるHHHHHHペプチドの代わりにHCHCHCHCHCHCペプチド(Hはヒスチジン、Cはシステインを表し、HCHCHCHCHCHCはヒスチジンとシステインが結合したHCが6個繋がったもの:オペロン社製)をブロッキング剤として使用した以外は実施例1と同様に操作を行った。
【0086】
(配位子密度測定)
AB-NTAを結合した後に、予め0.1MのNiCl2水溶液を添加し、10分後に溶液を除去し、超純水で2回洗浄した。50mMのEDTA水溶液5mlで2度抽出を行い、この抽出液を合わせてICP分析装置で測定してNi量を定量した。このNi量からNTA量を換算し、3次元NTA化スライドの場合、CMD体積(高さはAFMで測定)で割った値、2次元NTA化スライドの場合、底面積で割った値をNTA密度とした。
【0087】
配位子密度の測定結果を下記表1および2に、特異的結合/非特異的吸着の比(S/N比)を図5および6に示す。なお図5および6では4点測定したS/N比の平均と標準偏差を示している。また、表3に実施例5〜10のNTA密度の測定結果とS/N比を示す。なお、表3のS/N比は4点測定したS/N比の平均値である。
【0088】
【表1】

【0089】
【表2】

【0090】
【表3】

【0091】
表1、2、図5および6から明らかなように、Hisタグ(配位子)を有するブロッキング剤で処理を行った実施例1〜4ではブロッキング処理をしていない比較例1やHisタグを有していないブロッキング剤で処理をした比較例2や4に比べて、3次元の場合においてはS/N比が約10倍高く、2次元の場合においては8倍強高かった。また、比較例3および5はNTA密度が低い場合であるが、この場合には比較例1、2又は比較例4と比べるとそれぞれ約2倍程度のS/N比の上昇が観察されるものの、NTA密度の高い実施例1及び実施例4と比較すると、それぞれ6分の1未満、4分の1未満と、充分な値ではなかった。
【0092】
また、表3から明らかなように、ブロッキング剤が配位子のみで構成されている場合であっても金属イオンに対する非特異吸着が抑制されるので、S/N比の高い測定を行うことが可能であることがわかる。そして、この場合、実施例5〜7よりヒスチジン基が連続したペプチドでもブロッキング効果があり、また、実施例8〜10より、ヒスチジン残基が連続しておらず、近接している場合にもブロッキング効果があり、金属イオンと相互作用のある、システインあるいはリシン残基も併用して用いることが可能であることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明の担体の一実施の形態を示す概略模式図
【図2】図1に示す担体に披験物質が結合している状態を示す概略模式図
【図3】ブロッキング処理をしていない場合の非特異的吸着を示す概略模式図
【図4】配位子を有していないブロッキング剤により処理をした場合の非特異的吸着を示す概略模式図
【図5】実施例1〜3および比較例1〜3のS/Nを示すグラフ
【図6】実施例4、比較例4および5のS/Nを示すグラフ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
該基材上に、7.8×1015個/mm3以上4.5×1017個/mm3以下の密度で3次元的に結合しているリガンド、または、2.0×1011個/mm2以上1.0×1013個/mm2以下の平面密度で2次元的に結合しているリガンドと、
該リガンドに固定された金属イオンと、
該金属イオンに固定されたヒスチジンタグを有する生理活性物質と、
該生理活性物質が固定されていない金属イオンに固定された配位子を有するブロッキング剤と、
を有することを特徴とする担体。
【請求項2】
前記ヒスチジンタグが近接したヒスチジン残基を6個以上有するペプチドであることを特徴とする請求項1記載の担体。
【請求項3】
前記配位子が4個以上のイミダゾール基を有するものであって、前記ブロッキング剤1分子中に前記配位子を1つ有することを特徴とする請求項1または2記載の担体。
【請求項4】
前記ブロッキング剤が水溶性高分子または水溶性タンパク質を含むことを特徴とする請求項1、2または3記載の担体。
【請求項5】
前記水溶性タンパク質の有する配位子がヒスチジン由来のイミダゾール基であることを特徴とする請求項4記載の担体。
【請求項6】
前記水溶性タンパク質がアルブミンまたはカゼインであることを特徴とする請求項4または5記載の担体。
【請求項7】
前記水溶性高分子がポリエチレングリコール、ホスホリルコリン基含有高分子、多糖、ポリビニルアルコールまたはポリヒドロキシエチルメタクリレートであることを特徴とする請求項4記載の担体。
【請求項8】
前記リガンドが、ヒドロゲルを介して3次元的に前記基材に結合していることを特徴とする請求項1〜7いずれか1項記載の担体。
【請求項9】
前記ヒドロゲルがデキストランのカルボキシル基誘導体であることを特徴とする請求項8記載の担体。
【請求項10】
前記リガンドがニトリロトリ酢酸誘導体であることを特徴とする請求項1〜9いずれか1項記載の担体。
【請求項11】
前記生理活性物質が固定された部位と固定されていない部位を同一担体表面に有することを特徴とする請求項1〜10いずれか1項記載の担体。
【請求項12】
請求項1〜11いずれか1項記載の担体の製造方法であって、前記リガンドに固定された金属イオンに対し、前記生理活性物質を接触させて該生理活性物質を固定し、その後、前記ブロッキング剤を接触させて該ブロッキング剤を固定することを特徴とする担体の製造方法。
【請求項13】
前記ブロッキング剤を接触させる工程におけるブロッキング剤の濃度が0.1nM以上20μM以下であることを特徴とする請求項12記載の担体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−92651(P2009−92651A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−232840(P2008−232840)
【出願日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【復代理人】
【識別番号】100111040
【弁理士】
【氏名又は名称】渋谷 淑子
【Fターム(参考)】