説明

揚げ物用油脂組成物

【課題】 本発明は、加熱調理時における加熱着色、加熱臭を抑制するだけでなく、酸価上昇も抑制でき、長時間の使用にも耐え得る油脂組成物を提供することにある。
【解決手段】 食用油脂にリン分を0.1ppm以上10ppm以下、かつ、アスコルビン酸及び/又はアスコルビン酸誘導体をアスコルビン酸当量として2ppm以上130ppm以下含有させることにより、加熱着色、加熱臭、及び、酸価上昇の抑制された油脂組成物を提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱調理時における加熱耐性に優れ、特に加熱着色抑制、酸価上昇抑制および加熱臭を抑制する揚げ物用油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
フライ、天ぷらなどの揚げ物を調理するための油として、大豆油、菜種油、パーム油等の食用油脂が単独または数種類ブレンドして使用されている。高温に加熱された食用油脂に食材を投入して行う加熱調理、すなわち揚げ物調理においては、酸素、熱、水分、食材から溶出する成分等の影響によって様々な劣化が起こされる。油脂は加熱することにより、熱酸化、熱分解、熱重合、加水分解などの反応が進み、着色、酸価上昇、粘度上昇、加熱臭の発現等が起こり、調理環境や揚げ物の品質が悪化するため、長時間使用することができない。
【0003】
揚げ物を調理する際の加熱劣化を抑制する先行技術として、劣化を促進する物質として知られているリン脂質、微量金属などをできる限り除去するために、油脂の精製条件を強化する手法が取られている。
【0004】
一方で、特許文献1では、油脂中に微量のリン分を含有させることにより、加熱劣化を抑制できる方法が示されている。また、特許文献2では、アスコルビン酸を油脂中に含有させることにより、加熱劣化臭を改善できる方法が示されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1の方法では、後述の比較例で示すように酸価上昇抑制には必ずしも有効ではなかった。
【0006】
また、特許文献2の方法では、後述の比較例で示すように加熱着色抑制及び酸価上昇抑制には十分な効果を得ることができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4159102号公報
【特許文献2】国際公開第2001/096506号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、加熱調理時における加熱着色、加熱臭を抑制するだけでなく、酸価上昇も抑制でき、長時間の使用にも耐え得る油脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を達成するために鋭意検討を重ねた結果、油脂の加熱着色、酸価上昇および加熱臭は、食用油脂に所定量のリン分とアスコルビン酸及び/又はアスコルビン酸誘導体を含有させることで抑制できることを見出した。すなわち、食用油脂にリン分を0.1ppm以上10ppm以下、かつ、アスコルビン酸及び/又はアスコルビン酸誘導体をアスコルビン酸当量として2ppm以上130ppm以下含有させることにより、食用油脂の加熱着色抑制及び加熱臭抑制の効果を格段に向上できるとともに、単独では効果の見られなかった酸価上昇抑制の効果を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
本発明の油脂組成物に含まれるリン分の由来成分は、後述するように、原油、脱ガム油などの各種リン分を多く含有する油脂、レシチン、リン酸、リン酸塩などである。原油や脱ガム油の油脂の種類に特に制限はなく使用可能である。
【0011】
上記レシチンには、大豆レシチン、菜種レシチン、コーンレシチン、サフラワーレシチンなどの植物レシチンや、卵黄レシチンなどの動物レシチンが使用される。上記レシチンは、天然由来の未精製レシチン(クルードレシチン)、クルードレシチンから中性脂質、脂肪酸、炭水化物、タンパク質、無機塩、ステロール、色素などの不純物を常法により除去して得られる高純度に精製されたレシチン(精製レシチン)のいずれでもよい。さらには、レシチン中のフォスファチジルコリンを分画して得られる分画レシチン、レシチンをリゾ化処理することにより得られるリゾレシチン、酵素分解処理した酵素レシチンのような改質レシチンでもよい。
【0012】
上記リン酸塩には、リン酸三カリウム、リン酸三カルシウム、リン酸三マグネシウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸四カリウム、ピロリン酸二水素カルシウム、ピロリン酸二水素二ナトリウム、ピロリン酸四ナトリウム、ポリリン酸カリウム、ポリリン酸ナトリウム、メタリン酸カリウム、メタリン酸ナトリウム、および、これらの水和物などが挙げられる。
【0013】
本発明の油脂組成物は、所定量のリン分を含有することが必須であるところ、該組成物中にリン分を含有させる方法には特に制限はない。本発明の油脂組成物を工業的に得るには、例えば、従来の食用油脂の精製度合いをマイルドにしてリン分を所定量残存させる方法や、精製された食用油脂(すなわち、脱臭処理までされリン分が無いもの)にリン分の由来成分を添加することによりリン分を調整する方法が挙げられる。精製された食用油脂にリン分の由来成分を添加する方法が、微量のリン分の調整が容易な点で好ましい。
【0014】
上記リン分の由来成分としては、圧搾法、抽出法、圧抽法などにより得られる原油、脱ガム油、粗精製油などの中間的油脂、ならびにレシチン、リン酸、リン酸塩のようなリン化合物からなる群から選ばれる少なくとも一種を使用することができる。前記リン分の由来成分は、好ましくは圧搾油および/または抽出油、脱ガム油、レシチン、もしくはリン酸および/またはリン酸塩である。
【0015】
本発明において、前記原油は、油糧原料から圧搾法、抽出法、圧抽法などにより得られた油脂を意味する。前記脱ガム油は、原油を脱ガム工程にてガム質を除去した油脂を意味する。前記中間的油脂は、脱ガム、脱酸等の油脂の精製工程の一部を省いた油脂などを意味する。
【0016】
本発明において、リン分の由来成分という用語は、リンを含み、油脂組成物の原料となる成分の意義で使用される。
【0017】
本発明において、アスコルビン酸及びアスコルビン酸誘導体とは、例えば、アスコルビン酸、アスコルビン酸塩、リン酸アスコルビルナトリウム、リン酸アスコルビルマグネシウム、テトラヘキシルデカン酸アスコルビル、アスコルビン酸エステル等である。好ましくは、アスコルビン酸及び/又はアスコルビン酸エステルであり、より好ましくはアスコルビン酸エステルであり、最も好ましくはアスコルビン酸パルミテートである。アスコルビン酸は油脂への溶解性が低いため、再現性の面で難があるが、アスコルビン酸エステルは、油脂への溶解性が良好であり扱いやすい。
【0018】
前記アスコルビン酸エステルは、アスコルビン酸に脂肪酸をエステル結合させたものであり、アスコルビン酸の油溶性を向上させたものである。
【0019】
本発明において、アスコルビン酸当量とは、アスコルビン酸誘導体をアスコルビン酸に換算したときの値である。すなわち、アスコルビン酸誘導体の含有量(ppm)をA、アスコルビン酸誘導体1分子に含まれるアスコルビン酸の分子数をB、アスコルビン酸の分子量をC、アスコルビン酸誘導体の分子量をDとしたときに、アスコルビン酸当量(ppm)=A×B×C÷D で示したものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明により得られる油脂組成物は、リン分を0.1ppm以上10ppm以下、かつ、アスコルビン酸及び/又はアスコルビン酸誘導体をアスコルビン酸当量として2ppm以上130ppm以下を含有することを特徴としている。従来の油脂組成物と異なり、本発明により得られる油脂組成物は、加熱着色、酸価上昇、加熱臭抑制効果のいずれも十分に満たすことができ、長期間の加熱耐性が要求される揚げ物用油脂組成物として最適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明に使用される食用油脂は、その種類には特に限定がなく食用油として用いられているものであればよい。具体例として、大豆油、菜種油、パーム油、コーン油、オリーブ油、ゴマ油、紅花油、ひまわり油、綿実油、米油、落下生油、パーム核油、ヤシ油などの植物油脂並びに牛脂、豚脂等の動物脂、並びにこれらを分別、水素添加、エステル交換等を施した加工油脂の単品又は、これらの二種類以上のブレンドでも良い。特に、大豆油を含む油脂で効果が顕著である。
【0022】
また、本発明の効果を妨害しない程度であれば、他の抗酸化剤、乳化剤、香料を添加したものでも良い。
【0023】
上記の食用油は、その油糧原料から、圧搾抽出および/または溶剤抽出により原油を得た後、原油をさらに抽出、精製することにより製造することができる。
【0024】
圧搾抽出は、原料に高圧を加えて細胞中の油分を搾り取ることにより行うものである。圧搾抽出は、ゴマのような比較的油分の高い油糧原料に向いている。
【0025】
溶剤抽出は、原料となる油糧種子を圧扁もしくは圧搾抽出後の残渣に溶剤を接触させ、油分を溶剤溶液として抽出し、得られる溶液から溶剤を留去して油分を得ることにより行う。溶剤抽出は、大豆のような含油量の少ない原料に向いている。溶剤にはヘキサンなどを使用する。
【0026】
精製手段としては、植物油の一般的な精製工程を適用することができる。すなわち、一般に、(抽出油)原油→脱ガム油→脱酸油→脱色油→脱臭油(精製油)の順に不純物が除かれ、それぞれの間の操作である「脱ガム処理」、「脱酸処理」、「脱色処理」、「脱臭処理」の工程は、それ自体としては一般的な、脱ガム処理、脱酸処理、脱色処理、脱臭処理などが採用される。
【0027】
脱ガム処理は、油分中に含まれるリン脂質を主成分とするガム質を水和除去する工程である。脱酸処理は、アルカリ水で処理することにより、油分中に含まれる遊離脂肪酸をセッケン分として除去する工程である。
【0028】
脱色処理は、油分中に含まれる色素を活性白土に吸着させて除去する工程である。
【0029】
脱臭処理は、減圧下で水蒸気蒸留することによって油分中に含まれる有臭成分を除去する工程である。なお、オリーブ、ゴマ、紅花およびひまわりについては、圧搾抽出および/または溶剤抽出された原油をそのまま、あるいは該原油が簡単な水洗処理を施されたものを食用に供される場合がある。
【0030】
本発明の油脂組成物に含まれるリン分の由来成分としては、圧搾法、抽出法、圧抽法などにより得られる原油、ならびに脱ガム、脱酸等の工程の一部を省いた中間的油脂から選ばれる少なくとも一種を使用することができ、原料油種に特に制限はない。
【0031】
本発明の油脂組成物のリン分は、0.1ppm以上10ppm以下であり、好ましくは0.8ppm以上10ppm以下であり、更に好ましくは0.8ppm以上8.0ppm以下であり、最も好ましくは1.0ppm以上5.0ppm以下である。リン分が少ないと、加熱着色抑制効果が不十分となり、逆に多いと、加熱着色が促進される場合がある。
【0032】
本発明の油脂組成物中には、アスコルビン酸もしくはアスコルビン酸誘導体の少なくともいずれか一方を含有することが必須である。
【0033】
本発明のアスコルビン酸及び/またはアスコルビン酸誘導体の添加量は、アスコルビン酸当量として2ppm以上130ppm以下である。アスコルビン酸当量が少なすぎても、多すぎても加熱耐性を十分に得られない場合がある。
【0034】
本発明において、アスコルビン酸を添加する場合には、残存するアスコルビン酸当量として、好ましくは2ppm以上28ppm以下であり、より好ましくは2ppm以上9ppm以下であり、最も好ましくは4ppm以上9ppm以下である。アスコルビン酸が多すぎると、油脂に十分に溶解させることが困難な場合がある。
【0035】
前記アスコルビン酸を油脂に添加する場合、0.2%〜1%水溶液を調製し、油脂に所定量を加える。1〜50Torrの減圧条件下で撹拌しながら、50〜100℃に加温する。水分を十分に除去し、ろ別することで油脂中に添加させることができる。
【0036】
本発明において、アスコルビン酸エステルを添加する場合には、アスコルビン酸当量として、好ましくは、10ppm以上130ppm以下である。より好ましくは10ppm以上50ppm以下である。アスコルビン酸エステルが少なくても、多すぎても加熱耐性が不十分である。
【0037】
前記アスコルビン酸エステルは、結合する脂肪酸を特に規定するものではないが、好ましくはアスコルビン酸ステアレートやアスコルビン酸パルミテートである。より好ましくはアスコルビン酸パルミテートである。アスコルビン酸エステルを、油脂中に所定量加え、50〜130℃に加温し、撹拌することにより油脂中に添加させることができる。
【0038】
また、本発明は、食用油脂にリン分を0.1ppm以上10ppm以下、かつ、アスコルビン酸及び/又はアスコルビン酸誘導体をアスコルビン酸当量として2ppm以上130ppm以下含有した油脂組成物で揚げた食品を提供する。
【0039】
前記食品には、例えば、天ぷら、コロッケ、とんかつ、唐揚げ、魚フライ、ポテトフライ、揚げ豆腐、揚げ米菓、スナック菓子、ドーナッツ、インスタントラーメン等がある。
【0040】
また、本発明は、食用油脂にリン分を0.1ppm以上10ppm以下、かつ、アスコルビン酸及び/又はアスコルビン酸誘導体をアスコルビン酸当量として2ppm以上130ppm以下含有させることを特徴とする揚げ物用油脂組成物の酸価上昇抑制方法を提供する。
【0041】
上記本発明の方法をおこなうことで、食用油脂の使用可能期間を延長することが可能となる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例および比較例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明する。しかし、以下の実施例は、本発明を限定するものではない。また、「部」は、重量部を意味する。
【0043】
以下において、使用油脂やアスコルビン酸等は次の物を使用した。
【0044】
(使用油脂)
精製大豆油(株式会社J−オイルミルズ社製、大豆白絞油 リン分検出されず)
精製菜種油(株式会社J−オイルミルズ社製、菜種白絞油 リン分検出されず)
精製パーム油(株式会社J−オイルミルズ社製、精製パームオレイン リン分検出されず)
【0045】
(リン分の由来成分)
リン酸(株式会社和光純薬工業社製)
大豆由来脱ガム油(株式会社J−オイルミルズ社製 リン分:70もしくは200ppm)
菜種由来脱ガム油(株式会社J−オイルミルズ社製 リン分:80ppm)
【0046】
(アスコルビン酸およびアスコルビン酸誘導体)
アスコルビン酸(DSMニュートリションジャパン株式会社製、L−アスコルビン酸) 分子量 176.12
アスコルビン酸パルミテート(三菱化学フーズ株式会社製、L-アスコルビン酸パルミチン酸エステル) 分子量 414.54
【0047】
また、以下において、フライ試験等の評価は次のように行った。
【0048】
(フライ試験)
3Lフライヤー(マッハ機器株式会社製、MACHフライヤーF-3H)に油脂3.4Kgを張り込み、180℃に加温し、冷凍鶏唐揚げ(味の素冷凍食品株式会社製、若鶏唐揚げ)400gを5分間フライし、2時間間隔で同様の作業を5回繰り返し、10時間の試験を行った。これと同様の操作を6日間繰り返した。フライ開始から60時間後の試料について色調、および酸価を測定した。
【0049】
(簡易加熱試験)
ステンレス容器(直径5cm)に油脂10gを張り込み、180℃で6時間加熱した。得られた油脂組成物の酸価および色調を測定した。
【0050】
(リン分分析)
ICP発光分光分析装置iCAP6000(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製)を用いて高周波プラズマ発光分光法により分析した。
【0051】
(アスコルビン酸残存量)
密閉可能な容器中に油脂を加え油脂と等量の5%メタリン酸水溶液と油脂2倍量のヘキサンを加え、振とう撹拌を行った。静置後水層部の246nmの吸光度を測定した。別途既知量のアスコルビン酸水溶液で検量線を作成し定量を行った。
【0052】
(色調)
ロビボンド比色計(THE TINTOMETER.LTD社製 PFX990)により1インチセルを用いて測定し、10R+Y値を算出した。
【0053】
(酸価)
基準油脂分析試験法2.3.1−1996に基づき、試料1gに含まれる遊離脂肪酸を中和するのに要する水酸化カリウム量(mg)を測定した。
【0054】
(揮発性成分分析)
磁性皿に油脂600gを張り込み、180℃で80時間加熱した。80時間加熱した油脂についてGC-MS(Agilent Technologies社製、6890N/5975BinertXL)を用いて分析を行った。分析条件を下記に示す。
分析用カップに油脂50mgを取り、180℃に加温し、ヘッドスペース部分にヘリウムガスを流し、揮発した成分を10分間捕集した。カラムはPhenomenex社ZB-WAXplus(60m×0.25mmi.d.、膜厚0.25μm)を用い、温度条件は40℃(10分)→2℃/分昇温→100℃→5℃/分昇温→210℃(10分)とした。キャリアガスはヘリウムを用いた。
揮発性成分の中から油脂の主成分である脂肪酸の分解物として知られている23成分(Butanal、Hexanal、Pentanal、Nonanal、Heptanal、2−Pentenal、2−Butenal、2−Propenal、2−Hexenal、2−Heptenal、2−Octenal、2−Decenal、2−Nonenal、2−Undecenal、2,4−Heptadienal、2,4−Nonadienal、2,4−Decadienal、2−Pentene−1−ol、1−Octen−3−ol、1−Pentanol、1−Heptanol、Octane、2−Pentylfuran)のピーク面積の合計を算出した。
【0055】
(加熱臭評価)
磁性皿に油脂600gを張り込み、180℃で80時間加熱した油脂の油面から15cmの高さのにおいについて、専門パネラー20名により全体のにおいの強さと劣化臭の強さを官能的に評価した。評点は、5点:非常に強い、4点:強い、3点:普通、2点:弱い、1点:非常に弱い、0点:無臭とした。評価結果はパネラーの平均点で示し、有意差検定を行った。
【0056】
〔実施例1〕
精製大豆油を70℃に加温し、精製大豆油100重量部に対して0.5%アスコルビン酸水溶液を1重量部加えて混合した。70℃、40Torr以下の減圧条件下で撹拌しながら20分間脱水処理を行った。ろ別した後、大豆脱ガム油(抽出油に水を添加し、リン脂質を主成分とするガム質を水和処理した油)を2重量部添加して油脂組成物を調製した。アスコルビン酸残存量を確認した結果、アスコルビン酸当量として、8.6ppmであった。
【0057】
〔実施例2〕
精製大豆油を100℃に加温し、精製大豆油100重量部に対してアスコルビン酸パルミテートを0.01重量部加えた。100℃、10分間混合しアスコルビン酸パルミテート添加油脂を調製した。精製大豆油70重量部に対して、得られたアスコルビン酸パルミテート添加油脂を30重量部加えた。さらに、大豆脱ガム油を2重量部添加して油脂組成物を調製した。
【0058】
〔実施例3〕
精製大豆油を70℃に加温し、精製大豆油100重量部に対して0.5%アスコルビン酸水溶液を1重量部加えて混合した。70℃、40Torr以下の減圧条件下で撹拌しながら20分間脱水処理を行った。ろ別した後、大豆脱ガム油を2重量部添加して油脂組成物を調製した。アスコルビン酸残存量を確認した結果、アスコルビン酸当量として、5.0ppmであった。
【0059】
〔実施例4、5〕
精製大豆油を100℃に加温し、精製大豆油100重量部に対してアスコルビン酸パルミテートを0.03重量部加えた。100℃、10分間混合することでアスコルビン酸パルミテート含有油脂組成物を得た。表1に示す組成になるよう精製大豆油にアスコルビン酸パルミテート含有油脂組成物を加えた。さらに、大豆脱ガム油を2重量部添加して油脂組成物を調製した。
【0060】
〔実施例6〕
精製大豆油を100℃に加温し、精製大豆油100重量部に対して、アスコルビン酸パルミテートを0.003重量部加えた。100℃、10分間混合することで得られる油脂組成物に、菜種脱ガム油を2重量部添加して油脂組成物を調製した。
【0061】
〔実施例7〕
精製大豆油を100℃に加温し、精製大豆油100重量部に対してアスコルビン酸パルミテートを0.003重量部加えた。100℃、10分間混合することで得られる油脂組成物に、リン酸を0.0005重量部添加して油脂組成物を調製した。
【0062】
〔実施例8〜10〕
精製菜種油、精製パームオレイン、又は精製大豆油と精製菜種油のブレンド油(1:1)をそれぞれ100℃に加温し、前記食用油100重量部に対してアスコルビン酸パルミテートを0.003重量部加えた。さらに、大豆脱ガム油を2重量部添加して油脂組成物を調製した。
【0063】
〔実施例11〜16〕
精製大豆油を100℃に加温し、精製大豆油100重量部に対してアスコルビン酸パルミテートを最終的にアスコルビン酸当量として0.0012重量部になるように加えた。100℃、10分間混合した後に、さらに、表2、3に示す組成になるように大豆脱ガム油を添加して油脂組成物を調製した。
【0064】
〔比較例1〕
通常の精製工程を経て製造した精製大豆油を用いた。
【0065】
〔比較例2〕
精製大豆油100重量部に対し、大豆脱ガム油を2重量部添加して油脂組成物を調製した。
【0066】
〔比較例3〕
精製大豆油を70℃に加温し、精製大豆油100重量部に対して0.5%アスコルビン酸水溶液を1重量部加えて混合した。70℃、40Torr以下の減圧条件下で撹拌しながら20分間脱水処理を行い、ろ別して油脂組成物を調製した。アスコルビン酸残存量を確認した結果、アスコルビン酸当量として、5.2ppmであった。
【0067】
〔比較例4〕
精製大豆油70重量部に対して、実施例2で得られたアスコルビン酸パルミテート添加油脂を30重量部加え、油脂組成物を調製した。
【0068】
〔比較例5〕
精製大豆油を100℃に加温し、精製大豆油100重量部に対してアスコルビン酸パルミテートを0.011重量部加えた。100℃、10分間混合し、油脂組成物を調製した。
【0069】
〔比較例6〕
通常の精製工程を経て製造した精製菜種油を用いた。
【0070】
〔比較例7〕
通常の精製工程を経て製造した精製パームオレインを用いた。
【0071】
〔比較例8〕
通常の精製工程を経て製造した精製大豆油と精製菜種油を1:1でブレンドしたものを用いた。
【0072】
実施例1〜16、比較例1〜8の油脂組成を表1〜5に示す。
【0073】
【表1】

【0074】
【表2】

【0075】
【表3】

【0076】
【表4】

【0077】
【表5】

【0078】
(試験例1)
実施例1〜2、比較例1〜4の油脂組成物を用いて、フライ試験をおこなった。その結果を表6に示す。色調および酸価は比較例1を100とした時の相対値で表示した。
【0079】
【表6】

【0080】
アスコルビン酸あるいはアスコルビン酸パルミテートとリン分を含有する本発明の実施例1および2では、無添加の比較例1に比して、色調ならびに酸価が共に、顕著な低値を示した。
一方、リン分のみ添加した比較例2では、色調は低値を示すものの、酸価は比較例1よりも高値であった。アスコルビン酸を添加した比較例3では、比較例1に比べ、色調に違いは見られず、酸価は比較例1よりも高値となった。従って、酸価の点で、比較例2および3では、油脂の加熱耐性が劣っていることが分かった。また、アスコルビン酸パルミテートを添加した比較例4では、色調ならびに酸価がわずかに低値を示したが、十分ではなかった。
【0081】
このように、リン分(比較例2)とアスコルビン酸(比較例3)を組み合わせることで、実施例1に示したように、色調ならびに酸価が共に顕著な低値を示す予想外の効果が得られた。また、リン分(比較例2)をアスコルビン酸パルミテート(比較例4)と併存させることで実施例2に示したように色調ならびに酸価が共に顕著な低値を示す効果が得られた。
【0082】
(試験例2)
実施例1〜2、比較例1〜3、および5の油脂組成物を用いて、加熱時の揮発性成分測定を行った。比較例1の揮発性成分のピーク面積の合計を100として、その相対値を算出した。その結果を表7に示す。
【0083】
【表7】

【0084】
アスコルビン酸あるいはアスコルビン酸パルミテートとリン分を含有する本発明の実施例1および2では、無添加の比較例1に比して、加熱臭の原因となる揮発性成分の低減効果は約50〜60%であった。
一方、リン分のみ添加した比較例2、アスコルビン酸のみ添加した比較例3、アスコルビン酸パルミテートのみ添加した比較例5では、無添加の比較例1に比して、加熱臭の原因となる揮発性成分の低減効果は約20%にすぎなかった。
【0085】
このように、アスコルビン酸あるいはアスコルビン酸パルミテートとリン分を含有する本発明の実施例1および2では、単独の低減効果の合計(約40%)よりも、顕著な低減効果を示した(約50〜60%)。
【0086】
(試験例3)
実施例1と比較例1、実施例2と比較例1について加熱臭官能評価をおこなった。その結果を表8に示す。
【0087】
【表8】

【0088】
上記の加熱時の揮発性成分測定の結果と同様、揮発性成分の少ない、実施例1および2の油脂組成物では、全体のにおいの強さ及び、劣化臭の強さが有意に抑えられることが確認できた。
【0089】
(試験例4)
実施例1、3、および比較例1の油脂組成物を用いて、フライ試験を行った。比較例1の結果を100として、その相対値を算出した。その結果を表9に示す。
【0090】
【表9】

【0091】
比較例1に対して、大豆脱ガム油とアスコルビン酸を併用添加した実施例1および3で色調ならびに酸価が顕著に低値を示した。アスコルビン酸を少なくともアスコルビン酸当量として5ppm残存させることで加熱耐性に優れることがわかった。
【0092】
(試験例5)
実施例2、4、5、比較例1、および2の油脂組成物を用いて、フライ試験を行った。比較例1の結果を100として、その相対値を算出した。その結果を表10に示す。
【0093】
【表10】

【0094】
比較例1、または、大豆脱ガム油を単独添加した比較例2に対して、大豆脱ガム油とアスコルビン酸パルミテートを併用した実施例2、4および5では、色調ならびに酸価が顕著に低値を示した。このように、アスコルビン酸パルミテートをアスコルビン酸当量として10ppm〜130ppm添加することで加熱耐性に優れることがわかった。
【0095】
(試験例6)
実施例2、6および比較例1の油脂組成物を用いて、フライ試験を行った。比較例1の結果を100として、その相対値を算出した。その結果を表11に示す。
【0096】
【表11】

【0097】
リン分として大豆脱ガム油、菜種脱ガム油のいずれの場合も、比較例1に比して、色調ならびに酸価が顕著に低値を示した。このように、リン分として、大豆脱ガム油、菜種脱ガム油のいずれを添加した場合も加熱耐性に優れていることがわかった。
【0098】
(試験例7)
実施例14、7および比較例1の油脂組成物を用いて、簡易加熱試験を行った。比較例1の結果を100として、その相対値を算出した。その結果を表12に示す。
【0099】
【表12】

【0100】
リン分として大豆脱ガム油、リン酸、のいずれの場合も、比較例1に比して、色調ならびに酸価が顕著に低値を示した。このように、リン分として、大豆脱ガム油、リン酸のいずれを添加した場合も加熱耐性に優れていることがわかった。
【0101】
(試験例8)
実施例8、9、10、13および比較例1、6、7、8の油脂組成物を用いて、簡易加熱試験を行った。ベースとなる食用油種と同一の比較例の結果を100として、その相対値を算出した。その結果を表13に示す。
【0102】
【表13】

【0103】
ベースとなる食用油種が、大豆油、菜種油、パームオレイン、大豆油+菜種油(1:1)のブレンド油のいずれの場合も、比較例に対して、色調ならびに酸価が顕著に低値を示した。このように、いずれの食用油種に対しても加熱耐性に優れることがわかった。
【0104】
(試験例8)
実施例11〜16および比較例1の油脂組成物を用いて、簡易加熱試験を行った。比較例1の結果を100として、その相対値を算出した。その結果を表14に示す。
【0105】
【表14】

【0106】
リン分を0.1〜10ppm添加することにより、比較例1に比して、色調ならびに酸価が顕著に低値を示した。このように、リン分を0.1〜10ppm添加することで加熱耐性に優れていることがわかった。
【0107】
(試験例9)
実施例1、比較例1の油脂組成物を用いてコロッケ(味の素冷凍食品株式会社製Newポテトコロッケ)及び鶏唐揚げ(味の素冷凍食品株式会社製若鶏唐揚げ)を調理した。フライ60時間時であっても、実施例1の油脂組成物で調理した食品は、比較例1の油脂組成物で調理したものより劣化風味が低く、問題なく食することができることを確認した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン分を0.1ppm以上10ppm以下、かつ、アスコルビン酸及び/又はアスコルビン酸誘導体をアスコルビン酸当量として2ppm以上130ppm以下含有することを特徴とする油脂組成物。
【請求項2】
前記アスコルビン酸誘導体がアスコルビン酸エステルである請求項1に記載の油脂組成物。
【請求項3】
アスコルビン酸当量が10ppm以上130ppm以下である請求項1又は2に記載の油脂組成物。
【請求項4】
リン分の由来が、原油および中間的油脂から選ばれる少なくとも一種である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の油脂組成物。
【請求項5】
請求項1乃至4に記載の油脂組成物で揚げた食品。
【請求項6】
食用油脂にリン分を0.1ppm以上10ppm以下、かつ、アスコルビン酸及び/又はアスコルビン酸誘導体をアスコルビン酸当量として2ppm以上130ppm以下含有させることを特徴とする揚げ物用油脂組成物の酸価上昇抑制方法。

【公開番号】特開2011−205924(P2011−205924A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−74903(P2010−74903)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【特許番号】特許第4713673号(P4713673)
【特許公報発行日】平成23年6月29日(2011.6.29)
【出願人】(302042678)株式会社J−オイルミルズ (75)
【Fターム(参考)】