説明

排気浄化装置

【課題】排気浄化装置において、メインテナンス性の向上を図るとともに、消費電力の低減を図りつつ、排気中の粒子状物質を十分に除去できるようにすることである。
【解決手段】排気流れに関して異なる位置に上流側DPF14と、下流側DPF18とを配置する。上流側DPF14と下流側DPF18との間に帯電装置16を接続する。帯電装置16は、粒子状物質を帯電させる帯電用電極と、帯電用電極の排気下流側に設けられ、接地された捕集部とを備える。捕集部は、上流側DPF14から帯電装置16に送られた粒子状物質の少なくとも一部を、静電的に大きな塊状に集結させた状態で捕集可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばディーゼルエンジン等の内燃機関の排気に含まれる粒子状物質を除去するための排気浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関、例えばディーゼルエンジンから排出される排気ガス中には、すす、燃料やエンジンオイルの燃えかす等の粒子状物質(PM)が含まれる。このため、従来から、例えば、ディーゼルエンジンの排気装置等において、ディーゼル粒子状物質除去フィルタ、すなわちDPFを設けて、粒子状物質を除去することが考えられている。
【0003】
また、特許文献1には、ディーゼルエンジン排出ガスの煤煙の除去装置であって、ハニカム形態の多孔性エレメント及び一対の電極を収容するディーゼル粉塵フィルタを含んでなる除去装置が記載されている。煤煙がフィルタに蓄積されるとき、電気放電が起こって煤煙は除去されるとされている。
【0004】
また、特許文献2には、ディーゼルエンジンの排気系に、CF脱硝装置と、その下流側の低電圧空気清浄装置とを、それぞれ設置した気体浄化装置が記載されている。低電圧空気清浄装置は、直流電源の負極に接続された帯電部材と、帯電部材の下流側で、正極に接続された捕集部材とを備える。これにより、排気ガスを帯電部材及び捕集部材の順に通すことにより、気体中のダストを帯電させ、捕集部材に吸着させることができるとされている。
【0005】
【特許文献1】特表2003−535255号公報
【特許文献2】特開2000−130273号公報
【特許文献3】特開2003−269134号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された除去装置では、放電させるための電極を有するディーゼル粉塵フィルタよりも排気上流側に、導電性を有するすす等のPMを捕集するための捕集部を設けていない。このため、除去装置において、内燃機関から排出された、すす等のPMがディーゼル粉塵フィルタに送られる前に除去または減少されることがなく、ディーゼル粉塵フィルタ内の非導電性の電極支持部にすす等の導電体が付着して、電極支持部の絶縁性を確保できなくなる可能性がある。電極支持部の絶縁性を確保できなくなると、電極による放電性能が低下して、PMを除去するのに必要な消費電力が大きくなる可能性がある。また、この場合には、電極支持部に付着した導電体を除去する等の手間が生じてメインテナンス性が低下する可能性がある。また、電極支持部に付着した導電体を除去するために、特別な除去装置が必要となる可能性もある。
【0007】
また、特許文献2に記載された気体浄化装置の場合、低電圧空気清浄装置の排気上流側に金属または高分子樹脂材からなる粗フィルタを設置しており、低電圧空気清浄装置の帯電部材にPMが送られる前にPMの一部が粗フィルタにより捕集される可能性がないとはいえない。ただし、この気体浄化装置の場合には、帯電部材により帯電後に、正極に接続された捕集部材により捕集されなかったPMを捕集することは考慮していない。例えば、気体浄化装置を設けた車両の加速等により排気流量が増大した場合に、捕集部で捕集され、堆積したPMが捕集部から剥がれた場合に、そのまま気体浄化装置から大気中に排出されてしまう可能性がある。このため、PMを十分に除去する面からは改良の余地がある。
【0008】
これに対して、特許文献3には、帯電用電極と、接地極と、ディーゼルパティキュレートフィルタとを内側に備える反応ケースを有する排気浄化装置が記載されている。反応ケースに、エンジンから排出される排気を、排気管を介して反応ケースに供給するようにしている。反応ケース内で、帯電用電極で帯電された後、設置極から流れたPMは、ディーゼルパティキュレートフィルタで捕集するとされている。ただし、このような排気浄化装置の場合、エンジンから排出された排気中のPM中のすす等の導電体を、反応ケースに送り込まれる前に捕集する捕集部を設けていない。このため、上記の特許文献1に記載された除去装置と同様に、帯電用電極を支持する非導電性の電極支持部、例えば碍子等にすす等の導電体が付着して、PMを除去するのに必要な消費電力が大きくなる可能性や、メインテナンス性が低下する可能性がある。
【0009】
本発明は、排気浄化装置において、メインテナンス性の向上を図るとともに、消費電力の低減を図りつつ、排気中の粒子状物質を十分に除去できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る排気浄化装置は、内燃機関の排気に含まれる粒子状物質を除去するための排気浄化装置であって、排気流れに関して異なる位置に配置された複数の粒子状物質除去フィルタと、帯電装置と、を備え、複数の粒子状物質除去フィルタのうち、排気上流側の上流側粒子状物質除去フィルタと、排気下流側の下流側粒子状物質除去フィルタとの間に帯電装置が接続されており、帯電装置は、粒子状物質を帯電させる帯電部と、帯電部の排気下流側に設けられ、接地された捕集部と、を備え、捕集部は、帯電された粒子状物質の少なくとも一部を静電的に大きな塊状に集結させた状態で捕集可能とし、下流側粒子状物質除去フィルタは、捕集部により集結させた粒子状物質の少なくとも一部を捕集可能としていることを特徴とする排気浄化装置である。
【0011】
また、好ましくは、帯電部は、負の高電圧により粒子状物質を帯電させる。
【0012】
また、より好ましくは、上流側粒子状物質除去フィルタと下流側粒子状物質除去フィルタとは、互いに同一構造である。
【0013】
また、より好ましくは、捕集部は、多孔質状または網目状の導電体製とし、下流側粒子状物質除去フィルタは、多孔質状の壁部を有し、受け入れた粒子状物質を、壁部に設けられた微小孔を通じて排出されるようにし、壁部に設けられた微小孔の通路幅を、捕集部に設けられた粒子状物質通過用孔の最小の通路幅よりも小さくする。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る排気浄化装置によれば、帯電装置では、帯電部により粒子状物質が帯電され、帯電された粒子状物質を捕集部で静電的に捕集することができる。また、粒子状物質を、捕集部で静電的に集結させた大きな塊状にすることができる。また、塊状の粒子状物質が捕集部から排気下流側に流れた場合でも、流れた粒子状物質を下流側粒子状物質除去フィルタにより十分に捕集することができる。また、帯電装置の排気上流側に上流側粒子状物質除去フィルタを設けているため、内燃機関から排出された後、帯電装置に送られる粒子状物質を少なくでき、帯電装置の非導電性を有する帯電部支持部に付着する粒子状物質を十分に少なく抑えることができる。このため、帯電部支持部に付着した粒子状物質を除去する等の手間を抑えることができ、メインテナンス性の向上を図れるとともに、帯電装置で帯電すべき粒子状物質の量を少なくできることと相まって、粒子状物質を除去するのに必要な消費電力の低減を図れる。この結果、メインテナンス性の向上を図れるとともに、消費電力の低減を図りつつ、排気中の粒子状物質を十分に除去できる。
【0015】
これに対して、本発明に係る排気浄化装置から帯電装置を省略した、本発明から外れる構造の場合には、粒子状物質除去フィルタから下流側にある範囲の大きさの粒子状物質が捕集されることなく、流出しやすくなってしまう。例えば、ある範囲としては、100nmの近辺の粒径であり、この範囲は、特に排気浄化装置を使用する場合において、実用性を確保しようとした場合には、粒子状物質除去フィルタの構造にかかわらず、ほとんど変化しないことが分かっている。これに対して、本発明によれば、上流側粒子状物質除去フィルタの排気下流側に帯電装置を設けているため、帯電装置に100nm近辺の大きさ、すなわち粒径の粒子状物質が多く送られた場合でも、帯電捕集により粒子状物質を塊状に大きく変化させることができ、帯電装置から多く流出される粒子状物質の大きさを100nm近辺の粒径から大きくずらすことができる。100nm近辺から大きくずれた粒径を有する粒子状物質は、下流側粒子状物質除去フィルタにより十分に捕集できる。この結果、本発明によれば、排気浄化装置から排出される粒子状物質を十分に少なく抑えることができる。
【0016】
また、上流側粒子状物質除去フィルタと下流側粒子状物質除去フィルタとは、互いに同一構造である構成によれば、排気浄化装置から排出される粒子状物質を十分に少なく抑えながら、部品の共通化によるコスト低減を図れる。
【0017】
また、捕集部は、多孔質状または網目状の導電体製とし、下流側粒子状物質除去フィルタは、多孔質状の壁部を有し、受け入れた粒子状物質を、壁部に設けられた微小孔を通じて排出されるようにし、壁部に設けられた微小孔の通路幅を、捕集部に設けられた粒子状物質通過用孔の最小の通路幅よりも小さくする構成によれば、捕集部から流れた粒子状物質を下流側粒子状物質除去フィルタにより、より有効に捕集しやすくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下において、図面を用いて本発明に係る実施の形態につき詳細に説明する。図1は、本発明の実施の形態の1例の排気浄化装置の略構成図である。図2は、図1の排気浄化装置が備える帯電装置を示す略断面図である。図3は、粒子状物質の大きさが帯電装置の捕集部で大きくなる状態を説明するための模式図である。
【0019】
図1に示すように、排気浄化装置10は、内燃機関であるディーゼルエンジン12から排出される排気を供給される上流側ディーゼル粒子状物質除去フィルタである、上流側DPF14と、上流側DPF14よりも排気下流側(図1の右側)に設けられた帯電装置16と、帯電装置16よりも排気下流側に設けられた下流側ディーゼル粒子状物質除去フィルタである、下流側DPF18とを備える。ディーゼルエンジン12、上流側DPF14、帯電装置16、下流側DPF18は、それぞれ排気管20により接続されている。このような排気浄化装置10は、ディーゼルエンジン12の排気に含まれる粒子状物質、すなわちPMを除去して、排気を浄化することを目的とする。
【0020】
上流側DPF14と、下流側DPF18とは、互いに同一構造を有し、同一性能を有するもので、排気流れに関して異なる位置に配置されている。各DPF14,18は、排気中のPMのうち、特に、すすを主に捕集するフィルタ本体を、ケース内に保持している。例えば、フィルタ本体は、多孔質のハニカム焼結体により構成する。例えば、ハニカム焼結体は、セラミックス焼結体の一種であるコージェライトの焼結体とする。ハニカム焼結体は、ハニカム状の壁部を有し、受け入れたPMを、壁部に設けられたフィルタ側微小孔を通過させた後に排出するようにしている。フィルタ側微小孔は、μmのオーダーの極小さい通路幅を有する。
【0021】
また、帯電装置16は、図2に詳しく示すように、導電性を有するケース22の内側に、帯電部である帯電用電極24と、捕集部26とを備える。ケース22は、排気を受け入れるための排気入口28と、排気を送り出すための排気出口30とを有する。帯電用電極24は、棒状で、周囲を通過するPMを帯電させる。帯電用電極24の排気下流側(図2の右側)に複数の突起を設けている。帯電用電極24の両端は、電極支持部である碍子32を介して絶縁した状態で、ケース22に支持している。帯電用電極24は、排気流れ方向(図2の矢印A方向)に対して直交する方向に配置している。帯電用電極24は、電源装置34の負極側に接続されて、例えば−10kVの一定の負の高電圧が印加されるようにしている。
【0022】
また、捕集部26は、接地したケース22に支持され、電気的に接続されることにより、接地極の役目を有する。捕集部26は、帯電用電極24の対極となる。捕集部26は、多孔質状または網目状の金属等の導電体製である。例えば、捕集部26は、発泡金属またはステンレス網等により構成する。捕集部26は、後で詳しく説明するように、ケース22内に送られたPM36の少なくとも一部を、静電的に大きな塊状に集結させた状態で捕集可能とする。このような帯電装置16は、上記の特許文献3に記載された反応ケースにおいて、ディーゼルパティキュレートフィルタを除いた構造と同様の機能を有する。また、下流側DPF18は、捕集部26により集結され、捕集部26から流れたPM36の少なくとも一部を捕集可能とする。
【0023】
なお、捕集部26に、PM酸化触媒や、NOx浄化触媒等の触媒を担持させることもできる。また、捕集部26に設けている粒子状物質通過用孔である、孔35(後述する図3)の最小の通路幅D(図3)は、上流側DPF14及び下流側DPF18のそれぞれに設けているフィルタ側微小孔の通路幅よりも大きくする。逆に言えば、フィルタ側微小孔の通路幅は、捕集部26に設けている孔35の最小の通路幅Dよりも小さくする。
【0024】
このように構成することにより、電源装置34により帯電用電極24に、負の高電圧を印加すると、帯電用電極24と捕集部26との間で電圧勾配が生じて、帯電用電極24の周囲にプラズマが発生する。そして、帯電装置16に供給された排気中のPMがプラズマにより負に帯電される。帯電されたPMは、捕集部26により静電的に塊状に集結した状態で捕集される。
【0025】
図3は、上記の特許文献3に記載された排気浄化装置において、接地極に粒子状物質が集塵されるのと同様に、捕集部26に粒子状物質である、PM36が大きな塊状に集結して、塊状PM38となる状態を示している。図3に示すように、ケース22(図2)内に送られ、捕集部26でのPM36の集結量、すなわち堆積量が多くなると、塊状PM38の一部が捕集部26から大きな塊で剥がれる。剥がれた塊状PM38は、ケース22(図2)内から排気下流側に排出された後、下流側DPF18(図1)に送られる。下流側DPF18では、大きな塊状PM38が多く送られるため、多くのPM36が下流側DPF18で捕集される。下流側DPF18から排出された排気は、図示しないマフラーを介して大気中に排出される。このように帯電装置16(図1、図2)は、PM36の大きさを拡大する粒子状物質拡大化装置の機能を有する。
【0026】
なお、図1に戻り、排気浄化装置10に図示しないコントローラを設けて、コントローラによりディーゼルエンジン12の回転数を上昇させたり、燃料の噴射タイミングを変化させることにより、排気温度を上昇させる制御を行うこともできる。
【0027】
このような本実施の形態の排気浄化装置10によれば、帯電装置16では、帯電用電極24によりPM36が負の高電圧により帯電され、帯電されたPM36を排気下流側の捕集部26で静電的に捕集することができる。また、捕集部26でPM36を、静電的に終結した大きな塊状PM38とすることができる。また、塊状PM38が捕集部26から排気下流側に流れた場合でも、流れた塊状PM38を下流側DPF18により十分に捕集することができる。
【0028】
また、帯電装置16の排気上流側に上流側DPF14を設けているため、ディーゼルエンジン12から排出された後、帯電装置16に送られるPM36を少なくできる。すなわち、ディーゼルエンジン12から排出されたPM36のうちの大半を、上流側DPF14で除去できる。そして、帯電装置16に送られることにより、帯電装置16の帯電用電極24を支持する非導電性を有する碍子32に付着するPM36を十分に少なくできる。このため、碍子32に付着したPM36を除去する等の手間を抑えることができ、メインテナンス性の向上を図れる。また、帯電装置16で帯電すべきPM36の量を少なくできることと相まって、PM36を除去するのに必要な消費電力の低減を図れる。
【0029】
例えば、本発明の発明者の実験によると、本実施の形態の構成で上流側DPF14を除いた構成を有する、本発明から外れる排気浄化装置で、排出される排気に含まれるPMをある量以下に抑えるために必要な電力が、20kVで0.8mAの場合に16Wであったのに対し、本実施の形態と同様の排気浄化装置によれば、必要電力が20kVで0.37mAの場合には7.4Wとなり、上流側DPF14がない場合に比べて、消費電力を約54%低減と十分に少なくできる、すなわち省電力化を図れることが分かった。また、本実施の形態によれば、碍子32に付着したPM36を除去するために、別の除去装置を新たに設ける必要がなくなる。この結果、本実施の形態によれば、製造コストを抑え、かつ、メインテナンス性の向上を図れるとともに、消費電力の低減を図りつつ、排気中のPMを十分に除去できる。
【0030】
また、上流側DPF14と下流側DPF18とは、互いに同一構造であるので、排気浄化装置10から排出されるPM36を十分に少なく抑えながら、部品の共通化によるコスト低減を図れる。
【0031】
また、捕集部26は、多孔質状または網目状の導電体製とし、下流側DPF18は、多孔質状の壁部を有し、受け入れたPM36を、壁部に設けられたフィルタ側微小孔を通じて排出されるようにし、フィルタ側微小孔の通路幅を、捕集部26に設けられたPM通過用孔である孔35の最小の通路幅Dよりも小さくする場合には、捕集部26から流れたPM36を下流側DPF18により、より有効に捕集しやすくなる。
【0032】
図4、図5は、本実施の形態の構成による効果をより詳しく説明するための図である。図4は、上流側ディーゼル粒子状物質除去フィルタ(上流側DPF)での粒子状物質(PM)の粒径に対する捕集率分布の1例を示す図である。図5は、本実施の形態による効果を確認するために行われた実験結果において、ディーゼルエンジン12または帯電装置16から排出された直後の粒子状物質(PM)の粒径に対する排出率分布を示す図である。図4に実線αで示すように、上流側DPF14(図1)での全部の粒径のPM36(図3)に対する、各粒径のPM36の捕集率は、粒径がある範囲、例えば100nmの近辺の範囲で、過度に低下することが分かっている。なお、本実施の形態の説明及び図面で、「PMの粒径」とは、PM36の粒径だけでなく、PM36が塊状に集結した塊状PM38の径も含む。
【0033】
このようにPM36の捕集率が、粒径がある範囲で過度に低下する理由は次の通りである。すなわち、図4の一点鎖線βは、上流側DPF14でのPM36の捕集率のうち、PM36の分子間力及びブラウン運動で上流側DPF14にPM36が捕集されるという原因のみにより生じる捕集率を表している。また、図4の二点鎖線γは、上流側DPF14でのPM36の捕集率のうち、PM36の大きさが上流側DPF14のフィルタ側微小孔の大きさよりも大きくなるという原因のみにより生じる捕集率を表している。
【0034】
PM36の粒径が100nm近辺よりも小さくなると、PM36と上流側DPF14のフィルタ本体との間に作用する分子間力により、PM36がフィルタ本体に付着しやすくなる。また、PM36の粒径が100nmよりも小さくなると、PM36がブラウン運動しやすくなることにより、フィルタ本体の壁部に設けられたフィルタ側微小孔にPM36が留まりやすくなる。この結果、図4に示すように、PM36の粒径がある範囲、すなわち100nm近辺の粒径よりも小さくなると、上流側DPF14でPM36が捕集されやすくなる。
【0035】
また、PM36の粒径が100nm近辺よりも大きくなると、PM36の粒径が上流側DPF14のフィルタ側微小孔よりも大きくなることにより、PM36が上流側DPF14により捕集されやすくなる。すなわち、図4に示すように、PM36の粒径がある範囲、すなわち100nm近辺の粒径よりも大きくなると、上流側DPF14でPM36が通過する部分との寸法差により捕集されやすくなる。
【0036】
この結果、上流側DPFでは100nm近辺の粒径のPM36を捕集しにくくなるため、上流側DPF14からは100nm近辺の粒径のPM36が多く流出される。これに対して本実施の形態では、上流側DPF14の排気下流側に帯電装置16を設けている。そして、上記で説明したように帯電装置16では、帯電用電極24による帯電によりPM36を塊状PM38に変えて、粒径を大きくすることができる。このため、PM36が捕集部26から剥がれて、帯電装置16から流出した場合でも、上流側DPF14と同一構造を有する下流側DPF18により、100nm近辺から外れた大きな粒径を有する多くのPM36を捕集することができ、結果として下流側DPF18から排出されるPM36を十分に少なくできる。
【0037】
図5では、一点鎖線δにより、ディーゼルエンジン12(図1)から排出された直後のPM36、塊状PM38の排出率を表している。また、実線ηにより、ディーゼルエンジン12から排出された後、帯電装置16から帯電後に排出された直後のPM36、塊状PM38の排出率を表している。なお、図5では排出率の分布を表しており、実際のPM36、塊状PM38の排出量は、帯電装置16から排出直後のもの(図5の実線η)で、ディーゼルエンジン12から排出直後のもの(図5の一点鎖線δ)よりも全体的に少なくなっている。図5に示す実験結果から明らかなように、本実施の形態によれば、帯電装置16を通過させることにより、排出される量が最も多いPM36の粒径を、100nmから大きく外れた1.5μmに大きくすることができることを確認できた。
【0038】
なお、本発明は、本実施の形態の構成に限定するものではなく、例えば、帯電装置16の捕集部26の構造も、発泡金属またはステンレス網により構成するものに限定せず、メッキ多孔質体や、導電性塗料を塗布したハニカム構造のフィルタ等、種々の構造を採用できる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の実施の形態の1例の排気浄化装置の略構成図である。
【図2】図1の排気浄化装置が備える帯電装置を示す略断面図である。
【図3】粒子状物質の大きさが帯電装置の捕集部で大きくなる状態を説明するための模式図である。
【図4】上流側ディーゼル粒子状物質除去フィルタ(上流側DPF)での粒子状物質(PM)の粒径に対する捕集率分布の1例を示す図である。
【図5】本実施の形態による効果を確認するために行われた実験結果において、ディーゼルエンジンまたは帯電装置から排出された直後の粒子状物質(PM)の粒径に対する排出率分布を示す図である。
【符号の説明】
【0040】
10 排気浄化装置、12 ディーゼルエンジン、14 上流側DPF、16 帯電装置、18 下流側DPF、20 排気管、22 ケース、24 帯電用電極、26 捕集部、28 排気入口、30 排気出口、32 碍子、34 電源装置、35 孔、36 粒子状物質(PM)、38 塊状PM。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気に含まれる粒子状物質を除去するための排気浄化装置であって、
排気流れに関して異なる位置に配置された複数の粒子状物質除去フィルタと、
帯電装置と、を備え、
複数の粒子状物質除去フィルタのうち、排気上流側の上流側粒子状物質除去フィルタと、排気下流側の下流側粒子状物質除去フィルタとの間に帯電装置が接続されており、
帯電装置は、粒子状物質を帯電させる帯電部と、帯電部の排気下流側に設けられ、接地された捕集部と、を備え、
捕集部は、帯電された粒子状物質の少なくとも一部を静電的に大きな塊状に集結させた状態で捕集可能とし、
下流側粒子状物質除去フィルタは、捕集部により集結させた粒子状物質の少なくとも一部を捕集可能としていることを特徴とする排気浄化装置。
【請求項2】
請求項1に記載の排気浄化装置において、
帯電部は、負の高電圧により粒子状物質を帯電させることを特徴とすることを特徴とする排気浄化装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の排気浄化装置において、
上流側粒子状物質除去フィルタと下流側粒子状物質除去フィルタとは、互いに同一構造であることを特徴とする排気浄化装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1に記載の排気浄化装置において、
捕集部は、多孔質状または網目状の導電体製であり、
下流側粒子状物質除去フィルタは、多孔質状の壁部を有し、受け入れた粒子状物質を、壁部に設けられた微小孔を通じて排出されるようにしており、
壁部に設けられた微小孔の通路幅を、捕集部に設けられた粒子状物質通過用孔の最小の通路幅よりも小さくしていることを特徴とする排気浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−74438(P2009−74438A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−243900(P2007−243900)
【出願日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】