説明

排熱回収器

【課題】加熱流体のシール性を確保しつつ、熱応力を緩和することができる排熱回収器を提供する
【解決手段】ダクト部120における各連結部151、152との接続部にカバー部121を一体に形成し、各連結部151、152とカバー部122との隙間に貫通穴を有する第1、第2ワッシャ18、19を設け、第1ワッシャ18を各連結部151、152に対して摺動可能にし、第2ワッシャ19をカバー部121に対して摺動可能にし、第1ワッシャ18の外径を第2ワッシャ19の外径より小さくし、第2ワッシャ19の貫通穴の内径を第1ワッシャ18の貫通穴の内径以上、第1ワッシャ18の外径未満の範囲内にし、カバー部121と第1ワッシャ18との間に、蒸発側連結部151および凝縮側連結部152間において発生する蒸発部110とダクト部120との熱膨張差を吸収するための隙間17を設定し、第1、第2ワッシャ18、19により迷路構造を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両に用いられる排熱回収器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ヒートパイプの原理を利用して車両のエンジンの排気系から排気ガスの排気熱を回収して、この排気熱を暖機促進等に利用する技術が知られている。
【0003】
このような排熱回収器は、エンジンの排気管内にヒートパイプの蒸発部を配設するとともに、エンジンの冷却水経路内にヒートパイプの凝縮部を配設し、排気ガスの排気熱によって冷却水を加熱している(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、ヒートパイプの原理を利用した熱交換器として、ループ型ヒートパイプ式熱交換器が提案されている(例えば、特許文献2参照)。これは、閉ループを形成する密閉された循環経路と、循環経路内に封入され、蒸発および凝縮可能な作動流体と、循環経路に配設され、外部からの入熱により作動流体を蒸発させる蒸発部と、循環経路の蒸発部より高い位置に配設され、蒸発部で蒸発した作動流体と外部からの被加熱流体との間で熱交換を行う凝縮部とを有するものである。
【特許文献1】特開昭62−268722号公報
【特許文献2】特開平4−45393号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
車両への搭載性に有利な、簡素でコンパクトな構造の排熱回収器を提供しようとする場合、蒸発部と凝縮部を一体に構成する事が望ましい。一例を示すと、複数本のヒートパイプを有する蒸発部と凝縮部とが水平方向に隣接して配置され、蒸発部で蒸発した作動流体を凝縮部に導く蒸発側連結部と、凝縮部で凝縮した作動流体を蒸発部に導く凝縮側連結部とを備えるような構成が考えられる。このとき、蒸発部は排気ガス(加熱流体)が流通する筐体内に配置されており、各連結部は筐体に接合されている。
【0006】
このような排熱回収器において、蒸発部と筐体との間の温度差が生じると、各連結部における筐体との根付部に熱膨張差に起因する熱応力が発生するという問題がある。これに対し、筐体における各連結部が接合された面にスリットを設けることで熱膨張差に起因する熱応力を吸収する手段が考えられるが、スリットから筐体外部への排気ガスの流出を防止する、すなわち排気ガスのシール性を確保することが困難である。
【0007】
本発明は、上記点に鑑み、加熱流体のシール性を確保しつつ、熱応力を緩和することができる排熱回収器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明では、筐体(120)における蒸発側連結部(151)および凝縮側連結部(152)のうち少なくとも一方との接続部には、当該少なくとも一方の連結部(151、152)の外周面を覆うカバー部(121)が、筐体(120)と一体に形成されており、少なくとも一方の連結部(151、152)とカバー部(122)との間に設定された隙間には、少なくとも一方の連結部(151、152)が挿入される貫通穴を有する第1、第2プレート(18、19)が設けられており、第1プレート(18)は少なくとも一方の連結部(151、152)に対して摺動可能になっているとともに、第2プレート(19)はカバー部(121)に対して摺動可能になっており、第1プレート(18)の外径は、第2プレート(19)の外径より小さくなっているとともに、第2プレート(19)の貫通穴の内径は、第1プレート(18)の貫通穴の内径以上、第1プレート(18)の外径未満の範囲内になっており、カバー部(121)と第1プレート(18)との間には、蒸発側連結部(151)および凝縮側連結部(152)間において発生する蒸発部(110)と筐体(120)との熱膨張差を吸収するための隙間(17)が設定されており、第1、第2プレート(18、19)により迷路構造が構成されていることを特徴としている。
【0009】
筐体(120)内に加熱流体が流通すると、筐体(120)および蒸発部(110)が熱膨張し、筐体(120)と一体に形成されているカバー部(121)と、蒸発部(110)に熱的に接続されている少なくとも一方の連結部(151、152)とが、連結部配置方向外側(各連結部(151、152)同士が離れる方向、他の連結部から遠ざかる方向)にそれぞれ変位する。このとき、外部に露出している筐体(120)と、外部に露出していない蒸発部(110)とでは熱膨張量が異なる、すなわち筐体(120)と蒸発部(110)との間に熱膨張差が発生するため、カバー部(121)と少なくとも一方の連結部(151、152)との連結部配置方向外側の隙間が減少する。そして、カバー部(121)と少なくとも一方の連結部(151、152)との隙間が0になり、カバー部(121)と少なくとも一方の連結部(151、152)とが接触すると、その接触部に熱応力が発生する。
【0010】
これに対し、カバー部(121)と第1プレート(18)との間に、蒸発側連結部(151)および凝縮側連結部(152)間において発生する蒸発部(110)と筐体(120)との熱膨張差を吸収するための隙間(17)を設定することで、筐体(120)と蒸発部(110)との間の熱膨張差によりカバー部(121)と少なくとも一方の連結部(151、152)との隙間が減少したときに、カバー部(121)と第1プレート(18)とが接触することを防止できる。したがって、筐体(120)と蒸発部(110)との熱膨張差に起因する熱応力の発生を抑制することができる。
【0011】
また、第1、第2プレート(18、19)により、カバー部(121)と少なくとも一方の連結部(151、152)間の隙間に迷路構造を構成することで、カバー部(121)と少なくとも一方の連結部(151、152)間の隙間から筐体(120)の外部に加熱流体が流出することを抑制できる。したがって、加熱流体のシール性を確保しつつ、熱応力を緩和することが可能となる。
【0012】
なお、「迷路構造」とは、周知のごとく、通路の入口側から出口側までに至る部位に、通路が屈曲する部位を少なくとも一カ所設けることにより、通路を流通する流体が直線的に流通することができないようにしたものである。
【0013】
また、上記特徴の排熱回収器において、蒸発側連結部(151)および凝縮側連結部(152)の配置方向を連結部配置方向としたとき、カバー部(121)と第1プレート(18)との間の連結部配置方向における距離のうち、他方の連結部から遠い側の距離が、蒸発側連結部(151)および凝縮側連結部(152)間において発生する蒸発部(110)および筐体(120)の連結部配置方向の熱膨張に起因するカバー部(121)と少なくとも一方の連結部(151、152)との隙間の変化量より大きく設定されていてもよい。
【0014】
また、上記特徴の排熱回収器において、第2プレート(19)と少なくとも一方の連結部(151、152)との間には、蒸発側連結部(151)および凝縮側連結部(152)間において発生する蒸発部(110)と筐体(120)との熱膨張差を吸収するための隙間(170)が設定されていてもよい。
【0015】
これによれば、筐体(120)と蒸発部(110)との間の熱膨張差によりカバー部(121)と少なくとも一方の連結部(151、152)との隙間が減少したときに、第2プレート(19)の貫通穴と少なくとも一方の連結部(151、152)とが接触することを防止できる。したがって、筐体(120)と蒸発部(110)との熱膨張差に起因する熱応力の発生をより抑制することが可能となる。
【0016】
この場合、第2プレート(19)と少なくとも一方の連結部(151、152)との間の連結部配置方向における距離のうち、他方の連結部から遠い側の距離(Z)が、蒸発側連結部(151)および凝縮側連結部(152)間において、蒸発部(110)と筐体(120)との間で連結部配置方向に発生する熱膨張に起因するカバー部(121)と少なくとも一方の連結部(151、152)との隙間の変化量より大きく設定されていてもよい。
【0017】
また、上記特徴の排熱回収器において、カバー部(121)には、第1、第2プレート(18、19)がカバー部(121)より凝縮部(130)側に移動することを規制する蓋部(122)が設けられていてもよい。
【0018】
これによれば、第1、第2プレート(18、19)が凝縮部(130)側に移動することを規制することができるため、加熱流体のシール性を確実に確保しつつ、熱応力を確実に緩和することが可能となる。
【0019】
また、上記特徴の排熱回収器において、少なくとも一方の連結部(151、152)とカバー部(122)との間に設定された隙間には、2つの第1プレート(18)および1つの第2プレート(19)が設けられており、1つの第2プレート(19)が、2つの第1プレート(18)間に配置されていてもよい。
【0020】
また、上記特徴の排熱回収器において、少なくとも一方の連結部(151、152)と蒸発部(110)とを接続するジョイント(16)を備え、ジョイント(16)は、蒸発部(110)側に大径部(161)、少なくとも一方の連結部(151、152)側に小径部(162)を有しており、第1、第2プレート(18、19)は、小径部(162)とカバー部(122)との間の隙間に設けられており、第1、第2プレート(18、19)の貫通穴の内径は、大径部(161)の外径より小さく形成されていてもよい。
【0021】
これによれば、第1、第2プレート(18、19)が蒸発部(110)側に移動することを規制することができるため、加熱流体のシール性を確実に確保しつつ、熱応力を確実に緩和することが可能となる。
【0022】
なお、この欄および特許請求の範囲で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の一実施形態について図1〜図3に基づいて説明する。本実施形態の排熱回収器100は、車両のエンジン(内燃機関)の排気系から排気ガスの排気熱を回収して、この排気熱を暖機促進等に利用するものである。なお、排気ガスが本発明の加熱流体に相当し、エンジン冷却水が被加熱流体に相当している。
【0024】
図1は、本実施形態に係る排熱回収器100の車両への搭載状態を示す模式図である。図1に示すように、エンジン10は水冷式の内燃機関であり、燃料が燃焼した後の排気ガスが排出される排気筒11を有している。エンジン10は、エンジン10冷却用のエンジン冷却水(以下、冷却水と略す)が循環するラジエータ回路20と、このラジエータ回路20とは別の流路として冷却水が循環する排熱回収回路30と、空調空気加熱用のヒータコア41に冷却水(温水)が循環するヒータ回路40とを有している。
【0025】
ラジエータ回路20にはラジエータ21が設けられており、ラジエータ21は、ウォータポンプ22によって循環される冷却水を外気との熱交換により冷却する。ラジエータ回路20中にはラジエータ21を迂回して冷却水が流通するバイパス流路23が設けられており、サーモスタット24によってラジエータ21を流通する冷却水量とバイパス流路23を流通する冷却水量とが調節されるようになっている。特に暖機時においてはバイパス流路23側の冷却水量が増加されて暖機が促進される。つまり、ラジエータ21による冷却水の過冷却が防止される。
【0026】
排熱回収回路30は、ラジエータ回路20のエンジン出口部から分岐して、ウォータポンプ22に接続される流路であり、ウォータポンプ22によって冷却水が循環されるようになっている。排熱回収回路30の途中には後述する排熱回収器100の水タンク140(凝縮部130)が接続されている。
【0027】
また、ヒータ回路40は、ラジエータ回路20のエンジン出口部とは異なる部位から冷却水(温水)が流出して、排熱回収回路30の下流側に合流する回路としている。このヒータ回路40には、暖房用熱交換器としてのヒータコア41が設けられており、上記のウォータポンプ22によって冷却水(温水)が循環されるようにしている。ヒータコア41は、図示しない空調ユニットの空調ケース内に配設されており、送風機によって送風される空調空気を温水との熱交換により加熱する。
【0028】
図2は、図1のA−A断面図である。図2に示すように、本実施形態の排熱回収器100は、蒸発部110、ダクト部120、凝縮部130、水タンク140等を有しており、蒸発部110と凝縮部130とが互いに接続されることでループ式のヒートパイプ101を形成している。
【0029】
ヒートパイプ101には図示しない封入部が設けられており、この封入部からヒートパイプ101内が真空引き(減圧)され、作動媒体が封入された後に封入部は封止されている。作動媒体は、ここでは水を使用している。なお、作動媒体としては、水の他にアルコール、フロロカーボン、フロン等を用いてもよい。
【0030】
蒸発部110は、内部を排気ガスが流通するダクト部120内に収容されている。また、蒸発部110は、排気ガスと後述する作動流体との間で熱交換を行い、作動流体を蒸発させるようになっている。なお、ダクト部120が、本発明の筐体に相当している。
【0031】
凝縮部130は、排気筒11の外部に設けられており、排熱回収回路30(図1参照)内に配置される水タンク140内に設けられている。また、凝縮部130は、蒸発部110で蒸発した作動流体と冷却水との間で熱交換を行い、作動流体を凝縮させるようになっている。水タンク140には、エンジンの冷却水出口側に接続される冷却水流入口(図示せず)と、エンジンの冷却水入口側に接続される冷却水流出口(図示せず)とが設けられている。なお、水タンク140が、本発明の被加熱流体経路に相当している。
【0032】
蒸発部110および凝縮部130は、水平方向に隣接するように配置されている。通常、排気筒11は車両前後方向に亘って設けられているため、蒸発部110および凝縮部130の配置方向は、車両幅方向に一致している。
【0033】
次に、蒸発部110の構成について説明する。蒸発部110は、複数本の蒸発側チューブ111と、蒸発側チューブ111の外表面に接合されたコルゲート状の蒸発側フィン112とを有している。蒸発側チューブ111は、排気ガスの流通方向(図2の紙面垂直方向)が長径方向と一致するように扁平状に形成されているとともに、その長手方向が鉛直方向に一致するように複数本平行に配置されている。
【0034】
蒸発部110において、蒸発側チューブ111の長手方向両端部には、蒸発側チューブ111の積層方向に延びて、複数の蒸発側チューブ111と連通する蒸発側ヘッダ113、114がそれぞれ設けられている。蒸発側ヘッダのうち、下方側に配置されるものを蒸発側下ヘッダ113といい、上方側に配置されるものを蒸発側上ヘッダ114という。
【0035】
各蒸発側ヘッダ113、114の蒸発側チューブ111に対応する位置には、チューブ孔(図示せず)が穿設されている。そして、複数の蒸発側チューブ111の長手方向両端部は、それぞれ各蒸発側ヘッダ113、114のチューブ孔に接合されており、複数の蒸発側チューブ111は、各蒸発側ヘッダ113、114内と連通している。
【0036】
次に、凝縮部130の構成について説明する。凝縮部130は、上記蒸発部110と同様に、長手方向が鉛直方向に一致するように複数本平行に配置される凝縮側チューブ131を有しており、各凝縮側チューブ131の間には凝縮側フィン132が介在されているとともに、各凝縮側チューブ131の長手方向両端部が凝縮側上ヘッダ133、凝縮側下ヘッダ134に接合されて形成されている。複数の凝縮側チューブ131は、各凝縮側ヘッダ133、134内と連通している。
【0037】
また、蒸発側ヘッダ113、114と凝縮側ヘッダ133、134は、円筒状の連結部151、152を介して連通状態に接続されている。ここで、連結部のうち、上方側に配置され、蒸発側上ヘッダ114と凝縮側上ヘッダ133とを接続し、蒸発部110で蒸発した作動流体を凝縮部130に導くものを蒸発側連結部151といい、下方側に配置され、凝縮側下ヘッダ133と蒸発側下ヘッダ114とを接続し、凝縮部130で凝縮された作動流体を蒸発部110に導くものを凝縮側連結部152という。
【0038】
そして、蒸発側、凝縮側チューブ111、131、蒸発側、凝縮側ヘッダ113、114、133、134および各連結部151、152によって閉ループが形成されており、作動流体は蒸発部110および凝縮部130を循環するようになっている。すなわち、蒸発側下ヘッダ113→蒸発側チューブ111→蒸発側上ヘッダ114→蒸発側連結部151→凝縮側上ヘッダ133→凝縮側チューブ131→凝縮側下ヘッダ134→凝縮側連結部152→蒸発側下ヘッダ113が環状に繋がっており、ヒートパイプ101を形成している。
【0039】
以上のように排熱回収器100は形成されており、この排熱回収器100は車両の床下の地上側から見て車室内側にへこむように形成されたへこみ部に配設される。そして、ダクト部120が排気筒11に介在され、また、水タンク140の両パイプ(図示せず)が排熱回収回路30に接続されている。なお、本実施形態では、ダクト部120は排気筒11と一体に成形されている。
【0040】
図3は、図2のB部拡大図である。図2および図3に示すように、各連結部151、152は、ジョイント16によって各蒸発側ヘッダ113、114とそれぞれ接続されている。このジョイント16は、大径部161および小径部162を有しており、大径部161は小径部162より蒸発部110側に配置されている。なお、ジョイント16は、各連結部151、152の一部を構成している。
【0041】
ダクト部120における各連結部151、152との接続部には、各連結部151、152の外周を覆うカバー部121が一体に形成されている。カバー部121は、凝縮部130側に突出するように形成されている。また、カバー部121と各連結部151、152の外周面との間には、隙間が設定されており、この隙間はダクト部120内と連通している。本実施形態では、カバー部121は、ジョイント16に対応する部位に設けられている。
【0042】
図3に示すように、カバー部121とジョイント16の小径部16との間の隙間には、第1、第2ワッシャ18、19が配設されている。第1ワッシャ18には、ジョイント16の小径部162が挿入される第1貫通穴が形成されている。同様に、第2ワッシャ19にも、小径部162が挿入される第2貫通穴が形成されている。第1、第2貫通穴は、それぞれジョイント16に対応する形状(本実施形態では円状)に形成されている。また、第1、第2貫通穴の内径は、大径部161の外径より小さくなっている。なお、第1、第2ワッシャ18、19が、本発明の第1、第2プレートに相当している。
【0043】
第1ワッシャ18は、各連結部151、152に対して各連結部151、152の軸方向(以下、連結部軸方向という)に摺動可能になっている。また、第2ワッシャ19は、カバー部121に対して連結部軸方向に摺動可能になっている。すなわち、第1貫通穴の内径は、小径部162の外径よりも若干大きくなっており、第1貫通穴の内周面と小径部162の外周面との間には微小隙間が設定されている。同様に、第2ワッシャ19の外径は、カバー部121の内径より若干小さくなっており、第2ワッシャ19の外周面とカバー部121の内周面との間には微小隙間が設定されている。これらの微小隙間は、各ワッシャ18、19が連結部軸方向に移動可能な範囲内で、できる限り小さく設定されており、本実施形態では0.01mm程度になっている。
【0044】
第1ワッシャ18の外径は、第2ワッシャ19の外径より小さくなっている。また、第2貫通穴の内径は、第1貫通穴の内径以上、第1ワッシャ18の外径未満の範囲内になっている。
【0045】
本実施形態では、第1ワッシャ18が2つ、第2ワッシャ19が1つ設けられており、2つの第1ワッシャ18間に1つの第2ワッシャ19が配置されている。そして、第1、第2ワッシャ18、19により、迷路構造が形成されている。
【0046】
ところで、蒸発側連結部151および凝縮側連結部152の配置方向を、以下、連結部配置方向とする。本実施形態では、連結部配置方向は蒸発側チューブ111の長手方向、すなわち鉛直方向に一致している。
【0047】
カバー部121と第1ワッシャ18との間には、蒸発側連結部151および凝縮側連結部152間において発生する蒸発部110とダクト部120との熱膨張差、すなわち蒸発側連結部151および凝縮側連結部152間において発生する蒸発部110の連結部配置方向の熱膨張量と、ダクト部120の連結部配置方向の熱膨張量との差を吸収するための隙間17が設定されている。
【0048】
そして、この隙間17の大きさ、すなわちカバー部121と第1ワッシャ18との間の連結部配置方向における距離のうち、他方の連結部から遠い側の距離は、蒸発側連結部151および凝縮側連結部152間において発生する蒸発部110およびダクト部120の連結部配置方向の熱膨張に起因するカバー部121と各連結部151、152との隙間の変化量より大きく設定されている。換言すると、カバー部121と第1ワッシャ18との間の連結部配置方向における距離のうち、他方の連結部から遠い側の距離は、蒸発側連結部151および凝縮側連結部152間において、蒸発部110とダクト部120との間で連結部配置方向に発生すると想定される熱膨張差より大きく設定されている。
【0049】
本実施形態では、図2に示すように、カバー部121は、ダクト部120における蒸発側連結部151および凝縮側連結部152との接続部にそれぞれ設けられている。ここで、カバー部121のうち、ダクト部120における蒸発側連結部151との接続部に配置されるものを第1カバー部121aといい、ダクト部120における凝縮側連結部152との接続部に配置されるものを第2カバー部121bという。そして、第1カバー部121aと第1プレート18との間の連結部配置方向における距離のうち、凝縮側連結部152から遠い側の距離X1と、第2カバー部121bと第1プレート18との間の連結部配置方向における距離のうち、蒸発側連結部151から遠い側の距離X2との合計が、蒸発側連結部151および凝縮側連結部152間において、蒸発部110とダクト部120との間で連結部配置方向に発生すると想定される熱膨張差より大きく設定されている。
【0050】
具体的には、蒸発部110および各連結部151、152がオーステナイト系ステンレス(線膨張係数18×10−6)で構成され、ダクト部120およびカバー部121がフェライト系ステンレス(線膨張係数12×10−6)で構成されており、2つの連通部151、152間のピッチYが40mmになっており、ダクト部120に排気ガスが流通する際に、蒸発部110が800℃、ダクト部120が600℃になる場合(基準温度を25℃とする)、蒸発部110の熱膨張が0.558mm、ダクト部120の熱膨張が0.276mmとなるため、その熱膨張差は0.282mmとなる。したがって、蒸発側連結部151および凝縮側連結部152間において発生する蒸発部110およびダクト部120の連結部配置方向の熱膨張に起因するカバー部121と各連結部151、152との隙間の変化量は、0.282mmとなる。このため、本実施形態では、第1カバー部121aと第1プレート18との間の連結部配置方向における距離のうち、凝縮側連結部152から遠い側の距離X1と、第2カバー部121bと第1プレート18との間の連結部配置方向における距離のうち、蒸発側連結部151から遠い側の距離X2との合計は、0.282mmより大きく設定されている。なお、2つの連結部151、152間のピッチYとは、各連結部151、152の軸間距離のことをいう。
【0051】
ところで、上述したように、第1、第2ワッシャ18、19は、連結部軸方向に摺動可能になっている。このため、カバー部121の凝縮部130側の端部には、第1、第2ワッシャ18、19がカバー部121より凝縮部130側に移動することを規制する蓋部122が設けられている。
【0052】
具体的には、蓋部122は、カバー部121の凝縮部130側の端部からジョイント16の小径部162に向かって延びる板状に形成されている。そして、蓋部122と小径部162の外周面との間には、隙間123が形成されている。この隙間123の連結部配置方向外側の長さは、カバー部121と第1ワッシャ18との間の連結部配置方向における距離のうち、他方の連結部から遠い側の距離以上、第1ワッシャ18の外径未満の範囲内になっている。なお、蓋部122はカバー部121と別体として構成されており、排熱回収器100の製造時において、カバー部121内に第1、第2ワッシャ18、19を圧入(挿入)した後に、カバー部121の先端部に一体にろう付けされるようになっている。そして、排熱回収器100の作動時には、ダクト部120内の排気ガスの圧力により第1、第2ワッシャ18、19は蓋部122に押しつけられるようになっている。
【0053】
また、本実施形態では、図3に示すように、第2ワッシャ19と各連結部151、152との間には、蒸発側連結部151および凝縮側連結部152間において発生する蒸発部110とダクト部120との熱膨張差を吸収するための隙間170が設定されている。この隙間170の大きさ、すなわち第2ワッシャ19と各連結部151、152との間の連結部配置方向における距離のうち、他方の連結部から遠い側の距離Zが、蒸発側連結部151および凝縮側連結部152間において、蒸発部110とダクト部120との間で連結部配置方向に発生する熱膨張に起因するカバー部121と各連結部151、152との隙間の変化量より大きく設定されている。
【0054】
ところで、ダクト部120内に排気ガスが流通すると、ダクト部120および蒸発部110が熱膨張し、ダクト部120と一体に形成されているカバー部121と、蒸発部110に熱的に接続されている2つの連結部151、152とが、連結部配置方向外側(各連結部151、152同士が離れる方向、すなわち他の連結部から遠ざかる方向)にそれぞれ変位する。このとき、外部に露出しているダクト部120と、外部に露出していない蒸発部110とでは熱膨張量が異なる、すなわちダクト部120と蒸発部110との間に熱膨張差が発生するため、カバー部121と各連結部151、152との連結部配置方向外側の隙間が減少する。そして、カバー部121と各連結部151、152との隙間が0になり、カバー部121と各連結部151、152とが接触すると、その接触部に熱応力が発生する。
【0055】
これに対し、本実施形態のように、カバー部121と第1ワッシャ18との間に、蒸発側連結部151および凝縮側連結部152間において発生する蒸発部110とダクト部120との連結部配置方向の熱膨張差を吸収するための隙間17を設定することで、ダクト部120と蒸発部110との間の熱膨張差によりカバー部121と各連結部151、152との隙間が減少したときに、カバー部121と第1ワッシャ18とが接触することを防止できる。したがって、ダクト部120と蒸発部110との熱膨張差に起因する熱応力の発生を抑制することができる。
【0056】
また、第1、第2ワッシャ18、19により、カバー部121と各連結部151、152間の隙間に迷路構造を構成することで、カバー部121と各連結部151、152間の隙間からダクト部120の外部に排気ガスが流出することを抑制できる。したがって、排気ガスのシール性を確保しつつ、熱応力を緩和することが可能となる。
【0057】
また、第2ワッシャ19と各連結部151、152との間に、蒸発側連結部151および凝縮側連結部152間において発生する蒸発部110とダクト部120との連結部配置方向の熱膨張差を吸収するための隙間170を設定することで、ダクト部120と蒸発部110との間の熱膨張差によりカバー部121と各連結部151、152との隙間が減少したときに、第2ワッシャ19の貫通穴と各連結部151、152とが接触することを防止できる。したがって、ダクト部120と蒸発部110との熱膨張差に起因する熱応力の発生をより抑制することが可能となる。
【0058】
また、カバー部121の端部に蓋部122を設けることで、第1、第2ワッシャ18、19がカバー部121より凝縮部130側に移動することを規制することができる。さらに、第1、第2ワッシャ18、19の各貫通穴の内径を、ジョイント16の大径部161の外径より小さく形成することで、第1、第2ワッシャ18、19が蒸発部110側に移動することを規制することができる。これらにより、第1、第2ワッシャ18、19を、カバー部121と小径部162との隙間に確実に配置することができる。このため、排気ガスのシール性を確実に確保しつつ、熱応力を確実に緩和することが可能となる。
【0059】
(他の実施形態)
なお、上記実施形態では、第1、第2プレートとしてリング状の第1、第2ワッシャ18、19を採用しているが、これに限らず、第1、第2プレートとしては、楕円状や多角形状のプレートを採用してもよい。
【0060】
また、上記実施形態では、第1、第2ワッシャ18、19の合計数を3つとしたが、各ワッシャ18、19がそれぞれ1つ以上であれば、他の数に変更してもよい。
【0061】
また、上記実施形態では、カバー部121を、ダクト部120における蒸発側連結部151および凝縮側連結部152との接続部にそれぞれ設けた例について説明したが、これに限らず、ダクト部120における蒸発側連結部151および凝縮側連結部152のうちいずれか一方との接続部にのみ設けてもよい。
【0062】
また、上記実施形態では、被加熱流体として冷却水を採用しているが、被加熱流体としては、エンジンオイル、車両オートマチックトランスミッション用のトルクコンバータ内のオイル等を採用してもよい。
【0063】
また、上記実施形態では、2つの連通部151、152間のピッチYを40mmとした例について説明したが、第1、第2ワッシャ18、19の寸法を小型化するために、ピッチYをさらに狭く設定してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の実施形態に係る排熱回収器100の車両への搭載状態を示す模式図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】図2のB部拡大図である。
【符号の説明】
【0065】
17…隙間、18…第1ワッシャ(第1プレート)、19…第2ワッシャ(第2プレート)、110…蒸発部、120…ダクト部(筐体)、121…カバー部、130…凝縮部、151…蒸発側連結部、152…凝縮側連結部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱流体が流通する筐体(120)内に配置され、前記加熱流体と内部に封入された蒸発および凝縮可能な作動流体との間で熱交換を行い、前記作動流体を蒸発させる蒸発部(110)と、
被加熱流体が流通する被加熱流体経路内に配置され、前記蒸発部(110)で蒸発した前記作動流体と前記被加熱流体との間で熱交換を行い、前記作動流体を凝縮させる凝縮部(130)と、
前記蒸発部(110)で蒸発した前記作動流体を前記凝縮部(130)に導く蒸発側連結部(151)と、
前記凝縮部(130)で凝縮した前記作動流体を前記蒸発部(110)に導く凝縮側連結部(152)とを備える排熱回収器であって、
前記筐体(120)における前記蒸発側連結部(151)および前記凝縮側連結部(152)のうち少なくとも一方との接続部には、当該少なくとも一方の連結部(151、152)の外周面を覆うカバー部(121)が、前記筐体(120)と一体に形成されており、
前記少なくとも一方の連結部(151、152)と前記カバー部(122)との間に設定された隙間には、前記少なくとも一方の連結部(151、152)が挿入される貫通穴を有する第1、第2プレート(18、19)が設けられており、
前記第1プレート(18)は前記少なくとも一方の連結部(151、152)に対して摺動可能になっているとともに、前記第2プレート(19)は前記カバー部(121)に対して摺動可能になっており、
前記第1プレート(18)の外径は、前記第2プレート(19)の外径より小さくなっているとともに、前記第2プレート(19)の前記貫通穴の内径は、前記第1プレート(18)の前記貫通穴の内径以上、前記第1プレート(18)の外径未満の範囲内になっており、
前記カバー部(121)と前記第1プレート(18)との間には、前記蒸発側連結部(151)および前記凝縮側連結部(152)間において発生する前記蒸発部(110)と前記筐体(120)との熱膨張差を吸収するための隙間(17)が設定されており、
前記第1、第2プレート(18、19)により迷路構造が構成されていることを特徴とする排熱回収器。
【請求項2】
前記蒸発側連結部(151)および前記凝縮側連結部(152)の配置方向を連結部配置方向としたとき、
前記カバー部(121)と前記第1プレート(18)との間の前記連結部配置方向における距離のうち、他方の前記連結部から遠い側の距離が、前記蒸発側連結部(151)および前記凝縮側連結部(152)間において発生する前記蒸発部(110)および前記筐体(120)の前記連結部配置方向の熱膨張に起因する前記カバー部(121)と前記少なくとも一方の連結部(151、152)との隙間の変化量より大きく設定されていることを特徴とする請求項1に記載の排熱回収器。
【請求項3】
前記第2プレート(19)と前記少なくとも一方の連結部(151、152)との間には、前記蒸発側連結部(151)および前記凝縮側連結部(152)間において発生する前記蒸発部(110)と前記筐体(120)との熱膨張差を吸収するための隙間(170)が設定されていることを特徴とする請求項1または2に記載の排熱回収器
【請求項4】
前記第2プレート(19)と前記少なくとも一方の連結部(151、152)との間の前記連結部配置方向における距離のうち、他方の前記連結部から遠い側の距離(Z)が、前記蒸発側連結部(151)および前記凝縮側連結部(152)間において、前記蒸発部(110)と前記筐体(120)との間で前記連結部配置方向に発生する熱膨張に起因する前記カバー部(121)と前記少なくとも一方の連結部(151、152)との隙間の変化量より大きく設定されていることを特徴とする請求項3に記載の排熱回収器。
【請求項5】
前記カバー部(121)には、前記第1、第2プレート(18、19)が前記カバー部(121)より前記凝縮部(130)側に移動することを規制する蓋部(122)が設けられていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1つに記載の排熱回収器。
【請求項6】
前記少なくとも一方の連結部(151、152)と前記カバー部(122)との間に設定された隙間には、2つの前記第1プレート(18)および1つの前記第2プレート(19)が設けられており、
前記1つの第2プレート(19)が、前記2つの第1プレート(18)間に配置されていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1つに記載の排熱回収器。
【請求項7】
前記少なくとも一方の連結部(151、152)と前記蒸発部(110)とを接続するジョイント(16)を備え、
前記ジョイント(16)は、前記蒸発部(110)側に大径部(161)、前記少なくとも一方の連結部(151、152)側に小径部(162)を有しており、
前記第1、第2プレート(18、19)は、前記小径部(162)と前記カバー部(122)との間の隙間に設けられており、
前記第1、第2プレート(18、19)の前記貫通穴の内径は、前記大径部(161)の外径より小さく形成されていることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1つに記載の排熱回収器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−62915(P2009−62915A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−232525(P2007−232525)
【出願日】平成19年9月7日(2007.9.7)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】