説明

排水機能付き鋼矢板

【課題】地震時に液状化の発生が懸念される地盤に施工される壁体や護岸等に用いられる排水機能付き鋼矢板について、施工性およびコストメリットを改善する。
【解決手段】鋼矢板基体1と、その長手方向に沿って設けた排水部材2と、排水部材の表面を覆い、排水部材内部への土砂の侵入を防止するフィルター材3と、排水部材の前面に設けた防護板4とからなる。鋼矢板基体は有効幅500mm以上の鋼矢板であり、防護板は施工機械の把持力および地中の土圧に耐え得る剛性を有するものを用いる。防護板の施工機械が把持する位置近傍には少なくとも1つのリブ5を設ける。排水部材は鋼矢板基体の表面と防護板の本体およびリブとの間に形成される空間に配置する。防護板は、鋼矢板基体および排水部材とともにを地中に設置した後に、防護板のみ引き抜き可能となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震時に液状化の発生が懸念される地盤に施工される壁体や護岸等に用いられる排水機能付き鋼矢板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
軟弱な砂層地盤など地震時に液状化の発生が懸念される地盤上に構造物を構築する場合、もしくは既存の構造物に液状化対策を施す場合には、従来から各種工法が開発されている。例えば、地盤が液状化しないように地盤強度(密度)を増大させる締固め工法(サンドコンパクションパイル工法など)、薬液注入などによる地盤改良工法などが幅広く適用されている。
【0003】
しかし、これらの工法では周辺地盤をかなり広い領域にわたって対策する必要があるため用地確保が必要であり、また確実に効果を発揮させるためには構造物直下地盤を改良することが肝要である。
【0004】
既設構造物への適用を考えた場合、一旦構造物を撤去し、地盤を改良した後に再び構造物を設置するか、構造物周辺地盤から構造物直下地盤の改良を施す必要がある。しかし、施工スペースの制限や、低騒音・低振動施工が求められるなど適用の制限を受けることが考えられる。さらに、対策工法や地盤の改良範囲によっては多大な工期、工費が必要となり非合理的となることも考えられる。
【0005】
一方、ドレーン工法など地震時に発生する過剰間隙水圧の発生を低減し液状化を抑制する工法、鋼材などを用いて構造的に地盤の変形を抑制する工法、さらにはこれらの技術要素を組み合わせて、より合理的かつ効果的な対策を可能にする工法も開発されている。
【0006】
一例としては、矢板や杭、H型鋼のような鋼材に排水材を取り付けた排水機能付き鋼(管)矢板、鋼管杭、H型鋼を地中に連続して打設し壁体を構築する工法が挙げられる。これらの工法は、主として水路や共同溝、盛土といった線状構造物の両側に設置される場合や、建築物をはじめ各種施設を取り囲むように設置される場合が多い。
【0007】
構造物の周囲に壁体を構築することで、鋼材の強度・剛性に優れるといった特徴を活かして液状化した地盤の変形を抑制するとともに、鋼材表面もしくは近傍に設置された排水部材の効果により地震時に発生する過剰間隙水圧を低減し液状化が抑制され、構造物に生じる有害な変形や損傷が抑制されることが期待できる。
【0008】
矢板近傍の過剰間隙水圧の発生が抑制されると、矢板近傍の地盤強度が保持され鋼材自体の変形に抵抗する地盤からの反力が十分に期待でき、かつ鋼材に作用する地盤からの荷重が低減されるため、必要な鋼材の断面を低減することができコスト面での合理化も期待できる。
【0009】
また、このような排水・集水機能が付与された鋼(管)矢板などの鋼材は、護岸や道路擁壁などの擁壁構造物の構築にも適用することが可能で、擁壁構造物背面の水を効果的に排水することで静水圧を低減し擁壁構造物の変形を抑制することが期待される。これにより、擁壁構造物に適用する鋼材の断面が低減され、材料コストの縮減が可能となり合理的となる。
【0010】
例えば、特許文献1には、振動を利用してケーシングを砂質地盤にその砂質地盤を締固めつつ打ち込む工程と、地盤の所定圧力に対する耐圧性を有し且つ周壁に透水用の孔を開設したパイプに透水性フィルターを被せてなるドレーンパイプをケーシングに挿入する工程と、ケーシングを砂質地盤から引き抜いて砂質地盤にドレーンパイプを残留させる工程とを有し、砂質地盤中の過剰間隙水圧をこのドレーンパイプを用いて低下させることを特徴とする砂質地盤の液状化対策工法が記載されている。
【0011】
特許文献2には、吸水性または透水性を有する筒状のドレーン部材の先端部を矢板に固定すると共に、該矢板に前記ドレーン部材全体を覆う筒状のケーシングを着脱可能に取り付けて前記矢板とケーシングを同時に地盤中に打設し、前記ケーシング内に注水してその上端開口部を閉塞し、前記矢板およびドレーン部材を地盤中に残した状態で前記ケーシングを引き上げることを特徴とする地盤の液状化抑制工法が記載されている。
【0012】
特許文献3には、排水用部材として複数の鉛直方向のリブおよび多数の開口部を有するリブ付き平板を、前記リブを有する側を矢板本体側に向けて、矢板本体の少なくとも片面に長手方向に沿って設ける排水機能付き矢板が記載されている。
【0013】
特許文献4には、地盤中に圧入するための矢板とこの矢板のウェブに沿ってその長手方向に設けた埋設用の水抜き部材とを備え、さらに、この水抜き部材の外側方にこの水抜き部材の外側面を保護し得る幅を有する板状の保護部材を設けてなることを特徴とする地盤排水部材が開示されている。この保護部材は排水部材を地盤に圧入した後に取り外して回収されるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特公平06−011990号公報
【特許文献2】特開平11−158862号公報
【特許文献3】特開平11−071750号公報
【特許文献4】特開平11−117284号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
特許文献1に記載された発明は、地震時にドレーンパイプ周辺の過剰間隙水圧消散効果は期待できるものの、ドレーンパイプの剛性は期待できず、地盤の変形や流動によりドレーンパイプが大きく変形することでドレーンパイプの機能を損なう恐れがあることや、対策を施す対象構造物も損傷する可能性がある。
【0016】
それを解決するために、鋼矢板など高い剛性が期待できる壁体構造物との併用も考えられるが、その場合にはドレーンパイプと鋼矢板を別々に施工する必要があり、施工時間がかかることによる施工コストが増大し合理的ではない。
【0017】
特許文献2に記載された発明は、十分な排水効果を得ようとすると、ドレーン材の幅や体積を大きくする必要があり、それを設置する端面保護部材やドレーン材を覆うケーシング管も大きくなる。これにより、矢板からの張り出し幅が大きくなり、施工時に地盤からの抵抗が大きくなり、打設時間が長くなることにより建設コストが増大する。
【0018】
特許文献3に記載された発明は、施工時や設置後の水平抵抗力を十分に有するように、平板や格子状排水材に複数の鉛直方向のリブを設けている。しかしながら、水平抵抗力によって平板や排水材がたわむことで、想定していた排水性能が発揮されないことが懸念される。また、排水用の排水孔を多数設ける必要があり、加工コストも増大することや、剛性の高い格子状排水材を設けることで材料コストの増大に繋がる。
【0019】
特許文献4に記載された発明は、水抜き部材を取り付けた排水部材(鋼矢板)を打設するようにしているため施工時間の短縮が可能であるとともに、保護部材を鋼矢板打設後に引き抜いてこれを次に打設する鋼矢板の保護部材として使用することができる。また水抜き部材は布状のフィルターで覆われているので、地盤中の土砂が水抜き部材中への流入が抑えられて排水効率が低下しにくい。
【0020】
しかし、打設時または保護部材の引き抜き時に、保護部材が打設装置の把持力や地盤からの圧力により変形しやすいため、打設や引き抜きが難しくなったり、フィルターや水抜き部材自体を損傷する可能性がある。さらに、後述するような広幅の鋼矢板を使用する場合は、保護部材の幅も広くする必要があるので、その分、前述の把持力や土圧により変形しやすい。
【0021】
本発明は、このような課題の解決を図ったものであり、矢板と排水部材を同時に施工する際に施工しやすくコストメリットの大きな排水機能付き鋼矢板を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明の排水機能付き鋼矢板は、鋼矢板基体と、前記鋼矢板基体の長手方向に沿って設けられた排水部材と、前記排水部材の表面を覆い、排水部材内部への土砂の侵入を防止するフィルター材と、前記排水部材の前面に設けられる防護板とからなる。
【0023】
本発明において鋼矢板基体は有効幅500mm以上の鋼矢板とする。防護板は施工機械の把持力および地中の土圧に耐え得る剛性を有し、かつ防護板の、施工機械が把持する位置近傍には少なくとも1つのリブが設けられており、前記排水部材は鋼矢板基体の表面と防護板の本体およびリブとの間に形成される空間に配置される。また、防護板は、鋼矢板基体および排水部材とともに地中に設置された後に、防護板のみ引き抜くことができるようにされている。
【0024】
前記防護板には、必要に応じ、前記フィルター材の網目よりも大きな通水孔を設けることで、鋼矢板を打設後に何らかの事情で防護板を引き抜かないで使用する場合であっても、排水機能を確保することができる。
【0025】
また、鋼矢板基体の前記排水部材が設置されている投影範囲内には、必要に応じ、鋼矢板を連続して設置し壁体を構築した際に、地下水の円滑な流れを確保するための透水孔を設けることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の排水機能付き鋼矢板によれば、施工中の施工機械の把持力や土圧等の水平力が防護板に作用しても、防護板は、リブを備えることで十分な剛性を有するので、変形や損傷しにくい。また仮に変形した場合でも、通常は防護板を引き抜いて使用されるので、排水部材が損傷していない程度の変形であれば、排水機能には影響しない。そのため、施工が容易でありコストメリットが大きい。
【0027】
請求項2に係る排水機能付き鋼矢板によれば、上記効果に加え、防護板が透水孔を有するので、鋼矢板を打設後に何らかの事情で防護板を引き抜かないで使用する場合であっても、排水機能を確保することができる。
【0028】
請求項3に係る排水機能付き鋼矢板によれば、上記の効果に加えて、通常時において、壁体で仕切られた両側の地盤間の地下水の流れが円滑に流れることができる。また地震時においては、壁体で仕切られたの両側の地盤から排水することができ、壁体両側の地盤の液状化対策として機能することが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】排水機能付き鋼矢板の鋼矢板基体の例を示す長手方向と直角な断面図である。
【図2】本発明の排水機能付き鋼矢板の実施形態を示す長手方向と直角な断面図である。
【図3】先端固定治具の例の一例を示したもので、(a)は取り付け状態の断面図、(b)は斜視図である。
【図4】排水部材の幅Wと排水機能付き矢板前面の残留過剰間隙水圧比Ruの関係を示すグラフえある。
【図5】開口率αと排水機能付き矢板前面からの水圧低減距離の関係を示すグラフである。
【図6】排水機能付き矢板前面の残留過剰間隙水圧Ruと開口率αとの関係を示すグラフである。
【図7】鋼矢板基体に透水孔を設けた場合の一実施形態を示す斜視図である。
【図8】透水性鋼矢板の開孔率と流量比の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の排水機能付き鋼矢板について、構成要素ごとに説明する
【0031】
(1) 鋼矢板基体
鋼矢板基体としては、有効幅500mm以上の鋼矢板を用いる。
【0032】
これまでは、排水機能付き鋼矢板の鋼矢板基体としては、図1(a)に示すような、有効幅400mmのU型鋼矢板21が主に使用されてきた。しかし、近年の鋼矢板を用いた壁体は、図1(b)、(c)に示すような、例えば有効幅600mm、900mmといった、有効幅の大きな鋼矢板1、11を適用して、単位長さあたりの鋼材重量の縮減に伴う材料コストの低減、および施工延長あたりの打設枚数の縮減に伴う施工コストの低減による建設コストの縮減が図られている。
【0033】
単位長さあたりの鋼材重量が縮減されても、鋼矢板の大断面化を図っているため、従来の鋼矢板と比べても壁体として同等の性能を発揮することができる。特に、本発明の排水機能付き鋼矢板の場合、地盤の液状化の度合いが小さくなり、地盤の剛性がある程度維持されるので、広幅の鋼矢板を鋼矢板基体として適用しても、性能的には十分である。
【0034】
鋼矢板基体に使用する矢板の形状は、U型、ハット型、直線型、Z型等を用いることができるが、U型またはハット型が好適である。
【0035】
(2) 排水部材、フィルター材
鋼矢板基体には、その長手方向に沿って排水部材2が設けられている。
【0036】
排水部材2としては、樹脂製のマット状の排水部材を使用することができる。例えば、「ヘチマロン(登録商標)」等のような立体網状構造体をマット状に加工して使用することができる。
【0037】
このほか、例えば、特許文献3の主たる態様として例示されるように、複数の孔をあけた鋼材(長尺の平板や溝型鋼等)を排水部材として使用することもできるが、鋼材への孔あけ加工や排水部材の溶接等の加工作業及ぶコスト面では不利である。
【0038】
排水部材2は、その内部に土砂が侵入しないよう、フィルター材3で覆われている。フィルター材3は土砂の侵入を防止できればよいので、メッシュ間隔や材質等は使用環境に応じて適切なものを選定すればよい。
【0039】
市販の排水材である「エンドレンマット(登録商標)」、「エンドレンマット(登録商標)リブ型」、「モノドレン(登録商標)」や「もやい(登録商標)ドレーンマット」は、樹脂製でマット状の立体網状構造体やリブ型構造体または管状体がフィルターと一体になった製品であり、これらを本発明の排水部材およびフィルター材として適用してもよい。
【0040】
前述の樹脂製の排水部材2を用いる場合、鋼矢板基体1の長手方向に沿って必要な長さにわたってほぼ接して設けられていればよい。排水部材2が全長にわたって鋼矢板基体1と固定されている必要がないが、好ましくは、施工時に鋼矢板基体1とずれないように、排水部材2の一部で、好ましくは排水部材2の下端部近傍で鋼矢板基体1に固定されているのがよい。
【0041】
例えば図3に示すような構造の先端固定治具7を用いて固定することができる。先端固定治具7は、例えば図3(b)に示すように、普通の鋼板7aと棒鋼7bから容易に製作できる。
【0042】
このような樹脂製排水部材の固定作業は、例えば前述の溝型鋼の全長溶接とは異なり、排水部材2と鋼矢板基体1をそれぞれ施工現場に搬入してから、施工現場で容易に行うことができる。
【0043】
ここで、排水部材の最適な幅と開口率について、定常状態での透水解析に地震時における地盤内の過剰間隙水圧の発生・消散を組み込んだ2次元排水解析にて検討を行った。排水解析手法を以下に述べる。
【0044】
地盤内の過剰間隙水圧の発生・消散に関する基礎方程式は、シード(Seed)らがグラベルドレーンの評価に用いた過剰間隙水圧の蓄積と消散を同時に考慮した式(1)を適用した。過剰間隙水圧の発生項にはデ・アルバ(De Alba)らによる非排水条件での飽和砂の繰返し試験結果に基づく式(2)を仮定した。
【0045】
この式(1)および式(2)より地盤内の過剰間隙水圧の発生と消散に関する支配方程式が得られる。これを水平面内の2次元直交座標系で書き表し、さらに無次元化すると式(3)が得られる。
【0046】
これに、排水部材の設置位置では部材開口率を考慮した透過係数を考慮し、一方で、排水部材が設置されない位置では非排水境界を考慮して解析を行い、排水機能付き矢板の開口率に関する評価を行った。
【0047】
【数1】

【0048】
【数2】

【0049】
【数3】

【0050】
u:過剰間隙水圧
t:時間
s:地盤透水係数
v:地盤の体積圧縮係数
γw:水の単位体積重量
α:砂の性質と試験条件によって決まる係数
N:繰返し回数
1:非排水状態で液状化に至るまでの繰返し回数
eq:等価一定振幅せん断応力波の繰返し回数
d:地震動の継続時間
σv0':初期有効上載圧 (=u/σv0')
u:過剰間隙水圧比
0:基準長さ
【0051】
図4は、排水部材の幅Wと排水機能付き矢板前面の残留過剰間隙水圧比Ruの関係を示しており、排水部材の幅W=170mmを境界として、残留過剰間隙水圧比Ruの勾配が変化した。そのため、液状化対策の機能をより効果的に発揮させるには排水部材の幅をW=170mm以上とすることが望ましいと考えられる。
【0052】
図5は、開口率αと排水機能付き矢板前面からの水圧低減距離の関係を示している。
開口率5%程度を境界として、それ以下の開口率では急激に水圧低減距離が短くなる傾向であった。これより、排水機能付き矢板の排水部材開口率は5%以上とすることが望ましく、開口率が5%以上あれば、開口率100%時とさほど変わらない水圧低減距離が確保され、構造物の対策として十分機能すると考えられる。
【0053】
また、排水機能付き矢板前面の残留過剰間隙水圧Ruと開口率αとの関係を図6に示す。開口率α=10%付近を境界に残留過剰間隙水圧比の勾配が変化した。
【0054】
これより、排水機能付き矢板の排水部材開口率を10%以上とすることで、前述の水圧低減距離に関しても問題はなく、さらに排水機能付き矢板前面位置での残留過剰間隙水圧比が低減されるため、構造物の対策として十分機能すると考えられる。
【0055】
(3) 防護板
本発明の排水機能付き鋼矢板は、排水部材2およびフィルター材3の外面に長手方向に沿って、防護板4が設けられる。
【0056】
防護板4の施工機械が把持する位置には、図2(a)〜(f)に示す各例のように、防護板4の板面と直角方向にリブ5が少なくとも1つ設けられている。このような構造の防護板4は、施工機械の把持力や地中の土圧に耐え得る剛性を備える。鋼矢板基体1と排水部材2を同時に地盤へ打設する際に、排水部材2およびフィルター材3が損傷することが防止される。
【0057】
防護板4に設けられたリブ5が矢板ウェブ面と接している。排水部材2は、防護板4と鋼矢板基体1のウェブ面との間に形成される、幅方向にリブ5で区切られた2列以上の空間に、それぞれ設けられる。
【0058】
リブの位置は、たとえば矢板中央に1つリブ5を設けたり、矢板中央から左右同じ距離離れた位置に2つリブ5を設けても良い。多くの施工機械(圧入パイラー)は幅方向の2か所で把持されるので、対応する2か所に設ける形状(この場合排水部材2は幅方向に3列)とするのが多くの場合好ましい。
【0059】
また、防護板4の幅方向端部には、施工時に排水部材2の側面が土砂と接触するのを抑制するため、排水部材の幅方向端部に相当する位置にリブ5bを設けても良い。あるいは、矢板フランジ部の長手方向(離散的でよい)にガイド6を設け、防護板4がそのガイド6に嵌合されるようにして設置されていても良い。
【0060】
防護板4は、鋼矢板打設後に地盤から引き抜き可能となっている。通常は、打設された排水機能付き鋼矢板からは、防護板4が引き抜かれて使用される。引き抜かれた防護板4は、別の排水機能付き鋼矢板の防護板として繰り返し使用することができる。
【0061】
そのため、鋼矢板基体1と防護板4とは、打設前に、施工時には外れず、施工後に防護板4の引き抜きが可能な程度の強度で固着される(例えば、数か所で点状溶接される)ことが望ましい。あるいは、前述のガイド6を設ける構造でもよい。
【0062】
また図3の先端固定治具7を用いた構造であれば、防護板4と鋼矢板基体1とが全く固着されていなくても、打設時には、先端固定治具7が防護板4のストッパーの役目を果たす。さらに、鋼矢板打設後に、防護板4を引き抜き機で把持しやすい構成となっているのがよく、例えば防護板4の上端が鋼矢板基体1の上端よりも上にあると好ましい。
【0063】
防護板4は、フィルター材3の網目よりも大きな通水孔を有していてもよい。前述のように、打設後に防護板4は引き抜かれるのが通常の使用形態であるが、地盤条件や施工条件により、施工後に防護板4を引き抜けない場合もあり得る。
【0064】
この場合にも、防護板4が通水孔を備えることで、地震時には、地盤中の過剰間隙水が通水孔を通じて排水部材2の内部に流れ込み、地上に排出することができる。ここで、防護板4の通水孔による開口率は10%以上が好ましい。
【0065】
(4) 鋼矢板基体の透水孔
本発明の排水機能付き鋼矢板は、図7のように、鋼矢板基体11の排水部材2が設置されている投影範囲内に透水孔8が設けられていてもよい。透水孔8による開口率が大きすぎると壁体の剛性に悪影響があるので、20%以下とするのが好ましい。
【0066】
鋼矢板基体11の開口率は、通常時の地下水流を阻害しない観点では、0.5%以上あれば十分である。図8に示すように、開口孔の面積比率が2.0%程度あれば通常状態の透水量の約95%が確保されるため、透水孔8による開口率は2.0%以上であればより望ましい。
【0067】
また、壁体両側の地盤の液状化対策としては、従来は、1枚の矢板の両面に排水部材を設けるか、例えば両方の面に排水部材が面するように打設する(例えば1枚ごとに向きを変えて打設する)必要があった。
【0068】
本発明によれば、鋼矢板基体11の透水孔8を通じて、排水部材2が面していない側の面の地盤の過剰間隙水を排水部材2に取り込んで、地上に排出することが期待される。このような両側の地面の液状化対策を重視する場合は、開口率は10%以上が好ましい。
【符号の説明】
【0069】
1…鋼矢板基体(U型鋼矢板)、2…排水部材、3…フィルター材、4…防護板、5…リブ、6…ガイド、7…先端固定治具、8…透水孔、
11…鋼矢板基体(ハット型U型鋼矢板)、
21…鋼矢板基体(U型鋼矢板)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼矢板基体と、前記鋼矢板基体の長手方向に沿って設けられた排水部材と、前記排水部材の表面を覆い、排水部材内部への土砂の侵入を防止するフィルター材と、前記排水部材の前面に設けられる防護板とからなる排水機能付き鋼矢板であって、
前記鋼矢板基体は有効幅500mm以上の鋼矢板であり、
前記防護板は施工機械の把持力および地中の土圧に耐え得る剛性を有し、かつ施工機械が把持する位置近傍には少なくとも1つのリブが設けられており、
前記排水部材は前記鋼矢板基体の表面と前記防護板の本体およびリブとの間に形成される空間に配置され、
前記防護板は、前記鋼矢板基体および排水部材とともにを地中に設置された後に、前記防護板のみを引き抜き可能とされていることを特徴とする排水機能付き鋼矢板。
【請求項2】
前記防護板は、前記フィルター材の網目よりも大きな通水孔を有することを特徴とする請求項1記載の排水機能付き鋼矢板。
【請求項3】
前記鋼矢板基体の前記排水部材が設置されている投影範囲内には、鋼矢板を連続して設置し壁体を構築した際に、地下水の円滑な流れを確保するための透水孔が設けられていることを特徴とする請求項1または2記載の排水機能付き鋼矢板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−197653(P2012−197653A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−64120(P2011−64120)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】