説明

指袋付きの靴下または手袋の編成方法および指袋付きの靴下または手袋

【課題】編み上がり時に各指袋のウエール方向端部が常に重なった状態にして、形状を整えるためのプレス作業を軽減できるようにする。
【解決手段】横編機を用いて、指先から編成し、少なくとも一つの指股部に対して、隣り合う指袋が、そのウエール方向端部で重なり合うように指股部に襞状部を形成する指袋付きの靴下または手袋の編成方法。隣接する二つの筒状部のうち、一方の筒状部における後側編地部の編地部における他方の筒状部側ウエール方向端部の複数の編目を、対向する前側編地部の編目に目移しして重ね合わせる。次に、他方の筒状部における一方の筒状部の重ね目が形成されている編地部と同じ前側編地部の編目で、一方の筒状部側ウエール方向端部の複数の編目を、一方の筒状部の重ね目に重ね合わせる。一つの針に係止された3つの編目に連続する編目を形成して、二つの筒状部を接合し、指股部と襞状部を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、指袋付きの靴下または手袋の編成方法、特に、5本の指袋を有する靴下または手袋の編成方法および指袋付きの靴下または手袋に関する。
【背景技術】
【0002】
靴下や手袋は横編機を用いて編成することができる。指袋を有する靴下や手袋は、各指袋を指先から指股部まで1つの筒状体として編成する。手袋の場合は、一般に、小指、薬指、中指、人差指の順に各指袋を編成しておいて、これらの指袋を互いの指股部形成位置で接合しながら一つの筒状体として4本胴を編成する。次に親指指袋を編成して親指指袋と4本胴を接合して一つにした5本胴を編成する。
【0003】
また、靴下を編制する場合は、親指、人差指、中指、薬指の指袋を編成した後、これら指袋を指股部形成位置で親指と人差指の指袋を接合して2本胴を形成し、中指の指袋と2本胴を接合して3本胴を形成し、3本胴と薬指の指袋とを接合して4本胴を形成した後、小指の指袋を編成して、この小指の指袋と4本胴と接合して靴下を編成する場合もある(例えば特許文献1参照)。さらに、3本の指袋を接合して3本胴を形成した後、3本胴に他の指袋を1本接合して4本胴を形成し、さらに、残りの指袋を4本胴に接合して5本胴を形成することにより手袋を編成する場合もある(特許文献2を参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2000−239950号公報
【特許文献2】特開2000−220064号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に指袋付き靴下または手袋は、専用の横編機を用いて編成される。この専用の横編機には、各指袋間の付け根となる指股部に股重ね編成を施すためのカミソリと呼ばれる抑止杆が備えられている。このカミソリを用いることにより、指股部に股重ねが施されて指股部に孔が開かないようにすることができる。
【0006】
具体的には、指袋付き靴下または手袋を編成する際は、指袋を編成した後、この編成された指袋の編目のうち、次に編成する指袋と隣接する側のウエール方向端部の2〜3目をカミソリで抑えて編針に係止させた状態にする。そして、次の指袋の編成を行うときに、カミソリで編目を抑えている編針を用いて、この指袋のウエール方向端部の編目を形成する。
【0007】
例えば、小指から人差指へと順に指袋を編成して5本指の手袋を編成する場合には、編成された指袋に対して、次に編成する指袋側のウエール方向端部の編目をカミソリで抑えつけた状態にする。そして、カミソリで編目を抑えている編針でウエール方向端部の編目を形成するようにして、隣接する次の指袋を編成する。それから、この指袋の編成が終了すると、カミソリの位置を、この編成された指袋における次に編成する指袋側のウエール方向端部の編目が係止されている編針まで移動させる。このようにして、人差指の指袋を編成するまで、指袋の編成動作、カミソリの移動動作と抑止動作を繰り返す。
【0008】
そして、人差指の指袋の編成が行われた後に、編糸を周回させて4本胴の編成を行い、各指股部に形成された股重ねの編目を重合させる。さらに、4本胴を形成した後、親指の指袋を編成するときも、4本胴のウエール方向端部の編目をカミソリで抑えながら、このカミソリで抑えられている編目が係止される編針も用いて親指の指袋の編成を行う。このように編まれた手袋の指股部は孔が開かず、且つ強固なものに仕上げることができる。
【0009】
しかしながら、前記した方法で編成された従来の指袋付き靴下または手袋は、例えば、図10に示す手袋のように、編み上がり状態では、指袋の指先が広がってしまう。ところで、軍手などの作業用手袋を除く、いわゆるファッション手袋は、市場に出す際に、見栄えを良くするために、プレス加工を施す。このプレス加工は、人差指の指袋が甲側において最上に位置するように、人差指、中指、薬指、小指の指袋がウエール方向端部で重なり合うように行う。また、ファッション性を有する靴下の場合も、見栄えを良くするために、親指が最上に位置するように、親指、人差指、中指、薬指、小指の指袋がウエール方向端部で重なり合うようにプレス加工を施す。
【0010】
ところが、このようにプレス加工を施しても、編地の網目は形状を安定化しようとして、元の状態、即ち、指先が広がる方向に戻ろうとするので、指袋の重なり状態を長期に維持することは困難となる。その結果、靴下または手袋を長期保管する場合には、プレス加工時の形状が徐々に崩れていってしまう。さらに、手袋または靴下を洗濯した後は、プレス効果が無くなるので、編み上がり状態と同じ指先が広がった状態になってしまう。
【0011】
また、プレス作業を行う場合、指袋の重ね状態を手作業で均一に揃えた後に、プレスするため、プレス作業が煩雑となる不具合もある。
【0012】
本発明は、編み上がり時に、各指袋のウエール方向端部が常に重なった状態にして、形状を整えるためのプレス作業を軽減できる指袋付きの靴下または手袋、およびその編成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の指袋付き靴下または手袋の編成方法は、左右方向に延び、かつ、前後方向に互いに対向する少なくとも前後一対の針床を有し、前後の針床の少なくとも一方が左右にラッキング可能で、前後の針床間で編目の目移しが可能な横編機を用いて、指先から編成するとともに、少なくとも一つの指股部に対して、隣り合う指袋が、そのウエール方向端部で重なり合うように指股部に襞状部を形成する編成方法である。
【0014】
まず、隣接する二つの筒状部のうち、一方の筒状部における前側編地部または後側編地部のうちの一方の編地部における他方の筒状部側ウエール方向端部の複数の編目を、対向する前後他方の編地部の編目に目移しして重ね合わせる。次に、他方の筒状部における一方の筒状部の重ね目が形成されている編地部と同じ側の編地部の編目で、かつ、一方の筒状部側ウエール方向端部の複数の編目を、一方の筒状部の重ね目に重ね合わせる。そして、一つの針に係止された3つの編目に連続する編目を形成することにより、二つの筒状部を接合して指股部と襞状部を形成する。
【0015】
なお、本発明における筒状部とは、親指、人差指、中指、薬指、小指の指袋、2本胴、3本胴、4本胴、5本胴をいう。
【0016】
襞状部を形成する際に、2つの筒状部の編目が重ね合わされる針における1本の針に重ね合わされる編目数は、3目となる。襞状部を形成するために重ね目が形成される編針は、2針以上とする。重ね目が形成される編針の数は、ゲージや度詰めの条件により所望の数にすることができる。
【0017】
さらに、一方の筒状部における重ね目を形成する編目の数と、他方の筒状部における一方の筒状部の重ね目に重ね合わす編目の数は同数とすることが好ましい。このように重ね合わす編目の数を双方の筒状部で同じ数とすると見栄えのより美しいものができあがる。
【0018】
さらに、前記した編成方法により5本の指袋を有する靴下を編成する場合、指袋は、親指指袋が甲側において最上位置となって、隣り合う指袋がウエール方向端部で重なり合うように襞状部を形成することが好ましい。
【0019】
また、前記した編成方法により5本の指袋を有する手袋を編成する場合、人差指、中指、薬指、小指の指袋について、人差指指袋が他の指袋に対して甲側において最上位置となって、隣り合う指袋がウエール方向端部で重なり合うように襞状部を形成することが好ましい。
【0020】
そして、上記した編成方法により指袋付きの靴下または手袋を編成することにより、二つ以上の指袋を有し、少なくとも一つの指股部に対して、隣り合う指袋がそのウエール方向端部で重なり合うように指股部に襞状部が形成された指袋付きの靴下または手袋を作製できる。そして、本発明の指袋付きの靴下または手袋は、隣接する二つの筒状部のうち、一方の筒状部における他方の筒状部側ウエール方向端部の複数の編目が、前後の編地部で対向するように重ね合わされ、他方の筒状部の前後一方の編地部における一方の筒状部側ウエール方向端部の複数の編目が、一方の筒状部の重ね目に重ね合わされて、さらに、重ね合わされた編目に連続する編目が形成されることにより、二つの筒状部が接合されて指股部と襞状部とが形成されている。
【発明の効果】
【0021】
本発明の編成方法により得られる指袋付きの靴下または手袋は、前記した編成方法により指股部に襞状部を形成するため、編み上がりの状態から、指袋に対してプレス加工を施すことなく、指袋がウエール方向端部で重なった状態にできる。すなわち、指袋を重ねるためのプレス加工をする必要がなくなり、編み上がりの状態から、常に指袋の重なり状態を維持できて見栄えが良くなる。さらに、靴下または手袋を洗濯しても、常に指袋の重なり状態を維持できる。その結果、形状を整えるためのプレス作業を軽減できながら、指袋の重なり状態を長期に維持でき、しかも、見栄えを良好にできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
次に本発明の好適な実施の形態を図面に基づいて以下に詳細に説明する。以下に示す実施形態は、左右方向に延び、かつ、前後方向に互いに対向する前後一対の針床を有し、後針床が左右にラッキング可能で、しかも、前後の針床間で編目の目移しが可能ないわゆる2枚ベッドの横編機を用いて指袋付きの靴下または手袋を製作する。
【0023】
本実施形態では、2枚ベッドの横編機は、先端にフックを備えた針本体と、2枚の薄板を重ね合わせて構成したスライダーとからなる複合針を備えた2枚ベッドの横編機(例えば、株式会社島精機製作所製のSWG021)を用いる。なお、横編機は、前記複合針を備えた横編機だけでなく、べら針を備えた横編機を用いることもできる。さらに、横編機は、前記した2枚ベッドの横編機を用いるのではなく、4枚ベッドの横編機を用いることもできる。
【0024】
前記複合針を備えた横編機を用いる場合には、2枚ベッドでありながら、空針を設けることなく全針を用いて筒状編地の編成が行える。前記複合針を備える横編機では、一方の針床における複合針のスライダーで編目を他方の針床に進出させて、他方の針床における複合針のスライダーに編目を預け置くようにする(特開平11−43849号公報に開示される編目の預け置き方法)。
【0025】
なお、べら針の2枚ベッドの横編機を用いる場合は、筒状の編地を編成するときに、前後の各針床においてそれぞれ1本おきの針を用いて編成を行う。例えば、前針床の奇数番目の針を主として靴下や手袋の甲側の編地(以下前側編地部という。)を編成するために用い、後針床の偶数番目の針を主として靴下の裏側や手袋の掌側の編地(以下後側編地部という。)を編成するために用いる。
【0026】
1本おきの針を用いて編成を行う場合には、前針床で前側編地部を編成する際、前針床において編目が係止されている針と対向する後針床の針は空針となる。また、後針床で後側編地部を編成する際には、後針床において編目が係止されている針と対向する前針床の針は空針となる。そのため、前後の編地部はそれぞれ対向する針床に目移し用の空針を常に確保できる。
【0027】
前記したスライダーや空針を用いることにより、リンクス、ガーター、リブなどの表目と裏目が混在した組織柄を編成したり、前後の編目をウエール方向に移動させて互いに接合することができる。
【0028】
また、4枚ベッドの横編機を用いる場合は、例えば、下部前針床で、主として前側編地部を編成し、下部後針床で、主として後側編地部を編成する。そして、上部後針床を前側編地部を編成する際の空針として前側編地部の目移し、裏目の形成等に用い、上部前針床を後側編地部を編成する際の空針として後側編地部の目移し、裏目の形成等に用いる。
【0029】
以下に示す実施形態は、筒状部となる指袋をそれぞれ個別に筒状に編成し、これら指袋のうち2本の指袋を接合することにより2本胴となる筒状部を形成し、接合した筒状部に次々に指袋を接合しては、3本胴、4本胴、5本胴を形成していく。
【0030】
<第1実施形態>
図1は、5本の指袋を備える靴下(左足)の平面図である。図2は、二つの実施形態で共通する基本的な編成方法の編成工程図を示し、図3から図5は、図1の靴下の編成方法の編成工程図を示す。
【0031】
第1実施形態で編成される靴下1は、5本の指袋を備え、図1において正面側が甲側編地部1A(前側編地部)となり、背面側が裏側編地部1B(後側編地部)となる。また、靴下1は、指先先端部の位置が第1指指袋21が最も突出しており、第1指指袋21、第2指指袋22、第3指指袋23、第4指指袋24、第5指指袋25の順に指先先端部の位置が下がっている。第1指指袋21は親指に対応し、第2指指袋22は人差指、第3指指袋23は中指、第4指指袋24は薬指、第5指指袋25は小指に対応する。
【0032】
さらに、第1指指袋21と第2指指袋22の間に第1指股部31を、第2指指袋22と第3指指袋23の間に第2指股部32を、第3指指袋23と第4指指袋24の間に第3指股部33を、第4指指袋24と第5指指袋25の間に第4指股部34を形成する。第1指股部31、第2指股部32、第3指股部33、第4指股部34の位置も、第1指股部31から順に足首側に下がっている。
【0033】
本実施形態では、第1指指袋21、第2指指袋22、第3指指袋23、第4指指袋24、第5指指袋25を個別に筒状に編成するのであって、第1指指袋21から第2指指袋22、第3指指袋23、第4指指袋24、第5指指袋25の順に編成していく。
【0034】
第1指指袋21と第2指指袋22を編成した後、第1指指袋21と第2指指袋22とを第1指股部31で接合して2本胴41を形成する。次に、第3指指袋23を編成して、第3指指袋23と2本胴41の第2指指袋22部分とを第2指股部32で接合して3本胴51を形成する。第4指指袋24を編成して、第4指指袋24と3本胴51の第3指指袋23部分とを第3指股部33で接合して4本胴61を形成する。第5指指袋25を編成して、第5指指袋25と4本胴61の第4指指袋24部分とを第4指股部34で接合して5本胴71を形成する。5本胴71を足挿入口11まで編成して、靴下1が形成される。
【0035】
本実施形態では、第1指指袋21、第2指指袋22、第3指指袋23、第4指指袋24、第5指指袋25、2本胴41、3本胴51、4本胴61、5本胴71が本発明でいう筒状部となる。また、本実施形態では、靴下の足の甲側編地部1Aを、主として前針床の針を使用して編成する。靴下の足の裏側編地部1Bを、主として後針床の針を使用して編成する。
【0036】
ただし、本実施形態および以下に示す他の実施形態では、各指袋は、指股部形成位置まで編成した時点における甲側編地部と裏側(手袋においては掌側)編地部との境界部を予め設定している。本実施形態を含め各実施形態において、接合する前の各筒状部の甲側編地部の編目を太い線で示し、裏側編地部の編目を細い線で示す。また、各指袋を筒状に編成するためには、糸切れを防止するために前後の針床に係止される編目をほぼ同数にして編成する。
【0037】
第1実施形態にかかる靴下1の足挿入口11以外の部分の編組織、および、後記する第2実施形態の手袋の手挿入口以外の部分の編組織は、説明の便宜上、平編みの無地としているが、ジャガードやリブ等の組織柄のものであってもよい。
【0038】
まず、本実施形態の靴下における指袋を有する筒状部および第2実施形態の手袋における指袋を有する筒状部の編成および筒状部の接合の方法についての共通する基本的な編成方法について図2に基づいて説明する。
【0039】
なお、図2の編成工程図および後記する図3から図5、図7から図9の編成工程図において、左の数字は、編成工程のステップを示し、左のFは前針床を、Bは後針床を示している。また、編地部の編目を丸で示し、各ステップの下側の丸は前針床Fに係止される編目を示し、上側の丸は後針床Bに係止される編目を示す。
【0040】
図2おいて、まず、第1筒状部81を筒状に編成する(ステップ1)。ステップ1において、後針床Bに係止される編目が後側編地部(足の裏側編地部1B、手の掌側の編地部10B)の編目を示し、前針床Fに係止される編目が前側編地部(足の甲側編地部1A、手の甲側の編地部10A)の編目を示している。
【0041】
ステップ1で指股形成位置まで編成した第1筒状部81を、後側編地部の編幅右側端部の編目2目を対向する前針床Fに係止されている前側編地部の編目に重ねるように目移しする(ステップ2)。
【0042】
次に、第1筒状部81の編目を針床に係止したまま、この第1筒状部81に隣接するように第2筒状部82を指股形成位置まで筒状に編成する(ステップ3)。そして、第2筒状部82を指股形成位置まで編成すると、第2筒状部82の前針床Fに係止されている前側編地部の編目の全てを後針床Bの対向するスライダーに預け置くとともに、第1筒状部81の後針床Bに係止されている編目の全てを、前針床Fの対向するスライダーに預け置く(ステップ4)。そして、後針床Bを図の左に2ピッチラッキングして、第2筒状部82におけるスライダーに預け置かれている前側編地部の編目の全てを対向する前針床Fの編針に目移しして、第2筒状部82の前側編地部の編幅左端部の2目が、それぞれ対向する前針床Fの重ね目が係止される編針に目移しされた状態にする。さらに、前針床Fのスライダーに預け置かれている第1筒状部81の編目の全てを対向する後針床Bの編針に目移しする(ステップ5)。
【0043】
ステップ5の工程により、第1筒状部81の前側編地部の編幅右側端部の2目に後側編地部の編幅右側端部の2目が重ね合わされた上に、さらに、第2筒状部82の前側編地部の編幅左側端部の2目が重ね合わされた状態となる。ステップ5の状態で、第1筒状部81と第2筒状部82が指股部で接合された状態になる。
【0044】
そして、ステップ5の状態から、第1筒状部81の後側編地部、第2筒状部82の後側編地部、第2筒状部82の前側編地部、第1筒状部81の前側編地部の順に周回編成して一つの筒状に編成する(ステップ6)。この周回編成により、第3筒状部83が形成される。第3筒状部83を形成することにより、3つの編目が重ね合わされた編針において、重ね目に連続する編目が形成され、第3筒状部83の前側編地部における指股部に襞状部が形成された状態になる。
【0045】
次に、第1実施形態における具体的な編成方法について説明する。第1実施形態では、図3に示すように、まず、第1指指袋21を、第1指股部31の形成位置まで編成した後(ステップ1)、第1指指袋21に対して、図2のステップ2と同じ編成を行い、前後の編地部の編幅右側端部の編目2目を重ね合わせる(ステップ2)。
【0046】
第2指指袋22を、第1指指袋21に隣接させて、第1指股部31の形成位置まで筒状に編成した後(ステップ3)、第1指指袋21と第2指指袋22とを接合する編成を、図2に示したステップ4からステップ5の編成と同様に行う。
【0047】
図2に示したステップ4からステップ5の目移しの工程により、第1指指袋21の前針床Fに係止される重ね目に、さらに、第2指指袋22の編目が重ね合わされて図3のステップ4の状態となる。図3のステップ4の状態で第1指指袋21と第2指指袋22が1本の針に3目ずつ重ね合わされることにより接合されて、重ね目が形成された編目で第1指股部31が形成される。そして、図3のステップ4の状態から、第1指指袋21の後側編地部、第2指指袋22の後側編地部、第2指指袋22の前側編地部、第1指指袋21の前側編地部の順に周回編成して一つの筒状に編成する(ステップ5)。この周回編成は、第2指股部32形成位置まで編成し、この周回編成により、第1指指袋21と第2指指袋22とが接合された2本胴41が形成されるとともに、襞状部90が形成される。襞状部90は、3つの編目が重ね合わされた編針において、重ね目に連続する編目が形成されることにより、2本胴41の前側編地部における第1指股部31に襞状に形成される。
【0048】
そして、図3のステップ5の2本胴41が第2指股部32形成位置まで形成された状態から、第1指指袋21と第2指指袋22の接合および襞状部の形成と同じ編成を、2本胴41と第3指指袋23に対しても行う(ステップ6からステップ9)。
【0049】
次に、ステップ9で形成された3本胴51と、第4指指袋24の接合および襞状部の形成についても、第1指指袋21と第2指指袋22の接合および襞状部の形成と同じ編成を行う(ステップ10からステップ13)。
【0050】
次に、ステップ13で形成された4本胴61と、第5指指袋25の接合および襞状部の形成についても、第1指指袋21と第2指指袋22の接合および襞状部の形成と同じ編成を行う(ステップ14からステップ17)。
【0051】
ステップ17まで編成を行うと、靴下1の甲側の編地部における各指股部には、襞状部90が形成される。この襞状部90の形成により、靴下1を編み上げたときは、図1に示すように、親指が挿入される第1指指袋21が最上位置となるように、各指袋のウエール方向端部が重ね合わされた状態になり、プレス加工を施すことなく、各指袋がまっすぐに伸びた状態となって見栄えがよくなる。
【0052】
<第2実施形態>
前記第1実施形態は、靴下の実施形態について説明したが、本発明の指袋の編成方法は、手袋の指袋の編成にも適用できる。第2実施形態を図6の手袋(左手)平面図および図7から図9の編成工程図に基づいて説明する。第2実施形態は、5本の指袋を備え、図6において正面側が甲側編地部10A(前側編地部)となり、背面側が掌側編地部10B(後側編地部)となる。また、手袋10は、図6に示すように、中指指袋23の先端が最も突出しており、次に人差指指袋22、薬指指袋24、小指指袋25、親指指袋21の順に指先先端部の位置が下がった状態のものである。
【0053】
さらに、親指指袋21と人差指指袋22の間に第1指股部31を、人差指指袋22と中指指袋23の間に第2指股部32を、中指指袋23と薬指指袋24の間に第3指股部33を、薬指指袋24と小指指袋25の間に第4指股部34を形成する。第2実施形態では、指股部が形成される位置が、第2指股部32、第3指股部33、第4指股部34、第1指股部31の順に手首側に下がっている。
【0054】
第2実施形態は、人差指指袋22、中指指袋23、薬指指袋24、小指指袋25、親指指袋21の順に個別に指袋を編成していく。
【0055】
そして、人差指指袋22と中指指袋23とを編成した後、人差指指袋22と中指指袋23とを、第2指股部32で接合して2本胴42を形成する。次に、薬指指袋24を編成して、この薬指指袋24と2本胴42の中指指袋23部分とを第3指股部33で接合して3本胴52を形成する。小指指袋25を編成して、小指指袋25と3本胴52の薬指指袋24部分とを第4指股部34で接合して4本胴62を形成する。親指指袋21を編成して、親指指袋21と4本胴62の人差指指袋22部分とを第1指股部31で接合して5本胴72を形成する。5本胴72を手挿入口12まで編成して、手袋10が形成される。
【0056】
第2実施形態の指袋の編成および接合の方法について具体的に図7から図9の編成工程図に基づいて説明する。本実施形態では、親指指袋21、人差指指袋22、中指指袋23、薬指指袋24、小指指袋25、2本胴42、3本胴52、4本胴62、5本胴72が本発明でいう筒状部となる。また、本実施形態では、手袋の甲側編地部10Aを、主として前針床Fの針を使用して編成する。手袋の掌側編地部10Bを、主として後針床Bの針を使用して編成する。
【0057】
第2実施形態では、まず、人差指指袋22を、第2指股部32の形成位置まで編成する(ステップ1)。次に、人差指指袋22に対して、図2のステップ2と同じ編成を行い、前後の編地部の編幅右側端部の編目2目を重ね合わせる(ステップ2)。
【0058】
中指指袋23を、人差指指袋22に隣接させて、第2指股部32の形成位置まで筒状に編成した後(ステップ3)、人差指指袋22と中指指袋23とを接合する編成を、図2に示したステップ4からステップ5の編成と同様に行う。
【0059】
図2に示したステップ4からステップ5の目移しの工程により、人差指指袋22の前針床Fに係止される重ね目に、さらに、中指指袋23の編目が重ね合わされて図7のステップ4の状態となる。図7のステップ4の状態で人差指指袋22と中指指袋23が1本の針に3目ずつ重ね合わされることにより接合されて、重ね目が形成された編目で第2指股部32が形成される。そして、図7のステップ4の状態から、人差指指袋22の後側編地部、中指指袋23の後側編地部、中指指袋23の前側編地部、人差指指袋22の前側編地部の順に周回編成して一つの筒状に編成する(ステップ5)。この周回編成は、第3指股部33形成位置まで編成し、この周回編成により、人差指指袋22と中指指袋23とが接合された2本胴42が形成されるとともに、襞状部90が形成される。襞状部90は、3つの編目が重ね合わされた編針において、重ね目に連続する編目が形成されることにより、2本胴42の前側編地部における第2指股部32に襞状に形成される。
【0060】
そして、図7のステップ5の2本胴42が第3指股部33形成位置まで形成された状態から、人差指指袋22と中指指袋23の接合および襞状部の形成と同じ編成を、2本胴42と薬指指袋24に対しても行う(ステップ6からステップ9)。
【0061】
次に、ステップ9で形成された3本胴52と、小指指袋25の接合および襞状部の形成についても、人差指指袋22と中指指袋23の接合および襞状部の形成と同じ編成を行う(ステップ10からステップ13)。
【0062】
そして、ステップ13で4本胴62の編成を行った後、親指指袋21を第1指股部31の形成位置まで編成し(ステップ14)、さらに、親指指袋21に対して、図2のステップ2と同じ編成を行い、前後の編地部の編幅右側端部の編目2目を重ね合わせる(ステップ15)。
【0063】
4本胴62と親指指袋21とを接合して第1指股部31を形成する編成も前記した図2に示したステップ4からステップ5の編成を行う。この編成でステップ16の状態になり、ステップ16の状態から、前記した人差指指袋22と中指指袋23を接合した場合と同様に、周回編成を行うことにより、4本胴62と親指指袋21とが接合された5本胴72と襞状部90が形成される(ステップ17)。
【0064】
ステップ17まで編成を行うと、手袋10の甲側の編地部における各指股部には、襞状部90が形成される。この襞状部90の形成により、手袋10を編み上げたときは、図6に示すように、親指指袋21、人差指指袋22、中指指袋23、薬指指袋24、小指指袋25は、親指指袋21が甲側において最上となる。各指袋は、ウエール方向端部が重ね合わされた状態になり、プレス加工を施すことなく、4本の指袋がまっすぐに伸びた状態となって見栄えがよくなる。
【0065】
前記各実施形態では、襞状部を形成するための一方の筒状部において前後の編地部の編目を重ね合わす編目の数と、他方の筒状部における一方の筒状部の重ね目に重ね合わす編目の数を2つとして同数とした。このように重ね合わす編目の数を双方の筒状部で同じ数とすると見栄えのより美しいものができあがる。ただし、一方の筒状部の前後編地部の重ね目の数を、他方の筒状部と重ね合わす数よりも多くなるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の編成方法は、横編機を用いて無縫製で編成される指袋付きの靴下または手袋を編成する場合に適している。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の靴下の編成方法の第1実施形態であって、靴下の平面図を示す。
【図2】第1実施形態および第2実施形態に共通する筒状部の編成工程図である。
【図3】第1実施形態にかかる靴下の編成工程図である。
【図4】図3に続く編成工程図である。
【図5】図4に続く編成工程図である。
【図6】本発明の手袋の編成方法の第2実施形態であって、手袋の平面図を示す。
【図7】第2実施形態にかかる手袋の編成工程図である。
【図8】図7に続く編成工程図である。
【図9】図8に続く編成工程図である。
【図10】従来の手袋の状態を示す平面図である。
【符号の説明】
【0068】
1 靴下 10 手袋 11 足挿入口 12 手挿入口
21 第1指指袋,親指指袋 22 第2指指袋,人差指指袋
23 第3指指袋,中指指袋 24 第4指指袋,薬指指袋
25 第5指指袋,小指指袋
31 第1指股部 32 第2指股部 33 第3指股部
34 第4指股部
41,42 2本胴
51,52 3本胴
61,62 4本胴
71,72 5本胴
81 第1筒状部 82 第2筒状部 83 第3筒状部
90 襞状部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右方向に延び、かつ、前後方向に互いに対向する少なくとも前後一対の針床を有し、前後の針床の少なくとも一方が左右にラッキング可能で、前後の針床間で編目の目移しが可能な横編機を用いて、指先から編成するとともに、少なくとも一つの指股部に対して、隣り合う指袋が、そのウエール方向端部で重なり合うように指股部に襞状部を形成する指袋付きの靴下または手袋の編成方法であって、
隣接する二つの筒状部のうち、一方の筒状部における前側編地部または後側編地部のうちの一方の編地部における他方の筒状部側ウエール方向端部の複数の編目を、対向する前後他方の編地部の編目に目移しして重ね合わせ、
次に、他方の筒状部における一方の筒状部の重ね目が形成されている編地部と同じ側の編地部の編目で、かつ、一方の筒状部側ウエール方向端部の複数の編目を、一方の筒状部の重ね目に重ね合わせ、
一つの針に係止された3つの編目に連続する編目を形成することにより、
二つの筒状部を接合して指股部と襞状部を形成することを特徴とする指袋付きの靴下または手袋の編成方法。
【請求項2】
一方の筒状部における重ね目を形成する編目の数と、他方の筒状部における一方の筒状部の重ね目に重ね合わす編目の数が同数であることを特徴とする請求項1に記載の指袋付きの靴下または手袋の編成方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の指袋付きの靴下または手袋の編成方法は、編成する指袋付きの靴下または手袋が、5本の指袋を有する靴下であって、5本の指袋は、親指指袋が甲側において最上位置となって、隣り合う指袋がウエール方向端部で重なり合うように襞状部を形成することを特徴とする。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の指袋付きの靴下または手袋の編成方法は、編成する指袋付きの靴下または手袋が、5本の指袋を有する手袋であって、人差指、中指、薬指、小指の指袋について、人差指指袋が他の指袋に対して甲側において最上位置となって、隣り合う指袋がウエール方向端部で重なり合うように襞状部を形成することを特徴とする。
【請求項5】
多数の編針を装着した針床を前後に対向して設けた横編機を使用して、少なくとも二つ以上の指袋を有し、指先から編成されるとともに、少なくとも一つの指股部に対して、隣り合う指袋が、そのウエール方向端部で重なり合うように指股部に襞状部が形成された指袋付きの靴下または手袋であって、
隣接する二つの筒状部のうち、一方の筒状部における他方の筒状部側ウエール方向端部の複数の編目が、前後の編地部で対向するように重ね合わされ、他方の筒状部の前後一方の編地部における一方の筒状部側ウエール方向端部の複数の編目が、一方の筒状部の重ね目に重ね合わされて、さらに、重ね合わされた編目に連続する編目が形成されることにより、二つの筒状部が接合されて指股部と襞状部とが形成されていることを特徴とする指袋付きの靴下または手袋。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−131983(P2007−131983A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−328197(P2005−328197)
【出願日】平成17年11月11日(2005.11.11)
【出願人】(000151221)株式会社島精機製作所 (357)
【Fターム(参考)】