説明

排煙脱硫用炭素系触媒および排煙脱硫用炭素系触媒の製造方法

【課題】長期間にわたり連続して安定した脱硫性能を維持することができ、かつ高活性であって排ガス処理に要する触媒量を大幅に減じさせることが可能となる排煙脱硫用炭素系触媒および排煙脱硫用炭素系触媒の製造方法を提供する。
【解決手段】少なくとも亜硫酸ガス、酸素および水蒸気を含む排ガスと接触させることにより、上記亜硫酸ガスを上記酸素、水蒸気と反応させて硫酸とし、当該硫酸を回収する排煙脱硫用炭素系触媒であって、炭素系触媒の表面に、ヨウ素、臭素あるいはその化合物が添着、イオン交換または担持されるとともに撥水化処理が施されてなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス中に含まれる硫黄酸化物を、接触硫酸化反応によって硫酸として回収除去するための排煙脱硫用炭素系触媒および排煙脱硫用炭素系触媒の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、排ガス中に含まれる亜硫酸ガス等の硫黄酸化物を、低温で共存する酸素によって酸化することにより最終的に硫酸として回収する排煙脱硫プロセスが知られている。
このような、排ガス中の亜硫酸ガス等を酸化させる触媒として、例えばアルミナ、シリカ、チタニア、ゼオライトのようなセラミックス系担体を用いた場合には、それだけでは活性が不足するために、これに触媒種として金属或いは金属酸化物を加える必要があるうえに、これらの触媒種は、生成する硫酸の攻撃を受け、溶解または変質してしまうために、長時間にわたって安定した活性を維持することができないという欠点がある。
【0003】
このため、従来、上記触媒としては、耐酸性に優れ、よって長時間劣化せずに安定した活性が持続するという特長を有する活性炭が最も好適に用いられている。
しかしながら、市販の活性炭を上記触媒としてそのまま用いた場合には、接触硫酸化反応における触媒活性が低く、かつ生成した硫酸の排出が円滑に行われない結果、所望の脱硫効果を得るためには触媒充填量が大きくなるとともに、定期的に再生処理が必要となり、よって経済性に劣るという問題点があった。
【0004】
そこで、例えば下記特許文献1においては、被処理ガスを、相対湿度100%を越えるように調湿した後、活性炭含有ハニカムまたは更に処理効率を著しく向上できるヨウ素、臭素、酸、白金属化合物などの薬品を担持した薬品担持活性炭含有ハニカムに接触させることにより、ガス中の臭気成分、大気汚染成分等を長時間にわたり、繰り返し処理できるガス処理方法が提案されている。
【0005】
そして、上記ガス処理方法によれば、被処理ガスの相対湿度を過飽和状態、すなわち100%を越えるように調湿することにより、活性炭含有ハニカムとの接触において活性炭含有ハニカムの表面に薄い水の被膜が均一に生じ、臭気成分および大気汚染成分が活性炭含有ハニカムの表面で酸化されて水に溶解する化合物を生成し、これらの水溶性反応生成物が活性炭含有ハニカムの表面から水の被膜を通して徐々に溶出して、活性炭含有ハニカムから脱離することにより、活性炭含有ハニカムが自己再生され、処理寿命が大幅に延長される、とされている。
【特許文献1】特開2005−288380号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記ガス処理方法においては、別途、被処理ガスに水又は水溶液を散水や噴霧し、あるいは水溶液の中に被処理ガスをバブリングし、さらには加湿装置を用いるなどして、被処理ガスの相対湿度が100%を超えるように調湿する必要があるために、ガス処理に要するエネルギー消費量が大きくなるという欠点がある。
【0007】
また、相対湿度が100%を超えるように調湿するのは、活性炭含有ハニカムの表面に薄い水の皮膜を均一に生じさせるためのものであるために、逆に処理ガスと活性炭含有ハニカムとの直接接触が妨げられることになり、よって活性炭の触媒性能が発揮され難くなるために、所望の脱硫効果を得るために必要な活性炭含有ハニカムの量が多くなるという問題点もある。
【0008】
さらに、同文献に、長期間使用して処理性能が低下した活性炭含有ハニカムは、散水することで繰り返し処理が可能となる、と記載されているように、当該活性炭含有ハニカム自体は、依然として一定期間毎に散水による再生処理が必要になるという欠点もあり、より高活性の触媒の開発が望まれている。
【0009】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、長期間にわたり連続して安定した脱硫性能を維持することができ、かつ高活性であって排ガス処理に要する触媒量を大幅に減じさせることが可能となる排煙脱硫用炭素系触媒および排煙脱硫用炭素系触媒の製造方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、少なくとも亜硫酸ガス、酸素および水蒸気を含む排ガスと接触させることにより、上記亜硫酸ガスを上記酸素、水蒸気と反応させて硫酸とし、当該硫酸を回収する排煙脱硫用炭素系触媒であって、炭素系触媒の表面に、ヨウ素、臭素あるいはその化合物が添着、イオン交換または担持されるとともに撥水化処理が施されてなることを特徴とするものである。
【0011】
ここで、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の炭素系触媒が、活性炭または活性炭素繊維であることを特徴とするものである。
また、請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の発明において、上記ヨウ素または臭素の化合物が、ヨウ素または臭素のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、遷移金属塩、水素化物、オキソ酸および有機化合物のいずれかであることを特徴とするものである。
【0012】
さらに、請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の発明において、上記炭素系触媒に対する上記ヨウ素またはその化合物の添着、イオン交換または担持量が、ヨウ素として0.020wt%以上、60wt%以下の範囲であることを特徴とするものである。
【0013】
また、請求項5に記載の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の発明において、上記炭素系触媒に対する上記臭素またはその化合物の添着、イオン交換または担持量が、臭素として0.010wt%以上、60wt%以下の範囲であることを特徴とするものである。
【0014】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のいずれかに記載の発明において、上記撥水化処理が、上記炭素系触媒に水に対する接触角が90度以上の樹脂を含有させること、または上記炭素系触媒に熱処理を施してその表面の親水基を除去することにより施されていることを特徴とするものである。
【0015】
請求項7に記載の発明は、少なくとも亜硫酸ガス、酸素および水蒸気を含む排ガスと接触させることにより、上記亜硫酸ガスを上記酸素、水蒸気と反応させて硫酸とし、当該硫酸を回収する排煙脱硫用炭素系触媒の製造方法であって、炭素系触媒を湿潤させてその細孔内を塞いだ後に、当該炭素系触媒にヨウ素、臭素あるいはその化合物を含有する溶液を噴霧または散布し、あるいは上記炭素系触媒を上記溶液に浸漬させることにより、上記炭素系触媒の表面に、上記ヨウ素、臭素あるいはその化合物を添着、イオン交換または担持させてなることを特徴とするものである。
【0016】
また、請求項8に記載の発明は、請求項7に記載の炭素系触媒が、活性炭または活性炭素繊維であることを特徴とするものである。
ここで、請求項9に記載の発明は、請求項7または8に記載の発明において、上記炭素系触媒に、ヨウ素として0.020wt%以上、60wt%以下の範囲の上記ヨウ素またはその化合物を添着、イオン交換または担持させることを特徴とするものである。
【0017】
また、請求項10に記載の発明は、請求項7または8に記載の発明において、上記炭素系触媒に、臭素として0.010wt%以上、60wt%以下の範囲の上記臭素またはその化合物を添着、イオン交換または担持させることを特徴とするものである。
さらに、請求項11に記載の発明は、請求項7〜10のいずれかに記載の発明において、上記炭素系触媒に撥水化処理を施すことを特徴とするものである。
【0018】
また、請求項12に記載の発明は、容器内に上記炭素系触媒と水とを入れ、当該容器内を減圧して一定時間保持した後に大気圧に戻すことにより、上記炭素系触媒の細孔内を上記水で塞ぐことを特徴とするものである。
他方、請求項13に記載の発明は、請求項7〜11のいずれかに記載の発明において、上記炭素系触媒に、水蒸気と空気との混合ガスを通気させて上記水蒸気を凝縮させることにより、上記炭素系触媒の細孔内を凝縮した水で塞ぐことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0019】
請求項1〜6のいずれかに記載の排煙脱硫用炭素系触媒においては、炭素系触媒の表面に、ヨウ素、臭素あるいはその化合物が添着、イオン交換または担持されている。
このため、少なくとも亜硫酸ガス、酸素および水蒸気を含む排ガスが接触した際に、上記炭素系触媒上において、例えばヨウ素について示すと以下のような反応が起きる。
4I- +4H+ +O2 → 2I2 +2H2O (式1)
2 +SO32- +H2O → 2I- +H2SO4 (式2)
【0020】
これにより、上記炭素系触媒上のヨウ素等が助触媒的に作用し、脱硫性能が向上する。
加えて、炭素系触媒には撥水化処理が施されているために、上記式2において生成した硫酸が、連続的かつ円滑に当該炭素系触媒から排出されて行くために、長期間にわたって散水等の再生処理を行うことなく、連続して安定した脱硫性能を維持することができる。
【0021】
すなわち、既述の特許文献1においては、触媒表面に水の皮膜を均一に生じさせることが重要であり、そのために排ガス中の相対湿度を100%より高くなるように調湿している。
これに対して、請求項1〜6のいずれかに記載の発明においては、炭素系触媒に撥水化処理を施しているために、触媒表面に水の皮膜が均一に形成されず、よって炭素系触媒の表面上にドライな部分が生じている。これにより、排ガス中の亜硫酸ガスを、水の皮膜を介せずに、炭素系触媒と直接接触させることができ、よって反応を促進させ、かつ生成した硫酸水溶液をスムーズに合一させて、触媒から自然に脱離させることができる。
【0022】
さらに、上記炭素系触媒上のドライな部分においては、ヨウ素および臭素の効果が大きく発現するので、高い脱硫性能を得ることができ、しかも排ガス中の相対湿度が100%を超えない範囲においても、十分に高く、かつ経時的に劣化しない脱硫性能を得ることができる。この結果、上記特許文献1に記載の発明にあっては、生成した硫酸が触媒に蓄積するため、長期間の使用によって処理性能が低下した際には、散水によって上記硫酸を除去する処理を繰り返して使用する必要があるのに対して、本願発明においては、かかる性能の低下が無いため再生処理の必要がない。
【0023】
すなわち、活性炭を用いる脱硫方法では水蒸気の存在が不可欠であり、かつその水蒸気の濃度が高い程、高性能である。ちなみに、相対湿度が80%以下になると実用性がなくなる程、性能が低くなることが知られている。これに対して、本発明では、上記特許文献1に見られる先行技術と異なり、相対湿度が30%以上、好ましくは60%以上あれば、実用性のある性能を確保できるため、上記調湿操作が不要、もしくは水スプレー等による簡単な冷却・加湿操作でよく、また散水による再生を実施することなく安定した高い脱硫性能を得ることができる。
【0024】
また、本願発明においては、上述したように、炭素系触媒に対して、ヨウ素および臭素の添着、イオン交換または担持を行うとともに、撥水化処理を行っているので、長期間の使用においても当該炭素系触媒上の硫酸の蓄積量が少なく、一方的に増加することがないため、安定した脱硫性能が維持でき、再生処理が不要にできる。
【0025】
このように、上記炭素系触媒に撥水化処理が施されているため、当該触媒を工水や硫酸水溶液で常に湿潤状態にしても、ドライな部分を保持することができ、よって安定した性能が得られるために、例えば、上記炭素系触媒に、常時工水や硫酸水溶液等を散水しながら使用することもできる。
【0026】
また、請求項7〜13のいずれかに記載の排煙脱硫用炭素系触媒の製造方法においても、得られた排煙脱硫用炭素系触媒は、炭素系触媒の表面に、ヨウ素、臭素あるいはその化合物が添着、イオン交換または担持されているために、亜硫酸ガス、酸素および水蒸気を含む排ガスが接触した際に、上記式1、2において示したように、同様に上記炭素系触媒上のヨウ素等が助触媒的に作用することにより脱硫性能を向上させることができる。
【0027】
ところで、単に炭素系触媒に上記ヨウ素等を添着、イオン交換または担持させた場合には、当該ヨウ素等は上記炭素系触媒のミクロ細孔内にまで添着、イオン交換または担持される。しかしながら、上記排ガスに対する脱硫の開始後早期に、炭素系触媒の細孔内は生成した硫酸によって埋まってしまい、以降の反応には寄与しなくなる。
【0028】
この点、本発明に係る製造方法においては、予め上記炭素系触媒を湿潤させてその細孔内を水等で埋めて塞いだ後に、上記ヨウ素等の添着、イオン交換または担持工程を行っているために、連続的に接触硫酸化反応が生じる炭素系触媒の表面近傍に、上記ヨウ素等を重点的に添着、イオン交換または担持させることができ、これらヨウ素等の添加物をより一層有効に利用することができる。
【0029】
なお、請求項7〜11のいずれかに記載の発明において、炭素系触媒を湿潤させてその細孔内を塞ぐに際しては、炭素系触媒の細孔内の空気が抜け難く、しかも当該炭素系触媒自体もある程度の撥水性を有することから、上記炭素系触媒を、相当長い時間、液中に強制的に浸漬しておくか、あるいは放置しておく必要がある。このため、例えば請求項12に記載の発明のような、いわゆる減圧含浸方法や、請求項13に記載の発明のような、スチーム添加方法を用いることが好適である。
【0030】
また、この場合においても、請求項11に記載の発明のように、上記炭素系触媒に撥水化処理を施せば、請求項1〜6のいずれかに記載の排煙脱硫用炭素系触媒と同様に、生成した硫酸を早期に当該炭素系触媒上から排出させることが可能になる。この際に、上記炭素系触媒に対する、撥水化処理工程は、上記炭素系触媒の細孔内の湿潤化工程および上記ヨウ素等の添着、イオン交換または担持工程の前処理として実施することもでき、あるいは後処理として実施することもできる。
【0031】
ただし、上記ヨウ素または臭素の添着、イオン交換または担持工程を行った後に、撥水化処理工程を行い、次いで上記炭素系触媒の細孔内を塞ぐ工程を採用した場合には、撥水処理工程や成形工程によっては過熱によるヨウ素の揮発や、ヨウ素の再溶解脱着が生じて効果的でなく、このため十分なヨウ素担持量を確保しようとすると撥水化が十分ではなくなって、結果として性能低下を招く虞がある。
そこで、上記撥水化処理工程および成形工程を行った後に、上記炭素系触媒の細孔内を塞ぐ工程を実施し、次いでヨウ素または臭素の添着、イオン交換または担持工程を行うことが好ましい。
【0032】
ところが、上記撥水化処理を行った後に、上記炭素系触媒の細孔内を塞ぐ工程を実施しようとすると、当該炭素系触媒が水を弾く。このため、請求項11に記載の発明のように、前処理として炭素系触媒に撥水化処理を施す場合には、特に請求項12および請求項13に示した減圧含浸方法またはスチーム添加方法を用いることが好適である。
【0033】
さらに、上記炭素系触媒自体が高い撥水性を有していることを考慮すると、請求項12に記載の減圧含浸方法を用いた場合においても、上記細孔内を水によって十分に塞ぐためには、相応の時間を要することになる。このため、請求項13に記載の発明のような、スチーム添加方法を用いることがより一層好適である。この際に、炭素系触媒への混合ガスの通気方法は、ガスの分散を考慮するとアップフローが好ましい。
【0034】
なお、請求項4および請求項9において、上記炭素系触媒に対する上記ヨウ素またはその化合物の添着、イオン交換または担持量を、ヨウ素として0.020wt%以上、60wt%以下の範囲に限定し、また請求項5および請求項10において、上記炭素系触媒に対する上記臭素またはその化合物の添着、イオン交換または担持量を、臭素として0.010wt%以上、60wt%以下の範囲に限定した理由は、後述するように、ヨウ素または臭素が上記範囲を逸脱すると、いずれも脱硫活性比が低下するからである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、本発明の排煙脱硫用炭素系触媒の実施形態について説明する。
上記排煙脱硫用炭素系触媒は、最終的に粒状、ペレット状、ハニカム構造等の亜硫酸ガス、酸素および水蒸気を含む排ガスおよび当該排ガスに同伴したダストが通過可能な形状に成形されたものである。そして、その主体となる炭素系触媒としては、熱分解炭素やフラーレン媒等の炭素原料を用いることができるが、特に活性炭または活性炭素繊維を用いることが好適である。ここで、上記活性炭としては、粒状、繊維状、コークスを原料として加工されたもの等が好適である。また、上記の活性炭などを熱処理して脱硫活性を高めたものを使用することもできる。
【0036】
そして、上記炭素系触媒の表面には、水に対する接触角が90度以上であるポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリスチレン樹脂等の撥水性樹脂によって撥水化処理が施されている。さらに、当該炭素系触媒の表面には、ヨウ素、臭素あるいはその化合物が添着、イオン交換または担持されている。ここで、上記炭素系触媒に対する上記ヨウ素またはその化合物の添着、イオン交換または担持量は、ヨウ素として0.020wt%以上、60wt%以下の範囲であることが好ましい。
【0037】
また、上記炭素系触媒に対する上記臭素またはその化合物の添着、イオン交換または担持量は、臭素として0.010wt%以上、60wt%以下の範囲であることが好ましい。
さらに、後述するように、上記炭素系触媒に対するヨウ素、臭素またはこれらの化合物のより好ましい添着、イオン交換または担持量は、ヨウ素または臭素として0.1wt%〜10wt%の範囲であり、0.1wt%〜5%の範囲であることが最適である。
【0038】
また、上記ヨウ素または臭素の化合物としては、ヨウ素または臭素のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、遷移金属塩、水素化物、オキソ酸および有機化合物のいずれかが適用可能である。
【0039】
より具体的に、上記ヨウ素化合物としては、ヨウ化鉛、ヨウ化ニッケル、ヨウ化マグネシウム、ヨウ化鉄、ヨウ化リン等のヨウ化物、ヨウ素酸およびヨウ素塩、ヨウ化メチル、ヨウ化エチル、ヨウ化プロピル等のハロゲン化アルキル、ヨウ化アリル、ヨウ化メチレン等が使用可能である。
【0040】
また、臭素化合物としては、臭化リン、臭化ヨウ素、臭化マグネシウム、臭化鉄等の臭化物、臭素酸および臭素塩、臭化メチル、臭化エチル等のハロゲン化アルキル、臭化アリル、臭化メチレンや臭化エチレン等が使用可能である。
【0041】
次いで、上記排煙脱硫用炭素系触媒の製造方法の実施形態について説明すると、先ず前処理として、上記炭素系触媒に対する撥水化処理工程を行って所定形状に成形した後に、上記炭素系触媒を水等の水溶液中に浸漬するなどして、当該炭素系触媒の細孔内を湿潤にし、上記水溶液で埋めておく。
そして次に、およびヨウ素または臭素の添着、イオン交換または担持工程を行う。なお、これらの3工程を実施する順序は、適宜選択することができる。
【0042】
先ず、上記炭素系触媒の表面に対して撥水化処理を施す材料としては、水に対する接触角が90度以上の撥水性樹脂を用いる。具体的には、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン等の樹脂やポリクロロトリフルオロエチレン、ポリトリフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂である。
【0043】
なお、上記炭素系触媒の表面に撥水化処理を施す方法としては、上記炭素系触媒とフッ素樹脂等の撥水性樹脂の分散液や粉末と混合する方法や、炭素系触媒と撥水性樹脂とをせん断力を付加しながら混練することにより、当該撥水性樹脂を炭素系触媒の表面に添着または担持させる方法等を用いることができる。また特にフッ素樹脂の場合は、せん断力を付加することにより、当該炭素系触媒表面上で繊維化し、その繊維が折り重なり網目状になるため、触媒表面をフッ素樹脂で完全に塞ぐことなく、少量のフッ素樹脂によって撥水化処理を施すことができる。
【0044】
次いで、上記成形工程は、炭素系触媒と一般的な有機系バインダー(熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等)とを混練して、加圧成形することにより、容易に上述した粒状、ペレット状、ハニカム構造等に成形することができる。この際に、上記フッ素樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリスチレン樹脂等の撥水性樹脂やこれらを含む耐酸性樹脂を混合したバインダーを用いることにより、上記撥水化処理も同時に行うことができる。また、上記耐酸性樹脂を含む芯材シートや不織布等を加えれば、上記炭素系触媒の原料削減や強度向上を図ることもできる。
【0045】
さらに、上記成形工程を経た炭素系触媒の細孔内を上記水で塞ぐには、減圧含浸方法やスチーム添加方法を好適に用いることができる。
この減圧含浸方法は、容器内に上記炭素系触媒を入れるとともに、さらに水を入れ、次いで上記容器内を所定温度に制御しながら、内部の空気を排気用ポンプで排気して、0.05気圧以下に減圧し、この状態を一定時間保持した後に、上記容器内の圧力を大気圧に戻すものである。
【0046】
他方、スチーム添加方法は、空気に水蒸気を添加した混合ガス中に、上記炭素系触媒を曝すことにより上記細孔内を水で満たすものである。この際に、空気中の水蒸気圧は高いほど良く、また例えば135℃の水蒸気と空気を混合した後に、100℃まで温度が低下したところで、上記混合ガス中の水蒸気が凝縮するように水蒸気量と空気量を調整することが好ましい。
【0047】
また、次工程である上記炭素系触媒の表面に、ヨウ素またはその化合物を添着または担持させる方法としては、これらを親水性溶媒(例えば、水やアルコール類)に溶解・分散させて、上記炭素系触媒に噴霧・散布・含浸、浸漬する方法や、ヨウ素またはその化合物を微粉末やその溶液の形で、上記炭素系触媒と練合する方法が適用可能である。
また、臭素またはその化合物を添着または担持させる方法としては、同様に親水性溶媒に溶解・分散させて上記炭素系触媒に噴霧等する方法や、気体状の臭素を上記炭素系触媒に接触させる方法が適用可能である。
【実施例】
【0048】
以下、本発明に係る排煙脱硫用炭素系触媒の実施例について説明する。
先ず、上記炭素系触媒として、以下のヨウ素吸着量がほぼ等しい3種の市販粒状活性炭ならびに2種の活性炭素繊維を用意した。
原料 ヨウ素吸着量(mg/g)
活性炭A 石炭系 1220
活性炭B 椰子殻系 1100
活性炭C 木炭系 1180
活性炭素繊維E ピッチ系 1250
活性炭素繊維F PAN系 1130
【0049】
先ず、以下の実施例1、2、3,4、8と対比する比較例1の排煙脱硫用炭素系触媒として、上記活性炭A〜Cおよび活性炭素繊維E、Fを用いて、これらに撥水化処理のみを行った排煙脱硫用炭素系触媒を製造した。
先ず、平均粒子径20〜200μmに粉砕した活性炭A〜Cおよび3mm以下に裁断した活性炭素繊維E、Fの90重量部に対し、ポリテトラフルオロエチレン水分散液(樹脂固形分60重量%:ダイキン工業製)を固形分濃度で10重量部になるように混合し、加圧ニーダを用いて混練した後、ロールを用いて厚さ0.8mmの平板状シートを作成した。
【0050】
次いで、この平板状シートの半量を歯車状ロールで波型に加工し、上記平板状シートと交互に積層することにより、ハニカム状の排煙脱硫用炭素系触媒を得た。
そして、得られたハニカム状の排煙脱硫用活性炭触媒0.001m3を50mm×50mmの角型触媒充填塔に充填し、その触媒層に、亜硫酸ガス1000容量ppm、酸素濃度5容量%、炭酸ガス10容量%および湿度80%からなる温度50℃の模擬排ガス1m3/hを通過させ、各排煙脱硫用炭素系触媒の脱硫性能を求めた。
【0051】
この脱硫性能の評価方法は、排ガス中の亜硫酸ガス濃度に対して1次の反応とし、以下の式で見かけの速度定数を算出し、本条件で求めた脱硫性能を各触媒の基準値(=脱硫活性比1.0)とした。
基準条件における見かけの速度定数 K0=−(ガス量/触媒量)×Ln(1−脱硫率)
脱硫率=1−(出口亜硫酸ガス濃度÷入口亜硫酸ガス濃度)
【0052】
(第1の実施例)
実施例1に係る排煙脱硫用炭素系触媒として、上記活性炭Aおよび活性炭素繊維Eを用いて、これらにヨウ素化合物であるKIを担持させるとともに撥水化処理を行った、本発明に係る排煙脱硫用炭素系触媒を製造した。
先ず、平均粒子径20〜200μmに粉砕した活性炭Aおよび3mm以下に裁断した活性炭素繊維Eに、KI水溶液を減圧含浸して担持させた。この時、担持するKI量を溶解し、担持量を調製した。次いで、KIが担持された活性炭Cおよび活性炭素繊維Eの90重量部に対し、ポリテトラフルオロエチレン水分散液(樹脂固形分60重量%:ダイキン工業製)を固形分濃度で10重量部になるように混合し、加圧ニーダを用いて混練した後、ロールを用いて厚さ0.8mmの平板状シートを作成した。
【0053】
そして、この平板状シートから、上記比較例1と同様の方法を用いてKIをヨウ素で5wt%担持したハニカム状の排煙脱硫用活性炭触媒を得た。
次いで、得られたハニカム状の排煙脱硫用活性炭触媒に対して、上記比較例1と同様の試験条件により、脱硫試験を行ってこれらの脱硫性能を求めた。
【0054】
実施例2に係る排煙脱硫用炭素系触媒として、上記活性炭Aおよび活性炭素繊維Eを用いて、予めこれらの細孔内に水を含浸させた後に、ヨウ素化合物であるKIを担持させるとともに撥水化処理を行った、本発明に係る排煙脱硫用炭素系触媒を製造した。
すなわち、先ず平均粒子径20〜200μmに粉砕した活性炭Aおよび3mm以下に裁断した活性炭素繊維Eに、減圧含浸方法によって水を含浸させ、活性炭Aおよび活性炭素繊維Eの細孔内を水で満たした。
【0055】
なお、上記減圧含浸方法を、活性炭Aの場合を例に詳述すると、先ず減圧容器内に活性炭Aを入れ、次にこの活性炭容量に対し、約5倍容量の水を投入した。次いで、上記容器内の温度を25℃の一定となるように制御しながら、上記容器内の空気を排気用ポンプで排気して0.05気圧以下に減圧した。そして、その状態を約12時間保持し、その後上記容器内の圧力を大気圧(1気圧)へ戻した。
【0056】
次いで、上記活性炭にKI水溶液を減圧含浸して担持させた。この時、担持するKI量を溶解し、担持量を調製した。次いで、KIが担持された活性炭Aおよび活性炭素繊維Eの90重量部に対し、ポリテトラフルオロエチレン水分散液(樹脂固形分60重量%:ダイキン工業製)を固形分濃度で10重量部になるように混合し、加圧ニーダを用いて混練した後、ロールを用いて厚さ0.8mmの平板状シートを作成した。
【0057】
そして、この平板状シートから、上記比較例1と同様の方法を用いてKIをヨウ素で5wt%担持したハニカム状の排煙脱硫用活性炭触媒を得た。次いで、得られたハニカム状の排煙脱硫用活性炭触媒に対して、上記比較例1および実施例1の排煙脱硫用活性炭触媒と同様の試験条件により、脱硫試験を行ってこれらの脱硫性能を求めた。
【0058】
図1は、上記脱硫試験の結果得られた、上記実施例1および実施例2に示した排煙脱硫用炭素系触媒と、比較例1の排煙脱硫用炭素系触媒との脱硫活性比を対比して示すものである。
同図から、単に活性炭や活性炭素繊維に撥水化処理のみを施した比較例1に対して、上記活性炭等に撥水化処理を施すとともに、ヨウ素化合物KIを担持させた実施例1の触媒の方が、1.5倍前後の高い脱硫性能が得られるとともに、事前に上記活性炭等の細孔内を水で塞いだ実施例2の触媒によれば、2〜2.5倍強の一層高い脱硫性能が得られることが判る。
【0059】
(第2の実施例)
次に、上記活性炭等にヨウ素またはその化合物を担持させた場合と、臭素またはその化合物を担持させた場合とにおいて、脱硫性能の向上効果に差異があるか否かを検証するために、以下の実施例3および実施例4の排煙脱硫用活性炭触媒を用いた検証を行った。
先ず、実施例3の排煙脱硫用活性炭触媒として、上記活性炭A〜Cおよび活性炭素繊維E、Fについて、実施例2と同様の製法により、予めこれらの細孔内に水を含浸させた後に、ヨウ素化合物であるKIを担持させるとともに撥水化処理を行うことにより、KIをヨウ素で5wt%担持した本発明に係るハニカム状の排煙脱硫用活性炭触媒を製造した。
【0060】
また、同様に実施例4の排煙脱硫用活性炭触媒として、上記活性炭A〜Cおよび活性炭素繊維E、Fについて、実施例2と同様の製法により、予めこれらの細孔内に水を含浸させた後に、臭素化合物であるKBrを担持させるとともに撥水化処理を行うことにより、KBrを臭素で5wt%担持した本発明に係るハニカム状の排煙脱硫用活性炭触媒を製造した。
【0061】
そして、上記実施例3および実施例4のハニカム状の排煙脱硫用活性炭触媒に対して、上記比較例1と同様の試験条件により、脱硫試験を行ってこれらの脱硫性能を求めた。
図2は、上記脱硫試験の結果得られた、上記実施例3および実施例4に示した排煙脱硫用炭素系触媒と、比較例1の排煙脱硫用炭素系触媒との脱硫活性比を対比して示すものである。これらの図から、ヨウ素化合物KIを担持させた触媒と、臭素化合物KBrを担持させた触媒とは、いずれも比較例1に対して、ほぼ同等の脱硫効果の向上が見られることが判る。
【0062】
(第3の実施例)
次に、活性炭に対するヨウ素、臭素またはこれらの化合物の担持量が、脱硫性能の向上にどのような影響を与えるかを、下記実施例5および実施例6の排煙脱硫用活性炭触媒を用いて検証した。
先ず、実施例5の排煙脱硫用活性炭触媒として、上記活性炭Aについて、実施例2と同様の製法により、予めこれらの細孔内に水を含浸させた後に、ヨウ素化合物であるKIの量を変えて、ヨウ素で0.01wt%〜80wt%の範囲で担持させるとともに撥水化処理を行った20種類の本発明に係るハニカム状の排煙脱硫用活性炭触媒を製造した。
【0063】
また、同様に実施例6の排煙脱硫用活性炭触媒として、上記活性炭Aについて、実施例2と同様の製法により、予めこれらの細孔内に水を含浸させた後に、臭素化合物であるKBrの量を変えて、臭素で0.01wt%〜80wt%担持させるとともに撥水化処理を行った5種類の本発明に係るハニカム状の排煙脱硫用活性炭触媒を製造した。
【0064】
そして、実施例5および実施例6の複数のハニカム状の排煙脱硫用活性炭触媒に対して、上記比較例1と同様の試験条件により、脱硫試験を行ってこれらの脱硫性能を求めた。
図3は、これら実施例5および実施例6のKIまたはKBrの担持量を変化させた複数の触媒における脱硫試験の結果を示すものである。
【0065】
同図によれば、ヨウ素および臭素ともに、それぞれの担持量に対してほぼ同等の脱硫性能の向上効果が得られるとともに、さらに活性炭Aに、ヨウ素として0.020wt%〜60wt%の範囲のヨウ素化合物KIを担持させるか、あるいは臭素として0.010wt%〜60wt%の範囲の臭素化合物KBrを担持させることにより、脱硫性能の向上効果が得られることが判る。
【0066】
ここで、活性炭Aにおけるヨウ素、臭素あるいはその化合物の担持量が、ヨウ素または臭素で10wt%を超えた場合には、所望の効果を得ることができるものの、担持量の増加に比例した向上効果が得られず、逆に0.1wt%に満たないと、上記効果が比較的急激に低くなる。また、特に5wt%〜10wt%の範囲においては、担持量の増加率に対して、効果が向上する率は大きいとはいえない。
【0067】
したがって、上記炭素系触媒に対するヨウ素、臭素またはこれらの化合物のより好ましい添着、イオン交換または担持量は、0.1wt%〜10wt%の範囲であり、0.1wt%〜5%の範囲であることが最適であることが判る。
【0068】
(第4の実施例)
次に、上記活性炭等にヨウ素化合物を担持させる場合に、当該ヨウ素化合物の相違によって、脱硫性能の向上効果に差異が生じるか否かについて、下記実施例7の排煙脱硫用活性炭触媒を用いて検証を行った。
上記実施例7の排煙脱硫用活性炭触媒として、上記活性炭Aを用いて、実施例2と同様の製法により、予めこれらの細孔内に水を含浸させた後に、ヨウ素化合物であるKI、MgI2、AlI3、CuIをそれぞれヨウ素で0.5wt%担持させるとともに撥水化処理を行った複数の本発明に係るハニカム状の排煙脱硫用活性炭触媒を製造した。
【0069】
そして、得られた異なるヨウ素化合物を担持した複数のハニカム状の排煙脱硫用活性炭触媒に対して、上記比較例1と同様の試験条件により、脱硫試験を行ってこれらの脱硫性能を求めた。
図4は、この試験結果を示すものであり、ヨウ素化合物が異なる場合においても、これを担持させない比較例1に対して、優れた脱硫性能の向上効果が得られるとともに、当該化合物の相違によっては、上記向上効果に大きな差異を生じないことが判る。
【0070】
(第5の実施例)
次に、下記実施例8の排煙脱硫用活性炭触媒を用いて、本発明に係る排煙脱硫用活性炭触媒が、どの程度の期間にわたって脱硫性能を維持し得るかを検証した。
先ず、上記実施例8の排煙脱硫用活性炭触媒として、上記活性炭Aを用いて、実施例2と同様の製法により、予めこれらの細孔内に水を含浸させた後に、ヨウ素化合物であるKIをヨウ素で0.5wt%担持させるとともに撥水化処理を行った本発明に係るハニカム状の排煙脱硫用活性炭触媒を製造し、上記比較例1と同様の試験条件にて長時間にわたる脱硫試験を行った。
図5は、この試験結果を示すものであり、本実施例8の排煙脱硫用活性炭触媒によれば、少なくとも700時間まで、比較例1の2倍以上の脱硫性能を維持し得ることが判る。
【0071】
(第6の実施例)
次いで、上記活性炭等に、予め細孔内に水を含浸させた後に、ヨウ素等を担持させるとともに撥水化処理を行った本発明に係る排煙脱硫用炭素系触媒が、撥水性の低い樹脂をバインダーとして用いた活性炭、単に活性炭にヨウ素を担持させた触媒、および活性炭に撥水化処理のみを施した触媒に対して、一層顕著な脱硫性能を示すことを検証した。
【0072】
先ず、比較例2に係る排煙脱硫用炭素系触媒として、平均粒子径20〜200μmに粉砕した活性炭Aの90重量部に対し、成形助剤としてアミド系樹脂を10重量部になるように混合し、加圧ニーダを用いて混練した後、加熱ロールを用いて厚さ0.8mmの平板状シートを作成し、この平板状シートの半量を歯車状ロールで波型に加工して、他の平板状シートと交互に積層することにより、ハニカム状の排煙脱硫用活性炭触媒を得た。
【0073】
また、比較例3に係る排煙脱硫用炭素系触媒を得るために、平均粒子径20〜200μmに粉砕した活性炭Aに水を減圧含浸し、活性炭Aの細孔内を水で満たした後に、KI水溶液を減圧含浸して担持させた。この時、担持するKI量を溶解し、担持量を調製した。次いで、KIが担持された活性炭Aの90重量部に対し、成形助剤としてアミド系樹脂を10重量部になるように混合し、加圧ニーダを用いて混練した後、加熱ロールを用いて厚さ0.8mmの平板状シートを作成し、この平板状シートから、上記比較例2と同様の方法を用いてKIをヨウ素で5wt%担持したハニカム状の排煙脱硫用活性炭触媒を得た。
【0074】
次いで、比較例2および比較例3のハニカム状の排煙脱硫用活性炭触媒に対して、上記比較例1と同様の試験条件により、脱硫試験を行ってこれらの脱硫性能を求めた。
図6は、上記脱硫試験の結果得られた、上記比較例2および比較例3に示した排煙脱硫用炭素系触媒、ならびに比較例1および実施例2の排煙脱硫用炭素系触媒の脱硫活性比を対比して示すものである。
【0075】
同図から、ヨウ素等を担持せず、かつ撥水化処理も行っていない比較例2の触媒に対して、撥水化処理は行わないものの、細孔内を水で塞ぐとともにヨウ素化合物KIを担持させた比較例3の触媒は、約1.5倍の脱硫性能の向上が見られ、撥水化処理のみを行った比較例1の触媒は、約10倍の脱硫性能の向上効果が見られたのに過ぎない。
【0076】
これに対して、予めこれらの細孔内に水を含浸させた後に、ヨウ素化合物であるKIを担持させるとともに撥水化処理を行った、本発明に係る実施例2の排煙脱硫用活性炭触媒は、事前の細孔内への水の含浸効果と、ヨウ素化合物の担持効果と、さらに撥水化処理による効果との相乗効果によって、上記比較例2の触媒に対して、約26倍といった極めて高い脱硫性能の向上効果を得ることができる。
【0077】
(第7の実施例)
次に、上記撥水化処理を上記炭素系触媒の細孔内の湿潤化工程および上記ヨウ素等の添着、イオン交換または担持工程の前処理として実施した場合および後処理として実施した場合について、それぞれ当該湿潤化工程を減圧含浸方法によって行った場合とスチーム添加方法によって行った場合との、処理に要する時間および脱硫活性比に与える影響を検証した。
【0078】
(1)湿潤化工程を減圧含浸方法により、撥水化処理の前処理として行った場合
この場合の排煙脱硫用活性炭触媒として、上述した実施例2のハニカム状の排煙脱硫用活性炭触媒、およびこれに加えて、容器内における減圧状態を6時間保持したもの、20時間保持したもの、並びに上記容器内の温度を25℃でなく、60℃に昇温させて上記容器内の空気を排気用ポンプで排気して0.05気圧以下に減圧し、その状態を10時間保持したものの、合計4種類の排煙脱硫用活性炭触媒を準備した。
【0079】
(2)湿潤化工程をスチーム添加方法により、撥水化処理の前処理として行った場合
先ず、135℃の水蒸気と空気を混合した後、100℃まで降温したところで混合ガス中の水蒸気が凝縮するようにスチーム量と空気量を調整した。次いで、通気ダクトを活性炭の粒子サイズより小さいメッシュで仕切り、その中へ平均粒子径20〜200μmに粉砕した上記活性炭Aを充填した。
【0080】
そして、実施例9の排煙脱硫用活性炭触媒として、GHSV(=ガス量(m3/h)÷活性炭(m3))が5〜10h-1となるように上記混合ガスを2時間通気したもの、5時間通気したもの、およびGHSVが15〜20h-1となるように上記混合ガスを1時間通気したもの、2時間通気したものの合計4種類を準備した。なお、この時水蒸気の添加位置を調整することで、活性炭層入口でのガス温度が100℃となるように制御した。この際に、活性炭へのガスの通気方法は、アップフローによって行った。
【0081】
次いで、上記活性炭にKI水溶液を減圧含浸して担持させた。この時、担持するKI量を溶解し、担持量を調製した。次いで、KIが担持された活性炭Aおよび活性炭素繊維Eの90重量部に対し、ポリテトラフルオロエチレン水分散液(樹脂固形分60重量%:ダイキン工業製)を固形分濃度で10重量部になるように混合し、加圧ニーダを用いて混練した後、ロールを用いて厚さ0.8mmの平板状シートを作成した。そして、この平板状シートから、上記比較例1と同様の方法を用いてKIをヨウ素で5wt%担持したハニカム状の4種類の実施例9の排煙脱硫用活性炭触媒を得た。
【0082】
(3)湿潤化工程を減圧含浸方法により、撥水化処理の後処理として行った場合
先ず、比較例1と同様な方法によってハニカム状の活性炭触媒を得た後に、当該ハニカム状の活性触媒を減圧容器内に入れ、さらに当該ハニカム状の活性炭触媒の容積に対して約5倍容量の水を投入した。次いで、上記容器内の温度を25℃の一定となるように温度制御しつつ、容器内の空気を排気用ポンプで排気しながら0.05気圧以下に減圧した。
【0083】
そして、この状態を12時間維持した後に容器内の圧力を大気圧(1気圧)へと戻したもの、30時間保持した後に容器内の圧力を大気圧へと戻したもの、並びに上記容器内の温度を25℃でなく、60℃に昇温させて上記容器内の空気を排気用ポンプで排気して0.05気圧以下に減圧し、その状態を25時間保持した後に容器内の圧力を大気圧へと戻したもの、計3種類のハニカム状の活性炭触媒を準備した。
【0084】
次いで、上記ハニカム状の活性炭触媒に、KI水溶液をスプレーもしくは減圧浸漬して担持させた。この時、担持するKI量を溶解し、担持量を調整して、KIをヨウ素で5wt%担持したハニカム状の3種類の実施例10に係る排煙脱硫活性炭触媒を得た。
【0085】
(4)湿潤化工程をスチーム添加方法により、撥水化処理の後処理として行った場合
先ず、比較例1と同様な方法によってハニカム状の活性炭触媒を得た後に、当該ハニカム状の活性触媒を、上記実施例9と同様の通気ダクト内に収納し、135℃の水蒸気と空気を混合した後、100℃まで降温したところで水蒸気が凝縮するようにスチーム量と空気量を調整した混合ガスをアップフローによって通気した。この際に、活性炭層入口でのガス温度が100℃となるように制御した。
【0086】
そして、GHSVが5〜10h-1となるように上記混合ガスを3時間通気したもの、5時間通気したもの、およびGHSVが15〜20h-1となるように上記混合ガスを1時間通気したもの、2時間通気したもの、計4種類のハニカム状の活性炭触媒を準備した。
【0087】
次いで、上記ハニカム状の活性炭触媒に、KI水溶液をスプレーもしくは減圧浸漬して担持させた。この時、担持するKI量を溶解し、担持量を調整して、KIをヨウ素で5wt%担持したハニカム状の4種類の実施例11に係る排煙脱硫活性炭触媒を得た。
【0088】
(5)処理時間および脱硫試験の結果
次いで、これら実施例2、実施例9〜11の排煙脱硫用活性炭触媒を用いて、上記比較例1と同様の試験条件により、脱硫試験を行ってこれらの脱硫性能を求めた。
図7および図8は、これらの排煙脱硫用活性炭触媒を製造するに際して要した湿潤化工程の処理時間および脱硫性能の結果を対比して示すものである。
【0089】
これらの図から、湿潤化工程を行った場合には、当該湿潤化工程が撥水化処理の前後を問わず、また減圧含浸方法によるかスチーム添加方法によるかを問わず、いずれも湿潤化工程を行わなかった実施例1の排煙脱硫用活性炭触媒(脱硫活性比1.6)よりも高い脱硫性能が得られることが判る。
また、上記湿潤化工程を行うに際しては、スチーム添加方法を用いることにより、減圧含浸方法を用いた場合と比較して、より短い処理時間によって、同等の脱硫性能を有する排煙脱硫用活性炭触媒を得られることが判る。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明に係る第1の実施例における実施例1および2と従来の比較例1との脱硫試験の結果を示すグラフである。
【図2】同、第2の実施例における実施例3および4と従来の比較例1との脱硫試験の結果を示すグラフである。
【図3】同、第3の実施例における実施例5および6の脱硫試験の結果を示すグラフである。
【図4】同、第4の実施例における実施例7の脱硫試験の結果を示すグラフである。
【図5】同、第5の実施例における実施例8と従来の比較例1の長時間脱硫試験の結果を示すグラフである。
【図6】同、第6の実施例における比較例1、2、3および本発明に係る実施例2の脱硫試験の結果を示すグラフである。
【図7】同、第7の実施形態における実施例2、実施例9〜11における撥水化処理の所要時間と脱硫性能とを対比して示すグラフである。
【図8】第7の実施例における実施例2、実施例9〜11の撥水化処理条件および脱硫活性比を示す図表である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも亜硫酸ガス、酸素および水蒸気を含む排ガスと接触させることにより、上記亜硫酸ガスを上記酸素、水蒸気と反応させて硫酸とし、当該硫酸を回収する排煙脱硫用炭素系触媒であって、
炭素系触媒の表面に、ヨウ素、臭素あるいはその化合物が添着、イオン交換または担持されるとともに撥水化処理が施されてなることを特徴とする排煙脱硫用炭素系触媒。
【請求項2】
上記炭素系触媒は、活性炭または活性炭素繊維であることを特徴とする請求項1に記載の排煙脱硫用炭素系触媒。
【請求項3】
上記ヨウ素または臭素の化合物は、ヨウ素または臭素のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、遷移金属塩、水素化物、オキソ酸および有機化合物のいずれかであることを特徴とする請求項1または2に記載の排煙脱硫用炭素系触媒。
【請求項4】
上記炭素系触媒に対する上記ヨウ素またはその化合物の添着、イオン交換または担持量が、ヨウ素として0.020wt%以上、60wt%以下の範囲であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の排煙脱硫用炭素系触媒。
【請求項5】
上記炭素系触媒に対する上記臭素またはその化合物の添着、イオン交換または担持量が、臭素として0.010wt%以上、60wt%以下の範囲であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の排煙脱硫用炭素系触媒。
【請求項6】
上記炭素系触媒に水に対する接触角が90度以上の樹脂を含有させること、または上記炭素系触媒に熱処理を施してその表面の親水基を除去することにより、上記炭素系触媒の表面に上記撥水化処理が施されていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の排煙脱硫用炭素系触媒。
【請求項7】
少なくとも亜硫酸ガス、酸素および水蒸気を含む排ガスと接触させることにより、上記亜硫酸ガスを上記酸素、水蒸気と反応させて硫酸とし、当該硫酸を回収する排煙脱硫用炭素系触媒の製造方法であって、
炭素系触媒を湿潤させてその細孔内を塞いだ後に、当該炭素系触媒にヨウ素、臭素あるいはその化合物を含有する溶液を噴霧または散布し、あるいは上記炭素系触媒を上記溶液に浸漬させることにより、上記炭素系触媒の表面に、上記ヨウ素、臭素あるいはその化合物を添着、イオン交換または担持させてなることを特徴とする排煙脱硫用炭素系触媒の製造方法。
【請求項8】
上記炭素系触媒は、活性炭または活性炭素繊維であることを特徴とする請求項7に記載の排煙脱硫用炭素系触媒の製造方法。
【請求項9】
上記炭素系触媒に、ヨウ素として0.020wt%以上、60wt%以下の範囲の上記ヨウ素またはその化合物を添着、イオン交換または担持させることを特徴とする請求項7または8に記載の排煙脱硫用炭素系触媒の製造方法。
【請求項10】
上記炭素系触媒に、臭素として0.010wt%以上、60wt%以下の範囲の上記臭素またはその化合物を添着、イオン交換または担持させることを特徴とする請求項7または8に記載の排煙脱硫用炭素系触媒の製造方法。
【請求項11】
上記炭素系触媒に撥水化処理を施すことを特徴とする請求項7ないし10のいずれかに記載の排煙脱硫用炭素系触媒の製造方法。
【請求項12】
容器内に上記炭素系触媒と水とを入れ、当該容器内を減圧して一定時間保持した後に大気圧に戻すことにより、上記炭素系触媒の細孔内を上記水で塞ぐことを特徴とする請求項7ないし11のいずれかに記載の排煙脱硫用炭素系触媒の製造方法。
【請求項13】
上記炭素系触媒に、水蒸気と空気との混合ガスを通気させて上記水蒸気を凝縮させることにより、上記炭素系触媒の細孔内を凝縮した水で塞ぐことを特徴とする請求項7ないし11のいずれかに記載の排煙脱硫用炭素系触媒の製造方法。

【図8】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−136982(P2008−136982A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−328329(P2006−328329)
【出願日】平成18年12月5日(2006.12.5)
【出願人】(000003285)千代田化工建設株式会社 (162)
【Fターム(参考)】