説明

排水処理におけるリン回収およびリン吸着剤脱着方法

【課題】排水中のリンを吸着剤によって除去する排水処理において、リンの脱着回収効率を向上することのできる脱着再生方法を提供する。
【解決手段】吸着したリン成分の脱着処理を、温度40℃〜100℃の炭酸塩を除くアルカリ金属塩を溶解させたアルカリ性水溶液に接触させることによって行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、し尿、下水、食品加工廃液および工場廃液、畜産糞尿等を対象とする排水処理に関して、排水中のリンを吸着剤によって除去する排水処理において、リンの脱着回収効率を向上することのできる脱着方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、河川、各種産業排水もしくは生活排水中に多量に含まれる有機物質、窒素、リン等の成分が、藻類の発生を促す湖沼の水質汚染や近海における赤潮発生につながる富栄養化現象の要因として挙げられている。富栄養化を生じる窒素及びリンの限界濃度として窒素が0.15ppm、リンが0.02ppmであるといわれており、窒素及びリンを高濃度から低濃度域において除去可能な高度水処理技術の確立が強く望まれている。
【0003】
排水中のリンを除去する方法としては、生物学的処理法と物理化学的処理法の二つに大別される。物理化学的処理法の中では、経済性、処理効率等の観点から凝集剤を用いて難溶性のリン酸塩としてリン成分を除去する凝集沈殿法が一般的である。
しかしながら、凝集剤添加に伴う凝集剤に由来する塩類の排水への流出、汚泥処理及びリン回収・再利用の問題、低濃度域でのリン除去が不十分といった問題など、今後検討すべき課題が挙げられる。
【0004】
凝集沈殿法以外の方法として、リン吸着剤を用いるリン成分の吸着処理方法(例えば、特許文献1参照。)が試みられている。吸着法では、水酸化アルミニウムゲル、酸化マグネシウム、酸化チタン−活性炭複合剤、酸化ジルコニウム−活性炭複合剤といったものや、火山灰土壌等やそれら土壌を改質したものをリン吸着剤として用いているが、吸着剤使用回数を向上するための再生方法、吸着したリンを高効率に脱着回収する脱着方法が実用化上の課題となっていた。
【0005】
化学組成式(1):M1−x2+3+(OH2+x−y(An−y/n(式中、M2+はMg2+、Ni2+、Zn2+、Fe2+、Ca2+及びCu2+からなる群から選ばれる少なくとも1種の二価の金属イオンを示し、M3+はAl3+及びFe3+からなる群から選ばれる少なくとも1種の三価の金属イオンを示し、An−はn価のアニオンを示し、0.1≦x≦0.5であり、0.1≦y≦0.5であり、nは1または2である。)で示される複合金属水酸化物のリン酸イオン吸着剤に関するリン酸脱着剤再生方法としては、例えば特許文献2にも記載されているが更なる高効率化が課題となっていた。
【0006】
【特許文献1】特許第3113183号公報
【特許文献2】特開2005−305343号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、排水中のリンを吸着剤によって除去する排水処理において、リンの脱着回収効率を向上することのできる脱着方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記従来技術に鑑みさらに鋭意検討を重ねた結果、本発明に到達した。
即ち、本発明の目的は、
リン含有排水中のリン成分の除去を、下記化学組成式(1)で示される複合金属水酸化物をリン成分の吸着剤として用いて行うリン含有排水の処理方法において、
リン成分を前記吸着剤に吸着させた後、吸着したリン成分の脱着処理を、吸着剤を温度40〜100℃の、炭酸塩を除くアルカリ金属塩を溶解させたアルカリ性水溶液に接触させることによって行う、吸着剤の脱着方法によって達成することができる。
[化1]
1−x2+3+(OH2+x−y(An−y/n (1)
(式中、M2+はMg2+、Ni2+、Zn2+、Fe2+、Ca2+及びCu2+からなる群から選ばれる少なくとも1種の二価の金属イオンを示し、M3+はAl3+及びFe3+からなる群から選ばれる少なくとも1種の三価の金属イオンを示し、An−はn価のアニオンを示し、0.1≦x≦0.5であり、0.1≦y≦0.5であり、nは1または2である。)
【発明の効果】
【0009】
本発明の脱着方法によれば、吸着したリン成分の脱着回収効率を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明は、排水中の富栄養化物であるリン成分の除去をリン成分吸着剤により行う排水処理において、続いて行う吸着したリン成分の脱着をする際に、リンの脱着回収効率を向上するものである。
【0011】
ここで、本発明におけるリン吸着剤とは、
化学組成式(1):
1−x2+3+(OH2+x−y(An−y/n (1)
(式中、M2+はMg2+、Ni2+、Zn2+、Fe2+、Ca2+及びCu2+からなる群から選ばれる少なくとも1種の二価の金属イオンを示し、M3+はAl3+及びFe3+からなる群から選ばれる少なくとも1種の三価の金属イオンを示し、An−はn価のアニオンを示し、0.1≦x≦0.5であり、0.1≦y≦0.5であり、nは1または2である。)で示される複合金属水酸化物であり、具体的には、例えば、下記のような組成をとることができる。
[化2]
Mg2+0.665Fe3+0.335OH2.099Cl0.124(CO2−0.056
[化3]
Mg2+0.683Al3+0.317OH2.033Cl0.238(CO2−0.023
【0012】
吸着剤は、0.01〜500μmのものを上記無機材料のまま、または、高分子に担持して用いる。高分子としては、湿式凝固により多孔形成が可能なアラミド系樹脂、アクリル系樹脂、ビニルアルコール系樹脂、セルロース系樹脂などが用いられるが、特に高分子の種類を限定するものではない。また、吸着剤および吸着剤担持高分子成形体の形状も例えば円形などに限定するものではなく、各種形状をとることができる。
【0013】
本発明においては、リン含有排水中のリン成分を吸着剤に吸着させた後、続いて吸着剤からのリン成分の脱着を行うが、この吸着剤からのリン成分脱着液としては、炭酸塩を除くアルカリ金属塩水溶液が用いられる。ここで、好ましいアルカリ金属塩としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム等が挙げられ、より好ましくは塩化ナトリウムが挙げられる。
【0014】
この脱着操作時の温度を40℃以上100℃未満とすることが本発明において特徴的なものである。
ここで、「五訂 公害防止の技術と法規(水質編)」、第9版、社団法人産業環境管理協会、平成15年4月18日発行(初版平成7年5月20日)、第168頁の2.2.8.活性炭吸着の項にも「気相の吸着では温度の影響が大きいが、通常の水処理においては温度の影響は無視できる程度に小さい」旨の記載がある通り、活性炭を始め通常の排水処理における吸着・イオン交換では温度の影響は無視できる程度まで小さい。しかしながら、本願発明で用いる複合金属水酸化物を吸着剤として用いた場合には、特異的にリン成分脱着液温度を上げることによって、リン成分の脱着回収率を飛躍的に高くすることが可能となる。好ましい脱着液温度は40℃以上、100℃未満である。40℃未満では温度スイングによるリン成分脱着回収率向上の効果があまり見られず、100℃以上では設備費が無駄にかかるだけでなく、動力費増大分に見合う脱着率向上が期待できない。
【0015】
この脱着操作は、接触時の温度については上記の通りであるが、圧力については上記温度範囲の中で、水溶液が液相を保持する限りどのような条件でも採用することができるが、工程の安定性、コスト等の観点からは、0.1〜0.5MPa程度に設定すればよい。
【0016】
また、接触時間についても、リン成分が脱着できる限りどのように設定してもよいが、例えば、接触を回分式で行う場合には、0.5〜24時間程度、連続式で行う場合には、0.5〜6時間程度とすればよい。接触の方式については、アルカリ性水溶液中に吸着剤を浸漬させる方法、吸着剤を充填した塔中に、アルカリ性水溶液を投入する方法等を例示することができるが、特に限定されるものではない。
なお、アルカリ金属塩の純度については、例えば純度規格95%の工業塩を使用することができるが、純度の高いアルカリ金属塩を使用する方が、リン成分脱着回収率が高くなることから好ましい。
【0017】
また、脱着は好ましくはpH8以上のアルカリ雰囲気下、さらに好ましくはpH11以上のアルカリ雰囲気下で行うことが好ましく、アルカリ剤としては水酸化ナトリウムや水酸化カリウムが用いられるが、好ましくは水酸化ナトリウムが用いられる。
なお、吸着剤に接触させた後のアルカリ性水溶液を回収し、pHが8〜11の範囲となるように調整した後、さらに、アンモニウムイオンおよびマグネシウムイオンを添加して、リン成分を析出物(リン酸マグネシウムアンモニウム)として除去した後のアルカリ性水溶液を脱着液として、あるいは、後述の再生工程のアルカリ土類金属塩水溶液として再利用することもできる。
【0018】
また、同じく回収したアルカリ性水溶液を、pHが4.5〜13.5の範囲となるように調整した後に、さらに、カルシウムイオンを添加してリン成分を析出物(ヒドロキシアパタイト)として除去し、前記工程(A)のアルカリ性水溶液として、あるいはマグネシウムイオンを含むことから、後述の工程(B)のアルカリ土類金属塩水溶液として再利用することもできる。
ここで、上記のpH調整に用いる剤としては、特に規定はしないが酸としては塩酸や硫酸などが使用できるが塩酸が好ましい。アルカリとしては水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどが使用できる。
【0019】
本発明においては、リン成分吸着剤とアルカリ性水溶液とを接触させて、脱着処理を行った後、吸着剤を水洗し、吸着剤再生率を向上するためにアルカリ土類金属塩水溶液と接触させて再生処理を行うことが好ましい。
ここで水洗は、吸着剤内部あるいは表面に存在するアルカリ性水溶液を除去できる限り、どのような条件で行ってもよく、例えば、水蒸気による洗浄などでもアルカリ性水溶液を除去できればかまわない。
【0020】
ついで、再生処理を行うための炭酸塩を除くアルカリ土類金属塩水溶液として、好ましくは塩化マグネシウム、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、臭化マグネシウム、臭化カルシウム等の水溶液が挙げられ、より好ましくは塩化マグネシウム及び硫酸マグネシウム水溶液、さらに好ましくは塩化マグネシウムが挙げられる。
アルカリ土類金属塩については純度に対する制限はなく、例えば工業塩として売られている純度規格95%のものを使用することができる。
【0021】
再生操作は、上記の水洗後の吸着剤とアルカリ土類金属塩水溶液とを接触させることによって容易に行うことができる。接触時の温度、圧力については水溶液が液相を保持する限りどのような条件でも採用することができるが、工程の安定性、コスト等の観点から、10〜40℃、0.1〜0.5MPa程度に設定すればよい。
【0022】
また、接触時間についても、吸着剤の再生ができる限りどのように設定してもよいが、例えば、接触を回文式で行う場合には、0.5〜20時間程度、連続式で行う場合には、0.5〜5時間程度とすればよい。接触の方式については、アルカリ土類金属塩水溶液中に吸着剤を浸漬させる方法、吸着剤を充填した塔中に、アルカリ土類金属塩水溶液を投入する方法等を例示することができるが、特に限定されるものではない。
【0023】
また、アルカリ土類金属塩水溶液による吸着剤からのリン成分脱着、吸着剤の再生処理により、リン吸着剤中のリン成分は、水溶性のリン成分として回収される。
したがって、アルカリ性水溶液を交換等することなく使用する限り、吸着脱着操作がリン成分の濃縮操作となり、すなわちアルカリ性水溶液中のリン成分濃度を排水液よりはるかに高くすることが可能であり、高濃度にリン成分を含む水溶液からの除去ができるので、効率的に回収することが可能である。
【0024】
また、アルカリ土類金属塩水溶液についてもそのまま繰返して使用して、リン成分濃度が一定以上になったところで、アルカリ土類金属塩水溶液中からのリン成分除去と同様の操作を行い、再度アルカリ土類金属塩水溶液として再利用することが可能である。
【実施例】
【0025】
以下、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はこれにより何等限定を受けるものではない。
【0026】
[実施例1]
平均粒径10μmのMg−Al−Cl型ハイドロタルサイト吸着剤(富田製薬株式会社、TPEX標準品)をメタ系アラミド高分子(帝人テクノプロダクツ株式会社製、CONEXパウダー)に担持して、平均粒径0.5〜1.0mmの球状成形体とし(ハイドロタルサイト:メタ系アラミド高分子=90wt%:10wt%)、ハイドロタルサイト重量で31.8gの成形体を、リン濃度933mg/Lの溶液1Lに浸漬し、プロペラ翼を用いて200rpmで攪拌し、3時間リンを吸着させた。吸着されたリン量は、ハイドロタルサイト1g当たり、27.1mgであった。
ここで、Mg−Al−Cl型ハイドロタルサイト吸着剤は、リン酸イオンの吸着剤であり、図1中のリン濃度は、リン酸イオン濃度をモリブデン青法を用いて定量しその値をリン濃度に換算したものである。
次に、リン吸着済みの吸着剤をハイドロタルサイト重量で5.3gを、水100gに純度99%以上の塩化ナトリウム34g、水酸化ナトリウム1gを溶かした49℃脱着液100mL中に投入し60分攪拌した。
所定時間ごとに、水溶液中のリン濃度を測定し、リン脱着率を評価した。その結果を図1に示す。
【0027】
[実施例2]
脱着液に使う塩化ナトリウムを、純度98.6%の工業用塩化ナトリウムとする以外は実施例1と同様の方法で吸着・脱着させ、リン脱着率を評価した。その結果を図1に示す。
【0028】
[実施例3]
脱着液の温度を76℃にする以外は実施例2と同様の方法で吸着・脱着させ、リン脱着率を評価した。その結果を図1に示す。
【0029】
[比較例1]
脱着液の温度を19℃にする以外は実施例1と同様の方法で吸着・脱着させ、リン脱着率を評価した。その結果を図1に示す。
【0030】
[比較例2]
脱着液の温度を19℃にする以外は実施例2と同様の方法で吸着・脱着させ、リン脱着率を評価した。その結果を図1に示す。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明による脱着再生方法の脱着性能評価、および比較評価のグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン含有排水中のリン成分の除去を、下記化学組成式(1)で示される複合金属水酸化物をリン成分の吸着剤として用いて行うリン含有排水の処理方法において、
リン成分を前記吸着剤に吸着させた後、吸着したリン成分の脱着処理を、吸着剤を温度40〜100℃の、炭酸塩を除くアルカリ金属塩を溶解させたアルカリ性水溶液に接触させることによって行う、吸着剤の脱着方法。
[化1]
1−x2+3+(OH2+x−y(An−y/n (1)
(式中、M2+はMg2+、Ni2+、Zn2+、Fe2+、Ca2+及びCu2+からなる群から選ばれる少なくとも1種の二価の金属イオンを示し、M3+はAl3+及びFe3+からなる群から選ばれる少なくとも1種の三価の金属イオンを示し、An−はn価のアニオンを示し、0.1≦x≦0.5であり、0.1≦y≦0.5であり、nは1または2である。)
【請求項2】
アルカリ性水溶液のpHが8〜14である、請求項1に記載の脱着方法。
【請求項3】
吸着剤をアルカリ性水溶液に接触させた後、アルカリ性水溶液を回収し、pHが8〜13の範囲となるように調整した後に、さらに、アンモニウムイオンおよびマグネシウムイオンを添加してリン成分を析出物として除去し、アルカリ性水溶液として再利用する、請求項1に記載の脱着方法。
【請求項4】
吸着剤をアルカリ水溶液に接触させた後、アルカリ性水溶液を回収し、pHが4.5〜13.5の範囲となるように調整した後に、さらに、カルシウムイオンを添加してリン成分を析出物として除去し、アルカリ性水溶液として再利用する、請求項1に記載の脱着方法。
【請求項5】
請求項1記載のアルカリ性水溶液に接触させた後の吸着剤を更に水洗し、炭酸塩を除くアルカリ土類金属塩水溶液に接触させる、吸着剤の再生方法。
【請求項6】
吸着剤をアルカリ性水溶液に接触させた後、アルカリ性水溶液を回収し、pHが8〜13の範囲となるように調整した後に、さらに、アンモニウムイオンおよびマグネシウムイオンを添加してリン成分を析出物として除去し、炭酸塩を除くアルカリ金属塩水溶液として再利用する、請求項5に記載の再生方法。
【請求項7】
吸着剤をアルカリ水溶液に接触させた後、アルカリ性水溶液を回収し、pHが4.5〜13.5の範囲となるように調整した後に、さらに、カルシウムイオンを添加してリン成分を析出物として除去し、炭酸塩を除くアルカリ金属塩水溶液として再利用する、請求項5に記載の再生方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−49240(P2008−49240A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−226566(P2006−226566)
【出願日】平成18年8月23日(2006.8.23)
【出願人】(592091596)帝人エンジニアリング株式会社 (21)
【Fターム(参考)】