説明

振動型圧縮機の電源装置

【課題】振動型圧縮機を駆動しているインバータの入力側直流電源を、バッテリ入力とAC/DC入力の二系統の電源から供給する際、その電流路にダイオードOR接続、及びDC/DCコンバータの構成を介さずに優先的な自動切換昨日を有する振動型圧縮機の電源装置を得る。
【解決手段】バッテリ入力の電源は相互にソース端子が接続されゲート端子は共通のゲート電圧によって駆動されるよう直列接続された第1及び第2のMOS−FETで電流路を導通制御し、AC/DC入力の電源は制御部で第3のMOS−FETで電流路を導通制御するよう構成される。バッテリ入力の電源はインバータに直接供給可能とし、AC/DC入力の電源が接続された場合には、バッテリ入力の電源に優先してインバータに供給されるよう前記第3のMOS−FETを導通させる。更にバッテリ入力の電源からの供給とバッテリ入力の電源への充電を第1及び第2のMOS−FETで阻止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータにより電力を供給する構成の振動型圧縮機の電源装置に関し、特に、商用交流電源、12V系(主に普通乗用車)バッテリ、及び24V系(主にバス、トラック等の大型車)バッテリに対応し、自動切り換え可能な振動型圧縮機の電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車載又は、携帯用の冷蔵庫等の冷媒を圧縮する圧縮機として振動型圧縮機が知られており、当該振動型圧縮機の電源装置として、図7に示されるような電源装置がある(特開2001−178149号公報参照)。直流電源として、車両等のバッテリ101をDC/DCコンバータ102により昇圧した電源と、AC商用電源103をAC/DCコンバータ104により直流電圧に変換した電源とをダイオードOR接続(ダイオード105,106)して構成し、インバータ108により振動型圧縮機107を駆動している。
【0003】
上記AC/DCコンバータ104からの電源がAC商用電源103の接続により電圧を検出した際には、DC/DCコンバータ制御部を介して上記車両等のバッテリ101からの電源出力を停止させる手段を備えている。
【0004】
しかしながら、上記車両等のバッテリ101をDC/DCコンバータ102により昇圧した電源から電圧供給される時にはダイオード106を介してインバータ108に電流が流れ、上記AC商用電源103をAC/DCコンバータ104により直流電圧に変換した電源から電圧供給される時にはダイオード105を介してインバータ108に電流が流れるので、常に電流路にダイオード(105又は106)が存在し、そのダイオードによる順方向電圧降下が損失(例えば電流が4アンペアの時には約2ワットの損失)となって、電源装置としての効率向上を阻んでいる。この損失はダイオード(105又は106)に熱となって発生するため、その放熱のためヒートシンクが必要な場合もあった。
【0005】
また、上記車両等のバッテリ101をDC/DCコンバータ102により昇圧した電源は、バッテリ101の電圧を所望な電圧に昇圧するための比較的大きなDC/DCコンバータ102が必要で、その周辺回路も含めて電源装置の小型軽量化が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−178149号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる課題を解決するため、交流商用電源を直流変換した電源入力系と、異なる電圧(12Vと24V)のバッテリが接続可能な直流電源入力系を両立させ、その電流路にダイオードOR接続、及びDC/DCコンバータの構成を介さずに振動型圧縮機を駆動できる電源装置を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、電流路の電源スイッチング素子にMOS−FETを採用し、異なる電圧(12Vと24V)のバッテリが接続可能な直流電源入力系にはMOS−FETを相互にソース端子を接続した直列のMOS−FET回路を有する構成を最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の振動型圧縮機の電源装置は、MOS−FETがオンの状態における低いオン抵抗を利用して損失を低減するため、ダイオードOR接続、及びDC/DCコンバータを介さずに振動型圧縮機を駆動できるので、電源装置の消費電力の効率化、及び小型軽量化に寄与できるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は本発明を適用する振動型圧縮機の電源装置の一例を示す概略ブロック図である。
【図2】図2は本発明を適用する振動型圧縮機の電源装置の切換制御のフローチャートである。
【図3】図3は本発明の電源装置を用いた振動型圧縮機の制御方法を示した説明図(タイミングチャート)である。
【図4】図4は本発明の電源装置を用いた振動型圧縮機を制御する方法を示した説明図である。
【図5】図5は本発明の電源装置を用いた振動型圧縮機を制御する方法のフローチャートである。
【図6】図6は本発明の電源装置により駆動される振動型圧縮機の構造の一例を示す説明図である。
【図7】図7は従来技術の振動型圧縮機の電源装置の概略ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
振動型圧縮機を駆動する電源装置は、バッテリ入力の電源とAC/DC入力の電源とを有し、バッテリ入力の電源は相互にソース端子が接続されゲート端子は共通のゲート電圧によって駆動されるよう直列接続された第1及び第2のMOS−FETで電流路を導通制御され、AC/DC入力の電源は制御部で第3のMOS−FETで電流路を導通制御される。バッテリ入力の電源は振動型圧縮機を駆動するインバータの入力側直流電源として直接供給されるようにし、AC/DC入力の電源が接続された場合にはバッテリ入力の電源に優先してインバータに供給されるよう第3のMOS−FETを導通させる。加えてバッテリ入力の電源の供給と、バッテリ入力の電源への充電を第1及び第2のMOS−FETで阻止することにより、電流路におけるダイオードOR接続の構成と、DC/DCコンバータを介することなく振動型圧縮機の電源装置を実現した。
【実施例1】
【0012】
図1は、本発明を適用する振動型圧縮機の電源装置の一例を示す概略ブロック図である。当該振動型圧縮機の構造については後述するが、1は振動型圧縮機の電磁コイル、2a及び2bは電磁コイルと実質的に一体化されたピストン34を機械的振動系として振動可能に支持する一対のバネである。3は電磁コイル1を駆動する制御回路部、4は12V系(主に普通乗用車)又は24V系(主にバス、トラック等の大型車)のバッテリ入力、5は100V又は200Vの交流商用電源を直流変換した電源であるところのAC/DC入力である。
【0013】
制御回路部3の内部構成を説明すると、6はマイクロプロセッサユニット(MPU)、7〜10はスイッチング素子で、これらをH形のフルブリッジタイプに配置してインバータ3aを構成し、電磁コイル1を電気的に駆動する。なお、スイッチング素子7〜10は、望ましくはエンハンスメント形MOS−FETを用いるが、バイポーラトランジスタ、IGBTを使用してもよい。11はインバータ3aの入力直流電圧を保持するコンデンサである。
【0014】
12及び13は第1の電源であるバッテリ入力4の導通制御をする第1及び第2の電源スイッチング素子(12D及び13Dは素子内部のダイオード)としてのエンハンスメント形のMOS−FETである。第1のMOS−FET12と第2のMOS−FET13は相互にソース端子が接続され、ゲート端子は共通のゲート電圧によって駆動されるよう、第1のMOS−FET12のゲート抵抗14と第2のMOS−FET13のゲート抵抗15は、抵抗16及びツェナーダイオード17のゲート電圧生成直列定電圧回路の接続点に接続されている。
【0015】
18a及び18bは、18aの発光ダイオード部と18bの受光トランジスタ部が一体となって一つのフォトカプラを構成する公知のものである。また、19a及び19bも同様な一つのフォトカプラである。20はフォトカプラ18aと19aの入力信号用の電流制限抵抗、21はフォトカプラの受光トランジスタ部19bの負荷抵抗、22はコンデンサである。
【0016】
23は振動型圧縮機の電磁コイル1に誘起される電圧検出用のコンパレータ、24はコンパレータ23の出力とマイクロプロセッサユニット(MPU)6の出力端子(M)とを入力として、論理アンド出力をマイクロプロセッサユニット(MPU)6の出力端子(S)に出力するアンド回路である。
【0017】
25は第2の電源であるAC/DC入力5の導通制御をする第3のスイッチング素子(25Dは素子内部のダイオード)としてのエンハンスメント形のMOS−FETである。26は第3のMOS−FET25のゲート抵抗、27及び28はマイクロプロセッサユニット(MPU)6の出力ポートGからの信号を受けて第3のMOS−FET25をオンオフさせるためのゲート分圧抵抗である。
【0018】
スイッチング素子7〜10をH形に配置してフルブリッジタイプに構成したインバータ3aの入力側はコンデンサ11の両端に蓄えられる直流電圧である。この直流電圧値、即ちコンデンサ11の両端の電圧値はマイクロプロセッサユニット(MPU)6の入力端子(R)から取り込まれて直流電圧値として検出される。
【0019】
29は温度検出素子であり、マイクロプロセッサユニット(MPU)6の入力端子(Q)に接続される。なお、温度検出素子29について具体的にはサーミスタ、熱電対等の温度によりその抵抗値、電圧等の物理量が変化するものが用いられる。
【0020】
第1の電源であるバッテリ入力4と第2の電源であるAC/DC入力5の自動切換動作について説明する。バッテリ入力4とAC/DC入力5を選択的に使用するため、バッテリ入力4は第1のMOS−FET12及び第2のMOS−FET13を抵抗16とツェナーダイオード17及びゲート抵抗14、15で作動させフォトカプラ(18a,18b)で制御する。AC/DC入力5は、抵抗20とフォトカプラ(19a,19b)の信号を受けて抵抗21とコンデンサ22に接続されるマイクロプロセッサユニット(MPU)6の入力ポートPに伝達され、後述するフローチャートに従って判断された結果を、第3のMOS−FET25をマイクロプロセッサユニット(MPU)6の出力ポートGの信号を受けて、ゲート抵抗26、ゲート分圧抵抗27及び28で制御する。
【0021】
はじめに、バッテリ入力4に12V系(主に普通乗用車)バッテリ、又は24V系(主にバス、トラック等の大型車)バッテリが接続され、かつ、AC/DC入力5に電圧が発生していない(つまり、100V又は200Vの商用交流を直流に変換した電源が接続されいてないときを意味する)場合について動作を説明する。バッテリ入力4の電圧が抵抗16とツェナーダイオード17の直列回路に印加され、ツェナーダイオード17の両端に発生する定電圧は、ゲート抵抗14を介して第1のMOS−FET12のゲート・ソース間にゲート電圧となって印加されて第1のMOS−FET12をオンにし、同様にゲート抵抗15を介して第2のMOS−FET13のゲート・ソース間にゲート電圧となって印加されて第2のMOS−FET13をオンにする。
【0022】
バッテリ入力4の+端子からの電流は、コンデンサ11を充電しつつ、第2のMOS−FET13のドレイン・ソース間、第1のMOS−FET12のソース・ドレイン間を流れ、バッテリ入力4の−端子に至る。コンデンサ11に充電された電圧は、インバータ3aの直流電圧源となって振動型圧縮機の電磁コイル1を電気的に駆動する。オン状態の第1のMOS−FET12のソース・ドレイン間、及び第2のMOS−FET13のドレイン・ソース間の抵抗(オン抵抗)は、数ミリオームから数十ミリオームで、オン抵抗と流れる電流による電力損失は、一般のダイオード順方向電圧降下による電力損失に比べて桁違いに遥かに小さい。
【0023】
次に、AC/DC入力5に直流電圧が発生し(つまり、100V又は200Vの商用交流を変換した直流電源が接続されたときを意味する)、かつ、バッテリ入力4に電圧が発生していない(つまり、バッテリが接続されていないときを意味する)場合について動作を説明する。AC/DC入力5の電圧が抵抗20とフォトカプラの発光ダイオード部(18a,19a)の直列回路に印加されると、フォトカプラ19bの受光トランジスタ部がオンし、マイクロプロセッサユニット(MPU)6の入力ポートPをローレベルにする。マイクロプロセッサユニット(MPU)6は、後述する切換制御のフローチャートに従い出力ポートGをハイレベルにする。このハイレベルの電圧はゲート分圧抵抗27及び28で所望の電圧値に調整し、ゲート抵抗26を介して第3のMOS−FET25をオンにする。
【0024】
AC/DC入力5の+端子からの電流は、コンデンサ11を充電しつつ、第3のMOS−FET25のソース・ドレイン間を流れ、AC/DC入力5の−端子に至る。コンデンサ11に充電された電圧は、インバータ3aの直流電圧源となって振動型圧縮機の電磁コイル1を電気的に駆動する。オン状態の第3のMOS−FET25のソース・ドレイン間の抵抗(オン抵抗)は、前述の第1、及び第2のMOS−FET(12,13)と同様であり、その電力損失は小さい。
【0025】
更に、バッテリ入力4かつAC/DC入力5の両方に電圧が発生している場合について動作を説明する。この場合には、AC/DC入力5(100V又は200Vの交流商用電源を直流変換した電源)を、バッテリ入力4(図示しないバッテリの電源)に優先して選択する特徴を有する。このため、AC/DC入力5の電圧が第3のMOS−FET25をオンにし、コンデンサ11を充電することによりインバータ3aの直流電圧源となって振動型圧縮機の電磁コイル1を電気的に駆動することは前述のとおりである。但し、バッテリ入力4に接続されている図示しないバッテリへの充電、及びバッテリ入力4とAC/DC入力5の電圧の衝突を避けるよう以下の動作を行う。AC/DC入力5の電圧がフォトカプラの発光ダイオード部18aに印加されるとフォトカプラの受光トランジスタ部18bはオンし、ツェナーダイオード17の両端に発生する定電圧を第1のMOS−FET12及び第2のMOS−FET13がオフするゲート電圧値まで下げる。従って、第1のMOS−FET12及び第2のMOS−FET13の両方が同時にオフする。このことにより、AC/DC入力5の電圧は第1のMOS−FET12がバッテリ入力4に接続されているバッテリへの充電を阻止する。また、バッテリ入力4の電圧がAC/DC入力5の電圧より高いときは第2のMOS−FET13が電流路を阻んで電圧の衝突を防止する。
【0026】
また、バッテリ入力4に図示しないバッテリが逆に接続されて+−が逆転した電圧が出現しても、ツェナーダイオード17の両端に発生する電圧は順方向の低い電圧であり、第1のMOS−FET12及び第2のMOS−FET13がオンすることはなく、第1のMOS−FET12により逆流回路は遮断される。このため、本発明の電源装置が自動車等に搭載される冷蔵庫に用いられたときに、自動車のバッテリの極性を+−逆転して本電源装置に接続された場合でも、本電源装置及びバッテリの両者とも故障やダメージを負うことなく、正しい極性に接続し直せば動作が可能となる。
【0027】
図2の切換制御のフローチャートを参照して、マイクロプロセッサユニット(MPU)6の動作を説明する。動作がスタートすると(ステップ1)、AC/DC入力5の電圧有無を検出するため、入力ポートPのレベルを取り込む(ステップ2)、入力ポートPのレベルがローレベル"L"であればAC/DC入力5からの電圧が有ると判断してステップ4に飛ぶ判断を行い(ステップ3)、第3のMOS−FET25のゲート信号をオンするために出力ポートGをハイレベル"H"にする(ステップ4)、又は入力ポートPのレベルがハイレベル"H"であれば電圧が無いと判断してステップ5に飛ぶ判断を行い(ステップ3)、第3のMOS−FET25のゲート信号をオフするために出力ポートGをローレベル"L"にする(ステップ5)、ステップ4,5のいずれも次はスタートに戻るリターン処理を行う(ステップ6)。
【0028】
次に、振動型圧縮機の制御について説明する。図1を参照してマイクロプロセッサユニット(MPU)6には、出力ポートa、b、c、dを有しており、図示しないドライブユニットを介して、スイッチング素子7、8、9、10の各々ゲート端子a、b、c、dに接続されている。マイクロプロセッサユニット(MPU)6の出力ポートa、b、c、dは、H(ハイレベル)又はL(ローレベル)が出力され、その信号に応じてスイッチング素子7、8、9、10がオン又はオフするようにされている。
【0029】
図3を併せて参照して、振動型圧縮機の電磁コイル1に印加される電圧Vは、繰り返し周期Tとした交番電圧であり、繰り返し周期Tは正のPWM通電期間T1、正から負への休止期間T2、負のPWM通電期間T3、負から正への休止期間T4の和である。PWMとはパルス幅変調のことであり、T1の通電期間内では、繰り返し周期Tを例えば256個に分割した周期で正方向でオンオフされており、そのオンの幅はT1の中央を境に、T1の初期から徐々に増加し、中央からT2に向かい徐々に減少する。
【0030】
同様に、T3の通電期間内では、繰り返し周期TをT1と同じ256個に分割した周期で負方向でオンオフされており、そのオンの幅はT3の中央を境に、T3の初期から徐々に増加し、中央からT4に向かい徐々に減少する。T2の期間は、スイッチング素子7、8、9をオフ、スイッチング素子10のみオンに制御される。また、T4の期間は、スイッチング素子7、9、10はオフ、スイッチング素子8のみオンに制御される。上記T2とT4の期間内で、後述するように電磁コイル1には誘起電圧が発生するため、誘起電圧を検出するコンパレータ23が電磁コイル1の両端に接続されている。コンパレータ23は電磁コイル1の誘起電圧が正から負に切り換るゼロクロスポイントをとらえて、L(ローレベル)からH(ハイレベル)に状態遷移するように設定され、アンド回路24の一方の入力端子に信号が伝達される。
【0031】
前記のPWM通電期間であるT1及びT3の期間内において、コンパレータ23が電圧Vのオンオフの影響を受けても制御に影響を与えないよう、マイクロプロセッサユニット(MPU)6の出力端子(M)から、T2及びT4の期間内のみH(ハイレベル)を出力して(図3のMの遷移状態参照)、アンド回路24の他方の入力端子に信号を与える。アンド回路24は上記の一方及び他方の入力レベルを判定して、その論理出力結果をマイクロプロセッサユニット(MPU)6の入力ポートSに伝達する(図3のSの遷移状態参照)。
【0032】
図3及び図4を参照しつつ、電磁コイル1に誘起電圧が発生するメカニズムを説明する。
【0033】
初めにT1の期間では、スイッチング素子7及び10をオフ、スイッチング素子8をオンし、スイッチング素子9を前述のPWM信号でオンオフさせる。電流は図4のi1の向きに流れ、電磁力により電磁コイル1はF1の方向に移動する。電磁コイル1の移動に伴ってバネ2aは圧縮され、同時にバネ2bは伸展して力が貯えられ、それによりF2の方向に力が作用されつつスイッチング素子9のPWM信号の正方向の電圧幅を徐々に減らしていくと、やがてF1とF2が平衡して電磁コイル1の移動が停止する。
【0034】
次にT2の期間では、スイッチング素子7、8、9はオフに制御され、スイッチング素子10のみオンに制御される。インバータ3aから電流を遮断され、電磁力を失った電磁コイル1は、バネ2a及びバネ2bに蓄えられたエネルギーによりF2方向に移動する。その結果、磁束密度により電磁コイル1にはV0の矢印側を正とする誘起電圧が発生し、発生した電圧により電流はi2方向にスイッチング素子10及びスイッチング素子8の内部に存在する図示しない逆方向ダイオードを介して流れるため、V0で示す電圧の方向は正から負の電圧に切り換る。
【0035】
更に、T3の期間では、スイッチング素子8及び9をオフ、スイッチング素子10をオンし、スイッチング素子7を前述のPWM信号でオンオフさせると、T1の期間とは反対のF2の方向に電磁コイル1が移動し始める。バネ2aは圧縮から伸展へ、同時にバネ2bは伸展から圧縮され力が貯えられていく。それによりF1の方向に力が作用されつつPWM信号を負方向の電圧幅を徐々に減らしていくと、やがてF2とF1が平衡して電磁コイル1の移動が停止する。
【0036】
最後にT4の期間では、スイッチング素子7、9、10はオフに制御され、スイッチング素子8のみオンに制御される。インバータ3aから電流を遮断され、電磁力を失った電磁コイル1は、バネ2a及びバネ2bに蓄えられたエネルギーによりF1方向に移動する。その結果、磁束密度により電磁コイル1にはV0の矢印側を負とする誘起電圧が発生し、発生した電圧により電流はi1方向にスイッチング素子8及びスイッチング素子10の内部に存在する図示しない逆方向ダイオードを介して流れるため、V0で示す電圧の方向は負から正の電圧に切り換る。連続したT1、T2、T3、T4の期間をひとつの繰り返し周期Tとなって、次の繰り返し周期Tに移行していく。
【0037】
次に、図5のフローチャートを参照して、振動型圧縮機の制御方法について説明する。マイクロプロセッサユニット(MPU)6の内部には、種々のソフトウェアが組み込まれているが、ここでは振動型圧縮機の制御方法のみのフローを示す。
【0038】
この制御が開始されたら、記憶装置(ソフトウェア内部の記憶領域を含む)に予め設定されているマップから基準タイミングKを読み込む。基準タイミングKの要素としては、図3に示される繰り返し周期T、正のPWM通電期間T1、正から負への休止期間T2、負のPWM通電期間T3、負から正への休止期間T4、PWM通電期間内での各パルス幅であり、基本周波数を発生する(ステップS0,基本波形発生ステップ)。
【0039】
上記PWM通電期間内での各パルス幅を、入力端子(R)から読み込まれたインバータ3a入力側の直流電圧値と、及び入力端子(Q)から読み込まれた温度検出素子29で検出された周囲温度との二つの条件に基づいて演算し、パラメータとして基準タイミングKを内部メモリにセットする(ステップS1,PWMパルス幅演算ステップ)。インバータ3a入力側の直流電圧については、直流電圧値が低い時にはパルス幅が広げられ、高い時には狭められるよう演算され、また、周囲温度については温度が高い時ほどパルス幅を広げるよう演算される。これは振動型圧縮機が冷蔵庫に搭載された場合に、外気温が高い時ほど振動型圧縮機に電力を加えて冷蔵庫の庫内温度を早く所望の温度にするよう制御したいためである。
【0040】
電磁コイル1がバネ2a,2b、及び圧縮機としての吸入・吐出条件と相まった共振周波数に追従するよう、T2の期間内で電磁コイル1に誘起される電圧が正から負になるゼロクロスポイントを検出する。これは図3に示すり返し周期Tの開始点から入力ポートSがL(ローレベル)からH(ハイレベル)に状態遷移した点までの期間をマイクロプロセッサユニット(MPU)6のクロック信号を利用して読み込み、このパラメータを検出信号タイミングAとして内部メモリにセットする(ステップS2,ゼロクロスポイント検出ステップ)。
【0041】
検出信号タイミングAの内部メモリ値と基準タイミングKの内部メモリ値を比較して値の大小を判定する(ステップS3,タイミング判定ステップ)。
【0042】
A<Kの場合は、繰り返し周期Tの値を減少させ、次のサイクルで繰り返し周期Tを短くする。また、A<Kの関係が成立しない場合には、繰り返し周期Tの値を増加させ、次の周期を長くする(ステップS4,周波数補正ステップ)。
【0043】
これで制御ループの一サイクルは完了しするので「Z」に戻る(リターン)。このサイクルを繰り返すことにより振動型圧縮機の電磁コイル1に供給する交番電圧の大きさと周波数を制御する。従って、インバータ3aの入力側コンデンサ11の直流電圧値が、第1の電源であるバッテリ入力4と第2の電源であるAC/DC入力5に切換わって変化があっても、振動型圧縮機の電磁コイル1を所望の状態で制御できる。
【0044】
図6を参照して振動型圧縮機の構造を説明する。密閉容器30の中に有底円筒状の外部鉄心31、外部鉄心31と共に磁路を構成する内部鉄心32(コアポール)、その磁路の内部鉄心32に配設された永久磁石33、及び永久磁石33と外部鉄心31とで形成される環状の間隙に配置され機械的振動系に振動可能に支えられた電磁コイル1、電磁コイル1に連結されたピストン34、およびピストン34を収納するシリンダ・ブロック35を備え、電磁コイル1に交番電流を供給して前記電磁コイル1に連結されたピストン34を振動させ、密閉容器30内に低圧の冷媒を流入し圧縮された高圧の冷媒を吐出するもので、自動車や携帯形などに搭載されている冷蔵庫に応用されるものである。
【0045】
以上説明したように、このような振動型圧縮機の電源装置の構成、特に第1、第2、及び第3の電源スイッチング素子にMOS−FETを採用したので、MOS−FETがオンの状態における低いオン抵抗を利用して、従来のダイオードによる損失を低減した振動型圧縮機の電源装置を実現できる。また、従来のDC/DCコンバータを使用せずに、直接インバータに第1の電源であるバッテリ入力4又は第2の電源であるAC/DC入力5の電圧入力して振動型圧縮機を駆動できる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
振動型圧縮機の電源装置として、商用交流電源、12V系(主に普通乗用車)バッテリ、及び24V系(主にバス、トラック等の大型車)バッテリに対応した自動切り換え可能であり、さらに電力の高効率化と小型・軽量化として有用であるので車載又は携帯用冷蔵庫に搭載できる。
【符号の説明】
【0047】
1 電磁コイル
2a,2b バネ
3 制御回路部
3a インバータ
4 バッテリ入力
5 AC/DC入力
6 マイクロプロセッサユニット(MPU)
7〜10 スイッチング素子
11 コンデンサ
12 第1の電源スイッチング素子としてのMOS−FET
13 第2の電源スイッチング素子としてのMOS−FET
14,15 ゲート抵抗
16 抵抗
17 ツェナーダイオード
18a,18b 第1のフォトカプラの発光ダイオード部,受光トランジスタ部
19a,19b 第2のフォトカプラの発光ダイオード部,受光トランジスタ部
20 抵抗
21 負荷抵抗
22 コンデンサ
23 コンパレータ
24 アンド回路
25 第3の電源スイッチング素子としてのMOS−FET
26 ゲート抵抗
27,28 ゲート分圧抵抗
29 温度検出素子
30 密閉容器
31 外部鉄心
32 内部鉄心
33 永久磁石
34 ピストン
35 シリンダ・ブロック
S0 基本波形発生ステップ
S1 PWMパルス幅演算ステップ
S2 ゼロクロスポイント検出ステップ
S3 タイミング判定ステップ
S4 周波数補正ステップ
101 バッテリ
102 DC/DCコンバータ
103 AC商用電源
104 AC/DCコンバータ
105,106 ダイオード
107 振動型圧縮機
108 インバータ
109 第1のトランジスタ
110 第2のトランジスタ
111 インバータ制御部
112 周波数追従回路
113 発振回路
114 駆動制御回路
115 コンデンサ
116 直流ファンモータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒を収容する密閉容器と、該密閉容器内を往復動して該冷媒を圧縮するピストンと、該ピストンを駆動する電磁コイルとを有する振動型圧縮機を駆動するインバータと、該インバータを制御する制御部と、該インバータの入力側直流電源部とを備える振動型圧縮機の電源装置において、前記入力側直流電源部はバッテリ入力の電源とAC/DC入力の電源とを有し、前記バッテリ入力の電源は相互にソース端子が接続されゲート端子は共通のゲート電圧によって駆動されるよう直列接続された第1及び第2のMOS−FETで電流路を導通制御されると共に、前記AC/DC入力の電源は前記制御部で第3のMOS−FETで電流路を導通制御されるよう構成され、前記バッテリ入力の電源が前記入力側直流電源部として供給可能とし、前記AC/DC入力の電源が接続された場合には前記バッテリ入力の電源に優先して前記インバータに供給されるよう前記第3のMOS−FETを導通させ、前記バッテリ入力の電源からの供給と前記バッテリ入力の電源への充電を前記第1及び第2のMOS−FETで阻止することを特徴とする振動型圧縮機の電源装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−200044(P2011−200044A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−65294(P2010−65294)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(000253075)澤藤電機株式会社 (31)
【Fターム(参考)】