説明

拍動検出装置

【課題】 拍動検出装置の検出性能を高めること。
【解決手段】 拍動検出装置100は、脈波センサー10と、フィルター部30と、周波数解析部50と、を含み、周波数解析部50は、フィルター後信号の周波数スペクトルに基づいて、拍動成分と体動信号とを分離する拍動/ノイズ分離処理を含む信号処理を実行して拍動呈示スペクトルを特定する第1処理部60と、脈波信号の周波数スペクトルに基づいて、拍動呈示スペクトルの捕捉を試みる拍動呈示スペクトル捕捉処理を実行する第2処理部70と、第2処理部70による拍動呈示スペクトル捕捉処理の実行の可否を判断する判断部80と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、拍動検出装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
拍動検出装置は、人体の心拍に由来する拍動を検出するための装置であって、例えば、腕、手のひら、手指などに装着される脈波センサーからの信号(脈波信号)から、人体の体動の影響により発生する信号成分(体動影響信号)を雑音として除去し、心拍に由来する信号(拍動信号)を検出する装置である。
【0003】
人の指や手首に装着するタイプの脈波センサーは、例えば、特許文献1〜特許文献3に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−198829号公報
【特許文献2】特開2007−54471号公報
【特許文献3】特開2005−131426号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
拍動信号成分を明確に峻別するに際し、脈波センサーから出力される脈波信号に含まれる拍動信号成分の信号レベルが著しく低い場合には、信号レベルが十分な場合に比べる、峻別処理の難易度が高くなる。
【0006】
本発明の少なくとも一つの態様によれば、例えば、拍動検出装置の検出性能を高めることができる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明の拍動検出装置の一態様は、被検体の拍動に由来する拍動信号を検出する拍動検出装置であって、前記拍動信号と、前記被検体の体動に由来する体動信号を含むノイズ信号とが混在した脈波信号を検出して出力する脈波センサーと、前記脈波信号から、前記ノイズ信号の少なくとも一部を除去するフィルター部と、前記フィルター部から出力されるフィルター後信号、または前記脈波センサーから出力される前記脈波信号に基づいて、所定時間毎に前記周波数解析処理を行って、前記拍動信号を示す拍動呈示スペクトルを特定する周波数解析部と、を含み、前記周波数解析部は、前記フィルター後信号の周波数スペクトルに基づいて、前記拍動信号と前記ノイズ信号とを分離する拍動/ノイズ分離処理を含む信号処理を実行して前記拍動呈示スペクトルを特定する第1処理部と、前記脈波信号の周波数スペクトルに基づいて、前記拍動呈示スペクトルの捕捉を試みる拍動呈示スペクトル捕捉処理を実行する第2処理部と、前記第2処理部による拍動呈示スペクトル捕捉処理の実行の可否を判断する判断部と、を含む。
【0008】
本態様では、周波数解析部は、第1処理部、第2処理部ならびに判断部を有する。第1処理部は、脈波センサーによって検出された脈波信号をフィルター部によってフィルタリングして得られるフィルター後信号に基づいて、拍動信号を示す拍動呈示スペクトルを特定する。第1処理部は、拍動信号と体動信号とを分離する拍動/ノイズ分離処理を含む信号処理を実行する。
【0009】
本態様では、例えば、脈波センサーから出力される脈波信号に含まれる拍動信号成分の信号レベルが著しく低い場合においても、第2処理部によって拍動呈示スペクトルの捕捉を試みることができ、これによって拍動検出の可能性が向上する。この第2処理部は、フィルター前の脈波信号に基づいて拍動呈示スペクトルの捕捉を試みる。
【0010】
フィルタリング処理を行った場合、残留した体動信号による体動スペクトルと、拍動呈示スペクトルとの大きさが同程度になることがあり、この場合、単純にスペクトルの大きさを比較するだけでは、拍動呈示スペクトルがどれなのかを判定することが難しい。この場合であっても、フィルター前の脈波信号に基づいた拍動呈示スペクトルの捕捉処理を試みることによって、拍動信号成分の信号レベルが他の信号成分の信号レベルと比べて相対的に低い拍動信号成分を検出することができる場合がある。
【0011】
但し、フィルター前の脈波信号は、ノイズ対策がまったく行われていない原信号であり、例えば、過大なノイズしか存在しない信号である場合もあり得る。そこで、本態様では、第2処理部による拍動呈示スペクトルの捕捉処理を試みる前に、判断部が、拍動呈示スペクトル捕捉処理の実行の可否を判断することとした。したがって、本態様によれば、拍動検出装置の検出性能を高めることができる。
【0012】
(2)本発明の拍動検出装置の他の態様では、前記判断部は、前記周波数解析部が生成した周波数スペクトルに基づいて、前記脈波信号に含まれるノイズ量の程度に関する判断指標を取得する判断指標取得部と、前記判断指標を用いて、前記脈波信号に含まれるノイズ量の程度を評価する評価部と、を有し、前記評価部による評価に基づいて、前記第2処理部による前記拍動呈示スペクトル捕捉処理の実行の可否を判断する。
【0013】
本態様では、判断部は、脈波信号のきれいさに関する判断指標を取得する判断指標取得部と、判断指標を用いて、脈波信号に含まれるノイズ量の程度を評価する評価部とを有する。判断部は、脈波信号のノイズ状態を判断するための判断指標を取得し、その判断指標を用いて、脈波信号に含まれるノイズ量の程度を評価する。そして、その評価に基づいて、第2処理部による拍動呈示スペクトル捕捉処理の実行の可否を判断する。
【0014】
判断部は、例えば、評価部によって、脈波信号に混入されるノイズ量(例えば外乱ノイズ成分のノイズ量)が所定の基準以下であると判断され場合に、第2処理部による拍動呈示スペクトル捕捉処理の実行可と判断してもよい。換言すれば、脈波信号が、許容レベル以上にきれいであることを第2処理部による拍動呈示スペクトル捕捉処理の実行の条件としてもよい。
【0015】
第2処理部による救済を試みると、ノイズを拍動信号成分と誤検出する可能性が高い。本態様によれば、例えば、外乱ノイズが多い状態では拍動呈示スペクトルの捕捉処理が実行されない。本態様によれば、脈波信号のノイズ状態を慎重に判断しつつ、第2処理部による拍動呈示スペクトルの捕捉処理の可否を判断することができる。
【0016】
(3)本発明の拍動検出装置の他の態様では、前記判断部は、前記周波数解析部が生成した周波数スペクトルに基づいて、前記脈波信号に含まれるノイズ量の程度に関する判断指標を取得する判断指標取得部と、前記判断指標を用いて、前記脈波信号に含まれるノイズ量の程度を評価する評価部と、前記所定時間前の拍動検出の結果を格納している拍動検出履歴格納部と、を有し、前記所定時間前の周波数解析処理において、前記被検体の拍動由来の拍動成分と推定される拍動基線を特定することができ、かつ、前記評価部による評価が許容範囲にあることを条件として、前記第2処理部による前記拍動呈示スペクトル捕捉処理を実行可と判断する。
【0017】
本態様では、周波数解析部による前回の周波数解析によって、拍動呈示スペクトルが検出されていること、ならびに、評価部による、脈波信号に含まれるノイズ量の程度の評価が許容範囲にあることを条件として、第2処理部による拍動呈示スペクトルの捕捉処理を実行する。
【0018】
拍動呈示スペクトルは、所定時間前の過去の拍動信号成分と現在の拍動信号成分との相関性に基づいて捕捉することができる。よって、拍動呈示スペクトルの捕捉処理を実行する条件として、前回の周波数解析処理、すなわち、所定時間前の周波数解析処理において拍動信号の検出に成功していることを条件としてもよい。本態様では、より慎重に拍動呈示スペクトル捕捉処理の可否を判断することができる。
【0019】
(4)本発明の拍動検出装置の他の態様では、前記判断部は、前記周波数解析部が生成した周波数スペクトルに基づいて、前記脈波信号に含まれるノイズ量の程度に関する判断指標を取得する判断指標取得部と、前記判断指標を用いて、前記脈波信号に含まれるノイズ量の程度を評価する評価部と、前記所定時間前の拍動検出の結果を格納している拍動検出履歴格納部と、前記被検体の運動状態を判断する運動状態判断部と、を有し、前記所定時間前の周波数解析処理において、前記被検体の拍動由来の拍動成分と推定される拍動基線を特定することができ、前記評価部による評価が許容範囲にあり、かつ、前記運動状態判断部によって前記被検体が定常状態にあると判断されることを条件として、前記第2処理部による前記拍動呈示スペクトル捕捉処理を実行可と判断する。
【0020】
被検体の運動状態が急激に変化している場合には、脈拍等の変化が急である。
【0021】
よって、本態様では、よって、拍動呈示スペクトルの捕捉処理を実行する条件として、運動状態判断部によって被検体が定常状態にあると判断されることを条件としてもよい。被検体が定常状態である場合とは、例えば、被検体が安定した運動状態や静養状態にある場合をいう。
【0022】
被検体の運動状態は、例えば、体動センサーから得られる体動信号のスペクトルが、所定の時間にわたって大きく変化しないという観点から判断することができる(但し、これに限定されるものではない)。本態様では、より慎重に拍動呈示スペクトル捕捉処理の可否を判断することができる。
【0023】
(5)本発明の拍動検出装置の他の態様では、前記判断部は、前記第1処理部が拍動呈示スペクトルを特定することができなかった場合に、前記判断部は、前記第2処理部による拍動呈示スペクトル捕捉処理の実行の可否を判断する。
【0024】
本態様では、判断部による拍動呈示スペクトル捕捉処理の実行の可否判断は、第1処理部が、フィルター後信号に基づいて拍動呈示スペクトルを特定することができなかった場合に行われる。
【0025】
第1処理部と第2処理部とを並列に動作させることも可能であるが、第1処理部によって拍動呈示スペクトルが特定できた場合には、第2処理部による拍動呈示スペクトルの捕捉は不要である。そこで、第2処理部の無駄な動作をなくすために、本態様では、第1処理部による拍動呈示スペクトルの特定の失敗を条件として、判断部による拍動呈示スペクトルの捕捉処理の可否判断を開始させることとした。
【0026】
(6)本発明の拍動検出装置の他の態様では、前記被検体の体動に伴う体動信号を検出して出力する体動センサーと、前記体動センサーから出力される体動信号に基づいて周波数分解処理を行う周波数分解部と、を有し、前記周波数分解部による周波数分解結果に基づいて推定される、前記被検体の体動由来の体動成分を体動基線とし、異なる周波数のm本(mは1以上の整数)の前記体動基線のうちの第n番目(1≦n≦m)の体動基線を第n体動基線としたとき、前記第2処理部は、周波数解析処理に使用される前記脈波信号の周波数スペクトルにおける前記被検体の拍動由来の拍動成分と推定される第1拍動基線と、前記所定時間前の周波数解析処理に使用された前記脈波信号または前記フィルター後信号の周波数スペクトルに基づいて、前記拍動呈示スペクトルとして特定された第2拍動基線との相関性を重視した第1捕捉処理を実行して、前記拍動呈示スペクトルの捕捉を試みる第1捕捉処理部と、前記脈波信号に、前記第1処理部による前記拍動/ノイズ分離処理と同じ処理を施した後、前記第1拍動基線と、前記第n体動基線との区別の可否に基づいて第2捕捉処理を実行して前記拍動呈示スペクトルの捕捉を試みる第2捕捉処理部と、を有し、前記判断部は、前記拍動呈示スペクトル捕捉処理を実行可と判断した場合、さらに、前記評価部による評価が第1の許容レベルであるか、前記第1許容レベルよりも低い第2許容レベルであるかを判断し、前記判断部によって前記第1許容レベルであると判断されたときは、前記第1捕捉処理部が前記拍動呈示スペクトル捕捉処理を実行し、前記第2許容レベルであると判断されたときは、前記第2捕捉処理部が前記拍動呈示スペクトル捕捉処理を実行する。
【0027】
本態様では、第2処理部の構成と動作の一例が示される。第2処理部は、第1捕捉処理部および第2捕捉処理部を有する。判断部は、拍動呈示スペクトル捕捉処理を実行可と判断した場合、さらに、評価部による評価(ノイズ量の程度に基づく評価)が第1の許容レベルであるか、第1許容レベルよりも低い第2許容レベルであるかを判断する。
【0028】
第1捕捉処理部は、判断結果が第1許容レベルのとき(例えば、ノイズ量の程度が小さく、脈波信号がきれいであるとき)に動作する。第2捕捉処理部は、判断結果が、第1許容レベルよりも低い第2許容レベルのとき(例えば、ノイズ量の程度が第1許容レベルを基準とする場合よりも大きく、脈波信号のきれいさが中程度のとき)に動作する。
【0029】
そこで、第1捕捉処理部は、第1捕捉処理を実行する。この第1捕捉処理では、第1拍動基線と第2拍動基線との相関性に基づく拍動呈示スペクトルの捕捉処理を実行する。第1拍動基線は、今回の周波数解析処理に使用される、「脈波信号」の周波数スペクトルにおける被検体の拍動由来の拍動成分と推定されるスペクトルである。第2拍動基線とは、前回の周波数解析処理に使用された、「脈波信号またはフィルター後信号」の周波数スペクトルに基づいて拍動呈示スペクトルとして特定された拍動基線である。
【0030】
第1捕捉処理部は、第1拍動基線と第2拍動基線との相関を重視して判断したとき、相関性が有る場合には、第1拍動基線を拍動呈示スペクトルと判断する。
【0031】
また、第2捕捉処理部は、例えば、脈波信号が中程度である場合に動作することができる。この場合には、拍動呈示スペクトルの捕捉のためには、拍動基線と外乱ノイズとの分離が必要となる。
【0032】
第2捕捉処理部は、第1処理部で行われる拍動/ノイズ分離処理と同じ処理を実行してもよい。また、第2捕捉処理部は、さらに、今回の検出時の周波数スペクトルにおける第1拍動基線と、第n体動基線との区別の可否に基づいて拍動呈示スペクトルの捕捉を試みてもよい。
【0033】
ここで、体動基線(広義)は、体動センサーから出力される体動信号の、現在ならびに過去の周波数分解結果に基づいて、体動成分と推定されるスペクトルの総称である。外乱ノイズがある程度存在する場合、例えば、被検体が運動している場合等では、体動基線には、異なる周波数のm本(mは1以上の整数)の体動基線が含まれることが多い。
【0034】
第n体動基線は、異なる周波数のm本(n、mは1以上の整数)の体動基線のうち、一番周波数の低い基線を第1番目としそのn倍の周波数に相当する基線を第n体動基線と定義する。例えば、第1波(基本波)の拍動基線が、第n体動基線(1≦n≦m)の位置とは異なる位置にある場合には、第2捕捉処理部は、第1拍動基線が拍動呈示スペクトルであると判断する。この場合、例えば、nが2〜4である場合の体動基線は、nが1である場合の体動基線よりも信号値が小さく、外乱ノイズ中に潜んでいる場合があるため、第n体動基線(例えばn=1〜4)との区別を試みることは、拍動呈示スペクトルの捕捉精度を高める点で有効である。
【0035】
なお、第2捕捉処理においては、第1拍動基線と第2拍動基線との相関性を考慮してもよい。例えば、今回検出時(現在の検出期間における検出時)の周波数スペクトルにおける第1拍動基線と、前回検出時(所定時間前の検出持)の周波数スペクトルにおける第2拍動基線との間の周波数軸上における距離の観点からの判断を行ってもよい。
【0036】
本態様では、脈波信号に含まれるノイズ量の程度に応じて、拍動呈示スペクトルの捕捉処理の内容を切り替えることから、脈波信号の状態に応じた適切な拍動呈示スペクトルの捕捉処理を実行することができる。
【0037】
(7)本発明の拍動検出装置の他の態様では、前記第1捕捉処理部は、前記第1拍動基線の周波数軸上における第1位置と、前記第2拍動基線の周波数軸上における第2位置との間の距離によって、前記相関性を判断する。
【0038】
本態様では、第1捕捉処理部の動作の一例が示される。今回の検出(現在の検出期間における検出)に係る第1拍動基線の周波数軸上の第1位置と、前回の検出(所定時間前の検出)に係る第2拍動基線の周波数軸上における第2位置との間の距離を、相関性の判断の基準としてもよい。例えば、周波数軸上における距離が、例えば、距離2以内であるとき、つまり、周波数軸上において、第2拍動基線の第2位置を基準として、第1拍動基線が2本のスペクトル以内で隣り合っているとき、第1捕捉処理部は、相関ありと判断して、第1拍動基線を拍動呈示スペクトルと判断してもよい。
【0039】
(8)本発明の拍動検出装置の他の態様では、前記第2捕捉処理部は、前記第1拍動基線が前記第n体動基線と重なっていないという第1条件と、前記第1拍動基線が前記第2拍動基線に対して、周波数軸上で所定の距離以内であるという第2条件と、を満足する場合に、前記第1拍動基線を、拍動呈示スペクトルとして特定する。
【0040】
本態様では、第2捕捉処理部は、第1条件の他に、第2条件が満足されるか否かの判断も実行し、より慎重に拍動呈示スペクトルを捕捉する。
【0041】
例えば、第1拍動基線が、体動センサー出力の周波数分解結果に基づいて特定される第n体動基線に重なっていないことを第1条件とし、第1拍動基線が、周波数軸上で、第2拍動基線に対して所定距離内にあることを、第2条件としてもよい。
【0042】
「所定距離内」は、例えば、距離2以内とすることができる。距離2とは、第1拍動基線が、第2拍動基線に対して、1本のスペクトルを隔てて隣り合っていることである。距離2以内とは、距離0、距離1または距離2のいずれかであることを意味する。すなわち、本態様では、第2捕捉処理部は、周波数軸上でスペクトル(基線)が3本分離れるということが発生しないものとして、拍動呈示スペクトルの呈示処理を行う。上述の第1条件と第2条件を満足する場合には、第2捕捉処理部は、第1拍動基線を拍動呈示スペクトルとして捕捉する。これによって、例えば、目立つノイズに引きずられることなく、拍動信号成分の信号レベルが他の信号成分の信号レベルと比べて相対的に低いような拍動呈示スペクトルを特定できる可能性が高まる。
【0043】
このように、本発明の少なくとも一つの態様によれば、例えば、拍動検出装置の検出性能を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の拍動検出装置の一例の構成を示す図
【図2】図2(A)および図2(B)は、第1捕捉処理部による第1捕捉処理の一例を示す図
【図3】図3(A)および図3(B)は、第2捕捉処理部による第2捕捉処理の一例を示す図
【図4】本発明の拍動検出装置の他の例の構成を示す図
【図5】図5(A)〜図5(C)は、脈波信号に含まれるノイズ量の程度の判断動作を説明するための脈波信号の波形および周波数スペクトルの一例を示す図
【図6】第2処理部による、拍動呈示スペクトルの捕捉処理(第2処理)の手順の一例を示すフローチャート
【図7】図7(A)および図7(B)は、第2捕捉処理の適用例を示す図
【図8】図8(A)〜図8(C)は、第1捕捉処理の適用例を示す図
【図9】図9(A)〜図9(D)は、外乱ノイズの混入が著しい例を示す図
【図10】腕時計型の脈拍計測装置を被検体の手首に装着し、被検体が歩行(ウォーキング)を行ったときにおける、検出された脈拍数の変化を示す図
【図11】図11(A)および図11(B)は、拍動検出装置の、被検体への装着例を示す図
【図12】図12(A)および図12(B)は、拍動信号成分が強い場合におけるフィルタリングの効果を示す図
【図13】図13(A)および図13(B)は、拍動信号成分が弱い場合におけるフィルタリングの効果を示す図、
【図14】図14(A)および図14(B)は、被検体が安定運動している最中に、非周期的な外乱ノイズが混入した場合の例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0045】
本実施形態の説明に入る前に、フィルター後信号に基づいて拍動呈示スペクトルを特定するのが困難である場合について考察する。フィルター後信号とは、脈波センサーから出力される脈波信号に、フィルター部によるフィルタリング処理を施すことによって得られる信号である。フィルタリング処理は、脈波信号に含まれるノイズを除去あるいは抑制するための信号処理である。
【0046】
図12(A)および図12(B)は、拍動信号成分が強い場合におけるフィルタリングの効果を示す図である。図12(A)の上側には、16秒分の脈波信号が示されており、下側には脈波信号のFFT結果(0〜4Hzまでの周波数スペクトル)が示されている。図12(B)の16秒分フィルター後信号が示されており、下側にはフィルター後信号のFFT結果(0〜4Hzまでの周波数スペクトル)が示されている。
【0047】
図12(A)および図12(B)の例は、拍動信号成分が強い場合の例である。図12(A)では、拍動信号のスペクトルS20の信号値は、比較的大きなノイズ成分のスペクトルN21〜N23と比べて十分に大きい。したがって、脈波信号とノイズとを区別するためのフィルタリング処理を実行すると、図12(B)に示すように、ノイズは十分に低減されてS/Nが向上し、拍動信号のスペクトルS30をノイズと区別することが容易となる。
【0048】
ここで、図13(A)および図13(B)を参照する。図13(A)および図13(B)は、拍動信号成分が弱い場合におけるフィルタリングの効果を示す図である。図13(A)の上側には、16秒分の脈波信号が示されており、下側には脈波信号のFFT結果(0〜4Hzまでの周波数スペクトル)が示されている。図13(B)の上側には16秒分のフィルター後信号が示されており、下側にはフィルター後信号のFFT結果(0〜4Hzまでの周波数スペクトル)が示されている。
【0049】
図13(A)では、ノイズのスペクトルN40,N41の信号値が大きく、これに対して、拍動呈示スペクトルS40の信号値は小さく、拍動呈示スペクトルS40はノイズに拍動信号成分の信号レベルが他の信号成分の信号レベルと比べて相対的に低い状態となっている。図13(B)の例では、フィルタリングによるノイズ除去の効果が顕著に表れ、フィルタリング後のS/Nは、フィルター前のS/Nよりも格段に向上している。
【0050】
しかしながら、フィルタリング処理を行った場合、残留した体動信号による体動スペクトルと、拍動呈示スペクトルとの大きさが同程度になることがあり、この場合、単純にスペクトルの大きさを比較するだけでは、拍動呈示スペクトルがどれなのかを判定することが難しい。
【0051】
図14(A)および図14(B)は、被検体が安定運動している最中に、非周期的な外乱ノイズ(例えば脈波センサーを物体に衝突させた場合の衝撃ノイズ)が混入した場合の例を示す図である。図14(A)の上側には、16秒分の脈波信号が示されており、下側には脈波信号のFFT結果(0〜4Hzまでの周波数スペクトル)が示されている。図14(B)の上側には16秒分のフィルター後信号が示されており、下側にはフィルター後信号のFFT結果(0〜4Hzまでの周波数スペクトル)が示されている。
【0052】
図14(A)では、拍動呈示スペクトルS60の周波数よりも低い周波数帯域において、大きな外乱ノイズのスペクトルN60が存在している。図14(B)では、フィルタリングの効果によって、外乱ノイズのスペクトルN60は抑圧されるが、拍動呈示スペクトルS60の信号値も低下しており、結果的に、拍動呈示スペクトルS60の特定が困難である。
【0053】
以下に説明する本実施形態の拍動検出装置では、このような状況であっても、フィルター前の脈波信号に基づく周波数解析を実行して、拍動呈示スペクトルの捕捉を試みる。ここで、図13(A)および図13(B)に示す例に着目する。
【0054】
図13(B)の例では、拍動呈示スペクトルS50が、ノイズのスペクトルN50と同程度の大きさである。また、拍動呈示スペクトルS50と近い周波数帯に外乱ノイズのスペクトルも多数存在しており、よって、図12の場合と比較すると拍動呈示スペクトル特定処理の難易度が高い。
【0055】
これに対し、図13(A)の例では、N40、N41といった体動呈示スペクトルが存在するものの、これらとは離れた周波数帯に、拍動呈示スペクトルS40が存在する。また、更には拍動呈示スペクトルS40は、隣り合う他のスペクトルと比較すると相対的には大きいスペクトルとなっている。よって、脈波信号dが図13(A)のような信号状態であることを検出した上であれば、S40が確かに拍動呈示スペクトルであると容易に判定可能と言える。
【0056】
つまり、例えば、所定時間前の過去と現在の拍動信号成分の相関性等に着目すれば、拍動呈示スペクトルS40が存在する周波数域から離れた周波数域における大きなノイズのスペクトルに惑わされることなく、拍動呈示スペクトルを特定する可能性があるといえる。
【0057】
そこで、以下の本実施形態では、拍動検出装置に、フィルター前の脈波信号に基づく周波数解析の機能を付与し、新規な検出アルゴリズムを用いて拍動呈示スペクトルの捕捉を行えるようにした。
【0058】
但し、フィルター前の脈波信号は、ノイズフィルタリング処理を行っていない原信号であり、例えば、拍動信号成分と比較して大きなノイズが含まれる場合があり得る。この場合に該当するのが、図14に示す例である。この場合には、拍動呈示スペクトルの捕捉処理を行わないのが好ましい。
【0059】
このような観点から、以下に述べる実施形態においては、判断部を設けて、拍動呈示スペクトルの捕捉処理を試みる前に、判断部が、拍動呈示スペクトル捕捉処理の実行の可否を判断することとした。
【0060】
判断部は、例えば、脈波信号に含まれるノイズが多い状態である場合や、被検体(人ならびに動物を含む)の運動状態が急激に変化している場合、所定時間前の過去の検出時点において拍動呈示スペクトルの検出に失敗している場合等においては、拍動呈示スペクトルの捕捉処理は不可と判断してもよい(但し、上述の場合は一例であり、これらの場合に限定されるものではない)。
【0061】
以下、図1〜図3を参照して、具体的に説明する。なお、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、本実施形態で説明される構成の全てが、本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0062】
(第1実施形態)
図1は、本発明の拍動検出装置の一例の構成を示す図である。図1に示される拍動検出装置100は、被検体(人や動物を含む)の拍動に由来する拍動信号、拍動信号に対応する心拍等の生体情報等を検出するセンサー装置の一種である。
【0063】
ここで、拍動とは、医学的には心臓のみならず内臓一般の周期的な収縮、弛緩が繰り返された場合に起こる運動のことをいう。ここでは、心臓が周期的に血液を送るポンプとしての動きを拍動と呼ぶ。なお、心拍数とは、1分間の心臓の拍動の数をいう。また、脈拍数は、末梢血管における脈動の数をいう。心臓が血液を送り出す際に、動脈に脈動が生じるので、この回数を数えたものを脈拍数あるいは単に脈拍と呼ぶ。腕で脈を計測する限りは、医学的には心拍数とは呼ばずに脈拍数と呼ぶのが通常である。また、以下の説明では、体動という用語が使用される。体動とは、広い意味では、体を動かすことすべてを意味する(広義の体動)。体動センサーから出力される体動信号は、広義の体動に対応する信号であり、体動センサー信号と言い換えることができる。但し、体動信号の中には、被検体の周期的な体動(例えば、歩行・ジョギングなどに伴う定常的、周期的な腕(脈拍計の装着部位近辺)の振り等)に伴う周期的な体動信号が含まれる。この周期性をもつ体動信号は、狭義の体動(周期性のある体動)に対応する信号である。なお、例えば、広義の体動信号を「体動センサー信号」という場合、狭義の体動信号を、単に「体動信号」といってもよい。
【0064】
(拍動検出装置の構成例)
図1に示される拍動検出装置100は、脈波センサー10と、体動センサー(加速度センサー等)20と、フィルター部(前処理部)30と、周波数解析部50と、脈拍数算出部90と、表示処理部92と、表示部94と、を有する。
【0065】
脈波センサー10は、拍動信号と、被検体の体動に由来する体動ノイズ信号を含むノイズ信号とが混在した脈波信号dを検出して出力する。脈波センサー10は、例えば、光電脈波センサー、およびその原理に基づく脈波センサーとすることができる。
【0066】
体動センサー20は、被検体の体動、例えば、歩行やジョギングなどに伴う定常的、周期的な腕(脈拍計の装着部位近辺)の動きを検出するセンサーであり、例えば、加速度センサーやジャイロセンサーを含むことができる。
【0067】
フィルター部30は、脈波信号dおよび体動信号(体動センサー20から出力される信号)fを入力として、フィルタリング処理を実行して、脈波信号dに含まれるノイズを最小化する。フィルター部30は、特に限定されるものではないが、適応フィルター(図1では不図示、図5の参照符号32)を含んでもよい。
【0068】
適応フィルターは、入力信号に基づいて、伝達関数を自己適応的に変化させることができるデジタルフィルターである。適応フィルターは一般にデジタル信号処理を行うデジタルフィルターとして実装される。フィルターの所望の性能(例えば、入力信号に含まれるノイズ成分を最小化するといった性能)を維持するために、所定のアルゴリズム(例えば最適化アルゴリズム)が使用される。所定のアルゴリズムには、フィルタリング後の信号に基づいて得られる信号がフィードバックされ、そのアルゴリズムによる適応処理によってフィルター係数が適応的に変化し、その結果として、適応フィルターの周波数応答特性が変化する。適応フィルターを使用することによって、例えば、周期性のある信号と非周期的なノイズとを分離することができる。
【0069】
周波数解析部50は、フィルター部30から出力されるフィルター後信号e、または脈波センサー10から出力される脈波信号dに基づいて、所定時間毎(例えば4秒毎)に周波数解析処理を行って、拍動信号を示す拍動呈示スペクトルを特定する。ここで、フィルター後信号eは、脈波信号dをフィルタリングして得られる信号である。
【0070】
周波数解析部50は、高速フーリエ変換(FFT)によって実時間上の信号を周波数軸上の信号に変換する周波数分解部40(第1周波数分解部40a、第2周波数分解部40bならびに第3周波数分解部40cを含む)と、フィルター後信号eのFFT結果g1ならびに体動信号fのFFT結果g2に基づいて、拍動呈示スペクトルを特定する第1処理部(後処理部)60と、脈波信号dのFFT結果g3に基づいて、拍動呈示スペクトルの捕捉を試みる拍動呈示スペクトル捕捉処理を実行する第2処理部(捕捉処理部)70と、第2処理部70による拍動呈示スペクトル捕捉処理の実行の可否を判断する判断部80と、を含む。
【0071】
なお、第1周波数分解部40aは、フィルター後信号eにFFT(高速フーリエ変換)を施す。第2周波数分解部40bは、体動信号fにFFTを施す。また、第3周波数分解部40cは、脈波信号dにFFTを施す。
【0072】
第1処理部(後処理部)60は、ピーク順ソート部62と、相関判断部64と、拍動/ノイズ分離部66と、拍動呈示スペクトル特定部68と、を含むことができる。
【0073】
第2処理部(捕捉処理部)70は、相関性に基づく捕捉処理を実行する第1捕捉処理部72と、第2捕捉処理部74(図1において破線で囲んで示すブロック)とを含む。第2捕捉処理部74は、第1処理部60の構成要素であるピーク順ソート部62、相関判断部64ならびに拍動/ノイズ分離部66に、距離と区別性に基づく捕捉部76を追加して構成される。ピーク順ソート部62、相関判断部64ならびに拍動/ノイズ分離部66と同等の機能をもつブロックを新たに設けてもよい。但し、この場合、同じ機能をもつブロックが重複する。よって本実施形態では、第1処理部60の構成要素であるピーク順ソート部62、相関判断部64ならびに拍動/ノイズ分離部66を、第2捕捉処理部74の構成要素としても活用している。
【0074】
第1処理部60による第1処理(後処理)は、脈波信号dに含まれる拍動信号成分の信号値(振幅値)が大きい場合に有効である。第2処理部70による第2処理(拍動呈示スペクトルの捕捉処理)は、例えば、第1処理部60による拍動呈示スペクトルの特定に失敗した場合に行うことができる(但し、これに限定されるものではない)。
【0075】
判断部80は、周波数解析部50に含まれる第3周波数分解部40cが生成した周波数スペクトルg3に基づいて、第2処理部70による拍動呈示スペクトルの捕捉処理の可否を判断する。この判断は、例えば、脈波信号dに含まれるノイズ量の程度の評価に基づいて行うことができる。判断部80による判断動作については、第2実施形態にて詳述する。
【0076】
例えば、判断部80が、脈波信号dに含まれるノイズ量の程度が大きい(脈波信号dのきれいさの程度がきれい:目立つノイズ少)と判断したとき、第2処理部70による拍動呈示スペクトルの捕捉処理が実行される。この場合、例えば、第1捕捉処理部72が捕捉処理を実行する。また、脈波信号dに含まれるノイズ量の程度が中程度(脈波信号dのきれいさの程度がまあまあ:外乱中程度)の場合には、第2捕捉処理部74が捕捉処理を実行する。第1捕捉処理ならびに第2捕捉処理の内容の一例については、図2および図3を用いて後述する。
【0077】
第1処理部60または第2処理部70が拍動呈示スペクトルの特定、捕捉に成功すると、脈拍数算出部90は、被検体の脈拍数を算出する。脈拍数は、例えば、拍動呈示スペクトルの周波数に基づいて算出する。求められた脈拍数の情報は、脈拍数算出部90から表示処理部92を経由して表示部94に供給され、例えば、脈波数を示す数値が、表示部94によって表示される。なお、脈拍数ではなく、検出した脈の、時間軸上における変化を信号波形やグラフの形式で表示してもよい。
【0078】
(図1の構成によって得られる効果等)
第1処理部60は、フィルター後信号eのFFT結果g1および体動信号fのFFT結果g2に基づいて、拍動信号を示す拍動呈示スペクトルを特定する。図1の拍動検出装置は、第2処理部70を備える。第2処理部70は、脈波信号dに外乱ノイズが多く含まれ、拍動信号成分の信号レベルが他の信号成分の信号レベルと比べて相対的に低いような場合であっても、第2処理部70によって拍動呈示スペクトルの捕捉を試みる。これによって拍動検出の可能性が向上する。この第2処理部70は、フィルター前の脈波信号dに基づいて拍動呈示スペクトルの捕捉を試みる。フィルター前の脈波信号dに基づいた拍動呈示スペクトルの捕捉処理を試みることによって、拍動信号成分を検出することができる可能性(拍動呈示スペクトルの捕捉処理による救済の効果)が生じる。
【0079】
但し、フィルター前の脈波信号dは、ノイズ対策がまったく行われていない原信号であり、例えば、過大なノイズしか存在しない信号である場合もあり得る。
【0080】
そこで、図1の拍動検出装置100では、第2処理部70による拍動呈示スペクトルの捕捉処理を試みる前に、判断部80が、拍動呈示スペクトル捕捉処理の実行の可否を判断することとした。判断部80は、例えば、脈波信号dに含まれるノイズが多い状態である場合や、被検体(人ならびに動物を含む)の運動状態が急激に変化している場合、所定時間前の過去の検出時点において拍動呈示スペクトルの検出に失敗している場合等においては、第2処理部70による拍動呈示スペクトルの捕捉処理は不可と判断する。具体例については後述する。
【0081】
したがって、図1の拍動検出装置100によれば、拍動検出性能を高めることができる。また、例えば、脈波センサーを手首外側(腕時計の裏蓋面と接触する部位)など、脈波信号を取得しにくい部位に装着するタイプの拍動検出装置において、拍動信号を表す拍動呈示スペクトルの特定性能を向上させることができる。
【0082】
(第1処理部による第1処理の内容)
第1処理部60による第1処理は、フィルター後信号eのFFT結果g1ならびに体動信号fのFFT結果g2に基づいて実行することができる。第1処理は、脈波信号dに含まれる拍動信号成分の信号値(振幅値)が大きい場合に有効である。
【0083】
第1処理は、例えば、以下の手順により行われる。ピーク順ソート部62は、フィルター後信号e1のFFT結果g1に基づいて、スペクトルを信号値が大きい順にソーティングする。例えば、上位10本のスペクトルのいずれかが拍動信号を示す拍動呈示スペクトルである可能性が高い。
【0084】
次に、相関判断部64が、相関判断を実行する。周波数解析部50による周波数解析が4秒毎に行われる場合、相関判断部64は、所定時間前の過去(つまり直近の過去)である4秒前の検出時に検出された拍動スペクトルを基準として、今回の検出(現在の検出期間における検出)に係る上位10本のスペクトルについて相関の有無を判断する。これにより、拍動呈示スペクトルと推定される1本の候補が抽出される。
【0085】
次に、拍動/ノイズ分離部66は、抽出された候補について、体動を示す体動呈示スペクト等のノイズとの分離が可能かを判断する。例えば、抽出された候補の周波数が、体動スペクトルの周波数とは明らかに異なる場合には分離可能と判断される。
【0086】
また、希に、抽出された候補の周波数と体動スペクトルの周波数とが一致する場合もあるが、この場合でも、例えば、所定時間前の過去および現在の体動信号の相関性等を考慮して、その候補を、体動呈示スペクトルと区別できる場合がある。
【0087】
拍動呈示スペクトル特定部68は、体動呈示スペクトルとは異なることが明らかとなった候補を、拍動呈示スペクトルとして特定することができる。
【0088】
(第2処理部による第2処理の内容)
上述のとおり、第2処理部70による第2処理(拍動呈示スペクトルの捕捉処理)は、例えば、第1処理部60による拍動呈示スペクトルの特定ができなかった場合に行ってもよい。すなわち、判断部80による拍動呈示スペクトル捕捉処理の実行の可否判断は、第1処理部60が、拍動呈示スペクトルを特定することができなかった場合に行ってもよい。
【0089】
第1処理部60と第2処理部70とを並列に動作させることも可能であるが、第1処理部60によって拍動呈示スペクトルが特定できた場合には、第2処理部70による拍動呈示スペクトルの捕捉は不要である。第2処理部70の無駄な動作をなくすという観点から、第1処理部60による拍動呈示スペクトルの特定ができないときに、判断部80による拍動呈示スペクトルの捕捉処理の可否判断を開始させるのが好ましい。
【0090】
第2処理部70による第2処理(拍動呈示スペクトルの捕捉処理)は、第1捕捉処理部72による第1捕捉処理と、第2捕捉処理部74による第2捕捉処理と、に大別される。上述のとおり、第1捕捉処理部72は、例えば、脈波信号dに含まれるノイズ量の程度に基づく評価が第1許容レベルである場合(例えば、ノイズ量の程度が小さく、脈波信号がきれいであるとき)に動作する。また、第2捕捉処理部74は、脈波信号dに含まれるノイズ量の程度に基づく評価が第1許容レベルよりも低い第2許容レベルである場合(例えば、ノイズ量の程度が第1許容レベルを基準とする場合よりも大きく、脈波信号のきれいさが中程度のとき)に動作する。
【0091】
脈波信号に含まれるノイズ量の程度に応じて、拍動呈示スペクトルの捕捉処理の内容を切り替えることによって、脈波信号の状態に応じた適切な拍動呈示スペクトルの捕捉処理を実行することができる。
【0092】
なお、以下の説明では、「拍動基線」ならびに「体動基線」という用語を使用する場合がある。拍動基線は、周波数分解部40の周波数分解処理によって得られる周波数スペクトルにおける、被検体の拍動由来の拍動成分と推定されるスペクトルである。体動基線は、周波数分解部40の周波数分解処理によって得られる周波数スペクトルにおける、被検体の体動由来の体動成分と推定されるスペクトルである。
【0093】
また、「拍動基線(広義)」には、今回の(つまり、現在の検出期間での)周波数解析処理に使用される脈波信号の周波数スペクトルにおける、被検体の拍動由来の成分と推定される「第1拍動基線」と、前回の(つまり所定時間前の)周波数解析処理に使用された脈波信号またはフィルター後信号の周波数スペクトルに基づいて、拍動呈示スペクトルとして特定された「第2拍動基線」とが含まれる。
【0094】
第1拍動基線は、今回の検出処理に係る拍動基線であり、「現在の拍動基線あるいは今回の拍動基線」と称する場合がある。また、第2拍動基線は、前回(所定時間前の過去)の検出処理に係る拍動基線であり、「所定時間前の過去の拍動基線あるいは前回の拍動基線」と称する場合がある。これらは相関性の有無の判断において使用される。
【0095】
また、体動基線(広義)は、体動センサー20から出力される体動信号fの、現在ならびに過去の周波数分解結果に基づいて、体動成分と推定されるスペクトルの総称である。外乱ノイズがある程度存在する場合、例えば、被検体が運動している場合等では、体動基線には、異なる周波数のm本(mは1以上の整数)の体動基線が含まれることが多い。
【0096】
第n体動基線は、異なる周波数のm本(n、mは1以上の整数)の体動基線のうち、一番周波数の低い基線を第1番目としそのn倍の周波数に相当する基線を第n体動基線と定義する。例えば、第1波(基本波)の拍動基線が、第n体動基線(1≦n≦m)の位置とは異なる位置にある場合には、第2処理部70は、第1拍動基線が拍動呈示スペクトルであると判断する。この場合、例えば、nが2〜4である場合の体動基線は、nが1である場合の体動基線よりも信号値が小さく、外乱ノイズ中に潜んでいる場合があるため、第n体動基線(例えばn=1〜4)との区別を試みることは、拍動呈示スペクトルの捕捉精度を高める点で有効である。
【0097】
(第1捕捉処理)
まず、第1捕捉処理部72による第1捕捉処理について、図2(A)および図2(B)を用いて説明する。図2(A)および図2(B)は、第1捕捉処理部による第1捕捉処理の一例を示す図である。図2(A)および図2(B)には、0〜4Hzまでの脈波信号をFFTして得られる周波数スペクトルが示されている。
【0098】
上述のとおり、第1捕捉処理部72は、脈波信号dに含まれるノイズ量の程度に基づく評価が第1許容レベルである場合(例えば、ノイズ量の程度が小さく、脈波信号がきれいであるとき)に動作する。ここで、脈波信号が「きれい」である場合とは、例えば、広範囲の周波数域にわたってスペクトルのレベルが総じて小さく、その中に、信号値の大きな目立つスペクトル(一般的には、検出の目的とするスペクトルの候補となり得る)が含まれており、その目立つスペクトルの数がそれほど多くはない、というような場合である。一般的には、このような場合、目立つ複数本のスペクトルを抽出し、過去の拍動成分との相関性や、ノイズとの峻別性等に基づく判断を行うことが有効とされている。
【0099】
但し、拍動信号成分の信号レベルが他の信号成分の信号レベルと比べて相対的に著しく低い場合等には、一見、信号がきれいな状態であっても、第1処理部60による拍動/ノイズ分離処理を含む信号処理(参照符号62〜66のブロックによってなされる一連の信号処理)では、拍動信号を特定できない場合がある。
【0100】
また、一見、信号がきれいに見える場合としては、拍動信号が存在せず、全部がノイズであるという場合がある。つまり、スペクトル全体の形状からみると、一見、きれいな信号に見えるが、実際は、目的とする信号成分はノイズに埋もれてほとんど認識することができない状態(つまり、全部がノイズであって目的とする拍動信号がない状態)である場合がある。このような場合、検出の目的である拍動信号が無いのであるから、外乱ノイズと拍動信号との分離を試みても効果がないと言える。
【0101】
そこで、第1捕捉処理部72では、第1捕捉処理を実行する。この第1捕捉処理において、拍動呈示スペクトルの捕捉のためには、上述した第1拍動基線(今回の検出に係る拍動基線)と第2拍動基線(所定時間前の過去の検出に係る拍動基線)との間の相関性に着目することが有効である。
【0102】
上述のとおり、第1拍動基線は、今回の周波数解析処理に使用される、「脈波信号」の周波数スペクトルにおける被検体の拍動由来の拍動成分と推定されるスペクトルである。第2拍動基線とは、前回の周波数解析処理に使用された、「脈波信号またはフィルター後信号」の周波数スペクトルに基づいて、拍動呈示スペクトルとして特定された拍動基線である。
【0103】
前回検出時の周波数スペクトルにおける第1拍動基線と、今回検出時の周波数スペクトルにおける第2拍動基線との相関を重視して判断したとき、相関性が有るとみることができれば、第1捕捉処理部72は、第1拍動基線は、検出目的の拍動呈示スペクトルであると判断する。よって、拍動信号成分の信号レベルが他の信号成分の信号レベルと比べて相対的に低いような場合であっても、第1拍動基線を拍動呈示スペクトルとして捕捉することができる。この場合、第1拍動基線と第2拍動基線との間の相関によって判断していることから、仮に比較的大きなノイズがあったとしても、拍動呈示スペクトルを捕捉することができる。
【0104】
また、外乱ノイズ(非周期的ノイズ)との分離は困難であっても、体動(周期的な腕振り等)に由来する周期的な体動信号との区別は可能であることが多い。よって、相関性有りと判断され、かつ、周期的な体動信号と区別できることを、拍動呈示スペクトルの捕捉の条件としてもよい。図2(A)および図2(B)の例では、この判断基準を採用して、拍動呈示スペクトルを捕捉する。
【0105】
図2(A)において、X1が体動基線であり、X2が拍動基線であるとする。拍動基線X2は、体動基線X1よりも十分に小さく、ノイズに埋もれた状態となっている。
【0106】
この場合において、図2(B)に示すように、まず、0〜4Hzの周波数スペクトルの中から、信号値の大きいもの順に、例えば10本のスペクトルを抽出する。ここでは、信号値の大きいスペクトルから順に、スペクトルL1〜L10とする。抽出されたスペクトルの中に、拍動呈示スペクトルが存在する可能が高い。但し、信号値に着目した判断を実行すると、信号値の大きなノイズのスペクトルを拍動呈示スペクトルとして誤検出する可能性が高い。よって、所定時間前の過去の検出に係る拍動基線(第2拍動基線)と、今回の検出に係る第1拍動基線との相関性を重視して、拍動呈示スペクトルを特定する。
【0107】
図2(B)において、第2拍動基線(前回の拍動基線)はL0である。ここでは、実際の拍動呈示スペクトルはL6であるとする。L1〜L10が、拍動呈示スペクトルの候補であり、各スペクトルL1〜L10が、今回の検出に係る第1拍動基線(一応、拍動成分と推定できる基線)となる。
【0108】
次に、所定時間前の過去(4秒前)に拍動基線と推定され、かつ拍動呈示スペクトルとして特定された拍動基線(第2拍動基線)L0と、各スペクトルL1〜L10との周波数軸上における距離を算出する。
【0109】
第1拍動基線L0に最も近い第1拍動基線はL6である。ここで、周波数軸上におけるL0とL6の距離に着目する。L0とL6の距離は「2」である。「距離2」とは、周波数軸上で、第2拍動基線L0の位置(第2位置)を基準として、第1拍動基線L6の位置(第1位置)が1本のスペクトルを隔てて隣り合っている場合の距離である。例えば、「基準のスペクトルに対して距離2以内のスペクトル」というとき、基準のスペクトルに対して、2本のスペクトル以内で、低周波数側(左)あるいは高周波数側(右)において隣り合っているスペクトル、という意味である。第1捕捉処理部72は、基準となる第2拍動基線L0と、今回の検出に係る第1拍動基線L6の距離が「距離2以内(=距離0,距離1,距離2)」であるとき、第1拍動基線L6を拍動呈示スペクトルとしてもよい。
【0110】
例えば、スペクトル1本分が、脈拍数3.75拍分に相当する。被検体である人が定常的に同じようなリズムで運動しているとき、4秒間に、脈拍数が“20”以上変化することは極めて希である。ここで、周波数軸上での距離が3であるということ(周波数軸上で、スペクトル(基線)が3本分離れること)は、被検体の脈波数が“10”(上記の脈拍数“20”の半分)変化するのに相当する。
【0111】
本実施形態では、第1捕捉処理部72は、4秒間における脈拍数の“10”の変化は発生しないものとして、判断処理を実行する。上記の脈拍数20に対して半分の値10を基準としたのは、判定処理の安全度を加味したためである。
【0112】
したがって、図2(B)の例では、第1捕捉処理部72は、ピーク順が6番のスペクトルである第1拍動基線L6を、拍動呈示スペクトルとして特定する。
【0113】
以上の手順は、第1捕捉処理の一例であり、変形が可能である。例えば、上述の手順によれば、信号ピークの上位10本の全部について、第2拍動基線L2との間の距離判断やスペクトルの大きさの比に基づく判断が必要であるが、次に示す判断を行うことで、第1拍動基線を減らすことができる。すなわち、判断処理量を減らすことができる。
【0114】
ここで、体動センサー20から出力される体動信号fのFFT結果に基づいて、スペクトルL1が体動基線(第n体動基線)と推定できる場合、このスペクトルL1と、このスペクトルL1の、低周波数側(左)ならびに高周波数側(右)に隣り合う各1本のスペクトルL2,L3は、第1拍動基線(今回の検出に係る、拍動成分と推定される基線)から除外することができる。3本のスペクトルL1〜L3は、体動成分である可能性が極めて高いからである。
【0115】
これによって、第1拍動基線は、L4〜L10の7本となる。この場合、第1拍動基線の数が減少した分、第2拍動基線L2との間の距離判断のための、第1捕捉処理部72の負担が軽減されることになる。なお、後述する図6のステップST10,ST11では、体動基線(第n体動基線)と、その体動基線の左右に位置する各1本のスペクトルを第1拍動基線から除外した後、第2拍動基線との間の距離判定を実行している。
【0116】
(第2捕捉処理)
第2捕捉処理部74は、上述のとおり、脈波信号dに含まれるノイズ量の程度に基づく評価が第1許容レベルよりも低い第2許容レベルである場合、例えば、ノイズ量の程度が第1許容レベルを基準とする場合よりも大きく、脈波信号のきれいさが中程度(まあまあきれい)のときに動作する。
【0117】
脈波信号dには、ノイズ少(きれい)の場合と比べてかなり目立つ非周期的なノイズ(外乱ノイズ)が多く含まれている。よって、拍動呈示スペクトルの捕捉のためには、拍動基線とその他の基線(外乱ノイズや体動ノイズに起因してスペクトル値が大きくなっている)とを区別するために別の判断処理、すなわち第2捕捉処理が必要となる。
【0118】
第2捕捉処理部74は、第1処理部60で行われる拍動/ノイズ分離処理(図1の例における、参照符号62〜66のブロックによって行われる処理)と同じ処理を実行することができる。但し、これだけでは、拍動信号と外乱ノイズとを十分には区別できない可能性がある。
【0119】
そこで、第2捕捉処理部は、さらに、今回の検出時の周波数スペクトルにおける第1拍動基線と、第n体動基線との区別の可否に基づいて拍動呈示スペクトルの捕捉を試みる。
【0120】
上述のとおり、第n体動基線は、異なる周波数のm本(n、mは1以上の整数)の体動基線のうち、一番周波数の低い基線を第1番目としそのn倍の周波数に相当する基線を第n体動基線と定義する。例えば、第1波(基本波)の拍動基線が、第n体動基線(1≦n≦m)の位置とは異なる位置にある場合には、第2捕捉処理部は、第1拍動基線が拍動呈示スペクトルであると判断する。この場合、例えば、nが2〜4である場合の体動基線は、nが1である場合の体動基線よりも信号値が小さく、外乱ノイズ中に潜んでいる場合があるため、第n体動基線(例えばn=1〜4)との区別を試みることは、拍動呈示スペクトルの捕捉精度を高める点で有効である。
【0121】
このように、第2捕捉処理部74による第2捕捉処理は、例えば、第1処理部で行われる拍動/ノイズ分離処理と同じ処理を、フィルター前の脈波信号のFFT結果に対して実行し、さらに、体動基線(第n体動基線)との区別の可否を慎重に判断する処理ということができる。
【0122】
なお、第2捕捉処理においては、第1拍動基線と第2拍動基線との相関性も考慮してもよい。例えば、今回検出時の周波数スペクトルにおける第1拍動基線と、第2拍動基線との間の周波数軸上における距離の観点からの判断を、拍動呈示スペクトルの捕捉の条件としてもよい。
【0123】
例えば、今回検出に係る第1拍動基線が、体動センサー出力の周波数分解結果に基づいて特定される体動基線(基本波成分ならびに高調波成分を含む)に重なっていないことを第1条件とし、今回検出に係る第1拍動基線が、周波数軸上で、第2拍動基線に対して所定距離内にあることを第2条件としてもよい。
【0124】
本実施形態では、第2捕捉処理部74は、周波数軸上でスペクトル(基線)が3本分離れるということが発生しないものとして、拍動呈示スペクトルの呈示処理を行う。上述の第1条件と第2条件を満足する場合には、第2捕捉処理部は、第1拍動基線を拍動呈示スペクトルとして捕捉する。これによって、例えば、目立つノイズに引きずられることなく、拍動信号成分の信号レベルが他の信号成分の信号レベルと比べて相対的に低いような拍動呈示スペクトルを特定できる可能性が高まる。
【0125】
図3(A)および図3(B)は、第2捕捉処理部による第2捕捉処理の一例を示す図である。図3(A)および図3(B)には、0〜4Hzまでの脈波信号をFFTして得られる周波数スペクトルが示されている。図3(A)は第2捕捉処理によって救済が可能である例を示し、図3(B)は第2捕捉処理によっても救済することができない例を示す。
【0126】
第2捕捉処理部74は、フィルター前の脈波信号dについて、ピーク順ソート部62、相関判断部64ならびに拍動/ノイズ分離部66による拍動/ノイズ分離処理を実行する。この後、捕捉部76が、体動基線(第n体動基線)との峻別(区別)の可否を判断する。捕捉部76は、さらに、第1拍動基線と第2拍動基線との相関性を考慮してもよい。例えば、今回検出時の周波数スペクトルにおける第1拍動基線と、第2拍動基線との間の周波数軸上における距離の観点からの判断を行ってもよい。
【0127】
図3(A)の例では、第2拍動基線がL13であり、今回の検出に係る第1拍動基線がL14である。また、第n体動基線(n=2)をL15とし、第n体動基線(n=3)をL16とする。
【0128】
図3(A)の例では、第1拍動基線L14は、第n体動基線(n=2,3)L15,L16と重なってはいない。また、第2拍動基線L13と、今回の検出に係る第1拍動基線L14との間の、周波数軸上での距離は「距離2」である。よって、第1拍動基線L14は、第2拍動基線L13と相関があると判断できる。よって、第1拍動基線L14を、拍動呈示スペクトルとして捕捉することができる。
【0129】
図3(B)の例では、第2拍動基線がL17であり、今回の検出に係る第1拍動基線がL18である。また、第n体動基線(例えばn=1)をL19とする。
【0130】
図3(B)の例では、第1拍動基線L18が、第n体動基線(例えばn=1)L19と重なっている。つまり、第1拍動基線L18は、第n体動基線(例えばn=1)L19と区別がつかない。上述の第1条件を満足しないことから、第1拍動基線L18を、拍動呈示スペクトルとして捕捉することができない。
【0131】
また、図3(B)の例では、第1拍動基線L18は、第2拍動基線L17に対する周波数軸上での距離が3である。すなわち、第1拍動基線L8は、2本のスペクトルを隔てて、第2拍動基線L2に隣り合っている。よって、第2条件(距離2以内である)を満足せず、この点でも、第1拍動基線L18を、拍動呈示スペクトルとして捕捉することができない。この場合には、拍動呈示スペクトルを検出できない。
【0132】
(第2実施形態)
本実施形態では、拍動検出装置の構成と動作をより具体的に説明する。本実施形態では
特に、判断部80の構成と動作について詳述する。
【0133】
図4は、本発明の拍動検出装置の他の例の構成を示す図である。図4において、図1と共通する部分には同じ参照符号を付し、その説明を省略している。
【0134】
図4に示される拍動検出装置100は、脈波センサー10と、脈波信号蓄積部(4秒分の脈波信号dのデータを蓄積する第1バッファメモリー13および16秒分の脈波信号dのデータを蓄積する第2バッファメモリー15を有する)12と、適応フィルター32および体動成分除去フィルター34を含むフィルター部30と、体動センサー(加速度センサーやジャイロセンサー等)20と、体動信号蓄積部22と、周波数解析部50と、脈拍数算出部90と、表示処理部92と、表示部94と、を有する。
【0135】
上述のとおり、脈波センサー10は、例えば、光電脈波センサー及びその原理に基づく脈波センサーである。脈波センサー10は、拍動信号と、被検体(人や動物)の体動に由来する体動ノイズ信号を含むノイズ信号とが混在した脈波信号dを出力する。
【0136】
ここで、脈波信号dは、例えば、拍動信号成分(定常的成分あるいは周期的成分)と、体動ノイズ成分(定常的あるいは周期的成分)と、外乱ノイズ成分(衝撃ノイズ等の、非定常的あるいは非周期的成分)とを含む。
【0137】
脈波センサー10から出力される脈波信号dの、4秒分の信号が、第1バッファメモリー13に蓄積される。4秒分の脈波信号dは、4秒周期で、第2バッファメモリー15に転送される。第2バッファメモリー15はFIFO(ファーストイン・ファーストアウト)メモリーであり、16秒分の脈波信号は、4秒分ずつ更新される。16秒分の脈波信号を蓄積するのは、周波数解析によって拍動成分を特定するとき、ある程度の時間幅で信号の推移を観測し、脈拍の時間的変化を含めて慎重に検討する必要があるからである。
【0138】
フィルター部30は、入力信号に、定常的(周期的)な周波数成分とその他の非定常的(非周期的)な成分が含まれるときに、それらを分離して出力することのできる適応フィルターの一種である。フィルター部30に含まれる適応フィルター32によって、脈波信号dに含まれる定常的(周期的)な周波数成分とその他の非定常的(非周期的)な成分とを分離することができる。また、体動成分除去フィルター34によって、例えば、脈波信号dに含まれる目立つ体動成分を除去・抑制することができる。
【0139】
周波数解析部50は、信号分配部39と、第1周波数分解部40a〜第3周波数分解部40cと、タイミング部43と、第1処理部60と、第2処理部70(第1捕捉処理部72および第2捕捉処理部74とを含む)と、判断部80を含む。
【0140】
信号分配部39は、フィルター後信号eを第1周波数分解部40aに供給し、体動信号fを第2周波数分解部40bに供給し、フィルター前の脈波信号dを第3周波数分解部40cに供給する。
【0141】
タイミング部43は、第1処理部60ならびに第2処理部70の動作タイミングを制御する。なお、第1処理部60ならびに第2処理部70の動作は、前掲の実施形態にて説明したとおりである。
【0142】
判断部80は、周波数解析部(ここでは、第3周波数分解部40c)が生成した周波数スペクトルに基づいて、脈波信号dのきれいさに関する判断指標を取得する判断指標取得部81と、判断指標を用いて、脈波信号dに含まれるノイズ量の程度を評価する評価部83と、被検体の運動状態を判断する運動状態判断部85と、前回の拍動検出の結果を格納している拍動検出履歴格納部87と、捕捉処理の実行可否判断部89と、を有する。
【0143】
捕捉処理の実行可否判断部89は、例えば、評価部83による評価に基づいて、第2処理部70による拍動呈示スペクトル捕捉処理の実行の可否を判断してもよい(第1判断例)。
【0144】
また、前回の周波数解析処理において、被検体の拍動由来の拍動成分と推定される拍動基線を特定することができ、かつ、評価部83による評価が許容範囲にあることを条件として、第2処理部70による拍動呈示スペクトル捕捉処理の実行可と判断してもよい(第2判断例)。
【0145】
また、前回の周波数解析処理において、被検体の拍動由来の拍動成分と推定される拍動基線を特定することができ、評価部83による評価が許容範囲にあり、かつ、運動状態判断部85によって被検体が定常状態にあると判断されることを条件として、第2処理部70による拍動呈示スペクトル捕捉処理の実行可と判断してもよい。
【0146】
なお、第1処理部60と第2処理部70とを並列に動作させることも可能であるが、第1処理部60によって拍動呈示スペクトルが特定できた場合には、第2処理部70による拍動呈示スペクトルの捕捉は不要である。そこで、第2処理部70の無駄な動作をなくすために、第1処理部60によって拍動呈示スペクトルの特定ができなかったときに、判断部80による拍動呈示スペクトルの捕捉処理の可否判断を開始させてもよい。
【0147】
(第1判断例)
判断部80に含まれる捕捉処理の実行可否判断部89は、脈波信号dに含まれるノイズ量の程度の評価に基づいて、第2処理部70による拍動呈示スペクトル捕捉処理の実行の可否を判断する。なお、脈波信号dに含まれるノイズ量の程度の判断指標の具体例、ならびに評価の例については、図5を用いて後述する。
【0148】
捕捉処理の実行可否判断部89は、脈波信号dに含まれるノイズ量の程度の評価を参照して、例えば、脈波信号に混入されるノイズ量(例えば外乱ノイズ成分のノイズ量)が所定の基準以下であると判断される場合に、第2処理部70による拍動呈示スペクトル捕捉処理の実行可と判断してもよい。換言すれば、脈波信号dが、許容レベル以上にきれいであることを第2処理部70による拍動呈示スペクトル捕捉処理の実行の条件としてもよい。
【0149】
第1判断例によれば、外乱ノイズ(非周期的ノイズ)が多い状態では、このような場合には、拍動呈示スペクトルの捕捉処理が実行されない。よって、拍動呈示スペクトルの誤検出の可能性が低減される。第1判断例によれば、脈波信号dのノイズ状態を慎重に判断しつつ、第2処理部70による拍動呈示スペクトルの捕捉処理の可否を判断してもよい。
【0150】
(第2判断例)
判断部80に含まれる捕捉処理の実行可否判断部89は、前回の周波数解析処理において、被検体の拍動由来の拍動成分と推定される拍動基線を特定することができ、かつ、評価部83による評価が許容範囲にあることを条件として、第2処理部70による拍動呈示スペクトル捕捉処理の実行可と判断してもよい。
【0151】
第2判断例では、周波数解析部(ここでは、第1周波数分解部40aまたは第3周波数分解部40c)による前回の周波数解析によって、拍動呈示スペクトルが検出(特定)されていること、ならびに、評価部83による、脈波信号dに含まれるノイズ量の程度の評価が許容範囲にあることを条件として、第2処理部70による拍動呈示スペクトルの捕捉処理を実行する。
【0152】
上述の第1判断例では、ノイズについての基準によって、第2処理部70による拍動呈示スペクトルの捕捉処理の可否を判断していた。第2判断例では、前回の拍動信号の検出に成功しているという条件を満足するか否かも判断する。前回の拍動検出の結果は、拍動検出履歴格納部87に格納されている。捕捉処理の実行可否判断部89は、拍動検出履歴格納部87から前回の結果を読み出して参照することによって、前回の拍動信号の検出の成功/不成功を確認することができる。
【0153】
上述のとおり、周波数分解部40(40a〜40c)は、一定時間毎(例えば4秒毎)に周波数解析処理を行って拍動呈示スペクトルを特定する。第2判断例では、前回の検出に成功していない場合には、第2処理部70による拍動呈示スペクトルの捕捉処理は実行されない。
【0154】
上述のとおり、拍動呈示スペクトルの検出には、所定時間前の過去の拍動信号成分と現在の拍動信号成分との相関性に着目することが有効である。よって、前回の拍動信号の検出に成功しているか否かを条件としてもよい。第2判断例では、より慎重に拍動呈示スペクトル捕捉処理の可否を判断することができる。
【0155】
(第3判断例)
第3判断例では、判断部80に含まれる捕捉処理の実行可否判断部89は、前回の周波数解析処理において、被検体の拍動由来の拍動成分と推定される拍動基線を特定することができ、評価部83による評価が許容範囲にあり、かつ、運動状態判断部85によって被検体が定常状態にあると判断されることを条件として、第2処理部70による拍動呈示スペクトル捕捉処理の実行可と判断してもよい。
【0156】
被検体の運動状態が急激に変化している場合には、脈拍等の変化が急である。よって、運動状態判断部85によって被検体が定常状態にあると判断される、という条件によって、第2処理部70による拍動呈示スペクトルの捕捉処理の実行の可否を判断してもよい。
【0157】
被検体が定常状態にある場合とは、例えば、被検体が一定の速度で歩行している場合のように、体動センサー20から得られる体動信号の状態が安定している状態、あるいは、被検体が安静状態にある場合等である。例えば、被検体が静止している状態から歩行状態に移行したとき、当初は加速過程にあることから、体動信号のスペクトル(体動スペクトル)は一定しない。被検体の歩行状態が安定する(例えば、一定の速度で歩行する状態となる)と、体動信号のスペクトルが安定し、時間が経過しても、体動スペクトルに大きな変化が生じない状態となる。
【0158】
運動状態判断部85は、例えば、20秒間(1回の測定が4秒であるとすると、その5倍の期間)にわたって、体動スペクトルに大きな変化が見られない場合に、被検体が定常状態にあると判断する。但し、これは一例であり、これに限定されるものではない。例えば、現在ならびに過去の脈波信号のスペクトルの安定性を判断基準とすることもできる。また、後述するr5,r10という指標によっても、被検体の運動状態を判断することができる。
【0159】
運動状態判断部85による被検体の運動状態の判断結果(定常状態/非定常状態の判断結果)は、捕捉処理の実行可否判断部89に供給される。第3判断例では、より慎重に拍動呈示スペクトル捕捉処理の可否を判断することができる。
【0160】
(脈波信号に含まれるノイズ量の程度(ノイズ量の程度)の判断について)
以下、脈波信号dに含まれるノイズ量の程度(ノイズ量の程度)の判断の例について説明する。図5(A)〜図5(C)は、脈波信号に含まれるノイズ量の程度の判断動作を説明するための脈波信号の波形および周波数スペクトルの一例を示す図である。
【0161】
図5(A)〜図5(C)において、上側には、16秒間のFFT前の脈波信号dの信号波形が示されている。横軸は時間を示し、縦軸は信号の振幅を示す。また、下側には、0から4Hzの周波数帯域における周波数スペクトルが示されている。横軸は周波数を示し、縦軸はスペクトル値を示す。
【0162】
ここで、図5(A)は、ノイズ少(脈波信号のきれいさの程度がきれい)の場合における脈波信号dの波形と周波数スペクトルを示し、図5(B)は、ノイズが中程度(脈波信号のきれいさの程度がまあまあきれい)の場合における脈波信号の波形と周波数スペクトルを示しており、図5(C)は、脈波信号dに多くのノイズが含まれる場合(脈波信号のきれいさの程度がノイジー)における脈波信号dの波形と周波数スペクトルを示している。図5(A)〜図5(C)の各々の比較から明らかなように、脈波信号dの波形と周波数スペクトルとは密接に関連しており、脈波信号の波形に対応して、周波数スペクトルの分布状態やスペクトル値が変化する。よって、FFTによって得られる周波数スペクトルに基づいて、脈波信号dにする重畳するノイズの状態(ノイズ量の程度)を推定することが可能である。
【0163】
図5の例では、ノイズ量の程度の推定のための指標として、例えば、主要な周波数スペクトルのスペクトル値の比(つまり、基線の高さの比)を用いることができる。具体的には、r5およびr10という指標を用いる(ただし、一例であり、他の統計的指標、例えば、標準偏差等を用いてもよい)。ここで、r5とは、16秒分の脈波信号の周波数スペクトルの中から、ピーク値の大きさの順に5本のスペクトルを並べたとき(つまり、ソーティングしたとき)、第1番目のスペクトルのスペクトル値(パワー)を分母とし、第5番目のスペクトルのスペクトル値(パワー)を分子とすることによって得られる指標である。
【0164】
また、r10とは、16秒分の脈波信号の周波数スペクトルの中から、ピーク値の大きさの順に10本のスペクトルを並べたとき(つまりソーティングしたとき)、第1番目のスペクトルのスペクトル値(パワー)を分母とし、第10番目のスペクトルのスペクトル値(パワー)を分子とすることによって得られる指標である。指標r5,r10は、判断部80に含まれる判断指標取得部81によって取得される。
【0165】
ここでは、一例として、r5<0.5かつr10<0.2のときをノイズ少(きれい)とし、r5>0.7かつr10>0.5のときをノイズ多(ノイジー)とし、上記いずれでもない場合をノイズが中程度(まあまあ)とする。
【0166】
図5(A)の例では、r5=0.14かつr10=0.08であることから、ノイズ少(きれい)と判断される。また、図5(B)の例では、r5=0.56かつr10=0.35であることから、ノイズが中程度(まあまあ)と判断される。図5(C)の例では、r5=0.82かつr10=0.62であることから、ノイズ多(ノイジー)と判断される。
【0167】
このような判断処理が、判断部80に含まれる評価部83によって実行される。なお、被検体の運動状態も、上述の指標r5、r10を用いて推定することもできる。被検体の運動状態によって脈波信号dの波形が変化すると、その変化は、周波数スペクトルの変化となって現れ、周波数スペクトルの変化は、指標r5,r10に反映されるからである。被検体の運動状態は、上述のとおり、運動状態判断部85によって実行される。
【0168】
(拍動呈示スペクトルの捕捉処理のフローの例について)
図6は、第2処理部による、拍動呈示スペクトルの捕捉処理(第2処理)の手順の一例を示すフローチャートである。
【0169】
上述のとおり、例えば、第1処理部60による拍動呈示スペクトルの特定(第1処理)に失敗した場合に、第2処理部70による拍動呈示スペクトルの捕捉処理(第2処理)を実行することができる。
【0170】
まず、判断部80は、前回拍動呈示スペクトル(拍動基線)を特定できたかを判断する(ステップST1)。特定できたとき(ステップST1:Y)のときは、被検体が定常状態であるかを判断する(ステップST2)。定常状態であるときは(ステップST2:Y)のときは、脈波信号に含まれるノイズ量の程度(脈波信号のきれいさの程度)を判断する(ステップST3)。具体的には、きれいさの程度が、きれい(外乱ノイズ少:第1許容レベル)、まあまあ(外乱ノイズ中程:第2許容レベル)、ノイジー(許容レベル未満)のいずれであるかを判断する。
【0171】
ステップST1でNのとき、あるいは、ステップST2でNのときは、拍動呈示スペクトルの検出失敗とする(ステップST9)。また、ステップST3で、ノイジーと判断されたときも、拍動呈示スペクトルの検出失敗とする(ステップST9)。
【0172】
ステップST3で、外乱ノイズ少(脈波信号のきれいさの程度がきれい:第1許容レベル)と判断された場合には、第1捕捉処理部72が、第1捕捉処理(図6の左側において、破線で囲んで示されるステップST10〜ST16)を実行する。ステップST3で、外乱ノイズ中程度(脈波信号のレベルがまあまあきれい:第2許容レベル)と判断された場合には、第2捕捉処理部74が、第2捕捉処理(図6の右下において、破線で囲んで示されるステップST4〜ST7)を実行する。
【0173】
第1捕捉処理が実行される場合、まず、第1捕捉処理部72は、ピーク順ソート部62でソートされた結果の順位が10位以内のスペクトルを抽出し、その10本の中から、体動基線(複数本あるときは、好ましくは各線)と重なっていない、あるいは、各体動基線の、低周波数側(左)あるいは高周波数側(右)に隣り合う1本を除くという条件を満足するスペクトルをリストアップする(ステップST10)。リストアップされたスペクトルを、第1拍動基線(今回の検出に係る拍動基線)とすることができる。
【0174】
次に、第1捕捉処理部72は、リストアップした第1拍動基線毎に、第2拍動基線(前回の検出に係る拍動基線)との間の周波数軸上における距離を算出する(ステップST11)。
【0175】
ステップST12では、距離0の第1拍動基線があるかを検出し、有れば(ステップST12:Y)、拍動呈示スペクトルの検出に成功する(ステップST13)。
【0176】
ステップST14では、距離1の第1拍動基線があるかを検出する。第1拍動基線が有る場合(ステップST14:Y)であって、第2拍動基線の左右の両側に各1本が存在する場合には、信号値が大きい方の第1拍動基線を選択する(ステップST15)。これによって、拍動呈示スペクトルの検出に成功する(ステップST13)。
【0177】
ステップST16では、距離2の第1拍動基線があるかを検出し、有れば(ステップST16:Y)、拍動呈示スペクトルの検出に成功する(ステップST13)。
【0178】
ステップST12,ST14,ST16のいずれかにおいてNの場合は、拍動呈示スペクトルを検出せずと判断する。(ステップST17)。
【0179】
次に、第1捕捉処理の手順について説明する。上述のとおり、ステップST3で、脈波信号に含まれるノイズ量の程度が中程度(脈波信号のきれいさの程度がまあまあきれい:第2許容レベル)と判断された場合には、第2捕捉処理部74が、第2捕捉処理(図6の右下において、破線で囲んで示されるステップST4〜ST7)を実行する。
【0180】
第2捕捉処理部74は、まず、ステップST4にて、フィルター後信号の最大スペクトル値(最大信号値)が所定値(ここでは相対値1000)以下であるかを判定する。このステップST4は必須ではないが、実行するのが好ましい。第2捕捉処理の趣旨は、例えば、総じて信号値が大きくなく、かつ全体のスペクトルの形状として凹凸が少ない場合に、信号レベルが相対的に小さい拍動呈示スペクトルを見つけ出すということにある。よって、例えば、最大信号値が1000を超えるスペクトルが含まれる場合には、上述の趣旨に反することになる。つまり、ステップST4でNの場合には、拍動呈示スペクトルの検出に失敗する(ステップST9)。
【0181】
ステップST4でYの場合には、フィルター前の脈波信号に対して第1処理(第1処理部60で行われる拍動/ノイズ分離のための処理と同等の処理:図1の参照符号62〜64のブロックで実行される処理)を実行する(ステップST5)。
【0182】
次に、拍動基線(拍動成分と推定される第1拍動基線)が存在するか否かを判定する(ステップST6)。ステップST6でNの場合は、拍動呈示スペクトルの検出に失敗する(ステップST9)。
【0183】
ステップST6でYの場合は、ステップST7の処理を実行する。ステップST7では、今回の検出に係る拍動基線(第1拍動基線)が、第n体動基線(例えば、n=1〜4の各基線)に重なっていないかを判断し(第1条件の判断)、さらに、第1拍動基線は第2拍動基線に対して2本以内で隣り合っている(換言すれば、3本以上離れていない)か、を判断する(第2条件の判断)。これらの2つの条件を満たす場合(Yの場合)、拍動呈示スペクトルの検出に成功する(ステップST8)。Nの場合は、拍動呈示スペクトルの検出に失敗する(ステップST9)。
【0184】
(第2捕捉処理の適用例)
図7(A)および図7(B)は、第2捕捉処理の適用例を示す図である。図7(A)および図7(B)の例では、体動ノイズが多く混入し、外乱ノイズの混入は少ない。
【0185】
図7(A)の上側には、16秒分のフィルター後信号が示されており、下側にはフィルター後信号のFFT結果(0〜4Hzまでの周波数スペクトル)が示されている。図7(B)の上側には、16秒分の脈波信号が示されており、下側には脈波信号のFFT結果(0〜4Hzまでの周波数スペクトル)が示されている。図7(B)の例では、脈波信号に含まれるノイズ量の程度は中程度であり、脈波信号dのきれいさの程度は、「まあまあきれい」と評価される。
【0186】
図7(A)の例では、フィルター後信号に基づく周波数分解によって得られるスペクトルに含まれる拍動基線S2は小さく、体動ノイズN3と区別する困難性は、拍動基線S2が大きい場合に比べて高くなる。しかし、図7(B)に示すように、フィルター前の脈波信号周波数分解によって得られるスペクトルに含まれる拍動基線S1(第1拍動基線S1)はかなり大きく、かつ、拍動基線S1の周波数軸上における位置は、過大な体動ノイズN1,N2の位置から離れている。
【0187】
図7(B)の例では、第2捕捉処理部74による第2捕捉処理が実行される。すなわち、フィルター前の脈波信号に対して、フィルター後信号に対する拍動/ノイズ分離処理と同様の信号処理を施し、第1拍動基線S1を、複数本の第n体動基線N1,N2(n=1,2に相当)から分離する。図7(B)の場合、第1拍動基線S1は、第n体動基線N1,N2と重なっておらず、区別することができる。よって、第1拍動基線S1を、拍動呈示スペクトルとして捕捉(特定)することができる。また、前回の検出時において、脈波信号に基づいて第2拍動基線の特定に成功しているのならば、その第2拍動基線との相関性を併せて判断すると、判断の精度が向上する。
【0188】
(第1捕捉処理の適用例)
図8(A)〜図8(C)は、第1捕捉処理の適用例を示す図である。図8(A)〜図8(C)は、体動ノイズの混入は多くはないが、外乱ノイズの混入がある例を示す。この場合、脈波信号に含まれるノイズ量の程度は見かけ上「小さい」、つまり、脈波信号dのきれいさの程度は見かけ上「きれい」と評価される。
【0189】
図8(A)の上側には、前回の16秒分のフィルター後信号が示されており、下側には前回のフィルター後信号のFFT結果(0〜4Hzまでの周波数スペクトル)が示されている。図8(B)の上側には、今回の16秒分のフィルター後信号が示されており、下側には今回のフィルター後信号のFFT結果(0〜4Hzまでの周波数スペクトル)が示されている。図8(C)の上側には、今回の16秒分の脈波信号が示されており、下側には今回の脈波信号のFFT結果(0〜4Hzまでの周波数スペクトル)が示されている。
【0190】
図8(A)の例では、前回のフィルター後信号に基づく周波数分解によって得られるスペクトルに含まれる拍動基線(第2拍動基線)S3の信号値は小さいものの、周囲のノイズよりも信号値は大きく、第1処理部60による第1処理によって、拍動呈示スペクトルが特定されている。
【0191】
但し、図8(B)の例では、今回のフィルター後信号に基づく周波数分解によって得られるスペクトルでは、拍動基線(第1拍動基線)の信号レベルは、他の基線の信号レベルよりも相対的に低い。
【0192】
この場合には、第1捕捉処理部72による第1捕捉処理が実行される。第1捕捉処理を実行した結果を示すのが図8(C)の例である。図8(C)の例では、上述のとおり、脈波信号に含まれるノイズ量の程度は、目立つ体動基線等がないことから、一応、小さい(脈波信号dのきれいさの程度はきれい)と判断される。但し、外乱ノイズが多いため、第1拍動基線S4を検出する難易度は、外乱ノイズが少ない場合に比べて高くなる。
【0193】
この場合には、例えば、第1捕捉処理部72が、第2拍動基線S3と、今回の検出に係る第1拍動基線S4との相関性を重視した判断を実行し、その相関性に基づいて、第1拍動基線S4を拍動呈示スペクトルとして特定する。このとき、第1拍動基線S4が、体動基線(例えば複数本の第n体動基線)と重なっていないという観点からの判断を併用することによって、判断の精度が向上する。
【0194】
図9(A)〜図9(D)は、外乱ノイズの混入が著しい例(脈波信号に含まれるノイズ量の程度が大きい、すなわち脈波信号のきれいさの程度がノイジーである例)を示す図である。例えば、拍動検出装置を、周囲の物体に衝突させたことによって衝撃ノイズが混入したような場合が該当する。
【0195】
図9(A)の上側には、前回の16秒分のフィルター後信号が示されており、下側には前回のフィルター後信号のFFT結果(0〜4Hzまでの周波数スペクトル)が示されている。図9(B)の上側には、前回の16秒分の脈波信号が示されており、下側には前回の脈波信号のFFT結果(0〜4Hzまでの周波数スペクトル)が示されている。また、図9(C)の上側には、今回の16秒分のフィルター後信号が示されており、下側には今回のフィルター後信号のFFT結果(0〜4Hzまでの周波数スペクトル)が示されている。図9(D)の上側には、今回の16秒分の脈波信号が示されており、下側には今回の脈波信号のFFT結果(0〜4Hzまでの周波数スペクトル)が示されている。
【0196】
図9(A)〜図9(D)に示されるいずれの例でも、目立つ外乱ノイズばかりであり、拍動基線Sは見あたらない。拍動基線Sが仮に存在したとしても、その拍動基線Sの信号レベルは、他の基線の信号レベルよりも相対的に低い。よって、この場合には、判断部80は、脈波信号がノイジーな状態であると判断する。この結果、拍動呈示スペクトルの捕捉処理は実行されない。
【0197】
(脈拍計測の結果の一例)
図10は、腕時計型の脈拍計測装置を被検体の手首に装着し、被検体が歩行(ウォーキング)を行ったときにおける、検出された脈拍数の変化を示す図である。図10の例では、計測開始(t=0)から60秒間の間、被検体(ユーザー)は安静な状態を保ち、60秒が経過した時点から歩行を開始している。
【0198】
計測開始後60秒〜120秒までの期間T1では、被検体の運動開始に伴って脈拍数が、かなり急激に上昇している。この期間T1において、脈拍検出に失敗する可能性が高いと言える。すなわち、第1処理部60による、フィルター後信号に基づく周波数解析処理では、脈拍数の変化が大きい期間T1において、周波数スペクトル値が小さくなり、かつ個々の周波数スペクトルが分散する結果となり、脈拍数の変化が少ない期間に比べて、特徴的な拍動基線(拍動呈示スペクトル)の検出の難易度が高くなる。
【0199】
しかし、本実施形態の拍動検出装置によれば、拍動呈示スペクトルの捕捉処理が実行されることから、期間T1においても、正しい脈拍数を安定的に計測することが可能である。
【0200】
(第3実施形態)
図11(A)および図11(B)は、拍動検出装置の、被検体への装着例を示す図である。
【0201】
図11(A)の例は、腕時計型の拍動検出装置の例である。脈波センサー10および表示部94を含むベース部400は、リストバンド300によって、被検体(ユーザー)の左手首200に装着されている。
【0202】
図11(B)の例は、指装着型の拍動検出装置の例である。被検体の指先に挿入するためのリング状のガイド302の底部に、脈波センサー10が設けられている。
【0203】
本発明はいずれのタイプの拍動検出装置にも適用可能であるが、腕時計型の拍動検出装置(図11(A)の例)に適用するのが、より好ましい。図11(A)の例では、脈波センサー10が、手首外側(腕時計の裏蓋面と接触する部位)など、脈波信号を取得しにくい部位に装着される。このため、脈波センサー10から出力される脈波信号の振幅が総じて小さくなる傾向にある。本発明を適用することによって、腕時計型の拍動検出装置における拍動呈示スペクトルの特定性能が向上する。
【0204】
このように、本発明の少なくとも一つの実施形態によれば、例えば、拍動検出装置の検出性能を高めることができる。また、例えば、脈波センサーを手首外側(腕時計の裏蓋面と接触する部位)など、脈波信号を取得しにくい部位に装着するタイプの拍動検出装置において、拍動信号を示す拍動呈示スペクトルの特定性能を向上させることができる。
【0205】
なお、上記のように本実施形態について詳細に説明したが、本発明の新規事項及び効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できるであろう。従って、このような変形例はすべて本発明の範囲に含まれるものとする。また、明細書又は図面において、少なくとも一度、より広義又は同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書又は図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。
【符号の説明】
【0206】
10 脈波センサー、11 体動センサー(加速度センサーやジャイロセンサー等)、
12 脈波信号蓄積部、17 適応フィルター切り替え部、30 フィルター部、
40(40a〜40c) 周波数分解部、
60 第1処理部(後処理部)、62 ピーク順ソート部、
64 相関判定部、66 拍動/体動分離部(拍動/ノイズ分離部)、
70 第2処理部(捕捉処理部)、72 第1捕捉処理部、74 第2捕捉処理部、
76 捕捉部、80 判断部、90 脈拍数算出部、92 表示処理部、
94 表示部、100 拍動検出装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体の拍動に由来する拍動信号を検出する拍動検出装置であって、
前記拍動信号と、前記被検体の体動に由来する体動信号を含むノイズ信号とが混在した脈波信号を検出して出力する脈波センサーと、
前記脈波信号から、前記ノイズ信号の少なくとも一部を除去するフィルター部と、
前記フィルター部から出力されるフィルター後信号、または前記脈波センサーから出力される前記脈波信号に基づいて、所定時間毎に前記周波数解析処理を行って、前記拍動信号を示す拍動呈示スペクトルを特定する周波数解析部と、を含み、
前記周波数解析部は、
前記フィルター後信号の周波数スペクトルに基づいて、前記拍動信号と前記ノイズ信号とを分離する拍動/ノイズ分離処理を含む信号処理を実行して前記拍動呈示スペクトルを特定する第1処理部と、
前記脈波信号の周波数スペクトルに基づいて、前記拍動呈示スペクトルの捕捉を試みる拍動呈示スペクトル捕捉処理を実行する第2処理部と、
前記第2処理部による拍動呈示スペクトル捕捉処理の実行の可否を判断する判断部と、を含むことを特徴とする拍動検出装置。
【請求項2】
請求項1記載の拍動検出装置であって、
前記判断部は、
前記周波数解析部が生成した周波数スペクトルに基づいて、前記脈波信号に含まれるノイズ量の程度に関する判断指標を取得する判断指標取得部と、
前記判断指標を用いて、前記脈波信号に含まれるノイズ量の程度を評価する評価部と、を有し、
前記評価部による評価に基づいて、前記第2処理部による前記拍動呈示スペクトル捕捉処理の実行の可否を判断することを特徴とする拍動検出装置。
【請求項3】
請求項1記載の拍動検出装置であって、
前記判断部は、
前記周波数解析部が生成した周波数スペクトルに基づいて、前記脈波信号に含まれるノイズ量の程度に関する判断指標を取得する判断指標取得部と、
前記判断指標を用いて、前記脈波信号に含まれるノイズ量の程度を評価する評価部と、
前記所定時間前の拍動検出の結果を格納している拍動検出履歴格納部と、を有し、
前記所定時間前の周波数解析処理において、前記被検体の拍動由来の拍動成分と推定される拍動基線を特定することができ、かつ、前記評価部による評価が許容範囲にあることを条件として、前記第2処理部による前記拍動呈示スペクトル捕捉処理を実行可と判断することを特徴とする拍動検出装置。
【請求項4】
請求項1記載の拍動検出装置であって、
前記判断部は、
前記周波数解析部が生成した周波数スペクトルに基づいて、前記脈波信号に含まれるノイズ量の程度に関する判断指標を取得する判断指標取得部と、
前記判断指標を用いて、前記脈波信号に含まれるノイズ量の程度を評価する評価部と、
前記所定時間前の拍動検出の結果を格納している拍動検出履歴格納部と、
前記被検体の運動状態を判断する運動状態判断部と、を有し、
前記所定時間前の周波数解析処理において、前記被検体の拍動由来の拍動成分と推定される拍動基線を特定することができ、前記評価部による評価が許容範囲にあり、かつ、前記運動状態判断部によって前記被検体が定常状態にあると判断されることを条件として、前記第2処理部による前記拍動呈示スペクトル捕捉処理を実行可と判断することを特徴とする拍動検出装置。
【請求項5】
請求項1記載の拍動検出装置であって、
前記判断部は、前記第1処理部が拍動呈示スペクトルを特定することができなかった場合に、前記判断部は、前記第2処理部による拍動呈示スペクトル捕捉処理の実行の可否を判断することを特徴とする拍動検出装置。
【請求項6】
請求項5記載の拍動検出装置であって、
前記被検体の体動に伴う体動信号を検出して出力する体動センサーと、
前記体動センサーから出力される体動信号に基づいて周波数分解処理を行う周波数分解部と、を有し、
前記周波数分解部による周波数分解結果に基づいて推定される、前記被検体の体動由来の体動成分を体動基線とし、異なる周波数のm本(mは1以上の整数)の前記体動基線のうちの第n番目(1≦n≦m)の体動基線を第n体動基線としたとき、
前記第2処理部は、周波数解析処理に使用される前記脈波信号の周波数スペクトルにおける前記被検体の拍動由来の拍動成分と推定される第1拍動基線と、前記所定時間前の周波数解析処理に使用された前記脈波信号または前記フィルター後信号の周波数スペクトルに基づいて、前記拍動呈示スペクトルとして特定された第2拍動基線との相関性を重視した第1捕捉処理を実行して、前記拍動呈示スペクトルの捕捉を試みる第1捕捉処理部と、
前記脈波信号に、前記第1処理部による前記拍動/ノイズ分離処理と同じ処理を施した後、前記第1拍動基線と、前記第n体動基線との区別の可否に基づいて第2捕捉処理を実行して前記拍動呈示スペクトルの捕捉を試みる第2捕捉処理部と、を有し、
前記判断部は、前記拍動呈示スペクトル捕捉処理を実行可と判断した場合、さらに、前記評価部による評価が第1の許容レベルであるか、前記第1許容レベルよりも低い第2許容レベルであるかを判断し、
前記判断部によって前記第1許容レベルであると判断されたときは、前記第1捕捉処理部が前記拍動呈示スペクトル捕捉処理を実行し、前記第2許容レベルであると判断されたときは、前記第2捕捉処理部が前記拍動呈示スペクトル捕捉処理を実行することを特徴とする拍動検出装置。
【請求項7】
請求項6記載の拍動検出装置であって、
前記第1捕捉処理部は、前記第1拍動基線の周波数軸上における第1位置と、前記第2拍動基線の周波数軸上における第2位置との間の距離によって、前記相関性を判断することを特徴とする拍動検出装置。
【請求項8】
請求項6記載の拍動検出装置であって、
前記第2捕捉処理部は、
前記第1拍動基線が前記第n体動基線と重なっていないという第1条件と、前記第1拍動基線が前記第2拍動基線に対して、周波数軸上で所定の距離以内であるという第2条件と、を満足する場合に、前記第1拍動基線を、拍動呈示スペクトルとして特定することを特徴とする拍動検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−170701(P2012−170701A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−36800(P2011−36800)
【出願日】平成23年2月23日(2011.2.23)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】