説明

採鉱及び構造物適用の超硬合金工具、及びその製造方法

【課題】低バインダー相の含有量と微細なWC粒径を有する表面領域とすなわち大きな耐摩擦性を備える超硬合金及びその製造方法を提供する。
【解決手段】Co及びNiからなる少なくとも1種のバインダー相中の硬質構成物、少なくとも一つの表面部分、及び内側部分を含み、表面部分の粒径は内側部分の粒径より小さい、採鉱用及び構造物用の超硬合金工具ボディであって、
微細な粒径を有する表面部分が、内側部分より少ないバインダー相含有量を有し、
表面部分の因子A=((wt%Cr/wt%バインダー相)+0.01)と、超硬合金工具ボディの最も少ないCr含有量によって特徴つけられる部分で採取した因子B=((wt%Cr/wt%バインダー相)+0.01)との比率A/Bが1.5以上であるようにCrを含有し、
微細な粒径の表面部分と粗い粒径の内側部分の間のCo含有量が最大である超硬合金工具ボディ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、岩石と鉱物の穿孔及び切削用の工具に望ましく使用される超硬合金ボディに関連する。また、アスファルト及びコンクリート用に使用される超硬合金工具も、含まれる。さらに、具体的には本発明は、補足的な性質を有する二つの異なる微細組織区域が存在する焼結技術を介して作られた超硬合金に関する。
【背景技術】
【0002】
超硬合金、その粒径、並びにバインダー相(例えば、コバルト)は、各々が複合材料の性能に影響を及ぼす。例えば、炭化タングステンの小さくて/微細な粒径が、多くの耐摩耗性材料をもたらす。コバルト含有量の増加が、一般的に靭性の増加を導く。
【0003】
微細粒径を備える超硬合金は、初期粉末混合物中に粒精製剤の取込によって製造される。このような超硬合金は、この顕微鏡組織全体が微細な粒径を備える。WC−Co超硬合金のような超硬合金の傾向は、焼結の際に粗くなるWC粒に対してであるので、粗い粒径を有する超硬合金は、いずれの粒精製剤を取り込むこと無しで製造される。このような超硬合金は、この顕微鏡組織全体が粗い粒径を有する。評価することができるように、これらの硬質ボディは、超硬合金ボディ全体が均一顕微鏡組織を有する。
【0004】
少なくとも二つの異なる顕微鏡組織を有する超硬合金ボディが公知である。例えば、頑丈な超硬合金品質等級のコアを有し、且つ多くの耐摩耗性品質等級のカバーを有するドリルが、特許文献1(ヨーロッパ特許A951576号)に開示される。
【0005】
特許文献2(ヨーロッパ特許A194018号)は、粗い粒状のタングステン炭化物粒子を有する中央の層と、微細な粒状のタングステン炭化物粒子を有する周辺の層と、から形成された線引きダイスに関する。最初に、これらの層は、同一含有量のコバルトを有する。焼結後に中央の粗い粒状の層は、コバルト含有量が減少する。
【0006】
特許文献3(ヨーロッパ特許A257869号)は、耐摩耗性の頂部と強靭なコアとを有するロックビットボタンを開示する。この頂部は、低コバルト含有量で微細なWC粒径を有する粉末から作られ、且つこのコア部分は、高Co含有量で粗いWC粒を有する粉末から作られる。焼結後、二つの部分においてCo含有量について何も開示しない。しかしながら、この場合においても、粗い粒状の部分におけるCo含有量は、微細な粒状の層において費用の点で減少されるであろう。同様の開示が特許文献4(米国特許4,359,335号)に見られる。
【0007】
代わりの到達方法が特許文献5(米国特許4,743,515号)に開示され、好ましくは岩石穿孔加工及び鉱物切削加工用の超硬合金ボディを開示する。このボディは、エータ相の無い超硬合金の表面領域によって取り囲まれたエー多相を含み、且つ表面に低含有量のコバルトとエータ相領域近くに高含有量のコバルトと、を有する超硬合金コアからなる。特許文献6(米国特許4,843,039号)は同様であるが、金属加工用の切削工具インサートに関する。
【0008】
特許文献7(米国特許5,623,723号)は、耐摩耗性領域を有する超硬合金ボディを製造する方法に関する。この方法は、次の工程を、超硬合金の成形体を備える工程、前記成形体の露出表面の少なくとも一部分に粒精製剤の粉末を配置する工程、及びグリーン成形体の中心に向かって粒精製剤を拡散するように前記成形体及び粒精製剤粉末を熱処理することによって、露出面から内側に向かって粒精製剤が配置された表面領域を形成して、且つ内側領域を形成する工程、を含む。結果として、超硬合金ボディは、小さいが粒径であるがボディの内側部分のCo含有量が多いCo含有量を有する粒径を有する表面領域が得られる。このことは、結果として小さなWC粒径として得られた増加した耐摩耗性がCo含有量の増加によって失われる所定の広さになること意味する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】ヨーロッパ特許A951576号
【特許文献2】ヨーロッパ特許A194018号
【特許文献3】ヨーロッパ特許A257869号
【特許文献4】米国特許4,359,335号
【特許文献5】米国特許4,743,515号
【特許文献6】米国特許4,843,039号
【特許文献7】米国特許5,623,723号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、低バインダー相の含有量と微細なWC粒径を有する表面領域とすなわち大きな耐摩耗性を備える超硬合金、及びそれを製造する方法を提供することを、本発明の目的とする。
【0011】
さらに、表面部分に圧縮応力を備える、このインサート/ボタンの強度と靭性にプラスの効果を有する超硬合金インサート/ボタンを提供することを、本発明の目的とする。
【0012】
内側部分の粒径とコバルト含有量より小さな粒径と低いコバルト含有量を有する表面領域を供える超硬合金ボディを得るために、単一のタングステン炭化物とバインダーから形成することが可能であることが、驚くべきことが判明した。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に従い、少なくとも一つの表面部分を含む採鉱及び建築に適用の超硬合金工具インサート/ボタンが提供され、バインダーの乏しい表面区域は、超硬合金ボディの直径/幅の0.05〜0.9好ましくは0.1〜0.5最も好ましくは0.15〜0.4の幅を有し、且つ粒径は内側部分より小さくて、且つCo含有量は焼結後の表面で圧縮応力を生じる前記内側部分の含有量より少ない。さらに具体的には、表面部分でのCo含有量は、内側部分のCo含有量の<1好ましくは<0.9最も好ましくは<0.75であり、且つこの表面区域のWC粒径は、内側部分のWCの粒径の<1好ましくは<0.9最も好ましくは<0.8である。好ましくは、表面領域は、表面部分の因子A((wt%Cr/wt%バインダー相)+0.01)及びボディ部分で採取した因子B((wt%Cr/wt%バインダー相)+0.01)との間の比率が、最も少ないCr含有量によって特徴つけられ、且つA/B>1.5好ましくはA/B>3.0であるようなCrを、含有する。
【0014】
超硬合金の組成は、4〜25wt%好ましくは5〜10wt%の公称Co含有量を有するWC+Coであり、且つ公称WC粒径は、インターセプトの相加平均であり、1〜15μm好ましくは1.5〜5μmである。
【0015】
一つの実施態様において、超硬合金は、η層を含む。
別の実施態様において、微細な粒状の部分と粗い粒状の部分の間にCo含有量の最大がある。
【0016】
本発明は、耐摩耗性の表面区域を備える超硬合金ボディを製造する方法に関し、次の工程、
−硬質構成物と、Co及び/またはNiのバインダー相と、を形成する粉末を含む単一粉末から超硬合金の成形体を備える工程、
−前記成形体を所望の形と大きさに可能な限り研削する工程、
−浸漬、吹き付け、塗装、薄いテープの適用、或いはいずれか別の方法によって、好ましくは、いずれかの炭化クロム(Cr、Cr23及びCr、またはこれらの混合物)、或いはクロムと炭素の混合物、或いはクロム及び炭素及び/または窒素を含有する他の化合物である、炭素窒素を含む粒精製剤の粉末を、前記成形体の露出面の少なくとも一部分に配置する工程、
−前記粒精製剤の適用の表面から離れて前記粒精製剤が拡散するように、前記成形体及び粒精製剤の粉末を焼結することによって、前記内側部分より少ないバインダー相含有量、高クロム含有量、及び小さなWC粒径を特徴とする勾配域を形成する工程、
最終工程の際に等圧のガス圧力を可能な限り付加して、緻密ボディを得る工程、
焼結温度より低い温度と1〜100Mpaの圧力とで、可能な限り後−HIPを行う工程、
最終形状に可能な限り研削する工程、及び
研削または他の機械的方法を用いて、望ましくない炭化物及び/またはグラファイトを表面から可能な限り取除く工程、
を含む。
【0017】
焼結工程は可能な限り短時間実施して、小さな粒径と低いコバルト含有量を備えた表面部分を有する緻密なボディを得る。
【0018】
超硬合金成形体の公称炭素含有量は、添加した粒精製剤の炭素の寄与を考慮した決定すべきである。また、微細組織を含むイータ相をもたらす成形体を使用することができる。所望の組織と、密閉気孔率を備えるボディ好ましくは緻密なボディと、を得るために、この焼結は可能な限り短時間実施する。この時間は、WCの粒径と超硬合金の組成とに依存し、したがって狭く定義することはできない。必須の組織が得られるかどうかを決定すること及び本明細書に従って焼結状態を改良することは、当業者の関与範囲である。必要であるならば、このボディは、焼結温度に比較して低いHIP温度と、2〜100Mpaの圧力でとで、後HIPを行うことができる。
【0019】
代わりとして、予備焼結の温度より高い温度で所望の組織を得るために、その後加熱処理されるところの予備焼結したボディに、粒精製剤及び/またはクロム炭化物粉末が、置かれる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】粒精製剤を本発明にしたがう採鉱適用のボタンに配置した表面からの距離に対する硬さ(HV3)とコバルト含有量(WDS分析)とを示す図である。
【図2】粒精製剤を本発明の採鉱適用のボタンに配置した表面からの距離に対するクロム含有量(WDS分析)を示す図である。
【図3a】粒精製剤を本発明のボタンに配置した表面から20μmの距離での微細組織を示す顕微鏡写真である(FEG−SEM、2000X、BSE様式)。
【図3b】粒精製剤を本発明のボタンに配置した表面から2.5mmの距離での微細組織を示す顕微鏡写真である(FEG−SEM、2000X、BSE様式)。
【図3c】本発明のボタンの内側部分(中央)の微細組織を示す顕微鏡写真である(FEG−SEM、2000X、BSE様式)。
【発明を実施するための形態】
【0021】
実施例1
超硬合金成形体が次にしたがって製造された。環状のグリーン成形体が、94wt%のWCと6wt%のCoの組成を有する粉末から加圧成形された(直径12mm)。このWC原材料は、3.0μmの平均粒径を有する比較的粗い粒状である(FSSS)。全ての表面は薄い層(0.02gのCr/cm)を含んでいるCrで覆われた。その後、この成形体は1350℃で30分の間焼結された。焼結の最後の15分間は、10Mpaの等圧のガス圧力が、緻密ボディを得るため付加された。焼結されたボタンの断面が検査された。Crは表面に見ることはできなかった。図1は、上述のCrで覆われた表面からの距離に対する硬さとコバルト含有量を示す。コバルト含有量は、表面近くが最も少なく、且つ最大値まで距離の増加とともに増加し、その後再び減少する。硬さは、表面近くで最も高くて、且つ最小値まで距離とともに減少し、その後中心に向かって再び増加する。図2は、上述のCrで覆った表面までの距離に対するクロム含有量の図を示す。このクロム含有量は、表面近くで最も多くて且つ距離とともに減少する。図3aは、上述のCrで覆われた表面から20μmの距離での微細組織を示す顕微鏡写真である(FEG−SEM、2000X、BSE様式)。図3bは、上述のCrで覆われた表面から2.5mmの距離での微細組織を示す顕微鏡写真である(FEG−SEM、2000X、BSE様式)。図3cは、ボタンの内側部分(上述のCrで覆われた表面から6mm)の微細組織を示す顕微鏡写真である(FEG−SEM、2000X、BSE様式)。インターセプト値の相加平均として測定されたWC粒径を表1に示す。
【0022】
表1
表面からの距離(深さ) 平均粒径(μm)
20μm 1.5
2.5mm 1.8
6.0mm 1.8

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Co及びNiからなる少なくとも1種のバインダー相中の硬質構成物、少なくとも一つの表面部分、及び内側部分を含み、上記表面部分の粒径は上記内側部分の粒径より小さい、採鉱用及び構造物用の超硬合金工具ボディであって、
微細な粒径を有する上記表面部分が、上記内側部分より少ないバインダー相含有量を有し、
上記表面部分の因子A=((wt%Cr/wt%バインダー相)+0.01)と、超硬合金工具ボディの最も少ないCr含有量によって特徴つけられる部分で採取した因子B=((wt%Cr/wt%バインダー相)+0.01)との比率A/Bが1.5以上であるようにCrを含有し、
上記微細な粒径の前記表面部分と粗い粒径の前記内側部分の間のCo含有量が最大であることを特徴とする超硬合金工具ボディ。
【請求項2】
前記表面部分のバインダー相含有量が、前記内側部分のバインダー相含有量を1としたとき、1以下であることを特徴とする請求項1にしたがう超硬合金工具ボディ。
【請求項3】
前記表面部分のWCの粒径が、前記内側部分のWCの粒径を1としたとき、1以下であることを特徴とする請求項1または2にしたがう超硬合金工具ボディ。
【請求項4】
バインダー相の乏しい前記表面部分が、超硬合金工具ボディの直径/該表面部分の幅が0.05〜0.9となる該幅を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかにしたがう超硬合金工具ボディ。
【請求項5】
超硬合金の組成が、4〜25wt%の公称バインダー相含有量を有するWC+バインダーであり、且つ焼結したままの状態のWCの公称粒径が切片の相加平均で1〜15μmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかにしたがう超硬合金工具ボディ。
【請求項6】
η相を含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれかにしたがう超硬合金工具ボディ。
【請求項7】
次の工程、
−単一種類の粉末から超硬合金の成形体を備える工程、
−前記成形体を予備焼結し、且つ所望の形と大きさに研削する工程、
−前記成形体の露出面の少なくとも一部分に、炭素及び窒素のうちの少なくとも1種を含む粒精製剤の粉末を配置する工程、
−超硬合金工具ボディの中心に向かって前記粒精製剤が拡散するように、前記成形体及び粒精製剤の粉末を焼結することによって、前記粒精製剤を配置する露出面から内側に向かって表面部分を形成し、且つ内側部分を形成する工程、
最終工程の際に等圧のガス圧力を可能な限り付加して、緻密な前記ボディを得る工程、
焼結温度より低い温度と1〜100Mpaの圧力とで、後−静水圧圧縮を行う工程、
最終形状に可能な限り研削する工程、及び
研削または他の機械的方法を用いて、望ましくない炭化物及びグラファイトからなる少なくとも1種を表面から可能な限り取除く工程
を含む耐摩耗性表面区域を備える超硬合金工具ボディを製造する方法であって、
前記内側部分の粒径とコバルト含有量より小さな粒径と少ないコバルト含有量を有する緻密物体が表面部分に得られる可能な限り短い時間の間、前記焼結工程が実施され、
表面部分の因子A=((wt%Cr/wt%バインダー相)+0.01)と、超硬合金工具ボディの最も少ないCr含有量によって特徴つけられる部分で採取した因子B=((wt%Cr/wt%バインダー相)+0.01)との比率A/Bが1.5以上であるようにCrを含有し、
上記微細な粒径の上記表面部分と粗い粒径の上記内側部分の間のCo含有量が最大である超硬合金工具ボディを製造することを特徴とする超硬合金工具ボディを製造する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【図3c】
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【公開番号】特開2013−14846(P2013−14846A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−214131(P2012−214131)
【出願日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【分割の表示】特願2006−545279(P2006−545279)の分割
【原出願日】平成16年12月7日(2004.12.7)
【出願人】(507226695)サンドビック インテレクチュアル プロパティー アクティエボラーグ (34)
【Fターム(参考)】