説明

掘進機

【課題】 外殻の隔壁の前方に複数のビットを回転盤に備えた排土口付きのカッターを回転自在に設け、そのカッターを駆動する駆動装置を設け、排土口及び隔壁の開口部を通じて機内に取り込まれた土砂を後方へ搬送する排土装置を設けた掘進機において、排土装置内に人が入れない比較的小型の掘進機でも、摩耗したビットを機内側から交換できるようにする。
【解決手段】 カッター4は、排土口4bを中心に放射方向へスライド可能且つ定位置で回転盤に脱着可能に取り付けたスライドビット4dと、排土口4bを跨ぐように回転盤に脱着可能に取り付けたセンタービット4iとで構成する。外殻1の天井にはレール6bを前後方向に設け、チェーン6aを備えた走行体6をレール6bに沿って移動自在に配置する。排土装置5は隔壁1aに対して脱着可能に取り付け、その排土装置5を走行体6のチェーン6aで吊り下げる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩耗したビットを機内側から交換できる掘進機に関する。
【背景技術】
【0002】
都市トンネルに活用にされている推進工法やシールド工法では、掘進機の掘削に伴うカッタービットの摩耗による推進不能のリスクは常に付きまとう。その場合の対策としては、以下の通りである。
a)ビットに装備されるチップ硬度を上げる(E5→E3程度)。
b)保護ビット(補助ビット)を主ビットの側方に追加して装備し、主ビットが摩耗して効果が低減した場合に補助的に効果を発揮させる。
c)最初に効果を発揮するビットと、そのビットより10〜20mm程度低い高さのビットを2種類製作し、カッター面に適切に分散させて配置する。
d)各ビットが作業を行う絶対仕事量を低減させるため、単純にビット数を増加させてビットの延命を図る(チップの通過箇所を複数ビットで対応する事としてビット1個当りの仕事量を低減させる)。
e)摩耗したビットを機内で交換可能としたカッターフェイスの形状と配置・取付方法を検討する。
以上のような対策が考えられるが、推進不能のリスク回避には、基本的には上記e)が理想と考えられる。
【0003】
上記に沿って、その課題や問題点を挙げる。
A)チップ硬度の向上
一般的には、硬度E5が標準とされる。掘進を行う岩盤の一軸圧縮強度が50MPa以上(旧単位:500kg/cm)になった場合はE4を使用する場合も多い。掘削途中で前方と後方の直線的な軸力(押付力)がチップに作用している場合は問題は少ないが、チップに側方向から力が作用した場合は欠損が発生しやすい。
B)保護ビット(補助ビット)
主ビットの摩耗速度を遅らせるために主ビットを保護する意味と、主ビットの摩耗が進行した場合に側方に同列で配置したビットに負荷が掛かるように設置して主ビットの掘削効果を助ける対策の2種類の考え方がある。この対策は、基本的には主ビットに効果を期待しているために補助的な効果のみに終始し、保護ビットを主として掘進を行うことは通常の掘進効果が図りにくい。
C)高さが異なる2種類のビットの配置
掘進機のカッターフェイスに装備されたビットは、掘削地山面を均等に切削が行われるように配置する。よって、チップが通過する同心円は各ビットの回転半径が少しずつ変化させて設置することが一般的である。そのことから、高さが違う2種類のビットを面的に均等に配置した場合、先行掘削を行うビットの負担は大きくなり、結局、ビット摩耗延長は増加しない場合も想定される。
D)ビット数の増加での対応
ビット数を単純に増加させて各ビット単体の仕事量を削減し、ビットの延命を図る対策は、机上では理解が可能な対策である。しかし、掘進機の掘削断面から配置数は制限を受け、特に、中口径以下の断面でのカッターフェイスはビットの配置スペースが少なく、機械的に増加が難しい場合も多い。また、仮に配置数を増加させるとビットの仕事量は軽減されるが、スリッピング現象で効果が発揮しにくい場合もある。その他、コストが大幅に増加する欠点もあり、また、ビット数の増加と仕事量の増加は均等に効果を発揮することは期待しにくい。
E)機内交換型掘進機の構造
特に、掘進延長の増大に対応した最近の技術としては、掘進機内でビットを交換できる掘進機構造の開発である。この技術は、切羽の地下水浸入や地山の崩落を補助工法で防止した後に、機内の装備を一時的に撤去して、掘進機隔壁(バルクヘッド)の点検窓等を開放し、摩耗したビットを個別に撤去し、新しいビットを再設置して掘進を再開する施工法である。
【0004】
この前記E)の課題に対応する技術が特許文献1で提案されている。これはシールド掘進機に関する技術であって、カッタースポークに排土口と連通する溝を形成し、その溝に後部がウォームギヤと嵌合したビットをスライド自在に装着したことを特徴としている。この技術によれば、ウォームギヤの回転でビットが溝に沿ってスライドして排土口を通じて回収されることで、機内側からビットの交換ができて作業が安全に行える、というものである。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、作業者が排土装置内に入って作業するものであるから、排土装置内に人が入れない比較的小型の掘進機では不可能であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−299699号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、従来のこれらの問題点を解消し、排土装置内に人が入れない比較的小型の掘進機でも、摩耗したビットを機内側から交換できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる課題を解決した本発明の構成は、
1) 外殻の隔壁の前方に複数のビットを回転盤に備えた排土口付きのカッターを回転自在に設け、そのカッターを駆動する駆動装置を設け、排土口及び隔壁の開口部を通じて機内に取り込まれた土砂を後方へ搬送する排土装置を設けた掘進機において、前記ビットは、排土口を中心に放射方向へスライド可能且つ定位置で回転盤に脱着可能に取り付けたスライドビットと、排土口を跨ぐように回転盤に脱着可能に取り付けたセンタービットとで構成し、前記排土装置は隔壁に対して脱着可能に取り付け、隔壁の開口部を開放するために取り外した排土装置を一時的に所定距離後退させる排土装置移動手段を設けたことを特徴とする、掘進機
2) 排土装置移動手段が、外殻の天井にレールを前後方向に設け、チェーンを備えた走行体をレールに沿って移動自在に配置し、そのチェーンで排土装置を吊り下げたものである、前記1)記載の掘進機
3) 排土口及び隔壁の開口部を排土装置の排土路の内径より拡径し、その排土装置の前端にアダプターを設けて隔壁に対して脱着可能に取り付けた、前記1)又は2)記載の掘進機
4) スライドビットを台座に取り付け、その台座の左右端を支持する複数組のスライドガイドを回転盤の排口土周囲に放射状に取り付け、そのスライドガイドに台座を内周側から挿入し、スライドガイドの終端にはエンドプレートを突設して外周側に設けられるスライドビットの外方へのスライドを規制し、内周側に設けられるスライドビットはその台座を固定ボルトで回転盤に固定し、非駆動時のカッターを空転可能にした、前記1)〜3)いずれか記載の掘進機
にある。
【発明の効果】
【0009】
本発明の前記1)記載の構成によれば、ビットの交換時に排土装置を隔壁から取り外して排土装置移動手段で後退させると、隔壁の直後に広い作業スペースが形成され、排土装置内に人が入れない目視が不可能な比較的小型の掘進機でも、摩耗したビットを機内側から容易に交換できるようになる。
【0010】
本発明の前記2)記載の構成によれば、排土装置を隔壁から取り外すとチェーンで宙吊りとなり、その排土装置を後方へ押すと走行体とともに後退し、作業スペースを楽に且つ迅速に確保できる。ビットの交換後は、排土装置を前方へ押すと走行体とともに前進し、隔壁に排土装置を楽に且つ迅速に取り付けできる。
【0011】
本発明の前記3)記載の構成によれば、排土装置を隔壁から取り外すと大径の開口部が現れ、ビットの脱着及び搬入出の作業性が向上する。
【0012】
本発明の前記4)記載の構成によれば、カッターを空転させて交換しようとするビットを下方に位置させると、作業中にビットを不注意で落下させても作業者側に転ぶことがなくて安全性が確保でき、取り付け時はスライドガイドに沿って自重で落とし込むから楽に作業できる。上方のビットは固定ボルトで締結されているために落下の危険性がなく、側方のビットも同様に固定ボルトによる締結と自重による摩擦でスライドに大きな力を要する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例の掘進機の正面図である。
【図2】実施例の掘進機の断面図である。
【図3】図2のA−A断面図である。
【図4】実施例のスライドビットの説明図である。
【図5】実施例のビットの交換を示す説明図である。
【図6】実施例のビットの交換を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態を実施例と図面に基づいて具体的に説明する。
【実施例】
【0015】
図1は実施例の掘進機の正面図、図2は実施例の掘進機の断面図、図3は図2のA−A断面図、図4は実施例のスライドビットの説明図、図5,6は実施例のビットの交換を示す説明図である。
【0016】
図中、1は外殻、1aは隔壁、1bは開口部、2は方向修正ジャッキ、3はモーター(駆動装置)、3aはピニオンギヤ、4はカッター、4aは回転盤、4bは排土口、4cはラック、4dはスライドビット、4eは台座、4fはスライドガイド、4gはエンドプレート、4hは固定ボルト、4iはセンタービット、4jは台座、4kは固定ボルト、5は排土装置、5aは掛止輪、6は走行体(排土装置移動手段)、6aはチェーン、6bはレール、7はアダプター、7aは固定ボルト、8は推進管である。
【0017】
図1〜4に示すように、外殻1は断面円形で、分割した前後同士を方向修正ジャッキ2で屈曲可能に連結し、前側の外殻1の前端に口径650mmの開口部1bを備えた隔壁1aを取り付けている。その隔壁1aの後面には6基のモーター3を取り付け、そのモーター3の出力軸に備えたピニオンギヤ3aを隔壁1aの前方に突出させている。カッター4の回転盤4aは、中央に口径650mmの排土口4bと後面に環状のラック4cをそれぞれ備え、そのラック4cを各モーター3のピニオンギヤ3aに噛み合わせている。
【0018】
スライドビット4dは台座4eと一体で、回転盤4aの前面の周囲に6組のスライドガイド4fを放射状に取り付け、そのスライドガイド4fに台座4eを内周側から挿入している。スライドガイド4fの終端にはエンドプレート4gを突設して外周側に設けられるスライドビット4dの外方へのスライドを規制し、内周側に設けられるスライドビット4dは固定ボルト4hで台座4eを回転盤4aに固定している。センタービット4iは長尺の台座4jと一体で、その台座4jを固定ボルト4kで排土口4bを跨ぐように機内側から回転盤4aに脱着可能に取り付けている。
【0019】
排土装置5は排土路の内径が400mmで、上端に掛止輪5aを備えている。アダプター7は前側が口径650mm、後側が口径400mmで、その後側を排土装置5の前端に一体的に取り付け、前側を隔壁1aに固定ボルト7aで脱着可能に取り付けている。外殻1の天井にはレール6bを前後方向に取り付け、そのレール6bにフック付きのチェーン6aを備えた走行体6を移動自在に配置し、そのチェーン6aのフックを掛止輪5aに掛止して吊り下げている。排土装置5の後方には貯泥槽と排土管を設置している(図示せず)。図3では排土装置5の図示を省略している。なお、排土装置移動手段は走行体6に代えて、排土装置5を搭載して外殻1の内底面を移動できる台車を用いてもよい。
【0020】
本実施例では、外殻1の後端に推進管8を複数接続してモーター3を始動し、推進管8の最後尾を元押してカッター4で地山を掘削する。掘削された土砂は排土口4bと開口部1bから取り込まれて排土装置5で後方へ搬送され、推進管8の追加と元押しを繰り返しながら地中を掘進して管路が構築される。
【0021】
ここで、スライドビット4dとセンタービット4iが摩耗して交換する場合、モーター3を停止し、図5(a)に示すように固定ボルト7aを緩めてアダプター7を隔壁1aから取り外し、排土装置5を走行体6で宙吊りにする。貯泥槽(図示せず)は必要に応じて後方へ移動させておく。宙吊りの排土装置5を後方へ押して走行体6を1〜2m程後退させると、隔壁1aの直後に広い作業スペースが確保され、大径の開口部1bが現れる。
【0022】
まず、図5(b)に示すように、固定ボルト4kを緩めて台座4jを取り外し、開口部1bを通じてセンタービット4iを機内に回収する。次に、図6(a)に示すように、下方に位置しているスライドビット4dの固定ボルト4hを緩め、上方へ引き上げてスライドガイド4fから抜き取り、開口部1bを通じて機内に回収する。隣接するスライドビット4dを回収する際は、図6(b)に示すように、回転盤4aを空転させてスライドビット4dを下方に位置させ、同様にして機内に回収する。これを繰り返して全てのスライドビット4dを回収する。
【0023】
新しいスライドビット4dとセンタービット4iの取り付けは前記と逆の手順で行う。新しいスライドビット4dを開口部1bを通じて搬入し、下方に位置しているスライドガイド4fに台座4eを落とし込む。続いて、内周側となるスライドビット4dの台座4eを落とし込み、その内周側の台座4eを固定ボルト4hで固定する。隣接するスライドガイド4fに取り付ける際は、回転盤4aを空転させて下方に位置させ、同様に繰り返して全てのスライドガイド4fに新しいスライドビット4dを取り付ける。そして、新しいセンタービット4iを備えた台座4jを回転盤4aの内側に固定ボルト4kで固定する。
【0024】
最後に、宙吊りの排土装置5を前方へ押して走行体6を前進させ、アダプター7を隔壁1aに固定ボルト7aで取り付けるとともに、貯泥槽を元の位置に戻し、掘進を再開する。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明の技術は、推進工法やシールド工法による長距離施工に有用である。
【符号の説明】
【0026】
1 外殻
1a 隔壁
1b 開口部
2 方向修正ジャッキ
3 モーター(駆動装置)
3a ピニオンギヤ
4 カッター
4a 回転盤
4b 排土口
4c ラック
4d スライドビット
4e 台座
4f スライドガイド
4g エンドプレート
4h 固定ボルト
4i センタービット
4j 台座
4k 固定ボルト
5 排土装置
5a 掛止輪
6 走行体(排土装置移動手段)
6a チェーン
6b レール
7 アダプター
7a 固定ボルト
8 推進管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外殻の隔壁の前方に複数のビットを回転盤に備えた排土口付きのカッターを回転自在に設け、そのカッターを駆動する駆動装置を設け、排土口及び隔壁の開口部を通じて機内に取り込まれた土砂を後方へ搬送する排土装置を設けた掘進機において、前記ビットは、排土口を中心に放射方向へスライド可能且つ定位置で回転盤に脱着可能に取り付けたスライドビットと、排土口を跨ぐように回転盤に脱着可能に取り付けたセンタービットとで構成し、前記排土装置は隔壁に対して脱着可能に取り付け、隔壁の開口部を開放するために取り外した排土装置を一時的に所定距離後退させる排土装置移動手段を設けたことを特徴とする、掘進機。
【請求項2】
排土装置移動手段が、外殻の天井にレールを前後方向に設け、チェーンを備えた走行体をレールに沿って移動自在に配置し、そのチェーンで排土装置を吊り下げたものである、請求項1記載の掘進機。
【請求項3】
排土口及び隔壁の開口部を排土装置の排土路の内径より拡径し、その排土装置の前端にアダプターを設けて隔壁に対して脱着可能に取り付けた、請求項1又は2記載の掘進機。
【請求項4】
スライドビットを台座に取り付け、その台座の左右端を支持する複数組のスライドガイドを回転盤の排口土周囲に放射状に取り付け、そのスライドガイドに台座を内周側から挿入し、スライドガイドの終端にはエンドプレートを突設して外周側に設けられるスライドビットの外方へのスライドを規制し、内周側に設けられるスライドビットはその台座を固定ボルトで回転盤に固定し、非駆動時のカッターを空転可能にした、請求項1〜3いずれか記載の掘進機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−229564(P2012−229564A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−98591(P2011−98591)
【出願日】平成23年4月26日(2011.4.26)
【出願人】(599111965)株式会社アルファシビルエンジニアリング (32)
【出願人】(505229391)ボーディング株式会社 (19)
【Fターム(参考)】