説明

排ガス中の窒素酸化物を接触還元するための触媒と方法

【課題】リーン条件下で燃料を燃焼させて生成した窒素酸化物を含有する排ガスを硫黄酸化物と一酸化炭素と水素の存在下に接触させて、広い範囲の温度において、触媒の劣化なしに、燃費の悪化をきたすことなく、高い選択率にてその窒素酸化物を接触還元するための触媒を提供する。
【解決手段】本発明によれば、リーン条件下で燃料を燃焼させて生成した窒素酸化物を含有する排ガスを一酸化炭素と水素の存在下、又は一酸化炭素と水素と硫黄酸化物の存在下に接触させて、その窒素酸化物を接触還元するための触媒であって、水、珪素源、アルミニウム源、ロジウム源、水酸化アルカリ金属及び水酸化アルカリ土類金属から選ばれる少なくとも1種の鉱化剤、アルカリ金属塩からなる塩析効果剤、酸からなる水素イオン濃度調節剤及びテトラエチルアンモニウム源及びテトラプロピルアンモニウム源から選ばれる少なくとも1種の型剤を含有する水性混合物を水熱処理した後、洗浄し、乾燥し、焼成することによって得られる、0.5〜5.0重量%のロジウムを担持したアルカリ金属(及びアルカリ土類金属)−ZSM−5を含む触媒が提供される。また、0.5〜5.0重量%のロジウムを担持したH−ZSM−5を含む触媒も提供される

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒素酸化物(主として、NOとNO2 とからなる。以下、NOx ということがある。)の触媒的還元のための触媒と方法に関する。詳しくは、本発明は、ディーゼルエンジンやガソリンエンジンの燃焼室に燃料を供給して燃焼させ、生成した排ガスを接触させることによって、排ガス中の窒素酸化物を接触還元するための触媒と、上記排ガス中の窒素酸化物をそのような触媒を用いて接触還元するための方法に関する。そのような触媒と方法は、例えば、自動車等の移動発生源のエンジンからの排ガスに含まれる有害な窒素酸化物を低減し、除去するために用いるに適している。
【0002】
特に、本発明は、リーン条件下で燃料を燃焼させ、その燃焼によって生成した排ガス中の窒素酸化物を、一酸化炭素と水素の存在下に、又は一酸化炭素と水素と硫黄酸化物(主として、SO2 とSO3 からなる。以下、SOx ということがある。)の共在下で、接触させることによって、高選択率にて接触還元するための触媒に関する。更に、本発明は、リーン条件下で燃料を燃焼させ、その燃焼によって生成した排ガス中の窒素酸化物を、一酸化炭素と水素の存在下に、又は一酸化炭素と水素と硫黄酸化物の共在下で、触媒に接触させることによって、高選択率にて接触還元するための方法に関する。このような本発明の触媒又は方法によれば、広い範囲の温度において、触媒の劣化と燃費の悪化をもたらすことなく、上記排ガス中の窒素酸化物を高選択率にて接触還元することができる。
【0003】
従来、排ガス中の窒素酸化物は、例えば、これを酸化した後、アルカリに吸収させる方法や、還元剤としてアンモニア若しくは尿素、水素、一酸化炭素又は炭化水素を用いて、窒素に還元する等の方法によって除去されている。しかし、これらの従来の方法には、それぞれ欠点がある。
【0004】
即ち、前者の方法によれば、環境問題を防止するために、生成するアルカリ性の廃水を処理する手段が必要である。後者の方法によれば、例えば、アンモニア又は尿素を還元剤として用いる場合であれば、アンモニア又は尿素が加水分解して生成するアンモニアが排ガス中の硫黄酸化物と反応して塩類を形成し、その結果、低温にて触媒活性が劣化する。また、特に自動車のような移動発生源からの窒素酸化物をアンモニアで処理する場合には、その安全性が問題となり、更に、尿素を用いる場合には、アンモニア源として尿素水を搭載する必要があり、また、尿素水を自動車に供給するためのインフラストラクチャーの整備も必要となる。更に、触媒についても、尿素加水分解触媒、アンモニアを還元剤とする窒素酸化物の選択的還元触媒及びリークアンモニア酸化触媒の3種類の触媒が必要となり、触媒容積量が大きくなるという問題がある。
【0005】
他方、還元剤として、水素、一酸化炭素又は炭化水素を用いる場合であれば、既に知られている三元触媒を用いるとき、上記還元剤は、排ガスが窒素酸化物よりも酸素を高濃度で含むので、その酸素と優先的に反応することとなり、かくして、窒素酸化物を実質的に低減しようとすれば、多量の還元剤を必要とすることとなり、燃費が大きく低下する。
【0006】
そこで、還元剤を用いることなしに、窒素酸化物を接触分解することが提案されている。しかし、窒素酸化物を直接に分解するための従来から知られている触媒は、その低い分解活性の故に、未だ実用化されていない。他方、還元剤として、炭化水素や酸素含有有機化合物を用いる窒素酸化物接触還元触媒として、種々のゼオライトが提案されている。特に、Cu−ZSM−5(銅イオン交換ZSM−5)やH−ZSM−5(水素型又は酸型ZSM−5、SiO2/Al23 モル比=30〜40)が最適であるとされている。しかし、これらの触媒上での窒素酸化物と炭化水素との反応選択性が低いうえに、排ガス中に水分が含まれるとき、水熱条件下でゼオライトの活性サイト(固体酸)がゼオライト構造の脱アルミニウムのために劣化して、触媒性能が速やかに低下することが知られている。
【0007】
このような事情の下、窒素酸化物の接触還元のための一層高活性な触媒の開発が求められており、最近、無機酸化物担体材料に銀又は銀酸化物を担持させてなる触媒が提案されている(例えば、特許文献1及び2参照)。しかし、この触媒は、酸化活性が高く、窒素酸化物に対する選択還元活性が低いので、窒素酸化物の窒素への変換効率が低いことが知られている。しかも、この触媒は、硫黄酸化物の存在下に速やかに活性が低下する問題がある。これらの触媒は、完全なリーン条件下に炭化水素を用いて窒素酸化物をある程度、選択的に還元する触媒作用を有するが、しかし、三元触媒に比べて、窒素酸化物除去率が低く、作動する温度ウインドウ(温度域)が狭いために、このような触媒の実用化を困難にしている。かくして、窒素酸化物接触還元のための一層高活性で有用な触媒が緊急に求められている。
【0008】
一方、ディーゼルエンジン等のリーン燃焼エンジンを備えている自動車は、非常に大きい空気/燃料比率で運転駆動することができるので、燃料を空気により化学量論的に燃焼するオットー型エンジンを備えた自動車よりも燃料消費率を低くすることができる。そのため、温室ガスである炭酸ガスの発生量を低減し、地球温暖化を抑制することが可能なディーゼルエンジン等のリーン燃焼エンジンを備えている自動車の重要性が益々増している。そこで、上述した問題を克服するために、最近、リーン燃焼エンジンにおいて、燃料を周期的に短時間、化学量論量を上回る量にて燃焼室に供給するようにしたNOx 貯蔵−還元システムが最も有望な方法として提案されている(例えば、特許文献3及び4参照)。このようなリーン燃焼エンジンのNOx 貯蔵−還元システムは、1〜2分間隔の周期的な2工程によって窒素酸化物を低減する。
【0009】
即ち、第1の工程においては、(通常の)リーン条件下、白金触媒上でNOはNO2 に酸化され、このNO2 は炭酸カリウムや炭酸バリウムのようなアルカリ化合物からなる吸収剤に硝酸カリウムのような硝酸塩として吸収される。次いで、第2工程のためのリッチ条件が形成され、このリッチ条件が数秒間、持続される。このリッチ条件下、上記吸収(貯蔵)されたNO2 は上記吸収剤から放出されて、白金触媒上で炭化水素、一酸化炭素又は水素によって効率よく窒素に還元されるとされている。
【0010】
このNOx 貯蔵−還元システムは、硫黄酸化物の不存在下であれば、長期間にわたってよく作動するが、硫黄酸化物が存在すれば、リーン及びリッチいずれの条件下においても、アルカリ化合物上のNO2吸収サイトが硫黄酸化物を不可逆的に吸収して、システムは
急激に劣化し、劣化触媒の再生を高温の還元雰囲気で行わなければならないという問題を有している。更に、この方法は、窒素酸化物が硝酸塩として吸収されるので、リッチ時に硝酸塩を分解し、還元するために、リッチ条件を強くする必要があり、燃費悪化の点においても、問題がある。また、NOx 貯蔵−還元システムは、触媒中に強アルカリ性材料を含有するため、低温での還元性が損なわれる。それ故に、高燃費であるためにエンジン排ガス温度が低下するディーゼルエンジン等のリーン燃焼エンジンの後処理技術にNOx 貯蔵−還元システムを適用することには問題があると考えられている。
【0011】
そこで、硫黄酸化物の共存下において、性能が劣化し、燃費損失が大きいというNOx 貯蔵−還元システムの不利益を軽減し、又は問題を解決するために、最近、
(A)(a)セリア又は
(b)酸化プラセオジム又は
(c)セリウム、ジルコニウム、プラセオジム、ネオジム、ガドリニウム及びランタンから選ばれる少なくとも2つの元素の酸化物の混合物と少なくともそれら2つの元素の複合酸化物とから選ばれる少なくとも1種を表面触媒成分として有する表面触媒層と、(B)(d)白金、ロジウム、パラジウム及びこれらの酸化物から選ばれる少なくとも1種と、
(e)担体と
を内部触媒成分として有する内部触媒層とからなる触媒が低温で高い性能を示すと共に、中温域でNOx 貯蔵−還元システムに近い窒素酸化物浄化能と高いSOx 耐久性を示すものとして提案されている(特許文献5参照)。
【0012】
また、ロジウム、パラジウム及びこれらの酸化物から選ばれる第1の触媒成分と、ジルコニア、酸化セリウム、酸化プラセオジム、酸化ネオジム及びこれらの混合物から選ばれる第2の触媒成分とを含む表面触媒層と、ロジウム、パラジウム、白金及びこれらの混合物から選ばれる第3の触媒成分を含む内部触媒層とからなる触媒が高いSOx 耐久性を示すものとして提案されている(特許文献6参照)。
【0013】
しかしながら、これらの触媒を用いる方法においては、窒素酸化物を除去するためには、NOx 貯蔵−還元システムにおけると同様に、リッチ/リーン行程が必要であるので、依然として燃費の悪化を避けることができないという問題がある。
【0014】
一方、リーン条件下で燃料を燃焼させて生成した窒素酸化物を含有する排ガスを、一酸化炭素を還元剤として用いて還元除去するための触媒として、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属、酸化コバルト等の金属酸化物及びロジウム等の貴金属からなるものが知られている(特許文献7参照)。同様に、リーン条件下で燃料を燃焼させて生成した窒素酸化物を含有する排ガスを、一酸化炭素を還元剤として用いて還元除去するための方法において、窒素酸化物と一酸化炭素との反応の選択性を向上させるために、二酸化硫黄を共存させることも提案されている(特許文献8参照)。
【0015】
更に、還元剤として、水素、一酸化炭素、炭化水素及び酸素含有化合物から選ばれる少なくとも1種を用いて、二酸化硫黄の共存下に選択性を向上させた触媒として、イリジウム又はロジウムと共に周期律表第Ia、IIa又はIIb族金属をシリカに担持させた触媒が提案されている(特許文献9参照)。同様の触媒として、ロジウムをシリカに担持させた触媒も提案されている(特許文献10参照)。
【0016】
また、従来から知られているロジウム触媒を用いる場合、排ガス中に硫黄酸化物と還元剤成分である一酸化炭素のみが存在するときには、リーン条件下に窒素酸化物が殆ど還元されないにもかかわらず、担体、好ましくは、ゼオライト上にロジウムを担持させた触媒を用いる場合には、硫黄酸化物と共に、還元剤成分として、一酸化炭素に加えて、更に水素が存在するときには、広い範囲の温度において、触媒の劣化なしに、燃費の悪化をきたすことなく、高い選択率にて窒素酸化物を接触還元することができることが提案されている(特許文献11参照)。
【0017】
しかし、これらの触媒を用いても、排ガスの性状や触媒構造体の態様によっては、実用的な条件下では、窒素酸化物を十分に浄化、除去することができない。
【特許文献1】ヨーロッパ特許出願公開第526099号明細書
【特許文献2】ヨーロッパ特許出願公開第679427号明細書
【特許文献3】国際公開第93/7363号明細書
【特許文献4】国際公開第93/8383号明細書
【特許文献5】国際公開第02/89977号明細書
【特許文献6】国際公開第02/22255号明細書
【特許文献7】特開平2−122831号公報
【特許文献8】特開平2−187131号公報
【特許文献9】特開2004−73921号公報
【特許文献10】特開2003−33654号公報
【特許文献11】特開2007−136329公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、排ガス中のNOx を接触還元して浄化するための触媒と方法に関する上述した問題を解決するためになされたものであって、リーン条件下で燃料を燃焼させて生成した窒素酸化物を含有する排ガスを一酸化炭素と水素の存在下、又は一酸化炭素と水素と硫黄酸化物の存在下に接触させて、広い範囲の温度において、触媒の劣化なしに、燃費の悪化をきたすことなく、高い選択率にてその窒素酸化物を接触還元するための触媒を提供することを目的とする。
【0019】
更に、本発明は、リーン条件下で燃料を燃焼させて生成した窒素酸化物を含有する排ガスを一酸化炭素と水素の存在下、又は一酸化炭素と水素と硫黄酸化物の存在下に触媒に接触させて、広い範囲の温度において、触媒の劣化なしに、燃費の悪化をきたすことなく、高い選択率にてその窒素酸化物を接触還元するための方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明によれば、リーン条件下で燃料を燃焼させて生成した窒素酸化物を含有する排ガスを一酸化炭素と水素の存在下、又は一酸化炭素と水素と硫黄酸化物の存在下に接触させて、その窒素酸化物を接触還元するための触媒であって、水、珪素源、アルミニウム源、ロジウム源、水酸化アルカリ金属及び水酸化アルカリ土類金属から選ばれる少なくとも1種の鉱化剤、アルカリ金属塩からなる塩析効果剤、酸からなる水素イオン濃度調節剤及びテトラエチルアンモニウム源及びテトラプロピルアンモニウム源から選ばれる少なくとも1種の型剤を含有する水性混合物を水熱処理した後、洗浄し、乾燥し、焼成することによって得られる、0.5〜5.0重量%のロジウムを担持したアルカリ金属(及びアルカリ土類金属)−ZSM−5を含む触媒が提供される。
【0021】
また、本発明によれば、上記ロジウムを担持したアルカリ金属(及びアルカリ土類金属)−ZSM−5のアルカリ金属(及びアルカリ土類金属をアンモニウムイオンとイオン交換した後、洗浄し、乾燥し、焼成することによって得られる、0.5〜5.0重量%のロジウムを担持したH−ZSM−5を含む触媒が提供される。
【0022】
本発明によれば、上記ロジウムを担持したZSM−5の調製において、特に、アルカリ金属塩からなる塩析効果剤及び水を含有する水溶液に水素イオン濃度調節剤、型剤及びアルミニウム源を含有する水溶液と珪素源及び鉱化剤を含有する水溶液を加えて、混合物を得た後、この混合物にロジウム源を加えて水性混合物を調製することが好ましい。
【0023】
更に、本発明によれば、リーン条件下で燃料を燃焼させて生成した窒素酸化物を含有する排ガスを一酸化炭素と水素の存在下、又は一酸化炭素と水素と硫黄酸化物の存在下に触媒に接触させて、その窒素酸化物を接触還元するための方法において、上記触媒が水、珪素源、アルミニウム源、ロジウム源、水酸化アルカリ金属及び水酸化アルカリ土類金属から選ばれる少なくとも1種の鉱化剤、アルカリ金属塩からなる塩析効果剤、酸からなる水素イオン濃度調節剤及びテトラエチルアンモニウム源及びテトラプロピルアンモニウム源から選ばれる少なくとも1種の型剤を含有する水性混合物を水熱処理した後、洗浄し、乾燥し、焼成することによって得られる、0.5〜5.0重量%のロジウムを担持したアルカリ金属(及びアルカリ土類金属)−ZSM−5を含むものである方法が提供される。
【0024】
また、本発明によれば、リーン条件下で燃料を燃焼させて生成した窒素酸化物を含有する排ガスを一酸化炭素と水素の存在下、又は一酸化炭素と水素と硫黄酸化物の存在下に触媒に接触させて、その窒素酸化物を接触還元するための方法において、上記触媒が前記ロジウムを担持したアルカリ金属(及びアルカリ土類金属)−ZSM−5のアルカリ金属(及びアルカリ土類金属)をアンモニウムイオンとイオン交換した後、洗浄し、乾燥し、焼成することによって得られる、0.5〜5.0重量%のロジウムを担持したH−ZSM−5を含むものである方法が提供される。
【0025】
このような本発明による触媒を用いて、排ガス中の窒素酸化物を接触還元する方法において、上記排ガスは0.1〜1.5%の一酸化炭素と0.1〜0.5%の水素を含有するものであるか、又は0.1〜1.5%の一酸化炭素と0.1〜0.5%の水素と1ppm以下の硫黄酸化物を含有するものであることが好ましい。
【0026】
更に、このような本発明による触媒を用いて、排ガス中の窒素酸化物を接触還元する方法において、上記排ガスを温度200〜500℃、空間速度5000〜150000h-1にて触媒に接触させることが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、一酸化炭素と水素の存在下、又は一酸化炭素と水素と硫黄酸化物の存在下に、リーン条件下で燃料を燃焼させて生成した窒素酸化物を含有する排ガスを上述した触媒に接触させることによって、広い範囲の温度において、排ガス中の窒素酸化物をその触媒の劣化なしに、低燃費損失にて、且つ高い選択率にて接触還元し、かくして、排ガスを浄化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明による触媒は、リーン条件下で燃料を燃焼させて生成した窒素酸化物を含有する排ガスを一酸化炭素と水素の存在下、又は一酸化炭素と水素と硫黄酸化物の存在下に接触させて、その窒素酸化物を接触還元するための触媒であって、水、珪素源、アルミニウム源、ロジウム源、水酸化アルカリ金属及び水酸化アルカリ土類金属から選ばれる少なくとも1種の鉱化剤、アルカリ金属塩からなる塩析効果剤、酸からなる水素イオン濃度調節剤及びテトラエチルアンモニウム源及びテトラプロピルアンモニウム源から選ばれる少なくとも1種の型剤を含有する水性混合物を水熱処理することによって得られる、0.5〜5.0重量%のロジウムを担持したZSM−5を含むものである。
【0029】
本発明において、リーン条件とは、問題とする燃料の空気/燃料比率(空燃比)が化学量論的な空気/燃料比率よりも大きい状態をいい、反対に、リッチ条件とは、問題とする燃料の空気/燃料比率が化学量論的な空気/燃料比率よりも小さい状態をいう。通常のガソリンエンジン自動車では、化学量論的な空気/燃料比率は約14.5である。
【0030】
排ガス中の窒素酸化物を従来から知られているロジウム触媒の存在下に還元剤を用いて接触還元するに際して、排ガス中に還元剤成分として一酸化炭素のみが存在するときは、リーン条件下において窒素酸化物は殆ど還元浄化されない。
【0031】
しかし、本発明に従って、ロジウム源としてのロジウム塩と共にZSM−5のための合成原料を用いて得られる、ロジウムを担持したZSM−5を含む触媒を用いることによって、排ガス中に、還元剤成分として、一酸化炭素に加えて、水素が存在するときには、広い温度範囲において、触媒の劣化なしに、燃費の悪化をきたすことなく、高い選択率にて窒素酸化物を還元することができる。還元剤成分として、一酸化炭素に加えて、更に水素が存在するときに、本発明による上記触媒上での一酸化窒素の還元反応が大きく向上する理由は、ロジウムに吸着されたCOが水素によってクリーニングされ、金属ロジウム上への一酸化窒素の解離吸着が促進されることによるとみられる。
【0032】
本発明者らによれば、ロジウム塩とZSM−5の合成原料を水熱反応させて、ZSM−5を合成すると共に、これにロジウムを含有させ、これを空気中において500℃で5時間焼成して、ロジウムを担持したZSM−5(以下、簡単のために、ロジウム担持ZSM−5という。)を調製して、これについて、X線光電子分光法(XPS)によって、そのロジウムの化学状態解析を行った結果、空気中にて焼成して得られたロジウム担持ZSM−5においては、ロジウムの化学状態はRh3+ であるが、窒素酸化物を含有する排ガスの接触還元に用いた後はRh0であることが確認された。即ち、ZSM−5上に担持されたロジウムは、リーン条件下において金属状態であり、この金属ロジウム上に吸着した一酸化窒素は解離吸着して、窒素と酸素を生成し、このようにして、ロジウム担持ZSM−5中に蓄積された酸素はCO、水素等の還元剤と反応して、炭酸ガスと水を生成し、かくして、触媒サイクルが形成されることを見出した。
【0033】
排ガス中に多量の酸素が含まれる場合においても、ZSM−5に担持されたロジウムの化学的状態は、主としてRh0であるので、排ガス中に酸素が過剰に存在していても、ロジウムが一酸化窒素を吸着することができる場合には、一酸化窒素が解離吸着し、一酸化窒素が窒素と酸素に転換される。そして、生成した酸素は還元剤成分と反応し、二酸化炭素と水を生成する。しかし、還元剤がCOのみの場合には、ロジウムがCOにより覆われるために、この一酸化窒素還元反応の進行が抑制される。しかし、水素が共存するときには、水素のクリーニング作用によって清浄なロジウム表面が形成され、そこに一酸化窒素が吸着するため、一酸化窒素還元反応がより円滑に進行する。
【0034】
本発明によれば、硫黄酸化物は、上述したようなロジウム担持ZSM−5の表面を優先的に被覆し、還元剤であるCO及び水素の気相酸素による酸化を抑制するので、反応温度が高い場合にも、高いNOx浄化率を得ることができる、即ち、CO及び水素による窒素酸化物の還元反応の温度が高温側にシフトする。その代わり、低温域におけるNOx浄化率は低下する。特に、本発明によるロジウム担持ZSM−5を触媒として用いて排ガス中の窒素酸化物を接触還元する反応において、排ガスが硫黄酸化物を含有する場合には、排ガス中の硫黄酸化物の量は、1ppm以下の範囲であることが好ましい。
【0035】
即ち、本発明において、排ガス中の硫黄酸化物の量が1ppm以下の範囲であるときは、NOx浄化率の低下がみられず、むしろ、還元剤であるCO及び水素の酸化が抑制されるので、NOxとこれら還元剤との選択反応性が向上する利点がある。この観点からは、排ガス中の硫黄酸化物の量は0.01〜1ppmの範囲であることが好ましい。排ガス中の硫黄酸化物の量が1ppmを越えるときは、NOx浄化率が低下する。
【0036】
上述したようなロジウム担持ZSM−5は、ロジウム源としてのロジウム塩とZSM−5のための合成原料を用いて、ZSM−5を水熱合成することによって得られ、ロジウムは、形成されたZSM−5上にクラスター状に担持されている。このように、ロジウムがZSM−5上にクラスター状に担持されているとき、ロジウムは粒径5〜10nm程度の微粒子状で担持されている。このような担体上のロジウムの微粒子の粒径は、例えば、透過型電子顕微鏡による観察によって測定することができる。
【0037】
本発明において、ロジウム担持ZSM−5のロジウムの担持量は、通常、0.1〜5.0重量%の範囲にわたるが、好ましくは、0.1〜2.5重量%の範囲である。ロジウム担持ZSM−5において、ロジウムの担持量が0.1重量%よりも少ないときは、得られるロジウム担持ZSM−5を触媒として用いるとき、窒素酸化物の接触還元能において十分でなく、他方、ロジウム担持量が5.0重量%よりも多いときは、得られるロジウム担持ZSM−5の酸化能が強くなって、触媒として用いるとき、窒素酸化物の選択的還元能が低下するので好ましくない。
【0038】
上述したように、ロジウム担持ZSM−5は、ロジウム源としてのロジウム塩と共にZSM−5のための合成原料を用いて得られる。その製造方法については、後に詳細に説明するが、その製造方法から明らかなように、ロジウム塩とZSM−5のための合成原料を水熱反応に供することによって、最初は、ロジウムを担持していると共に、アルカリ金属イオンと、場合によっては、アルカリ土類金属イオンとを含有するアルカリ金属(及びアルカリ土類金属)−型ZSM−5が得られる。即ち、ロジウム源としてのロジウム塩とZSM−5のための合成原料を用いて得られる本発明による触媒は、ロジウム担持アルカリ金属(及びアルカリ土類金属)−ZSM−5である。本発明において、アルカリ金属(及びアルカリ土類金属)−ZSM−5は、アルカリ金属−ZSM−5か、又はアルカリ金属及びアルカリ土類金属−ZSM−5を意味する。同様に、アルカリ金属(及びアルカリ土類金属)は、アルカリ金属か、又はアルカリ金属及びアルカリ土類金属を意味する。
【0039】
このように、ロジウムと共にアルカリ金属イオンと、場合によっては、アルカリ土類金属イオンとを有するアルカリ金属(及びアルカリ土類金属)−ZSM−5における上記アルカリ金属イオン(及びアルカリ土類金属イオン)の量は、通常、0.1〜7.5重量%の範囲であり、殆どの場合、1〜5重量%の範囲である。
【0040】
しかし、本発明による触媒は、好ましくは、ロジウム担持H−ZSM−5である。このようなロジウム担持H−ZSM−5は、上記ロジウム担持アルカリ金属(及びアルカリ土類金属)−ZSM−5のそれら金属イオンをアンモニウムイオン交換した後、空気中で焼成して得ることができる。このようなロジウム担持H−ZSM−5は、ウィンドウ(反応温度領域)がより広いと共に、反応の選択性、即ち、NOxの浄化性能によりすぐれている。
【0041】
以下に、本発明による触媒であるロジウム担持ZSM−5の製造について説明する。本発明によれば、ロジウム担持ZSM−5は、水、珪素源、アルミニウム源、ロジウム源、水酸化アルカリ金属及び水酸化アルカリ土類金属から選ばれる少なくとも1種の鉱化剤、アルカリ金属塩からなる塩析効果剤、酸からなる水素イオン濃度調節剤及びテトラエチルアンモニウム源及びテトラプロピルアンモニウム源から選ばれる少なくとも1種の型剤を含有する水性混合物を水熱処理することによって得られる。
【0042】
本発明において、珪素源としては、シリカ成分を含有する水溶液である水ガラスが好ましく用いられる。このような水ガラスの具体例として、水ガラス3号(SiO2量29.1%、Na2O量9.3%)等を挙げることができる。アルミニウム源としては、水溶性である硫酸アルミニウムやアルミン酸ナトリウムが好ましく用いられる。ロジウム源としては、水溶性ロジウム塩が用いられるが、なかでも、硝酸ロジウムが好ましく用いられる。
【0043】
鉱化剤は、前記シリカを溶解し、得られるZSM−5におけるカチオンサイトを形成するためのアルカリであって、本発明においては、水酸化アルカリ金属が好ましく用いられ、必要に応じて、水酸化アルカリ金属と共に水酸化アルカリ土類金属が併用される。しかし、シリカ源として水ガラスを用いる場合には、水ガラス中に水酸化アルカリ金属を含有しているので、新たに鉱化剤を加える必要はない。また。上記水酸化アルカリ金属としては、水酸化カリウムと水酸化ナトリウムから選ばれる少なくとも1種が好ましく用いられる。アルカリ土類金属をZSM−5の結晶中に存在させる場合には、水酸化バリウムや硝酸バリウム等の水酸化アルカリ土類金属が好ましく用いられる。
【0044】
このように、本発明によれば、得られるロジウム担持ZSM−5の要求特性に応じて、例えば、水酸化カリウムと水酸化ナトリウムを組み合わせて用いることによって、ZSM−5のカチオンサイトの割合を適宜に調整してなるロジウム担持Na及びK−ZSM−5を得ることができる。また、得られるロジウム担持ZSM−5の要求特性に応じて、必要に応じて、例えば、水酸化バリウムを水酸化カリウム及び/又は水酸化ナトリウムと組み合わせて用いることにより、ZSM−5のカチオンサイトの一部をバリウムイオンによって占有させることが可能である。即ち、ロジウム担持アルカリ金属及びバリウム−ZSM−5を得ることができる。
【0045】
また、型剤は、前記水性混合物の水熱処理の間に、得られるZSM−5の構造を規制する作用を有し、これより、テンプレーティング剤や構造化規定剤等とも呼ばれており、本発明においては、型剤としては、テトラエチルアンモニウム源及びテトラプロピルアンモニウム源から選ばれる少なくとも1種のテトラアルキルアンモニウム源が用いられる。テトラアルキルアンモニウム源は、水酸化テトラアルキルアンモニウムでもよく、ハロゲン化テトラアルキルアンモニウムでもよい。また、ハロゲンとしては、好ましくは、塩素又は臭素である。本発明においては、通常、臭化テトラプロピルアンモニウムや水酸化テトラエチルアンモニウムが型剤として好ましく用いられる。
【0046】
更に、本発明の方法においては、水熱反応時の結晶化を促進するために、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸リチウム、硝酸ルビジウム、酢酸セシウム等のアルカリ金属塩からなる塩析効果剤と,得られる水性混合物のpHを9乃至11とするために、硫酸、塩酸、硝酸、酢酸、クエン酸等の酸からなる水素イオン濃度調節剤が用いられる。但し、塩析効果剤や水素イオン濃度調節剤は上記例示に限定されるものではない。
【0047】
本発明によれば、水と共に上述した珪素源、アルミニウム源、ロジウム源、塩析効果剤、水素イオン濃度調節剤、鉱化剤及び型剤を含有する水性混合物を水熱処理することによって、目的とするロジウム担持ZSM−5を得ることができる。ここに、上記水性混合物の調製の方法は、特に限定されるものではないが、アルカリ金属塩からなる塩析効果剤及び水を含有する水溶液に水素イオン濃度調節剤、型剤及びアルミニウム源を含有する水溶液と珪素源及び鉱化剤を含有する水溶液を加えて、混合物を得た後、この混合物にロジウム源を加えて水性混合物を調製することが好ましい。
【0048】
更に、本発明によれば、水性混合物を形成する水、珪素源、アルミニウム源、ロジウム源、鉱化剤、型剤、塩析効果剤及び水素イオン濃度調節剤がシリカに対して下記のモル比
【0049】
SiO2 =1
Al23 =0.01〜0.2
ロジウム=0.001〜0.03
水=1〜50
型剤=0.01〜1
鉱化剤=0.005〜0.05
塩析効果剤=0.1〜3
水素イオン濃度調節剤:0.05〜0・15
【0050】
を有するものであるとき、ロジウムを担持した結晶度の高いZSM−5を高収率にて得ることができる。
【0051】
水溶性混合物におけるAl23のモル比が0.01よりも小さいときは、得られるZSM−5のカチオンサイトの数が少ないので、ZSM−5に担持させるロジウムの分散性が悪い。しかし、Al23のモル比が0.2よりも大きいときは、水熱処理において、ZSM−5の骨格形成が進まず、結晶度の高いロジウム担持ZSM−5を得ることができない。
【0052】
ロジウムのモル比が0.001よりも小さいときは、得られるZSM−5にロジウムが高分散されるものの、ロジウムの担持量が少なく、クラスター状ロジウムの形成が不十分で、高い触媒機能を有するロジウム担持ZSM−5を得ることができない。一方、ロジウムのモル比が0.03よりも大きいときは、得られるロジウム担持ZSM−5におけるクラスター状ロジウムの分散性が低下し、その結果、得られるロジウム担持ZSM−5は高い触媒機能をもたない。更に、高濃度のロジウムの存在によって、ZSM−5の水熱処理下での結晶構造体の形成が阻害され、結果として、結晶度の高いロジウム担持ZSM−5を得ることができない。
【0053】
水のモル比が1よりも小さいときは、シリカの溶解速度が低く、水熱処理下でのZSM−5の結晶形成が十分になされない。その結果、結晶性にすぐれるロジウム担持ZSM−5を得ることができない。しかし、水のモル比が50よりも大きいときは、水熱処理において、シリカの溶解速度が速く、シリカの溶解・析出の平衡反応下で形成されるZSM−5の結晶形成が良好に進行しない。その結果、結晶度の高いロジウム担持ZSM−5を得ることができない。
【0054】
型剤のモル比が0.1よりも小さいときは、水熱処理時の型剤による構造規制効果が不十分であって、ZSM−5の骨格形成が良好に進行せず、その結果、結晶度の高いロジウム担持ZSM−5を得ることができない。しかし、型剤のモル比を1よりも大きくしても、水熱処理時のロジウム担持ZSM−5の骨格形成に大きな変化はなく、製造費用を徒に高めるので好ましくない。
【0055】
鉱化剤のモル比が0.005よりも小さいときは、鉱化剤としての機能、即ち、水熱処理時のシリカの溶解・析出の平衡の制御機能が十分に働かず、その結果、水熱処理時にロジウム担持ZSM−5の骨格形成が良好に進行しない。一方、水性混合物中のモル比が0.05よりも大きいときは、水熱処理下でシリカの溶解・析出の平衡が溶解側に偏るので、結晶度の高いロジウム担持ZSM−5を得ることができない。
【0056】
塩析効果剤のモル比が0.1よりも小さいときは、シリカ及びアルミナの析出・溶解のバランスが溶解側に偏り、モル比が3以上のときには、バランスが生成側に偏り、その結果、いずれの場合も溶解・析出の平衡の制御機能が十分に働かず、その結果、水熱処理時にロジウム担持ZSM−5の骨格形成が良好に進行しない。
【0057】
水素イオン濃度調節剤のモル比が0.05以下の場合は、シリカ及びアルミナの析出・溶解のバランスが溶解側に偏り、モル比が0.15以上のときは、バランスが生成に偏り、その結果、いずれの場合も溶解・析出の平衡の制御機能が十分に働かず、その結果、水熱処理時にロジウム担持ZSM−5の骨格形成が良好に進行しない。
【0058】
本発明の方法によれば、上述したような水性混合物を水熱処理することによって、目的とするロジウムを高分散高担持させたZSM−5を得ることができる。水熱処理の温度は140〜180℃の範囲である。水熱処理の温度が140℃よりも低いときは、結晶度の高いロジウム担持ZSM−5を得ることができない。しかし、水熱処理の温度が180℃よりも高いときは、型剤が熱分解し、水性混合物中の型剤の量が低下するので、水熱処理中にZSM−5構造の骨格形成が良好に行われず、その結果、結晶度の高いロジウム担持ZSM−5を得ることができない。
【0059】
本発明において、水熱処理の時間は、上記水熱処理の温度や、水熱処理する水性混合物の組成等にもよるが、通常、40〜70時間程度である。水熱処理時間が余りに短いときは、水熱処理中に型剤の分子構造に従って形成されるZSM−5骨格の形成が不十分であって、結晶度の高いロジウム担持ZSM−5を得ることができない。しかし、水熱処理の時間が余りに長すぎるときは、一旦、形成されたZSM−5結晶構造体が再溶解して、ロジウム担持ZSM−5の収率が低下する。
【0060】
このようにして、水熱処理による結晶化工程が終了したときは、得られたロジウム担持ZSM−5の再溶解を防止するために、好ましくは、得られた反応混合物を急冷した後、ロジウム担持ZSM−5結晶を母液から分離し、十分に洗浄して、結晶中に存在する遊離のアルカリ金属イオンやアルカリ土類金属イオンを除去する。次いで、ロジウム担持ZSM−5結晶を乾燥した後、空気中、500〜700℃で適宜の時間、例えば、5〜10時間程度焼成して、型剤を燃焼除去することによって、用いた鉱化剤に対応するカチオンサイトを有するロジウム担持アルカリ金属(及びアルカリ土類金属)−ZSM−5を得ることができる。例えば、鉱化剤として水酸化ナトリウムと水酸化カリウムを併用したときは、ロジウム担持Na及びK−ZSM−5を得ることができる。
【0061】
本発明によれば、このようにして得られるロジウム担持アルカリ金属(及びアルカリ土類金属)−ZSM−5を、例えば、硝酸アンモニウム水溶液に浸漬して、上記アルカリ金属イオン(及びアルカリ土類金属イオン)をアンモニウムイオンとイオン交換した後、空気中、500〜700℃の温度にて5〜10時間焼成することによって、ロジウム担持H−ZSM−5を得ることができる。
【0062】
本発明に従って、上述したようなロジウム担持ZSM−5を触媒として用いて、排ガス中の窒素酸化物を接触還元するに際して、排ガス中の窒素酸化物が上述したようなロジウム触媒と、還元剤成分である一酸化炭素と水素か、又は一酸化炭素と水素と硫黄酸化物の共存下において、高選択性にて還元されるように、排ガス中の還元剤成分である一酸化炭素の濃度は、0.1〜1.5%の範囲、好ましくは、0.5〜1.0%の範囲にあり、水素の濃度は、0.1〜0.5%の範囲、好ましくは、0.25〜0.5%の範囲にあるように、エンジンの燃焼室に燃料を供給し、燃焼させることが望ましい。更に、本発明によれば、前述したように、排ガスが硫黄酸化物を含有する場合には、その濃度は1ppm以下の範囲であり、好ましくは、0.01〜1ppmの範囲である。
【0063】
本発明による触媒に排ガスを接触させる温度、即ち、反応温度は、排ガスの組成にもよるが、触媒が長期間にわたって、窒素酸化物に対して有効な触媒反応活性を有するように、通常、200〜500℃の範囲であり、好ましくは、250〜400℃の範囲である。このような反応温度において、排ガスは、好ましくは、5000〜150000h-1の範囲の空間速度で処理される。
【0064】
本発明において触媒として用いるロジウム担持ZSM−5は、粉末や粒状物のような種々の形態にて得ることができる。従って、従来からよく知られている任意の方法によって、このような触媒を用いて、例えば、ハニカム、環状物、球状物等のような種々の形状の触媒構造体に成形することができる。また、このような触媒構造体の製造に際して、必要に応じて、適当の添加物、例えば、成形助剤、補強材、無機繊維、有機バインダー等を用いることができる。
【0065】
特に、本発明によれば、前述した触媒をバインダー成分と共にスラリーとし、これを任意の形状の支持用の不活性な基材の表面に、例えば、ウォッシュ・コート法によって塗布して、触媒層を有する触媒構造体として、用いるのが有利である。上記不活性な基材は、例えば、コージーライトのような粘土鉱物や、また、ステンレス鋼のような金属、好ましくは、Fe−Cr−Alのような耐熱性の金属からなるものであってよく、また、その形状は、ハニカム、環状、球状構造等であってよい。
【0066】
このような触媒構造体はいずれも、熱に対する抵抗にすぐれるのみならず、硫黄酸化物に対する抵抗性にもすぐれており、従って、このような触媒構造体を用いる本発明の方法は、ディーゼルエンジンやリーンガソリンエンジン自動車排ガス中のNOxの還元浄化の
ために好適である。
【実施例】
【0067】
以下に触媒構造体の製造例とそれを用いる窒素酸化物の還元を実施例として挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
(1)触媒構造体の製造
【0068】
実施例1
硫酸アルミニウム16水塩(Al2(SO4)3・16H2O)11.3g、硫酸(95%以上)11g、臭化テトラプロピルアンモニウム((n−C37)4NBr)21g及びイオン交換水153gを混合して、A液を調製した。水ガラス3号(日本化学工業(株)製、SiO2量29.1%、Na2O量9.3%)185gと水118gを混合して、B液を調製した。更に、塩化ナトリウム70gを水270gに溶解して、C液を調製した。これらA液、B液及びC液を用いて、下記の工程によって、1重量%ロジウム担持Na−ZSM−5(SiO2/Al23 モル比=50、ナトリウム含有量4.80重量%、表面積413m/g)47.4gを調製した。
【0069】
(a)A液とB液をC液中に徐々に滴下し、この間、混合した溶液が固化しないように、A液とB液の滴下速度をA:B=1:2程度とした。得られた混合溶液のpHは10.2であった。
(b)得られた混合溶液に硝酸ロジウム水溶液(ロジウムとして4.138重量%)13.45gを攪拌下に加えた後、30分間攪拌して、スラリーを得た。
(c)得られたスラリーをオートクレーブに仕込み、温度160℃、攪拌速度60rpmで50時間水熱合成を行った。
(d)得られた反応生成物をスラリーとしてオートクレーブから取り出し、これを100℃の熱水5Lで洗浄した後、濾過して、固形物を得た。
(e)濾液に塩素イオンが検出されなくなるまで、この固形物を洗浄し、濾過する操作を繰り返した。最終的に得られた固形物を110℃で一夜乾燥した。
(f)このようにして得られた乾燥物を空気中、500℃で5時間焼成して、1重量%ロジウム担持Na−ZSM−5粉体を得た。
【0070】
このようにして、ロジウム塩とZSM−5の合成原料とを水熱反応に供して、ロジウムがZSM−5上にクラスター状に担持されてなるロジウム担持Na−ZSM−5の透過型電子顕微鏡写真を図1に示す。
【0071】
上記ロジウム1重量%担持Na−ZSM−5粉体3gとシリカゾル(日産化学工業(株))製スノーテックスN、シリカとして20重量%、以下、同じ)0.8gと適量の水を混合した。ジルコニアボール数gを粉砕媒体として用いて、手で振盪し、凝集している粉体をほぐして、ウォッシュ・コート用スラリーを得た。1平方インチ当りのセル数400のコージーライト製ハニカム基体に上記ウォッシュ・コート用スラリーを塗布し、乾燥させた後、空気中、500℃で1時間焼成して、ハニカム基体1L当たりに触媒95g(バインダーとしてのシリカ5gを含む。以下、同じ。)を担持したハニカム触媒構造体を得た。
【0072】
実施例2
実施例1の工程(b)において、硝酸ロジウム水溶液(ロジウムとして4.138重量%)26.90gを用いた以外は、製造例1と同様にして、2重量%ロジウム担持Na−ZSM−5粉末(SiO2/Al23 モル比=50、ナトリウム含有量4.94重量%、表面積407m2/g)47.9gを得た。
【0073】
上記ロジウム2重量%担持Na−ZSM−5粉体3gとシリカゾル0.8gと適量の水を混合した。ジルコニアボール数gを粉砕媒体として用いて、手で振盪し、凝集粉体をほぐして、ウォッシュ・コート用スラリーを得た。1平方インチ当りのセル数400のコージーライト製ハニカム基体に上記ウォッシュ・コート用スラリーを塗布し、乾燥させた後、空気中、500℃で1時間焼成して、ハニカム基体1L当たりに触媒95gを担持したハニカム触媒構造体を得た。
【0074】
実施例3
実施例2において得られた2重量%ロジウム担持Na−ZSM−5粉末を0.1規定の硝酸アンモニウム水溶液1000mLに投入し、80℃で3時間、アンモニウムイオン交換した後、ZSM−5の濾過と洗浄を5回繰り返して、硝酸アンモニウム水溶液に溶出したナトリウムイオンを除去した。このようにして得られたZSM−5を乾燥した後、空気中、温度500℃にて3時間焼成して、2重量%ロジウム担持H−ZSM−5粉末47.0gを得た。
【0075】
このロジウム2重量%担持H−ZSM−5粉体3gとシリカゾル0.8gと適量の水を混合した。ジルコニアボール数gを粉砕媒体として用いて、手で振盪し、凝集粉体をほぐして、ウォッシュ・コート用スラリーを得た。1平方インチ当りのセル数400のコージーライト製ハニカム基体に上記ウォッシュ・コート用スラリーを塗布し、乾燥させた後、空気中、500℃で1時間焼成して、ハニカム基体1L当たりに触媒95gを担持したハニカム触媒構造体を得た。
【0076】
比較例1
イオン交換水20mLにNH4−ZSM−5(ゼオリスト触媒製CBV552407、SiO2/Al23 モル比=50)5gを加えてスラリーとし、磁気攪拌子で攪拌しながら、これに硝酸ロジウム水溶液(ロジウムとして1重量%)5gを加えた。60℃で1時間保持して、NH4−ZSM−5のアンモニウムイオンをロジウムイオンとイオン交換させた後、空気中、100℃で乾燥させ、更に、空気中、500℃で1時間焼成して、ロジウム1重量%をH−ZSM−5に担持させた粉体5gを得た。
【0077】
上記ロジウム1重量%担持NH4−ZSM−5粉体3gとシリカゾル0.8gと適量の水を混合した。ジルコニアボール数gを粉砕媒体として用いて、手で振盪し、凝集粉体をほぐして、ウォッシュ・コート用スラリーを得た。1平方インチ当りのセル数400のコージーライト製ハニカム基体に上記ウォッシュ・コート用スラリーを塗布し、乾燥させた後、空気中、500℃で1時間焼成して、ハニカム基体1L当たりに触媒95gを担持したハニカム触媒構造体を得た。
【0078】
比較例2
イオン交換水20mLにNa−βゼオライト(ズードケミー触媒製SiO2/Al23モル比=25、比表面積680m2/g)5gを加えてスラリーとし、磁気攪拌子で攪拌しながら、これに硝酸ロジウム水溶液(ロジウムとして1重量%)5.0gを加えた。60℃で1時間保持して、Na−βゼオライトのナトリウムイオンをロジウムイオンとイオン交換させた。この後、空気中、100℃で乾燥させ、更に、500℃で1時間焼成して、ロジウムをNa−βゼオライトに1重量%担持させた粉体を得た。
【0079】
上記粉体3gとシリカゾル0.8gと適量の水を混合した。ジルコニアボール数gを粉砕媒体として用いて、手で振盪し、凝集している粉体をほぐして、ウォッシュ・コート用スラリーを得た。1平方インチ当りのセル数400のコージーライト製ハニカム基体に上記ウォッシュ・コート用スラリーを塗布し、乾燥させた後、空気中、500℃で1時間焼成して、ハニカム基体1L当たりに触媒100gを担持するハニカム触媒構造体を得た。
【0080】
比較例3
イオン交換水20mLにメソポーラスシリカ(日本化学工業(株)製SILFAM)5gを加えてスラリーとなし、磁気攪拌子で攪拌しながら、これに硝酸ロジウム水溶液(ロジウムとして1重量%)5gを加え、約80℃の温度で加熱して、蒸発乾固させた。得られた乾固物を空気中、500℃で1時間焼成して、メソポーラスシリカにロジウム1重量%を担持させた触媒粉体を得た。この触媒粉体を用いて、実施例1と同様にして、ハニカム基体1L当たりに触媒100gを担持するハニカム触媒構造体を得た。
【0081】
(2)窒素酸化物の接触還元試験
上記実施例1〜3及び比較例1〜3において製造した触媒構造体をそれぞれ、500ppmのNO、1ppmのSO2、9%のO2、1.5%のCO、0.5%のH2、6%のH2O及び残部窒素からなる混合ガスに5時間接触させてエージングし、性能が安定した後、それぞれの触媒を用いて、下記の組成からなる窒素酸化物を含む試験用ガスを温度250℃、300℃、350℃又は400℃、空間速度50000h-1の条件下に処理した。各実施例において用いた試験用ガス中の還元剤及び硫黄酸化物の濃度を下記及び第1表に示す。残部は窒素である。また、各実施例における窒素酸化物から窒素への変換率(除去率)は、ガスメット社製FTTRガス分析計にてNO、NO2及びN2Oの濃度分析を行って、これに基づいて算出した。
【0082】
(試験用ガス組成)
NO:500ppm
SO2:第1表
2:9%
CO:第1表
2:第1表
2O:6%
【0083】
【表1】

【0084】
第1表から明らかなように、本発明の触媒によれば、高い除去率にて窒素酸化物が除去されるが、比較例1から3の触媒によれば、概して、窒素酸化物の除去率が低い。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本発明による触媒であるロジウム担持ZSM−5の一例であって、ZSM−5上にクラスター状に担持されたロジウムを示す透過型電子顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リーン条件下で燃料を燃焼させて生成した窒素酸化物を含有する排ガスを一酸化炭素と水素の存在下、又は一酸化炭素と水素と硫黄酸化物の存在下に接触させて、その窒素酸化物を接触還元するための触媒であって、水、珪素源、アルミニウム源、ロジウム源、水酸化アルカリ金属及び水酸化アルカリ土類金属から選ばれる少なくとも1種の鉱化剤、アルカリ金属塩からなる塩析効果剤、酸からなる水素イオン濃度調節剤及びテトラエチルアンモニウム源及びテトラプロピルアンモニウム源から選ばれる少なくとも1種の型剤を含有する水性混合物を水熱処理した後、洗浄し、乾燥し、焼成することによって得られる、0.5〜5.0重量%のロジウムを担持したアルカリ金属(及びアルカリ土類金属)−ZSM−5を含む触媒。
【請求項2】
リーン条件下で燃料を燃焼させて生成した窒素酸化物を含有する排ガスを一酸化炭素と水素の存在下、又は一酸化炭素と水素と硫黄酸化物の存在下に接触させて、その窒素酸化物を接触還元するための触媒であって、水、珪素源、アルミニウム源、ロジウム源、水酸化アルカリ金属及び水酸化アルカリ土類金属から選ばれる少なくとも1種の鉱化剤、アルカリ金属塩からなる塩析効果剤、酸からなる水素イオン濃度調節剤及びテトラエチルアンモニウム源及びテトラプロピルアンモニウム源から選ばれる少なくとも1種の型剤を含有する水性混合物を水熱処理した後、洗浄し、乾燥し、焼成して、ロジウムを担持したアルカリ金属(及びアルカリ土類金属)−ZSM−5を得、次いで、このロジウムを担持したアルカリ金属(及びアルカリ土類金属)−ZSM−5のアルカリ金属(及びアルカリ土類金属)のアルカリ金属(及びアルカリ土類金属)をアンモニウムイオンとイオン交換した後、洗浄し、乾燥し、焼成することによって得られる、0.5〜5.0重量%のロジウムを担持したH−ZSM−5を含む触媒。
【請求項3】
アルカリ金属塩からなる塩析効果剤及び水を含有する水溶液に水素イオン濃度調節剤、型剤及びアルミニウム源を含有する水溶液と珪素源及び鉱化剤を含有する水溶液を加えて、混合物を得た後、この混合物にロジウム源を加えて水性混合物を得る請求項1又は2に記載の触媒。
【請求項4】
珪素源として水ガラスを用いると共に、塩析効果剤として塩化ナトリウムを用いる請求項1から3のいずれかに記載の触媒。
【請求項5】
水熱処理を温度140〜180℃の範囲の温度で行う請求項1又は2に記載の触媒。
【請求項6】
リーン条件下で燃料を燃焼させて生成した窒素酸化物を含有する排ガスを一酸化炭素と水素の存在下、又は一酸化炭素と水素と硫黄酸化物の存在下に触媒に接触させて、その窒素酸化物を接触還元するための方法において、上記触媒が水、珪素源、アルミニウム源、ロジウム源、水酸化アルカリ金属及び水酸化アルカリ土類金属から選ばれる少なくとも1種の鉱化剤、アルカリ金属塩からなる塩析効果剤、酸からなる水素イオン濃度調節剤及びテトラエチルアンモニウム源及びテトラプロピルアンモニウム源から選ばれる少なくとも1種の型剤を含有する水性混合物を水熱処理した後、洗浄し、乾燥し、焼成することによって得られる、0.5〜5.0重量%のロジウムを担持したアルカリ金属(及びアルカリ土類金属)−ZSM−5を含むものである方法。
【請求項7】
リーン条件下で燃料を燃焼させて生成した窒素酸化物を含有する排ガスを一酸化炭素と水素の存在下、又は一酸化炭素と水素と硫黄酸化物の存在下に触媒に接触させて、その窒素酸化物を接触還元するための方法において、上記触媒が水、珪素源、アルミニウム源、ロジウム源、水酸化アルカリ金属及び水酸化アルカリ土類金属から選ばれる少なくとも1種の鉱化剤、アルカリ金属塩からなる塩析効果剤、酸からなる水素イオン濃度調節剤及びテトラエチルアンモニウム源及びテトラプロピルアンモニウム源から選ばれる少なくとも1種の型剤を含有する水性混合物を水熱処理した後、洗浄し、乾燥し、焼成して、ロジウムを担持したアルカリ金属(及びアルカリ土類金属)−ZSM−5を得、次いで、このロジウムを担持したアルカリ金属(及びアルカリ土類金属)ZSM−5のアルカリ金属(及びアルカリ土類金属)をアンモニウムイオンとイオン交換した後、洗浄し、乾燥し、焼成することによって得られる、0.5〜5.0重量%のロジウムを担持したH−ZSM−5を含むものである方法。
【請求項8】
アルカリ金属塩からなる塩析効果剤及び水を含有する水溶液に水素イオン濃度調節剤、型剤及びアルミニウム源を含有する水溶液と珪素源及び鉱化剤を含有する水溶液を加えて、混合物を得た後、この混合物にロジウム源を加えて水性混合物を得る請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
珪素源として水ガラスを用いると共に、塩析効果剤として塩化ナトリウムを用いる請求項6から8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
水熱処理を温度140〜180℃の範囲の温度で行う請求項6又は7に記載の方法。
【請求項11】
排ガスが0.1〜1.5%の一酸化炭素と0.1〜0.5%の水素を含有するものである請求項6又は7に記載の方法。
【請求項12】
排ガスが0.1〜1.5%の一酸化炭素と0.1〜0.5%の水素と1ppm以下の硫黄酸化物を含有するものである請求項6又は7に記載の方法。
【請求項13】
排ガスを温度200〜500℃、空間速度5000〜150000h-1 にて触媒に接触させる請求項6、7、11又は12のいずれかに記載の方法。


【図1】
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【公開番号】特開2009−183925(P2009−183925A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−29828(P2008−29828)
【出願日】平成20年2月11日(2008.2.11)
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】