説明

拘束型制振材

【課題】 制振性能のピーク温度を室温付近に保ちつつ、粘着樹脂層が低温でも充分な粘着力を発現することができる拘束型制振材を提供する。
【解決手段】 拘束型制振材は、拘束層1、制振樹脂層2及び粘着樹脂層4の3層構造を含む。制振樹脂層のガラス転移温度Tgと粘着樹脂層のTgとの差は10℃以上である。制振樹脂層と粘着樹脂層の間にこれら層を分離するように液状成分移行阻止用のPETフィルム3が介在されている。同フィルムの溶解度パラメーターSP値と制振樹脂層及び粘着樹脂層中の構成成分のうち融点が80℃以下である全ての成分のSP値との差は1以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、住宅、マンション、オフィスビルなどの住宅建造物、高速鉄道、高架橋、鉄道軌道などの各種構造物、自動車、鉄道車両、建設車両などの各種車両、さらには家庭電気機器、音響機器などにおいて発生する振動や騒音を低減するために使用される制振材に関し、特に音響機器における拘束型制振材に関する。
【背景技術】
【0002】
拘束型制振材としては、塩素化ポリエチレンやニトリルブタジエンゴム等の極性側鎖を有するベースポリマー材料に、塩素化パラフィン、スルフェンアミド系誘電体物質、液状ゴムなどを配合した制振樹脂組成物からなる制振樹脂層と、鋼板やアルミニウムなどからなる拘束層を貼り合わせた構成のものが提案されていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、制振材の性能指標として用いられる損失正接(tanδ)のピークを室温付近に出現させようとすると、制振材樹脂のガラス転移温度(以下「Tg」とする)も室温付近になってしまうため、低温では充分な粘着力を得ることができず、例えば冬場の屋外では施工できないという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、この問題を解決すべく検討を重ねた結果、制振樹脂層にこれよりガラス転移温度の低い粘着樹脂層を設けることによって、制振性能のピーク温度を室温付近に保ちつつ、低温でも高い粘着性を得ることがわかった。
【0005】
すなわち、本発明による第1のものは、拘束層、制振樹脂層及び粘着樹脂層を含み、制振樹脂層のTgと粘着樹脂層のTgとの差が10℃以上であることを特徴とする拘束型制振材である。
【0006】
制振樹脂層のTgと粘着樹脂層のTgとの差が10℃未満であると、粘着樹脂層が低温で充分な粘着力を発現することができない。このTg差は15℃以上であることが好ましく、20℃以上であることがさらに好ましい。
【0007】
本発明による拘束型制振材において、拘束層は鋼板やアルミニウムなどからなるものであってよい。
【0008】
制振樹脂層は塩素化ポリエチレンやニトリルブタジエンゴム等の極性側鎖を有するベースポリマー材料に、塩素化パラフィン、スルフェンアミド系誘電体物質、液状ゴムなどを配合した制振樹脂組成物からなるものであってよい。例えば、塩素化ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体などの塩素含量20〜70重量%の塩素含有熱可塑性樹脂と、塩素含量30〜75重量%の塩素化パラフィンとを含む樹脂組成物からなるものが好ましく用いられる。同組成物は必要に応じて錫系熱安定剤等の安定剤を含んでいてもよい。
【0009】
制振樹脂層の損失正接(tanδ)は好ましくは1以上、より好ましくは1.5以上である。
【0010】
粘着樹脂層としてはアクリル系、ポリオレフィン系、ブチラール系、ウレタン系、ゴム系、シリコーン系等をベースとする樹脂組成物からなるものが好ましい。
【0011】
粘着樹脂層の粘着力はJIS Z 0237準拠の180℃ピール試験において好ましくは2.0N/cm以上、より好ましくは5.0N/cmである。粘着樹脂層の厚みは損失係数((η)のピーク温度に与える影響を少なくするために、好ましくは2mm以下、より好ましくは1.5mm以下である。
【0012】
制振樹脂層と粘着樹脂層の溶解度パラメーター(以下SP値と記す)が近い場合、これらの樹脂層に含まれる液状成分の移行が起こるため、実使用条件を想定して制振樹脂層及び粘着樹脂層の構成成分のうち低融点成分のSP値とは1以上離れたSP値を有するフィルムをこれらの層の間に挟むことが望ましい。
【0013】
本発明による第2のものは、制振樹脂層と粘着樹脂層の間にこれら層を分離するように可塑剤移行阻止フィルムが介在され、同フィルムのSP値と制振樹脂層及び粘着樹脂層の構成成分のうち融点が80℃以下である全ての成分のSP値との差が1以上であることを特徴とする請求項1記載の拘束型制振材である。
【0014】
可塑剤移行阻止フィルムのSP値と制振樹脂層及び粘着樹脂層中の液状成分のSP値との差が1未満であると、制振樹脂層及び粘着樹脂層中に含まれる可塑剤が移行する恐れがある。SP値の差は好ましくは1.5以上であり、さらに好ましくは1.8以上である。このようなSP値を有するフィルムとしてはPETフィルムが好ましい。可塑剤移行阻止フィルムの厚さは好ましくは5μm以上であり、さらに好ましくは12μm以上である。
【0015】
本発明による拘束型制振材は、住宅、マンション、オフィスビルなどの住宅建造物、高速鉄道、高架橋、鉄道軌道などの各種構造物、自動車、鉄道車両、建設車両などの各種車両、さらには家庭電気機器、音響機器などにおいて発生する振動や騒音を低減するために使用することができるが、とりわけ音響機器における使用が効果的である。
【0016】
本発明による第3のものは、請求項1又は2記載の拘束型制振材が音響機器の少なくとも一部に貼り合わされていることを特徴とする音響機器の制振構造である。
【発明の効果】
【0017】
第1発明によれば、制振性能のピーク温度を室温付近に保ちつつ、粘着樹脂層が低温でも充分な粘着力を発現することができ、例えば冬場の屋外では支障なく施工を行うことができる。
【0018】
第2発明によれば、制振樹脂層及び粘着樹脂層中に含まれる可塑剤の移行を確実に防ぐことができ、制振性能および粘着性能を長く維持することができる。
【0019】
第3発明により、音響機器における振動や騒音を効果的に低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。
実施例1
塩素化ポリエチレン(昭和電工(株)社製、商品名「エラスレン402NA」、SP値=9.2、融点140℃以上(分解温度の方が低いため測定不能))100重量部と、塩素化パラフィン(東ソー(株)社製、商品名「トヨパラックス150」、SP値=9.3、融点=−35℃)250重量部と、塩素化パラフィン(味の素ファインテクノ(株)社製、商品名「エンパラ70」、SP値=10.6、融点=105℃)200重量部とを6インチロール((株)入江鉄工所社製)に投入し、100℃で混練した。混練後のTgは15℃であった。こうして制振樹脂組成物を調製した。この制振樹脂組成物を120℃にて軟質アルミニウム箔(サンアルミ工業(株)社製 、商品名「8079」、厚さ=0.2mm)とPETフィルム(厚さ=0.012mm SP値=10.8)の間に供給し、軟質アルミニウム箔とPETフィルムで挟まれた厚さ1.5mmの制振樹脂層を形成した。軟質アルミニウム箔は少なくとも片面がプライマー処理されており、この処理面に制振樹脂層を貼り合わせた。さらに室温にて上記PETフィルムの他面に粘着シート(積水化学工業(株)社製 、商品名「ダブルタック♯5762」、厚さ=0.12mm、Tg=0℃、SP値=9.5、融点140℃以上(分解温度の方が低いため測定不能))を貼り合わせた。粘着樹脂層の他の面に離型紙を貼り合わせた。こうして得られた拘束型制振材を図1に示す。図中、1は軟質アルミニウム箔、2は制振樹脂層、3はPETフィルム、4は粘着樹脂層、5は離型紙である。
実施例2
実施例1において、PETフィルムを用いず、その他の点は実施例1と同様の操作を行い、拘束型制振材(軟質アルミニウム箔/制振樹脂層/粘着樹脂層/離型紙)を得た。
比較例1
別途、アクリル酸エステルコポリマー(三菱レイヨン(株)社製、商品名「P-501A」 融点140℃以上(分解温度の方が低いため測定不能))100重量部と、塩素化パラフィン(東ソー(株)社製、商品名「トヨパラックス150」、融点=−35℃)300重量部と、塩素化パラフィン(味の素ファインテクノ(株)社製、商品名「エンパラ70」、融点=105℃)100重量部とを6インチロール((株)入江鉄工所社製)に投入して、140℃で混練した。混練後のTgは15℃であった。こうして粘着樹脂組成物を調製した。この粘着樹脂組成物を厚さ0.12mmで製膜し、粘着シートを得た。
【0021】
実施例1において、粘着シートとして、積水化学工業(株)社製の商品名「ダブルタック♯5762」の代わりに、上記のように別途作製した粘着シートを用い、その他の点は実施例1と同様の操作を行い、拘束型制振材を得た。
性能試験
実施例及び比較例で得られた拘束型制振材サンプルについて下記の項目の性能試験を行った。
a)粘着性能
サンプルを幅20mmでストラップ状に切断し、切断片をSPC鋼板と貼り合わせ、得られた貼り合わせ体を万能試験器(オリエンテック社製 型番UCT-5T)にて23℃(常温粘着力)及び0℃(低温粘着力)で、300mm/minの条件で90℃ピール試験した。
b)液状成分の移行
80℃オーブンに上記サンプルを2週間入れ、粘着面への液状成分のシミ出しを目視にて観察した。
【0022】
得られた試験結果を表1に示す。
【0023】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は実施例1で得られた拘束型制振材の層構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0025】
1は軟質アルミニウム箔
2は制振樹脂層
3はPETフィルム
4は粘着樹脂層
5は離型紙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
拘束層、制振樹脂層及び粘着樹脂層を含み、制振樹脂層のガラス転移温度(以下「Tg」とする)と粘着樹脂層のTgとの差が10℃以上であることを特徴とする拘束型制振材。
【請求項2】
制振樹脂層と粘着樹脂層の間にこれら層を分離するように可塑剤移行阻止フィルムが介在され、同フィルムのSP値と制振樹脂層及び粘着樹脂層の構成成分のうち融点が80℃以下である全ての成分のSP値との差が1以上であることを特徴とする請求項1記載の拘束型制振材。
【請求項3】
請求項1又は2記載の拘束型制振材が音響機器の少なくとも一部に貼り合わされていることを特徴とする音響機器の制振構造。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2006−126736(P2006−126736A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−318296(P2004−318296)
【出願日】平成16年11月1日(2004.11.1)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】