説明

拡径装置、拡径方法及び布設替え工法

【課題】 簡易な構造で設備コストを低減させて既設管の拡径を行うようにした。
【解決手段】 地下に埋設されている既設管2Aを新管に布設替えする拡径装置1は、既設管2Aと略同軸をなし先端3aに至るにしたがって先細となるように形成されたクサビ部材3と、クサビ部材3を後方から押す押出しジャッキ4と、押出しジャッキ4の反力を既設管2Aの内周面にとるグリッパ5と、内部のテーパ面62aにクサビ部材3が押し込ませるにしたがって所定の外径まで径方向に拡がる拡径具6とを備えている。クサビ部材3を拡径具6に押し込むと、拡径具6の押圧面62eで既設管2Aの内側を押圧して拡径する。布設替え区間を拡径装置1によって所定の拡径外径に拡径した後、推進施工によって新管を布設する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地中に埋設された水道管などの既設管を非開削で新管に布設替えする拡径装置、拡径方法及び布設替え工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、地下に埋設された水道管などの既設管を非開削で布設替えする工法では、既設管(旧管)の撤去が不要で且つ既設管と同口径の新管(新しく布設する配管)を布設替えできるように、プラズマ切断を使用して既設管を破壊し拡径する工法がある。この工法は、予め既設管にプラズマトーチを使用して管軸方向及び円周方向に溝を切り込んでから、テーパ状の拡径部を有する拡径装置を使用して管軸方向に挿入して管を拡径破断し、その後に新管を布設するものである(例えば、特許文献1参照)。
しかし、このプラズマトーチによって管に溝を切り込んでから拡径破断する方法は、既設管が脆い鋳鉄管であれば容易に拡径破断できるため極めて有効であるが、靭性のあるダクタイル管や鋼管だとこの切り込み溝の有効性については懸念がある。また、ガス、電話、電気用管路が近接したところでは、火気による影響が予想されることからプラズマ切断の使用をできるだけ避けたいといった現状がある。このため、プラズマ切断を使用せずに既設管を破壊する工法が、例えば特許文献2及び特許文献3に開示されている。
特許文献2は、クサビ形状をなす新管先導装置の周部に破断切開ローラとガイドローラとが適宜数配置されている。そして、この新管先導装置を既設管に押し込むことで、破断切開ローラが押圧力により既設管を切開させて拡径破壊すると同時に、新管先導装置の後方で新管を布設していくものである。
特許文献3は、装置の進行方向前方に、突出部材を径方向外側に押し出して押圧により既設管を破壊する機構を備えている。そして、この装置の後方で破壊した既設管が崩落しないように防護しつつ新管を布設する布設替え装置である。
【特許文献1】特許第3288135号公報
【特許文献2】特許第3301562号公報
【特許文献3】特公平5−29759号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記のような特許文献1乃至特許文献3によれば、以下のような問題があった。
特許文献1による施工方法は、プラズマトーチと拡径装置の二台の機械が必要であり、設備にかかるコストが増加するといった問題があった。
特許文献2及び特許文献3は、特許文献1と同様に既設管を破壊してから拡径するものであり、破壊するための装置と拡径装置との二つの装置からなるため、装置が複雑であるうえ特殊な機械となるため、設備コストが高くなるという問題があった。
【0004】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、簡易な構造で設備コストを低減させて既設管の拡径を行うようにした拡径装置、拡径方法及び布設替え工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明に係る拡径装置では、地下に埋設されている既設管を新管に布設替えするための拡径装置であって、既設管と略同軸をなし先端に至るにしたがって先細となるように形成されたクサビ部材と、クサビ部材を後方から押す押出し部材と、押出し部材の反力を受ける固定部材と、内部のテーパ面にクサビ部材を押し込ませるにしたがって所定の外径まで径方向に拡がる拡径具と、固定部材と拡径具とを連結する連結部材とを備えていることを特徴としている。
本発明では、クサビ部材を拡径具に押し込むことで、拡径具は既設管の径方向に拡げる作用を発生させ、既設管を内周面から押圧して拡径変形させることができる。このように、既設管を破壊することなく拡径できるため、拡径装置を簡易化でき、さらに小さな押込み力で済むことから、押込み部材やその反力をとる固定部材に必要な能力を小さくできるため、設備コストを低減できる。
【0006】
また、本発明に係る拡径装置では、クサビ部材と拡径具との間の接触範囲に滑り手段が備えられていることが好ましい。
本発明では、クサビ部材を拡径具に押し込むとき摩擦力を低減でき、大きな押込み力が不要となるため容易に押し込むことができる。
【0007】
また、本発明に係る拡径装置では、滑り手段は、転がり部材であることが好ましい。
本発明では、クサビ部材は、周部に取り付けた転がり部材が拡径具の内周面を転動することで拡径具に押し込まれる。このときの転がり部材と拡径具との接触面が小さいことから、摩擦力が小さいため小さな押込み力で既設管を拡径することができる。
【0008】
また、本発明に係る拡径方法では、内部に先細のテーパ面を有していて拡径可能な拡径具を地下に埋設された既設管に配設し、先細のクサビ部材を拡径具の内部に押し込むことで拡径具を拡径させて既設管を拡径する拡径方法であって、既設管の内側から外径方向に拡径具を押圧して所定径を拡径する拡径工程と、拡径具を所定長さで移動させる移動工程とを繰り返して布設替え区間全線にわたって既設管を所定の拡径外径に拡径することを特徴としている。
本発明では、従来のように既設管を破壊することなく押し拡げによって布設替え区間全線にわたって拡径具の所定径で拡径することができる。このように、先細のテーパ面を有する拡径具に先細のクサビ部材を押し込む簡易な構成により拡径でき、また小さな押込み力で済むことから、設備コストを低減できる。
【0009】
また、本発明に係る拡径方法では、既設管に対し、複数の前記拡径具により段階的に拡径外径の大きな拡径具に交換することで繰り返し布設替え区間の拡径を行って、既設管を所定の外径に拡径することが好ましい。
本発明では、段階的に少しずつ拡径外径を大きくし、複数回の拡径作業で所定の拡径外径を確保することで、一度に所定の拡径寸法に拡幅させる場合に比べてクサビ部材を拡径具に押し込む際の押込み力を小さくでき、設備コストを低減できる。また、段階的に拡径するため、拡径前の既設管の部分と拡径直後の既設管の部分との境界部に大きな湾曲又は傾斜部を発生させることがなく、既設管の破壊を防止できる。
【0010】
また、本発明に係る布設替え工法では、上述の拡径方法によって拡径した既設管の内空に新管を布設するようにしたことを特徴としている。
本発明では、拡径作業で既設管を破壊させないため、従来のように拡径直後に新管を布設することなく布設替え区間全線を予め拡径しておくことができる。そして、拡径作業を終了後に新管の布設のみを施工できる。このため、狭い空間内で拡径と新管布設との両作業を同時に行うような煩雑な作業がなくなり、効率化を図ることができる。
【0011】
また、本発明に係る布設替え工法では、新管の布設は、推進手段により新管を順次押し込むと共に、新管と既設管との隙間に滑材を注入することが好ましい。
本発明では、滑材により拡径した既設管の内側で新管が滑り易くなり移動できるため、一方向から新管を押し込む推進施工により布設することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の拡径装置及び拡径方法によれば、クサビ部材を拡径具に押し込むだけで拡径できる簡易な機構の拡径装置であることから、従来のように既設管を破壊する装置及び拡径する装置の二種類の装置とする必要がなくなる。さらに、小さな押込み力で済むことから、押込み部材や固定部材に必要な能力を小さくでき、設備コストを削減することができる。
また、本発明の布設替え工法によれば、狭い空間内で拡径と新管布設との両作業を同時に行うような煩雑な作業がなくなり、効率化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の拡径装置、拡径方法及び布設替え工法の第一の実施の形態について、図1乃至図8に基づいて説明する。
図1は本発明の第一の実施の形態による拡径装置を示す側面図、図2は保持部材を示す断面図、図3は拡径具を示す斜視図、図4は図1に示す拡径具のA−A線矢視図であって(a)は拡径前を示す図、(b)は拡径中を示す図、図5(a)、(b)はクサビ部材による拡径手順を示す図、図6は第一の実施の形態による拡径装置を用いた布設替え工法を示す図、図7は第一の実施の形態による新管布設状態を示す図、図8は新管布設時の注入手段を示す図であって、(a)はその側面図、(b)は(a)に示すB−B線断面図である。
【0014】
図1に示すように、本第一の実施の形態による拡径装置1は、例えば地下に埋設されている水道管などの既設管2Aの内部に設置され、老朽化などにより交換を必要とする既設管2A(ダクタイル管)を非開削によりほぼ同径の新管2B(図7参照)に布設替えするものである。なお、この既設管2Aは鋼管又は鋳鉄管であってもよい。拡径装置1を使用した布設替え作業は、所定延長の布設替え区間の始点(図1に示す右側)から終点(図1に示す左側)に向けて矢印F方向に順次移動させながら行う。なお、必要に応じて、この移動における始点側を「前方」とし、終点側を「後方」として以下説明する。
【0015】
図1に示すように、拡径装置1は、既設管2Aと略同軸をなし先端3aに至るにしたがって先細となるように形成されたクサビ部材3と、クサビ部材3を後方から押す押出しジャッキ4と、押出しジャッキ4の反力を受けるグリッパ5(固定部材)と、内部のテーパ面62aにクサビ部材3を矢印E方向に押し込ませるにしたがって所定の外径まで径方向に拡がる拡径具6とから概略構成されている。そして、拡径装置1には、グリッパ5及び拡径具6の後述する基盤部材61の間を連結して拡径具6を所定位置で固定する連結ロッド7(連結部材)を備えている。
グリッパ5は、既設管2Aの径方向に伸縮して管内面を押圧するジャッキ(図示省略)を有し、このジャッキを操作することで、管内面への固定や解除が出来るようになっている。
【0016】
図1に示すクサビ部材3は、断面円形をなし後端面3bに押出しジャッキ4を固定させた円筒部3Aと、前方側で周面に略円錐台形状のテーパ面3cを有した先端部3Bとからなる。なお、先端部3Bの形状は、図4(a)の3Cで示したように、角部を丸めた略四角錐台形状でもよい。
そして、クサビ部材3は、円筒部3Aの外周面で保持部材8によって支持されている。この保持部材8は、図2に示すように、断面視でクサビ部材3と既設管2Aとの間の夫々に所定間隔をもって設けられたリング部材81が配置されている。このリング部材81には、その内周81aに第一ガイドローラ82を適宜数備え、外周81bに第二ガイドローラ83を適宜数備え、夫々が拡径装置1の進行方向に回転する。これにより、クサビ部材3は、第一ガイドローラ82に沿って押込み移動できるため、既設管2Aの中心軸に対してずれることなく移動することができる(図1参照)。一方、保持部材8のガイドローラ83によって、拡径装置1を既設管2Aの内面に沿わせて移動できる。
なお、保持部材8の第一、第二ガイドローラ82、83は必ずしもこれに限定されるものではなく、円筒部3Aと保持部材8、及び既設管2Aの内面と保持部材8とが相互に摺動可能になっていればよく、摩擦低減材を介在させることでもよい。
【0017】
図3に示すように、拡径具6は、連結ロッド7を後端61aで接続させるリング状をなす基盤部材61と、後端62bをヒンジ部63によって基盤部材61の前端61bに連結させた押圧部材62とからなる。ここで、ヒンジ部63は、別途のヒンジ部材を設けて、基盤部材61に対して押圧部材62が回動可能になるようにしてもよいし、基盤部材61と押圧部材62が当接する所を枢着可能な形状に夫々加工して枢着させ、基盤部材61に対して押圧部材62が回動可能になるようにしてもよい。
【0018】
図3及び図4に示すように、押圧部材62は、周方向に4分割されるように割溝64を形成させたチャック形状をなしている。押圧部材62の内周面は、後端62bから先端62cに向かうにしたがってクサビ部材3の外径より小さくなるテーパ面62aが形成されている。また、押圧部材62の外周面は、前後方向で略中間位置に折曲点62dがあり、その折曲点62dの前後両側に斜面が形成されている。ここで、折曲点62dより前方側の斜面が既設管2Aの内面を押圧する押圧面62eとなる。この押圧部材62は、クサビ部材3が挿入されたとき、ヒンジ部63(図1参照)を支点にして径方向に拡がり、既設管2Aを内側から押圧して拡径させる。
押圧部材62の外径寸法は、クサビ部材3が挿入される前は既設管2Aの内径よりも小さな径とし、クサビ部材3が挿入されたときには既設管2Aの内径よりも大きな所定の外径に拡がることが可能な径とする。
【0019】
図1に示すように、拡径具6は、例えば連結ロッド7の端部7aに形成されたネジ部を基盤部材61に螺合させることで脱着可能に接続されている。そして、図5(b)に示す拡径外径Dの異なる複数の拡径具6を設けておくことで、後述する拡径方法のように段階的に径の大きな拡径具6に交換しながら施工することがよい。
【0020】
図2に示すように、連結ロッド7は、周方向に所定間隔をもって設けられている(本実施の形態では4箇所)。連結ロッド7は、図1に示すようにグリッパ5と拡径具6の基盤部材61との間を固定させるように連結することで、押出しジャッキ4の押出し力が働いたときに拡径具6とグリッパ5とが離れようとするのを防ぎ、押出し力が効果的に拡径力に変換できるようになっている。そのため、連結ロッド7は、押出しジャッキ4の押出し力によって連結ロッド7にかかる引張力に対して耐えられるような強度としている。なお、図2に示すように、リング部材81の断面に直交して連結ロッド7が貫通し、この貫通箇所で連結ロッド7とリング部材81とが固着している。
【0021】
図6に示すように、布設替え区間の両端部に始点開口部9(図中右側)と終点開口部11(図中左側)とが設けられている。
終点開口部10には、牽引装置11が備えられワイヤー12などがグリッパ5の終点側端部5aに固定されている。拡径装置1は、グリッパ5の既設管2Aへの固定を解除させて牽引装置11を作動して牽引し、次の拡径箇所に拡径装置1を移動させることができる。そして、この拡径装置1は、終点側にグリッパ5を順次盛り替えながら移動させる。
【0022】
次に、このような構成の拡径装置1を用いた拡径方法及び布設替え工法について図面に基づいて説明する。
図5(a)、(b)に示すように、本実施の形態では、新管2B(図7参照)に布設替えするために必要な拡径外径Dを確保するために、同ピッチで段階的に拡径外径Dが大きくなる複数の拡径具6として、例えば第一〜第六拡径具6A〜6Fを用意しておく。このうち、第一拡径具6Aを最小径とし、第六拡径具6Fを最大径とする。
【0023】
先ず、第一拡径具6Aを装備した拡径装置1を、図6に示す拡径始点Sの位置に設置する。次いで、この位置でグリッパ5を既設管2Aの内周面に張って固定する。そして、図5(a)、(b)に示すように、押出しジャッキ4を伸長させると、先ずクサビ部材3の先端部3Bのテーパ面3cと拡径具6の各押圧部材62の先端部付近のテーパ面62aとが接触する。さらに押し込むにしたがって、分割してなる押圧部材62は夫々がヒンジ部63を支点に径方向外方に拡がり、押圧面62eが既設管2Aの中心軸と略平行な筒状になって既設管2Aが第一拡径具6Aの所定の拡径外径Dに拡径される(拡径工程)。
そして、この時に所定の拡径外径にできる管軸方向長さは、押圧面62eの長さ程度である。なお、押圧部材62のテーパ面62aがクサビ部材3のテーパ面3cと接触する部分は、図5に示すように常に押圧部材62の先端部付近のテーパ面62aとなるように夫々のテーパ面62a、3cを成型することで、押出しジャッキ4の押出し力は効果的に拡径力に変換される。
なお、クサビ部材3と押圧部材62とが接触する範囲には、例えばオイルを塗布しておくか、ポリ4フッ化エチレンを加工しておくことで互いに滑り易い状態としておくことが好ましい。
【0024】
次に、押出しジャッキ4を縮めて、クサビ部材3を第一拡径具6Aから引き出し、既設管2Aの内周に固定していたグリッパ5の固定を解除し、牽引装置11でワイヤー12を牽引して次の拡径箇所に拡径装置1を押圧面62eの長さ程度移動させると既設管2Aの拡径前の内径まで第一拡径具6Aが縮径する(移動工程)。そして、上記と同様の手順で拡径を行う。このような作業(拡径工程、移動工程)を順次繰返しながら終点開口部10までの布設替え区間の拡径を終了させる(図6参照)。
【0025】
続いて、第一拡径具6Aより一段階大きな第二拡径具6Bに交換する。そして、拡径装置1を、再度始点開口部9より拡径始点Sに設置する。このとき、拡径装置1を始点側へ移動させる方法は、一端終点開口部10に拡径装置1を引き出して地上から始点開口部9に移動させる方法や、拡径具6の前方側に例えばワイヤーなどを接続して始点開口部9側に引き込む方法などとする。そして、上述と同様の手順により一区間の布設替え区間の拡径を行う。このように第一拡径具6Aから第六拡径具6Fまで順に行うことで少しずつ既設管2Aを拡径し、第六拡径具6Fによる拡径を終了した時点で既設管2Aの内径を新管2Bの外径より大きい所定の拡径外径Dを確保することができる。
【0026】
次に、図7及び図8に基づいて既設管2Aの拡径後に新管2Bを布設する施工について説明する。
図7に示すように、終点開口部10に推進ジャッキ13(推進手段)を設置し、一本ずつ順次押し込んで布設する。この際、図8に示すように、拡径された既設管2Aと新管2Bとの間に形成される隙間には、新管2Bの前方側に設けられた注入手段14によって滑材15が注入される。この注入手段14は、図8に示すように、新管2Bの先頭管の前面を液密に塞ぐ円盤部材14Aを有し、なおかつ既設管2Aと接する周面も液密に止水されている。そして、円盤部材14Aの外周部には滑材注入口14Bが所定数設けられ、注入管14Cから各滑材注入口14Bに接続されて新管2Bと既設管2Aとの隙間に滑材15が送り込まれる。
滑材15の注入により、新管2Bは、沈み込むことなく所定の高さに設置することができ、且つ既設管2Aの内側で滑り易くなり移動がし易くなる。
【0027】
なお、滑材注入方法の他の実施例としては、新管2Bの先頭管前端付近の管周囲に複数の注入孔21(図8(a)参照)を設けておき、ここに注入管14cを接続して新管2Bと既設管2Aとの隙間に滑材15を注入できるようにする方法でもよい。新管2Bの管周囲に注入孔21を設ける方法であれば、新管2Bの布設延長が延びても、途中の適宜箇所に注入孔21が設けられた新管2Bを介在させることで、新管2Bの全長にわたって万遍なく滑材15を注入することが可能になり、より布設替えがスムーズになる。
【0028】
上述した本第一の実施の形態による拡径装置によれば、クサビ部材3を拡径具6に押し込むだけで拡径できる簡易な機構の拡径装置1であることから、従来のように既設管2Aを破壊する装置及び拡径する装置の二種類の装置とする必要がなくなり、設備コストを削減することができる。
また、異なる拡径外径Dの拡径具6を使用して、少しずつ段階的に拡径外径Dを大きくしてクサビ部材3を拡径具6に挿入することで、既設管2Aを押圧するときのクサビ部材3の押込み力を小さくでき、一度に大きな押込み力を必要とせずに既設管2Aを所定の拡径寸法にできる。したがって、押出しジャッキ4やグリッパ5に必要な能力を小さくでき、機械のコスト低減が図れる。そして、段階的に拡径するため、拡径前の既設管2Aの部分と拡径直後の既設管2Aの部分との境界部に大きな湾曲又は傾斜部を発生させることがなく、既設管2Aの破壊を防止できる。
さらに、本第一の実施の形態による布設替え工法によれば、狭い空間内で拡径と新管布設との両作業を同時に行うような煩雑な作業がなくなり、効率化を図ることができる。
【0029】
次に、本発明の変形例及び第二の実施の形態について、図9及び図10に基づいて説明するが、上述の第一の実施の形態と同一又は同様な部材、部分には同一の符号を用いて説明を省略し、第一の実施の形態と異なる構成について説明する。
図9は本発明の第二の実施の形態による拡径装置の拡径時を示す図である。
図9に示すように、第二の実施の形態は、拡径具6の押圧部材62の前後方向の向きを第一の実施の形態とは正反対にして、押圧部材62の先端62fをグリッパ5の方に向けて押圧部材62の後端62bと基盤部材61の後端61aとを回動自在に連結するとともに、拡径具6の基盤部材61とグリッパ5とを連結ロッド7で連結している。
即ち、拡径具6は、基盤部材61の後端61aに押圧部材62が備えられている。そして、クサビ部材3は第一の実施の形態と同様に押出しジャッキ4により始点側(矢印E方向)に押出されて拡径具6に挿入する。そして、基盤部材61の前端61bに牽引ワイヤー16が連結され、拡径装置1を始点開口部9の方向(矢印G方向)に移動させることができる。拡径具6はテーパ状の押圧面62eの部分で、既設管2Aに対して同軸の筒状に拡径する。
この第二の実施の形態でも、複数の拡径具6を用いて順次拡径量を増大させていくことでは、第一の実施の形態と同様である。また、第二の実施の形態では、クサビ部材3の先端部3Bを、押圧部材62の先端62fから後端62bに向かう方向に押出すことで押圧部材62が拡径される。第一の実施の形態では拡径具6のヒンジ部63にかかる力が引張力であるのに対し、第二の実施の形態によれば圧縮力となるので、ヒンジ部63の成型が比較的容易である。
【0030】
続いて、図10は第一の実施の形態の変形例による拡径装置を示す図である。
図10は、クサビ部材3の先端部3Bのテーパ面3cの所定箇所に、転動可能な転がり部材17を備えたものである。クサビ部材3が拡径具6に押し込まれるとき、この転がり部材17が押圧部材62のテーパ面62aを転動するためスムーズに押し込むことができる。このときの転がり部材17と拡径具6との接触面が小さいことから、摩擦力が小さいため小さな押込み力で既設管2Aを拡径することができる。また、この場合、クサビ部材3及び拡径具6の接触面に滑材などを塗布することが不要となる。
なお、この変形部分以外の構成は、第一の実施の形態の構成と同じである。また、この変形例は、第二の実施の形態にも適用でき、その場合は、クサビ部材3のテーパ面3cに転がり部材17を取り付ければよい。
【0031】
以上、本発明による拡径装置、拡径方法及び布設替え工法の第一及び第二の実施の形態及び変形例について説明したが、本発明は上記の第一及び第二の実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、第一及び第二の実施の形態では、拡径具6の拡径外径Dを6段階に設定しているが、これに限定されることはなく、1段階、2〜5段階、7段階以上の拡径外径Dであってもよい。とくに既設管2Aと新管2Bの径方向寸法差が小さい場合には、1段階で拡径処理を終了できる。
また、クサビ部材3を拡径具6に押し込むときには、同一の拡径箇所で押し引きを複数回繰返して拡径するようにしてもよい。
それから、前記全ての実施の形態について、拡径における拡径具6の移動方向を前記実施の形態とは反対方向とすることも可能である。
その他、前記の拡径方法では、拡径量の異なる拡径具6を取り替えて順次拡径していく方法を説明したが、図11に示すように、拡径量の異なる拡径具6(例えば、6A〜6F)を備えた拡径装置1を所定距離をおいて順次拡径量が大きくなるように直列に連結させ、矢印F方向に移動させることで段階的に拡径させていくことでもよい。この場合は、複数の拡径装置1が必要になるが、押出しジャッキ等汎用品を使えるようであれば、装置費用のコストアップにまさる工期短縮によるコストダウンが可能となる。この場合、通常、牽引ワイヤー12で直列に繋いでいけばよいが、拡径のための油圧装置及び油圧配管等は、基本的には装置台数分必要になる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の第一の実施の形態による拡径装置を示す側面図である。
【図2】保持部材を示す断面図である。
【図3】拡径具を示す斜視図である。
【図4】図1に示す拡径具のA−A線矢視図であって(a)は拡径前を示す図、(b)は拡径中を示す図である。
【図5】(a)、(b)はクサビ部材による拡径手順を示す図である。
【図6】第一の実施の形態による拡径装置を用いた布設替え工法を示す図である。
【図7】第一の実施の形態による新管布設状態を示す図である。
【図8】新管布設時の注入手段を示す図であって、(a)はその側面図、(b)は(a)に示すB−B線断面図である。
【図9】本発明の第二の実施の形態による拡径装置の拡径時を示す図である。
【図10】第一の実施の形態の変形例による拡径装置を示す図である。
【図11】拡径量の異なる拡径具を直列配置させた場合を示す図である。
【符号の説明】
【0033】
1 拡径装置
2A 既設管
2B 新管
3 クサビ部材
4 押出しジャッキ(押出し部材)
5 グリッパ(固定部材)
6 拡径具
62e 押圧面
7 連結ロッド(連結部材)
8 保持部材
13 推進ジャッキ(推進手段)
14 注入手段
15 滑材
17 転がり部材
D 拡径外径


【特許請求の範囲】
【請求項1】
地下に埋設されている既設管を新管に布設替えするための拡径装置であって、
前記既設管と略同軸をなし先端に至るにしたがって先細となるように形成されたクサビ部材と、
前記クサビ部材を後方から押す押出し部材と、
前記押出し部材の反力を受ける固定部材と、
内部のテーパ面に前記クサビ部材を押し込ませるにしたがって所定の外径まで径方向に拡がる拡径具と、
前記固定部材と前記拡径具とを連結する連結部材と、
を備えていることを特徴とする拡径装置。
【請求項2】
前記クサビ部材と前記拡径具との間の接触範囲に滑り手段が備えられていることを特徴とする請求項1に記載の拡径装置。
【請求項3】
前記滑り手段は、転がり部材であることを特徴とする請求項2に記載の拡径装置。
【請求項4】
内部に先細のテーパ面を有していて拡径可能な拡径具を地下に埋設された既設管に配設し、先細のクサビ部材を前記拡径具の内部に押し込むことで前記拡径具を拡径させて前記既設管を拡径する拡径方法であって、
前記既設管の内側から外径方向に前記拡径具を押圧して所定径を拡径する拡径工程と、
前記拡径具を所定長さで移動させる移動工程と、
を繰り返して布設替え区間全線にわたって前記既設管を所定の拡径外径に拡径することを特徴とする拡径方法。
【請求項5】
前記既設管に対し、複数の前記拡径具により段階的に前記拡径外径の大きな前記拡径具に交換することで繰り返し前記布設替え区間の拡径を行って、前記既設管を所定の外径に拡径するようにしたことを特徴とする請求項4に記載の拡径方法。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の拡径方法によって拡径した前記既設管の内空に新管を布設するようにしたことを特徴とする布設替え工法。
【請求項7】
前記新管の布設は、推進手段により前記新管を順次押し込むと共に、前記新管と前記既設管との隙間に滑材を注入するようにしたことを特徴とする請求項6に記載の布設替え工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−39934(P2007−39934A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−223922(P2005−223922)
【出願日】平成17年8月2日(2005.8.2)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【出願人】(591043581)東京都 (107)
【Fターム(参考)】