接合方法
【課題】塑性化領域に形成される接合欠陥に対して補修を行う際に、接合欠陥を確実に密閉するとともに、補修によって形成される溝の発生を抑制する接合方法を提供することを課題とする。
【解決手段】金属部材同士の突合部J1に対して摩擦攪拌を行う本接合工程と、本接合工程で形成された塑性化領域W1に対して溶接を行う溶接工程と、溶接工程により形成された溶接金属T1,T2,T3及び塑性化領域W1に対して摩擦攪拌を行う補修工程と、を含んだ接合方法であって、本接合工程で用いる回転ツールEを右回転させた場合は、回転ツールEの進行方向左側の塑性化領域W1に対して溶接工程及び補修工程を行い、本接合工程で用いる回転ツールEを左回転させた場合は、回転ツールEの進行方向右側の塑性化領域W1に対して溶接工程及び補修工程を行うことを特徴とする。
【解決手段】金属部材同士の突合部J1に対して摩擦攪拌を行う本接合工程と、本接合工程で形成された塑性化領域W1に対して溶接を行う溶接工程と、溶接工程により形成された溶接金属T1,T2,T3及び塑性化領域W1に対して摩擦攪拌を行う補修工程と、を含んだ接合方法であって、本接合工程で用いる回転ツールEを右回転させた場合は、回転ツールEの進行方向左側の塑性化領域W1に対して溶接工程及び補修工程を行い、本接合工程で用いる回転ツールEを左回転させた場合は、回転ツールEの進行方向右側の塑性化領域W1に対して溶接工程及び補修工程を行うことを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦攪拌を利用した金属部材の接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属部材同士を接合する方法として、摩擦攪拌接合(FSW=Friction Stir Welding)が知られている。摩擦攪拌接合は、回転ツールを回転させつつ金属部材同士の突合部に沿って移動させ、回転ツールと金属部材との摩擦熱により突合部の金属を塑性流動させることで、金属部材同士を固相接合させるものである。なお、回転ツールは、円柱状を呈するショルダ部の下端面に攪拌ピン(プローブ)を突設してなるものが一般的である。
【0003】
例えば、一対の金属部材の突合部に対して回転ツールを用いて摩擦攪拌を行う場合、当該摩擦攪拌によって形成された塑性化領域の内部にトンネル状の空洞欠陥(以下、トンネル欠陥ともいう)が形成される可能性がある。また、例えば、一対の金属部材の突合部に対して回転ツールを用いて摩擦攪拌を行う場合、当該突合部の両側面に一対のタブ材を用いて、当該タブ材に摩擦攪拌の開始位置及び終了位置を設定する場合がある。かかる場合には、摩擦攪拌を行うことにより、タブ材と金属部材との間に形成される酸化皮膜を金属部材内に巻き込む可能性がある。
いずれの場合も、接合された金属部材に接合欠陥が形成される可能性があり、金属部材の気密性及び水密性が低下するという問題があった。
【0004】
そこで、特許文献1には、摩擦攪拌によって形成された塑性化領域に対して再度摩擦攪拌を行うことにより、塑性化領域の内部に形成された接合欠陥を補修する発明が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2002−1552号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、摩擦攪拌を行う場合、回転ツールのショルダ部の下端を金属部材に所定の深さで押し込んで金属部材を押圧しながら回転ツールを移動させる。したがって、接合された後の金属部材の表面には、塑性化領域を底面とする溝が発生してしまう。
ここで、特許文献1に係る発明のように、当該塑性化領域の表面に回転ツールを押し込んで、再度摩擦攪拌を行うと、補修を行った部分にさらに溝が形成されるため、溝の深さが大きくなってしまうという問題があった。
【0007】
このような観点から、本発明は、塑性化領域に形成される接合欠陥を確実に密閉するとともに、補修を行う際に形成される溝の発生を抑制することが可能な接合方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような課題を解決する本発明に係る接合方法は、金属部材同士の突合部に対して摩擦攪拌を行う本接合工程と、前記本接合工程で形成された塑性化領域に対して肉盛溶接を行う溶接工程と、前記溶接工程により形成された溶接金属及び前記塑性化領域に対して摩擦攪拌を行う補修工程と、を含んだ接合方法であって、前記本接合工程で用いる回転ツールを右回転させた場合は、前記回転ツールの進行方向左側の前記塑性化領域に対して前記溶接工程及び前記補修工程を行い、前記本接合工程で用いる回転ツールを左回転させた場合は、前記回転ツールの進行方向右側の前記塑性化領域に対して前記溶接工程及び前記補修工程を行うことを特徴とする。
【0009】
かかる接合方法によれば、摩擦攪拌によって形成された塑性化領域の内部の接合欠陥に対して溶接金属を押し込みながら摩擦攪拌を行うため、接合欠陥を確実に密閉することができる。即ち、塑性化領域の進行方向右側又は左側に対して、回転ツールの回転方向に応じて適宜溶接及び摩擦攪拌(補修工程)を行うことで、塑性化領域の内部に形成された空洞欠陥を確実に密閉し、金属部材の気密性及び水密性を高めることができる。また、補修工程を行う前に肉盛溶接を行って、塑性化領域の表面に溶接金属を形成することで、本接合工程の際に形成された溝に金属が補充されることになるので、補修工程を行う際の溝の発生を抑制することができる。
【0010】
また、本発明は、金属部材同士の突合部に対して摩擦攪拌を行う本接合工程と、前記本接合工程で形成された塑性化領域に対して肉盛溶接を行う溶接工程と、前記溶接工程により形成された溶接金属及び前記塑性化領域に対して摩擦攪拌を行う補修工程と、を含んだ接合方法であって、前記本接合工程では、前記金属部材同士の前記突合部の側方に配置されたタブ材に摩擦攪拌の開始位置を設け、少なくとも前記タブ材に隣接する前記塑性化領域に対して、前記溶接工程及び前記補修工程を行うことを特徴とすることが好ましい。
【0011】
かかる接合方法によれば、摩擦攪拌によって塑性化領域の内部に巻き込んだ酸化皮膜に対して溶接金属を押し込みながら摩擦攪拌を行うため、接合欠陥を確実に密閉することができる。また、補修工程を行う前に肉盛溶接を行って、塑性化領域の表面に溶接金属を形成することで、本接合工程の際に形成された溝に金属が補充されることになるので、補修工程を行う際の溝の発生を抑制することができる。
【0012】
また、前記本接合工程で用いる回転ツールを右回転させた場合は、前記回転ツールの進行方向左側の前記塑性化領域に対して前記溶接工程及び前記補修工程を行い、前記本接合工程で用いる回転ツールを左回転させた場合は、前記回転ツールの進行方向右側の前記塑性化領域に対して前記溶接工程及び前記補修工程を行うことが好ましい。このように、接合欠陥の発生する可能性が高い領域に応じて、補修を行うことで作業効率を高めることができる。
【0013】
また、本発明は、金属部材同士の突合部に対して摩擦攪拌を行う本接合工程と、前記本接合工程で形成された塑性化領域に対して肉盛溶接を行う溶接工程と、前記溶接工程により形成された溶接金属及び前記塑性化領域に対して摩擦攪拌を行う補修工程と、を含んだ接合方法であって、前記本接合工程では、前記金属部材同士の前記突合部の側方に配置されたタブ材に摩擦攪拌の終了位置を設け、少なくとも前記タブ材に隣接する前記塑性化領域に対して、前記溶接工程及び前記補修工程を行うことが好ましい。
【0014】
かかる接合方法によれば、摩擦攪拌によって塑性化領域の内部に巻き込んだ酸化皮膜に対して溶接金属を押し込みながら摩擦攪拌を行うため、接合欠陥を確実に密閉することができる。また、補修工程を行う前に肉盛溶接を行って、塑性化領域の表面に溶接金属を形成することで、本接合工程の際に形成された溝に金属が補充されることになるので、補修工程を行う際の溝の発生を抑制することができる。
【0015】
また、前記本接合工程で用いる回転ツールを右回転させた場合は、前記回転ツールの進行方向右側の前記塑性化領域に対して前記溶接工程及び前記補修工程を行い、前記本接合工程で用いる回転ツールを左回転させた場合は、前記回転ツールの進行方向左側の前記塑性化領域に対して前記溶接工程及び前記補修工程を行うことが好ましい。このように、接合欠陥の発生する可能性が高い領域に応じて、補修を行うことで作業効率を高めることができる。
【0016】
また、本発明は、前記本接合工程で用いる回転ツールよりも小型の回転ツールを用いて、前記補修工程を行うことが好ましい。かかる接合方法によれば、補修工程をスムーズに行うことができる。
【0017】
また、本発明は、前記本接合工程を行う前に、前記金属部材同士の前記突合部に対して摩擦攪拌を行う仮接合工程を含むことが好ましい。かかる接合方法によれば、本接合工程を行う際の金属部材同士の目開きを防止することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る接合方法によれば、塑性化領域に形成される接合欠陥を確実に密閉するとともに、補修を行う際に形成される溝の発生を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明を実施するための最良の形態として、摩擦攪拌を利用した金属部材同士の接合方法であって、金属部材同士の突合部に対して仮接合としての摩擦攪拌を行った後に、仮接合された状態の突合部に対して本接合としての摩擦攪拌を行う接合方法を例示する。
【0020】
[第一実施形態]
第一実施形態では、図1に示すように、平板状を呈する一対の第一金属部材1a及び第二金属部材1bを直線状に繋ぎ合せる場合を例示する。
まず、第一金属部材1a及び第二金属部材1bからなる被接合金属部材1を詳細に説明するとともに、この被接合金属部材1を接合する際に用いられる第一タブ材2と第二タブ材3を詳細に説明する。
【0021】
第一金属部材1a及び第二金属部材1bは、略同等の形状からなる板状を呈する金属部材である。第一金属部材1a及び第二金属部材1bは、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金、チタン、チタン合金、マグネシウム、マグネシウム合金など摩擦攪拌可能な金属材料からなる。第一金属部材1a及び第二金属部材1bの形状・寸法に特に制限はないが、第一金属部材1a及び第二金属部材1bの端面を突き合わせて形成される突合部J1における厚さ寸法を同一にすることが望ましい。
【0022】
第一タブ材2及び第二タブ材3は、被接合金属部材1の突合部J1を挟むように配置されるものであって、それぞれ、被接合金属部材1に添設され、被接合金属部材1の側面14側に現れる継ぎ目(境界線)を覆い隠す。第一タブ材2及び第二タブ材3の材質に特に制限はないが、本実施形態では、被接合金属部材1と同一組成の金属材料で形成している。また、第一タブ材2及び第二タブ材3の形状・寸法にも特に制限はないが、本実施形態では、その厚さ寸法を突合部J1における被接合金属部材1の厚さ寸法と同一にしている。
【0023】
次に、図2を参照して、仮接合に用いる回転ツール(以下、「小型回転ツールF」という。)及び本接合に用いる回転ツール(以下、「大型回転ツールG」という。)を詳細に説明する。
【0024】
図2の(a)に示す小型回転ツールFは、工具鋼など被接合金属部材1よりも硬質の金属材料からなり、円柱状を呈するショルダ部F1と、このショルダ部F1の下端面F11に突設された攪拌ピン(プローブ)F2とを備えて構成されている。小型回転ツールFの寸法・形状は、被接合金属部材1の材質や厚さ等に応じて設定すればよいが、少なくとも、後記する本接合工程で用いる大型回転ツールG(図2の(b)参照)よりも小型にする。このようにすると、本接合よりも小さな負荷で仮接合を行うことが可能となるので、仮接合時に摩擦攪拌装置に掛かる負荷を低減することが可能となり、さらには、小型回転ツールFの移動速度(送り速度)を大型回転ツールGの移動速度よりも高速にすることも可能になるので、仮接合に要する作業時間やコストを低減することが可能となる。
【0025】
ショルダ部F1の下端面F11は、塑性流動化した金属を押えて周囲への飛散を防止する役割を担う部位であり、本実施形態では、凹面状に成形されている。ショルダ部F1の外径X1の大きさに特に制限はないが、本実施形態では、大型回転ツールGのショルダ部G1の外径Y1よりも小さくなっている。
【0026】
攪拌ピンF2は、ショルダ部F1の下端面F11の中央から垂下しており、本実施形態では、先細りの円錐台状に成形されている。また、攪拌ピンF2の周面には、螺旋状に刻設された攪拌翼が形成されている。攪拌ピンF2の外径の大きさに特に制限はないが、本実施形態では、最大外径(上端径)X2が大型回転ツールGの攪拌ピンG2の最大外径(上端径)Y2よりも小さく、かつ、最小外径(下端径)X3が攪拌ピンG2の最小外径(下端径)Y3よりも小さい。攪拌ピンF2の長さLAは、大型回転ツールGの攪拌ピンG2の長さLBよりも小さくすることが望ましい。
【0027】
図2の(b)に示す大型回転ツールGは、工具鋼など被接合金属部材1よりも硬質の金属材料からなり、円柱状を呈するショルダ部G1と、このショルダ部G1の下端面G11に突設された攪拌ピン(プローブ)G2とを備えて構成されている。
【0028】
ショルダ部G1の下端面G11は、小型回転ツールFと同様に、凹面状に成形されている。攪拌ピンG2は、ショルダ部G1の下端面G11の中央から垂下しており、本実施形態では、先細りの円錐台状に成形されている。また、攪拌ピンG2の周面には、螺旋状に刻設された攪拌翼が形成されている。
【0029】
以下、本実施形態に係る接合方法を詳細に説明する。本実施形態に係る接合方法は、(1)準備工程、(2)第一予備工程、(3)第一本接合工程、(4)第一溶接工程、(5)第一補修工程、(6)第一横断補修工程、(7)第二予備工程、(8)第二本接合工程、(9)第二溶接工程、(10)第二補修工程、(11)第二横断補修工程を含むものである。なお、第一予備工程、第一本接合工程、第一溶接工程、第一補修工程及び第一横断補修工程は、被接合金属部材1の表面A(図1の(c)参照)側から実行される工程であり、第二予備工程、第二本接合工程、第二溶接工程、第二補修工程及び第二横断補修工程は、被接合金属部材1の裏面B(図1の(c)参照)側から実行される工程である。
【0030】
(1)準備工程
図1を参照して準備工程を説明する。準備工程は、接合すべき被接合金属部材1や摩擦攪拌の開始位置や終了位置が設けられる当て部材(第一タブ材2及び第二タブ材3)を準備する工程であり、本実施形態では、接合すべき被接合金属部材1を突き合せる突合工程と、被接合金属部材1の突合部J1の両側に第一タブ材2と第二タブ材3を配置するタブ材配置工程とを具備している。
【0031】
突合工程では、図1の(c)に示すように、第一金属部材1aの端面11に第二金属部材1bの端面11を密着させるとともに、第一金属部材1aの表面12と第二金属部材1bの表面12を面一にし、さらに、第一金属部材1aの裏面13と第二金属部材1bの裏面13を面一にする。
【0032】
タブ材配置工程では、図1の(b)に示すように、被接合金属部材1の突合部J1の一端側に第一タブ材2を配置してその当接面21を被接合金属部材1の側面14,14に当接させるとともに、突合部J1の他端側に第二タブ材3を配置してその当接面31を被接合金属部材1の側面14,14に当接させる。このとき、図1の(d)に示すように、第一タブ材2の表面22と第二タブ材3の表面32を被接合金属部材1の表面Aと面一にするとともに、第一タブ材2の裏面23と第二タブ材3の裏面33を被接合金属部材1の裏面Bと面一にする。
【0033】
また、本実施形態では、図1の(a)及び(b)に示すように、被接合金属部材1と第一タブ材2とにより形成された入隅部2a,2a(即ち、被接合金属部材1の側面14と第一タブ材2の側面24とにより形成された角部2a,2a)を溶接して被接合金属部材1と第一タブ材2とを接合し、被接合金属部材1と第二タブ材3とにより形成された入隅部3a,3a(即ち、被接合金属部材1の側面14と第二タブ材3の側面34とにより形成された角部3a,3a)を溶接して被接合金属部材1と第二タブ材3とを接合する。なお、入隅部2a,3aの全長に亘って連続して溶接を施してもよいし、断続して溶接を施してもよい。
【0034】
準備工程が終了したら、被接合金属部材1、第一タブ材2及び第二タブ材3を図示せぬ摩擦攪拌装置の架台に載置し、クランプ等の図示せぬ治具を用いて移動不能に拘束する。なお、溶接工程を省略する場合には、図示せぬ摩擦攪拌装置の架台上で、突合工程とタブ材配置工程を実行する。
【0035】
(2)第一予備工程
第一予備工程は、第一本接合工程に先立って行われる工程であり、本実施形態では、被接合金属部材1と第一タブ材2との突合部J2を接合する第一タブ材接合工程と、被接合金属部材1の突合部J1を仮接合する仮接合工程と、被接合金属部材1と第二タブ材3との突合部J3を接合する第二タブ材接合工程と、第一本接合工程における摩擦攪拌の開始位置に下穴を形成する下穴形成工程とを具備している。
【0036】
本実施形態の第一予備工程では、図4に示すように、一の小型回転ツールFを一筆書きの移動軌跡(ビード)を形成するように移動させて、突合部J1,J2,J3に対して連続して摩擦攪拌を行う。即ち、摩擦攪拌の開始位置SPに挿入した小型回転ツールFの攪拌ピンF2(図2の(b)参照)を途中で離脱させることなく終了位置EPまで移動させ、第一タブ材接合工程、仮接合工程及び第二タブ材接合工程を連続して実行する。なお、本実施形態では、第一タブ材2に摩擦攪拌の開始位置SPを設け、第二タブ材3に終了位置EPを設けているが、開始位置SPと終了位置EPの位置を限定する趣旨ではない。
【0037】
本実施形態の第一予備工程における摩擦攪拌の手順を図3及び図4を参照してより詳細に説明する。
まず、図3の(a)に示すように、第一タブ材2の適所に設けた開始位置SPの直上に小型回転ツールFを位置させ、続いて、小型回転ツールFを右回転させつつ下降させて攪拌ピンF2を開始位置SPに押し付ける。攪拌ピンF2が第一タブ材2の表面22に接触すると、摩擦熱によって攪拌ピンF2の周囲にある金属が塑性流動化し、図3の(b)に示すように、攪拌ピンF2が第一タブ材2に挿入される。
【0038】
攪拌ピンF2の全体が第一タブ材2に入り込み、かつ、ショルダ部F1の下端面F11の全面が第一タブ材2の表面22に接触したら、図4に示すように、小型回転ツールFを回転させつつ第一タブ材接合工程の始点s2に向けて相対移動させる。小型回転ツールFを移動させると、その攪拌ピンF2の周囲にある金属が順次塑性流動化するとともに、攪拌ピンF2から離れた位置では、塑性流動化していた金属が再び硬化する。
【0039】
小型回転ツールFを相対移動させて第一タブ材接合工程の始点s2まで連続して摩擦攪拌を行ったら、始点s2で小型回転ツールFを離脱させずにそのまま第一タブ材接合工程に移行する。
【0040】
第一タブ材接合工程では、第一タブ材2と被接合金属部材1との突合部J2に対して摩擦攪拌を行う。具体的には、被接合金属部材1と第一タブ材2の継ぎ目(境界線)上に摩擦攪拌のルートを設定し、当該ルートに沿って小型回転ツールFを相対移動させることで、突合部J2に対して摩擦攪拌を行う。なお、本実施形態では、小型回転ツールFを途中で離脱させることなく第一タブ材接合工程の始点s2から終点e2まで連続して摩擦攪拌を行う。
【0041】
なお、小型回転ツールFを右回転させた場合には、小型回転ツールFの進行方向の左側に微細な接合欠陥が発生する虞があるので、小型回転ツールFの進行方向の右側に被接合金属部材1が位置するように第一タブ材接合工程の始点s2と終点e2の位置を設定することが望ましい。このようにすると、被接合金属部材1側に接合欠陥が発生し難くなるので、高品質の接合体を得ることが可能となる。
【0042】
ちなみに、小型回転ツールFを左回転させた場合には、小型回転ツールFの進行方向の右側に微細な接合欠陥が発生する虞があるので、小型回転ツールFの進行方向の左側に被接合金属部材1が位置するように第一タブ材接合工程の始点と終点の位置を設定することが望ましい。具体的には、図示は省略するが、小型回転ツールFを右回転させた場合の終点e2の位置に始点を設け、小型回転ツールFを右回転させた場合の始点s2の位置に終点を設ければよい。
【0043】
なお、小型回転ツールFの攪拌ピンF2が突合部J2に入り込むと、被接合金属部材1と第一タブ材2を引き離そうとする力が作用するが、被接合金属部材1と第一タブ材2により形成された入隅部2aを溶接により仮接合しているので、被接合金属部材1と第一タブ材2との間に目開きが発生することがない。
【0044】
小型回転ツールFが第一タブ材接合工程の終点e2に達したら、終点e2で摩擦攪拌を終了させずに仮接合工程の始点s1まで連続して摩擦攪拌を行い、そのまま仮接合工程に移行する。即ち、第一タブ材接合工程の終点e2から仮接合工程の始点s1まで小型回転ツールFを離脱させずに摩擦攪拌を継続し、さらに、始点s1で小型回転ツールFを離脱させることなく仮接合工程に移行する。このようにすると、第一タブ材接合工程の終点e2での小型回転ツールFの離脱作業が不要となり、さらに、仮接合工程の始点s1での小型回転ツールFの挿入作業が不要となることから、予備的な接合作業の効率化・迅速化を図ることが可能となる。
【0045】
本実施形態では、第一タブ材接合工程の終点e2から仮接合工程の始点s1に至る摩擦攪拌のルートを第一タブ材2に設定し、小型回転ツールFを第一タブ材接合工程の終点e2から仮接合工程の始点s1に移動させる際の移動軌跡を第一タブ材2に形成する。このようにすると、第一タブ材接合工程の終点e2から仮接合工程の始点s1に至る工程中において、被接合金属部材1に接合欠陥が発生し難くなるので、高品質の接合体を得ることが可能となる。
【0046】
仮接合工程では、被接合金属部材1の突合部J1に対して摩擦攪拌を行う。具体的には、被接合金属部材1の継ぎ目(境界線)上に摩擦攪拌のルートを設定し、当該ルートに沿って小型回転ツールFを相対移動させることで、突合部J1の全長に亘って連続して摩擦攪拌を行う。なお、本実施形態では、小型回転ツールFを途中で離脱させることなく仮接合工程の始点s1から終点e1まで連続して摩擦攪拌を行う。このようにすると、仮接合工程中における小型回転ツールFの離脱作業が一切不要となることから、予備的な接合作業のより一層の効率化・迅速化を図ることが可能となる。
【0047】
小型回転ツールFが仮接合工程の終点e1に達したら、終点e1で摩擦攪拌を終了させずに第二タブ材接合工程の始点s3まで連続して摩擦攪拌を行い、そのまま第二タブ材接合工程に移行する。即ち、仮接合工程の終点e1から第二タブ材接合工程の始点s3まで小型回転ツールFを離脱させずに摩擦攪拌を継続し、さらに、始点s3で小型回転ツールFを離脱させることなく第二タブ材接合工程に移行する。このようにすると、仮接合工程の終点e1での小型回転ツールFの離脱作業が不要となり、さらに、第二タブ材接合工程の始点s3での小型回転ツールFの挿入作業が不要となることから、予備的な接合作業のより一層の効率化・迅速化を図ることが可能となる。
【0048】
本実施形態では、仮接合工程の終点e1から第二タブ材接合工程の始点s3に至る摩擦攪拌のルートを第二タブ材3に設定し、小型回転ツールFを仮接合工程の終点e1から第二タブ材接合工程の始点s3に移動させる際の移動軌跡を第二タブ材3に形成する。このようにすると、仮接合工程の終点e1から第二タブ材接合工程の始点s3に至る工程中において、被接合金属部材1に接合欠陥が発生し難くなるので、高品質の接合体を得ることが可能となる。
【0049】
第二タブ材接合工程では、被接合金属部材1と第二タブ材3との突合部J3に対して摩擦攪拌を行う。具体的には、被接合金属部材1と第二タブ材3の継ぎ目(境界線)上に摩擦攪拌のルートを設定し、当該ルートに沿って小型回転ツールFを相対移動させることで、突合部J3に対して摩擦攪拌を行う。なお、本実施形態では、小型回転ツールFを途中で離脱させることなく第二タブ材接合工程の始点s3から終点e3まで連続して摩擦攪拌を行う。
【0050】
なお、小型回転ツールFを右回転させているので、小型回転ツールFの進行方向の右側に被接合金属部材1が位置するように第二タブ材接合工程の始点s3と終点e3の位置を設定する。このようにすると、被接合金属部材1側に接合欠陥が発生し難くなるので、高品質の接合体を得ることが可能となる。ちなみに、小型回転ツールFを左回転させた場合には、小型回転ツールFの進行方向の左側に被接合金属部材1が位置するように第二タブ材接合工程の始点と終点の位置を設定することが望ましい。
【0051】
なお、小型回転ツールFの攪拌ピンF2(図2の(a)参照)が突合部J3に入り込むと、被接合金属部材1と第二タブ材3を引き離そうとする力が作用するが、被接合金属部材1と第二タブ材3の入隅部3aを溶接により仮接合しているので、被接合金属部材1と第二タブ材3との間に目開きが発生することがない。
【0052】
小型回転ツールFが第二タブ材接合工程の終点e3に達したら、終点e3で摩擦攪拌を終了させずに、第二タブ材3に設けた終了位置EPまで連続して摩擦攪拌を行う。なお、本実施形態では、被接合金属部材1の表面A側に現れる被接合金属部材1の継ぎ目(境界線)の延長線上に終了位置EPを設けている。ちなみに、終了位置EPは、後記する第一本接合工程における摩擦攪拌の開始位置SM1でもある。
【0053】
小型回転ツールFが終了位置EPに達したら、小型回転ツールFを回転させつつ上昇させて攪拌ピンF2(図2の(a)参照)を終了位置EPから離脱させる。
【0054】
下穴形成工程は、図2の(b)に示すように、第一本接合工程における摩擦攪拌の開始位置SM1に下穴P1を形成する工程である。即ち、下穴形成工程は、大型回転ツールGの攪拌ピンG2の挿入予定位置に下穴P1を形成する工程である。
【0055】
下穴P1は、大型回転ツールGの攪拌ピンG2の挿入抵抗(圧入抵抗)を低減する目的で設けられるものであり、本実施形態では、小型回転ツールFの攪拌ピンF2(図2の(a)参照)を離脱させたときに形成される抜き穴H1を図示せぬドリルなどで拡径することで形成される。抜き穴H1を利用すれば、下穴P1の形成工程を簡略化することが可能となるので、作業時間を短縮することが可能となる。下穴P1の形態に特に制限はないが、本実施形態では、円筒状としている。なお、本実施形態では、第二タブ材3に下穴P1を形成しているが、下穴P1の位置に特に制限はなく、第一タブ材2に形成してもよいし、突合部J2,J3に形成してもよいが、好適には、本実施形態の如く被接合金属部材1の表面A側に現れる継ぎ目(境界線)の延長線上に形成することが望ましい。
【0056】
(3)第一本接合工程
第一本接合工程は、被接合金属部材1の突合部J1を本格的に接合する工程である。本実施形態に係る第一本接合工程では、図2の(b)に示す大型回転ツールGを使用し、仮接合された状態の突合部J1に対して被接合金属部材1の表面A側から摩擦攪拌を行う。
【0057】
第一本接合工程では、図5の(a)〜(c)に示すように、開始位置SM1に形成した下穴P1に大型回転ツールGの攪拌ピンG2を挿入(圧入)し、挿入した攪拌ピンG2を途中で離脱させることなく終了位置EM1まで移動させる。即ち、第一本接合工程では、下穴P1から摩擦攪拌を開始し、終了位置EM1まで連続して摩擦攪拌を行う。なお、本実施形態では、第二タブ材3に摩擦攪拌の開始位置SM1を設け、第一タブ材2に終了位置EM1を設けているが、開始位置SM1と終了位置EM1の位置を限定する趣旨ではない。
【0058】
図5の(a)〜(c)を参照して第一本接合工程をより詳細に説明する。
まず、図5の(a)に示すように、下穴P1(開始位置SM1)の直上に大型回転ツールGを位置させ、続いて、大型回転ツールGを右回転させつつ下降させて攪拌ピンG2の先端を下穴P1に挿入する。攪拌ピンG2を下穴P1に入り込ませると、攪拌ピンG2の周面(側面)が下穴P1の穴壁に当接し、穴壁から金属が塑性流動化する。このような状態になると、塑性流動化した金属を攪拌ピンG2の周面で押し退けながら、攪拌ピンG2が圧入されることになるので、圧入初期段階における圧入抵抗を低減することが可能となり、また、大型回転ツールGのショルダ部G1が第二タブ材3の表面32に当接する前に攪拌ピンG2が下穴P1の穴壁に当接して摩擦熱が発生するので、塑性流動化するまでの時間を短縮することが可能となる。つまり、摩擦攪拌装置の負荷を低減することが可能となり、加えて、本接合に要する作業時間を短縮することが可能となる。
【0059】
攪拌ピンG2の全体が第二タブ材3に入り込み、かつ、ショルダ部G1の下端面G11の全面が第二タブ材3の表面32に接触したら、図5の(b)に示すように、摩擦攪拌を行いながら被接合金属部材1の突合部J1の一端に向けて大型回転ツールGを相対移動させ、さらに、突合部J3を横切らせて突合部J1に突入させる。大型回転ツールGを移動させると、その攪拌ピンG2の周囲にある金属が順次塑性流動化するとともに、攪拌ピンG2から離れた位置では、塑性流動化していた金属が再び硬化して塑性化領域W1(以下、「表側塑性化領域W1」という。)が形成される。
【0060】
被接合金属部材1への入熱量が過大になる虞がある場合には、大型回転ツールGの周囲に水を供給するなどして冷却することが望ましい。なお、第一金属部材1aと第二金属部材1bとの間に冷却水が入り込むと、接合面(端面11,11)に酸化皮膜を発生させる虞があるが、本実施形態においては、仮接合工程を実行して被接合金属部材1間の目地を閉塞しているので、被接合金属部材1間に冷却水が入り込み難く、したがって、接合部の品質を劣化させる虞がない。
【0061】
被接合金属部材1の突合部J1では、被接合金属部材1の継ぎ目上(仮接合工程における移動軌跡上)に摩擦攪拌のルートを設定し、当該ルートに沿って大型回転ツールGを相対移動させることで、突合部J1の一端から他端まで連続して摩擦攪拌を行う。突合部J1の他端まで大型回転ツールGを相対移動させたら、摩擦攪拌を行いながら突合部J2を横切らせ、そのまま終了位置EM1に向けて相対移動させる。
【0062】
なお、本実施形態では、被接合金属部材1の表面A側に現れる被接合金属部材1の継ぎ目(境界線)の延長線上に摩擦攪拌の開始位置SM1を設定しているので、第一本接合工程における摩擦攪拌のルートが一直線にすることができる。摩擦攪拌のルートを一直線にすると、大型回転ツールGの移動距離を最小限に抑えることができるので、第一本接合工程を効率よく行うことが可能となり、さらには、大型回転ツールGの磨耗量を低減することが可能となる。
【0063】
大型回転ツールGが終了位置EM1に達したら、図5の(c)に示すように、大型回転ツールGを回転させつつ上昇させて攪拌ピンG2を終了位置EM1(図5の(b)参照)から離脱させる。なお、終了位置EM1において攪拌ピンG2を上方に離脱させると、攪拌ピンG2と略同形の抜き穴Q1が不可避的に形成されることになるが、本実施形態では、そのまま残置する。
【0064】
ここで、第一本接合工程においては、大型回転ツールGのショルダ部G1を被接合金属部材1に押し込んで摩擦攪拌を行うため、被接合金属部材1の表面Aには、溝50が形成される。
【0065】
(4)第一溶接工程
第一溶接工程は、第一本接合工程により被接合金属部材1の表面Aに形成された表側塑性化領域W1に対して溶接を行う工程である。本実施形態に係る第一溶接工程では、図6の(a)及び(b)に示すように、表側塑性化領域W1のうち、少なくとも、第一補修領域R1、第二補修領域R2及び第三補修領域R3に対して溶接を行う。
【0066】
第一補修領域R1は、表側塑性化領域W1のうちトンネル欠陥が形成される慮りのある領域をいう。即ち、大型回転ツールGを右回転させた場合にはその進行方向の左側にトンネル欠陥が発生する虞があり、左回転させた場合には進行方向の右側にトンネル欠陥が発生する虞があるので、大型回転ツールGを右回転させた本実施形態においては、平面視して進行方向の左側に位置する表側塑性化領域W1の上部を少なくとも含むように第一補修領域R1を設定するとよい。
【0067】
第二補修領域R2は、表側塑性化領域W1のうち大型回転ツールGが突合部J2を横切る際に酸化皮膜(被接合金属部材1の側面14と第一タブ材2の当接面21に形成されていた酸化皮膜)が巻き込まれる慮りのある領域をいう。即ち、本実施形態の如く本接合工程における摩擦攪拌の終了位置EM1を第一タブ材2に設けた場合、大型回転ツールGを右回転させた場合にはその進行方向の右側にある表側塑性化領域W1の上部に酸化皮膜が巻き込まれている可能性が高く、左回転させた場合には進行方向の左側にある表側塑性化領域W1の上部に酸化皮膜が巻き込まれている可能性が高いので、大型回転ツールGを右回転させた本実施形態においては、第一タブ材2に隣接する表側塑性化領域W1のうち、平面視して進行方向の右側に位置する表側塑性化領域W1の上部を少なくとも含むように第二補修領域R2を設定するとよい。なお、被接合金属部材1と第一タブ材2の継ぎ目から第二補修領域R2の被接合金属部材1側の縁辺までの距離d4は、大型回転ツールGの攪拌ピンG2の最大外径Y2よりも大きくすることが望ましい。
【0068】
第三補修領域R3は、表側塑性化領域W1のうち大型回転ツールGが突合部J3を横切る際に酸化皮膜(被接合金属部材1の側面14と第二タブ材3の当接面31に形成されていた酸化皮膜)が巻き込まれる慮りのある領域をいう。即ち、本実施形態の如く本接合工程における摩擦攪拌の開始位置SM1を第二タブ材3に設けた場合、大型回転ツールGを右回転させた場合にはその進行方向の左側にある表側塑性化領域W1の上部に酸化皮膜が巻き込まれている可能性が高く、左回転させた場合には進行方向の右側にある表側塑性化領域W1の上部に酸化皮膜が巻き込まれている可能性が高いので、大型回転ツールGを右回転させた本実施形態においては、第二タブ材3に隣接する表側塑性化領域W1のうち、平面視して進行方向の左側に位置する表側塑性化領域W1の上部を少なくとも含むように第三補修領域R3を設定するとよい。なお、被接合金属部材1と第二タブ材3の継ぎ目から第三補修領域R3の被接合金属部材1側の縁辺までの距離d5は、大型回転ツールGの攪拌ピンG2の最大外径Y2よりも大きくすることが望ましい。
【0069】
第一溶接工程では、第一補修領域R1、第二補修領域R2及び第三補修領域R3を設定したら、図6の(b)に示すように、これらの補修領域に対してTIG溶接又はMIG溶接などの肉盛溶接を行う。即ち、図6の(c)に示すように、被接合金属部材1の表面Aには、表側塑性化領域W1の表面を底面とし、ショルダ部G1の外径Y1と略同等の幅からなる溝50が形成されている。そのため、溝50の底面(表側塑性化領域W1の表面)に対して肉盛溶接を行う。第一溶接工程で用いる溶加材は、被接合金属部材1と同等の組成であることが好ましい。
なお、図7に示すように、第一補修領域R1、第二補修領域R2及び第三補修領域R3にそれぞれ形成された溶接金属を溶接金属T1、溶接金属T2及び溶接金属T3とする。
【0070】
(5)第一補修工程
第一補修工程は、第一本接合工程により被接合金属部材1に形成された表側塑性化領域W1及び溶接金属T1〜T3に対して摩擦攪拌を行う工程であり、表側塑性化領域W1に含まれている可能性がある接合欠陥を補修する目的で行われるものである。
【0071】
本実施形態に係る第一補修工程では、図7及び図8に示すように、表側塑性化領域W1のうち、少なくとも、第一補修領域R1、第二補修領域R2及び第三補修領域R3に対して摩擦攪拌を行う。第一補修領域R1に対する摩擦攪拌は、大型回転ツールGの進行方向に沿って形成される虞のあるトンネル欠陥を分断することを目的として行われるものである。また、第二補修領域R2及び第三補修領域R3に対する摩擦攪拌は、大型回転ツールGが突合部J2又はJ3を横切る際に表側塑性化領域W1に巻き込まれた酸化皮膜を分断することを目的として行われるものである。
【0072】
本実施形態に係る第一補修工程では、大型回転ツールGよりも小型の補修用回転ツールE(図7参照)を用いて摩擦攪拌を行う。このようにすると、塑性化領域が必要以上に広がることを防止することが可能となる。
【0073】
補修用回転ツールEは、工具鋼など被接合金属部材1よりも硬質の金属材料からなり、図7に示すように、円柱状を呈するショルダ部E1と、このショルダ部E1の下端面に突設された攪拌ピン(プローブ)E2とを備えて構成されている。
【0074】
ショルダ部E1の外径は、本実施形態では、大型回転ツールGのショルダ部G1の二分の一程度に設定している。攪拌ピンE2は、ショルダ部E1の下端面から垂下しており、本実施形態では、先細りの円錐台状に成形されている。また、攪拌ピンE2の周面には、螺旋状に刻設された攪拌翼が形成されている。大型回転ツールGによる接合欠陥は、攪拌ピンG2の上端から1/3までの範囲に形成されることが多いので、補修用回転ツールEの攪拌ピンE2の長さは、大型回転ツールGの攪拌ピンG2の長さLB(図2の(b)参照)の1/3以上とすることが望ましいが、1/2よりも大きくなると、塑性化領域が必要以上に広がる虞があるので、1/2以下とすることが望ましい。なお、攪拌ピンE2の最大外径(上端径)及び最小外径(下端径)の大きさに特に制限はないが、本実施形態では、それぞれ、大型回転ツールGの攪拌ピンG2の最大外径(上端径)Y2及び最小外径(下端径)Y3よりも小さくなっている。
【0075】
第一補修工程では、一の補修領域に対する摩擦攪拌が終了する度に補修用回転ツールEを離脱させてもよいし、補修領域ごとに形態の異なる補修用回転ツールEを使用してもよいが、本実施形態では、図8に示すように、一の補修用回転ツールEを一筆書きの移動軌跡(ビード)を形成するように移動させて、第一補修領域R1、第二補修領域R2及び第三補修領域R3に対して連続して摩擦攪拌を行う。
即ち、本実施形態に係る第一補修工程では、摩擦攪拌の開始位置SRに挿入した補修用回転ツールEの攪拌ピンE2を途中で離脱させることなく終了位置ERまで移動させる。なお、本実施形態では、第一タブ材2に摩擦攪拌の開始位置SRを設けるとともに、第二タブ材3に終了位置ERを設け、第二補修領域R2、第一補修領域R1、第三補修領域R3の順序で摩擦攪拌を行う場合を例示するが、開始位置SRと終了位置ERの位置や摩擦攪拌の順序を限定する趣旨ではない。
【0076】
第一補修工程における摩擦攪拌の手順を、図8を参照してより詳細に説明する。
まず、第一タブ材2の適所に設けた開始位置SRに補修用回転ツールEの攪拌ピンE2を挿入(圧入)する。補修用回転ツールEの下端面E11(図7参照)を溶接金属T2に押し込むとともに、撹拌ピンE2が表面塑性化領域W1に達するように押込み量を設定する。この際、補修用回転ツールEの下端面E11を溶接金属T2中にもぐり込ませて、補修用回転ツールEの下端面E11と、表側塑性化領域W1の表面が接する程度に押し込むのが好ましい。これにより、摩擦攪拌を行う際の押し込み圧(押圧力)を確保するとともに、第一補修工程によって形成された塑性化領域と、表側塑性化領域W1の表面を面一に形成することができる。そして、補修用回転ツールEを相対移動させて第二補修領域R2に対して摩擦攪拌を行う。
【0077】
第二補修領域R2に対して溶接金属T2を押し込みながら摩擦攪拌を行うと、被接合金属部材1の側面14と第一タブ材2の当接面21にある酸化皮膜が表側塑性化領域W1に巻き込まれた場合であっても、当該酸化皮膜を確実に分断することが可能となるので、第一タブ材2に隣接する表側塑性化領域W1においても接合欠陥が発生し難くなる。なお、補修用回転ツールEで摩擦攪拌できる領域に比して第二補修領域R2が大きい場合には、摩擦攪拌のルートをずらしつつ補修用回転ツールEを何度かUターンさせればよい。
【0078】
第二補修領域R2に対する摩擦攪拌が終了したら、補修用回転ツールEを離脱させずにそのまま第一補修領域R1に移動させ、前記した第一本接合工程における摩擦攪拌のルートに沿って連続して摩擦攪拌を行う。第一補修領域R1に対して溶接金属T1を押し込みながら摩擦攪拌を行うと、本接合工程における摩擦攪拌のルートに沿ってトンネル欠陥が連続して形成された場合であっても、これを確実に分断することが可能となるので、接合欠陥が発生し難くなる。
【0079】
第一補修領域R1に対する摩擦攪拌が終了したら、補修用回転ツールEを離脱させずにそのまま第三補修領域R3に移動させ、第三補修領域R3に対して摩擦攪拌を行う。第三補修領域R3に対して溶接金属T3を押し込みながら摩擦攪拌を行うと、被接合金属部材1の側面14と第二タブ材3の当接面31にある酸化皮膜が表側塑性化領域W1に巻き込まれた場合であっても、当該酸化皮膜を確実に分断することが可能となるので、第二タブ材3に隣接する表側塑性化領域W1においても接合欠陥が発生し難くなる。なお、補修用回転ツールEで摩擦攪拌できる領域に比して第三補修領域R3が大きい場合には、摩擦攪拌のルートをずらしつつ補修用回転ツールEを何度かUターンさせればよい。
【0080】
第三補修領域R3に対する摩擦攪拌が終了したら、補修用回転ツールEを終了位置ERに移動させ、補修用回転ツールEを回転させつつ上昇させて攪拌ピンE2(図7参照)を終了位置ERから離脱させる。
【0081】
(6)第一横断補修工程
第一横断補修工程も、第一本接合工程により被接合金属部材1に形成された表側塑性化領域W1に対して摩擦攪拌を行う工程であり、突合部J1の接合強度を高めるために行うものである。
【0082】
本実施形態に係る第一横断補修工程では、図9に示すように、表側塑性化領域W1を複数回横断するように補修用回転ツールEを移動させることで、表側塑性化領域W1に対して摩擦攪拌を行う。即ち、第一横断補修工程では、表側塑性化領域W1を複数回横断するように摩擦攪拌のルートを設定する。このようにすると、表側塑性化領域W1に沿ってトンネル欠陥が形成されていたとしても、当該トンネル欠陥を充分な確実性をもって分断することが可能となる。
【0083】
第一横断補修工程における摩擦攪拌のルートは、表側塑性化領域W1に形成される複数の塑性化領域(以下、「再塑性化領域」という。)W3,W3,…が第一本接合工程における摩擦攪拌のルート(即ち、表側塑性化領域W1の中央線)上において互いに離間するように設定する。
【0084】
第一横断補修工程における摩擦攪拌のルートには、表側塑性化領域W1を横切る複数の交差ルートF12と、隣り合う交差ルートF12,F12の同側の端部同士を繋ぐ移行ルートF13とが設けられている。即ち、第一横断補修工程における摩擦攪拌のルートは、表側塑性化領域W1の側方から始まって表側塑性化領域W1を挟んで反対側に向かうように設定される第一の交差ルートF12と、この交差ルートF12の終点e10から始まって第一本接合工程における摩擦攪拌のルート(被接合金属部材1の継ぎ目)に沿うように設定される移行ルートF13と、この移行ルートF13の終点s10から始まって表側塑性化領域W1を挟んで反対側に向かうように設定される第二の交差ルートF12と、を少なくとも備えている。
【0085】
交差ルートF12は、表側塑性化領域W1を横切るように設定された摩擦攪拌のルートであり、本実施形態では、第一本接合工程における摩擦攪拌のルートと直交している。交差ルートF12の始点s10と終点e10は、表側塑性化領域W1の側方に位置しており、表側塑性化領域W1を挟んで対向している。
【0086】
交差ルートF12の始点s10と終点e10の位置は、補修用回転ツールEの全体が表側塑性化領域W1から抜け出るような位置に設定することが望ましいが、表側塑性化領域W1から必要以上に離れた位置に設定すると、補修用回転ツールEの移動距離が増大してしまうので、本実施形態では、始点s10から表側塑性化領域W1の側縁までの距離及び表側塑性化領域W1の側縁から終点e10までの距離が、補修用回転ツールEのショルダ部E1の外径X4(図10参照)の半分と等しくなるような位置に設定している。つまり、交差ルートF12の長さ(始点s10から終点e10までの距離)は、表側塑性化領域W1の幅寸法d6に、ショルダ部E1の外径X4を加えた値と等しくなる。ちなみに、補修用回転ツールEにより形成される塑性化領域の幅寸法d9は、ショルダ部D2の外径X4と略等しくなるので、交差ルートF12の長さは、表側塑性化領域W1の幅寸法d6に、補修用回転ツールEにより形成される塑性化領域の幅寸法d9を加えた値と略等しくなる。
【0087】
隣り合う交差ルートF12,F12の離隔距離d7は、第一本接合工程における摩擦攪拌のルート(即ち、表側塑性化領域W1の中央線)上において再塑性化領域W3,W3,…が互いに離間するような大きさに設定する。なお、隣り合う再塑性化領域W3,W3の離間距離d8は、再塑性化領域W3の幅寸法d9以上、より好適には幅寸法d9の2倍以上確保することが望ましい。
【0088】
移行ルートF13は、一の交差ルートF12の終点e10からこの交差ルートF12よりも摩擦攪拌の終了位置EC側に位置する他の交差ルートF12の始点s10に至る摩擦攪拌のルートであり、本実施形態では、表側塑性化領域W1の右側あるいは左側に設けられていて、かつ、第一本接合工程における摩擦攪拌のルートと平行になっている。
【0089】
移行ルートF13は、移行ルートF13に沿って補修用回転ツールEを移動させることで形成される塑性化領域W4が表側塑性化領域W1の側縁に接触するような位置に設定することが望ましい。なお、本実施形態では、前記したように、移行ルートF13の始点である交差ルートF12の終点e10と表側塑性化領域W1の側縁との距離及び移行ルートF13の終点である交差ルートF12の始点s10と表側塑性化領域W1の側縁との距離が、それぞれ補修用回転ツールEにより形成される塑性化領域の幅寸法d9の半分と等しくなっているので、塑性化領域W4は、必然的に、表側塑性化領域W1の側縁に接触することになる。
【0090】
以上のように、第一横断補修工程のルートを設定したら、補修用回転ツールEをルートに沿って相対移動させて開始位置SCから終了位置SEまで連続的に摩擦攪拌を行う。第一横断補修工程が終了したら、第一本接合工程、第一補修工程及び第一横断補修工程における摩擦攪拌で発生したバリを除去し、さらに、図11に示すように、被接合金属部材1を裏返し、裏面Bを上にする。
【0091】
(7)第二予備工程
第二予備工程は、第二本接合工程に先立って行われる工程であり、本実施形態では、図11に示すように、第二本接合工程における摩擦攪拌の開始位置SM2に下穴P2を形成する下穴形成工程を具備している。なお、第二予備工程の中に、前記した第一タブ材接合工程、仮接合工程及び第二タブ材接合工程を含ませてもよい。
【0092】
(8)第二本接合工程
第二本接合工程は、被接合金属部材1の突合部J1を本格的に接合する工程である。本実施形態に係る第二本接合工程では、図11の(a)及び(b)に示すように、第一本接合工程で使用した大型回転ツールGを使用して、突合部J1に対して被接合金属部材1の裏面B側から摩擦攪拌を行う。
【0093】
第二本接合工程では、第二タブ材3に設けた下穴P2(開始位置SM2)に大型回転ツールGの攪拌ピンG2を挿入(圧入)し、挿入した攪拌ピンG2を途中で離脱させることなく第一タブ材2に設けた終了位置EM2まで移動させる。即ち、第二本接合工程では、下穴P2から摩擦攪拌を開始し、終了位置EM2まで連続して摩擦攪拌を行う。
【0094】
図11の(a)〜(c)を参照して第二本接合工程をより詳細に説明する。
まず、図11の(a)に示すように、下穴P2の直上に大型回転ツールGを位置させ、続いて、大型回転ツールGを右回転させつつ下降させて攪拌ピンG2の先端を下穴P2に挿入する。
【0095】
攪拌ピンG2の全体が第二タブ材3に入り込み、かつ、ショルダ部G1の下端面G11の全面が第二タブ材3の表面に接触したら、図11の(b)に示すように、摩擦攪拌を行いながら大型回転ツールGを被接合金属部材1の突合部J1の一端に向けて相対移動させる。大型回転ツールGを移動させると、その攪拌ピンG2の周囲にある金属が順次塑性流動化するとともに、攪拌ピンG2から離れた位置では、塑性流動化していた金属が再び硬化して塑性化領域W2(以下、「裏側塑性化領域W2」という。)が形成される。
【0096】
被接合金属部材1の突合部J1の一端に到達したら、被接合金属部材1の継ぎ目に沿って大型回転ツールGを相対移動させて突合部J1の他端まで連続して摩擦攪拌を行い、さらに、摩擦攪拌を行いながら終了位置EM2まで相対移動させる。
【0097】
突合部J1に対して摩擦攪拌を行う際には、第一本接合工程で形成された表側塑性化領域W1に大型回転ツールGの攪拌ピンG2を入り込ませつつ摩擦攪拌を行う。このようにすると、第一本接合工程で形成された表側塑性化領域W1の深部が、攪拌ピンG2によって再び摩擦攪拌されることになるので、表側塑性化領域W1の深部に接合欠陥が連続的に形成されていたとしても、当該接合欠陥を分断して不連続にすることが可能となり、ひいては、接合部における気密性や水密性を向上させることが可能となる。
【0098】
大型回転ツールGが終了位置EM2に達したら、大型回転ツールGを回転させつつ上昇させて攪拌ピンG2を終了位置EM2から離脱させる(図11の(c)参照)。
ここで、第二本接合工程においては、大型回転ツールGのショルダ部G1を被接合金属部材1に押し込んで摩擦攪拌を行うため、被接合金属部材1の裏面Bには、溝51が形成される。
【0099】
第一本接合工程と第二本接合工程とで異なる形態の大型回転ツールを用いる場合には、例えば図12の(a)及び(b)に示すように、第一本接合工程で用いる大型回転ツールGの攪拌ピンG2の長さLBと第二本接合工程で用いる大型回転ツールG’の攪拌ピンG2’の長さLB’の和を、突合部J1における被接合金属部材1の肉厚t以上に設定することが望ましい。なお、攪拌ピンG2,G2’の長さLB,LB’が、それぞれ肉厚t未満であることは言うまでもない。このようにすれば、第一本接合工程で形成された表側塑性化領域W1の深部が、第二本接合工程で使用する大型回転ツールG’の攪拌ピンG2’によって再び摩擦攪拌されることになるので、表側塑性化領域W1の深部に接合欠陥が連続的に形成されていたとしても、当該接合欠陥を分断して不連続にすることが可能となり、ひいては、接合部における気密性や水密性を向上させることが可能となる。
【0100】
なお、より好適には、図12の(a)及び(b)に示すように、大型回転ツールG,G’の攪拌ピンG2,G2’の長さLB,LB’を、それぞれ、突合部J1における被接合金属部材1の肉厚tの1/2以上に設定することが望ましく、さらには、肉厚tの3/4以下に設定することが望ましい。攪拌ピンG2,G2’の長さLB,LB’を、肉厚tの1/2以上に設定すると、表側塑性化領域W1と裏側塑性化領域W2とが被接合金属部材1の肉厚方向の中央部において重複するとともに、表側塑性化領域W1の断面積と裏側塑性化領域W2の断面積との差が小さくなるので、接合部の品質が均質になり、攪拌ピンG2,G2’の長さLB,LB’を、肉厚tの3/4以下に設定すると、摩擦攪拌を行う際に裏当材が不要となるので、作業効率を向上させることが可能となる。
【0101】
より好適には、攪拌ピンG2,G2’の長さLB,LB’を、1.01≦(LB+LB’)/t≦1.10という関係を満たすように設定するとよい。(LB+LB’)/tを1.01以上にしておけば、被接合金属部材1に寸法公差等があったとしても、第二本接合工程において、攪拌ピンG2’を確実に表側塑性化領域W1に入り込ませることが可能となる。また、(LB+LB’)/tを1.10よりも大きくすると、各回転ツールが必要以上に大きくなって摩擦攪拌装置に掛かる負荷が大きくなるが、(LB+LB’)/tを1.10以下にしておけば、摩擦攪拌装置に掛かる負荷が小さいものとなる。
【0102】
(9)第二溶接工程
第二溶接工程は、第二本接合工程により被接合金属部材1の裏面Bに形成された裏側塑性化領域W2の所定の領域に対して溶接を行う工程である。本実施形態に係る第二溶接工程は、被接合金属部材1の裏面Bから溶接を行う点以外は、前記した第一溶接工程と同様であるので、詳細な説明は省略する。
【0103】
(10)第二補修工程
第二補修工程は、第二本接合工程により被接合金属部材1に形成された裏側塑性化領域W2及び第二溶接工程で形成された溶接金属に対して摩擦攪拌を行う工程であり、裏側塑性化領域W2に含まれている可能性がある接合欠陥を補修する目的で行われるものである。第二補修工程は、被接合金属部材1の裏面B側から摩擦攪拌を行うという点以外は、前記した第一補修工程と同様であるので、その詳細な説明は省略する。
【0104】
(11)第二横断補修工程
第二横断補修工程は、第二本接合工程により被接合金属部材1に形成された裏側塑性化領域W2に対して摩擦攪拌を行う工程であり、突合部J1の接合強度を高めるために行うものである。第二横断補修工程は、被接合金属部材1の裏面B側から摩擦攪拌を行うという点以外は、前記した第一横断補修工程と同様であるので、その詳細な説明は省略する。
【0105】
第二横断補修工程が終了したら、第二本接合工程、第二補修工程及び第二横断補修工程における摩擦攪拌で発生したバリを除去し、さらに、第一タブ材2及び第二タブ材3を切除する。
【0106】
以上のような(1)〜(11)の工程を経ることで、本接合工程によって形成された塑性化領域W1の内部の接合欠陥に対して溶接金属T1,T2,T3を押し込みながら摩擦攪拌を行うため、接合欠陥を確実に密閉することができる。
即ち、本実施形態においては、大型回転ツールGを右回転させているため、表側塑性化領域W1の進行方向左側に設定した補修領域R1(溶接金属T1)に対して摩擦攪拌(補修工程)を行うことで、表側塑性化領域W1の内部に形成されたトンネル欠陥を確実に密閉し、被接合金属部材1の気密性及び水密性を高めることができる。
また、表側塑性化領域W1の補修領域R2,R3に対して摩擦攪拌(補修工程)を行うことで、表側塑性化領域W1の内部に形成された酸化皮膜を確実に密閉し、被接合金属部材1の気密性及び水密性を高めることができる。
【0107】
また、補修工程を行う前に溶接を行って、表側塑性化領域W1の表面に肉盛溶接を行った後に摩擦攪拌するため、補修工程によって発生する溝の発生を抑制することができる。即ち、本接合工程の際に形成された溝50に金属が補充されることになるので、補修工程を行う際の溝の発生を抑制することができる。これにより、被接合金属部材1の表面Aを平滑に成形する作業を容易に行うことができる。なお、具体的な図示はしないが、被接合金属部材1の裏面B側においても、表面A側と同等の効果を得ることができる。
【0108】
また、第一本接合工程及び第二本接合工程によれば、表側塑性化領域W1及び裏側塑性化領域W2の先端側を重複させることができるため、被接合金属部材1の水密性及び気密性をより高めることができる。
【0109】
なお、本実施形態における摩擦攪拌においては、前記したような摩擦攪拌ルートを例にして説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、他のルートを設定してもよい。例えば、前記した横断補修工程では、摩擦攪拌のルートの一部である交差ルートF12を本接合工程における摩擦攪拌のルートに直交させた場合を例示したが(図9参照)、交差ルートF12を斜交させてもよい。交差ルートF12を斜交させることにより、方向転換の回数を削減することができるので、補修用回転ツールEの動きにより一層無駄がなくなり、トンネル欠陥をより一層効率よく分断することが可能となる。
【0110】
[変形例]
また、前記した補修工程では、第一補修領域R1、第二補修領域R2及び第三補修領域R3に対して摩擦攪拌を行ったが(図8参照)、第二補修領域R2と第三補修領域R3に対してのみ摩擦攪拌を行ってもよい。
【0111】
この場合には、図13に示すように、突合部J1の両端部のそれぞれにおいて、本接合工程で形成された塑性化領域に設定した第二補修領域R2(溶接金属T2)又は第三補修領域R3(溶接金属T3)を横切るように補修用回転ツールE’を移動させればよい。即ち、突合部J1の一方の端部において、突合部J2に沿って補修用回転ツールE’を移動させることで、第二補修領域R2に対して摩擦攪拌を行い、突合部J1の他方の端部において、突合部J3に沿って補修用回転ツールE’を移動させることで、第三補修領域R3に対して摩擦攪拌を行えばよい。具体的には、摩擦攪拌の開始位置SRを第一金属部材1aに設け、第二金属部材1bに向かって補修用回転ツールE’を移動させることで、被接合金属部材1の側縁部に対して摩擦攪拌を行えばよい。このようにしても、大型回転ツールGが突合部J2,J3を横切る際に巻き込んだ酸化皮膜が分断されることになるので、接合欠陥の極めて少ない接合体を得ることが可能になる。
【0112】
なお、突合部J2に沿って摩擦攪拌を行う際に、補修用回転ツールE’を右回転させた場合には、進行方向の左側に第一タブ材2が位置するように摩擦攪拌のルートを設定し、図示のように左回転させた場合には、進行方向の右側に第一タブ材2が位置するように摩擦攪拌のルートを設定する。同様に、突合部J3に沿って摩擦攪拌を行う際に、図示のように補修用回転ツールE’を右回転させた場合には、進行方向の左側に第二タブ材3が位置するように摩擦攪拌のルートを設定し、左回転させた場合には、進行方向の右側に第二タブ材3が位置するように摩擦攪拌のルートを設定する。いずれの場合も、摩擦攪拌の終了位置ERは、補修用回転ツールE’の攪拌ピンの抜き穴が被接合金属部材1に残らないように、第一タブ材2又は第二タブ材3に設けるとよい。
【0113】
[第二実施形態]
前記した第一実施形態では、被接合金属部材1を直線状に繋ぎ合せる場合を例示したが、被接合金属部材1をL字状やT字状に繋ぎ合せる場合にも前記した手法を適用することができる。なお、以下では、被接合金属部材1をL字状に繋ぎ合せる場合を例示する。
【0114】
第二実施形態に係る接合方法も、第一実施形態に係る接合方法と同じように、(1)準備工程、(2)第一予備工程、(3)第一本接合工程、(4)第一溶接工程、(5)第一補修工程、(6)第一横断補修工程、(7)第二予備工程、(8)第二本接合工程、(9)第二溶接工程、(10)第二補修工程、(11)第二横断補修工程を含んでいる。なお、第一予備工程、第一本接合工程、第一溶接工程、第一補修工程及び第一横断補修工程は、被接合金属部材1の表面A側から実行される工程であり、第二予備工程、第二本接合工程、第二溶接工程、第二補修工程及び第二横断補修工程は、被接合金属部材1の裏面B側から実行される工程である。
【0115】
(1)準備工程
図14を参照して準備工程を説明する。本実施形態に係る準備工程は、第一金属部材1aと第二金属部材1bとを突き合せる突合工程と、被接合金属部材1の突合部J1の両側に第一タブ材2と第二タブ材3を配置するタブ材配置工程とを具備している。
【0116】
突合工程では、第一金属部材1aと第二金属部材1bをL字状に配置し、第一金属部材1aの側面に第二金属部材1bの端面を密着させて被接合金属部材10を形成する。なお、被接合金属部材10の表面を表面A、裏面を裏面Bともいう。
【0117】
タブ材配置工程では、被接合金属部材10の突合部J1の一端側(外側)に第一タブ材2を配置して第一タブ材2の当接面21(図14の(b)参照)を被接合金属部材10の外側の側面に当接させるとともに、突合部J1の他端側に第二タブ材3を配置して第二タブ材3の当接面31,31(図14の(b)参照)を被接合金属部材10の内側の側面に当接させる。なお、被接合金属部材10をL字状に組み合わせた場合には、第一タブ材2及び第二タブ材3の一方(本実施形態では第二タブ材3)を、被接合金属部材10により形成された入隅部(被接合金属部材10の内側の側面により形成された角部)に配置する。
【0118】
また本実施形態では、被接合金属部材10と第一タブ材2とにより形成された入隅部2a,2aを溶接して被接合金属部材10と第一タブ材2とを接合し、被接合金属部材10と第二タブ材3とにより形成された入隅部3a,3aを溶接して被接合金属部材10と第二タブ材3とを接合する。
【0119】
準備工程が終了したら、被接合金属部材10、第一タブ材2及び第二タブ材3を図示せぬ摩擦攪拌装置の架台に載置し、クランプ等の図示せぬ治具を用いて移動不能に拘束する。
【0120】
(2)第一予備工程
第一予備工程は、被接合金属部材10と第一タブ材2との突合部J2を接合する第一タブ材接合工程と、被接合金属部材10の突合部J1を仮接合する仮接合工程と、被接合金属部材10と第二タブ材3との突合部J3を接合する第二タブ材接合工程と、第一本接合工程における摩擦攪拌の開始位置に下穴を形成する下穴形成工程とを具備している。
【0121】
本実施形態の第一予備接合工程でも、図15の(a)及び(b)に示すように、一の小型回転ツールFを一筆書きの移動軌跡(ビード)を形成するように移動させて、突合部J1,J2,J3に対して連続して摩擦攪拌を行う。
【0122】
本実施形態の第一予備接合工程における摩擦攪拌の手順をより詳細に説明する。
まず、小型回転ツールFの攪拌ピンF2を左回転させながら第一タブ材2の適所に設けた開始位置SPに挿入して摩擦攪拌を開始し、小型回転ツールFを第一タブ材接合工程の始点s2に向けて相対移動させる。
【0123】
小型回転ツールFを相対移動させて第一タブ材接合工程の始点s2まで連続して摩擦攪拌を行ったら、始点s2で小型回転ツールFを離脱させることなくそのまま第一タブ材接合工程に移行する。
【0124】
第一タブ材接合工程では、第一タブ材2と被接合金属部材10との突合部J2に対して摩擦攪拌を行う。具体的には、被接合金属部材10と第一タブ材2との継ぎ目上に摩擦攪拌のルートを設定し、当該ルートに沿って小型回転ツールFを相対移動させることで、突合部J2に対して摩擦攪拌を行う。本実施形態では、小型回転ツールFを途中で離脱させることなく第一タブ材接合工程の始点s2から終点e2まで連続して摩擦攪拌を行う。
【0125】
なお、小型回転ツールFを左回転させた場合には、進行方向の右側に微細な接合欠陥が発生する虞があるので、小型回転ツールFの進行方向の左側に被接合金属部材10が位置するように第一タブ材接合工程の始点s2と終点e2の位置を設定することが望ましい。このようにすると、被接合金属部材1側に接合欠陥が発生し難くなるので、高品質の接合体を得ることが可能となる。
【0126】
小型回転ツールFが第一タブ材接合工程の終点e2に達したら、終点e2で摩擦攪拌を終了させずに仮接合工程の始点s1まで連続して摩擦攪拌を行い、そのまま仮接合工程に移行する。なお、本実施形態では、第一タブ材接合工程の終点e2から仮接合工程の始点s1に至る摩擦攪拌のルートを第一タブ材2に設定している。
【0127】
仮接合工程では、被接合金属部材10の突合部J1に対して摩擦攪拌を行う。具体的には、被接合金属部材10の継ぎ目上に摩擦攪拌のルートを設定し、当該ルートに沿って小型回転ツールFを相対移動させることで、突合部J1に対して摩擦攪拌を行う。本実施形態では、小型回転ツールFを途中で離脱させることなく仮接合工程の始点s1から終点e1まで連続して摩擦攪拌を行う。
【0128】
小型回転ツールFが仮接合工程の終点e1に達したら、そのまま第二タブ材接合工程に移行する。即ち、第二タブ材接合工程の始点s3でもある仮接合工程の終点e1で小型回転ツールFを離脱させることなく第二タブ材接合工程に移行する。
【0129】
第二タブ材接合工程では、被接合金属部材10と第二タブ材3との突合部J3,J3に対して摩擦攪拌を行う。本実施形態では、第二タブ材接合工程の始点s3が、突合部J3,J3の中間に位置しているので、第二タブ材接合工程の始点s3から終点e3に至る摩擦攪拌のルートに折返し点m3を設け、小型回転ツールFを始点s3から折返し点m3に移動させた後に(図15の(a)参照)、小型回転ツールFを折返し点m3から終点e3に移動させることで(図15の(b)参照)、第二タブ材接合工程の始点s3から終点e3まで連続して摩擦攪拌を行う。即ち、小型回転ツールFを始点s3〜折返し点m3間で往復させた後に、小型回転ツールFを終点e3まで移動させることで、第二タブ材接合工程の始点s3から終点e3まで連続して摩擦攪拌を行う。なお、始点s3から折返し点m3に至る摩擦攪拌のルート及び折返し点m3から終点e3に至る摩擦攪拌のルートは、それぞれ、被接合金属部材10と第二タブ材3との継ぎ目上に設定する。
【0130】
始点s3、折返し点m3及び終点e3の位置関係に特に制限はないが、本実施形の如く小型回転ツールFを左回転させている場合には、少なくとも折返し点m3から終点e3に至る摩擦攪拌のルートにおいて小型回転ツールFの進行方向の左側に被接合金属部材10が位置するように、第二タブ材接合工程の始点s3、折返し点m3及び終点e3の位置を設定することが望ましい。この場合、始点s3〜折返し点m3間においては、往路においても復路においても被接合金属部材10と第二タブ材3との継ぎ目上に摩擦攪拌のルートを設定し、当該ルートに沿って小型回転ツールFを移動させることが望ましい。このようにすると、始点s3から折返し点m3に至るまでの間に、小型回転ツールFの進行方向の右側に被接合金属部材10が位置し、被接合金属部材10側に接合欠陥が発生したとしても、その後に行われる折返し点m3から終点e3に至る摩擦攪拌において小型回転ツールFの進行方向の左側に被接合金属部材10が位置することになるので、前記した接合欠陥が是正され、高品質の接合体を得ることが可能となる。
【0131】
ちなみに、小型回転ツールFを右回転させた場合には、折返し点から終点に至る摩擦攪拌のルートにおいて小型回転ツールFの進行方向の右側に被接合金属部材10が位置するように、第二タブ材接合工程の始点、折返し点及び終点の位置を設定することが望ましい。具体的には、図示は省略するが、小型回転ツールFを左回転させた場合の終点e3の位置に折返しを設け、小型回転ツールFを左回転させた場合の折返し点m3の位置に終点を設ければよい。
【0132】
図15の(b)に示すように、小型回転ツールFが第二タブ材接合工程の終点e3に達したら、終点e3で摩擦攪拌を終了させずに、第二タブ材3に設けた終了位置EPまで連続して摩擦攪拌を行う。小型回転ツールFが終了位置EPに達したら、小型回転ツールFを回転させつつ上昇させて攪拌ピンF2を終了位置EPから離脱させる。
【0133】
続いて、下穴形成工程を実行する。下穴形成工程は、第一本接合工程における摩擦攪拌の開始位置に下穴P1を形成する工程である。本実施形態に係る下穴形成工程では、被接合金属部材10と第二タブ材3との突合部J3に形成する。
【0134】
下穴P1の形成方法に制限はなく、例えば、図示せぬ公知のドリルを回転挿入することで形成することができるが、このほか、小型回転ツールFの攪拌ピンF2(図2の(a)参照)よりも大型で且つ大型回転ツールGの攪拌ピンG2(図2の(b)参照)よりも小型の攪拌ピンを有する回転ツールを回転させつつ抜き差しすることでも形成することができる。
【0135】
また、下穴P1の位置(即ち、第一本接合工程における摩擦攪拌の開始位置)にも制限はなく、第一タブ材2や第二タブ材3に形成してもよいし、突合部J2に形成してもよいが、本実施形態の如く被接合金属部材10の表面A側に現れる被接合金属部材10の継ぎ目(境界線)の延長線上か、あるいは、図示は省略するが、被接合金属部材10の継ぎ目の端部(即ち、突合部J1の端部)に形成することが望ましい。
【0136】
なお、被接合金属部材10の継ぎ目の延長線上に下穴P1を形成する場合には、図16に示すように、当該延長線上に第一予備工程における摩擦攪拌の終了位置EPを設け、小型回転ツールFの攪拌ピンF2を離脱させたときに形成される抜き穴をそのまま下穴とするか、あるいは抜き穴を図示せぬドリルなどで拡径して下穴を形成してもよい。このようにすると、下穴の加工作業を省略あるいは簡略化することが可能となるので、作業時間を短縮することが可能となる。
【0137】
(3)第一本接合工程
第一予備工程が終了したら、被接合金属部材10の突合部J1を本格的に接合する第一本接合工程を実行する。本実施形態に係る第一本接合工程では、図2の(a)に示す大型回転ツールGを使用し、仮接合された状態の突合部J1に対して被接合金属部材10の表面A側から摩擦攪拌を行う。
【0138】
第一本接合工程では、まず、図17に示すように、大型回転ツールGを左回転させつつ攪拌ピンG2を開始位置SM1(即ち、図15の(b)に示す下穴P1)に挿入し、摩擦攪拌を開始する。本実施形態では、被接合金属部材10と第二タブ材3との突合部J3に開始位置SM1を設けているので、大型回転ツールGの攪拌ピンG2を圧入する際に、塑性流動化した金属の一部が被接合金属部材10と第二タブ材3との間にある微細な隙間に流れ込み、その後に塑性流動化した金属の前記した隙間への逸散が緩和されるので、肉不足による接合欠陥が生じ難くなる。
【0139】
なお、下穴P1に大型回転ツールGの攪拌ピンG2を圧入すると、被接合金属部材10と第二タブ材3とを引き離そうとする力が作用するが、被接合金属部材10と第二タブ材3とにより形成された入隅部3a,3aを溶接により仮接合しているので、被接合金属部材10と第二タブ材3との間に目開きが発生することがない。
【0140】
被接合金属部材10の突合部J1の一端まで摩擦攪拌を行ったら、そのまま大型回転ツールGを突合部J1に突入させ、被接合金属部材10の継ぎ目上に設定された摩擦攪拌のルートに沿って大型回転ツールGを相対移動させることで、突合部J1の一端から他端まで連続して摩擦攪拌を行う。突合部J1の他端まで大型回転ツールGを相対移動させたら、摩擦攪拌を行いながら突合部J2を横切らせ、そのまま終了位置EM1に向けて相対移動させる。
【0141】
大型回転ツールGが終了位置EM1に達したら、大型回転ツールGを回転させながら上昇させて攪拌ピンG2を終了位置EM1から離脱させる。ここで、第一本接合工程においては、大型回転ツールGのショルダ部G1を被接合金属部材1に押し込んで摩擦攪拌を行うため、被接合金属部材1の表面Aには、溝50(図19の(c)参照)が形成される。なお、終了位置EM1において攪拌ピンG2を上方に離脱させると、攪拌ピンG2と略同形の抜き穴Q1が不可避的に形成されることになるが、本実施形態では、そのまま残置する。
【0142】
なお、本実施形態においては、第一本接合工程における摩擦攪拌の開始位置を突合部J3に設けた場合を例示したが、図18の(a)に示すように、第二タブ材3に設けてもよいし、図18の(b)に示すように、第一タブ材2に設けてもよい。
【0143】
(4)第一溶接工程
第一溶接工程は、第一本接合工程により被接合金属部材10の表面Aに形成された表側塑性化領域W1に対して溶接を行う工程である。本実施形態に係る第一溶接工程では、図19の(a)及び(b)に示すように、表側塑性化領域W1のうち、少なくとも、第一補修領域R1、第二補修領域R2に対して溶接を行う。
【0144】
第一補修領域R1は、表側塑性化領域W1のうちトンネル欠陥が形成される慮りのある領域をいう。即ち、大型回転ツールGを右回転させた場合にはその進行方向の左側にトンネル欠陥が発生する虞があり、左回転させた場合には進行方向の右側にトンネル欠陥が発生する虞があるので、大型回転ツールGを左回転させた本実施形態においては、平面視して進行方向の右側に位置する表側塑性化領域W1の上部を少なくとも含むように第一補修領域R1を設定するとよい。
【0145】
第二補修領域R2は、表側塑性化領域W1のうち大型回転ツールGが突合部J2を横切る際に酸化皮膜(被接合金属部材10の側面14と第一タブ材2の当接面21に形成されていた酸化皮膜)が巻き込まれる慮りのある領域をいう。即ち、本実施形態の如く本接合工程における摩擦攪拌の終了位置EM1を第一タブ材2に設けた場合、大型回転ツールGを右回転させた場合にはその進行方向の右側にある表側塑性化領域W1の上部に酸化皮膜が巻き込まれている可能性が高く、左回転させた場合には進行方向の左側にある表側塑性化領域W1の上部に酸化皮膜が巻き込まれている可能性が高いので、大型回転ツールGを左回転させた本実施形態においては、第一タブ材2に隣接する表側塑性化領域W1のうち、平面視して進行方向の左側に位置する表側塑性化領域W1の上部を少なくとも含むように第二補修領域R2を設定するとよい。
【0146】
第一溶接工程では、第一補修領域R1及び第二補修領域R2を設定したら、図19の(c)に示すように、これらの補修領域に対してTIG溶接又はMIG溶接などの肉盛溶接を行う。即ち、図19の(c)に示すように、被接合金属部材1の表面Aには、表側塑性化領域W1の表面を底面とし、ショルダ部G1の外径Y1と略同等の幅からなる溝50が形成されている。そのため、そのため、溝50の底面(表側塑性化領域W1の表面)に対して肉盛溶接を行う。第一溶接工程で用いる溶加材は、被接合金属部材1と同等の組成であることが好ましい。
なお、図19の(b)に示すように、第一補修領域R1及び第二補修領域R2にそれぞれ形成された溶接金属を溶接金属T1及び溶接金属T2とする。
【0147】
(5)第一補修工程
第一補修工程は、第一本接合工程により被接合金属部材10に形成された表側塑性化領域W1及び溶接金属T1及びT2に対して摩擦攪拌を行う工程であり、表側塑性化領域W1に含まれている可能性のある接合欠陥を補修する目的で行われるものである。
【0148】
本実施形態に係る第一補修工程では、図20に示すように、表側塑性化領域W1のうち、少なくとも、第一補修領域R1及び第二補修領域R2に対して摩擦攪拌を行う。第一補修領域R1に対する摩擦攪拌は、大型回転ツールGの進行方向に沿って形成される虞のあるトンネル欠陥を分断することを目的として行われるものである。また、第二補修領域R2に対する摩擦攪拌は、大型回転ツールGが突合部J2を横切る際に表側塑性化領域W1に巻き込まれた酸化皮膜を分断することを目的として行われるものである。
【0149】
本実施形態に係る第一補修工程では、大型回転ツールGよりも小型の補修用回転ツールE(図7参照)を用いて摩擦攪拌を行う。このようにすると、塑性化領域が必要以上に広がることを防止することが可能となる。補修用回転ツールEは、第一実施形態と同等であるため、詳細な説明は省略する。
【0150】
第一補修工程では、図20に示すように、一の補修用回転ツールEを一筆書きの移動軌跡(ビード)を形成するように移動させて、第一補修領域R1(溶接金属T1)及び第二補修領域R2(溶接金属T2)に対して連続して摩擦攪拌を行う。なお、本実施形態では、第一補修領域R1、第二補修領域R2の順序で摩擦攪拌を行う場合を例示するが、摩擦攪拌の順序を限定する趣旨ではない。
【0151】
第一補修工程における摩擦攪拌の手順を図20を参照してより詳細に説明する。
まず、被接合金属部材1の適所に設けた開始位置SRに補修用回転ツールEの攪拌ピンを挿入(圧入)して摩擦攪拌を開始し、第一補修領域R1(図20参照)に対して摩擦攪拌を行う。本実施形態では、本接合工程における摩擦攪拌の開始位置SM1(図17参照)の近傍に開始位置SRを設けるとともに、開始位置SRを挟んで終了位置ERと反対側に折返し点MRを設け、補修用回転ツールEを折返し点MRに向かって相対移動させた後に、折返し点MRで折り返し、その後、突合部J1(図17参照)に沿って相対移動させることで、第一補修領域R1(図20参照)に対して摩擦攪拌を行う。開始位置SRから折返し点MRまでを摩擦攪拌することで、大型回転ツールGの攪拌ピンG2を開始位置SM1(図17参照)に挿入する際に巻き込まれた酸化皮膜を分断することが可能となる。
【0152】
なお、補修用回転ツールEの押込み量は、撹拌ピンE2(図7参照)が表面塑性化領域W1に達するように押込み量を設定する。この際、補修用回転ツールEの下端面E11を溶接金属T1中にもぐり込ませて、補修用回転ツールEの下端面E11と、表側塑性化領域W1の表面が接する程度に押し込むのが好ましい。これにより、摩擦攪拌を行う際の押し込み圧(押圧力)を確保するとともに、第一補修工程によって形成された塑性化領域と、表側塑性化領域W1の表面を面一に形成することができる。
【0153】
第一補修領域R1に対する摩擦攪拌が終了したら、補修用回転ツールEを離脱させずにそのまま第二補修領域R2に移動させ、第二補修領域R2に対して摩擦攪拌を行う。なお、補修用回転ツールEで摩擦攪拌できる領域に比して第二補修領域R2が大きい場合には、摩擦攪拌のルートをずらしつつ補修用回転ツールEを何度かUターンさせればよい。
【0154】
第二補修領域R2に対する摩擦攪拌が終了したら、補修用回転ツールEを終了位置ERに移動させ、補修用回転ツールEを回転させつつ上昇させて攪拌ピンE2を終了位置ERから離脱させる。
【0155】
(6)第一横断補修工程
第一補修工程が終了したら、表側塑性化領域W1を複数回横断するように補修用回転ツールEを移動させて、表側塑性化領域W1に対して摩擦攪拌を行う第一横断補修工程を行う。第一横断補修工程については、第一実施形態に係る第一横断補修工程と略同等であるから、詳細な説明は省略する。
【0156】
第一横断補修工程が終了したら、第一予備接合工程、第一本接合工程、第一補修工程及び第一横断補修工程における摩擦攪拌で発生したバリを除去し、さらに、図21に示すように、被接合金属部材10を裏返し、裏面Bを上にする。
【0157】
(7)第二予備工程
被接合金属部材10を裏返したら、第二予備工程を実行する。本実施形態に係る第二予備工程は、第二本接合工程における摩擦攪拌の開始位置SM2に下穴(図示略)を形成する下穴形成工程を具備している。
【0158】
(8)第二本接合工程
第二予備工程が終了したら、図21に示すように、第一本接合工程で使用した大型回転ツールGを左回転させて、突合部J1に対して被接合金属部材10の裏面B側から摩擦攪拌を行う第二本接合工程を実行する。本実施形態においては、突合部J3上であり、かつ、突合部J1の延長線上に開始位置SM2を設定し、第一タブ材2上の終了位置EM2まで連続して摩擦攪拌を行う。第二本接合工程の手順等は、前記した第一実施形態に係る第二本接合工程の場合と略同様であるので、その詳細な説明は省略する。
【0159】
(9)第二溶接工程
第二本接合工程が終了したら、図21に示すように、第二本接合工程により被接合金属部材10の裏面Bに形成された裏側塑性化領域W2のうち、第一補修領域R1及び第二補修領域R2に対して溶接を行う。第二本接合工程は、前記した第一実施形態に係る第二溶接工程の場合と同様であるので、その詳細な説明は省略する。
【0160】
(10)第二補修工程
第二溶接工程が終了したら、溶接金属T1,T2及び裏側塑性化領域W2に対して摩擦攪拌を行う第二補修工程を実行する。第二補修工程は、被接合金属部材10の裏面B側から摩擦攪拌を行うという点以外は、前記した第一補修工程と同様であるので、その詳細な説明は省略する。
【0161】
(11)第二横断補修工程
第二補修工程が終了したら、第二本接合工程により被接合金属部材10に形成された裏側塑性化領域W2に対して摩擦攪拌を行う第二横断補修工程を実行する。第二横断補修工程は、被接合金属部材10の裏面B側から摩擦攪拌を行うという点以外は、前記した第一横断補修工程と同様であるので、その詳細な説明は省略する。
【0162】
第二横断補修工程が終了したら、第二本接合工程、第二補修工程及び第二横断補修工程における摩擦攪拌で発生したバリを除去し、さらに、第一タブ材2及び第二タブ材3を切除する。
【0163】
以上のような(1)〜(11)の工程を経ることで、第一実施形態と略同等の効果を得るとともに、一対の金属部材をL字状に接合する場合にも対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0164】
【図1】第一実施形態に係る金属部材、第一タブ材及び第二タブ材の配置を説明するための図であって、(a)は斜視図、(b)は平面図、(c)は(b)のI−I線断面図、(d)は(b)のII−II線断面図である。
【図2】(a)は小型回転ツールを説明するための側面図、(b)は大型回転ツールを説明するための側面図である。
【図3】(a)及び(b)は小型回転ツールを開始位置に挿入する状況を説明するための模式的な側面図である。
【図4】第一実施形態に係る第一タブ材接合工程、仮接合工程、第二タブ材接合工程を説明するための平面図である。
【図5】(a)は図4のIII−III断面図、(b)及び(c)は第一実施形態に係る第一本接合工程を説明するための断面図である。
【図6】(a)は、第一実施形態に係る第一補修工程において摩擦攪拌を行う領域を説明するための平面図であって、(b)は第一溶接工程を示した平面図、(c)は(b)のV−V断面図である。
【図7】図6の(b)のIV−IV断面図である。
【図8】第一実施形態に係る第一補修工程を説明するための平面図である。
【図9】第一実施形態に係る第一横断補修工程を説明するための平面図である。
【図10】図9のVI−VI断面図である。
【図11】(a)〜(c)は第一実施形態に係る第二本接合工程を説明するための断面図である。
【図12】(a)は第一本接合工程で用いる大型回転ツールを示す側面図、(b)は第二本接合工程で用いる大型回転ツールを示す側面図である。
【図13】第一実施形態に係る補修工程の変形例を説明するための平面図である。
【図14】第二実施形態に係る金属部材、第一タブ材及び第二タブ材の配置を説明するための図であって、(a)は斜視図、(b)は平面図である。
【図15】(a)及び(b)は、第二実施形態に係る第一予備工程を説明するための図である。
【図16】第二実施形態に係る第一予備工程の変形例を説明するための平面図である。
【図17】第二実施形態に係る第一本接合工程を説明するための平面図である。
【図18】(a)及び(b)は、第二実施形態に係る第一本接合工程の変形例を説明するための平面図である。
【図19】(a)は、第二実施形態に係る第一補修工程において摩擦攪拌を行う領域を説明するための平面図であって、(b)は第一溶接工程を示した平面図、(c)は(b)のVII−VII断面図である。
【図20】第二実施形態に係る第一補修工程を説明するための平面図である。
【図21】第二実施形態に係る第二本接合工程を説明するための断面図である。
【符号の説明】
【0165】
1 被接合金属部材
1a 第一金属部材
1b 第二金属部材
2 第一タブ材
3 第二タブ材
E 補修用回転ツール
F 小型回転ツール
F1 ショルダ部
F2 攪拌ピン
G 大型回転ツール
G1 ショルダ部
G2 攪拌ピン
J1〜J3 突合部
R 補修領域
T 溶接金属
W1,W2 塑性化領域
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦攪拌を利用した金属部材の接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属部材同士を接合する方法として、摩擦攪拌接合(FSW=Friction Stir Welding)が知られている。摩擦攪拌接合は、回転ツールを回転させつつ金属部材同士の突合部に沿って移動させ、回転ツールと金属部材との摩擦熱により突合部の金属を塑性流動させることで、金属部材同士を固相接合させるものである。なお、回転ツールは、円柱状を呈するショルダ部の下端面に攪拌ピン(プローブ)を突設してなるものが一般的である。
【0003】
例えば、一対の金属部材の突合部に対して回転ツールを用いて摩擦攪拌を行う場合、当該摩擦攪拌によって形成された塑性化領域の内部にトンネル状の空洞欠陥(以下、トンネル欠陥ともいう)が形成される可能性がある。また、例えば、一対の金属部材の突合部に対して回転ツールを用いて摩擦攪拌を行う場合、当該突合部の両側面に一対のタブ材を用いて、当該タブ材に摩擦攪拌の開始位置及び終了位置を設定する場合がある。かかる場合には、摩擦攪拌を行うことにより、タブ材と金属部材との間に形成される酸化皮膜を金属部材内に巻き込む可能性がある。
いずれの場合も、接合された金属部材に接合欠陥が形成される可能性があり、金属部材の気密性及び水密性が低下するという問題があった。
【0004】
そこで、特許文献1には、摩擦攪拌によって形成された塑性化領域に対して再度摩擦攪拌を行うことにより、塑性化領域の内部に形成された接合欠陥を補修する発明が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2002−1552号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、摩擦攪拌を行う場合、回転ツールのショルダ部の下端を金属部材に所定の深さで押し込んで金属部材を押圧しながら回転ツールを移動させる。したがって、接合された後の金属部材の表面には、塑性化領域を底面とする溝が発生してしまう。
ここで、特許文献1に係る発明のように、当該塑性化領域の表面に回転ツールを押し込んで、再度摩擦攪拌を行うと、補修を行った部分にさらに溝が形成されるため、溝の深さが大きくなってしまうという問題があった。
【0007】
このような観点から、本発明は、塑性化領域に形成される接合欠陥を確実に密閉するとともに、補修を行う際に形成される溝の発生を抑制することが可能な接合方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような課題を解決する本発明に係る接合方法は、金属部材同士の突合部に対して摩擦攪拌を行う本接合工程と、前記本接合工程で形成された塑性化領域に対して肉盛溶接を行う溶接工程と、前記溶接工程により形成された溶接金属及び前記塑性化領域に対して摩擦攪拌を行う補修工程と、を含んだ接合方法であって、前記本接合工程で用いる回転ツールを右回転させた場合は、前記回転ツールの進行方向左側の前記塑性化領域に対して前記溶接工程及び前記補修工程を行い、前記本接合工程で用いる回転ツールを左回転させた場合は、前記回転ツールの進行方向右側の前記塑性化領域に対して前記溶接工程及び前記補修工程を行うことを特徴とする。
【0009】
かかる接合方法によれば、摩擦攪拌によって形成された塑性化領域の内部の接合欠陥に対して溶接金属を押し込みながら摩擦攪拌を行うため、接合欠陥を確実に密閉することができる。即ち、塑性化領域の進行方向右側又は左側に対して、回転ツールの回転方向に応じて適宜溶接及び摩擦攪拌(補修工程)を行うことで、塑性化領域の内部に形成された空洞欠陥を確実に密閉し、金属部材の気密性及び水密性を高めることができる。また、補修工程を行う前に肉盛溶接を行って、塑性化領域の表面に溶接金属を形成することで、本接合工程の際に形成された溝に金属が補充されることになるので、補修工程を行う際の溝の発生を抑制することができる。
【0010】
また、本発明は、金属部材同士の突合部に対して摩擦攪拌を行う本接合工程と、前記本接合工程で形成された塑性化領域に対して肉盛溶接を行う溶接工程と、前記溶接工程により形成された溶接金属及び前記塑性化領域に対して摩擦攪拌を行う補修工程と、を含んだ接合方法であって、前記本接合工程では、前記金属部材同士の前記突合部の側方に配置されたタブ材に摩擦攪拌の開始位置を設け、少なくとも前記タブ材に隣接する前記塑性化領域に対して、前記溶接工程及び前記補修工程を行うことを特徴とすることが好ましい。
【0011】
かかる接合方法によれば、摩擦攪拌によって塑性化領域の内部に巻き込んだ酸化皮膜に対して溶接金属を押し込みながら摩擦攪拌を行うため、接合欠陥を確実に密閉することができる。また、補修工程を行う前に肉盛溶接を行って、塑性化領域の表面に溶接金属を形成することで、本接合工程の際に形成された溝に金属が補充されることになるので、補修工程を行う際の溝の発生を抑制することができる。
【0012】
また、前記本接合工程で用いる回転ツールを右回転させた場合は、前記回転ツールの進行方向左側の前記塑性化領域に対して前記溶接工程及び前記補修工程を行い、前記本接合工程で用いる回転ツールを左回転させた場合は、前記回転ツールの進行方向右側の前記塑性化領域に対して前記溶接工程及び前記補修工程を行うことが好ましい。このように、接合欠陥の発生する可能性が高い領域に応じて、補修を行うことで作業効率を高めることができる。
【0013】
また、本発明は、金属部材同士の突合部に対して摩擦攪拌を行う本接合工程と、前記本接合工程で形成された塑性化領域に対して肉盛溶接を行う溶接工程と、前記溶接工程により形成された溶接金属及び前記塑性化領域に対して摩擦攪拌を行う補修工程と、を含んだ接合方法であって、前記本接合工程では、前記金属部材同士の前記突合部の側方に配置されたタブ材に摩擦攪拌の終了位置を設け、少なくとも前記タブ材に隣接する前記塑性化領域に対して、前記溶接工程及び前記補修工程を行うことが好ましい。
【0014】
かかる接合方法によれば、摩擦攪拌によって塑性化領域の内部に巻き込んだ酸化皮膜に対して溶接金属を押し込みながら摩擦攪拌を行うため、接合欠陥を確実に密閉することができる。また、補修工程を行う前に肉盛溶接を行って、塑性化領域の表面に溶接金属を形成することで、本接合工程の際に形成された溝に金属が補充されることになるので、補修工程を行う際の溝の発生を抑制することができる。
【0015】
また、前記本接合工程で用いる回転ツールを右回転させた場合は、前記回転ツールの進行方向右側の前記塑性化領域に対して前記溶接工程及び前記補修工程を行い、前記本接合工程で用いる回転ツールを左回転させた場合は、前記回転ツールの進行方向左側の前記塑性化領域に対して前記溶接工程及び前記補修工程を行うことが好ましい。このように、接合欠陥の発生する可能性が高い領域に応じて、補修を行うことで作業効率を高めることができる。
【0016】
また、本発明は、前記本接合工程で用いる回転ツールよりも小型の回転ツールを用いて、前記補修工程を行うことが好ましい。かかる接合方法によれば、補修工程をスムーズに行うことができる。
【0017】
また、本発明は、前記本接合工程を行う前に、前記金属部材同士の前記突合部に対して摩擦攪拌を行う仮接合工程を含むことが好ましい。かかる接合方法によれば、本接合工程を行う際の金属部材同士の目開きを防止することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る接合方法によれば、塑性化領域に形成される接合欠陥を確実に密閉するとともに、補修を行う際に形成される溝の発生を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明を実施するための最良の形態として、摩擦攪拌を利用した金属部材同士の接合方法であって、金属部材同士の突合部に対して仮接合としての摩擦攪拌を行った後に、仮接合された状態の突合部に対して本接合としての摩擦攪拌を行う接合方法を例示する。
【0020】
[第一実施形態]
第一実施形態では、図1に示すように、平板状を呈する一対の第一金属部材1a及び第二金属部材1bを直線状に繋ぎ合せる場合を例示する。
まず、第一金属部材1a及び第二金属部材1bからなる被接合金属部材1を詳細に説明するとともに、この被接合金属部材1を接合する際に用いられる第一タブ材2と第二タブ材3を詳細に説明する。
【0021】
第一金属部材1a及び第二金属部材1bは、略同等の形状からなる板状を呈する金属部材である。第一金属部材1a及び第二金属部材1bは、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金、チタン、チタン合金、マグネシウム、マグネシウム合金など摩擦攪拌可能な金属材料からなる。第一金属部材1a及び第二金属部材1bの形状・寸法に特に制限はないが、第一金属部材1a及び第二金属部材1bの端面を突き合わせて形成される突合部J1における厚さ寸法を同一にすることが望ましい。
【0022】
第一タブ材2及び第二タブ材3は、被接合金属部材1の突合部J1を挟むように配置されるものであって、それぞれ、被接合金属部材1に添設され、被接合金属部材1の側面14側に現れる継ぎ目(境界線)を覆い隠す。第一タブ材2及び第二タブ材3の材質に特に制限はないが、本実施形態では、被接合金属部材1と同一組成の金属材料で形成している。また、第一タブ材2及び第二タブ材3の形状・寸法にも特に制限はないが、本実施形態では、その厚さ寸法を突合部J1における被接合金属部材1の厚さ寸法と同一にしている。
【0023】
次に、図2を参照して、仮接合に用いる回転ツール(以下、「小型回転ツールF」という。)及び本接合に用いる回転ツール(以下、「大型回転ツールG」という。)を詳細に説明する。
【0024】
図2の(a)に示す小型回転ツールFは、工具鋼など被接合金属部材1よりも硬質の金属材料からなり、円柱状を呈するショルダ部F1と、このショルダ部F1の下端面F11に突設された攪拌ピン(プローブ)F2とを備えて構成されている。小型回転ツールFの寸法・形状は、被接合金属部材1の材質や厚さ等に応じて設定すればよいが、少なくとも、後記する本接合工程で用いる大型回転ツールG(図2の(b)参照)よりも小型にする。このようにすると、本接合よりも小さな負荷で仮接合を行うことが可能となるので、仮接合時に摩擦攪拌装置に掛かる負荷を低減することが可能となり、さらには、小型回転ツールFの移動速度(送り速度)を大型回転ツールGの移動速度よりも高速にすることも可能になるので、仮接合に要する作業時間やコストを低減することが可能となる。
【0025】
ショルダ部F1の下端面F11は、塑性流動化した金属を押えて周囲への飛散を防止する役割を担う部位であり、本実施形態では、凹面状に成形されている。ショルダ部F1の外径X1の大きさに特に制限はないが、本実施形態では、大型回転ツールGのショルダ部G1の外径Y1よりも小さくなっている。
【0026】
攪拌ピンF2は、ショルダ部F1の下端面F11の中央から垂下しており、本実施形態では、先細りの円錐台状に成形されている。また、攪拌ピンF2の周面には、螺旋状に刻設された攪拌翼が形成されている。攪拌ピンF2の外径の大きさに特に制限はないが、本実施形態では、最大外径(上端径)X2が大型回転ツールGの攪拌ピンG2の最大外径(上端径)Y2よりも小さく、かつ、最小外径(下端径)X3が攪拌ピンG2の最小外径(下端径)Y3よりも小さい。攪拌ピンF2の長さLAは、大型回転ツールGの攪拌ピンG2の長さLBよりも小さくすることが望ましい。
【0027】
図2の(b)に示す大型回転ツールGは、工具鋼など被接合金属部材1よりも硬質の金属材料からなり、円柱状を呈するショルダ部G1と、このショルダ部G1の下端面G11に突設された攪拌ピン(プローブ)G2とを備えて構成されている。
【0028】
ショルダ部G1の下端面G11は、小型回転ツールFと同様に、凹面状に成形されている。攪拌ピンG2は、ショルダ部G1の下端面G11の中央から垂下しており、本実施形態では、先細りの円錐台状に成形されている。また、攪拌ピンG2の周面には、螺旋状に刻設された攪拌翼が形成されている。
【0029】
以下、本実施形態に係る接合方法を詳細に説明する。本実施形態に係る接合方法は、(1)準備工程、(2)第一予備工程、(3)第一本接合工程、(4)第一溶接工程、(5)第一補修工程、(6)第一横断補修工程、(7)第二予備工程、(8)第二本接合工程、(9)第二溶接工程、(10)第二補修工程、(11)第二横断補修工程を含むものである。なお、第一予備工程、第一本接合工程、第一溶接工程、第一補修工程及び第一横断補修工程は、被接合金属部材1の表面A(図1の(c)参照)側から実行される工程であり、第二予備工程、第二本接合工程、第二溶接工程、第二補修工程及び第二横断補修工程は、被接合金属部材1の裏面B(図1の(c)参照)側から実行される工程である。
【0030】
(1)準備工程
図1を参照して準備工程を説明する。準備工程は、接合すべき被接合金属部材1や摩擦攪拌の開始位置や終了位置が設けられる当て部材(第一タブ材2及び第二タブ材3)を準備する工程であり、本実施形態では、接合すべき被接合金属部材1を突き合せる突合工程と、被接合金属部材1の突合部J1の両側に第一タブ材2と第二タブ材3を配置するタブ材配置工程とを具備している。
【0031】
突合工程では、図1の(c)に示すように、第一金属部材1aの端面11に第二金属部材1bの端面11を密着させるとともに、第一金属部材1aの表面12と第二金属部材1bの表面12を面一にし、さらに、第一金属部材1aの裏面13と第二金属部材1bの裏面13を面一にする。
【0032】
タブ材配置工程では、図1の(b)に示すように、被接合金属部材1の突合部J1の一端側に第一タブ材2を配置してその当接面21を被接合金属部材1の側面14,14に当接させるとともに、突合部J1の他端側に第二タブ材3を配置してその当接面31を被接合金属部材1の側面14,14に当接させる。このとき、図1の(d)に示すように、第一タブ材2の表面22と第二タブ材3の表面32を被接合金属部材1の表面Aと面一にするとともに、第一タブ材2の裏面23と第二タブ材3の裏面33を被接合金属部材1の裏面Bと面一にする。
【0033】
また、本実施形態では、図1の(a)及び(b)に示すように、被接合金属部材1と第一タブ材2とにより形成された入隅部2a,2a(即ち、被接合金属部材1の側面14と第一タブ材2の側面24とにより形成された角部2a,2a)を溶接して被接合金属部材1と第一タブ材2とを接合し、被接合金属部材1と第二タブ材3とにより形成された入隅部3a,3a(即ち、被接合金属部材1の側面14と第二タブ材3の側面34とにより形成された角部3a,3a)を溶接して被接合金属部材1と第二タブ材3とを接合する。なお、入隅部2a,3aの全長に亘って連続して溶接を施してもよいし、断続して溶接を施してもよい。
【0034】
準備工程が終了したら、被接合金属部材1、第一タブ材2及び第二タブ材3を図示せぬ摩擦攪拌装置の架台に載置し、クランプ等の図示せぬ治具を用いて移動不能に拘束する。なお、溶接工程を省略する場合には、図示せぬ摩擦攪拌装置の架台上で、突合工程とタブ材配置工程を実行する。
【0035】
(2)第一予備工程
第一予備工程は、第一本接合工程に先立って行われる工程であり、本実施形態では、被接合金属部材1と第一タブ材2との突合部J2を接合する第一タブ材接合工程と、被接合金属部材1の突合部J1を仮接合する仮接合工程と、被接合金属部材1と第二タブ材3との突合部J3を接合する第二タブ材接合工程と、第一本接合工程における摩擦攪拌の開始位置に下穴を形成する下穴形成工程とを具備している。
【0036】
本実施形態の第一予備工程では、図4に示すように、一の小型回転ツールFを一筆書きの移動軌跡(ビード)を形成するように移動させて、突合部J1,J2,J3に対して連続して摩擦攪拌を行う。即ち、摩擦攪拌の開始位置SPに挿入した小型回転ツールFの攪拌ピンF2(図2の(b)参照)を途中で離脱させることなく終了位置EPまで移動させ、第一タブ材接合工程、仮接合工程及び第二タブ材接合工程を連続して実行する。なお、本実施形態では、第一タブ材2に摩擦攪拌の開始位置SPを設け、第二タブ材3に終了位置EPを設けているが、開始位置SPと終了位置EPの位置を限定する趣旨ではない。
【0037】
本実施形態の第一予備工程における摩擦攪拌の手順を図3及び図4を参照してより詳細に説明する。
まず、図3の(a)に示すように、第一タブ材2の適所に設けた開始位置SPの直上に小型回転ツールFを位置させ、続いて、小型回転ツールFを右回転させつつ下降させて攪拌ピンF2を開始位置SPに押し付ける。攪拌ピンF2が第一タブ材2の表面22に接触すると、摩擦熱によって攪拌ピンF2の周囲にある金属が塑性流動化し、図3の(b)に示すように、攪拌ピンF2が第一タブ材2に挿入される。
【0038】
攪拌ピンF2の全体が第一タブ材2に入り込み、かつ、ショルダ部F1の下端面F11の全面が第一タブ材2の表面22に接触したら、図4に示すように、小型回転ツールFを回転させつつ第一タブ材接合工程の始点s2に向けて相対移動させる。小型回転ツールFを移動させると、その攪拌ピンF2の周囲にある金属が順次塑性流動化するとともに、攪拌ピンF2から離れた位置では、塑性流動化していた金属が再び硬化する。
【0039】
小型回転ツールFを相対移動させて第一タブ材接合工程の始点s2まで連続して摩擦攪拌を行ったら、始点s2で小型回転ツールFを離脱させずにそのまま第一タブ材接合工程に移行する。
【0040】
第一タブ材接合工程では、第一タブ材2と被接合金属部材1との突合部J2に対して摩擦攪拌を行う。具体的には、被接合金属部材1と第一タブ材2の継ぎ目(境界線)上に摩擦攪拌のルートを設定し、当該ルートに沿って小型回転ツールFを相対移動させることで、突合部J2に対して摩擦攪拌を行う。なお、本実施形態では、小型回転ツールFを途中で離脱させることなく第一タブ材接合工程の始点s2から終点e2まで連続して摩擦攪拌を行う。
【0041】
なお、小型回転ツールFを右回転させた場合には、小型回転ツールFの進行方向の左側に微細な接合欠陥が発生する虞があるので、小型回転ツールFの進行方向の右側に被接合金属部材1が位置するように第一タブ材接合工程の始点s2と終点e2の位置を設定することが望ましい。このようにすると、被接合金属部材1側に接合欠陥が発生し難くなるので、高品質の接合体を得ることが可能となる。
【0042】
ちなみに、小型回転ツールFを左回転させた場合には、小型回転ツールFの進行方向の右側に微細な接合欠陥が発生する虞があるので、小型回転ツールFの進行方向の左側に被接合金属部材1が位置するように第一タブ材接合工程の始点と終点の位置を設定することが望ましい。具体的には、図示は省略するが、小型回転ツールFを右回転させた場合の終点e2の位置に始点を設け、小型回転ツールFを右回転させた場合の始点s2の位置に終点を設ければよい。
【0043】
なお、小型回転ツールFの攪拌ピンF2が突合部J2に入り込むと、被接合金属部材1と第一タブ材2を引き離そうとする力が作用するが、被接合金属部材1と第一タブ材2により形成された入隅部2aを溶接により仮接合しているので、被接合金属部材1と第一タブ材2との間に目開きが発生することがない。
【0044】
小型回転ツールFが第一タブ材接合工程の終点e2に達したら、終点e2で摩擦攪拌を終了させずに仮接合工程の始点s1まで連続して摩擦攪拌を行い、そのまま仮接合工程に移行する。即ち、第一タブ材接合工程の終点e2から仮接合工程の始点s1まで小型回転ツールFを離脱させずに摩擦攪拌を継続し、さらに、始点s1で小型回転ツールFを離脱させることなく仮接合工程に移行する。このようにすると、第一タブ材接合工程の終点e2での小型回転ツールFの離脱作業が不要となり、さらに、仮接合工程の始点s1での小型回転ツールFの挿入作業が不要となることから、予備的な接合作業の効率化・迅速化を図ることが可能となる。
【0045】
本実施形態では、第一タブ材接合工程の終点e2から仮接合工程の始点s1に至る摩擦攪拌のルートを第一タブ材2に設定し、小型回転ツールFを第一タブ材接合工程の終点e2から仮接合工程の始点s1に移動させる際の移動軌跡を第一タブ材2に形成する。このようにすると、第一タブ材接合工程の終点e2から仮接合工程の始点s1に至る工程中において、被接合金属部材1に接合欠陥が発生し難くなるので、高品質の接合体を得ることが可能となる。
【0046】
仮接合工程では、被接合金属部材1の突合部J1に対して摩擦攪拌を行う。具体的には、被接合金属部材1の継ぎ目(境界線)上に摩擦攪拌のルートを設定し、当該ルートに沿って小型回転ツールFを相対移動させることで、突合部J1の全長に亘って連続して摩擦攪拌を行う。なお、本実施形態では、小型回転ツールFを途中で離脱させることなく仮接合工程の始点s1から終点e1まで連続して摩擦攪拌を行う。このようにすると、仮接合工程中における小型回転ツールFの離脱作業が一切不要となることから、予備的な接合作業のより一層の効率化・迅速化を図ることが可能となる。
【0047】
小型回転ツールFが仮接合工程の終点e1に達したら、終点e1で摩擦攪拌を終了させずに第二タブ材接合工程の始点s3まで連続して摩擦攪拌を行い、そのまま第二タブ材接合工程に移行する。即ち、仮接合工程の終点e1から第二タブ材接合工程の始点s3まで小型回転ツールFを離脱させずに摩擦攪拌を継続し、さらに、始点s3で小型回転ツールFを離脱させることなく第二タブ材接合工程に移行する。このようにすると、仮接合工程の終点e1での小型回転ツールFの離脱作業が不要となり、さらに、第二タブ材接合工程の始点s3での小型回転ツールFの挿入作業が不要となることから、予備的な接合作業のより一層の効率化・迅速化を図ることが可能となる。
【0048】
本実施形態では、仮接合工程の終点e1から第二タブ材接合工程の始点s3に至る摩擦攪拌のルートを第二タブ材3に設定し、小型回転ツールFを仮接合工程の終点e1から第二タブ材接合工程の始点s3に移動させる際の移動軌跡を第二タブ材3に形成する。このようにすると、仮接合工程の終点e1から第二タブ材接合工程の始点s3に至る工程中において、被接合金属部材1に接合欠陥が発生し難くなるので、高品質の接合体を得ることが可能となる。
【0049】
第二タブ材接合工程では、被接合金属部材1と第二タブ材3との突合部J3に対して摩擦攪拌を行う。具体的には、被接合金属部材1と第二タブ材3の継ぎ目(境界線)上に摩擦攪拌のルートを設定し、当該ルートに沿って小型回転ツールFを相対移動させることで、突合部J3に対して摩擦攪拌を行う。なお、本実施形態では、小型回転ツールFを途中で離脱させることなく第二タブ材接合工程の始点s3から終点e3まで連続して摩擦攪拌を行う。
【0050】
なお、小型回転ツールFを右回転させているので、小型回転ツールFの進行方向の右側に被接合金属部材1が位置するように第二タブ材接合工程の始点s3と終点e3の位置を設定する。このようにすると、被接合金属部材1側に接合欠陥が発生し難くなるので、高品質の接合体を得ることが可能となる。ちなみに、小型回転ツールFを左回転させた場合には、小型回転ツールFの進行方向の左側に被接合金属部材1が位置するように第二タブ材接合工程の始点と終点の位置を設定することが望ましい。
【0051】
なお、小型回転ツールFの攪拌ピンF2(図2の(a)参照)が突合部J3に入り込むと、被接合金属部材1と第二タブ材3を引き離そうとする力が作用するが、被接合金属部材1と第二タブ材3の入隅部3aを溶接により仮接合しているので、被接合金属部材1と第二タブ材3との間に目開きが発生することがない。
【0052】
小型回転ツールFが第二タブ材接合工程の終点e3に達したら、終点e3で摩擦攪拌を終了させずに、第二タブ材3に設けた終了位置EPまで連続して摩擦攪拌を行う。なお、本実施形態では、被接合金属部材1の表面A側に現れる被接合金属部材1の継ぎ目(境界線)の延長線上に終了位置EPを設けている。ちなみに、終了位置EPは、後記する第一本接合工程における摩擦攪拌の開始位置SM1でもある。
【0053】
小型回転ツールFが終了位置EPに達したら、小型回転ツールFを回転させつつ上昇させて攪拌ピンF2(図2の(a)参照)を終了位置EPから離脱させる。
【0054】
下穴形成工程は、図2の(b)に示すように、第一本接合工程における摩擦攪拌の開始位置SM1に下穴P1を形成する工程である。即ち、下穴形成工程は、大型回転ツールGの攪拌ピンG2の挿入予定位置に下穴P1を形成する工程である。
【0055】
下穴P1は、大型回転ツールGの攪拌ピンG2の挿入抵抗(圧入抵抗)を低減する目的で設けられるものであり、本実施形態では、小型回転ツールFの攪拌ピンF2(図2の(a)参照)を離脱させたときに形成される抜き穴H1を図示せぬドリルなどで拡径することで形成される。抜き穴H1を利用すれば、下穴P1の形成工程を簡略化することが可能となるので、作業時間を短縮することが可能となる。下穴P1の形態に特に制限はないが、本実施形態では、円筒状としている。なお、本実施形態では、第二タブ材3に下穴P1を形成しているが、下穴P1の位置に特に制限はなく、第一タブ材2に形成してもよいし、突合部J2,J3に形成してもよいが、好適には、本実施形態の如く被接合金属部材1の表面A側に現れる継ぎ目(境界線)の延長線上に形成することが望ましい。
【0056】
(3)第一本接合工程
第一本接合工程は、被接合金属部材1の突合部J1を本格的に接合する工程である。本実施形態に係る第一本接合工程では、図2の(b)に示す大型回転ツールGを使用し、仮接合された状態の突合部J1に対して被接合金属部材1の表面A側から摩擦攪拌を行う。
【0057】
第一本接合工程では、図5の(a)〜(c)に示すように、開始位置SM1に形成した下穴P1に大型回転ツールGの攪拌ピンG2を挿入(圧入)し、挿入した攪拌ピンG2を途中で離脱させることなく終了位置EM1まで移動させる。即ち、第一本接合工程では、下穴P1から摩擦攪拌を開始し、終了位置EM1まで連続して摩擦攪拌を行う。なお、本実施形態では、第二タブ材3に摩擦攪拌の開始位置SM1を設け、第一タブ材2に終了位置EM1を設けているが、開始位置SM1と終了位置EM1の位置を限定する趣旨ではない。
【0058】
図5の(a)〜(c)を参照して第一本接合工程をより詳細に説明する。
まず、図5の(a)に示すように、下穴P1(開始位置SM1)の直上に大型回転ツールGを位置させ、続いて、大型回転ツールGを右回転させつつ下降させて攪拌ピンG2の先端を下穴P1に挿入する。攪拌ピンG2を下穴P1に入り込ませると、攪拌ピンG2の周面(側面)が下穴P1の穴壁に当接し、穴壁から金属が塑性流動化する。このような状態になると、塑性流動化した金属を攪拌ピンG2の周面で押し退けながら、攪拌ピンG2が圧入されることになるので、圧入初期段階における圧入抵抗を低減することが可能となり、また、大型回転ツールGのショルダ部G1が第二タブ材3の表面32に当接する前に攪拌ピンG2が下穴P1の穴壁に当接して摩擦熱が発生するので、塑性流動化するまでの時間を短縮することが可能となる。つまり、摩擦攪拌装置の負荷を低減することが可能となり、加えて、本接合に要する作業時間を短縮することが可能となる。
【0059】
攪拌ピンG2の全体が第二タブ材3に入り込み、かつ、ショルダ部G1の下端面G11の全面が第二タブ材3の表面32に接触したら、図5の(b)に示すように、摩擦攪拌を行いながら被接合金属部材1の突合部J1の一端に向けて大型回転ツールGを相対移動させ、さらに、突合部J3を横切らせて突合部J1に突入させる。大型回転ツールGを移動させると、その攪拌ピンG2の周囲にある金属が順次塑性流動化するとともに、攪拌ピンG2から離れた位置では、塑性流動化していた金属が再び硬化して塑性化領域W1(以下、「表側塑性化領域W1」という。)が形成される。
【0060】
被接合金属部材1への入熱量が過大になる虞がある場合には、大型回転ツールGの周囲に水を供給するなどして冷却することが望ましい。なお、第一金属部材1aと第二金属部材1bとの間に冷却水が入り込むと、接合面(端面11,11)に酸化皮膜を発生させる虞があるが、本実施形態においては、仮接合工程を実行して被接合金属部材1間の目地を閉塞しているので、被接合金属部材1間に冷却水が入り込み難く、したがって、接合部の品質を劣化させる虞がない。
【0061】
被接合金属部材1の突合部J1では、被接合金属部材1の継ぎ目上(仮接合工程における移動軌跡上)に摩擦攪拌のルートを設定し、当該ルートに沿って大型回転ツールGを相対移動させることで、突合部J1の一端から他端まで連続して摩擦攪拌を行う。突合部J1の他端まで大型回転ツールGを相対移動させたら、摩擦攪拌を行いながら突合部J2を横切らせ、そのまま終了位置EM1に向けて相対移動させる。
【0062】
なお、本実施形態では、被接合金属部材1の表面A側に現れる被接合金属部材1の継ぎ目(境界線)の延長線上に摩擦攪拌の開始位置SM1を設定しているので、第一本接合工程における摩擦攪拌のルートが一直線にすることができる。摩擦攪拌のルートを一直線にすると、大型回転ツールGの移動距離を最小限に抑えることができるので、第一本接合工程を効率よく行うことが可能となり、さらには、大型回転ツールGの磨耗量を低減することが可能となる。
【0063】
大型回転ツールGが終了位置EM1に達したら、図5の(c)に示すように、大型回転ツールGを回転させつつ上昇させて攪拌ピンG2を終了位置EM1(図5の(b)参照)から離脱させる。なお、終了位置EM1において攪拌ピンG2を上方に離脱させると、攪拌ピンG2と略同形の抜き穴Q1が不可避的に形成されることになるが、本実施形態では、そのまま残置する。
【0064】
ここで、第一本接合工程においては、大型回転ツールGのショルダ部G1を被接合金属部材1に押し込んで摩擦攪拌を行うため、被接合金属部材1の表面Aには、溝50が形成される。
【0065】
(4)第一溶接工程
第一溶接工程は、第一本接合工程により被接合金属部材1の表面Aに形成された表側塑性化領域W1に対して溶接を行う工程である。本実施形態に係る第一溶接工程では、図6の(a)及び(b)に示すように、表側塑性化領域W1のうち、少なくとも、第一補修領域R1、第二補修領域R2及び第三補修領域R3に対して溶接を行う。
【0066】
第一補修領域R1は、表側塑性化領域W1のうちトンネル欠陥が形成される慮りのある領域をいう。即ち、大型回転ツールGを右回転させた場合にはその進行方向の左側にトンネル欠陥が発生する虞があり、左回転させた場合には進行方向の右側にトンネル欠陥が発生する虞があるので、大型回転ツールGを右回転させた本実施形態においては、平面視して進行方向の左側に位置する表側塑性化領域W1の上部を少なくとも含むように第一補修領域R1を設定するとよい。
【0067】
第二補修領域R2は、表側塑性化領域W1のうち大型回転ツールGが突合部J2を横切る際に酸化皮膜(被接合金属部材1の側面14と第一タブ材2の当接面21に形成されていた酸化皮膜)が巻き込まれる慮りのある領域をいう。即ち、本実施形態の如く本接合工程における摩擦攪拌の終了位置EM1を第一タブ材2に設けた場合、大型回転ツールGを右回転させた場合にはその進行方向の右側にある表側塑性化領域W1の上部に酸化皮膜が巻き込まれている可能性が高く、左回転させた場合には進行方向の左側にある表側塑性化領域W1の上部に酸化皮膜が巻き込まれている可能性が高いので、大型回転ツールGを右回転させた本実施形態においては、第一タブ材2に隣接する表側塑性化領域W1のうち、平面視して進行方向の右側に位置する表側塑性化領域W1の上部を少なくとも含むように第二補修領域R2を設定するとよい。なお、被接合金属部材1と第一タブ材2の継ぎ目から第二補修領域R2の被接合金属部材1側の縁辺までの距離d4は、大型回転ツールGの攪拌ピンG2の最大外径Y2よりも大きくすることが望ましい。
【0068】
第三補修領域R3は、表側塑性化領域W1のうち大型回転ツールGが突合部J3を横切る際に酸化皮膜(被接合金属部材1の側面14と第二タブ材3の当接面31に形成されていた酸化皮膜)が巻き込まれる慮りのある領域をいう。即ち、本実施形態の如く本接合工程における摩擦攪拌の開始位置SM1を第二タブ材3に設けた場合、大型回転ツールGを右回転させた場合にはその進行方向の左側にある表側塑性化領域W1の上部に酸化皮膜が巻き込まれている可能性が高く、左回転させた場合には進行方向の右側にある表側塑性化領域W1の上部に酸化皮膜が巻き込まれている可能性が高いので、大型回転ツールGを右回転させた本実施形態においては、第二タブ材3に隣接する表側塑性化領域W1のうち、平面視して進行方向の左側に位置する表側塑性化領域W1の上部を少なくとも含むように第三補修領域R3を設定するとよい。なお、被接合金属部材1と第二タブ材3の継ぎ目から第三補修領域R3の被接合金属部材1側の縁辺までの距離d5は、大型回転ツールGの攪拌ピンG2の最大外径Y2よりも大きくすることが望ましい。
【0069】
第一溶接工程では、第一補修領域R1、第二補修領域R2及び第三補修領域R3を設定したら、図6の(b)に示すように、これらの補修領域に対してTIG溶接又はMIG溶接などの肉盛溶接を行う。即ち、図6の(c)に示すように、被接合金属部材1の表面Aには、表側塑性化領域W1の表面を底面とし、ショルダ部G1の外径Y1と略同等の幅からなる溝50が形成されている。そのため、溝50の底面(表側塑性化領域W1の表面)に対して肉盛溶接を行う。第一溶接工程で用いる溶加材は、被接合金属部材1と同等の組成であることが好ましい。
なお、図7に示すように、第一補修領域R1、第二補修領域R2及び第三補修領域R3にそれぞれ形成された溶接金属を溶接金属T1、溶接金属T2及び溶接金属T3とする。
【0070】
(5)第一補修工程
第一補修工程は、第一本接合工程により被接合金属部材1に形成された表側塑性化領域W1及び溶接金属T1〜T3に対して摩擦攪拌を行う工程であり、表側塑性化領域W1に含まれている可能性がある接合欠陥を補修する目的で行われるものである。
【0071】
本実施形態に係る第一補修工程では、図7及び図8に示すように、表側塑性化領域W1のうち、少なくとも、第一補修領域R1、第二補修領域R2及び第三補修領域R3に対して摩擦攪拌を行う。第一補修領域R1に対する摩擦攪拌は、大型回転ツールGの進行方向に沿って形成される虞のあるトンネル欠陥を分断することを目的として行われるものである。また、第二補修領域R2及び第三補修領域R3に対する摩擦攪拌は、大型回転ツールGが突合部J2又はJ3を横切る際に表側塑性化領域W1に巻き込まれた酸化皮膜を分断することを目的として行われるものである。
【0072】
本実施形態に係る第一補修工程では、大型回転ツールGよりも小型の補修用回転ツールE(図7参照)を用いて摩擦攪拌を行う。このようにすると、塑性化領域が必要以上に広がることを防止することが可能となる。
【0073】
補修用回転ツールEは、工具鋼など被接合金属部材1よりも硬質の金属材料からなり、図7に示すように、円柱状を呈するショルダ部E1と、このショルダ部E1の下端面に突設された攪拌ピン(プローブ)E2とを備えて構成されている。
【0074】
ショルダ部E1の外径は、本実施形態では、大型回転ツールGのショルダ部G1の二分の一程度に設定している。攪拌ピンE2は、ショルダ部E1の下端面から垂下しており、本実施形態では、先細りの円錐台状に成形されている。また、攪拌ピンE2の周面には、螺旋状に刻設された攪拌翼が形成されている。大型回転ツールGによる接合欠陥は、攪拌ピンG2の上端から1/3までの範囲に形成されることが多いので、補修用回転ツールEの攪拌ピンE2の長さは、大型回転ツールGの攪拌ピンG2の長さLB(図2の(b)参照)の1/3以上とすることが望ましいが、1/2よりも大きくなると、塑性化領域が必要以上に広がる虞があるので、1/2以下とすることが望ましい。なお、攪拌ピンE2の最大外径(上端径)及び最小外径(下端径)の大きさに特に制限はないが、本実施形態では、それぞれ、大型回転ツールGの攪拌ピンG2の最大外径(上端径)Y2及び最小外径(下端径)Y3よりも小さくなっている。
【0075】
第一補修工程では、一の補修領域に対する摩擦攪拌が終了する度に補修用回転ツールEを離脱させてもよいし、補修領域ごとに形態の異なる補修用回転ツールEを使用してもよいが、本実施形態では、図8に示すように、一の補修用回転ツールEを一筆書きの移動軌跡(ビード)を形成するように移動させて、第一補修領域R1、第二補修領域R2及び第三補修領域R3に対して連続して摩擦攪拌を行う。
即ち、本実施形態に係る第一補修工程では、摩擦攪拌の開始位置SRに挿入した補修用回転ツールEの攪拌ピンE2を途中で離脱させることなく終了位置ERまで移動させる。なお、本実施形態では、第一タブ材2に摩擦攪拌の開始位置SRを設けるとともに、第二タブ材3に終了位置ERを設け、第二補修領域R2、第一補修領域R1、第三補修領域R3の順序で摩擦攪拌を行う場合を例示するが、開始位置SRと終了位置ERの位置や摩擦攪拌の順序を限定する趣旨ではない。
【0076】
第一補修工程における摩擦攪拌の手順を、図8を参照してより詳細に説明する。
まず、第一タブ材2の適所に設けた開始位置SRに補修用回転ツールEの攪拌ピンE2を挿入(圧入)する。補修用回転ツールEの下端面E11(図7参照)を溶接金属T2に押し込むとともに、撹拌ピンE2が表面塑性化領域W1に達するように押込み量を設定する。この際、補修用回転ツールEの下端面E11を溶接金属T2中にもぐり込ませて、補修用回転ツールEの下端面E11と、表側塑性化領域W1の表面が接する程度に押し込むのが好ましい。これにより、摩擦攪拌を行う際の押し込み圧(押圧力)を確保するとともに、第一補修工程によって形成された塑性化領域と、表側塑性化領域W1の表面を面一に形成することができる。そして、補修用回転ツールEを相対移動させて第二補修領域R2に対して摩擦攪拌を行う。
【0077】
第二補修領域R2に対して溶接金属T2を押し込みながら摩擦攪拌を行うと、被接合金属部材1の側面14と第一タブ材2の当接面21にある酸化皮膜が表側塑性化領域W1に巻き込まれた場合であっても、当該酸化皮膜を確実に分断することが可能となるので、第一タブ材2に隣接する表側塑性化領域W1においても接合欠陥が発生し難くなる。なお、補修用回転ツールEで摩擦攪拌できる領域に比して第二補修領域R2が大きい場合には、摩擦攪拌のルートをずらしつつ補修用回転ツールEを何度かUターンさせればよい。
【0078】
第二補修領域R2に対する摩擦攪拌が終了したら、補修用回転ツールEを離脱させずにそのまま第一補修領域R1に移動させ、前記した第一本接合工程における摩擦攪拌のルートに沿って連続して摩擦攪拌を行う。第一補修領域R1に対して溶接金属T1を押し込みながら摩擦攪拌を行うと、本接合工程における摩擦攪拌のルートに沿ってトンネル欠陥が連続して形成された場合であっても、これを確実に分断することが可能となるので、接合欠陥が発生し難くなる。
【0079】
第一補修領域R1に対する摩擦攪拌が終了したら、補修用回転ツールEを離脱させずにそのまま第三補修領域R3に移動させ、第三補修領域R3に対して摩擦攪拌を行う。第三補修領域R3に対して溶接金属T3を押し込みながら摩擦攪拌を行うと、被接合金属部材1の側面14と第二タブ材3の当接面31にある酸化皮膜が表側塑性化領域W1に巻き込まれた場合であっても、当該酸化皮膜を確実に分断することが可能となるので、第二タブ材3に隣接する表側塑性化領域W1においても接合欠陥が発生し難くなる。なお、補修用回転ツールEで摩擦攪拌できる領域に比して第三補修領域R3が大きい場合には、摩擦攪拌のルートをずらしつつ補修用回転ツールEを何度かUターンさせればよい。
【0080】
第三補修領域R3に対する摩擦攪拌が終了したら、補修用回転ツールEを終了位置ERに移動させ、補修用回転ツールEを回転させつつ上昇させて攪拌ピンE2(図7参照)を終了位置ERから離脱させる。
【0081】
(6)第一横断補修工程
第一横断補修工程も、第一本接合工程により被接合金属部材1に形成された表側塑性化領域W1に対して摩擦攪拌を行う工程であり、突合部J1の接合強度を高めるために行うものである。
【0082】
本実施形態に係る第一横断補修工程では、図9に示すように、表側塑性化領域W1を複数回横断するように補修用回転ツールEを移動させることで、表側塑性化領域W1に対して摩擦攪拌を行う。即ち、第一横断補修工程では、表側塑性化領域W1を複数回横断するように摩擦攪拌のルートを設定する。このようにすると、表側塑性化領域W1に沿ってトンネル欠陥が形成されていたとしても、当該トンネル欠陥を充分な確実性をもって分断することが可能となる。
【0083】
第一横断補修工程における摩擦攪拌のルートは、表側塑性化領域W1に形成される複数の塑性化領域(以下、「再塑性化領域」という。)W3,W3,…が第一本接合工程における摩擦攪拌のルート(即ち、表側塑性化領域W1の中央線)上において互いに離間するように設定する。
【0084】
第一横断補修工程における摩擦攪拌のルートには、表側塑性化領域W1を横切る複数の交差ルートF12と、隣り合う交差ルートF12,F12の同側の端部同士を繋ぐ移行ルートF13とが設けられている。即ち、第一横断補修工程における摩擦攪拌のルートは、表側塑性化領域W1の側方から始まって表側塑性化領域W1を挟んで反対側に向かうように設定される第一の交差ルートF12と、この交差ルートF12の終点e10から始まって第一本接合工程における摩擦攪拌のルート(被接合金属部材1の継ぎ目)に沿うように設定される移行ルートF13と、この移行ルートF13の終点s10から始まって表側塑性化領域W1を挟んで反対側に向かうように設定される第二の交差ルートF12と、を少なくとも備えている。
【0085】
交差ルートF12は、表側塑性化領域W1を横切るように設定された摩擦攪拌のルートであり、本実施形態では、第一本接合工程における摩擦攪拌のルートと直交している。交差ルートF12の始点s10と終点e10は、表側塑性化領域W1の側方に位置しており、表側塑性化領域W1を挟んで対向している。
【0086】
交差ルートF12の始点s10と終点e10の位置は、補修用回転ツールEの全体が表側塑性化領域W1から抜け出るような位置に設定することが望ましいが、表側塑性化領域W1から必要以上に離れた位置に設定すると、補修用回転ツールEの移動距離が増大してしまうので、本実施形態では、始点s10から表側塑性化領域W1の側縁までの距離及び表側塑性化領域W1の側縁から終点e10までの距離が、補修用回転ツールEのショルダ部E1の外径X4(図10参照)の半分と等しくなるような位置に設定している。つまり、交差ルートF12の長さ(始点s10から終点e10までの距離)は、表側塑性化領域W1の幅寸法d6に、ショルダ部E1の外径X4を加えた値と等しくなる。ちなみに、補修用回転ツールEにより形成される塑性化領域の幅寸法d9は、ショルダ部D2の外径X4と略等しくなるので、交差ルートF12の長さは、表側塑性化領域W1の幅寸法d6に、補修用回転ツールEにより形成される塑性化領域の幅寸法d9を加えた値と略等しくなる。
【0087】
隣り合う交差ルートF12,F12の離隔距離d7は、第一本接合工程における摩擦攪拌のルート(即ち、表側塑性化領域W1の中央線)上において再塑性化領域W3,W3,…が互いに離間するような大きさに設定する。なお、隣り合う再塑性化領域W3,W3の離間距離d8は、再塑性化領域W3の幅寸法d9以上、より好適には幅寸法d9の2倍以上確保することが望ましい。
【0088】
移行ルートF13は、一の交差ルートF12の終点e10からこの交差ルートF12よりも摩擦攪拌の終了位置EC側に位置する他の交差ルートF12の始点s10に至る摩擦攪拌のルートであり、本実施形態では、表側塑性化領域W1の右側あるいは左側に設けられていて、かつ、第一本接合工程における摩擦攪拌のルートと平行になっている。
【0089】
移行ルートF13は、移行ルートF13に沿って補修用回転ツールEを移動させることで形成される塑性化領域W4が表側塑性化領域W1の側縁に接触するような位置に設定することが望ましい。なお、本実施形態では、前記したように、移行ルートF13の始点である交差ルートF12の終点e10と表側塑性化領域W1の側縁との距離及び移行ルートF13の終点である交差ルートF12の始点s10と表側塑性化領域W1の側縁との距離が、それぞれ補修用回転ツールEにより形成される塑性化領域の幅寸法d9の半分と等しくなっているので、塑性化領域W4は、必然的に、表側塑性化領域W1の側縁に接触することになる。
【0090】
以上のように、第一横断補修工程のルートを設定したら、補修用回転ツールEをルートに沿って相対移動させて開始位置SCから終了位置SEまで連続的に摩擦攪拌を行う。第一横断補修工程が終了したら、第一本接合工程、第一補修工程及び第一横断補修工程における摩擦攪拌で発生したバリを除去し、さらに、図11に示すように、被接合金属部材1を裏返し、裏面Bを上にする。
【0091】
(7)第二予備工程
第二予備工程は、第二本接合工程に先立って行われる工程であり、本実施形態では、図11に示すように、第二本接合工程における摩擦攪拌の開始位置SM2に下穴P2を形成する下穴形成工程を具備している。なお、第二予備工程の中に、前記した第一タブ材接合工程、仮接合工程及び第二タブ材接合工程を含ませてもよい。
【0092】
(8)第二本接合工程
第二本接合工程は、被接合金属部材1の突合部J1を本格的に接合する工程である。本実施形態に係る第二本接合工程では、図11の(a)及び(b)に示すように、第一本接合工程で使用した大型回転ツールGを使用して、突合部J1に対して被接合金属部材1の裏面B側から摩擦攪拌を行う。
【0093】
第二本接合工程では、第二タブ材3に設けた下穴P2(開始位置SM2)に大型回転ツールGの攪拌ピンG2を挿入(圧入)し、挿入した攪拌ピンG2を途中で離脱させることなく第一タブ材2に設けた終了位置EM2まで移動させる。即ち、第二本接合工程では、下穴P2から摩擦攪拌を開始し、終了位置EM2まで連続して摩擦攪拌を行う。
【0094】
図11の(a)〜(c)を参照して第二本接合工程をより詳細に説明する。
まず、図11の(a)に示すように、下穴P2の直上に大型回転ツールGを位置させ、続いて、大型回転ツールGを右回転させつつ下降させて攪拌ピンG2の先端を下穴P2に挿入する。
【0095】
攪拌ピンG2の全体が第二タブ材3に入り込み、かつ、ショルダ部G1の下端面G11の全面が第二タブ材3の表面に接触したら、図11の(b)に示すように、摩擦攪拌を行いながら大型回転ツールGを被接合金属部材1の突合部J1の一端に向けて相対移動させる。大型回転ツールGを移動させると、その攪拌ピンG2の周囲にある金属が順次塑性流動化するとともに、攪拌ピンG2から離れた位置では、塑性流動化していた金属が再び硬化して塑性化領域W2(以下、「裏側塑性化領域W2」という。)が形成される。
【0096】
被接合金属部材1の突合部J1の一端に到達したら、被接合金属部材1の継ぎ目に沿って大型回転ツールGを相対移動させて突合部J1の他端まで連続して摩擦攪拌を行い、さらに、摩擦攪拌を行いながら終了位置EM2まで相対移動させる。
【0097】
突合部J1に対して摩擦攪拌を行う際には、第一本接合工程で形成された表側塑性化領域W1に大型回転ツールGの攪拌ピンG2を入り込ませつつ摩擦攪拌を行う。このようにすると、第一本接合工程で形成された表側塑性化領域W1の深部が、攪拌ピンG2によって再び摩擦攪拌されることになるので、表側塑性化領域W1の深部に接合欠陥が連続的に形成されていたとしても、当該接合欠陥を分断して不連続にすることが可能となり、ひいては、接合部における気密性や水密性を向上させることが可能となる。
【0098】
大型回転ツールGが終了位置EM2に達したら、大型回転ツールGを回転させつつ上昇させて攪拌ピンG2を終了位置EM2から離脱させる(図11の(c)参照)。
ここで、第二本接合工程においては、大型回転ツールGのショルダ部G1を被接合金属部材1に押し込んで摩擦攪拌を行うため、被接合金属部材1の裏面Bには、溝51が形成される。
【0099】
第一本接合工程と第二本接合工程とで異なる形態の大型回転ツールを用いる場合には、例えば図12の(a)及び(b)に示すように、第一本接合工程で用いる大型回転ツールGの攪拌ピンG2の長さLBと第二本接合工程で用いる大型回転ツールG’の攪拌ピンG2’の長さLB’の和を、突合部J1における被接合金属部材1の肉厚t以上に設定することが望ましい。なお、攪拌ピンG2,G2’の長さLB,LB’が、それぞれ肉厚t未満であることは言うまでもない。このようにすれば、第一本接合工程で形成された表側塑性化領域W1の深部が、第二本接合工程で使用する大型回転ツールG’の攪拌ピンG2’によって再び摩擦攪拌されることになるので、表側塑性化領域W1の深部に接合欠陥が連続的に形成されていたとしても、当該接合欠陥を分断して不連続にすることが可能となり、ひいては、接合部における気密性や水密性を向上させることが可能となる。
【0100】
なお、より好適には、図12の(a)及び(b)に示すように、大型回転ツールG,G’の攪拌ピンG2,G2’の長さLB,LB’を、それぞれ、突合部J1における被接合金属部材1の肉厚tの1/2以上に設定することが望ましく、さらには、肉厚tの3/4以下に設定することが望ましい。攪拌ピンG2,G2’の長さLB,LB’を、肉厚tの1/2以上に設定すると、表側塑性化領域W1と裏側塑性化領域W2とが被接合金属部材1の肉厚方向の中央部において重複するとともに、表側塑性化領域W1の断面積と裏側塑性化領域W2の断面積との差が小さくなるので、接合部の品質が均質になり、攪拌ピンG2,G2’の長さLB,LB’を、肉厚tの3/4以下に設定すると、摩擦攪拌を行う際に裏当材が不要となるので、作業効率を向上させることが可能となる。
【0101】
より好適には、攪拌ピンG2,G2’の長さLB,LB’を、1.01≦(LB+LB’)/t≦1.10という関係を満たすように設定するとよい。(LB+LB’)/tを1.01以上にしておけば、被接合金属部材1に寸法公差等があったとしても、第二本接合工程において、攪拌ピンG2’を確実に表側塑性化領域W1に入り込ませることが可能となる。また、(LB+LB’)/tを1.10よりも大きくすると、各回転ツールが必要以上に大きくなって摩擦攪拌装置に掛かる負荷が大きくなるが、(LB+LB’)/tを1.10以下にしておけば、摩擦攪拌装置に掛かる負荷が小さいものとなる。
【0102】
(9)第二溶接工程
第二溶接工程は、第二本接合工程により被接合金属部材1の裏面Bに形成された裏側塑性化領域W2の所定の領域に対して溶接を行う工程である。本実施形態に係る第二溶接工程は、被接合金属部材1の裏面Bから溶接を行う点以外は、前記した第一溶接工程と同様であるので、詳細な説明は省略する。
【0103】
(10)第二補修工程
第二補修工程は、第二本接合工程により被接合金属部材1に形成された裏側塑性化領域W2及び第二溶接工程で形成された溶接金属に対して摩擦攪拌を行う工程であり、裏側塑性化領域W2に含まれている可能性がある接合欠陥を補修する目的で行われるものである。第二補修工程は、被接合金属部材1の裏面B側から摩擦攪拌を行うという点以外は、前記した第一補修工程と同様であるので、その詳細な説明は省略する。
【0104】
(11)第二横断補修工程
第二横断補修工程は、第二本接合工程により被接合金属部材1に形成された裏側塑性化領域W2に対して摩擦攪拌を行う工程であり、突合部J1の接合強度を高めるために行うものである。第二横断補修工程は、被接合金属部材1の裏面B側から摩擦攪拌を行うという点以外は、前記した第一横断補修工程と同様であるので、その詳細な説明は省略する。
【0105】
第二横断補修工程が終了したら、第二本接合工程、第二補修工程及び第二横断補修工程における摩擦攪拌で発生したバリを除去し、さらに、第一タブ材2及び第二タブ材3を切除する。
【0106】
以上のような(1)〜(11)の工程を経ることで、本接合工程によって形成された塑性化領域W1の内部の接合欠陥に対して溶接金属T1,T2,T3を押し込みながら摩擦攪拌を行うため、接合欠陥を確実に密閉することができる。
即ち、本実施形態においては、大型回転ツールGを右回転させているため、表側塑性化領域W1の進行方向左側に設定した補修領域R1(溶接金属T1)に対して摩擦攪拌(補修工程)を行うことで、表側塑性化領域W1の内部に形成されたトンネル欠陥を確実に密閉し、被接合金属部材1の気密性及び水密性を高めることができる。
また、表側塑性化領域W1の補修領域R2,R3に対して摩擦攪拌(補修工程)を行うことで、表側塑性化領域W1の内部に形成された酸化皮膜を確実に密閉し、被接合金属部材1の気密性及び水密性を高めることができる。
【0107】
また、補修工程を行う前に溶接を行って、表側塑性化領域W1の表面に肉盛溶接を行った後に摩擦攪拌するため、補修工程によって発生する溝の発生を抑制することができる。即ち、本接合工程の際に形成された溝50に金属が補充されることになるので、補修工程を行う際の溝の発生を抑制することができる。これにより、被接合金属部材1の表面Aを平滑に成形する作業を容易に行うことができる。なお、具体的な図示はしないが、被接合金属部材1の裏面B側においても、表面A側と同等の効果を得ることができる。
【0108】
また、第一本接合工程及び第二本接合工程によれば、表側塑性化領域W1及び裏側塑性化領域W2の先端側を重複させることができるため、被接合金属部材1の水密性及び気密性をより高めることができる。
【0109】
なお、本実施形態における摩擦攪拌においては、前記したような摩擦攪拌ルートを例にして説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、他のルートを設定してもよい。例えば、前記した横断補修工程では、摩擦攪拌のルートの一部である交差ルートF12を本接合工程における摩擦攪拌のルートに直交させた場合を例示したが(図9参照)、交差ルートF12を斜交させてもよい。交差ルートF12を斜交させることにより、方向転換の回数を削減することができるので、補修用回転ツールEの動きにより一層無駄がなくなり、トンネル欠陥をより一層効率よく分断することが可能となる。
【0110】
[変形例]
また、前記した補修工程では、第一補修領域R1、第二補修領域R2及び第三補修領域R3に対して摩擦攪拌を行ったが(図8参照)、第二補修領域R2と第三補修領域R3に対してのみ摩擦攪拌を行ってもよい。
【0111】
この場合には、図13に示すように、突合部J1の両端部のそれぞれにおいて、本接合工程で形成された塑性化領域に設定した第二補修領域R2(溶接金属T2)又は第三補修領域R3(溶接金属T3)を横切るように補修用回転ツールE’を移動させればよい。即ち、突合部J1の一方の端部において、突合部J2に沿って補修用回転ツールE’を移動させることで、第二補修領域R2に対して摩擦攪拌を行い、突合部J1の他方の端部において、突合部J3に沿って補修用回転ツールE’を移動させることで、第三補修領域R3に対して摩擦攪拌を行えばよい。具体的には、摩擦攪拌の開始位置SRを第一金属部材1aに設け、第二金属部材1bに向かって補修用回転ツールE’を移動させることで、被接合金属部材1の側縁部に対して摩擦攪拌を行えばよい。このようにしても、大型回転ツールGが突合部J2,J3を横切る際に巻き込んだ酸化皮膜が分断されることになるので、接合欠陥の極めて少ない接合体を得ることが可能になる。
【0112】
なお、突合部J2に沿って摩擦攪拌を行う際に、補修用回転ツールE’を右回転させた場合には、進行方向の左側に第一タブ材2が位置するように摩擦攪拌のルートを設定し、図示のように左回転させた場合には、進行方向の右側に第一タブ材2が位置するように摩擦攪拌のルートを設定する。同様に、突合部J3に沿って摩擦攪拌を行う際に、図示のように補修用回転ツールE’を右回転させた場合には、進行方向の左側に第二タブ材3が位置するように摩擦攪拌のルートを設定し、左回転させた場合には、進行方向の右側に第二タブ材3が位置するように摩擦攪拌のルートを設定する。いずれの場合も、摩擦攪拌の終了位置ERは、補修用回転ツールE’の攪拌ピンの抜き穴が被接合金属部材1に残らないように、第一タブ材2又は第二タブ材3に設けるとよい。
【0113】
[第二実施形態]
前記した第一実施形態では、被接合金属部材1を直線状に繋ぎ合せる場合を例示したが、被接合金属部材1をL字状やT字状に繋ぎ合せる場合にも前記した手法を適用することができる。なお、以下では、被接合金属部材1をL字状に繋ぎ合せる場合を例示する。
【0114】
第二実施形態に係る接合方法も、第一実施形態に係る接合方法と同じように、(1)準備工程、(2)第一予備工程、(3)第一本接合工程、(4)第一溶接工程、(5)第一補修工程、(6)第一横断補修工程、(7)第二予備工程、(8)第二本接合工程、(9)第二溶接工程、(10)第二補修工程、(11)第二横断補修工程を含んでいる。なお、第一予備工程、第一本接合工程、第一溶接工程、第一補修工程及び第一横断補修工程は、被接合金属部材1の表面A側から実行される工程であり、第二予備工程、第二本接合工程、第二溶接工程、第二補修工程及び第二横断補修工程は、被接合金属部材1の裏面B側から実行される工程である。
【0115】
(1)準備工程
図14を参照して準備工程を説明する。本実施形態に係る準備工程は、第一金属部材1aと第二金属部材1bとを突き合せる突合工程と、被接合金属部材1の突合部J1の両側に第一タブ材2と第二タブ材3を配置するタブ材配置工程とを具備している。
【0116】
突合工程では、第一金属部材1aと第二金属部材1bをL字状に配置し、第一金属部材1aの側面に第二金属部材1bの端面を密着させて被接合金属部材10を形成する。なお、被接合金属部材10の表面を表面A、裏面を裏面Bともいう。
【0117】
タブ材配置工程では、被接合金属部材10の突合部J1の一端側(外側)に第一タブ材2を配置して第一タブ材2の当接面21(図14の(b)参照)を被接合金属部材10の外側の側面に当接させるとともに、突合部J1の他端側に第二タブ材3を配置して第二タブ材3の当接面31,31(図14の(b)参照)を被接合金属部材10の内側の側面に当接させる。なお、被接合金属部材10をL字状に組み合わせた場合には、第一タブ材2及び第二タブ材3の一方(本実施形態では第二タブ材3)を、被接合金属部材10により形成された入隅部(被接合金属部材10の内側の側面により形成された角部)に配置する。
【0118】
また本実施形態では、被接合金属部材10と第一タブ材2とにより形成された入隅部2a,2aを溶接して被接合金属部材10と第一タブ材2とを接合し、被接合金属部材10と第二タブ材3とにより形成された入隅部3a,3aを溶接して被接合金属部材10と第二タブ材3とを接合する。
【0119】
準備工程が終了したら、被接合金属部材10、第一タブ材2及び第二タブ材3を図示せぬ摩擦攪拌装置の架台に載置し、クランプ等の図示せぬ治具を用いて移動不能に拘束する。
【0120】
(2)第一予備工程
第一予備工程は、被接合金属部材10と第一タブ材2との突合部J2を接合する第一タブ材接合工程と、被接合金属部材10の突合部J1を仮接合する仮接合工程と、被接合金属部材10と第二タブ材3との突合部J3を接合する第二タブ材接合工程と、第一本接合工程における摩擦攪拌の開始位置に下穴を形成する下穴形成工程とを具備している。
【0121】
本実施形態の第一予備接合工程でも、図15の(a)及び(b)に示すように、一の小型回転ツールFを一筆書きの移動軌跡(ビード)を形成するように移動させて、突合部J1,J2,J3に対して連続して摩擦攪拌を行う。
【0122】
本実施形態の第一予備接合工程における摩擦攪拌の手順をより詳細に説明する。
まず、小型回転ツールFの攪拌ピンF2を左回転させながら第一タブ材2の適所に設けた開始位置SPに挿入して摩擦攪拌を開始し、小型回転ツールFを第一タブ材接合工程の始点s2に向けて相対移動させる。
【0123】
小型回転ツールFを相対移動させて第一タブ材接合工程の始点s2まで連続して摩擦攪拌を行ったら、始点s2で小型回転ツールFを離脱させることなくそのまま第一タブ材接合工程に移行する。
【0124】
第一タブ材接合工程では、第一タブ材2と被接合金属部材10との突合部J2に対して摩擦攪拌を行う。具体的には、被接合金属部材10と第一タブ材2との継ぎ目上に摩擦攪拌のルートを設定し、当該ルートに沿って小型回転ツールFを相対移動させることで、突合部J2に対して摩擦攪拌を行う。本実施形態では、小型回転ツールFを途中で離脱させることなく第一タブ材接合工程の始点s2から終点e2まで連続して摩擦攪拌を行う。
【0125】
なお、小型回転ツールFを左回転させた場合には、進行方向の右側に微細な接合欠陥が発生する虞があるので、小型回転ツールFの進行方向の左側に被接合金属部材10が位置するように第一タブ材接合工程の始点s2と終点e2の位置を設定することが望ましい。このようにすると、被接合金属部材1側に接合欠陥が発生し難くなるので、高品質の接合体を得ることが可能となる。
【0126】
小型回転ツールFが第一タブ材接合工程の終点e2に達したら、終点e2で摩擦攪拌を終了させずに仮接合工程の始点s1まで連続して摩擦攪拌を行い、そのまま仮接合工程に移行する。なお、本実施形態では、第一タブ材接合工程の終点e2から仮接合工程の始点s1に至る摩擦攪拌のルートを第一タブ材2に設定している。
【0127】
仮接合工程では、被接合金属部材10の突合部J1に対して摩擦攪拌を行う。具体的には、被接合金属部材10の継ぎ目上に摩擦攪拌のルートを設定し、当該ルートに沿って小型回転ツールFを相対移動させることで、突合部J1に対して摩擦攪拌を行う。本実施形態では、小型回転ツールFを途中で離脱させることなく仮接合工程の始点s1から終点e1まで連続して摩擦攪拌を行う。
【0128】
小型回転ツールFが仮接合工程の終点e1に達したら、そのまま第二タブ材接合工程に移行する。即ち、第二タブ材接合工程の始点s3でもある仮接合工程の終点e1で小型回転ツールFを離脱させることなく第二タブ材接合工程に移行する。
【0129】
第二タブ材接合工程では、被接合金属部材10と第二タブ材3との突合部J3,J3に対して摩擦攪拌を行う。本実施形態では、第二タブ材接合工程の始点s3が、突合部J3,J3の中間に位置しているので、第二タブ材接合工程の始点s3から終点e3に至る摩擦攪拌のルートに折返し点m3を設け、小型回転ツールFを始点s3から折返し点m3に移動させた後に(図15の(a)参照)、小型回転ツールFを折返し点m3から終点e3に移動させることで(図15の(b)参照)、第二タブ材接合工程の始点s3から終点e3まで連続して摩擦攪拌を行う。即ち、小型回転ツールFを始点s3〜折返し点m3間で往復させた後に、小型回転ツールFを終点e3まで移動させることで、第二タブ材接合工程の始点s3から終点e3まで連続して摩擦攪拌を行う。なお、始点s3から折返し点m3に至る摩擦攪拌のルート及び折返し点m3から終点e3に至る摩擦攪拌のルートは、それぞれ、被接合金属部材10と第二タブ材3との継ぎ目上に設定する。
【0130】
始点s3、折返し点m3及び終点e3の位置関係に特に制限はないが、本実施形の如く小型回転ツールFを左回転させている場合には、少なくとも折返し点m3から終点e3に至る摩擦攪拌のルートにおいて小型回転ツールFの進行方向の左側に被接合金属部材10が位置するように、第二タブ材接合工程の始点s3、折返し点m3及び終点e3の位置を設定することが望ましい。この場合、始点s3〜折返し点m3間においては、往路においても復路においても被接合金属部材10と第二タブ材3との継ぎ目上に摩擦攪拌のルートを設定し、当該ルートに沿って小型回転ツールFを移動させることが望ましい。このようにすると、始点s3から折返し点m3に至るまでの間に、小型回転ツールFの進行方向の右側に被接合金属部材10が位置し、被接合金属部材10側に接合欠陥が発生したとしても、その後に行われる折返し点m3から終点e3に至る摩擦攪拌において小型回転ツールFの進行方向の左側に被接合金属部材10が位置することになるので、前記した接合欠陥が是正され、高品質の接合体を得ることが可能となる。
【0131】
ちなみに、小型回転ツールFを右回転させた場合には、折返し点から終点に至る摩擦攪拌のルートにおいて小型回転ツールFの進行方向の右側に被接合金属部材10が位置するように、第二タブ材接合工程の始点、折返し点及び終点の位置を設定することが望ましい。具体的には、図示は省略するが、小型回転ツールFを左回転させた場合の終点e3の位置に折返しを設け、小型回転ツールFを左回転させた場合の折返し点m3の位置に終点を設ければよい。
【0132】
図15の(b)に示すように、小型回転ツールFが第二タブ材接合工程の終点e3に達したら、終点e3で摩擦攪拌を終了させずに、第二タブ材3に設けた終了位置EPまで連続して摩擦攪拌を行う。小型回転ツールFが終了位置EPに達したら、小型回転ツールFを回転させつつ上昇させて攪拌ピンF2を終了位置EPから離脱させる。
【0133】
続いて、下穴形成工程を実行する。下穴形成工程は、第一本接合工程における摩擦攪拌の開始位置に下穴P1を形成する工程である。本実施形態に係る下穴形成工程では、被接合金属部材10と第二タブ材3との突合部J3に形成する。
【0134】
下穴P1の形成方法に制限はなく、例えば、図示せぬ公知のドリルを回転挿入することで形成することができるが、このほか、小型回転ツールFの攪拌ピンF2(図2の(a)参照)よりも大型で且つ大型回転ツールGの攪拌ピンG2(図2の(b)参照)よりも小型の攪拌ピンを有する回転ツールを回転させつつ抜き差しすることでも形成することができる。
【0135】
また、下穴P1の位置(即ち、第一本接合工程における摩擦攪拌の開始位置)にも制限はなく、第一タブ材2や第二タブ材3に形成してもよいし、突合部J2に形成してもよいが、本実施形態の如く被接合金属部材10の表面A側に現れる被接合金属部材10の継ぎ目(境界線)の延長線上か、あるいは、図示は省略するが、被接合金属部材10の継ぎ目の端部(即ち、突合部J1の端部)に形成することが望ましい。
【0136】
なお、被接合金属部材10の継ぎ目の延長線上に下穴P1を形成する場合には、図16に示すように、当該延長線上に第一予備工程における摩擦攪拌の終了位置EPを設け、小型回転ツールFの攪拌ピンF2を離脱させたときに形成される抜き穴をそのまま下穴とするか、あるいは抜き穴を図示せぬドリルなどで拡径して下穴を形成してもよい。このようにすると、下穴の加工作業を省略あるいは簡略化することが可能となるので、作業時間を短縮することが可能となる。
【0137】
(3)第一本接合工程
第一予備工程が終了したら、被接合金属部材10の突合部J1を本格的に接合する第一本接合工程を実行する。本実施形態に係る第一本接合工程では、図2の(a)に示す大型回転ツールGを使用し、仮接合された状態の突合部J1に対して被接合金属部材10の表面A側から摩擦攪拌を行う。
【0138】
第一本接合工程では、まず、図17に示すように、大型回転ツールGを左回転させつつ攪拌ピンG2を開始位置SM1(即ち、図15の(b)に示す下穴P1)に挿入し、摩擦攪拌を開始する。本実施形態では、被接合金属部材10と第二タブ材3との突合部J3に開始位置SM1を設けているので、大型回転ツールGの攪拌ピンG2を圧入する際に、塑性流動化した金属の一部が被接合金属部材10と第二タブ材3との間にある微細な隙間に流れ込み、その後に塑性流動化した金属の前記した隙間への逸散が緩和されるので、肉不足による接合欠陥が生じ難くなる。
【0139】
なお、下穴P1に大型回転ツールGの攪拌ピンG2を圧入すると、被接合金属部材10と第二タブ材3とを引き離そうとする力が作用するが、被接合金属部材10と第二タブ材3とにより形成された入隅部3a,3aを溶接により仮接合しているので、被接合金属部材10と第二タブ材3との間に目開きが発生することがない。
【0140】
被接合金属部材10の突合部J1の一端まで摩擦攪拌を行ったら、そのまま大型回転ツールGを突合部J1に突入させ、被接合金属部材10の継ぎ目上に設定された摩擦攪拌のルートに沿って大型回転ツールGを相対移動させることで、突合部J1の一端から他端まで連続して摩擦攪拌を行う。突合部J1の他端まで大型回転ツールGを相対移動させたら、摩擦攪拌を行いながら突合部J2を横切らせ、そのまま終了位置EM1に向けて相対移動させる。
【0141】
大型回転ツールGが終了位置EM1に達したら、大型回転ツールGを回転させながら上昇させて攪拌ピンG2を終了位置EM1から離脱させる。ここで、第一本接合工程においては、大型回転ツールGのショルダ部G1を被接合金属部材1に押し込んで摩擦攪拌を行うため、被接合金属部材1の表面Aには、溝50(図19の(c)参照)が形成される。なお、終了位置EM1において攪拌ピンG2を上方に離脱させると、攪拌ピンG2と略同形の抜き穴Q1が不可避的に形成されることになるが、本実施形態では、そのまま残置する。
【0142】
なお、本実施形態においては、第一本接合工程における摩擦攪拌の開始位置を突合部J3に設けた場合を例示したが、図18の(a)に示すように、第二タブ材3に設けてもよいし、図18の(b)に示すように、第一タブ材2に設けてもよい。
【0143】
(4)第一溶接工程
第一溶接工程は、第一本接合工程により被接合金属部材10の表面Aに形成された表側塑性化領域W1に対して溶接を行う工程である。本実施形態に係る第一溶接工程では、図19の(a)及び(b)に示すように、表側塑性化領域W1のうち、少なくとも、第一補修領域R1、第二補修領域R2に対して溶接を行う。
【0144】
第一補修領域R1は、表側塑性化領域W1のうちトンネル欠陥が形成される慮りのある領域をいう。即ち、大型回転ツールGを右回転させた場合にはその進行方向の左側にトンネル欠陥が発生する虞があり、左回転させた場合には進行方向の右側にトンネル欠陥が発生する虞があるので、大型回転ツールGを左回転させた本実施形態においては、平面視して進行方向の右側に位置する表側塑性化領域W1の上部を少なくとも含むように第一補修領域R1を設定するとよい。
【0145】
第二補修領域R2は、表側塑性化領域W1のうち大型回転ツールGが突合部J2を横切る際に酸化皮膜(被接合金属部材10の側面14と第一タブ材2の当接面21に形成されていた酸化皮膜)が巻き込まれる慮りのある領域をいう。即ち、本実施形態の如く本接合工程における摩擦攪拌の終了位置EM1を第一タブ材2に設けた場合、大型回転ツールGを右回転させた場合にはその進行方向の右側にある表側塑性化領域W1の上部に酸化皮膜が巻き込まれている可能性が高く、左回転させた場合には進行方向の左側にある表側塑性化領域W1の上部に酸化皮膜が巻き込まれている可能性が高いので、大型回転ツールGを左回転させた本実施形態においては、第一タブ材2に隣接する表側塑性化領域W1のうち、平面視して進行方向の左側に位置する表側塑性化領域W1の上部を少なくとも含むように第二補修領域R2を設定するとよい。
【0146】
第一溶接工程では、第一補修領域R1及び第二補修領域R2を設定したら、図19の(c)に示すように、これらの補修領域に対してTIG溶接又はMIG溶接などの肉盛溶接を行う。即ち、図19の(c)に示すように、被接合金属部材1の表面Aには、表側塑性化領域W1の表面を底面とし、ショルダ部G1の外径Y1と略同等の幅からなる溝50が形成されている。そのため、そのため、溝50の底面(表側塑性化領域W1の表面)に対して肉盛溶接を行う。第一溶接工程で用いる溶加材は、被接合金属部材1と同等の組成であることが好ましい。
なお、図19の(b)に示すように、第一補修領域R1及び第二補修領域R2にそれぞれ形成された溶接金属を溶接金属T1及び溶接金属T2とする。
【0147】
(5)第一補修工程
第一補修工程は、第一本接合工程により被接合金属部材10に形成された表側塑性化領域W1及び溶接金属T1及びT2に対して摩擦攪拌を行う工程であり、表側塑性化領域W1に含まれている可能性のある接合欠陥を補修する目的で行われるものである。
【0148】
本実施形態に係る第一補修工程では、図20に示すように、表側塑性化領域W1のうち、少なくとも、第一補修領域R1及び第二補修領域R2に対して摩擦攪拌を行う。第一補修領域R1に対する摩擦攪拌は、大型回転ツールGの進行方向に沿って形成される虞のあるトンネル欠陥を分断することを目的として行われるものである。また、第二補修領域R2に対する摩擦攪拌は、大型回転ツールGが突合部J2を横切る際に表側塑性化領域W1に巻き込まれた酸化皮膜を分断することを目的として行われるものである。
【0149】
本実施形態に係る第一補修工程では、大型回転ツールGよりも小型の補修用回転ツールE(図7参照)を用いて摩擦攪拌を行う。このようにすると、塑性化領域が必要以上に広がることを防止することが可能となる。補修用回転ツールEは、第一実施形態と同等であるため、詳細な説明は省略する。
【0150】
第一補修工程では、図20に示すように、一の補修用回転ツールEを一筆書きの移動軌跡(ビード)を形成するように移動させて、第一補修領域R1(溶接金属T1)及び第二補修領域R2(溶接金属T2)に対して連続して摩擦攪拌を行う。なお、本実施形態では、第一補修領域R1、第二補修領域R2の順序で摩擦攪拌を行う場合を例示するが、摩擦攪拌の順序を限定する趣旨ではない。
【0151】
第一補修工程における摩擦攪拌の手順を図20を参照してより詳細に説明する。
まず、被接合金属部材1の適所に設けた開始位置SRに補修用回転ツールEの攪拌ピンを挿入(圧入)して摩擦攪拌を開始し、第一補修領域R1(図20参照)に対して摩擦攪拌を行う。本実施形態では、本接合工程における摩擦攪拌の開始位置SM1(図17参照)の近傍に開始位置SRを設けるとともに、開始位置SRを挟んで終了位置ERと反対側に折返し点MRを設け、補修用回転ツールEを折返し点MRに向かって相対移動させた後に、折返し点MRで折り返し、その後、突合部J1(図17参照)に沿って相対移動させることで、第一補修領域R1(図20参照)に対して摩擦攪拌を行う。開始位置SRから折返し点MRまでを摩擦攪拌することで、大型回転ツールGの攪拌ピンG2を開始位置SM1(図17参照)に挿入する際に巻き込まれた酸化皮膜を分断することが可能となる。
【0152】
なお、補修用回転ツールEの押込み量は、撹拌ピンE2(図7参照)が表面塑性化領域W1に達するように押込み量を設定する。この際、補修用回転ツールEの下端面E11を溶接金属T1中にもぐり込ませて、補修用回転ツールEの下端面E11と、表側塑性化領域W1の表面が接する程度に押し込むのが好ましい。これにより、摩擦攪拌を行う際の押し込み圧(押圧力)を確保するとともに、第一補修工程によって形成された塑性化領域と、表側塑性化領域W1の表面を面一に形成することができる。
【0153】
第一補修領域R1に対する摩擦攪拌が終了したら、補修用回転ツールEを離脱させずにそのまま第二補修領域R2に移動させ、第二補修領域R2に対して摩擦攪拌を行う。なお、補修用回転ツールEで摩擦攪拌できる領域に比して第二補修領域R2が大きい場合には、摩擦攪拌のルートをずらしつつ補修用回転ツールEを何度かUターンさせればよい。
【0154】
第二補修領域R2に対する摩擦攪拌が終了したら、補修用回転ツールEを終了位置ERに移動させ、補修用回転ツールEを回転させつつ上昇させて攪拌ピンE2を終了位置ERから離脱させる。
【0155】
(6)第一横断補修工程
第一補修工程が終了したら、表側塑性化領域W1を複数回横断するように補修用回転ツールEを移動させて、表側塑性化領域W1に対して摩擦攪拌を行う第一横断補修工程を行う。第一横断補修工程については、第一実施形態に係る第一横断補修工程と略同等であるから、詳細な説明は省略する。
【0156】
第一横断補修工程が終了したら、第一予備接合工程、第一本接合工程、第一補修工程及び第一横断補修工程における摩擦攪拌で発生したバリを除去し、さらに、図21に示すように、被接合金属部材10を裏返し、裏面Bを上にする。
【0157】
(7)第二予備工程
被接合金属部材10を裏返したら、第二予備工程を実行する。本実施形態に係る第二予備工程は、第二本接合工程における摩擦攪拌の開始位置SM2に下穴(図示略)を形成する下穴形成工程を具備している。
【0158】
(8)第二本接合工程
第二予備工程が終了したら、図21に示すように、第一本接合工程で使用した大型回転ツールGを左回転させて、突合部J1に対して被接合金属部材10の裏面B側から摩擦攪拌を行う第二本接合工程を実行する。本実施形態においては、突合部J3上であり、かつ、突合部J1の延長線上に開始位置SM2を設定し、第一タブ材2上の終了位置EM2まで連続して摩擦攪拌を行う。第二本接合工程の手順等は、前記した第一実施形態に係る第二本接合工程の場合と略同様であるので、その詳細な説明は省略する。
【0159】
(9)第二溶接工程
第二本接合工程が終了したら、図21に示すように、第二本接合工程により被接合金属部材10の裏面Bに形成された裏側塑性化領域W2のうち、第一補修領域R1及び第二補修領域R2に対して溶接を行う。第二本接合工程は、前記した第一実施形態に係る第二溶接工程の場合と同様であるので、その詳細な説明は省略する。
【0160】
(10)第二補修工程
第二溶接工程が終了したら、溶接金属T1,T2及び裏側塑性化領域W2に対して摩擦攪拌を行う第二補修工程を実行する。第二補修工程は、被接合金属部材10の裏面B側から摩擦攪拌を行うという点以外は、前記した第一補修工程と同様であるので、その詳細な説明は省略する。
【0161】
(11)第二横断補修工程
第二補修工程が終了したら、第二本接合工程により被接合金属部材10に形成された裏側塑性化領域W2に対して摩擦攪拌を行う第二横断補修工程を実行する。第二横断補修工程は、被接合金属部材10の裏面B側から摩擦攪拌を行うという点以外は、前記した第一横断補修工程と同様であるので、その詳細な説明は省略する。
【0162】
第二横断補修工程が終了したら、第二本接合工程、第二補修工程及び第二横断補修工程における摩擦攪拌で発生したバリを除去し、さらに、第一タブ材2及び第二タブ材3を切除する。
【0163】
以上のような(1)〜(11)の工程を経ることで、第一実施形態と略同等の効果を得るとともに、一対の金属部材をL字状に接合する場合にも対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0164】
【図1】第一実施形態に係る金属部材、第一タブ材及び第二タブ材の配置を説明するための図であって、(a)は斜視図、(b)は平面図、(c)は(b)のI−I線断面図、(d)は(b)のII−II線断面図である。
【図2】(a)は小型回転ツールを説明するための側面図、(b)は大型回転ツールを説明するための側面図である。
【図3】(a)及び(b)は小型回転ツールを開始位置に挿入する状況を説明するための模式的な側面図である。
【図4】第一実施形態に係る第一タブ材接合工程、仮接合工程、第二タブ材接合工程を説明するための平面図である。
【図5】(a)は図4のIII−III断面図、(b)及び(c)は第一実施形態に係る第一本接合工程を説明するための断面図である。
【図6】(a)は、第一実施形態に係る第一補修工程において摩擦攪拌を行う領域を説明するための平面図であって、(b)は第一溶接工程を示した平面図、(c)は(b)のV−V断面図である。
【図7】図6の(b)のIV−IV断面図である。
【図8】第一実施形態に係る第一補修工程を説明するための平面図である。
【図9】第一実施形態に係る第一横断補修工程を説明するための平面図である。
【図10】図9のVI−VI断面図である。
【図11】(a)〜(c)は第一実施形態に係る第二本接合工程を説明するための断面図である。
【図12】(a)は第一本接合工程で用いる大型回転ツールを示す側面図、(b)は第二本接合工程で用いる大型回転ツールを示す側面図である。
【図13】第一実施形態に係る補修工程の変形例を説明するための平面図である。
【図14】第二実施形態に係る金属部材、第一タブ材及び第二タブ材の配置を説明するための図であって、(a)は斜視図、(b)は平面図である。
【図15】(a)及び(b)は、第二実施形態に係る第一予備工程を説明するための図である。
【図16】第二実施形態に係る第一予備工程の変形例を説明するための平面図である。
【図17】第二実施形態に係る第一本接合工程を説明するための平面図である。
【図18】(a)及び(b)は、第二実施形態に係る第一本接合工程の変形例を説明するための平面図である。
【図19】(a)は、第二実施形態に係る第一補修工程において摩擦攪拌を行う領域を説明するための平面図であって、(b)は第一溶接工程を示した平面図、(c)は(b)のVII−VII断面図である。
【図20】第二実施形態に係る第一補修工程を説明するための平面図である。
【図21】第二実施形態に係る第二本接合工程を説明するための断面図である。
【符号の説明】
【0165】
1 被接合金属部材
1a 第一金属部材
1b 第二金属部材
2 第一タブ材
3 第二タブ材
E 補修用回転ツール
F 小型回転ツール
F1 ショルダ部
F2 攪拌ピン
G 大型回転ツール
G1 ショルダ部
G2 攪拌ピン
J1〜J3 突合部
R 補修領域
T 溶接金属
W1,W2 塑性化領域
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属部材同士の突合部に対して摩擦攪拌を行う本接合工程と、
前記本接合工程で形成された塑性化領域に対して肉盛溶接を行う溶接工程と、
前記溶接工程により形成された溶接金属及び前記塑性化領域に対して摩擦攪拌を行う補修工程と、を含んだ接合方法であって、
前記本接合工程で用いる回転ツールを右回転させた場合は、前記回転ツールの進行方向左側の前記塑性化領域に対して前記溶接工程及び前記補修工程を行い、
前記本接合工程で用いる回転ツールを左回転させた場合は、前記回転ツールの進行方向右側の前記塑性化領域に対して前記溶接工程及び前記補修工程を行うことを特徴とする接合方法。
【請求項2】
金属部材同士の突合部に対して摩擦攪拌を行う本接合工程と、
前記本接合工程で形成された塑性化領域に対して肉盛溶接を行う溶接工程と、
前記溶接工程により形成された溶接金属及び前記塑性化領域に対して摩擦攪拌を行う補修工程と、を含んだ接合方法であって、
前記本接合工程では、前記金属部材同士の前記突合部の側方に配置されたタブ材に摩擦攪拌の開始位置を設け、少なくとも前記タブ材に隣接する前記塑性化領域に対して、前記溶接工程及び前記補修工程を行うことを特徴とする接合方法。
【請求項3】
前記本接合工程で用いる回転ツールを右回転させた場合は、前記回転ツールの進行方向左側の前記塑性化領域に対して前記溶接工程及び前記補修工程を行い、
前記本接合工程で用いる回転ツールを左回転させた場合は、前記回転ツールの進行方向右側の前記塑性化領域に対して前記溶接工程及び前記補修工程を行うことを特徴とする請求項2に記載の接合方法。
【請求項4】
金属部材同士の突合部に対して摩擦攪拌を行う本接合工程と、
前記本接合工程で形成された塑性化領域に対して肉盛溶接を行う溶接工程と、
前記溶接工程により形成された溶接金属及び前記塑性化領域に対して摩擦攪拌を行う補修工程と、を含んだ接合方法であって、
前記本接合工程では、前記金属部材同士の前記突合部の側方に配置されたタブ材に摩擦攪拌の終了位置を設け、少なくとも前記タブ材に隣接する前記塑性化領域に対して、前記溶接工程及び前記補修工程を行うことを特徴とする接合方法。
【請求項5】
前記本接合工程で用いる回転ツールを右回転させた場合は、前記回転ツールの進行方向右側の前記塑性化領域に対して前記溶接工程及び前記補修工程を行い、
前記本接合工程で用いる回転ツールを左回転させた場合は、前記回転ツールの進行方向左側の前記塑性化領域に対して前記溶接工程及び前記補修工程を行うことを特徴とする請求項4に記載の接合方法。
【請求項6】
前記本接合工程で用いる回転ツールよりも小型の回転ツールを用いて、前記補修工程を行うことを特徴とする請求項1乃至請求項5に記載の接合方法。
【請求項7】
前記本接合工程を行う前に、前記金属部材同士の前記突合部に対して摩擦攪拌を行う仮接合工程を含むことを特徴とする請求項1乃至請求項6に記載の接合方法。
【請求項1】
金属部材同士の突合部に対して摩擦攪拌を行う本接合工程と、
前記本接合工程で形成された塑性化領域に対して肉盛溶接を行う溶接工程と、
前記溶接工程により形成された溶接金属及び前記塑性化領域に対して摩擦攪拌を行う補修工程と、を含んだ接合方法であって、
前記本接合工程で用いる回転ツールを右回転させた場合は、前記回転ツールの進行方向左側の前記塑性化領域に対して前記溶接工程及び前記補修工程を行い、
前記本接合工程で用いる回転ツールを左回転させた場合は、前記回転ツールの進行方向右側の前記塑性化領域に対して前記溶接工程及び前記補修工程を行うことを特徴とする接合方法。
【請求項2】
金属部材同士の突合部に対して摩擦攪拌を行う本接合工程と、
前記本接合工程で形成された塑性化領域に対して肉盛溶接を行う溶接工程と、
前記溶接工程により形成された溶接金属及び前記塑性化領域に対して摩擦攪拌を行う補修工程と、を含んだ接合方法であって、
前記本接合工程では、前記金属部材同士の前記突合部の側方に配置されたタブ材に摩擦攪拌の開始位置を設け、少なくとも前記タブ材に隣接する前記塑性化領域に対して、前記溶接工程及び前記補修工程を行うことを特徴とする接合方法。
【請求項3】
前記本接合工程で用いる回転ツールを右回転させた場合は、前記回転ツールの進行方向左側の前記塑性化領域に対して前記溶接工程及び前記補修工程を行い、
前記本接合工程で用いる回転ツールを左回転させた場合は、前記回転ツールの進行方向右側の前記塑性化領域に対して前記溶接工程及び前記補修工程を行うことを特徴とする請求項2に記載の接合方法。
【請求項4】
金属部材同士の突合部に対して摩擦攪拌を行う本接合工程と、
前記本接合工程で形成された塑性化領域に対して肉盛溶接を行う溶接工程と、
前記溶接工程により形成された溶接金属及び前記塑性化領域に対して摩擦攪拌を行う補修工程と、を含んだ接合方法であって、
前記本接合工程では、前記金属部材同士の前記突合部の側方に配置されたタブ材に摩擦攪拌の終了位置を設け、少なくとも前記タブ材に隣接する前記塑性化領域に対して、前記溶接工程及び前記補修工程を行うことを特徴とする接合方法。
【請求項5】
前記本接合工程で用いる回転ツールを右回転させた場合は、前記回転ツールの進行方向右側の前記塑性化領域に対して前記溶接工程及び前記補修工程を行い、
前記本接合工程で用いる回転ツールを左回転させた場合は、前記回転ツールの進行方向左側の前記塑性化領域に対して前記溶接工程及び前記補修工程を行うことを特徴とする請求項4に記載の接合方法。
【請求項6】
前記本接合工程で用いる回転ツールよりも小型の回転ツールを用いて、前記補修工程を行うことを特徴とする請求項1乃至請求項5に記載の接合方法。
【請求項7】
前記本接合工程を行う前に、前記金属部材同士の前記突合部に対して摩擦攪拌を行う仮接合工程を含むことを特徴とする請求項1乃至請求項6に記載の接合方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公開番号】特開2009−172649(P2009−172649A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−14686(P2008−14686)
【出願日】平成20年1月25日(2008.1.25)
【出願人】(000004743)日本軽金属株式会社 (627)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年1月25日(2008.1.25)
【出願人】(000004743)日本軽金属株式会社 (627)
【Fターム(参考)】
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