説明

接触提示装置及び方法

【課題】 振動モータを用いて、ユーザに平面または物体表面に触れた感覚を提示する装置を提供する。
【解決手段】 偏心回転子を有する複数の振動モータ10、11を人体に装着し、角速度変化に伴い発生するトルクを、異なるタイミングで皮膚面内に水平な方向に与える。複数の振動モータによりトルクを交互に発生させることにより、ユーザに平面や物体表面を知覚させることができるようになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接触提示装置及び方法に関し、特に、バーチャルリアリティの分野において、仮想物体との接触をユーザに知覚させるための接触提示装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ユーザにバーチャルリアリティを提供する技術分野では、ユーザが、仮想物体に触れたり、操作したりするために触覚ディスプレイの検討が行われている。
【0003】
触覚ディスプレイは大きく分類して、人体に物体からの反力を提示する力覚ディスプレイ(フォース・フィードバック・ディスプレイ)と、物体の“手触り感”を提示するタクタイルディスプレイに分類される。しかし、従来の力覚ディスプレイは、大型で可搬性に乏しい物が多く、また構成が複雑で高価になりやすい。また、タクタイルディスプレイも、装置の構成が複雑になりやすく、現状の技術では十分に“手触り感”を提示することが容易ではない。
【0004】
そこで、仮想物体からの十分な反力や正確な“手触り感”を提示しないまでも、「接触したかどうか」を提示する接触提示装置が検討されている。この方法では、振動モータを人体に装着し、仮想物体と触れた時に適当な位置の振動モータを振動させ、物体との接触をユーザに知覚させる。この接触提示装置により、ユーザは身体のどの部分が物体に触れているかを知覚することができる。また、振動モータは小型、安価、軽量であることから、人体の全体に装着することも比較的容易であることから、移動自由度の高いバーチャルリアリティシステムでは特に有効である。
【0005】
振動モータを用いた従来の接触提示装置には、例えば、次のようなものがある。
【0006】
特許文献1は、指先の位置を取得するためのデータグローブに振動モータを設置し、指先に振動を与えることで、指先と仮想物体の接触をユーザに知覚させるものである。
【0007】
また、非特許文献1は、全身に計12個の振動モータを装着し、仮想壁との接触時に振動モータを振動させることで、ユーザに壁を認知させる装置を提案している。この非特許文献1における振動モータ装着位置は、人体感覚図から判断し、頭、手の甲、肘、胴回り(3個)、膝、足首である。
【0008】
また、非特許文献2では、腕4カ所、脚4カ所に振動モータを装着し、振動モータの振動を変化させて、異なる質感の物体への接触を提示している。
【0009】
また、非特許文献3では、戦場シミュレータ用に、振動モータを人体に装着した装置を開発している。この非特許文献3では、振動モータ制御を無線で行うことが特徴である。
【0010】
従来の振動モータを使用した接触提示装置の構成例を、図20に示す。
【0011】
図20では、振動モータ10を人体に装着している。また、ユーザは仮想物体を見るためにヘッドマウントディスプレイ100を装着している。また、仮想物体との接触を検知するために、人体の位置情報が必要であるため、人体の各部位に位置検出用のマーカ108を設置している。マーカは従来の手法では光学マーカや画像マーカが使われている。これらの構成により、ユーザの位置姿勢を検出し、仮想物体との接触を判定した後に、接触部位に最も近い部位に装着している振動モータ10を振動させる。ユーザは振動した部分が、仮想物体と接触していることを知覚する。
【特許文献1】特表2000−501033号公報
【非特許文献1】矢野 博明、小木 哲朗、廣瀬 通孝:“振動モータを用いた全身触覚提示デバイスの開発”、日本バーチャルリアリティ学会論文誌、Vol。3、No。3、1998
【非特許文献2】Jonghyun Ryu、 Gerard Jounghyun Kim:“Using a Vibro−tactile Display for Enhanced Collision Perception and Presence”、VRST‘04、November10−12、 2004、Hongkong
【非特許文献3】R。W。Lindeman、Y。Yanagida、H。Noma、K。Hosaka、K。Kuwabara:“Towards Full−Body Haptic Feedback:The Design and Deployment of a Spatialized Vibrotactile Feedback System”VRST‘04、November10−12、2004、Hongkong
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記の従来技術では、振動モータを利用しているため、仮想物体との接触を簡単にユーザに教示することはできていたが、それ以上の情報を提示することは困難であった。
【0013】
従来、力覚ディスプレイやタクタイルディスプレイでは、仮想物体形状や仮想物体表面の“手触り”をユーザに知覚させるため、様々な試みが行われてきた。一方、単純なアクチュエータである振動モータでは、繊細な触覚の表現を行うことが十分にできていない。振動モータによる表現力向上の試みとして、非特許文献2では、接触した壁の種類を提示するために、壁の材質ごとに振動のモデルを予め用意しておき、壁との接触時にモデルに基づいた振動を与えている。しかし、この手法では壁の材質を知覚させることが十分にできてはいない。
【0014】
以上のように、振動モータは小型、安価、軽量であることから、人体の任意の部位に設置して、簡単に仮想物体との接触を提示することが可能であるが、接触情報以上の多彩な表現を行うことは困難であった。特に、平面や物体表面を知覚させることは困難であった。
【0015】
本発明では、振動モータのような単純な構成の刺激発生装置であっても、ユーザに平面や物体表面を感じさせることができる等の表現力が向上した接触提示装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために、本願発明は以下の構成からなる。
【0017】
即ち、本発明の接触提示装置は、人体に所定の知覚を提示する接触提示装置であって、少なくとも2つ以上の刺激発生手段と、前記刺激発生手段のオン状態とオフ状態を所定のサイクルで設定し、少なくとも2つの刺激発生手段における前記サイクルが異なる制御を行う制御手段とを備えたことを特徴とする。
【0018】
また、本発明の接触提示装置は、人体に、仮想物体と所定の知覚を提示する接触提示装置であって、少なくとも2つ以上の刺激発生手段と、オン状態とオフ状態を所定のサイクルで設定し、前記仮想物体の表面の所定の範囲内に人体が位置するときに、少なくとも2つの刺激発生手段における前記サイクルが異なる制御を行う制御手段とを備えたことを特徴とする。
【0019】
また、本発明の接触提示装置は、人体に所定の知覚を提示する接触提示装置であって、少なくとも2つ以上の刺激発生手段と、前記刺激発生手段を制御する制御手段とを備え、前記少なくとも2つ以上の刺激発生手段の内、少なくとも一つの刺激発生手段をオン状態にし、少なくとも1つの刺激発生手段をオフ状態にして、オン状態またはオフ状態である刺激発生手段を順次変更する制御を行う制御手段とを備えたことを特徴とする。
【0020】
更に、本発明の接触提示方法は、人体に所定の知覚を提示する接触提示方法であって、前記刺激発生手段のオン状態とオフ状態を所定のサイクルで設定する設定工程と、人体に設置された少なくとも2つの刺激発生手段における前記サイクルが異なる制御を行う制御工程とを備えたことを特徴とする。
【0021】
また、本発明の接触提示方法は、人体に、仮想物体と所定の知覚を提示する接触提示方法であって、オン状態とオフ状態を所定のサイクルで設定する設定工程と、前記仮想物体の表面の所定の範囲内に人体が位置するときに、人体に設置された少なくとも2つの刺激発生手段における前記サイクルが異なる制御を行う制御工程とを備えたことを特徴とする。
【0022】
また、本発明の接触提示方法は、人体に所定の知覚を提示する接触提示方法であって、少なくとも2つ以上の刺激発生手段と、人体に設置された少なくとも2つ以上の刺激発生手段の内、少なくとも一つの刺激発生手段をオン状態にし、少なくとも1つの刺激発生手段をオフ状態にする第1の制御工程と、所定時間経過後に、オン状態またはオフ状態である刺激発生手段を順次変更する第2の制御工程とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、物体表面をユーザに感じさせることができ、表現力が向上した接触提示装置を提供できるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の一実施の形態を、図面を用いて詳細に説明する。
【0025】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係る接触提示装置の構成を示す図である。
【0026】
図1に示す接触提示装置は、刺激提示手段として2つの振動モータ10、11と、振動モータ10、11の動作を制御するための制御手段1を備える。図1では振動モータ10、11を指先に付けた例を示しているが、2つの振動モータをある程度近傍に配置すれば、人体のどの部分に装着しても良い。振動モータは、偏心回転子の回転方向が人体の皮膚面内方向に対して水平になるように装着する。また、図1には特に図示していないが、振動モータを指先に装着するための装着手段も備える。装着手段は、例えば、バンドで振動モータを指先に固定する方法や、指サックまたはグローブの指先部分に振動モータを備え、それらを装着する方法で構成される。
【0027】
なお、制御手段1として、CPU、メモリ(ROM、RAM)、外部インターフェース等を備えるパソコンで構成し、CPUがメモリに格納されたプログラムを実行することにより、以下に説明する制御を行う。
【0028】
図2に、刺激提示手段として用いる、円筒型の振動モータを示す。
【0029】
円筒型振動モータ20は、電磁力により編心回転子21を回転させることにより振動を発生する。
【0030】
また、刺激提示手段として、コイン型の振動モータを用いてもよい。
【0031】
コイン型振動モータ30は、図3に示すように、円板の面内方向に平行に偏心回転子31が回転する。そのため、図1に示すようにコイン型の平板方向を皮膚表面に対して平行になるように装着することにより、偏心回転子31の回転方向が皮膚面内方向に水平になる。円筒型の振動モータを使用した場合では、偏心回転子31の回転方向が皮膚面内方向に水平(回転軸32が皮膚面と垂直)になるように装着する。
【0032】
振動モータについては円筒型、コイン型の間で特に動作に違いはなく、どちらを使用しても良い。ただし、偏心回転子の回転方向を人体皮膚表面に対して水平になるように設置するため、省スペースや装着の容易さから、コイン型を用いることが好適である。なお、図1においては、コイン型の振動モータを指先に装着した例を示している。
【0033】
また、本実施の形態では、後述するように、回転の加速と減速に伴い発生するトルクを刺激提示に用いることが特徴である。このため、必ずしも偏心回転子を有する振動モータである必要はなく、図4に示すような均質な回転子41を持つ回転体40を刺激提示手段に用いても良い。この回転体40を使用する場合にも、回転子41の回転方向が皮膚面内方向に水平(回転軸22が皮膚面と垂直)になるように装着し、回転により発生するトルクが皮膚面内方向に水平となるようにする。
【0034】
以上のように装着した振動モータにより皮膚面内方向に水平な方向にトルクを発生させる。皮膚の面内方向に発生したトルクにより、その反作用による力が皮膚表面に水平な力として加わる。皮膚表面に水平に加わる力により、皮膚表面に水平方向の皮膚変形が生じ、メルケル触小盤を刺激することが期待できる。メルケル触小盤は、SA受容器に分類される感覚受容器で、皮膚変形を検出する。メルケル触小盤が刺激されることにより、人間は圧迫感を知覚する。
【0035】
一方、振動モータを用いて通常の振動を発生させた場合には、100〜200Hz付近の振動を発生するため、主にパチニ小体が刺激される。パチニ小体は、RA受容器に分類される感覚受容器で、加速度や振動を検出する。パチニ小体が刺激された場合には、単純な振動を知覚するのみである。
【0036】
以上のように、皮膚面内に水平な方向にトルクを発生することにより、単純に振動を与えた場合とは異なる感覚を発生させることができる。
【0037】
次に、振動モータによるトルク発生について説明する。
【0038】
振動モータのトルク発生を説明するための図を図5に示す。図5で振動モータ10の偏心回転子21は、時計回り方向に回転する。また、時計回りの方向を正の回転方向とする。時間t0に所定の電圧を振動モータ10に加えると、偏心回転子21は回転を始め、加速時間を経てt1に回転数が一定になる。加速時間には、偏心回転子21の角速度ωが変化するので、正の方向にトルクが発生する。時間t1からt2の間では、振動モータの回転速度は一定となるので、トルクは発生せずに振動のみを発生する状態になる。
【0039】
さらに、時間t2で電圧の印加を停止すると、偏心回転子21の回転速度が減速し時間t3で回転が止まる。減速時間でも、偏心回転子21の角速度ωが変化し、反時計回りのトルクが発生する。以上のことは、以下の式から理解できる。
【0040】
角運動量をL、慣性モーメントをI、角速度ωとすると、
L=Iω・・・(1)
トルクNは、
【0041】
【数1】

【0042】
となり、角速度が変化している期間でトルクが発生する。なお、振動モータではなく、偏心のない回転体を用いた場合にも、トルクの発生原理は同じである。
【0043】
図5では電圧制御により振動モータを駆動しトルクを発生させた。より具体的には、電圧を印加していない状態と、電圧を印加した状態を切り替えることによりトルクを発生させていた。ここでの電圧制御の目的は、偏心回転子21の角速度を変化させてトルクを発生させることであるので、電圧の制御方法は上記に限らない。例えば、電圧印加を完全に停止する必要はなく、任意の値の電圧間で電圧を変化させてトルクを発生させても良い。
【0044】
より具体的には、1Vと3Vの電圧値を変化させることにより、トルクを発生するように制御しても良い。また、この電圧値には任意の値を用いて良い。またさらに、トルクを発生しない状態も、電圧を印加していない状態以外に、所定の電圧値の継続印加により、偏心回転子21の回転数が一定となった状態を用いても良い。
【0045】
また、振動モータを制御する方法については、電圧を変化させる制御に限定することなく、どのような制御方法を用いても良い。例えば、モータ制御において一般的なPWM制御を用いても良い。PWM制御の場合では、デューティー比を変化させることで、偏心回転子21の角速度を変化させる。デューティー比を変化させる場合でも、電圧値を変化させる場合と同様に、デューティー比の値は任意に設定して良い。
【0046】
図6は、実施の形態1における振動モータの動作について説明する図である。図1では振動モータ10と11をそれぞれ指先に装着した構成を表していた。図6では図1の振動モータ10と11の駆動状態を示している。まず、期間Aでは振動モータ10に電力が供給され、振動モータ10の偏心回転子が回転を開始する。停止状態から偏心回転子の角速度が増加する時間(加速時間)では正方向のトルクが発生する。さらに、期間Aでは、偏心回転子の回転速度が一定になる前に電力供給を停止する。供給電力の停止により、偏心回転子の角速度は減速し、最終的には停止する。偏心回転子の減速により、加速の時とは逆向きの負方向のトルクが発生する。以上が期間Aでの振動モータ10の挙動である。この期間Aの間、振動モータ11は停止している。
【0047】
次に、期間Bでは、振動モータ10が停止状態にあり、振動モータ11は期間Aの振動モータ10と同様に、電力供給と電力停止に伴い、正と負の方向のトルクを発生する。また、さらに次の期間Cでは、振動モータ10がトルクを発生し、振動モータ11は停止状態にある。以上の期間A、B、Cで振動モータ10と振動モータ11が発生するトルクを時系列的にまとめると全体のトルクの状況(図の一番下)のように、全体としては常時トルクが発生している状態になる。
【0048】
2つの振動モータに、以上のような制御を、所定の条件に基づき繰り返し行うことで、近傍の異なる人体部位(第一の実施例では人差し指と中指)に対して、皮膚面内方向に水平な方向に、交互に力がかかるようになる。
【0049】
このように人体の複数部位に時系列的に力を与えることで、ユーザは異なる人体部位間に連続的なつながりを感じるようになる。特に皮膚表面に対して水平な力を与えていることから、連続的にメルケル触小盤を刺激することが期待できる。その結果、連続的な圧迫感により、実際に平面を触れた場合と同様に、物体平面の空間的なつながりを感じ、あたかも物体の表面を触ったかのような感触を提示することができるようになる。
【0050】
図6の制御方法では、偏心回転子の角速度が一定になる前に電力供給を停止する必要がある。電力供給から電力停止までの時間は、予め設定しておく方法が簡単である。偏心回転子が停止した状態から、電力供給により定速回転に達するまでの時間を予め測定しておき、その時間以下の範囲で、電力供給から電力停止までの時間を設定すればよい。
【0051】
なお、偏心回転子の加速時間は、振動モータの種類や形状などにより異なるが、小型DC振動モータの場合では一般的に100msec程度である。一方、電力停止後、次の振動モータに電力を供給するまでの時間も、同様に偏心回転子の減速時間を予め測定して決定しても良い。
【0052】
また、別な方法としては、偏心回転子の回転状況を計測するセンサを備え、所定の角速度または回転数に達した時点で、電力供給を停止したり、次の振動モータに電力を供給するようにしても良い。
【0053】
また、2つの振動モータのトルク発生のタイミングは、図6では発生と停止が完全に交互になっていたが、目的の知覚に影響を与えない範囲内では、これに限定されることはない。
【0054】
図7と図8には、2つの振動モータで発生するトルクを時系列的に表した図を示す。トルク発生のタイミングは、図7に示すように、トルクの提示時間に重なりが生じる状態や、図8のようにトルクの提示時間に空白が生じる状態があっても良い。すなわち、トルク発生の重なり時間や空白時間があっても、ユーザが平面や物体表面を感じる効果がある限り、本発明の範囲である。最適な、または許容されるトルクの重なり時間や空白時間は、刺激を与える人体部位や、知覚の個人差により異なるので、あらかじめユーザごとに最適な時間を設定しておくことが望ましい。
【0055】
また、図6の例では、正方向のトルクと負方向のトルクをセットにして、一つのトルク発生期間として制御を行ったが、複数振動モータのトルク発生タイミングの制御はこれに限らない。
【0056】
図9には、2つの振動モータにおいて、偏心回転子の加速により発生する正方向のトルクを連続で提示し、続けて偏心回転子の減速により発生する負方向のトルクを連続で提示する例を示す。図9の期間Dでは、振動モータ10が加速状態にあり、振動モータ10で正方向のトルクが発生する。次に期間Eでは、振動モータ10は定速回転の状態にありトルクを発生せず、振動モータ11が加速状態にあり、振動モータ11で正方向のトルクが発生する。また、次に、期間Fでは、振動モータ10が減速状態にあり負方向のトルクを発生する。また、次に、期間Gでは、振動モータ11が減速状態にあり負方向のトルクを発生する。以上のような制御によっても、全体のトルクの挙動では振動モータ10と振動モータ11で交互にトルクが発生し、ユーザに平面や物体の表面を感じさせることができる。
【0057】
また、さらに、図10には、トルクを発生しない期間では、偏心回転子が定速回転とする制御を示している。この例では、図6の例と比べ、振動モータの偏心回転子の加速と減速が逆になっている。しかし、偏心回転子の定速回転時にはトルクを発生しないので、全体としては振動モータ10と振動モータ11で交互にトルクが発生する状態にある。
【0058】
なお、図10の例では、トルクを発生しない期間で偏心回転子が定速回転する場合を示したが、偏心回転子の定速回転時には振動が発生するため、その振動が平面を知覚することの妨げとなる場合が考えられる。このため、望ましくは図6のように、トルクを発生させない期間には、偏心回転子の回転を止めておく方が良い。
【0059】
以上のような構成による接触提示装置により、振動モータのような単純な刺激発生手段を用いた場合でも平面や物体表面をユーザに感じさせるという、高度な感覚提示を行うことができるようになる。従来の振動モータを使用した刺激では、単純な振動刺激しか行えず、複雑な刺激を提示するためには、振動の長さのパターンを変化させることや、振動の周波数を変化させることに留まっていた。
【0060】
本実施の形態では、偏心回転子の角速度変化に伴い発生するトルクを、皮膚面内に水平な方向に与える。さらに、複数の振動モータによりトルクを交互に発生させることにより、ユーザに平面や物体表面を知覚させることができるようになる。以上により、振動デバイスに特別な変更を加えることなく、表現力を向上させることができるようになる。
【0061】
(実施の形態2)
実施の形態1では、2つの刺激発生手段を備えた例を示したが、刺激発生手段の個数は2つ以上でも良い。
【0062】
図11に、4本の指に刺激発生手段としてコイン型振動モータ10〜13を装着した場合の例を示す。
【0063】
以下では、刺激発生手段が、人体が知覚することができる力を発生している状態をオン状態、人体が知覚することができる力を発生していない状態をオフ状態と呼ぶ。特に刺激発生手段に振動モータを使用した場合には、偏心回転子の加速及び減速によりトルクを発生し、皮膚面内に水平な方向に人体が知覚することができる力が発生している状態をオン状態と呼ぶ。また、偏心回転子の加速及び減速によりトルクが発生しておらず、人体が知覚することができる力が発生していない状態をオフ状態と呼ぶ。
【0064】
2つ以上の刺激発生手段を備える例であっても、実施の形態1のようにオン状態とオフ状態を所定のサイクルで設定し、少なくとも2つの刺激発生手段におけるサイクルが異なる制御を行うことにより、ユーザが平面や物体表面を感じることができるようになる。
【0065】
以下では、複数の振動モータの制御方法について例を挙げて説明する。
【0066】
まず、図11では、振動モータ10から振動モータ13の順にオン状態となるように複数の振動モータを制御している。この制御により、人差し指から、中指、薬指、小指の順で皮膚面内方向に対して水平な方向に力が加わる。この結果、4本の指で平面に触れた感覚を生じることができる。特に、装着の並び順にオン状態にしていることから、図に示すように、仮想物体表面に対して手を動かしながら触る時に、このような制御を行うことが好適な実施である。
【0067】
なお、図11では、振動モータ10から振動モータ13の順にオン状態にした後に再び、振動モータ10から振動モータ13の順にオン状態になるように制御しているが、実際の動作はこれに限らない。例えば、振動モータ10から振動モータ13の順に一度だけオン状態にするようにしても良い。
【0068】
また、図11では説明のため、全ての振動モータを動作させたが、常に全てを動作させる必要はなく、状況によって動作させる振動モータを選択しても良い。これらの図に示した以外の制御方法を用いても良いことは、以下の他の図の説明でも同様である。
【0069】
次に、図12では、図11とは逆に、振動モータ10から振動モータ13の順にオフ状態となるように複数の振動モータを制御している。この制御でも、図11の制御と同様の効果が得られる。
【0070】
また、次に図13では隣り合う振動モータを交互にオン状態とオフ状態になるように制御している。このような制御を行うことで、比較的手を動かさずに物体表面を触るときの感覚をユーザに知覚させることが期待できる。
【0071】
また、図14では、振動モータのグループを形成し、交互にオン状態とオフ状態となるように制御している。図14のようなグループを形成して動作させることにより、複数の振動モータのトルクを合成することができ、比較的強い力で物体表面に触れる感覚をユーザに提示することができるようになる。
【0072】
なお、グループの形成は、隣り合うもの同士に限定することなく、位置の離れた振動モータとグループを形成しても良い。図13の例は、図14のグループを作って動作する例の一形態と言える。また、グループの形成は、均等な数の振動モータで構成されるグループに限定されることなく、数に偏りのあるグループ形成でも良い。またさらに、図14ではグループの数は2つであるが、これに限定されることなく、2つ以上のグループを形成するようにしても良い。
【0073】
また、上記の制御方法以外に、オン状態とオフ状態になる振動モータをランダムに選択する方法を用いても良い。
【0074】
また、目的の知覚を妨げない程度では、全ての振動モータがオン状態である時間や、全ての振動モータがオフ状態である時間が含まれても良い。
【0075】
(実施の形態3)
本発明は、ディスプレイに視覚的に表示された仮想物体と合わせて使用することが好適である。ディスプレイには、液晶やプラズマ、CRT、プロジェクター、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)などを用いることができる。
また、人体位置を検出する方法と合わせて、実際の人体位置と仮想物体の位置関係に応じて、物体表面に触れた感覚を提示しても良い。人体位置の検出方法としては、マーカとカメラを用いる方法や、人体形状を画像処理により判定する方法、磁気センサや加速度・角速度センサや地磁気センサなどを用いた手法など、どのような方法を用いても良い。
【0076】
図15には、ディスプレイとしてヘッドマウントディスプレイ100を、位置検出手法としてマーカ108とカメラ109を用いた方法により構成した接触提示装置を示している。以下、図15の構成について説明する。
【0077】
人体2には、複数の振動モータ10を装着する。図15で、振動モータ10は指先に装着している例を示したが、人体のどの部分に装着してもよい。図15では、人体2の位置を取得するために、マーカ108とカメラ109と情報処理装置101内に位置検出部103を備えている。
【0078】
記録装置106には、仮想物体の位置や外観、形状の情報が記録されている。位置判定部104では、位置検出部103により出力される人体の位置と、記録装置106に記録している仮想物体との位置関係を判定する。これにより、人体と仮想物体との距離や、接触の有無を判定する。なお、これらは公知の技術を用いればよいのでその詳細については省略する。
【0079】
そして、制御手段1では、位置判定部104の接触判定結果に基づいて、振動モータに振動の命令を行い、ユーザに仮想物体との接触を知覚させる。特に仮想物体表面に触れた場合に、振動モータ10で交互にトルクが発生するように制御手段1で制御を行い、ユーザに物体表面に触れた感覚を提示する。
【0080】
図15では、振動モータ10とマーカ108の位置は、人体の同一部位であるため、位置判定部104は人体と仮想物体の接触を判定するために、マーカ位置と仮想物体との接触を判定すればよい。また、実空間中での人体の形状を仮想空間中の人体モデルに当てはめ、仮想物体との接触判定を行う方法を用いても良い。この方法では例えば、人体の複数位置に設置したマーカと予め用意した人体モデルを使用し、位置検出部103で人体モデルの位置・姿勢を求める。
【0081】
位置判定部104では、人体モデルの位置・姿勢を使用して人体と仮想物体との接触を判定するようにする。この方法によると、人体モデルを使用することで、マーカを装着していない人体部分についてもその位置を推定することができ、接触判定を行うことができるようになる。また、図15では、記録装置106に記録されている仮想物体を、画像出力部107を介して、ヘッドマウントディスプレイ100に表示している。ユーザは仮想物体110をヘッドマウントディスプレイ100により視覚的に把握しながら、振動モータ10による触覚情報を得ることができるようになる。
【0082】
(実施の形態4)
以上の実施例では、ユーザに物体表面を知覚させる方法について説明した。従来の振動モータを使用した接触判定方法では、仮想物体との接触時に振動モータに振動を発生させ、ユーザに仮想物体との接触を知覚させたが、この従来の方法に、実施の形態3を組み合わせて使用しても良い。例えば、人体が仮想物体の表面位置に存在する場合には、上記実施の形態で説明したように、ユーザに物体表面を知覚させるように振動モータを制御する。そして、人体が仮想物体の深い位置に存在する場合には、振動モータを振動させることにより、ユーザに仮想物体との接触を知覚させる。
【0083】
図16には、この制御の切り替えの例を説明する図を示す。図16には、複数の振動モータ10を人体2(指先)に皮膚面内方向に回転方向が平行になるように装着した状態と、仮想物体110との位置関係を示している。
【0084】
図16の中で、領域Iは仮想物体110と関係がなく離れた空間であり、この位置に人体が存在する場合には振動モータ10を動作させない。次に、領域IIは仮想物体110表面から所定の距離dの範囲である。この領域IIに人体が存在する場合には、ユーザに物体表面を知覚させるために、交互にトルクが発生するように振動モータ10を制御する。さらに、領域IIIは仮想物体110内部の範囲である。領域IIIに人体2が存在する場合には、振動モータ10を連続振動あるいは所定の振動パターンで振動させて、ユーザに振動刺激を与える。この振動刺激により、ユーザは自分の体が仮想物体110内部に侵入していると判定することができる。
【0085】
(実施の形態5)
以上の実施の形態では、振動モータを指先に装着する例について説明したが、刺激発生手段の装着位置は指先に限定されることはない。
【0086】
例えば、図17では複数の振動モータ10を手から腕の範囲に装着した例を示す。このような装着方法であっても、以上の実施例で説明した制御方法により、ユーザに物体表面を知覚させることができる。また、トルクを発生させる複数の振動モータは、仮想物体との接触位置や装着位置に基づいて適切に選択すればよい。
【0087】
また、図18には、人体の全身に振動モータ10を装着した例を示したが、この場合についても同様である。
【0088】
なお、図17、図18においては、制御部などは省略してある。
【0089】
以上のように、刺激発生手段の装着位置には特に限定がないが、刺激発生手段の力が連続的に感じられるように、隣り合う刺激発生手段はある程度近傍に装着することが望ましい。最適な刺激発生手段間の距離は、人体部位によって異なる。
【0090】
(実施の形態6)
以上の実施例では、刺激発生手段に振動モータを使用した例を主に説明したが、これ以外の手段を用いても良い。
【0091】
すなわち、皮膚面内方向に水平な方向に力を発生できる手段であればどのような手段を用いても良い。その一つとして回転体で発生するトルクを用いることは既に記述した。振動モータ及び回転体の駆動方法については、電磁式に限定されることなく、どのような方法を用いても良い。
【0092】
また、トルクの発生方法として、偏心回転子または回転子の角速度を変化させる方法を説明したが、トルクの発生方法としては、式(2)に示すように慣性モーメントを時間的に変化させるようにしても良い。慣性モーメントは、
【0093】
【数2】

【0094】
で定義されるため、偏心回転子または回転子の質量や質点の中心軸からの距離を時間的に変化させることによりトルクが発生する。ここで、mは質点の質量、rは中心軸からの距離である。
【0095】
トルクを使用する以外の方法としては、図19に示すように、皮膚面内に水平な方向に平行移動する板状の物体190を刺激発生手段としても良い。刺激発生手段190は、電磁モータや超音波モータ、高分子アクチュエータ、静電アクチュエータ、形状記憶合金、空気圧制御、ピエゾ素子などのアクチュエータにより、水平方向に移動する。刺激発生手段190が皮膚面内に水平な方向に平行移動することで、皮膚には水平方向の力が加わる。 このような刺激発生手段190を複数備え、交互に駆動、停止を行うことで、ユーザに平面や物体表面の広がりを知覚させることができるようになる。
【0096】
(実施の形態7)
以上の実施例では、刺激発生手段を人体に装着する例について示したが、本発明の使用方法は、人体への装着に限定されることはない。例えば、マウスなどのポインティングデバイスや、ゲームコントローラなどの従来の入力装置などに複数の刺激発生手段を備え、物体表面をユーザに知覚させるようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】実施の形態1に係る接触提示装置を示す図である。
【図2】円筒型振動モータを説明する図である。
【図3】コイン型振動モータを説明する図である。
【図4】均質な回転子を有する回転体を説明する図である。
【図5】振動モータによるトルク発生を説明するための図である。
【図6】複数の振動モータによるトルク発生を説明するための図である。
【図7】複数の振動モータによるトルク発生に重なる時間がある場合を説明するための図である。
【図8】複数の振動モータによるトルク発生に空白となる時間がある場合を説明するための図である。
【図9】複数の振動モータの制御方法を説明するための図である。
【図10】複数の振動モータの制御方法を説明するための図である。
【図11】複数の振動モータの制御方法を説明するための図である。
【図12】複数の振動モータの制御方法を説明するための図である。
【図13】複数の振動モータの制御方法を説明するための図である。
【図14】複数の振動モータの制御方法を説明するための図である。
【図15】実施の形態3を説明するための図である。
【図16】実施の形態4を説明するための図である。
【図17】振動モータの装着例を示す図である。
【図18】振動モータの装着例を示す図である。
【図19】刺激発生手段について説明するための図である。
【図20】従来の接触提示装置を説明するための図である。
【符号の説明】
【0098】
1 制御手段
2 人体
10、11、12、13 振動モータ
20 円筒型振動モータ
21、31、41 偏心回転子
22、32、42 軸
30 コイン型振動モータ
40 回転体
41 回転子
100 ヘッドマウントディスプレイ
101 情報処理装置
102 記録装置
103 位置検出部
104 位置判定部
105 画像出力部
108 マーカ
109 カメラ
110 仮想物体
190 刺激発生手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人体に所定の知覚を提示する接触提示装置であって、
少なくとも2つ以上の刺激発生手段と、
前記刺激発生手段のオン状態とオフ状態を所定のサイクルで設定し、少なくとも2つの刺激発生手段における前記サイクルが異なる制御を行う制御手段と
を備えたことを特徴とする接触提示装置。
【請求項2】
前記所定の知覚が平面および/または物体表面を知覚することであることを特徴とする請求項1に記載の接触提示装置。
【請求項3】
前記刺激発生手段は、皮膚面内方向に水平な方向に力を発生して人体に刺激を与えることを特徴とする請求項1に記載の接触提示装置。
【請求項4】
前記刺激発生手段が回転体であり、回転子の角速度が変化するときに発生するトルクを利用して、皮膚面内方向に水平な方向に力を発生して人体に刺激を与えることを特徴とする請求項1に記載の接触提示装置。
【請求項5】
前記回転体が振動モータであることを特徴とする請求項4に記載の接触提示装置。
【請求項6】
仮想物体を視覚的に表示する表示装置を更に備え、
前記制御手段は、前記表示装置に表示される仮想物体と前記刺激発生手段の位置関係に基づいて制御することを特徴とする請求項1に記載の接触提示装置。
【請求項7】
人体の位置を検出する位置検出部と、
人体と仮想物体の接触を判定する接触判定部を更に備え、
前記制御手段は、前記接触判定部の判定結果に基づいて制御することを特徴とする請求項1に記載の接触提示装置。
【請求項8】
人体に、仮想物体と所定の知覚を提示する接触提示装置であって、
少なくとも2つ以上の刺激発生手段と、
オン状態とオフ状態を所定のサイクルで設定し、前記仮想物体の表面の所定の範囲内に人体が位置するときに、少なくとも2つの刺激発生手段における前記サイクルが異なる制御を行う制御手段と
を備えたことを特徴とする接触提示装置。
【請求項9】
人体に所定の知覚を提示する接触提示装置であって、
少なくとも2つ以上の刺激発生手段と、
人体に設置された少なくとも2つ以上の刺激発生手段の内、少なくとも一つの刺激発生手段をオン状態にし、少なくとも1つの刺激発生手段をオフ状態にして、オン状態またはオフ状態である刺激発生手段を順次変更する制御を行う制御手段と
を備えたことを特徴とする接触提示装置。
【請求項10】
人体に所定の知覚を提示する接触提示方法であって、
前記刺激発生手段のオン状態とオフ状態を所定のサイクルで設定する設定工程と、
人体に設置された少なくとも2つの刺激発生手段における前記サイクルが異なる制御を行う制御工程と
を備えたことを特徴とする接触提示方法。
【請求項11】
人体に、仮想物体と所定の知覚を提示する接触提示方法であって、
オン状態とオフ状態を所定のサイクルで設定する設定工程と、
前記仮想物体の表面の所定の範囲内に人体が位置するときに、人体に設置された少なくとも2つの刺激発生手段における前記サイクルが異なる制御を行う制御工程と
を備えたことを特徴とする接触提示方法。
【請求項12】
人体に所定の知覚を提示する接触提示方法であって、
少なくとも2つ以上の刺激発生手段と、
人体に設置された少なくとも2つ以上の刺激発生手段の内、少なくとも一つの刺激発生手段をオン状態にし、少なくとも1つの刺激発生手段をオフ状態にする第1の制御工程と、
所定時間経過後に、オン状態またはオフ状態である刺激発生手段を順次変更する第2の制御工程と
を備えたことを特徴とする接触提示方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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