説明

排ガスフィルター及びこれを用いた排ガス処理システム

【課題】導入する排ガスの圧力損失を抑え、排出ガスの浄化性能を向上させる排ガスフィルター及びこれを用いた排ガス処理システムを提供する。
【解決手段】本発明は、排ガスを処理する排ガスフィルターであって、筒状に形成され、ガス透過性を有する固体電解質と、固体電解質の内周面に形成され、排ガス中の微粒子状物質が堆積されるガス透過性を有するアノードと、固体電解質の外周面に形成されたガス透過性を有するカソードと、を備え、固体電解質の軸方向の一端部が排ガス導入用に開放されるとともに、他端部が閉鎖されており、アノードの表面には、軸方向に延びる複数の溝が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼルエンジンなどに用いられる排ガス浄化フィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジン等の内燃機関の排ガス中には、微粒子物質(PM)、窒素酸化物(NO)といった大気汚染物質が含まれており、これら排ガスを浄化する為の排気ガス浄化装置について多様な研究がなされている。一例としてPM粒子を捕集するDPF(ディーゼル・パティキュレート・フィルター)やNOを浄化するNO浄化触媒を搭載した排気ガス浄化装置が使用されている。このNO浄化触媒としては、三元触媒、NO吸蔵還元型触媒、尿素を添加したSCR触媒(選択的接触触媒)、NO直接還元型触媒等がある。
【0003】
これらのディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置では、DPFやNO浄化触媒の上流側に酸化触媒を配置している。そして、排気ガスの温度が低い場合に、ポスト直射や排気管噴射によって、HC等の還元剤を排気ガス中に供給している。このように、還元剤を酸化触媒で酸化することにより、酸化触媒および酸化触媒の下流側の排気ガスを昇温している。そして、酸化触媒を活性温度以上に保ちながら、下流側のDPFのPM燃焼を促進したり、更に下流側のNO浄化触媒を活性温度以上に保つことが行われている。
【0004】
従来のディーゼルエンジンにおける排気ガスの浄化は、PM粒子を捕集するDPF、NOを浄化するNO浄化触媒を搭載した排気ガス浄化装置といった複数の装置により浄化処理が行われている。また、PM粒子の浄化方法に関しては、フィルターに堆積したPM粒子をいかに除去して再生させるかが課題とされており、これに対して連続再生式DPFでは、排出ガス中のNOをNOに酸化させ、このNOによってフィルターに堆積したPM粒子を酸化させている。しかし、排出ガス温度が250℃に達しない場合は、PM粒子の酸化が起こらないため、別途NOの浄化装置が必要になってくる。
【0005】
このほか、PM粒子を処理する方法として、DPNR(ディーゼル・パティキュレート・NO・リダクションシステム)が提案されている。このDPNRは、多孔質セラミックフィルターにNO還元触媒を担持させ、NO吸蔵時に生成する酸素ラジカルによりPM粒子を酸化させ、定期的かつ瞬間的に燃料噴射量を増加させ、その際に排出されるCO,HCにより吸着させたNOを還元する方法である。しかし、この方法は正確な燃料噴射制御が求められ、耐久性悪化・コスト高・燃費悪化の問題点を有している。
【0006】
これに対して、特許文献1には、排出ガスの複数工程化や、排出ガス温度の低温化といった課題を解決する浄化装置が提案されている。この浄化装置では、酸素イオン導電性を有する固体電解質の両面それぞれに、同じく酸素イオン導電性を有する電極材と浄化触媒とを混合させた電極を配置している。そして、両電極間に電圧を印加させることで、カソード側に捕捉したNOをNへ還元し、この化学反応で生じた酸素イオンをカソード側からアノード側へ供給している。これにより、固体電解質のアノード側に存在するPM粒子を酸化させることができるため、1工程でPM粒子とNOの低減が可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−200520
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上記特許文献1には、処理能力を増大させるため、有底の筒型に形成した浄化装置を複数個設けた浄化構造体が開示されている。この構造体においては、浄化装置の一端部の開口から導入した排ガスを、その壁面を通過させることで浄化している(例えば、特許文献1の図14)。しかしながら、この態様にすると、筒の開口径によっては、圧力損失が増大するおそれがあり、浄化性能が低下するという問題が生じ得る。
【0009】
本発明は上記問題を解決するためになされたものであり、導入する排ガスの圧力損失を抑え、排出ガスの浄化性能を向上させる排ガスフィルター及びこれを用いた排ガス処理システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、排ガスを処理する排ガスフィルターであって、筒状に形成され、ガス透過性を有する固体電解質と、前記固体電解質の内周面に形成され、排ガス中の微粒子状物質が堆積されるガス透過性を有するアノードと、前記固体電解質の外周面に形成されたガス透過性を有するカソードと、を備え、前記固体電解質の軸方向の一端部が排ガス導入用に開放されるとともに、他端部が閉鎖されており、前記アノードの表面には、軸方向に延びる複数の溝が形成されている。
【0011】
この構成によれば、PM粒子を含む排ガスを固体電解質の一端部から内部空間に導入すると、PM粒子を固体電解質の内壁面に形成されたアノードに捕集することができる。そして、PM粒子が捕集された後の排ガスは、固体電解質、カソードを通過し、外部へ排出されるため、排ガスを浄化することができる。また、アノードとカソードとの間に電圧を印加すると、固体電解質を介して、酸素イオンをカソード側からアノード側へ供給することができる。これにより、アノード側に堆積したPM粒子を酸化させて炭素酸化物とすることができる。したがって、捕集されたPM粒子を分解することができる。
【0012】
また、固体電解質の他端部を閉鎖するとともに、アノードの表面に、軸方向に延びる複数の溝が形成されているため、排ガス導入の流れを一軸方向に固定することができる。したがって、排ガス導入時の慣性力を向上させることができ、導入される排ガスの圧力損失を抑制することができる。通常、圧力損失が高くなると、フィルターでフィルタリングされるもしくは通過する排ガス成分PMおよびNOxが電極上に吸着され難い為に、反応効率が落ちて浄化性能が落ちる。本発明は、排ガス導入の流れを一軸方向に固定することで、排ガス導入時の慣性力を向上させることができ、導入される排ガスの圧力損失を抑制するにより浄化性能が低下するのを防止することができる。また、アノードの表面に溝が形成されているため、アノードの表面積を増大させることができる。そのため、排ガスとの反応場を増大させることができ、高い浄化率を得ることができる。なお、溝は、排ガスフィルターの一端部から他端部まで連続して延びていることが好ましい。
【0013】
なお、上記排ガスフィルターにおいては、固体電解質の外周面を平坦にし、アノードの表面にのみ溝を形成することもできるが、次のようにすることもできる。すなわち、固体電解質の内周面に、軸方向に延びる複数の溝を形成し、アノードを、固体電解質の内周面に沿って形成することで、アノードの表面に軸方向に延びる複数の溝を形成することができる。この構成により、アノード及び固体電解質の表面積を増大させることができ、浄化率をさらに向上することができる。
【0014】
また、カソードの表面に溝を形成することもできる。この場合、固体電解質の内周面を平坦にし、カソードの表面にのみ溝を形成することもできるが、アノードと同様に、固体電解質の外周面に、軸方向に延びる複数の溝を形成し、カソードを、固体電解質の内周面に沿って形成することで、カソードの表面に軸方向に延びる複数の溝を形成することができる。この構成により、カソード及び固体電解質の表面積を増大させることができ、浄化率をさらに向上することができる。
【0015】
また、アノード及びカソードには、酸化触媒として銀を用いることができる。このようにすると、銀が酸素吸着能を有するため、アノードにおいてはPM粒子を酸化させることができる。したがって、アノードにはPM粒子を酸化分解する活性点が多数存在するため、PM粒子の酸化に酸素イオンを効率よく用いることができる。その結果、高い排出ガス浄化率を得ることができる。
【0016】
また、上記カソードには、NO吸蔵剤であるバリウムを担持させることができる。これにより、カソードでNOを捕集することができる。
【0017】
また、本発明に係る排ガス処理システムは、上述した複数の排ガスフィルターと、前記複数の排ガスフィルターの一端部側を支持する支持部材と、前記複数の排ガスフィルターのアノード同士を接続する第1の集電部材と、前記複数の排ガスフィルターのカソード同士を接続する第2の集電部材と、を備えている。
【0018】
この構成によれば、複数の排ガスフィルターが配置されているため、多量の排ガスを処理することができる。また、各排ガスフィルターのアノード同士、及びカソード同士が第1及び第2の集電部材で電気的に接続されているため、第1及び第2の集電部材間に電圧を印加すると、すべての排ガスフィルターで堆積したPM粒子を同時に分解することができる。なお、集電部材は、アノード、カソードを電気的に接続できるのであれば、その形態は特には限定されず、導線、メッシュなどで構成できるほか、支持部材を集電部材とすることもできる。
【0019】
また、上記排ガス処理システムにおいては、複数の排ガスフィルターにおけるカソードの表面に、軸方向に延びる溝を形成し、複数の排ガスフィルターの少なくとも一部を近接して配置することができる。これにより、近接する前記カソードの溝同士でガスの流路が形成される。その結果、排ガスフィルターの外側においては、一軸方向のガスの流れを促進することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、導入する排ガスの圧力損失を抑え、排出ガスの浄化性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本実施形態に係る排ガスフィルターの正面図である。
【図2】図1のA−A線断面図である。
【図3】図1の排ガスフィルターを用いた排ガス処理システムの側面図である。
【図4】図3のB−B線矢視図である。
【図5】図3の一部拡大断面図である。
【図6】図3の他の例を示す一部拡大断面図である。
【図7】比較例の断面図である。
【図8】ムーディ線図である。
【図9】図4の他の例を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る排ガスフィルターの一実施形態について、図面を参照しながら説明する。図1は本実施形態に係る排ガスフィルターの正面図、図2は図1のA−A線断面図である。
【0023】
図1及び図2に示すように、この排ガスフィルターは、扁平状の断面を有する筒状に形成されており、軸方向の一端部が開放されるとともに、他端部が閉鎖されている。そして、開放された端部からフィルター内部に、処理対象となる排ガスが導入される。この排ガスは、例えば、ディーゼル自動車から排出される排ガスなどであり、PM粒子が含有されているものを対象とすることができる。
【0024】
図2に示すように、この排ガスフィルターは、筒状の固体電解質1の内壁面にアノード2が形成されるとともに、外面にカソード3が形成されることで、構成されている。固体電解質1、アノード2、及びカソード3は、いずれもガス透過性のある多孔質材料によって形成されているため、上述したように、固体電解質1の内部空間に排ガスを導入すると、排ガスは、アノード2、固体電解質1、及びカソード3を順に通過して外部へ排出される。
【0025】
固体電解質1の内壁面及び外面には、軸方向に延びる複数の溝11が形成されており、これらの溝11は周方向に平行に配置されている。また、これらの溝11は、固体電解質1の一端部から他端部まで連続して延びている。そして、アノード2及びカソード3は、溝11が形成された固体電解質1の表面に沿って形成されているため、アノード2及びカソード3の表面にも同様の溝21,31が形成されている。また、固体電解質1に形成される溝11は、溝11の深度を10μm以上4mm以下とするのがよく、好ましくは20μm以上で3mm以下である。溝11の断面形状は、特には限定されないが、図2に示す断面三角形状のほか、例えば、波型、凹型などの形状にすることができる。このような溝は、押し出し成型により加工することができる。
【0026】
続いて、固体電解質1、アノード2、及びカソード3を構成する材料について説明する。固体電解質1としては、従来より知られているイットリウム安定化ジルコニア(ジルコニア系電解質YSZ)、セリア系酸化物(GDC,SDC)、がある。ジルコニア系電解質の場合、350℃以上の高い排気温度下では十分な酸素イオン供給が可能になる、一方、250〜350℃の低温下では、後述するPM粒子の酸化反応を促進させるために、固体電解質1の形状、厚さを調整することで、イオン導電性を向上させることができる。例えば、固体電解質1はその厚さが200μm以上で4mm以下とするのがよく、好ましくは500μm以上で3mmである。固体電解質1の厚さが厚すぎると、導入した排ガスの圧力損失が大きくなるおそれがある。多孔質である固体電解質1における孔の平均孔径は0.5μm以上100μm以下とするのが良く、好ましくは1μm以上30μmである。また、気孔率は10%以上80%以下とするのがよく、好ましくは40%以上60%以下である。これらの値が小さくなると導入される圧力損失が大きくなり、値が大きすぎると単位面積あたりのイオン導電率が小さくなるおそれがある。
【0027】
アノード2及びカソード3は、銀粒子に固体電解質材料を混合し、これを焼成することにより形成される。この際、銀粒子の粒径および固体電解質粒子を0.01μm以上10μm以下とするのが好ましく、例えば1μmの銀粒子と0.1μmの固体電解質粒子を混合することができる。また銀と固体電解質材料の混合比率は、固体電解質材料を全体の60vol%以下とするのが好ましく、より好ましくは固体電解質材料を全体において20vol%以上40vol%以下である。
【0028】
また、カソード3には、NO吸蔵剤を含ませることができる。すなわち、アルカリ土類金属またはアルカリ金属などを含有させることができ、具体的にはカルシウム,ストロンチウム,バリウム,ラジウム,リチウム,ナトリウム,カリウム,ルビジウム,セシウム,フランシウムとすることができる。このうち、安定性等の性質やコスト面で好ましいのは、カルシウム,ストロンチウム,バリウム,カリウムである。
【0029】
アノード2は、厚さが1μm以上1mm以下とするのがよく、好ましくは10μm以上50μm以下である。この厚さが厚すぎると排ガスの圧力損失が大きくなる恐れがある。また、多孔質であるアノード2における孔の平均孔径は0.5μm以上100μm以下とするのがよく、好ましくは1μm以上10μm以下である。気孔率は10%以上80%以下とするのがよく、好ましくは40%以上60%以下である。これらの値が小さくなると導入される排ガスの圧力損失が大きくなるおそれがある。また、アノード2は固体電解質1に形成された溝に沿って形成されており、アノード2における溝21は、溝の深度を10μm以上4mm以下とするのがよく、好ましくは20μm以上3mm以下である。
【0030】
カソード3は、厚さが1μm以上1mm以下とするのがよく、好ましくは10μm以上50μm以下である。この厚さが厚すぎると排ガスの圧力損失が大きくなる恐れがある。また、多孔質であるカソード3における孔の平均孔径は0.5μm以上100μm以下とするのがよく、好ましくは1μm以上10μm以下である。気孔率は10%以上80%以下とするのがよく、好ましくは40%以上60%以下である。これらの値が小さくなると導入される排ガスの圧力損失が大きくなるおそれがある。また、カソード3は固体電解質1に形成された溝に沿って形成されており、カソード3における溝31は、溝の深度を10μm以上4mm以下とするのがよく、好ましくは20μm以上3mm以下である。
【0031】
次に、上記のように構成された排ガスフィルターの動作について説明する。まず、開放された端部からフィルター内部に、処理対象となる排ガスを導入する。アノード2、固体電解質1、及びカソード3はガス透過性であるため、排ガスは、これらを順に通過して外部へ排出される。この過程において、排ガス中に含まれるPM粒子は、アノード2の表面に捕捉されるため、排ガスは、PM粒子が除去された状態でカソード3側へ排出される。そして、カソード3にはNO吸蔵剤が担持されているため、排ガス中に含まれるNOが捕捉される。こうして、排ガスフィルターを通過した排ガスからはPM粒子及びNOが除去されるため、排ガスを浄化することができる。
【0032】
こうして、排ガスの処理が行われている際には、アノード2側にPM粒子が堆積し、カソード3の表面ではカソード3に担持させたNОx吸蔵剤のバリウムによりNOが吸着される。ここで、アノード2とカソード3との間に電圧を印加することにより、カソード3側に捕捉したNOをNへ還元することができるとともに、この化学反応で生じた酸素イオンをカソード3側からアノード2側へ供給することができる。その結果、固体電解質のアノード2側に存在するPM粒子を酸化して分解することができる。こうして、アノード2に堆積したPM粒子及びカソード3に吸蔵されたNOを除去することができるため、長期間に亘る排ガスフィルターの使用が可能になる。
【0033】
以上のように、本実施形態によれば、固体電解質1の他端部を閉鎖するとともに、アノード2の表面に、軸方向に延びる複数の溝が形成されているため、排ガス導入の流れを一軸方向に固定することができる。したがって、排ガス導入時の慣性力を向上させることができ、導入される排ガスの圧力損失を抑制することができる。その結果、浄化性能が低下するのを防止することができる。また、固体電解質1、アノード2、及びカソード3の表面に溝が形成されているため、これらの表面積を増大させることができる。そのため、排ガスとの反応場を増大させることができ、高い浄化率を得ることができる。
【0034】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。例えば、上記実施形態で用いた排ガスフィルターを複数用い、図3及び図4に示すような排ガス処理システムを構築することができる。図3はこの排ガス処理システムの側面図であり、図4は図3のB−B線矢視図である。
【0035】
図3及び図4に示すように、このシステムは、複数の排ガスフィルターFを所定間隔をおいて平行に延びるように配置する。そして、各排ガスフィルターの端部を板状の支持部材4によって支持する。この場合、排ガスフィルターFの外周面に形成された溝は、このフィルターの一端から他端へ軸方向に延びている。支持部材4には、排ガスフィルターFを挿入可能な複数の貫通孔41が形成されており、各貫通孔41には、排ガスフィルターFの開口が形成されている側の端部が固定されている。また、各排ガスフィルターFのアノード2同士が電気的に接続されるとともに、カソード3同士も電気的に接続されている。
【0036】
電気的な接続の方法は特には限定されないが、例えば、図5に示すように、支持部材4の貫通孔41に筒状の突部42を取り付け、この突部42が各排ガスフィルターFのアノード2に接触するように、フィルター内に挿入する。そして、支持部材4及び突部42を導電性材料で形成すれば、各排ガスフィルターFのアノード2は電気的に接続される。また、カソード3は外部に露出しているため、例えば、導線5で接続することができる。この導線5は、直接カソード3に取り付けることもできるが、図5に示すように、導電性のメッシュ51を介してカソード3に接続することもできる。このようなシステムにおいては、図3において、支持部材4の左側から排ガスを供給すると、排ガスは支持部材4の貫通孔41を介して各排ガスフィルターF内に導入される。その後、PM粒子及びNOが除去された排ガスが各排ガスフィルターの外面から排出される。また、導線と支持部材との間に電圧を印加すると、上述したように、排ガスフィルターの表面に堆積したPM粒子及びNOが分解される。なお、ここでは、上記支持部材4及び突部42が本発明の第1の集電部材を構成し、上記導線5及びメッシュ51が本発明の第2の集電部材を構成する。
【0037】
また、図5の例では、フィルターの内部に突部を取り付けることで、フィルターを支持部材に固定しているが、フィルターの外周面を支持部材に固定することもできる。例えば、図6に示すように、支持部材4の貫通孔41にフィルターを差し込み、貫通孔41とフィルターの外周面とが接触するように固定する。支持部材4は導電性材料で形成されているため、各フィルターのカソード3同士が電気的に接続されることになる。一方、各フィルターの内壁面、つまり、アノード1には、導線5が接続されており、貫通孔41から外部に引き出されている。この導線5は、直接アノード1に取り付けることもできるが、図6に示すように、導電性のメッシュ51を介してアノード1に接続することもできる。図示を省略するが、各導線5は接続されており、これによって各アノード1が電気的に接続される。そして、導線5と支持部材4との間に電圧を印加すると、上述したように、排ガスフィルターの表面に堆積したPM粒子及びNOが分解される。なお、ここでは、上記導線5及びメッシュ51が本発明の第1の集電部材を構成し、上記支持部材4が本発明の第2の集電部材を構成する。また、上述したメッシュ51を用いる場合、集電効率の観点から、筒状のアノード1、カソード3のできるだけ広い面積に配置されることが好ましい。
【0038】
また、図9に示すように、各排ガスフィルターを支持部材4上で近接させることができる。このようにすると、排ガスフィルターFの外周面に形成された溝31の先端が、隣接する排ガスフィルターの溝31の先端と近接されるため、隣接する溝の間に流路Gが形成される。これが、電解質1を通過してカソード3へ流出してきた浄化ガスの流路となり、ガスの一軸方向への流れを促進する役割を果たす。このような流路Gを形成するには、例えば、隣接する排ガスフィルターF間の距離Lを2.2〜3.0mmとすることが好ましい。
【実施例】
【0039】
以下、本発明に係る実施例について説明する。但し、本発明はこれら実施例に限定されない。
【0040】
実施例として、図6に記載のような排ガスフィルターを準備した。図6に記載のスタックは、支持部材4が27cm×27cm、排ガスフィルターの断面は扁平楕円状であり排ガスフィルター内の長径が67.8mm,短径が37.8mmとなっており、軸方向の長さは、100mmである。また、固体電解質1の内壁面及び外面の上下には、底辺6mm、高さ1.5mmの三角柱状の隆起部を8個ずつ隣接するように形成し、これによって各隆起部の間が溝を構成するようにした。そして、固体電解質1の溝11の表面を被覆するように、アノード2及びカソード3が形成されている。固体電解質1としてはセリア系固体電解質を用いた。また、アノード2及びカソード3として、銀と固体電解質の混合体を用いた。アノード2及びカソード3の厚みは50μm、平均孔径は3μm、気孔率は30%である。固体電解質1は厚みが500μmであり、平均孔径が5μm、気孔率が40%である。また、カソード3にはNO吸蔵剤としてバリウムを担持させた。より詳細には、カソード3の体積を100%としてバリウムを36vol%担持させた。
【0041】
アノード2及びカソード3の被覆後の高さは、固体電解質1の三角柱の底面から1.05mmである。ここで、溝が形成されていない排ガスフィルターも準備し、これを比較例とした。比較例は、図7に示すように、三角柱が配置されていない形態である。そして、実施例及び比較例の表面積を測定したところ、比較例のアノードの表面積は162.124cm、カソードの表面積は307.421cm2であった。一方、実施例のアノードの表面積は173.4552 cm2、カソードの表面積は318.7522 cm2であった。したがって、実施例は、比較例に対してアノードの表面積に関しては 107%、カソードの表面積に関しては 104%の表面積が増加している。
【0042】
上記のような排ガスフィルターを用い、燃焼機から排出された排出ガスを浄化する試験を行った。この試験では、排出ガスに含有されるPM粒子の減少率(浄化率)と浄化時間について検証を行った。固体電解質の温度を350℃とし、固体電解質へ流す電流値を0.3Aとし、排ガスフィルター内への排ガス導入流量を1l/minとした。また、排ガス中に含まれるPM粒子の排出濃度を75mg/m3とした。これにより、30分間で排ガスフィルターに供給されるPM粒子の量は2.25gとなる。
【0043】
この条件による浄化試験を行った結果、比較例では、浄化開始から2時間経過後で70%のPM粒子分解率を得た。さらに3時間後では75%の分解率を確認した。一方、実施例では浄化開始から4時間経過後で84%の高いPM粒子分解率を得た。さらに7時間後では90%の分解率を確認した。また、排ガス中に含まれるNOの浄化率についても実験を行った。排ガスフィルターへの排ガス導入流量を1l/minとし、NOの濃度を450ppmとした。排ガスフィルターへ流す電流値を0.1Aから0.3Aまで増大させ、浄化開始1時間後におけるNOの減少率を測定したところ、0.1A時で比較例では67%の分解率を確認した。一方、実施例では80%の分解率を確認した。
【0044】
続いて、供給される排ガスの圧力損失を検討した。ここでは、上記実施例及び比較例を用いて溝の有無による効果を確認した。圧力損失値についてFanningの式から配管圧力損失を算出比較すると、以下のようになる。
【0045】
ΔP=λ・L/D・γV/2 …(1)
但し、ΔP:圧力損失, λ:管摩擦係数, L:配管長, D:管内径,γ:管内ガス密度, V:管内流速である。
【0046】
ここで、比較例の排ガスフィルター内に作用する慣性力は、以下のようになる。
【0047】
IZ=1/4( 67.82+ 37.82)M …(2)
一方、実施例の排ガス浄化装置内に作用する慣性力は、以下のようになる。
【0048】
IZ=1/4( 67.82+ 37.82)M+( 67.82/24+ 37.82/18) M …(3)
Mは、排ガスフィルターの質量である。上記式(1)の管摩擦係数λは、流れが層流の場合には、ハーゲン・ポアズイユ(Hagen Poiseulli Law)の法則に従い、次式で与えられる。λは実験結果ともよく一致する。
【0049】
【数1】

【0050】
ここで、Re=V・d/ν:円管の場合のレイノルズ数である。
【0051】
乱流の場合には、λは一般にレイノルズ数Reと管壁の相対粗さ(relative roughness)ε/dの関数となり、これまで種々の実験公式が示されている。管壁が滑らかな円管の場合には、λはReのみの関数となり、次式のプラントル・カルマン公式は高いレイノルズ数の範囲まで実験値とよく一致することが知られている。
【0052】
【数2】

【0053】
また、Reが高い領域や、ε/dが大きい領域ではλはε/dのみの関数となり、実験値と合うように補正を加えることにより次式が得られている。
【0054】
【数3】

【0055】
各種材質の円管の管摩擦係数λは次のコールブルック(Colebrook)の式によってよい近似が得られる。
【0056】
【数4】

【0057】
このコールブルックの式を用いてムーディ(Moody)によって作成されたのが、ムーディ線図(Moody diagram)である。図8に、現在用いられているムーディ線図の例を示す。このほか、Re≦105の場合の滑らかな円管の管摩擦係数を与えるブラジウス(Blasius)の式がよく知られている。
【0058】
【数5】

【0059】
ここで、レイノルズ数Reは、Re=慣性力/粘性力で表されることから、上記(2)(3)式より実施例,比較例の慣性力は各々1506.42M, 1777.335Mとなる。また、排ガスフィルターへ導入されるガス成分は、同一のものであるから粘性力は一定とみなすと、実施例,比較例のレイノルズ数Reの大小関係は、実施例>比較例となる。
【0060】
ここで、導入された排ガスが層流の場合には、管摩擦係数λは式(4)より、
比較例>実施例 …(9)
の大小関係が明示される。また、乱流の場合も同様となる。
【0061】
ここで、比較例の圧力損失を計算すると、以下のようになる。
【0062】
ΔPE=λ・10/9.27・2.25/92.7・1.02/2=0.013λ …(10)
一方、実施例の圧力損失PE値は相関式(9)より、式(10)の0.013λより低減することが証明された。
【0063】
この点から、フィルターの表面に溝を形成することにより、圧力損失を低減させることに有効であることが分かる。
【符号の説明】
【0064】
1 固体電解質
11 溝
2 アノード
21 溝
3 カソード
31 溝
4 支持部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排ガスを処理する排ガスフィルターであって、
筒状に形成され、ガス透過性を有する固体電解質と、
前記固体電解質の内周面に形成され、排ガス中の微粒子状物質が堆積され、ガス透過性を有するアノードと、
前記固体電解質の外周面に形成されたガス透過性を有するカソードと、
を備え、
前記固体電解質の軸方向の一端部が排ガス導入用に開放されるとともに、他端部が閉鎖されており、
前記アノードの表面には、軸方向に延びる複数の溝が形成されている、排ガスフィルター。
【請求項2】
前記固体電解質の内周面には、軸方向に延びる複数の溝が形成されており、
前記アノードが、前記固体電解質の内周面に沿って形成されることで、当該アノードの表面に軸方向に延びる複数の溝が形成されている、請求項1に記載の排ガスフィルター。
【請求項3】
前記固体電解質の外周面には、軸方向に延びる複数の溝が形成されており、
前記カソードが、前記固体電解質の外周面に沿って形成されることで、当該カソードの表面に軸方向に延びる複数の溝が形成されている、請求項2に記載の排ガスフィルター。
【請求項4】
前記アノード及びカソードには、酸化触媒として銀が用いられている、請求項1から3のいずれかに記載の排ガスフィルター。
【請求項5】
前記カソードには、NO吸蔵剤であるバリウムが担持されている、請求項1から4のいずれかに記載の排ガスフィルター。
【請求項6】
複数の、請求項1から5のいずれかに記載の排ガスフィルターと、
前記複数の排ガスフィルターの一端部側を支持する支持部材と、
前記複数の排ガスフィルターのアノード同士を接続する第1の集電部材と、
前記複数の排ガスフィルターのカソード同士を接続する第2の集電部材と、
を備えている、排ガス処理システム。
【請求項7】
前記複数の排ガスフィルターにおけるカソードの表面には、軸方向に延びる溝が形成されており、
前記複数の排ガスフィルターの少なくとも一部は近接して配置され、近接する前記カソードの溝同士でガスの流路が形成される、請求項6に記載の排ガス処理システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−69326(P2011−69326A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−222734(P2009−222734)
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】