説明

掘削ヘッド

【課題】 掘削屑による影響を受けず、また油圧機構等の複雑な機構を要することなく、確実に拡径ビットを所定の径に拡・縮径せしめ、しかも掘削時の拡径ビットや回転軸、回転体の損傷を防ぐことが可能な掘削ヘッドを提供する。
【解決手段】 掘削時に軸線O回りに回転させられる回転体1の先端部に設けられる掘削ヘッドであって、回転体1の先端部外周側に配設される掘削ビット4と、この掘削ビット4に対して軸線O方向においては略等しい位置で、かつ軸線O回りの周方向においてはこの周方向に隣接する掘削ビット4の間の位置に配設され、軸線Oから外周側に離れた回転軸C回りに回転自在とされて軸線Oからの外径が拡・縮径可能とされた拡径ビット6とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転力と推力を主な掘削力とする掘削方法において、軸線回りに回転させられる回転体の先端部に設けられて地盤を掘削する掘削ヘッドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
このような掘削方法においては、外周にスパイラルスクリューが設けられたオーガーシャフト(スパイラルロッド)を上記回転体として、その先端部に配設された掘削ヘッド、すなわちアースオーガーヘッドにより地盤を掘削する、アースオーガーによる掘削方法が知られている。ここで、この種のアースオーガーによる掘削では、オーガーシャフトの外周にケーシングパイプ(鋼管)を配設してアースオーガーとともに前進させながら地盤に打設し、掘削終了後はケーシングパイプを残してアースオーガーだけを引き抜く工法が採られることがある(例えば、特許文献1参照。)。このような工法に用いられるアースオーガーヘッドにおいては、掘削時はケーシングパイプの外径よりも大きな掘削径が要求される一方で、掘削終了後にはその外径をケーシングパイプ内径よりも小さくしなければならないので、例えば特許文献2〜4に記載されているように回転軸回りに回転可能とされた拡径ビットを備えて、その外径が拡・縮径可能とされたアースオーガーヘッドが提案されている。
【特許文献1】特開2004−11102号公報
【特許文献2】実開昭63−71285号公報
【特許文献3】実開平1−75194号公報
【特許文献4】実開昭62−94187号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、このうちまず特許文献2に記載のアースオーガーヘッドにおいては、上記拡径ビットがアースオーガーのスパイラルスクリュー上に軸支されて回転自在に取り付けられている。しかるに、このようなアースオーガーによる掘削において掘削中に発生する掘削屑はこのスパイラルスクリュー上を通って排出されるため、この特許文献2に記載のアースオーガーヘッドでは、かかる掘削屑により拡径ビットの拡径動作が邪魔されてその外径をケーシングパイプ外径よりも大きくすることができなくなってしまったり、逆に拡径ビットとスパイラルスクリューとの間に掘削屑が噛み込まれて、掘削終了後に拡径ビットをケーシングパイプ内径よりも小さな径に縮径することができなくなってしまったりするおそれがある。
【0004】
また、このように拡径ビットが回転軸回りに回転可能に支持されたアースオーガーヘッドでは、該拡径ビットを強制的に拡・縮径する機構が備えられていなければ、何らかの反力を拡径ビットに与えなければその外径を確実かつ円滑に拡縮させることができない。しかしながら、上記特許文献3に記載のアースオーガーヘッドでは、上記拡径ビットが、スパイラルスクリューの先端に設けられた掘削ビットよりも後端側に設けられていて、この掘削ビットにより掘削される孔の孔底に接することがないため、上述のような反力を得ようとすると、掘削孔の内壁面との接触かアースオーガーの回転に伴う慣性に頼らざるを得ない。このため、特に拡径ビットを縮径させる際に、その外径を、掘削孔の内径よりも小さくなるケーシングパイプ内径より確実にさらに小さくすることは困難となる。また、例えば油圧等の機構によって拡径ビットを上述のように強制的に拡・縮径させることも考えられるが、この場合にはかかる油圧機構等をアースオーガーに備えなければならず、経済的ではない。
【0005】
一方、特許文献4に記載のアースオーガーヘッドでは、上記回転軸がオーガーシャフトの軸線に直交するように該オーガーシャフトの外周に近接して配設されていて、この回転軸回りに掘削孔の半径と略等しい長さの拡径ビットが回転して拡径し、掘削が行われるようにされている。ところが、このような場合には、オーガーシャフトに軸支された拡径ビットによる掘削範囲が大きくなりすぎるおそれがあり、特に掘削孔の内径が大きいと拡径ビット自体やこれを支持する上記回転軸、あるいはオーガーシャフトへの負荷が大きくなって破損を招くおそれがある。
【0006】
本発明は、このような背景の下になされたもので、上述のように回転力と推力を主な掘削力とする掘削方法、すなわち打撃力は与えられない掘削方法に用いられる掘削ヘッドにおいて、掘削中に発生する掘削屑による影響を受けたりすることなく、また油圧機構等の複雑な機構を要したりすることもなく、確実に拡径ビットを所定の径に拡・縮径せしめることが可能で、しかも掘削時の拡径ビットや回転軸、あるいはオーガーシャフトのような回転体への負荷を軽減してその損傷を防ぐことが可能な掘削ヘッドを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決して、このような目的を達成するために、本発明は、掘削時に軸線回りに回転させられる回転体の先端部に設けられる掘削ヘッドであって、上記回転体の先端部外周側に配設される掘削ビットと、この掘削ビットに対して上記軸線方向においては略等しい位置で、かつ該軸線回りの周方向においてはこの周方向に隣接する上記掘削ビットの間の位置に配設され、上記軸線から外周側に離れた回転軸回りに回転自在とされて該軸線からの外径が拡・縮径可能とされた拡径ビットとを備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
このような構成の掘削ヘッドにおいては、まず回転体の先端部外周側に掘削ビットが設けられるとともに、この掘削ビットに対して回転体の軸線方向に略等しい位置に拡径ビットが配設されているので、該拡径ビットが回転軸回りに外周側に回転して拡径した状態では、掘削孔の内周側は上記掘削ビットにより、また外周側は拡径ビットにより、負荷を分散させて掘削を行うことが可能となり、拡径ビットや回転軸、あるいはオーガーシャフトのような回転体の損傷等を防止することができる。特に、この拡径ビットは回転体の軸線から外周側に離れた回転軸回りに回転させられて拡・縮径させられるので、掘削時にこの回転軸に作用するモーメントを軽減してその破損を確実に防止することができる。また、こうして拡径ビットが掘削ビットと上記軸線方向において略等しい位置に配設されることにより、該拡径ビットを掘削孔の孔底に接しさせてこの孔底から反力を与えることができ、油圧機構等を要さずとも拡径ビットを回転軸回りに回転させて確実に拡・縮径させることが可能となる。
【0009】
そして、さらにこの拡径ビットは、回転体の上記軸線回りの周方向においては、この周方向に隣接する掘削ビットの間に位置するように、すなわち上記回転体の先端部外周側に設けられた掘削ビットに対して周方向に位相をずらすようにして配設されており、従って掘削時にこの掘削ビットによって生成されて排出される掘削屑により拡径ビットの拡・縮径動作が阻害されたりすることがない。このため、上記構成の掘削ヘッドによれば、上述のように孔底からの反力によって拡径ビットを確実に拡・縮径させ得ることとも相俟って、ケーシングパイプを掘削孔に打設する場合でも、掘削時にはケーシングパイプ外径よりも大きな内径の掘削孔を削孔して円滑にケーシングパイプを挿入することができる一方、掘削終了後には拡径ビットの上記軸線からの内径を確実にケーシングパイプ内径よりも小さな径となるように縮径させて引き抜くことが可能となる。
【0010】
ここで、上記回転体としては、その外周にスパイラルスクリューが設けられた、アースオーガーのオーガーシャフトを適用することができ、このスパイラルスクリューの先端に上記掘削ビットが設けられていて、該掘削ビットによる掘削屑がスパイラルスクリュー上を通って排出される場合でも、上述のように拡径ビットを確実に拡・縮径させることができる。なお、上述のように掘削ビットと拡径ビットとを回転体の軸線方向において略等しい位置に配設するにしても、外径が拡径させられた状態での拡径ビットの刃先は、掘削ビットの刃先よりもこの軸線方向後端側に位置させられるのが望ましい。このような構成を採ることより、先に掘削ビットによって掘削孔の内周側が掘削されて崩れやすくなったところを、拡径した拡径ビットが後続してその外周側を掘削することにより掘削孔が削孔されることになるので、拡径ビットへの負荷を一層軽減してその損傷を防ぐとともに、より効率的な掘削を図ることが可能となる。
【0011】
また、上記構成の掘削ヘッドでは、上述のように孔底からの反力によって拡径ビットを拡・縮径させることが可能であるので、この拡径ビットの回転軸は上記軸線と平行とされていてもよく、すなわち拡径ビットが上記軸線に直交する平面上で回転して拡・縮径するようにされていてもよいが、この回転軸を、上記軸線を含む平面に対して該軸線方向後端側に向かうに従い上記回転体の掘削時の回転方向側に向かうように傾斜させることにより、地盤等に下向きに掘削孔を削孔する場合には、掘削終了後に回転体を掘削時とは逆方向に回転させたりせずとも、当該掘削ヘッドを上記軸線方向後端側に後退させて引き上げると、拡径ビットはその自重によって回転軸回りに内周側に回転させられるので、一層確実な拡径ビットの縮径およびケーシングパイプからの引抜を図ることが可能となる。
【0012】
ただし、このように回転軸を傾斜させた場合には、上記軸線を含む平面に対するこの回転軸の傾斜角は15°〜60°の範囲とされるのが望ましく、これよりも傾斜角が小さいと、やはり掘削終了後に回転体を逆回転させて孔底からの反力を与えなければ拡径ビットを縮径させることが困難となるおそれがある。その一方で、これよりも傾斜角が大きいと拡径ビットが縮径した状態を採りやすくなり、上述のように下向きに掘削孔を削孔するときに掘削ヘッドを下向きにしだけでは拡径ビットが垂直下向きに吊り下げられた状態に近くなって、掘削開始時にその外径を拡径させるにはさらに孔底に拡径ビットを押し付けるようにして反力を与えなければならず、掘削時の負荷のほかにこの押付力による負荷も拡径ビットや回転軸に作用することとなって損傷を生じ易くなるおそれがある。
【0013】
なお、特にこうして回転軸を上記軸線を含む平面に対して該軸線方向後端側に向かうに従い上記回転体の掘削時の回転方向側に向かうように傾斜させた場合には、上述のように外径が拡径させられた状態での拡径ビットの刃先が掘削ビットの刃先より軸線方向後端側に位置させられていても、外径が縮径させられた状態では該拡径ビットの刃先を掘削ビットの刃先よりも上記軸線方向先端側に位置させることができる。そして、これにより、掘削開始時にはこの拡径ビットの刃先を掘削ビットよりも先に地盤等に接触させて、掘削ヘッドの回転に伴う反力によって該拡径ビットをさらに一層確実に拡径させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1ないし図5は、本発明の一実施形態を示すものである。これらの図において符号1で示すのは、軸線Oを中心とした長尺の外形円柱軸状をなす、本実施形態における回転体としてのオーガーシャフト1であり、その先端部(図1、図3、図4において下側部分、図2においては図面の手前側部分)を鉛直下向きにして後端部(図1、図3、図4において上側部分、図2においては図面の奥側部分)が図示されない掘削装置に支持され、掘削時には上記軸線O回りに各図に符号Tで示す回転方向に回転させられつつ該軸線O方向先端側に送り出されてゆく。そして、本実施形態の掘削ヘッドはこのオーガーシャフト1の先端部に配設されて、該オーガーシャフト1に与えられる回転力と推力を主な掘削力として地盤を掘削する。また、このオーガーシャフト1の外周には、その先端から後端側に向けて軸線O回りに回転方向Tの後方側に捩れる螺旋板状のスパイラルスクリュー2がオーガーシャフト1と一体に設けられるとともに、このスパイラルスクリュー2のさらに外周には、図1および図2に示すように円筒状のケーシングパイプ3がスパイラルスクリュー2との間に僅かな間隔をあけて軸線Oと同軸に配設されている。
【0015】
ここで、本実施形態では、図2に示すように一対のスパイラルスクリュー2が軸線Oに対して互いに対称に備えられており、その先端縁はそれぞれ軸線Oに対する略径方向に延びるようにされていて、互いの周方向の位相差は180°とされている。さらに、これらのスパイラルスクリュー2の先端部には、超硬合金等の硬質材料よりなるチップが先端に取り付けられた掘削ビット4が、各スパイラルスクリュー2の上記先端縁にそれぞれ複数ずつ上記径方向に間隔をあけ、上記チップを先端側かつ回転方向T側に向けて突出させるように取り付けられている。また、図1に示すようにオーガーシャフト1の先端部にも、同様に先端にチップを有するセンタービット5が一対、それぞれのチップを先端側かつ回転方向T側に向けて突出させるように取り付けられており、これらのセンタービット5のチップ先端は掘削ビット4のチップ先端よりも僅かに軸線O方向先端側に位置させられている。
【0016】
そして、さらにオーガーシャフト1の先端部には、上記掘削ビット4に対して軸線O方向には略等しい位置で、かつ該軸線O回りの周方向においてはこの周方向に隣接する掘削ビット4の間の位置に、軸線Oから外周側に離れた回転軸C回りに回転自在とされて軸線Oからの外径が拡・縮径可能とされた拡径ビット6が配設されている。すなわち、この拡径ビット6は、上記掘削ビット4に対して周方向に位相をずらすようにして配設されており、本実施形態では一対の拡径ビット6が軸線Oに対して互いに対称に備えられていて、掘削ビット4との周方向の位相差は略90°とされ、つまり掘削ビット4と拡径ビット6とが周方向に略等間隔にオーガーシャフト1の先端部に配設されている。
【0017】
より詳しくは、オーガーシャフト1の先端部外周には、スパイラルスクリュー2の先端縁との周方向の位相差が略90°となるように軸線Oに関して互いに対称に、それぞれ一対の厚肉板状のシャンク7が軸線Oに対する略径方向に延びるように溶接されるとともに、これらのシャンク7の先端(外周端)にはホルダー8がやはり溶接によって取り付けられており、拡径ビット6は、このホルダー8に形成された先端外周側および回転方向T側に開口する凹部9に収容されて取り付けられ、軸線Oから外周側に離れた位置において、該軸線O方向に向けて延びる上記回転軸C回りに回転自在に支持されている。なお、軸線Oからホルダー8の外周面までの距離は、上記スパイラルスクリュー2の外径(半径)と略等しくされ、ケーシングパイプ3の内径よりは小さくされている。また、図中においてハッチングされているのは、オーガーシャフト1とシャンク7、およびシャンク7とホルダー8との溶接部分である。
【0018】
ここで、上記凹部9の先端側を向く底面9Aは回転軸Cに垂直とされるとともに、該底面9Aにおいて凹部9の回転方向T側を向く壁面9Bと外周側を向く壁面9Cとが交差するコーナ部には、上記回転軸Cを中心とする円形止まり孔状の取付孔10が後端側に延びるように形成されており、さらにホルダー8の外周面からはこの取付孔10の断面がなす円の接線に沿って該取付孔10に断面略半円状に開口するように、小径のピン孔10Aが穿設されている。なお、この凹部9の上記壁面9B,9Cは、いずれも底面9Aに垂直とされるとともに、外周側に向かうに従い回転方向T側に向かうように、かつ互いには鋭角に交差する方向に延びていて、その交差稜線部すなわち底面9Aの上記コーナ部から延びる部分は、両壁面9B,9Cに滑らかに接する回転軸Cを中心とした凹円筒面状とされている。
【0019】
一方、図5に示すように拡径ビット6には、平面状とされたその上面6Aの一端側(図5(a)、(b)において左側)に、上記取付孔10に嵌挿可能な外径を有する外形円柱状の取付軸11が該上面6Aに垂直に形成されるとともに、この一端側の側面6Bは、上記壁面9B,9Cの交差稜線部がなす凹円筒面に摺接可能な半径を有して取付軸11と同軸とされた凸半円筒面とされ、さらにこの側面6Bに連なる一対の側面6C,6Dは互いに平行とされて上記凸半円筒面に滑らかに連なる平面状とされている。そして、取付軸11の外周には上記ピン孔10Aと略同径の断面概略半円状をなす凹溝11Aが図5(b)に示すように周方向に概ねL字状に形成されており、この取付軸11を取付孔10に嵌挿した上で上記ピン孔10Aにピン12を挿入・固定して上記凹溝11Aに係止させることにより、拡径ビット6は、図5に示すように取付孔10の上記回転軸Cに取付軸11の中心線が同軸とされて、上面6Aが凹部9の底面9Aに当接した状態で取付軸11が抜け止めされ、側面6Bが上記交差稜線部に摺接しつつ側面6C,6Dがそれぞれ壁面9B,9Cに当接する範囲で、上記回転軸C回りに回転自在にホルダー8に支持されて取り付けられる。
【0020】
さらに、拡径ビット6の他端側(図5(a)、(b)において右側)の側面6Eは、上述した取付状態において回転方向Tの後方側に位置する側面6Cから回転方向T側に位置する側面6D側に向けて多段状に凸曲するように、また上面6Aから下面6F側に向けても突出するように傾斜して形成されるとともに、この下面6Fは他端側で下方に一段突出するように形成され、これら側面6Eと側面6F、および上記側面6Dとが交差する角部に、該拡径ビット6のチップ13が植設されている。このチップ13は、掘削ビット4やセンタービット5のチップと同様に超硬合金等の硬質材料により形成されて、上記角部に形成された断面凹V字の凹所にろう付け等により接合されて固定されており、上記他端側から見たときには図5(c)に示すように1段の凸V字状をなして側面6Dから突出し、またこの側面6D側と下面6F側から見たときには図5(a)、(b)に示すように上記他端側に向けて2段の凸V字状をなしてそれぞれ下面6Fと側面6Dとから突出するようにされ、さらにその上記他端側部分は側面6Eの凸曲と傾斜に合わせて該他端側に凸となるようにされている。
【0021】
さらにまた、上記回転軸Cは、上記軸線Oを含む平面に対して図3および図4に示すように該軸線O方向後端側に向かうに従い上記回転方向T側に向かうように傾斜させられており、その軸線O方向に対する傾斜角θは15°〜60°の範囲とされている。なお、本実施形態では、この回転軸Cは軸線Oを中心とした円筒面への接平面上に位置して傾斜させられており、従って上記傾斜角θは、この接平面と該接平面に直交する軸線Oを含む上記平面との交線と、上記回転軸Cとがなす交差角となる。また、厚肉板状とされた上記シャンク7は、その板厚方向を軸線Oを含む上記平面に対して傾斜角θよりも大きな角度で傾斜させるようにしてオーガーシャフト1外周に取り付けられている。
【0022】
このようにシャンク7およびホルダー8を介してオーガーシャフト1の先端部外周に取り付けられた拡径ビット6は、凹部9において上記側面6Dが壁面9Cに当接させられた状態で、図1および図2の左側に示した拡径ビット6のように軸線Oからの外径(半径)が縮径させられて、この外径がケーシングパイプ3の内径(半径)よりも小さく、スパイラルスクリュー2の外径(半径)と略等しくされる。その一方で、この拡径ビット6は、回転軸C回りに回転させられて、側面6Cが壁面9Bに当接させられた状態では、図1および図2の右側に示した拡径ビット6のようにそのチップ13の外周端の軸線Oからの外径(半径)が拡径させられて、この外径がスパイラルスクリュー2の外径(半径)やケーシングパイプ3の内径(半径)よりも大きく、さらにはケーシングパイプの外径(半径)よりも僅かに大きくさせられて位置決めさせられる。
【0023】
さらに本実施形態では、上述のように回転軸Cが軸線Oを含む平面に対して傾斜させられていることにより、図1右側および図4に示したように拡径ビット6が拡径した状態での該拡径ビット6のチップ13の刃先の位置は、図1左側および図3に示したような拡径ビット6が縮径した状態でのチップ13の刃先位置よりも軸線O方向において後端側に位置させられることになる。そして、図1に示すように、この拡径状態における拡径ビット6の刃先位置は、スパイラルスクリュー2先端の上記掘削ビット4の刃先位置よりも僅かに軸線O方向後端側に位置させられる一方、縮径状態における拡径ビット6の刃先の位置は、この掘削ビット4の刃先位置よりも僅かに軸線O方向先端側に位置するようにされ、特に本実施形態では最も先端側に突出させられた上記センタービット5の刃先位置と略等しくなるようにされている。
【0024】
このようなアースオーガーヘッドが先端部に備えられたオーガーシャフト1を、上述のようにこの先端部が下向きとなるようにして支持すると、拡径ビット6はその自重により上記回転軸C回りにチップ13が設けられた他端側が下向きとなるように回転し、図1、図2の左側および図3に示すように側面6Dが凹部9の壁面9Cに当接させられて軸線Oからの上記外径が縮径させられるとともに、そのチップ13の刃先位置が掘削ビット4の刃先位置よりも僅かに軸線O方向先端側に位置させられた状態とされる。従って、この状態でアースオーガーヘッドを地盤等に接地させると、この拡径ビット6のチップ13の刃先と、本実施形態ではオーガーシャフト1先端に備えられたセンタービット5の刃先とが初めに地盤に食い付くことになる。
【0025】
さらに、この状態からオーガーシャフト1を軸線O回りに上記回転方向Tに回転させつつ軸線O方向先端側に前進させると、チップ13の刃先が地盤に食い付いた拡径ビット6は反力を受け、上記側面6Dが壁面9Cから離間するように回転軸C回りに回転させられて軸線Oからの上記外径が拡径させられるとともに、チップ13の刃先位置が軸線O方向後端側に後退させられる。そして、このままさらにオーガーシャフト1を回転、前進させることにより、掘削ビット4の刃先が地盤に食い付くとともに、図1、図2の右側および図4に示すように拡径ビット6の側面6Cが凹部9の壁面9Bに当接させられて、その上記外径がケーシングパイプ3の上記外径よりも僅かに大きくさせられたところで位置決めされるので、この拡径ビット6と上記掘削ビット4、および本実施形態ではセンタービット5とによってケーシングパイプ3よりも僅かに大径の掘削孔を形成することができ、当該アースオーガーヘッドに後続させてケーシングパイプ3を掘削孔内に挿入して地盤に打設することができる。なお、これら掘削ビット4、センタービット5、および拡径ビット6によって生成された掘削屑は、オーガーシャフト1と一体に回転する螺旋状のスパイラルスクリュー2上をその捩れに沿って軸線O方向後端側、すなわち上方に押し出され、排出される。
【0026】
また、所定の深さまで掘削孔が形成されてケーシングパイプ3が挿入された後は、本実施形態ではオーガーシャフト1を軸線O方向後端側に引き上げると、拡径ビット6はチップ13の刃先が掘削孔の孔底から離れて上記と同様にその自重により他端側が下向きとなるように回転し、その上記外径がケーシングパイプ3の上記内径よりも小さく縮径させられる。従って、そのままオーガーシャフト1を後退させることにより、このケーシングパイプ3を掘削孔内に残し、当該アースオーガーヘッドごとオーガーシャフト1をケーシングパイプ3内を通して引き抜くことができる。
【0027】
このように構成された掘削ヘッド(アースオーガーヘッド)においては、まず掘削時には、スパイラルスクリュー2先端部に配設されて回転体としてのオーガーシャフト1の先端部外周側に位置する掘削ビット4の刃先に対して、本実施形態では僅かに後端側ではあるものの、軸線O方向において略等しい位置に、拡径させられた拡径ビット6のチップ13の刃先が配設されるので、掘削孔の内周側は上記掘削ビット4により、また外周側は拡径ビット6により、さらには中心部は上記センタービット5により、それぞれ負荷を分散させて掘削を行うことができる。このため、拡径ビット6やその回転軸(取付軸11)、あるいはオーガーシャフト1自体に過大な負荷が作用することがなく、その損傷等を防止することが可能となる。
【0028】
また、特に本実施形態における拡径ビット6の回転軸Cは、オーガーシャフト1の軸線Oからシャンク7を介して外周側に離れたホルダー8の上記取付孔10と、この取付孔10に嵌挿される拡径ビット6の取付軸11との中心線とされており、同じ内径の掘削孔を形成する場合でも、例えばこの回転軸がオーガーシャフトの軸線に直交するようにこのオーガーシャフト外周に直接設けられた特許文献4に記載のアースオーガーヘッドなどに比べ、拡径ビット6の回転径を小さくすることができるために回転軸C回りのモーメントを低減して取付軸11やホルダー8の破損等を確実に防止することができる。しかも、本実施形態ではこの回転軸Cが、軸線Oを含む平面に対して傾斜角θで傾斜してはいるものの、軸線O方向に向けて延びるように配設されており、上述のように回転軸が軸線に直交するように設けられているのに比べて該回転軸C自体を曲げる方向に作用するモーメントも軽減することができる。
【0029】
さらに、この拡径ビット6は上記回転軸C回りに回転自在に支持されていて、かかる拡径ビット6がその刃先を軸線O方向において掘削ビット4の刃先と略等しい位置に配設させていることにより、この拡径ビット6の刃先を掘削孔の孔底に接しさせて、その反力により確実に該拡径ビット6を拡径させることができる。このため、油圧機構等を必要とする高コストで複雑な構成を採らずとも、掘削時には所定の内径の掘削孔を形成することが可能となり、また掘削終了後にも例えばオーガーシャフト1を掘削時の回転方向Tと逆方向に回転させれば、ケーシングパイプ3内径よりも小さな径に拡径ビット6を縮径させてケーシングパイプ2内を通しアースオーガーヘッドごとオーガーシャフト1を引き抜くことが可能となる。
【0030】
そして、このように回転自在とされた拡径ビット6を拡・縮径させるに際して、上記構成のアースオーガーヘッドではさらにこの拡径ビット6が、軸線O回りの周方向においては隣接するスパイラルスクリュー2先端部の上記掘削ビット4の間に位置するように位相をずらして配設されており、従って上述のようにスパイラルスクリュー2上を排出されてゆく掘削屑によって拡径ビット6の拡・縮径動作が阻害されたりするのを防ぐことができる。すなわち、こうして拡径ビット6が周方向に掘削ビット4との間に間隔をあけていることにより、スパイラルスクリュー2上を排出される掘削屑と拡径ビット6との間に十分なスペースを確保することができるので、例えばかかる掘削屑が拡径した拡径ビット6の上記側面6Dや側面6Bと凹部9の壁面9Cとの間に噛み込まれて縮径動作を妨げたり、あるいは縮径した拡径ビット6の側面6Cと凹部9の壁面9Bとの間に入り込んで拡径動作を邪魔したりするのを防ぐことができるのである。
【0031】
従って、上記構成のアースオーガーヘッドによれば、上述のように油圧機構等を用いずに回転軸C回りに回転自在とされた拡径ビット6を拡・縮径させる場合でも、掘削時に生成される掘削屑は円滑にスパイラルスクリュー2に沿って排出しつつ、かかる掘削屑による拡径ビット6の拡・縮径動作への影響を防ぐことができる。そして、このような効果と、上述した拡径ビット6やその回転軸(取付軸11)、あるいはオーガーシャフト1の損傷防止効果とが相俟って、掘削時には確実に所定の径の掘削孔を形成してケーシングパイプ3の打設を可能とし、また掘削終了後はやはり確実にケーシングパイプ3だけを地盤等に残してアースオーガーヘッドごとオーガーシャフト1を引き抜ことが可能となり、効率的な掘削を図ることができる。
【0032】
また、本実施形態のアースオーガーヘッドでは、拡径ビット6が回転する中心となるその回転軸Cが、オーガーシャフト1の軸線Oを含む平面に対して後端側に向かうに従い掘削時の回転方向T側に向かうように傾斜させられており、これにより、拡径ビット6の刃先の位置が軸線O方向において掘削ビット4の刃先位置と略等しい位置といっても、拡・縮径状態ではそれぞれ軸線O方向の後端側と先端側とに僅かに後退・前進した位置に配置されるようになされている。従って、まず掘削時に拡径ビット6が拡径した状態では、掘削孔の内周側が掘削ビット4や上記センタービット5によって掘削された後に続いて、崩れ易くなった外周側を拡径ビット6が掘削することとなり、この拡径ビット6や回転軸(取付軸11)、オーガーシャフト1への負荷を一層軽減してその損傷をさらに確実に防ぐとともに、より効率的な掘削を促すことが可能となる。
【0033】
その一方で、掘削終了後にアースオーガーヘッドごとオーガーシャフト1を後退させてケーシングパイプ3から引き抜く際には、上述のように回転軸Cが傾斜していることにより拡径ビット6はその自重によって刃先が内周側に向かうように回転して軸線Oからの外径が縮径させられることになる。このため、本実施形態によれば、掘削終了後にはオーガーシャフト1を掘削時とは逆方向に回転させて掘削孔底から反力を与えたりしなくても、拡径ビット6を確実に縮径させてアースオーガーヘッドをケーシングパイプ3から引き抜くことが可能となり、一層の掘削作業の効率化を図ることができる。
【0034】
また、こうして縮径した状態で、拡径ビット6の刃先の位置は、本実施形態では上記掘削ビット4の刃先位置よりも軸線O方向に僅かに先端側に位置させられており、掘削の開始当初にアースオーガーヘッドを地盤等に下向きに接地させた際には、この拡径ビット6の刃先と、本実施形態ではセンタービット5の刃先とが最初に地盤等に食い付くこととなる。従って、この状態からオーガーシャフト1を回転方向Tに回転させることにより、縮径状態では図2左側に示されるように掘削ビット4の掘削半径内に拡径ビット6が位置していても、該拡径ビット6に確実に地盤等から反力を与えてその軸線Oからの外径を拡径させ、所定の内径の掘削孔を形成することが可能となる。
【0035】
なお、本実施形態ではこのように拡径ビット6の回転軸Cがオーガーシャフト1の軸線Oを含む平面に対して傾斜させられているが、この拡径ビット6の刃先位置が上述のように軸線O方向においてスパイラルスクリュー2先端部の掘削ビット4と略等しい位置で、かつ周方向には隣接する掘削ビット4の間に位置していれば、例えば回転軸Cが軸線Oと平行に延びていて拡径ビット6が掘削孔からの反力によって水平面内で回転することにより拡・縮径と可能とされていてもよい。ただし、この場合には、特に掘削終了後に拡径ビット6を縮径させる際に上述したようにオーガーシャフト1を掘削時の回転方向Tとは逆方向に回転させて反力を与えなければならないので、本実施形態のように上記回転軸Cは軸線Oに対して傾斜して配設されて、拡径ビット6が自重により縮径する構成とされているのが望ましい。
【0036】
また、本実施形態ではこのように回転軸Cを軸線Oに対して傾斜させるにしても、軸線Oを含む平面に対して傾斜するようにされていて、特に軸線Oを中心とした円筒の接平面に沿うように回転軸Cが傾斜させられているが、例えば軸線Oを含む平面に沿うようにして回転軸Cが軸線O方向後端側側に向かうに従い内周側に向かうように傾斜させられていても、自重により拡径ビット6を縮径させることは可能である。ただし、この場合には、その傾斜角にもよるが掘削時に拡径した拡径ビット6が回転しながら前進させられる際に回転軸Cを湾曲させるように作用するモーメントが大きく作用するおそれがあるので、この回転軸Cはやはり本実施形態のようにオーガーシャフト1の軸線Oを含む平面に対して軸線O方向後端側に向かうに従い回転方向T側に向かうように傾斜させられるのが望ましい。
【0037】
なお、このように回転軸Cが軸線Oを含む平面に対して傾斜させられていても、その傾斜角θが小さすぎると回転軸Cが軸線Oと平行な状態に近くなり、特に掘削終了後に拡径ビット6をその自重により円滑に縮径させることが困難となって、オーガーシャフト1を上記回転方向Tとは反対向きに回転させなければならなくなるおそれがある。その一方で、反対にこの傾斜角θが大きすぎて、例えば回転軸Cが軸線Oを含む平面に対し直交した状態に近くなると、自重により拡径ビット6が縮径し易くなりすぎてしまい、掘削時の拡径ビット6の上記外径を所定の径に維持するのが困難となるおそれが生じるので、この傾斜角θは、特に本実施形態のように回転軸Cが上記接平面に沿って傾斜している場合などには、15°〜60°の範囲とされるのが望ましい。
【0038】
また、本実施形態では上述のように、外周にスパイラルスクリュー2が設けられたオーガーシャフト1を回転体とするアースオーガーの掘削ヘッド(アースオーガーヘッド)に本発明を適用した場合について説明したが、このようなスパイラルスクリューを備えることなく、掘削屑を例えばエアリフトにより排出するような掘削工具の掘削ヘッドに本発明を適用することも可能である。このような場合には、拡径ビット6が取り付けられるシャンク7とは別に回転体の先端部から外周側に延びるシャンクを設けて掘削ビット4を配設すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の一実施形態を示す側面図である。
【図2】図1に示す実施形態を軸線O方向先端側から見た底面図である(ただし、センタービット5は図示が略されている。)。
【図3】図1に示す実施形態において拡径ビット6が縮径した状態を示す、図1における矢線X方向視の側面図である(ただし、ケーシングパイプ3、掘削ビット4、およびセンタービット5は図示が略されている。)。
【図4】図1に示す実施形態において拡径ビット6が拡径した状態を示す、図1における矢線Y方向視の側面図である(ただし、スパイラルスクリュー2、ケーシングパイプ3、掘削ビット4、およびセンタービット5は図示が略されている。)。
【図5】図1に示す実施形態の拡径ビット6を示す(a)拡径時の回転方向T側から見た側面図、(b)底面図、および(c)拡径時の外周側からの側面図である。
【符号の説明】
【0040】
1 オーガーシャフト(回転体)
2 スパイラルスクリュー
3 ケーシングパイプ
4 掘削ビット4
6 拡径ビット
7 シャンク
8 ホルダー
9 凹部
10 取付孔
11 取付軸
13 拡径ビット6のチップ
O オーガーシャフトの軸線
C 拡径ビット6の回転軸
T 掘削時のオーガーシャフト1の回転方向
θ 回転軸Cが軸線Oを含む平面に対してなす傾斜角


【特許請求の範囲】
【請求項1】
掘削時に軸線回りに回転させられる回転体の先端部に設けられる掘削ヘッドであって、上記回転体の先端部外周側に配設される掘削ビットと、この掘削ビットに対して上記軸線方向においては略等しい位置で、かつ該軸線回りの周方向においてはこの周方向に隣接する上記掘削ビットの間の位置に配設され、上記軸線から外周側に離れた回転軸回りに回転自在とされて該軸線からの外径が拡・縮径可能とされた拡径ビットとを備えていることを特徴とする掘削ヘッド。
【請求項2】
上記回転体の外周にはスパイラルスクリューが設けられていることを特徴とする請求項1に記載の掘削ヘッド。
【請求項3】
上記外径が拡径させられた状態での上記拡径ビットの刃先は、上記掘削ビットの刃先よりも上記軸線方向後端側に位置させられていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の掘削ヘッド。
【請求項4】
上記回転軸が、上記軸線を含む平面に対して該軸線方向後端側に向かうに従い上記回転体の掘削時の回転方向側に向かうように傾斜させられていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の掘削ヘッド。
【請求項5】
上記軸線を含む平面に対する上記回転軸の傾斜角が15°〜60°の範囲とされていることを特徴とする請求項4に記載の掘削ヘッド。
【請求項6】
上記外径が縮径させられた状態での上記拡径ビットの刃先は、上記掘削ビットの刃先よりも上記軸線方向先端側に位置させられていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の掘削ヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−70918(P2007−70918A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−260243(P2005−260243)
【出願日】平成17年9月8日(2005.9.8)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【出願人】(593187397)株式会社横山基礎工事 (9)
【Fターム(参考)】