説明

揮発性有機化合物分解用の熱触媒ユニット

【課題】酸化物半導体の熱励起による分解能を利用したVOCの分解除去技術にあって、内部加熱型システムに好適な熱触媒ユニットを提供する。
【解決手段】揮発性有機化合物の分解除去に用いる熱触媒ユニットであって、当該ユニットは複数の積層された支持枠体と発熱体と熱触媒素子とからなり、前記支持枠体は内部空間を備え、その内部空間に発熱体が配設され、かつこの発熱体に対向して内部空間に網目体に酸化物半導体を担持させた熱触媒素子が嵌め込まれて構成された熱触媒ユニットであり、発熱体と熱触媒素子とを夫々の機能に分けこれを最適化した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揮発性有機化合物(VOC:Volatile Organic Compound)の分解除去に関するものであり、更に言えば、VOC並びに有害気体物質(以下、単にVOCにて略記)の分解除去に好適な熱触媒ユニットに係るものである。
【背景技術】
【0002】
本発明者らは、酸化物半導体を熱励起することによって大量に発生する正孔を利用し、有機化合物を水と炭酸ガスにまで完全に分解する技術を提供している(特許文献1)。
【0003】
そして、かかる熱励起によってもたらされる酸化物半導体の高い分解能力を利用し、特に、大気汚染等で大きな問題となっているVOCや各種悪臭成分の分解除去にターゲットを絞って開発を進めてきた(非特許文献1)。
【0004】
VOCの分解除去については、これまでに幾つかの提案がなされてきたが、いずれも社会の要請に充分にマッチするものではない。第1の提案は、VOCを燃焼して分解する方法である。即ち、直接燃焼法、蓄熱法、触媒燃焼法等が提案されているが、システムそのものが比較的大型のシステムとなる。このため、かかるシステムは、大風量で高濃度の排気ガスの処理に向いており、大企業、大工場には採用され得るが、比較的少量のVOCに対する小型のシステムには不適である。
【0005】
第2の提案は、光触媒、オゾン、プラズマ、微生物等による分解方法である。しかしながら、分解能の小さいことが欠点であり、限定された風量、濃度の排気ガスにしか適応できないシステムであって、中小企業といえども、その採用は難しいといわれている。
【0006】
VOC処理は、その発生源により近い部位での処理が好適であることは言うまでもなく、より小型化した、効率の高い処理システムの開発が要請されている。しかるに、熱励起による酸化物半導体の分解能は、例えば、光触媒の分解能をはるかに上回る能力があり、VOCの完全分解が可能で、かつ、小型化できるシステムが可能となったものである。特に、アンモニア、硫化水素等の悪臭は、0.01ppm以下までの分解能が要求されるところ、上記した熱励起による分解能は充分にこれが達成可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005ー139440号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】コンバーテック(2009年1月15日発行):第37巻第1号第128〜133頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかるに、酸化物半導体の熱励起によるVOCの分解技術において、酸化物半導体を350〜500℃に加熱する必要がある。このため、システム外の外部ヒーターにて加熱するシステム(外部加熱型)と、ヒーター内蔵型のシステム(内部加熱型)の二通りがあるが、本発明の主たる目的は、VOCの分解除去システムの小型化がより可能な内部加熱型システムに好適な熱触媒ユニットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の要旨は、揮発性有機化合物の分解除去に用いる熱触媒ユニットであって、当該ユニットは複数の積層された支持枠体と発熱体と熱触媒素子とからなり、前記支持枠体は内部空間を備え、その内部空間に発熱体が配設され、かつこの発熱体に対向して内部空間に網目体に酸化物半導体を担持させた熱触媒素子が嵌め込まれて構成されたことを特徴とする熱触媒ユニットにかかるものである。言い換えれば、熱触媒ユニットを構成する発熱体と熱触媒素子とを夫々の機能に分け、これを最適化することを目的としたもので、いずれも所望の数量を組み合わせることで夫々の機能を阻害することなく、最適な触媒能を発揮できる熱触媒ユニットとなったものである。尚、必要であれば、揮発性有機化合物の流入側に、内部空間に発熱体のみを配設した支持枠体を積層し、予備加熱を施すことも好ましいユニット構造である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の熱触媒ユニットにあって、これを構成する二つの素子は夫々別体のものを得、これを組み合わせることによって比較的容易に当該ユニットが構成されるものであって、熱触媒ユニットの作製、組み立ても簡略されるので、ユニットの信頼性、処理条件に対する適用性も大きい。さらに、経済的効果も大きく、製造コストに大きく貢献する。
【0012】
即ち、処理されるVOCの種類や処理量に対して最適な熱触媒ユニットを構成できる点が最大の利点であり、特に、技術的な面での効果としては、熱触媒素子は発熱体で確実に加熱されるので、熱触媒素子の温度を均一に保つことができ、所期の分解除去性能が発揮できることとなる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は発熱体の基体となる支持枠体を示すものである。
【図2】図2は支持枠体をXY方向に積層した際の概略を示すものである。
【図3】図3は熱触媒ユニット(3)の拡大した概略を示すものである。
【図4】図4は熱触媒ユニット(1)による分解特性を示すグラフである。
【図5】図5は支持枠対の別例及び熱触媒ユニット(4)を示す図である。
【図6】図6は実際に用いる熱触媒ユニットの積層例である。
【図7】図7は熱触媒ユニット(4)、(5)を用いた分解特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
先ず、非特許文献1に記載の熱触媒ユニットについて言及する。この文献に記載された内部加熱型システムの熱触媒ユニットは、発熱体として電熱線(例えば、ニクロム線)を用い、この表面に熱触媒の基本となる酸化物半導体を担持する構成を採っている。即ち、非特許文献1の同軸三重管方式(図11)にて例示するように、発熱体の表面に酸化物半導体を担持させた複合ユニットというべきものであり、発熱体と熱触媒とを一体化した構成となっている。
【0015】
かかる複合ユニットは、一見合理的には見えるが、これを製造するには難点が多いことが挙げられる。即ち、発熱体と熱触媒との熱膨張係数の相違に対する対策がなされなくてはならず、更に、熱触媒ユニット製造時に、発熱体同士の接触は許されず、従って、細かな網目状を構成することが製作作業上難しいという欠点がある。又、VOCの処理量が増加することに伴い、熱触媒となる酸化物半導体の枚数を増加する必要がある場合にも、その対応が充分出来ないという欠点がある。
【0016】
又、非特許文献1の図13に示すXY多段方式のように、短冊状にほぼ平行に配設した電熱線(ニクロム線)を発熱体とし、その上に直接酸化物半導体を担持させ、X及びY方向(電熱線の配設方向をほぼ90度ずらした)に向きを変えて積層した方式もある。しかし、この例にあっても、酸化物半導体を担持させた電熱線を接触させずに密に配設することには作業上の点で大きな課題であった。
【0017】
本発明は、上記のXY方式の考えを踏襲しながら、発熱体と熱触媒素子を分離した新たな熱触媒ユニットを提案するものであり、このユニットによる優れたVOC分解特性を確認したものである。言い換えれば、熱触媒ユニットを構成する二つの要素を分離独立させて構成したものであり、最終的にこれを一体化した構成とするものである。そして、従来の課題を解決するだけでなく、熱触媒ユニットの製造が容易であり、VOCのあらゆる燃焼除去システムに好適な熱触媒ユニットを提供できることとなったものである。
【0018】
発熱体は、内部加熱型を目的とすることから、通電することによって発熱する電熱線が好適であり、例えば、ニクロム線(Ni−Cr線)やカンタル線(Fe−Cr−Al線)にて代表される電熱線が挙げられる。かかる電熱線はストレート状のものでもよいが、通常はコイル状に巻き上げられている。電熱線は絶縁体で構成される支持枠体の内部空間に間隔を出来るだけ密にして張設するのが好ましく、通常はX方向(電熱線をほぼ平行に配設)に張設されるものである。
【0019】
即ち、電熱線が支持枠体の内部空間内にほぼ平行に配設され、これによって相互に接触しない短冊状の空域が形成されるものであり、支持枠体をVOC流体の流れに対向し、かつ電熱線の配設方向をずらして積層し、電熱線にて網目状を形成して用いるのが良い。尚、電熱線を支持するための支持枠体は一般に断熱材が用いられ得るが、この断熱材の性状によっては、熱触媒素子に悪影響をもたらすことも予想される。従って、実際に用いられる条件などを考慮して種々の支持枠体が選択される。例えば、支持枠体としては、各種の断熱体が用いられることは勿論であるが、内部空間に桟を渡し、これに固定された碍子チップをもって発熱体を配設することも可能である。
【0020】
熱触媒素子としては、網目体に担持された酸化物半導体であり、かかる網目体としては、例えば、40〜100メッシュのSUSメッシュや、多孔構造体が好適である。多孔構造体としては、セラミックス製の多孔体が好ましく、ハニカム多孔体や三次元網状構造体が挙げられる。中でも、コージライトやゼオライト製のものが好適である。
【0021】
触媒としては、酸化物半導体であり、BeO,MgO,CaO,SrO,BaO,CeO ,ThO ,UO ,U,TiO ,ZrO ,V,Y ,YS,Nb,Ta ,MoO,WO ,MnO ,Fe ,MgFe ,NiFe,ZnFe,ZnCo ,ZnO,CdO,Al ,MgAl ,ZnAl ,Tl ,In ,SiO ,SnO ,PbO ,UO ,Cr ,MgCr ,FeCrO ,CoCrO ,ZnCr ,WO,MnO,Mn ,Mn ,FeO,NiO,CoO,Co,PdO,CuO,CuO,AgO,CoAl ,NiAl ,TlO,GeO,PbO,TiO,Ti ,VO,MoO,IrO ,RuO ,CdS、CdSe,CdTeが挙げられるが、中でも、酸化チタン(TiO)、酸化クロム(Cr)、酸化ニッケル(NiO)、酸化鉄(Fe)が実用性が高い。
【0022】
網目体への酸化物半導体の担持については、例えば、スプレー法、電気泳動電着法、ディップ法等がある。酸化チタン(TiO)の担持を例に取れば、非水溶液系TiO懸濁液(好ましくは、ニトロセルロースを含む)をスプレーガンにて網目体に吹き付ける方法、網目体を一つの極にして懸濁液よりTiOを電気泳動電着させる方法、網目体を懸濁液中にディップさせる方法などがある。
【0023】
尚、網目体と担持させた酸化物半導体との熱膨張係数が大きく異なると担持物が剥離する可能性がある。特に、SUSメッシュを用いた場合には両者の間に中間層を形成しておくのが好ましい。例えば、SUSメッシュを湿潤水素下・1000℃で、或いは空気中・800℃で酸化して表面に選択的にCr膜を形成しておくこともできる。
【0024】
酸化物半導体を担持させた網目体は、1枚でも或いは複数枚積層して熱触媒素子としても良い。尚、好ましくは支持枠体の内部空間に熱触媒素子を嵌め込んで固定されるのが良い。
【実施例】
【0025】
「実施例1」
〔支持枠体及び発熱体(A1)の製作〕
支持枠体として、一辺が100mmで厚さが10mmの絶縁・断熱体の中央部に80mm角の内部空間を設け、発熱体としてコイル状の電熱線(ニクロム線)を3mmピッチで配設した。絶縁・断熱体はニチアス(株)製セラミック系の断熱材(商品名:へミサル)を用いた。実際には、これをステンレス製の外カバーにて覆う構造となっている。
【0026】
図1は支持枠体を示したものであり、燃焼システムへの装着のための構成部分は全て省略してある。図中、1は支持枠体(ヘミサル)であり、2は正方形の内部空間である。内部空間2の対向する一面側の二辺3a、3bに、電熱線7を直線状に配設するためのU溝4a、4bが刻設されており、このU溝4a、4b内に電熱線7を順次配設し、内部空間2のみで見れば、短冊状の空域6aを形成するように電熱線7が配置されている。そして、この例では、内部空間2の反対面側の各辺3a、3b、3c、3dに、後述する熱触媒素子(B)が嵌め込まれる切溝5(5a、5b、5c、5d)が刻設されている。尚、内部空間2にあって、電熱線7を配設するのに便利なように、桟8を備え、これに電熱線7に対するガイド溝7aを構成しておくのが良い。尚、図示はしないが、支持枠体1はステンレス製のカバーにて覆われ、このカバー複数枚が積層されて熱触媒ユニットを構成することとなる。
【0027】
発熱体 (A1)は、上記したように基本的には電熱線を断熱基板に配設したものであるが、電熱線を相互に接触させずに、重ね合わせて構成することも勿論可能である。例えば、上記した発熱体は電熱線7が一方向にほぼ平行に配設されて、短冊状の空域6を形成しているが、発熱体(A1)を複数枚用い、一方の電熱線の配設方向をある角度を持ってずらし、これを重ね合わせることによって多数の網目空域を持つ発熱体ともなる。
図2はXY方向(電熱線の配設方向を90度ずらした)に積層した発熱体の概略図であり、被処理流体に対向して、多数の正方形をなす網目状の空域6bが形成されたものである。勿論、XY方向に積層された発熱体は、電熱線が接触することなく、例えば、熱触媒素子を挟んで積層されるものであるが、このように、被処理流体に対向して、発熱体の形状・間隔を自在に調整することによって、熱触媒素子を均一に加熱することが可能となる。
【0028】
〔熱触媒素子の製作〕
熱触媒素子(B1):(SUSメッシュ+TiO+スプレー法)
触媒を担持する網目体はSUSメッシュ(40、60、100メッシュ、一辺8.5cmの正方形)をそれぞれ使用した。これらのSUSメッシュは湿潤水素で酸化処理を行い、表面にCr層(中間層)の1μm程度の酸化膜を作製した。TiO粉末は石原産業(株)のST−01(比表面積298m/g、粒径7nm)を使用した。ニトロセルロースを含む非水溶媒系TiO懸濁液を調製し、スプレーガンを使用して網目体に吹き付けて触媒を担持した。
【0029】
熱触媒素子(B2):(SUS+Cr+電気泳動電着法)
網目体として前例と同様のSUSメッシュを用い、酸化チタン(TiO)の代わりに酸化クロム(Cr)を用いて熱触媒素子を製作した。酸化クロム(Cr)粉体の担持にはニトロセルロースを含む非水溶媒系Cr懸濁液から、電気泳動電着法(100V、0.03秒で電着)で約5μm程度の酸化クロム膜を形成した。
【0030】
熱触媒素子(B3):(コージライトハニカム+NiO+ディップコート法)
網目体としてSUSメッシュの代わりにコージライトハニカムを用いて熱触媒素子を製作した。コージライトハニカムは、100mm角で厚みが10mmである。また、このハニカムの目の細かさは200cpi(cells per square inch)である。特級アセトン100mlに対し、ニトロセルロース0.3gを溶かした溶液に、NiO粉末10gを懸濁させた懸濁液を使って、コージライトハニカムに2度ディップコートを行って、NiOを担持させた。
【0031】
〔熱触媒ユニットの製作〕
熱触媒ユニット(1):(発熱体 (A1)+熱触媒素子(B1))
発熱体 (A1)と、熱触媒素子(B1)にて得られた3枚のSUSメッシュを重ねあわせて1セットとし、支持枠体1の切溝5内に納めた。そして、90度回転させた別セットを重ねて熱触媒ユニットとした。支持枠体1としては、XY方向(電熱線を90度ずらした)に二枚積層したこととなる。
【0032】
熱触媒ユニット(2):(発熱体(A1)+熱触媒素子(B2))
熱触媒素子の製作(B2)にて製作した40、60、100メッシュのSUS/Crメッシュを、各々1枚ずつ重ねたものを熱触媒素子とし、上述の支持枠体1の切溝5内にこれを納めた。そして、前例と同様にXY方向に二枚積層して熱触媒ユニットを得た。
【0033】
熱触媒ユニット(3):(発熱体(A1)+熱触媒素子(B3))
熱触媒素子の製作(B3)にて製作したコージライトハニカム触媒素子10を、上述の支持枠体1の切溝5内に納めた。図3は、その概略を示すものである。そして、これも前例と同様にXY方向に二枚積層して熱触媒ユニットを得た。
【0034】
〔VOC分解実験〕
熱触媒ユニット(1)による分解
分解実験システムの概略は、非特許文献1の図9に記載のシステムに準ずるが、熱触媒ユニットの加熱は電熱線に通電する内部型加熱によって行った。空気をキャリヤーガスとして、12000ppmの濃度のトルエンガスを500(ml/min)の流速で反応器に導き、室温から500℃の温度領域で分解実験を行った。反応器内にこの熱触媒ユニットが納めてある。分解ガスはガスクロマトグラフと四重極質量分析装置を用いて分析した。
トルエンガスの分解特性を図4に示すが、300℃を越えるあたりからトルエンガスの分解が始まり、これに伴い酸素が消費され、二酸化炭素が増加した。500℃でトルエンガスは完全分解分解し、水と炭酸ガスに変化した。
【0035】
熱触媒ユニット(2)による分解
分解実験の概略は、熱触媒ユニット(1)による分解と同様である。
250℃あたりからトルエンガスの分解が始まり、急激にトルエンガス分解が進行し、400℃で完全にトルエンガスはゼロまで分解した。
【0036】
熱触媒ユニット(3)による分解
分解実験の概略は、熱触媒ユニット(1)による分解と同様である。
250℃あたりからトルエンガスの分解が始まり、急激にトルエンガス分解が進行し、400℃で完全にトルエンガスはゼロまで分解した。
【0037】
上記した実施例1は支持枠体として断熱材(具体的には、ヘミサル)を主体とした例であるが、使用の状況によっては、既に述べたように熱履歴に起因する亀裂などが生じることも懸念される。更には、断熱材から水分やガスが放出されることもあり、これが熱触媒素子に悪影響を及ぼすことも考えておかなければならない。
以下の実施例2にあっては、支持枠体自体をステンレス製とし、実施例1における外カバーと一体化した例である。
【0038】
「実施例2」
〔支持枠体及び発熱体(A2)の製作〕
図5はステンレス製の支持枠体21を示すものであり、一辺が100mmの正方形であり、中央部に一辺が80mmの正方形の内部空間22を設けたものである。そして、その外側に同材質よりなる外カバー21Aが溶接されている。23は内部空間22を横切って溶接された桟であり、この桟23上に碍子製のチップ24がねじ止め(図示せず)されている。このチップ24には内部が若干広くなる切溝24Aが形成されており、この切溝24A内に電熱線25が嵌め込まれて配設される。電熱線25は、湿潤水素で表面酸化処理を施したニクロム線(Ni−Cr/Cr:線径0.5mm、400W)であり、これを外径3.8mmのスパイラル状としたものを用いた。尚、電熱線25に対向して、熱触媒素子を嵌め込むための皿状受部26が備えられている。
【0039】
熱触媒素子(B4):(コージライトハニカム+NiO+ディップコート法)
網目体としてコージライトハニカムを用いて熱触媒素子を製作した。コージライトハニカムは、100mm角で厚みが30mmである。このハニカムの目の細かさは100cpiである。そして、特級アセトン100mlに対し、ニトロセルロース0.1gを溶かした溶液に、NiO粉末10gを懸濁させた懸濁液を使い、コージライトハニカムを30秒間浸漬し、その後、空気中で200℃で30分乾燥させてNiOを担持させた。
【0040】
熱触媒素子(B4)におけるNiOの代わりに酸化クロム(Cr)を用いて熱触媒素子(B5)を得た。同様に、NiOの代わりにそれぞれ酸化鉄(Fe)、酸化チタン(TiO)を用いて熱触媒素子(6)、(7)を作製した。
【0041】
〔熱触媒ユニット4、5の製作〕
図5に示す皿状受部26内に熱触媒素子(B4)、(B5)、(B6)、(B7)を嵌め込んで熱触媒ユニット4、5、6、7を製造した。
【0042】
〔VOC分解実験〕
熱触媒ユニット (4)による分解
分解実験システムの概略は、熱触媒ユニット(1)の場合と同様であるが、図6に熱触媒ユニットの実際例を示す。これは図5にて示す熱触媒ユニット(4)(図のC)を四枚用い、電熱線25をXY方向に交互に向きを変えて重ね合わせたものである。又、ガスの分解に際して、ガスの加熱時間を短縮する必要がある場合には、熱触媒素子を嵌め込まない加熱ユニットDを熱触媒ユニットCに重ね合わせて用いることも可能である。尚、各ユニットを重ねる場合、ガス体が外部に漏れないように、例えば、カーボンやアルミナ繊維(厚さ1〜1.5mm)製のパッキング(図示せず)を挟み込むのが良い。更に好ましい熱触媒ユニットとしては、ユニット内を通過するガス体を分散させるため、例えば、多数の穴が開けられた分散プレート(図示せず)を内部空間に介在させるのが良い。
【0043】
空気をキャリヤーガスとして、10000ppmの濃度のトルエンガスを10(l/min)の流速で反応器に導き、室温から500℃の温度領域で分解実験を行った。分解ガスはガスクロマトグラフで分析した。
トルエンガスの分解特性を図7に示すが、温度上昇とともにほぼ線形的に分解反応が進行し、300℃でトルエンガスはゼロまで分解した。
【0044】
熱触媒ユニット(5)による分解
分解実験の概略は、熱触媒ユニット(4)による分解と同様である。
トルエンガスの分解特性を図7に示す。200℃あたりでトルエンガスの分解に屈曲点があるが、300℃で完全にトルエンガスはゼロまで分解した。
【0045】
熱触媒ユニット(6)による分解
分解実験の概略は、熱触媒ユニット(4)による分解と同様である。
トルエンガスの分解特性は酸化クロム(Cr)の場合と同様にトルエンガスの分解に屈曲点が認めえられたが、330℃で完全にトルエンガスはゼロまで分解した。
【0046】
熱触媒ユニット(7)による分解
分解実験の概略は、熱触媒ユニット(4)による分解と同様である。
トルエンガスの分解特性は酸化ニッケル(NiO)の場合とほぼ同様に直線的に分解反応が進行し、350℃でトルエンガスはゼロまで分解した。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明にあって、VOCの代表例であるトルエンガス分解実験の結果、300〜500℃でほぼ完全分解していることが分かる。そして、熱触媒ユニットの調製、組み立ては簡略化され実装レベルとなり、この結果から、本発明の機能分離型ユニットは、VOC処理装置に極めて有効であることが分かった。特に、VOC分解処理を小型化するのに有効な手段であり、その利用性は高い。
【符号の説明】
【0048】
1・・断熱基板の支持枠体
2・・内部空間
4a、4b・・U溝
5・・切溝
6a、6b・・発熱体で形成される空域
7・・発熱体(電熱線)
8・・桟
8a・・ガイド溝
10・・網目体(コージライトハニカム)
21・・ステンレス製の支持枠体
21A・・外カバー
22・・内部空間
23・・桟
24・・碍子製チップ
24A・・切溝
25・・電熱線
26・・皿状受部
A・・発熱体
B・・熱触媒素子
C・・熱触媒ユニット
D・・加熱ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
揮発性有機化合物の分解除去に用いる熱触媒ユニットであって、当該ユニットは複数の積層された支持枠体と発熱体と熱触媒素子とからなり、前記支持枠体は内部空間を備え、その内部空間に発熱体が配設され、かつこの発熱体に対向して内部空間に網目体に酸化物半導体を担持させた熱触媒素子が嵌め込まれて構成されたことを特徴とする熱触媒ユニット。
【請求項2】
内部空間に断熱基板が備えられ、これに発熱体が配設された請求項1記載の熱触媒ユニット。
【請求項3】
内部空間に桟を渡し、この上に碍子チップが備えられ、これに発熱体が配設された請求項1記載の熱触媒ユニット。
【請求項4】
揮発性有機化合物の流入側に、内部空間に発熱体のみを配設した支持枠体を積層した請求項1記載の熱触媒ユニット。
【請求項5】
発熱体が、電熱線である請求項1又は4記載の熱触媒ユニット。
【請求項6】
電熱線が、ニクロム線である請求項5記載の熱触媒ユニット。
【請求項7】
複数の発熱体素子を、発熱体の配設方向をずらして積層した請求項1乃至6いずれか1記載の熱触媒ユニット。
【請求項8】
酸化物半導体を担持させる網目体が、SUSメッシュである請求項1記載の熱触媒ユニット。
【請求項9】
酸化物半導体を担持させる網目体が、多孔構造体である請求項1記載の熱触媒ユニット。
【請求項10】
多孔構造体が、セラミック製である請求項9記載の熱触媒ユニット。
【請求項11】
多孔構造体が、ハニカム構造体である請求項9記載の熱触媒ユニット。
【請求項12】
酸化物半導体が、酸化チタン、酸化クロム、酸化ニッケル、酸化鉄から選ばれた一つである請求項1乃至11いずれか1記載の熱触媒ユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−214359(P2010−214359A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−238266(P2009−238266)
【出願日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【出願人】(504182255)国立大学法人横浜国立大学 (429)
【Fターム(参考)】