説明

排ガス浄化用触媒

【課題】低温領域で優れた酸化還元能を示し、且つ還元雰囲気下で劣化した後の酸化活性の低下を抑えた排ガス浄化用触媒を提供すること。
【解決手段】セリウム、ジルコニウム、ビスマス、及びビスマスよりもイオン化エネルギーが高く且つ融点が1000℃以上の金属元素を含む複合酸化物を有する排ガス浄化用触媒。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス浄化用触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用エンジン等の内燃機関からの排ガス中には、窒素酸化物(NO)、一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)等の有害物質が含まれる。そこで一般に、排ガス中のCO及びHCを酸化するとともにNOを還元する排ガス浄化触媒を用い、排ガスを浄化してから大気中に放出している。排ガス浄化触媒の代表的なものとしては、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)等の貴金属を活性アルミナ等の多孔質金属酸化物担体に担持させた三元触媒が知られている。
【0003】
ここで、三元触媒に関して低温領域での酸化還元能の向上は、早急に解決しなければならない課題である。エンジン始動直後などにおいては触媒が活性温度に達していない低温領域にあり、この状態では未燃焼の炭化水素などが外部へ排出される虞がある。
【0004】
特に、アルコール混合燃料を使用する自動車(Flexible-fuel vehicle、以下FFVと呼ぶ)では、ガソリンと比較してアルコールの発熱量が小さいことから、エンジン始動直後における触媒の温度上昇が緩やかである。そのためFFVに用いる触媒については、低温領域での酸化還元能の向上が特に急務な課題となっている。
【0005】
FFV及びガソリンエンジン車用の排ガス浄化触媒としては、酸化セリウムと酸化ジルコニウムとの複合酸化物に白金、パラジウム、ロジウム等の貴金属を担持した触媒が実用化され、一般に使用されている。酸化セリウムやセリウム−ジルコニウム複合酸化物は、酸化セリウムによる良好な酸素吸収・放出能を示し、触媒温度が300℃以上で酸化還元能を示す。
【0006】
しかしながら、酸化セリウムやセリウム−ジルコニウムの複合酸化物は、触媒温度が300℃未満の低温領域で酸化還元能が充分ではない。そこで、セリウム−ジルコニウム複合酸化物に第3成分として複数の酸化数をとる遷移金属を添加した複合酸化物が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。特にビスマスを第3成分として添加した複合酸化物を有する排ガス浄化用触媒では、触媒温度が300℃未満という低温領域で酸化活性が向上するとされている。
【0007】
また、更に低温領域で酸化還元能を発揮するよう、セリウム−ジルコニウム−ビスマスの複合酸化物に第4成分として銀を添加したセリウム−ジルコニウム−ビスマス−銀の4元系複合酸化物が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−238159号公報
【特許文献2】特開2005−281021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献1に記載のセリウム−ジルコニウム−ビスマス複合酸化物を有する排ガス浄化用触媒に対して自動車の排ガスを模擬した高温の還元性ガスを用いて耐久試験を行うと、酸化活性が低下することが明らかとなった。
また、上記特許文献2に記載の技術では、セリウム−ジルコニウム−ビスマス複合酸化物に第4成分として銀を添加しているが、この複合酸化物を有する排ガス浄化用触媒であっても高温の還元性ガスを用いて耐久試験を行うと酸化活性が低下することが明らかとなった。
【0010】
本発明はこのような従来の事情に鑑みてなされたものであり、低温領域で優れた酸化還元能を示し、且つ還元雰囲気下で劣化させた後での酸化活性の低下を抑えた排ガス浄化用触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に係る発明は、セリウム、ジルコニウム、ビスマス、及びビスマスよりもイオン化エネルギーが高く且つ融点が1000℃以上の金属元素を含む複合酸化物を有する排ガス浄化用触媒である。
【0012】
請求項2に係る発明は、前記金属元素が白金である請求項1に記載の排ガス浄化用触媒である。
【0013】
請求項3に係る発明は、前記複合酸化物を該複合酸化物以外の金属酸化物に担持してなる請求項1又は請求項2に記載の排ガス浄化用触媒である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、低温領域で優れた酸化還元能を示し、且つ還元雰囲気下で劣化した後の酸化活性の低下を抑えた排ガス浄化用触媒を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】還元雰囲気下で劣化させた後の一酸化炭素(CO)の酸化活性について、実施例と比較例の試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の排ガス浄化用触媒は、セリウム、ジルコニウム、ビスマス、及びビスマスよりもイオン化エネルギーが高く且つ融点が1000℃以上の金属元素を含む複合酸化物(以下「本発明の複合酸化物」と称する)を有する。
【0017】
本発明者は、セリウム−ジルコニウム−ビスマス複合酸化物について高温の還元性ガスを含む雰囲気下で劣化させた後、未燃の炭化水素(HC)や一酸化炭素(CO)に対する酸化活性が低下するという問題を見出した。この原因を鋭意研究によって検討したところ、複合酸化物を構成する物質のイオン化エネルギーに起因しているものと推測した。
【0018】
下記表1に示すように、ビスマスはセリウムやジルコニウムに比べてイオン化エネルギーの高い金属元素である。イオン化エネルギーが高い金属元素ほどイオンになり難く、よって酸素と結合するという酸化反応は起こり難い。つまり、イオン化エネルギーの高い金属の酸化物ほど、還元雰囲気下で酸素を放出して金属に戻り易いことを意味する。よって、酸化ビスマスは、酸化セリウムや酸化ジルコニウムに比べて、還元性ガスによって金属ビスマスに還元され易い物質であると考えられる。
【0019】
【表1】

【0020】
更に還元された金属状態のビスマスは、融点が271.5℃と比較的低いため排ガス温度で融解し、その後蒸散して、最終的には酸化物中のビスマス量が減少していると考えられる。結果、触媒である複合酸化物の組成が当初の組成から変化し、酸化活性が低下するものと推測される。
【0021】
そこで、本発明の排ガス浄化用触媒では、ビスマスよりもイオン化エネルギーの高い金属元素(以下「第四成分の金属元素」と称する)を含む複合酸化物を用いて、還元雰囲気下で劣化させた後の低温領域における酸化活性の低下を抑える。
この複合酸化物では、酸化ビスマスの還元よりも優先して第四成分の金属元素の酸化物が還元される。第四成分の金属元素の酸化物が優先的に還元されることによって、酸化ビスマスは還元され難くなり、ビスマスは複合酸化物中で酸化物として安定的に存在する。これにより、還元雰囲気下で劣化させた後の低温領域におけるHCやCOに対する酸化活性の低下が抑えられる。
【0022】
なお上述の特許文献2に記載の技術のように、ビスマスよりもイオン化エネルギーの高い銀を第4成分として添加しても、還元雰囲気下で劣化させた後の低温領域における酸化活性は低下するという課題は解決されないことが、本発明者の鋭意研究の結果によって明らかとなった。
これは、セリウム−ジルコニウム−ビスマス−銀複合酸化物では、酸化ビスマスの還元反応よりも酸化銀の還元反応が優先して起こるため、ビスマス量の減少は抑えられるものの、銀の融点が962℃と低いため1000℃以上で使用すると銀が蒸散することに起因すると推測される。この複合酸化物の当初の組成は、セリウム−ジルコニウム−ビスマス−銀複合酸化物であり、その後酸化銀の還元反応により、セリウム−ジルコニウム−ビスマス−複合酸化物と銀との混合物となる。還元された金属状態の銀は酸化反応の活性点として機能するため、セリウム−ジルコニウム−ビスマス−複合酸化物と銀との混合物では、酸化活性の低下が抑えられているが、銀が蒸散すると銀による活性点が消失するため、触媒としての酸化活性が低下すると推測される。
【0023】
そこで、還元された後の金属状態の第四成分の金属元素は、安定して複合酸化物に存在し、酸化還元反応の活性点として機能することが、酸化活性の低下を抑える観点から重要である。そこで、本発明では、第四成分の金属元素は、金属状態において1000℃以上の融点を有するものとする。
【0024】
このような第四成分の金属元素としては、白金、鉄、パラジウム、ロジウム、金及びイリジウムなどが挙げられ、還元後の金属状態で酸化活性点として効果的に機能する観点から、白金であることが好適である。
【0025】
このように、本発明の複合酸化物は酸化セリウム−酸化ジルコニウム−酸化ビスマスを含むため、良好な酸素吸蔵・放出能を示し、低温領域でも優れた酸化還元能を示す。更に、本発明の複合酸化物を有する排ガス浄化用触媒は第四成分の金属元素の酸化物を含むため、還元雰囲気下における複合酸化物中のビスマス含有量の減少が抑制され、還元雰囲気に晒されてもCOやHCに対する低温領域での酸化活性の低下が抑えられる。
【0026】
また、本発明の効果を損なわない範囲で、本発明の複合酸化物は他の金属元素を含んでいてもよい。このような他の金属元素としては、例えば、スカンジウム、イットリウム、ランタン、プラセオジウム、ネオジウム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム等の希土類金属のほか、チタン、ハフニウム、バナジウム、クロム、マンガン、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、モリブデン、タングステン、インジウム、スズ、アンチモン、タンタル等が挙げられる。これらは1種又は2種以上で用いることができる。
このような他の金属元素は、原料物質であるセリウム化合物、ジルコニウム化合物、ビスマス化合物、第四成分の金属元素化合物の中の不純物に由来して含まれているものであってもよい。
【0027】
よって、本発明の複合酸化物は、CeZrBiで表される化合物である。ここで、Mは本発明における第四成分の金属元素を表し、Mは上記他の金属元素を表す。より好適な本発明の複合酸化物は、CeZrBiPtで表される化合物である。
【0028】
本発明の複合酸化物中のビスマスの含有率(上記組成式中のw)は、0.05以上0.4以下であることが好ましく、0.1以上0.3以下であることがより好ましく、0.15以上0.2以下であることが更に好ましい。
【0029】
また、本発明の複合酸化物中の第四成分の金属元素の酸化物の含有率(上記組成式中のx)は、0.05以上0.2以下であることが好ましく、0.05以上0.15以下であることがより好ましく、0.08以上0.12以下であることが更に好ましい。
【0030】
本発明の複合酸化物中のセリウムの含有率(上記組成式中のu)は、0.1以上0.9以下であることが好ましく、0.3以上0.8以下であることがより好ましく、0.5以上0.7以下であることが更に好ましい。
本発明の複合酸化物中、ジルコニウムの含有率(上記組成式中のv)は、0.01以上0.5以下であることが好ましく、0.05以上0.3以下であることがより好ましく、0.1以上0.2以下であることが更に好ましい。
【0031】
本発明の複合酸化物中の酸素の含有率(上記組成式中のz)は、1.5以上2.0以下であることが好ましく、1.6以上1.95以下であることがより好ましく、1.7以上1.9以下であることが更に好ましい。
【0032】
本発明の複合酸化物中の他の金属元素Mの含有率(上記組成式中のy)は、他の金属元素の種類にもよるが、0以上0.5以下であることが好ましく、0以上0.2以下であることがより好ましく、0以上0.1以下であることが更に好ましい。
【0033】
上記組成式において、u、v、w、x、y及びzの大小関係は、z>u>w>v>x>yであることが好ましい。
【0034】
本発明の複合酸化物の各構成元素は、全てが複合化している場合に上記作用が最大限に発揮されるが、少なくとも一部が複合体を形成している場合でも上記作用を得ることができる。複合酸化物として存在しているか否かは、例えばX線回折やラマンスペクトル測定により確認することができる。
【0035】
本発明の複合酸化物は、当業者に公知の任意の方法によって調製することができる。例えば、固相反応法、沈殿法、共沈法、均一沈殿法、水熱合成法、加水分解法、化学気相輸送法、熱分解法、噴霧乾燥法、スパッタ法、ガス中蒸発法、マイクロエマルジョン法、エマルジョン法、レーザー合成法等を挙げることができる。更に具体的な製造方法の例を以下で説明するが、これらの製造方法に限定されない。
【0036】
共沈法では、セリア、ジルコニウム、ビスマス及び第四成分の金属元素(白金等)のイオンを含む混合溶液に、沈殿剤を加えて共沈させ、それを分離、洗浄、乾燥後、焼成して複合酸化物を得る。
加水分解法では、セリア、ジルコニウム、ビスマス及び第四成分の金属元素を含む混合アルコキシド溶液を調製し、この混合アルコキシド溶液に脱イオン水を加えて加水分解し、この加水分解生成物を熱処理する。
固相反応法では、セリア、ジルコニウム、ビスマス及び第四成分の金属元素の塩や酸化物をボールミル等により機械的に混合し、得られた混合物を焼成して複合酸化物を製造する。
【0037】
本発明の複合酸化物を構成するセリア、ジルコニウム、ビスマス及び第四成分の金属元素の原料物質としては、酸化物、水酸化物、塩化物、硫酸塩、硝酸塩、塩酸塩、リン酸塩、硝酸アンモニウム塩などの無機塩;酢酸塩、炭酸塩、シュウ酸塩、クエン酸塩などの有機塩;アルコキシド;アセチルアセトナト錯体;及び各種有機金属化物を使用することができる。
【0038】
沈殿法や共沈法で使用する沈殿剤としては、アルカリ水溶液、有機酸、β−ジケトン、シクロポリエンが用いられる。前記アルカリ水溶液としては、炭酸ナトリウム水溶液、アンモニア水溶液、炭酸アンモニウム水溶液が挙げられ、有機酸としては、有機スルホン酸や、シュウ酸、クエン酸などの有機カルボン酸が挙げられる。
【0039】
なお、沈殿法や共沈法とは、沈殿剤との反応によって溶剤から沈殿する方法のほか、溶液のpHを適宜に調節することによって沈殿させる方法や、更には、溶剤を除去することによって反応生成物を得る方法も含むものとする。
【0040】
加水分解法で使用するアルコキシドとしては、セリア、ジルコニウム、ビスマス及び第四成分の金属元素のメトキシド、エトキシド、プロポキシド、ブトキシドなどやこれらのエチレンオキサイド付加物などが挙げられる。
【0041】
溶剤は、原料物質を溶解させるものであり、沈殿法や共沈法では原料物質と沈殿剤との反応によって沈殿物を形成するような溶剤が適宜選ばれる。このような溶剤としては、通常、水が好ましく用いられ、場合によっては、非水溶剤、例えば、アルコールや有機カルボン酸エステル等を用いてもよい。
【0042】
溶媒を用いる製造方法では、得られた共沈物、沈殿物、加水分解生成物等は、濾過洗浄した後、好ましくは約50〜200℃で約1〜48時間乾燥する。
また、溶媒の使用の有無に拘らず、複合酸化物の製造のため焼成を行なう。焼成温度は約350〜1200℃が好ましく、より好ましくは400〜1000℃である。焼成の加熱時間は、約0.5〜12時間の範囲である。
【0043】
更に、上記製造工程において沈殿剤を加える際に、あらかじめ添加剤として界面活性剤を加えてもよい。界面活性剤の添加により沈殿が微細で均一化されるため、その後の焼成工程で各陽イオンの拡散が促され、最終的に得られる複合酸化物の結晶性、均一性が向上し、低温における酸化還元能が著しく向上する場合がある。
【0044】
前記界面活性剤の種類としては、陽イオン性、陰イオン性、非イオン性界面活性剤が挙げられる。陽イオン性界面活性剤としては、アミン塩型及び/又は第4級アンモニウム塩型カチオン界面活性剤が挙げられ、具体的には例えば、ソロミンA、アーコベルA、ラウリルトリメチルアンモニウムハライド(クロライドまたはブロマイド。以下同様)、セチルトリメチルアンモニウムハライド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムハライド等が用いられる。また陰イオン性界面活性剤としては、石鹸、硫酸エステル塩、スルホン酸塩、リン酸エステル塩、ジチオリン酸エステル塩が挙げられ、具体的には例えば、ラウリン酸ナトリウム、ラウリルアルコール硫酸エステルナトリウム、エアロゾルOT等が用いられる。非イオン界面活性剤としては、多価アルコール型、及び/又はポリエチレングリコール型非イオン界面活性剤が挙げられ、具体的には例えば、Tween80、ノニルフェノールエチレンオキサイド10モル付加物等が挙げられる。
【0045】
前記界面活性剤のなかでも、第4級アンモニウム塩型カチオン界面活性剤が好ましく用いられ、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムハライドがより好ましく用いられる。
【0046】
また、上記製造工程の焼成時に表面処理剤を添加することにより、得られる複合酸化物を有する排ガス浄化用触媒の酸化還元能がさらに向上する場合がある。
前記表面処理剤としては、金属ハロゲン化物、ハロゲン化アルカリ、酸、アルカリ、含ハロゲン有機化合物等が用いられ、気体、固体、液体、溶融塩、溶液のうち少なくとも1つ以上の状態で上述の複合酸化物と接触させる。
【0047】
表面処理剤として具体的には、例えば、ハロゲン化アンモニウム、ハロゲン化リチウム、ハロゲン化カリウム、ハロゲン化ナトリウム、ハロゲン化カルシウム、ハロゲン化アルミニウム、ハロゲン化鉄、ハロゲン化ガリウム、ハロゲン化リン、ハロゲン化インジウム、炭酸アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸リチウム、炭酸水素リチウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、フッ酸、臭化水素酸、シュウ酸、クエン酸、ハロゲン水、ハロゲン酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア水、過酸化水素水、四ハロゲン化炭素、ホスゲン、ハロゲン化チオニル、およびこれらの水、アルコール、エーテル、ケトン、炭化水素溶液のうち、少なくとも1つ以上選ばれるものが使用される。
【0048】
前記ハロゲンとしては、フッ素、塩素、臭素、沃素等があげられるが、取り扱いの容易さや得られる表面改質効果を大きくするために、好ましくは塩素を含有する塩、溶液、塩素水、塩素酸、塩酸等が用いられる。
【0049】
上記表面改質は、複合酸化物を、上記表面処理剤に浸漬あるいは混合させ、複合酸化物表面の一部又は表面全体を化学処理した後、余分な表面処理剤を取り除くことが望ましい。余分な表面処理剤の除去は、焼成や溶剤によって洗浄し或いは昇華させるか、または気相錯体を形成する錯化剤を用い、生成した錯体を揮発させることにより行われる。
【0050】
余分な表面処理剤の除去に用いる溶剤としては、水、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アセトン、ジエチルエーテル、リグロイン、ヘプタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン等が用いられる。また、前記錯化剤としては、気相錯体を形成する金属ハロゲン化物、すなわちアルカリ金属ハロゲン化物、アルカリ土類金属ハロゲン化物、遷移金属ハロゲン化物、これらを含む多成分金属ハロゲン化物、およびこれらの混合物のいずれを用いられる。なかでも塩化アルミニウム、塩化カリウム、および塩化ナトリウムが好ましく用いられる。
【0051】
更に、表面処理後に得られた複合酸化物を、必要に応じて空気中において焼成処理を行ってもよい。このときの焼成温度は、上記複合酸化物の製造工程での焼成温度と同様である。
【0052】
本発明の複合酸化物の組成は、X線回折やラマンスペクトル測定により同定される。
【0053】
本発明の排ガス浄化用触媒は、上述の本発明の複合酸化物を活性アルミナ等の金属酸化物(以下「金属酸化物担体」と称する)に担持したものでもよい。なお、少なくとも複合酸化物の一部が金属酸化物担体に担持していれば、複合酸化物と金属酸化物担体とが単に混合している部分が存在していてもよい。
【0054】
金属酸化物担体の比表面積は、50m/g以上であることが好ましく、100m/g以上350m/g以下であることがより好ましい。担体の比表面積が上記範囲にあると、充分な触媒活性を発揮させるために必要な量の複合酸化物が担持される。なお、比表面積は吸着等温線からBET等温吸着式を用いてBET比表面積として算出することができる。
【0055】
このような金属酸化物担体としては、活性アルミナ、シリカアルミナ及びゼオライト等が挙げられ、活性アルミナの一種であるγ−アルミナが好適である。
【0056】
本発明の複合酸化物と金属酸化物担体とを含む排ガス浄化用触媒は、当業者に公知の任意の方法によって調製することができる。例えば、上記複合酸化物の調製において、原料物質の1つとしてγーアルミナ等の金属酸化物担体も更に添加した混合溶液を準備し、これを沈殿、共沈或いは加水分解させた後、得られた物質を加熱処理して調製することができる。
【0057】
本発明の複合酸化物と金属酸化物担体とを含む排ガス浄化用触媒において、本発明の複合酸化物の含有比率は、5質量%以上80質量%以下であることが好ましく、10質量%以上50質量%以下であることがより好ましく、15質量%以上30質量%以下であることが更に好ましい。
本発明の複合酸化物の含有比率が上記範囲内にあると、充分な低温活性を示し、且つ触媒中での複合酸化物の分散性に優れる。
【0058】
更に、本発明の排ガス浄化用触媒には、白金、パラジウム、ロジウム、金及びイリジウムからなる群より選択される少なくとも1種の貴金属、又は鉄、コバルト、ニッケル、モリブデン、タングステン、バナジウム、チタン及びニオブからなる群より選択される少なくとも1種の金属を担持してもよい。これらの貴金属又は金属は、酸化還元反応の活性点として機能する。
より高い触媒活性を示すという観点からは、白金、パラジウム、ロジウム、金及びイリジウムからなる群より選択される少なくとも1種の貴金属を担持することが好適である。
【0059】
上記貴金属又は金属は、本発明の複合酸化物を担体として担持される。また、本発明の複合酸化物と金属酸化物担体とを含む排ガス浄化用触媒の場合には、本発明の複合酸化物と金属酸化物担体の両者を担体として担持していてもよい。
【0060】
上記貴金属又は金属の担持は、当業者に公知の任意の方法によって行うことができる。
例えば白金を担持させる場合、白金源として白金の塩又は錯塩を用い、これを所定の濃度で含有する溶液(約1〜20質量%)に複合酸化物を含む担体を浸漬させ、その後、乾燥(約50〜200℃で約1〜48時間)及び焼成(400〜700℃で約1〜12時間)等することによって行う。
【0061】
上記貴金属又は金属の担持量は、本発明の排ガス浄化用触媒中、0.05質量%以上10質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上5質量%以下であることがより好ましい。
上記貴金属又は金属の担持量が上記範囲内にあると、これら貴金属又は金属によっても触媒活性が発揮され、また担持した貴金属又は金属の粒成長が抑えられる。
【0062】
本発明の排ガス浄化用触媒は、得られた複合酸化物(金属酸化物担持体を含有する場合を含む)の粉末を圧縮・粉砕してペレット状にしたものや、該粉末に所定のバインダを加えてスラリー化し、これをコージェライト製ハニカム構造状基材等の触媒基材上に付与したものとして使用される。
【0063】
前記触媒基材としては、モノリス状基材、ペレット状基材、プレート状基材等が好適に採用される。また、触媒基材の材質は特に制限されないが、コージェライト、炭化ケイ素、ムライト等のセラミックスからなる基材や、クロム及びアルミニウムを含むステンレススチール等の金属からなる基材が好適に採用される。
【0064】
本発明の排ガス浄化用触媒は、低温領域で優れた酸化還元能を示し、且つ還元雰囲気に晒されても、未燃の炭化水素や一酸化炭素に対する低温領域での酸化浄化率の低下が抑えられる。よって、本発明の排ガス浄化用触媒は、ガソリン燃料を使用する自動車は勿論、アルコール混合燃料を使用するFFVにおいても、優れた排ガス浄化作用を示す。
【実施例】
【0065】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0066】
[実施例1]
<触媒の作製>
硝酸セリウム7.05g、硝酸ジルコニウム1.09g、硝酸ビスマス2.46gの水溶液に、硝酸白金水溶液(白金0.55g)とγ−アルミナ21.9gを加え、そこにクエン酸11.5gの水溶液を攪拌しながら滴下した。次いで、80℃で5時間攪拌した後、更に室温(20℃)で2時間攪拌した。その後、水分をエバポレータで除去した後、80℃で12時間乾燥し、更に1000℃で1時間焼成した。こうして、白金の含有率が2質量%の複合酸化物を得た。得られた複合酸化物である粉末をペレット状に成形した。
【0067】
<複合酸化物の組成の同定>
複合酸化物の組成をX線回折測定によって同定したところ、Ce0.576Zr0.144Bi0.18Pt0.101.81であった。表2に触媒の組成を示す。
【0068】
<触媒活性の耐久試験>
得られたペレット触媒に、2容量%の一酸化炭素(CO)と98容量%の窒素(N)を混合した1000℃の還元性ガスを5時間流して、還元耐久処理を行なった。
その後、ペレット触媒をU字型の石英管に装填し、下記に示す組成のモデルガスを10L/分の流量で流通させながら、モデルガスの温度を室温(20℃)から280℃まで連続的に上昇させた。流通後のガス組成を市販の排ガス分析計によって連続的に測定し、その結果からペレット触媒のCO浄化率(%)を求めて触媒活性を評価した。結果を図1に示す。
【0069】
−モデルガス組成−(容量率)
CO:1200ppm
:800ppm
NOx:2400ppm
:0.35%
CO:14%
O:3%
:残部
【0070】
[比較例1]
<触媒の作製>
硝酸セリウム7.81g、硝酸ジルコニウム1.20g、硝酸ビスマス2.76gの水溶液に、γ−アルミナ20gを加え、そこにクエン酸11.5gの水溶液を攪拌しながら滴下した。次いで、80℃で5時間攪拌した後、更に室温(20℃)で2時間攪拌した。その後、水分をエバポレータで除去した後、80℃で12時間乾燥し、更に1000℃で1時間焼成した。
得られた粉末に白金の含有率が2質量%となるように硝酸白金の水溶液を加え、室温で1時間攪拌した。次いで、水分をエバポレータで除去した後、100℃で2時間乾燥し、更に500℃で2時間焼成した。得られた粉末をペレット状に成形した。
【0071】
<複合酸化物の組成の同定>
複合酸化物の組成をX線回折測定によって同定したところ、Ce0.64Zr0.16Bi0.201.9であった。表2に触媒の組成を示す。
【0072】
【表2】

【0073】
<触媒活性の耐久試験>
得られたペレット触媒に、2容量%の一酸化炭素(CO)と98容量%の窒素(N)を混合した1000℃の還元性ガスを5時間流して、還元耐久処理を行なった。その後、ペレット触媒に対して、実施例1と同様の方法で触媒活性を評価した。結果を図1に示す。
図1に示すように、実施例1の触媒は、比較例1の触媒に比べて、還元性ガスに長時間晒された後であっても低温領域での浄化性能に優れており、還元性ガスに対する耐久性が向上したことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セリウム、ジルコニウム、ビスマス、及びビスマスよりもイオン化エネルギーが高く且つ融点が1000℃以上の金属元素を含む複合酸化物を有する排ガス浄化用触媒。
【請求項2】
前記金属元素が白金である請求項1に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項3】
前記複合酸化物を該複合酸化物以外の金属酸化物に担持してなる請求項1又は請求項2に記載の排ガス浄化用触媒。

【図1】
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【公開番号】特開2010−260023(P2010−260023A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−114507(P2009−114507)
【出願日】平成21年5月11日(2009.5.11)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】