説明

担持触媒を用いた単一層カーボンナノチューブの製造方法

【課題】単一層カーボンナノチューブを成長させる方法を提供すること。
【解決手段】鉄及びモリブデンなどの触媒性金属、及び酸化マグネシウム担体材料を含む触媒を調製すること、及び単一層カーボンナノチューブを製造するための十分な温度かつ十分な接触時間で、前記触媒と気体状炭素含有供給原料を接触させることを含む。鉄とモリブデンの重量比は、約2:1から約10:1の範囲であり、かつこれらの金属はMgOの約10重量%まで含まれていてもよい。この触媒は硫化されていてもよい。メタンが適切な炭素含有供給材料である。この方法は、輸送反応器、流動層反応器、移動層反応器及びそれらを組み合わせた機器などの反応器内で、バッチ、連続又は半連続方式で行うことができる。また、この方法は、マグネシア、ジルコニア、シリカ及びアルミナなどの担体上に少なくとも1種の第VIB族又は第VIIIB族の金属を含む触媒であって、硫化された触媒を用いて、単一層カーボンナノチューブを製造することを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して単一層カーボンナノチューブの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
単一層カーボンナノチューブは、炭素の新規な形態である。これは、密閉ケージ状の円筒状の分子で、約0.5から3ナノメーターの直径及び数100ナノメーターの長さをもつ。これは、優れた電気的及び熱的伝導性、及び高い抗張力で知られている。1993年に発見されて以来、その特性の説明及びそれを用いた用途の開発のための実質的な調査が行われていた。
【0003】
単一層カーボンナノチューブの全ての製造方法は、1種又は組み合わされた遷移金属触媒及び炭素含有供給原料を含むものである。単一層カーボンナノチューブの製造方法の幾つかは、電気アーク、グラファイトのレーザー融解、担持及び非担持金属触媒を用いた気相技術を含む。
【0004】
担持金属触媒上でカーボンナノチューブを製造する方法は、「化学的蒸着法」又は「CVD」として知られている。この方法では、気体状炭素含有供給原料分子が、基体に担持されたナノメーター規模の粒子の触媒性金属上で反応して、カーボンナノチューブを生成する。この方法は、多層カーボンナノチューブを製造するために使用されているが、しかし、ある種の反応条件下では、この方法は優れた単一層カーボンナノチューブを製造できる。CVD法を用いた単一層カーボンナノチューブの合成は、ダイらの(1996年)Chem.Phys.Lett.,260,p.471〜475、及び2000年3月30日公開の「金属粒子からの単一層カーボンナノチューブの触媒的成長」という名称の国際特許公報WO00/17102A1に説明されており、それぞれを参考として本明細書に援用する。CVD法から得られる単一層カーボンナノチューブ材料は、単一層カーボンナノチューブ、残渣の触媒金属粒子、触媒担体材料、及びその他の異質炭素形態を含み、この異質炭素は、非晶質炭素、非チューブ状フラーレン、ある場合には多層カーボンナノチューブである可能性がある。用語「異質炭素」は、本明細書では、単一層カーボンナノチューブの形態ではない任意の炭素として用いられ、かつグラフェンシート、非チューブ状フラーレン、多層カーボンナノチューブ、部分ナノチューブ形態、非晶質炭素及びその他の不規則炭素を含むことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際特許公報WO00/17102A1
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】ダイら(1996年)Chem.Phys.Lett.,260,p.471〜475
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
単一層カーボンナノチューブの多くの最終用途では、最少量の触媒金属残渣、異質炭素及び触媒担体材料だけを含む高純度な単一層カーボンナノチューブを用いることが望ましい。単一層カーボンナノチューブを製造するための多くのCVD法は、相対的に低収率及び非経済性を欠点としている。高純度の単一層カーボンナノチューブを製造するために、一般的に単一層カーボンナノチューブのロスにつながるけれども、合成後に製品を精製するか、又は高生産性の触媒を用いて高められた収率の単一層カーボンナノチューブの製造方法を発見しなければならない。高収率、かつ経済的に効果的な、単一層カーボンナノチューブの製造方法に対するニーズが存在する。
【0008】
単一層カーボンナノチューブのある種の最終用途では、特殊な長さ分布をもつナノチューブを用いることが望ましい。例えば、単一層カーボンナノチューブを液体とブレンドする場合、ナノチューブの長さの分布が、液体/ナノチューブブレンドの粘度特性に影響を与える。ある種の最終用途では、特殊な分布の直径をもつことが望ましい。ナノチューブの長さ及び直径が特殊な分布である単一層カーボンナノチューブの製造方法が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のある実施形態は、最小の異質炭素を伴う単一層カーボンナノチューブを選択的に製造する高収率の触媒的方法で高品質の単一層カーボンナノチューブを急速成長させる方法を含む。一つの実施形態では、単一層カーボンナノチューブは、鉄(Fe)及びモリブデン(Mo)の触媒性金属、及び酸化マグネシウム(MgO)担体材料を含む触媒を供給することにより製造され、その際に触媒は、鉄、モリブデン及び酸化マグネシウムの前駆体を燃焼させることにより形成される。この触媒は、単一層カーボンナノチューブを含む炭素製品を製造するための十分な温度及び十分な接触時間で、気体状炭素含有供給原料と接触させられる。一つの実施形態では、鉄とモリブデンの重量比は、約2:1から約10:1の範囲であることがよい。別の実施形態では、鉄とモリブデンのモル比は、約3:1から約20:1の範囲である。更に別の実施形態では、酸化マグネシウム粒子上の金属の重量は、酸化マグネシウムの重量の約0.5重量%から約10重量%の範囲である。更に別の実施形態では、炭素含有供給原料は、炭化水素、好ましくはメタンである。別の実施形態では、単一層カーボンナノチューブ製造用の反応器内で、水素が、炭素含有供給原料及び触媒に添加される。この方法は、ナノチューブ製造後、酸を用いて触媒残渣を除去することを更に含む。触媒残渣を除去するための適切な酸は、塩酸、酢酸、硝酸及びクエン酸であり、塩酸が好ましい。
【0010】
本発明の別の実施形態では、単一層カーボンナノチューブは、コバルト及びモリブデンの触媒性金属、及び酸化マグネシウム担体材料を含む触媒であって、コバルト、モリブデン及び酸化マグネシウムの前駆体を燃焼させることにより形成された触媒を提供すること、触媒を硫化すること、単一層カーボンナノチューブを含む炭素製品を製造するための十分な温度及び十分な接触時間で、触媒と気体状炭素含有供給原料を接触させることにより製造される。
【0011】
本発明の別の実施形態では、単一層カーボンナノチューブは、第VIB族及び第VIIIB族からなる群からの少なくとも1種の金属を含む触媒性金属の触媒であって、触媒性金属の前駆体及び担体の前駆体を燃焼させることにより形成され、その際に担体前駆体がアルミナ、マグネシア、シリカ、ジルコニア及びそれらの組み合わせからなる群から選ばれた担体を生成して担持触媒を形成した触媒を提供すること、触媒を硫化すること、及び、単一層カーボンナノチューブを含む炭素製品を製造するための十分な温度及び十分な接触時間で、触媒と炭素含有供給原料を含む気体流を接触させることにより製造される。
【0012】
別の実施形態では、本発明は、触媒組成、触媒製造条件、ナノチューブ成長反応時間、ナノチューブ成長反応条件及びそれらの組み合わせを含む変動要素(但し、これに限定されない)を制御することにより、異なる長さ及び直径の単一層カーボンナノチューブを成長させる方法を提供する。
【0013】
別の実施形態では、単一層カーボンナノチューブは、複数の領域を有する反応器に導入される触媒及び炭素含有供給原料を含む気体流を用いて製造され、その際にそれぞれの領域の条件が制御可能であり、かつ触媒が気体流に分散可能である。別の実施形態では、触媒及び炭素含有供給原料を含む気体流が、異なる反応器を含む反応器系に導入される。この反応器は異なるタイプであってもよく、異なる条件下で操作可能であり、所望の特性を持った単一層カーボンナノチューブを製造できる。単一層カーボンナノチューブを製造する方法は、バッチ、半連続的又は連続的方式の作業で行うことができる。
【0014】
ある実施形態では、単一層カーボンナノチューブは、輸送反応器内で連続的方式の作業で製造できる。別の実施形態では、単一層カーボンナノチューブは、流動層反応器内で連続又は半連続的方式の作業で製造でき、この反応器は流動固定層又は流動連続層反応器、又は向流移動層反応器として形成される。任意の反応器で、特に流動層を含む反応器において、反応条件で供給原料に対して本質的に不活性である非触媒性の耐熱性材料の粒子を、反応器中の気体流に添加することができ、触媒の流動化及び分散、並びに触媒への熱移動及び触媒からの熱移動を促進する。このような耐熱性材料は、流動助剤、分散助剤、向流粒子又は本質的に不活性な粒子と呼ばれる。
【0015】
触媒及び分散助剤は輸送反応器で流動層を形成しないが、分散助剤は輸送反応器壁の洗浄又は清掃を促進することができる。触媒及び単一層カーボンナノチューブを含む炭素製品は、反応器壁に付着する傾向があり、このような材料の添加は、反応器壁上に触媒及び炭素製品の付着及び堆積を最小にする。その他の反応器の形態、流動層及び移動層反応器などでは、向流粒子及び本質的に不活性な粒子としても知られている流動助剤は、触媒及び炭素製品を反応器壁に付着させないばかりでなく、触媒及び付着した炭素製品を分散させる。このために、流動助剤は、触媒の自己凝集及びそれに関連する炭素製品の自己凝集を最小にする。
【0016】
本発明のある実施形態では、工業的な量の単一層カーボンナノチューブを製造するために規模可変の高処理方法で異質炭素を伴うことなく、単一層カーボンナノチューブが製造される。
【0017】
図1は、輸送反応器を用いる方法の工程系統図を示す。
【0018】
図2は、流動固定層反応器を用いる方法の工程系統図を示す。
【0019】
図3は、向流移動層反応器を用いる方法の工程系統図を示す。
【0020】
図4は、並流移動層反応器を用いる方法の工程系統図を示す。
【0021】
図5及び6は、実施例2に従って製造された単一層カーボンナノチューブの透過型電子顕微鏡写真(TEM)を示す。
【0022】
図7は、アズグロウン(as−grown)単一層カーボンナノチューブのラジアルブリージングモード(RBM)ラマンシフトを示す。
【0023】
図8は、アズグロウン単一層カーボンナノチューブのタンジェンシャルG及びD帯域のラマンシフトを示す。励起は782nmダイオードレーザーによって行われた。
【0024】
図9は、実施例3のナノチューブ成長温度に対する炭素収率及びラマン(G/D)ピーク強度比のプロットを示す。ラマン励起は782nmダイオードレーザーによって行われた。
【0025】
図10は、550℃で燃焼させた触媒を用いて製造した単一層カーボンナノチューブのRBMラマンシフトを示す。励起は782nmダイオードレーザーによって行われた。
【0026】
図11Aは、実施例4に従って1秒のメタン注入から製造された単一層カーボンナノチューブのRBMラマンシフトを示す。ラマン励起は782nmダイオードレーザーによって行われた。
【0027】
図11Bは、実施例4に従って10秒のメタン注入から製造された単一層カーボンナノチューブのRBMラマンシフトを示す。ラマン励起は782nmダイオードレーザーによって行われた。
【0028】
図11Cは、実施例4に従って20秒のメタン注入から製造された単一層カーボンナノチューブのRBMラマンシフトを示す。ラマン励起は782nmダイオードレーザーによって行われた。
【0029】
図11Dは、実施例4に従って60秒のメタン注入から製造された単一層カーボンナノチューブのRBMラマンシフトを示す。ラマン励起は782nmダイオードレーザーによって行われた。
【0030】
図12Aは、実施例4に従って1秒のメタン注入から製造された単一層カーボンナノチューブのタンジェンシャルモードラマンシフトを示す。ラマン励起は782nmダイオードレーザーによって行われた。
【0031】
図12Bは、実施例4に従って10秒のメタン注入から製造された単一層カーボンナノチューブのタンジェンシャルモードラマンシフトを示す。ラマン励起は782nmダイオードレーザーによって行われた。
【0032】
図12Cは、実施例4に従って20秒のメタン注入から製造された単一層カーボンナノチューブのタンジェンシャルモードラマンシフトを示す。ラマン励起は782nmダイオードレーザーによって行われた。
【0033】
図12Dは、実施例4に従って60秒のメタン注入から製造された単一層カーボンナノチューブのタンジェンシャルモードラマンシフトを示す。ラマン励起は782nmダイオードレーザーによって行われた。
【0034】
図13は、実施例10に従って製造された単一層カーボンナノチューブのTEMを示す。
【0035】
図14は、実施例11に従って製造されたアズプロデュースド(as−produced)単一層カーボンナノチューブの走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す。
【0036】
図15は、実施例11に従って製造された精製単一層カーボンナノチューブのSEM画像を示す。
【0037】
図16は、実施例11に従って製造された精製単一層カーボンナノチューブのTEM画像を示す。
【0038】
図17Aは、実施例13の方法により製造されたアズグロウンSWNT(単一層カーボンナノチューブ)のRBMシフトのラマンスペクトルを示す。成長温度は900℃であり、励起波長は514nmであった。
【0039】
図17Bは、実施例13の方法により製造されたアズグロウンSWNTのタンジェンシャルモードシフトのラマンスペクトルを示す。成長温度は900℃であり、励起波長は514nmであった。
【0040】
図18Aは、実施例14の方法により製造されたアズグロウンSWNTのRBMシフトのラマンスペクトルを示す。成長温度は850℃であり、励起波長は782nmであった。
【0041】
図18Bは、実施例14の方法により製造されたアズグロウンSWNTのタンジェンシャルモードシフトのラマンスペクトルを示す。成長温度は850℃であり、励起波長は782nmであった。
【0042】
図19は、実施例18に従って行われた反応の反応温度プロフィールを示す。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】輸送反応器を用いる方法の工程系統を示す説明図である。
【図2】流動固定層反応器を用いる方法の工程系統を示す説明図である。
【図3】向流移動層反応器を用いる方法の工程系統を示す説明図である。
【図4】並流移動層反応器を用いる方法の工程系統を示す説明図である。
【図5】実施例2で製造された単一層カーボンナノチューブの透過型電子顕微鏡写真(TEM)を示す説明図である。
【図6】実施例2で製造された単一層カーボンナノチューブの透過型電子顕微鏡写真(TEM)を示す説明図である。
【図7】アズグロウン単一層カーボンナノチューブのためのラジアルブリージングモード(RBM)ラマンシフトを示す説明図である。
【図8】アズグロウン単一層カーボンナノチューブのタンジェンシャルG、D帯域のラマンシフトを示す説明図である。
【図9】実施例3のナノチューブ成長温度に対する炭素収率及びラマン(G/D)ピーク強度比のプロットを示す説明図である。
【図10】550℃で燃焼させた触媒を用いて製造した単一層カーボンナノチューブのRBMラマンシフトを示す説明図である。
【図11A】実施例4に従って1秒のメタン注入から製造された単一層カーボンナノチューブのRBMラマンシフトを示す説明図である。
【図11B】実施例4に従って10秒のメタン注入から製造された単一層カーボンナノチューブのRBMラマンシフトを示す説明図である。
【図11C】実施例4に従って20秒のメタン注入から製造された単一層カーボンナノチューブのRBMラマンシフトを示す説明図である。
【図11D】実施例4に従って60秒のメタン注入から製造された単一層カーボンナノチューブのRBMラマンシフトを示す説明図である。
【図12A】実施例4に従って1秒のメタン注入から製造された単一層カーボンナノチューブのタンジェンシャルモードラマンシフトを示す説明図である。
【図12B】実施例4に従って10秒のメタン注入から製造された単一層カーボンナノチューブのタンジェンシャルモードラマンシフトを示す説明図である。
【図12C】実施例4に従って20秒のメタン注入から製造された単一層カーボンナノチューブのタンジェンシャルモードラマンシフトを示す説明図である。
【図12D】実施例4に従って60秒のメタン注入から製造された単一層カーボンナノチューブのタンジェンシャルモードラマンシフトを示説明図である。
【図13】実施例10に従って製造された単一層カーボンナノチューブのTEMを示す説明図である。
【図14】実施例11に従って製造されたアズプロデュースド単一層カーボンナノチューブの走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す説明図である。
【図15】実施例11に従って製造された精製単一層カーボンナノチューブのSEM画像を示す説明図である。
【図16】実施例11に従って製造された精製単一層カーボンナノチューブのTEM画像を示す説明図である。
【図17A】実施例13の方法により製造されたアズグロウンSWNTのRBMシフトのラマンスペクトルを示す説明図である。
【図17B】実施例13の方法により製造されたアズグロウンSWNTのタンジェンシャルモードシフトのラマンスペクトルを示す説明図である。
【図18A】実施例14の方法により製造されたアズグロウンSWNTのRBMシフトのラマンスペクトルを示す説明図である。
【図18B】実施例14の方法により製造されたアズグロウンSWNTのタンジェンシャルモードシフトのラマンスペクトルを示す説明図である。
【図19】実施例18に従って行われた反応の反応温度プロフィールを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
本発明は、生成する異質炭素が最少量であって、単一層カーボンナノチューブを選択的に製造する、高収率、経済的に効果的なCVD法により、高品質な単一層カーボンナノチューブを急速成長させる方法を提供する。
【0045】
以下の定義が当てはまるであろう。
【0046】
「触媒」は、触媒性金属、触媒性金属の化合物、担体材料などの触媒系を作り上げる全ての成分、及び実施形態に包含することができる任意のその他の成分及び/又は処理を含む完全な触媒系を意味するであろう。この用語「触媒」及び「担持触媒」は、本出願では同一の意味をもつものである。
【0047】
「触媒性金属」、「触媒金属」又は「金属触媒」は、炭素含有供給原料からカーボンナノチューブの生成反応に触媒作用を及ぼす遷移金属を意味するであろう。触媒性金属は、触媒の要素である。
【0048】
「担体材料」は、単一層カーボンナノチューブ製造のための反応温度および条件に耐えることができる材料である。担体材料は、触媒の要素であり、触媒性金属が滞留するための表面を提供する。
【0049】
「流動助剤」、「分散助剤」及び「向流粒子」は、粒子形態をした本質的に不活性、耐熱性の材料であり、この材料は反応器の構成中で触媒の分散に役立ち、ナノチューブ合成反応のために熱移動剤及び温度安定剤として作用する。流動助剤、分散助剤及び向流粒子は、壁スクラバー又は洗浄助剤として機能して、触媒、カーボンナノチューブ製品及びそれらの組み合わせを含む材料が反応器壁に付着又は堆積することを最小量にするか、又はそれを阻止することができる。
【0050】
ある実施形態では、単一層カーボンナノチューブは、鉄(Fe)及びモリブデン(Mo)の触媒性金属、及び酸化マグネシウム(MgO)担体材料を含む触媒であって、鉄、モリブデン及び酸化マグネシウムの前駆体を燃焼させることにより形成される触媒を提供すること、及び、単一層カーボンナノチューブを含む炭素製品を製造するための十分な温度及び十分な接触時間で、触媒と気体状炭素含有供給材料を接触させることにより製造される。
【0051】
ある実施形態では、担持触媒は、燃焼温度に耐えられる容器内で鉄、モリブデン及び酸化マグネシウムの前駆体を結合させることにより製造される。燃焼により酸化鉄になり得る任意の鉄化合物が、適切な鉄前駆体である。適切な鉄前駆体の例には、硝酸鉄(III)、亜硫酸鉄、硫酸鉄、炭酸鉄、酢酸鉄、クエン酸鉄、グルコン酸鉄、ヘキサシアノフェライト酸鉄、シュウ酸鉄、硫酸トリス(エチレンジアミン)鉄があるが、これに限定されない。一般的には、高い水溶解度の鉄塩が好ましい。水和硝酸鉄(III)が好ましい鉄前駆体である。燃焼により酸化モリブデンになり得る任意のモリブデン化合物が適切なモリブデン前駆体である。モリブデンのための適切な前駆体の例には、ヘプタモリブデン酸アンモニウム四水和物がある。一般的には、高い水溶解度のモリブデン塩が好ましい。燃焼により酸化マグネシウムになり得る任意のマグネシウム化合物が、適切な酸化マグネシウム前駆体である。適切な酸化マグネシウム前駆体の例には、硝酸マグネシウムがある。それぞれの前駆体の量は、鉄:モリブデンの重量比が約2:1から約10:1の範囲に、好ましくは約5:1から約10:1の範囲になるように決められる。重量又はモル基準のいずれかで、鉄の量がモリブデン量より大きいことが好ましい。モル基準の場合、それぞれの前駆体の量は、鉄:モリブデンのモル比が約3:1から約20:1の範囲になる
【0052】
酸化マグネシウム担体上の金属充填量は、単一層カーボンナノチューブの成長に主として役立つ範囲になるように選ばれる。本明細書では、金属充填量は、担体材料の総重量に対する金属の重量の百分率として表わされる。また、それぞれの前駆体の量は、燃焼中に形成される酸化マグネシウム上の金属の総重量が、酸化マグネシウム重量の約0.05重量%から約20重量%の範囲に、好ましくは酸化マグネシウム重量の約0.05重量%から約10重量%の範囲に、より好ましくは酸化マグネシウム重量の約0.05重量%から約5重量%の範囲になるように決められる。
【0053】
本発明の触媒製造法は、上に特定した元素の使用に限定されない。触媒担体は、単一層カーボンナノチューブの成長環境にある条件に耐え得る任意の金属酸化物であればよい。このような金属酸化物には、アルミナ(Al23)、シリカ(SiO2)、マグネシア(MgO)、ジルコニア(ZrO2)及びそれらの混合物があるが、これらに限定されない。触媒性金属は、第VIB族遷移金属(クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W))、第VIIIB族遷移金属(例えば鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)及びプラチナ(Pt))、ランタン系元素、及びアクチニウム系元素からの金属の1種又は組み合わせを含むことができる。
【0054】
本発明の別の実施形態では、単一層カーボンナノチューブを製造するための触媒は、コバルト及びモリブデンの触媒性金属、及び酸化マグネシウム担体材料を含むことができ、その際触媒はコバルト、モリブデン及び酸化マグネシウムの前駆体を燃焼させることにより形成される。
【0055】
本発明のある実施形態では、触媒組成物中の触媒性金属は、担体材料に化学的に組み入れられた金属酸化物として存在してもよい。これらの組成物は、時には固溶体と呼ばれ、その例にはFeMg(1-x)n(式中0<x<1、0<n<4)がある。
【0056】
燃焼前に触媒成分前駆体が組み合わされる。この成分前駆体がよく混合されることが好ましい。この混合は、成分を臼と乳棒を用いて磨砕すること及び成分を物理的に混合することなどの、任意の混合手段により行うことができる。別の混合方法は、前駆体を少量の水、好ましくは脱イオン水に溶解し、前駆体溶液を作成することにより行われる。燃焼時の発泡助剤として、クエン酸、尿素、グリシン、ヒドラジン、蔗糖、カルボヒドラジド、シュウ酸ジヒドラジド、糖、アルコール又はそれらの組み合わせを用いることができる。燃料とも呼ばれている発泡促進剤が、得られる触媒の表面積を増加させるために用いられる。水と混合する前又は後に、任意の発泡促進剤を触媒前駆体と混合することができる。触媒前駆体にシュウ酸を添加することが好ましい。前駆体及び任意の発泡促進剤を組み合わせ、かつ混合した後、この成分は、それぞれの触媒前駆体の燃焼温度以上の温度で燃焼させられる。一般的に、触媒前駆体の燃焼は、触媒前駆体を約150℃から約1,200℃の範囲の温度にさらすことにより行われる。典型的には、前駆体は、約200℃から約750℃の範囲、好ましくは約250℃から約650℃の範囲の燃焼温度にさらされる。燃焼は、酸化的環境、好ましくは空気などの酸素を含む大気中で行われる。燃焼時、触媒前駆体は急速に発泡し、低いかさ密度、高い表面積の固体を形成する。ある実施形態では、燃焼は、触媒前駆体成分の溶液を作成すること、及びこの触媒前駆体成分の溶液を加熱された炉内に載置することにより行うことができ、この際溶媒の蒸発により前駆体が乾燥し、その後に前駆体が燃焼する。別の実施形態では、触媒前駆体の溶液がスプレーされ、乾燥機、炉又はスプレー乾燥機などの加熱室内でエアロゾルを形成させる。このエアロゾルは、気体流動による霧化、ノズルを通して溶液の直接スプレー、静電スプレー、回転装置表面から溶液の分散及びそれらの組み合わせなどの任意のスプレー乾燥手段により作成することができる(それらの手段に限定するものではない)。別の実施形態では、触媒前駆体溶液を加熱された表面上に載置することにより燃焼され、その際その表面で溶媒が蒸発し、続いて触媒前駆体が燃焼し、得られた固体材料が表面から除去される。加熱表面上で行われるスケールアップした燃焼に有効な装置は、ポーキュパイン反応器、ドラムフレーカー、ワイプフィルム蒸発装置及び同様な処理装置を含む(それらの装置に限定するものではない)。燃焼後、固体製品を更に加熱することにより、完全燃焼及び金属塩の分解を確実にできる。一般的に、燃焼温度で約1時間が適切な時間である。燃焼後、概して低密度かつ高表面積を有する固体が冷却される。好ましくは、冷却は、乾燥窒素パージ又はデシケータにより提供されるような乾燥した不活性雰囲気中で行われる。冷却後、この固体は、粉砕により粉末にすることができる。粉砕は、例えば臼と乳棒、ボールミル、エアーミル、粉砕機及びそれらの組み合わせなどの粉砕手段を用いて行い、所望の粒子サイズ範囲とすることが可能である。通常、粉砕後の触媒は、約100ミクロンより小さい断面寸法を有する。触媒粒子の好適なサイズは、選ばれた反応器の構成により左右される。例えば、ある反応器の構成では、好適な触媒粒子サイズは、約30ミクロンより小さいであろう。一般的に、触媒のかさ密度は、約0.3g/m3より小さく、かつ好ましくは約0.1g/m3より小さい。
【0057】
このステージでは、触媒の触媒性金属は、酸化マグネシウム上で酸化鉄及び酸化モリブデンなどの酸化物の形態であると推測される。ある実施形態では、酸化物の形態の触媒は、硫黄含有化合物で処理することができる。この処理は、任意の硫黄含有化合物、好ましくは気体であるか又は気化することにより気体状で触媒と接触できる硫黄含有化合物を用いて行うことができる。適切な硫黄含有化合物の例には、チオフェン、硫化水素、メルカプタン及びそれらの組み合わせがある。チオフェンが、触媒を処理する適切な硫黄含有化合物である。触媒を硫黄含有化合物で処理するために、触媒を加熱でき、かつ硫黄含有化合物が触媒間を通過できる装置内に触媒が投入される。例えば、好適な装置は、石英管のような管状反応器であり、この反応器は管状炉内に垂直に据付けられ、かつ反応器は多孔質のフリットをもち、管状反応器の加熱された位置に触媒を配置する。反応器の底部に導入された気体は、反応器、フリット、触媒を通って上方に通過し、反応器の頭頂部から流出する。適切な気体流を用いることにより、触媒は上方へ流動する気体と共に流動化できる。ある実施形態では、酸化物形態の触媒は、触媒を反応器に充填し、触媒を含有する反応器を窒素又はアルゴンなどの不活性気体でパージし、反応器を約500℃のような温度に加熱し、反応器に導入する前の窒素又は不活性気体流をバブラー中のチオフェンなどの硫黄含有化合物中を通過させて、反応器に流入する窒素又は不活性気体が少なくとも少量の硫黄含有化合物を含有するようにして、硫黄含有化合物で処理される。硫黄含有化合物を含有する気体は、管状反応器に流入し、加熱された触媒中を通過する。触媒の硫黄処理は、約500℃のような適切な温度、例えば約10分間のような時間で行われる。
【0058】
代替の実施形態では、硫黄含有化合物が気体状供給原料を含む気体に添加されて、硫黄含有化合物/供給原料の混合物を形成することができ、引き続き、この混合物が、単一層カーボンナノチューブを製造する反応条件下の反応器に導入することができる。
【0059】
触媒性金属が酸化された形態である場合、酸化された触媒性金属は、還元剤を用いて還元により活性化できる(即ち、単一層カーボンナノチューブ形成反応の活性触媒サイトを提供する形態に変換される)。この還元は、触媒と単一層カーボンナノチューブ製造の炭素含有供給原料を接触させる前に、又は接触と並行して行うことができる。
【0060】
ある実施形態では、酸化された触媒性金属は、炭素含有供給原料をナノチューブ製造用の担持触媒に導入する前に還元される。酸化された形態の触媒性金属(硫黄処理をした、又はしていない)は、管状反応器などの反応器内で還元することができる。還元に先立って、触媒は、窒素又はアルゴンなどの不活性気体でパージすることができる。窒素又は不活性気体のパージ下で、反応温度は約500℃に上昇される。触媒性金属の還元は、水素気体、又は水素気体と窒素又は不活性気体との混合物などの還元剤を用いて行われる。触媒は、例えばアルゴン中の10%の水素混合物を用いて500℃で約10分間のような、触媒を活性化するための十分な時間で、還元剤を用いて処理することができる。還元時間と温度は、相反する関係にあって、高い還元温度は、より短時間で触媒性金属を還元するであろう。触媒を長い還元時間に又は高い温度にさらすことは、触媒性金属を大きな粒子に凝集させることがあり、これがナノチューブ製造時に多層カーボンナノチューブの形成に触媒作用を及ぼすかもしれない。
【0061】
別の実施形態では、ナノチューブを製造するために炭素含有供給原料を触媒に導入する時に、触媒性金属酸化物が還元されて、触媒を活性化する。このような場合、触媒が反応器に充填され、窒素又はアルゴンなどの不活性気体でパージされる。窒素又は不活性気体パージ下で、温度は、単一層カーボンナノチューブが生成できる温度まで上昇する。典型的には、単一層カーボンナノチューブ形成の温度は、約500℃から約1,500℃の範囲である。本発明の触媒では、温度は、より典型的には約650℃から約950℃の範囲、かつより典型的には約800℃から約950℃の範囲である。いったんナノチューブ形成温度に到達すれば、気体状炭素含有供給原料が触媒に導入される。適切な炭素含有供給原料気体には、メタン、炭化水素、アルコール、一酸化炭素及びそれらの組み合わせがあるが、これに限定するものではない。好ましくは、気体状炭素含有供給原料はメタンを含む。高められた温度で、触媒への気体状炭素含有供給原料の導入は、触媒性金属を還元でき、かつ触媒を活性化できる。また、気体状炭素含有供給原料と水素を混合した後に、これを触媒に導入してもよい。好ましくは、気体状炭素含有供給原料はメタン及び水素を含む。
【0062】
触媒を製造するその他の方法には、担体材料上に金属含有化合物を浸み込ませるための初期的湿潤、及び金属含有化合物と担体材料又は担体材料前駆体との共沈殿があるが、これに限定するものではない。担体材料は、単一層カーボンナノチューブ合成に要求される高められた温度に耐えられるように選ばれる。酸化マグネシウムは、低コスト、製造容易、気体流で搬送容易、カーボンナノチューブ製品から除去容易であるために、好ましい担体材料である。
【0063】
本発明の触媒は、周囲の空気から二酸化炭素及び水分などの気体を吸収できる。暴露時間及び条件に応じて、触媒重量は、100℃から200℃のような温和な温度で脱着できるような吸着された種により、約8%まで増加する可能性がある。ある実施形態では、触媒担体は空気と反応することができ、担体の一部を水酸化化合物に転換できる。このように吸着された材料及び化学的に変性された担体は、単一層カーボンナノチューブの成長工程を妨げることが可能である。例えば、水の脱着又は水酸化物の分解から生ずる水蒸気は、高められた温度で炭素と反応するので、水蒸気は、生成したカーボンナノチューブと反応し、それを分解することがある。このように、本発明のある実施形態では、触媒は、窒素又はアルゴンなどの乾燥した不活性雰囲気に保持された後に、単一層カーボンナノチューブの製造に使用される。別の実施形態では、触媒は、窒素又はアルゴンなどの乾燥した不活性雰囲気中で乾燥された後に、単一層カーボンナノチューブの製造に使用される。800℃の温度が、触媒から殆どの吸着種を除去するために適している。
【0064】
触媒を製造した後、触媒は、単一層カーボンナノチューブを含む炭素製品を製造するための十分な温度かつ十分な時間で、炭素含有供給原料を含む気体流と接触させられる。ある実施形態では、気体流は水素を含む。別の実施形態では、単一層カーボンナノチューブを成長させるための接触時間は、約0.1秒から約60分の範囲、好ましくは約0.1秒から約30分の範囲である。30分より小さい時間などのより短い時間は、単一層カーボンナノチューブの大規模生産により役立ち、例えば単一層カーボンナノチューブを成長させるために約10秒から約10分の範囲の接触時間を用いる。接触時間を変更することにより、単一層カーボンナノチューブは、異なる長さに成長させられる。また、接触時間及び温度は、成長した単一層カーボンナノチューブの直径に影響を与えることができる。触媒上の単一層カーボンナノチューブの成長速度は、数ある因子の中でも、供給原料の種類、濃度および温度に依存する。特定の成長速度に適した条件下で成長した単一層カーボンナノチューブの物理的長さは、これらの条件の持続時間に依存する。成長条件への短時間の暴露は、長時間の暴露で製造されたものに比べて物理的により短いナノチューブを生成するであろう。本発明では、炭素製品中の単一層カーボンナノチューブの異なる長さの分布は、担持触媒を異なる長さの時間で成長条件に暴露することによって製造される。
【0065】
加えて、接触時間、反応温度、並びに活性触媒が反応器内で接触させられる気体の組成及び圧力が、形成される単一層カーボンナノチューブの直径分布、並びに反応器内で製造される単一層カーボンナノチューブ及び異質炭素の相対量を決める。反応器内の炭素含有供給原料及び水素などのその他の気体の相対量が、単一層カーボンナノチューブ製品に影響を及ぼすことがある。例えば、炭素含有供給原料中のより多い水素は、製品中の異質炭素の量を低減させる。理論に制約されることなく、カーボンナノチューブ形成の力学は、カーボンナノチューブを形成するために炭素供給原料を触媒に供給する濃度及び速度に依存するように思われる。供給原料を供給する濃度及び速度が大きい場合、無定形炭素の形成は、単一層カーボンナノチューブの形成より多くなると思われる。加えて、単一層カーボンナノチューブ形成速度は、ナノチューブ構造中の欠陥水準と相互に関係があるように思われる。例えば、低速度の形成は、単一層カーボンナノチューブ構造中の欠陥の低水準と関係する。条件が高速度の形成に好都合である場合、ナノチューブは、より多い構造的欠陥を有する傾向がある。単一層カーボンナノチューブ形成速度は、気体状供給原料の温度及び分圧に主に依存する。この分圧は、ある程度までは、反応器に供給される窒素又は不活性気体などの希釈剤の量を調節することにより調節できる。また、きわめて低濃度の酸素、水蒸気及び二酸化炭素などの酸化剤の添加は、反応速度の緩和に役立ち、かつ異質炭素の生成を最小にする。しかし、反応器の水素分圧の調節は、単一層カーボンナノチューブの核形成及び成長速度、及び異質炭素の形成速度の制御を確立するのに特に効果がある。
【0066】
次に、ナノチューブの核形成工程の変更は、この工程で形成される単一層カーボンナノチューブの直径分布を修正する。反応工程中に変更可能な速度で水素又はその他の気体を添加すること、又は反応器の異なる場所にこのような気体を添加することは、単一層カーボンナノチューブ及び非晶質炭素の相対量を更に調節でき、かつ製造された単一層カーボンナノチューブの直径分布を調節できる。
【0067】
なお別の実施形態では、製造されたナノチューブの直径分布が、ナノチューブ成長の開始(又は核形成)期間の条件により支配される。これらの条件には、核形成時間、温度、供給原料気体の組成、単一層カーボンナノチューブの核形成が起きる領域の圧力及び反応装置の構成があるが、これに限定されるものではない。ナノチューブ成長から独立した条件下で行われた触媒性金属上のナノチューブの核形成は、ナノチューブ直径を大きく制御する。
【0068】
触媒の活性化及び単一層カーボンナノチューブの核形成及び成長のための、触媒と気体又は気体混合物の接触は、約0.1気圧から約200気圧の範囲の気体圧力で行うことができる。それぞれの工程は、同一又は異なる圧力で行うことができる。触媒と炭素含有供給原料を含む気体流を接触させ、かつ大量の単一層カーボンナノチューブが形成された後に、気体状炭素含有供給原料が停止され、反応器が窒素又は不活性気体のパージで冷却可能である。続いて、触媒上の炭素製品が反応器から除去される。単一層カーボンナノチューブ製品が触媒表面に主として生成し、多くの最終用途ではナノチューブ製品から残留触媒を除去することが多くの場合望ましい。担体材料としては、MgOが特に望ましい。その理由は、MgOが少量の異質炭素を生成するに過ぎないばかりでなく、MgOが温和な酸処理により製造した最終ナノチューブ製品から容易に除去できるからである。酸化マグネシウム及び触媒金属を含み反応工程後に残留する触媒は、単一層カーボンナノチューブ及び残留触媒を含む炭素製品と、クエン酸、酢酸、硝酸、硫酸、塩酸、フッ化水素酸及びそれらの組み合わせなど(これらに限定されない)の酸とを混合し、処理することにより除去できる。酸化マグネシウム及び多くの触媒性金属の除去に、適度の濃度のこれらの酸が効果的である。その他の強い酸は、希釈を高くして使用できる。適切な酸は、20重量%のクエン酸などのクエン酸であり、硝酸及び塩酸であり、その中で塩酸が好ましい。
【0069】
酸と混合して酸化マグネシウム及び触媒性金属を除去した後、炭素製品が繰返し水で洗浄される。洗浄後、精製した単一層カーボンナノチューブ製品が乾燥される。本発明の単一層カーボンナノチューブの製造方法は、異質炭素を殆んど生成しない。ある実施形態では、製品中の炭素の少なくとも約50%が単一層カーボンナノチューブである。別の実施形態では、製品中の炭素の少なくとも約80%が単一層カーボンナノチューブである。更に別の実施形態では、製品中の炭素の少なくとも約90%が単一層カーボンナノチューブである。更に別の実施形態では、製品中の炭素の少なくとも約95%が単一層カーボンナノチューブである。
【0070】
ナノチューブのための或る用途では、単一層カーボンナノチューブ製品の更なる精製を必要とする。更なる精製は、任意の知られた方法により行うことができる。カーボンナノチューブの精製方法は、国際特許公報「単一層カーボンナノチューブの精製方法及びそれらの組成」という名称の2002年8月22日公表のWO02/064,869、及び「単一層カーボンナノチューブを精製するための気相法及びそれらの組成」という名称の2002年8月22日公表のWO02/064,868に述べられており、これらの全文を本明細書に参考として援用する。ある実施形態では、ナノチューブは、水蒸気で飽和された空気中250℃で加熱することにより精製される。この加熱は、非ナノチューブ炭素の少なくとも一部を酸化するような長さの時間で行われ、かつ金属不純物をある程度まで酸化するかもしれない。この酸化温度は、200℃から約400℃の範囲、好ましくは約200℃から約300℃である。酸化は、任意の気体状酸化性環境中で行うことができ、この環境は酸素、空気、二酸化炭素、水蒸気及びそれらの組み合わせなどの酸化性気体を含むことができる。酸化温度の選択は、個別の酸化性気体及びその濃度に依存する。水蒸気及び二酸化炭素を用いた酸化処理のための温度範囲は、約200℃から約1,200℃でよい。酸化性気体の濃度は、この気体を窒素、アルゴンなどの不活性気体又はそれらの組み合わせなどの、単一層カーボンナノチューブと反応しない任意の気体とブレンドすることにより調節かつ制御できる。酸化工程の時間は、数分から数日であり、酸化剤、その濃度及び酸化温度(これらに限定されない)を含む変動要因に依存する。酸化性環境でナノチューブを加熱した後、単一層カーボンナノチューブを含む残存した材料を酸で処理して金属不純物を除去し、ナノチューブの酸スラリーを作成する。酸は、鉱酸、有機酸又はそれらの組み合わせが使用できる。処理のために使用でき、ナノチューブをスラリー化できる酸の例には、塩酸、フッ化水素酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、発煙硫酸、硝酸、クエン酸、シュウ酸、クロロスルホン酸リン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、氷酢酸、一塩基性有機酸、二塩基性有機酸又はそれらの組み合わせがあるが、これらに限定するものではない。用いる酸は、純粋な酸でもよく、又は水性及び/又は有機溶媒などの液体媒体で希釈することができる。一般的に、水性溶媒が好ましい。濃縮された塩酸水溶液が、金属不純物の除去に好適である。酸処理後、酸及び不純物がリンスされてナノチューブから除去される。このナノチューブは、水、有機溶媒又はそれらの組み合わせでリンスすることができ、かつ乾燥される。乾燥は、熱を適用し又は適用せずに、真空中、又は窒素又はアルゴンなどの不活性気体(これに限定しない)のような乾燥気体雰囲気中で行うことができる。
【0071】
担持触媒を用いた単一層カーボンナノチューブの製造方法の多くは、低生産能力を欠点として持っている。その理由は、工程がバッチ法であり、担持触媒のバッチが成長環境に挿入され、ナノチューブが成長し、担持触媒上のナノチューブのバッチが成長環境から除去されるためである。一般的に、連続又は半連続式の作業が高い処理能力を提供でき、かつ工業的規模の操業に利用できる方法を提供できる。
【0072】
本発明の単一層カーボンナノチューブの製造方法はバッチ式操業でも製造できるが、この方法は、半連続式又は連続式操業でも実施可能である。この連続式及び半連続式操業は、炭素含有供給原料を含む気体流中に触媒を分散すること、適切な温度及び適切な長さの時間で触媒上に単一層カーボンナノチューブを作成すること、及び気体流からナノチューブ製品を除去することを包含する。
【0073】
本発明のある実施形態では、単一層カーボンナノチューブを成長させるための触媒は、反応器を通過する輸送に適する範囲、典型的には直径で約1ミクロンから約1,000ミクロンの範囲の粒子サイズを有する。次に、この触媒は、触媒が反応器を通って搬送されるように反応器内で用いられる。反応器は、種々の領域を含み、この領域は異なる反応条件に維持され、それぞれはナノチューブの開始及び成長の異なるステージに対して個別に最適化されている。反応条件の例には、反応時間、温度、圧力及び反応器内の気体成分の濃度があるが、これらに限定されない。単一層カーボンナノチューブの製造は、多段階法であって、例えば、触媒活性化のための触媒性金属の還元、ナノチューブ成長の開始、ナノチューブ成長の継続を含むことができる故、反応器が異なる領域をもち、触媒がある反応領域から別の領域に搬送又は輸送されることが望ましい。複数の領域をもつ反応器では、反応温度及び気体組成は反応器の領域内で調節できる。例えば、供給原料気体又は水素などのその他の気体、触媒及び/又は熱が、反応器のそれぞれの領域で、連続して又はオンデマンドに加えられることが可能である。
【0074】
触媒の反応器内滞留時間、即ち触媒が反応器を通って1つ又はそれ以上の異なる反応条件にさらされる時間の長さは、数ある変動要素の中で、反応器を通る気体の流速及び反応器の構成を調整することにより制御できる。製造される単一層カーボンナノチューブ製品の特性は、数ある変動要素の中で、反応器内での触媒の滞留時間、温度プロフィール、及び炭素含有供給原料を含む気体流の組成を調整することにより制御される。製品特性には、異質炭素及び単一層カーボンナノチューブの相対量、及びナノチューブの長さ及び直径があるが、これらに限定されない。
【0075】
反応器を通って触媒の輸送は、規模可変の、ナノチューブ大量生産法を提供する。その際、触媒は反応器系のある点に連続的に導入され、単一層カーボンナノチューブを含む製品は別の点で連続的に除去される。単一層カーボンナノチューブのCVD生産のための連続方式は、触媒形成区画、反応区画、単独プラントに互いに連結した後処理区画を含む生産プラント内で行うことができる。後処理区画の後で、製品の酸化処理、触媒担体及び触媒性金属残渣の除去、ナノチューブの化学的変性、ナノチューブの物理的変性、ナノチューブとその他の材料とのブレンド又は混合、及びそれらの組み合わせ(これに限定されない)などの製品に対するその他の変性を行うことができる。
【0076】
触媒は、スクリュー又はコンベヤーなどの機械的手段により、単一層カーボンナノチューブを製造するための反応器を通って輸送することができるが、しかし、炭素含有供給原料を含む気体流に巻込むことが輸送の好ましい手段である。気体流中に巻き込んで触媒を輸送するためには、触媒粒子は、反応器内の気体流中で輸送できるよう十分に微細分散された粒子サイズに製造される。この触媒は、反応器の1つの点に導入され、多くの領域を通って搬送される。少なくとも1つの領域は、単一層ナノチューブの成長のための反応条件を提供するであろう。その他の領域は、単一層カーボンナノチューブの成長が開始される核形成領域、その他のナノチューブ成長領域、及び製品が未反応供給原料、副生気体及び反応器を流出する輸送気体を含む気体流から除去される回収領域の1つ又は組み合わせを含むことができる。気体流からの炭素製品の除去は、反応器を流出する気体流を透過できるフィルター上に製品を集めることにより行うことができる。また、製品は、サイクロン、湿式スクラバー、静電集塵装置、バッグ収集、及びそれらの組み合わせ(これに限定されない)などのその他の固気分離手段により、反応器を流出する気体流から除去できる。
【0077】
本発明のある実施形態では、触媒粒子のサイズは、単一層カーボンナノチューブを効果的に成長させるよう、流動気体に巻込まれ易くするように選ばれる。或る反応器の設計では、触媒粒子は、断面寸法で約100ミクロンより小さく、それ以外のものでは、断面寸法で約30ミクロンより小さい。ある種の反応条件の場合、最適サイズの粒子は、流動層又は流動懸濁などの効果的な反応器操作に十分なサイズになるよう、小さい粒子を凝集させることにより製造することができる。粒子の凝集は、物理的凝集、圧縮、ペレット化、押出成形及びそれらの組み合わせなどの種々の手段により行うことができる。粒子の凝集は、酸化物が触媒担体となるような金属の水酸化物などのバインダー材料を用いて又は用いないで行うことができる。
【0078】
本発明のある実施形態では、気体状炭素含有供給材料を含む気体流は、複数の領域又は反応器の区画を通って触媒を輸送するが、その際それぞれの領域は、単一層カーボンナノチューブ製造の条件を調整するための制御部を持っている。別の実施形態では、場合により、本質的に不活性な非触媒性耐熱性粒子が反応器に加えられる。これらの非触媒性粒子は、流動気体中で触媒がより均一に分散させるために供給され、触媒の流動に対して妨害のない通路を維持し、触媒及びナノチューブ製品の反応器壁への付着堆積を最小にし、熱安定性を提供し(即ち、吸熱又は発熱反応に対してそれぞれ蓄熱体又は吸熱体を供給する)、かつ触媒と反応器壁間で熱の移動を容易にすることができる。このような本質的に不活性な非触媒性粒子のための材料の例には、砂、石英、セラミック、金属酸化物、カーバイド、シリカ、シリサイド、担体材料、及び反応器の口径を通して触媒の均一分散を概して容易化するその他の材料があるが、これらに限定するものではない。反応器の圧力、流路長及び方向は、単一層カーボンナノチューブの製造を最適化するために変更可能である。適切な反応器圧力は、約0.1から約200気圧の範囲であり、かつ適切な流路長は、約1から約1,000フィート(約30から約30480cm)の範囲である。反応器が垂直に配置されることが好ましい。
【0079】
ある実施形態では、図1に図示されるように、単一層カーボンナノチューブが輸送反応器内で連続式で操業される。この実施形態では、輸送気体101の供給が行われる。この輸送気体は、キャリヤー気体とも呼ばれ、典型的には窒素、又はアルゴンなどの不活性気体を含み、かつ場合によっては、水素及び/又は供給原料気体を含む。輸送気体101は、触媒の一部を巻込んで触媒/輸送気体混合物を形成する。この気体混合物は、触媒/輸送気体加熱区画103内で予熱されて、加熱された輸送反応器105の温度に概ね達する。気体状炭素含有供給原料111の分離流が供給され、かつ供給原料加熱区画112内で予熱されて、輸送反応器105の温度に概ね達する。この加熱された触媒/輸送気体混合物及び加熱された気体状炭素含有供給原料は、触媒上で炭素含有供給原料から単一層カーボンナノチューブを形成するための十分な温度に加熱されている輸送反応器105に供給される。輸送反応器を通る流れは、通常プラグ流である。反応器は多数の領域をもっていてもよく、それぞれの領域は温度、圧力及び供給原料組成など(これに限定されない)の異なる一連の反応条件を維持することができる。反応器105内の供給原料組成を調整するために、反応器は、より多くの炭素含有供給原料、水素又はそれらの組み合わせを導入するために、反応器の全長に沿って注入口を有することができる。反応器内の滞留時間は、総気体流速、輸送反応器105の直径及び長さにより決まる。輸送反応器105内で十分な時間を経た後、反応器から流出する組成物107は、用いた触媒上の固体ナノチューブ製品、いくらかの未反応気体状供給原料及び輸送気体を含む。反応器から流出する組成物107は、ナノチューブ回収領域(図示せず)に注がれ、そこで、用いた触媒及び非ナノチューブ炭素が、単一層カーボンナノチューブから分離される。この反応器は、固気分離装置、開放区画、湿式スクラバー、サイクロン、静電集塵装置、ろ過組立装置、又はそれらの組み合わせを更に含むことができる。所望により、最終用途のために、単一層カーボンナノチューブの更なる精製を行ってもよい。
【0080】
別の実施形態では、この触媒は、例えば流動層反応器などの流動化を通して反応器の複数の区画で、上昇流動気体中に懸濁又は流動化されてもよい。この触媒粒子サイズは、触媒の流動化を容易にするように選ばれ、かつ通常は約30ミクロンから約1,000ミクロンの断面寸法である。流動層における触媒の流動化、懸濁及び保持は、任意選択的な流動助剤の導入により容易となり得る。この流動助剤は、本質的に不活性な非触媒性耐熱性粒子の形態であり、通常は触媒粒子より高い濃度であり、流動層反応器内の気体流中で流動化できる。「本質的に不活性な」は、この材料が、単一層カーボンナノチューブ製造のための反応条件で、概して供給原料と非反応性であることを意味している。本質的に不活性な非触媒性粒子は、触媒担体と同一材料であってもよく、又は砂、石英ビーズ、セラミックビーズ、金属酸化物、カーバイド、シリカ、シリサイド、別の耐熱性材料又はそれらの組み合わせなどの異なる材料であってもよい。本明細書では「流動助剤」とも呼ばれる、これらの本質的に不活性な粒子は、流動層反応器の複数の領域で流動化可能であり、かつ反応器内の条件に耐えることができる。触媒自体は、流動助剤の存在下で又は不在下で流動化できるが、しかし、一般的に、触媒が非常に軽く、非常に低密度であるから、流動助剤の存在は好ましい。流動助剤自体は、気体流中で流動層の形成に役立ち、流動層中での触媒の均一分散を促進する。流動助剤は、吸熱体又は蓄熱体として働くことにより反応の一定温度維持を助長し、発熱又は吸熱反応に対して温度の安定を維持し、かつ反応器壁と共に熱伝達剤として働く。また、流動助剤は、反応器壁に付着及び堆積しかねない触媒及びナノチューブ製品から反応器壁を清浄に保つことにより反応器壁スクラバーとして作用する。一般的に、好ましい流動助剤は、反応器内で流動する時に磨砕に耐えられるものである。
【0081】
ある実施形態では、流動助剤が流動層機構で用いられ、触媒粒子が反応器の底部近くに導入され、流動助剤を含む流動層に移動し、そこで触媒粒子はよく分散される。この実施形態で、触媒により占められる実容積は、流動助剤により占められる実容積より小さい。流動助剤と触媒の容積比は、約1,000:1から約1:1(流動助剤容積:触媒容積)である。触媒と流動助剤の相対量に応じて、触媒は流動助剤を通って移行して、流動助剤層の上部に分離層を形成できる。流動助剤内における触媒の滞留時間は、触媒に反応環境を与え、その際温度は均一になり、かつ触媒は、流動助剤により提供される蓄熱体又は吸熱体と緊密に接触する。流動助剤との熱的接触は、高い発熱性または吸熱性であり得る単一層カーボンナノチューブの合成反応工程を良好に制御する助けになる。反応温度が維持されない場合、単一層カーボンナノチューブを形成する反応は影響を受けるであろう。このように、安定な反応条件の維持は、触媒が直接接触する環境と良好な熱的接触状態にあることを必要とする。反応器壁と直接接触する流動助剤は、壁と熱交換を行い、かつ流動助剤は、その熱を反応している触媒に伝達するか、又は触媒から伝達されるであろう。流動助剤と触媒間の熱伝達は、触媒が流動助剤と混合される場所で起こり、かつまた、形成するかもしれない触媒と流動助剤の任意の個別の流動層の界面で起こる。一定量の触媒では、この実施形態は、反応器壁と触媒間の熱伝達を実質的に高める。多くの場合、流動助剤を含む流動層の壁接触面積が、触媒単独層の壁接触面積より大きい(この実施形態の触媒:流動助剤の比率のために)ので、この高められた熱伝達が得られる。この壁面積は、反応している触媒と反応器壁間の熱伝達速度を決める主要な因子である。更に、壁と相互作用する触媒の熱伝達特性を超える熱伝達特性をもつように、流動助剤を選ぶことができる。加えて、熱は、反応器を通って流動する気体と接触することにより、流動助剤に伝達されるか、又は流動助剤から伝達される。触媒と流動助剤間の直接的接触を通して、気体からの熱が、反応している触媒に伝達され又は反応している触媒から伝達され、更にその温度を安定化させる。反応器を通って流動する気体と触媒間の熱伝達は、触媒自体が流動助剤の不在下で接触するよりも、流動する気体とより良く接触するように、触媒をよい分散状態に維持している流動助剤の作用により更に高められる。熱伝達剤及び熱伝達改良剤としての流動助剤の温度制御の役割は、高度に発熱性または吸熱性である単一層カーボンナノチューブ生成反応にとって特に重要である。
【0082】
ある実施形態では、触媒は個別の還元性環境に委ねられ、その際、触媒性金属は還元されて触媒を活性化した後、流動層で使用される。別の実施形態では、メタンなどのカーボンナノチューブ用気体状供給原料を用いて、触媒上で酸化物型の触媒性金属を還元してインシチューで触媒を活性化できる。
【0083】
ある実施形態では、単一層カーボンナノチューブは、触媒を含有する層を通って気体が均一に流動する流動層反応器内で、流動化された触媒を用いて製造される。この層は、単一層カーボンナノチューブの成長に適した温度で維持される。気体状供給原料を含む気体が、触媒を通過して触媒を流動化させ、同時に、触媒上で反応して単一層カーボンナノチューブを製造する。
【0084】
流動層反応器のある実施形態の例が、図2に図示される。この流動固定層反応器の操作方法は、半連続式ナノチューブ製造の例である。この反応器では、触媒及び任意の流動助剤などの流動化粒子の量は、一定量であるか又はバッチであり、他方気体流は、反応器に連続的に供給されて流動層を維持する。この型の方法では、反応が終了する時、反応した触媒は関連したナノチューブ製品と共にバッチ様式で放出される。また、流動助剤粒子は、使えるように、バッチ様式で換えられるか又は再生される。その代わりに、一つの反応器が清掃又は改修の必要がある時、別の反応器がオンラインに配置できるように、多数の反応器と流動助剤を用いることができる。
【0085】
この方法のある実施形態では、輸送気体201の供給が行われる。輸送気体は、キャリヤー気体とも呼ばれ、かつ通常は、窒素又はアルゴンなどの不活性気体を含むが、少量の水素又は供給原料気体を含んでもよい。また、担持触媒202の供給が行われる。輸送気体201が少量の触媒を伴って触媒/輸送気体混合物を形成し、この混合物は、触媒/輸送気体加熱区画203内で、加熱された流動層反応器205の温度近くに予熱される。気体状炭素含有供給原料211を含む個別流が提供され、供給原料加熱区画212内で流動層反応器205の温度近くに予熱される。炭素含有供給原料211は、単一層カーボンナノチューブを形成するための炭素源として作用するほかに、流動層内で粒子を流動化するために役立つ。加熱された触媒/輸送気体混合物及び加熱された気体状炭素含有供給原料が、流動層反応器205に供給される。流動層反応器では、流動層204は反応器205の一部に存在する。流動層204内で流動化されている粒子は、触媒及び場合によりセラミックビーズ、石英ビーズ、耐熱性粒子及びそれらの組み合わせ(これに限定されない)を含む任意の流動助剤を含む。流動層反応器205では、単一層カーボンナノチューブを形成するための十分な温度に加熱されていて、炭素含有供給原料は反応器205に入り、反応器中で触媒及び任意の粒子を流動化するために役立ち、触媒上で反応して単一層カーボンナノチューブを含む製品を形成する。いくらかの未反応供給原料及び気体状反応製品が、反応器出口207から出る。炭素含有供給原料と触媒の接触時間は、炭素含有供給原料が触媒と共に存在する時間を調整することにより選ぶことができる。単一層カーボンナノチューブを製造するための十分な接触時間後、供給原料気体が遮断され、窒素又は不活性気体などのパージ気体213が導入されて炭素含有供給原料をパージし、場合により、使用した触媒及びナノチューブ製品を冷却する。反応工程の終了に続いて、密でない、軽量の触媒及びナノチューブ製品を反応器出口207から吹き飛ばすためにパージ気体速度を上げる。反応器を流出後、固体ナノチューブ製品及び使用した触媒を分離でき、単一層カーボンナノチューブは、必要に応じて特殊な最終用途のために精製される。流動助剤として用いられるセラミックビーズなどの任意の重い粒子は、ナノチューブ製品及び使用した触媒と共に反応器から吹き飛ばされないであろう。流動助剤及び製品の分離は示差懸濁分離と呼ばれ、密でない粒子材料(触媒及び製品)が気体流により反応器から搬出され(懸濁分離)、他方でより密な材料(流動助剤)が反応器に残留する。代わって、このように重く、密な粒子は、反応器の底部口214を通って排出することができ、他方で頭頂部を吹くことにより、反応器出口207からナノチューブ製品及び触媒が除去された後、この底部口が開放されるであろう。重く、密な粒子は、触媒の別のバッチと共に用いるために、洗浄され戻すことができる。
【0086】
流動層では、触媒は、流動固定層反応器の場合のようにバッチ様式で換えることができる。連続式流動層配置又は向流移動層反応器では、新しい触媒が定常的に添加され、かつ反応した触媒がナノチューブ製品と共に除去され、添加及び除去の速度が定常運転に近づく。
【0087】
別の実施形態では、単一層カーボンナノチューブは、図3に図示されるように、向流移動層反応器内で、連続方式で製造することができる。この実施形態では、この方法は連続的方法であり、触媒/輸送気体混合物及び炭素含有供給原料を含む気体流が、反応器に連続的に導入される。流動助剤として用いられたこれらの材料などの本質的に不活性な材料の粒子が、触媒及び供給原料に対して向流に循環される。向流移動層反応器内では、触媒に対して反対に移動する不活性粒子が、実の流動層のように流動化されない可能性があることに留意されたい。移動層反応器では、大量の触媒が反応器に連続的に供給され、他方で同時に、匹敵する量の触媒が、ナノチューブと共に、反応器が定常条件に接近する仕組みで作動するように設定された速度で除去される。同時に、本明細書では「向流粒子」と呼ぶ大量の一般的に不活性な粒子が添加され、この粒子は、触媒及び気体状供給原料の流動とは反対方向に反応器を通って移動し、かつ粒子添加と同一の速度で反応器を流出する。例えば、供給原料及び触媒が垂直反応器内で上方流動流を形成する場合、向流粒子は反応器の上部から添加され、かつ重力により触媒及び供給原料流に対して反対に移動できる。炭素含有供給原料は、ナノチューブ及び使用した触媒が反応器を流出する時間により、所望のナノチューブの成長を達成するように選ばれた速度で、連続的に反応器に供給される。同時に、セラミックビーズ、石英ビーズ又はその他の耐熱性材料など(これに限定されない)の前記流動助剤のような本質的に不活性な材料を含む向流粒子は、移動層に添加するステップ、移動層から除去するステップ、粒子を再生するステップ(即ち、デコーキング及び加熱)及び移動層に戻すステップを通して再循環される。この方法で、輸送気体又はキャリヤー気体301の供給が行われる。輸送気体は、通常、窒素又はアルゴンなどの不活性気体を含み、しかもある程度の水素又は供給原料気体を含むことができる。また、担持触媒302の供給が行われる。輸送気体301がある程度の触媒を伴って触媒/輸送気体混合物を形成し、この混合物は、触媒/輸送気体加熱区画303内で、加熱された流動層反応器305の温度近くに予熱される。気体状炭素含有供給原料311の個別流が提供され、供給原料加熱区画312内で移動層反応器305の温度近くに予熱される。炭素含有供給原料311は、単一層カーボンナノチューブを形成するための炭素源として作用するほかに、下方へ移動する向流粒子の重力流に逆らって上方へ流動する。向流粒子の密度及び上方へ流動する気体の速度に応じて、向流不活性粒子はある程度の流動化を受けるかもしれない。加熱された触媒/輸送気体混合物及び加熱された気体状炭素含有供給原料が、移動層反応器305に供給される。反応器305では、移動層304が、反応器の一部に存在する。反応器305では、単一層カーボンナノチューブを形成するための十分な温度に加熱されていて、炭素含有供給原料は反応器305に入り、触媒と反応して単一層カーボンナノチューブを含む炭素製品を形成し、かつ未反応炭素供給原料、反応副生物及び輸送気体が反応器出口307から出る。炭素含有供給原料と触媒の接触時間は、触媒がナノチューブと共に反応器から撤去され、新鮮な触媒が添加される速度を調整することにより選ぶことができる。向流粒子と比べて一般的にサイズが小さく、低密度である触媒は、反応器305の底部に導入されるが、重い向流粒子の上部に移行して、向流粒子の上部に別の層を形成するであろう。触媒は反応器の出口307で反応器を出ることができる。
【0088】
反応器を出た後、固体ナノチューブ製品及び使用した触媒は、反応器から流出した気体から分離され、かつ相互に分離できる。単一層カーボンナノチューブは、必要に応じて、特殊な最終用途のために精製されてもよい。
【0089】
向流粒子は、ナノチューブ製品及び使用した触媒と共に反応器から吹き飛ばされない。代わって、このような重く密な粒子は、反応器の底部口314を通して排出できる。その際この底部口は連続して開放されていて、少量の向流粒子が反応器305から排出され、再生され、加熱されかつ反応器に戻して再循環されることになる。流動助剤の再生では、空気流321が提供される。空気流321及び反応器の底部口314からの向流粒子は、燃料源322と組み合わされて、加熱されたデコーキング装置323に入る。デコーキング装置からの放出物324は、デコークされた流動助剤及び燃焼製品を含む。これらの放出物324は、分離装置325に供給され、ここで燃焼製品327が、洗浄かつ加熱された向流粒子から分離かつ除去され、向流粒子は、接続口326を通して移動層反応器305に戻される。向流粒子の再循環及び再生は、粒子のコーキング速度に関連する定常速度で行われ、又はナノチューブ合成反応の熱安定性を維持するために行われる。また、デコーキング装置を通して循環する向流粒子は、反応器に戻される時に熱を提供する。この伝達された熱は、ナノチューブ製造反応が吸熱である時、反応温度の維持に有用である。本発明の一つの観点は、向流粒子を熱伝達剤として使用することであり、熱伝達剤は反応器のある部分から別の部分に熱を運ぶ。
【0090】
別の実施形態では、図4に図示されるように、単一層カーボンナノチューブが、並流移動層反応器内で、連続方式で製造可能である。この実施形態で、触媒/輸送気体混合物及び炭素含有供給原料を含む気体流が、連続的に反応器に導入される。流動助剤として使用される粒子のような本質的に不活性な粒子は、触媒及び供給原料と並流する方向に循環される。この実施形態では、触媒は、本質的に不活性な粒子として同一方向に流動する。触媒及び本質的に不活性な粒子の混合物は、実の流動層内のようには完全に流動しないかもしれない。反応器を通して流動する動きは、混合物の循環をいくらか誘発する。この反応器では、触媒及び不活性な粒子が反応器に連続的に供給され、他方で同時に、匹敵する量の触媒が、ナノチューブと共に、反応器が定常条件に接近する仕組みで作動するように設定された速度で本質的に不活性な粒子と共に除去される。炭素含有供給原料は、ナノチューブ及び触媒が反応器を流出する時間により、所望のナノチューブの成長を達成するように選ばれた速度で、連続的に反応器に供給される。本質的に不活性な粒子は、流動助剤として上に記載されたものと同等であり、セラミックビーズ、石英ビーズ又はその他の耐熱性材料など(これに限定されない)の本質的に不活性な粒子を含むことができる。この本質的に不活性な粒子は、移動層に添加するステップ、移動層から撤去するステップ、製品を本質的に不活性な粒子から分離するステップ、それらを再生するステップ(即ち、デコーキング及び加熱する)及び移動層にそれらを戻すステップを通して再循環される。担持触媒が、槽402に供給され、かつ輸送気体、重力流動、スクリューフィーダー又は粒子状固体を輸送するその他の方法により混合領域403に輸送される。混合領域403は、加熱された移動層反応器405の温度近くに加熱される。気体状炭素含有供給原料411の個別流が供給され、供給原料加熱区画412で移動層反応器405の温度近くに予熱される。炭素含有供給原料411は、反応器で形成されるカーボンナノチューブのための炭素源であり、反応器を通って触媒及び本質的に不活性な粒子と同一方向に流動する。触媒及び本質的に不活性な粒子の加熱された混合物は、接続口426を通って流動し、かつ加熱された気体状炭素含有供給原料は、移動層反応器405に供給される。反応器では、移動層404は、反応器体積の殆んど至る所に存在している。反応器405は、単一層カーボンナノチューブを形成するための十分な温度に加熱される。炭素含有供給原料が、反応器に入り、触媒と反応して単一層カーボンナノチューブを含む炭素製品を形成し、かつ未反応炭素供給原料、反応副産物及び使用されたあらゆる輸送気体が、接続部414を通って反応器から離れ、分離装置417に導入される。分離装置417は、より密な流動助剤をより密でない触媒及びナノチューブ製品から分離し、本質的に不活性な粒子を接続部421に通して、かつ製品及び触媒を407に通して導く。分離装置は、サイクロン、分級器、又は固体を分離するために知られたその他の装置などの装置である。炭素含有供給原料と触媒の接触時間は、触媒が炭素製品及び本質的に不活性な粒子と共に反応器から撤去され、新鮮な触媒及び本質的に不活性な粒子が添加される速度を調整することにより選ぶことができる。
【0091】
反応器を出た後、固体炭素製品及び使用した触媒は、反応器を出た気体から分離すること及び相互に分離することができる。単一層カーボンナノチューブは、炭素製品から分離され、必要に応じて特殊な最終用途のために精製することができる。
【0092】
本質的に不活性な粒子は、再生され、加熱され、かつ反応器に戻されて再循環される。本質的に不活性な粒子の再生において、接続部421で固体分離装置を離れた粒子は、燃料源422と組み合わされて、加熱されたデコーキング装置423に一緒に入る。デコーキング装置からの放出物424は、デコークされた不活性粒子及び燃焼製品を含む。これらの放出物424は、分離装置425に供給され、ここで燃焼製品427が分離されて、洗浄され加熱された本質的に不活性な粒子から除去され、本質的に不活性な粒子は混合領域403に戻される。ここで、この本質的に不活性な粒子は新鮮な触媒と混合され、混合物は接続部426を通って移動層反応器405に戻される。本質的に不活性な粒子の再循環及び再生は、ナノチューブ合成反応の熱安定性を促進するために定常速度で行われる。デコーキング装置を通して循環する本質的に不活性な粒子は、反応器に戻される時に熱を与える。この伝達された熱は、ナノチューブ製造反応が吸熱性である時、反応温度の維持に有用である。
【0093】
本発明の一つの態様は、熱伝達剤として不活性粒子を用いることであり、この熱伝達剤は反応器のある部分から別の部分に熱を運び、その際にこの熱は吸熱性ナノチューブ合成反応に必要な熱の一部を提供する。代替の実施形態では、気体状の供給原料が、反応器の底部を含む反応器のその他の点に導入される。触媒及び本質的に不活性な粒子が反応器を通して流動するので、加熱された気体状供給原料を反応器の多くの点で導入することは、反応の進行を調節するために役立つ。
【0094】
単一層カーボンナノチューブを製造する本発明の方法は、バッチ式、半連続式(反復バッチ式)又は製品が反応器から連続的に除去される完全連続式工程などの種々の反応器条件で行われてもよい。連続式工程が好ましいが、以下に与えられた実施例は、ある触媒を用いてバッチ工程で本発明の効果を例証する。この触媒は、単一層カーボンナノチューブの成長に好適であり、かつ輸送反応器、流動層反応器、向流移動層反応器及びそれらの組み合わせ(これに限定されない)を含む種々の反応器の構成で使用に適した密度に製造される。
【0095】
本発明の方法は、単一層カーボンナノチューブの製造に向けられるが、この方法は、異なる触媒組成物、反応時間及び反応温度を用いて、同様に、多層カーボンナノチューブに適用できる。
【0096】
本発明の好ましい実施形態を例証するために、以下の実施例が組み入れられる。以下の実施例に開示される技術が、発明の実施に十分機能するように発明者により発見された技術を示し、かつその実施のための好ましい様式を構成するために考慮されてもよいということは、当業者に評価されるであろう。一方、多くの変更が、開示された特定の実施形態の中で可能であり、本発明の精神及び観点から離れることなく類似又は同様の結果を得ることができることを、本発明の開示に照らして当業者は理解するであろう。
【実施例1】
【0097】
Tangらの配合(Chemical Physics Letters, 350(2001)pp.19−26)を用いて湿式の機械的混合及び燃焼合成によりCoMo/MgO触媒が製造された。10gの硝酸マグネシウム六水和物Mg(NO32・6H2O(分子量256.41)、0.6gの硝酸コバルト六水和物Co(NO32・6H2O(分子量291.04)、0.073gのヘプタモリブデン酸アンモニウム四水和物(パラモリブデン酸アンモニウム又は「モリブデン酸」として知られる)(NH46Mo724・4H2O(分子量1235.86)及び4gの無水クエン酸HOC(CH2CO2H)2CO2H(分子量192.12)が、臼と乳棒を用いて5mlの水と混合された。得られた混合物を500mlのビーカーに移し、550℃に予熱された高温炉に置かれた。瞬間的に、この溶液は発泡し、大量のピンク色綿状フレークがビーカーを満たした。フレーク状の触媒は、微量の黒色炭素アッシュが観察されなくなるまで、60分間炉内に保持された。次に、この触媒は、高温炉から除かれ、デシケータ内で冷却された。触媒をナノチューブ合成に有用な形態にするために、綿状フレークが、直ちに臼と乳棒を用いて粉砕されて約0.1g/cm3のかさ密度を有する微細なピンク色粉末が得られた。
【0098】
1gのCoMo/MgO触媒が、流動層反応器内に置かれた。反応器は、中央に石英フリットを付けた122cm長の石英管(外径(OD)2.3cm、内径(ID)2.1cm)を含み、垂直配置された反応器の所定の位置に触媒層を保持した。反応器が、高温管状炉内に垂直に置かれ、気体が反応器管の底部に大気圧で供給される。気体流は、反応器を通り、フリットを通り、触媒層を通り上方に向かい、反応器の頭頂部から排出口に出た。
【0099】
先ず、反応器がアルゴンガスでパージされた。反応器温度が、20℃/分の速度で900℃に上昇させられた。この加熱ステップで、水及び二酸化炭素などの吸着された気体が、触媒から脱着される。900℃の目標温度に達した後、アルゴン流動が停止され、メタン(CH4)が10分間導入された。メタン導入後、反応器が、アルゴンパージ下で室温に冷却された。冷却後、反応器から回収して得られた材料は、濃い黒色の粉末であった。数ミリグラムの製品が、超音波の助けでエタノール中に懸濁された。透過型電子顕微鏡(TEM)で分析するために、数滴の懸濁液が穴の開いたカーボングリッド上に置かれた。この製品は、エタノールが乾燥された後、JEOL Model JEM2010 TEMを用いて、100kVまでの電子ビームエネルギーで試験された。TEM画像は、さまざまな単一層カーボンナノチューブ及びかなりな量の多層カーボンナノチューブと共に単一層カーボンナノチューブの「ロープ」を示した。このような「ロープ」は、一緒に凝集され、かつ一般的には個々の軸に沿って平行に整列された単一層カーボンナノチューブの束である。
【実施例2】
【0100】
この実施例は、実施例1の製造方法を用い低金属充填の触媒を用いて、単一層カーボンナノチューブの製造を例証する。
【0101】
0.25gの硝酸コバルト六水和物、0.0365gのヘプタモリブデン酸アンモニウム四水和物、10gの硝酸マグネシウム六水和物、4gの無水クエン酸が、500mlのビーカー中で10mlの脱イオン水を用いて溶解された。溶液が透明になった時、このビーカーは650℃に予熱された高温炉内に置かれた。炉温度の急低下が観察された。殆んど瞬時に、溶液が発泡し、大量のピンク色の綿状フレークがビーカーに充満した。炉温度が550℃に下げられ60分間維持された。触媒が炉から回収され、デシケータ内に置かれた。触媒フレークが、直ちに臼と乳棒により微細流動性粉末に粉砕された。この粉砕された触媒粉末は、約5μmより小さい粒子サイズ及び約0.1g/cm3のかさ密度をもっていた。得られた触媒の化学組成は、モル基準のCo:Mo:MgOで2.2:0.53:100及び重量基準のCo:Mo:MgOで3.2:1.3:100であった。この触媒は二酸化炭素及び水分を吸収することができ、かつ保存時間及び暴露によっては、触媒は、吸着した種を空気中800℃で8%まで失う可能性がある。
【0102】
ナノチューブの成長は、実施例1の方法に従い行われた。得られた黒色製品は、TEMにより試験され、代表的なTEM画像が図5及び6に示される。単一層カーボンナノチューブのロープが、明らかに見られる。また、僅かな多層カーボンナノチューブが、顕微鏡写真に見ることができる。アズグロウン単一層カーボンナノチューブの直径は、画像分析により測定されて、約1nmであった。
【0103】
アズグロウン単一層カーボンナノチューブのラマンスペクトルが、図7及び8に示される。ラマン励起は、782nmダイオードレーザーにより行われた。100〜350cm-1の範囲のラマンシフトは、単一層カーボンナノチューブのラジアルブリージングモード(RBM)ピークの特徴である。アズグロウン単一層カーボンナノチューブで確認される直径は、図7のRBMピークから、0.81、0.93、1.07、1.16及び1.49nmであると評価される。図8の1590cm-1の付近のラマンシフト領域は、G帯域と呼ばれ、単一層カーボンナノチューブのタンジェンシャルフォノンモードの特徴である。1300cm-1付近のラマンシフト領域は、D帯域と呼ばれ、不規則な非晶質炭素と関係している。G及びDピーク高さの比は、異質炭素に関係する単一層カーボンナノチューブの純度の指標である。本実施例では、G/Dの比は6.2であって、これは、サンプルが少量の異質炭素だけを伴った殆んど単一層カーボンナノチューブであることを示唆し、かつ高品質単一層カーボンナノチューブサンプルであることを示していた。
【0104】
単一層カーボンナノチューブ製品は、空気中の熱重量分析(TGA)で分析された。この方法で、炭素収率は、触媒の重量に関して約40%であると評価された。
【実施例3】
【0105】
実施例2で製造された触媒が、775、800、825、850、875、925及び950℃を含む異なる温度で、一連の単一層カーボンナノチューブの成長実験で用いられた。ナノチューブの成長処理は、成長温度を除いて、実施例2と同一であった。単一層カーボンナノチューブが、それぞれの温度で製造され、TEMで分析された。TGAで測定された炭素収率及びラマン分光法から測定されたG/Dピーク強さの比が、図9にプロットされている。成長温度が高いほど、異質炭素が無く、より高い炭素収率を与えた。一般的に、最高の単一層カーボンナノチューブ収率は、炭化水素供給原料を用いて約800℃より高い反応温度で得られた。
【実施例4】
【0106】
実施例2で製造された触媒が、1、10、20及び60秒の種々の炭化水素供給原料接触時間で、単一層カーボンナノチューブの成長のために用いられた。それぞれの成長実験で、約0.1gが、実施例1に記載の反応器に充填され、しかも固定流動層様式で行われた。反応器の温度が、アルゴンパージ下20℃/分の速度で500℃まで上昇させられた。触媒上の触媒性金属が、10%水素/アルゴン混合物中で、500℃で10分間水素還元された。還元後、反応器は、アルゴンパージ下で900℃に上昇させられた。900℃でアルゴン流を維持しながら、断続流のメタンが1秒間注入された。メタン注入後、反応器は、アルゴンパージ下室温に冷却される。同様な実験手順が、10、20及び60秒のメタン注入時間で繰り返された。異なる接触時間から回収された材料は、異なる色合いの黒色であった。TGAにより測定された炭素収率が、表1に要約される。
【0107】
【表1】

【0108】
メタンと1秒、10秒、20秒及び60秒の接触時間で得られた製品中の単一層カーボンナノチューブのRBMシフトを示すラマンスペクトルが、図11A、11B、11C及び11Dにそれぞれ示される。RBMラマンシフトは、一定の成長時間で優先的に成長した一定の直径の単一層カーボンナノチューブを示す。1秒の成長時間である図11Aで、最も注目する特徴は234cm-1であり、1.0nmの単一層カーボンナノチューブ直径に相当する。このナノチューブ直径は、次の関係を用いてRBMシフトから測定された:d=a/ω(式中、dはnmで表したSWNT(単一層カーボンナノチューブ)の直径、aは定数232nm/cmであり、ωはcm-1で表したRBM周波数である)。266、226、216、204及び187cm-1のその他の小さいピークは、それぞれ0.88、1.03、1.07、1.14及び1.24nmの直径をもつSWNTの存在を示す。10秒及び20秒の成長時間の場合、ラジアルブリージングモード(RBM)のパターンが優位であった。60秒の接触時間で、それぞれ0.88nm、1.14nmのSWNT直径に相当する、266cm-1及び204cm-1でのピークの顕著な高まりは、大小の両直径のSWNTが、20秒より大きい接触成長時間で成長させられたこと指摘した。
【0109】
メタンと1秒、10秒、20秒及び60秒の接触時間で得られた製品中の単一層カーボンナノチューブのタンジェンシャルモードシフトを示すラマンスペクトルが、それぞれ図12A、12B、12C及び12Dにそれぞれ示される。全てのサンプルで、1590cm-1の特徴的なタンジェンシャルラマンシフトが顕著である。図12A、12B、12C及び12Dで、約1300cm-1でのD帯域ラマンシフトの変化は、種々の長さ分布をもつ単一層カーボンナノチューブが、成長時間に従って製造されることを示唆している。接触時間を調節することにより、所望のサイズ及び長さの単一層カーボンナノチューブが製造される。
【実施例5】
【0110】
単一層カーボンナノチューブが、メタンと1秒メタン接触時間を用いて成長させられた。しかし、触媒金属は、メタン導入前に還元条件にさらされなかった。触媒上の炭素収率は、7.5%、水素還元したものでは7.7%であった。表1を参照されたい。
【実施例6】
【0111】
実施例2に与えられた方法に従って、触媒が製造された。Co:Moの重量比は、2.6:1に固定されたが、金属充填量は変動させられた。単一層カーボンナノチューブは、実施例2に与えられた条件に従って成長させられた。約9重量%(6.45重量%のCo及び2.55重量%のMo)の金属充填量で、全炭素重量ゲインは、TGAで測定して、触媒の72.3重量%であった。TEM画像は、金属充填量が担体上で約9重量%を超えた場合、大量の多層カーボンナノチューブが製品中に観察されたことを示した。触媒上の炭素収率の減少は、担体上で約9重量%を超える金属充填量で観察された。
【実施例7】
【0112】
触媒は、燃焼ステップが550℃に事前設定された炉で行われたことを除いて、実施例2に従って製造された。単一層カーボンナノチューブが、実施例2に従って成長させられた。製品中の単一層カーボンナノチューブのRBMラマンシフトが、図10に示され、0.81、0.93、1.07及び1.16nmの単一層カーボンナノチューブ直径を示している。図7のデーター(実施例2の製品)と図10のデーター比較は、触媒製造のパラメータが、製造された単一層カーボンナノチューブの直径分布を変えることを示す。この実施例で、550℃燃焼を含む触媒製造は、650℃燃焼で製造された触媒から製造されたものに比較して大きい平均直径を有する単一層カーボンナノチューブを産出した。
【実施例8】
【0113】
実施例2の触媒は、単一層カーボンナノチューブ成長前に、チオフェンで処理された。0.95gの触媒が反応器に仕込まれ、室温でアルゴンを用いてパージされた。反応器の温度は、20℃/分の速度で500℃に上げられた。500℃で、アルゴンは切り替えられて、アイスバス中で0℃に保たれたチオフェンを通して吹き込まれた。10分間チオフェンを添加した後、吹き込みが停止され、反応器は、精製アルゴン下で900℃に上昇させられた。900℃で、アルゴンは停止され、メタンガスに切り替えられ、ナノチューブを成長させた。10分後、メタンを停止し、アルゴンに切り替えた。続いて、反応器はアルゴン流下で室温に冷却された。
【0114】
全炭素重量ゲインは、TGAで測定して、触媒の50重量%であった。TEMは、約95%のナノチューブが単一層カーボンナノチューブであることを示した。
【実施例9】
【0115】
0.40gの硝酸鉄(III)九水和物(分子量404.02)、0.0365gのヘプタモリブデン酸アンモニウム四水和物、10gの硝酸マグネシウム六水和物及び4gの無水クエン酸が500mlビーカー中で10mlの脱イオン水に溶解された。この薬品の透明溶液が、空気中550℃で燃焼され、550℃で60分間保たれた。粉砕された触媒粉末の物理特性は、実施例2の触媒の特性に類似していた。
【0116】
単一層カーボンナノチューブの成長は、実施例2に与えられた条件を用いて行われた。全炭素重量ゲインは、TGAで測定して、触媒の24重量%であった。TEMは、約95%のナノチューブが単一層カーボンナノチューブであることを示した。
【実施例10】
【0117】
0.40gの硝酸鉄(III)九水和物(Fe(NO33・9H2O)(分子量404.02)、0.0365gのヘプタモリブデン酸アンモニウム四水和物((NH46Mo724・4H2O)、10gの硝酸マグネシウム六水和物((Mg(NO32・6H2O)及び4gの無水クエン酸が、500mlビーカー中で10mlの脱イオン水を用いて溶解された。透明溶液が形成されると直ちに、ビーカーは、650℃に予熱された高温炉に置かれた。炉温度の急激な低下が観察された。数分の内に、溶液が発泡し、大量の淡黄色の綿状フレークがビーカーを満たした。炉温度が550℃に下げられ、550℃で60分間保持された。触媒は、炉から除去され、デシケータ内に置かれた。混合機の助けをかりて、触媒フレークが即座に粉砕され、微細流動粉末を得た。触媒粉末の物理的特性は、小さな一次粒子サイズ(<5μm)及び大変に低いかさ密度(〜0.1g/cm3)であった。得られた触媒の化学組成は、3.5重量%のFe及び1.3重量%のMoであった。周囲環境で、触媒は、二酸化炭素(CO2)及び水分などの気体を吸収できる。触媒は、空気中で約800℃まで加熱された時、約8重量%まで減量することがある。
【0118】
触媒0.25gが中央に石英フリットを備えた石英管に置かれ、適切な場所に触媒を保持し、反応器を流動層反応器として操作した。この反応器は、高温度管状炉内に垂直に置かれた。気体制御システムが、反応器管の底部から種々の気体を供給した。反応器は、先ずアルゴンガス(流速150標準立方センチメートル毎分(sccm))でパージされ、温度は20℃/分の速度で900℃に上昇させられた。メタン(CH4)が30秒間供給され、その後メタンの供給は停止された。反応器は、アルゴンのパージ下で室温に冷却された。反応器から回収して得られた材料は、濃い黒色粉末であった。空気中で800℃に上昇させTGAで測定した時、SWNTの成長は、触媒重量に関して20.6重量%であった。
【0119】
アズグロウン製品が、先ず空気中300℃で1時間酸化され、次に過剰の20重量%のクエン酸を十分に混合して、触媒を除いた。クエン酸処理した製品は、水およびアセトンで反復洗浄され、100℃でオーブン乾燥され、精製した製品を製造した。TGAで分析した時、精製した製品は、3重量%より少ない触媒残渣を含有した。
【0120】
数ミリグラムの精製した製品が、超音波の助けをかりてエタノールに懸濁された。数滴の懸濁液が、レース状炭素銅グリップ上に置かれた。エタノールが乾燥された後、製品は、透過型電子顕微鏡(JEOL JEM2010)により100kVまで試験された。TEM画像は、図13(MGP2 199p)に示される。SWNTのロープが明らかに観察された。画像分析は、SWNTの直径が約1nmであることを示した。
【実施例11】
【0121】
この実施例は、硫黄含有化合物で処理された実施例10の触媒を用いて、単一層カーボンナノチューブの製造を例証する。
【0122】
実施例10で製造された1gの触媒が、流動層反応器内に置かれた。反応器は、アルゴンガス(流速150標準立方センチメートル毎分)でパージされ、温度は20℃/分の速度で500℃に上昇させられた。室温に保持されたチオフェンを通ってアルゴンを通過させることにより、チオフェン(C44S、アクロス)が500℃で10分間触媒に導入された。チオフェン処理後、反応器の温度は、アルゴンパージ下で850℃に上昇された。850℃で、アルゴンが停止され、メタン(CH4、マテソン)が10分間導入され、ナノチューブを成長させた。成長反応の10分後、メタンが停止され、アルゴンが導入された。反応器は、アルゴンパージ下で室温に冷却された。反応器から回収して得られた材料は、濃い黒色粉末であった。空気中で800℃に温度上昇させてTGAで測定された、SWNTの成長は、触媒重量に関して32.3重量%であった。
【0123】
走査型電子顕微鏡(SEM)用いて、アズプロデュースド材料を試験した。図14の画像は、触媒担体の表面上及び多孔質構造内にナノチューブのロープを明らかに示す。
【0124】
アズグロウン製品は、過剰の20重量%クエン酸水溶液と十分に混合された。異なる濃度のクエン酸溶液で、約2重量%でも、触媒担体を除去するために有効であると判明した。クエン酸処理した製品は、水およびアセトンで反復洗浄され、100℃でオーブン乾燥され、精製した製品を与えた。この製品は、TGAで分析した時、約4重量%の触媒残渣を含有した。
【0125】
精製したSWNT製品のSEM画像が図15に示され、クエン酸で精製したSWNTの透過型電子顕微鏡(TEM)画像が図16に示される。TEM画像分析は、SWNTの直径が約1nmであることを示す。
【実施例12】
【0126】
この実施例は、異なる鉄及びモリブデン組成の触媒を用いて、単一層カーボンナノチューブの成長を例証する。1.1gの硝酸鉄九水和物(Fe(NO33・9H2O)、0.028gのヘプタモリブデン酸アンモニウム四水和物((NH46Mo724・4H2O)、20gの硝酸マグネシウム六水和物((Mg(NO32・6H2O)及び6gの無水クエン酸が、500mlビーカー中で20mlの脱イオン水に溶解された。その他の製造方法は、実施例10と同様であった。得られた触媒の触媒金属組成は、4.8重量%のFe及び0.48重量%のMoであった。物理的特性は、実施例10の触媒の特性に類似していた。
【0127】
1gの触媒が、固定流動層反応器内に置かれた。反応器が、先ずアルゴンガス(流速150標準立方センチメートル毎分)でパージされ、温度が20℃/分の速度で850℃に上げられた。850℃で、アルゴンが停止され、メタン(CH4)が10分間注入された後停止された。反応器は、アルゴンパージ下で室温に冷却された。反応器から回収し得られた材料は、濃い黒色粉末であった。空気中で800℃に上昇させTGAで測定した時、SWNTの成長は、触媒重量に関して15.4重量%であった。
【実施例13】
【0128】
10分間の成長が900℃の温度で行われたことを除いて、実施例12の方法が繰り返された。炭素ゲインは触媒重量に関して15.9重量%であった。アズグロウン材料が、TEM及びラマン分光法により分析された。アズグロウン製品中の単一層カーボンナノチューブのRBMシフトのラマンスペクトルが、図17Aに示される。アズグロウン製品中の単一層カーボンナノチューブのタンジェンシャルモードシフトのラマンスペクトルが、図17Bに示される。
【実施例14】
【0129】
この実施例は、担持鉄触媒を用いて、単一層カーボンナノチューブの製造を例証する。0.225gの硝酸鉄九水和物(Fe(NO33・9H2O)、20gの硝酸マグネシウム六水和物((Mg(NO32・6H2O)及び6gの無水クエン酸が、500mlビーカー中で20mlの脱イオン水に溶解された。その他の製造方法は、実施例10と同様であった。得られた触媒の鉄含有量は、MgO上に1.0重量%のFeであった。触媒の物理的特性は、実施例10の触媒の特性に類似していた。
【0130】
1gの触媒が、流動層反応器内に置かれた。反応器が、先ずアルゴンガス(流速150標準立方センチメートル毎分)でパージされ、温度が20℃/分の速度で850℃に上げられた。850℃で、アルゴンが停止され、メタン(CH4)が10分間注入された後停止された。反応器は、アルゴンパージ下で室温に冷却された。反応器から回収し得られた材料は、濃い黒色粉末であった。空気中で800℃に上昇させTGAで測定した時、SWNTの成長は、触媒重量に関して7.3重量%であった。
【0131】
アズグロウンSWNT製品が、ラマン分光法で分析された。アズグロウン製品中の単一層カーボンナノチューブのRBMシフトのラマンスペクトルが、図18Aに示される。アズグロウン製品中の単一層カーボンナノチューブのタンジェンシャルモードシフトのラマンスペクトルが、図18Bに示される。
【0132】
図17A及び18Aのラジアルブリージングモード(RBM)ピークの比較は、異なる触媒組成で製造された直径分布の実質的な相違を表しており、触媒が低濃度の触媒性金属を含有する時、大きな直径のナノチューブが製造される。
【0133】
実施例2、8、9及び13に従って製造された触媒上での炭素製品および単一層カーボンナノチューブの製造の比較が表2に与えられる。
【0134】
【表2】

【実施例15】
【0135】
この実施例は、スケールアップされた固定流動層モードの操作で、実施例12と同じ比率で製造された触媒を用いて、単一層カーボンナノチューブの製造を例証する。即ち、固定された量の触媒が、気体状供給原料の連続流と共に用いられた。流動助剤が用いられ、反応器はおよそ大気圧で操作された。
【0136】
管状反応器(内径8インチ(203.2mm)直径×10フィート(304.8cm))が、流動助剤として94ポンド(42.6kg)のセラミックビーズ(直径が約200ミクロン)で充填された。セラミックビーズは、流動するアルゴン(48標準立方フィート毎時(SCF/hr)(1.36標準立方メートル毎時))で流動化され、反応器は華氏約1660度(約904℃)まで加熱された。触媒を取り上げ、反応器に搬送するためにアルゴンの側流が用いられた。反応器の底部に入る前に、触媒及びアルゴンキャリヤー気体が、華氏約1660度(約904℃)に予熱された。触媒が反応器に仕込まれる間に、アルゴンは停止され、華氏約1660度(約904℃)に予熱されたメタンが、25標準立方フィート毎時(0.708標準立方メートル毎時)で、反応器の底部に注入された。約0.54ポンド(約245g)の触媒が、10分間かけて反応器に仕込まれた。殆どの触媒が反応器内で流動化された。しかし、触媒の一部が塔頂に吹かれ、反応器から流出した後、もしあるならば、触媒上に多くのナノチューブを形成した。10分後、反応器への触媒の流動が停止された。加熱されたメタンガスの流動が10分間以上継続され、更にナノチューブを成長させた。セラミックビーズを用いることにより、流動層の温度は、10分の反応時間中ほぼ一定に保持され、初期反応温度から約華氏6度(約3℃)低下したに過ぎなかった。次に、メタンが停止され、流動層は流動する窒素下で冷却された。ナノチューブ及びセラミックビーズは、窒素の流動を増すことにより分離され、密でない触媒粒子は、付着したナノチューブを伴って、窒素流と共に塔頂から搬出され、一方より大きく重くかつ密なセラミックビーズが反応器内に残留した。
【0137】
この実施例に従って製造された製品のTGAは、触媒上に31.5重量%の炭素製品を示した。
【実施例16】
【0138】
この実施例は、流動助剤を用いなかったことを除き実施例15に記載されたように、スケールアップされた固定流動層モードの操作で、実施例12と同じ比率で製造された触媒を用いて、単一層カーボンナノチューブの製造を例証する。反応器はおよそ大気圧で操作された。
【0139】
触媒は、アルゴンガスの側流の流動により取り上げられて触媒/アルゴン混合物を形成し、次に、この混合物は、反応器に導入される前に、約華氏1830度(約999℃)に予熱された。全体で0.62ポンド(約281g)の触媒が、10分間かけて反応器に仕込まれた。触媒が仕込まれる間、約華氏1830度(約999℃)に予熱された、50標準立方フィート毎時(1.41標準立法メートル毎時)のメタンが、反応器の底部に注入された。殆どの触媒が反応器内で流動化された。しかし、少量の触媒が塔頂に吹かれ、反応器から流出した後、もしあるならば、触媒上に多くのナノチューブを形成した。少量の触媒が、反応後反応器流入口に認められ、反応器に流入しなかった。10分後、触媒の流動が停止され、予熱されたメタンガスが更に10分間流動され、ナノチューブを成長させた。次に、メタンが停止され、触媒層は、付着したナノチューブ製品と共に、流動する窒素で冷却された。続いて、窒素の流動を増すことにより、反応した触媒をナノチューブと共に塔頂に吹き上げ、反応器から流出させた。吸熱反応であるため、20分の反応時間中、11分後に、触媒流動層の温度は華氏約153度低下して華氏約1677度(約914℃)になった。全20分間の反応後、温度は華氏1740度(約949℃)になり、又は初期温度より華氏約90度低下した。
【0140】
この実施例に従って製造された製品のTGAは、触媒上に24.6重量%の炭素製品を示した。
【実施例17】
【0141】
この実施例は、輸送反応器で、実施例12と同一の比率で製造した触媒を用いて単一層カーボンナノチューブの製造を例証する。即ち、触媒及び反応性供給原料は、加熱された反応器管を同一速度で流動する。反応器はおよそ大気圧で稼動した。
【0142】
触媒は、75標準立方フィート毎時(2.12標準立法メートル毎時)の窒素ガスの側流の流動により1.52ポンド/時間(689g/時間)の速度で取り上げられて、触媒/窒素混合物を形成し、次に、この混合物は、反応温度に予熱された後、内径3インチ(76.2mm)×長さ24フィート(7.32m)の加熱された管の反応器に導入される。追加の75標準立方フィート毎時(2.12標準立法メートル毎時)の窒素ガスが、加熱された内径3インチ(76.2mm)の管状反応器に別に導入された。70標準立方フィート毎時(1.98標準立法メートル毎時)のメタン及び供給原料気体が、反応温度まで加熱され、かつ触媒/窒素混合物及び窒素流と混合された。この温度は、約890℃であり、この点付近でメタンが触媒/窒素混合物と混合された。反応滞留時間は、約3.7秒であると推定される。
【0143】
水素は、メタン供給原料と混合されなかったが、少量の副生水素がナノチューブ製造時インシチューで発生する。その結果として、少量の水素が流出気体中に存在する。炭素製品のTEM画像は、生成単一層カーボンナノチューブと共に存在する大量の非晶質炭素を示す。TGA(熱重量分析)は、生成した炭素製品の量が触媒の約12.2重量%であることを示した。
【実施例18】
【0144】
この実施例は、流動助剤を使用することなく、実験室規模の固定流動層式操作で、実施例12と同一の比率で製造された触媒を用いて、単一層カーボンナノチューブの製造を例証する。反応器は、およそ大気圧で操作された。
【0145】
60gの触媒が、反応器の中央の、石英フリットを備えた石英管(内径2.25インチ(57.2mm)×3フィート(91.4cm)長)に充填され、触媒を適切な位置に保持し、アルゴン又はメタン供給原料を反応器断面に分配し、流動層反応器内で反応を行った。反応器は、高温度管状炉内に垂直に配置され、気体が反応器管の底部から供給された。反応器は先ずアルゴンガスでパージされた。反応器温度は、20℃/分の加熱速度で949℃に上昇させられた。引き続いて、アルゴン流動が停止され、加熱メタン(CH4)が3,000標準立方センチメートル毎分の速度で5分間導入された。最後に、反応器は、アルゴンパージ下で室温に冷却された。反応器から回収され、得られた材料は濃い黒色粉末であった。反応の吸熱性のために、反応温度は約50秒後に27℃に低下した。反応の温度プロフィール及び吸熱が図19に示されている。作業の種々の時間に、ガスバッグのサンプルが反応器出口気体から採取された。反応の最初の瞬間には、メタン、水素及び一酸化炭素が検出された。作業に入って1.5分後、メタン及び水素だけが検出された。この実施例で、水素濃度は、反応の初期の部分で高かった。出口気体の正常化された水素濃度は、30秒で42%、60秒で82%、90秒で62%、作業終了の5分で28%であった。炭素製品のTEMは、主に単一層カーボンナノチューブであり、非晶質炭素を殆んど又は少しも含まなかった。理論に捉われるつもりは無いが、高純度のナノチューブ及び低濃度の非晶質炭素は、作業中に供給原料を伴った大量の水素の存在に起因すると考えられる。
【0146】
この実施例に従って製造された製品のTGAは、触媒上に6重量%の炭素製品を示した。
【実施例19】
【0147】
この実施例は、噴霧燃焼を用いて触媒の製造を例証する。この例の中で、触媒前駆体溶液が、加熱された室に噴霧され、溶媒が蒸発する時エアロゾルを形成した後、触媒前駆体が燃焼する。触媒組成は、実施例12で製造された触媒と同一の比率を有していた。この室は、内径6インチ(152mm)×6フィート(1.83m)長であり、クラムシェルヒーターにより加熱された。噴霧ノズルは、0.02インチ(0.508mm)のオリフィスを有し、40psi(275800Pa)の圧力、45の角度で噴霧する。ポンプ吐出は約45psi(約310275Pa)の圧力であった。触媒前駆体溶液が、3.2ガロン/時間の速度で、オリフィスのノズルを通して加熱された部屋に導入された。作業時間は約1時間であった。325標準立方フィート毎時(9.20標準立法メートル毎時)の空気が、華氏1313度(約712℃)で導入され、熱を供給して水を蒸発させ、かつ燃焼反応のために酸素を供給した。3個の熱電対が、室の中央部に約1フィート(約30.48cm)離れて置かれ、下記の温度を記録した;上部熱電対:作業開始時に華氏265度、作業終了時に華氏189度:中央部熱電対:作業開始時に華氏377度、作業終了時に華氏246度:底部熱電対:作業開始時に華氏348度、作業終了時に華氏210度。
【実施例20】
【0148】
この実施例は、高温表面上の燃焼を用いて触媒の製造を例証する。実施例12の触媒前駆体溶液が、350℃に維持された加熱表面上に滴下された。混合物が発泡し、3分間反応した後、得られた触媒は、表面から掻き落とされ、冷却された。次に、触媒は、小さい粒子サイズに粉砕され、空気中550℃で12時間焼成された。
【0149】
開示した全ての組成物及び方法並びに本明細書に記載した特許請求の範囲は、本発明の開示に照らして、不当な実験を行うことなく製造され実施できる。本発明の組成物及び方法が、好ましい実施形態の項で説明されたので、本発明の概念、精神及び範囲を離れることなく、本明細書に記載されたステップの中で又は一連のステップの中で、この組成物及び方法の変更が行い得ることは、当業者に明らかであろう。より具体的には、同一の又は類似の結果が得られるのであれば、化学的に関連する或る種の薬剤が、本明細書に記載された薬剤に置き換え可能であることが明らかになるであろう。当業者に明白なこのような全ての類似の代替物及び変性は、添付された特許請求の範囲により定義された本発明の精神、範囲及び概念の範囲内にあると考えられる。
【符号の説明】
【0150】
101 輸送気体
102 担持触媒
103 触媒/輸送気体加熱区画
105 輸送反応器
107 組成物
111 炭素含有供給原料
112 供給原料加熱区画
201 輸送気体
202 担持触媒
203 触媒/輸送気体加熱区画
204 流動層
205 流動層反応器
207 反応器出口
211 炭素含有供給原料
212 供給原料加熱区画
213 パージ気体
214 反応器の底部口
301 輸送気体
302 担持触媒
303 触媒/輸送気体加熱区画
304 移動層
305 移動層反応器
307 反応器出口
311 炭素含有供給原料
312 供給原料加熱区画
314 反応器の底部口
321 空気流
322 燃料源
323 デコーキング装置
324 放出物
325 分離装置
326 接続口
327 燃焼製品
402 槽
403 混合領域
404 移動層
405 移動層反応器
411 炭素含有供給原料
412 供給原料加熱区画
414 接続部
417 分離装置
421 接続部
422 燃料源
423 デコーキング装置
424 放出物
425 分離装置
426 接続部
427 燃焼製品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブの製造方法であって、
流動助剤と耐熱性粒子と、第VIIIB族、第VIB族及びそれらの組み合わせからなる群から選ばれた少なくとも1種の触媒性金属を含む担持触媒とを提供すること、ここで該担持触媒は固溶体中に存在し、該耐熱性粒子は砂、石英、セラミックビーズ、アルミナ(Al2O3)、マグネシア(MgO)、ジルコニア(ZrO2)、カーバイド、シリカ、シリサイド及びそれらの混合物から成る群から選ばれ、及び
カーボンナノチューブを含む炭素製品を製造するための十分な温度及び十分な接触時間で、前記触媒と炭素含有供給原料を含む気体流を接触させることを含む方法。
【請求項2】
触媒性金属が第VIIIB族及び第VIB族の両者からの金属を含み、かつ第VIIIB族金属及び第VIB族金属が20:1から3:1の範囲のモル比を有する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
触媒性金属が、耐熱性粒子の重量の0.5重量%から10重量%の範囲の充填量で耐熱性粒子上に存在する請求項1に記載の方法。
【請求項4】
第VIIIB族金属前駆体が、第VIIIB族含有化合物から選ばれ、その際に、前記化合物が、硝酸塩、亜硫酸塩、硫酸塩、炭酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、グルコン酸塩、ヘキサシアノフェライト塩、シュウ酸塩、硫酸トリス(エチレンジアミン)塩及びそれらの組み合わせからなる群から選ばれる請求項1に記載の方法。
【請求項5】
第VIB族金属前駆体が第VI族含有化合物であり、前記化合物がアンモニウム化合物である請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記耐熱性粒子の前駆体が硝酸化合物である請求項1に記載の方法。
【請求項7】
担持触媒が鉄(Fe)及びモリブデン(Mo)の触媒性金属を含み、耐熱性粒子が酸化マグネシウム(MgO)粒子を含み、かつ触媒が鉄、モリブデン及び酸化マグネシウムの前駆体を燃焼させることにより製造されて担持触媒を形成し、炭素製品が単一層カーボンナノチューブを含む請求項1に記載の方法。
【請求項8】
鉄とモリブデンが、10:1から2:1の重量比の範囲で存在する請求項7に記載の方法。
【請求項9】
触媒性金属が、酸化マグネシウム粒子の重量の0.5重量%から10重量%の重量基準で酸化マグネシウム粒子上に存在する請求項7に記載の方法。
【請求項10】
鉄前駆体が、硝酸鉄(III)、亜硫酸鉄、硫酸鉄、炭酸鉄、酢酸鉄、クエン酸鉄、グルコン酸鉄、ヘキサシアノフェライト酸鉄、シュウ酸鉄、硫酸トリス(エチレンジアミン)鉄及びそれらの組み合わせからなる群から選ばれる請求項7に記載の方法。
【請求項11】
モリブデン前駆体が、ヘプタモリブデン酸アンモニウムを含む請求項7に記載の方法。
【請求項12】
酸化マグネシウム前駆体が硝酸マグネシウムを含む請求項7に記載の方法。
【請求項13】
燃焼が、クエン酸、尿素、グリシン、ヒドラジン、蔗糖、カルボヒドラジド、オキサリルジヒドラジド、糖、アルコール及びそれらの組み合わせからなる群から選ばれた少なくとも1種の化合物を含む請求項1又は7に記載の方法。
【請求項14】
燃焼が発泡剤を含む請求項1又は7に記載の方法。
【請求項15】
発泡剤が、クエン酸、尿素、グリシン、ヒドラジン、蔗糖、カルボヒドラジド、オキサリルジヒドラジド、糖、アルコール及びそれらの組み合わせからなる群から選ばれる請求項14に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11A】
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【図11B】
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【図11C】
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【図11D】
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【図12A】
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【図12B】
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【図12C】
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【図12D】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17A】
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【図17B】
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【図18A】
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【図18B】
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【図19】
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【公開番号】特開2011−46611(P2011−46611A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−275284(P2010−275284)
【出願日】平成22年12月10日(2010.12.10)
【分割の表示】特願2004−571430(P2004−571430)の分割
【原出願日】平成15年7月31日(2003.7.31)
【出願人】(508204032)ユニダイム、インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】