説明

振動発生装置

【課題】 1種類の弾性支持部材で1個の振動体を支持して、振動体を異なる固有振動数で共振させることができる振動発生装置を提供する。
【解決手段】 振動体20を支持する弾性支持部材33は、第1の弾性変形部36と第2の弾性変形部39とが板ばね材料で一体に形成されている。第1の弾性変形部36がX方向へ曲げ変形すると振動体20がX方向へ振動し、第2の弾性変形部39がZ方向へ曲げ変形すると振動体20がZ方向へ振動する。第2の弾性変形部39の弾性係数は、第1の弾性変形部36の弾性係数よりも高い。振動体20に磁芯21とコイル41が設けられ筐体側に磁石が設けられている。コイル41に異なる周波数の駆動信号が与えられ、振動体20は第1の方向であるX方向へ低い振動数で共振し、第2の方向であるZ方向へ高い振動数で共振する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の共振点を持つ振動モードで振動を発生する振動発生装置に係り、特に最少の部品点数で小型に構成できる振動発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電話機能を有する携帯機器に振動発生装置が搭載されている。この振動発生装置は、主に電話機能の着信を知らせるときに駆動される。
【0003】
従来の振動発生装置は、小型モータの回転軸に質量が偏った錘が固定され、小型モータの回転軸を回転させたときの錘の反力によって振動を発生するものが主流であった。しかし、小型モータを用いた振動発生装置は、ローラの回転力を振動に変換しているので、エネルギーの変換効率が悪く、消費電力が大きい欠点があった。
【0004】
最近の携帯機器は、電話機能の着信を振動で知らせるだけでなく、ディスプレイに表示された操作部に指を触れてタッチパッドによる操作入力を行うときに、その操作入力の反力を振動で伝えることも行われている。この場合、着信を知らせる振動と同じ振動数の振動で操作反力を伝えようとすると、振動数が低すぎて、先鋭な操作反力を与えることができない。
【0005】
小型モータを用いた振動装置は、入力電圧を大きくし回転軸の回転数を高くすることで、高い振動数を出力することも可能である。しかし、この場合に、消費電力がさらに大きくなり、また低い振動数と高い振動数とを切り替えるときに要する時間が長くなる欠点がある。
【0006】
以下の特許文献1に記載された振動発生装置は、第1の振動子が第1の板ばねで支持され、第2の振動子が第2の板ばねを介して第1の振動子に搭載されており、第1の板ばねのばね定数が第2の板ばねよりも大きくなっている。この振動発生装置は、第1の振動子の固有振動数と第2の振動子の固有振動数が相違しているため、第2の振動子に巻かれたコイルに異なる周波数の駆動信号を与えることで、2つの共振点を有する振動を実現することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−111619号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載された振動発生装置は、小型モータを用いた振動発生装置のように入力電圧を変化させる必要はなく、入力する駆動信号の周波数を変えることで、振動子を異なる共振点で振動させることが可能である。
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載された振動発生装置は、質量が相違する2つの振動子と、ばね定数が相違する2種の板ばねを使用しているため、部品点数が多く、大型なものしか構成できない。また、共振周波数を変えて駆動するときに、一方の振動子が共振しているときに、他方の振動子が単なる負荷となることがあり、全体として発生する振動エネルギーが小さくなりやすい。
【0010】
本発明は上記従来の課題を解決するものであり、最少の部品点数で小型に構成でき、異なる共振点を有する振動モードを実現できる振動発生装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、筐体と、弾性支持部材を介して前記筐体に支持された振動体と、前記振動体に振動力を与える磁気駆動部とを有する振動発生装置において、
前記弾性支持部材は、前記振動体を第1の方向へ振動させる第1の弾性係数と、前記振動体を第1の方向と直交する第2の方向へ振動させる第2の弾性係数とを有し、第2の弾性係数と第1の弾性係数とが互いに相違しており、
前記磁気駆動部によって、前記振動体が、第1の方向へ向けて第1の振動数で駆動され、第2の方向へ向けて第1の振動数と相違する第2の振動数で駆動されることを特徴とするものである。
【0012】
本発明の振動発生装置は、1つの振動体を支持している1種類の弾性支持部材が、互いに直交する向きにおいて第1の弾性係数と第2の弾性係数を有している。そのため、1つの振動体と1種類の弾性支持部材とによる振動系によって、2つの固有振動数を有する振動モードを実現できる。振動体が1つで、弾性支持部材も1種類であるため、部品点数が少なく小型に構成することが可能である。
【0013】
本発明の前記弾性支持部材は、第1の弾性係数を有して曲げ歪みを発生する第1の弾性変形部と、第2の弾性係数を有して曲げ歪みを発生する第2の弾性変形部とを有するものとして構成できる。
【0014】
この場合に、前記第1の弾性変形部は、板厚方向が第1の方向に向けられて、第1の方向と第2の方向の双方に直交する第3の方向へ延びる板ばね部で、前記第2の弾性変形部は、板厚方向が第2の方向へ向けられて、第1の方向へ延びる板ばね部であり、第2の弾性変形部の曲げ方向が、第1の弾性変形部のせん断方向である構造が好ましい。
【0015】
上記構造の弾性支持部材を用いた振動発生装置は、第2の弾性変形部に曲げ歪が発生して振動体が第2の方向へ振動しているときに、その振動方向が第1の弾性変形部の板ばね部のせん断方向となるため、第1の弾性変形部が第2の方向へ変形しにくくなっている。よって、振動体が第2の方向へ振動しているときに、第1の弾性変形部に不要な変形が生じにくくなって、第2の方向以外の不要な方向への振動ノイズを抑制でき、振動体を第2の方向へ駆動するときのエネルギー効率を向上させることができる。
【0016】
また、第1の弾性変形部に曲げ歪みが発生して、振動体が第1の方向へ振動しているときに、その振動方向が第2の板ばね部のせん断方向であることが好ましい。このように構成することで、振動体が第1の方向へ振動しているときに、第1の方向以外の不要な振動ノイズを抑制しやすくなる。
【0017】
なお、第2の弾性変形部の曲げ剛性を第1の弾性変形部の曲げ剛性よりも十分に大きくして、第1の弾性変形部が変形して振動体が第1の方向へ振動しているときに、第2の弾性変形部が不要な方向の変形を生じにくい構造としてもよい。
【0018】
本発明は、前記弾性支持部材には、第2の弾性変形部の第1の方向の長さを設定する切欠き部が設けられているものとして構成できる。
【0019】
上記切欠き部の深さを変えることで、第2の弾性変形部の弾性係数を変えて、振動体の第2の方向への固有振動数を可変することができる。前述のように、第2の弾性変形部の曲げ歪みの方向は第1の弾性変形部のせん断方向であるため、切欠き部の深さを可変しても、第1の弾性変形部の弾性係数に影響を与えることがない。
【0020】
例えば、本発明では、第2の弾性係数が第1の弾性係数よりも大きく設定され、第2の振動数が第1の振動数よりも高く設定されている。あるいは、第1の弾性係数が第2の弾性係数よりも大きく設定されてもよい。
【0021】
本発明は、前記磁気駆動部に設けられたコイルに、前記振動体を第1の振動数で駆動するための第1の周波数の駆動信号と、第2の振動数で駆動するための第2の周波数の駆動信号を切り替えて与える駆動回路が設けられているものとして構成できる。
【0022】
本発明は、コイルに与える駆動信号の周波数を変えるだけで、振動体を異なる共振モードで駆動できる。
【0023】
本発明は、電話機能を有する携帯機器に搭載されて、電話機能の着信があったときは、前記コイルに第1の周波数の駆動信号が与えられ、前記携帯機器に設けられた操作部が操作されたときに、前記コイルに第2の周波数の駆動信号が与えられるものとして構成できる。
【0024】
この携帯機器は、電話機能の着信やメールの着信では、比較的低い周波数の振動でこれを通知でき、操作部を指で操作したときには、高い周波数で先鋭な操作反力を得ることが可能になる。
【0025】
または、本発明の振動発生装置を、タッチパネルなどのように本来操作反力を発生できない操作部に設置し、または指で操作したときの操作感触が比較的鈍く感じられる操作部に設置して、指で操作したときに振動発生装置を動作させて、操作感触を増大させる目的で使用することができる。
【0026】
また、機器に搭載されたプログラムによって、振動発生装置を振動させるときに、2つの共振モードのいずれかを選択し、または2つの共振モードを組み合わせることで、操作部を指で操作したときの操作反力を動作状態に応じて多様に変化させることも可能である。
【発明の効果】
【0027】
本発明の振動発生装置は、1つの振動体と1種類の弾性支持部材を使用して、2つの固有振動数を有する振動モードで振動を発生することができる。そのため、部品点数が少なく小型に構成することができる。
【0028】
弾性支持部材は、互いに直交する向きで第1の弾性係数と第2の弾性係数を有しており、振動体の第1の方向への振動と第2の方向への振動において固有振動数を相違させることができる。
【0029】
その結果、1つの振動発生装置において、例えば電話機能やメール機能の着信を知らせる第1の振動と、操作部を指で操作したときの先鋭な第2の振動の操作反力を発揮することなどが可能になる。
【0030】
さらに、携帯機器以外の電子機器において、種々の振動を発生させて、使用者に警報を発したり、動作状態の変化を告知させることなどが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の第1の実施の形態の振動発生装置の分解斜視図、
【図2】図1に示す振動発生装置の振動体と弾性支持部材を示す底面図、
【図3】図2のIII−III線の断面図、
【図4】弾性支持部材の拡大平面図、
【図5】磁気駆動部の磁石の配置を示す説明図、
【図6】第2の実施の形態の振動発生装置に設けられた磁気駆動部の磁石の配置を示す説明図、
【図7】第3の実施の形態の振動発生装置に設けられた磁気駆動部のコイルと磁石の配置を示す説明図、
【図8】振動発生装置を搭載した携帯機器の説明図、
【発明を実施するための形態】
【0032】
図1に示すように、本発明の実施の形態の振動発生装置1は、筐体10と、振動体20と、振動体20を保持する支持体30と、筐体10に対して振動体20および支持体30を支持する弾性支持部材33とを有している。筐体10と振動体20との間には、磁気駆動部40が設けられている。
【0033】
この振動発生装置1は、X方向が第1の方向、Z方向が第2の方向、Y方向が第3の方向である。
【0034】
図1に示すように、筐体10は、底板部11と、底板部11から直角に折り曲げられてX方向に対向する一対の固定板部12,12と、底板部11から直角に折り曲げられてY方向に対向する一対の磁石支持板部13,13とが一体に形成されている。
【0035】
振動体20は、磁芯21と、磁性ヨーク22とを有している。磁芯21は、磁性金属材料で板状に形成されており、その周囲に、磁気駆動部40を構成するコイル41が設けられている。コイル41は、細い銅線が磁芯21の周囲に多重に巻かれて構成されている。
【0036】
磁性ヨーク22は、磁芯21と同じ磁性金属材料で形成されている。磁性ヨーク22は、中央部に凹部22bが形成され、凹部22bを挟んでY方向の両側に上向きの接続面22a,22aが形成されている。磁芯21が磁性ヨーク22の上に重ねられると、コイル41の下半分が凹部22bに収納され、磁芯21のコイル41から突出する突出部の下向きの接続面21a,21aが、磁性ヨーク22の接続面22a,22aに重ねられて接続されて、接着剤などで固定されている。
【0037】
振動体20を支持する支持体30は、板ばね材料を折り曲げて形成されている。例えば筐体10は鉄系などの磁性材料の板材で形成され、支持体30は、ステンレスなどの非磁性金属板で形成されている。支持体30は、支持底部31と、支持底部31から直角に折り曲げられてY方向に対向する一対の対向板部32,32とを有している。それぞれの対向板部32,32には、X方向に向けて細長く形成された開口部32a,32aが形成されている。
【0038】
図2と図3に示すように、支持体30に振動体20が搭載される。図1に示すように、磁芯21には、前記接続面21a,21aよりもさらにY方向に突出する突出端部21b,21bが一体に形成されており、突出端部21b,21bが、対向板部32,32の開口部32a,32aに嵌合して、振動体20が、支持体30に位置決めされて固定されている。
【0039】
突出端部21b,21bと開口部32a,32aとの嵌合構造だけで、磁芯21と支持体30とが互いに固定されてもよいが、磁性ヨーク22の下面22cと、支持体30の支持底部31とが接着剤などによって部分的に固定されてもよい。
【0040】
支持体30には、X方向の両側において、支持底部31から連続する弾性支持部材33,33が一体に形成されている。
【0041】
図1と図2に示すように、支持底部31からX方向の一方へ突出する弾性支持部材33と、X方向の他方へ突出する弾性支持部材33は、Y−Z面を挟んで互いに面対称構造である。
【0042】
図4に拡大して示すように、弾性支持部材33は、中間板部34を有している。図3に示すように、中間板部34は、支持体30の支持底部31のX方向に向く側部からZ方向の上向きに直角に折り曲げられて形成されている。図4では、中間板部34のY方向の長さ寸法がWで示されている。
【0043】
弾性支持部材33では、前記中間板部34からX方向の外側に間隔を空けた位置に挟持部35が設けられている。図3に示すように、挟持部35に、前記中間板部34と平行な保持板部35aと、保持板部35aに対向するように曲げられた弾性保持片35bとが一体に形成されている。図4に示すように、保持板部35aと弾性保持片35bとで、筐体10の固定板部12が挟まれる。このとき、保持板部35aが固定板部12の内面12aに密着し、弾性保持片35bが固定板部12の外面12bに弾圧されて、挟持部35が固定板部12に固定される。
【0044】
図4に示すように、中間板部34の外面34aと保持板部35aの内面35cは互いに平行であり、その間に、第1の弾性変形部36が設けられている。第1の弾性変形部36は、支持体30を構成している板ばね材によって、中間板部34および保持板部35aと一体に形成されている。
【0045】
第1の弾性変形部36は、2つの変形板部36a,36bを有している。変形板部36a,36bは、Z方向の幅寸法よりも第3の方向であるY方向の長さ寸法が大きい帯板形状である。変形板部36a,36bは、板厚方向が第1の方向(X方向)に向けられて、幅方向が第2の方向であるZ方向へ向けられ、長手方向が第3の方向であるY方向に向けられている。
【0046】
変形板部36aの基部は、基部曲げ部36cを介して中間板部34と連続しており、変形板部36bの基部は、基部曲げ部36dを介して保持板部35aと連続している。変形板部36aの先部と変形板部36bの先部は、中間曲げ部36eを介して連続している。
【0047】
変形板部36aと変形板部36bはその長手方向がY方向に向けられ、板厚方向がX方向へ向けられているため、主に第1の方向であるX方向に曲げ歪みを発生し、その曲率方向はY方向である。基部曲げ部36cと基部曲げ部36dおよび中間曲げ部36eは、折り曲げの中心線が第2の方向であるZ方向へ向けられており、主に第1の方向であるX方向に曲げ歪みを発生する。
【0048】
第1の弾性変形部36は、変形板部36a,36bのそれぞれの曲げ歪みおよび基部曲げ部36c,36dと中間曲げ部36eのそれぞれの曲げ歪みによって、第1の方向であるX方向へ第1の弾性係数を有して弾性変形する。第1の弾性変形部36に第1の方向への曲げ歪みを与えるのに要する曲げ応力は小さく、第1の弾性係数は比較的小さい値である。第1の弾性変形部36のX方向の歪みによって、振動体20およびこれを搭載した支持体30がX方向へ振動可能である。このときの第1の固有振動数は、振動体20および支持体30の合計の質量と前記第1の弾性係数とで決まる。第1の弾性係数が比較的小さい値であるため、第1の固有振動数は比較的低い。
【0049】
振動体20が第1の方向であるX方向へ振動するとき、その振動方向は、第2の弾性変形部39を構成する変形板部38のせん断方向である。さらに、弾性変形部39は、第1の弾性変形部36に比較して曲げ剛性が十分に大きい。そのため、振動体20および支持体30が第1の方向であるZ方向へ振動しているときに、第2の弾性変形部39はほとんど変形しない。
【0050】
振動体20および支持体30が第2の方向であるZ方向へ移動するとき、第1の弾性変形部36を構成する変形板部36a,36bおよび曲げ部36c,36d,36eに対しては、幅方向(Z方向)へせん断力が作用し、また、わずかに捩り力が作用する。第1の弾性変形部36をせん断方向および捩り方向へ変形させるのに要する力は、第1の弾性変形部36をX方向へ曲げ変形させるのに要する力に比べて十分に大きい。すなわち、第1の弾性変形部36はX方向への第1の弾性係数に比べて、Z方向への弾性係数はきわめて高い値となる。そのため、振動体20および支持体30が第1の方向であるZ方向へ移動するとき、第1の弾性変形部36に弾性歪みが発生しにくく、Z方向へ振動しているときに第1の弾性変形部36が不要な方向の振動ノイズを発生しにくい。
【0051】
図4に示すように、弾性支持部材33では、中間板部34の両端部において、支持体30の支持底部31をX方向に切り込む切欠き部37,37が形成されている。図4では、切欠き部37,37の切り込み深さ寸法がDで示されている。支持底部31を構成する板ばね材であって、切欠き部37,37で挟まれた範囲、すなわち図4において幅寸法Wと切り込み深さ寸法Dで挟まれた部分の板ばね材が変形板部38となっている。変形板部38は、振動体20を構成する磁性ヨーク22の下面22cに対して、接着剤などによって固定されていない。変形板部38とこの変形板部38から折り曲げられている前記中間板部34とで第2の弾性変形部39が構成されている。
【0052】
振動体20および支持体30が、第2の方向であるZ方向へ動くときに、第2の弾性変形部39が弾性変形する。第2の弾性変形部39の主な変形部は変形板部38であり、振動体20および支持体30のZ方向の移動に対して、変形板部38がZ方向へ曲げ歪みを発生する。このとき、中間板部34と変形板部38との曲げ境界部にも曲げ歪みが発生する。
【0053】
変形板部38は、幅方向であるY方向に長く、曲げられたときの曲率方向であるX方向の寸法が短い。そのため、振動体20と支持体30が第2の方向であるZ方向へ移動して第2の弾性変形部39が曲がるときの第2の弾性係数は、第1の弾性変形部36のX方向での第1の弾性係数に比べてきわめて高い値になる。振動体20および支持体30がZ方向へ振動する際の第2の固有振動数は、振動体20および支持体30の質量と第2の弾性係数とで決まるが、第2の固有振動数は、X方向へ振動するときに第1の固有振動数に比較してきわめて高い。
【0054】
切欠き部37,37の切り込み深さDを変化させると、変形板部38のX方向の長さ寸法が変化し、第2の弾性係数が変化する。よって切り込み深さDを変えることで、振動体20および支持体30の第2の方向であるZ方向への固有振動数を調整することができる。ただし、切欠き部37,37の切り込み深さDの変化は第1の弾性変形部36に何ら変化を与えないため、第2の弾性係数を調整するときに、第1の弾性変形部36の第1の弾性係数が変化することはない。
【0055】
図1に示すように、筐体10にはY方向に対向する対を成す磁石支持板部13,13が設けられている。一方の磁石支持板部13の内面に、コイル41と共に磁気駆動部40を構成する磁界発生部材42aが固定され、他方の固定板部12の内面に、同じくコイル41と共に磁気駆動部40を構成する磁界発生部材42bが固定されている。
【0056】
図5(A)に示すように、一方の磁界発生部材42aは、上側に位置する上部磁石43aと、底板部11側に位置する下部磁石44aとを有している。上部磁石43aと下部磁石44aは共に、Z方向の幅寸法よりもX方向の長さ寸法が大きい細長形状である。上部磁石43aの中心O1は、図5(A)において、左側に位置し、下部磁石44aの中心O2は、図5(A)において、右側に位置している。上部磁石43aは、磁芯21の突出端部21bに対向する面がN極に着磁され、下部磁石44aは、突出端部21bに対向する面がS極に着磁されている。
【0057】
振動体20に外力が作用しておらず、振動体20が弾性支持部材33,33によって中立姿勢に支持されているとき、磁芯21の突出端部21bの中心O0は、前記中心O1と中心O2に対してX方向において中間点に位置し、Z方向において中間点に位置している。
【0058】
図5に示す磁界発生部材42aと対向している他方の磁界発生部材42bは、X−Z面を挟んで、前記磁界発生部材42aと面対称構造である。磁界発生部材42bは、前記上部磁石43aと面対称の上部磁石43bと、前記下部磁石44aと面対称の下部磁石44bを有している。なお、図1には下部磁石44bが図面に現れていない。磁界発生部材42bの上部磁石43bは、磁芯21の突出端部21bに対向する面がS極に着磁され、下部磁石44bは、突出端部21bに対向する面がN極に着磁されている。すなわち、対向する上部磁石43aと上部磁石43bの表面が互いに逆の磁極であり、対向する下部磁石44aと下部磁石44bの表面が互いに逆の磁極である。
【0059】
図8に、前記振動発生装置1を搭載した携帯機器50の一例が示されている。
携帯機器50は電話機能やメール送受信機能を有しているものであり、振動発生装置1が筐体51の内部に設置されている。また、筐体51の内部に、振動発生装置1を駆動する駆動回路52が内蔵されている。
【0060】
振動発生装置1は2つの共振モードを有している。1つの共振モードは、振動体20と支持体30が第1の方向であるX方向へ振動するときの第1の固有振動数による振動である。第2の共振モードは、振動体20と支持体30が第2の方向であるZ方向へ振動するときの第2の固有振動数による振動である。前述のように、第2の固有振動数は第1の固有振動数よりも十分に高い。
【0061】
振動発生装置1を第1の共振モードで駆動するときは、駆動回路52からコイル41に対して、第1の固有振動数に一致する第1の周波数またはこれに近い周波数の駆動信号が与えられる。この駆動信号は、コイル41に対して矩形波状のパルス電流が間欠的に与えられてもよいし、コイル41に対して交流電流が与えられてもよい。このときに、磁芯21の突出端部21bの表面の磁極がN極またはS極に変わる周波数が、第1の固有振動数に一致しまたは第1の固有振動数に近い値となる。
【0062】
コイル41に通電されて磁芯21の突出端部21bが磁極として機能すると、図5(B)に示すように、突出端部21bの中心O0に対して中心O1,O0,O2が並ぶ直線方向へ駆動力Fが作用する。駆動信号が第1の周波数またはこれに近い周波数のときは、駆動力FのX方向の分力Fxによって、振動体20と支持体30がX方向へ第1の共振モードで共振する。
【0063】
振動発生装置1を第2の共振モードで駆動するときは、駆動回路52からコイル41に対して、第2の固有振動数に一致する第2の周波数またはこれに近い周波数の駆動信号が与えられる。このとき、駆動力FのZ方向の分力Fzによって、振動体20と支持体30がZ方向へ第2の共振モードで共振する。
【0064】
例えば、第1の周波数を150〜200Hz程度に設定しておくと、携帯機器50の電話機能やメール送受信機能が着信状態となったときに所有者にその状態を知らせるのに適した振動となる。
【0065】
第2の周波数を400〜600Hz程度に設定しておくと、操作部が指で操作されたときに指に与えられる操作反力の振動に適したものになる。
【0066】
例えば、図8に示す携帯機器50は、筐体51に表示画面53が設けられて、カラー液晶表示パネルなどに画像が表示される。表示画面53には静電容量式または抵抗式などの座標入力が可能なタッチパッドが併設されている。表示画面53に複数の操作釦54の画像が表示されているときに、いずれかの操作釦54に指を触れることで、前記入力パッドが検知状態となり、どの操作釦54が操作されたのかが筐体51に内蔵された制御回路で認識される。このとき、制御回路から駆動回路52に指令が出され、コイル41に第2の周波数の駆動信号が短い時間だけ与えられると、筐体51が高い周波数で短時間だけ振動し、操作釦54に触れている指に、鋭い感覚の操作反力が与えられる。
【0067】
駆動回路52では、駆動電圧を変動させる必要がなく、駆動信号の周波数を変化させるだけで、筐体51を比較的低い振動数で振動させて、着信状態を知らせ、筐体51を高い振動数で短時間振動させることで、指に鋭い操作反力を感じさせることが可能になる。
【0068】
振動発生装置1を第2の駆動信号で振動させるときに、指に操作反力として感じさせる周波数はどの程度が最適であるかは、個々の筐体51の大きさや振動伝達構造により相違する。
【0069】
そこで、図4に示すように、支持体30の支持底部31に形成された切欠き部37,37の切り込み深さDを変更し、第2の弾性変形部39の第2の弾性係数を変えることで、それぞれの携帯機器において最適となる振動数の振動を発生でき、最適な操作反力を発揮させることができるようになる。この場合に、切欠き部37の切り込み深さDを変更しても、第1の弾性変形部36の第1の弾性係数に影響は無いため、着信を知らせる振動モードが変わることはない。
【0070】
また、第1の共振モードと第2の共振モードは、着信モードと操作釦54の操作反力モードに限られるものではなく、他の操作を行ったときに、第1の共振モードまたは第2の共振モードで筐体51を振動させることが可能である。例えば、表示画面53にゲーム画像を表示してゲーム動作を行わせているときに、表示画面53の表示内容の変化に応じて、第1の共振モードと第2の共振モードを切り替えて、あるいは組み合わせて、筐体51を振動させることが可能である。
【0071】
図6は第2の実施の形態の振動発生装置に設けられた磁界発生部材142を示している。
【0072】
この磁界発生部材142は、上部磁石143の左側端部に、下部磁石144と重なる位置まで下方に延びる延長部143aが一体に形成され、下部磁石144の右側端部に、上部磁石143と重なる位置まで延びる延長部144aが一体に形成されている。なお、延長部143aが、上部磁石143の本体部と別体に形成され、延長部144aが、下部磁石144の本体部と別体に形成されているものであってもよい。
【0073】
図6に示す磁界発生部材142は、X方向の両側に延長部143a,144aが設けられているため、上部磁石143の中心(重心)O1と下部磁石144の中心(重心)O2のX方向の距離を長くできる。よって、図5(B)に示すX方向の駆動力の分力Fxを大きくでき、振動体20と支持体30を第1の共振モードでX方向へ駆動するときの、X方向以外の不要な振動ノイズを低減しやすくなる。
【0074】
図7は本発明の第3の実施の形態の振動発生装置に搭載された磁気駆動部240を示している。
【0075】
この実施の形態では、振動体220に、2つの磁芯221a,221bとが設けられ、磁芯221aにコイル241aが巻かれ、磁芯221bにコイル241bが巻かれている。
【0076】
筐体10の磁石支持板部13には、2組の磁界発生部材242a,242bが固定されている。一方の磁界発生部材242aは、上部磁石243aと下部磁石244aがZ方向に分かれて設けられ、振動体220に対向する表面が互いに逆の磁極となっている。他方の磁界発生部材242bは、左部磁石243bと右部磁石244bがX方向に分けれて設けられ、振動体220に対向する表面が互いに逆の磁極となっている。
【0077】
図7に示す振動発生装置は、コイル241bに第1の周波数の駆動信号が与えられると、そのときの発生磁界および左部磁石234bと右部磁石244bによって振動体220が第1の方向であるX方向へ第1の固有振動数で振動させられる。コイル241aに第2の周波数の駆動信号が与えられると、そのときの発生磁界および上部磁石243aと下部磁石244aとによって、振動体220が第2の方向であるZ方向へ第2の固有振動数で振動させられる。
【符号の説明】
【0078】
1 振動発生装置
10 筐体
12 固定板部
13 磁石支持板部
20 振動体
21 磁芯
22 磁性ヨーク
30 支持体
31 支持底部
33 弾性支持部材
34 中間板部
35 挟持部
36 第1の弾性変形部
36a,36b 変形板部
36c,36d 基部曲げ部
36e 中間曲げ部
37 切欠き部
38 変形板部
39 第2の弾性変形部
40 磁気駆動部
41 コイル
42a,42b 磁界発生部材
43a,43b 上部磁石
44a,44b 下部磁石
50 携帯機器
51 筐体
52 駆動回路
53 表示画面
54 操作釦

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体と、弾性支持部材を介して前記筐体に支持された振動体と、前記振動体に振動力を与える磁気駆動部とを有する振動発生装置において、
前記弾性支持部材は、前記振動体を第1の方向へ振動させる第1の弾性係数と、前記振動体を第1の方向と直交する第2の方向へ振動させる第2の弾性係数とを有し、第2の弾性係数と第1の弾性係数とが互いに相違しており、
前記磁気駆動部によって、前記振動体が、第1の方向へ向けて第1の振動数で駆動され、第2の方向へ向けて第1の振動数と相違する第2の振動数で駆動されることを特徴とする振動発生装置。
【請求項2】
前記弾性支持部材は、第1の弾性係数を有して曲げ歪みを発生する第1の弾性変形部と、第2の弾性係数を有して曲げ歪みを発生する第2の弾性変形部とを有する請求項1記載の振動発生装置。
【請求項3】
前記第1の弾性変形部は、板厚方向が第1の方向に向けられて、第1の方向と第2の方向の双方に直交する第3の方向へ延びる板ばね部で、前記第2の弾性変形部は、板厚方向が第2の方向へ向けられて、第1の方向へ延びる板ばね部であり、第2の弾性変形部の曲げ方向が、第1の弾性変形部のせん断方向である請求項2記載の振動発生装置。
【請求項4】
前記弾性支持部材には、第2の弾性変形部の第1の方向の長さを設定する切欠き部が設けられている請求項3記載の振動発生装置。
【請求項5】
第2の弾性係数が第1の弾性係数よりも大きく設定され、第2の振動数が第1の振動数よりも高い請求項1ないし4のいずれかに記載の振動発生装置。
【請求項6】
前記磁気駆動部に設けられたコイルに、前記振動体を第1の振動数で駆動するための第1の周波数の駆動信号と、第2の振動数で駆動するための第2の周波数の駆動信号を切り替えて与える駆動回路が設けられている請求項1ないし5のいずれかに記載の振動発生装置。
【請求項7】
電話機能を有する携帯機器に搭載されて、電話機能の着信があったときは、前記コイルに第1の周波数の駆動信号が与えられ、前記携帯機器に設けられた操作部が操作されたときに、前記コイルに第2の周波数の駆動信号が与えられる請求項6記載の振動発生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−125730(P2012−125730A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−281552(P2010−281552)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】