説明

揮発性有機化合物搬送車両、揮発性有機化合物処理支援システム及び揮発性有機化合物処理システム

【課題】本来のVOCを有効利用して省エネルギー化を図るという目的を十分に達成しつつ、VOC回収事業者のコスト負担を最小限に抑える。
【解決手段】走行に必要な動力を発生する内燃機関と、揮発性有機化合物が吸着された吸着剤を収容し、前記内燃機関から排出される排ガスを利用して前記吸着剤の加温及び前記揮発性有機化合物の脱着を行う脱着装置と、前記脱着装置によって前記吸着剤から脱着された揮発性有機化合物を液化回収する液化回収装置と、前記液化回収装置によって液化回収された揮発性有機化合物を貯蔵する貯蔵タンクと、を備える揮発性有機化合物搬送車両を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揮発性有機化合物搬送車両、揮発性有機化合物処理支援システム及び揮発性有機化合物処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
トルエンやキシレン等の揮発性有機化合物(VOC:Volatile Organic Compounds)を取り扱う事業所では、VOCを含む排ガス(VOCガス)からVOCを分離・回収し、この分離・回収されたVOCをガスタービン発電設備等の燃料使用設備で燃料の一部として燃焼させることで有効利用している。また、VOC回収事業所内に燃料使用設備が設置されていない等の理由により当該事業所内で回収したVOCを有効利用できない場合には、回収したVOCを燃料使用設備が設置されている他の事業所に搬送供給し、回収したVOCを無駄に廃棄することなく確実に処理する技術も知られている(特許文献1参照)。
【0003】
VOCガスからVOCを分離・回収する方法としては、吸着剤が密閉状態で内蔵された回収塔内にVOCガスを流通させて吸着剤にVOCを吸着させた後、回収塔内に水蒸気を導入して吸着剤を加温し、さらに水蒸気の導入により吸着剤からVOCを脱着して水蒸気に混入させて塔外へ取り出し、この塔外に取り出されたVOC混入水蒸気を凝縮させてVOCを液化回収する方法が一般的に採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−20541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、VOCガスからVOCを分離・回収するためには、吸着剤の加温処理やVOCの脱着処理を実施するための水蒸気等の酸素濃度が低い熱媒が必要となる。このような熱媒を生成するには別途熱エネルギーが必要となるが、大規模なVOC回収事業所であればともかく、小規模なVOC回収事業所では熱エネルギーの入手が困難であり熱媒の生成に膨大なコストが必要となる。なお、酸素濃度が低い熱媒が必要な理由は、脱着時にVOCと熱媒が混合した時に爆発性混合ガスが発生しないようにするためである。
【0006】
上記特許文献1の技術は、事業所内で熱媒の生成が容易な(熱エネルギーの入手が容易な)VOC回収事業所を想定してシステムが構築されており、熱媒の生成が困難な小規模事業所の参入を一切考慮していない。従って、小規模事業所は、膨大なコストを掛けて熱媒を生成する術(VOCを液化回収する術)を手に入れてシステムに参入するか、或いはシステムへの参入をあきらめて、吸着剤によるVOCの吸着処理まで行い、VOCで飽和した吸着剤を廃棄して新品と交換する方法を採用するかの二つの選択肢しかなかった。
【0007】
前者の選択肢については、元々、VOC回収技術とは、回収したVOCの有効利用によって省エネルギー化(エネルギー経費の削減)を図ることを目的として開発されたものであるので、VOC回収のために膨大なコストを掛けたのでは本来の目的を十分に達成できない。後者の選択肢については、小規模事業所がシステムへの参入をあきらめることによって業界全体で見るとVOCの有効利用という目的を十分に達成できなくなり、また、吸着剤の新品購入コストが大きな負担になる。
【0008】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであり、回収したVOCを有効利用して省エネルギー化を図るという本来の目的を十分に達成しつつ、VOC回収事業者のコスト負担を最小限に抑えることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明では、揮発性有機化合物搬送車両に係る第1の解決手段として、走行に必要な動力を発生する内燃機関と、揮発性有機化合物が吸着された吸着剤を収容し、前記内燃機関から排出される排ガスを利用して前記吸着剤の加温及び前記揮発性有機化合物の脱着を行う脱着装置と、前記脱着装置によって前記吸着剤から脱着された揮発性有機化合物を液化回収する液化回収装置と、前記液化回収装置によって液化回収された揮発性有機化合物を貯蔵する貯蔵タンクと、を備えることを特徴とする。
【0010】
また、本発明では、揮発性有機化合物搬送車両に係る第2の解決手段として、上記第1の解決手段において、前記脱着装置は、前記吸着剤を収容する処理容器と、前記処理容器のガス入口と連通して容器内部へ前記排ガスを導く排ガス導入管と、前記処理容器のガス出口と連通して容器内部から揮発性有機化合物が混入した排ガスを前記液化回収装置へ移送する排ガス移送管と、を備え、前記液化回収装置は、前記排ガス移送管を経由して移送された排ガスと外部から導入された空気との熱交換によって当該排ガスに含まれる揮発性有機化合物を凝縮させて液化回収すると共に、揮発性有機化合物が除去された排ガスを外部へ放出する凝縮用熱交換器である、ことを特徴とする。
【0011】
また、本発明では、揮発性有機化合物搬送車両に係る第3の解決手段として、上記第1の解決手段において、前記脱着装置は、前記吸着剤を収容する処理容器と、前記排ガスと低酸素濃度ガスとの熱交換によって前記低酸素濃度ガスを加熱する加熱用熱交換器と、前記処理容器のガス入口と連通して前記加熱用熱交換器によって加熱された前記低酸素濃度ガスを容器内部へ導く低酸素濃度ガス導入管と、前記処理容器のガス出口と連通して容器内部から揮発性有機化合物が混入した低酸素濃度ガスを前記液化回収装置へ移送する低酸素濃度ガス移送管と、を備え、前記液化回収装置は、前記低酸素濃度ガス移送管を経由して移送された低酸素濃度ガスと外部から導入された空気との熱交換によって当該低酸素濃度ガスに含まれる揮発性有機化合物を凝縮させて液化回収すると共に、揮発性有機化合物が除去された低酸素濃度ガスを前記加熱用熱交換器へ送出する凝縮用熱交換器である、ことを特徴とする。
【0012】
また、本発明では、揮発性有機化合物搬送車両に係る第4の解決手段として、上記第2または第3の解決手段において、前記処理容器は、前記吸着剤が取り付けられた吸着剤カセットを着脱自在に収容可能であることを特徴とする。
【0013】
一方、上記目的を達成するために、本発明では、揮発性有機化合物処理支援システムに係る解決手段として、処理対象ガスに含まれる揮発性有機化合物を吸着剤に吸着させた状態で回収する回収事業所に設けられ、揮発性有機化合物の回収量を示す回収事業所情報を外部に送信する回収事業所通信端末と、前記回収事業所にて回収された吸着剤を荷受して車両内で前記揮発性有機化合物の液化回収を行い、該液化回収された揮発性有機化合物を処理事業所まで搬送して荷渡する揮発性有機化合物搬送車両に設けられ、揮発性有機化合物の荷受内容及び荷渡内容を示す揮発性有機化合物搬送車両情報を外部に送信する車両用無線通信端末と、前記処理事業所に設けられ、該処理事業所が前記揮発性有機化合物搬送車両から受け入れた揮発性有機化合物の受入内容を示す処理事業所情報を外部に送信する処理事業所通信端末と、前記回収事業所通信端末、車両用無線通信端末及び処理事業所通信端末と通信を行うことにより回収事業所情報、揮発性有機化合物搬送車両情報及び処理事業所情報を受信し、当該回収事業所情報、揮発性有機化合物搬送車両情報及び処理事業所情報に基づいて回収事業所、揮発性有機化合物搬送車両及び処理事業所における揮発性有機化合物の収集を管理する管理装置と、回収事業所通信端末、車両用無線通信端末及び処理事業所通信端末を通信自在に接続する通信回線と、を備えることを特徴とする。
【0014】
さらに、上記目的を達成するために、本発明では、揮発性有機化合物処理システムに係る解決手段として、処理対象ガスに含まれる揮発性有機化合物を吸着剤に吸着させた状態で回収すると共に揮発性有機化合物の回収量を示す回収事業所情報を外部に送信する回収事業所通信端末を備えた回収事業所と、前記回収事業所にて回収された吸着剤を荷受して車両内で前記揮発性有機化合物の液化回収を行い、該液化回収された揮発性有機化合物を処理事業所まで搬送して荷渡すると共に、揮発性有機化合物の荷受内容及び荷渡内容を示す揮発性有機化合物搬送車両情報を外部に送信する車両用無線通信端末を備えた揮発性有機化合物搬送車両と、前記揮発性有機化合物搬送車両から受け入れた揮発性有機化合物の受入内容を示す処理事業所情報を外部に送信する処理事業所通信端末を備えた処理事業所と、前記回収事業所通信端末、車両用無線通信端末及び処理事業所通信端末と通信を行うことにより回収事業所情報、揮発性有機化合物搬送車両情報及び処理事業所情報を受信し、当該回収事業所情報、揮発性有機化合物搬送車両情報及び処理事業所情報に基づいて回収事業所、揮発性有機化合物搬送車両及び処理事業所における揮発性有機化合物の収集を管理する管理装置と、回収事業所通信端末、車両用無線通信端末及び処理事業所通信端末を通信自在に接続する通信回線と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、揮発性有機化合物搬送車両によって吸着剤の搬送中に揮発性有機化合物の液化回収を行うため、回収事業所は膨大なコストを掛けて熱媒を生成する術(揮発性有機化合物を液化回収する術)を手に入れる必要がなくなる(吸着剤を装着可能な回収塔のみを用意すれば良い)。また、回収事業所で吸着剤を廃棄する必要がなく、揮発性有機化合物搬送車両にて揮発性有機化合物が脱着された吸着剤を再度、回収事業所で使用すれば良いため、吸着剤の新品購入コストを抑えることができる。
すなわち、本発明によれば、回収事業者のコスト負担を最小限に抑えることができると共に、小規模な回収事業者のシステムへの参入が容易となるため、回収した揮発性有機化合物を有効利用して省エネルギー化を図るという本来の目的を十分に達成することできる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施形態に係る揮発性有機化合物処理支援システムの構成図である。
【図2】本実施形態に係るVOC搬送車両4の詳細構成図である。
【図3】収集管理装置6の機能構成を示すブロック図である。
【図4】VOC管理データベース6hの各種登録データを示す模式図である。
【図5】揮発性有機化合物処理支援システムの動作を示すフローチャートである。
【図6】VOC搬送車両4の変形例(VOC搬送車両4’)を示す詳細構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態に係る揮発性有機化合物処理支援システム(以下、VOC処理支援システムと称す)のシステム構成図である。なお、この図1では、本VOC処理支援システムを含む揮発性有機化合物処理システム(以下、VOC処理システムと称す)の全体構成をも示している。
【0018】
最初に、本VOC処理システムの全体構成について説明する。この図1に示すように、本VOC処理システムは、第1〜第3回収事業所1〜3、揮発性有機化合物搬送車両(以下、VOC搬送車両と称す)4、処理事業所5及び収集管理装置6及びこれら各事業所、VOC搬送車両4及び収集管理装置6を相互接続する通信回線7によって構成されている。本VOC処理システムを構成する各構成要素のうち通信回線7について先に説明すると、当該通信回線7は、例えばインターネットを中核とする有線及び無線からなるTCP/IP通信網であり、TCP(Transmission Control Protocol)及びIP(Internet Protocol)に準拠した通信フレームの送受信を行うように構成されている。
【0019】
第1回収事業所1は、VOCガス発生設備1a、VOC回収装置1b及び回収事業所通信端末1cを備えている。VOCガス発生設備1aは、トルエンやキシレン等の揮発性有機化合物(VOC)を用いて商品の製造や対象物に何らか処理を施す設備であり、例えば塗料製造設備や塗装設備である。このようなVOCガス発生設備1aでは、揮発したVOCを含む処理対象ガス(VOCガス)が発生する。
【0020】
VOC回収装置1bは、VOCガスに含まれるVOCを吸着剤に吸着させた状態で回収し、当該回収した吸着剤をVOC搬送車両4に引き渡す装置である。より詳細には、このVOC回収装置1bは、吸着剤が取り付けられた吸着剤カセットを着脱自在に収容可能な回収塔を備えており、この回収塔内にVOCガスを流通させて吸着剤にVOCを吸着させるものである。吸着剤によるVOCの吸着後、吸着剤カセットは回収塔から取り外されてVOC搬送車両4に引き渡される。
【0021】
回収事業所通信端末1cは、VOC回収装置1bと直接通信を行うと共に通信回線7を介して収集管理装置6とTCP/IPに準拠した通信を行う通信装置である。この回収事業所通信端末1cは、上記VOC回収装置1bにおけるVOCの回収量(吸着剤へのVOC吸着量)を回収情報として一定の時間間隔毎に取得し、当該回収量を回収事業所情報の1つとして第1回収事業所1の識別コード(事業所識別コード)と共に収集管理装置6に順次送信する。また、この回収事業所通信端末1cは、VOC搬送車両4に吸着剤カセットを荷渡する度に当該吸着剤カセットの荷渡内容を示す荷渡情報を回収事業所情報の1つとして事業所識別コードと共に収集管理装置6に送信する。
【0022】
第2回収事業所2は、VOCガス発生設備2a、VOC回収装置2b及び回収事業所通信端末2cを備えている。VOCガス発生設備2aは、上述したVOCガス発生設備1aと同様に、トルエンやキシレン等のVOCを用いて商品の製造や対象物に何らか処理を施す設備であり、例えば塗料製造設備や塗装設備である。このようなVOCガス発生設備2aでは、上述したVOCガス発生設備1aと同様なVOCガスが発生する。VOC回収装置2bは、上述したVOC回収装置1bと同様に、VOCガスに含まれるVOCを吸着剤カセットに吸着させた状態で回収し、当該回収した吸着剤カセットをVOC搬送車両4に引き渡す装置である。
【0023】
回収事業所通信端末2cは、VOC回収装置2bと直接通信を行うと共に通信回線7を介して収集管理装置6とTCP/IPに準拠した通信を行う通信装置である。この回収事業所通信端末2cは、上記VOC回収装置2bにおけるVOCの回収量を回収情報として一定の時間間隔毎に取得し、当該回収量を回収事業所情報の1つとして第2回収事業所2の識別コード(事業所識別コード)と共に収集管理装置6に順次送信する。また、この回収事業所通信端末2cは、VOC搬送車両4に吸着剤カセットを荷渡する度に当該吸着剤カセットの荷渡内容を示す荷渡情報を回収事業所情報の1つとして事業所識別コードと共に収集管理装置6に送信する。
【0024】
第3回収事業所3は、VOCガス発生設備3a、VOC回収装置3b及び回収事業所通信端末3cを備えている。VOCガス発生設備3aは、上述したVOCガス発生設備1a、2aと同様に、トルエンやキシレン等のVOCを用いて商品の製造や対象物に何らか処理を施す設備であり、例えば塗料製造設備や塗装設備である。このようなVOCガス発生設備3aでは、上述したVOCガス発生設備1aと同様なVOCガスが発生する。VOC回収装置3bは、上述したVOC回収装置1b、2bと同様に、VOCガスに含まれるVOCを吸着剤カセットに吸着させた状態で回収し、当該回収した吸着剤カセットをVOC搬送車両4に引き渡す装置である。
【0025】
回収事業所通信端末3cは、VOC回収装置3bと直接通信を行うと共に通信回線7を介して収集管理装置6とTCP/IPに準拠した通信を行う通信装置である。この回収事業所通信端末3cは、上記VOC回収装置3bにおけるVOCの回収量を定期的に取得し、当該回収量を回収事業所情報の1つとして第3回収事業所3の識別コード(事業所識別コード)と共に収集管理装置6に順次送信する。また、この回収事業所通信端末3cは、VOC搬送車両4に回収VOCを荷渡する度に、当該回収VOCの荷渡内容を示す荷渡情報を回収事業所情報の1つとして事業所識別コードと共に収集管理装置6に送信する。
なお、図1では、第1〜第3回収事業所1〜3の3つの回収事業者が記載されているが、回収事業所の数はVOC処理システムの規模に応じて異なる。
【0026】
VOC搬送車両4は、第1回収事業所1、第2回収事業所2或いは第3回収事業所3のいずれかで回収された吸着剤カセットを荷受して車両内でVOCの液化回収を行い、該液化回収されたVOC(液化回収VOC)を処理事業所5まで搬送して荷渡する可燃物輸送専用車である。このVOC搬送車両4は、上述した第1〜第3回収事業所1〜3を定期的及び/あるいは不定期に巡回することにより第1〜第3回収事業所1〜3から吸着剤カセットを引き取って処理事業所5に搬送する。また、このVOC搬送車両4には、車両用無線通信端末4a及び測位装置4bが設けられている。
なお、図1では、1台のVOC搬送車両4が記載されているが、VOC搬送車両4の台数はVOC処理システムの規模に応じて複数台設けても良い。
【0027】
車両用無線通信端末4aは、VOC搬送車両4と直接通信を行うと共に通信回線7を介して収集管理装置6とTCP/IPに準拠した通信する無線通信装置である。この車両用無線通信端末4aは、VOC搬送車両4が第1〜第3回収事業所1〜3の何れかから吸着剤カセットを荷受する度に、当該吸着剤カセットの荷受内容を示す荷受情報をVOC搬送車両情報の1つとしてVOC搬送車両4の識別コード(車両識別コード)と共に収集管理装置6に送信する。また、この車両用無線通信端末4aは、VOC搬送車両4が処理事業所5に液化回収VOCを荷渡する度に、当該液化回収VOCの荷渡内容を示す荷渡情報をVOC搬送車両情報の1つとして上記車両識別コードと共に収集管理装置6に送信する。
【0028】
測位装置4bは、例えばGPS(Global Positioning System)受信機であり、複数のGPS衛星から特定の測位用電波を受信することによってVOC搬送車両4の現在位置(方位)を検出する。上記の車両用無線通信端末4aは、必要に応じて測位装置4bからVOC搬送車両4の現在位置を取得して車両識別コードと共に収集管理装置6に送信する。
【0029】
図2は、VOC搬送車両4の詳細構成図である。この図2に示すように、本実施形態におけるVOC搬送車両4は、走行に必要な動力を発生するディーゼルエンジン(内燃機関)41と、第1〜第3回収事業所1〜3から荷受した吸着剤カセットCを収容し、ディーゼルエンジン41から排出される排ガスを利用して吸着剤カセットCの加温及びVOCの脱着を行う脱着装置42と、脱着装置42によって吸着剤カセットCから脱着されたVOCを液化回収する液化回収装置43と、液化回収装置43によって回収された液化回収VOCを貯蔵する貯蔵タンク44とを備えている。
【0030】
なお、脱着装置42、液化回収装置43及び貯蔵タンク44は、VOC搬送車両4の荷台に設置されたコンテナ45の内部に設けられている。また、このVOC搬送車両4は、図1で示した車両用無線通信端末4a及び測位装置4bや、その他の車両走行に必要な機能も備えているが図2では図示を省略している。
【0031】
詳細には、脱着装置42は、複数の吸着剤カセットCを着脱自在に収容可能な処理容器42aと、処理容器42aのガス入口と連通して容器内部へディーゼルエンジン41の排ガスを導く排ガス導入管42bと、処理容器42aのガス出口と連通して容器内部からVOCが混入した排ガス(VOC混入排ガス)を液化回収装置43へ移送する排ガス移送管42cと備えている。また、液化回収装置43は、排ガス移送管42cを経由して移送されたVOC混入排ガスとコンテナ45の外部から導入された空気との熱交換によって当該VOC混入排ガスに含まれるVOCを凝縮させて液化回収すると共に、VOCが除去された排ガスをコンテナ45の外部へ放出する凝縮用熱交換器である。
【0032】
このように構成されたVOC搬送車両4によれば、走行中(吸着剤カセットCの搬送中)にディーゼルエンジン41から排出される排ガスが処理容器42a内に導入されて吸着剤カセットC、つまり吸着剤が加温される。吸着剤が活性炭である場合、吸着剤の温度を180°C程度に加温すればVOCの脱着が可能となるため、ディーゼルエンジン41の排ガスによって十分に脱着可能温度まで吸着剤を加温することができる。なお、処理容器42aの前段にフィルタを配置して、ディーゼルエンジン41の排ガスに含まれる煤などの微粒子を除去しておくこことが望ましい。
【0033】
吸着剤が脱着可能温度まで加温されると、吸着剤からVOCが脱着され始め、処理容器42aから液化回収装置43へVOCが混入した排ガス(VOC混入排ガス)が連続的に移送される。ここで、VOC搬送車両4の走行によって液化回収装置43には連続的に空気が導入されており、液化回収装置43において排ガス移送管42cを経由して移送されたVOC混入排ガスとコンテナ45の外部から導入された空気との熱交換によって当該VOC混入排ガスに含まれるVOCが凝縮されて液化する。この液化回収装置43によって連続的に回収された液化回収VOCは貯蔵タンク44に送られて貯蔵される一方、排ガス及び該排ガスとの熱交換に用いられた空気はコンテナ45の外部へ排出される。
【0034】
このように、本実施形態のVOC搬送車両4に設けられた脱着装置42は、ディーゼルエンジン41の排ガスを熱媒として利用するものであるが、脱着によって得られるVOC混入排ガスが爆発性混合ガスとならないためには排ガスの酸素濃度が8%以下であることが必要となる。この点、ディーゼルエンジン41の排ガスの酸素濃度はおおよそ8%以下であるため、爆発性混合ガスが発生することはない。
【0035】
図1に戻り、処理事業所5は、図示するようにVOC受入設備5a、発電設備5b及び処理事業所通信端末5cを備えている。VOC受入設備5aは、上記VOC搬送車両4から液化回収VOCを受け入れる設備であり、所定容量を有するタンクに液化回収VOCを貯蔵する。発電設備5bは、上記VOC受入設備5aに貯蔵された液化回収VOCを燃料としてガスタービン等の原動機を運転することにより電力を発生させる設備であり、発生した電力を所内の電力系統に供給したり、外部の商用電力系統に供給したりする。
なお、図1では、1つの処理事業所5が記載されているが、処理事業所5の数はVOC処理システムの規模に応じて複数設けても良い。
【0036】
処理事業所通信端末5cは、VOC受入設備5a及び発電設備5bと直接通信を行うと共に通信回線7を介して収集管理装置6とTCP/IPに準拠した通信を行う通信装置である。この処理事業所通信端末5cは、VOC受入設備5aがVOC搬送車両4から液化回収VOCを受け入れる度に液化回収VOCの受入内容を示す受入情報を処理事業所情報の1つとして処理事業所5の識別コード(処理事業所識別コード)と共に収集管理装置6に送信する。また、この処理事業所通信端末5cは、発電設備5bにおける液化回収VOCの消費情報を発電設備5bから定期的に取得して処理事業所情報の1つとして処理事業所識別コードと共に収集管理装置6に送信する。
【0037】
収集管理装置6は、各回収事業所通信端末1c〜3c、車両用無線通信端末4a及び処理事業所通信端末5cと通信回線7を介してTCP/IPに準拠した通信を行うことにより上記回収事業所情報、VOC搬送車両情報及び処理事業所情報を受信し、これら回収事業所情報、VOC搬送車両情報及び処理事業所情報に基づいて第1〜第3回収事業所1〜3、VOC搬送車両4及び処理事業所5における液化回収VOCの移送を管理する管理装置である。
【0038】
図3は、上記収集管理装置6の機能構成を示すブロック図である。この収集管理装置6は、図示するようにメモリ6a、操作部6b、TCP/IP通信部6c、表示部6d及び外部記憶部6eがバスライン6fによって演算部6gに共通接続されたコンピュータである。メモリ6aは、所定の管理プログラムを記憶する不揮発性メモリと演算部6gの演算結果等の各種データを一時的に記憶する揮発性メモリとからなり、演算部6gによる制御の下で管理プログラム及び各種データの書込み/読出しを行う。操作部6bは、本VOC処理支援システムを統括的に管理する管理者の操作指示を受け付けるキーボードやポインティングデバイスであり、上記操作指示を示す操作情報を演算部6gに出力する。
【0039】
TCP/IP6c通信部は、演算部6gによる制御の下で、通信回線7を介して各回収事業所通信端末1c〜3c、車両用無線通信端末4a及び処理事業所通信端末5cとTCP/IPに準拠した通信を行う。表示部6dは、演算部6gによる制御の下で、上記管理者に提供する管理情報を表示する。外部記憶部6eは、ハードディスク装置のような大容量の記憶装置であり、内部にVOC管理データベース6hを記憶している。この外部記憶部6eは、演算部6gによる制御の下で、VOC管理データベース6hの更新及び新規登録を行う。バスライン6fは、所定ビット数のアドレスライン及びデータライン等からなり、メモリ6a、操作部6b、TCP/IP通信部6c、表示部6d及び外部記憶部6eを演算部6gに接続する。
【0040】
演算部6gは、CPU(Central Processing Unit)及び周辺回路からなり、上記管理プログラムに基づいてメモリ6a、操作部6b、TCP/IP通信部6c、表示部6d及び外部記憶部6eを制御することにより、各回収事業所通信端末1c〜3c、車両用無線通信端末4a及び処理事業所通信端末5cから上記回収事業所情報、VOC搬送車両情報及び処理事業所情報を取得すると共に、これら情報及びVOC管理データベース6hに登録されたデータに基づいて各回収事業所通信端末1c〜3c、車両用無線通信端末4a及び処理事業所通信端末5cに管理情報を送信することにより本VOC処理支援システムを管理する。なお、管理プログラムに基づく演算部6gの管理処理については、本VOC処理支援システムの全体動作として後述する。
【0041】
以上、本VOC処理システムの全体構成について説明したが、本VOC処理システムを構成する各種構成要素のうち、各回収事業所通信端末1c〜3c、車両用無線通信端末4a、処理事業所通信端末5c、収集管理装置6及び通信回線7は、本VOC処理支援システムを構成する構成要件である。
【0042】
次に、上記VOC管理データベース6hについて、図4を参照して補足説明する。VOC管理データベース6hには、収集管理装置6が第1〜第3回収事業所1〜3、VOC搬送車両4及び処理事業所5における液化回収VOCの移送を管理するために必要な固定的なデータに加え、時間の経過とともに変化するデータが第1〜第3回収事業所1〜3、VOC搬送車両4及び処理事業所5毎に登録されている。
【0043】
図4(a)は、このようなVOC管理データベース6hの登録データのうち、第1〜第3回収事業所1〜3に関する登録データ(回収事業所登録データ)を模式的に示す模式図である。この図に示すように、VOC管理データベース6hには、(1)事業所識別コード、(2)所在位置、(3)許容VOC吸着量Lu、(4)荷渡作業準備時間、(5)VOC搬送車両の到着所要時間、(6)裕度α、(7)最新VOC吸着量Le、(8)前回収集日時、(9)収集期間、等が第1〜第3回収事業所1〜3毎に登録されている。
【0044】
また、図4(b)は、VOC管理データベース6hの登録データのうち、VOC搬送車両4に関する登録データ(VOC搬送車両登録データ)を模式的に示す模式図である。この図に示すように、VOC管理データベース6hには、(1)車両識別コード、(2)最新位置、(3)最大カセット積載量、(4)現在カセット積載量、等がVOC搬送車両4毎に登録されている。
【0045】
さらに、図4(c)は、VOC管理データベース6hの登録データのうち、処理事業所5に関する登録データ(処理事業所登録データ)を模式的に示す模式図である。この図に示すように、VOC管理データベース6hには、(1)事業所識別コード、(2)所在位置、(3)受入許容貯留量Li、(4)裕度β、(5)最新貯留量Ln、等が処理事業所5毎に登録されている。
【0046】
続いて、このように構成された本VOC処理支援システム及び本VOC処理システムの動作を図5に示すフローチャートに沿って説明する。なお、このフローチャートは、管理プログラムに基づく演算部6gの管理処理(つまり、収集管理装置6の管理処理)の手順を示すものである。
【0047】
最初に、演算部6gは、定期収集指示の送信を行う(ステップS1)。すなわち、演算部6gは、VOC管理データベース6hの各種登録データを参照することにより第1〜第3回収事業所1〜3毎に定期収集計画を作成し、この定期収集計画を示す定期収集計画テーブルを外部記憶部6eに記憶させる。この定期収集計画テーブルは、収集日時と液化回収VOCの収集量とを第1〜第3回収事業所1〜3毎に示すものである。そして、演算部6gは、定期収集計画テーブルを外部記憶部6eから読み出してTCP/IP通信部6cに提供することで、VOC搬送車両4の車両用無線通信端末4aに定期収集指示を送信させる。
【0048】
上記定期収集計画は、VOC管理データベース6hの各種登録データに基づいて作成されたものなので、通常の場合は、VOC搬送車両4が定期収集計画テーブルに基づいて第1〜第3回収事業所1〜3から吸着剤カセットCを収集することにより、第1〜第3回収事業所1〜3は、各VOC回収装置1b〜3bの吸着剤カセットCが吸着容量オーバーすることなく操業を継続することができる。
【0049】
一方、VOC搬送車両4は、車両用無線通信端末4aが受信した定期収集計画テーブルに記載された収集日時に同じく定期収集計画テーブルに記載された収集量の吸着剤カセットCを第1〜第3回収事業所1〜3の各VOC回収装置1b〜3bから荷受して処理事業所5に輸送する。前述のように、このVOC搬送車両4による吸着剤カセットCの搬送中において、VOC搬送車両4に設けられた貯蔵タンク44内に吸着剤カセットCから液化回収された液化回収VOCが貯蔵されることになる。VOC搬送車両4は、このように貯蔵タンク44内に貯蔵された液化回収VOCを、搬送先の処理事業所5のVOC受入設備5aに荷渡する。
【0050】
そして、このようなVOC搬送車両4による吸着剤カセットCの荷受時及び液化回収VOCの荷渡し時に、VOC搬送車両4の車両用無線通信端末4a、第1〜第3回収事業所1〜3の回収事業所通信端末1c〜3c及び処理事業所5の処理事業所通信端末5cは、荷渡あるいは荷受の内容を示す荷渡情報あるいは荷受情報を収集管理装置6に送信する。
【0051】
上述したように第1〜第3回収事業所1〜3の回収事業所通信端末1c〜3cは、吸着剤カセットCの回収量を定期的に取得して回収事業所情報として収集管理装置6に送信する、また処理事業所通信端末5cは、発電設備5bにおける液化回収VOCの消費情報を発電設備5bから定期的に取得して処理事業所情報として収集管理装置6に送信するので、収集管理装置6は、荷渡情報、荷受情報、回収事業所情報あるいは処理事業所情報等が回収事業所通信端末1c〜3c、車両用無線通信端末4aあるいは処理事業所通信端末5cから適宜受信する。
【0052】
演算部6gは、このような各種の受信情報のうち、A:荷渡情報あるいは荷受情報を受信したか、または、B:回収事業所情報あるいは処理事業所情報を受信したかを判断し(ステップS2)、Aの場合はステップS3〜S5の処理を行い、Bの場合にはステップS6〜S10の処理を行う。
【0053】
例えば、VOC搬送車両4が第1回収事業所1から吸着剤カセットCの荷受をした場合(つまり、第1回収事業所1がVOC搬送車両4へ吸着剤カセットCを荷渡した場合)、回収事業所通信端末1cは、吸着剤カセットCの荷渡量と自らの事業所識別コードとを含む荷渡情報を収集管理装置6に送信する。この一方、車両用無線通信端末4aは、吸着剤カセットCの荷受量、VOC搬送車両4の現在位置及び自らの車両識別コードを含む荷受情報を収集管理装置6に送信する。
【0054】
一方、VOC搬送車両4が処理事業所5に液化回収VOCを荷渡した場合(つまり、処理事業所5がVOC搬送車両4から液化回収VOCを荷受した場合)、車両用無線通信端末4aは、液化回収VOCの荷渡量、VOC搬送車両4の現在位置及び自らの車両識別コードを含む荷渡情報を収集管理装置6に送信する。この一方、処理事業所通信端末5cは、液化回収VOCの荷受量と自らの事業所識別コードとを含む荷受情報を収集管理装置6に送信する。
【0055】
すなわち、本VOC処理支援システムでは、VOC搬送車両4における吸着剤カセットCの荷渡/荷受が発生した場合に、荷渡/荷受の両当事者である第1〜第3回収事業所1〜3及びVOC搬送車両4から荷渡情報及び荷受情報が収集管理装置6に送信される一方、VOC搬送車両4における液化回収VOCの荷渡/荷受が発生した場合に、荷渡/荷受の両当事者である処理事業所5及びVOC搬送車両4から荷渡情報及び荷受情報が収集管理装置6に送信される。
【0056】
演算部6gは、TCP/IP通信部6cが荷渡情報及び荷受情報を受信すると、両者が整合しているか否かを判断し(ステップS3)、この判断が「Yes」の場合は、対をなす荷渡情報及び荷受情報として収集履歴テーブルに書き込み(ステップS4)、上記判断が「No」の場合には、荷渡情報及び荷受情報の再送信指示をTCP/IP通信部6cに送信させる(ステップS5)。
【0057】
上記ステップS3の処理において、演算部6gは、VOC搬送車両4の荷渡情報に含まれる現在位置をVOC管理データベース6に回収事業所登録データとして予め登録された第1〜第3回収事業所1〜3の所在位置(所在方位)あるいは処理事業所登録データとして予め登録された処理事業所5の所在位置(所在方位)と比較照合することによって両当事者を確認する。例えばVOC搬送車両4が第1回収事業所1で吸着剤カセットCを荷受した場合、VOC搬送車両4の現在位置は第1回収事業所1の所在位置を一致することになる。また、演算部6gは、荷渡情報に含まれる荷渡量と荷受情報に含まれる荷受量とを照合することによって荷渡量と荷受量との整合を確認する。
【0058】
このように荷渡情報及び荷受情報の整合を判断した後に当該荷渡情報及び荷受情報を収集履歴テーブルに登録することにより、荷受/荷渡に関する客観性を担保することができる。すなわち、VOC搬送車両4によって第1〜第3回収事業所1〜3から収集された吸着剤カセットCから液化回収された液化回収VOCが処理事業所5に確実に受け入れられて燃焼処理されたことの客観性を確保することができる。収集管理装置6の管理者は、第1〜第3回収事業所1〜3、VOC搬送車両4及び処理事業所5の管理者とは独立した立場にあるので、第1〜第3回収事業所1〜3で発生したVOCが処理事業所5で燃焼処理されたことを客観的な立場で保証することができる。
【0059】
一方、上記ステップS2において回収事業所情報あるいは処理事業所情報を受信したと判断された場合(場合B)、演算部6gは、回収事業所情報あるいは処理事業所情報に基づいてVOC管理データベース6hの回収事業所登録データ及び処理事業所登録データを更新する(ステップS6)。
【0060】
すなわち、TCP/IP通信部6cは、何れかの回収事業所通信端末1c〜3cから回収事業所情報を受信すると、当該受信をバスライン6fを介して演算部6gに通知する。
演算部6gは、この通知がTCP/IP通信部6cから入力されると、TCP/IP通信部6cから回収事業所情報を取り込み、VOC管理データベース6hの回収事業所登録データに相当するデータを回収事業所情報から抽出して外部記憶部6eに出力することで、図4(a)に示したVOC管理データベース6hの回収事業所登録データを更新させる。
【0061】
また、TCP/IP通信部6cは、処理事業所通信端末5cから処理事業所情報を受信すると、当該受信をバスライン6fを介して演算部6gに通知する。演算部6gは、この通知がTCP/IP通信部6cから入力されると、TCP/IP通信部6cから処理事業所情報を取り込み、VOC管理データベース6hの処理事業所登録データに相当するデータを処理事業所情報から抽出して外部記憶部6eに出力することにより、図4(c)に示したVOC処理データベース6hの処理事業所登録データを更新させる。
【0062】
このようにしてTCP/IP通信部6cが定期的に受信する回収事業所情報及び処理事業所情報に基づいてVOC管理データベース6hの回収事業所登録データ及び処理事業所登録データが定期的に更新されるので、演算部6gは、VOC管理データベース6hを参照することにより各回収事業所通信端末1c〜3c及び処理事業所5の最新状況を常に把握することが可能となる。
【0063】
そして、演算部6gは、回収事業所情報に基づくVOC管理データベース6hの更新が完了すると、回収事業所登録データに基づいてVOC搬送車両4に緊急収集作業に指示する必要があるか否かを判断する(ステップS7)。すなわち、演算部6gは、回収事業所情報を取得する度に、回収事業所登録データが下式(1)で示される評価式を満足するか否かを判断し、この判断が「Yes」の場合には、VOC搬送車両4に緊急収集を指示する(ステップS8)。
Lu・α<Le ・・・・(1)
【0064】
上記評価式(1)は、第1〜第3回収事業所1〜3の各VOC回収装置1b〜3bについて、次回の定期収集までに吸着剤カセットCが吸着容量オーバーするか否かを裕度αをも加味して示すものである。演算部6gは、例えば第1回収事業所1の回収事業所情報に基づいて第1回収事業所1が上記評価式を満足する状態にないと判断した場合は、第1回収事業所1について定期収集計画に基づくVOCの収集を続行させるが、評価式を満足する状態にあると判断した場合には、VOC搬送車両4の車両用無線通信端末4aに対する緊急収集指令の送信をTCP/IP通信部6cに行わせる。
【0065】
また、演算部6gは、処理事業所5に対して液化回収VOCの処理促進を依頼する必要があるか否かを判断する(ステップS9)。すなわち、演算部6gは、処理事業所情報を取得する度に、処理事業所登録データが下記評価式(2)を満足するか否かを判断し、この判断が「Yes」の場合は、処理事業所5に対して液化回収VOCの処理促進を依頼する。
Li・β<Ln ・・・・(2)
【0066】
上記評価式(2)は、処理事業所5のVOC受入設備5aについて、次回の定期収集までに液化回収VOCを貯蔵するタンクがオーバーフローするか否かを裕度βをも加味して示すものである。演算部6gは、処理事業所5が評価式(2)を満足する状態にあると判断した場合には、発電設備5bの発電量を増加させて燃料である液化回収VOCを通常よりも多く消費することを処理事業所5に指示する処理促進指示の送信をTCP/IP通信部6cに行わせる(ステップS10)。
【0067】
以上説明したように、本実施形態では、VOC搬送車両4によって吸着剤カセットCの搬送中にVOCの液化回収を行うため、第1〜第3回収事業所1〜3のそれぞれは膨大なコストを掛けて熱媒を生成する術(VOCを液化回収する術)を手に入れる必要がなくなる(吸着剤カセットCを装着可能な回収塔のみを用意すれば良い)。また、第1〜第3回収事業所1〜3で吸着剤(吸着剤カセットC)を廃棄する必要がなく、VOC搬送車両4にてVOCが脱着された吸着剤カセットCを再度、第1〜第3回収事業所1〜3で使用すれば良いため、吸着剤の新品購入コストを抑えることができる。
すなわち、本実施形態によれば、VOC回収事業者のコスト負担を最小限に抑えることができると共に、小規模なVOC回収事業者のシステムへの参入が容易となるため、VOCを有効利用して省エネルギー化を図るという本来の目的を十分に達成することできる。
【0068】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々変更しても良いことは勿論である。
例えば、上記実施形態では、内燃機関としてディーゼルエンジン41を搭載し、その排ガスを利用して吸着剤の加温及びVOCの脱着を行うVOC搬送車両4を例示した。一方で、内燃機関としてガソリンエンジンを搭載するVOC搬送車両の使用も想定されるが、ガソリンエンジンの排ガスの酸素濃度は8%を越えることもあるため、VOCの脱着によって爆発性混合ガスが発生する可能性がある。そこで、ガソリンエンジン搭載型のVOC搬送車両を使用する場合、以下のような構成とすることが望ましい。
【0069】
図6は、ガソリンエンジン搭載型のVOC搬送車両4’の詳細構成図である。この図6に示すように、VOC搬送車両4’は、走行に必要な動力を発生するガソリンエンジン51と、第1〜第3回収事業所1〜3から荷受した吸着剤カセットCを収容し、ガソリンエンジン51から排出される排ガスを利用して吸着剤カセットCの加温及びVOCの脱着を行う脱着装置52と、脱着装置52によって吸着剤カセットCから脱着されたVOCを液化回収する液化回収装置53と、液化回収装置53によって回収された液化回収VOCを貯蔵する貯蔵タンク54とを備えている。
【0070】
なお、脱着装置52、液化回収装置53及び貯蔵タンク54は、VOC搬送車両4’の荷台に設置されたコンテナ55の内部に設けられている。また、このVOC搬送車両4’は、ディーゼルエンジン41を搭載するVOC搬送車両4と同様に、車両用無線通信端末4a及び測位装置4bや、その他の車両走行に必要な機能も備えているが図6では図示を省略している。
【0071】
詳細には、脱着装置52は、複数の吸着剤カセットCを着脱自在に収容可能な処理容器52aと、ガソリンエンジン51の排ガスと低酸素濃度ガスとの熱交換によって低酸素濃度ガスを加熱する加熱用熱交換器52bと、処理容器52aのガス入口と連通して加熱用熱交換器52bによって加熱された低酸素濃度ガスを容器内部へ導く低酸素濃度ガス導入管52cと、処理容器52aのガス出口と連通して容器内部からVOCが混入した低酸素濃度ガス(VOC混入ガス)を液化回収装置53へ移送する低酸素濃度ガス移送管52dとを備えている。なお、低酸素濃度ガスは、酸素濃度が8%以下のガスであれば良く、例えば窒素を用いることができる。
【0072】
また、液化回収装置53は、低酸素濃度ガス移送管52dを経由して移送されたVOC混入ガスとコンテナ55の外部から導入された空気との熱交換によって当該VOC混入ガスに含まれるVOCを凝縮させて液化回収すると共に、VOCが除去された低酸素濃度ガスを加熱用熱交換器52bへ送出する凝縮用熱交換器である。
【0073】
このように構成されたVOC搬送車両4’によれば、走行中(吸着剤カセットCの搬送中)にガソリンエンジン51から排出される排ガスが加熱用熱交換器52bに導入されて、低酸素濃度ガスが加熱される。そして、加熱用熱交換器52bによって加熱された低酸素濃度ガスは、低酸素濃度ガス導入管52cを経由して処理容器52a内に導入されて吸着剤カセットC、つまり吸着剤が加温される。吸着剤が活性炭である場合、吸着剤の温度を180°C程度に加温すればVOCの脱着が可能となるため、ガソリンエンジン51の排ガスによって十分に脱着可能温度まで吸着剤を加温することができる。
【0074】
吸着剤が脱着可能温度まで加温されると、吸着剤からVOCが脱着され始め、処理容器52aから液化回収装置53へVOCが混入した低酸素濃度ガス(VOC混入ガス)が連続的に移送される。ここで、VOC搬送車両4’の走行によって液化回収装置53には連続的に空気が導入されており、液化回収装置53において低酸素濃度ガス移送管52dを経由して移送されたVOC混入ガスとコンテナ55の外部から導入された空気との熱交換によって当該VOC混入ガスに含まれるVOCが凝縮されて液化する。この液化回収装置53によって連続的に回収された液化回収VOCは貯蔵タンク54に送られて貯蔵される一方、VOCが除去された低酸素濃度ガスは加熱用熱交換器52bへ再度送られ、VOC混入ガスとの熱交換に用いられた空気はコンテナ55の外部へ排出される。
【0075】
このように、VOC搬送車両4’に設けられた脱着装置52は、ガソリンエンジン51の排ガスを熱媒として利用するものであるが、その排ガスの熱エネルギーを低酸素濃度ガスの加熱に用い、吸着剤の加温及び脱着を低酸素濃度ガスによって行うため、ガソリンエンジン51の排ガスの酸素濃度が8%を越えていたとしても、VOCの脱着によって爆発性混合ガスが発生することを防ぐことができる。
【符号の説明】
【0076】
1…第1回収事業所、1a…VOCガス発生設備、1b…VOC回収装置、1c…回収事業所通信端末、2…第2回収事業所、2a…VOCガス発生設備、2b…VOC回収装置、2c…回収事業所通信端末、3…第3回収事業所、3a…VOCガス発生設備、3b…VOC回収装置、3c…回収事業所通信端末、4、4’…VOC搬送車両、4a…車両用無線通信端末、4b…測位装置、5…処理事業所、5a…VOC受入設備、5b…発電設備、5c…処理事業所通信端末、6…収集管理装置、7…通信回線、41…ディーゼルエンジン、51…ガソリンエンジン、42、52…脱着装置、43、53…液化回収装置、44、54…貯蔵タンク、C…吸着剤カセット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行に必要な動力を発生する内燃機関と、
揮発性有機化合物が吸着された吸着剤を収容し、前記内燃機関から排出される排ガスを利用して前記吸着剤の加温及び前記揮発性有機化合物の脱着を行う脱着装置と、
前記脱着装置によって前記吸着剤から脱着された揮発性有機化合物を液化回収する液化回収装置と、
前記液化回収装置によって液化回収された揮発性有機化合物を貯蔵する貯蔵タンクと、
を備えることを特徴とする揮発性有機化合物搬送車両。
【請求項2】
前記脱着装置は、
前記吸着剤を収容する処理容器と、
前記処理容器のガス入口と連通して容器内部へ前記排ガスを導く排ガス導入管と、
前記処理容器のガス出口と連通して容器内部から揮発性有機化合物が混入した排ガスを前記液化回収装置へ移送する排ガス移送管と、を備え、
前記液化回収装置は、
前記排ガス移送管を経由して移送された排ガスと外部から導入された空気との熱交換によって当該排ガスに含まれる揮発性有機化合物を凝縮させて液化回収すると共に、揮発性有機化合物が除去された排ガスを外部へ放出する凝縮用熱交換器である、
ことを特徴とする請求項1に記載の揮発性有機化合物搬送車両。
【請求項3】
前記脱着装置は、
前記吸着剤を収容する処理容器と、
前記排ガスと低酸素濃度ガスとの熱交換によって前記低酸素濃度ガスを加熱する加熱用熱交換器と、
前記処理容器のガス入口と連通して前記加熱用熱交換器によって加熱された前記低酸素濃度ガスを容器内部へ導く低酸素濃度ガス導入管と、
前記処理容器のガス出口と連通して容器内部から揮発性有機化合物が混入した低酸素濃度ガスを前記液化回収装置へ移送する低酸素濃度ガス移送管と、を備え、
前記液化回収装置は、
前記低酸素濃度ガス移送管を経由して移送された低酸素濃度ガスと外部から導入された空気との熱交換によって当該低酸素濃度ガスに含まれる揮発性有機化合物を凝縮させて液化回収すると共に、揮発性有機化合物が除去された低酸素濃度ガスを前記加熱用熱交換器へ送出する凝縮用熱交換器である、
ことを特徴とする請求項1に記載の揮発性有機化合物搬送車両。
【請求項4】
前記処理容器は、前記吸着剤が取り付けられた吸着剤カセットを着脱自在に収容可能であることを特徴とする請求項2または3に記載の揮発性有機化合物搬送車両。
【請求項5】
処理対象ガスに含まれる揮発性有機化合物を吸着剤に吸着させた状態で回収する回収事業所に設けられ、揮発性有機化合物の回収量を示す回収事業所情報を外部に送信する回収事業所通信端末と、
前記回収事業所にて回収された吸着剤を荷受して車両内で前記揮発性有機化合物の液化回収を行い、該液化回収された揮発性有機化合物を処理事業所まで搬送して荷渡する揮発性有機化合物搬送車両に設けられ、揮発性有機化合物の荷受内容及び荷渡内容を示す揮発性有機化合物搬送車両情報を外部に送信する車両用無線通信端末と、
前記処理事業所に設けられ、該処理事業所が前記揮発性有機化合物搬送車両から受け入れた揮発性有機化合物の受入内容を示す処理事業所情報を外部に送信する処理事業所通信端末と、
前記回収事業所通信端末、車両用無線通信端末及び処理事業所通信端末と通信を行うことにより回収事業所情報、揮発性有機化合物搬送車両情報及び処理事業所情報を受信し、当該回収事業所情報、揮発性有機化合物搬送車両情報及び処理事業所情報に基づいて回収事業所、揮発性有機化合物搬送車両及び処理事業所における揮発性有機化合物の収集を管理する管理装置と、
回収事業所通信端末、車両用無線通信端末及び処理事業所通信端末を通信自在に接続する通信回線と、
を備えることを特徴とする揮発性有機化合物処理支援システム。
【請求項6】
処理対象ガスに含まれる揮発性有機化合物を吸着剤に吸着させた状態で回収すると共に揮発性有機化合物の回収量を示す回収事業所情報を外部に送信する回収事業所通信端末を備えた回収事業所と、
前記回収事業所にて回収された吸着剤を荷受して車両内で前記揮発性有機化合物の液化回収を行い、該液化回収された揮発性有機化合物を処理事業所まで搬送して荷渡すると共に、揮発性有機化合物の荷受内容及び荷渡内容を示す揮発性有機化合物搬送車両情報を外部に送信する車両用無線通信端末を備えた揮発性有機化合物搬送車両と、
前記揮発性有機化合物搬送車両から受け入れた揮発性有機化合物の受入内容を示す処理事業所情報を外部に送信する処理事業所通信端末を備えた処理事業所と、
前記回収事業所通信端末、車両用無線通信端末及び処理事業所通信端末と通信を行うことにより回収事業所情報、揮発性有機化合物搬送車両情報及び処理事業所情報を受信し、当該回収事業所情報、揮発性有機化合物搬送車両情報及び処理事業所情報に基づいて回収事業所、揮発性有機化合物搬送車両及び処理事業所における揮発性有機化合物の収集を管理する管理装置と、
回収事業所通信端末、車両用無線通信端末及び処理事業所通信端末を通信自在に接続する通信回線と
を備えることを特徴とする揮発性有機化合物処理システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−171497(P2012−171497A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−35618(P2011−35618)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】