説明

揮発性を有する塩基性物質を含有する廃液の処理装置及び処理方法

【課題】高価な耐食性材料の採用やライニング施工が不要となり、経済性に優れた、揮発性を有する塩基性物質を含有する廃液の処理装置及び処理方法を提供する。
【手段】廃液の処理装置1は、第1蒸発器2、気液接触手段80、第2蒸発器4を備え、気液接触手段80は、蒸気スクラバー3、pH調整タンク20等から成る。第1蒸発器2は、廃液をpHがアルカリ側の状態で蒸発濃縮することによりアンモニア・ヒドラジン含有蒸気及びアンモニア・ヒドラジン除去濃縮液を生成する。気液接触手段80は、第1蒸発器2で生成された蒸気を酸と接触させ、中和塩液及びアンモニア・ヒドラジン除去蒸気を生成する。アンモニア・ヒドラジン除去蒸気は、第2蒸発器4に供給されて加熱源として利用される。中和塩液は第2蒸発器4に供給される。第2蒸発器4は、中和塩液を蒸発濃縮対象液としてpHが酸側の状態で蒸発濃縮することにより濃縮中和塩液を生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸発濃縮により、揮発性を有する塩基性物質を含有する廃液から該揮発性を有する塩基性物質を分離する廃液の処理装置及び処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アンモニア・ヒドラジンを含有する廃液を蒸発濃縮させる場合、pHをアルカリ側で処理すると、原液中に含まれる殆どのアンモニア・ヒドラジン成分が凝縮水中に移行し、混入されるため、先ず、pHを酸側に調整し、アンモニア・ヒドラジンを濃縮液に固定してから蒸発濃縮していた(例えば、特許文献1の段落0005参照)。
【0003】
上記従来技術では、酸側での処理となるため、塩素物イオン等、ステンレスを腐食させる物質が含まれている場合、装置寿命を著しく低下させるので、耐食性を考慮した材料選定が必要となる。
材料選定としては、(1)耐食性材料を採用するか、(2)ライニングを施工することが考えられる。しかしながら、(1)は材料が高価なため、装置のイニシャルコストが高くなる。また、(2)は耐用年数に限りがあり、定期的な補修やライニングの再施工などメンテナンスコストが高くなるという欠点がある。
なお、上記の課題は、アンモニア・ヒドラジンを含有する廃液に限らず、その他の揮発性を有する塩基性物質を含有する廃液においても存在している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−262004号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、通常の金属材料の使用が可能で、高価な耐食性材料の採用やライニング施工が不要となり、経済性に優れた揮発性を有する塩基性物質を含有する廃液の処理装置が要望されていた。
【0006】
本願発明は、上記課題に鑑みて考え出されたものであり、その目的は、高価な耐食性材料の採用やライニング施工が不要となり、経済性に優れた、揮発性を有する塩基性物質を含有する廃液の処理装置及び処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の要旨は、揮発性を有する塩基性物質を含有する廃液の処理装置であって、揮発性を有する塩基性物質を含有する廃液を、pHがアルカリ側の状態で蒸発濃縮することにより前記塩基性物質含有蒸気及び前記塩基性物質が除去された濃縮液を生成する第1蒸発器と、前記第1蒸発器で生成された前記塩基性物質含有蒸気を中和処理して中和塩液を生成する中和手段と、前記中和手段で生成された中和塩液を蒸発濃縮対象液として、pHが酸側の状態で蒸発濃縮することにより濃縮中和塩液を生成する第2蒸発器と、を備えたことを特徴とする。
【0008】
本発明は、中和手段を第2蒸発器とは別個に設け、中和手段における中和処理を第2蒸発器の前段処理で行ってもよく、また、中和手段を第2蒸発器の循環ライン中に設け、中和手段における中和処理を第2蒸発器の処理中に行ってもよい。また、第1蒸発器で生成された塩基性物質含有蒸気を第2蒸発器に供給して熱源として利用する2重効用の構成であってもよく、また、2重効用の構成ではなく例えば生蒸気を加熱源として供給する構成であってもよい。
【0009】
上記構成により、第1蒸発器において、揮発性を有する塩基性物質を含有する廃液を、pHがアルカリ側の状態で蒸発濃縮すると、廃液中に含まれる殆どの揮発性を有する塩基性物質成分が蒸気に混入する。この塩基性物質含有蒸気を中和手段にて中和処理して中和塩液を生成する。そして、第2蒸発器にて、前記中和塩液を蒸発濃縮対象液として蒸発濃縮する。このとき、蒸発濃縮対象液には塩素物イオン等、ステンレスを腐食させる物質が含まれていないので、従来例のように耐食性を考慮した材料選定が不要となる。この結果、通常の金属材料の使用で装置を構成することができ、従来のような高価な耐食性材料の採用やライニング施工が不要となり、経済性に優れた廃液の処理装置を実現できる。加えて、廃液に含まれる揮発性を有する塩基性物質を濃縮中和塩液として回収できるので、本実施の形態に係る廃液の処理装置は、極めて分離性能が良好である。
【0010】
本発明は、前記第1蒸発器で生成された前記塩基性物質含有蒸気を、前記第2蒸発器に供給して第2蒸発器の加熱源として利用するように構成されているのが好ましい。2重効用の構成とすることにより、省エネルギー化を達成できる。
【0011】
本発明は、前記第1蒸発器と前記第2蒸発器との間に、第1蒸発器で生成された前記塩基性物質含有蒸気を酸と接触させることにより、中和塩液及び塩基性物質が除去された蒸気を生成する気液接触手段を設け、気液接触手段で生成された中和塩液を濃縮対象液として第2蒸発器に供給すると共に、気液接触手段で生成された塩基性物質が除去された蒸気を第2蒸発器に供給して第2蒸発器の加熱源として利用するように構成する場合もある。
【0012】
第1蒸発器で生成された蒸気に含まれる塩基性物質が少量であれば、塩基性物質含有蒸気をそのまま第2蒸発器に供給しても、加熱蒸気として問題はない。しかしながら、蒸気に含まれる塩基性物質が加熱蒸気に影響を与える程度である場合には、上記のような気液接触手段を設けることが好ましい。
【0013】
本発明は、蒸気を生成する蒸気生成機器と、前記蒸気生成機器に接続され、前記第1蒸発器に蒸気を供給するためのエゼクタと、を備え、前記エゼクタは、前記蒸気生成機器から排出される蒸気の流れにより、前記第2蒸発器から排出される蒸気の一部を吸引して、吸引された蒸気よりも温度の高い混合蒸気を生成して、第1蒸発器に供給するように構成されている場合もある。エゼクタを用いることにより、効率的に熱回収が可能になる。
【0014】
本発明の他の要旨は、揮発性を有する塩基性物質を含有する廃液の処理方法であって、揮発性を有する塩基性物質を含有する廃液を、pHがアルカリ側の状態で蒸発濃縮することにより前記塩基性物質含有蒸気及び前記塩基性物質が除去された濃縮液を生成する第1蒸発濃縮工程と、前記第1蒸発濃縮工程で生成された前記塩基性物質含有蒸気を中和処理して中和塩液を生成する中和工程と、前記中和工程で生成された中和塩液を蒸発濃縮対象液として、pHが酸側の状態で蒸発濃縮することにより濃縮中和塩液を生成する第2蒸発濃縮工程と、を備えたことを特徴とする。
【0015】
上記構成により、上記請求項1に係る発明の作用・効果と同様の作用・効果を奏する。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る揮発性を有する塩基性物質を含有する廃液の処理装置及び処理方法によれば、耐食性を考慮した材料選定が不要となり、通常の金属材料の使用で装置を構成することができ、従来のような高価な耐食性材料の採用やライニング施工が不要となり、経済性に優れた廃液の処理装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施の形態に係る廃液の処理装置の全体の系統図。
【図2】実施例に係る廃液の処理装置全体の系統図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施の形態に基づいて詳述する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではない。
図1は実施の形態に係る揮発性を有する塩基性物質(以下、塩基性物質と略称する)を含有する廃液の処理装置の全体の系統図である。廃液の処理装置1は、前記廃液をpHがアルカリ側の状態で蒸発濃縮することにより塩基性物質含有蒸気及び塩基性物質が除去された濃縮液を生成する第1蒸発器2と、第1蒸発器2で生成された塩基性物質含有蒸気を中和処理して中和塩液を生成する中和手段100と、中和手段100で生成された中和塩液を蒸発濃縮対象液として、pHが酸側の状態で蒸発濃縮することにより濃縮中和塩液を生成する第2蒸発器4とを備えている。ここで、揮発性を有する塩基性物質としては、アンモニア・ヒドラジンが例示されるが、本発明はこれに限定されず、その他の揮発性を有する塩基性物質を含有する廃液の処理装置に適用される。
【0019】
上記構成により、第1蒸発器2において、揮発性を有する塩基性物質を含有する廃液を、pHがアルカリ側の状態で蒸発濃縮すると、廃液中に含まれる殆どの揮発性を有する塩基性物質成分が蒸気に混入する。この塩基性物質含有蒸気を中和手段100にて中和処理して中和塩液を生成する。そして、第2蒸発器4にて、前記中和塩液を蒸発濃縮対象液として蒸発濃縮する。このとき、蒸発濃縮対象液には塩素物イオン等、ステンレスを腐食させる物質が含まれていないので、従来例のように耐食性を考慮した材料選定が不要となる。この結果、通常の金属材料の使用で廃液の処理装置1を構成することができ、従来のような高価な耐食性材料の採用やライニング施工が不要となり、経済性に優れた廃液の処理装置を実現できる。加えて、廃液に含まれる揮発性を有する塩基性物質を濃縮中和塩液として回収できるので、本実施の形態に係る廃液の処理装置1は、極めて分離性能が良好である。
【0020】
なお、本発明においては、中和手段100を第2蒸発器4とは別個に設け、中和手段100における中和処理を第2蒸発器4の前段処理で行ってもよく、また、中和手段100を第2蒸発器4の循環ライン中に設け、中和手段100における中和処理を第2蒸発器4の処理中に行ってもよい。また、第1蒸発器2で生成された塩基性物質含有蒸気を第2蒸発器に供給して熱源として利用する2重効用の構成であってもよい。
【実施例】
【0021】
図2は実施例に係る廃液の処理装置全体の系統図である。本実施例では、廃液の処理装置1の一例としては、アンモニア、ヒドラジン及びメタノールを含有する廃液からアンモニア、ヒドラジン及びメタノールを分離する装置を例示して説明する。また、中和手段100の一例として気液接触手段80を用いている。
【0022】
廃液の処理装置1は、第1蒸発器2、気液接触手段80、第2蒸発器4、及び抽気スクラバー5等を含んで構成されている。第1蒸発器2と第2蒸発器4とは、第1蒸発器2で生成された蒸気を、第2蒸発器4に供給して第2蒸発器4の加熱源として利用する2重効用蒸発器を構成する。
【0023】
第1蒸発器2は水平管型蒸発器であり、蒸発缶6を含む。この蒸発缶6は筒形に形成されており、内部に処理液を貯留することができるようになっている。蒸発缶6には、廃液等の処理液を供給するための管7が接続されている。蒸発缶6の上部には、左右一対のヘッダー8a,8bと、この両ヘッダー8a,8bの間を繋ぐ多数本の水平伝熱管8cとから成る加熱器8が設けられている。ヘッダー8aには蒸気供給管9が接続されており、エゼクタ10からの蒸気がヘッダー8aに進入するように形成されている。ヘッダー8bは蒸気が排出する側に配置されている。ヘッダー8bには加熱蒸気の凝縮水を排出するための管60が接続されており、この管60を介して凝縮水は凝縮器11の液貯に排出される。
【0024】
本実施例における第1蒸発器2は、処理液の循環流路を含む。循環流路には、循環ポンプ12及び散布器13が配置されている。循環ポンプ12は、蒸発缶6の底部に接続されている。循環ポンプ12は、管14を通して、蒸発缶6に貯留する処理液15を散布器13に移送することができるように形成されている。また、循環ポンプ12は、管16を通して、濃縮された処理液(濃縮液)15の一部を系外に排出することができるように形成されている。散布器12は、処理液15を水平伝熱管8cの上方から水平伝熱管8cに向けて散布するように形成されている。
【0025】
気液接触手段80は、蒸気スクラバー3、pH調整用タンク20等を含んで構成されている。蒸気スクラバー3は、気液接触により蒸気に含まれるアンモニア・ヒドラジン成分を溶解用水(本実施例ではpH調整用タンク20内の酸性水溶液)に溶解させて回収する装置であり、本実施例では、複数のスプレーノズル21から溶解用酸性水溶液を下方に向けて噴霧することにより、アンモニア・ヒドラジン成分を含む蒸気と溶解用酸性水溶液とを向流接触させるスプレー式のスクラバーが用いられる。スクラバーとしては、その他の形式のスクラバーが用いられてもよい。
【0026】
蒸気スクラバー3は、水洗塔22と、第1蒸発器2で生成された蒸気(アンモニア・ヒドラジン成分を含有する蒸気)を水洗塔22に供給する蒸気供給管23と、水洗塔22に収容されるアンモニア・ヒドラジン成分が溶解された溶液をpH調整用タンク20に供給する供給管24と、pH調整用タンク20でpH調整された中和塩液を溶解用酸性水溶液としてスプレーノズル21に移送する散布管25と、アンモニア・ヒドラジン成分が除去された蒸気を第2蒸発器4に供給する蒸気供給管26と、第2蒸発器4に供給されたアンモニア・ヒドラジン成分が除去された蒸気の凝縮水を水洗塔22に供給する戻し管27とを備える。供給管24には蒸気スクラバーポンプ28が配置されており、この蒸気スクラバーポンプ28によって水洗塔22に収容されるアンモニア・ヒドラジン成分が溶解された溶液がpH調整用タンク20に供給される。pH調整用タンク20にはpH調整用酸(例えば硫酸)が所定量供給されており、アンモニア・ヒドラジン成分が溶解された溶液とpH調整用酸とが撹拌混合されて中和塩液(硫酸アンモニウム及び硫酸ヒドラジン溶液)となる。散布管25には、ポンプ29と冷熱器30が配置されている。冷熱器30には冷水が供給されている。pH調整用タンク20で撹拌混合されて中和塩液は、冷熱器30で冷水と熱交換されて冷却され、溶解用酸性水溶液として散布管25を介してスプレーノズル21から下方に向けて噴霧されるようになっている。なお、pH調整用タンク20内の中和塩液の一部は、管31を介して第2蒸発器4に供給されるようになっている。
【0027】
第2蒸発器4は水平管型蒸発器であり、蒸発缶35を含む。この蒸発缶35は筒形に形成されており、内部に処理液(中和塩液)を貯留することができるようになっている。蒸発缶35には、pH調整用タンク20から中和塩液を供給するための管31が接続されている。蒸発缶35の上部には、左右一対のヘッダー36a,36bと、この両ヘッダー36a,36bの間を繋ぐ多数本の水平伝熱管36cとから成る加熱器36が設けられている。ヘッダー36aには蒸気供給管26が接続されており、蒸気スクラバー3からの蒸気がヘッダー36aに進入するように形成されている。ヘッダー36bは蒸気が排出する側に配置されている。ヘッダー36bには加熱蒸気の凝縮水を蒸気スクラバー3に供給するための戻し管27が接続されている。
【0028】
本実施例における第2蒸発器4は、処理液の循環流路を含む。循環流路には、循環ポンプ37及び散布器38が配置されている。循環ポンプ37は、蒸発缶35の底部に接続されている。循環ポンプ37は、管70を通して、蒸発缶35に貯留する処理液(中和塩液)を散布器38に移送することができるように形成されている。また、循環ポンプ37は、管39を通して、濃縮された処理液(中和塩液)の一部を系外に排出することができるように形成されている。散布器38は、蒸発缶35に貯留する処理液(中和塩液)を水平伝熱管36cの上方から水平伝熱管36cに向けて散布するように形成されている。
【0029】
第2蒸発器4はエゼクタ10を備えている。エゼクタ10の入口は蒸気を生成する蒸気生成機器(図示せず)に接続されており、エゼクタ10の出口は蒸気供給管9を介して第1蒸発器2に接続されている。エゼクタ10は、蒸気生成機器(図示せず)から排出される蒸気の流れにより、第2蒸発器4で生成される蒸気の一部を管40を介して吸引して、吸引された蒸気よりも温度の高い混合蒸気を生成して、第1蒸発器2に供給するように構成されている。また、蒸発缶35の上部には、蒸発缶35内の蒸気を凝縮器11に導く管41が接続されている。凝縮器11には冷水が供給されており、凝縮器11に導かれた蒸気が凝縮された凝縮水は、管60を介して供給される第1蒸発器2からの凝縮水と伴に、凝縮器11の液貯の底部から凝縮水ポンプ42により系外に排出されるようになっている。
【0030】
抽気スクラバー5は、廃液に含まれているメタノールを回収するために設けられている。即ち、メタノールを含む蒸気を凝縮器11から抽気して管43を介して抽気スクラバー5に供給して、メタノールを回収する。具体的に説明すると、抽気スクラバー5は、蒸気スクラバー3と同様なスプレー式のスクラバーであり、水洗塔50と、凝縮器11から蒸気を抽気する管43と、水洗塔50に収容された溶解用水をスプレーノズル51に移送する散布管52とを備えている。散布管52には、抽気スクラバーポンプ53、冷熱器54が配置されている。冷熱器54には冷水が供給されており、この冷水が散布管52を通る溶解用水と熱交換して溶解用水が冷却されるようになっている。溶解用水の接触によりメタノール成分が溶解したメタノール溶液は、抽気スクラバーポンプ53により系外に排出されるようになっている。また、水洗塔50には真空ポンプ55が接続されており、抽気スクラバー5、凝縮器11、蒸発缶35、蒸気スクラバー3、及び蒸発缶6が減圧状態に保持されている。
【0031】
次いで、上記構成の廃液の処理装置1の処理動作について説明する。アンモニア、ヒドラジン及びメタノールを含有する廃液(原液)等の処理液は、管7を介して蒸発缶6内に供給される。次いで、循環ポンプ12の駆動により、蒸発缶6に貯留する処理液15は管14を通って散布器13に供給され、散布器13から伝熱管8cに向かって散布される。散布器13にて散布された処理液は、水平伝熱管8cの表面で薄膜蒸発する。この水平伝熱管8cの表面で蒸発した蒸気はアンモニア、ヒドラジン及びメタノールを含有しており、蒸気スクラバー3に供給される。一方、蒸気供給管9を介してヘッダー8aに進入した加熱蒸気は、水平伝熱管8cの内側に導かれ、伝熱管8cの外側に散布された循環液を蒸発させると同時に凝縮し、凝縮水となりヘッダー8bに流入する。そして、凝縮水は、ヘッダー8bから凝縮器11に導かれ、凝縮水ポンプ42により系外に排出される。このようなプロセスを繰り返すことにより、循環液は濃縮され、アンモニア、ヒドラジン及びメタノールが殆ど含有されない濃縮液として循環ポンプ12により系外に排出される。
【0032】
次いで、蒸気スクラバー3では、スプレーノズル21から溶解用酸性水溶液を下方に向けて噴霧することにより、アンモニア・ヒドラジン成分を含む蒸気と溶解用酸性水溶液とを向流接触させる。これにより、アンモニア・ヒドラジン成分が溶解した溶液が生成され、水洗塔22に収容される。このアンモニア・ヒドラジン成分が溶解した溶液は、蒸気スクラバーポンプ28によってpH調整用タンク20に供給され、pH調整用タンク20にて、pH調整用酸と撹拌混合されて中和塩液(硫酸アンモニウム及び硫酸ヒドラジン溶液)となる。この中和塩液は、ポンプ29によって溶解用酸性水溶液としてスプレーノズル21に供給される。また、中和塩液の一部は、ポンプ29によって蒸発濃縮対象液として第2蒸発器4の蒸発缶35に供給される。なお、アンモニア・ヒドラジン成分が除去された蒸気は、第2蒸発器4に供給される。このようにして、蒸気スクラバー3では、第1蒸発器2で生成された蒸気を酸と接触させることにより、中和塩液(硫酸アンモニウム及び硫酸ヒドラジン溶液)を生成し、且つアンモニア・ヒドラジン成分が除去された蒸気を生成する。そして、中和塩液を蒸発濃縮対象液として第2蒸発器4に供給すると共に、アンモニア・ヒドラジン成分が除去された蒸気を第2蒸発器4に供給して第2蒸発器4の加熱源として利用する。
【0033】
次いで、第2蒸発器4では、循環ポンプ37の駆動により、蒸発缶35に貯留する処理液(中和塩液)は管70を通って散布器38に供給され、散布器38から水平伝熱管36cに向かって散布される。散布器38にて散布された処理液(中和塩液)は、水平伝熱管36cの表面で薄膜蒸発する。伝熱管36cの表面で蒸発した蒸気の一部は、管40を介してエゼクタ10に吸引される。エゼクタ10の出口からは、蒸発缶35の内部で生成された蒸気の一部が吸引されて吸引蒸気よりも昇温された混合蒸気が排出される。エゼクタ10では、蒸気が圧縮されて出口での温度が高くなる。このため、高い温度の蒸気を第1蒸発器2に供給することができ、熱効率の良いプロセスが実現できる。
【0034】
一方、蒸気供給管26を介してヘッダー36aに進入した加熱蒸気は、水平伝熱管36cの内側に導かれ、水平伝熱管36cの外側に散布された循環液を蒸発させると同時に凝縮し、凝縮水となりヘッダー36bに流入する。そして、凝縮水は、ヘッダー36bから戻し管37を介して蒸気スクラバー3に供給される。このような蒸発濃縮プロセスを繰り返すことにより、循環液(中和塩液)は濃縮され、濃縮中和塩液として循環ポンプ37により系外に排出される。
【0035】
なお、蒸発缶35の内部で生成された蒸気の一部は、凝縮器11に導かれ、凝縮水となり、管60から供給される凝縮水と伴に、凝縮水ポンプ42により系外に排出される。
【0036】
蒸発缶35の内部で生成された蒸気はメタノール成分を含有しているが、このメタノール成分は凝縮器11では凝縮されない。従って、凝縮器11から抽気した蒸気中のメタノールは、抽気スクラバー5に供給され、溶解用水と接触する。そして、溶解用水の接触によりメタノール成分が溶解したメタノール溶液は、抽気スクラバーポンプ53により系外に排出される。このようにして、メタノール成分が回収される。
【0037】
(その他の事項)
(1)上記実施例ではアンモニア・ヒドラジンを含有する廃液の処理装置について説明したけれども、本発明はこれに限定されず、その他の揮発性を有する塩基性物質を含有する廃液の処理装置に適用される。
【0038】
(2)上記実施例では抽気スクラバーポンプ53を備えていたが、廃液中にメタノールが含まれていない場合には、抽気スクラバーポンプ53を省略するようにしてよい。
【0039】
(3)上記実施例では蒸気スクラバー3を備えていたが、第1蒸発器2で生成された蒸気に含まれるアンモニア・ヒドラジン成分が少量であれば、蒸気スクラバー3を省略し、第1蒸発器2で生成された蒸気をそのまま第2蒸発器4に供給するように構成してもよい。なお、この場合は、第2蒸発器4に供給された蒸気を、第2蒸発器4に備えられている水平伝熱管36c表面での熱交換により凝縮した凝縮液を循環させると共に、循環ライン中に、pH調整手段を設けて中和させるように構成すればよい。
【0040】
(4)上記実施例では第1蒸発器2と第2蒸発器4とで2重効用構成としたけれども、本発明はこれに限定されるものではない。即ち、上記実施の形態では第1蒸発器2で生成された蒸気を、蒸気スクラバー3を介して第2蒸発器4に供給していたけれども、生蒸気を加熱蒸気として第2蒸発器4に供給する構成であってもよい。また、第1蒸発器2で生成された蒸気を凝縮器等により凝縮し、凝縮液を酸により中和させて生成された中和塩液を蒸発濃縮対象液として第2蒸発器4に投入して蒸発濃縮する構成であってもよい。
【0041】
(5)上記実施例では、第1蒸発器2及び第2蒸発器4は水平管型蒸発器を用いたが、本発明はこれに限定されず、任意の蒸発器を採用することができる。例えば、フラッシュ型蒸発器が採用されていても構わない。また、第1蒸発器2及び第2蒸発器4は共に、同一タイプの蒸発器であってもよく、異なるタイプの蒸発器(例えば第1蒸発器2が水平管型蒸発器、第2蒸発器4がフラッシュ型蒸発器)であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、アンモニア・ヒドラジンを含有する廃液や、その他の揮発性を有する塩基性物質を含有する廃液の処理装置及び処理方法に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0043】
1:廃液の処理装置 2:第1蒸発器
3:蒸気スクラバー 4:第2蒸発器
6,35:蒸発缶 8,36:加熱器
8c,36c:水平伝熱管 10:エゼクタ
20:pH調整用タンク 80:気液接触手段
100:中和手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
揮発性を有する塩基性物質を含有する廃液を、pHがアルカリ側の状態で蒸発濃縮することにより前記塩基性物質含有蒸気及び前記塩基性物質が除去された濃縮液を生成する第1蒸発器と、
前記第1蒸発器で生成された前記塩基性物質含有蒸気を中和処理して中和塩液を生成する中和手段と、
前記中和手段で生成された中和塩液を蒸発濃縮対象液として、pHが酸側の状態で蒸発濃縮することにより濃縮中和塩液を生成する第2蒸発器と、
を備えたことを特徴とする揮発性を有する塩基性物質を含有する廃液の処理装置。
【請求項2】
前記第1蒸発器で生成された前記塩基性物質含有蒸気を、前記第2蒸発器に供給して第2蒸発器の加熱源として利用するように構成されている請求項1記載の揮発性を有する塩基性物質を含有する廃液の処理装置。
【請求項3】
前記中和手段は、前記第1蒸発器と前記第2蒸発器との間に設けられ、第1蒸発器で生成された前記塩基性物質含有蒸気を酸と接触させることにより、中和塩液及び塩基性物質が除去された蒸気を生成する気液接触手段であり、
前記気液接触手段は、気液接触手段で生成された中和塩液を蒸発濃縮対象液として第2蒸発器に供給すると共に、気液接触手段で生成された塩基性物質が除去された蒸気を第2蒸発器に供給して第2蒸発器の加熱源として利用するように構成された請求項1記載の揮発性を有する塩基性物質を含有する廃液の処理装置。
【請求項4】
蒸気を生成する蒸気生成機器と、
前記蒸気生成機器に接続され、前記第1蒸発器に蒸気を供給するためのエゼクタと、
を備え、
前記エゼクタは、前記蒸気生成機器から排出される蒸気の流れにより、前記第2蒸発器から排出される蒸気の一部を吸引して、吸引された蒸気よりも温度の高い混合蒸気を生成して、第1蒸発器に供給するように構成されている請求項3記載の揮発性を有する塩基性物質を含有する廃液の処理装置。
【請求項5】
揮発性を有する塩基性物質を含有する廃液を、pHがアルカリ側の状態で蒸発濃縮することにより前記塩基性物質含有蒸気及び前記塩基性物質が除去された濃縮液を生成する第1蒸発濃縮工程と、
前記第1蒸発濃縮工程で生成された前記塩基性物質含有蒸気を中和処理して中和塩液を生成する中和工程と、
前記中和工程で生成された中和塩液を蒸発濃縮対象液として、pHが酸側の状態で蒸発濃縮することにより濃縮中和塩液を生成する第2蒸発濃縮工程と、
を備えたことを特徴とする揮発性を有する塩基性物質を含有する廃液の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−72973(P2011−72973A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−230183(P2009−230183)
【出願日】平成21年10月2日(2009.10.2)
【出願人】(000143972)株式会社ササクラ (138)
【Fターム(参考)】