説明

揚げ物用組成物及びこれを用いた揚げ物

【課題】
植物ステロール類を配合し、油ちょう時のパンク率の発生を低減させることのできる揚げ物用組成物及びこれを用いた揚げ物を提供する。
【解決手段】
植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体を配合する揚げ物用組成物及びこれを用いた揚げ物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物ステロール類を用いて、油ちょう時のパンク率を低減させることのできる揚げ物用組成物及びこれを用いた揚げ物に関する。
【背景技術】
【0002】
コロッケ、メンチカツ、フライ、天ぷら等の揚げ物は、中具をバッターミックスに加水したバッター液に浸漬して衣付けを行った後、油ちょうしたり、前記衣付けした後にパン粉付けして油ちょうしたりすることにより調製されている。また、水分の多い中具等においては、中具をバッター液に浸漬する前に、小麦粉や澱粉等の粉末からなる打ち粉をまぶすことも必要に応じて行われている。
【0003】
このような揚げ物においては、特にコロッケやメンチカツ等の中具に水分を多く含有し柔らかい揚げ物は、油ちょう中に空気や水分が膨張してパンクを引き起こし、中具が揚げ物の衣から出て油ハネを起こしたり、パンクにより具材と衣が剥がれてしまい、中具の水分が過度に失われて具材の食感や風味、外観が損なわれるという問題があった。
更に、揚げ物は、食用油脂を多く含んでいることから、近年、健康に配慮した商品開発の要望が高まっている。
【0004】
一方、植物ステロール類は、日常的に摂取することにより、血中の総コレステロール及び低密度リポ蛋白質−コレステロール濃度を低下させる機能を有することが知られている。これら植物ステロール類は、植物油脂、大豆、小麦等の食材に含まれているがその含有量は極僅かであるため、これら植物ステロール類を強化して日常的に摂取できるようにした食品の開発が望まれている。
【0005】
例えば、特許文献1(特開2003−235484号公報)及び特許文献2(特開2000−175643号公報)には、血中の総コレステロール濃度を低下させる機能を有する植物ステロール類を揚げ物用組成物に添加することが提案されている。さらに、特許文献1には、揚げ物用組成物に植物ステロールを特定割合含有させることにより、揚げ物の食感や冷凍耐性が向上することが記載されている。また、特許文献2には、天ぷらの衣に植物ステロールとレシチンを含有させることにより、花咲き感等の外観やさくみ感等の食感に優れた天ぷらに関する技術が記載されている。しかしながら、これらの特許文献においては、油ちょう時のパンク率の低減効果については、何ら示唆されていない。
【0006】
上記特許文献においてはいずれも植物ステロールを揚げ物用組成物に添加することが検討されているが、本発明者によると、これらの特許文献に記載の揚げ物用組成物を用いたところ、植物ステロール無添加のものと同程度の割合でパンクが発生し、揚げ物のパンク率を低減させることはできなかった。
【0007】
【特許文献1】特開2003−235484号公報
【特許文献2】特開2000−175643号公報
【特許文献3】WO2005/041692
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明の目的は、植物ステロール類を用いて油ちょう時のパンク率を低減させることのできる揚げ物用組成物及びこれを用いた揚げ物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成すべく、植物ステロール類と他の原料との組み合わせについて鋭意研究を重ねた結果、植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体を揚げ物用組成物に配合させるならば、意外にも、油ちょう時のパンク率を低減させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
(1)植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体を配合する揚げ物用組成物、
(2)複合体の植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との構成比が、卵黄リポ蛋白質1部に対して植物ステロール類5〜232部である(1)の揚げ物用組成物、
(3)揚げ物用組成物の固形分に対して、複合体の配合量が0.5〜50%である(1)又は(2)の揚げ物用組成物、
(4)(1)乃至(3)のいずれかの揚げ物用組成物から形成された揚げ物、
である。
【0010】
なお、本出願人は、既に植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体及びこれを含有した食品について出願している(WO2005/041692:特許文献3)。しかしながら、同出願には、前記複合体を配合した揚げ物用組成物及びこれを用いた揚げ物については一切検討されていない。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、油ちょう時の揚げ物のパンク率を低減させることができるので、食品工業的に大量生産する場合に廃棄ロスを減らすことが可能となる。また、本発明の揚げ物には、生理活性を有した植物ステロール類を配合しているので、健康に配慮した商品を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本発明において「%」は「質量%」を意味し、「部」は「質量部」を意味する。
【0013】
本発明の揚げ物用組成物とは、揚げ物を衣付ける際に用いる、バッター液もしくは加水前のバッターミックスを指す。また、本発明の揚げ物とは、前記揚げ物用組成物を用いて衣付けし、油ちょうした食品のことである。具体的には、例えばクリームコロッケ、メンチカツ、ポテトコロッケ、牡蠣フライ、エビフライ、天ぷら等が挙げられる。
【0014】
バッター液もしくはバッターミックスである揚げ物用組成物は、一般的に小麦粉、澱粉等が配合されているが、本発明の揚げ物用組成物は、更に植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体が配合されていることを特徴とし、これにより、揚げ物の油ちょう時におけるパンク率を低減させる効果を奏する。このように本発明の揚げ物用組成物は、揚げ物の油ちょう時のパンク率を低減させることにより、上記揚げ物の中でも特にパンクが発生し易い、例えば、クリームコロッケ、メンチカツ、牡蠣フライ等に好適である。
【0015】
本発明に配合する卵黄リポ蛋白質と植物ステロール類との複合体における、卵黄リポ蛋白質は、卵黄蛋白質と、親水部分及び疎水部分を有するリン脂質、及びトリアシルグリセロール、コレステロール等の中性脂質とからなる複合体である。当該複合体は、蛋白質やリン脂質の親水部分を外側にし、疎水部分を内側にして、中性脂質を包んだ構造をしている。卵黄リポ蛋白質は、卵黄の主成分であって、卵黄固形分中の約80%を占める。したがって、本発明の卵黄リポ蛋白質としては、当該成分を主成分とした卵黄を用いるとよく、食用として一般的に用いている卵黄であれば特に限定するものではない。例えば、鶏卵を割卵し卵白液と分離して得られた生卵黄をはじめ、当該生卵黄に殺菌処理、冷凍処理、スプレードライ又はフリーズドライ等の乾燥処理、ホスフォリパーゼA、ホスフォリパーゼA、ホスフォリパーゼC、ホスフォリパーゼD又はプロテアーゼ等による酵素処理、酵母又はグルコースオキシダーゼ等による脱糖処理、超臨界二酸化炭素処理等の脱コレステロール処理、食塩又は糖類等の混合処理等の1種又は2種以上の処理を施したもの等が挙げられる。また、本発明では、鶏卵を割卵して得られる全卵、あるいは卵黄と卵白とを任意の割合で混合したもの、あるいはこれらに上記処理を施したもの等を用いてもよい。
【0016】
一方、本発明の植物ステロール類とは、コレステロール又は当該飽和型であるコレスタノールに類似した構造をもつ植物の脂溶性画分より得られる植物ステロール又は植物スタノール、あるいはこれらの構成成分のことであり、植物ステロール類は、植物の脂溶性画分に合計で数%存在する。また、市販の植物ステロール又は植物スタノールは、融点が約140℃前後で、常温で固体であり、これらの主な構成成分としては、例えば、β−シトステロール、β−シトスタノール、スチグマステロール、スチグマスタノール、カンペステロール、カンペスタノール、ブラシカステロール、ブラシカスタノール等が挙げられる。また、植物スタノールについては、天然物の他、植物ステロールを水素添加により飽和させたものも使用することができる。なお、本発明において植物ステロール類は、いわゆる遊離体を主成分とするが、若干量のエステル体を含有していてもよい。
【0017】
本発明に用いる植物ステロール類は、市販されている粉体あるいはフレーク状のものを用いることができるが、平均粒子径が50μm以下、特に10μm以下の粉体を使用することが好ましい。平均粒子径が50μmを超える粉体あるいはフレーク状の植物ステロール類を用いる場合には、卵黄と攪拌混合して複合体を製造する際に、均質機(T.K.マイコロイダー:プライミクス社製等)を用いて植物ステロール類の粒子を小さくしつつ攪拌混合を行うことが好ましい。これにより、植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体が形成され易くなり、また、当該複合体を揚げ物用組成物に配合したときに舌にザラツキを与え難くすることができる。
【0018】
本発明の揚げ物組成物に配合する植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体は、上述した植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質を主成分とする卵黄とを、好ましくは10μm以下の粉体状の植物ステロール類と卵黄を水系中で攪拌混合することにより得られる。具体的には、工業的規模での攪拌混合し易さを考慮し、卵黄リポ蛋白質として、卵黄を水系媒体で適宜希釈した卵黄希釈液を使用し、当該卵黄希釈液と植物ステロール類とを攪拌混合して製造することが好ましい。前記水系媒体としては、水分が90%以上のものが好ましく、例えば、清水の他に卵白液等が挙げられる。また、前記卵黄希釈液の濃度としては、その後、添加する植物ステロール類の配合量にもよるが、卵黄固形分として0.01〜50%の濃度が好ましく、攪拌混合時の温度は、常温(20℃)でもよいが、45〜55℃に加温しておくと複合体と攪拌混合し易く好ましい。攪拌混合は、例えば、ホモミキサー、コロイドミル、高圧ホモゲナイザー、T.K.マイコロイダー(プライミクス社製)等の均質機を用いて、全体が均一になるまで行うとよい。また、上述の方法で得られたものは、複合体が水系媒体に分散したものであるが、噴霧乾燥、凍結乾燥等の乾燥処理を施して乾燥複合体としてもよく、本発明の効果を損なわない範囲で、複合体に他の原料を配合してもよい。
【0019】
本発明で用いる植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体は、当該原料である植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との構成比が、卵黄リポ蛋白質1部に対して植物ステロール類5〜232部であることが好ましく、当該構成比は、卵黄固形分中に卵黄リポ蛋白質は約8割存在するから、卵黄固形分1部に対して植物ステロール類4〜185部に相当する。後述で示すとおり水分散性を有する複合体は、卵黄リポ蛋白質1部に対して植物ステロール類が前記範囲で形成しているところ、植物ステロール類が前記範囲より少ないと複合体を形成できなかった卵黄リポ蛋白質が残存し、得られた揚げ物の風味が予期せぬ卵黄風味により損なわれてしまう場合があり、一方、前記範囲より多いと植物ステロール類が複合体を形成し難くなり、本発明の効果が得られ難くなる。
【0020】
前記複合体の配合量は、揚げ物用組成物の固形分に対して0.5〜50%が好ましく、1〜40%がより好ましい。複合体の配合量が前記範囲より少ないと、パンク率を低減した揚げ物を得られ難くなり好ましくなく、一方、前記範囲より多くしたとしても、配合量に見合ったパンク率の低減効果が得られ難く、また植物ステロール類は高価な原料であることから経済的でなく好ましくない。
【0021】
本発明の揚げ物用組成物には、当該組成物に一般的に配合されている小麦粉や澱粉等のほか、本発明の効果を損なわない範囲で他の原料を配合してもよい。このような原料としては、大麦粉、ライ麦粉、米粉、大豆粉、とうもろこし粉等の穀粉類やそれらの加工品、動植物性蛋白、膨張材、乳化材、増粘多糖類、有機酸塩、調味料及び香辛料等のその他の原料が挙げられる。
【0022】
本発明の揚げ物組成物を用いて衣付けした揚げ物においてパンク率が低減されている理由は定かではないが、以下のように推察される。植物ステロール類は、水への分散処理を施しても、その後、水面に浮いてしまう性質を有するが、本発明で用いる複合体は後述に示すとおり水に分散する性質を有するため、複合体は両親媒性を有する卵黄リポ蛋白質が当該疎水部分を疎水物である植物ステロール類の表面側に、親水部分を外側に向けて植物ステロール類の表面に付着した状態であると推定される。このような状態の複合体は、ダマにならずにバッター液中に均一に分散し、揚げ物の衣中に均一に含有させることができる。その結果、揚げ物用組成物の構造全体を均一に強化し、堅くすることができ、パンク率を低減する効果を有するのではないかと推察される。
【0023】
以下、本発明で用いる植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体及びこれを配合した揚げ物用組成物及び揚げ物について、実施例等に基づき具体的に説明する。なお、本発明は、これらに限定するものではない。
【実施例】
【0024】
[調製例1]:複合体の構成成分の解析及び複合体の植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との構成比
まず、卵黄液5g(卵黄固形分2.5g、卵黄固形分中の卵黄リポ蛋白質約2g)に清水95gを加え、均質機(日音医理科器機製作所社製、ヒスコトロン)で2000rpmで1分間攪拌して卵黄希釈液を調製した。次に5000rpmで攪拌しながら植物ステロール(遊離体97.8%、エステル体2.2%、平均粒子径約3μm)2.5gを添加し、さらに10000rpmで5分間攪拌し、植物ステロールと卵黄リポ蛋白質とから形成された複合体の分散液を得た(調製例1−1)。
【0025】
得られた分散液1gを取り、0.9%食塩水4gを加え、真空乾燥機(東京理科器械社製、VOS−450D)で真空度を10mmHgにして1分間脱気し、遠心分離器(コクサン社製、モデルH−108ND)で3000rpmで15分間遠心分離を行い、沈澱と上澄みとを分離した。この上澄みを0.45μmのフィルターで濾過し、さらに0.2μmのフィルターで濾過し、複合体と、複合体を形成していない植物ステロールとを除去した。
【0026】
この濾液の吸光度(O.D.)を、分光光度計(日立製作所製、U−2010)を用いて、0.9%食塩水を対照とし、280nm(蛋白質中の芳香環をもつアミノ酸の吸収)で測定し、濾液中の蛋白質の量を測定した。
【0027】
植物ステロールの添加量を表1のように変え、同様に吸光度を測定した(調製例1−2〜調製例1−8)。この結果を表1に示す。
【0028】
また、調製例1−1の濾液と、調製例1−6の濾液については、更に440nmの吸光度を測定した。ここで、440nmは、卵黄リポ蛋白質中に含まれる油溶性の色素(カロチン)の吸収波長である。この結果を表2に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【0031】
複合体の構成比が卵黄リポ蛋白質1部に対し植物ステロールが5部以下であると、表1より、植物ステロールの割合が増えるに伴い、濾液中の蛋白質あるいはアミノ酸の含量の指標となる280nmの吸光度が小さくなっており、蛋白質あるいはアミノ酸の含量が減少することが分かる。また、表2より、濾液中の油脂含量の指標となる440nmの吸光度において、調製例1−1の濾液は調製例1−6に比べ吸光度が優位に高く、油脂含量が明らかに多いことが分かる。一方、複合体の構成比が卵黄リポ蛋白質1部に対し植物ステロールが5部以上であると、表1より、濾液中の蛋白質あるいはアミノ酸の含量の指標となる280nmの吸光度は略一定を示し、表2より、濾液中の油脂含量の指標となる440nmの吸光度において、調製例1−6の濾液は調製例1−1に比べ吸光度が優位に低く、油脂含量が明らかに少ないことが分かる。
【0032】
以上の結果より、複合体の構成比が卵黄リポ蛋白質1部に対し植物ステロールが5部以上であるものの分散液には、複合体以外に、卵黄リポ蛋白質でない遊離の蛋白質あるいはアミノ酸が存在し、一方、複合体の構成比が卵黄リポ蛋白質1部に対し植物ステロールが5部より少ないものの分散液には、前記遊離の蛋白質あるいはアミノ酸に加え、複合体を形成しなかった卵黄リポ蛋白質が存在しているものと推定される。したがって、卵黄リポ蛋白質1部を余すことなく複合体の形成に使用するためには、植物ステロール類が5部以上必要であることが分かる。
【0033】
[調製例2]:複合体の植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との構成比
鶏卵を工業的に割卵して得られた卵黄液(固形分45%)と清水の量と植物ステロールの量を表3の通りに変更して、植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質の複合体の分散液を調製し、この分散液の分散性から、植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との好ましい構成比を検討した。
【0034】
すなわち、鶏卵を割卵して取り出した卵黄液(固形分45%)に清水を加え、均質機(日音医理科器機製作所社製、ヒスコトロン)で2000rpm、1分間攪拌して卵黄希釈液を調製した後、45℃に加温し、次に5000rpmで攪拌しながら植物ステロール(調製例1と同じもの)を除々に添加し、添加し終えたところで、さらに10000rpmで攪拌して植物ステロールと卵黄リポ蛋白質の複合体の分散液を得た。
【0035】
また、分散液の分散性に関しては、植物ステロールと卵黄リポ蛋白質の複合体の分散液0.5gを試験管(内径1.6cm、高さ17.5cm)にとり、0.9%食塩水10mLで希釈し、試験管ミキサー(IWAKI GLASS MODEL−TM−151)で10秒間撹拌することにより振盪し、その後1時間室温で静置し、さらに真空乾燥機(東京理化器械社製、VOS−450D)に入れ、真空度を10mmHg以下にして室温(20℃)で脱気を行い、脱気後に浮上物が見られない場合を○、浮上物が見られた場合を×と判定した。これらの結果を表3に示す。
【0036】
なお、植物ステロールを加熱溶解し、冷却し、比重の異なるエタノール液に浸けて浮き沈みによりその比重を求めたところ、0.98であったことから、上述の分散性の試験での浮上物は植物ステロールであると考えられる。
【0037】
【表3】

【0038】
表3より、複合体の構成比が卵黄リポ蛋白質1部に対し植物ステロールが232部以下であると、複合体に良好な水分散性を付与できることが分かる。
【0039】
調製例1及び調製例2の結果より、複合体が良好な水分散性を有し、しかも卵黄リポ蛋白質1部を余すことなく複合体の形成に使用するためには、複合体の構成比が卵黄リポ蛋白質1部に対して植物ステロール類5〜232部の範囲であることが分かる。
【0040】
[調製例3]
清水7.5kgに殺菌卵黄(固形分45%、キユーピー(株)製)0.5kgを加え、均質機(日音医理科器機製作所社製、ヒスコトロン)で2000rpm、1分間攪拌して卵黄希釈液を調製した後、50℃に加温し、次に5000rpmで攪拌及び真空度350mmHgで脱気しながら植物ステロール(調製例1と同じもの)2kgを除々に添加し、添加し終えたところで、さらに同回転数で30分間攪拌して植物ステロールと卵黄リポ蛋白質の複合体(殺菌卵黄使用)の分散液を得た。なお、得られた分散液中の複合体の構成比は、卵黄固形分1部に対し植物ステロール8.9部であり、卵黄リポ蛋白質1部に対し植物ステロール11.1部である。
【0041】
[調製例4]
清水17.5kgに殺菌卵黄(固形分45%、キユーピー(株)製)0.5kgを加え、均質機(日音医理科器機製作所社製、ヒスコトロン)で2000rpm、1分間攪拌して卵黄希釈液を調製した後、50℃に加温し、次に5000rpmで攪拌及び真空度350mmHgで脱気しながら植物ステロール(調製例1と同じもの)2kgを除々に添加し、添加し終えたところで、さらに同回転数で30分間攪拌して植物ステロールと卵黄リポ蛋白質の複合体の分散液を得た。得られた複合体の分散液を噴霧乾燥機を用いて、送風温度170℃、排風温度70〜75℃の条件で乾燥し、乾燥複合体(殺菌卵黄使用)を得た。なお、複合体の構成比は、卵黄固形分1部に対し植物ステロール8.9部であり、卵黄リポ蛋白質1部に対し植物ステロール11.1部であった。
【0042】
[実施例1]バッター液
下記の配合のバッター液を調製した。市販のバッターミックス(商品名:新・チルド用バッター 日本食研(株)製)、複合体の分散液(調製例3で得られた複合体の分散液)及び清水を均一になるまで混合し、植物ステロールと卵黄リポ蛋白質の複合体を配合したバッター液を得た。なお、得られたバッター液中の固形分に対する複合体の配合割合は約12%であり、配合量は48gであった。
【0043】
<実施例1のバッター液の配合>
バッターミックス(市販品) 350g
調製例3の複合体の分散液 220g
清水 1030g
―――――――――――――――――――――――
合計 1600g

【0044】
[実施例2]クリームコロッケ
下記配合のクリームコロッケを調製した。つまり、ニーダーに加熱溶解した無塩バターに小麦粉(薄力粉)を加え、ルウ状に調製したものに炒めた玉ねぎのみじん切りと紅ずわい蟹を加え、全体が均一になるまで混合した。これに牛乳を加えてルウをのばし、食塩、香辛料、グルタミン酸ナトリウム及び魚介エキスを加えて85℃まで加熱した。さらに生クリームを加えて均一になるまで混合し、ゼラチンをぬるま湯で溶いたものを加えて均一になるまで混合して中具のホワイトソースを調製した。得られたホワイトソースを冷蔵庫で5℃まで冷却し、65gずつ俵型に成形し、表面に小麦粉(薄力粉)を打ち粉としてクリームコロッケ1個当たり1.5g付着させ、その上に実施例1で得られたバッター液を1個当たり15g均一に付着させた。次いで生パン粉26gを全面に付着させ、170℃で4分間油ちょうし、衣に複合体を配合したクリームコロッケを製した。なお、植物ステロールと卵黄リポ蛋白質との複合体の配合量は、クリームコロッケ1個あたり約0.45gであった。
【0045】
<クリームコロッケの中具の配合>
無塩バター 450g
小麦粉(薄力粉) 400g
炒めた玉ねぎ 100g
紅ずわい蟹 1200g
牛乳 3900g
食塩 35g
香辛料 10g
グルタミン酸ナトリウム 5g
魚介エキス 100g
生クリーム 130g
ゼラチン 20g
ぬるま湯 200g
―――――――――――――――――――――――
合計 6550g

【0046】
[比較例1]
実施例2において、複合体無添加の下記配合割合のバッター液を用いた以外は実施例2と同様の方法でクリームコロッケを製した。なお、下記のバッター液は、実施例1のバッター液から複合体を除き、当該除去分をバッターミックス(市販品)で調整し、全体の固形分が同等となるようにしたものである。
【0047】
<比較例1のバッター液の配合>
バッターミックス(市販品) 398g
清水 1202g
―――――――――――――――――――――――
合計 1600g

【0048】
[比較例2]
実施例2において、植物ステロールのみ添加した下記配合割合のバッター液を用いた以外は実施例2と同様の方法でクリームコロッケを製した。なお、下記のバッター液は、実施例1のバッター液中の複合体を植物ステロール(調製例3と同じもの)に置換したものである。
【0049】
<比較例2のバッター液の配合>
バッターミックス(市販品) 350g
植物ステロール(調製例3と同じもの) 48g
清水 1202g
――――――――――――――――――――――――
合計 1600g

【0050】
[試験例1]
実施例2、並びに比較例1及び2において、クリームコロッケをそれぞれ100個ずつ製し、パンクした個数を比較した。なお、パンクの判定については、衣の表面に亀裂が入り、ホワイトソースがはみ出したものをパンクしたと見なした。結果を表4に示す。
【0051】
【表4】

【0052】
表4の結果から明らかのように実施例2の植物ステロールと卵黄リポ蛋白質との複合体を配合したバッター液を用いたクリームコロッケは、前記複合体を配合しなかった比較例1、及び複合体の原料である植物ステロールを配合した比較例2のクリームコロッケに比べ著しくパンク率が低減されていることが理解される。なお、ここでは示していないが、調製例3で用いた植物ステロールに換えて植物スタノールを用いた複合体の分散液を用いた場合も、実施例2と同程度にパンク率が低減されていた。
【0053】
[実施例3]バッターミックス
下記の配合のバッターミックスを調製した。市販のバッターミックス(商品名:新・チルド用バッター 日本食研(株)製)、複合体(調製例4で得られた乾燥複合体)を均一になるまで混合し、植物ステロールと卵黄リポ蛋白質の複合体を配合したバッターミックスを得た。なお、得られたバッターミックス中の固形分に対する複合体の配合割合は約32%であった。
【0054】
<実施例3のバッターミックスの配合>
バッターミックス(市販品) 306g
複合体(調製例4と同様) 144g
―――――――――――――――――――――――
合計 450g

【0055】
[実施例4]メンチカツ
下記配合のメンチカツを調製した。つまり、生パン粉と牛乳を混合し、湿らせておき、合びき肉、玉ねぎ、全卵、食塩、香辛料を混合し、粘りが出るまで捏ねてメンチカツの中具を調製した。得られた具材を40gずつ円形の型に詰めて、均一に成型し、表面に打ち粉として小麦粉(薄力粉)を一個当たり1gを均一にまぶし、実施例3で得られたのバッターミックス及び清水を均一になるまで混合することにより製した下記配合割合のバッター液を1個当たり10g均一に付着させた。次いで生パン粉18gを全面に付着させ、170℃で6分間油ちょうし、衣に複合体を配合したメンチカツを得た。なお、植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体の配合量は、メンチカツ1個あたり約1.2gであった。
【0056】
<メンチカツの中具の配合>
合びき肉 2000g
玉ねぎ 1100g
生パン粉 120g
牛乳 200g
食塩 100g
全卵 440g
香辛料 40g
――――――――――――――――――――――――
合計 4000g

【0057】
<実施例4のバッター液の配合>
実施例3のバッターミックス 450g
清水 750g
――――――――――――――――――――――――
合計 1200g

【0058】
[比較例3]
実施例4において、実施例3で得られた複合体を配合したバッターミックスに替えて、複合体が配合されていない市販のバッターミックス(実施例3と同じもの)を用いた以外は実施例4と同様の方法でメンチカツを製した。
【0059】
[比較例4]
実施例4において、実施例3で調製した、バッターミックス中の複合体を植物ステロール(調製例4と同じもの)に置換したバッターミックスを用いた以外は実施例4と同様の方法でメンチカツを製した。
【0060】
[試験例2]
実施例4、並びに比較例3及び4において、メンチカツをそれぞれ100個ずつ製し、パンクした個数を比較した。なお、パンクの判定については、衣の表面に亀裂が入り、肉汁がしみ出して油ハネをしたものをパンクしたと見なした。結果を表5に示す。
【0061】
【表5】

【0062】
表5の結果から明らかのように実施例4の植物ステロールと卵黄リポ蛋白質との複合体を配合したバッターミックスを用いたメンチカツは、前記複合体を配合しなかった比較例3、及び複合体の原料である植物ステロールを配合した比較例4のメンチカツに比べ著しくパンク率が低減されていることが理解される。なお、ここでは示していないが、調製例4で用いた植物ステロールに換えて植物スタノールを用いた複合体を用いた場合も、実施例4と同程度にパンク率が低減されていた。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体を配合することを特徴とする揚げ物用組成物。
【請求項2】
複合体の植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との構成比が、卵黄リポ蛋白質1部に対して植物ステロール類5〜232部である請求項1記載の揚げ物用組成物。
【請求項3】
揚げ物用組成物の固形分に対して、複合体の配合量が0.5〜50%である請求項1又は2に記載の揚げ物用組成物。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の揚げ物用組成物から形成された揚げ物。


【公開番号】特開2008−99617(P2008−99617A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−285636(P2006−285636)
【出願日】平成18年10月20日(2006.10.20)
【出願人】(000001421)キユーピー株式会社 (657)
【Fターム(参考)】