説明

揮発性有機化合物の処理システム

【課題】第1に、揮発性有機化合物を、エンジン燃料として効率的に有効利用すると共に、第2に、しかもこれが、設備コストやランニングコスト等にも優れつつ実現される、揮発性有機化合物の処理システムを提案する。
【解決手段】この処理システムは、濃縮装置4,エンジン2,回収装置5等を、備えてなる。そして濃縮装置4は、揮発性有機化合物を吸着し、その吸着された揮発性有機化合物を熱風9吹付けにより脱着し、濃縮ガス8を生成する。回収装置5は、濃縮装置4から濃縮ガス8が供給され、含有された揮発性有機化合物をフィルターに吸着し、吸着された揮発性有機化合物をスチーム11吹付けにより脱着して、濃縮ガス12を生成する。エンジン2は、濃縮装置4又は回収装置5から供給される濃縮ガス8又は12中の揮発性有機化合物を、燃料として使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揮発性有機化合物の処理システムに関する。すなわち、揮発性有機化合物(VOC)を含有した排気ガスを、エンジン燃料として利用する処理システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
《技術的背景》
トルエン,キシレン,酢酸エチル,酢酸ブチル,IPA,MEK,その他の揮発性有機化合物は、例えば溶剤として使用され、グラビア印刷,その他の印刷,塗布,塗装,接着の各工程や、これらの加熱工程,乾燥工程,洗浄工程等から排出される排気ガスや排液中に、含有されている。
そして、大気汚染,環境破壊を引き起こす浮遊粒子状物質(SPM)や光化学オキシダントの原因物質として知られており、健康への悪影響が深刻化している状況に鑑み、最近の改正大気汚染防止法において、その排出規制が一段と強化されている。
【0003】
《従来技術》
そこで、このような揮発性有機化合物(VOC)の発生工程には、従来より、VOC回収装置が付設されていた。代表的なVOC回収装置については、次のとおり。
すなわち、揮発性有機化合物を含有した排気ガスや排液(予め加熱,気化される)は、VOC回収装置に供給される。→そして、含有された揮発性有機化合物が、まず活性炭等の吸着剤に吸着せしめられた後、→スチーム吹き付けにより脱着され、廃液として回収される。
→このような操作が、複数のVOC回収装置を使用して、バッチ式に連続処理される。→そして、回収されたVOC廃液は、揮発性有機化合物が例えば濃度20wt%程度(水80wt%程度)よりなり、タンク等に一旦貯留される。
→それからVOC廃液は、次のように処理されていた。すなわちa.蒸留法や高分子膜法により脱水処理して、揮発性有機化合物を精製,純粋化,再利用化処理したり、又はb.蒸気や助燃剤と共にボイラーやガスタービン等に供給して燃焼処理したり、触媒を使用して燃焼処理したり、又はc.(多くの場合遠隔地へと搬送されて、)廃棄処理,土壌微生物処理されていた。
なお、前記VOC回収装置を経由することなく、揮発性有機化合物を含有した排気ガスを、そのまま直接、上記bに準じて燃焼処理することも行われていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
≪問題点≫
ところで、このような従来例については、処理コストつまり処理のための設備コストやランニングコストに、問題が指摘されていた。まず、揮発性有機化合物を精製,再利用処理する上記aの従来例については、蒸留設備,加熱設備,高分子膜等の付帯設備が必須的となり、この種の付帯設備が大型,大規模,複雑,精緻であることに鑑み、設備コストが嵩むという問題があった。更に、加熱その他のランニングコストが嵩み、精製処理に長時間を要する等の問題も指摘されていた。
又、燃焼処理する前記bの従来例については、大量の助燃剤や触媒を必要とし、運転コスト,ランニングコストが嵩み過ぎる、という問題が指摘されていた。廃棄処理する前記cの従来例については、運搬コスト,ランニングコストcに問題が指摘されると共に、環境汚染という問題も指摘されていた。
ところで、一般的な炭化水素系燃料を水素リッチガスに改質して利用せんとする技術として、例えば次の特許文献1に示されたものが開示されているが、この技術は、揮発性有機化合物とエンジンとの組み合わせを、具体的に開示したものではない。つまり、揮発性有機化合物を濃縮して、ロータリーエンジンの燃料として利用せんとしたものではない。
【0005】
【特許文献1】特開2002−12404号公報
【0006】
《本発明について》
本発明の揮発性有機化合物の処理システムは、このような実情に鑑み、上記従来例の課題を解決すべくなされたものである。
そして本発明は、第1に、揮発性有機化合物を、エンジン燃料として効率的に有効利用すると共に、第2に、しかもこれが、設備コストやランニングコストに優れつつ実現される、揮発性有機化合物の処理システムを提案することを、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
《各請求項について》
このような課題を解決する本発明の技術的手段は、次のとおりである。まず、請求項1については次のとおり。
請求項1の揮発性有機化合物の処理システムは、揮発性有機化合物を含有した排気ガスの処理システムであって、濃縮装置とエンジンとを有している。
そして該濃縮装置は、供給された該排気ガスについて、含有された該揮発性有機化合物を濃縮して、濃縮ガスを生成する。該エンジンは、該濃縮ガスを利用して駆動されること、を特徴とする。
請求項2については、次のとおり。請求項2の揮発性有機化合物の処理システムでは、請求項1おいて、該濃縮装置は、該揮発性有機化合物を吸着すると共に、吸着された該揮発性有機化合物を熱風吹付けにより脱着し、もって、該揮発性有機化合物の含有率が、約2倍〜50倍程度に濃縮された該濃縮ガスを生成すること、を特徴とする。
【0008】
請求項3については、次のとおり。請求項3の揮発性有機化合物の処理システムでは、請求項2において、該エンジンは、該濃縮装置から供給される該濃縮ガス中の該揮発性有機化合物を、直接そのまま燃料として使用すること、を特徴とする。
請求項4については、次のとおり。請求項4の揮発性有機化合物の処理システムは、請求項2において、更に回収装置を備えている。
そして該回収装置は、該濃縮装置から該濃縮ガスが供給され、含有された該揮発性有機化合物をフィルターに吸着すると共に、吸着された該揮発性有機化合物をスチーム吹付けにより脱着する。該エンジンは、該回収装置から供給される該濃縮ガス中の該揮発性有機化合物を、燃料として使用すること、を特徴とする。
【0009】
請求項5については、次のとおり。請求項5の揮発性有機化合物の処理システムでは、請求項3又は4において、該エンジンは、ロータリーエンジンよりなると共に、その主軸が、隣接付設された発電機に連結されていること、を特徴とする。
請求項6については、次のとおり。請求項6の揮発性有機化合物の処理システムでは、請求項5において、該エンジンは、その排ガスの熱風を、該濃縮装置に脱着用として供給すること、を特徴とする。
請求項7については、次のとおり。請求項7の揮発性有機化合物の処理システムは、請求項3又は4において、更に燃焼装置を備えている。そして該燃焼装置は、該濃縮装置から供給される該濃縮ガスを燃焼せしめ、もって燃焼熱に基づく熱風を、該濃縮装置に脱着用として供給すること、を特徴とする。
【0010】
《作用等について》
本発明は、このような手段よりなるので、次のようになる。
(1)この処理システムは、濃縮装置,エンジン,回収装置,燃焼装置,発電機等を、備えている。
(2)そして、揮発性有機化合物を含有した排気ガスが、濃縮装置に供給される。
(3)濃縮装置では、揮発性有機化合物が吸着され、熱風吹付けにより脱着される。
(4)もって、揮発性有機化合物の含有率が、約2倍〜50倍程に濃縮された濃縮ガスが、生成される。
(5)この濃縮ガスは、そのまま直接、又は回収装置を経由して、ロータリーエンジン等のエンジンに供給される。
(6)なお回収装置では、揮発性有機化合物が吸着され、スチーム吹付けにより脱着される。
(7)濃縮装置の脱着用の熱風としては、濃縮ガスを燃焼させる燃焼装置の熱量、又はエンジンの高温排ガスが利用される。
(8)さて、本発明の処理システムは、揮発性有機化合物を濃縮して、その可燃成分をエンジン燃料として活用する。揮発性有機化合物を単に除去するのではなく、そのエンタルピーを引き出して有効活用する。
(9)又、本発明の処理システムは、濃縮装置,エンジンを中心に、回収装置,燃焼装置,発電機等を備えた簡単な構成よりなり、濃縮装置の熱風としては、濃縮ガスの燃焼装置やエンジン排ガスが利用される。この処理システムでは、各構成がサイクル的,循環的に関係付けられている。
(10)さてそこで、本発明の揮発性有機化合物の処理システムは、次の効果を発揮する。
【発明の効果】
【0011】
《第1の効果》
第1に、揮発性有機化合物(VOC)を、エンジン燃料として効率的に有効利用する。すなわち、本発明の処理システムでは、揮発性有機化合物を濃縮して、エンジンの燃料として利用し、電力その他のエネルギー源として活用する。
浮遊粒子状物質(SPM)や光化学オキシダントの原因物質としての揮発性有機化合物を、前述したこの種従来例のようにVOC回路装置で回収して、燃焼処理や廃棄処理するのではなく、そのまま濃縮して効率良く有効活用する。
すなわち、本発明の処理システムは、従来例のように揮発性有機化合物を単に除去するシステムではなく、揮発性有機化合物の持っている熱エネルギー、系の保存しているエンタルピーを引き出し放出させて、有効に使う熱化学再生システムよりなる。
【0012】
≪第2の効果≫
第2に、しかもこれは、設備コストやランニングコストに優れつつ、実現される。すなわち、本発明の処理システムは、濃縮装置やエンジンを中心に構成され、適宜、回収装置,燃焼装置,発電機等を配設してなる。もって、比較的簡単な構成よりなると共に、これらがサイクル的,循環的,相互補完的に関係付けられており、システム運用に無駄がなく効率的である。
すなわち、前述したこの種従来例のように、精製,再利用のための蒸留設備,加熱装置,高分子膜等や、大型,大規模,複雑,精微な設備を要せず、設備が簡単化,簡略化,小型化,小規模化される等、設備コストに優れている。
そして、濃縮装置で使用される熱風も、揮発性有機化合物の濃縮ガスやエンジンの排ガスを活用して生成される等、運転コスト,ランニングコストにも優れている。従来例のように、加熱コストが嵩んだり、大量の助燃剤や触媒を要することがなく、更に、処理に長時間を要したり、運搬コストや環境汚染の問題も生じない。
このように、この種従来例に存した課題がすべて解決される等、本発明の発揮する効果は、顕著にして大なるものがある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
《図面について》
以下、本発明の揮発性有機化合物の処理システムを、図面に示した発明を実施するための最良の形態に基づいて、詳細に説明する。
図1,図2,図3は、本発明を実施するための最良の形態の説明に供し、構成フロー図である。そして、図1は第1例を、図2は第2例を、図3は第3例を示す。
【0014】
《揮発性有機化合物等について》
本発明は、揮発性有機化合物の処理システムに関する。そこで、まず揮発性有機化合物について述べておく。
揮発性有機化合物(VOLATILE ORGANIC COMPOUNDS、略してVOC)は、代表的には、下記物質その他の炭化水素系化合物であって(なおこの外、フロン系化合物も可能)、沸点が50℃以上〜260℃未満よりなり、主に人工合成され、大気中に飛散した場合に容易に気化,揮発する液状物質、と定義される。
・メチルエチルケトン(MEK,CHCOCHCH
・イソプロピルアルコール(IPA,CHCH(CH)OH)
・酢酸エチル(CHCOOCHCH
・酢酸ブチル(CHCOO(CHCH
・トルエン(CHCH
・キシレン(CH(CH
・ベンゼン(C
・エタノール(COH)
・トリクロロエタン(CCl
・リモネン(C1016
【0015】
そして揮発性有機化合物は、上記各物質中の1種又は複数種(多くの場合は複数種)が選択され、もって溶剤,その他として使用される。
例えば、グラビア印刷,その他の印刷,塗布,塗装,接着の各工程や、これらの加熱,乾燥工程,洗浄工程、その他各種の化学処理工程から排出された排気ガスや排液中には、例えば溶剤として使用された揮発性有機化合物が、含有されている。
このような揮発性有機化合物の発生工程に、本発明の処理システムが付設されており、揮発性有機化合物を含有した排気ガス1が供給される。
なお第1に、揮発性有機化合物を含有した廃液は、事前に加熱,気化され、揮発性有機化合物を含有した排気ガス1として、この処理システムに供給される。例えば、後述するロータリーエンジン等のエンジン2の排気ガス3の熱量を利用した予熱器にて、廃液は加熱,気化,排気ガス1化される。
なお第2に、排気ガス1中に含有される揮発性有機化合物は、上述したように複数種よりなることが多いが、その構成成分の具体的内訳パターンは、例えば次のとおり様々である。勿論、下記の他、様々な内容や比率の構成成分パターンがある。
・パターン1:トルエン40wt%,キシレン20wt%,イソプロピルアルコール20wt%,酢酸エチル20wt%
・パターン2:トルエン40wt%,キシレン10wt%,メチルエチルケトン20wt%,イソプロピルアルコール20wt%,酢酸ブチル10wt%
・パターン3:トルエン30wt%,キシレン10wt%,メチルエチルケトン30wt%,イソプロピルアルコール10wt%,酢酸エチル10wt%,酢酸ブチル10wt%
・パターン4:トルエン35wt%,キシレン7wt%,メチルエチルケトン22wt%,イソプロピルアルコール27wt%,酢酸エチル9wt%
・パターン5:酢酸エチル59wt%,酢酸ブチル13wt%,イソプロピルアルコール22wt%,メチルエチルケトン6wt%
揮発性有機化合物等については、以上のとおり。
【0016】
≪処理システムの概要について≫
以下、本発明のシステム処理について、説明する。この処理システムは、揮発性有機化合物を含有した排気ガス1を、処理対象とする。
そして、濃縮装置4とエンジン2を中心に構成されており、更に適宜、回収装置5,燃焼装置6,発電機7等が、付設されている。
処理システムは、概略このように構成されている。以下、その各構成について、詳細に説明する。
【0017】
≪濃縮装置4について≫
まず、濃縮装置4について説明する。濃縮装置4は、供給された排気ガス1について、含有された揮発性有機化合物を濃縮して、濃縮ガス8を生成する。すなわち濃縮装置4は、揮発性有機化合物を吸着すると共に、吸着された揮発性有機化合物を熱風9の吹付けにより脱着し、もって、揮発性有機化合物の含有率が、約2倍〜50倍程度に濃縮された濃縮ガス8を生成する。
このような濃縮装置4について、更に詳述する。揮発性有機化合物を含有した空気つまり排気ガス1は、送風機やプレフィルター等が介装された管路を介して、濃縮装置4に供給される。
濃縮装置4は、例えば、軸を中心にローター回転可能なハニカム構造体よりなる。そして排気ガス1は、そのセル壁にて区画形成された多数のセル空間を通過しつつ、セル壁外表面に塗布された吸着剤に、揮発性有機化合物が吸着される。
もって排気ガス1は、揮発性有機化合物が吸着,除去され、クリーン化された浄化エアー10となって、大気放出される。これに対し、吸着された揮発性有機化合物は、ハニカム構造体の回転変位に伴い、熱風9が吹き付けられて脱着され、濃縮ガス8となって排出される。
濃縮ガス8は、排気ガス1と比較すると、揮発性有機化合物の含有率が、約2倍〜50倍程度、代表的には約3倍〜10倍程度となっている。例えば、濃度0.6wt%程度であったものが、6wt%程度に濃縮される。
濃縮装置4は、このようになっている。
【0018】
≪回収装置5について≫
次に、回収装置5について説明する。回収装置5は、濃縮装置4から濃縮ガス8が供給され、含有された揮発性有機化合物をフィルターに吸着すると共に、吸着された揮発性有機化合物をスチーム11の吹付けにより脱着する。
このような回収装置5について、更に詳述する。回収装置5は、例えば活性炭フィルター等の吸着剤フィルターを備えており、濃縮装置4から管路にて供給された濃縮ガス8は、濃縮含有されていた揮発性有機化合物が、この吸着剤フィルターに吸着,除去され、もってクリーン化された浄化エアー10となって、大気放出される。
そして、吸着剤フィルターに吸着された揮発性有機化合物は、バッチ式にてスチーム11が吹き付けられて脱着,回収,精製され、もって濃縮ガス8が、新たな濃縮ガス12となって排出される。なお吸着剤フィルターは、スチーム11の吹付け毎に再生されて、再使用される。
回収装置5は、このようになっている。
【0019】
≪燃焼装置6について≫
次に、燃焼装置6について説明する。燃焼装置6は、濃縮装置4から供給される濃縮ガス8を燃焼せしめて、燃焼熱に基づく熱風9を、濃縮装置4に脱着用として供給する。
すなわち燃焼装置6は、濃縮装置4から管路にて供給された濃縮ガス8に含有され濃縮された揮発性有機化合物を、予熱した後、直後燃焼せしめる。図示例では、この燃焼には触媒が使用され、必要に応じ液化天然ガス等が、補助燃料13として使用される。
そして、燃焼による熱量が、濃縮装置4へと送風,供給される外気の熱交換に使用され、もって外気が、脱着用加熱空気つまり熱風9となって、濃縮装置4へ導入される。
燃焼装置6は、このようになっている。
【0020】
《エンジン2について》
次に、エンジン2について説明する。エンジン2は、濃縮ガス8又は12を利用して駆動される。
すなわちエンジン2は、濃縮装置4から供給される濃縮ガス8中の揮発性有機化合物を、直接そのまま燃料として使用して駆動されるか、又は、回収装置5から供給される濃縮ガス12中の揮発性有機化合物を、燃料として使用して駆動される。
そしてエンジン2は、代表的にはロータリーエンジンよりなると共に、その主軸が、隣接付設された発電機7に連結されている。なお、エンジン2の排ガス3を、熱風9として濃縮装置4に脱着用として供給することも可能である。
【0021】
このようなエンジン2について、更に詳述する。エンジン2としては、ロータリーエンジンが代表的に使用され、濃縮装置4更には回収装置5から管路にて供給される濃縮ガス8,12を、燃料として駆動される。
すなわちエンジン2は、濃縮ガス8、12に含有された炭化水素系化合物等よりなる揮発性有機化合物の可燃成分、つまり炭素(黒鉛)や水素を、その燃料として使用して、運転される。なお、回収装置5からエンジン2への管路には、途中に冷却水14による冷却部15が介装されており、濃縮ガス12中の水蒸気が、濃縮水として排出,除去される。
エンジン2の代表例であるロータリーエンジンは、周知のごとく、燃焼室内でローターが偏心回転して、主軸に回転力を伝達する、間欠燃焼式・容積式の内燃機関である。そして主軸が、隣接設置された発電機7に連結されており、その駆動が発電用に出力されるが、勿論、電力以外の駆動エネルギー源としても、各種用途に利用可能である。
なお第1に、ロータリーエンジンの排ガス3は、650℃以上例えば800℃〜900℃程度である。
なお第2に、このようなロータリーエンジンが、エンジン2として代表的に使用されるが、その他のレシプロエンジン例えばディーゼルエンジンやガスエンジンも使用可能であり、更に、ガスタービン等も使用可能であるが、これらの場合、その排ガス3は300℃〜600℃程度、例えば350℃〜450℃程度である。
なお第3に、このようなエンジン2特にロータリーエンジンの高温の排ガス3を、熱風9として、凝縮装置4に脱着用として供給することが可能である。この場合、前述した燃焼装置6は使用されないことが多いが、両者の併用も可能である。
なお第4に、エンジン2の燃料としては、必要に応じ、液化天然ガス等が補助燃料13として使用される。
エンジン2は、このようになっている。
【0022】
≪図示例について≫
次に、図示例について説明する。まず、図1に示した例の処理システムでは、濃縮装置4から排出された濃縮ガス8は、途中で分岐される。そして一方が、一方のエンジン2に直接供給されると共に、他方が、回収装置5に供給された後、濃縮ガス12として他方のエンジン2に供給されるようになっている。
図2の例の処理システムでは、濃縮装置4から排出された濃縮ガス8は、すべてが回収装置5を経由し、濃縮ガス12としてエンジン2に供給されるようになっている。
図3の例の処理システムでは、濃縮装置4からの濃縮ガス8は、すべてエンジン2に直接供給されるようになっている。
又、図1,図2,図3の例共に、濃縮装置4から排出された濃縮ガス8は、更に分岐されて燃焼装置6にも供給され、もって熱風9が生成されて、濃縮装置4に脱着用として供給されている。なお、このような図示例によらず又は図示例に追加して、エンジン2からの排ガス3を、熱風9として濃縮装置4に供給することも可能である。
図示例は、このようになっている。
【0023】
《作用等》
本発明の揮発性有機化合物の処理システムは、以上説明したように構成されている。そこで、以下のようになる。
(1)この処理システムは、濃縮装置4とエンジン2を備えており、更に回収装置5,燃焼装置6,発電機7等が、適宜付設されている。
【0024】
(2)そして、揮発性有機化合物(VOCガス)を含有した排気ガス1は、濃縮装置4に供給される。揮発性有機化合物の濃度は、例えば0.6wt%程度である。
揮発性有機化合物としては、メチルエチルケトン,イソプロピルアルコール,酢酸エチル,酢酸ブチル,トルエン,キシレン,ベンゼン,エタノール,トリクロロエタン,リモネン等が、代表的である。
【0025】
(3)濃縮装置4では、供給された排気ガス1について、含有された揮発性有機化合物(VOCガス)が、吸着された後、熱風9吹付けにより脱着される。
【0026】
(4)もって濃縮装置4から、揮発性有機化合物(VOCガス)が脱着,濃縮された濃縮ガス8が、生成,排出される。濃縮ガス8は、揮発性有機化合物の濃度が例えば6wt%程度であり、揮発性有機化合物の含有率が、処理前の排気ガス1に比し約2倍〜50倍程度、代表的には約3倍〜10倍程度となっている。
【0027】
(5)濃縮装置4から排出された濃縮ガス8は、そのまま直接、ロータリーエンジン等のエンジン2に燃料として供給されるか、又は、回収装置5を経由し濃縮ガス12としてエンジン2に燃料として供給される。
【0028】
(6)なお回収装置5では、濃縮ガス8中の揮発性有機化合物(VOCガス)が吸着された後、スチーム11吹付けにより脱着し、もって濃縮ガス12が排出する。
【0029】
(7)又、濃縮装置4において脱着用に使用される熱風9は、燃焼装置6の熱量、又はエンジン2の高温の排ガス3が利用される。燃焼装置6は、濃縮装置4からの濃縮ガス8を燃焼させて、燃焼熱を生成する。
【0030】
(8)さて、本発明の処理システムは、このように、排気ガス1に含有された揮発性有機化合物(VOCガス)を濃縮し、もって、その炭素や水素等の可燃成分を、エンジン2の燃料として活用する。
すなわち、揮発性有機化合物を単に除去するのではなく、即燃料化して再使用,有効利用する。揮発性有機化合物の保存しているエンタルピーを引き出して、有効活用する。
【0031】
(9)又、本発明の処理システムは、濃縮装置4,エンジン2を中心に、回収装置5,燃焼装置6,発電機7等を備えた比較的簡単な構成よりなる。
濃縮装置4における脱着用の熱風9は、濃縮ガス8を使用した燃焼装置6や、エンジン2の排ガス3を利用して、生成される。この処理システムでは、各構成がサイクル的,循環的,相互補完的に関係付けられている。
本発明の作用等は、このようになっている。
【実施例】
【0032】
ここで、本発明の処理システムの実施例、つまりそのスペックの1例について、述べておく。
まず(1)、このスペックにおいて、システムに供給される排気ガス1は、揮発性有機化合物の混合VOCガスを、0.6wt%弱程度含有している。
すなわち、この混合VOCガスの構成成分は、実測値で酢酸エチル:3,539ppm,酢酸ブチル:1,124ppm,イソプロピルアルコール(IPA):942ppm,メチルエチルケトン(MEK):244ppmであり、計5,849ppmであった。
次に(2)、このスペックの構成成分量から、混合VOCガスの構成成分それぞれについて、その分子式,分子量を基に、モル分率そしてそのモル分率に含まれる原子数を算出した。
そしてこれに基づき、各構成成分である炭素原子(C),水素原子(H),酸素原子(O)の合計原子数を算出し、炭素1原子当たりに換算した。その結果、炭素1原子当たりの平均分子式(平均実験式)は、CH2.110.43となった(その平均,合計分子量は、20.99である)。
従って(3)、揮発性有機化合物の混合VOCガスであるCH2.110.43の炭素1原子当たりの燃焼反応式は、次の化1となった。
【化1】

【0033】
次に(4)、概略値(潜熱等は無視)として、CH2.110.43の1モル当たりの燃焼熱を求めた。その可燃成分は、炭素原子(黒鉛)1モルと、水素分子2.11/2モルとする。すると、それぞれの燃焼方程式は、次の化2,3となり、もって、この揮発性有機化合物の混合VOCガスであるCH2.110.43全体の燃焼方程式は、化4となった。そして、この1モル当たりの熱量166.13kcalは、メタンの78%に相当する。
【0034】
【化2】

【化3】

【化4】

【0035】
そして(5)、このCH2.110.43を完全燃焼するに足る必要空気量(排気ガス1中の空気量)を求める。
理論上必要な空気量は、上記化4において必要な酸素量1.315モルのほかに、窒素分子が加わり、6.26モルとなる。空気比を1.3とすると、概略8モルになる。
【0036】
次に(6)、この必要空気量8モルを加えた排気ガス1(濃縮ガス8,12)中について、混合VOCガスであるCH2.110.43の濃度を求める。
空気の平均分子量は約29であるから、CH2.110.43の完全燃焼に必要なその重量は、29×8=232g/molとなる。従って、混合VOCガスつまりCH2.110.43の濃度(wt%)は、その分子量20.99を、ガス全量(232+20.99)で除して、8%となった。
従って濃縮装置4において、0.6%程度の混合VOCガス(を含有した排気ガス1)を、6〜8%程度の混合VOCガス(を含有した濃縮ガス8,12)に、濃縮できれば良いことになる。
いずれにせよ、この揮発性有機化合物の混合VOCガスであるCH2.110.43を、完全燃焼するのに足る必要空気量は、排気ガス1そして濃縮ガス8,12中の空気量で、十分に賄えることになる。21(254+X)=0.06
【0037】
最後に(7)、流量を勘案した発熱量について検討しておく。例えば、排気ガス1そして濃縮ガス8,12の流量を、10,000Nm/hで、揮発性有機化合物の混合VOCガスであるCH2.110.43の濃度を、6%とする。すると、10,000Nm/hの6%つまり600Nm/hが、前記化4の式の1モル当たり166.13kcalを、発生することになる。
従って、10,000Nm/hの発熱量は、(600×1,000)/22.4(l/mol)×166(kcal)=4446,43×1,000(kcal)=1,060MJとなる。
実施例については、以上のとおり。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係る揮発性有機化合物の処理システムについて、発明を実施するための最良の形態の説明に供し、第1例の構成フロー図である。
【図2】本発明に係る揮発性有機化合物の処理システムについて、発明を実施するための最良の形態の説明に供し、第2例の構成フロー図である。
【図3】本発明に係る揮発性有機化合物の処理システムについて、発明を実施するための最良の形態の説明に供し、第3例の構成フロー図である。
【符号の説明】
【0039】
1 排気ガス
2 エンジン
3 排ガス
4 濃縮装置
5 回収装置
6 燃焼装置
7 発電機
8 濃縮ガス
9 熱風
10 浄化エアー
11 スチーム
12 濃縮ガス
13 補助燃料
14 冷却水
15 冷却部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
揮発性有機化合物を含有した排気ガスの処理システムであって、濃縮装置とエンジンとを有しており、
該濃縮装置は、供給された該排気ガスについて、含有された該揮発性有機化合物を濃縮して、濃縮ガスを生成し、該エンジンは、該濃縮ガスを利用して駆動されること、を特徴とする揮発性有機化合物の処理システム。
【請求項2】
請求項1に記載した揮発性有機化合物の処理システムにおいて、該濃縮装置は、該揮発性有機化合物を吸着すると共に、吸着された該揮発性有機化合物を熱風吹付けにより脱着し、もって、該揮発性有機化合物の含有率が、約2倍〜50倍程度に濃縮された該濃縮ガスを生成すること、を特徴とする揮発性有機化合物の処理システム。
【請求項3】
請求項2に記載した揮発性有機化合物の処理システムにおいて、該エンジンは、該濃縮装置から供給される該濃縮ガス中の該揮発性有機化合物を、直接そのまま燃料として使用すること、を特徴とする揮発性有機化合物の処理システム。
【請求項4】
請求項2に記載した揮発性有機化合物の処理システムにおいて、更に回収装置を備えており、該回収装置は、該濃縮装置から該濃縮ガスが供給され、含有された該揮発性有機化合物をフィルターに吸着すると共に、吸着された該揮発性有機化合物をスチーム吹付けにより脱着し、
該エンジンは、該回収装置から供給される該濃縮ガス中の該揮発性有機化合物を、燃料として使用すること、を特徴とする揮発性有機化合物の処理システム。
【請求項5】
請求項3又は4に記載した揮発性有機化合物の処理システムにおいて、該エンジンは、ロータリーエンジンよりなると共に、その主軸が、隣接付設された発電機に連結されていること、を特徴とする揮発性有機化合物の処理システム。
【請求項6】
請求項5に記載した揮発性有機化合物の処理システムにおいて、該エンジンは、その排ガスの熱風を、該濃縮装置に脱着用として供給すること、を特徴とする該揮発性有機化合物の処理システム
【請求項7】
請求項3又は4に記載した揮発性有機化合物の処理システムにおいて、更に燃焼装置を備えており、該燃焼装置は、該濃縮装置から供給される該濃縮ガスを燃焼せしめ、もって燃焼熱に基づく熱風を、該濃縮装置に脱着用として供給すること、を特徴とする揮発性有機化合物の処理システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−121513(P2010−121513A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−295627(P2008−295627)
【出願日】平成20年11月19日(2008.11.19)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【出願人】(500561931)三井造船プラントエンジニアリング株式会社 (41)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【出願人】(505252698)株式会社アイエムイー総合研究所 (14)
【Fターム(参考)】