説明

排気浄化装置の故障診断システム

【課題】酸化能を有する触媒を含む排気浄化装置の故障をより正確に診断する。
【解決手段】内燃機関の排気通路に設けられ酸化能を有する触媒と、触媒よりも下流側の排気の酸化能を検出する酸化能検出装置と、酸化能検出装置により検出される排気の酸化能を、触媒が正常のときの値と比較して、触媒の故障を診断する診断装置と、を備える。触媒が故障することにより、排気の酸化能が低下するので、排気の酸化能が低下すれば、該触媒が故障したと診断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気浄化装置の故障診断システムに関する。
【背景技術】
【0002】
酸化触媒よりも下流側に、排気中の粒子状物質(PM)を捕集するフィルタと、フィルタよりも下流側にPM量を検出するPMセンサと、を備え、該PMセンサの検出値に基づいてフィルタの異常を診断する技術が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
また、内燃機関の運転状態などに基づいて設定される基準値と、触媒よりも下流側に設けられる酸素濃度センサの出力値と、を比較して触媒の劣化を診断する技術が知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【0004】
また、PMを構成するSOOTとSOFとを個別に検出するためのセンサが知られている(例えば、特許文献3参照。)。
【0005】
また、煤とSOFとの燃焼温度が異なり、フィルタに堆積したPM中の煤成分が多いとフィルタの再生時の温度上昇が大きくなって該フィルタが劣化することが知られている(例えば、特許文献4参照。)。
【0006】
また、酸化触媒の劣化時はHC浄化率が低下することが知られている(例えば、特許文献5参照。)。
【0007】
また、排気などの気体やPMの生体に対する酸化能を測定する技術が知られている(例えば、特許文献6参照。)。この特許文献には、排気中のPMに酸化能があることが開示されている。
【0008】
上述のように、PMは、SOOTとSOFとからなることが知られている。そして、SOFは、酸化触媒にて浄化可能である。ここで、酸化触媒が劣化してSOFの浄化が十分に行われないとしても、酸化触媒よりも下流側にフィルタを備えている場合には、SOFがフィルタにて捕集および酸化される。このため、SOFがさらに下流側に流出することが抑制されるので、フィルタよりも下流側にPMセンサを設けても、PM中のSOFの割合が酸化触媒の正常時と比較してあまり変化しないので、酸化触媒の劣化を判定することは困難である。
【0009】
また、酸化触媒の劣化を判定するために触媒の温度を検出することが考えられる。しかし、酸化触媒よりも下流側に備わるフィルタの劣化を同時に判定することは困難である。
【0010】
また、フィルタに捕集されているPMを除去するフィルタの再生を行った直後では、フィルタからPMが流出し易いため、フィルタよりも下流側にPMセンサを備えている場合には、該PMセンサにて検出されるPMが増加する。このため、フィルタの再生中や再生直後では、検出されるPMが増加したときにフィルタの故障と区別する必要がある。
【0011】
このように、従来では、酸化触媒の劣化、フィルタの劣化、フィルタ再生時のPM量の増加などを区別して判定することは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2010−285917号公報
【特許文献2】特開2008−138560号公報
【特許文献3】特開2010−078378号公報
【特許文献4】特開2004−225616号公報
【特許文献5】特開2010−031833号公報
【特許文献6】特開2007−333485号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記したような問題点に鑑みてなされたものであり、酸化能を有する触媒を含む排気浄化装置の故障をより正確に診断する技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を達成するために本発明による排気浄化装置の故障診断システムは、
内燃機関の排気通路に設けられ酸化能を有する触媒と、
前記触媒よりも下流側の排気の酸化能を検出する酸化能検出装置と、
前記酸化能検出装置により検出される排気の酸化能を、前記触媒が正常のときの値と比較して、前記触媒の故障を診断する診断装置と、
を備える。
【0015】
ここで、酸化能を示す成分の一部は、触媒で生成される。このため、触媒の劣化が進むと、酸化能を示す成分の生成量が減少するため、酸化能検出装置により検出される酸化能が低下する。すなわち、酸化能検出装置により検出される酸化能は、触媒の劣化の度合いと相関関係にある。したがって、たとえば、触媒が正常なときの酸化能を予め記憶しておけば、この記憶した酸化能と、検出される酸化能とを比較することにより、触媒が故障しているか否か診断することができる。なお、酸化能検出装置は、排気中の粒子状物質の酸化能、または粒子状物質の単位重量当たりの酸化能を検出してもよい。また、診断装置は、触媒が正常のときの排気の酸化能よりも、検出される酸化能が低いときに触媒が故障していると判定してもよい。さらに、以前に検出された酸化能よりも、検出される酸化能が低いときに触媒が故障していると判定してもよい。
【0016】
また、本発明においては、排気中の粒子状物質を捕集するフィルタと、
前記触媒および前記フィルタよりも下流側の粒子状物質の重量を検出するPM重量検出装置と、
を備え、
前記酸化能検出装置は、前記前記触媒及び前記フィルタよりも下流側の粒子状物質の酸化能を検出し、
前記診断装置は、前記PM重量検出装置により検出される粒子状物質の重量と、前記酸化能検出装置により検出される粒子状物質の酸化能と、に基づいて、前記触媒及び前記フィルタの故障を診断してもよい。
【0017】
酸化能を有する触媒に加えて、フィルタを備えている場合には、触媒とフィルタとの何れが故障しているのか区別する必要がある。これに対し本発明では、粒子状物質の重量と、粒子状物質の酸化能と、に基づいて、触媒とフィルタとの何れが故障しているのか診断する。すなわち、酸化能のみを検出しても触媒とフィルタとの何れが故障しているのか区別することは困難であるが、さらに粒子状物質の酸化能を検出することで、これらを容易に区別することができる。ここで、フィルタの再生中及び再生直後では、通路断面積が大きくなるため、フィルタの再生から十分な時間が経過したときと比較して、フィルタから流出する粒子状物質の重量が大きい。一方、フィルタの再生中及び再生直後では、フィルタの温度が高いために、酸化能検出装置において酸化能を示さない粒子状物質が生成され
る。すなわち、フィルタの再生中および再生直後では、検出される粒子状物質の重量は大きくなるが、その分だけ酸化能が高くなるわけではない。なお、フィルタの再生直後とは、たとえば、フィルタの温度がフィルタの再生前よりも高いときであって、粒子状物質を酸化可能な温度以上となっているときである。
【0018】
また、触媒が故障した場合には、フィルタに流入するSOF成分の割合が増加するものの、粒子状物質はフィルタで捕集されるため、フィルタから流出する粒子状物質の重量は触媒が正常なときと略同じになる。一方、触媒の劣化が進むと、酸化能検出装置により検出される酸化能が低下する。
【0019】
また、フィルタに例えば割れ又は欠けが生じて故障している場合には、フィルタをすり抜ける粒子状物質が増加するため、PM重量検出装置により検出される粒子状物質の重量が、フィルタの正常時よりも増加する。一方、フィルタが故障していると、フィルタで酸化される粒子状物質が減少するため、酸化能を示さない粒子状物質の生成が抑制される。これにより、検出される酸化能が比較的高くなる。
【0020】
このように、フィルタ及び触媒が正常の場合、フィルタの再生中または再生直後の場合、触媒が故障している場合、フィルタが故障している場合で、検出される粒子状物質の重量及び粒子状物質の酸化能が夫々異なる。したがって、PM重量検出装置により検出される粒子状物質の重量と、酸化能検出装置により検出される排気の酸化能と、に基づいて、触媒またはフィルタの故障を診断することができる。
【0021】
また、本発明においては、前記診断装置は、フィルタよりも下流側の粒子状物質の重量と、フィルタよりも下流側の粒子状物質の単位重量当たりの酸化能と、の夫々について、前記フィルタ及び前記触媒が正常のときの値と比較し、夫々の比較結果の組み合わせに基づいて前記触媒及び前記フィルタの故障を診断することができる。
【0022】
ここで、触媒が故障している場合およびフィルタが故障している場合には、触媒及びフィルタが正常の場合と比較して、検出される粒子状物質の単位重量当たりの酸化能及び粒子状物質の重量が夫々異なる。なお、触媒が正常な場合とは、触媒及びフィルタが正常であり且つフィルタの再生中または再生直後でない場合としてもよい。そして、たとえば、触媒及びフィルタが正常のときに検出されるフィルタよりも下流側の粒子状物質の重量と、このときのフィルタよりも下流側の粒子状物質の単位重量当たりの酸化能と、を基準値として設定しておく。この基準値に対して検出される値が大きいのか、小さいのか、または同じなのかは、故障部位によって変わる。したがって、夫々の比較結果の組み合わせに基づいて触媒及びフィルタの故障を診断することができる。なお、フィルタ及び触媒が正常のときの値は、以前に検出された値としてもよい。すなわち、以前に検出された値と比較して変化していれば、触媒またはフィルタに何らかの変化があったと判定できる。なお、誤差などを考慮して、基準値から所定範囲内は、変化していないものとして扱ってもよい。
【0023】
また、本発明においては、前記粒子状物質の重量が、前記フィルタ及び前記触媒が正常のときの値と同じであり、且つ、前記粒子状物質の単位重量当たりの酸化能が、前記フィルタ及び前記触媒が正常のときよりも低い場合には、前記触媒が故障していると診断することができる。
【0024】
すなわち、触媒が故障していても、フィルタにより粒子状物質が捕集されるため、検出される粒子状物質の質量は、触媒およびフィルタが正常なときと略同じになる。一方、触媒が故障している場合には、酸化能を示す成分の生成が抑制されるため、粒子状物質の単位重量当たりの酸化能が低下する。これらに基づいて、触媒が故障しているか否か診断す
ることができる。
【0025】
また、本発明においては、前記粒子状物質の重量が、前記フィルタ及び前記触媒が正常のときよりも多く、且つ、前記粒子状物質の単位重量当たりの酸化能が、前記フィルタ及び前記触媒が正常のときよりも高い場合には、前記フィルタが故障していると診断することができる。
【0026】
すなわち、フィルタが故障しているときには、粒子状物質がフィルタをすり抜けるため、検出される粒子状物質の質量は、触媒およびフィルタが正常なときよりも多くなる。また、フィルタにて粒子状物質が酸化されると酸化能を示さなくなるが、フィルタが故障しているときには、フィルタにて酸化されないまま流出する粒子状物質が増加するため、粒子状物質の単位重量当たりの酸化能が高くなる。これらに基づいて、フィルタが故障しているか否か診断することができる。
【0027】
なお、本発明においては、前記フィルタは前記触媒よりも下流側に設けられていてもよい。また、本発明においては、前記触媒は前記フィルタに担持されていてもよい。何れの場合であっても、触媒及びフィルタの故障診断を行うことができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、酸化能を有する触媒を含む排気浄化装置の故障をより正確に診断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】実施例1に係る内燃機関とその排気系の概略構成を示す図である。
【図2】実施例1に係る酸化触媒の故障診断のフローを示したフローチャートである。
【図3】実施例2に係る内燃機関とその排気系の概略構成を示す図である。
【図4】フィルタのPM堆積量とフィルタからのPM排出量との関係を示した図である。
【図5】通常時、再生時、酸化触媒異常時、フィルタ異常時における、フィルタよりも下流側のPM重量と、単位PM重量当たりの酸化能と、を示した図である。
【図6】実施例2に係る酸化触媒及びフィルタの故障診断のフローを示したフローチャートである。
【図7】フィルタに酸化触媒を担持させた場合の内燃機関とその排気系の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明に係る排気浄化装置の故障診断システムの具体的な実施態様について図面に基づいて説明する。
【0031】
<実施例1>
図1は、本実施例に係る内燃機関1とその排気系の概略構成を示す図である。内燃機関1には、排気通路2が接続されている。この排気通路2の途中には、酸化触媒3が備えられている。酸化触媒3は、酸化能を有していれば他の触媒であってもよい。たとえば、三元触媒やNOx触媒を採用することもできる。なお、本実施例においては酸化触媒3が、
本発明における酸化能を有する触媒に相当する。
【0032】
また、酸化触媒3よりも下流の排気通路2には、排気の酸化能を検出する酸化能検出装置4が設けられている。この酸化能検出装置4は、物質の酸化作用や活性酸素を検出する装置であり、たとえば特開2007−333485号公報に記載されている装置のように
SH基との酸化還元反応を検出する装置を用いることができる。この酸化能検出装置4によれば、排気の酸化能を数値化することができる。そして、排気の酸化能が高いほど、酸化能検出装置4の検出値が大きくなる。なお、酸化能検出装置4は、PMの酸化能を検出してもよい。
【0033】
以上述べたように構成された内燃機関1には、該内燃機関1を制御するための電子制御ユニットであるECU10が併設されている。このECU10は、内燃機関1の運転条件や運転者の要求に応じて内燃機関1を制御する。
【0034】
また、ECU10には、酸化能検出装置4の他、運転者がアクセルペダル11を踏み込んだ量に応じた電気信号を出力し機関負荷を検知するアクセル開度センサ12、および機関回転数を検知するクランクポジションセンサ13が電気配線を介して接続され、これら各種センサの出力信号がECU10に入力される。
【0035】
そして、ECU10は、酸化能検出装置4により検出される酸化能に基づいて、酸化触媒3の故障診断を行う。すなわち、酸化触媒3が劣化しているか否か判定する。
【0036】
ここで、酸化触媒3では、酸化能検出装置4において酸化能を示す成分が生成される。そして、酸化触媒3が劣化すると、酸化能を示す成分の生成量が減少するので、酸化能検出装置4により検出される酸化能が低下する。したがって、酸化触媒3が正常であるときの酸化能を閾値として記憶しておき、酸化能検出装置4により検出される酸化能と、閾値と、を比較することで、酸化触媒3が故障しているか否か判定することができる。なお、この閾値は、以前に検出された酸化能としてもよい。また、閾値は、以前に検出された酸化能から許容範囲とされる所定値を減算した値としてもよい。また、酸化触媒3の新品時に検出された酸化能を、以前に検出された酸化能としてもよい。
【0037】
図2は、本実施例に係る酸化触媒3の故障診断のフローを示したフローチャートである。本ルーチンはECU10により所定の時間毎に実行される。
【0038】
ステップS101では、内燃機関1の運転状態が検出される。たとえば、機関回転数及び機関負荷が検出される。
【0039】
ステップS102では、酸化触媒3の故障診断を行う時期であるか否か判定される。たとえば、ステップS101で検出される内燃機関1の運転状態が、酸化触媒3の故障診断に適した状態であるか否か判定される。また、内燃機関1の運転状態によって内燃機関1からのPMの排出量が変わり、検出される酸化能に影響を及ぼすため、故障診断を行う運転状態として予め設定されている所定の運転状態であるか否か判定してもよい。また、所定の期間ごとに故障診断を行うことにしてもよい。たとえば、内燃機関1が搭載されている車両が前回の診断時から所定の距離を走行したか否か判定してもよく、内燃機関1が前回の診断時から所定の時間運転されたか否か判定してもよい。ステップS102で肯定判定がなされた場合にはステップS103へ進み、一方、否定判定がなされた場合には本ルーチンを終了させる。
【0040】
ステップS103では、酸化能検出装置4により酸化触媒3の酸化能が検出される。
【0041】
ステップS104では、ステップS103で検出される酸化能が、閾値未満であるか否か判定される。本ステップでは、検出される酸化能と、閾値と、を比較している。この閾値は、以前に酸化能検出装置4により検出された酸化能とすることができる。すなわち、閾値は、記憶されている酸化能または学習された酸化能とすることができる。そして、以前に検出された酸化能よりも、新たに検出された酸化能のほうが低くなっている場合には
、酸化触媒3が劣化していると考えられる。
【0042】
したがって、ステップS104で肯定判定がなされた場合には、ステップS105へ進み、酸化触媒3が故障していると判定される。一方、ステップS104で否定判定がなされた場合には、ステップS106へ進み、酸化触媒3は正常であると判定される。なお、本実施例においてはステップS104以降を処理するECU10が、本発明における診断装置に相当する。
【0043】
以上説明したように、本実施例によれば、以前に検出された酸化能と、新たに検出された酸化能と、を比較することにより、酸化触媒3が劣化しているか又は正常であるか判定することができる。すなわち、酸化触媒3の故障診断を行うことができる。
【0044】
<実施例2>
図3は、本実施例に係る内燃機関1とその排気系の概略構成を示す図である。主に実施例1と異なる点について説明する。
【0045】
本実施例では、排気通路2の上流側から順に、酸化触媒3、フィルタ5、PM重量検出装置6、酸化能検出装置4が設けられている。なお、PM重量検出装置6は、酸化能検出装置4よりも下流側に設けられていてもよい。
【0046】
フィルタ5は、排気中の粒子状物質(以下、PMともいう。)を捕集する。フィルタ5は、例えばコージェライトのような多孔質材料から形成される隔壁を複数有する、いわゆるウォールフロー型のフィルタである。フィルタ5は、隔壁に細孔が形成されており、排気やPMが細孔を通過する。そして、PMは、細孔内や隔壁の表面に付着する。
【0047】
PM重量検出装置6は、例えば特開2010−78378に記載されているようなPMセンサであり、排気中に含まれるPMの重量を検出する。このPMの重量は、単位時間当たりのPMの重量としてもよく、所定時間当たりのPMの重量としてもよい。PM重量検出装置6は、ECU10に電気配線を介して接続され、該PM重量検出装置6の出力信号がECU10に入力される。
【0048】
そして、ECU10は、酸化能検出装置4により検出される酸化能およびPM重量検出装置6に検出されるPM重量に基づいて、酸化触媒3及びフィルタ5の故障診断を行う。
【0049】
ここで、図4は、フィルタ5のPM堆積量とフィルタ5からのPM排出量との関係を示した図である。PM堆積量は、フィルタ5に捕集されているPMの総量である。PM堆積量は、フィルタ5の再生を行うことにより、略0となる。PM排出量は、フィルタ5から排出されるPM量であり、フィルタ5をすり抜けるPM量である。
【0050】
フィルタ5の再生後、PM堆積量がAで示される値になるまでは、細孔内のPMの量が少ないために、PMが流通する通路の断面積が大きい。このため、PMがフィルタ5をすり抜け易くなるので、PM排出量が大きくなる。そして、PM堆積量が多くなるほど、捕集されたPMにより通路の断面積が小さくなるため、PMが捕集され易くなり、PM排出量が減少する。さらにPMの堆積量が多くなり、PM堆積量がAで示される値となった後は、PM排出量がBで示される値で略一定となる。このように、フィルタ5の再生中や再生を行った直後では、フィルタ5が正常であったとしても、PM排出量が多くなる。したがって、PM排出量のみを検出してフィルタ5の故障診断を行うと、フィルタ5の再生中または再生直後では、フィルタ5が正常であるにもかかわらずフィルタ5が故障していると診断される虞がある。このため、PM排出量のみによる故障診断は、フィルタ5の再生中及び再生直後では困難となる。
【0051】
また、酸化触媒3が故障している場合には、PM中のSOF成分が酸化されずにフィルタ5に流入する。このため、フィルタ5に流入するPM重量が増加する。しかし、フィルタ5では、SOF成分及びSOOT成分が捕集されるため、フィルタ5から流出するPM重量はほとんど変化しない。このため、フィルタ5よりも下流側のPM重量のみを検出しても、酸化触媒3の故障を検出することは困難である。
【0052】
これに対し本実施例では、酸化触媒3及びフィルタ5よりも下流側に、酸化能検出装置4及びPM重量検出装置6を設けることにより、酸化触媒3及びフィルタ5の故障を診断する。
【0053】
ここで、図5は、通常時、再生時、酸化触媒異常時、フィルタ異常時における、フィルタ5よりも下流側のPM重量と、単位PM重量当たりの酸化能と、を示した図である。通常時とは、酸化触媒3及びフィルタ5が正常であって、フィルタ5の再生が行われてから十分に時間が経過して、PM堆積量が図4のAで示される値以上となっているときである。また、再生時とは、フィルタ5の再生中または再生直後であって、酸化触媒3及びフィルタ5の温度が通常時よりも高いときである。また、酸化触媒異常時とは、酸化触媒3に異常(劣化としてもよい。)があるときである。フィルタ異常時とは、フィルタ5に異常があるときである。また、フィルタ5よりも下流側のPM重量は、PM重量検出装置6により検出される単位時間当たりのPMの重量である。また、単位PM重量当たりの酸化能とは、酸化能検出装置4により検出される酸化能を、PM重量検出装置6により検出されるPM重量で除算した値である。
【0054】
なお、図5においては、通常時におけるPM重量及び単位PM重量当たりの酸化能を基準として、他の状態の値と比較している。また、PM重量は、SOF成分と、SOOT成分とに分けられる。ここで、SOOTは、主に乾燥した煤である。また、SOFは、主に液体を含んだ未燃燃料である。
【0055】
再生時においては、酸化触媒3及びフィルタ5は正常であるが、フィルタ5をすり抜けるPM重量が通常時よりも多くなる。そして、酸化触媒3及びフィルタ5の温度が高いことによりSOF成分がガス化されるため、フィルタ5をすり抜けるPMは、ほとんどがSOOT成分となる。一方、再生時には、酸化触媒3及びフィルタ5の温度が高いために、PMの酸化が進み、酸化能を有するPMが酸化能を有しないPMへ変化する。この結果、単位PM重量当たりの酸化能が通常時よりも低くなる。
【0056】
酸化触媒異常時においては、酸化されないSOF成分が増加するため、PM中のSOF成分の割合が増加するが、PM自体はフィルタ5にて捕集されるため、PM重量は通常時と略同じである。一方、酸化触媒3にて酸化されるPMが減少することで、酸化能の高いPMの生成が抑制される。すなわち、通常時ならば、酸化触媒3にて酸化能を有するPMが生成されるが、酸化触媒3が劣化することにより、酸化能を有するPMの生成が抑制される。そうすると、PM重量は殆ど変らずに、酸化能が低下するので、単位PM重量当たりの酸化能が通常時よりも低くなる。なお、単位PM重量当たりの酸化能の代わりに、酸化能検出装置4により検出される酸化能を実施例1と同様にして比較してもよい。すなわち、PM重量が通常時と変わらないのは酸化触媒異常時だけであり、PM重量が通常時と変わらず且つ酸化能が通常時よりも低くなるのは、酸化触媒異常時だけである。
【0057】
フィルタ異常時においては、フィルタ5をすり抜けるPM重量が増加する。一方、酸化触媒3は正常である。ここで、フィルタ5にPMが捕集されると、フィルタ5上で、酸化能を有するPMが酸化能を有しないPMへ変化する。したがって、フィルタ5にて捕集されずにすり抜けるPMが多くなると、酸化能を有したまま排出されるPMが多くなる。こ
のため、単位PM重量当たりの酸化能が通常時よりも高くなる。
【0058】
すなわち、再生時には、フィルタ5よりも下流側のPM重量は通常時よりも多くなり、単位PM重量当たりの酸化能は通常時よりも低くなる。また、酸化触媒異常時には、フィルタ5よりも下流側のPM重量は通常時と略同じになり、単位PM重量当たりの酸化能は通常時よりも低くなる。また、フィルタ異常時には、フィルタ5よりも下流側のPM重量は通常時よりも多くなり、単位PM重量当たりの酸化能は通常時よりも高くなる。
【0059】
このように、フィルタ5よりも下流側のPM重量と、単位PM重量当たりの酸化能とは、通常時、再生時、酸化触媒異常時、フィルタ異常時で全て異なるため、これらの値に基づいて、酸化触媒3及びフィルタ5の故障を診断することができる。
【0060】
たとえば、酸化触媒3およびフィルタ5が正常であるときのPM重量及び単位PM重量当たりの酸化能を閾値として記憶(学習としてもよい。)しておき、故障診断時に検出されるPM重量及び単位PM重量当たりの酸化能を閾値と比較することで、酸化触媒3またはフィルタ5が故障しているか否か判定することができる。なお、この閾値は、以前に検出された値としてもよい。また、閾値は、以前に検出された値から許容範囲とされる所定範囲を含んだ値としてもよい。以前に検出された値は、酸化触媒3の新品時に検出された値としてもよい。
【0061】
図6は、本実施例に係る酸化触媒3及びフィルタ5の故障診断のフローを示したフローチャートである。本ルーチンはECU10により所定の時間毎に実行される。なお、図2に示したフローと同じ処理がなされるステップについては、同じ符号を付して説明を省略する。
【0062】
ステップS201では、PM重量検出装置6によりPMの重量が検出される。
【0063】
ステップS202では、ステップS201で検出されるPM重量が、以前に検出されたPM重量に対して増加しているか否か判定される。なお、以前に検出されたPM重量からの変化量が許容範囲とされる所定値よりも大きいか否か判定してもよい。また、以前に検出されたPM重量を閾値として設定しておき、ステップS201で検出されるPM重量が閾値よりも大きいか否か判定してもよい。また、閾値は、以前に検出されたPM重量から許容範囲とされる所定値を加算した値としてもよい。フィルタ5の新品時に検出されたPM重量を、以前に検出されたPM重量としてもよい。ステップS202で肯定判定がなされた場合にはステップS203へ進み、一方、否定判定がなされた場合にはステップS206へ進む。
【0064】
ステップS203では、単位PM重量当たりの酸化能が、以前に検出された単位PM重量当たりの酸化能よりも増加したか否か判定される。なお、以前に検出された単位PM重量当たりの酸化能からの増加量が許容範囲とされる所定値よりも大きいか否か判定してもよい。また、以前に検出された単位PM重量当たりの酸化能を閾値として設定しておき、新たに検出される単位PM重量当たりの酸化能が閾値よりも大きいか否か判定してもよい。また、閾値は、以前に検出された単位PM重量当たりの酸化能から許容範囲とされる所定値を加算した値としてもよい。酸化触媒3およびフィルタ5の新品時に検出された単位PM重量当たりの酸化能を、以前に検出された単位PM重量当たりの酸化能としてもよい。
【0065】
ステップS203で肯定判定がなされた場合にはステップS204へ進み、一方、否定判定がなされた場合にはステップS205へ進む。ステップS204では、フィルタ5が故障していると診断される。一方、ステップS205では、酸化触媒3及びフィルタ5は
正常であると診断される。
【0066】
ステップS206では、単位PM重量当たりの酸化能が、以前に検出された単位PM重量当たりの酸化能よりも減少したか否か判定される。なお、以前に検出された単位PM重量当たりの酸化能からの減少量が許容範囲とされる所定値よりも大きいか否か判定してもよい。また、以前に検出された単位PM重量当たりの酸化能を閾値として設定しておき、新たに検出される単位PM重量当たりの酸化能が閾値よりも小さいか否か判定してもよい。また、閾値は、以前に検出された単位PM重量当たりの酸化能から許容範囲とされる所定値を減算した値としてもよい。酸化触媒3およびフィルタ5の新品時に検出された単位PM重量当たりの酸化能を、以前に検出された単位PM重量当たりの酸化能としてもよい。
【0067】
ステップS206で肯定判定がなされた場合にはステップS105へ進み、一方、否定判定がなされた場合にはステップS205へ進む。なお、本実施例においてはステップS202以降を処理するECU10が、本発明における診断装置に相当する。
【0068】
以上説明したように、本実施例によれば、フィルタ5よりも下流側のPM重量と、単位PM重量当たりの酸化能と、に基づいて、酸化触媒3の故障と、フィルタ5の故障と、を診断することができる。
【0069】
なお、本実施例では、フィルタ5よりも上流側に酸化触媒3が設けられているが、これに代えて、フィルタ5に酸化触媒3を担持させてもよい。
【0070】
図7は、フィルタ5に酸化触媒3を担持させた場合の内燃機関1とその排気系の概略構成を示す図である。このように、フィルタ5に酸化触媒3を担持させた場合であっても、酸化触媒3またはフィルタ5の故障時には、図5に示した現象が起きる。したがって、上述のようにして酸化触媒3及びフィルタ5の故障診断を行うことができる。
【符号の説明】
【0071】
1 内燃機関
2 排気通路
3 酸化触媒
4 酸化能検出装置
5 フィルタ
6 PM重量検出装置
10 ECU
11 アクセルペダル
12 アクセル開度センサ
13 クランクポジションセンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に設けられ酸化能を有する触媒と、
前記触媒よりも下流側の排気の酸化能を検出する酸化能検出装置と、
前記酸化能検出装置により検出される排気の酸化能を、前記触媒が正常のときの値と比較して、前記触媒の故障を診断する診断装置と、
を備える排気浄化装置の故障診断システム。
【請求項2】
排気中の粒子状物質を捕集するフィルタと、
前記触媒および前記フィルタよりも下流側の粒子状物質の重量を検出するPM重量検出装置と、
を備え、
前記酸化能検出装置は、前記前記触媒及び前記フィルタよりも下流側の粒子状物質の酸化能を検出し、
前記診断装置は、前記PM重量検出装置により検出される粒子状物質の重量と、前記酸化能検出装置により検出される粒子状物質の酸化能と、に基づいて、前記触媒及び前記フィルタの故障を診断する請求項1に記載の排気浄化装置の故障診断システム。
【請求項3】
前記診断装置は、フィルタよりも下流側の粒子状物質の重量と、フィルタよりも下流側の粒子状物質の単位重量当たりの酸化能と、の夫々について、前記フィルタ及び前記触媒が正常のときの値と比較し、夫々の比較結果の組み合わせに基づいて前記触媒及び前記フィルタの故障を診断する請求項2に記載の排気浄化装置の故障診断システム。
【請求項4】
前記粒子状物質の重量が、前記フィルタ及び前記触媒が正常のときの値と同じであり、且つ、前記粒子状物質の単位重量当たりの酸化能が、前記フィルタ及び前記触媒が正常のときよりも低い場合には、前記触媒が故障していると診断する請求項2または3に記載の排気浄化装置の故障診断システム。
【請求項5】
前記粒子状物質の重量が、前記フィルタ及び前記触媒が正常のときよりも多く、且つ、前記粒子状物質の単位重量当たりの酸化能が、前記フィルタ及び前記触媒が正常のときよりも高い場合には、前記フィルタが故障していると診断する請求項2から4の何れか1項に記載の排気浄化装置の故障診断システム。
【請求項6】
前記フィルタは前記触媒よりも下流側に設けられる請求項2から5の何れか1項に記載の排気浄化装置の故障診断システム。
【請求項7】
前記触媒は前記フィルタに担持される請求項2から5の何れか1項に記載の排気浄化装置の故障診断システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−11191(P2013−11191A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−143027(P2011−143027)
【出願日】平成23年6月28日(2011.6.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】