説明

振動子および振動ジャイロ

【課題】厚みおよび幅の寸法の調整に因らずに共振周波数を低くすることが可能な振動子と、その振動子を用いて角速度を高い感度で検出することができる振動ジャイロとを実現する。
【解決手段】振動ジャイロ11は、振動子1を備えている。振動子1は、複合梁部2A〜2Dを備えている。複合梁部2A〜2Dは、互いに並行する外周側梁部3A〜3Dと、内周側梁部4A〜4Dとを両端の剛接部6A〜6Dで剛接した構成である。各複合梁部2A〜2Dの外周側梁部3A〜3Dと内周側梁部4A〜4Dとは、互いに反対称に撓んで、両端間隔が変化するように振動する振動モードを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、振動面で面内振動する振動モードを有する振動子と、振動面に対して垂直な回転軸回りで振動子に作用する角速度を検出する振動ジャイロとに関する。
【背景技術】
【0002】
角速度を検出する振動ジャイロは、回転軸に直交する駆動軸に沿って振動する第1の振動モード(駆動振動モード)と、回転軸および駆動軸に直交する検出軸に沿って振動する第2の振動モード(検出振動モード)と、を有する振動子を備えている。駆動振動モードで振動する振動子が回転軸回りに回転すると、振動子には検出軸に沿ったコリオリの力が作用する。このコリオリの力が作用すると、振動子は検出振動モードで振動する。検出振動モードの振動振幅は、コリオリの力や回転運動の角速度に応じたものになる。このため、検出振動モードの振動振幅を検出することで、回転運動の角速度を検出することができる。
【0003】
振動ジャイロに利用される振動子の構造は、さまざまである(例えば特許文献1〜3参照。)。ある種の振動子は、回転軸に直交する面内で環状に構成される(特に特許文献1参照。)。
【0004】
図1(A)は、従来の環状の振動子を備える振動ジャイロ101の平面図(X−Y面平面図)である。振動ジャイロ101は、開口を設けた矩形平板形状であり、枠部102と、支持梁103と、連結梁104と、振動子105とを備えている。枠部102は、振動ジャイロ101の外周部を構成する矩形枠状の部位である。支持梁103は、枠部102の四辺それぞれの中央部に設けられていて、枠部102の各辺に並行し、両端で枠部102に連結されている。連結梁104は、各支持梁103の中央に直交して連結されている。振動子105は、円環状の部位であり、連結梁104に四点で支持されている。
【0005】
図1(B)は、振動子105の駆動振動モードにおける変形について説明する模式図である。振動子105は、X軸とY軸とのそれぞれに沿って互いに逆の位相で伸縮するように駆動される。図1(C)は、振動子105にコリオリの力が作用した状態である検出振動モードにおける変形について説明する模式図である。振動子105は、駆動による振動とコリオリの力による振動とが互いに直交する方向に励起することになる。そのため、コリオリの力が作用すると、振動子105は、X軸およびY軸から傾いた方向に沿って伸縮することになる。したがって、この振動子105では、作用するコリオリの力の大きさに応じて、ノード点(節)やアンチノード点(腹)の位置が変化(回転)することになる。
【0006】
このように、振動子105におけるノード点やアンチノード点の位置はコリオリの力の大きさによって変化し、振動子105自体には固定されたノード点が存在しない。そのため、振動子105は、各点の変位が拘束されないように支持梁103や連結梁104によって支持される必要がある。
【0007】
また、一般に、振動ジャイロでは、角速度の検出感度が高いことが望まれている。角速度の検出感度は、振動子に作用するコリオリの力の最大値と、コリオリの力1N(ニュートン)当たりに出力される検出電圧(以下、検出効率と称する。)との積に比例する値として表すことができる。コリオリの力の最大値は、振動子の質量と、駆動振動モードでの振動子の変位の最大速度と、振動子に作用する角速度との積として表すことができる。したがって、角速度の検出感度は、検出効率と、振動子の質量と、駆動振動モードでの振動子の変位の最大速度との積に比例する値として表すことができる。
【0008】
これらの検出効率や、振動子の質量、駆動振動モードでの振動子の最大速度などは、検出感度に対してだけでなく、振動子の厚み、幅寸法、剛性、共振モード及びその共振周波数に対しても相関を持つことになる。
【0009】
近年、振動ジャイロの小型化が強く求められている。一般に、振動子を小型化すると共振周波数が高くなる。このため、小型化した振動子を有する振動ジャイロをデジタルカメラなどに搭載したとき、振動子の共振周波数と手ブレの周波数との差が大きくなってしまう。そのため、手ブレなどに対する感度が劣化してしまうことがある。
【0010】
そこで、振動子を特定の構造にしたり、振動子を特定の振動モードで振動するようにしたりすることで、振動子を小型化しても、共振周波数が高くなることを防ぐことができる。
【0011】
さらに、振動ジャイロのドリフト特性を改善するためには、駆動振動モードと検出振動モードとの両方において、共通のノード点を有する必要がある。
【0012】
共通のノード点で振動子を支持することにより、振動子を支持する支持部からの振動漏れや外乱による振動の伝わりを防ぐことができ、良好な感度ドリフト特性を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平6−42971号公報
【特許文献2】特開2000−249554号公報
【特許文献3】特開平11−351880号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
振動子の共振周波数は振動子の形状で決まる振動モードと剛性と質量とにより定まり、その振動モードにおいては振動子の厚みおよび幅の寸法を調整することによって剛性や質量を変化させて、共振周波数を変更することが可能である。しかしながら、厚みおよび幅の寸法を調整することによって共振周波数を変更すると、共振周波数以外の特性まで変化してしまい、角速度の検出感度を改善できないことがある。
【0015】
そこで本発明は、厚みおよび幅の寸法の調整に因らずに共振周波数を低くすることが可能な振動子と、その振動子を用いて角速度を高い感度で検出することができる振動ジャイロとの実現を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この発明に係る振動子は、複合梁を備えている。複合梁は、互いに並行する第1の梁部と第2の梁部とを両端で剛接した構成である。複合梁は、第1の梁部と第2の梁部とが反対称に撓んで両端部の間隔が変化するように振動する振動モードを有する。ここで反対称とは、位相が180°ずれた変形を指す用語である。この構成では、断面積が等しい単純梁に比較して剛性が低く、単純梁の振動モードよりも、共振周波数が低い振動モードが得られる。したがって、この振動子を振動ジャイロに用いれば、角速度の検出感度を高められる。
【0017】
上述の振動子は、矩形環状部を備えると好適である。矩形環状部は、第1の梁部が外周側に位置し、第2の梁部が内周側に位置するように、複合梁を端部同士で剛接させて矩形環状に繋いだ構成であり、各複合梁は、矩形環状部の環状中心を通る軸に対して直交する面上に、第1の梁部と第2の梁部とが位置する構成である。この構成は、各複合梁の両端部の間隔が変化するとともに、各複合梁の中心部がそれぞれ環状中心を通る軸に対して直交する面内で振動する振動モードを持っている。このことにより、環状中心を通る軸、及び、それに平行な軸周りの角速度を検出することができる。
この面内振動する振動モードを利用する場合、環状中心を通る軸方向の剛性についての制約が殆ど無いので、駆動周波数を設定する際、厚み寸法を任意に設定することができ、振動子の薄型化を図るができるとともに、設計自由度を高めることができる。さらに、振動子の厚みがばらついたとしても、周波数変化がほとんどなく、振動子の厚みばらつきによる感度のばらつきはほとんどない。したがって、このような平面内での振動モードを持つ振動子を振動ジャイロに用いれば、角速度の検出感度を高められる。
【0018】
上述の振動子は、連結部を備えると好適である。連結部は、連結梁部と中央連結部とにより構成されている。連結梁部は、一方の端部が第2の梁部に剛接され、他方の端部が中央連結部に剛接されている。中央連結部は、振動子の中心に設けられている。この構成では、連結梁部の一方の端部が第2の梁部に剛接されていることによって、互いに対向する複合梁に生じる振動が反対称になる。すると、連結梁部が撓みながら中央連結部が矩形環状部の対角線上を往復するように振動する。このような振動モードでは、各連結梁部それぞれの中央の部分がノード点となる。したがって、この連結部を持つ振動子を振動ジャイロに用いれば、ノード点である、連結部の連結梁部それぞれの中央の部分で振動子を支持することにより、振動子を支持する部位を介した振動の漏れや、外乱により不要振動が励振されることを防ぐことができ、角速度の検出値のドリフトを抑えて検出感度を高められる。
【0019】
上述の振動子は、錘部を備えると好適である。錘部は、中央連結部に剛接されている。この構成では、錘部によって振動子の重量が増加する。したがって、この振動子を振動ジャイロに用いれば、作用するコリオリの力を増加させて、角速度の検出感度を高められる。
【0020】
この発明に係る振動ジャイロは、上述の振動子と、振動子を駆動して第1の面内振動モードの振動を振動子に励起させる駆動部と、第1の面内振動モードで振動する振動子に、振動方向に直交する回転軸回りの角速度によって振動子に作用するコリオリの力により励起する第2の面内振動モードの振動を検出する検出部と、を備えると好適である。この構成では、検出感度の高い振動ジャイロとなる。
【0021】
上述の振動ジャイロにおいて、振動子は、シリコン基板からなり、駆動部および検出部は、圧電膜と、グランド電極と、駆動電極または検出電極とを備える構成であると好適である。この構成では、振動子が駆動部や検出部から独立した構成となる。したがって、振動子の形状を、理想的な振動モードとなる形状に設定することができ、角速度の検出感度を高められる。また、振動子は、シリコン基板に対する半導体微細加工により高い形状精度を実現できる。また、圧電膜や電極は、薄膜微細加工プロセスで形成できる。
【0022】
上述の振動ジャイロにおいて、圧電膜と、グランド電極と、駆動電極と、検出電極とは、振動子の一方の面のみに形成されていると好適である。この構成では、半導体微細加工プロセスと薄膜微細加工プロセスとを順に実施することで実現でき、製造工程を簡易化できる。
【0023】
上述の振動ジャイロにおいて、駆動部および検出部は、浮き電極を備える構成であると好適である。駆動電極または検出電極は、圧電膜を介して浮き電極に対向するように形成される。この構成では、圧電膜に垂直に作用する電界を大きくすることにより、圧電変形量を大きくして、角速度の検出感度を高めることができる。また、浮き電極は配線する必要が無いので、配線のためにシリコン基板や圧電膜を加工する必要が無く、製造工程を簡易化できる。
【0024】
上述の振動ジャイロにおいて、駆動電極は、圧電膜を介してグランド電極に対向するように形成されている第1の駆動電極と、圧電膜を介してグランド電極に対向するように形成されており、第1の駆動電極と隣接して形成されている第2の駆動電極とを有すると好適である。この構成では、極性の異なる駆動電圧を各駆動電極に印加することにより、単一の極性の駆動電圧のみを印加する場合に比較して、圧電膜に作用する電界強度を倍にできる。また、電圧極性を変更することにより電界の向きを変更できるので、圧電膜の分極方向を逆にした場合と同様の変形を容易に実現できる。
【発明の効果】
【0025】
この発明の振動子によれば、互いに並行する第1の梁部と第2の梁部とを両端で剛接した複合梁を備えていることにより、断面積が等しい単純梁に比較して剛性を低くでき、単純梁の振動モードよりも、共振周波数が低い振動モードを実現することができる。
【0026】
また、この発明の振動ジャイロによれば、高い角速度の検出感度を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】従来の振動子を備える振動ジャイロの構成を説明する図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る振動子の構成を説明する図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る振動子の振動モードを説明する図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る振動ジャイロの構成を説明する図である。
【図5】本発明の第2の実施形態に係る振動ジャイロの構成を説明する図である。
【図6】本発明の第3の実施形態に係る振動ジャイロの構成を説明する図である。
【図7】本発明の第4の実施形態に係る振動子の構成を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下の説明では、振動ジャイロの回転軸を直交座標系のZ軸とし、平面形状が矩形の振動子の各辺に沿う方向を、それぞれ直交座標系のX軸方向、直交座標系のY軸方向とする。
【0029】
《第1の実施形態》
図2は、本発明の第1の実施形態に係る振動子1の構成を示す斜視図である。
【0030】
振動子1は、平面形状が正方形のシリコン基板からなり、両主面間を貫通するスリット5A〜5D,9A〜9Dが形成されている。振動子1は、スリット5A〜5D,9A〜9Dによって区画された、矩形環状部2と、連結部7と、錘部8A〜8Dとを備えている。振動子1は半導体微細加工技術を利用して成形することにより、振動子1のZ軸を対称軸とした形状対称性を極めて高いものにしている。
【0031】
矩形環状部2は、平面形状が矩形環状の部位であり、スリット5A〜5D,9A〜9Dによって区画された、外周側梁部3A〜3Dと、内周側梁部4A〜4Dと、剛接部6A〜6Dとを備えている。外周側梁部3A〜3Dは、単純梁状の部位であり、振動子1の各辺の外周側に設けられている。内周側梁部4A〜4Dは、単純梁状の部位であり、振動子1の各辺の内周側に設けられている。剛接部6A〜6Dは、平面形状が正方形状の部位であり、振動子1の各角部に設けられている。外周側梁部3A〜3Dと内周側梁部4A〜4Dとは、両端が剛接部6A〜6Dに剛接され、複合梁部2A〜2Dを構成している。外周側梁部3A〜3Dと内周側梁部4A〜4Dとは、本実施形態の第1の梁部と第2の梁部とに相当する。
【0032】
連結部7は、平面形状が十字状の部位であり、矩形環状部2によって囲まれる領域に設けられている。連結部7は、スリット9A〜9Dによって区画された、連結梁部7A〜7Dと中央連結部7Eとを備えている。連結梁部7A〜7Dは、単純梁状の部位である。連結梁部7A〜7Dは、一方の端部が矩形環状部2の各辺中央で内周側梁部4A〜4Dに剛接されていて、他方の端部が中央連結部7Eに剛接されている。中央連結部7Eは、平面形状が正方形状の部位であり、振動子1の中心に設けられている。
【0033】
錘部8A〜8Dは、平面形状が正方形状の部位であり、スリット9A〜9Dによって囲まれる領域に設けられている。錘部8A〜8Dは、振動子1の中心側に位置する角部で中央連結部7Eに剛接されている。これらの錘部8A〜8Dは、振動子1を用いて振動ジャイロ11を構成した際に、振動子1の質量を増加させて、大きなコリオリの力が作用するように設けられている。
【0034】
図3(A)は、振動子1の第1の面内振動モードについて説明する図である。振動子1の第1の面内振動モードは、X軸から+45°傾斜した方向を対称軸として、振動子1が変形する振動モードである。振動子1の第1の面内振動モードでは、外周側梁部3A〜3Dと内周側梁部4A〜4Dとの中央の部分が振動の腹(アンチノード点)となり、中央連結部7Eおよび錘部8A〜8Dは、X−Y面内でX軸に対して+45°傾斜した方向(剛接部6Aと剛接部6Cとを結ぶ直線方向)に往復するように振動する。具体的には、以下のように振動する。中央連結部7Eおよび錘部8A〜8Dが剛接部6C側に動くとき、複合梁部2A,2Bにおけるスリット5A,5Bの間隔が大きくなると共に、複合梁部2C,2Dにおけるスリット5C,5Dの間隔が小さくなる。このとき、連結梁部7A,7Bは錘部8A側に撓み、連結梁部7Cは錘部8B側に撓み、連結梁部7Dは錘部8D側に撓むため、連結梁部7Aと連結梁部7Bとは互いに近づき、連結梁部7Cと連結梁部7Dとは互いに離れる。中央連結部7Eおよび錘部8A〜8Dが剛接部6A側に動くとき、複合梁部2A,2Bにおけるスリット5A,5Bの間隔が小さくなると共に、複合梁部2C,2Dにおけるスリット5C,5Dの間隔が大きくなる。このとき、連結梁部7Aは錘部8D側に撓み、連結梁部7Bは錘部8B側に撓み、連結梁部7C,7Dは錘部8C側に撓むため、連結梁部7Aと連結梁部7Bとは互いに離れ、連結梁部7Cと連結梁部7Dとは互いに近づく。すなわち、矩形環状部2は、複合梁部2A,2Bでスリット5A,5Bの間隔が拡大する際に、複合梁部2C,2Dでスリット5C,5Dの間隔が縮小し、逆に、複合梁部2A,2Bでスリット5A,5Bの間隔が縮小する際に、複合梁部2C,2Dでスリット5C,5Dの間隔が拡大するように振動する。連結部7は、連結梁部7A,7Bと連結梁部7C,7Dとがそれぞれ逆向きに撓むように振動する。
【0035】
図3(B)は、振動子1の第2の面内振動モードについて説明する図である。振動子1の第2の面内振動モードは、X軸から−45°傾斜した方向を対称軸として、振動子1が変形する振動モードである。すなわち、振動子1の第2の面内振動モードは、第1の振動モードを90°回転させた方向の振動モードである。振動子1の第2の面内振動モードでは、外周側梁部3A〜3Dと内周側梁部4A〜4Dとの中央の部分が振動の腹(アンチノード点)となり、中央連結部7Eおよび錘部8A〜8Dは、X−Y面内でX軸に対して−45°傾斜した方向(剛接部6Bと剛接部6Dとを結ぶ直線方向)に往復するように振動する。具体的には、以下のように振動する。中央連結部7Eおよび錘部8A〜8Dが剛接部6B側に動くとき、複合梁部2A,2Dにおけるスリット5A,5Dの間隔が大きくなると共に、複合梁部2B,2Cにおけるスリット5C,5Dの間隔が小さくなる。このとき、連結梁部7A,7Dは錘部8D側に撓み、連結梁部7Bは錘部8A側に撓み、連結梁部7Cは錘部8C側に撓むため、連結梁部7Aと連結梁部7Dとは互いに近づき、連結梁部7Bと連結梁部7Cとは互いに離れる。中央連結部7Eおよび錘部8A〜8Dが剛接部6D側に動くとき、複合梁部2A,2Dにおけるスリット5A,5Dの間隔が小さくなると共に、複合梁部2B,2Cにおけるスリット5C,5Dの間隔が大きくなる。このとき、連結梁部7B,7Cは錘部8B側に撓み、連結梁部7Aは錘部8A側に撓み、連結梁部7Dは錘部8C側に撓むため、連結梁部7Aと連結梁部7Dとは互いに離れ、連結梁部7Bと連結梁部7Cとは互いに近づく。すなわち、矩形環状部2は、複合梁部2B,2Cでスリット5B,5Cの間隔が拡大する際に、複合梁部2D,2Aでスリット5A,5Dの間隔が縮小し、逆に、複合梁部2B,2Cでスリット5B,5Cの間隔が縮小する際に、複合梁部2D,2Aでスリット5A,5Dの間隔が拡大するように振動する。連結部7は、連結梁部7B,7Cと連結梁部7D,7Aとがそれぞれ逆向きに撓むように振動する。
【0036】
錘部8A〜8Dそれぞれは、第1の面内振動モードでの振動方向と第2の面内振動モードでの振動方向とが90°ずれている。したがって、第1の面内振動モードと第2の面内振動モードとの共振周波数を略一致させることで、これらの振動モードを振動ジャイロにおける駆動振動モードと検出振動モードとして利用することができる。
【0037】
また、これらの振動モードでは、矩形環状部2や錘部8A〜8Dにはノード点はなく、連結部7の連結梁部7A〜7Dそれぞれの中央の部分がノード点となる。ノード点の位置は、第1の面内振動モードと第2の面内振動モードとで一致する。したがって、このノード点である、連結部7の連結梁部7A〜7Dそれぞれの中央の部分で振動子1を支持すれば、振動子を支持する部位を介した振動の漏れや、外乱による不要振動の励起を防ぐことができる。
【0038】
また、複合梁部2A〜2Dは、スリット5A〜5Dが設けられているため、断面2次モーメントが小さく、剛性が低いものになる。したがって、複合梁部2A〜2Dのスリット5A〜5Dの間隔が拡縮する振動は、スリット5A〜5Dを設けない単純梁よりも共振周波数が低いものになる。このことにより、複合梁部2A〜2Dを有する振動子1でも、共振周波数が低くなる。
【0039】
次に、第1の実施形態に係る振動子1を用いた振動ジャイロ11の構成例に付いて説明する。図4(A)は、振動ジャイロ11の平面図である。図4(B)は、図4(A)中にB−B’で示す位置での振動ジャイロ11の部分拡大断面図である。図4(C)は、図4(A)中にC−C’で示す位置での振動ジャイロ11の部分拡大断面図である。
【0040】
振動ジャイロ11は、振動子1と、浮き電極12と、圧電膜13と、グランド電極14と、駆動電極15と、検出電極16A,16Bと、基板17とを備えている。
【0041】
浮き電極12は、基板17の上面に形成されている。圧電膜13は、窒化アルミニウム、チタン酸ジルコン酸鉛、ニオブ酸カリウムナトリウム、酸化亜鉛などのいずれかの圧電材料からなる薄膜であり、浮き電極12と基板17とを覆うように形成されている。グランド電極14と、駆動電極15と、検出電極16A,16Bとは、圧電膜13の上面に形成されている。基板17は、シリコン基板からなる。
【0042】
グランド電極14は、剛接部6Cに設けられた外部接続用のパッドから、外周側梁部3A〜3Dと、内周側梁部4A〜4Dと、連結梁部7A〜7Dと、中央連結部7Eとに、線路状に延設されている。駆動電極15は、剛接部6Aに設けられた外部接続用のパッドから、外周側梁部3A,3Bと、内周側梁部4A,4Bと、連結梁部7A〜7Dと、中央連結部7Eとに、線路状に延設されている。検出電極16Aは、剛接部6Bに設けられた外部接続用のパッドから、外周側梁部3Cと、内周側梁部4Cとに、線路状に延設されている。検出電極16Bは、剛接部6Dに設けられた外部接続用のパッドから、外周側梁部3Dと、内周側梁部4Dとに、線路状に延設されている。
【0043】
駆動電極15は、浮き電極12と、圧電膜13と、グランド電極14とともに、駆動部として機能する電気機械変換素子を構成している。検出電極16A,16Bは、浮き電極12と、圧電膜13と、グランド電極14とともに、検出部として機能する電気機械変換素子を構成している。
【0044】
駆動電極15は、外周側梁部3Bと、内周側梁部4Bと、連結梁部7A,7Cと、中央連結部7EとにおいてX軸に沿うように設けられており、外周側梁部3Aと、内周側梁部4Aと、連結梁部7B,7Dと、中央連結部7EとにおいてY軸に沿うように設けられている。すなわち、駆動電極15は、X軸に対して+45°傾斜した方向(剛接部6Aと剛接部6Cとを結ぶ直線方向)を対称軸として、設けられている。このため、駆動電極15に交番電圧を印加すると、振動子1は図3(A)で示した第1の面内振動モードで振動する。すなわち、振動ジャイロ11は、振動子1の第1の面内振動モードを駆動振動モードとして用いる。
【0045】
また、検出電極16Aは、外周側梁部3Cと、内周側梁部4CとにおいてY軸に沿うように設けられている。検出電極16Bは、外周側梁部3Dと、内周側梁部4DとにおいてX軸に沿うように設けられている。すなわち、検出電極16A,16Bは、X軸に対して+45°傾斜した方向(剛接部6Aと剛接部6Cとを結ぶ直線方向)を対称軸として、設けられている。このため、振動子1が駆動振動モードである図3(A)で示した第1の面内振動モードで振動すると、複合梁部2Cでスリット5Cの間隔が拡大する際に、複合梁部2Dでスリット5Dの間隔も拡大し、逆に、複合梁部2Cでスリット5Cの間隔が縮小する際に、複合梁部2Dでスリット5Dの間隔も縮小するように振動する。すなわち、複合梁部2C,2Dは対称に振動し、検出電極16A,16Bに同位相の検出電圧が励起する。検出電極16A,16Bそれぞれで励起された検出電圧を後段の回路で差動増幅すると、同位相の検出電圧は互いに打ち消し合う。したがって、駆動振動モードの振動を検出しないように検出回路を構成することができる。
【0046】
振動ジャイロ11において、振動子1に駆動振動モードの振動が励起されている状態で、振動子1に回転軸であるZ軸回りの角速度が作用すると、回転軸および振動子1の駆動振動方向に対して直交する方向にコリオリの力が作用する。このコリオリの力により、振動子1は、図3(B)で示した第2の面内振動モードで振動する。すなわち、振動ジャイロ11は、振動子1の第2の面内振動モードを検出振動モードとして用いる。検出振動モードの振動は、角速度に応じた振幅で励起される。すると、複合梁部2Cでスリット5Cの間隔が拡大する際に、複合梁部2Dでスリット5Dの間隔が縮小し、逆に、合梁部2Cでスリット5Cの間隔が縮小する際に、複合梁部2Dでスリット5Dの間隔が拡大するように振動する。すなわち、複合梁部2C,2Dは反対称に振動し、検出電極16A,16Bに逆位相の検出電圧が励起する。検出電極16A,16Bそれぞれで励起された検出電圧を後段の回路で差動増幅すると、逆位相の検出電圧は加算される。したがって、検出振動モードによる振動の振幅に応じた出力を得るように検出回路を構成することができる。
【0047】
以上のように本実施形態の振動ジャイロ11は構成される。スリット5A〜5Dを設けた複合梁部2A〜2Dにより矩形環状部2を構成しているため、矩形環状部2にスリット5A〜5Dを設けない場合よりも駆動振動モードと検出振動モードとの共振周波数が低くなり、振動振幅を大きいものにすることができる。したがって、振動子1に作用するコリオリの力が大きなものになるとともに検出効率が向上し、コリオリの力と検出効率との積で表される検出感度を高いものにできる。
【0048】
また、振動ジャイロ11は、駆動振動モードと検出振動モードのいずれの振動モードにおいても連結部7の連結梁部7A〜7Dそれぞれの中央の部分がノード点となり、それらのノード点の位置が駆動振動モードと検出振動モードとで一致する。したがって、それらのノード点で振動ジャイロ11を支持することで、振動子1の支持部を介した振動の漏れを防ぐことや、外乱による不要振動の励振を防ぐことができ、検出電圧のドリフトが抑えられて角速度の検出感度を高められる。また、振動子1の振動が振動子1の支持部によって規制されることがないため、角速度の検出感度を高くすることができる。
【0049】
また、振動子1は、シリコン基板から一体成形された構成であり、圧電膜13と電極12,14,15,16A,16Bとから電気機械変換素子を構成していることにより、振動子1の半導体微細加工プロセスと、電極および圧電膜の薄膜微細加工プロセスとを用いて振動ジャイロ11は製造することができる。したがって、形状精度を極めて高いものにすることができる。なお、圧電膜13と基板17との間に浮き電極12を設けることにより、浮き電極12を設けない場合よりも、圧電膜13に作用する垂直な電界を大きくすることができ、圧電膜13の変形を大きなものにすることができる。また、浮き電極12は、振動子1にビア等を設けて配線する必要が無く、振動子1を理想的な振動モードで振動させることができる。
【0050】
《第2の実施形態》
次に、本発明の第2の実施形態に係る振動ジャイロ21について説明する。
【0051】
図5(A)は、本実施形態に係る振動ジャイロ21の部分拡大断面図である。この振動ジャイロ21は、第1の実施形態で示した振動子1の底面にSiO薄膜22を設け、振動子1のノード点をシリコン柱部23で支持する構成である。
【0052】
このような構成の場合、振動子1とSiO薄膜22とシリコン柱部23とを、SOI(Silicon On Insulator)基板から一体成形することができる。SOI基板はSiO薄膜の両面にシリコンの単結晶構造が設けられた基板である。
【0053】
振動ジャイロ21においてSOI基板を利用する場合には、SOI基板の天面側からSiO薄膜22をエッチングストップ層としてSiをエッチングすることにより振動子1を成形し、SOI基板の底面側からSiO薄膜22をエッチングストップ層としてSiをエッチングすることによりシリコン柱部23を形成するとよい。このようにSOI基板を利用して振動ジャイロ21を製造することにより、部材供給の安定性と高品質化、製造コストの低廉化などを図ることができる。
【0054】
図5(B)は、本実施形態の変形例に係る振動ジャイロ31の部分拡大断面図である。振動ジャイロ31は、SiO支持部32とシリコン基板33とを備えている。SiO支持部32は、SiO薄膜からなる。SiO薄支持部32は、振動子1のノード点となる領域のみに設けられていて、振動子1とシリコン基板33とを物理的に接続している。
【0055】
このような構成の場合にも、振動子1とSiO支持部32とシリコン基板33とを、SOI(Silicon On Insulator)基板から一体成形することができる。具体的には、SOI基板の天面側からSiO薄膜をエッチングストップ層としてSiをエッチングすることにより振動子1を成形し、そのエッチングによる開口部からSiO薄膜をエッチングすることによりSiO支持部32を成形するとよい。この場合にも、SOI基板を利用して振動ジャイロ31を製造することにより、部材供給の安定性と高品質化、製造コストの低廉化などを図ることができる。
【0056】
《第3の施形態》
次に、本発明の第3の実施形態に係る振動ジャイロ41について説明する。
【0057】
図6は、本実施形態に係る振動ジャイロ41の部分拡大断面図である。この振動ジャイロ41は、第1の実施形態で示したものとは異なる電極構造を持つ構成である。
【0058】
振動ジャイロ41は、グランド電極42と、圧電膜43と、第1の駆動電極44と、第2の駆動電極45と、基板47を備えている。グランド電極42は、圧電膜43と基板47との間に配置されている。グランド電極42は、第1の実施形態の浮き電極12をグランドに接続されている。第1の駆動電極44と、第2の駆動電極45とは、圧電膜43を介してグランド電極42に対向するように設けられている。駆動電極44,45は、互いに正負の極性が逆の駆動電圧が印加される。このような電極構造であれば、第1の実施形態で示した電極構造と同じ駆動電圧であっても、圧電膜43に作用する電界の強さを2倍にすることができ、振動子1の振動振幅をさらに大きくすることができる。
【0059】
《第4の実施形態》
次に、本発明の第4の実施形態に係る振動子の構成について説明する。
【0060】
図7(A)は、本実施形態に係る振動子51の斜視図である。振動子51は、第1の実施形態で示した振動子1の構成から錘部を省いた構成である。この振動子51は、第1の実施形態と同様に、図3で示した振動モードと同じ振動モードで振動する。すなわち、X−Y面におけるX軸から+45°傾斜した方向を対称軸として、振動子51が変形する振動モードである第1の面内振動モードと、X−Y面におけるX軸から−45°傾斜した方向を対称軸として、振動子51が変形する振動モードである第2の面内振動モードで振動する。
【0061】
図7(B)は、本実施形態の変形例に係る振動子61の斜視図である。振動子61は、第1の実施形態で示した振動子1の構成から連結部および錘部を省いた構成である。この振動子61は、第1の実施形態と同様に、図3で示した振動モードと同じ振動モードで振動するだけではなく、従来例の図1で示した振動モードと同様に、X軸を対称軸とする振動モードと、Y軸を対称軸とする振動モードでも振動する。
【0062】
図7(C)は、本実施形態の変形例に係る振動子71の斜視図である。振動子71は、単一の複合梁2Aを備える構成である。この振動子71は、スリット5Aの間隔が拡縮するとともに、両端間隔が変化する振動モードのみを有する。
【0063】
これらの振動子51,61,71であってもスリットを設けて複合梁を構成することにより、単純梁の場合よりも共振周波数を低減し、振動振幅を大きくすることができる。したがって、これらの振動子を利用して振動ジャイロを構成することにより、角速度に対する良好な検出感度を実現することが容易となる。
【符号の説明】
【0064】
1,51,61,71…振動子
2…矩形環状部
2A〜2D…複合梁部
3A〜3D…外周側梁部
4A〜4D…内周側梁部
5A〜5D,9A〜9D…スリット
6A〜6D…剛接部
7…連結部
7A〜7D…連結梁部
7E…中央連結部
8A〜8D…錘部
11,21,31,41,…振動ジャイロ
12…浮き電極
13,43…圧電膜
14…グランド電極
15…駆動電極
16A,16B…検出電極
17,47…基板
22…SiO薄膜
23…シリコン柱部
32…SiO支持部
33…シリコン基板
42…グランド電極
44…第1の駆動電極
45…第2の駆動電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに並行する第1の梁部と第2の梁部とを両端で剛接した構成の複合梁を備え、
前記複合梁は、前記第1の梁部と前記第2の梁部とが反対称に撓んで両端部の間隔が変化するように振動する振動モードを有する、振動子。
【請求項2】
前記第1の梁部が外周側に位置し、前記第2の梁部が内周側に位置するように、前記複合梁を端部同士で剛接させて矩形環状に繋いだ構成の矩形環状部を備え、
各前記複合梁は、前記矩形環状部の環状中心を通る軸に対して直交する面上に、前記第1の梁部と前記第2の梁部とが位置する構成である、請求項1に記載の振動子。
【請求項3】
連結梁部と中央連結部とにより構成されている連結部を備え、
前記連結梁部は、一方の端部が前記第2の梁部に剛接され、他方の端部が前記中央連結部に剛接されており、
前記中央連結部は、振動子の中心に設けられている、請求項2に記載の振動子。
【請求項4】
前記中央連結部に剛接されている錘部を備える、請求項3に記載の振動子。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の振動子と、
前記振動子を駆動して第1の面内振動モードの振動を前記振動子に励起させる駆動部と、
前記第1の面内振動モードで振動する前記振動子に、振動方向に直交する回転軸回りの角速度によって前記振動子に作用するコリオリの力により励起する第2の面内振動モードの振動を検出する検出部と、を備える、振動ジャイロ。
【請求項6】
前記振動子は、シリコン基板からなり、
前記駆動部および前記検出部は、圧電膜と、グランド電極と、駆動電極または検出電極とを備える、請求項5に記載の振動ジャイロ。
【請求項7】
前記圧電膜と、前記グランド電極と、前記駆動電極と、前記検出電極とは、前記振動子の一方の面のみに形成されている、請求項6に記載の振動ジャイロ。
【請求項8】
前記駆動部および前記検出部は、浮き電極を備え、
前記駆動電極または前記検出電極とは、前記圧電膜を介して前記浮き電極に対向するように形成されている、請求項7に記載の振動ジャイロ。
【請求項9】
前記駆動電極は、前記圧電膜を介して前記グランド電極に対向するように形成されている第1の駆動電極と、前記圧電膜を介して前記グランド電極に対向するように形成されており、前記第1の駆動電極と隣接して形成されている第2の駆動電極とを有する、請求項7に記載の振動ジャイロ。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−15436(P2013−15436A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−148964(P2011−148964)
【出願日】平成23年7月5日(2011.7.5)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】