説明

接着方法とそれを用いたバイオケミカルチップと光学部品

【課題】
1対の部材にミクロンレベルの微細な穴や溝が加工されている場合、前記微細な穴や溝を損なわず且つ隙間なく接着することは、困難であった。また、接着面の接着剤等に厚みムラが生じるため、レンズ等の光学部材を光学特性の劣化なく接着することも難しかった。
【解決手段】
予め光反応性の反応性官能基を有する有機薄膜を形成した第1および第2の部材を作製し、前記第1及び第2の部材を接触させた状態で光を照射して前記有機薄膜を介して第1及び第2の部材を接着することにより、第1のバイオケミカルチップ基板表面に共有結合している有機膜と第2のバイオケミカルチップ基板表面に共有結合している有機膜とを介して共有結合により接着されているバイオケミカルチップ、および第1の光学部材の表面に共有結合している有機膜と第2の光学部材の表面に共有結合している有機膜とを介して共有結合により接着されている光学部品を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つの部材の接着方法に関するものである。さらには、その方法を用いて作製したバイオケミカルチップや光学部品に関するものである。
詳しくは、表面に微細な流路や穴が加工された1対のバイオケミカルチップ基板を互いに向かい合わせ、前記流路や穴を損なうことなく接着したバイオケミカルチップ、及び、その製造方法に関するものである。なお、ここでいうバイオケミカルチップには、化学実験や、バイオ実験、医療診断等に用いるケミカルチップ、バイオチップ、バイオケミカル電気泳動チップ、バイオケミカルリアクター、バイオケミカル流体システム、DNAチップ等が含まれる。
また、表面の平坦性や接着面の光学特性が重要な1対の光学部材を互いに向かい合わせ、前記平坦性や光学特性を損なうことなく接着した光学部品およびその製造方法に関するものである。なお、ここでいう光学部品には、レンズやプリズム、光ファイバー、DVDなど光記録媒体等が含まれる。
【背景技術】
【0002】
1対の部材を互いに向かい合わせ、瞬間接着剤や光硬化接着剤を用いて接着する技術は一般によく知られている。
【特許文献1】特開2005-221478号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、1対の部材の少なくともどちらか一方にミクロンレベルの微細な穴や溝が加工されている場合、前記微細な穴や溝を損なうことなく、すなわち接着剤で埋めてしまうことなく、且つ隙間なく接着することは、至難の業であった。また、従来の接着剤を用いた方法では、接着面の接着剤等に厚みムラが生じるため、レンズ等の光学部材を光学特性の劣化なく接着することも非常に難しかった。
【0004】
本発明は、1対の部材の少なくともどちらか一方にミクロンレベルの微細な穴や溝が加工されているバイオケミカルチップ基板を、前記微細な穴や溝を損なうことなく、すなわち接着剤で埋めてしまうことなく、且つ隙間なく接着できる接着方法、およびその方法を用いて製作された欠陥のないバイオケミカルチップを低コストで提供することを目的とする。
また、接着面で光学特性が損なわれることがない接着方法、及び、接着面で光学特性が損なわれていない光学部品を低コストで提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するための手段として提供される第一の発明は、あらかじめ光反応性の官能基を有する有機薄膜を形成した第1および第2の部材を作製する工程と、前記第1及び第2の部材を接触させた状態で光を照射して前記有機薄膜を介して第1及び第2の部材を接着する工程を含むことを特徴とする接着方法である。
【0006】
第二の発明は、第一の発明において、少なくとも光反応性の官能基がカルコニル基、または、ジアセチレン基であることを特徴とする接着方法である。
【0007】
第三の発明は、第二の発明において、光反応性の官能基としてカルコニル基またはジアセチレン基を含むクロロシラン化合物と非水系の有機溶媒を混合して作製した化学吸着液に部材を接触反応させてカルコニル基またはジアセチレン基を含む有機薄膜または化学吸着単分子膜を形成した第1及び第2の部材を作製する工程、あるいは光反応性の官能基としてカルコニル基またはジアセチレン基を含むアルコキシシラン化合物とシラノール縮合触媒と非水系の有機溶媒を混合して作製した化学吸着液に部材を接触反応させてカルコニル基またはジアセチレン基を含む有機薄膜または化学吸着単分子膜を形成した第1及および第2の部材を作製する工程を含むことを特徴とする接着方法である。
【0008】
第四の発明は第一の発明において、少なくとも前記第1及び第2の部材の接触端面、あるいは前記第1及び第2の部材のどちらかが光に対して透明であり、透明な部材側から光を照射して第1、及び、第2の部材を接着することを特徴とする接着方法である。
【0009】
第五の発明は、少なくとも第1のバイオケミカルチップ基板表面に共有結合している有機膜と第2のバイオケミカルチップ基板表面に共有結合している有機膜とを介して共有結合により接着されていることを特徴とするバイオケミカルチップ。
【0010】
第六の発明は第五の発明において、少なくとも第1のバイオケミカルチップ基板表面に共有結合している有機膜と第2のバイオケミカルチップ基板表面に共有結合している有機膜が同じ光反応性の官能基を含むことを特徴とするバイオケミカルチップである。
【0011】
第七の発明は、第五の発明において、少なくとも第1のバイオケミカルチップ基板表面に共有結合している有機膜と第2のバイオケミカルチップ基板表面に共有結合している有機膜がそれぞれ単分子膜であることを特徴とするバイオケミカルチップである。
【0012】
第八の発明は、少なくとも第1の光学部材の表面に共有結合している有機膜と第2の光学部材の表面に共有結合している有機膜とを介して共有結合により接着されていることを特徴とする光学部品である。
【0013】
第九の発明は、第八の発明において、少なくとも第1の光学部材の表面に共有結合している有機膜と第2の光学部材の表面に共有結合している有機膜が同じ光反応性の官能基を含むことを特徴とする光学部品である。
【0014】
第十の発明は、第八の発明において、少なくとも第1の光学部材の表面に共有結合している有機膜と第2の光学部材の表面に共有結合している有機膜がそれぞれ単分子膜であることを特徴とする光学部品である。
以下、これら発明の要旨について説明する。
【0015】
本発明は、あらかじめ光反応性の反応性官能基を有する有機薄膜を形成した第1および第2の部材を作製する工程と、前記第1及び第2の部材を接触させた状態で光を照射して前記有機薄膜を介して第1及び第2の部材を接着することにより、少なくとも第1のバイオケミカルチップ基板表面に共有結合している有機膜と第2のバイオケミカルチップ基板表面に共有結合している有機膜とを介して共有結合により接着されているバイオケミカルチップ、及び少なくとも第1の光学部材の表面に共有結合している有機膜と第2の光学部材の表面に共有結合している有機膜とを介して共有結合により接着されている光学部品を提供することを要旨とする。
【0016】
このとき、少なくとも光反応性の官能基がカルコニル基、又は、ジアセチレン基であると光付加反応で共有結合が生じるので接着力を得るには都合がよい。
【0017】
また、光反応性の官能基としてカルコニル基、又は、ジアセチレン基を含むクロロシラン化合物と非水系の有機溶媒を混合して作製した化学吸着液に部材を接触反応させてカルコニル基、又は、ジアセチレン基を含む有機薄膜または化学吸着単分子膜を形成した第1及および第2の部材を作製するか、あるいは光反応性の官能基としてカルコニル基またはジアセチレン基を含むアルコキシシラン化合物とシラノール縮合触媒と非水系の有機溶媒を混合して作製した化学吸着液に部材を接触反応させてカルコニル基またはジアセチレン基を含む有機薄膜、または化学吸着単分子膜を形成した第1及および第2の部材を作製すると、部材表面にカルコニル基またはジアセチレン基が露出するので接着するのには都合がよい。
【0018】
前記第1及び第2の部材を接触させて接着するとき、少なくとも前記第1及び第2の部材の接触端面、あるいは前記第1及び第2の部材のどちらかが光に対して透明であり、透明な部材側から光を照射して第1、及び、第2の部材を接着すると、部材の合わせずれを小さくできて合わせ精度向上の上で都合がよい。
【0019】
なお、少なくとも第1の部材表面に共有結合している有機膜と第2の部材表面に共有結合している有機膜が同じ光反応性の官能基を含んでいると、それぞれの有機薄膜を介して共有結合により接着されたバイオケミカルチップや光学部品になる。
また、少なくとも第1の部材表面に共有結合している有機膜と第2の部材表面に共有結合している有機膜がそれぞれ単分子膜であると、均一な接着面が得られるのでバイオケミカルチップや光学部品などの接着に好都合である。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したとおり、本発明によれば、1対の部材の少なくともどちらか一方にミクロンレベルの微細な穴や溝が加工されているバイオケミカルチップ基板を、前記微細な穴や溝を損なうことなく、すなわち接着剤で埋めてしまうことなく且つ隙間なく接着できて、欠陥のないバイオケミカルチップを低コストで提供できる効果がある。また、接着面で光学特性を損なうことなく接着できて、高性能な光学部品を低コストで提供できる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明は、あらかじめ光反応性の官能基を有する単分子膜状の有機薄膜を形成した第1および第2の部材を作製する工程と、前記第1、及び、第2の部材を接触させた状態で光を照射して前記単分子膜状の有機薄膜を介して第1、及び、第2の部材を接着することにより、バイオケミカルチップや光学部品を製造提供するものである。
【0022】
したがって、本発明の方法を用いれば、1対の部材の少なくともどちらか一方にミクロンレベルの微細な穴や溝が加工されているバイオケミカルチップ基板を、前記微細な穴や溝を損なうことなく、すなわち接着剤で埋めてしまうことなく且つ隙間なく接着できて、欠陥のないバイオケミカルチップを低コストで提供できる作用がある。また、接着面で光学特性が損なわれることがない均一厚みの接着が可能となり、接着面で光学特性が損なわれていない光学部品を低コストで提供できる作用がある。
【0023】
以下、本願発明の詳細は実施例を用いて説明するが、本願発明は、これら実施例によって何ら制限されるものではない。
【0024】
本発明に関するバイオケミカルチップには、化学実験や、バイオ実験、医療診断等に用いるケミカルチップ、バイオケミカル電気泳動チップ、バイオケミカルリアクター、バイオケミカル流体システム、DNAチップ等が含まれる。また、ここでいう光学部品には、レンズやプリズム、光ファイバー、光記録媒体等が含まれるが、代表例として以下ケミカルチップとレンズを取り上げて説明する。
【実施例1】
【0025】
まず、ケミカルチップに用いる1対の加工したガラス製バイオケミカルチップ基板1、1‘(アクリル樹脂等のプラスチック製基板でも良いが、プラスチックの場合には、あらかじめコロナ処理等で表面を薄く酸化して親水性に加工しておくと、ガラス同様に扱えた。)を用意し、よく洗浄して乾燥した。次に、化学吸着剤として機能部位に光反応性の官能基、例えば、一端にカルコニル基((C) CO(CH)2 (C)―)及びクロロシリル基(活性部位)を含む化学吸着剤、例えば(C) (CH)2CO(C)O(CH2OSiCl3を0.1重量%程度の濃度で非水系溶媒(例えば、脱水したノナン)に溶かして化学吸着溶液(以下吸着溶液という。)とした。
【0026】
この吸着溶液に、乾燥雰囲気中(相対湿度30%以下が好ましかった。)で前記チップ基板を漬浸し撹拌反応させると、チップ基板1、1‘表面は水酸基2、2’が多数含まれているので(図1(a))、前記化学吸着剤のクロロシリル基(SiCl)基と前記チップ基板の水酸基(OH)が反応し、脱塩酸反応が生じチップ基板表面全面に亘り、下記式(化1)に示す結合が生成さる。次に、エタノールで洗浄すると、前記化学吸着剤よりなる単分子膜3、3‘で被われたチップ基板が得られた。
【0027】
【化1】

ここで、(C) CO(CH)2 (C)はカルコニル基を表す。
【0028】
この化学吸着単分子膜はきわめて強固にチップ基板表面に共有結合しているので、通常の反応では剥離することがなかった。さらに、膜厚も1分子の長さのみであるので(およそ1nm程度)、ガラスの厚みや、あらかじめ加工してあった流路や穴を損なうことはなかった。
【0029】
一方、洗浄せずに空気中に取り出すと、溶媒が蒸発しガラス製基板表面に残った化学吸着剤がガラス製基板表面で空気中の水分と反応して、粒子表面に前記化学吸着剤よりなる極薄の有機薄膜(この場合はポリマー膜)が形成された。
この被膜でも、膜厚は多少厚くなったが、接着時の反応性はほとんど変わらなかった。
【0030】
また、このときチップ基板表面の単分子膜のカルコニル基は250〜400nmの範囲で光反応性であるので、同様に処理した対向する基板を向かい合わせ加圧接触させ、紫外線照射をガラス基板側から照射すると、下記反応式(化2)に示したような反応で対向接触するカルコニル基が付加して二つのガラス製バイオケミカルチップ基板が2つの単分子膜の共有結合を介して接着したバイオケミカルチップが得られた(図1(c))。図中、4は、カルコニル基が付加反応して生成された結合を表す。なお、基材が不透明の場合には、端面より光照射すればよい。
【0031】
【化2】

【実施例2】
【0032】
まず、実施例1と同様に、ケミカルチップに用いる1対の加工したガラス製バイオケミカルチップ基板1(アクリル樹脂等のプラスチック製基板でも良いが、プラスチックの場合には、あらかじめコロナ処理等で表面を薄く酸化して親水性に加工しておくと、ガラス同様に扱えた。)を用意し、よく洗浄して乾燥した。
次に、化学吸着剤として機能部位に光反応性の官能基、例えば、ジアセチレン基を含み他端にアルコキシシリル基を含む薬剤、例えば、下記式(化3)に示す薬剤が99重量%、シラノール縮合触媒として、例えば、ジブチル錫ジアセチルアセトナートが1重量%となるようそれぞれ秤量し、シリコーン溶媒、例えば、ヘキサメチルジシロキサン溶媒に合計1重量%程度の濃度(好ましくい化学吸着剤の濃度は、0.5〜3%程度)になるように溶かして化学吸着液を調製した。
【0033】
【化3】

【0034】
この吸着液を前記ガラス製チップ基板表面に塗布し、普通の空気中で(相対湿度45%)で2時間程度反応させた。このとき、前記ガラス製チップ基板の表面には水酸基が多数含まれているので、前記化学吸着剤の−Si(OCH)基と前記水酸基がシラノール縮合触媒の存在下で脱アルコール(この場合は、脱CHOH)反応し、実施例1と同様に下記式(化4)に示したような結合を形成し、ガラス製基板表面全面に亘り表面と化学結合したジアセチレン基を含む化学吸着単分子膜が約1ナノメートル程度の膜厚で形成される。
【0035】
その後、エタノールで洗浄すると、実施例1と同様に表面に光反応性のジアセチレン基を有する化学吸着単分子膜で被われたガラス製バイオケミカルチップ基板を製造できた。
【0036】
【化4】

【0037】
この化学吸着単分子膜もきわめて強固にチップ基板表面に共有結合しているので、通常の反応では剥離することがなかった。さらに、膜厚も1分子の長さのみであるので(およそ1nm程度)、ガラスの厚みや、あらかじめ加工してあった流路や穴を損なうことはなかった。
【0038】
一方、洗浄せずに空気中に取り出すと、溶媒が蒸発しガラス製基板表面に残った化学吸着剤がガラス製基板表面で空気中の水分と反応して、粒子表面に前記化学吸着剤よりなる極薄の有機薄膜(この場合はポリマー膜)が形成された。
この被膜でも、膜厚は多少厚くなったが、接着時の反応性はほとんど変わらなかった。
【0039】
また、このときチップ基板表面の単分子膜のジアセチレン基は30〜400nmの範囲で光反応性であるので、同様に処理した対向する基板を加圧接触させ、紫外線照射をガラス基板側から照射すると、下記反応式(化5)に示したような反応で対向接触するジアセチレン基が付加して二つのガラス製バイオケミカルチップ基板が2つの単分子膜の共有結合を介して接着したバイオケミカルチップが得られた。
【0040】
【化5】

【0041】
なお、この処理により形成された単分子膜も、ナノメートルレベルの膜厚で極めて薄いため、ガラスの厚みや、あらかじめ加工してあった流路や穴を損なうことはなかった。
一方、洗浄せずに空気中に取り出すと、溶媒が蒸発しガラス製基板表面に残った化学吸着剤がガラス製基板表面で空気中の水分と反応して、粒子表面に前記化学吸着剤よりなる極薄の有機薄膜(この場合はポリマー膜)が形成された。
この被膜でも、膜厚は多少厚くなったが、接着時の反応性はほとんど変わらなかった。
【実施例3】
【0042】
実施例1及び2において、ガラス製バイオケミカルチップ基板の代わりに光学レンズを用いた他は同様の接着を試みた。
このとき、できた接着層の被膜の厚さは、トータルで1nm程度であったため、接着面で透明性が損なわれることは全くなかった。
【0043】
なお、上記実施例1および2では、反応性基を含む化学吸着剤として(化1)と(化3)に示した物質を用いたが、上記のもの以外にも、下記(1)〜(9)に示した物質が利用できた。ここで、接着面の平坦性が悪い場合には、(2)や(5)、(8)の様な分子長が長い物質を用いると、隙間ムラに対する接着余裕度を向上できる。
【0044】
(1)CH≡C−C≡C(CH2)15SiCl3
(2)CH≡C−C≡C(CH2)2Si(CH3)2(CH2)15SiCl3
(3)CH≡C−C≡C(CH2)2Si(CH3)2(CH2)9SiCl3
(4)CH(CH2C≡C−C≡C(CH2)15SiCl3
(5)CH(CH2C≡C−C≡C(CH2)2Si(CH3)2(CH2)15SiCl3
(6)CH(CH2C≡C−C≡C(CH2)2Si(CH3)2(CH2)9SiCl3
(7)(C) (CH)2CO(C)O(CH2)OSi(OCH)3
(8)(C) (CH)2CO(C)O(CH2)OSi(OC)3
(9)(C) CO(CH)2 (C)O(CH2)OSi(OCH)3ここで、(C) CO(CH)2 (C)はカルコニル基を表す。
【0045】
また、実施例2において、シラノール縮合触媒には、カルボン酸金属塩、カルボン酸エステル金属塩、カルボン酸金属塩ポリマー、カルボン酸金属塩キレート、チタン酸エステル及びチタン酸エステルキレート類が利用可能である。さらに具体的には、酢酸第1錫、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジオクテート、ジブチル錫ジアセテート、ジオクチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジオクテート、ジオクチル錫ジアセテート、ジオクタン酸第1錫、ナフテン酸鉛、ナフテン酸コバルト、2−エチルヘキセン酸鉄、ジオクチル錫ビスオクチリチオグリコール酸エステル塩、ジオクチル錫マレイン酸エステル塩、ジブチル錫マレイン酸塩ポリマー、ジメチル錫メルカプトプロピオン酸塩ポリマー、ジブチル錫ビスアセチルアセテート、ジオクチル錫ビスアセチルラウレート、テトラブチルチタネート、テトラノニルチタネート及びビス(アセチルアセトニル)ジープロピルチタネートを用いることが可能であった。
【0046】
また、膜形成溶液の溶媒としては、水を含まない有機塩素系溶媒、炭化水素系溶媒、あるいはフッ化炭素系溶媒やシリコーン系溶媒を用いることが可能であった。なお、洗浄を行わず、溶媒を蒸発させて粒子濃度を上げようとする場合には、溶媒の沸点は50〜250℃程度がよい。
【0047】
具体的に使用可能な溶媒は、非水系の石油ナフサ、ソルベントナフサ、石油エーテル、石油ベンジン、イソパラフィン、ノルマルパラフィン、デカリン、工業ガソリン、ノナン、デカン、灯油、ジメチルシリコーン、フェニルシリコーン、アルキル変性シリコーン、ポリエーテルシリコーン等を挙げることができる。さらに、アルコキシシラン系の吸着剤の場合には、前記吸着溶媒に加えメタノールやエタノール等のアルコール系や、ジメチルホルムアミド等の溶媒等を挙げることができる。
【0048】
さらにまた、フッ化炭素系溶媒には、フロン系溶媒や、フロリナート(3M社製品)、アフルード(旭ガラス社製品)等がある。なお、これらは1種単独で用いても良いし、良く混ざるものなら2種以上を組み合わせてもよい。さらに、クロロホルム等有機塩素系の溶媒を添加しても良い。
【0049】
一方、上述のシラノール縮合触媒の代わりに、ケチミン化合物又は有機酸、アルジミン化合物、エナミン化合物、オキサゾリジン化合物、アミノアルキルアルコキシシラン化合物を用いた場合、同じ濃度でも処理時間を半分〜2/3程度まで短縮できた。
【0050】
さらに、シラノール縮合触媒とケチミン化合物、又は有機酸、アルジミン化合物、エナミン化合物、オキサゾリジン化合物、アミノアルキルアルコキシシラン化合物を混合(1:9〜9:1範囲で使用可能だが、通常1:1前後が好ましい。)して用いると、処理時間をさらに数倍早くでき、製膜時間を数分の一まで短縮できる。
【0051】
例えば、シラノール触媒であるジブチル錫オキサイドをケチミン化合物であるジャパンエポキシレジン社のH3に置き換え、その他の条件は同一にしてみたが、反応時間を1時間程度にまで短縮できた他は、ほぼ同様の結果が得られた。
【0052】
さらに、シラノール触媒を、ケチミン化合物であるジャパンエポキシレジン社のH3とシラノール触媒であるジブチル錫ビスアセチルアセトネートの混合物(混合比は1:1)に置き換え、その他の条件は同一にしてみたが、反応時間を20分程度に短縮できた他は、ほぼ同様の結果が得られた。
【0053】
したがって、以上の結果から、ケチミン化合物や有機酸、アルジミン化合物、エナミン化合物、オキサゾリジン化合物、アミノアルキルアルコキシシラン化合物がシラノール縮合触媒より活性が高いことが明らかとなった。
【0054】
さらにまた、ケチミン化合物や有機酸、アルジミン化合物、エナミン化合物、オキサゾリジン化合物、アミノアルキルアルコキシシラン化合物の内の1つとシラノール縮合触媒を混合して用いると、さらに活性が高くなることが確認された。
【0055】
なお、ここで、利用できるケチミン化合物は特に限定されるものではないが、例えば、2,5,8−トリアザ−1,8−ノナジエン、3,11−ジメチル−4,7,10−トリアザ−3,10−トリデカジエン、2,10−ジメチル−3,6,9−トリアザ−2,9−ウンデカジエン、2,4,12,14−テトラメチル−5,8,11−トリアザ−4,11−ペンタデカジエン、2,4,15,17−テトラメチル−5,8,11,14−テトラアザ−4,14−オクタデカジエン、2,4,20,22−テトラメチル−5,12,19−トリアザ−4,19−トリエイコサジエン等がある。
【0056】
また、利用できる有機酸としても特に限定されるものではないが、例えば、ギ酸、あるいは酢酸、プロピオン酸、ラク酸、マロン酸等があり、ほぼ同様の効果があった。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の実施例1において、一対のガラス製バイオケミカルチップ基板を貼り合わせる工程を説明するために分子レベルまで拡大した断面概念図であり、(a)は反応前の第1のガラス製チップ基板表面、(b)は、カルコニル基を含む単分子膜が形成された後を示す。また、(c)は、第1及び第2のガラス製チップ基板が接着された断面状態を示す。
【符号の説明】
【0058】
1、1‘ 第1のガラス製バイオケミカルチップ基板
2、2‘ 水酸基
3、3‘ カルコニル基を含む化学吸着単分子膜
4 二つのカルコニル基が付加した結合
ガラス製バイオケミカルチップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
あらかじめ光反応性の官能基を有する有機薄膜を形成した第1および第2の部材を作製する工程と、前記第1及び第2の部材を接触させた状態で光を照射して前記有機薄膜を介して第1及び第2の部材を接着する工程を含むことを特徴とする接着方法。
【請求項2】
少なくとも光反応性の官能基がカルコニル基、またはジアセチレン基であることを特徴とする請求項1に記載の接着方法。
【請求項3】
光反応性の官能基としてカルコニル基またはジアセチレン基を含むクロロシラン化合物と非水系の有機溶媒を混合して作製した化学吸着液に部材を接触反応させてカルコニル基またはジアセチレン基を含む有機薄膜または化学吸着単分子膜を形成した第1及および第2の部材を作製する工程、あるいは、光反応性の官能基としてカルコニル基またはジアセチレン基を含むアルコキシシラン化合物とシラノール縮合触媒と非水系の有機溶媒を混合して作製した化学吸着液に部材を接触反応させてカルコニル基またはジアセチレン基を含む有機薄膜または化学吸着単分子膜を形成した第1及および第2の部材を作製する工程を含むことを特徴とする請求項2に記載の接着方法。
【請求項4】
少なくとも前記第1及び第2の部材の接触端面、あるいは前記第1及び第2の部材のどちらかが光に対して透明であり、透明な部材側から光を照射して第1および第2の部材を接着することを特徴とする請求項1に記載の接着方法。
【請求項5】
少なくとも第1のバイオケミカルチップ基板表面に共有結合している有機膜と第2のバイオケミカルチップ基板表面に共有結合している有機膜とを介して共有結合により接着されていることを特徴とするバイオケミカルチップ。
【請求項6】
少なくとも第1のバイオケミカルチップ基板表面に共有結合している有機膜と第2のバイオケミカルチップ基板表面に共有結合している有機膜が同じ光反応性の官能基を含むことを特徴とする請求項5記載のバイオケミカルチップ。
【請求項7】
少なくとも第1のバイオケミカルチップ基板表面に共有結合している有機膜と第2のバイオケミカルチップ基板表面に共有結合している有機膜がそれぞれ単分子膜であることを特徴とする請求項5記載のバイオケミカルチップ。
【請求項8】
少なくとも第1の光学部材の表面に共有結合している有機膜と第2の光学部材の表面に共有結合している有機膜とを介して共有結合により接着されていることを特徴とする光学部品。
【請求項9】
少なくとも第1の光学部材の表面に共有結合している有機膜と第2の光学部材の表面に共有結合している有機膜が同じ光反応性の官能基を含むことを特徴とする請求項8記載の光学部品。
【請求項10】
少なくとも第1の光学部材の表面に共有結合している有機膜と第2の光学部材の表面に共有結合している有機膜がそれぞれ単分子膜であることを特徴とする請求項8記載の光学部品。

【図1】
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【公開番号】特開2007−161913(P2007−161913A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−361259(P2005−361259)
【出願日】平成17年12月15日(2005.12.15)
【出願人】(304028346)国立大学法人 香川大学 (285)
【Fターム(参考)】