説明

排ガス分析システム及び排ガス分析方法

【課題】車両運転中にエンジン回転が停止する車両の排ガス分析において、当該エンジンの停止による問題点を一挙に解決する。
【解決手段】排ガス流路300に一端が開口し、排ガス分析機器2に他端が接続された排ガス導入配管3と、排ガス導入配管3により排ガスをサンプリングして分析機器2に導くサンプリング経路L1及び大気を導入して分析機器2に導く大気導入経路L2を選択的に切り替える切り替え機構4とを分析機器2の上流に備え、分析機器2への経路を、エンジン運転時は切り替え機構4によりサンプリング経路L1とし、エンジン停止時は切り替え機構4により大気導入経路L2とすることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン(内燃機関)からの排ガスをサンプリングして分析する排ガス分析システム及び排ガス分析方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ハイブリッド車やアイドリングストップ車の増加に伴い、運転中にエンジンが停止する車両の排ガス計測を行われるようになっている。
【0003】
ここで従来の排ガス分析装置としては、特許文献1に示すように、エンジンの排ガスが流れるテールパイプからダイレクトに排ガスをサンプリングして排ガス分析装置に導入するものがある。
【0004】
しかしながら、この排ガス分析装置を用いて上記のハイブリッド車などの排ガス計測を行う場合には、エンジンが停止した場合においても排ガス分析装置のポンプによる吸引が行われてしまう。そうすると、エンジンを含むテールパイプ内に本来とは異なるガスの流れが生じてしまい、例えばテールパイプ内に設けられた触媒の温度が変化してしまう、あるいはエンジンの排気ポートの圧力が低下してしまう等の不具合が生じる恐れがある。
【0005】
このときエンジンの停止と同時に排ガス分析装置のポンプを停止して計測を停止することが考えられるが、ポンプを停止した場合には、ポンプの惰性によりガス吸引が瞬時に停止せずに、エンジンやテールパイプ等の配管内が陰圧となり、エンジン条件が変化したり、分析装置のポンプ自体に負荷がかかり、あるいはガスが不用意に流れたりするなどの問題がある。また、排ガス分析装置測定のポンプの停止後、エンジン始動と同時にポンプを起動するとポンプなどの立ち上がりの遅れが懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−139340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明は、車両運転中にエンジン回転が停止する車両の排ガス分析において、当該エンジンの停止による問題点を一挙に解決することをその主たる所期課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち本発明に係る排ガス分析システムは、エンジンからの排ガスが流れる排ガス流路に一端が開口し、分析機器に他端が接続された排ガス導入配管と、前記排ガス導入配管により排ガスをサンプリングして前記分析機器に導くサンプリング経路及び大気を導入して前記分析機器に導く大気導入経路を選択的に切り替える切り替え機構とを前記分析機器上流に備え、前記分析機器への経路を、前記エンジンの運転時は前記切り替え機構により前記サンプリング経路とし、前記エンジンの停止時は前記切り替え機構により大気導入経路とすることを特徴とする。
【0009】
このようなものであれば、切り替え機構によりエンジンが運転(回転)状態にある時はサンプリング経路とし、エンジン停止時は大気導入経路としているので、分析機器を動作させたままであっても、排ガス流路から排ガス導入配管にガスが吸引されることがない。これにより、エンジン停止時における排ガス流路における不意のガス流れ、触媒の温度変化、排気ポートの圧力低下などの問題点を解消することができる。また、エンジン停止時であっても分析機器のポンプを停止する必要がないので、ポンプ起動時の立ち上がり又はポンプ停止時の惰性による問題点も解消することができる。
【0010】
この排ガス分析システムの構成を簡略化するとともにコストを削減して安価にするだけでなく、操作を簡単にするためには、前記排ガス導入配管が、一端が前記排ガス流路に開口した上流側配管と、他端が前記分析機器に接続された下流側配管とを有し、前記切り替え機構が、第1のポートに前記上流側配管が接続され、第2のポートに前記下流側配管が接続され、第3のポートが大気開放された三方弁であることが望ましい。
【0011】
またエンジンの運転又は停止に応じて自動で切り替え機構を制御できるようにするためには、前記エンジンが運転状態にあるか(回転しているか)否かを示すエンジン動作関連信号を受け付けた制御装置が、前記切り替え機構を制御することが望ましい。
【0012】
また本発明に係る排ガス分析方法は、エンジンからの排ガスが流れる排ガス流路に一端が開口し、分析機器に他端が接続された排ガス導入配管と、前記排ガス導入配管により排ガスをサンプリングして前記分析機器に導くサンプリング経路及び大気を導入して前記分析機器に導く大気導入経路を選択的に切り替える切り替え機構とを前記分析機器上流に設け、前記分析機器への経路を、前記エンジンの運転時は前記切り替え機構により前記サンプリング経路とし、前記エンジンの停止時は前記切り替え機構により前記大気導入経路とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
このように構成した本発明によれば、エンジン停止時における排ガス流路における不意のガス流れ、触媒の温度変化、排気ポートの圧力低下などの問題点を解消することができる。また分析機器のポンプを停止する必要がないので、ポンプ起動時の立ち上がり又はポンプ停止時の惰性による問題点も解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施形態の排ガス分析システムの構成を概略的に示す図。
【図2】同実施形態のサンプリング経路及び大気導入経路を示す図。
【図3】変形実施形態に係る切り替え機構を示す図。
【図4】その他の排ガス分析システムの構成を概略的に示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明に係る排ガス分析システムの一実施形態について図面を参照して説明する。
【0016】
本実施形態に係る排ガス分析システム100は、エンジンダイナモ200に搭載されたエンジンからの排ガスを分析するものである。
【0017】
具体的にこのものは、図1に示すように、エンジンEの排ガスを分析する分析機器である排ガス分析装置2と、エンジンダイナモ200に搭載されたエンジンEの排ガスが流れる排ガス流路300に一端が開口し、排ガス分析装置2に他端が接続された排ガス導入配管3と、この排ガス導入配管3に設けられ、当該排ガス導入配管3により排ガスをサンプリングするサンプリング経路L1及び大気を導入する大気導入経路L2を選択的に切り替える切り替え機構4と、この切り替え機構4を制御する制御装置5とを備えている。なお、前記排ガス導入配管3、切り替え機構4及び制御装置5により排ガスサンプリング装置が構成される。
【0018】
排ガス分析装置2は、排ガス中に含まれる測定成分の濃度を測定するものであり、例えばNDIR法によりCO、CO、FID法によりTHC、CLD法によりNOの濃度を測定する。
【0019】
また、排ガス流路300において、排ガス導入配管3の一端開口(サンプリングポイント)に対する上流側及び下流側にはそれぞれ、排ガスを浄化するための排ガス浄化触媒が設けられている。
【0020】
本実施形態の切り替え機構4は、排ガス導入配管3に設けられた三方電磁弁により構成されている。この三方電磁弁4は、排ガス導入配管3を構成する上流側配管31が接続される上流側ポート(第1のポート)P1と、排ガス導入配管3を構成する下流側配管32が接続される下流側ポート(第2のポート)P2と、大気開放された大気開放ポート(第3のポート)P3とを有する。なお、上流側配管31の上流側開口が前記排ガス流路300内に開口している。また下流側配管32の下流側が排ガス分析装置2のガス導入ポートに接続されている。その他、大気開放ポートP3に大気開放された配管を接続しても良い。
【0021】
この三方電磁弁4は、後述する制御装置5により制御されて、図2に示すように、上流側ポートP1及び下流側ポートP2が連通するサンプリング経路L1(図2(A)参照)と、大気開放ポートP3及び下流側ポートP2が連通する大気導入経路L2(図2(B)参照)とを選択的に切り替える。三方電磁弁4は、切り替えの応答性を良くするために、サンプリングポイントに近い方が望ましく、本実施形態では排ガス導入配管3において排ガス流路300を形成する配管の外側近傍に設けている。
【0022】
制御装置5は、CPU、メモリ、I/Oチャネル、A/Dコンバータ等を備えた専用乃至汎用のコンピュータであり、前記メモリに記憶させた制御プログラムにしたがってCPU及びその周辺機器が協働することにより、エンジンEの運転/停止に併せて前記切り替え機構である三方電磁弁4を切り替えるものである。
【0023】
具体的に制御装置5は、エンジンEが運転状態にある時は三方電磁弁4を制御することによってサンプリング経路L1とし、エンジンEの停止時は三方電磁弁4を制御することによって大気導入経路L2とする。これにより、エンジンEの運転(回転)時はサンプルが排ガス分析装置2に導入され、エンジンEの停止時は、大気が排ガス分析装置2に導入される。
【0024】
この制御装置5は、エンジンE又は当該エンジンEの周辺装置から得られるエンジン動作関連信号に基づいて前記三方電磁弁4を切り替え制御する。エンジン動作関連信号は、内燃機関が運転状態にあるか、すなわちエンジンEが回転しているか否か(エンジンEの運転(ON)/停止(OFF))を示す信号であり、例えば、エンジンEの回転数を検出するピックアップセンサから得られる検出信号、エンジンEの点火信号、エンジンEの振動又は騒音を解析して得られるエンジン回転数信号、周辺装置であるエンジンダイナモ200から得られるエンジン回転数信号、排ガス流路300を流れる排ガス流量を検出する流量センサから得られる排ガス流量信号、エンジンEの吸気流量を検出する流量センサから得られる吸気流量信号などである。
【0025】
そして、制御装置5は、上記のエンジン動作関連信号を取得して、エンジンEが回転しているか否か(エンジンEのON/OFF)を判断し、エンジンEがOFFであると判断した場合には、三方電磁弁4を切り替えて大気導入経路L2とする。一方、制御装置5は、エンジンEがONであると判断した場合には、三方電磁弁4を切り替えてサンプリング経路L1とする。
【0026】
なお、エンジン動作関連信号として上記の信号を用いた場合には、実際のエンジン運転に対して切り替えタイミングが遅くなってしまう場合がある。この場合にはエンジン動作関連信号として、別途エンジン始動信号を用いても良い。また、例えばアイドリングストップ車のようにテストモードの区間でエンジンEのON/OFFがはっきりしているような場合にはテストモードを解析して得られた解析信号をエンジン動作関連信号として用いて、エンジンEがON/OFFになるべきタイミングで切り替え機構4を切り替えてサンプリング経路L1/大気導入経路L2を切り替えることも可能である。
【0027】
このように構成した本実施形態に係る排ガス分析装置100によれば、三方電磁弁4によりエンジン運転時はサンプリング経路L1とし、エンジン停止時は大気導入経路L2としているので、排ガス分析装置2を動作させたままであっても、排ガス流路300から排ガス導入配管3にガスが吸引されることがない。これにより、エンジン停止時における排ガス流路300における不意のガス流れ、触媒の温度変化、排気ポートの圧力低下などの問題点を解消することができる。
【0028】
また、エンジン停止時であっても排ガス分析装置2のポンプを停止する必要がないので、ポンプ起動時の立ち上がり又はポンプ停止時の惰性による問題点も解消することができる。
【0029】
さらに、三方電磁弁4を用いていることから、排ガス分析装置100の構成を簡略化するとともにコストを削減して安価にするだけでなく、操作を簡単にすることができる。
【0030】
その上、三方電磁弁4を設けることにより、排ガスをサンプリングしない暖機モードのような場合に、排ガス分析装置2側からガスを逆流させて排ガス導入配管3をパージすることができる。また長時間の測定を行う場合において途中でパージが必要な状況であっても、エンジンE側の影響を与えることなくパージすることができる。
【0031】
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0032】
エンジンの停止又は運転に合わせて測定を停止又は開始する場合、そのタイミングが重要である。排ガスサンプリングを行う排ガス分析システム100の場合は、サンプリングポイントから分析機器2までに排ガスが流れる遅れ時間も排出量演算の精度向上のために重要となる。遅れ時間は分析機器2の種類や配管長により異なるため、成分ごとに遅れ時間を計測して、排出量の演算時に遅れ時間補正を行うことが望ましい。
【0033】
この遅れ時間を計測するためには、例えば排ガス導入配管の上流側開口に、成分濃度既知の標準ガス等を供給して、切り替え機構をサンプリング経路に切り替える。この切り替えタイミングと、分析機器の指示の立ち上がりタイミングを比べることで測定開始時の遅れ時間が分かる。同様に、濃度既知の標準ガス等を流した状態で、切り替え機構を大気導入経路に切り替える。この切り替えタイミングと、分析機器の指示の立ち下がりを比べることで測定停止時の遅れ時間が分かる。なお、成分濃度既知の標準ガスを供給する供給機構を別途設けることなく、エンジンを定常状態にして排ガス濃度を一定にすることで同様の遅れ時間の計測を行うことができる。
【0034】
また前記実施形態では、切り替え機構4が三方電磁弁であり、制御装置5がエンジン動作関連信号を取得して自動的に三方電磁弁4を切り換えるものであったが、ユーザが制御装置5を操作することによって三方電磁弁4を切り替えるようにしても良い。
【0035】
また切り替え機構4を三方弁から構成し、ユーザが手動で三方弁を切り替えるように構成しても良い。
【0036】
さらに前記実施形態の排ガス分析装置は、分析機器として排ガス分析装置2を用いたものであったが、その他PM分析装置を用いたものであっても良い。
【0037】
その上、切り替え機構4として、図3に示すように、排ガス導入配管3から分岐した大気開放配管41を設け、その分岐点Pよりも上流側にそれぞれ開閉弁42、43を設けて構成しても良い。
【0038】
加えて、排ガス分析装置100を用いて排ガス流路300上に設けられた排ガス浄化触媒の上流側及び下流側それぞれから排ガスをサンプリングし、そのサンプリングした排ガスを分析することで触媒の浄化効率を分析するようにしても良い。この場合、排ガス分析装置100は、図4に示すように、排ガス浄化触媒の上流側から排ガスをサンプリングする第1排ガス導入配管3Aと、排ガス浄化触媒の下流側から排ガスをサンプリングする第2排ガス導入配管3Bとを備えており、第1排ガス導入配管3A及び第2排ガス導入配管3Bそれぞれにサンプリング経路L1及び大気導入経路L2の間で選択的に切り替える切り替え機構4A、4Bが設けられている。
【0039】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0040】
100・・・排ガス分析システム
300・・・排ガス流路
2 ・・・排ガス分析装置(分析機器)
3 ・・・排ガス導入配管
L1 ・・・サンプリング経路
L2 ・・・大気導入経路
4 ・・・切り替え機構(三方電磁弁)
5 ・・・制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンからの排ガスが流れる排ガス流路に一端が開口し、分析機器に他端が接続された排ガス導入配管と、
前記排ガス導入配管により排ガスをサンプリングして前記分析機器に導くサンプリング経路及び大気を導入して前記分析機器に導く大気導入経路を選択的に切り替える切り替え機構とを前記分析機器上流に備え、
前記分析機器への経路を、前記エンジンの運転時は前記切り替え機構により前記サンプリング経路とし、前記エンジンの停止時は前記切り替え機構により大気導入経路とすることを特徴とする排ガス分析システム。
【請求項2】
前記排ガス導入配管が、一端が前記排ガス流路に開口した上流側配管と、他端が前記分析機器に接続された下流側配管とを有し、
前記切り替え機構が、第1のポートに前記上流側配管が接続され、第2のポートに前記下流側配管が接続され、第3のポートが大気開放された三方弁である請求項1記載の排ガス分析システム。
【請求項3】
前記エンジンが運転状態にあるか否かを示すエンジン動作関連信号を受け付けた制御装置が、前記切り替え機構を制御する請求項1又は2記載の排ガス分析システム。
【請求項4】
エンジンからの排ガスが流れる排ガス流路に一端が開口し、分析機器に他端が接続された排ガス導入配管と、前記排ガス導入配管により排ガスをサンプリングして前記分析機器に導くサンプリング経路及び大気を導入して前記分析機器に導く大気導入経路を選択的に切り替える切り替え機構とを前記分析機器上流に設け、
前記分析機器への経路を、前記エンジンの運転時は前記切り替え機構により前記サンプリング経路とし、前記エンジンの停止時は前記切り替え機構により前記大気導入経路とすることを特徴とする排ガス分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−137374(P2012−137374A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−289654(P2010−289654)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)
【Fターム(参考)】