説明

排水臭気の除去方法及び排水臭気の除去装置

【課題】クラフトパルプ排水の臭気を低減することができる排水臭気の除去方法及びその除去装置を提供する。
【解決手段】本発明の排水臭気の除去方法は、パルプ設備1で発生するクラフトパルプ排水の臭気を排水処理設備2で除去する方法である。この方法は、脱臭塔9において、クラフトパルプ排水をエアストリッピング処理してストリッピング処理水を得るストリッピング工程と、嫌気化槽13において、ストリッピング処理水を嫌気性処理して嫌気処理水を得る嫌気性処理工程と、活性汚泥処理設備17において、嫌気処理水を好気性処理して好気処理水を得る好気性処理工程と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラフトパルプ排水の臭気を除去する排水臭気の除去方法、及び排水臭気の除去装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パルプ工場において、パルプ製造時に発生するクラフトパルプ排水は、臭気成分を含み特有の臭気を有するので、排水からこの臭気を除去することが環境対策上重要である。従来、このような分野の技術として、下記非特許文献1に記載の排水臭気の除去方法が知られている。この除去方法は、クラフトパルプ排水が、例えば活性汚泥処理施設等の排水処理施設に送られる前に、クラフトパルプ排水を脱臭塔で脱臭処理することで、クラフトパルプ排水の臭気を除去するものである。
【非特許文献1】紙パルプ技術協会,「紙パルプ製造技術シリーズ(12) 環境」,初版,紙パルプ技術協会,2002年5月20日,p.287−292
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、クラフトパルプ排水中に含まれる硫黄化合物、樹脂酸、テルペン等といった臭気成分は生物難分解性である。また、クラフトパルプ排水のBOD濃度は極めて高く、生物易分解成分を多く含むことから、活性汚泥処理施設においては、生物難分解性である臭気成分までは十分に分解されない。従って、上記の除去方法にあっては、排水処理施設からの処理水中に残留する臭気成分の除去が十分であるとは言えず、このようなクラフトパルプ排水の処理にあっては、排水の臭気を更に低減する方法が求められている。
【0004】
そこで、本発明は、クラフトパルプ排水の処理において、処理水の臭気を改善するとともに、バイオガスを回収することができる排水臭気の除去方法及びその除去装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る排水臭気の除去方法は、クラフトパルプ排水の臭気を除去する排水臭気の除去方法において、クラフトパルプ排水をストリッピング処理してストリッピング処理水を得るストリッピング工程と、ストリッピング処理水を嫌気性処理して嫌気処理水を得る嫌気性処理工程と、嫌気処理水を好気性処理して好気処理水を得る好気性処理工程と、を備えたことを特徴とする。
【0006】
この除去方法では、ストリッピング工程においてクラフトパルプ排水をストリッピング処理した後、更にストリッピング処理水を嫌気性処理することとしている。この嫌気性処理によってストリッピング処理水中に残留している生物易分解成分を分解することができるので、嫌気処理水に含まれる生物易分解成分が少なくなる。このような嫌気処理水が好気性処理工程に移行されるので、好気性処理においては、生物難分解成分を資化できる微生物群が優性となり、生物難分解成分である臭気成分が効率良く除去される。その結果、最終的に得られる好気処理水中の臭気成分が低減され、処理排水の臭気の低減を図ることができる。また、この方法によれば、嫌気性処理工程において発生するバイオガスを回収することができる。
【0007】
また、本発明に係る排水臭気の除去方法は、ストリッピング処理水に希釈水を加える希釈工程を更に備えることが好ましい。この構成によれば、希釈工程によって、ストリッピング処理水が嫌気性処理に適した濃度に希釈されるので、後段の嫌気性処理工程を良好に行うことができる。
【0008】
本発明の排水臭気の除去装置は、クラフトパルプ排水の臭気を除去する排水臭気の除去装置において、クラフトパルプ排水をストリッピング処理してストリッピング処理水を得るストリッピング処理手段と、ストリッピング処理水を嫌気性処理して嫌気処理水を得る嫌気性処理手段と、嫌気処理水を好気性処理して好気処理水を得る好気性処理手段と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
この除去装置では、ストリッピング処理手段においてクラフトパルプ排水をストリッピング処理した後、更にストリッピング処理水を嫌気性処理することとしている。この嫌気性処理によってストリッピング処理水中に残留している生物易分解成分を分解することができるので、嫌気処理水に含まれる生物易分解成分が少なくなる。このような嫌気処理水が好気性処理手段に移行されるので、好気性処理においては、生物難分解成分を資化できる微生物群が優性となり、生物難分解成分である臭気成分が効率良く分解される。その結果、最終的に得られる好気処理水中の臭気成分が低減され、処理排水の臭気の低減を図ることができる。また、この装置によれば、嫌気性処理手段において発生するバイオガスを回収することができる。
【0010】
また、本発明の排水臭気の除去装置は、ストリッピング処理水に希釈水を加える希釈手段を更に備えることが好ましい。この構成によれば、希釈手段によって、ストリッピング処理水が嫌気性処理に適した濃度に希釈されるので、後段の嫌気性処理手段による嫌気性処理を良好に行うことができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の排水臭気の除去方法及びその除去装置によれば、クラフトパルプ排水の処理において、処理水の臭気を改善するとともに、バイオガスを回収することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る排水臭気の除去方法の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0013】
図1に示すパルプ設備1は、パルプ原料の木材チップをラインL1から導入し、アルカリ薬液と混合して蒸解させる蒸解設備3を備えている。この蒸解設備3では、導入された木材チップの繊維分以外の成分(リグニン成分等)がアルカリ薬剤に溶け出す。この繊維分以外の成分が溶け込んだアルカリ薬剤は、ラインL2から黒液として排出される。また、木材チップの繊維分は、パルプとしてラインL3を通じ蒸解設備3から排出され、紙の原料として後工程に送られる。また、蒸解により発生した排ガスは、蒸解設備3からラインL4を通じて排出され、後述する排ガス冷却塔7に導入される。
【0014】
ラインL2からの黒液は、エバポレータを有する黒液濃縮設備5に導入され、濃縮処理される。この黒液の濃縮処理により、黒液濃縮設備5からは、濃縮された濃黒液と、比較的臭気成分が少なく透明な液体であるクリーンドレン(クラフトパルプ排水)と、比較的多くの臭気成分を含んだ液体であるファールドレン(クラフトパルプ排水)とが発生する。このうち、濃黒液は、ラインL5を通じて黒液濃縮設備5から排出され、燃料として有効利用される。
【0015】
一方、ここで発生したファールドレン及びクリーンドレンは、臭気成分を含んでおり、BOD濃度も高いので、クラフトパルプ排水として、臭気を除去しながら適切に処理される必要がある。そこで、ファールドレンはラインL6を通じて、クリーンドレンはラインL7を通じてそれぞれ黒液濃縮設備5から排出され、排水処理設備(排水臭気の除去装置)2に送られて、臭気の除去処理を伴う排水処理がなされる。なお、このクラフトパルプ排水に含まれる臭気成分としては、硫化水素、メチルメルカプタン、ジメチルサルファイド、ジメチルジサルファイドといった硫黄化合物、樹脂酸、テルペンが挙げられる。
【0016】
また、黒液濃縮設備5から発生する排ガスは、ラインL8を通じて黒液濃縮設備5から排出され、排ガス冷却塔7に導入される。この排ガス冷却塔7には、蒸解設備3からの排ガスと黒液濃縮設備5からの排ガスとが導入されており、排ガス冷却塔7では、これらの排ガスを冷却し凝集したドレンが臭気ドレンとしてラインL9から排出される。そして、この臭気ドレンは、ラインL9を通じ、ラインL6に合流することでファールドレンに混合されて排水処理設備2に送られる。
【0017】
以下、図1及び図2を参照しながら、排水処理設備2によるクラフトパルプ排水の処理について説明する。排水処理設備2において、クラフトパルプ排水の一部であるファールドレンは、ラインL6を通じて、エアストリッピング装置を構成する脱臭塔(ストリッピング処理手段)9に導入される。この脱臭塔9では、エアストリッピング法による脱臭処理が行われ、気液接触によってファールドレンに含まれる臭気成分が除去される(S202:ストリッピング工程)。処理後のファールドレンは、ストリッピング処理水としてラインL11から排出される。また、このラインL11には、上記のラインL7が合流しており、上記クリーンドレンは、ストリッピング処理水と一緒に混合されて後段の処理に送られる。なお、ラインL7を通過するクリーンドレンの一部は、分岐したラインL12を通じて再び蒸解設備3に戻される。
【0018】
上記ストリッピング処理水が流動するラインL11には、希釈水ライン(希釈手段)L13が合流しており、ストリッピング処理水を希釈するための希釈水が、ラインL13からラインL11に供給される(S204:希釈工程)。そして、この希釈水によって嫌気性処理に適した濃度に希釈されたストリッピング処理水が、ラインL11から後述の嫌気化槽13に導入されるので、嫌気化槽13では、良好な嫌気性処理が行われる。なお、パルプ工場には、このパルプ設備1以外にも他の設備が多く存在し、それらの設備で発生する排水(例えば、晒排水、DIP排水、抄紙排水)が多く存在するので、このような他の設備からの排水を上記希釈水として有効利用することができる。また、上記希釈水として、単に水を用いてもよい。
【0019】
ラインL11からのストリッピング処理水が導入される嫌気化槽(嫌気性処理手段)13は、上向流式嫌気性処理槽を構成している。この嫌気化層13では、槽内部に嫌気性汚泥が沈殿してなる嫌気性汚泥床が形成されており、上向流嫌気性汚泥床法による上記ストリッピング処理水の中温メタン発酵処理(嫌気性処理)が行われる。すなわち、嫌気化槽13内に導入されたストリッピング処理水は、上向流を形成しながら嫌気性汚泥床を通過し、ストリッピング処理水に残留している有機物が嫌気性菌によってメタン発酵処理され、メタンガス等に分解される。また、この時、ストリッピング処理水中に残留する臭気成分も分解される。なお、嫌気化槽13の内部は約32℃に維持されているので、槽内では中温メタン発酵処理が進行する。この処理により発生するメタンガス等のバイオガスは、嫌気化槽13上部のラインL14から排出されて回収され、有効利用される。また、メタン発酵処理後のストリッピング処理水は、嫌気化槽13の上部から、ラインL16を通じて、嫌気処理水として排出される(S206:嫌気性処理工程)。
【0020】
ラインL16からの嫌気処理水は、活性汚泥処理設備(好気性処理手段)17に導入される。この活性汚泥処理設備17においては、嫌気処理水は最初に原水槽19に貯留される。貯留された嫌気処理水は、ラインL19を通じて曝気槽21に送られる。曝気槽21に導入された嫌気処理水は、この曝気槽21において、好気性活性汚泥処理される。すなわち、嫌気処理水は、槽内の好気性汚泥に接触しながら曝気され、好気性汚泥に含まれる好気性菌によって嫌気処理水中に残留する有機物が無機物に分解される。また、この時、嫌気処理水中に残留する臭気成分も分解される。このように処理された嫌気処理水は、ラインL21を通じて沈殿槽23に送られ、沈殿槽23において好気性汚泥が取り除かれた後、ラインL23を通じ好気処理水として排水処理設備2から排出される(S208:好気性処理工程)。なお、沈殿槽23において取り除かれた好気性汚泥は、ラインL24を通じて曝気槽21に返送される。
【0021】
上記の排水処理設備2によれば、この嫌気化槽13における嫌気性処理によって、ストリッピング処理水中に残留している有機物の生物易分解成分を分解することができるので、嫌気処理水に含まれる生物易分解成分は少なくなる。このような嫌気処理水が活性汚泥処理設備17に移行されるので、活性汚泥処理設備17の曝気槽21内においては、生物難分解成分を資化できる微生物群が優性となり、生物難分解成分である臭気成分が効率良く除去される。その結果、最終的に得られる好気処理水中の臭気成分が低減され、処理排水の臭気の低減を図ることができる。また、このような排水処理設備2によれば、活性汚泥処理設備17の負荷が小さくなるので、活性汚泥処理設備17を小型化することができ、排水処理設備2全体のコンパクト化を図ると共に、運転経費を低減することができる。
【0022】
本発明者らは、上記の排水処理設備2、及び図3に示すパルプ設備51の排水処理設備52において、黒液濃縮設備3から発生するファールドレン及びクリーンドレン(クラフトパルプ排水)の臭気除去の実験を行った。排水処理設備52は、嫌気化槽13を備えていない点で、排水処理設備2と相違する。また、排水処理設備2,52とも、ラインL11における排水の臭気成分の濃度は同じである。
【0023】
この実験で得られた結果を下表1に示す。排水処理設備52によれば、表に示すように、ラインL23における処理排水から、ジメチルサルファイドが0.036ppmの濃度で検出されたが、排水処理設備2における処理排水からは、ジメチルサルファイドが検出されなかった。このように、嫌気化層13を有する排水処理設備2によれば、嫌気化層13を有しない排水処理設備52に比較して、クラフトパルプ排水中の臭気成分(特に、ジメチルサルファイド)をより低減できることが確認された。
【表1】



【0024】
本発明は、前述した実施形態に限定されるものではない。例えば、脱臭塔9は、エアストリッピング装置を構成するものに限定されず、スチームストリッピング法による脱臭処理を行うスチームストリッピング装置であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る排水臭気の除去方法が適用されるパルプ設備の一実施形態を示す図である。
【図2】排水処理設備によるクラフトパルプ排水の処理を示すフロー図である。
【図3】他のパルプ設備を示す図である。
【符号の説明】
【0026】
1,51…パルプ設備、2,52…排水処理設備(排水臭気の除去装置)、9…脱臭塔(ストリッピング手段)、13…嫌気化槽(嫌気性処理手段)、17…活性汚泥処理設備(好気性処理手段)、L13…希釈水ライン(希釈手段)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラフトパルプ排水の臭気を除去する排水臭気の除去方法において、
前記クラフトパルプ排水をストリッピング処理してストリッピング処理水を得るストリッピング工程と、
前記ストリッピング処理水を嫌気性処理して嫌気処理水を得る嫌気性処理工程と、
前記嫌気処理水を好気性処理して好気処理水を得る好気性処理工程と、を備えたことを特徴とする排水臭気の除去方法。
【請求項2】
前記ストリッピング処理水に希釈水を加える希釈工程を更に備えたことを特徴とする請求項1に記載の排水臭気の除去方法。
【請求項3】
クラフトパルプ排水の臭気を除去する排水臭気の除去装置において、
前記クラフトパルプ排水をストリッピング処理してストリッピング処理水を得るストリッピング処理手段と、
前記ストリッピング処理水を嫌気性処理して嫌気処理水を得る嫌気性処理手段と、
前記嫌気処理水を好気性処理して好気処理水を得る好気性処理手段と、を備えたことを特徴とする排水臭気の除去装置。
【請求項4】
前記ストリッピング処理水に希釈水を加える希釈手段を更に備えたことを特徴とする請求項3に記載の排水臭気の除去装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−319842(P2007−319842A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−156383(P2006−156383)
【出願日】平成18年6月5日(2006.6.5)
【出願人】(507036050)住友重機械エンバイロメント株式会社 (88)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【出願人】(000000055)アサヒビール株式会社 (535)
【出願人】(597005875)株式会社アサヒビールエンジニアリング (7)
【Fターム(参考)】