振動遮断壁の構造
【課題】狭隘地などの作業領域が制限された空間において設置可能であり、かつ高い強度及び振動遮断性能を有した振動遮断壁の構造を提供する。
【解決手段】内部にガスが充填された振動遮断部材５は、第１の支持部材８２、第２の支持部材８１に支持された状態で、土留め壁Ｗ及びソイル化された原地盤との間に挿入される。振動遮断壁は、土留め壁Ｗ、ソイル化部Ｓが硬化した連続壁Ｃ、及び連続壁Ｃの内部に埋設された振動遮断部材５からなる３層構造を有する。
【解決手段】内部にガスが充填された振動遮断部材５は、第１の支持部材８２、第２の支持部材８１に支持された状態で、土留め壁Ｗ及びソイル化された原地盤との間に挿入される。振動遮断壁は、土留め壁Ｗ、ソイル化部Ｓが硬化した連続壁Ｃ、及び連続壁Ｃの内部に埋設された振動遮断部材５からなる３層構造を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【０００１】
本発明は、一般地や、高架橋の下などの狭隘地に設置され、列車、自動車、及び機械基礎等を震源とする振動を遮断するための振動遮断壁の構造に関する。
【背景技術】
【０００２】
従来、鋼矢板またはコンクリート壁などの板状部材を主要部とする振動遮断壁の構造が知られている。鋼矢板やコンクリート壁を用いた振動遮断壁は、その材質の性質上、強度が高く安全性は高いが、振動遮断効果は十分ではなかった（例えば、特許文献１参照）。また、互いに対向するように圧入された鋼矢板などで画成される振動遮断用の空溝は、かかる空溝を有しない場合と比べて振動遮断効果は高いが、安全性や耐震性に課題が残されていた。
【０００３】
そこで、これら従来の振動遮断壁の有する課題を解決すべく、内部にガスが充填されたチューブ（クッション体）を複数連結して作成した振動遮断部材を地中に埋設した振動遮断壁の構造が知られている。
【０００４】
かかる振動遮断壁の構造によれば、振動遮断性能は高い反面、予めクラムシェルなどの大型の建設機械で、振動遮断部材の個数によって決定される深さを有した縦孔の掘削し、この縦孔にコンクリート製の錘を取り付けた振動遮断部材を埋設、固定させている。
【特許文献１】特公開２００１−２２６９９８号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【０００５】
しかしながら、上記クッション体を用いた工法では、予め必要な深さを有する縦孔を掘削するための大型の建設機械が必要であり、狭隘地など低空頭な場所での施工が困難であるという問題があった。また加えて、施工途中及び施工完了後において、原地盤が変位することを防止する策も設けられていなかった。また、クッション体の挿入方向下端に、クッション体に生じる浮力によって当該クッション体が浮上することを防止するための錘を取り付ける必要があり、振動遮断壁の構造が複雑になるという問題もあった。
【０００６】
本発明は上述の問題点を解決しつつ、一般地及び狭隘地などに設置可能であり、かつ従来よりも振動遮断性能が高く安全性を有した振動遮断壁の構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【０００７】
上記目的を解決するために、本発明にかかる振動遮断壁の構造は、掘削された原地盤に圧入された圧入材によって形成された土留め壁と、前記掘削された原地盤と、前記土留め壁との間に形成されたソイル化部と、前記ソイル化部に挿入された振動遮断部材と、前記振動遮断部材の長手方向に沿って取り付けられた第１支持部材と、前記第１支持部材に対して垂直な方向に設けられるとともに、前記振動遮断部材の挿入側先端に設けられた第２支持部材と、前記第１支持部材の挿入方向とは反対の端部に設けられ、前記挿入された振動遮断部材が浮上するのを防止する第３支持部材とから構成され、前記ソイル化部は所定の時間が経過した後に硬化する硬化性材料から構成され、前記ソイル化部は硬化後に連続壁を形成し、前記第３支持部材は少なくとも前記連続壁が形成されるまで前記土留め壁と前記第１支持部材とを連結することを特徴とする。
【発明の効果】
【０００８】
本発明の振動遮断壁の構造によれば、土留め壁、ガスが充填された振動遮断部材、及び振動遮断部材を収容する硬化性の連続壁の３層構造から成る。かかる構造によれば、硬化性の連続壁によって十分な強度を確保し、かつ、かかる連続壁の内部にガスが充填された振動遮断部材を配置されているので、一般地や狭隘地などにおいて高い安全性を有するとともに、高い振動遮断性能を有する振動遮断壁を得ることができる。また加えて、硬化性溶液を用いて原地盤をソイル化するとともに振動遮断部材を圧入するので、浮きあがり防止用の錘を必要としない。さらに、土留め壁を形成したので、原地盤の変形を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【０００９】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照しながら説明する。
【００１０】
図１は、施工途中の振動遮断壁を示す説明図である。詳細には、本発明に係る振動遮断壁は、鋼矢板などから成る圧入材３を図示しない圧入材圧入引抜装置を備えた施工機械によって予め掘削された布堀部Ｔに圧入して形成され、原地盤を区画する土留め壁（仕切り板）Ｗと、後述する多軸揺動噴射装置を備えた施工機械によって土留め壁Ｗと布堀部Ｔとの間の原地盤をソイル化（流動化）させて形成されたソイル化部Ｓに挿入された振動遮断部材５と、ソイル化部Ｓが硬化するまでの間振動遮断部材５が浮力によって浮上することを防止するための浮上防止金具１０、１０Ａとから構成される。
【００１１】
施工を開始するに際し、所定の幅Ｄだけ原地盤を掘削して布堀部Ｔを設けるが、かかる布堀部Ｔの幅Ｄは、従来よりも少ない掘削量で十分である。
【００１２】
図２は、振動遮断壁の要部を構成する振動遮断部材５が取り付けられた状態の多軸揺動噴射装置２００を示す図である。
【００１３】
多軸揺動噴射装置２００は、ソイル化部Ｓの形成、振動遮断部材５の挿入を行うための装置であり、図示しない施工機械の本体に取り外し自在に固定される。図示しない施工機械の本体には、土留め壁Ｗを形成する際には、図示しない圧入材圧入引抜装置が取り付けられ、かかる圧入材圧入引抜装置によって土留め壁Ｗが形成される。土留め壁Ｗが形成された後、図２に示す多軸揺動噴射装置２００が施工機械の本体に取り付けられ、後述の各施工工程が実施される。このように、同一の施工機械の本体に目的に合致したアタッチメント（例えば、圧入材圧入引抜装置、多軸揺動噴射装置２００など）を取り付けることで、一般地や狭隘地などでも効率的、かつ経済的に施工することができる。
【００１４】
図２に示す様に、多軸揺動噴射装置２００は、多軸揺動噴射装置本体２０と、この本体２０に対して油圧及びチェーン３０などから構成される昇降手段によって昇降自在に取り付けられた一対の多軸揺動軸２７、２７から概略構成される。多軸揺動軸２７の先端部には、原地盤をソイル化するためのソイル化用溶液などを高圧で噴射するための噴射口２１が設けられている。噴射口２１は、多軸揺動軸２７を中心にそれぞれＡＲ３、ＡＲ４の範囲にソイル化用溶液を噴射可能である（図３参照）。
【００１５】
図３に示すように、かかる噴射口２１は、概略対角線上の対向する位置に設けられているので、効率よく原地盤とソイル化用溶液を混合できる。また、チェーン３０の昇降によって、連結部２８と噴射口２１とが一緒に昇降されるので、原地盤をソイル化しつつ徐々に所定の深さまで縦孔を設けることができる。
【００１６】
さらに、一対の多軸揺動軸２７、２７は夫々筒状の保持部２５に摺動自在に保持されているとともに、一対の保持部２５、２５は連結部２６によって連結、補強されている。
【００１７】
また図２を参照するに、振動遮断部材５は、振動遮断部材５の長手方向を支持する円柱状の第１支持部材８２と、この第１支持部材８２に連結され、振動遮断部材５の底部を支持する第２支持部材８１とによって多軸揺動噴射装置２００の連結部２６に取り付けられている。詳細には、第１支持部材８２の上端に設けられ、第１支持部材８１よりも細径の係合部８２ａは、多軸揺動噴射装置２００の連結部２６に昇降自在に取り付けられた取付け部２４に挿通された昇降部材８３の一端に取り付けられたチャック２９に固定されている。また、かかる係合部８２ａには、後述する浮上防止金具１０も取り付けられる。
【００１８】
また、図４（ａ）に示すごとく、支持部材８１、８２は概略Ｔ字形状に形成され、第１支持部材８２と第２支持部材８１の接合部分には、補強部材８１ｂが設けられている。更に、第２支持部材８１の両端の折り曲げ部８１ａには、後述する下部引っ掛け棒９０を挿通させるための貫通孔８１ｃが設けられている。
【００１９】
振動遮断部材５は、チェーン３０及び図示しない油圧装置などから構成される昇降手段によって、多軸揺動噴射装置２００の多軸揺動軸２７の昇降とは独立して昇降させることも可能であるし、多軸揺動噴射軸２７と並行に同一の移動量で昇降させることも可能である。かかる構造のため、多軸揺動噴射装置２００を下降させる過程において、多軸揺動噴射軸２７の噴射口２１からソイル化用溶液を高圧噴射して原地盤をソイル化させつつ、このソイル化部Ｓに支持部材８１、８２に支持された振動遮断部材５を挿入することができる。
【００２０】
なお本実施形態では、振動遮断部材５は、可撓性容器の内部にガスが充填されたクッション体を複数連結して形成されている。かかる可撓性の振動遮断部材５が、下部引っ掛け棒９０に巻回されることで、振動遮断部材５が支持部材８１、８２に取り付けられる。
【００２１】
図５は、本発明に係る振動遮断壁を設置する工程を示す説明図である。
【００２２】
図５（ａ）に示す様に、図示しない施工機械を使用して圧入材（鋼矢板）３を所定の箇所に圧入して土留め壁Ｗを形成する。土留め壁Ｗと掘削した原地盤との間に、振動遮断部材５を取り付けた多軸揺動噴射装置２００を使用して、第１のソイル化部Ｓ１を形成する（図５（ｂ））。なお、図５（ｂ）における点線はソイル化される領域を示す。なお、本実施形態では、圧入材として鋼矢板を用いたが、コンクリート板などでもよい。
【００２３】
次いで、ソイル化部Ｓ１に振動遮断部材５を挿入する（図５（ｃ））。
【００２４】
次に、施工機械（図示略）を移動させ、ソイル化を必要な回数だけ行う（図５（ｄ）は、第２のソイル化部Ｓ２を形成している状態を示す。）。
【００２５】
複数の振動遮断部材５を挿入する場合は、各振動遮断部材５の間から振動が伝播することを防止するために、隣り合う振動遮断部材５を互いにオーバーラップするように配置する（図５（ｅ））。なお、オーバーラップ部Ｏの長さＸは適宜調整すればよい。また、図５（ｃ）などに示す様に、振動遮断部材５は土留め壁Ｗに対して所定の角度だけ傾斜した状態で挿入される。
【００２６】
次に、挿入された振動遮断部材５を支持する第1支持部材８２の係合部８２ａに浮上防止金具１０を取り付ける（図５（ｅ））。なお図４（ｂ）に示す様に、浮上防止金具１０は、支持部材８２の連結部８２ａに図示しないネジなどによって適宜固定されるとともに、振動遮断部材５の上部を押える一対のアーム１０Ａを有している。このアーム１０Ａが、振動遮断部材５の上部端面に当接するとともに、図１に示す様にアーム１０Ａの端部が土留め壁Ｗに溶接部１００で溶接されることで、振動遮断部材５が浮力によって浮上することが防止される。すなわち、浮上防止金具１０及びアーム１０Ａが、第３支持部材として機能する。
【００２７】
なお、浮上防止金具１０を土留め壁Ｗに固定する方法としては、一対のアーム１０Ａを浮上防止金具１０に対して回動自在に設けておき、さらにかかるアーム１０Ａの先端に係合部を設け、この係合部と脱着自在な被係合部を土留め壁Ｗに設けるという構成でもよい。さらに、ソイル化部Ｓが硬化するまでの間、一対のアーム１０Ａ、１０Ａの回動を防止する連結部を設け、かかる連結部をピンなどで各アーム１０Ａに固定したり、上記係合部と被係合部とをピン等で連結すればより確実に振動遮断部材５の浮き上がりを防止できる。
【００２８】
支持部材８１、８２は、従来構造における錘の役割を果たすものではない。そのため、本発明では防止金具１０、１０Ａを用いて、振動遮断部材５の浮上を防止している。換言すれば、支持部材８１、８２が錘としてほとんど機能しないということは、支持部材８１、８２が従来構造におけるコンクリート製の錘に比べて軽量であることを意味する。このため、比較的軽量な上記支持部材８１、８２を使用した方が作業性がよい。
【００２９】
最後に、ソイル化部Ｓ（Ｓ１、Ｓ２）が硬化して連続壁Ｃが形成されると、浮上防止金具１０、及びアーム１０Ａを取り外して施工完了となる（図５（ｆ））。
【００３０】
図６は、施工完了後の状態を示す斜視図である。図６から理解されるように、ソイル化していた土壌が硬化して連続壁Ｃが形成され、連続壁Ｃの中に振動遮断部材５が埋設されている。
【００３１】
なお、圧入材３から成る土留め壁Ｗは、上述の施工機械の自重を支える役割のほか、周辺地盤の変形を防止する役割を有しており、かかる機能によって本発明に係る振動遮断壁は、高い安全性も具備している。なお、本発明では、ソイル化を行うためのソイル化用溶液にセメントなどを添加することで硬化性を付与しているが、必ずしも硬化性を付与する必要がなければ、単純に水を高圧で噴射してもよい。すなわち、原地盤の組成に応じてソイル化用溶液の組成を決定すればよい。
【００３２】
また、上記実施形態では、振動遮断壁を狭隘地に設置する場合を述べたが、本発明にかかる構造は狭隘地に限られることはなく、一般地においても同様の安全性と、振動遮断性能を備えた振動遮断壁を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【００３３】
一般地に加えて、大型施工機械を搬入することが困難な高架下などの狭隘地においても、安全性を確保しつつ、高い強度と振動遮断性能を有する遮断壁を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【００３４】
【図１】本発明に係る振動遮断壁を設置しているところを示す説明図である。
【図２】振動遮断部材が取り付けられた多軸揺動噴射装置の正面図である。
【図３】図２に示す多軸揺動噴射装置の部分拡大図である。
【図４】（ａ）は本発明に係る振動遮断部材の支持部材を示す斜視図であり、（ｂ）は浮上防止金具を示す斜視図である。
【図５】本発明に係る振動遮断壁の設置方法を示す模式図である。
【図６】施工終了後の振動遮断壁を示す斜視図である。
【符号の説明】
【００３５】
３ 圧入材
５ 振動遮断部材
１０ 浮上防止金具
１０Ａ アーム
８１ 第２支持部材
８１ａ 折り曲げ部
８１ｃ 貫通孔
８２ 第１支持部材
８２ａ 係合部
９０ 下部引っ掛け棒
１００ 溶接部
２００ 多軸揺動噴射装置
Ｓ ソイル化部
Ｃ 連続壁
Ｔ 布堀部
Ｗ 土留め壁
【技術分野】
【０００１】
本発明は、一般地や、高架橋の下などの狭隘地に設置され、列車、自動車、及び機械基礎等を震源とする振動を遮断するための振動遮断壁の構造に関する。
【背景技術】
【０００２】
従来、鋼矢板またはコンクリート壁などの板状部材を主要部とする振動遮断壁の構造が知られている。鋼矢板やコンクリート壁を用いた振動遮断壁は、その材質の性質上、強度が高く安全性は高いが、振動遮断効果は十分ではなかった（例えば、特許文献１参照）。また、互いに対向するように圧入された鋼矢板などで画成される振動遮断用の空溝は、かかる空溝を有しない場合と比べて振動遮断効果は高いが、安全性や耐震性に課題が残されていた。
【０００３】
そこで、これら従来の振動遮断壁の有する課題を解決すべく、内部にガスが充填されたチューブ（クッション体）を複数連結して作成した振動遮断部材を地中に埋設した振動遮断壁の構造が知られている。
【０００４】
かかる振動遮断壁の構造によれば、振動遮断性能は高い反面、予めクラムシェルなどの大型の建設機械で、振動遮断部材の個数によって決定される深さを有した縦孔の掘削し、この縦孔にコンクリート製の錘を取り付けた振動遮断部材を埋設、固定させている。
【特許文献１】特公開２００１−２２６９９８号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【０００５】
しかしながら、上記クッション体を用いた工法では、予め必要な深さを有する縦孔を掘削するための大型の建設機械が必要であり、狭隘地など低空頭な場所での施工が困難であるという問題があった。また加えて、施工途中及び施工完了後において、原地盤が変位することを防止する策も設けられていなかった。また、クッション体の挿入方向下端に、クッション体に生じる浮力によって当該クッション体が浮上することを防止するための錘を取り付ける必要があり、振動遮断壁の構造が複雑になるという問題もあった。
【０００６】
本発明は上述の問題点を解決しつつ、一般地及び狭隘地などに設置可能であり、かつ従来よりも振動遮断性能が高く安全性を有した振動遮断壁の構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【０００７】
上記目的を解決するために、本発明にかかる振動遮断壁の構造は、掘削された原地盤に圧入された圧入材によって形成された土留め壁と、前記掘削された原地盤と、前記土留め壁との間に形成されたソイル化部と、前記ソイル化部に挿入された振動遮断部材と、前記振動遮断部材の長手方向に沿って取り付けられた第１支持部材と、前記第１支持部材に対して垂直な方向に設けられるとともに、前記振動遮断部材の挿入側先端に設けられた第２支持部材と、前記第１支持部材の挿入方向とは反対の端部に設けられ、前記挿入された振動遮断部材が浮上するのを防止する第３支持部材とから構成され、前記ソイル化部は所定の時間が経過した後に硬化する硬化性材料から構成され、前記ソイル化部は硬化後に連続壁を形成し、前記第３支持部材は少なくとも前記連続壁が形成されるまで前記土留め壁と前記第１支持部材とを連結することを特徴とする。
【発明の効果】
【０００８】
本発明の振動遮断壁の構造によれば、土留め壁、ガスが充填された振動遮断部材、及び振動遮断部材を収容する硬化性の連続壁の３層構造から成る。かかる構造によれば、硬化性の連続壁によって十分な強度を確保し、かつ、かかる連続壁の内部にガスが充填された振動遮断部材を配置されているので、一般地や狭隘地などにおいて高い安全性を有するとともに、高い振動遮断性能を有する振動遮断壁を得ることができる。また加えて、硬化性溶液を用いて原地盤をソイル化するとともに振動遮断部材を圧入するので、浮きあがり防止用の錘を必要としない。さらに、土留め壁を形成したので、原地盤の変形を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【０００９】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照しながら説明する。
【００１０】
図１は、施工途中の振動遮断壁を示す説明図である。詳細には、本発明に係る振動遮断壁は、鋼矢板などから成る圧入材３を図示しない圧入材圧入引抜装置を備えた施工機械によって予め掘削された布堀部Ｔに圧入して形成され、原地盤を区画する土留め壁（仕切り板）Ｗと、後述する多軸揺動噴射装置を備えた施工機械によって土留め壁Ｗと布堀部Ｔとの間の原地盤をソイル化（流動化）させて形成されたソイル化部Ｓに挿入された振動遮断部材５と、ソイル化部Ｓが硬化するまでの間振動遮断部材５が浮力によって浮上することを防止するための浮上防止金具１０、１０Ａとから構成される。
【００１１】
施工を開始するに際し、所定の幅Ｄだけ原地盤を掘削して布堀部Ｔを設けるが、かかる布堀部Ｔの幅Ｄは、従来よりも少ない掘削量で十分である。
【００１２】
図２は、振動遮断壁の要部を構成する振動遮断部材５が取り付けられた状態の多軸揺動噴射装置２００を示す図である。
【００１３】
多軸揺動噴射装置２００は、ソイル化部Ｓの形成、振動遮断部材５の挿入を行うための装置であり、図示しない施工機械の本体に取り外し自在に固定される。図示しない施工機械の本体には、土留め壁Ｗを形成する際には、図示しない圧入材圧入引抜装置が取り付けられ、かかる圧入材圧入引抜装置によって土留め壁Ｗが形成される。土留め壁Ｗが形成された後、図２に示す多軸揺動噴射装置２００が施工機械の本体に取り付けられ、後述の各施工工程が実施される。このように、同一の施工機械の本体に目的に合致したアタッチメント（例えば、圧入材圧入引抜装置、多軸揺動噴射装置２００など）を取り付けることで、一般地や狭隘地などでも効率的、かつ経済的に施工することができる。
【００１４】
図２に示す様に、多軸揺動噴射装置２００は、多軸揺動噴射装置本体２０と、この本体２０に対して油圧及びチェーン３０などから構成される昇降手段によって昇降自在に取り付けられた一対の多軸揺動軸２７、２７から概略構成される。多軸揺動軸２７の先端部には、原地盤をソイル化するためのソイル化用溶液などを高圧で噴射するための噴射口２１が設けられている。噴射口２１は、多軸揺動軸２７を中心にそれぞれＡＲ３、ＡＲ４の範囲にソイル化用溶液を噴射可能である（図３参照）。
【００１５】
図３に示すように、かかる噴射口２１は、概略対角線上の対向する位置に設けられているので、効率よく原地盤とソイル化用溶液を混合できる。また、チェーン３０の昇降によって、連結部２８と噴射口２１とが一緒に昇降されるので、原地盤をソイル化しつつ徐々に所定の深さまで縦孔を設けることができる。
【００１６】
さらに、一対の多軸揺動軸２７、２７は夫々筒状の保持部２５に摺動自在に保持されているとともに、一対の保持部２５、２５は連結部２６によって連結、補強されている。
【００１７】
また図２を参照するに、振動遮断部材５は、振動遮断部材５の長手方向を支持する円柱状の第１支持部材８２と、この第１支持部材８２に連結され、振動遮断部材５の底部を支持する第２支持部材８１とによって多軸揺動噴射装置２００の連結部２６に取り付けられている。詳細には、第１支持部材８２の上端に設けられ、第１支持部材８１よりも細径の係合部８２ａは、多軸揺動噴射装置２００の連結部２６に昇降自在に取り付けられた取付け部２４に挿通された昇降部材８３の一端に取り付けられたチャック２９に固定されている。また、かかる係合部８２ａには、後述する浮上防止金具１０も取り付けられる。
【００１８】
また、図４（ａ）に示すごとく、支持部材８１、８２は概略Ｔ字形状に形成され、第１支持部材８２と第２支持部材８１の接合部分には、補強部材８１ｂが設けられている。更に、第２支持部材８１の両端の折り曲げ部８１ａには、後述する下部引っ掛け棒９０を挿通させるための貫通孔８１ｃが設けられている。
【００１９】
振動遮断部材５は、チェーン３０及び図示しない油圧装置などから構成される昇降手段によって、多軸揺動噴射装置２００の多軸揺動軸２７の昇降とは独立して昇降させることも可能であるし、多軸揺動噴射軸２７と並行に同一の移動量で昇降させることも可能である。かかる構造のため、多軸揺動噴射装置２００を下降させる過程において、多軸揺動噴射軸２７の噴射口２１からソイル化用溶液を高圧噴射して原地盤をソイル化させつつ、このソイル化部Ｓに支持部材８１、８２に支持された振動遮断部材５を挿入することができる。
【００２０】
なお本実施形態では、振動遮断部材５は、可撓性容器の内部にガスが充填されたクッション体を複数連結して形成されている。かかる可撓性の振動遮断部材５が、下部引っ掛け棒９０に巻回されることで、振動遮断部材５が支持部材８１、８２に取り付けられる。
【００２１】
図５は、本発明に係る振動遮断壁を設置する工程を示す説明図である。
【００２２】
図５（ａ）に示す様に、図示しない施工機械を使用して圧入材（鋼矢板）３を所定の箇所に圧入して土留め壁Ｗを形成する。土留め壁Ｗと掘削した原地盤との間に、振動遮断部材５を取り付けた多軸揺動噴射装置２００を使用して、第１のソイル化部Ｓ１を形成する（図５（ｂ））。なお、図５（ｂ）における点線はソイル化される領域を示す。なお、本実施形態では、圧入材として鋼矢板を用いたが、コンクリート板などでもよい。
【００２３】
次いで、ソイル化部Ｓ１に振動遮断部材５を挿入する（図５（ｃ））。
【００２４】
次に、施工機械（図示略）を移動させ、ソイル化を必要な回数だけ行う（図５（ｄ）は、第２のソイル化部Ｓ２を形成している状態を示す。）。
【００２５】
複数の振動遮断部材５を挿入する場合は、各振動遮断部材５の間から振動が伝播することを防止するために、隣り合う振動遮断部材５を互いにオーバーラップするように配置する（図５（ｅ））。なお、オーバーラップ部Ｏの長さＸは適宜調整すればよい。また、図５（ｃ）などに示す様に、振動遮断部材５は土留め壁Ｗに対して所定の角度だけ傾斜した状態で挿入される。
【００２６】
次に、挿入された振動遮断部材５を支持する第1支持部材８２の係合部８２ａに浮上防止金具１０を取り付ける（図５（ｅ））。なお図４（ｂ）に示す様に、浮上防止金具１０は、支持部材８２の連結部８２ａに図示しないネジなどによって適宜固定されるとともに、振動遮断部材５の上部を押える一対のアーム１０Ａを有している。このアーム１０Ａが、振動遮断部材５の上部端面に当接するとともに、図１に示す様にアーム１０Ａの端部が土留め壁Ｗに溶接部１００で溶接されることで、振動遮断部材５が浮力によって浮上することが防止される。すなわち、浮上防止金具１０及びアーム１０Ａが、第３支持部材として機能する。
【００２７】
なお、浮上防止金具１０を土留め壁Ｗに固定する方法としては、一対のアーム１０Ａを浮上防止金具１０に対して回動自在に設けておき、さらにかかるアーム１０Ａの先端に係合部を設け、この係合部と脱着自在な被係合部を土留め壁Ｗに設けるという構成でもよい。さらに、ソイル化部Ｓが硬化するまでの間、一対のアーム１０Ａ、１０Ａの回動を防止する連結部を設け、かかる連結部をピンなどで各アーム１０Ａに固定したり、上記係合部と被係合部とをピン等で連結すればより確実に振動遮断部材５の浮き上がりを防止できる。
【００２８】
支持部材８１、８２は、従来構造における錘の役割を果たすものではない。そのため、本発明では防止金具１０、１０Ａを用いて、振動遮断部材５の浮上を防止している。換言すれば、支持部材８１、８２が錘としてほとんど機能しないということは、支持部材８１、８２が従来構造におけるコンクリート製の錘に比べて軽量であることを意味する。このため、比較的軽量な上記支持部材８１、８２を使用した方が作業性がよい。
【００２９】
最後に、ソイル化部Ｓ（Ｓ１、Ｓ２）が硬化して連続壁Ｃが形成されると、浮上防止金具１０、及びアーム１０Ａを取り外して施工完了となる（図５（ｆ））。
【００３０】
図６は、施工完了後の状態を示す斜視図である。図６から理解されるように、ソイル化していた土壌が硬化して連続壁Ｃが形成され、連続壁Ｃの中に振動遮断部材５が埋設されている。
【００３１】
なお、圧入材３から成る土留め壁Ｗは、上述の施工機械の自重を支える役割のほか、周辺地盤の変形を防止する役割を有しており、かかる機能によって本発明に係る振動遮断壁は、高い安全性も具備している。なお、本発明では、ソイル化を行うためのソイル化用溶液にセメントなどを添加することで硬化性を付与しているが、必ずしも硬化性を付与する必要がなければ、単純に水を高圧で噴射してもよい。すなわち、原地盤の組成に応じてソイル化用溶液の組成を決定すればよい。
【００３２】
また、上記実施形態では、振動遮断壁を狭隘地に設置する場合を述べたが、本発明にかかる構造は狭隘地に限られることはなく、一般地においても同様の安全性と、振動遮断性能を備えた振動遮断壁を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【００３３】
一般地に加えて、大型施工機械を搬入することが困難な高架下などの狭隘地においても、安全性を確保しつつ、高い強度と振動遮断性能を有する遮断壁を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【００３４】
【図１】本発明に係る振動遮断壁を設置しているところを示す説明図である。
【図２】振動遮断部材が取り付けられた多軸揺動噴射装置の正面図である。
【図３】図２に示す多軸揺動噴射装置の部分拡大図である。
【図４】（ａ）は本発明に係る振動遮断部材の支持部材を示す斜視図であり、（ｂ）は浮上防止金具を示す斜視図である。
【図５】本発明に係る振動遮断壁の設置方法を示す模式図である。
【図６】施工終了後の振動遮断壁を示す斜視図である。
【符号の説明】
【００３５】
３ 圧入材
５ 振動遮断部材
１０ 浮上防止金具
１０Ａ アーム
８１ 第２支持部材
８１ａ 折り曲げ部
８１ｃ 貫通孔
８２ 第１支持部材
８２ａ 係合部
９０ 下部引っ掛け棒
１００ 溶接部
２００ 多軸揺動噴射装置
Ｓ ソイル化部
Ｃ 連続壁
Ｔ 布堀部
Ｗ 土留め壁
【特許請求の範囲】
【請求項１】
振動遮断壁の構造であって、
掘削された原地盤に圧入された圧入材によって形成された土留め壁と、
前記掘削された原地盤と、前記土留め壁との間に形成されたソイル化部と、
前記ソイル化部に挿入された振動遮断部材と、
前記振動遮断部材の長手方向に沿って取り付けられた第１支持部材と、
前記第１支持部材に対して垂直な方向に設けられるとともに、前記振動遮断部材の挿入側先端に設けられた第２支持部材と、
前記第１支持部材の挿入方向とは反対の端部に設けられ、前記挿入された振動遮断部材が浮上するのを防止する第３支持部材と、から構成され、
前記ソイル化部は所定の時間が経過した後に硬化する硬化性材料から構成され、前記ソイル化部が硬化後に連続壁を形成し、
前記第３支持部材は少なくとも前記連続壁が形成されるまで前記土留め壁と前記第１支持部材とを連結することを特徴とするもの。
【請求項２】
請求項１記載の振動遮断壁の構造であって、前記振動遮断部材は、内部にガスが充填された中空の部材から形成されることを特徴とするもの。
【請求項３】
請求項１記載の振動遮断壁の構造であって、前記第１支持部材と前記第２支持部材とが、概略Ｔ字形状に形成されたことを特徴とするもの。
【請求項４】
請求項１記載の振動遮断壁で構造であって、前記土留め壁は複数の圧入材を圧入して形成されていることを特徴とするもの。
【請求項５】
請求項１記載の振動遮断壁の構造であって、前記振動遮断部材は、前記土留め壁に対して所望の角度だけ傾斜して設置されることを特徴とするもの。
【請求項６】
請求項５記載の振動遮断壁の構造であって、前記振動遮断部材は少なくとも二つの振動遮断部材から構成され、隣り合う前記振動遮断部材の少なくとも一部が互いに重なるように配置されていることを特徴とするもの。
【請求項７】
請求項１記載の振動遮断壁の構造であって、前記第１支持部材の端部には、当該第１支持部材よりも細径の係合部が設けられ、前記第３支持部材は前記係合部に嵌合することを特徴とするもの。
【請求項８】
請求項１記載の振動遮断壁の構造であって、前記圧入材は鋼矢板から構成されることを特徴とするもの。
【請求項１】
振動遮断壁の構造であって、
掘削された原地盤に圧入された圧入材によって形成された土留め壁と、
前記掘削された原地盤と、前記土留め壁との間に形成されたソイル化部と、
前記ソイル化部に挿入された振動遮断部材と、
前記振動遮断部材の長手方向に沿って取り付けられた第１支持部材と、
前記第１支持部材に対して垂直な方向に設けられるとともに、前記振動遮断部材の挿入側先端に設けられた第２支持部材と、
前記第１支持部材の挿入方向とは反対の端部に設けられ、前記挿入された振動遮断部材が浮上するのを防止する第３支持部材と、から構成され、
前記ソイル化部は所定の時間が経過した後に硬化する硬化性材料から構成され、前記ソイル化部が硬化後に連続壁を形成し、
前記第３支持部材は少なくとも前記連続壁が形成されるまで前記土留め壁と前記第１支持部材とを連結することを特徴とするもの。
【請求項２】
請求項１記載の振動遮断壁の構造であって、前記振動遮断部材は、内部にガスが充填された中空の部材から形成されることを特徴とするもの。
【請求項３】
請求項１記載の振動遮断壁の構造であって、前記第１支持部材と前記第２支持部材とが、概略Ｔ字形状に形成されたことを特徴とするもの。
【請求項４】
請求項１記載の振動遮断壁で構造であって、前記土留め壁は複数の圧入材を圧入して形成されていることを特徴とするもの。
【請求項５】
請求項１記載の振動遮断壁の構造であって、前記振動遮断部材は、前記土留め壁に対して所望の角度だけ傾斜して設置されることを特徴とするもの。
【請求項６】
請求項５記載の振動遮断壁の構造であって、前記振動遮断部材は少なくとも二つの振動遮断部材から構成され、隣り合う前記振動遮断部材の少なくとも一部が互いに重なるように配置されていることを特徴とするもの。
【請求項７】
請求項１記載の振動遮断壁の構造であって、前記第１支持部材の端部には、当該第１支持部材よりも細径の係合部が設けられ、前記第３支持部材は前記係合部に嵌合することを特徴とするもの。
【請求項８】
請求項１記載の振動遮断壁の構造であって、前記圧入材は鋼矢板から構成されることを特徴とするもの。
【図１】
【図２】
【図３】
【図４】
【図５】
【図６】
【図２】
【図３】
【図４】
【図５】
【図６】
【公開番号】特開２００６−２８８３２（Ｐ２００６−２８８３２Ａ）
【公開日】平成１８年２月２日（２００６．２．２）
【国際特許分類】
【出願番号】特願２００４−２０７５２７（Ｐ２００４−２０７５２７）
【出願日】平成１６年７月１４日（２００４．７．１４）
【出願人】（３９００２１５７７）東海旅客鉄道株式会社 (413)
【出願人】（０００２３６６１０）不動建設株式会社 (136)
【Ｆターム（参考）】
【公開日】平成１８年２月２日（２００６．２．２）
【国際特許分類】
【出願日】平成１６年７月１４日（２００４．７．１４）
【出願人】（３９００２１５７７）東海旅客鉄道株式会社 (413)
【出願人】（０００２３６６１０）不動建設株式会社 (136)
【Ｆターム（参考）】
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