説明

接触ろ材成形体、その製造方法およびろ過装置

【課題】熱可塑性樹脂ストランドの固化堆積物からなる従来の接触ろ材成形体の持つ、軽量ならびに良好な通水性および水質改善効果の特徴を生かしつつ、その水質改善効果の更なる向上を達成した接触ろ材成形体を提供する。
【解決手段】全体として溶融した熱可塑性樹脂ストランドの固化堆積物からなり、複数の高密度充填堆積塊H1〜H9と、低密度充填領域とが混在することを特徴とする接触ろ材成形体。接触ろ材成形体は、加熱溶融状体にある熱可塑性樹脂を、ダイ開口よりストランド状に押出し、一定の水平方向開口形状を有する枠体中に流下・堆積させるに際して、枠体を流下するストランドに対して水平二次元方向に断続的に繰り返し相対移動させ、且つ流下中のストランドを冷却することからなり、前記水平二次元方向断続的相対移動が、停止または減速移動期間に複数の高密度充填堆積塊を、移動期間に低密度充填領域を、それぞれ形成することにより製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚濁水の浄化に用いるに適した接触ろ材成形体、その効率的な製造方法および接触ろ材成形体を含むろ過装置に関する。
【背景技術】
【0002】
河川水、生活排水あるいは工場排水等を含む汚濁水の浄化のために、物理的な接触沈澱および/または付着微生物による生物化学的な接触反応(酸化および/または還元)を促進するために、多孔質の接触ろ材が使用されている。例えば、合成樹脂製の立体網状成形体の使用が知られており(非特許文献1)、そのうち、例えば不織マット状の成形物は、熱可塑性樹脂製繊条を紡出ノズルより下方に向って紡出し、その下方に配置したコンベアを間断なく上下動させて、複数の繊条をループ状に堆積させて冷却固化することにより得られるものとされている(特許文献1および2)。このようにして形成された不織マット状の接触ろ材は一般に90%を超える空隙率を有し、通水性は良好であるが、水質改善性が乏しい。圧縮すれば空隙率を低下できるが、一旦固化したろ材を強制的に圧縮するに際しては、圧縮率の偏り、従って空隙率の偏りを生じ、被処理水(汚濁水)の偏流が起りがちである。また大型の排水処理施設に対応可能な接触ろ材を形成し難いという問題点もある。他方、空隙率を低減することにより、水質改善効果、特にCOD低減効果を増大するものとして、平均直径1〜3cmの砕石の複数をセメントにより接合して平均直径約5〜20cmの集合体とした接触ろ材が提案されている(特許文献3)。しかしながら、この接触ろ材は、通水性と水質改善効果のバランスは良いが、比重が2.6以上と重く、輸送コストが上昇するほか、耐加重性のある水処理槽が必要となり、水処理装置の施工ならびに保守にかかるコストが上昇する等の難点がある上、水質改善効果の一層の改善も望まれる。
【0003】
上述の事情に鑑み、本発明者らは、既に「溶融した熱可塑性樹脂ストランドの固化堆積物からなり、概ねX軸方向に延長するストランドからなる一水平ストランド堆積層と、概ねX軸方向と直交するY軸方向に延長するストランドからなる次の一水平ストランド堆積層とを、交互に上下方向に繰り返し積層してなる融着ストランド積層体からなることを特徴とする接触ろ材成形体」を提案している(特許文献4)。このようにして形成された接触ろ材成形体は、制御された空隙率50〜90%を有し、軽量であるとともに、通水性と水質改善効果も良好であるという特徴を有する。しかしながら、本発明者らの検討によれば、この接触ろ材成形体にも水質改善効果に更なる改善の余地があることが見出された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭63−32907号公報
【特許文献2】特公昭63−32908号公報
【特許文献3】特公平8−17901号公報
【特許文献4】特開2009−226333号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】佐藤健:立体網状接触材の性質とその応用、「用水と廃水」Vol.23,No.4.51〜61頁(1981)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の主要な目的は、上述した特許文献4の接触ろ材成形体の長所を生かしつつ、更に水質改善効果を増大した接触ろ材成形体、該接触ろ材成形体の効率的な製造方法および該接触ろ材成形体を配列したろ過装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らの更なる研究によれば、全体としては特許文献4の接触ろ材成形体と同様に、溶融した熱可塑性樹脂ストランドの固化堆積物でありながら、これにマクロな疎密分布を与えることにより、水質改善効果の向上効果が得られることが見出された(後記実施例および比較例参照)。より詳しくは、本発明の接触ろ材成形体は、全体として溶融した熱可塑性樹脂ストランドの固化堆積物からなり、複数の高密度充填堆積塊と、低密度充填領域とが混在することを特徴とするものである。この接触ろ材成形体を用いることにより、水質改善効果の向上が得られる理由は必ずしも明らかではないが、ストランドのマクロな疎密分布により、汚濁水処理槽の底部に配置した散気管から排出される上昇空気流に対して、高密度領域が阻害部として働き、低密度領域に優先的な空気流が流れる結果、汚濁水の処理性能を支配する嫌気処理領域と好気処理領域の好ましい分配が形成されること;低密度領域の存在により、微生物を多く含む汚泥の保持領域が処理槽の上方にも拡がり、汚泥の保持量が増大すること、などの要因によるものと推定される。好ましい態様によれば、本発明の接触ろ材成形体は、複数の高密度充填堆積塊が、低密度充填領域を介して平面的に配列されてなる。
【0008】
本発明は、また上記好ましい態様の接触ろ材成形体の効率的な製造方法をも提供する。すなわち、本発明の接触ろ材成形体の製造方法は、加熱溶融状体にある熱可塑性樹脂を、ダイ開口よりストランド状に押出し、一定の水平方向開口形状を有する枠体中に流下・堆積させるに際して、枠体を流下するストランドに対して水平二次元方向に断続的に繰り返し相対移動させ、且つ流下中のストランドを冷却することからなり、前記水平二次元方向断続的相対移動が、停止または減速移動期間と、移動期間とからなり、停止または減速移動期間に複数の高密度充填堆積塊を、移動期間に低密度充填領域を、それぞれ形成することを特徴とするものである。
【0009】
前記水平二次元方向断続的相対移動は、典型的には、停止期間と、移動期間により形成されるが、停止期間の代りに、減速移動期間(移動期間における移動方向への移動速度が遅いことを意味し、短周期往復動の繰り返しにより同方向への移動速度が全体として遅くなる場合を含む)を採用すれば、ダイ面積よりも増大した平面寸法の高密度充填堆積塊を容易に形成することができる。
【0010】
更に、本発明の汚濁水のろ過装置は、汚濁水処理槽中に、上記接触ろ材成形体の複数を配列してなることを特徴とするものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の好ましい態様に従う接触ろ材成形体の一実施例の模式斜視図。
【図2】図1の接触ろ材成形体の左方(X軸方向)より見た模式側面図(Y−Z側面図)。
【図3】本発明の接触ろ材成形体の製造方法の実施に適した装置系の模式配置図。
【図4】図3の装置に用いるダイ開口の配列の一例(千鳥格子配列)を示す平面図。
【図5】枠体中へのストランドの水平二次元方向断続的落とし込み方向のシーケンスの一例を示す模式平面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、本発明の接触ろ材成形体の一実施例の模式斜視図である。この接触ろ材成形体は、それぞれ熱可塑性樹脂ストランドの固化堆積物からなる複数(この例では9)の高密度充填堆積塊H1〜H9が、X軸およびこれと直交するY軸方向に行・列状に配列されてなるものであり、隣接する高密度充填堆積塊の間にはくぼみ状に低密度充填領域が介在する。図2は、図1の左方(X軸方向)から見た更に模式化した接触ろ材成形体の側面図(Y−Z側面図)であり、高密度充填堆積塊H1〜H3(更にはH4〜H9も)の各々は、頂部が概ね球体の一部の形状をなす円柱状をなし、それらの間には低密度充填領域Lが介在する。高密度充填堆積塊H1〜H3の各々は、更に、高密度充填である3つの芯部Hと、これを覆う中密度充填である表層部Mからなる。
【0013】
(熱可塑性樹脂)
本発明の接触ろ材成形体の主要原料として用いられる熱可塑性樹脂としては、比重が約0.9以上の好ましくは疎水性の熱可塑性樹脂が一般に用いられる。比重が小さ過ぎると、水処理中のろ材の浮上防止に特別の配慮が必要となり好ましくない。ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂等の汎用樹脂が経済性の観点で好ましく、また製品ろ材が一般的に、河川水、生活排水、工場廃水等の汚濁水の一次処理に用いられることも考慮し、廃プラスチック材料も好適に用いられる。但し過剰な可塑剤は含まないことが好ましい。さらに、比重の異なる二種以上の樹脂、例えばポリエチレンとポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニリデン等の樹脂同士の混合系、各種樹脂と炭酸カルシウム等の無機物との混合系も比重を1前後に調整するのに好ましく用いられる。
【0014】
上記のような熱可塑性樹脂を用いて、本発明の方法により接触ろ材成形体を製造するための装置系としては、特許文献4で用いたものと類似のものが用いられる。図3は、そのような装置系の簡便な一例の模式図である。図3を参照して、押出機1の先端のダイ2の開口(オリフィス)2a(図4に一例を示すように通常複数であるが、図3には一のみ図示)から押出された加熱溶融状態の熱可塑性樹脂ストランド3は、非接触型温度計(サーモグラフィー)4で表面温度を検出され、その出力に応じて、水噴霧冷却器5から噴出制御されるミスト状の水5aの作用下に冷却される。冷却されたストランドは、移動装置6上に載置され水平方向に二次元移動する成型枠体7中に流下・堆積され、最終的に固化して、本発明の接触ろ材を形成する。これら工程のより詳細を順次説明する。
【0015】
(熱可塑性樹脂ストランドの形成)
上述の熱可塑性樹脂を押出機1等により溶融混練し、ダイ開口2aよりストランド3状に押出して流下させる。ダイ2からの押出温度は、使用する熱可塑性樹脂の融点および結晶化温度(ここでは、それぞれに示差走査熱量計(DSC)により昇温および降温する過程での吸熱および発熱ピーク温度をいうものとする)を考慮して、一般に、融点+30〜+150℃の範囲が好適に用いられる。
【0016】
一般に形成されるろ材成形体中におけるストランド径が、通水性および水質改善効果を支配する空隙率に重要な影響を及ぼすとの知見が得られており、本発明法においては、ダイ開口から押出後のストランド3の流下中の径の減少は本質的に予定しておらず(但し5〜10%程度は起り得る)、ダイ開口径として0.5〜10mm、更に好ましくは1〜8mm、特に好ましくは1.5〜6mmの範囲が好ましく用いられる。なお、高粘度で押出すとダイスウェル現象によりダイ開口よりも太い径を有するストランドを得ることも可能である。
【0017】
(冷却)
ダイ開口から押出された熱可塑性樹脂ストランドを冷却しつつ枠体中に流下・堆積させる、実験を通じて枠体中に流下させる(落し込む)ストランドの表面温度も、得られる成形体の空隙率およびストランド相互の融着程度に重要な影響を及ぼし、本発明の目的のためには、ストランドを形成する熱可塑性樹脂の結晶化温度−20℃〜室温の範囲が好ましく用いられる。
【0018】
このようなストランド3の表面温度の制御のためには、表面温度を非接触温度計(サーモスタット)4によって測定しつつ、冷媒供給量(必要に応じて更に冷媒供給温度)を制御することが好ましい。冷媒としては、ミスト状の水(水と空気の混合物)5aを用いることが好ましい。熱容量の小さい空気(気体)によっては、所望の冷却表面温度が得られず、枠体中に流下したストランド相互の過剰な融着が起り、また太いストランドの場合は、自重による変形が固化の完了前に発生し、成形体の空隙率が過剰に低下してしまう。また熱容量の大なる水のみを用いるとストランドの表面と内部の温度差が小さくなるため、ストランド相互の適度の融着を伴なう成形体中のストランドの整形が困難となるとともに、空隙率が過大となって水質改善効果の低下が起こりがちとなる。
【0019】
(ストランドと枠体の断続的相対移動)
中間冷却された熱可塑性樹脂ストランド3を枠体7中に流下・堆積するに際しては、枠体を流下中のストランドに対し相対的に水平方向に繰り返し移動させる。相対移動であるから、枠体を固定し、流下中のストランドを移動することでもよいし、流下中のストランドと枠体をそれぞれ一ないし二次元に移動させることでもよい。流下中のストランドの水平方向移動は、固定したダイを有する押出機をその架台ごと移動すること、あるいは押出機の移動に代えてまたはこれに加えて押出機本体に対するダイの回転を伴う首振り運動を行うことにより達成可能である。但し、ストランドの流下中の冷却を行う本発明法においては、流下中のストランドを水平方向に移動させるに際しては、冷却手段の連動も必要となるので、流下するストランドの水平位置を固定し、枠体を二次元方向に移動させることが、小規模なろ材成形体の製造には簡便である。他方、大型の排水処理施設への適用を考慮した場合、あるいは大規模なろ材成形体の製造を考慮した場合には、必要に応じて(少なくとも一方向に)大寸法化したろ材成形体の(半)連続的製造が望ましい。このためには、枠体の移動と、流下中のストランドの移動とを併用することが好ましく、例えば一方向(例えばX軸方向)のみに移動(往復動)するコンベア上に枠体を載せ、これと直交するY軸方向へのノズルの移動または/および首振りによる流下中のストランドの移動により、二次元相対移動を実現し、また必要に応じて複数のコンベアを並列または直列に配置して、1つの枠体へのストランドの堆積が終了した時点で、隣接するコンベア上の枠体へ切換えて、引き続き流下するストランドの堆積を継続することにより、半連続的製造を行うことができる。
【0020】
本発明の接触ろ材成形体の製造方法に従い、上記した枠体7と流下するストランド3の水平二次元方向相対移動を断続的に行うことにより、複数の高密度充填堆積塊と中間低密度充填領域とが平面的に配列した本発明の好ましい接触ろ材成形体が形成される。より詳しくは、前記水平二次元方向断続的相対移動を、停止または減速移動期間と、移動期間との交互繰返しにより行い、停止または減速移動期間に複数の高密度充填堆積塊を順次形成し、その間の移動期間に低密度充填領域を形成する。
【0021】
上記断続的移動条件が満足されれば、二次元方向相対移動の態様には、最終的に、枠体中に流下・堆積したストランドの完全固化前の荷重印加による融着度の向上および空隙率の低減の為の、必要に応じて採用される任意工程としての、整形工程をも考慮すれば、比較的任意性がある。しかし、この場合、二次元移動の任意度が高いと、荷重印加による成形に際して、中央でのストランドの過大な変形と、周辺部での過剰な空隙率の低下が起りがちである。従って、枠体のノズルに対する相対二次元相対移動方向にある程度の規則性を持たせ、成形体中での空隙率の一様な分布を通じて、ろ材を通る被処理水流の整流を図るのが好ましい。
【0022】
他方、本発明法により得られるろ材成形体の全体形状は、基本的には使用される枠体の形状により支配されるが、水処理装置内に積み重ね配置されるろ材単位としての使用を考慮すると、概ね直方体(立方体を含む趣旨とする)形状であることが好ましい。従って使用される枠体の水平方向開口形状としては矩形(正方形を含む)が好ましい。
【0023】
このような枠体の水平二次元移動、換言すれば枠体中への冷却ストランドの流下(落し込み)の方向順序の好ましい態様の例としては、水平方向開口形状が矩形である枠体7を用いて、図1および図2に概要を示した接触ろ材成形体を形成する例(後記実施例1)について説明すると、矩形両辺の延長方向をそれぞれX軸、Y軸、垂直方向をZ軸とした場合、枠体7の開口(50cm×50cm)の上方からの平面図である図5に示すように、第1のサイクルでは実線矢印に示すように、点P1からP9まで順次落し込み位置を移動させ、第2サイクルではダッシュ(−)線矢印に示すようP9→P4→P3→P2→P5→P8→P7→P6→P1のように移動させ、第3サイクルでは点線矢印に示すようにP1からP9まで再度落し込み位置を移動させ、途中、各地点間移動速度はX軸およびY軸方向いずれも30mm/秒、移動距離はX軸方向178mm、Y軸方向182mmとし、且つ第1サイクルのP1での停止期間を約20秒、第1サイクルから第2サイクルへの移行地点P9での停止期間、第2サイクルから第3サイクルへの移行地点P1での停止期間および第3サイクルの最終地点P9での停止期間をいずれも約30秒、それ以外の地点での停止期間はいずれも約15秒、として水平方向二次元断続移動を行うことにより、図1および図2に示すように、枠体7中の停止地点P1〜P9に対応して、高密度充填堆積塊H1〜H9がそれぞれ形成された本発明の好ましい態様による接触ろ材成形体が形成される。また図2に示すように、各高密度充填堆積塊間には、移動期間に対応してくぼみ状の低密度充填領域Lが形成され、高密度充填堆積塊H1〜H3(およびH4〜H9)の各々の内部には、各サイクルの停止期間に対応して、3段の高密度充填である芯部Hと、その周辺に中密度充填での表層部Mとが形成される。これは、停止位置においてダイ2の中央からの流下部と周縁部からの流下部では、堆積するストランド密度の変化が生ずるためであるが、芯部Hと表層部Mとの境界は明瞭ではない。また接触ろ材を水処理槽内に均等に積み上げるには、Z軸方向、すなわち高密度充填堆積塊H1〜H9の高さが略等しいことが望ましいので、特定箇所での合計の停止時間は略一定であることが望ましい。
【0024】
上記水平二次元方向断続的相対移動において、停止期間の代りに、減速移動期間(短周期往復動の繰返しによる場合を含む)を置けば、ダイ2の面積よりも増大した平面寸法の高密度充填堆積塊が形成される。
【0025】
(整形工程)
上述のようにして枠体中に流下したストランドの堆積物を、固化後に枠体から取り出せば、本発明によるろ材成形体が得られる。しかし、低密度充填領域の充填率を含むと全体の充填率の調整のために、枠体中のストランド堆積物が完全に固化する前に、枠体開口に嵌挿する形状の上蓋体を介してストランド堆積物に10〜80kg/m程度の荷重を印加してストランド間の密着を強化し、空隙率を低減する方向で調整することも可能である。
【0026】
(接触ろ材)
上述の工程を経た枠体中のストランド積層体を固化後に枠体から取出すことにより本発明によるろ材成形体が得られる。図3に示す例においては、枠体7は底板を有さず、上面が樹脂からの離型性の良い(例えばステンレス・スチール)からなる移動装置6の上面板上に載置されているため、枠体7からのろ材成形体の取出しは容易である。
【0027】
高密度充填堆積塊の間の低密度充填領域Lには、移動期間に流下するストランドの固化物である橋渡しストランドが存在することになるが、この橋渡しストランドが不足している場合、ダイから押し出された熱可塑性樹脂ストランドの一部を他のストランドと独立に移動させることによって、橋渡しストランドの本数を増加させることが可能である。接触ろ材の強度向上、低充填率領域部の充填率向上、排水流路の複雑化に好ましく用いられる。
【0028】
(変形例)
上記において、本発明の好ましい態様に従う、複数の高密度充填堆積塊が、低密度充填領域を介して平面的に配列されてなる本発明の接触ろ材成形体およびその製造方法について述べた。しかし、本発明の接触ろ材成形体は、上記好ましい態様に比べて、高密度充填堆積塊の分布の規則性を若干緩和して、一般に、複数の高密度充填堆積塊と、低密度充填領域とが混在するマクロな疎密分布を特徴とするものである。このような高密度充填堆積塊がより不規則な分布で存在する接触ろ材成形体は、別途、高密度充填堆積塊(あるいはその高密度充填芯部相当の塊)を形成しておき、例えば特許文献4の方法に従う従来の一様低密度充填ろ材の成形の途中段階に、適宜、成形枠体中に投入して、全体として結合固化させることにより形成可能である。
【0029】
(疎密分布)
本発明の接触ろ材成形体の好ましい態様によれば、上述のようにして形成された接触ろ材成形体の全体容積を枠体7の充填部内容積とほぼ同容積(直方体状)とした場合、高密度充填堆積塊の合計容積はその約20〜70%、そのストランド充填率は、約15〜60%、その芯部Hの容積割合は約5〜60%(個々の芯部Hの容積は10〜10cm)、充填率は約25〜60%、残る表層部Mの充填率は10〜50%(芯部充填率の15〜75%)、接触ろ材成形体の全体容積に対する高密度充填堆積塊以外の領域、すなわち低密度充填領域Lのストランド充填率は約1〜20%(高密度充填堆積塊充填率の2〜60%)となる。各領域間の境界の取り方について若干任意性は残るが、本発明の接触ろ材成形体内における疎密分布の概容は理解可能と思われる。
【0030】
(ろ過装置)
本発明の汚濁水のろ過装置は、汚濁水処理槽中に上記した本発明の接触ろ材成形体を複数配列してなるものであるが、本発明の接触ろ材成形体は、上記のように形成された単位接触ろ材成形体の複数層をZ軸方向に積層して使用することが好ましい。このようにして積層された接触ろ材成形体中の低密度充填領域Lは、汚濁水処理槽上部においても微生物を多く含む汚濁水の処理効果の高い汚泥の保持部として機能する。このようにして積層した接触ろ材成形体を汚濁水処理槽中に配列するに際しては、単位接触ろ材成形体の層を汚濁水処理槽中を流れる汚濁水の流路に平行となるように、あるいは垂直となるように、配列することができる。平行配列の場合には、流路方向に対し、低密度充填領域部がほぼ連通するので、SS(浮遊物)の目詰まりが軽減され、特にSS濃度が高い排水処理に有利である。他方、垂直配列の場合には、橋渡しストランド部が形成する面が排水流路方向と直交するので、この面がフィルタリングの役割を果たし、SSの長期滞留を促し、BOD(生物化学的酸素要求量)およびSSの除去率の向上に寄与する。
【0031】
また、本発明のろ過装置においては、汚濁水処理槽中を流れる汚濁水の流路に沿って、本発明の接触ろ材成形体(疎密充填接触ろ材成形体)の配列部の前または/および後に、特許文献4に開示されるような概ね一様な充填密度を有する熱可塑性樹脂ストランドの固化堆積物からなる接触ろ材成形体(一様密度接触ろ材成形体)を配列することも好ましい。
【0032】
特に、流路の前半部に比較的太いストランドの一様密度接触ろ材成形体を配置し、後半部に汚泥保持機能の高い本発明の疎密充填接触ろ材成形体を配置することは、汚泥中の微生物による汚濁水処理機能を有効に利用するために好ましい。他方、下水あるいは高濃度SS工場排水を沈殿池を経ないで直接汚濁水処理槽中に導入する場合には、単位接触ろ材成形体層を流路に配置した比較的大なるストランド径の本発明の接触ろ材成形体の積層体を前半部に配置して目詰まりを防止し、後半に比較的ストランド径の小さいあるいは漸減する一様密度接触ろ材成形体を配置して、排水処理機能の向上を用いることも好ましい。
【0033】
汚濁水処理槽中の接触ろ材成形体の配置態様に拘らず、汚濁水処理槽の底部に適宜の間隔で散気管を配置して、好気処理機能を強化することが好ましい。この際、本発明の接触ろ材成形体における低密度充填領域は主として好気処理部として機能し、高密度充填堆積塊は相対的に嫌気処理部として機能する。
【実施例】
【0034】
以下、実施例および比較例により、本発明を更に具体的に説明する。
【0035】
(製造例1)
下記性状を示す電線被覆用廃材ポリエチレンを熱可塑性樹脂として、図3に示す様な装置系を用いてろ材成形体を製造した。
【0036】
・MFR値(JIS−K7210に準拠):5.8g/分(測定温度:190℃、荷重:10kg・f)、
・融点:110℃、結晶化温度:97℃(昇温および降温速度:10℃/分)、
・密度:0.92g/cm
【0037】
シリンダー温度:150℃の単軸押出機1で上記ポリエチレンを溶融混練し、固定ダイ2(温度:125℃)中に設けた図2に示す千鳥格子状配列で計21の開口2a(径3.3mmφ、隣接する開口間の距離は縦、横とも約15mm)から押出されたストランド3を流下させながら、非接触型表面温度計4(NEC三栄(株)製「TH6200」)により表面温度を計測しながら水噴霧冷却器5より噴霧量0.64リットル/分に調節した水を噴霧して冷却して、サーボモータを備えた水平二軸方向移動装置6上、且つ枠体の上端までの距離がノズル下120cmの位置になるように載置した寸法50×50/25cm(X/Y/Z)の成型枠体7をX軸およびY軸方向に継続的に移動させつつ、ストランドを流下させた。この際の枠体7の水平二次元方向断続移動の詳細は、枠体7の開口の上方から見た平面図である図5を参照して、上記本文中に例示説明した通りであり、3サイクルの流下・堆積により、ストランドを25cmの高さまで堆積させた。その後、ストランド堆積物を9.7kg(/50×50cm)の荷重がかかる上蓋を載せた状態で固化させた。その後枠体7から取り出すことにより、地点P1〜P9に対応して、図1および図2に示すように9つの高密度充填堆積塊H1〜H9が低密度充填領域Lを介して3行、3列に配列された、全体の外側輪郭が50cm×50cm×高さ25cmの接触ろ材成形体が得られた。
【0038】
上記接触ろ材成形体の高密度充填堆積塊H1〜H9の各々は、大略13cmφ×250mm(容積3300cm)の円柱と擬すると、ストランドの平均充填率は30%であった。接触ろ材成形体の全体輪郭で定まる全体容積62500cm(=50×50×25)の平均充填率が18%であったので、高密度充填堆積塊周囲の低密度充填領域Lの平均充填率は、
(18×62500−30×3300×9)/(62500−3300×9)
=7.1%となる。
【0039】
また、2個の高密度充填堆積塊の表層部Mを削り取って、約11cmφ×7.5cm(容積712cm相当)の芯部Hの6個を取り出し、その平均充填率を測定したところ36%であった。従って表層部Mの平均充填率は、
(30×3300−36×712×3)/(3300−712×3)
=19.0%となる。
【0040】
(通水実施例1)
透明塩化ビニル樹脂製で内部を可視化した試験槽(長100cm×幅25cm×深100cm)に、上記製造実施例1で製造したストランド径3.3mmφ、寸法50cm×50cm×25cmの接触ろ材成形体を2分割して、長50cm×幅25cm×深25cmとしたろ材を、4段積層して深さ100cmに適合させ、且つこの4段積層体を流路に沿って2列配置した。
【0041】
更に、試験槽には、入口から10cm,50cm,90cmの位置の底部に流路と直交する幅方向に延長する3本の散気管を配置し、その幅方向中央に設けた径1.0mmの各1の散気孔から、空気を6.3L/分で吹き出させることとした。
【0042】
この条件で試験槽入口より活性汚泥槽汚泥水(SS:1200mg/L)を320L/Hの送水量で2時間通水し、ろ材に汚泥(SS)を捕捉させた。
【0043】
次いで、試験槽に清水(中水:下水処理槽からの処理水をろ過した水)を、汚泥水と同じ送水量320L/Hで、試験槽内の濁度が清水と同じになるまで通水した。その後、ろ材を試験槽内で充分に濯いで、付着したSSを強制的に洗い落とした後、ろ材を試験槽から抜き出し、試験槽の残留液の量および充分に撹拌した状態におけるSS濃度を測定し、ろ材に保持されたSS量を求めたところ、597gであった。
【0044】
(通水比較例1)
製造実施例1で得た、接触ろ材成形体の2分割ろ材の代りに、特許文献4の実施例1で得られたストランド径3.3mm、寸法50cm×50cm×25cmを2分割して得た長50cm×幅25cm×深25cmの一様密度(平均充填率:18%)ろ材を用いる以外は、通水実施例1と同様に通水試験を行い、SS保持量を測定したところ、536gであった。
【0045】
上記通水実施例1と比較例1との比較から、本発明の疎密接触ろ材成形体は、特許文献4の一様密度接触ろ材成形体に比べて、汚泥保持量が1.1倍大であり、汚泥中に多く含まれる微生物の増大を通じ、処理水質改善効果の向上が期待できることが分る。
【0046】
また可視化試験槽外壁を通じての観察結果として、実施例1では、高充填率領域部で気泡が細分化されるとともに、高充填率領域部が邪魔板としての作用があり、低充填率領域部に気泡が流れた。したがって、排水処理性能を支配する嫌気処理/好気処理の繰返しに関して、排水処理槽内が嫌気領域と好気領域に細分化されると共に、その差異が明確になることによって、効果がより顕在化することが期待される。
【0047】
更に、比較例1では、汚泥の堆積の大半が底部に偏在しているのに対し、実施例1では、全層に亘って汚泥の堆積が見られた。すなわち、接触ろ材を構成するストランド近傍に汚泥が分散堆積しているので、汚泥減溶化に効果が期待できる。
【0048】
また、実施例1では、比較例1に比べ上層部の汚泥堆積が多いため、排水処理槽の深さが増すほど汚泥保持率の差が大きくなり、処理性能の向上が顕著になると期待される。
【0049】
(通水実施例2)
上記製造実施例1で得られたストランド径3.3mmφ、50cm×50cm×25cmの疎密接触ろ材成形体に加えて、特許文献4の実施例5で得られたストランド径5.5mmφ(平均充填率:18%)の一様密度接触ろ材成形体を用意した。
【0050】
長2m×幅0.5m×深0.5mの試験槽の、上流1mの長さに一様密度接触ろ材成形体を、そのX−Y面が流路に平行となるように配置し、下流1mの長さには疎密接触ろ材成形体をそのX−Y面(単位接触ろ材成形体層)が流路と平行するように配置して、充填した。
【0051】
試験槽の底部には、長さ方向に等間隔で長さ(流路)方向と直交するように配置した散気管8本(それぞれ孔径1mmφの散気孔を7個/本の割合で設けてある)から55L/分の割合で空気を送ることとした。
【0052】
上記条件で、試験槽に食品工場からの排水を流入原水として、長さ方向に130mL/分(滞留時間:64時間)で流入させ、計12週間の処理試験を行い、処理水を評価した。
【0053】
(通水比較例2)
上記通水実施例2で求めたストランド径5.5mmφ(平均充填率:18%)のみを、上記通水実施例2で用いたものと同寸法で、並列配置された長2m×幅0.5m×深0.5mの試験槽の全長に亘って充填する以外は、通水実施例2と同様の並列処理試験を行い、処理水を評価した。
【0054】
1回/週の割合で実験槽への流入原水と処理水のBODとSSを測定し、それらの平均値と、下式に従うBOD除去率、SS除去率および汚泥転換率とを、求めた。
【0055】
BOD除去率(%)=(原水BOD−処理水BOD)/原水BOD×100
SS除去率(%)=(原水SS−処理水SS)/原水SS×100
汚泥転換率(%)=処理水SS量/処理されたBOD量×100
流入原水の平均水質は、BOD:617mg/L, SS:315mg/Lであった。
【0056】
上記実施例、比較例における水質浄化と汚泥転換率に関する評価結果をまとめて次表1に示す。
【表1】

【0057】
上記実施例2と比較例2の結果を比較すると、本発明の疎密接触ろ材成形体を用いた実施例2においては、BOD除去率、SS除去率の著しい向上および汚泥転換率の著しい減少を通じて、水質改善効果の著しい向上が認められる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
上述したように本発明によれば、上述した特許文献4の一様密度接触ろ材成形体の持つ、軽量ならびに良好な通水性および水質改善効果の特徴を生かしつつ、その水質改善効果の更なる向上を達成した疎密分布を有する接触ろ材成形体、ならびにこの接触ろ材成形体の効率的な製造方法およびこの接触ろ材成形体を含むろ過装置が提供される。
【符号の説明】
【0059】
H1〜H9:高密度充填堆積塊、 L:低密度充填領域
H:高密度充填芯部、 M:中密度充填表層部
P1〜P9:停止期間における枠体中のストランド落としこみ地点
1:押出機、 2:ダイ (2a:ダイ開口)、 3:ストランド
6:水平二次元移動装置、 7:成型枠体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
全体として溶融した熱可塑性樹脂ストランドの固化堆積物からなり、複数の高密度充填堆積塊と、低密度充填領域とが混在することを特徴とする接触ろ材成形体。
【請求項2】
複数の高密度充填堆積塊が、低密度充填領域を介して平面的に配列されてなる請求項1に記載の接触ろ材成形体。
【請求項3】
高密度充填堆積塊が高密度充填である芯部とこれを覆う中密度充填の表層部とからなる請求項1または2に記載の接触ろ材成形体。
【請求項4】
隣接する高密度充填堆積塊が低密度充填領域において熱可塑性樹脂ストランド固化物により連結されている請求項1〜3のいずれかに記載の接触ろ材成形体。
【請求項5】
複数の高密度充填堆積塊が複数の行および複数の列をなして平面的に配列されている請求項2〜4のいずれかに記載の接触ろ材成形体。
【請求項6】
高密度充填堆積塊の頂部が概ね球体の一部の形状をなす請求項2〜5のいずれかに記載の接触ろ材成形体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の接触ろ材成形体の複数層を積層してなる積層の接触ろ材成形体。
【請求項8】
加熱溶融状体にある熱可塑性樹脂を、ダイ開口よりストランド状に押出し、一定の水平方向開口形状を有する枠体中に流下・堆積させるに際して、枠体を流下するストランドに対して水平二次元方向に断続的に繰り返し相対移動させ、且つ流下中のストランドを冷却することからなり、前記水平二次元方向断続的相対移動が、停止または減速移動期間と、移動期間とからなり、停止または減速移動期間に複数の高密度充填堆積塊を、移動期間に低密度充填領域を、それぞれ形成することを特徴とする請求項2〜6のいずれかに記載の接触ろ材成形体の製造方法。
【請求項9】
前記水平二次元方向断続的相対移動が、停止期間と、移動期間とからなり、停止期間に複数の高密度充填堆積塊を、移動期間に低密度充填領域を、それぞれ形成することを特徴とする請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
汚濁水処理槽中に、請求項1〜6のいずれかに記載の接触ろ材成形体の複数を配列してなる汚濁水のろ過装置。
【請求項11】
接触ろ材成形体の複数層が積層状態で汚濁水処理槽中に配列される請求項10に記載のろ過装置。
【請求項12】
接触ろ材成形体層が、汚濁水処理槽中を流れる汚濁水の流路に平行となるように積層配列される請求項11に記載のろ過装置。
【請求項13】
接触ろ材成形体層が、汚濁水処理層中を流れる汚濁水の流路に直交するように積層配列される請求項11に記載のろ過装置。
【請求項14】
汚濁水処理槽中を流れる汚濁水の流路に沿って、請求項1〜6のいずれかに記載の接触ろ材成形体の配列物の、前または/および後に、概ね一様な充填密度を有する熱可塑性樹脂ストランドの固化堆積物からなる接触ろ材成形体が配列される請求項10〜13のいずれかに記載のろ過装置。
【請求項15】
汚濁水処理槽の底部に、汚濁水処理槽中を流れる汚濁水の流路に直交する方向に延長する散気管を設けてなる請求項10〜14のいずれかに記載のろ過装置。

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2011−167584(P2011−167584A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−30886(P2010−30886)
【出願日】平成22年2月16日(2010.2.16)
【出願人】(000166708)株式会社クレハエンジニアリング (17)
【Fターム(参考)】