説明

接合部のサンプル採取方法

【課題】配管と管板の接合部の物性に影響を与えることなく、接合部を採取するサンプル採取方法を提供する。
【解決手段】
配管2及び管板3の接合部4を採取するサンプル採取方法であって、
サンプルとして採取する配管2をターゲット管2aとし、ターゲット管2aの外周側に位置する複数の配管2を準ターゲット管2bとし、準ターゲット管2bの外周側に位置する複数の配管2を切取管2cとしてマーキングする準備工程と、
準備工程の後、ターゲット管2a、準ターゲット管2b、切取管2c及び管板3を切断する工程とを備え、
切取管2c及び管板3を切取管部分で切断する工程では、切取管2cの内孔を広げるようにドリル7により切取管2c及び管板3を削り込み、切取管2cの肉厚を削り取って切取管2cを切断し、更に隣り合う削り込みによる孔hが連結するようにして管板3を切断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接合部のサンプル採取方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般にチューブリアクタ等の構造体は、多数の伝熱用の配管と、該配管を内部に配置するシェルとを備えて構成されており、該シェルは、円筒状のシェル胴部と、該シェル胴部の上端及び下端を塞ぐ管板とを備えている。該管板には、シェルの内部と外部を貫通する貫通孔が均一且つ規則的に形成されており、管板の貫通孔には夫々配管の端部が配置され、管板の外面に配管の開口を露出させるようになっている。また配管は、シェル胴部の上端から下端までの長さとほぼ同じ長さを有し、且つシェル胴部の軸線に沿うように直線状に形成されている。ここで管板における配管の開口は、1つの配管の周囲に複数の配管が取り囲み、更に複数の配管の周囲に他の複数の配管が取り囲むように、規則的且つ多数で構成されている。
【0003】
また配管と管板は、溶接材により接合されているため、チューブリアクタの運用停止後には、配管及び管板を切断して配管と管板の接合部を採取し、接合部のきずや腐食割れ等を検査することが考えられている。ここで接合部は、管板に接合された配管の端部と、該配管の端部の周囲に位置する管板の一部と、配管と管板を溶接するための溶接材とからなっている。
【0004】
尚、接合部のサンプル採取方法の一般的技術水準を示すものとしては、例えば、特許文献1がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−79658号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、配管と管板の接合部を採取する際には、管板等の切断時に発生する熱によって接合部に物性的な変化を生じるため、切断前の物性を維持した状態で接合部を採取することができないという問題があった。またチューブリアクタ等の管板の周囲には、移動することのできない種々の部材や装置が存在するめ、管板の周囲に大型の切断機械を搬入することができず、管板等を容易に切断して接合部を採取することができないという問題があった。
【0007】
本発明は、斯かる実情に鑑み、配管と管板の接合部の物性に影響を与えることなく、接合部を採取するサンプル採取方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の接合部のサンプル採取方法は、配管の開口を管板の面に複数形成するように複数の配管を管板に接合した構造体から、配管及び管板の接合部を採取するサンプル採取方法であって、
サンプルとして採取する配管をターゲット管とし、該ターゲット管の外周側に位置する複数の配管を準ターゲット管とし、該準ターゲット管の外周側に位置する複数の配管を切取管としてマーキングする準備工程と、
該準備工程の後、ターゲット管、準ターゲット管、切取管及び管板を切断する工程とを備え、
切取管及び管板を切取管部分で切断する工程では、切取管の内孔を広げるようにドリルにより切取管及び管板を削り込み、切取管の肉厚を削り取って切取管を切断し、更に隣り合う削り込みによる孔が連結するようにして管板を切断するものである。
【0009】
本発明の接合部のサンプル採取方法において、配管及び管板の接合部を下部に配置した構造体から、該配管及び管板の接合部を下方側へ向けて採取する場合には、ターゲット管を切断した工程の後に、ターゲット管及び管板の接合部を吊下部材により上方から吊り下げて支持する支持工程を備え、更に準ターゲット管、切取管及び管板を切断する工程の後に、吊下部材によりターゲット管及び管板の接合部を吊り下ろす吊下工程を備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の接合部のサンプル採取方法によれば、ターゲット管、準ターゲット管、切取管及び管板を切断する工程を備え、切取管及び管板を切断する工程では、切取管の内孔を広げるようにドリルにより切取管及び管板を削り込み、切取管の肉厚を削り取って切取管を切断し、更に隣り合う削り込みによる孔が連結するようにして管板を切断するので、サンプルとなるターゲット管及び管板の接合部に対して、切断時に発生する熱を伝えることがなく、切断前の物性を維持した状態で接合部を採取することができる。またドリルにより切取管の内孔を広げ、切取管の肉厚を削り取って切取管を切断し、更に隣り合う削り込みによる孔が連結するようにして管板を切断するので、大型の切断機械を不要にし、ターゲット管と管板の接合部を容易に採取することができるという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】(a)は本発明の接合部のサンプル採取方法を適用する構造体を示す概念図であり、(b)は(a)のb−b方向の矢視図である。
【図2】ターゲット管を切断する工程、管板を支持する工程、切取管及び管板を切断する工程、準ターゲット管を切断する工程を順に示す概念図である。
【図3】切取管及び管板を切断する際の状況を示す概念図である。
【図4】切取管を取り除いた状況を示す概念図である。
【図5】サンプルの接合部を吊り下ろす状況を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態例を図1〜図5を参照して説明する。
【0013】
実施の形態例の接合部のサンプル採取方法は、最初にチューブリアクタ等の構造体1から配管2の開口を外部に晒すように管板3の外面を覆う鏡板等の部材1aを取り外し、もしくは切断し、管板3の外面を露出した状態にして接合部4を採取可能な状態にする。ここで接合部4とは、検査のためのサンプルとなる配管2と管板3を接合した部分であり、具体的には、管板3に接合された配管2の端部と、該配管2の端部の周囲に位置する管板3の一部と、配管と管板3を溶接する溶接材4a(図2参照)とからなっている。また構造体1は、チューブリアクタに限定されるものでなく、複数の配管2を管板3に接合して接合部4を有するものならば、どのようなものでも良い。更に本実施の形態例では、配管2及び管板3の接合部4を下部に配した構造体1に対し、配管2及び管板3の接合部4を下方側へ向けて採取する場合を示しているが、配管2及び管板3が上部にある構造体1や、側部にある構造体1でも適用することができる。
【0014】
次に露出した管板3に対して準備工程を行う。準備工程は、図1(b)に示す如くサンプルとして採取する配管2をターゲット管2aとしてマーキングし、ターゲット管2aの外周側に位置する複数の配管2(図1(b)では6本)を準ターゲット管2bとしてマーキングし、準ターゲット管2bの外周側に位置する複数の配管2(図1(b)では12本)を切取管2cとしてマーキングする。ここでターゲット管2aは1本でなく、複数本でも良いし、また準ターゲット管2bは、ターゲット管2aを囲むならばどのように選択しても良いし、更に切取管2cは、準ターゲット管2bを囲むならばどのように選択しても良い。またマーキングの手段や方法は、ターゲット管2a及び管板3の接合部4に熱を加えるものでなければ特に制限されるものではない。
【0015】
続いて図2(a)に示す如くターゲット管2aを切断する工程を行う。ターゲット管2aを切断する工程は、一般的な内径カッタ(図示せず)をターゲット管2a内へ配管2のサンプル採取側開口から挿入してターゲット管2aを内面側から切り込み、管板3の上方でターゲット管2aを切断して接合部4と管延在部5とに分ける。ここで内径カッタは、ターゲット管2aを内面側から切断する機構を備え、一例としては、管内に挿入し得るカッタ本体と、カッタ本体に配置されてシャフト等により管の内周方向に回転するカッタホルダと、カッタホルダに配置されるカッタと、カッタを管の内面に押しつけるようにカッタホルダを徐々に付勢するスライダ等の付勢手段とを備え、管を内面側から切断し得るようにしている。
【0016】
そして図2(b)に示す如くターゲット管2aを切断した工程の後には支持工程を行う。支持工程は、ロープやロッド等からなる吊下部材6を上方からターゲット管2aの内部に通し、吊下部材6の先端係止部6aをターゲット管2aの開口先端に係止させてターゲット管2a及び管板3の接合部4を吊り下げ得る状態にし、ターゲット管2a、準ターゲット管2b、切取管2c及び管板3を全て切断したときに支持できるようにする。なお配管2及び管板3の接合部4が構造体1の上部や側部にある場合には、配管2及び管板3の接合部4が落下せず、支持工程は不要である。
【0017】
次に図2(c)、図3、図4に示す如く切取管2c及び管板3を切断する工程を行う。切取管2c及び管板3を切断する工程は、一般的なポータブルの孔あけドリル7を管板3の下方で切取管2cの内孔と同軸に配置し、切取管2cの開口から管板3の上方まで切取管2cの内孔を広げるように切取管2cを削り込み、段階的にドリル7の径を大きくして切取管2cの内孔を広げ、切取管2cの肉厚を削り取って切取管2cを切断し、更に切取管2cの外周に位置する溶接材4aや管板3を削り取って管板3に孔hを形成する。続いて他の全ての切取管2cについても同様に削り込んで切取管2cを切断し、且つ同様に管板3を削り込んで孔hを形成する。そして削り込みによる他の孔hを形成する際には、他の孔hと、隣り合う削り込みによる孔hとを連結し、管板3を周方向で切断する。ここでポータブルの孔あけドリル7は、孔hを形成する機構を備え、一例としては、ドリル部7aを回転させるモータ部7bと、モータ部7bを介してドリル部7aを軸方向へ移動させるスライド部7cと、スライド部7cを据え付けるマグネット据付部7dとを備え、管板3と平行に配置した鋼板8に対し、マグネット据付部7dを介して固定し、ドリル部7aの削込方向を切取管2cの内孔と同軸にしている。なお鋼板8は支持フレーム(図示せず)に配置されているが、支持フレームは、管板3のタップ孔等により配置されても良いし、他の手段により配置されても良い。
【0018】
続いて図2(d)に示す如く準ターゲット管2bを切断する工程を行う。準ターゲット管2bを切断する工程は、先にターゲット管2aを切断した内径カッタ(図示せず)を用いており、内径カッタを準ターゲット管2b内へ配管2のサンプル採取側開口から挿入して準ターゲット管2bを内面側から切り込み、管板3の上方で準ターゲット管2bを切断して接合部4と管延在部5とに分ける。ここで準ターゲット管2bを切断する工程と、切取管2c及び管板3を切断する工程とは、順序を逆にしても良い。また準ターゲット管2bを切断する際には、既に切断された管板3が揺動して安定しないので、切取管2c等の内孔に固定治具(図示せず)を差し込んで管板3を固定することが好ましい。更に固定治具は径方向に広がって切取管2cの内孔の周囲を固定するものであるが、他の構成のものを用いても良い。
【0019】
そして図5に示す如く準ターゲット管2bを切断する工程の後には吊下工程を行う。吊下工程は、吊下部材6を下方へ下げてターゲット管2a及び管板3の接合部4を吊り下ろし、ターゲット管2a及び管板3の接合部4を採取する。なお支持工程と同様に配管2及び管板3が構造体1の上部や側部にある場合には、配管2及び管板3の接合部4が落下せず、吊下工程は不要である。
【0020】
而して、このような実施の形態例によれば、ターゲット管2a、準ターゲット管2b、切取管2c及び管板3を切断する工程を備え、切取管2c及び管板3を切断する工程では、切取管2cの内孔を広げるように孔あけドリル7により切取管2c及び管板3を削り込み、切取管2cの肉厚を削り取って切取管2cを切断し、更に隣り合う削り込みによる孔hが連結するようにして管板3を切断するので、サンプルとなるターゲット管2a及び管板3の接合部4に対して、切断時に発生する熱を伝えることがなく、切断前の物性を維持した状態で接合部4を採取することができる。また孔あけドリル7により切取管2cの内孔を広げ、切取管2cの肉厚を削り取って切取管2cを切断し、更に隣り合う削り込みによる孔hが連結するようにして管板3を切断するので、大型の切断機械を不要にし、ターゲット管2aと管板3の接合部4を容易を採取することができる。
【0021】
実施の形態例において、配管2及び管板3を下部に配置した構造体1に対し、配管2及び管板3の接合部4を下方側へ向けて採取する場合には、ターゲット管2aを切断した工程の後に、ターゲット管2a及び管板3の接合部4を吊下部材6により上方から吊り下げて支持する支持工程を備え、更に準ターゲット管2b、切取管2c及び管板3を切断する工程の後に、吊下部材6によりターゲット管2a及び管板3の接合部4を吊り下ろす吊下工程を備えると、ターゲット管2a及び管板3の接合部4が落下して破損することを防止し、ターゲット管2a及び管板3の接合部4を安定的に採取することができる。
【0022】
尚、本発明の接合部のサンプル採取方法は、上述の図示例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0023】
1 構造体
2 配管
2a ターゲット管
2b 準ターゲット管
2c 切取管
3 管板
4 接合部
6 吊下部材
7 ドリル
h 孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配管の開口を管板の面に複数形成するように複数の配管を管板に接合した構造体から、配管及び管板の接合部を採取するサンプル採取方法であって、
サンプルとして採取する配管をターゲット管とし、該ターゲット管の外周側に位置する複数の配管を準ターゲット管とし、該準ターゲット管の外周側に位置する複数の配管を切取管としてマーキングする準備工程と、
該準備工程の後、ターゲット管、準ターゲット管、切取管及び管板を切断する工程とを備え、
切取管及び管板を切取管部分で切断する工程では、切取管の内孔を広げるようにドリルにより切取管及び管板を削り込み、切取管の肉厚を削り取って切取管を切断し、更に隣り合う削り込みによる孔が連結するようにして管板を切断することを特徴とする接合部のサンプル採取方法。
【請求項2】
配管及び管板の接合部を下部に配置した構造体から、該配管及び管板の接合部を下方側へ向けて採取する場合には、ターゲット管を切断した工程の後に、ターゲット管及び管板の接合部を吊下部材により上方から吊り下げて支持する支持工程を備え、更に準ターゲット管、切取管及び管板を切断する工程の後に、吊下部材によりターゲット管及び管板の接合部を吊り下ろす吊下工程を備えることを特徴とする請求項1に記載の接合部のサンプル採取方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−149937(P2012−149937A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−7610(P2011−7610)
【出願日】平成23年1月18日(2011.1.18)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】