説明

接着性ゴム組成物

【課題】加硫促進剤として従来のDZに代る加硫促進剤を用いたゴムとワイヤーコードの接着に適した接着性ゴム組成物の開発。
【解決手段】ゴム100重量部、有機酸コバルト塩をコバルト含量として0.1〜0.3重量部、ヘキサメチレンビスチオサルフェート2ナトリウム塩2水和物0.1〜3重量部、加硫促進剤NS0.3〜1.5重量部、レゾルシン縮合物、変性レゾルシン縮合物及びクレゾール樹脂からなる群から選ばれた少なくとも1種を0.5〜5重量部並びにヘキサメチロールメラミンペンタメチルエーテルの部分縮合物及び/又はヘキサメトキシメチロールメラミンの部分縮合物0.5〜5重量部を含む接着性ゴム組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は接着性ゴム組成物に関し、更に詳しくはゴムと補強用ワイヤーコードとの接着性を改良した接着性ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤにおけるゴムとワイヤーコードとの接着性はゴム自体の加硫反応と接着反応との競争反応であるため、接着性を有利に働かすために加硫速度の遅い加硫促進剤を使用することが一般に行われている(特許文献1参照)。従来は加硫促進剤DZ(N,N−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)がこの目的に有効で、ゴム業界で広く使用されている。しかしながら、加硫促進剤DZはコストが高いという問題があり、コスト低減のためにも安価な加硫促進剤への代替が必要となってきた。そこで代替品としてDZより加硫速度が早い加硫促進剤NS(N−t−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)の使用が考えられるが、単純にDZをNSに置換した場合には接着性が悪化するという問題がある。
【0003】
【特許文献1】特開2005−272815号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明の目的は前記従来技術の問題を克服して現在の加硫促進剤DZに代る加硫促進剤を配合した接着用ゴム組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に従えば、ゴム100重量部、有機酸コバルト塩をコバルト含量として0.1〜0.3重量部、ヘキサメチレンビスチオサルフェート2ナトリウム塩2水和物0.1〜3重量部、加硫促進剤NS(N−t−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)0.3〜1.5重量部、レゾルシン縮合物、変性レゾルシン縮合物及びクレゾール樹脂からなる群から選ばれた少なくとも1種を0.5〜5重量部並びにヘキサメチロールメラミンペンタメチルエーテルの部分縮合物及び/又はヘキサメトキシメチロールメラミンの部分縮合物0.5〜5重量部を含んでなる接着性ゴム組成物が提供される。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、加硫促進剤DZに代えて加硫促進剤NSを使用し、更に、これにヘキサメチレンビスチオサルフェート2ナトリウム塩2水和物(HTS)並びに特定の樹脂、硬化剤、有機酸コバルト塩を配合することによって、加硫促進剤DZを使用した場合と同等以上のゴムとワイヤーコードとの接着性を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決すべく研究を進めた結果、前述の如く、加硫促進剤DZよりも加硫速度の早い加硫促進剤NSを用い、ゴム100重量部当り、有機酸コバルト塩をコバルト含量として0.1〜0.3重量部、ヘキサメチレンビスチオサルフェート2ナトリウム塩2水和物を0.1〜3重量部、加硫促進剤NSを0.3〜1.5重量部、レゾルシン縮合物、変性レゾルシン縮合物及びクレゾール樹脂からなる群から選ばれた少なくとも1種を0.5〜5重量部並びにヘキサメチロールメラミンペンタメチルエーテルの部分縮合物及び/又はヘキサメトキシメチロールメラミンの部分縮合物を0.5〜5重量部配合することにより、前記目的を達成した接着性ゴム組成物が得られることを見出した。
【0008】
本発明の接着性ゴム組成物に使用するゴム成分としては、これらに限定するものではないが、従来からゴムとワイヤーとの接着性ゴム組成物に使用されているような任意のゴム、例えば天然ゴム(NR)、ポリイソブチルゴム(IR)、ポリブチレンゴム(BR)、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)などのジエン系ゴムを単独又は任意のブレンドとして、更にこれらのジエン系ゴムにその他のゴムを少量成分として配合したブレンドゴムなどを使用することができる。
【0009】
本発明の接着性ゴム組成物に配合する有機酸コバルト塩としては例えばナフテン酸コバルト、ステアリン酸コバルト、トール油酸コバルト、ロジン酸コバルト、ネオデカン酸コバルト、ホウ素酸ネオデカン酸コバルトなどをあげることができる。これらの有機酸コバルト塩は公知の化合物であり、現に各種接着性組成物などに配合されており、市販品として容易に入手することができる。有機酸コバルト塩の配合量は、ゴム100重量部当り、コバルト含量として、0.1〜0.3重量部、好ましくは0.1〜0.25重量部である。この配合量が少ないとワイヤコードとの接着性が悪化するので好ましくなく、逆に多過ぎると破断特性が悪化するので好ましくない。
【0010】
本発明の接着性ゴム組成物に配合するヘキサメチレンビスチオサルフェート2ナトリウム塩2水和物は従来から過加硫時の物性低下抑制を目的にリバージョン防止剤として、使用されている公知の化合物であり、市販品として容易に入手することができる。ヘキサメチレンビスチオサルフェート2ナトリウム塩2水和物はゴム100重量部当り0.1〜3重量部、好ましくは0.5〜2.5重量部配合する。この配合量が少ないとワイヤコードとの接着性が悪化するので好ましくなく、逆に多過ぎると破断特性が悪化したり、コストがアップしてしまうので好ましくない。
【0011】
本発明の接着性ゴム組成物に配合する加硫促進剤NSは従来からゴム組成物に加硫促進剤として配合されている物質であり、本発明によればこの加硫促進剤NSを、ゴム100重量部当り、0.3〜1.5重量部、好ましくは0.3〜1.0重量部配合する。この配合量が少ないと加硫度が低下するので好ましくなく、逆に多過ぎるとワイヤコードとの接着性が低下するので好ましくない。
【0012】
本発明の接着性ゴム組成物には、更にレゾルシン縮合物、変性レゾルシン縮合物及びクレゾール樹脂からなる群から選ばれた少なくとも1種を、ゴム100重量部当り、0.5〜5重量部、好ましくは1〜3重量部配合する。この配合量が少ないとワイヤコードとの接着性が悪化するので好ましくなく、逆に多過ぎると破断特性が低下するので好ましくない。これらの化合物もすべて公知の化合物であり、市販品として容易に入手することができる。例えばPenacolite Resin,B−18−S,B−19−S,B−20−S,B−21−S(Indspec Chemical Corp.)、スミカノール610(住友化学)、SP7000(日本触媒)などを用いることができる。
【0013】
本発明によれば、更に、ゴム100重量部に対し、ヘキサメチロールメラミンペンタメチルエーテルの部分縮合物及び/又はヘキサメトキシメチロールメラミンの部分縮合物0.5〜5重量部、好ましくは1〜4重量部配合する。この配合量が少ないとワイヤコードとの接着性が悪化するので好ましくなく、逆に多過ぎると破断特性が低下するので好ましくない。これらの部分縮合物も市販品として入手することができる。例えばCyrez964RPC(Cytec Industries Inc)、スミカール507A(住友化学)などを用いることができる。
【0014】
本発明に係るゴム組成物には、前記した成分に加えて、カーボンブラックやシリカなどの補強剤(フィラー)、加硫又は架橋剤、加硫促進剤、各種オイル、老化防止剤、可塑剤などのタイヤ用、その他のゴム組成物用に一般的に配合されている各種添加剤を配合することができ、かかる添加剤は一般的な方法で混練して組成物とし、加硫又は架橋するのに使用することができる。これらの添加剤の配合量は本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。
【実施例】
【0015】
以下、実施例によって本発明を更に説明するが、本発明の範囲をこれらの実施例に限定するものでないことはいうまでもない。
【0016】
実施例1〜4及び比較例1〜7
サンプルの調製
表Iに示す配合において、加硫促進剤と硫黄を除く成分を1.5リットルの密閉型ミキサーで5分間混練し、160℃に達したときに放出してマスターバッチを得た。このマスターバッチに加硫促進剤と硫黄をオープンロールで混練し、ゴム組成物を得た。このゴム組成物を用いて以下に示す試験法で初期及び耐水接着性を評価した。結果は表Iに示す。
【0017】
次に得られたゴム組成物を15×15×0.2cmの金型中で160℃で20分間加硫して加硫ゴムシートを調製し、以下に示す試験法で加硫ゴムの硬度を測定した。結果は表Iに示す。
【0018】
ゴム物性評価試験法
硬度:JIS K 6253に準拠。数値が大きいほどタイヤの耐久性に有利である。
初期接着性:12.5mm間隔で互いに平行に並べた黄銅メッキスチールコード(1×5構造)の両側からゴム組成物をコーティングして埋め込み、幅25mmのシートにして試験サンプルとした。この試験サンプルを160℃、20分加硫し、ついでASTM D 2229に準拠して、そのサンプルからコードを引き抜き、そのときの引き抜き力(指数)とゴム被覆率(ゴム付き)%で評価した。数値の大きい方が優れている。
耐水接着性:加硫後の上記試験サンプルを切断して4週間70℃の温水中に浸漬した後、上記と同様にASTM D 2229に準拠して評価した。
【0019】
【表1】

【0020】
【表2】

【0021】
表Iの結果から明らかなように、加硫促進剤DZを配合した比較例1(従来の標準例)に比較し、ホウ素を含有するコバルト塩(マノボンド(C22.5)及びHTSを配合した比較例2は耐水接着性が僅かに優れる程度である。これに対し、本発明に従った実施例1では比較例1に比較して耐水接着性が改良され、実施例2では樹脂を変更しても初期接着性、耐水接着性とも改良され、実施例3ではNSが0.3phrでも耐水接着性が改良され、そして実施例4ではコバルト量を増加しても初期接着性、耐水接着性ともに改良されている。
【0022】
一方、比較例3は比較例1の加硫促進剤をNSに変更したもので比較例1に対して耐水接着性が悪化し、比較例4は比較例3にHTSを添加したもので比較例1に対して耐水接着性が悪化し、そして比較例5は比較例4に対して、HTSを除去し、PMMMと変性レゾルシン樹脂を添加したもので比較例1と同等レベルで、耐水接着性の改良が見られない。更に比較例6は樹脂を添加してもNSの配合量が少ないと初期接着性及び耐水接着性が悪化することを示し、比較例7はHTSを増やしすぎると初期接着性及び耐水接着性が悪化することを示している。
【産業上の利用可能性】
【0023】
以上の通り、本発明によれば、加硫促進剤DZに代えて加硫促進剤NSを使用し、更に、これにヘキサメチレンビスチオサルフェート2ナトリウム塩2水和物(HTS)並びに特定の樹脂、硬化剤、有機酸コバルト塩を配合することによって、加硫促進剤DZを使用した場合と同等以上のゴムとワイヤーコードとの接着性を得ることができるのでタイヤコード用などの接着性組成物として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム100重量部、有機酸コバルト塩をコバルト含量として0.1〜0.3重量部、ヘキサメチレンビスチオサルフェート2ナトリウム塩2水和物0.1〜3重量部、加硫促進剤NS(N−t−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)0.3〜1.5重量部、レゾルシン縮合物、変性レゾルシン縮合物及びクレゾール樹脂からなる群から選ばれた少なくとも1種を0.5〜5重量部並びにヘキサメチロールメラミンペンタメチルエーテルの部分縮合物及び/又はヘキサメトキシメチロールメラミンの部分縮合物0.5〜5重量部を含んでなる接着性ゴム組成物。

【公開番号】特開2009−286872(P2009−286872A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−139765(P2008−139765)
【出願日】平成20年5月28日(2008.5.28)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】