説明

排尿情報測定装置

【課題】
簡便かつ安価な構成で測定開始水位を精度良く創成することにより、精度良く排尿情報測定を実現することを可能とする。
【解決手段】
ボールに水を供給する給水手段は、水源から供給される水を貯留する給水貯留手段と、
前記給水貯留手段に貯留されている貯留水を前記ボール内に搬送する貯留水搬送手段と、を備え、
また、前記測定開始水位形成手段は、
前記ボール内の溜水を前記ボール外に排出させる水を前記貯留水搬送手段が搬送する動作を制御する第1搬送制御モードと、
前記ボール内の溜水の水位を前記測定開始水位に形成するための水を前記貯留水搬送手段が搬送する動作を制御する第2搬送制御モードと、を有した貯留水搬送制御手段を備え、
前記貯留水搬送制御手段は前記第1搬送制御モード実行が終了してから所定時間経過後に、前記第2搬送制御モードを実行することによって測定開始水位を形成することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水配管に接続されたトラップ管路と、サイホン現象を誘引するゼット吐水流を生じさせるために前記トラップ管路に設けられたゼット吐水手段とを有し、サイホン現象によって前記ボール内の溜水を排出する便器を用いた排尿情報測定装置において、
特に下水配管に接続された便器の衛生性を確保しつつ適切な測定開始水位を創成し、排尿情報測定準備時間に関して使用者が使い勝手の低下を感じさせないことに好適な排尿情報測定装置の制御方法に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
従来の排尿情報測定装置では、排尿前にボール内の溜水水位をトラップ管路の溢流水位より所定量低い水位に下げた後にボール内に排尿を行なって、排尿前後の溜水水位差を計測することによって尿量をはじめとする各種の排尿情報の測定を行なっている(例えば、特許文献1参照)。
このような場合、ボールを収集容器として利用することによって、排尿方向に個人差があっても排泄される全ての尿を回収できるため、性別や個人差に関係なく容易に排尿情報が測定できる反面、測定開始水位を創成するための準備動作に時間を要し、使用者にとってはこの準備動作が完了する間の時間が測定待ち時間となり、使い勝手が悪いという問題があった。
【0003】
そのため、測定のために使用者が便器内に排泄した排泄物を下水配管に排出した後に、トラップ内に再び封水を形成するために行なうリム給水動作時に、従来のトラップ溢流水位より低いの所定水位で停止したまま待機して次回の測定時の測定開始水位とすることによって、測定開始時のこの準備動作を不要とするものもある(例えば、特許文献2参照。)。
しかし、この場合もリム給水の水路開閉手段の動作特性に個体差があるため、排尿情報測定装置毎に個別調整が不可欠であること、また個別調整を実施しても現場の給水圧条件に変動があると、目標としている所定水位に測定開始水位を創成することができない。このように測定開始水位が変動すると、測定可能範囲量が変動するという問題があった。特に溜水の封水深が浅くなった場合には、下水配管内で発生した圧力変動でトラップの破封が発生し、トイレ内に悪臭が侵入する恐れもあった。
【0004】
【特許文献1】特開2005−009945号公報
【特許文献2】特開2006−126165号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記問題を解決するためになされたもので、本発明の課題は簡便な構成で測定開始水位を精度良く、短時間で創成する方法を示すものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために請求項1記載の発明によれば、
被験者の排泄物を受けるボールと、
前記ボールに水を供給する給水手段と、
前記給水手段からの給水を吐水することによって前記ボール内の溜水を前記ボール外に排出させるために前記ボール内に開口して設けられた吐水口と、
前記吐水口からの吐水によって前記ボールの溜水が排出させた後、前記溜水の水位を測定を開始する水位である測定開始水位に形成する測定開始水位形成手段と、
前記溜水の水位を計測する溜水水位計測手段と、
被験者の排泄物によって前記測定開始水位から変化する溜水の水位を前記溜水水位計測手段によって計測して得られる水位値より前記排泄物の排泄量を求める排尿情報算出手段と、
を備えた排尿情報測定装置において、
前記給水手段は、水源から供給される水を貯留する給水貯留手段と、
前記給水貯留手段に貯留されている貯留水を前記吐水口に連通する給水管路を介して前記ボール内に搬送する貯留水搬送手段と、を備え、
また、前記測定開始水位形成手段は、
前記ボール内の溜水を前記ボール外に排出させる水を前記貯留水搬送手段が搬送する動作を制御する第1搬送制御モードと、
前記ボール内の溜水の水位を前記測定開始水位に形成するための水を前記貯留水搬送手段が搬送する動作を制御する第2搬送制御モードと、を有した貯留水搬送制御手段を備え、
前記貯留水搬送制御手段は前記第1搬送制御モード実行が終了してから所定時間経過後に、前記第2搬送制御モードを実行することによって測定開始水位を形成することを特徴とすることにより
排泄物を下水配管に排出するための便器洗浄構成と、測定開始水位形成のための構成を制御方法の違いだけで兼用させられるため、水路構成の総コストを安く、かつコンパクトな構成とするを可能とした。
【0007】
また、請求項2記載の発明のよれば、
前記搬送動作時に前記貯留水搬送手段が搬送する水の単位時間当たりの量で表した給水率は、前記第2搬送制御モード時は前記第1搬送制御モード時より小さく設定されていることを特徴とすることにより、貯留水搬送手段の動作バラツキによる搬送水量のバラツキの絶対量も小さくなるため、形成される測定開始水位位置もより正確となることより、ボールの容積が小さくて測定領域範囲が狭い便器でも範囲の利用効率を上げて測定範囲を大きくすることが出来るため、装置全体の大きさをコンパクトに出来る。
【0008】
また、請求項3記載の発明のよれば、
前記ボールを下水配管に接続するとともに前記溜水が前記下水配管との空気の流通を遮断する封水を形成するトラップ部を有するトラップ管路を備え、
前記測定開始水位が、前記トラップ管路の破封水位より高く、且つ、溢流水位よりも低い所定水位であることを特徴とすることにより、
測定中は溜水が下水配管との空気の流通を遮断する封水の役割を果たすため、簡単な構成でトイレ内の衛生性を確保することができる。
【0009】
また、請求項4記載の発明のよれば、さらに前記貯留水搬送手段は、前記ボールの上縁部に設けられた便器リム吐水口に連通するリム迂回吐水管路を有し、前記第2搬送動作モードの実行時は前記リム迂回吐水管路も前記ボールに水を搬送することを特徴とすることにより、
測定開始水位創成のための給水によってボール内面の洗浄にも利用することができるため、便器のボール内面を清浄に保つことが可能となる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、便器として必要な便器洗浄のための構成を、排尿情報測定に必要な工程である測定開始水位形成に兼用させられるため、排尿情報測定装置の総コストが安くなる。
【0011】
また、測定開始水位を短時間で創成できるため、使用者は測定に際して使い勝手が良い。また測定開始水位が正確に創成されるため、測定性能を安定して期待できるだけでなく、トイレとしても衛生的な使用が期待できることになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1は本発明を実施した第1の実施例における排尿情報測定装置全体を示す斜視図である。図1を使用して、本実施例における排尿情報測定装置の全体構成について以下に述べる。
【0013】
本実施例における排尿情報測定装置1は、便器洗浄機能などの通常の便器機能を備えた大便器4と、大便器4に一体的に組み込まれた衛生洗浄装置7と、大便器4の背後に設置されたキャビネット18と、構成を収納したと、
被験者がそれらの各種の動作を指示する操作を行なったり、得られた測定結果等を表示するために壁に設けられた操作・排泄される尿の一部を直接採取して含まれる表示部70とで構成されている。
【0014】
大便器4は陶器製でありボールの上部には樹脂製の便座171及び便ふた172が回動自在に取り付けられている。また、本形態では、排泄する尿の特定成分の濃度等を測定するために排泄される尿の一部を直接採取する採尿手段91がボールの上縁部に設置されている。
【0015】
採尿手段91は、便器ボール内に伸出する採尿アーム312と、尿を直接受けてその一部を採取するために採尿アーム312先端に取り付けられた採尿容器911と、採尿アーム312の進退移動を行う駆動手段や採尿容器911内に採取される尿を吸引して尿成分測定部9に移送する機構を備えた駆動・移送部913と、を備えている。
【0016】
キャビネット18の内部には、被験者が大便器4に排泄する尿の量である尿量や単位時間当たりの排泄速度である尿流率等の尿量情報の測定を行うために溜水の水位変化を計測する機構部等を備えた尿量計測部50と、尿量計測部50の動作制御や情報処理等を行う尿量計測制御部60と、採尿手段91から送られてくる尿中の特定成分濃度等を計測する尿成分測定部9と、が収納されている。
【0017】
操作・表示部70は、排尿情報測定用のリモコン72と、衛生洗浄装置操作用のリモコン71と、排尿情報測定結果等を出力するプリンター73とを備えている。
【0018】
リモコン72は被験者がトレイに入室し、排尿情報を測定する時に操作するもので、測定開始を指示する測定開始スイッチと、排尿が終了したことを指示する排尿終了スイッチとが設置されている。さらに、リモコン72には被験者の測定履歴などの個人情報を取得するために必要な個人別スイッチやIDカードの読み込み手段等の個人認証手段、及び、電子データの入出力装置等が設けられている。
【0019】
測定結果はプリンター73を使用して被験者に開示されるようになっているが、リモコン72の表示部で被験者に開示しても良い。さらにまた、本排尿情報測定装置を医療機関に設置した場合は、複数の被験者データを看護師が所定の時刻にリモコン72を操作して、プリンター73からデータを取り出すことも考えられる。
【0020】
施工時やメンテナンス実施時の操作は、リモコン71またはリモコン72のスイッチに所定手順の操作を実施することで切替設定されるようになっている。切替方法としては、所定のスイッチを長時間押したりするものであり、施工時やメンテナンス実施時のみに実施される行為としては、溜水水位と溜水量の検量関係を記憶させたり、導圧配管に水を充填させるような行為である。
【0021】
図2は本発明を適用した排尿情報測定装置1の実施例の構成を示すブロック図である。
なお、ここで各構成要素を繋いでいる実線は水管路を示し、破線は水以外の情報等の接続経路を示す。
排尿情報測定装置1は大きくは便器部3と、排尿情報測定部5と、操作・表示部70と、に分かれている。便器部3と排尿情報測定部5とが分けられて構成されているのは、両者の製造拠点が異なることと、施工業者が異なることに配慮されている。即ち、複数の製造拠点で夫々梱包されて輸送されてきた両者は施行現場において、一般的には、給排水を担当する設備業者が便器部3の設置及び上下水道との接続を行ない、医療機器の施工工事を担当する業者が排尿情報測定部5を設置して便器部3と排尿情報測定部5とを結ぶ給排水配管と信号経路の接続を行なって排尿情報測定装置1を完成させた後に、排尿情報測定装置1のシステムとしての動作確認を実施することができるようにしている。そのために、この便器部3の動作と排尿情報測定部5の動作との連携を図る連係動作制御手段80が、この両者にまたがって設けられている。
【0022】
便器部3は、排泄物を受けてこれを下水配管に搬送する通常の便器としての機能を備えた大便器4と、大便器4に一体的に組み込まれ用便後の使用者の局部を洗浄するための衛生洗浄手段7aを備えた衛生洗浄装置7と、大便器4と衛生洗浄装置7の動作を制御する便器制御部40とで構成されている。
【0023】
大便器4は、被験者が排泄を行うボール20と、下水配管との連通を水封する溜水23をボール20に貯留するためにボール20に連接されたトラップ14と、ボール20への給水を行う便器給水手段30とを備え、トラップ14は排水ソケット15を介してトイレ室内に設けられた下水配管に連通する下水配管口16に接続されている。
【0024】
ボール20の内面には、リム吐水口21が上縁部に、ゼット吐水口22が下部に、夫々設けられており、いづれも便器給水手段30によって供給される水をボール20内に吐出させる開口部となっている。
【0025】
便器給水手段30は、リム吐水口21と、ゼット吐水口22とへそれぞれ水を供給するリム給水手段31とゼット給水手段32と、を備えている。
【0026】
ゼット給水手段32は、分岐金具131からの給水を貯留する給水貯留手段32aと、給水貯留手段32aに貯留された貯留水をボール20に送る貯留水搬送手段32bと、を備えている。
【0027】
外部の給水源から排尿情報測定装置1への給水は、装置給水手段12を経て、分岐金具131によってさらに、衛生洗浄手段7aと、大便器4のボール20に給水するリム給水手段31と、ゼット給水手段32と、に分岐された給水路で供給される。
【0028】
便器制御部40には、衛生洗浄手段7aと便器給水手段30の給水動作とを制御する給水制御手段41と、排尿情報測定装置1全体の連携動作を制御するために設けられた後述する連係動作制御手段80を構成する状態表示手段82a及び状態受信手段82bと、が設けられている。
【0029】
また、排尿情報測定部5は、尿量測定部6と、尿成分測定部9とで構成されており、尿量測定部6はさらに、溜水23の水位変化を計測するために必要な機構を備えた尿量計測部50と、尿量計測部50の動作の制御や得られた計測情報を加工し尿量等の測定情報の算出等を行なう尿量計測制御部60と、を備えている。
【0030】
尿量計測部50には、被験者の排泄による排尿量等を測定するために溜水23の水位変化を計測する溜水水位計測手段51と、下水配管内の圧力変動によって溜水23の水位が受ける影響量を計測する下水圧変動量計測手段52と、ボール20内の溜水23の水位と水量との関係(以下、この関係を「検量関係」と呼ぶ)を計測する検量関係計測手段53と、尿量計測部50と下水配管との連絡管路を水封することによって空気の流通を遮断するための配管縁切り手段55と、が設けられている。
【0031】
溜水水位計測手段51は、後述する計測管路57で溜水23と接続されており、この管路を介して両者は連通している。なお、計測管路57には溜水水位計測手段51の破損防止等のために不要時に管路の閉止を行なう計測管路開閉手段57aが設けられている。
【0032】
また、下水圧変動量計測手段52も、排水ソケット15の内部と連通する後述する下水配管連絡管路522で下水配管に接続されているが、こちらは空気の流通を遮断して下水配管からの汚臭逆流を防止する配管縁切り手段55を介して接続されている。
【0033】
なお、本実施例では、溜水水位計測手段51には、溜水23の水位をその時に生じる水柱の圧力である水頭圧として計測する水頭圧計測手段51aと、実際の溜水23の水位測定に際して、予め基準となる水頭圧を創成して水頭圧計測手段51aの出力を校正する計測出力校正手段51bも合わせて内蔵されている。なお、この計測出力校正手段51bは溜水23の波立ちが溜水水位計測手段51の水位計測に与える影響を取り除く除振手段としても機能させている。
【0034】
また、尿量計測制御部60には、溜水水位計測手段51によって計測される水位情報に基づいて被験者が溜水23に排泄した尿等の排泄物の量や排尿速度などの尿量情報を求める尿量情報算出手段61と、検量関係計測手段53が行なう検量関係等の計測に必要な情報や計測結果等の測定情報を記憶する測定情報記憶手段62と、前述した便器給水手段30を制御する給水制御手段41との間を後述の連係動作制御手段80を介して制御情報を授受することによって溜水23の水位を測定開始水位に形成する測定開始水位形成制御手段63と、が設けられている。さらに、排尿情報測定装置1の各機能の連係動作を制御する後述の連係動作制御手段80を構成する状態表示手段83aと状態受信手段83bと、が設けられている。
【0035】
尿量情報算出手段61には、溜水水位計測手段51によって計測される溜水23の水位から、検量関係記憶手段621に記憶されている水位と水量との検量関係を利用して溜水23の水量を演算によって求める溜水量算出手段61aと、下水圧変動量計測手段52の計測結果を用いて溜水水位計測手段51が計測した水位計測値を溜水水位測定開始時の下水圧の状態での値に修正する下水圧変動補正手段61bと、が備えられている。
【0036】
尿量情報算出手段61は以上述べた構成で、溜水水位計測手段51が計測する溜水水位値を下水圧変動補正手段61bによって修正した補正後の溜水水位値に基づいて、溜水量算出手段61aがその時の溜水量を算出することによって、排尿量他の尿量情報を求めている。
【0037】
尿成分測定部9は、採尿手段91によって採取されて搬送されてくる被験者の尿サンプルの成分組成や成分濃度等を分析・計測する尿成分分析手段92を備えている。
【0038】
本実施例の排尿情報測定装置1は前述したように、便器部3と排尿情報測定部5とを夫々独立した構成とするために、動作指示を行なう操作部も夫々別体の操作部としてリモコン71とリモコン72とを設ける構成とし、これらのリモコンはお互いの操作情報をやり取りしない独立のリモコンとしている。そして他方では、通常の便器のボール20を排尿情報測定時の排尿収集容器としても利用しているが、これらの装置の各動作間には、例えば通常の便器としての便器洗浄動作と尿量測定動作との間のように、一方の動作によって他方の動作が影響を受けて測定誤差を生じたり、器具が破損したりするものもある。従って、使用者によって行なわれる任意のリモコン操作による動作指示に対して、便器部3と排尿情報測定部5との間で、その時の動作状況に応じて各々をどのように動作させるかを規定する連係動作制御を行なう手段が必要であり、そのために本実施例でも、前述したように連係動作制御手段80を設けている。なお、この連係動作制御を行うためには具体的な制御回路が必要となるが、この中継基板81を介して排尿情報測定部5と便器部3とを接続した構成としている。
【0039】
なお、この中継基板81のように両者の制御回路基板とは別に回路基板を設ける代わりに、連係動作制御の対象となる便器部3の制御手段である便器制御部40、あるいは同じく対象となる排尿情報測定部5の制御手段である計測制御部40の、いずれかの制御回路基板にこの制御回路を一体的に組み込むことも、あるいは、さらに別な実施形態として、これら複数の制御回路を一つの回路基板として構成することも可能である。
【0040】
本実施例での連係動作制御手段80は、便器部3と排尿情報測定部5との間に制御回路基板としてを設けられた中継基板81と、尿量計測制御部60に設けられた状態表示手段83aと状態受信手段83b、便器制御部40に設けられた状態表示手段82aと状態受信手段82bと、を備えている。以下にその制御動作について説明する。
【0041】
状態表示手段82a・83aは、夫々便器部3または排尿情報測定部5の動作情報を中継基板81に送信する。中継基板81は送られてきた便器部3または排尿情報測定部5の動作情報を基にして、その時点の動作状態に応じて予め定められた連係動作情報を生成して記憶する。即ち、中継基板81が常時、両者の動作状態を集約して記憶する構成としている。
【0042】
そして、尿量計測制御部60または便器制御部40は夫々の動作を開始するに際しては、夫々に設けられている状態受信手段82b・83bによって中継基板81で生成され記憶された前記の連係動作情報を参照し、便器部3または尿量測定部6の動作を夫々予め定められた通りに制御する。前記の連係動作情報は、排尿情報測定装置1全体として干渉動作が予見される時には干渉防止動作に切替を行ったり、駆動信号を遅滞させて伝送する等の整合・調整を行なうことで相互の干渉動作が生じないように予め定められている。
【0043】
図3は図2で示した本発明の実施例である排尿情報測定装置1の便器部3と排尿情報測定部5の水管路関係の具体的な構成を示したものである。ただし、衛生洗浄装置7の詳細は省略している。
大便器4は排水ソケット15を介して下水配管口9に接続されている。トラップ14によって形成される溜水23には、下水配管との連通を遮断する封水の役割を持たせることで、下水配管内で発生した臭気や衛生害虫がトイレ内に侵入しないよう衛生面に配慮されている。
【0044】
上水道などの外部給水源からの給水は、装置給水手段12を構成する止水栓121、定流量弁122、開閉弁123を経て、給水管路分岐手段である分岐金具131でリム吐水口21に向けたリム給水管路311と、ゼット吐水口22に向けたゼット給水管路321に分岐されて供給されている。リム給水管路311にはリム給水手段31として、開閉弁312、バキュームブレーカー313、フラッパー弁314、が下流側に向けてこの順に設けられている。バキュームブレーカー313とフラッパー弁314とは夫々、管路内の残水抜き作用と外部給水源に向けた逆流防止作用とを担っている。
【0045】
ゼット給水管路321には、分岐金具131から分岐した最上流に、エアギャップを経て給水を一定量貯留する給水貯留手段32aとしての給水貯留タンク322が設けられ、さらに下流側に向けて順に分岐金具132、フラップ弁323、給水ポンプ324が配設されて、いづれもゼット給水手段31を構成している。なお、給水貯留タンク321には定量貯水を制御するフロートスイッチ等が設けられているが、本図では省略されている。そして、給水貯留タンク321に溜められた水は、貯留水搬送手段32aとしての給水ポンプ324によって、ボール20内の下部のトラップ14に向けて開口したゼット吐水口22に供給されている。
【0046】
なお、本実施例の変形例として図中に破線で示したように、ゼット給水管路321の途中に流路切替手段としての給水管路切替弁325を設け、且つ、給水管路切替弁325からリム吐水口21へ連通するリム迂回給水路34を設ける構成とすることも可能である。そして、後述する測定開始水位を形成する動作におけるボール20への給水を、リム吐水口21単独、又は、ゼット吐水口22およびリム吐水口21からの給水としてもよい。その場合、ゼット吐水口22からの給水は、給水に伴う溜水23の波立ちレベルが低いという特性を持ち、給水途中での溜水水位の確認計測が精度良く出来るという効果が、リム吐水口21からの給水はボール20の水洗効果も合わせて期待できるという各々の特徴を持っている。
【0047】
給水搬送手段として本実施例で用いられている給水ポンプ324は、単位時間当たりに、トラップ14から流出する量より多くの水を供給することによってトラップ14を満水状態となる溜水水位である満水水位にすることが可能な程度に大きな給水率(給水搬送手段の運転時の搬送能力を表す指標として、単位時間当たりに給水可能な搬送量を使用し、以下これを「給水率」と呼ぶ)で給水動作する大給水率運転モードと、給水量制御がより正確に行なえる小さな給水率で給水動作を行なう小給水率運転モードとを含む少なくとも2種類以上の互いに異なった複数の給水率の運転モードに対応できるものであり、ポンプ用モーターが交流仕様ならインバーター制御を行なうもの、また、直流モーターならブラシレス仕様で回転数を制御するようになっているものが使用できる。
【0048】
従って、本実施例では後述の測定開始水位を創成する測定開始水位形成動作時には、給水ポンプ324の運転を大きな給水率で所定の時間給水する前記大給水率運転として、給水した水をゼット吐水口22から吐出させることによってトラップ14の中を満水水位にしてサイホン現象を誘発させて、排泄物と共に溜水23を下水配管に向けて排出する溜水排出動作の制御を行う第1搬送制御モードと、前記第1搬送制御モードで運転して所定時間経過後に、第1搬送制御モードより小さな小給水率運転としてサイホン現象を起こさない範囲の給水率で所定の時間給水して溜水を所定の測定開始水位に形成する動作の制御を行う第2搬送制御モードと、の2種類の制御モードでの動作制御を前述の測定開始水位形成制御手段63が行なっている。
【0049】
この水位形成のための給水運転を小給水率運転とする制御により、給水手段を構成する給水ポンプ324の動作バラツキや搬送能力のバラツキの影響を少なくする効果が得られる結果、同一の制御プログラムで正確な測定開始水位形成を可能としている。また、この時の給水路をゼット吐水口22に連通するゼット給水路で行う構成とすれば、便器4が本来備えている便器洗浄のための管路を共用できるため、構造が簡単になるメリットがある。
【0050】
破線で囲まれた尿量計測部50には、尿量計測部50を洗浄する清浄な水を供給するため分岐金具132を介して給水貯留タンク322に連通する尿量計測部給水管路581と、溜水23の水位を計測するためにボール20の略底部の内面に設けられた水位計測口から溜水水位計測手段50に連通する計測管路57と、下水配管と連通する下水配管連絡管路522と、が接続されている。そして、この尿量計測部給水管路581,計測管路57,下水配管連絡管路522,には管路の離接をワンタッチで簡単に行なえるワンタッチ接続金具543,544,545が夫々設けられており、さらには、計測管路57のワンタッチ接続金具544と大便器4との間及び測定部給水管路581のワンタッチ接続金具543と給水貯留タンク322との間には、夫々の管路を閉止するの止水栓541と止水栓542とが設けられている。従って、止水栓541と止水栓542とを閉めてワンタッチ接続金具543,544,545を外せば尿量計測部50は排尿情報測定装置1から取り外すことが可能な構成となっている。
【0051】
尿量計測部50には、測定管路57に接続された測定管511と、溜水23の水位を圧力として計測する圧力センサ512と、が溜水水位計測手段50として配設されている。
【0052】
測定管511は、溜水23を含めてU字管管路系を形成するために大気に開放された大気開放端514と、トラップタンク551の中に延出され縁切りのための封水中に水没する水封端515と、を有している。そして、圧力センサ512は、溜水23の水位をこのU字管管路系の水頭圧として計測するために測定管511に設けられた構成となっている。
【0053】
また、圧力センサ512は、設置された環境の温度変化やセンサ自身の経時変化によって出力が変化するため、本実施例では圧力センサ512の出力を校正するための計測出力校正手段51bをも備えている。即ち、測定管路57の開閉弁571を閉めた状態で、給水貯留タンク322に貯留された水を、分岐金具132、止水栓542、開閉弁582、開閉弁513を経て測定管511に導き、かつ、水封端515からトラップタンク551の中に溢れさせることで測定管511の中に一定高さの水柱を作り出す構成となっている。そして、その一定高さの水柱の時の圧力センサ512の出力を計測することで、圧力センサ511の出力と水位との関係を大気圧を基準とした水位に対応付ける出力校正を行なう。なお、トラップタンク551は、この出力校正時の測定管511からのオーバーフロー水を下水配管に排出させるために、内部に封水を形成する位置から延出した下水配管連絡管路522で排水ソケット15に接続されて、下水配管との接続管路を水封して縁切りを行なう縁切り手段として機能している。
【0054】
また本実施例の排尿情報測定装置1は、溜水23の水位と溜水量との関係を求める前述した検量関係計測手段53を備えて、大便器4が物理的寸法のバラツキが比較的大きい陶器製であっても、個々の大便器4に固有の検量関係を設置現場で計測して求めることも可能な構成としている。
【0055】
即ち、検量ポンプ531は任意の量を吸引できる定量吸引タイプのポンプが使用され、この検量ポンプ531で溜水23を吸引し、測定管路57、止水栓541、開閉弁571、開閉弁532、トラップタンク551、下水配管連絡管路522を経て、下水配管に向けて排出できる構成になっている。そして、据付現場において溜水23の水位を測定範囲の最高水位以上の水位にして開閉弁513及び開閉弁582を閉止した状態から、検量ポンプ531で所定量分ずつ溜水23をボール20から吸引して排出し、吸引の都度の溜水水位によって発生する水頭圧を圧力センサ511で測定することにより水位を計測することによって、溜水水位と溜水量の検量関係が取得されるようになっている。
本発明における下水圧変動量計測手段52としての圧力センサ521はトラップタンク551に取り付けられ、トラップタンク551とソケット15とを連通する下水配管連絡管路522を介して下水配管内で発生している圧力変動状態を、圧力値として計測している。水圧変動補正手段61bによって、この下水圧影響量測定手段52による計測値に基づいて下水圧変動が溜水水位に与える影響量が算出され、溜水水位計測手段51が計測する水位計測値は常に下水圧変動が無い状態の値に換算される補正処理が行われるようになっている。
【0056】
図4は、本発明の排尿情報測定装置1の動作を示すフローチャートである。
S101で被験者が個人認証操作を行なうと、S102で個人認証動作が行なわれて個人情報との対応付けが行なわれるとともに、測定準備動作が開始される。
本実施例では測定準備動作として、溜水23の水位を測定を開始する水位(以下、この水位を「測定開始水位」と呼ぶ)に形成する測定開始水位形成動作が行なわれる。これは本実施例で使用する便器4は使用待機状態においては、溜水23の水位は下水配管との連通を防ぐ溢流水位に設定されているため、被験者の排尿量以上の溜水を排出して計測範囲を確保するために溜水水位を下げておくものである。
【0057】
なお、溜水水位を下げる場合はそのまま所定水位に設けられた排水口から自然流出、あるいはポンプ等で強制排出することも考えられるが、本実施例では溜水23をサイホン現象を利用して一旦全部トラップ14を介してサイホン現象によって下水配管に排出した後、給水して測定開始水位を形成する。このトラップ14を介した排出動作は、便器4が備えている通常の便器洗浄時の排出動作と同様であるため、この時の溜水23が多少の異物を含んでいたとしても、排水管路の詰りが発生せずに確実に且つ短時間に排出することが可能である。
【0058】
そのために、まずS103で、溜水23の現在水位を溜水水位計測手段51で計測して確認する。この動作は通常、測定を開始する前の使用待機状態時の溜水の水位はトラップの溢流水位であるが、下水圧変動等によって溜水が溢流している場合は、次にそのままゼット吐水口22から吐水させるゼット吐水を行うとトラップ14内でサイホン現象が安定して発生せずに溜水が完全には排出されない不具合が発生する場合が考えられるため、その発生を未然に防止するためである。
【0059】
従って、ここで溜水23の水位が所定の水位以下となっている場合は、S104でリム給水手段31を駆動してリム吐水口21からボール20内に給水を行なってサイホン現象が安定して発生する水位として、溜水23の水位をトラップ14から下水配管へ溢流を開始する水位である溢流水位とする。次いでS105で給水ポンプ324を大給水率運転モードとして、給水貯留タンク322の貯留水をゼット給水管路321経由でゼット吐水口22に搬送して吐水させるゼット給水動作を所定時間だけ継続する本発明における第1搬送制御モードでの制御を行う。所定時間だけ大給水率でゼット給水動作を行うと、トラップ14内でサイホン現象が誘発され溜水23はほとんど下水配管に排出されてボール20内の水位は空水位となる。
【0060】
次いでS106で、測定を開始するときの所定の水位である測定開始水位となるよう、給水ポンプ324を小給水率運転モードに切り替えて給水貯留タンク322の貯留水をゼット給水管路321経由でボール20内に搬送するゼット給水動作を所定時間継続する本発明における第2搬送制御モードでの制御を行って、測定開始水位に溜水23の水位を形成する。なお、この時の測定開始水位は、トラップ口141の上端が露出してボール23内と下水配管内との空気の流通が可能な状態となる水位である破封水位より高い水位に設定して下水配管からの汚臭の逆流を防止している。なお、測定開始水位Y時の溜水量とトラップ14の溢流水位H時の溜水量差が、最大尿量測定範囲である。
【0061】
前述した本実施例での第1搬送制御モード時には、毎分20L〜100L程度の大給水率での給水を行なうのに対して、ここでの第2搬送制御モードでの給水はボール20内に溜水23を形成するために、サイホン現象を誘発させない毎分20L以下の小給水率で所定時間給水を行って測定開始水位を所定水位に正確に創成している。
【0062】
なお、本実施例では前述したように図4に示すS106での水位形成のための給水動作は、測定開始水位をより正確な水位に形成するために、給水ポンプ324を小給水率運転モードで所定時間行う第2搬送制御モードで制御する構成としているが、本発明では第2搬送制御モードとして、S105での給水動作で行う大給水率運転モードでの給水でサイホン現象が開始されない短時間だけ給水動作を行うことも可能である。即ち、給水ポンプ324を大給水率運転モードで所定時間作動させてサイホン現象を発生させる第1搬送制御モードでの制御を行って溜水を排出させた後に、一旦給水ポンプ324の運転を所定時間停止させてサイホン現象の継続を終了させ、その後再び給水ポンプ324を大給水率運転モードで短時間運転させる第2搬送制御モードでの制御を行って測定開始水位を所定水位に形成しても良い。
【0063】
この場合は、本発明における貯留水搬送手段としての給水ポンプ324の動作バラツキにより、形成される測定開始水位の形成精度は本実施例の場合と比較して若干低下するが、便器4のボール20として測定範囲を大きく設定可能なボールを備えた便器を使用する場合等は、測定開始水位の形成精度はそれ程必要とされないため適用可能である。この場合は大給水率で給水を行うため、被験者の待ち時間となる測定開始水位形成動作の所要時間が短縮されて、迅速に尿量計測が開始出来る。
【0064】
なお本実施例の測定開始水位創成のための給水動作の変形例としては、第2搬送制御モードでの給水動作を予め定められた所定時間行なう代わりに、計測管路57を介して水位測定手段で溜水水位を測定しながら狙いの水位となるまで給水動作を継続させる制御を行う構成としても良い。その場合は、給水条件の変化による給水水位のバラツキの発生を防止することが可能となる。また、さらに他の変形例として図3に破線で示したように、ゼット給水管路321の途中に管路を選択的に切替える管路切替弁325と、この管路切替弁325からリム吐水口21へ連通するリム迂回給水管路34とを設け、リム吐水口21から吐水させるものであっても良く、その場合は給水によるボール20の内面の洗浄作用が期待できる。
【0065】
測定開始水位の創成が完了すると測定準備動作は終了し、S107で測定準備が完了したことを、被験者に表示パネルや音声合成によって報知する。S108で被験者が排尿を開始すると溜水23の水位は上昇を始め、溜水水位計測手段51がこの水位変化を微小時間ごとに刻々計測する。S109で、計測された計測値と、予め検量関係記憶手段621に記憶されている溜水水位と溜水量の関係式と、下水圧変動量計測手段52が計測する下水圧変動量から下水圧変動補正手段61bが算出する補正量とを加味して、溜水量算出手段61aが微小時間ごとの溜水変化量から単位時間当たりの排尿量(以下、これを「尿流率」と呼ぶ)を算出する。実際に算出されるのは単位時間当たりの溜水変化量であるが、この時に溜水量の変化を及ぼしているのは排尿だけであるから、この量が単位時間当たりの排尿量ということになる。
【0066】
S110は溜水量算出手段61aがこの時々刻々算出される尿流率を記録する工程であり、S111で被験者による排尿終了操作を認識するまで記録動作を継続する。S112で排尿情報算出手段61は、得られた時々刻々の尿流率測定値から、医療行為に使用される各種排尿情報を演算するステップであり、例えば最大尿流率や最大尿流率到達時間などが演算され、S113において排尿情報として開示される。開示方法としては、被験者に対して測定値としてリモコン72に表示されるほか、プリンタ73で紙面に印刷されたり、電子媒体に記憶されたり、電子情報として遠隔伝送されたりするようになっている。
【0067】
排泄を終了した被験者は、S114で便器洗浄操作スイッチを操作すると、排尿混じりの溜水を下水配管に排出してボール面の洗浄を行う便器洗浄動作を以下のように実施する。即ち、S115でリム給水手段31がボール20に給水を行なうリム給水を行なって溜水水位をトラップの溢流水位に上昇させた後、S116でゼット給水手段32の給水ポンプ324を大給水率運転モードとしてボール20への給水動作を行ないサイホン現象を起動させて排泄物を含む溜水を下水配管に排出した後、S117で再びリム給水してボール面の洗浄を行うとともに溜水水位をトラップの溢流水位に復帰させ、S118で一連の測定動作は終了するようになっている。
【0068】
図5は、図4で述べた本発明の排尿情報測定装置を使用時の各構成要素の動作のタイミングを経時的に示すタイミングチャートである。
ここでは溜水水位を、トラップ14が給水によって充満状態となる満水水位をW、トラップ14のトラップ形状部を溢流開始する水位を溢流水位H、測定開始水位をY、溜水が排出された後の残水の水位を空水位Xとしている。
溢流水位Hで使用待機状態にある時に被験者の個人認証操作があると、測定準備動作が開始され溜水水位が測定開始水位に変更される。そして、被験者が排尿を行い水位計測が行なわれ、排尿終了後に行われる被験者の排尿終了操作の後に排尿情報が表示され、次いで操作される便器洗浄操作によって排泄物混じりの溜水が排出された後、再び溢流水位に溜水が溜められて再び使用待機状態となるようになっていることが示されている。溜水水位の変化を見ると、大給水率吐水であるタイミングdおよびタイミングnからの給水による溜水水位変化速度と、小給水率吐水であるタイミングfからの給水による溜水水位変化速度との間に明確な違いがあることが示されている。
【0069】
以下、本実施例で採用した排尿情報、特に尿量演算アルゴリズムについて詳説する。なお、この考え方は溜水水位変化を測定して排尿情報を演算するシステムにおいて活用可能なもので、本実施例の構成に限定されるものではない。
【0070】
真の排尿量Qは、各種誤差要因によって測定で得られる排尿量Qと同一にはならない。測定で得られる排尿量Qは、排尿前後の溜水量差に着目して求める考え方(数1)の方法、もしくは排尿中の尿流率に着目して積算を実施して求める考え方(数2)の方法という2つの演算方法がある。ここでR2は排尿終了後の溜水量、R1は排尿開始前の溜水量(測定開始水位溜水量)、q(t)は尿流率、およびtは時刻である。
【0071】
【数1】

【0072】
【数2】

【0073】
前記した(数1)と(数2)との算出値は本来同一であるはずだが、実際には各種の測定誤差や変動によって同一になるとは限らない。以下にそのことについて詳説する。
【0074】
(数1)の方法を使用する場合は、溜水水位を図3で示した圧力センサーで測定しているとすると、測定中に生じる環境温度変動やノイズの影響によって圧力センサーの出力特性の変化が発生する。また圧力センサーの形式として半導体ダイヤフラム方式のセンサーが使用されている場合は、さらにセンサーの出力基準レベルが経時的に変化するというドリフト変動が計測中にも発生することがあり、その場合は得られる計測値もその影響を受ける。即ち、(数1)の方法を使用する場合は、排尿を開始する時の水位と排尿が完了したときの水位との2点のみの計測値で排尿量や尿流率等の尿量情報を演算しているため、前述のドリフト変動が計測中に発生するとドリフト変動によるセンサー出力の変化分がそのまま溜水水位の計測結果に反映されて見かけ上の水位変化量が実際の水位変化量と異なってくる。
【0075】
ドリフト現象は、半導体ダイヤフラムの通電によって生じる熱、圧力伝達媒体の熱伝導、および環境雰囲気などの熱収支によって発生するものである。サーミスタなどの測温素子と出力−温度換算テーブルの組み合わせでドリフト現象のキャンセルを図ろうとしているが完全ではなく、微小範囲の圧力変動を測定する場合はこの除去しきれなかったわずかなドリフト現象が無視できないことがある。具体的には、短時間の排尿測定では影響が出ないが、5分以上排尿に要するような被験者の測定の場合、ドリフト現象による測定誤差が無視できないような状態になっている。
【0076】
それに対して(数2)の場合は、実際には測定される排尿時間Tの微小時間間隔Δt毎の排尿量の総和である(数3)で示される式が適用されるが、このように微小時間Δtごとの変化量が使用されているため、ドリフト変動の影響は出ない反面、常に測定された単位時間当たりの排尿量(尿流率)を総和することになるため、測定制御システムとして使用するマイコンのADビット数が少ない場合は、AD変換時の変換誤差が累積される恐れがある。しかしながら、本実施例のようにマイコンのADビット数を充分確保できる場合は、単発のノイズによる影響が全体に影響し難く高精度の測定が可能となる。
【0077】
【数3】

【0078】
また尿流率に負のデータはありえないことから、(数4)のように負のデータを除外する判断を追加することで、異常値を取り除くことも可能である。
【0079】
【数4】

【0080】
(数2)の方法を適用する場合で安価な制御構成とするためにADビット数に制約があるマイコンを使用する場合は、切り捨て誤差が累積されやすい恐れもある。従って、(数1)の演算方法も同時に採用する構成とすることによって、通常は(数1)の方法で算出された値を計測値として採用し、(数1)の方法と(数2)の方法とによる各々の演算値に大きな差があるときだけ、(数1)の方法では誤差が大きくなる計測環境の変化が生じたと判断して、(数2)の方法で得られた演算値を測定結果として採用するような計測データ検証手段を設けてもよい。
【0081】
また(数4)で除外することを示した負の流水量変化が観測された場合は、圧力センサーの故障等の非定常な状態を原因とするだけでなく、下水圧変動が定常的に排尿情報測定装置に加わる状態となる設備配管の詰り等の不具合が発生した結果であることも予想される。従って、そのような場合、設備管理者にエラー情報を報知することで設備配管の維持管理を促して尿量測定に悪影響を及ぼす要因を排除することも期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明を実施した第1の実施例における排尿情報測定装置全体を示す斜視図である。
【図2】本実施例の構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の排尿情報測定装置の便器部3と排尿情報測定部5の構成を示した第1の実施例である。
【図4】本発明の排尿情報測定装置の動作を示すフローチャートである。
【図5】本発明の排尿情報測定装置の制御を示すタイミングチャートである。
【符号の説明】
【0083】
1…排尿情報測定装置
3…便器部
4…大便器
5…排尿情報測定部
6…尿量測定部
7…衛生洗浄装置
7a…衛生洗浄手段
9…尿成分測定部
91…採尿手段
911…採尿容器
912…採尿アーム
913…駆動・移送部
92…尿成分分析手段
12…装置給水手段
121…止水栓
122…定流量弁
123…開閉弁
131…分岐金具
132…分岐金具
14…トラップ
141…トラップ口
15…排水ソケット
16…下水配管口
171…便座
172…便ふた
18…キャビネット
20…ボール
21…リム吐水口
22…ゼット吐水口
23…溜水
30…便器給水手段
31…リム給水手段
311…リム給水管路
312…開閉弁
313…バキュームブレーカー
314…フラッパー弁
32…ゼット給水手段
32a…給水貯留手段
32b…給水搬送手段
32c…流路分岐手段
321…ゼット給水管路
322…給水貯留タンク
323…フラップ弁
324…給水ポンプ
325…給水管路切替弁
34…リム迂回給水管路
40…便器制御部
41…便器給水制御手段
50…尿量計測部
51…溜水水位計測手段
51a…水頭圧計測手段
51b…計測出力校正手段
511…水位測定管
512…水頭圧計測センサー
513…開閉弁
514…開放端(水位測定管)
515…水封端(水位測定管)
52…下水圧変動量計測手段
521…下水圧計測センサー
522…下水配管連絡管路
53…検量関係計測手段
531…検量ポンプ
532…開閉弁
541…止水栓(給水源側)
542…止水栓(便器側)
543…ワンタッチ接続金具(給水源側)
544…ワンタッチ接続金具(便器側)
545…ワンタッチ接続金具(下水配管側)
55…下水配管縁切り手段
551…トラップタンク
57…計測管路
57a…計測管路開閉手段
571…開閉弁
581…尿量計測部給水管路
582…開閉弁
60…計測制御部
61…尿量情報算出手段
61a…溜水量算出手段
61b…下水圧変動補正手段
62…測定情報記憶手段
621…検量関係記憶手段
63…測定開始水位形成制御手段
70…操作・表示部
71…リモコン(便器部用)
72…リモコン(排尿情報測定部用)
73…プリンター
80…連係動作制御手段
81…中継基板
82a…状態表示手段(便器部用)
82b…状態受信手段(便器部用)
83a…状態表示手段(尿量測定部用)
83b…状態受信手段(尿量測定部用)
…測定開始水位溜水量(排尿前溜水量)
…排尿後溜水量
q…尿流率
q(t)…時刻tにおける尿流率
…測定された排尿量
…真の排尿量
t…時刻
W…満水水位
H…溢流水位
X…空水位
Y…測定開始水位
Z…排尿後水位

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の排泄物を受けるボールと、
前記ボールに水を供給する給水手段と、
前記給水手段からの給水を吐水することによって前記ボール内の溜水を前記ボール外に排出させるために前記ボール内に開口して設けられた吐水口と、
前記吐水口からの吐水によって前記ボールの溜水が排出させた後、前記溜水の水位を測定を開始する水位である測定開始水位に形成する測定開始水位形成手段と、
前記溜水の水位を計測する溜水水位計測手段と、
被験者の排泄物によって前記測定開始水位から変化する溜水の水位を前記溜水水位計測手段によって計測して得られる水位値より前記排泄物の排泄量を求める排尿情報算出手段と、
を備えた排尿情報測定装置において、
前記給水手段は、水源から供給される水を貯留する給水貯留手段と、
前記給水貯留手段に貯留されている貯留水を前記吐水口に連通する給水管路を介して前記ボール内に搬送する貯留水搬送手段と、を備え、
また、前記測定開始水位形成手段は、
前記ボール内の溜水を前記ボール外に排出させる水を前記貯留水搬送手段が搬送する動作を制御する第1搬送制御モードと、
前記ボール内の溜水の水位を前記測定開始水位に形成するための水を前記貯留水搬送手段が搬送する動作を制御する第2搬送制御モードと、を有した貯留水搬送制御手段を備え、
前記貯留水搬送制御手段は前記第1搬送制御モード実行が終了してから所定時間経過後に、前記第2搬送制御モードを実行することによって測定開始水位を形成することを特徴とする排尿情報測定装置。
【請求項2】
前記搬送動作時に前記貯留水搬送手段が搬送する水の単位時間当たりの量で表した給水率は、前記第2搬送制御モード時は前記第1搬送制御モード時より小さく設定されていることを特徴とする請求項1記載の排尿情報測定装置。
【請求項3】
さらに、前記ボールを下水配管に接続するとともに前記溜水が前記下水配管との空気の流通を遮断する封水を形成するトラップ部を有するトラップ管路を備え、
前記測定開始水位が、前記トラップ管路の破封水位より高く、且つ、溢流水位よりも低い所定水位であることを特徴とする請求項1または2に記載の排尿情報測定装置。
【請求項4】
さらに前記貯留水搬送手段は、前記ボールの上縁部に設けられた便器リム吐水口に連通するリム迂回吐水管路を有し、前記第2搬送動作モードの実行時は前記リム迂回吐水管路も前記ボールに水を搬送することを特徴とする請求項1乃至3のいづれか1項に記載の排尿情報測定便器装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−175000(P2008−175000A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−10633(P2007−10633)
【出願日】平成19年1月19日(2007.1.19)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】