説明

揮発性有機化合物処理ユニットの設置構造、及び、揮発性有機化合物処理ユニット

【課題】設置スペースに余裕のない事業所であっても導入しやすく、且つ、導入コストを軽減できる、揮発性有機化合物処理ユニットの設置構造を提供する。
【解決手段】ガスを流通させる孔部が形成された導電性発熱体20に電極21が取り付けられている加熱部2、揮発性有機化合物の酸化分解温度を低下させる触媒体31がガス流路を備えている触媒部3、及び、加熱部及び触媒部を内部に支持する筒状のケーシング40を備え、加熱部及び触媒部がそれぞれケーシングの内部空間を軸方向に交差して区画するように配設されている処理ユニット1と、建物の壁60に設けられた通気孔61に嵌め込まれた排気用の送風機50とを具備し、処理ユニットが送風機を建物の内部空間で被覆するように、触媒部を送風機に向けた状態で壁に対して取り付けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工場などの事業所から排出されるガス中の揮発性有機化合物を分解し、処理済みのガスを大気中に放出する設備としての揮発性有機化合物処理ユニットの設置構造、及び、該設置構造の構成要素として適した揮発性有機化合物処理ユニットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
揮発性有機化合物(以下、「VOC」と称することがある)は、浮遊粒子状物質や光化学オキシダントの原因物質の一つであり、一定の規模以上の事業所ではVOCの排出量が規制されていると共に、規制対象外の中小規模事業所に対しても、VOCの排出量削減に対して自主的に取り組むことが要請されている。VOCの大気排出量は、平成12年を基準として30%削減することが目標とされており、所定期限までに目標が達成されない場合には、法規制対象の事業所と自主的取組対象の事業所の配分が見直される可能性もある。そこで、中小規模の事業所におけるVOC排出量削減に対する取り組みを、より積極的なものとするために、中小規模の事業所でも導入し易い、小型で低コストのVOC処理設備が望まれている。
【0003】
従来のVOC処理装置は、吸着法、薬液吸収法、生物分解法、プラズマ分解法、燃焼酸化法(直接燃焼式、蓄熱燃焼式、触媒燃焼式)を用いた装置に大別される。ところが、吸着材や薬液の交換が必要でランニングコストがかかる吸着法や薬液吸収法、生物の維持管理に手間や経費がかかる生物分解法、装置が大型でコスト高のプラズマ分解法を用いた装置は、中小規模の事業所には不向きであった。また、従来の燃焼酸化法の装置としては、加熱の手段としてバーナを使用した装置(例えば、特許文献1参照)や、電気ヒータを使用した装置(例えば、特許文献2参照)が一般的である。ところが、加熱する手段としてバーナを用いる装置では、可燃性のVOCに引火するおそれがあった。また、電気ヒータを用いる装置では、熱効率が悪く加熱に時間がかかるという問題があった。
【0004】
そこで、出願人らは、小型化が可能で低コストであると共に安全性が高く、処理効率の高い揮発性有機化合物処理装置の開発を進め、提案している(特許文献3参照)。図7に示すように、この揮発性有機化合物処理装置100は、ガスを流通させる孔部が形成された導電性発熱体121を備える加熱部120と、加熱部120よりガス流通の下流側に設けられた触媒体131を備える触媒部130とを具備し、ファン118により吸引した未処理ガスを加熱部120に導入するものである。
【0005】
かかる構成により、未処理ガスの温度は、予め加熱部120において触媒存在下でのVOCの酸化分解温度まで十分に高められてから、触媒部130に導入される。これにより、直接燃焼によってVOCを酸化分解させる場合より、低温でVOCを酸化分解させることができる。そして、加熱部120は、ヒータやバーナ等の外部熱源によって外部から加熱するのではなく、それ自体が通電によって発熱する導電性発熱体121を用いているため、電気エネルギーを未処理ガスの加熱に効率良く利用することができる。また、バーナを使用する従来装置とは異なりVOCに引火するおそれがなく、安全性が高いという利点を有している。更に、吸着法や、薬液吸収法を用いた従来装置とは異なり定期的に交換すべき部材がなく、生物分解法を用いた従来装置とは異なり生物の維持管理の問題もないため、ランニングコストが低廉で、取り扱いが容易であるという利点も有している。加えて、導電性発熱体121と触媒体131とを主な構成とする極めて簡易な構成であるため、揮発性有機化合物処理装置100を全体として小型化することが可能である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した従来のVOC処理装置は、何れも据え置き型の装置であり、小型化の努力をしたとしても一定の設置スペースが必要である。そのため、既に稼働中の工場などに後から導入しようとした場合に、設置スペースを確保しにくいという問題があった。また、装置の処理能力を高めたとしても、事業所からのVOC排出量によっては、全てのVOCを処理するためには、VOC処理装置が複数台必要となる場合がある。そのような事業所では、装置を設置するためのスペースの確保に関する問題は、より深刻なものであった。また、複数台のVOC処理装置を導入することは、中小の事業所にとっては経済的な負担が大きいという問題もあった。
【0007】
そこで、本発明は、上記の実情に鑑み、揮発性有機化合物を処理する設備であって、設置スペースに余裕のない事業所であっても導入しやすく、且つ、導入コストを軽減できる設備の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明にかかる揮発性有機化合物処理ユニットの設置構造(以下、単に「設置構造」と称することがある)は、
「ガスを流通させる孔部が形成された導電性発熱体に電極が取り付けられている加熱部、
揮発性有機化合物の酸化分解温度を低下させる触媒体が、ガスを流通させるガス流路を備えている触媒部、及び
前記加熱部及び前記触媒部を内部に支持する筒状のケーシングを備え、
前記加熱部及び前記触媒部が、それぞれ前記ケーシングの内部空間を軸方向に交差する方向に区画するように配設されている揮発性有機化合物処理ユニットと、
建物の壁、天井、または、床に設けられ、建物の外部空間または該外部空間と連通している空間に開口している通気孔に嵌め込まれた排気用の送風機とを具備し、
前記揮発性有機化合物処理ユニットが前記送風機を、建物の内部空間で被覆するように、前記触媒部を前記送風機に向けた状態で取り付けられている」ものである。
【0009】
「送風機」としては、ファンまたはブロワを使用可能である。
【0010】
「通気孔」は、建物の外部空間に直接開口するものであっても、建物の外部空間と連通する空間に開口するものであっても良い。ここで、「建物の外部空間と連通する空間」としては、天井と屋根との間の空間、床下空間、上層階と下層階との間の空間、或いは、壁と壁との間の通気空間を例示することができる。
【0011】
「導電性発熱体」としては、導電性セラミックスや金属を使用することができる。また、導電性発熱体の「ガスを流通させる孔部」は、例えば、導電性発熱体に設けた貫通孔、導電性発熱体を多孔質構造とした場合の連続気孔、導電性発熱体をハニカム構造を有する構成とした場合のセルの内部空間、によって構成させることができる。
【0012】
「揮発性有機化合物」(VOC)は、大気中に排出され又は飛散した時に気体である有機化合物であって、浮遊粒子状物質及びオキシダントの生成の原因とならない物質として政令で定める物質を除いたものであり、トルエン、キシレン、ジクロロメタン、エチルベンゼン、ベンゼン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メタノール、イソプロピルアルコール、酢酸エチル、酢酸ブチル等を挙げることができる。特に、トルエンやキシレンは、印刷や塗装関係の工場や事業所で溶剤として多用されており、排出量が多い。
【0013】
「揮発性有機化合物の酸化分解温度を低下させる触媒体」の触媒としては、白金、パラジウム、ロジウム、金、イリジウム、ルテニウム等の金属触媒や、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化スズ、酸化マンガン、酸化タンタル等の金属酸化物触媒を使用することができる。或いは、複数の金属触媒、複数の金属酸化物触媒、または金属触媒と金属酸化物触媒を組み合わせた複合触媒を使用することもできる。なお、VOCの酸化分解温度は650〜800℃であるが、上記の触媒の作用により200〜400℃で酸化分解させることができる。
【0014】
「触媒体」が「ガスを流通させるガス流路を備えている」構成としては、触媒体がガス流通が可能な多孔質体であり、気孔内部に触媒が担持されている構成、触媒体自体に貫通孔が穿設されている構成、ガスが流通可能な空隙を残しつつ粉末状や粒状の触媒が充填されている構成、を例示することができる。
【0015】
加熱部及び触媒部が、それぞれケーシングの内部空間を「軸方向に交差する方向」に区画するように配設されている構成としては、加熱部及び触媒部がケーシングの軸方向に直交する方向に配設されている構成の他、加熱部及び触媒部がケーシングの軸方向に斜めに交わるように配設されている構成とすることができる。
【0016】
上記構成により、VOCを含有する未処理ガスが送風機によって吸引されると、建物の内部側で送風機を被覆している揮発性有機化合物処理ユニットに流入する。揮発性有機化合物処理ユニットは、触媒部が送風機側となるように取り付けられているため、加熱部が建物の内部側に位置している。従って、送風機によって吸引された未処理ガスは、まず、加熱部において導電性発熱体の孔部に流入する。導電性発熱体は電極への通電により発熱しているため、孔部を流通する際に未処理ガスが加熱される。加熱された未処理ガスは、揮発性有機化合物処理ユニットにおいて送風機側にある触媒部に流入し、触媒の作用を受ける。従って、予め加熱部において、未処理ガスの温度を触媒存在下でのVOCの酸化分解温度まで高めてから、触媒部に導入することができるため、直接燃焼によって酸化分解させる場合より低温でVOCを分解させることができる。VOCが分解除去された処理済みのガスは、送風機を介して建物の外部に排出される。
【0017】
上記構成において、送風機は、壁または天井に設けられた通気孔に嵌め込まれた構成とすることが可能である。その場合は、送風機を被覆するように揮発性有機化合物処理ユニットを取り付けるに当たり、従来の据え置き型のVOC処理装置とは異なり、床面に設置スペースを必要としない。これにより、稼働中の工場など新たな装置を設置するスペースの余裕がない事業所であっても、上記構成の本発明を採用しやすい。
【0018】
また、現状でVOCを処理する設備を備えていない事業所であっても、事業所内で発生するVOCを屋外に排出するための送風機(換気扇)を備えている事業所は多い。そのような事業所では、既存の送風機を使用して、上記構成の設置構造を実現することができる。これにより、新たに導入すべき構成要素は、揮発性有機化合物処理ユニットのみで足りるため、初期投資(導入コスト)を軽減することができる。
【0019】
そして、このように既存の送風機に揮発性有機化合物処理ユニットを取り付ける場合は、揮発性有機化合物を処理する設備を設置するに当たり、事業所内に新たなスペースを必要としない。例えば、仮に、空気より重い気体を効率よく吸引できるように、床に設けられた通気孔に送風機が嵌め込まれている場合であっても、送風機のためのスペースは事業所内で既に確保されていたスペースである。従って、新たな装置を設置するためのスペースの余裕がない事業所であっても、本発明の設置構造を採用しやすい。
【0020】
加えて、従来の据え置き型のVOC処理装置では、ブロワやファンなど、未処理ガスを集めて装置内に供給する送風機の能力によって、VOC処理能力が制限される傾向があった。そして、VOC処理能力を高めるために送風機を大型化すると、VOC処理装置全体が大型化し、事業所内における作業スペースを圧迫するという問題、及び、VOC装置が高価となるという問題があった。これに対し、本発明では、揮発性有機化合物処理ユニットは送風機を被覆するように取り付けられるため、送風機を壁または天井に設ければ、送風機を大型化したとしても、作業スペースに及ぼす影響が少ない。或いは、VOCが発生する事業所では、従前より大型の送風機を備えている事業所が多いため、既存の設備を利用することにより、作業スペースに影響を及ぼすことなく、また、初期投資を軽減しながら、VOC処理能力を高いものとすることができる。
【0021】
更に、特許文献3の発明の実施品を含め、従来のVOC処理装置では、VOCを分解処理する部分の面積より、ブロワやファンなどの送風機を介して装置内にガスを導入するための管の断面積の方が小さいのが一般的である。そのため、VOCを分解処理する部分の全体をVOCの分解のために有効に使うことが難しく、処理効率を高めにくいという問題があった。また、従来のVOC処理装置では、管を介して装置内に供給されたガスが装置内で広がることにより、ガスを下流まで送る圧力が不十分となるおそれがあった。これに対し、本発明は、揮発性有機化合物処理ユニットで送風機を被覆する構成であるため、送風機が吸引するガスが、加熱部及び触媒部の全断面積を通過しやすい。これにより、VOCを分解処理する加熱部及び触媒部が、全断面積にわたりVOCの分解のために有効に使用されやすく、処理効率が高いものとなる。加えて、送風機の吸引による圧力が、加熱部及び触媒部において失われにくいため、十分な圧力でガスを吸引し、排出することができる。
【0022】
本発明にかかる揮発性有機化合物処理ユニットの設置構造は、上記構成に替えて、
「ガスを流通させる孔部が形成された導電性発熱体に電極が取り付けられている加熱部、
揮発性有機化合物の酸化分解温度を低下させる触媒体が、ガスを流通させるガス流路を備えている触媒部、及び
前記加熱部及び前記触媒部を内部に支持する筒状のケーシングを備え、
前記加熱部及び前記触媒部が、それぞれ前記ケーシングの内部空間を軸方向に交差する方向に区画するように配設されている揮発性有機化合物処理ユニットと、
建物の壁、天井、または、床に設けられ、建物の外部空間または該外部空間と連通している空間に開口している通気孔に嵌め込まれた排気用の送風機とを具備し、
前記揮発性有機化合物処理ユニットが前記送風機を、建物の外部空間または該外部空間と連通している空間で被覆するように、前記加熱部を前記送風機に向けた状態で取り付けられている」ものとすることができる。
【0023】
上記構成により、送風機によって吸引された未処理ガスは、送風機から排出されて、建物の外部側または建物の外部空間に連通した空間側で送風機を被覆している揮発性有機化合物処理ユニットに流入する。揮発性有機化合物処理ユニットは、加熱部が送風機側となるように取り付けられているため、未処理ガスは、まず、加熱部において導電性発熱体の孔部に流入する。そして、上記と同様に、未処理ガスは加熱部で加熱されてから触媒部に流入し、触媒の作用により酸化分解され、揮発性有機化合物処理ユニットから排出されると共に建物の外部空間に放出される。
【0024】
従って、上記構成の本発明は、揮発性有機化合物処理ユニットが建物の内部側で送風機を被覆している上述の構成の発明と、同様の作用効果を奏する。加えて、揮発性有機化合物処理ユニットが建物の外部側または建物の外部空間に連通した空間側で取り付けられるため、建物の内部空間にスペースの余裕がない場合であっても、問題なく取り付けることができる。
【0025】
次に、本発明にかかる揮発性有機化合物処理ユニットは、「ガスを流通させる孔部が形成された導電性発熱体に電極が取り付けられている加熱部と、
揮発性有機化合物の酸化分解温度を低下させる触媒体が、ガスを流通させるガス流路を備えている触媒部と、
前記加熱部及び前記触媒部を内部に支持する筒状のケーシングと、
前記ケーシングの内部空間と建物の壁、天井、または、床に設けられた通気孔とが連通するように、前記ケーシングを壁、天井、または、床に取り付けるために前記ケーシングに設けられた取付部とを備え、
前記加熱部及び前記触媒部は、それぞれ前記ケーシングの内部空間を軸方向に交差する方向に区画するように配設されている」ものである。
【0026】
このような構成の揮発性有機化合物処理ユニットは、上述の揮発性有機化合物処理ユニットの設置構造の構成要素として適している。なお、揮発性有機化合物処理ユニット、壁、天井、または、床に取り付けられるものであっても、送風機に取り付けられるものであっても、送風機を通気孔に嵌め込ませている枠などの部材に取り付けられるものであっても良い。
【発明の効果】
【0027】
以上のように、本発明の効果として、揮発性有機化合物を処理する設備として、設置スペースに余裕のない事業所であっても導入しやすく、且つ、導入コストを軽減できる、揮発性有機化合物処理ユニットの設置構造を提供することができる。また、該設置構造の構成要素として適した揮発性有機化合物処理ユニットを、提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の第一実施形態である揮発性有機化合物処理ユニットの設置構造を示す断面図である。
【図2】図1におけるX−X線断面図である。
【図3】図1におけるY−Y線断面図である。
【図4】本発明の第二実施形態である揮発性有機化合物処理ユニットの設置構造を示す断面図である。
【図5】導電性発熱体を構成するハニカム構造部の(a)斜視図、及び、(b)軸方向に直交する方向に切断した断面図である。
【図6】ハニカム構造部及び連結部を備える導電性発熱体の製造方法を例示する図である。
【図7】特許文献3のVOC処理装置の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の第一実施形態である揮発性有機化合物処理ユニット1の設置構造、及び、揮発性有機化合物処理ユニット1の構成について、図1乃至図3、図5及び図6に基づいて説明する。本実施形態の設置構造は、壁、天井、または、床に設けられ、建物の外部空間または該外部空間と連通している空間に開口している通気孔61に嵌め込まれた送風機50を、建物の内部空間で被覆するように、揮発性有機化合物処理ユニット1(以下、単に「処理ユニット1」と称する)が取り付けられている構造である。なお、図1では、建物の壁60に設けられた通気孔61に、送風機50が嵌め込まれている場合を例示している。
【0030】
また、処理ユニット1は、ガスを流通させる孔部が形成された導電性発熱体20に電極21が取り付けられている加熱部2と、揮発性有機化合物の酸化分解温度を低下させる触媒体31が、ガスを流通させるガス流路を備えている触媒部3と、加熱部2及び触媒部3を内部に支持する筒状のケーシング40と、ケーシング40の触媒部3側の端部に形成された、ケーシング40を壁60に取り付けるための取付部とを備えており、加熱部2及び触媒部3は、それぞれケーシング40の内部空間を軸方向に交差する方向に区画するように配設されている。
【0031】
そして、処理ユニット1は、加熱部2を建物の内部側に向けると共に触媒部3を送風機50側に向け、ケーシング40の内部空間が通気孔部61と連通するように、壁60に対して取り付けられている。
【0032】
より詳細に説明すると、送風機50は角筒状の支持枠56に回転翼部55が支持された構成であり、支持枠56を通気孔61に内嵌させることにより、送風機50が通気孔61に嵌め込まれている。
【0033】
処理ユニット1において、ケーシング40は角筒状で、その断面形状及び大きさは、送風機50の支持枠56の断面形状及び大きさと同一である。また、触媒部3側のケーシング40の端部には、外側に向けてフランジ部44aが設けられている。ここで、フランジ部44aが、本発明の「取付部」に相当する。そして、ケーシング40の内部には、加熱部2と触媒部3とが、それぞれ電気絶縁性の断熱材42を介して支持され、ケーシング40の軸方向に直交する方向に配設されている。なお、加熱部2と触媒部3との間は空隙となっている。
【0034】
ここで、加熱部2は、図2に示すように、ケーシング40の軸方向に直交する方向に列設された三つの導電性発熱体20を備えており、隣接する導電性発熱体20間には、電気絶縁性の断熱材42が充填されている。そして、それぞれの導電性発熱体20は、図5に示すような、単一の軸方向Zに延びて列設された複数の隔壁12により区画された複数のセル11を備えるハニカム構造部10を備えている。ここで、ハニカム構造部10におけるセル11が、本発明の「ガスを流通させる孔部」に相当する。このようにハニカム構造とすることにより、形状及び大きさが厳密に制御されたセル11によって、ガスを流通させる孔部を構成させることができる。そして、一つの導電性発熱体20は三つのハニカム構造部10を備えており、隣接するハニカム構造部10は連結部15で連結されることにより一体化されている。
【0035】
本実施形態では、ハニカム構造部10、及び、連結部15は、共に導電性セラミックス焼結体で形成されており、両者は焼結により一体化されている。このような構成の導電性発熱体20は、例えば、次のように製造することができる。まず、図6に示すように、焼結により導電性セラミックス焼結体となるセラミックス材料を押出成形することにより、ハニカム構造の成形体10gを複数作製する。そして、隣接する成形体10g間に、導電性セラミックス焼結体となるセラミックス材料でシート状に形成されたシート状未焼成体15gを挟み、貼り合わせる。そして、成形体10gとシート状未焼成体15gとが貼り合わされた状態で焼成することにより、成形体10gとシート状未焼成体15gとが焼結し、両者が一体となった導電性発熱体20が得られる。ここで、一つの導電性発熱体20において、ハニカム構造部10の軸方向Zの長さと、同方向の連結部15の長さは同一である。
【0036】
一般的に、ハニカム構造のセラミックスを押出成形によって成形する場合、大きな断面積の成形体を得ることは困難であるところ、上述のように、複数のハニカム構造部10を軸方向に直交する方向に連結部15によって連結することにより、導電性発熱体20の断面積を大きくすることができる。
【0037】
なお、ハニカム構造部10を形成している導電性セラミックス焼結体と、連結部15を形成している導電性セラミックス焼結体とは、セラミックスの種類や組成が同一であっても異なっていても良いが、熱膨張率が同一または同程度であれば、加熱に伴い熱応力が発生しにくく望ましい。また、ハニカム構造部10の隔壁12、及び、連結部15は多孔質であっても緻密質であっても良いが、多孔質であれば、気孔によって未処理ガス中に含まれる微小な塵や粒子状物質が捕集・除去されるフィルタリング作用が発揮されるため、好適である。
【0038】
本実施形態では、成形体10gとシート状未焼成体15gとを同組成の炭化珪素質セラミックス原料を用いて形成しており、その結果、ハニカム構造部10の隔壁12と連結部15とは、気孔率、熱伝導率、及び、電気伝導率がほぼ等しい多孔質炭化珪素質セラミックス焼結体となっている。なお、炭化珪素は高純度の場合は絶縁体に近いが、微量の不純物の存在により半導体となる。例えば、炭化珪素の珪素源を窒化珪素とし、炭素源との反応焼結によって炭化珪素を反応生成させることにより、窒素が炭化珪素にドープされてN型半導体となった炭化珪素質セラミックス焼結体を得ることができる。
【0039】
上記構成の導電性発熱体20のそれぞれには、上端及び下端に一対の電極21が接続されている。なお、多孔質の導電性発熱体20と電極21との電気的な接続を良好にするために、導電性発熱体20と電極21との間に、溶融した金属が固化した金属の層を設けることができる。このような金属の層は、例えば、アルミニウムの溶射により形成することができる。
【0040】
なお、本実施形態では、加熱部2に対して枠体45を取り付けており、枠体45はケーシング40の端部側で、ケーシング40の内部に嵌め込まれている。そして、枠体45の厚さは、枠体45の内周が導電性発熱体20の外周より内側となるように設定されている。
【0041】
触媒部3では、図3に示すように、触媒体31の外表面が断熱材42で被覆されている。ここで、本実施形態の触媒体31は、多孔質のコージェライトセラミックスのハニカム構造体を基体とし、その気孔内部に貴金属触媒が担持されたものである。
【0042】
上記構成の処理ユニット1は、ケーシング40の内部空間と壁60の通気孔61が連通した状態で、フランジ部44aを壁60の内側に当接し、釘などを用いてフランジ部44aを壁60に留め付けることにより、壁60に対して取り付けることができる。
【0043】
次に、本実施形態の設置構造におけるガスの処理について説明する。まず、工場などの建物の内部空間で発生したVOCを含有する未処理ガスが、送風機50よって吸引されると、加熱部22側から処理ユニット1に導入される。このとき加熱部22では、電極21に通電することによって導電性発熱体20が発熱しているため、未処理ガスは導電性発熱体20を通過する際に加熱される。ここで、それぞれの導電性発熱体20は、多数のセル11が列設されたハニカム構造部10を備えるため、ガスはセル11内を流通する際に効率良く加熱される。なお、本実施形態では、加熱された未処理ガスの温度が、触媒存在下でVOCが酸化分解可能な約300℃に達するよう、導電性発熱体20への通電を調整している。
【0044】
加えて、ハニカム構造部10の隔壁12は多孔質であるため、ガス中に存在する微小な塵や粒子状物質は、隔壁12に開口している気孔によって捕集される。
【0045】
加熱部2を通過することによって加熱された未処理ガスは、次に、触媒部3に流入し、触媒が担持されたハニカム構造体である触媒体31を通過する。この際、未処理ガスは既に加熱部2において、触媒存在下でVOCが酸化分解可能な温度まで十分に加熱されているため、触媒と接触することにより、ガス中のVOCは直接燃焼によって酸化分解する場合に比べて低温で酸化分解される。
【0046】
そして、VOCが酸化分解された後の処理済みガスは、処理ユニット1から排出され、送風機50を介して建物の外部空間に放出される。
【0047】
上記のように、本実施形態の設置構造によれば、処理ユニット1が壁60に対して取り付けられるため、床に設置スペースを必要とせず、新たな装置を設置するスペースの余裕がない事業所であっても導入しやすい構成となっている。
【0048】
また、現状でVOCを処理する設備を備えていなくても、換気用の送風機を備えている事業所は多いため、既存の送風機を使用すれば、新たに導入すべき構成は処理ユニット1のみで足り、初期投資を抑えて本実施形態の設置構造を実現することができる。
【0049】
加えて、壁60に設けられた送風機50に処理ユニット1が取り付けられる構成であるため、作業用の床面スペースに影響を及ぼすことなく送風機50を大型化することができる。或いは、作業用の床面スペースに影響を及ぼすことなく、上記構成の設置構造を構成する送風機50及び処理ユニット1を、複数設けることができる。これにより、作業用の床面スペースに影響を及ぼすことなく、VOCの処理能力を高めることができる。
【0050】
更に、送風機50の支持枠56と処理ユニット1のケーシング40とが、同一の形状及び大きさであるため、送風機50が吸引するガスの全体を、加熱部2及び触媒部3の全断面積で処理しやすいものとなっている。これにより、加熱部2及び触媒部3の全断面積がVOCの分解のために有効に使用され、処理効率が高いものとなる。加えて、処理ユニット1に流入したガスが送風機50から排出されるまで、ガスの流通路の断面積が広がったり狭まったりすることがないため、送風機50よって与えられる圧力の損失が少なく、十分な圧力でガスを吸引し、建物の外部空間に排出することができる。
【0051】
また、本実施形態では、枠体45の存在により、ガスがケーシング40内を流通する空間と電極21が存在する空間とが遮断されている。これにより、仮に、VOCを含む未処理ガスに粉塵など粒子状の異物が含有されていても、異物が電極21と接触して発火するおそれが回避されている。また、電極21と導電性発熱体20との間に異物が入り込み、通電の不良をまねくおそれも回避されている。なお、上記では、枠体45を、加熱部2の上流側(ケーシング40の端部側)にのみ設ける場合を例示したが、導電性発熱体20を上流側及び下流側から挟み込むように、一対の枠体45を設けることもできる。
【0052】
更に、本実施形態では、ハニカム構造部10及び連結部15は共に炭化珪素質セラミックス焼結体で形成されており、炭化珪素質セラミックス焼結体は、高強度であると共に熱伝導率が高く熱膨張率が小さいことから、耐熱衝撃性に優れている。そのため、使用に伴って加熱と冷却が繰り返される導電性発熱体20として適しており、加熱部2全体の耐久性が高いものとなっている。加えて、熱伝導率が高いことにより、通電によって導電性発熱体20の温度は速やかに上昇するため、効率良く未処理ガスを加熱することができる。更に、炭化珪素質セラミックス焼結体は、耐酸化性、耐食性にも優れるため、種々のVOCを含有する未処理ガスを加熱する発熱体20として適している。
【0053】
加えて、複数のハニカム構造部10を連結している連結部15は、焼結によりハニカム構造部10と一体化しているため、導電性発熱体20全体の強度が高く、連結部15における亀裂等の発生が抑制されている。また、本実施形態では、ハニカム構造部10及び連結部15は同組成の炭化珪素質セラミックス焼結体であるため、熱膨張率が等しく、加熱に伴う熱応力の発生が抑制されている。更に、連結部15も導電性のセラミックス焼結体であるため、複数のハニカム構造部10のそれぞれに電極を設ける必要がなく、複数のハニカム構造部10が連結されて形成された導電性発熱体20の両端に電極21を設ければ足りる。これにより、VOC処理ユニット1を簡易な構成とすることができる。
【0054】
次に、第二実施形態である揮発性有機化合物処理ユニット1bの設置構造、及び、揮発性有機化合物処理ユニット1b(以下、単に「処理ユニット1b」と称する)の構成について、図4を用いて説明する。第一実施形態の設置構造との相違は、揮発性有機化合物処理ユニット1bが送風機50を建物の外部空間で被覆するように、壁60に対して取り付けられる点である。
【0055】
また、処理ユニット1bが処理ユニット1と相違する点は、ケーシング40において加熱部2側の端部から外側に向けてフランジ部44bが形成されている点である。また、フランジ部44bには、電極21を被覆する断面逆L字状のカバー部46が取り付けられている。加えて、ケーシング40において触媒部3側の端部からは、内側に向けて内フランジ部47が形成されている。
【0056】
そして、処理ユニット1bは、加熱部2を送風機50側に向けると共に触媒部3を建物の外部側に向けた状態で、壁60に対して取り付けられる。その他の構成については、処理ユニット1bは処理ユニット1と同様である。
【0057】
上記構成の処理ユニット1bは、ケーシング40の内部空間と壁60の通気孔61が連通した状態で、フランジ部44bを壁60の外側に当接し、釘などを用いてフランジ部56bを壁60に留め付けることにより、壁60に対して取り付けることができる。
【0058】
次に、第二実施形態の設置構造におけるガスの処理について説明する。まず、工場などの建物の内部空間で発生したVOCを含有する未処理ガスは、送風機50よって吸引されて建物の外部に向けて排出され、加熱部2側から処理ユニット1に導入される。その後は、上記と同様に、未処理ガスは加熱部2で加熱された後、触媒部3で触媒体31の作用を受けてVOCが酸化分解される。そして、処理済みのガスは、処理ユニット1bから排出され、建物外部空間に放出される。
【0059】
上記のように、第二実施形態の設置構造によれば、第一実施形態の設置構造と同様の作用効果を奏する。加えて、処理ユニット1bが建物の外部側から壁60に対して取り付けられるため、建物の内部空間にスペースの余裕がない場合であっても、導入しやすい構成となっている。
【0060】
なお、処理ユニット1bはカバー部46を備えているため、電極21が雨水によって濡れることが防止されている。また、外部側のケーシング40の端部に内フランジ部47が形成されているため、触媒部3が雨水によって濡れるおそれが低減されている。なお、外部側のケーシング40の端部に、開閉自在なシャッターを取り付けても良い。
【0061】
以上、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、以下に示すように、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計の変更が可能である。
【0062】
例えば、上記の実施形態では、加熱部2及び触媒部3が一つずつ設けられる処理ユニット1,1bを例示したが、加熱部2及び触媒部3の少なくとも一方を複数備える構成の処理ユニットとすることもできる。
【0063】
加えて、触媒体31として多孔質体(ハニカム構造体)に触媒を担持させたものを例示したが、これに限定されず、例えば、発泡金属など触媒自体を多孔質構造として用いることができる。
【0064】
また、上記では、処理ユニット1,1bがそれぞれフランジ部44a,44bを介して壁60に直接取り付けられる場合を例示したが、これに限定されず、処理ユニット1,1bが送風機50の支持枠56に取り付けられることにより、送風機50を介して壁60に支持される構成とすることもできる。例えば、処理ユニット1,1bのケーシング40の端部と、送風機50の支持枠56とを、互いに嵌合する形態とすることができる。
【符号の説明】
【0065】
1,1b 処理ユニット(揮発性有機化合物処理ユニット)
2 加熱部
3 触媒部
20 導電性発熱体
21 電極
31 触媒体
40 ケーシング
44a,44b フランジ部(取付部)
50 送風機
60 壁
61 通気孔
【先行技術文献】
【特許文献】
【0066】
【特許文献1】特開平11−221430号公報
【特許文献2】特開2005−279570号公報
【特許文献3】特開2009−279482号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスを流通させる孔部が形成された導電性発熱体に電極が取り付けられている加熱部、
揮発性有機化合物の酸化分解温度を低下させる触媒体が、ガスを流通させるガス流路を備えている触媒部、及び
前記加熱部及び前記触媒部を内部に支持する筒状のケーシングを備え、
前記加熱部及び前記触媒部が、それぞれ前記ケーシングの内部空間を軸方向に交差する方向に区画するように配設されている揮発性有機化合物処理ユニットと、
建物の壁、天井、または、床に設けられ、建物の外部空間または該外部空間と連通している空間に開口している通気孔に嵌め込まれた排気用の送風機とを具備し、
前記揮発性有機化合物処理ユニットが前記送風機を、建物の内部空間で被覆するように、前記触媒部を前記送風機に向けた状態で取り付けられている
ことを特徴とする揮発性有機化合物処理ユニットの設置構造。
【請求項2】
ガスを流通させる孔部が形成された導電性発熱体に電極が取り付けられている加熱部、
揮発性有機化合物の酸化分解温度を低下させる触媒体が、ガスを流通させるガス流路を備えている触媒部、及び
前記加熱部及び前記触媒部を内部に支持する筒状のケーシングを備え、
前記加熱部及び前記触媒部が、それぞれ前記ケーシングの内部空間を軸方向に交差する方向に区画するように配設されている揮発性有機化合物処理ユニットと、
建物の壁、天井、または、床に設けられ、建物の外部空間または該外部空間と連通している空間に開口している通気孔に嵌め込まれた排気用の送風機とを具備し、
前記揮発性有機化合物処理ユニットが前記送風機を、建物の外部空間または該外部空間と連通している空間で被覆するように、前記加熱部を前記送風機に向けた状態で取り付けられている
ことを特徴とする揮発性有機化合物処理ユニットの設置構造。
【請求項3】
ガスを流通させる孔部が形成された導電性発熱体に電極が取り付けられている加熱部と、
揮発性有機化合物の酸化分解温度を低下させる触媒体が、ガスを流通させるガス流路を備えている触媒部と、
前記加熱部及び前記触媒部を内部に支持する筒状のケーシングと、
前記ケーシングの内部空間と建物の壁、天井、または、床に設けられた通気孔とが連通するように、前記ケーシングを壁、天井、または、床に取り付けるために前記ケーシングに設けられた取付部とを備え、
前記加熱部及び前記触媒部は、それぞれ前記ケーシングの内部空間を軸方向に交差する方向に区画するように配設されている
ことを特徴とする揮発性有機化合物処理ユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−125705(P2012−125705A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−279743(P2010−279743)
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【出願人】(000220767)東京窯業株式会社 (211)
【Fターム(参考)】