説明

推定装置および推定方法

【課題】推定用多項式を用いて状態量などの推定を行なう場合に、少ない演算量で推定の信頼できる範囲を限定する。
【解決手段】推定装置は、複数の入力パラメータの組み合わせからなる複合項の限定された値を、出力パラメータ推定の信頼できる範囲を示す複合判定指標として予め記憶する複合判定指標記憶部6と、推定用多項式を用いて入力パラメータから出力パラメータを推定する多項式推定演算部2と、多項式推定演算部2に入力された入力パラメータから算出される複合項の値が複合判定指標で限定された範囲内か否かを判定することにより出力パラメータの推定が信頼できるか否かを判定する複合判定部7と、複合判定部7の判定結果を出力する判定結果出力部8とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、推定用多項式を用いて状態量などを推定する推定装置および推定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体製造装置、FPD(Flat Panel Display)製造装置、あるいは太陽電池製造装置における熱プロセスやプラズマプロセスでは、ウエハやガラスの表面温度(実体温度)などの重要な状態量を処理プロセスの実行中にオンラインで管理、制御したいという要求がある。しかしながら、ウエハやガラスの表面に温度センサを装着したまま処理を行なうことは困難である。
【0003】
そこで、処理プロセスの実行中に測定可能な箇所の温度と処理プロセスの実行中には測定不可能なウエハやガラスの表面温度(実体温度)との関係をオフラインで予め調査し、処理プロセスの実行時には測定可能な温度と予め把握した関係に基づき、ウエハやガラスの表面温度(実体温度)を推定することにより、重要な状態量をオンラインで管理、制御するようにしている。このような場合に、オフラインの調査で得られる測定可能な温度とウエハやガラスの表面温度(実体温度)の計測データ(分析用データ)に対して、多変量解析手法を適用することにより、測定可能な温度とウエハやガラスの表面温度の数値的関係を近似推定する多項式を求める手法(多項式による状態量推定)が広く実施されている(例えば特許文献1参照)。多変量解析手法を用いる場合、処理プロセスの実行中に測定可能な温度は、多項式の入力パラメータに位置付けられる。一方、推定対象であるウエハやガラスの表面温度(実体温度)は、多項式の出力パラメータに位置付けられる。
【0004】
【特許文献1】特開平5−141999号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
状態量推定の対象は、多くの場合、入力パラメータと出力パラメータとが単純な線形関係にはない。したがって、状態量推定の精度を向上させたい場合には、分析用データを可能な限り多く収集しなければならない。しかし、分析用データの収集時には、様々な理由によりデータに偏りが生じやすい。つまり、分析用データの入力パラメータ側のパラメータ空間に、均一にデータが分布するようにデータ収集できるとは限らない。これにより、多変量解析手法を適用して得られる多項式についても、信頼性の高い領域と低い領域とができてしまう。
【0006】
説明を簡単にするため、入力パラメータを2個と仮定する。入力パラメータX,Yと出力パラメータZの組み合わせ(X,Y,Z)が、A(1.6,1.6,3.5)、B(2.0,1.8,4.0)、C(2.4,1.7,4.5)、D(2.8,1.7,5.2)、E(1.7,1.9,3.8)、F(1.8,1.9,4.0)、G(1.9,2.0,4.4)、H(2.0,2.1,4.5)、I(1.6,2.5,5.0)、J(1.6,2.6,5.2)、K(1.7,2.6,5.8)、L(1.8,2.5,5.9)、M(1.6,2.9,6.5)、N(1.6,2.8,6.9)、O(1.7,2.8,6.6)、P(1.7,2.9,7.0)となっているA〜Pの16組の値が分析用データとして得られているものとする。このときの入力パラメータ側のパラメータ空間での分布を図6に示す。
【0007】
多項式による状態量推定が万能ではないことは周知のことであり、通常は信頼できる範囲を限定して利用する。多くの場合、分析用データにおいて得られている各パラメータの最小値から最大値の範囲に限定する。図6の分析用データの例では、図7に示すライン210で囲まれた領域、すなわち入力パラメータX,Yが共に1.6以上2.8以下の領域が、信頼できる範囲として限定されることになる。そして、少なくともこのライン210で囲まれた領域以外の入力パラメータX,Yが入力された場合には、分析用データの収集が不十分であったとして、例えばオンラインでの状態量推定中に警告通知をするなどして、信頼性が低いものとして区別する。
【0008】
このとき、図7で明らかなように、ライン210で囲まれた範囲内の右上の領域も分析用データの収集が不十分である。したがって、このような状況に対応するために、データ分布の重心とユークリッド距離とを組み合わせて、出力パラメータ推定の信頼できる範囲を狭めることが想到できる。しかしながら、このような手法で信頼できる範囲を限定しようとすると、多項式による状態量推定以外の演算が、多項式による状態量推定の演算量以上に増えてしまい、演算量および演算時間が増えるという問題がある。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、推定用多項式を用いて状態量などの推定を行なう場合に、少ない演算量で推定の信頼できる範囲を限定することができる推定装置および推定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の推定装置は、複数の入力パラメータの組み合わせからなる複合項の限定された値を、出力パラメータ推定の信頼できる範囲を示す複合判定指標として予め記憶する複合判定指標記憶手段と、推定用多項式を用いて入力パラメータから出力パラメータを推定する多項式推定演算手段と、この多項式推定演算手段に入力された入力パラメータから算出される前記複合項の値が前記複合判定指標で限定された範囲内か否かを判定することにより前記出力パラメータの推定が信頼できるか否かを判定する複合判定手段と、この複合判定手段の判定結果を出力する判定結果出力手段とを備えることを特徴とするものである。
また、本発明の推定装置の1構成例は、さらに、前記出力パラメータの推定を行う前に、前記入力パラメータのデータとこれに対応する出力パラメータのデータとの組からなる分析用データを用いて算出した前記複合項の最小値と最大値のうち少なくとも一方を、前記複合判定指標として前記複合判定指標記憶手段に登録する複合判定指標設定手段を備えることを特徴とするものである。
また、本発明の推定装置の1構成例は、さらに、各入力パラメータの限定された値を、出力パラメータ推定の信頼できる範囲を示す個別判定指標として入力パラメータ毎に予め記憶する個別判定指標記憶手段と、前記多項式推定演算手段に入力された入力パラメータが前記個別判定指標で限定された範囲内か否かを入力パラメータ毎に判定することにより前記出力パラメータの推定が信頼できるか否かを判定する個別判定手段とを備え、前記判定結果出力手段は、前記個別判定手段の判定結果を出力することを特徴とするものである。
また、本発明の推定装置の1構成例において、前記複合判定手段は、前記複合項が前記推定用多項式に含まれているときは、前記出力パラメータの推定の際に算出される前記複合項の値を前記多項式推定演算手段から取得することを特徴とするものである。
また、本発明の推定装置の1構成例において、前記複合判定手段は、前記複合項が前記推定用多項式に含まれていないときは、前記出力パラメータの推定の際に算出される前記複合項の一部の値を前記多項式推定演算手段から取得し、この取得した値から前記複合項の値を算出して、この複合項の値が前記複合判定指標で限定された範囲内か否かを判定することを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明の推定方法は、推定用多項式を用いて入力パラメータから出力パラメータを推定する多項式推定演算手順と、複数の入力パラメータの組み合わせからなる複合項の限定された値を、出力パラメータ推定の信頼できる範囲を示す複合判定指標として予め記憶する複合判定指標記憶手段から前記複合判定指標を取得し、前記多項式推定演算手順で入力された入力パラメータから算出される前記複合項の値が前記複合判定指標で限定された範囲内か否かを判定することにより前記出力パラメータの推定が信頼できるか否かを判定する複合判定手順と、この複合判定手順の判定結果を出力する判定結果出力手順とを備えることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、複数の入力パラメータの組み合わせからなる複合項の限定された値を複合判定指標として予め登録しておき、多項式推定演算手段に入力された入力パラメータから算出される複合項の値が複合判定指標で限定された範囲内か否かを判定することにより、出力パラメータの推定が信頼できるか否かを判定することができ、推定装置を使用する例えば半導体製造プロセスのオペレータなどのユーザに判定結果を通知することができる。その結果、本発明では、少ない演算量で推定の信頼できる範囲を限定することができる。
【0013】
また、本発明では、複合項が推定用多項式に含まれていないときは、出力パラメータの推定の際に算出される複合項の一部の値を多項式推定演算手段から取得し、この取得した値から複合項の値を算出して、この複合項の値が複合判定指標で限定された範囲内か否かを判定することにより、複合項そのものが推定用多項式に含まれていない場合であっても、出力パラメータの推定が信頼できるか否かを判定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
[発明の原理]
出力パラメータ推定の信頼できる範囲を限定しようとすると演算量が増えてしまう要因は、各パラメータの最小値から最大値の範囲を信頼できる範囲とするといったように、基本的には各パラメータを個別に判定することにある。
【0015】
入力パラメータから出力パラメータを推定するための推定用多項式には、2次以上の多項式であれば必ず複数の入力パラメータの積を算出(乗算)する項が含まれる。例えば入力パラメータX,Yと出力パラメータZの組み合わせ(X,Y,Z)が、A(1.6,1.6,3.5)、B(2.0,1.8,4.0)、C(2.4,1.7,4.5)、D(2.8,1.7,5.2)、E(1.7,1.9,3.8)、F(1.8,1.9,4.0)、G(1.9,2.0,4.4)、H(2.0,2.1,4.5)、I(1.6,2.5,5.0)、J(1.6,2.6,5.2)、K(1.7,2.6,5.8)、L(1.8,2.5,5.9)、M(1.6,2.9,6.5)、N(1.6,2.8,6.9)、O(1.7,2.8,6.6)、P(1.7,2.9,7.0)となっているA〜Pの16組の分析用データから、2次の推定用多項式を求めた場合には式(1)のようになり、3次の推定用多項式を求めた場合には式(2)のようになる。
Z=aX2+bXY+cY2+dX+eY+f ・・・(1)
Z=aX3+bX2Y+cXY2+dY3+eX2+fXY+gY2+hX+iY+j
・・・(2)
【0016】
推定用多項式により出力パラメータZの推定値を算出する場合には、式(1)、式(2)におけるbXYやfXYのように、入力パラメータX,Yの積による数値、すなわち入力パラメータX,Yの組み合わせによる数値が算出されることに発明者は着眼した。そして、このような複数の入力パラメータが含まれる項の演算結果を、入力パラメータ間の組み合わせ指標として採用すれば、出力パラメータの推定値の算出に直接的には無関係な演算(計算式)をあえて増やさないで、推定の信頼できる範囲を限定できることに想到した。
【0017】
具体的には、式(1)に示した2次の推定用多項式を採用する場合であれば、分析用データにおいてbXYの最小値や最大値がどのように得られているかを予め確認しておく。そして、オンラインで得られる入力パラメータX,YによってbXYの演算結果が、最小値を下回るか最大値を上回るかということが発生したら、警告通知をするなどして、信頼性が低いものとして区別する。
【0018】
この場合、仮にb=1.0としてXYの積の最大値を用いて、信頼できる範囲を限定することを考える。前述のA〜Pの16組の分析用データについては、図1に示すように、XYの積の最大値を与えるP(1.7,2.9,7.0)を通過する直角双曲線100が、XYの積の最大値による判定の境界線になる。したがって、図7の各パラメータの最小値から最大値の範囲と合わせると、図2に示すような領域101になる。この場合、分析用データが分布する領域を合理的に限定したことになる。
【0019】
式(2)に示した3次の推定用多項式を採用する場合であれば、fXY以外にbX2Y,cXY2の項を利用しても、実質的に同じ効果が得られる。また、XYの積の最小値を用いる場合も、同様に考えればよい。
なお、入力パラメータが3個以上ある場合であるが、例えば入力パラメータがX,Y,Wであれば、3次式ならXYWの項を用いることができるし、2次式ならXY,XW,YWの項を3個用いることで概ね同様の効果を得られる。以下、このような複数の入力パラメータの組み合わせの項を、「複合項」と称することにする。
判定に用いる複合項については、例えばbXYのように推定多項式の係数を含めた数値を利用してもよいし、XYのように推定多項式の係数を除いた数値を利用してもよい。
【0020】
[第1の実施の形態]
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図3は本発明の第1の実施の形態に係る推定装置の構成を示すブロック図である。
推定装置は、入力パラメータ値取得部1と、多項式推定演算部2と、推定値出力部3と、個別判定指標記憶部4と、個別判定部5と、複合判定指標記憶部6と、複合判定部7と、判定結果出力部8と、分析用データ取得部9と、個別判定指標設定部10と、複合判定指標設定部11と、推定用多項式算出部12とから構成される。
【0021】
次に、出力パラメータの推定処理の前に予め行われる推定装置の推定用多項式導出処理と入力パラメータ判定指標設定処理とを、図4を用いて説明する。まず、分析用データ取得部9には、入力パラメータのデータとこれに対応する出力パラメータのデータとの組からなる既知の分析用データが入力される(ステップS1)。入力パラメータの例としては、例えば半導体製造装置の熱プロセスやプラズマプロセスなどのプロセスの実行中に測定可能な温度がある。出力パラメータの例としては、プロセスの実行中に測定不可能なウエハやガラスの表面温度(実体温度)がある。分析用データは、処理プロセスよりも前に行われるオフラインの調査で予め求めることができる。
【0022】
続いて、推定用多項式算出部12は、分析用データ取得部9が取得した分析用データに対して多変量解析などを行い、入力パラメータから出力パラメータを推定する推定用多項式を求め、この推定用多項式を多項式推定演算部2に記憶させる(ステップS2)。
個別判定指標設定部10は、分析用データにおける各入力パラメータの最小値と最大値とを、信頼できる範囲を示す入力パラメータ単位の個別判定指標として個別判定指標記憶部4に登録する(ステップS3)。本実施の形態では、例えば処理プロセスの実行中に複数の箇所で温度を測定する場合のように複数の入力パラメータが得られる場合を想定しているので、個別判定指標は入力パラメータ毎に設定される。
【0023】
複合判定指標設定部11は、予め規定された特定の複合項に関して、分析用データを用いて算出した当該複合項の最小値と最大値のうち少なくとも一方を、信頼できる範囲を示す入力パラメータの組単位の複合判定指標として複合判定指標記憶部6に登録する(ステップS4)。
以上で、推定装置の推定用多項式導出処理と入力パラメータ判定指標設定処理とが終了する。
【0024】
ステップS4の処理において、入力パラメータが2個(X,Y)で推定用多項式が2次以上の場合は、XYの項を特定の複合項として採用することを推奨する。推定用多項式が1次の場合は複合判定指標を設定することはできない。また、入力パラメータが3個(X,Y,W)で推定用多項式が3次以上の場合は、XYWの項を特定の複合項として採用することを推奨し、同じく入力パラメータが3個(X,Y,W)で推定用多項式が2次の場合は、XY,XW,YWの3項を特定の複合項として採用することを推奨する。入力パラメータが4個以上の場合も、推定用多項式が2次以上であれば、次数に応じて複合項を適宜選択可能である。
【0025】
なお、複合判定指標として複合項の最小値と最大値の両方を登録することは必須の構成要件ではない。例えば出力パラメータの推定時に入力パラメータから算出される複合項の最大値が常識的な値に留まることが事前に明らかになっている場合には、複合項の最小値のみ規定すれば十分である。反対に、複合項の最小値が常識的な値に留まることが事前に明らかになっている場合には、複合項の最大値のみ規定すれば十分である。したがって、これらの場合には複合項の最小値と最大値のうちどちらか一方だけを複合判定指標として登録しておけばよい。複合項の最小値を登録するか、最大値を登録するか、最小値と最大値の両方を登録するかは、例えば推定装置のユーザから予め指定される。
【0026】
次に、出力パラメータYの推定処理を、図5を用いて説明する。入力パラメータ値取得部1は、例えば半導体製造装置の熱プロセスやプラズマプロセスなどのプロセスの実行中に温度センサ(不図示)から入力される温度などの入力パラメータを取得する(ステップS10)。
【0027】
個別判定部5は、入力パラメータ値取得部1が取得した入力パラメータが対応する個別判定指標を満たすか否かを、個別判定指標記憶部4に登録されている各パラメータの個別判定指標(最小値と最大値)に基づき入力パラメータ毎に判定する(ステップS11)。個別判定部5は、全ての入力パラメータがそれぞれ対応する最小値と最大値の範囲内にある場合、入力パラメータが個別判定指標を満たすと判定する。一方、少なくとも1つの入力パラメータが対応する最小値と最大値の範囲外にある場合は、当該入力パラメータが個別判定指標を満たさないと判定する。個別判定部5の判定結果は、判定結果出力部8に通知される。
【0028】
次に、多項式推定演算部2は、予め記憶している推定用多項式を用いて入力パラメータから出力パラメータを推定して推定値出力部3に出力する(ステップS12)。その際、多項式推定演算部2は、複合判定指標記憶部6に複合判定指標が登録されている特定の複合項の値を複合判定部7に出力する。
【0029】
複合判定部7は、多項式推定演算部2が算出した複合項の値が複合判定指標記憶部6に登録されている複合判定指標を満たすか否かを判定する(ステップS13)。複合判定部7は、複合判定指標として複合項の最小値と最大値の両方が登録されていて、多項式推定演算部2が算出した複合項の値が最小値と最大値の範囲内にある場合、複合項が複合判定指標を満たすと判定し、複合項の値が最小値と最大値の範囲外にある場合、複合項が複合判定指標を満たさないと判定する。
【0030】
また、複合判定部7は、複合判定指標として複合項の最小値のみが登録されていて、多項式推定演算部2が算出した複合項の値が最小値以上の場合、複合項が複合判定指標を満たすと判定し、複合項の値が最小値未満の場合、複合項が複合判定指標を満たさないと判定する。また、複合判定部7は、複合判定指標として複合項の最大値のみが登録されていて、多項式推定演算部2が算出した複合項の値が最大値以下の場合、複合項が複合判定指標を満たすと判定し、複合項の値が最大値より大きい場合、複合項が複合判定指標を満たさないと判定する。複合判定部7の判定結果は、判定結果出力部8に通知される。
【0031】
多項式推定演算部2が推定した出力パラメータは、推定値出力部3を通じて外部に出力される(ステップS14)。
判定結果出力部8は、個別判定部5と複合判定部7の判定結果を表示等によって例えば半導体製造プロセスに携わるオペレータなどのユーザに通知する(ステップS15)。判定結果出力部8は、入力パラメータが個別判定指標を満たし、複合項が複合判定指標を満たす場合、何も出力しない。また、判定結果出力部8は、ある入力パラメータが個別判定指標を満たさない場合、この入力パラメータをユーザに通知して、入力パラメータが推定用多項式の信頼できる範囲にないことを知らせる。また、判定結果出力部8は、複合項が複合判定指標を満たさない場合、この複合項に含まれる入力パラメータをユーザに通知して、これらの入力パラメータが推定用多項式の信頼できる範囲にないことを知らせる。
【0032】
以上のように、本実施の形態では、複数の入力パラメータの組み合わせからなる複合項の限定された値を複合判定指標として予め登録しておき、多項式推定演算部2に入力された入力パラメータから算出される複合項の値が複合判定指標で限定された範囲内か否かを判定することにより、出力パラメータの推定が信頼できるか否かを判定することができ、判定結果をユーザに通知することができる。その結果、本実施の形態では、少ない演算量で推定の信頼できる範囲を限定することができる。
なお、本実施の形態において、入力パラメータ毎の個別判定は必須の要件ではなく、個別判定指標記憶部4と個別判定部5と個別判定指標設定部10とは必須の構成ではない。
【0033】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。本実施の形態においても、推定装置の構成は第1の実施の形態と同様であるので、図3の符号を用いて説明する。第1の実施の形態では、基本的に計算式を増やさない例を示したが、本実施の形態は、入力パラメータが3個以上あり、推定用多項式が2次である場合のように、入力パラメータ数が推定用多項式の次数よりも大きい特殊な例を示すものである。このような特殊な例の場合、計算式が若干増えることになるが、演算量を極力増やさないようにすることにより、少ない演算量で信頼できる範囲を限定するという効果を得る。
【0034】
第1の実施の形態では、入力パラメータが3個(X,Y,W)で、推定用多項式が2次の場合、XY,XW,YWの3項を特定の複合項として用いることにしている。しかしながら、理想的にはXYWを複合項として採用することが好ましい。そこで、本実施の形態の複合判定指標設定部11は、XYWを特定の複合項とし、分析用データを用いて算出される複合項XYWの最小値と最大値のうち少なくとも一方を複合判定指標として複合判定指標記憶部6に登録する(図4ステップS4)。
【0035】
複合項XYWは2次の推定用多項式には含まれていないので、推定用多項式による出力パラメータの推定演算の過程で複合項XYWを直接算出することはできない。そこで、多項式推定演算部2は、複合判定指標記憶部6に複合項XYWの複合判定指標が登録されている場合、推定用多項式による推定値の算出の際に得られるXYの項の値を複合判定部7に出力する(図5ステップS12)。
【0036】
複合判定部7は、多項式推定演算部2が算出したXYの項の値と入力パラメータWの値とを乗算することで、複合項XYWの値を算出し、複合項XYWの値が複合判定指標記憶部6に登録されている複合判定指標を満たすか否かを判定する(ステップS13)。このように推定用多項式による出力パラメータ推定の途中結果を利用して複合項XYWの値を別途算出することにより、判定を行うことができる。
【0037】
また、入力パラメータが5個(X,Y,W,V,R)で、推定用多項式が3次の場合、XYWVRを複合項として採用することが好ましい。この場合、複合判定指標設定部11は、分析用データを用いて算出される複合項XYWVRの最小値と最大値のうち少なくとも一方を複合判定指標として複合判定指標記憶部6に登録する(ステップS4)。
【0038】
多項式推定演算部2は、複合判定指標記憶部6に複合項XYWVRの複合判定指標が登録されている場合、推定用多項式による推定値の算出の際に得られるXYWの項の値とVRの項の値とを複合判定部7に出力する(ステップS12)。
複合判定部7は、多項式推定演算部2が算出したXYWの項の値とVRの項の値とを乗算することで、複合項XYWVRの値を算出し、複合項XYWVRの値が複合判定指標記憶部6に登録されている複合判定指標を満たすか否かを判定する(ステップS13)。
【0039】
以上のように、本実施の形態では、複合判定部7による複合項判定ステップにおいて、若干の演算量を増やすことで、複合項そのものが推定用多項式に含まれていない場合であっても、出力パラメータの推定が信頼できるか否かを判定することができ、推定の信頼できる範囲を限定することができる。
【0040】
なお、第1、第2の実施の形態で説明した推定装置は、CPU、記憶装置およびインタフェースを備えたコンピュータと、これらのハードウェア資源を制御するプログラムによって実現することができる。CPUは、記憶装置に格納されたプログラムに従って第1、第2の実施の形態で説明した処理を実行する。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、推定用多項式を用いて状態量などを推定する技術に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】分析用データの入力パラメータの積について最大値を与える曲線を示す図である。
【図2】図1の曲線と各入力パラメータの最小値から最大値の範囲とによって限定した領域を示す図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係る推定装置の構成を示すブロック図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態に係る推定装置の推定用多項式導出処理と入力パラメータ判定指標設定処理とを示すフローチャートである。
【図5】本発明の第1の実施の形態に係る推定装置の出力パラメータ推定処理を示すフローチャートである。
【図6】分析用データの入力パラメータ側のパラメータ空間での分布の1例を示す図である。
【図7】図6のパラメータ空間で信頼できる範囲を示す図である。
【符号の説明】
【0043】
1…入力パラメータ値取得部、2…多項式推定演算部、3…推定値出力部、4…個別判定指標記憶部、5…個別判定部、6…複合判定指標記憶部、7…複合判定部、8…判定結果出力部、9…分析用データ取得部、10…個別判定指標設定部、11…複合判定指標設定部、12…推定用多項式算出部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の入力パラメータの組み合わせからなる複合項の限定された値を、出力パラメータ推定の信頼できる範囲を示す複合判定指標として予め記憶する複合判定指標記憶手段と、
推定用多項式を用いて入力パラメータから出力パラメータを推定する多項式推定演算手段と、
この多項式推定演算手段に入力された入力パラメータから算出される前記複合項の値が前記複合判定指標で限定された範囲内か否かを判定することにより前記出力パラメータの推定が信頼できるか否かを判定する複合判定手段と、
この複合判定手段の判定結果を出力する判定結果出力手段とを備えることを特徴とする推定装置。
【請求項2】
請求項1記載の推定装置において、
さらに、前記出力パラメータの推定を行う前に、前記入力パラメータのデータとこれに対応する出力パラメータのデータとの組からなる分析用データを用いて算出した前記複合項の最小値と最大値のうち少なくとも一方を、前記複合判定指標として前記複合判定指標記憶手段に登録する複合判定指標設定手段を備えることを特徴とする推定装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の推定装置において、
さらに、各入力パラメータの限定された値を、出力パラメータ推定の信頼できる範囲を示す個別判定指標として入力パラメータ毎に予め記憶する個別判定指標記憶手段と、
前記多項式推定演算手段に入力された入力パラメータが前記個別判定指標で限定された範囲内か否かを入力パラメータ毎に判定することにより前記出力パラメータの推定が信頼できるか否かを判定する個別判定手段とを備え、
前記判定結果出力手段は、前記個別判定手段の判定結果を出力することを特徴とする推定装置。
【請求項4】
請求項1または2記載の推定装置において、
前記複合判定手段は、前記複合項が前記推定用多項式に含まれているときは、前記出力パラメータの推定の際に算出される前記複合項の値を前記多項式推定演算手段から取得することを特徴とする推定装置。
【請求項5】
請求項1または2記載の推定装置において、
前記複合判定手段は、前記複合項が前記推定用多項式に含まれていないときは、前記出力パラメータの推定の際に算出される前記複合項の一部の値を前記多項式推定演算手段から取得し、この取得した値から前記複合項の値を算出して、この複合項の値が前記複合判定指標で限定された範囲内か否かを判定することを特徴とする推定装置。
【請求項6】
推定用多項式を用いて入力パラメータから出力パラメータを推定する多項式推定演算手順と、
複数の入力パラメータの組み合わせからなる複合項の限定された値を、出力パラメータ推定の信頼できる範囲を示す複合判定指標として予め記憶する複合判定指標記憶手段から前記複合判定指標を取得し、前記多項式推定演算手順で入力された入力パラメータから算出される前記複合項の値が前記複合判定指標で限定された範囲内か否かを判定することにより前記出力パラメータの推定が信頼できるか否かを判定する複合判定手順と、
この複合判定手順の判定結果を出力する判定結果出力手順とを備えることを特徴とする推定方法。
【請求項7】
請求項6記載の推定方法において、
さらに、前記出力パラメータの推定を行う前に、前記入力パラメータのデータとこれに対応する出力パラメータのデータとの組からなる分析用データを用いて算出した前記複合項の最小値と最大値のうち少なくとも一方を、前記複合判定指標として前記複合判定指標記憶手段に登録する複合判定指標設定手順を備えることを特徴とする推定方法。
【請求項8】
請求項6または7記載の推定方法において、
さらに、各入力パラメータの限定された値を、出力パラメータ推定の信頼できる範囲を示す個別判定指標として入力パラメータ毎に予め記憶する個別判定指標記憶手段から前記個別判定指標を取得し、前記多項式推定演算手順で入力された入力パラメータが前記個別判定指標で限定された範囲内か否かを入力パラメータ毎に判定することにより前記出力パラメータの推定が信頼できるか否かを判定する個別判定手順を備え、
前記判定結果出力手順は、前記個別判定手順の判定結果を出力することを特徴とする推定方法。
【請求項9】
請求項6または7記載の推定方法において、
前記複合判定手順は、前記複合項が前記推定用多項式に含まれているときは、前記出力パラメータの推定の際に算出される前記複合項の値を前記多項式推定演算手順の途中の結果から取得することを特徴とする推定方法。
【請求項10】
請求項6または7記載の推定方法において、
前記複合判定手順は、前記複合項が前記推定用多項式に含まれていないときは、前記出力パラメータの推定の際に算出される前記複合項の一部の値を前記多項式推定演算手順の途中の結果から取得し、この取得した値から前記複合項の値を算出して、この複合項の値が前記複合判定指標で限定された範囲内か否かを判定することを特徴とする推定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−97384(P2010−97384A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−267279(P2008−267279)
【出願日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【出願人】(000006666)株式会社山武 (1,808)
【Fターム(参考)】