説明

接合方法

【課題】継手部材を介設して金属部材同士を摩擦攪拌する接合方法であって、接合強度を高めるとともに、気密性及び水密性を向上させることが可能な接合方法を提供することを課題とする。
【解決手段】第一金属部材1a及び第二金属部材1bを端面同士で突き合わせて形成された中空部に継手部材Uを挿入してなる被接合金属部材1に、回転ツールを移動させて摩擦攪拌接合を行う接合方法であって、本突合部J10、一方側突合部J11及び他方側突合部J12に対して表面A側から摩擦攪拌を行う第一本接合工程と、本突合部J10、一方側突合部J11及び他方側突合部J12に対して裏面B側から摩擦攪拌を行う第二本接合工程と、被接合金属部材1の少なくともいずれか一方の側面から本突合部J10に対して溶接を行う側面側溶接工程と、を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦攪拌を利用した金属部材の接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属部材同士を接合する方法として、摩擦攪拌接合(FSW=Friction Stir Welding)が知られている。摩擦攪拌接合は、回転ツールを回転させつつ金属部材同士の突合部に沿って移動させ、回転ツールと金属部材との摩擦熱により突合部の金属を塑性流動させることで、金属部材同士を固相接合させるものである。なお、回転ツールは、円柱状を呈するショルダ部の下端面に攪拌ピン(プローブ)を突設してなるものが一般的である。
【0003】
ここで図18の(a)及び(b)は、一対の金属部材の突合部に対して摩擦攪拌接合を施した従来の接合方法を示した側面図である。従来の接合方法は、第一金属部材100の端部に切り欠かれた凹溝100a及び第二金属部材101の端部に切り欠かれた凹溝101aを突き合わせて、凹溝100a,101aによって形成された中空部に、継手部材103を挿入してなる被接合金属部材104を形成する。そして、第一金属部材100と第二金属部材101との突合部110,110に対して摩擦攪拌接合を行うものである。
【0004】
【特許文献1】特開2004−167498号公報(図2参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の接合方法のように継手部材103を介設して第一金属部材100及び第二金属部材101の端部同士を接合する場合、第一金属部材100と継手部材103との突合部100b及び第二金属部材101と継手部材103との突合部101bが、
未塑性化領域として残存するため、被接合金属部材104の水密性及び気密性が低下するという問題があった。また、被接合金属部材104に作用する荷重が突合部110,110に形成された塑性化領域W,Wに集中するため、被接合金属部材104の接合強度が弱いという問題があった。
【0006】
このような観点から本発明は、継手部材を介設して金属部材同士を摩擦攪拌する接合方法であって、接合強度を高めるとともに、気密性及び水密性を向上させることが可能な接合方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような課題を解決する本発明に係る接合方法は、端面に凹部を有する第一金属部材及び第二金属部材を前記端面同士で突き合わせて形成された中空部に継手部材を挿入して成る被接合金属部材に、回転ツールを移動させて摩擦攪拌接合を行う接合方法であって、前記第一金属部材と前記第二金属部材との突合部、前記継手部材と前記第一金属部材との突合部及び前記継手部材と前記第二金属部材との突合部に対して前記被接合金属部材の表面から摩擦攪拌を行う第一本接合工程と、前記第一金属部材と前記第二金属部材との突合部、前記継手部材と前記第一金属部材との突合部及び前記継手部材と前記第二金属部材との突合部に対して前記被接合金属部材の裏面から摩擦攪拌を行う第二本接合工程と、前記第一金属部材と前記第二金属部材との突合部に対して前記被接合金属部材の少なくともいずれか一方の側面から溶接を行う側面側溶接工程と、を含むことを特徴とする。
【0008】
かかる接合方法によれば、被接合金属部材の第一金属部材と第二金属部材との突合部及び継手部材と一対の金属部材との突合部に対して、表面及び裏面から摩擦攪拌を行うため、従来よりも摩擦攪拌の距離を長く確保できる。これにより、被接合金属部材の接合強度を高めることができる。また、被接合金属部材の側面に現れる突合部に対して溶接を行うため、被接合金属部材の水密性及び気密性を高めることができる。
【0009】
また、本発明は、端面に凹部を有する第一金属部材と、側面に凹部を有する第二金属部材とを前記端面及び前記側面で突き合わせて形成された中空部に継手部材を挿入して成る被接合金属部材に、回転ツールを移動させて摩擦攪拌接合を行う接合方法であって、前記第一金属部材と前記第二金属部材との突合部、前記継手部材と前記第一金属部材との突合部及び前記継手部材と前記第二金属部材との突合部に対して前記被接合金属部材の表面から摩擦攪拌を行う第一本接合工程と、前記第一金属部材と前記第二金属部材との突合部、前記継手部材と前記第一金属部材との突合部及び前記継手部材と前記第二金属部材との突合部に対して前記被接合金属部材の裏面から摩擦攪拌を行う第二本接合工程と、前記第一金属部材と前記第二金属部材との突合部に対して前記被接合金属部材の少なくともいずれか一方の側面から溶接を行う側面側溶接工程と、を含むことを特徴とする。
【0010】
かかる接合方法によれば、被接合金属部材の第一金属部材と第二金属部材との突合部及び継手部材と一対の金属部材との突合部に対して、表面及び裏面から摩擦攪拌を行うため、従来よりも摩擦攪拌の距離を長く確保できる。これにより、被接合金属部材の接合強度を高めることができる。また、被接合金属部材の側面に現れる突合部に対して溶接を行うため、被接合金属部材の水密性及び気密性を高めることができる。
【0011】
また、前記側面側接合工程において、前記第一本接合工程で形成された塑性化領域と前記第二本接合工程で形成された塑性化領域との間の未接合領域の全体に亘って溶接を行うことが好ましい。
【0012】
かかる接合方法によれば、被接合金属部材の側面に現れる突合部を全体に亘って密閉することができるため、より水密性及び気密性を高めることができる。
【0013】
また、前記側面側溶接工程において、前記被接合金属部材の前記側面に現れる突合部に沿って凹溝を形成し、前記凹溝に溶接金属を充填することが好ましい。かかる接合方法によれば、側面側溶接工程の施工性を高めることができる。
【0014】
また、前記第一本接合工程又は前記第二本接合工程の前に、前記被接合金属部材の両側面に第一タブ材及び第二タブ材を備えるタブ材配置工程と、前記被接合金属部材と前記第一タブ材との突合部、前記第一金属部材と前記第二金属部材との突合部、前記継手部材と前記第一金属部材との突合部、前記継手部材と前記第二金属部材との突合部、前記被接合金属部材と前記第二タブ材との突合部に対して摩擦攪拌を行う仮接合工程と、を含むことが好ましい。
【0015】
かかる接合方法によれば、タブ材の上に第一本接合工程及び第二本接合工程の開始位置又は終了位置を設定することができるため、摩擦攪拌の軌跡を容易に設定することができる。また、仮接合工程を行うことで、摩擦攪拌を行う際の各部材の目開きを防止することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る接合方法によれば、継手部材を介設して金属部材同士を摩擦攪拌する場合において、接合強度を高めるとともに、金属部材の気密性及び水密性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
[第一実施形態]
本実施形態に係る接合方法は、図1に示すように、第一金属部材1a及び第二金属部材1bを突き合せて形成された中空部に継手部材Uを挿入し、第一金属部材1aと継手部材U及び第二金属部材1bと継手部材Uとの突合部に対して摩擦攪拌を行うともに、第一金属部材1a及び第二金属部材1bの側面に対して溶接を行うことを特徴とするものである。
まず、本実施形態に係る接合方法に係る第一金属部材1a及び第二金属部材1bを詳細に説明するとともに、摩擦攪拌行う際に用いられる回転ツール、第一タブ材2と第二タブ材3を詳細に説明する。
【0018】
図2の(a)及び(b)に示すように、本実施形態では、端面16に凹部Vがそれぞれ形成された第一金属部材1a及び第二金属部材1bと、第一金属部材1aと第二金属部材1bとを突き合わせて形成した中空部に挿入される継手部材Uとを用いる。
【0019】
第一金属部材1aは、断面視矩形を呈し、端面16に表面12から裏面13に向かって連続する断面視矩形の凹部Vが形成されている。第二金属部材1bは、第一金属部材1aと略同等の形状からなる金属部材である。第二金属部材1bに形成された凹部Vは、第一金属部材1aの凹部Vと対向して形成されている。第一金属部材1a及び第二金属部材1bの端面16,16同士を突き合わせることにより、中空部が形成される。
【0020】
第一金属部材1a及び第二金属部材1bは、本実施形態では、同一組成の金属材料であって、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金、チタン、チタン合金、マグネシウム、マグネシウム合金など摩擦攪拌可能な金属材料からなる。
【0021】
継手部材Uは、断面視矩形の直方体を呈する。継手部材Uの幅qは、第一金属部材1aの凹部Vの幅pと略同等に形成されている。また、継手部材Uの長さq/2は、第一金属部材1aの凹部Vの長さpと略同等に形成されている。また、継手部材Uの厚みqは、第一金属部材1aの凹部Vの厚みpと略同等に形成されている。即ち、継手部材Uは、図2の(b)に示すように、第一金属部材1a及び第二金属部材1bを突き合わせて形成された中空部に略隙間がないように挿入される。継手部材Uは、本実施形態においては、第一金属部材1aと同等の材料からなる。
【0022】
ここで、第一金属部材1a及び第二金属部材1bを突き合わせて形成された中空部に継手部材Uを挿入して形成された部材を被接合金属部材1ともいう。また、被接合金属部材1の表面を表面A、裏面を裏面B、一方の側面を第一側面C、他方の側面を第二側面Dともいう。また、本実施形態における上下左右前後は、図1の矢印に従う。
【0023】
図2の(b)及び図3に示すように、被接合金属部材1の表面Aには、第一金属部材1aと第二金属部材1bとが突き合わされた本突合部J10が形成されている。なお、継手部材Uを挟んで二つの本突合部J10のうち、第二側面D側の本突合部を第一本突合部J10aともいい、第一側面C側の本突合部を第二本突合部J10bともいう。
また、被接合金属部材1の表面Aには、継手部材Uと第二金属部材1bとが突き合わされた一方側継手突合部J11と、継手部材Uと第一金属部材1aとが突き合わされた他方側継手突合部J12が形成されている。
【0024】
第一タブ材2および第二タブ材3は、図3に示すように、被接合金属部材1の本突合部J10を挟むように配置されるものであって、それぞれ被接合金属部材1に添設され、第一側面C及び第二側面Dに現れる第一金属部材1aと第二金属部材1bの継ぎ目(境界線)を覆い隠す。第一タブ材2及び第二タブ材3の材質に特に制限はないが、本実施形態では、被接合金属部材1と同一組成の金属材料で形成している。また、第一タブ材2及び第二タブ材3の形状・寸法にも特に制限はないが、本実施形態では、その厚さ寸法を本突合部J10における被接合金属部材1の厚さ寸法と同一にしている。
【0025】
次に、図4を参照して、摩擦攪拌に用いる小型の回転ツール(以下、「仮接合用回転ツールF」という。)及び大型の回転ツール(以下、「本接合用回転ツールG」という。)を詳細に説明する。
【0026】
図4の(a)に示す仮接合用回転ツールFは、工具鋼など被接合金属部材1よりも硬質の金属材料からなり、円柱状を呈するショルダ部F1と、このショルダ部F1の下端面F11に突設された攪拌ピン(プローブ)F2とを備えて構成されている。仮接合用回転ツールFの寸法・形状は、被接合金属部材1の材質や厚さ等に応じて設定すればよいが、少なくとも、後記する第一本接合工程で用いる本接合用回転ツールG(図4の(b)参照)よりも小型にする。このようにすると、小さな負荷で接合を行うことが可能となるので、接合時に摩擦攪拌装置に掛かる負荷を低減することが可能となり、比較的複雑な経路であってもスムーズに摩擦攪拌することができる。さらには、仮接合用回転ツールFの移動速度(送り速度)を本接合用回転ツールGの移動速度よりも高速にすることも可能になるので、接合に要する作業時間やコストを低減することが可能となる。
【0027】
ショルダ部F1の下端面F11は、塑性流動化した金属を押えて周囲への飛散を防止する役割を担う部位であり、本実施形態では、凹面状に成形されている。ショルダ部F1の外径Xの大きさに特に制限はないが、本実施形態では、本接合用回転ツールGのショルダ部G1の外径Yよりも小さくなっている。
【0028】
攪拌ピンF2は、ショルダ部F1の下端面F11の中央から垂下しており、本実施形態では、先細りの円錐台状に成形されている。また、攪拌ピンF2の周面には、螺旋状に刻設された攪拌翼が形成されている。攪拌ピンF2の外径の大きさに特に制限はないが、本実施形態では、最大外径(上端径)Xが本接合用回転ツールGの攪拌ピンG2の最大外径(上端径)Yよりも小さく、かつ、最小外径(下端径)Xが攪拌ピンG2の最小外径(下端径)Yよりも小さい。攪拌ピンF2の長さLは、本接合用回転ツールGの攪拌ピンG2の長さL(図4の(b)参照)よりも小さくすることが望ましい。
【0029】
図4の(b)に示す本接合用回転ツールGは、工具鋼など被接合金属部材1よりも硬質の金属材料からなり、円柱状を呈するショルダ部G1と、このショルダ部G1の下端面G11に突設された攪拌ピン(プローブ)G2とを備えて構成されている。
【0030】
ショルダ部G1の下端面G11は、仮接合用回転ツールFと同様に、凹面状に成形されている。攪拌ピンG2は、ショルダ部G1の下端面G11の中央から垂下しており、本実施形態では、先細りの円錐台状に成形されている。また、攪拌ピンG2の周面には、螺旋状に刻設された攪拌翼が形成されている。
【0031】
以下、本実施形態に係る接合方法を詳細に説明する。本実施形態に係る接合方法は、(1)第一準備工程、(2)第一予備工程、(3)第一本接合工程、(4)第二予備工程、(5)第二本接合工程、(6)側面側溶接工程、を含むものである。
【0032】
(1)第一準備工程
図2及び図3を参照して第一準備工程を説明する。第一準備工程は、被接合金属部材1
を形成するとともに、タブ材を配置する工程である。第一準備工程は、本実施形態では、第一金属部材1aと第二金属部材1bとを突き合せて中空部に継手部材Uを挿入する突合工程と、被接合金属部材1の本突合部J10の両側にそれぞれ第一タブ材2と第二タブ材3を配置するタブ材配置工程とを具備している。
【0033】
突合工程では、図2及び図3に示すように、第一金属部材1aの端面16に第二金属部材1bの端面16を密着させるとともに、対向する凹部V,Vによって形成された中空部に継手部材Uを挿入する。
また、第一金属部材1aの表面12と第二金属部材1bの表面12を面一にし、さらに、第一金属部材1aの裏面13と第二金属部材1bの裏面13を面一にする。また、同様に、第一金属部材1aの第一側面14と第二金属部材1bの第一側面14を面一にし、第一金属部材1aの第二側面15と第二金属部材1bの第二側面15を面一にする。また、継手部材Uの表面を、第一金属部材1aの表面12及び第二金属部材1bの表面12と面一にする。同様に、継手部材Uの裏面を、第一金属部材1aの裏面13及び第二金属部材1bの裏面13と面一にする。
【0034】
タブ材配置工程では、図3に示すように、第一側面C側に現れる本突合部J10を覆い隠すように第二タブ材3を配置して、その当接面を第一側面Cに当接させる。さらに、第二側面Dに現れる本突合部J10を覆い隠すように第一タブ材2を配置して、その当接面を第二側面Dに当接させる。このとき、第一タブ材2の表面と第二タブ材3の表面を被接合金属部材1の表面Aと面一にするとともに、第一タブ材2の裏面と第二タブ材3の裏面を被接合金属部材1の裏面Bと面一にする。
【0035】
第一タブ材2及び第二タブ材3を配置したら、被接合金属部材1と第一タブ材2とにより形成された入り隅部2a,2aを溶接して被接合金属部材1と第一タブ材2とを仮接合する。さらに、被接合金属部材1と第二タブ材3とにより形成された入り隅部3a,3aを溶接して被接合金属部材1と第二タブ材3とを仮接合する。なお、入り隅部2a,2a及び3a,3aの全長に亘って連続して溶接を施してもよいし、断続して溶接を施してもよい。
【0036】
(2)第一予備工程
第一予備工程は、第一本接合工程に先立って行われる工程であり、本実施形態では、被接合金属部材1の表面A側において、被接合金属部材1の表面Aに現れる各突合部に対して仮接合を行う仮接合工程と、第一本接合工程における摩擦攪拌の開始位置に下穴を形成する下穴形成工程と、を含む。
【0037】
仮接合工程では、図5に示すように、一の仮接合用回転ツールFを一筆書きの移動軌跡(ビード)を形成するように移動させて、第一タブ材突合部J2、第二タブ材突合部J3、本突合部J10(第一本突合部J10a及び第二本突合部J10b)、一方側継手突合部J11及び他方側継手突合部J12に対して連続して摩擦攪拌を行う。即ち、摩擦攪拌の開始位置SP1に挿入した仮接合用回転ツールFの攪拌ピンF2(図4の(a)参照)を途中で離脱させることなく終了位置EP1まで移動させる。本実施形態では、第一タブ材2に摩擦攪拌の開始位置SP1及び終了位置EP1を設けているが、開始位置SP1と終了位置EP1の位置を限定する趣旨ではない。また、本実施形態では、仮接合用回転ツールF及び本接合用回転ツールGの回転方向は、全て右回転で行うものとする。このように、仮接合用回転ツールF及び本接合用回転ツールGの回転方向を統一することで、作業手間を省略することができる。
【0038】
本実施形態の仮接合工程の手順を図5の(a)及び(b)を参照してより詳細に説明する。
仮接合工程は、本実施形態では、被接合金属部材1と第一タブ材2との第一タブ材突合部J2を接合する第一タブ材接合工程と、被接合金属部材1の本突合部J10及び一方側継手突合部J11を仮接合する第一仮接合工程と、被接合金属部材1と第二タブ材3との第二タブ材突合部J3を接合する第二タブ材接合工程と、被接合金属部材1の本突合部J10及び他方側継手突合部J12を仮接合する第二仮接合工程と、を含む。
【0039】
第一タブ材接合工程では、図5の(a)に示すように、第一タブ材2の適所に設けた開始位置SP1の直上に仮接合用回転ツールFを位置させ、続いて、仮接合用回転ツールFを右回転させつつ下降させて攪拌ピンF2を開始位置SP1に押し付ける。仮接合用回転ツールFの回転速度は、攪拌ピンF2の寸法・形状、摩擦攪拌される被接合金属部材1等の材質や肉厚等に応じて設定されるものであるが、多くの場合、500〜2000(rpm)の範囲内において設定される。
【0040】
攪拌ピンF2が第一タブ材2の表面に接触すると、摩擦熱によって攪拌ピンF2の周囲にある金属が塑性流動化し、攪拌ピンF2が第一タブ材2に挿入される。
攪拌ピンF2の全体が第一タブ材2に入り込み、かつ、ショルダ部F1の下端面F11の全面が第一タブ材2の表面に接触したら、図5(a)に示すように、仮接合用回転ツールFを回転させつつ第一タブ材突合部J2上に設定された基点s1に向けて相対移動させる。
【0041】
仮接合用回転ツールFの移動速度(送り速度)は、攪拌ピンF2の寸法・形状、摩擦攪拌される被接合金属部材1等の材質や肉厚等に応じて設定されるものであるが、多くの場合、100〜1000(mm/分)の範囲内において設定される。仮接合用回転ツールFの移動時の回転速度は、挿入時の回転速度と同じか、それよりも低速にする。なお、仮接合用回転ツールFを移動させる際には、ショルダ部F1の軸線を鉛直線に対して進行方向の後ろ側へ僅かに傾斜させてもよいが、傾斜させずに鉛直にすると、仮接合用回転ツールFの方向転換が容易となり、複雑な動きが可能となる。仮接合用回転ツールFを移動させると、その攪拌ピンF2の周囲にある金属が順次塑性流動化するとともに、攪拌ピンF2から離れた位置では、塑性流動化していた金属が再び硬化する。
【0042】
仮接合用回転ツールFを相対移動させて第一タブ材突合部J2上の基点s1まで摩擦攪拌を行ったら、基点s1で仮接合用回転ツールFを離脱させずにそのまま第一タブ材接合工程に移行する。
【0043】
第一タブ材接合工程では、第一タブ材2と被接合金属部材1とで形成される第一タブ材突合部J2に対して摩擦攪拌を行う。具体的には、被接合金属部材1と第一タブ材2の継ぎ目(境界線)上に摩擦攪拌のルートを設定し、当該ルートに沿って仮接合用回転ツールFを相対移動させることで、第一タブ材突合部J2に対して摩擦攪拌を行う。即ち、仮接合用回転ツールFが基点s1に達したら、仮接合用回転ツールFを離脱させることなく、そのまま第一タブ材突合部J2上の一端側に形成された折返し点s2まで移動させる。そして、折返し点s2で仮接合用回転ツールFを折返した後、第一タブ材突合部J2の他端側に形成された折返し点s3に向けて仮接合用回転ツールFを移動させる。そして、折返し点s3で仮接合用回転ツールFを折返した後、基点s1まで移動させる。
【0044】
仮接合用回転ツールFが基点s1に達したら、そのまま第一仮接合工程に移行する。図5の(a)及び(b)に示すように、第一仮接合工程では、被接合金属部材1の第一本突合部J10a、一方側継手突合部J11及び第二本突合部J10bを仮接合する。即ち、仮接合用回転ツールFが基点s1に達したら、第一本突合部J10aに沿って摩擦攪拌を行い、継手部材U、第一金属部材1a及び第二金属部材1bが対向する基点s4まで仮接合用回転ツールFを移動させる。そして、基点s4で仮接合用回転ツールFを離脱させずに、そのまま一方側継手突合部J11に沿って、仮接合用回転ツールFを移動させる。
【0045】
仮接合用回転ツールFが、継手部材U、第一金属部材1a及び第二金属部材1bが対向する基点s5達したら、第二本突合部J10bに沿って、仮接合用回転ツールFを移動させる。そして、仮接合用回転ツールFが第二タブ材突合部J3上に設定された基点s6に達したら、そのまま第二タブ材接合工程に移行する。
【0046】
第二タブ材接合工程では、第二タブ材3と被接合金属部材1とで形成される第二タブ材突合部J3に対して摩擦攪拌を行う。即ち、仮接合用回転ツールFが基点s6に達したら、仮接合用回転ツールFを離脱させることなく、そのまま第二タブ材突合部J3の一端側に形成された折返し点s7まで移動させる。そして、折返し点s7で仮接合用回転ツールFを折返した後、第二タブ材突合部J3の他端側に形成された折返し点s8に向けて仮接合用回転ツールFを移動させる。そして、折返し点s8で仮接合用回転ツールFを折返した後、基点s6まで移動させる。
【0047】
仮接合用回転ツールFが基点s6に達したら、そのまま第二仮接合工程に移行する。第二仮接合工程では、被接合金属部材1の第二本突合部J10b、他方側継手突合部J12及び第一本突合部J10aを仮接合する。即ち、仮接合用回転ツールFが基点s6に達したら、仮接合用回転ツールFを離脱させずに第二本突合部J10bに沿って基点s5に向けて移動させる。そして、仮接合用回転ツールFが基点s5に達したら、そのまま他方側継手突合部J12に沿って、仮接合用回転ツールFを移動させる。
【0048】
そして、仮接合用回転ツールFが基点s4に達したら、第一本突合部J10aに沿って仮接合用回転ツールFを移動させて、第一タブ材突合部J2を横断し第一タブ材2に突入させる。最後に、仮接合用回転ツールFが終了位置EP1に達したら、仮接合用回転ツールFを離脱させる。
【0049】
なお、仮接合用回転ツールFの攪拌ピンF2が第一タブ材突合部J2及び第二タブ材突合部J3に入り込むと、被接合金属部材1と両タブ材とを引き離そうとする力が作用するが、被接合金属部材1と第一タブ材2及び第二タブ材3により形成された入り隅部2a,3aを溶接により仮接合しているので、被接合金属部材1と第一タブ材2及び第二タブ材3との間に目開きが発生することがない。
【0050】
このように、仮接合工程を一筆書きの要領で行うことにより、被接合金属部材1の表面Aに現れる各突合部を効率よく仮接合することができる。
【0051】
仮接合工程が終了したら、下穴形成工程を行う。下穴形成工程では、図4の(b)に示すように、後記する第一本接合工程における摩擦攪拌の開始位置SM1に下穴P1を形成する工程である。
【0052】
下穴P1は、本接合用回転ツールGの攪拌ピンG2の挿入抵抗(圧入抵抗)を低減する目的で設けられるものであり、本実施形態では、仮接合用回転ツールFの攪拌ピンF2(図4の(a)参照)を離脱させたときに形成される抜き穴H1を図示せぬドリルなどで拡径することで形成される。抜き穴H1を利用すれば、下穴P1の形成工程を簡略化することができるので、作業時間を短縮することが可能となる。下穴P1の形態に特に制限はないが、本実施形態では、円筒状としている。なお、本実施形態では、第一タブ材2に下穴P1を形成しているが、下穴P1の位置に特に制限はなく、第二タブ材3に形成してもよいし、第一タブ材突合部J2、第二タブ材突合部J3に形成してもよいが、好適には、本実施形態の如く被接合金属部材1の表面A側に現れる被接合金属部材1の継ぎ目(境界線)の延長線上に形成することが望ましい。
【0053】
なお、本実施形態では、仮接合用回転ツールFの攪拌ピンF2(図4の(a)参照)の抜き穴H1を拡径して下穴P1とする場合を例示したが、攪拌ピンF2の最大外径Xが本接合用回転ツールGの攪拌ピンG2の最小外径Yよりも大きく、かつ、攪拌ピンF2の最大外径Xが攪拌ピンG2の最大外径Yよりも小さい(Y<X<Y)場合などにおいては、攪拌ピンF2の抜き穴H1をそのまま下穴P1としてもよい。
【0054】
(3)第一本接合工程
第一本接合工程は、被接合金属部材1の表面A側における本突合部J10(第一本突合部J10a、第二本突合部J10b)、一方側継手突合部J11及び他方側継手突合部J12を本格的に接合する工程である。即ち、本実施形態に係る第一本接合工程では、本接合用回転ツールGを使用し、仮接合された状態の被接合金属部材1の表面A側から摩擦攪拌を行う。
【0055】
第一本接合工程では、図6の(a)及び(b)に示すように、開始位置SM1に形成した下穴P1(図示省略)に本接合用回転ツールGの攪拌ピンG2を挿入(圧入)し、挿入した攪拌ピンG2を途中で離脱させることなく折返し点OM1まで移動させた後、そのまま終了位置EM1まで往復移動させる。
【0056】
ここで、前記した仮接合工程を終了した時点では、仮接合用回転ツールFを備えた摩擦攪拌装置は、第一タブ材2の終了位置EP1の直上(図5の(b)参照)に位置しているため、第一本接合工程の開始位置をSM1にすると、本接合用回転ツールGを備えた摩擦攪拌装置を移動させることなく第一本接合工程を行うことができ、作業を簡略化できる。なお、本実施形態では、第一タブ材2に摩擦攪拌の開始位置SM1及び終了位置EM1を設けているが、開始位置SM1と終了位置EM1の位置を限定する趣旨ではない。
【0057】
図6の(a)及び(b)を参照して第一本接合工程をより詳細に説明する。
まず、図6の(a)に示すように、開始位置SM1の直上に本接合用回転ツールGを位置させ、続いて、本接合用回転ツールGを右回転させつつ下降させて攪拌ピンG2の先端を下穴P1(図4の(b)参照)に挿入する。攪拌ピンG2を下穴P1に入り込ませると、攪拌ピンG2の周面(側面)が下穴P1の穴壁に当接し、穴壁から金属が塑性流動化する。このような状態になると、塑性流動化した金属を攪拌ピンG2の周面で押し退けながら、攪拌ピンG2が圧入されることになるので、圧入初期段階における圧入抵抗を低減することが可能となる。また、本接合用回転ツールGのショルダ部G1が第一タブ材2の表面に当接する前に攪拌ピンG2が下穴P1の穴壁に当接して摩擦熱が発生するので、塑性流動化するまでの時間を短縮することが可能となる。つまり、摩擦攪拌装置の負荷を低減することが可能となり、加えて、本接合に要する作業時間を短縮することが可能となる。
【0058】
攪拌ピンG2の全体が第一タブ材2に入り込み、かつ、ショルダ部G1の下端面G11の全面が第一タブ材2の表面に接触したら、図6の(a)に示すように、摩擦攪拌を行いながら被接合金属部材1の第一タブ材突合部J2の基点s1に向けて本接合用回転ツールGを相対移動させ、さらに、第一タブ材突合部J2を横切らせて第一本突合部J10aに突入させる。本接合用回転ツールGを移動させると、その攪拌ピンG2の周囲にある金属が順次塑性流動化するとともに、攪拌ピンG2から離れた位置では、塑性流動化していた金属が再び硬化して塑性化領域(以下、「表面塑性化領域W1」という。)が形成される。
【0059】
本接合用回転ツールGの移動速度(送り速度)は、攪拌ピンG2の寸法・形状、摩擦攪拌される被接合金属部材1等の材質や肉厚等に応じて設定されるものであるが、多くの場合、30〜300(mm/分)の範囲内において設定される。
【0060】
被接合金属部材1への入熱量が過大になる虞がある場合には、本接合用回転ツールGの周囲に表面A側から水を供給するなどして冷却することが望ましい。なお、第一金属部材1a及び第二金属部材1b間に冷却水が入り込むと、接合面に酸化皮膜を発生させる虞があるが、本実施形態においては、仮接合工程を実行して目地を閉塞しているので、被接合金属部材1の繋ぎ目に冷却水が入り込み難く、接合部の品質を劣化させる虞がない。
【0061】
本接合用回転ツールGが、基点s4に達したら、本接合用回転ツールGを離脱させずにそのまま一方側継手突合部J11に沿って本接合用回転ツールGを移動させる。本接合用回転ツールGが基点s5に達したら、第二本突合部J10bに沿って本接合用回転ツールGを移動させ、第二タブ材3に突入させる。そして、本接合用回転ツールGが、第二タブ材3に設定された折返し点OM1に達したら、折返し点OM1で本接合用回転ツールGを折り返させる。
【0062】
そして、再度、第二本突合部J10bに沿って本接合用回転ツールGを移動させ、本接合用回転ツールGが基点s5に達したら、他方側継手突合部J11に沿って本接合用回転ツールGを移動させる。そして、本接合用回転ツールGが基点s4に達したら、第一本突合部J10aに沿って本接合用回転ツールGを移動させる。そして、第一タブ材突合部J2を横断して、終了位置EM1で本接合用回転ツールGを離脱させる。
【0063】
このように、第一本接合工程を一筆書きの要領で行うことにより、被接合金属部材1の表面Aに現れる各突合部を効率よく仮接合することができる。
なお、本実施形態では、被接合金属部材1の表面A側に現れる被接合金属部材1の継ぎ目(境界線)の延長線上に摩擦攪拌の開始位置SM1及び終了位置EM1を設定しているので、本接合用回転ツールGの移動距離を最小限に抑えることができる。これにより、第一本接合工程を効率よく行うことが可能となり、さらには、本接合用回転ツールGの磨耗量を低減することが可能となる。
【0064】
本接合用回転ツールGの攪拌ピンG2を終了位置EM1から離脱させる際の本接合用回転ツールGの回転速度(離脱時の回転速度)は、移動時の回転速度よりも高速にすることが望ましい。このようにすると、離脱時の回転速度を移動時の回転速度と同じにした場合に比べて、攪拌ピンG2の離脱抵抗が小さくなるので、終了位置EM1における攪拌ピンG2の離脱作業を迅速に行うことが可能となる。
【0065】
なお、本実施形態においては、第一本接合工程の前に、第一予備工程を行ったが、第一予備工程を省略して、第一準備工程の直後に第一本接合工程を行ってもよい。
【0066】
(4)第二予備工程
第二予備工程は、具体的な図示はしないが、第二本接合工程に先立って行われる工程であり、本実施形態では、被接合金属部材1の裏面B側において、被接合金属部材1の裏面Bに現れる各突合部に対して仮接合を行う仮接合工程と、第二本接合工程における摩擦攪拌の開始位置に下穴を形成する下穴形成工程と、を具備している。
【0067】
第二予備工程は、被接合金属部材1の裏面B側に行うことを除いては、第一実施形態に係る第一予備工程と略同等であるため、詳細な説明は省略する。
【0068】
(5)第二本接合工程
第二本接合工程は、具体的な図示はしないが、被接合金属部材1の裏面B側における本突合部J10、一方側継手突合部J11及び他方側継手突合部J12を本格的に接合する工程である。即ち、本実施形態に係る第二本接合工程では、本接合用回転ツールGを使用し、仮接合された状態の被接合金属部材1の裏面B側から摩擦攪拌を行う。第二本接合工程によって、被接合金属部材1の裏面Bには、裏面塑性化領域W2(図7参照)が形成される。
第二本接合工程は、被接合金属部材1の裏面B側に行うことを除いては、第一本接合工程と略同等であるため、詳細な説明は省略する。なお、第二本接合工程が終了したら、タブ材を切除する。
【0069】
ここで、本実施形態のように、一対の金属部材の突合部を摩擦攪拌する際に、回転ツールを右回転させた場合は、進行方向左側に、回転ツールを左回転させた場合は、進行方向右側にトンネル状空洞欠陥が形成される可能性が高い。
また、表面塑性化領域W1及び裏面塑性化領域W2の両端側には、酸化皮膜が形成される可能性がある。当該酸化皮膜は、第一側面Cと第二タブ材3との間、及び、第二側面Dと第一タブ材2との間に形成された酸化皮膜を被接合金属部材1の内部に巻き込むことにより、形成されるものである。このような、トンネル状空洞欠陥や酸化皮膜は、被接合金属部材1の気密性及び水密性を低下させる原因となる。
【0070】
しかし、本実施形態では、折返し点OM1で折り返して本接合用回転ツールGを往復させて、本突合部J10を2回通り摩擦攪拌するため、仮に、往路の摩擦攪拌でトンネル状空洞欠陥や酸化皮膜が形成されたとしても、復路の摩擦攪拌で当該欠陥を密閉して補修することができる。これにより、気密性及び水密性の高い被接合金属部材1を形成することができる。
【0071】
(6)側面側溶接工程
側面側溶接工程は、被接合金属部材1の両側面にそれぞれ凹溝K1,K2を形成する凹溝形成工程と、凹溝K1に対して溶接を行う第一側面側溶接工程と、凹溝K2に対して溶接を行う第二側面側溶接工程と、を含む。
【0072】
凹溝形成工程では、図7及び図8に示すように、被接合金属部材1の第一側面C及び第二側面Dにそれぞれ現れる本突合部J10に沿って凹溝K1,K2を形成する。凹溝K1,K2は、公知のエンドミル等を用いて切り欠いて形成される。凹溝K1及び凹溝K2は、後記する溶接工程において、それぞれ溶接金属T1,T2が充填される部分である。
【0073】
凹溝K1,K2は、同等の形状であるため、凹溝K1を例にして説明する。凹溝K1は、断面視矩形を呈し、第一側面Cに現れる本突合部J10に沿って被接合金属部材1の表面Aから裏面Bまで連続して形成されている。凹溝K1の幅Kaは、図8に示すように、表面塑性化領域W1及び裏面塑性化領域W2の幅Waよりも小さく形成されている。
【0074】
凹溝K1の深さは、特に限定されるものではなく適宜設定すればよい。なお、凹溝K1,K2の形状は、本実施形態では、断面視矩形としたがこれに限定されずものではなく、他の形状であってもよい。
【0075】
第一側面側溶接工程では、図8に示すように、第一側面Cに形成された凹溝K1に対して溶接を行う。溶接は、本実施形態では、TIG溶接、MIG溶接などによって肉盛溶接を行うことが好ましい。肉盛溶接により、凹溝K1に溶接金属T1を好適に充填させることができる。これにより、表面塑性化領域W1及び裏面塑性化領域W2の間に存在する未塑性化領域(未接合領域)を溶接金属T1で確実に密閉するとともに、接合部の強度を高めることができる。なお、溶加材は、被接合金属部材1の材料と異なっていてもよいが、本実施形態においては同一の材料を用いている。
【0076】
なお、肉盛溶接で充填された溶接金属T1のうち、第一側面Cの表面から突出する部分(肉盛部)については、当該肉盛部を切除する肉盛部切除工程を行うことが好ましい。かかる肉盛部を切除することにより、第一側面Cの表面を平滑に成形することができる。
また、本実施形態では、表面Aから裏面Bまで溶接金属T1を充填したが、少なくとも、表面塑性化領域W1と裏面塑性化領域W2の間の未塑性化領域が溶接されていればよい。
【0077】
第二側面側溶接工程では、第二側面Dに形成された凹溝K2に対して溶接を行う。図1に示すように、凹溝K2には溶接金属T2が充填される。第二側面側溶接工程は、第二側面Dに対して溶接を行うことを除いては、第一側面側溶接工程と略同等であるため、詳細な説明は省略する。
【0078】
以上説明した本発明に係る接合方法によれば、図1に示すように、被接合金属部材1の表面A及び裏面B側が摩擦攪拌により接合されるとともに、第一側面C及び第二側面Dを溶接して表面塑性化領域W1と裏面塑性化領域W2との間に存在する未塑性化領域(未接合領域)を溶接金属T1,T2で覆って密閉するため、被接合金属部材1の両側面間の気密性及び水密性を向上させることができる。
【0079】
また、継手部材Uを用いることで、第一本接合工程及び第二本接合工程によって形成される表面塑性化領域W1及び裏面塑性化領域W2の長さが大きくなるため、被接合金属部材1の接合強度を高めることができる。
【0080】
また、側面側溶接工程において、凹溝K1,K2を形成することで、凹溝K1,K2に溶接金属T1,T2を容易に充填させることができる。また、溶接金属T1,T2のうち側面から突出した肉盛部を切除することで、仕上がり面も平滑にすることができる。
【0081】
また、凹溝K1,K2の幅Kaは、表面塑性化領域W1及び裏面塑性化領域W2の幅Waよりも小さく形成することにより、溶接金属T1,T2の量を少なく形成することができる。
また、本実施形態では、仮接合工程と、本接合工程のそれぞれの開始位置SM1及び終了位置EM1が同じ位置なので、摩擦攪拌作業を効率よく行うことができる。
【0082】
なお、本実施形態では、凹溝K1,K2を形成した後に溶接を行ったが、これに限定されずに、凹溝を設けずに溶接を行ってもよい。また、本実施形態では、第一側面C及び第二側面Dの両面に溶接を行ったが、どちらか一方に行うだけでもよい。
【0083】
[第二実施形態]
次に、本発明の第二実施形態について説明する。第二実施形態は、図9に示すように、第一金属部材10aの端面と、第二金属部材10bの側面とを突き合わせて平面視L字状に接合する点で第一実施形態と相違する。まず、第一金属部材10a、第二金属部材10b及び継手部材Uについて説明する。
【0084】
第一金属部材10aは、図10に示すように、断面視矩形を呈し、端面16に表面12から裏面13に連続する断面視矩形の凹部Vが形成されている。一方、第二金属部材10bは、断面視矩形を呈し、第一側面14に表面12から裏面13に連続する断面視矩形の凹部Vが形成されている。第一金属部材10a及び第二金属部材10bは、同一組成からなるとともに、両者に形成された凹部Vは、同一の形状・大きさからなる。第一金属部材10aの端面16と、第二金属部材10bの第一側面14とを突き合わせることにより、中空部が形成される。
【0085】
継手部材Uは、断面視矩形の直方体を呈する。継手部材Uの幅qは、第一金属部材10aの凹部Vの幅pと略同等に形成されている。また、継手部材Uの長さq/2は、第一金属部材10aの凹部Vの長さpと略同等に形成されている。また、継手部材Uの厚みqは、第一金属部材10aの凹部Vの厚みpと略同等に形成されている。即ち、継手部材Uは、図10の(b)に示すように、第一金属部材10a及び第二金属部材10bを突き合わせて形成された中空部に略隙間がないように挿入される。継手部材Uは、本実施形態においては、第一金属部材10aと同等の材料からなる。
【0086】
ここで、第一金属部材10a及び第二金属部材10bを突き合わせて形成された中空部に継手部材Uを挿入して形成された部材を被接合金属部材10ともいう。また、被接合金属部材10の表面を表面A、裏面を裏面B、一方の側面を第一側面C、他方の側面を第二側面Dとする。なお、第一側面Cとは、第一金属部材10aの第二側面15と、第二金属部材10bの第一側面14とで形成される面をいう。
【0087】
図10の(b)に示すように、被接合金属部材10の表面Aには、第一金属部材10aと第二金属部材10bとが突き合わされた本突合部J10が形成されている。なお、継手部材Uを挟んで二つの本突合部J10のうち、第二側面D側の本突合部を第一本突合部J10aともいい、第一側面C側の本突合部を第二本突合部J10bともいう。
また、被接合金属部材10の表面Aには、継手部材Uと第二金属部材10bとが突き合わされた一方側継手突合部J11と、継手部材Uと第一金属部材10aとが突き合わされた他方側継手突合部J12が形成されている。
【0088】
第一タブ材4及び第二タブ材5は、図11に示すように、被接合金属部材10の本突合部J10を挟むように配置されるものであって、それぞれ被接合金属部材10に添設され、第一側面C及び第二側面Dに現れる第一金属部材10aと第二金属部材10bの継ぎ目(境界線)を覆い隠す。第一タブ材4及び第二タブ材5の材質に特に制限はないが、本実施形態では、被接合金属部材10と同一組成の金属材料で形成している。また、第一タブ材4及び第二タブ材5の形状・寸法にも特に制限はないが、本実施形態では、その厚さ寸法を本突合部J10における被接合金属部材10の厚さ寸法と同一にしている。
【0089】
以下、本実施形態に係る接合方法を詳細に説明する。本実施形態に係る接合方法は、(1)第一準備工程、(2)第一予備工程、(3)第一本接合工程、(4)第二予備工程、(5)第二本接合工程、(6)側面側溶接工程、を含むものである。
【0090】
図10及び図11を参照して、第一準備工程を説明する。第一準備工程は、被接合金属部材10を形成するとともに、被接合金属部材10にタブ材を配置する工程である。第一準備工程は、本実施形態では、第一金属部材10aと第二金属部材10bとを突き合わせて中空部に継手部材Uを挿入する突合工程と、被接合金属部材10の本突合部J10の両側に第一タブ材4及び第二タブ材5を配置するタブ材配置工程とを具備している。
【0091】
突合工程では、図10及び図11に示すように、第一金属部材10aの端面16に第二金属部材10bの第一側面14を密着させるとともに、対向する凹部V,Vによって形成された中空部に継手部材Uを挿入する。
また、第一金属部材10aの表面12と第二金属部材10bの表面12を面一にし、さらに、第一金属部材10aの裏面13と第二金属部材10bの裏面13を面一にする。また、図10の(b)に示すように、第一金属部材10aの第一側面14と第二金属部材10bの端面16を面一にする。また、継手部材Uの表面を、第一金属部材10aの表面12及び第二金属部材10bの表面12と面一にする。同様に、継手部材Uの裏面を、第一金属部材10aの裏面13及び第二金属部材10bの裏面13と面一にする。なお、第一金属部材10aの第二側面15と、第二金属部材10bの第一側面14とで入り隅部Iが形成されている。
【0092】
タブ材配置工程では、図11に示すように、第二側面D側に現れる本突合部J10を覆い隠すように第一タブ材4を配置して、その当接面を第二側面Dに当接させる。さらに、入り隅部Iに現れる本突合部J10を覆い隠すように第二タブ材5を配置して、その当接面を第一側面Cに当接させる。第二タブ材5は、直方体を呈し、入り隅部Iを構成する第一金属部材10aの第二側面15及び第二金属部材10bの第一側面14にそれぞれ当接される。このとき、第一タブ材4の表面と第二タブ材5の表面を被接合金属部材10の表面Aと面一にするとともに、第一タブ材4の裏面と第二タブ材5の裏面を被接合金属部材10の裏面Bと面一にする。
【0093】
第一タブ材4及び第二タブ材5を配置したら、被接合金属部材10と第一タブ材4とにより形成された入り隅部4a,4aを溶接して被接合金属部材10と第一タブ材4とを仮接合する。さらに、被接合金属部材10と第二タブ材5とにより形成された入り隅部5a,5aを溶接して被接合金属部材10と第二タブ材5とを仮接合する。なお、入り隅部4a,4a及び5a,5aの全長に亘って連続して溶接を施してもよいし、断続して溶接を施してもよい。
【0094】
(2)第一予備工程
第一予備工程は、第一本接合工程に先立って行われる工程であり、本実施形態では、被接合金属部材10の表面A側において、被接合金属部材10の表面Aに現れる各突合部に対して仮接合を行う仮接合工程と、第一本接合工程における摩擦攪拌の開始位置に下穴を形成する下穴形成工程と、を含む。
【0095】
仮接合工程では、図12及び図13に示すように、一の仮接合用回転ツールFを一筆書きの移動軌跡(ビード)を形成するように移動させて、第一タブ材突合部J4、第二タブ材突合部J5、本突合部J10(第一本突合部J10a及び第二本突合部J10b)、一方側継手突合部J11及び他方側継手突合部J12に対して連続して摩擦攪拌を行う。即ち、摩擦攪拌の開始位置SP2に挿入した仮接合用回転ツールFの攪拌ピンF2(図4の(a)参照)を途中で離脱させることなく終了位置EP2まで移動させる。なお、本実施形態では、第一タブ材4に摩擦攪拌の開始位置SP2及び終了位置EP2を設けているが、開始位置SP2と終了位置EP2の位置を限定する趣旨ではない。
【0096】
本実施形態の第一予備工程における摩擦攪拌の手順を図12及び図13を参照してより詳細に説明する。
仮接合工程は、本実施形態では、被接合金属部材10と第一タブ材4との第一タブ材突合部J4を接合する第一タブ材接合工程と、被接合金属部材10の本突合部J10及び一方側継手突合部J11を仮接合する第一仮接合工程と、被接合金属部材10と第二タブ材5との第二タブ材突合部J5,J5を接合する第二タブ材接合工程と、被接合金属部材10の本突合部J10及び他方側継手突合部J12を仮接合する第二仮接合工程と、を含む。
【0097】
第一タブ材接合工程では、図12の(a)に示すように、第一タブ材4の適所に設けた開始位置SP2の直上に仮接合用回転ツールFを位置させ、続いて、仮接合用回転ツールFを右回転させつつ下降させて攪拌ピンF2を開始位置SP2に押し付ける。仮接合用回転ツールFの回転速度は、攪拌ピンF2の寸法・形状、摩擦攪拌される被接合金属部材10等の材質や肉厚等に応じて設定されるものであるが、多くの場合、500〜2000(rpm)の範囲内において設定される。
【0098】
攪拌ピンF2が第一タブ材4の表面に接触すると、摩擦熱によって攪拌ピンF2の周囲にある金属が塑性流動化し、攪拌ピンF2が第一タブ材4に挿入される。
攪拌ピンF2の全体が第一タブ材4に入り込み、かつ、ショルダ部F1の下端面F11の全面が第一タブ材4の表面に接触したら、図12の(a)に示すように、仮接合用回転ツールFを回転させつつ第一タブ材突合部J4上に設定された基点s1に向けて相対移動させる。
【0099】
仮接合用回転ツールFを相対移動させて第一タブ材接合工程の基点s1まで摩擦攪拌を行ったら、基点s1で仮接合用回転ツールFを離脱させずにそのまま第一タブ材接合工程に移行する。
【0100】
第一タブ材接合工程では、第一タブ材4と被接合金属部材10とで形成される第一タブ材突合部J4に対して摩擦攪拌を行う。具体的には、被接合金属部材10と第一タブ材4の継ぎ目(境界線)上に摩擦攪拌のルートを設定し、当該ルートに沿って仮接合用回転ツールFを相対移動させることで、第一タブ材突合部J4に対して摩擦攪拌を行う。即ち、仮接合用回転ツールFが基点s1に達したら、仮接合用回転ツールFを離脱させることなく、そのまま第一タブ材突合部J4上の一端側に形成された折返し点s2まで移動させる。そして、折返し点s2で仮接合用回転ツールFを折返した後、第一タブ材突合部J4の他端側に形成された折返し点s3に向けて仮接合用回転ツールFを移動させる。そして、折返し点s3で仮接合用回転ツールFを折返した後、基点s1まで移動させる。
【0101】
仮接合用回転ツールFが基点s1に達したら、そのまま第一仮接合工程に移行する。第一仮接合工程では、被接合金属部材10の第一本突合部J10a、一方側継手突合部J11及び第二本突合部J10bを仮接合する。即ち、仮接合用回転ツールFが基点s1に達したら、第一本突合部J10aに沿って摩擦攪拌を行い、継手部材U、第一金属部材10a及び第二金属部材10bが対向する基点s4まで仮接合用回転ツールFを移動させる。そして、基点s4で仮接合用回転ツールFを離脱させずに、そのまま一方側継手突合部J11に沿って、仮接合用回転ツールFを移動させる。
【0102】
仮接合用回転ツールFが、継手部材U、第一金属部材10a及び第二金属部材10bが対向する基点s5達したら、第二本突合部J10bに沿って、仮接合用回転ツールFを移動させる。そして、仮接合用回転ツールFが第二タブ材突合部J5上に設定された基点s6に達したら、そのまま第二タブ材接合工程に移行する。
【0103】
第二タブ材接合工程では、図12の(b)に示すように、第二タブ材5と被接合金属部材10とで形成される第二タブ材突合部J5(J5a,J5b)に対して摩擦攪拌を行う。即ち、仮接合用回転ツールFが基点s6に達したら、第一金属部材10aの第二側面15と第二タブ材5との第二タブ材突合部J5a上に設定した折返し点s7まで仮接合用回転ツールFを移動させる。そして、図13の(a)に示すように、折返し点s7で仮接合用回転ツールFを折り返して基点s6に達したら、第二金属部材10bの第一側面14と第二タブ材5との第二タブ材突合部J5b上に設定した折返し点s8まで仮接合用回転ツールFを移動させる。
【0104】
仮接合用回転ツールFが折返し点s8に達したら、そのまま第二仮接合工程に移行する。第二仮接合工程では、第二本突合部J10b、他方側継手突合部J12及び第一本突合部J10aを仮接合する。即ち、図13の(b)に示すように、仮接合用回転ツールFを折返し点s8で折り返したら、第二本突合部J10bに沿って仮接合用回転ツールFを移動させ、基点s5まで移動させる。そして、そのまま他方側継手突合部J12に沿って、仮接合用回転ツールFを移動させる。
【0105】
そして、仮接合用回転ツールFが基点s4に達したら、第一本突合部J10aに沿って仮接合用回転ツールFを移動させて、第一タブ材突合部J4を横断し第一タブ材4に突入させる。最後に、仮接合用回転ツールFが終了位置EP2に達したら、仮接合用回転ツールFを離脱させる。
【0106】
なお、仮接合用回転ツールFの攪拌ピンF2が第一タブ材突合部J4及び第二タブ材突合部J5に入り込むと、被接合金属部材10と両タブ材とを引き離そうとする力が作用するが、被接合金属部材10と第一タブ材4及び第二タブ材5により形成された入り隅部4a,5aを溶接により仮接合しているので、被接合金属部材10と第一タブ材4及び第二タブ材5との間に目開きが発生することがない。
【0107】
このように、仮接合工程を一筆書きの要領で行うことにより、被接合金属部材10に現れる各突合部を効率よく仮接合することができる。
【0108】
仮接合工程が終了したら、下穴形成工程を行う。下穴形成工程では、図4の(b)を参照するように、後記する第一本接合工程における摩擦攪拌の開始位置に下穴P1を形成する工程である。第一予備工程に係る下穴形成工程においては、第一タブ材4の表面に設定されたSM2に下穴P1を形成する。
なお、下穴形成工程は、第一実施形態の下穴形成工程と略同等であるため、詳細な説明は省略する。
【0109】
(3)第一本接合工程
第一本接合工程は、被接合金属部材10の表面A側における本突合部J10(第一本突合部J10a、第二本突合部J10b)、一方側継手突合部J11及び他方側継手突合部J12を本格的に接合する工程である。即ち、本実施形態に係る第一本接合工程では、本接合用回転ツールGを使用し、仮接合された状態の被接合金属部材10の表面A側から摩擦攪拌を行う。
【0110】
第一本接合工程では、図14の(a)及び(b)に示すように、第一タブ材4に設定した開始位置SM2に本接合用回転ツールGの攪拌ピンG2を挿入(圧入)し、挿入した攪拌ピンG2を途中で離脱させることなく第二タブ材5に設定した折返し点OM2まで移動させた後、た折返し点OM2で折返し、そのまま終了位置EM2まで往復移動させる。なお、本実施形態では、第一タブ材4に摩擦攪拌の開始位置SM2及び終了位置EM2を設けているが、開始位置SM2と終了位置EM2の位置を限定する趣旨ではない。
【0111】
図14の(a)及び(b)を参照して第一本接合工程をより詳細に説明する。
まず、図14の(a)に示すように、開始位置SM2の直上に本接合用回転ツールGを位置させ、続いて、本接合用回転ツールGを右回転させつつ下降させて攪拌ピンG2の先端を挿入する。
【0112】
攪拌ピンG2の全体が第一タブ材4に入り込み、かつ、ショルダ部G1の下端面G11の全面が第一タブ材4の表面に接触したら、図14の(a)に示すように、摩擦攪拌を行いながら被接合金属部材10の第一タブ材突合部J4上の基点s1に向けて本接合用回転ツールGを相対移動させ、さらに、第一タブ材突合部J4を横切らせて第一本突合部J10aに突入させる。本接合用回転ツールGを移動させると、その攪拌ピンG2の周囲にある金属が順次塑性流動化するとともに、攪拌ピンG2から離れた位置では、塑性流動化していた金属が再び硬化して塑性化領域(以下、「表面塑性化領域W11」という。)が形成される。
【0113】
本接合用回転ツールGが、基点s4に達したら、本接合用回転ツールGを離脱させずにそのまま一方側継手突合部J11に沿って本接合用回転ツールGを移動させる。そして、本接合用回転ツールGが基点s5に達したら、第二本突合部J10bに沿って本接合用回転ツールGを移動させ、第二タブ材5に突入させる。そして、本接合用回転ツールGが、第二タブ材5に設定された折返し点OM2に達したら、折返し点OM2で本接合用回転ツールGを折り返させる。
【0114】
そして、再度、第二本突合部J10bに沿って本接合用回転ツールGを移動させ、基点s5に達したら、他方側継手突合部J11に沿って本接合用回転ツールGを移動させる。本接合用回転ツールGが基点s4に達したら、再度、第一本突合部J10aに沿って本接合用回転ツールGを移動させる。そして、最後に、本接合用回転ツールGを第一タブ材4に突入させて、終了位置EM2で本接合用回転ツールGを離脱させる。
【0115】
なお、本実施形態においては、第一本接合工程の前に、第一予備工程を行ったが、第一予備工程を省略して、第一準備工程の直後に第一本接合工程を行ってもよい。
【0116】
(4)第二予備工程
第二予備工程は、具体的な図示はしないが、第二本接合工程に先立って行われる工程であり、本実施形態では、被接合金属部材10の裏面B側において、被接合金属部材10の裏面Bに現れる各突合部に対して仮接合を行う仮接合工程と、第二本接合工程における摩擦攪拌の開始位置に下穴を形成する下穴形成工程と、を具備している。
【0117】
第二予備工程は、被接合金属部材10の裏面B側に行うことを除いては、第二実施形態に係る第一予備工程と略同等であるため、詳細な説明は省略する。
【0118】
(5)第二本接合工程
第二本接合工程は、具体的な図示はしないが、被接合金属部材10の裏面B側における本突合部J10、一方側継手突合部J11及び他方側継手突合部J12を本格的に接合する工程である。即ち、本実施形態に係る第二本接合工程では、本接合用回転ツールGを使用し、仮接合された状態の被接合金属部材10の裏面B側から摩擦攪拌を行う。
第二本接合工程は、被接合金属部材10の裏面B側に行うことを除いては、第一本接合工程と略同一であるため、詳細な説明は省略する。第二本接合工程が終了したら、タブ材を切除する。
【0119】
ここで、本実施形態のように、一対の金属部材の突合部を摩擦攪拌する際に、回転ツールを右回転させた場合は、進行方向左側に、回転ツールを左回転させた場合は、進行方向右側にトンネル状空洞欠陥が形成される可能性が高い。
また、表面塑性化領域W11及び裏面塑性化領域W12の両端側には、酸化皮膜が形成される可能性がある。酸化皮膜は、第一側面Cと第二タブ材5との間、及び、第二側面Dと第一タブ材4との間に形成された酸化皮膜を被接合金属部材10の内部に巻き込むことにより、形成されるものである。このような、トンネル状空洞欠陥や酸化皮膜は、被接合金属部材10の気密性及び水密性を低下させる原因となる。
【0120】
しかし、本実施形態では、折返し点OM1で折り返して本接合用回転ツールGを往復させて、本突合部J10を摩擦攪拌するため、仮に、往路の摩擦攪拌でトンネル状空洞欠陥や酸化皮膜が形成されたとしても、復路の摩擦攪拌で当該欠陥を密閉して補修することができる。これにより、気密性及び水密性の高い被接合金属部材10を形成することができる。
【0121】
(6)側面側溶接工程
側面側溶接工程は、被接合金属部材10の両側面にそれぞれ凹溝K3,K4を形成する凹溝形成工程と、凹溝K3に対して溶接を行う第一側面側溶接工程と、凹溝K4に対して溶接を行う第二側面側溶接工程と、を含む。
【0122】
凹溝形成工程では、図15に示すように、被接合金属部材10の第一側面C及び第二側面Dにそれぞれ露出する本突合部J10に沿って凹溝K3,K4を形成する。凹溝K3,K4は、公知のエンドミル等を用いて切り欠いて形成される。凹溝K3及び凹溝K4は、後記する溶接工程において、それぞれ溶接金属T3,T4が充填される部分である。
【0123】
凹溝K3は、図15の(a)及び(b)に示すように、断面視矩形を呈し被接合金属部材10(第一金属部材10a)の表面Aから裏面Bまで連続して形成されている。凹溝K3の幅Kaは、図15の(b)に示すように、表面塑性化領域W11の幅Wa/2よりも小さく形成されている。
【0124】
一方、凹溝K4は、被接合金属部材10の第二側面Dにおいて、断面視矩形を呈し本突合部J10に沿って表面Aから裏面Bまで連続して形成されている。凹溝K4の幅Kaは、図15の(b)に示すように、表面塑性化領域W11の幅Waよりも小さく形成されている。
【0125】
凹溝K3,K4の深さは、特に限定されるものではなく適宜設定すればよい。なお、凹溝K3,K4の形状は、本実施形態では断面視矩形としたが、これに限定されるものではなく他の形状であってもよい。
【0126】
第一側面側溶接工程では、図16に示すように、第一側面Cに形成された凹溝K3に対して溶接を行う。溶接は、本実施形態では、TIG溶接、MIG溶接などによって肉盛溶接を行うことが好ましい。肉盛溶接により、凹溝K3に溶接金属T3を好適に充填させることができる。これにより、表面塑性化領域W11及び裏面塑性化領域W12の間に存在する未塑性化領域(未接合領域)を溶接金属T3で確実に密閉するとともに、接合部の強度を高めることができる。
【0127】
肉盛溶接で充填された溶接金属T3のうち、第一側面Cの表面から突出する部分(肉盛部)については、当該肉盛部を切除することが好ましい。かかる肉盛部を切除することにより、第一側面Cの表面を平滑に成形することができる。
【0128】
第二側面側溶接工程では、図16の(b)に示すように、第二側面Dに形成された凹溝K4に対して溶接を行う。凹溝K4には溶接金属T4が充填される。第二側面側溶接工程は、第二側面Dに対して溶接を行うことを除いては、第一側面側溶接工程と略同等であるため、詳細な説明は省略する。
【0129】
以上説明した第二実施形態に係る接合方法によれば、第一実施形態と略同等の効果を奏するとともに、一対の金属部材を平面視L字状に突き合せた場合であっても好適に接合することができる。
【0130】
以上、本発明の実施形態について説明したが、前記した形態は例示であって、本発明を限定するものではない。例えば、仮接合工程の軌跡は、前記した形態に限定されるものではなく、他の軌跡であっても構わない。また、必ずしも一筆書きの要領で行う必要は無い。また、溶接は、本実施形態で肉盛溶接を採用したが、他の溶接方法であっても構わない。
【0131】
また、第一実施形態及び第二実施形態では、継手部材Uは、断面視長方形に形成したが、例えば、図17に示す継手部材U1のように断面視六角形に形成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0132】
【図1】第一実施形態に係る被接合金属部材を示した全体斜視図である。
【図2】第一実施形態に係る第一金属部材、第二金属部材及び継手部材を示した図であって、(a)は、斜視図、(b)は、平面図である。
【図3】第一実施形態に係るタブ材配置工程を示した斜視図である。
【図4】第一実施形態に係る回転ツールを示した図であって、(a)は、仮接合用回転ツールの側面図、(b)は、本接合用回転ツールの側面図である。
【図5】第一実施形態に係る仮接合工程を示した平面図である。
【図6】第一実施形態に係る第一本接合工程を示した平面図である。
【図7】第一実施形態に係る凹溝形成工程を示した斜視図である。
【図8】第一実施形態に係る側面側溶接工程を示した一部透視側面図である。
【図9】第二実施形態に係る被接合金属部材を示した全体斜視図である。
【図10】第二実施形態に係る第一金属部材、第二金属部材及び継手部材を示した図であって、(a)は、斜視図、(b)は、平面図である。
【図11】第二実施形態に係るタブ材配置工程を示した斜視図である。
【図12】第二実施形態に係る仮接合工程を示した平面図である。
【図13】第二実施形態に係る仮接合工程を示した平面図である。
【図14】第二実施形態に係る第一本接合工程を示した平面図である。
【図15】第二実施形態に係る凹溝形成工程を示した図であって、(a)は、斜視図、(b)は、平面図である。
【図16】第二実施形態に係る側面側溶接工程を示した図であって、(a)は、斜視図、(b)は、(a)の矢印方向から見た側面図である。
【図17】変形例を示した平面図である。
【図18】従来の接合方法を示した側面図である。
【符号の説明】
【0133】
1 被接合金属部材
1a 第一金属部材
1b 第二金属部材
2 第一タブ材
3 第二タブ材
4 第一タブ材
5 第二タブ材
10 被接合金属部材
10a 第一金属部材
10b 第二金属部材
A 表面
B 裏面
C 第一側面
D 第二側面
F 仮接合用回転ツール
G 本接合用回転ツール
J 突合部
K 凹部
P 下穴
T 溶接金属
U 継手部材
W 塑性化領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
端面に凹部を有する第一金属部材及び第二金属部材を前記端面同士で突き合わせて形成された中空部に継手部材を挿入して成る被接合金属部材に、回転ツールを移動させて摩擦攪拌接合を行う接合方法であって、
前記第一金属部材と前記第二金属部材との突合部、前記継手部材と前記第一金属部材との突合部及び前記継手部材と前記第二金属部材との突合部に対して前記被接合金属部材の表面から摩擦攪拌を行う第一本接合工程と、
前記第一金属部材と前記第二金属部材との突合部、前記継手部材と前記第一金属部材との突合部及び前記継手部材と前記第二金属部材との突合部に対して前記被接合金属部材の裏面から摩擦攪拌を行う第二本接合工程と、
前記第一金属部材と前記第二金属部材との突合部に対して前記被接合金属部材の少なくともいずれか一方の側面から溶接を行う側面側溶接工程と、
を含むことを特徴とする接合方法。
【請求項2】
端面に凹部を有する第一金属部材と、側面に凹部を有する第二金属部材とを前記端面及び前記側面で突き合わせて形成された中空部に継手部材を挿入して成る被接合金属部材に、回転ツールを移動させて摩擦攪拌接合を行う接合方法であって、
前記第一金属部材と前記第二金属部材との突合部、前記継手部材と前記第一金属部材との突合部及び前記継手部材と前記第二金属部材との突合部に対して前記被接合金属部材の表面から摩擦攪拌を行う第一本接合工程と、
前記第一金属部材と前記第二金属部材との突合部、前記継手部材と前記第一金属部材との突合部及び前記継手部材と前記第二金属部材との突合部に対して前記被接合金属部材の裏面から摩擦攪拌を行う第二本接合工程と、
前記第一金属部材と前記第二金属部材との突合部に対して前記被接合金属部材の少なくともいずれか一方の側面から溶接を行う側面側溶接工程と、
を含むことを特徴とする接合方法。
【請求項3】
前記側面側接合工程において、前記第一本接合工程で形成された塑性化領域と前記第二本接合工程で形成された塑性化領域との間の未接合領域の全体に亘って溶接を行うことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の接合方法。
【請求項4】
前記側面側溶接工程において、前記被接合金属部材の前記側面に現れる突合部に沿って凹溝を形成し、前記凹溝に溶接金属を充填することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の接合方法。
【請求項5】
前記第一本接合工程又は前記第二本接合工程の前に、前記被接合金属部材の両側面に第一タブ材及び第二タブ材を備えるタブ材配置工程と、前記被接合金属部材と前記第一タブ材との突合部、前記第一金属部材と前記第二金属部材との突合部、前記継手部材と前記第一金属部材との突合部、前記継手部材と前記第二金属部材との突合部、前記被接合金属部材と前記第二タブ材との突合部に対して摩擦攪拌を行う仮接合工程と、を含むことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の接合方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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