説明

揺動鍛造装置及び揺動鍛造方法

【課題】筒状部を有するワークを対象として揺動鍛造を行うにあたり、金型の破損を招くことなく、かつ、筒状部の内周面に余肉が生じることなく、所望の形状へと成形する。
【解決手段】ワークWの筒状部Waの内周面Wbを成形するためのプラグ型20が、上型12及び下型14とは別体をなしている。そして、その中心軸が、下型14の鉛直方向中心軸Cvに対して芯合わせされた状態で、かつ、上型12に対する相対的な位置関係を、上型12の揺動回転運動に応じて変えて行きながら、ワークWと共に上型12に対し当接可能に、下方から支持されている。プラグ型20は上型12及び下型14のいずれにも強固に拘束されるものではないので、上型12の揺動回転運動に際して、プラグ型20に大きな曲げモーメントが生じることもない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揺動鍛造装置及び揺動鍛造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、円盤状の部品を成形する一手法として、揺動鍛造方法が用いられているが、この揺動鍛造方法は、以下に説明するように、揺動部と昇降部とを備える揺動鍛造装置によって実現されるものである。ここで、揺動部は、例えば円錐状に角度を持った上型を、所定の中心点を基準に揺動回転駆動(いわゆる「すりこぎ運動」)させるものである。又、昇降部は、下型を上型に対し昇降させるものである。
揺動鍛造装置を用いた具体的な成形手順は、まず、円盤状又は円柱状のワークを下型にセットし、下型を上昇させて、揺動回転運動する上型に対しワークを当接させる。そして、上型の揺動回転運動に伴い、ワークの成形が円周方向に逐次進行していく。ワークの成形が進行するに従い、上型と下型との上下方向の距離が接近し、一定距離に保持される。そして、上型と下型とが一定距離に保持された状態で、上型の揺動回転運動を継続しつつワークを所定時間保持した後に、下型を下降させて成形を完了するものである。かかる揺動鍛造方法によれば、一般的な鍛造方法に比べ衝撃や振動の発生が少なく、又、ワークの内部応力も少なくすることが出来るので、最終的な製品形状へと、1サイクルで鍛造することも可能となる(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−337581号公報
【特許文献2】特開昭59−73138号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図9(a)には、従来の揺動鍛造装置の上型12及び下型14と共に、仮想線で筒状部Waを有するワークWが示されている。図中の符号Cで示される軸線は、鉛直軸(下型14の鉛直方向中心軸)を表し、同図に符号C12で示される軸線は、上型12の揺動回転軸を示している。ところで、図示のような、筒状部Waを有する円盤状のワークWを対象として、揺動鍛造を行うために、ワークWの筒状部Waの内周面Wbに、図9(a)に示されるような、上型12の円錐台状の突起部12aを当接させると、突起部12aによる内周面Wbの拘束が不十分となる。その結果、突起部12aに拘束されない部分が、本来必要な形状の内周面Wcを損なうように、余肉部Wdが発生してしまうこととなる。よって、余肉部Wdを除去する後工程が必要不可欠となる。
【0005】
これに対し、図9(b)に示されるように、上型12に、ワークWの筒状部Waの内周面Wbを、より広範囲に拘束することが可能な円柱状突起部12a’を設けて、揺動鍛造を実施すると、上記とは別の課題が発生する。すなわち、揺動鍛造工法は一般的な鍛造方法と異なり、上型12が、鉛直軸Cvに対して傾斜する揺動回転軸C12を以って揺動運動を行うものである。このため、上型12の揺動回転運動に伴い、円柱状突起部12a’には大きな曲げモーメントMが生じ、上型12に破損を生じるおそれがある。このような課題は、円柱状突起部12a’が、上型12と一体構造であっても、或いは、上型12に対して抜き差し自在に固定される、上型12とは別体構造のいわゆるプラグ型であっても、同様に生じ得るものである。
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、筒状部を有するワークを対象として揺動鍛造を行うにあたり、金型の破損を招くことなく、かつ、筒状部の内周面に余肉が生じることなく、所望の形状へと成形することを可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(発明の態様)
以下の発明の態様は、本発明の構成を例示するものであり、本発明の多様な構成の理解を容易にするために、項別けして説明するものである。各項は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、発明を実施するための最良の形態を参酌しつつ、各項の構成要素の一部を置換し、削除し、又は、更に他の構成要素を付加したものについても、本願発明の技術的範囲に含まれ得るものである。
【0007】
(1)第1型、及び、該第1型を所定の中心点を基準に揺動回転させる揺動部と、筒状部を有するワークをセットする第2型、及び、該第2型と前記第1型とを離間接近させて前記ワークを前記第1型に当接させる昇降部と、前記ワークの筒状部の内周面を成形するための、前記第1型及び前記第2型とは別体をなすプラグ型とを含み、該プラグ型は、その中心軸が、前記第2型の鉛直方向中心軸に対して芯合わせされた状態を維持しながら、前記ワークと共に前記第1型に対し当接可能に、下方から支持されている揺動鍛造装置(請求項1)。
【0008】
本項に記載の揺動鍛造装置は、第1型が所定の中心点を基準として揺動回転駆動された状態で、例えば、第2型が第1型に対し昇降することにより、第2型と第1型とを離間接近させるものである。又、ワークを第2型にセットした状態で第2型を上昇させて、揺動回転運動する第1型に対しワークを当接させることで、第1型の揺動回転運動に伴い、第2型にセットされたワークの成形が円周方向に逐次進行していくものである。
しかも、本項の発明においては、ワークの筒状部の内周面を成形するためのプラグ型を含んでおり、このプラグ型が第1型及び第2型とは別体をなしている。そして、その中心軸が、第2型の鉛直方向中心軸に対して芯合わせされた状態を維持しながら、ワークと共に第1型に対し当接可能に、下方から支持されている。すなわち、プラグ型は第1型及び第2型のいずれにも強固に拘束されることなく、第1型の揺動回転運動に際して、プラグ型は適宜第1型に対する相対的な位置を変えて行くものである。より具体的には、プラグ型が、第1型の揺動回転運動に対して、一体に動作することなく、又、いわゆる連れ回り等の受動的な動作をすることもなく、第2型の鉛直方向中心軸に対し芯合わせされた状態が維持される態様で、プラグ型と第1型との相対的な位置を変えることから、プラグ型に大きな曲げモーメントが生じることもない。しかも、プラグ型は、その中心軸が、第2型の鉛直方向中心軸に対して芯合わせされた状態にあることから、プラグ型が不用意に変位して、ワークの筒状部の内周面の成形精度を損なうものでもない。そして、プラグ型はワークの筒状部の内周面を成形するためのものであることから、プラグ型によるワークの筒状部の内周面の拘束は十分となり、余肉部が発生して本来必要な形状が得られなくなることもない。
【0009】
(2)上記(1)項において、前記プラグ型は、前記ワークの筒状部に挿入され、該ワークが前記第2型にセットされることで、前記プラグ型の中心軸が、前記第2型の鉛直方向中心軸に対して芯合わせされる揺動鍛造装置(請求項2)。
本項に記載の揺動鍛造装置は、プラグ型が、ワークの筒状部に挿入され、ワークが第2型にセットされることで、プラグ型の中心軸が、第2型の鉛直方向中心軸に対して芯合わせされるものである。そして、プラグ型が第1型に対する相対的な位置関係が第1型によって拘束されることなく、下方から支持され、ワークを第2型にセットした状態で第2型と第1型とを接近させて、揺動回転運動する第1型に対しワークを当接させることとなる。これにより、第1型の揺動回転運動に伴い、第2型にセットされたワークの成形が円周方向に逐次進行し、かつ、ワークの筒状部の内周面についても、プラグ型による成形が逐次進行していくものである。
【0010】
(3)上記(1)(2)項において、前記ワークと共に前記プラグ型を前記第1型に対し押し付けた状態に位置決めするための、位置決め手段を備える揺動鍛造装置(請求項3)。
本項に記載の揺動鍛造装置は、ワークを第2型にセットした状態で第2型と第1型とを接近させて、揺動回転運動する第1型に対しワークを当接させ、更に、位置決め手段によって、ワークと共にプラグ型を第1型に対し押し付けた状態に位置決めするものである。これにより、第1型の揺動回転運動に伴い、第2型にセットされたワークの成形が円周方向に逐次進行し、かつ、ワークの筒状部の内周面についても、プラグ型による成形が逐次進行していくものである。
【0011】
(4)上記(3)項において、前記第2型を上下方向に貫通して前記ワークの筒状部を下方から保持するスリーブを含む揺動鍛造装置。
本項に記載の揺動鍛造装置は、プラグ型が、ワークの筒状部に挿入され、ワークが第2型にセットされた状態で、第2型を上下方向に貫通するスリーブにより、ワークの筒状部は下方から保持されるものである。
【0012】
(5)上記(4)項において、前記位置決め手段は、前記スリーブに挿通されて、前記プラグ型を上方へと付勢する付勢手段を含む揺動鍛造装置(請求項4)。
本項に記載の揺動鍛造装置は、プラグ型が、ワークの筒状部に挿入され、ワークが第2型にセットされた状態で、位置決め手段の付勢手段により、プラグ型は上方へと付勢され、第1型に対し押し付けられた状態に位置決めされるものである。なお、付勢手段によりプラグ型は上方へと付勢されることで、単に、プラグ型がワークの筒状部に挿入され、ワークが第2型にセットされた状態では、プラグ型はワークから上方へと離間・突出する。かかる状態で第2型と第1型とを接近させると、プラグ型はワークよりも先に第1型へと当接し、遅れてワークが第1型に当接することとなる。
【0013】
(6)上記(1)から(4)項において、前記第1型には、前記プラグ型の上端部が前記揺動回転を許容し得る隙間を開けて嵌合するための、凹部が設けられている揺動鍛造装置(請求項5)。
本項に記載の揺動鍛造装置は、第1型に設けられた凹部に対して、プラグ型の上端部が揺動回転を許容し得る隙間を開けて嵌合することで、プラグ型は、第1型に対する相対的な位置関係を、第1型の揺動回転運動に応じて変えて行きながら、ワークと共に第1型に対し当接可能に、下方から支持されるものとなる。しかも、揺動回転に連動してプラグ型の上端部と第1型との隙間には、円周方向に逐次隙間が形成されるが、当該隙間は第1型に設けられた凹部内に隠され、当該隙間にワークの余肉が流動することを回避するものである。よって、ワークの余肉がアンダーカット部となってプラグ型の上端部を部分的に覆い、プラグ型からのワークの離型が出来なくなることを、回避するものとなる。
【0014】
(7)第1型を所定の中心点を基準に揺動回転させ、第2型に筒状部を有するワークをセットし、前記第1型と前記第2型とを離間接近させ前記ワークを前記第1型に当接させて前記ワークの成形を行う揺動鍛造方法であって、前記第1型及び前記第2型とは別体をなすプラグ型を、その中心軸が、前記第2型の鉛直方向中心軸に対して芯合わせされた状態を維持しながら、前記ワークと共に前記第1型に対し当接可能に、下方から支持して、該プラグ型により、前記ワークの筒状部の内周面を成形する揺動鍛造方法(請求項6)。
【0015】
本項に記載の揺動鍛造方法は、第1型を、所定の中心点を基準として揺動回転駆動した状態で、例えば、第2型を第1型に対し昇降させることにより、第2型と第1型とを離間接近させるものである。又、第2型にセットしたワークを、揺動回転運動する第1型に対し当接させることで、第1型の揺動回転運動に伴い、第2型にセットされたワークの成形を円周方向に逐次進行させていく。そして、ワークの成形が進行するに従い、第1型と第2型との上下方向の距離を接近させ、第1型と第2型とをメカニカルストッパー等により一定距離に保持した状態で、更に第1型の揺動回転運動を行った後、成形を完了するものである。
しかも、本項の発明においては、第1型及び第2型とは別体の、ワークの筒状部の内周面を成形するためのプラグ型を用いるものである。そして、プラグ型の中心軸を、第2型の鉛直方向中心軸に対して芯合わせした状態を維持しながら、ワークと共に第1型に対し当接可能に、下方から支持するものである。すなわち、プラグ型を第1型及び第2型のいずれにも強固に拘束することなく、第1型の揺動回転運動に際して、プラグ型は適宜第1型に対する相対的な位置を変えて行くものである。より具体的には、プラグ型が、第1型の揺動回転運動に対して一体に動作することなく、又、いわゆる連れ回り等の受動的な動作をすることもなく、第2型の鉛直方向中心軸に対し芯合わせされた状態が維持されるで、プラグ型と第1型との相対的な位置を変えることから、プラグ型に大きな曲げモーメントが生じることもない。しかも、プラグ型は、その中心軸が、第2型の鉛直方向中心軸に対して芯合わせされた状態にあることから、プラグ型が不用意に変位して、ワークの筒状部の内周面の成形精度を損なうものでもない。そして、プラグ型はワークの筒状部の内周面を成形するためのものであることから、プラグ型によるワークの筒状部の内周面の拘束は十分となり、余肉部が発生して本来必要な形状が得られなくなることもない。
【0016】
(8)上記(7)項において、前記プラグ型を、前記ワークの筒状部に挿入し、該ワークを前記第2型にセットすることで、前記プラグ型の中心軸を、前記第2型の鉛直方向中心軸に対して芯合わせする揺動鍛造方法(請求項7)。
本項に記載の揺動鍛造方法は、プラグ型を、ワークの筒状部に挿入し、ワークを第2型にセットすることで、プラグ型の中心軸を、第2型の鉛直方向中心軸に対して芯合わせするものである。そして、プラグ型が第1型に対する相対的な位置関係が第1型によって拘束されることなく、下方から支持して、ワークを第2型にセットした状態で第2型と第1型とを接近させて、揺動回転運動する第1型に対しワークを当接させるものである。これにより、第1型の揺動回転運動に伴い、第2型にセットされたワークの成形を円周方向に逐次進行させ、かつ、ワークの筒状部の内周面についても、プラグ型による成形を逐次進行させていくものである。
【0017】
(9)上記(7)(8)項において、前記ワークと共に前記プラグ型を前記第1型に対し押し付けた状態に位置決めする揺動鍛造方法(請求項8)。
本項に記載の揺動鍛造方法は、ワークを第2型にセットした状態で第2型と第1型とを接近させて、揺動回転運動する第1型に対しワークを当接させ、更に、ワークと共にプラグ型を第1型に対し押し付けた状態に位置決めするものである。これにより、第1型の揺動回転運動に伴い、第2型にセットされたワークの成形が円周方向に逐次進行させ、かつ、ワークの筒状部の内周面についても、プラグ型による成形を逐次進行させていくものである。
【0018】
(10)上記(6)から(9)項において、前記第1型に、前記プラグ型の上端部が前記揺動回転を許容し得る隙間を開けて嵌合するための凹部を設け、該凹部に前記プラグ型の上端部を挿入して保持する揺動鍛造方法(請求項9)。
本項に記載の揺動鍛造方法は、第1型に設けられた凹部に対して、プラグ型の上端部が揺動回転を許容し得る隙間を開けて嵌合することで、プラグ型の、第1型に対する相対的な位置関係を、第1型の揺動回転運動に応じて変えて行きながら、ワークと共に第1型に対し当接可能に、下方から支持するものである。しかも、揺動回転に連動してプラグ型の上端部と第1型との隙間には、円周方向に逐次隙間が形成されるが、当該隙間は第1型に設けられた凹部内に隠され、当該隙間にワークの余肉が流動することを回避するものである。よって、ワークの余肉がアンダーカット部となってプラグ型の上端部を部分的に覆い、プラグ型からのワークの離型が出来なくなることを、回避するものとなる。
【発明の効果】
【0019】
本発明はこのように構成したので、筒状部を有するワークを対象として揺動鍛造を行うにあたり、金型の破損を招くことなく、かつ、筒状部の内周面に余肉が生じることなく、所望の形状へと成形することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態に係る揺動鍛造装置の要部断面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る揺動鍛造装置の、金型の構成を一部断面図で示した分解図である。
【図3】(a)〜(c)は、図2に示される金型を用い、筒状部を有するワークを成形する手順を示す断面図である。
【図4】(a)〜(c)は、図2に示される金型を用い、筒状部を有するワークを成形する際の、上型の揺動回転運動を示す断面図である。
【図5】図2に示される金型を用い、筒状部を有するワークを成形する際の、成形開始時点の様子を右半分に、成形終了時点の様子を左半分に示した図である。
【図6】図2に示される金型を用い、筒状部を有するワークを成形する際の、上型に設けられた凹部と、プラグ型の上端部とが、揺動回転を許容し得る隙間を開けて嵌合する様子を示す拡大図である。
【図7】(a)は、図2に示される金型において、上型に設けられた凹部と、プラグ型の上端部とが、揺動回転を許容し得る隙間を開けて嵌合することによる効果を示す説明図であり、(b)は上型の凹部を省略した例を示す説明図である。
【図8】図2に示される金型を用い、筒状部を有するワークを成形した後に、プラグ型からワークを離型する方法を示す説明図である。
【図9】(a)、(b)は、従来の揺動鍛造装置の、上型構造が異なる別例を一部断面図で示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて説明する。なお、以下の説明において、従来技術と同一部分、若しくは相当する部分については、同一の符号を付して、詳しい説明を省略する。
【0022】
図1には、本発明の実施の形態に係る揺動鍛造装置の、揺動部及び昇降部の要部を断面で示している。揺動鍛造装置10は、揺動部16及び昇降部18を含むものであり、揺動部16は、第1型として、本実施の形態では上型12を保持して、上型12を所定の中心点を基準に揺動回転させるものである。又、昇降部18は、筒状部Wa(図2参照)を有するワークWをセットする第2型として、本実施の形態では下型14を、上型12に対し昇降させて、ワークWを上型12に当接させるものである。更に、本発明の実施の形態では、ワークWの筒状部Waの内周面Wbを成形するための、上型12及び下型14とは別体をなすプラグ型20を含むものである。
なお、図1には、揺動部16と昇降部18の、2つの状態(成形開始前及び成形中)を示している。又、図示の様に、昇降部18に対して揺動部16が昇降するように構成しても良く、上述の如く昇降部18の方が、揺動部16に対して昇降するように動作することで、下型14を上昇させて、揺動回転運動する上型12に対しワークWを当接させる構成を採用してもよい。本実施の形態では、後者を例に挙げて以下の説明を行う。
【0023】
図2には、本発明の実施の形態に係る上型12、下型14、プラグ型20及び関連する部材を示している。プラグ型20は、その中心軸が、下型14の鉛直方向中心軸Cvに対して芯合わせされた状態で、かつ、上型12に対する相対的な位置関係が上型12によって拘束されることなく、ワークWと共に上型12に対し当接可能に、下方から支持されている。
ここで、プラグ型20は、図示の例では多段の円筒状をなしており、ワークWの筒状部Waに挿入され、ワークWが下型14にセットされることで、プラグ型20の中心軸が、下型の鉛直方向中心軸Cvに対して芯合わせされるようになっている。この芯合わせを可能とするために、プラグ型20の外周形状は、ワークWの筒状部Waの内周面Wbに倣った形状を有しており、プラグ型20がワークWの筒状部Waの内周面Wbに挿入されることで、ワークWの中心軸とプラグ型20の中心軸とが一致する関係となっている。又、下型14は成形面14aと、ワークWの筒状部Waが挿入される貫通穴14bとを有している。そして、ワークWが下型14にセットされることで、ワークWを介在して、プラグ型20の中心軸が、下型の鉛直方向中心軸Cvに対して芯合わせされることとなる。
更に、プラグ型20は、成形の前後に渡り、ワークWの筒状部Waの内周面Wbに挿入された状態で、その下端部20bがワークWの筒状部Waから突出するように形成されている(図8参照)。
【0024】
又、ワークWと共にプラグ型20を上型12に対し押し付けた状態に位置決めするための、位置決め手段22として、プラグ型20を上方へと付勢する付勢手段24と、下型14を、上下方向に貫通してワークWの筒状部Waを下方から保持するスリーブ26とを含んでいる。図示の例では、スリーブ26は、貫通穴14bに対し摺接する外径を有する円筒状の部材であり、付勢手段24を構成するコイルスプリングが、スリーブ26の内筒部26aに挿通されることで、ワークWの筒状部Waの内周面Wbに挿入された状態のスリーブ26の下端部20bに、上方への弾性力を付勢するものである。
【0025】
なお、スリーブ26は、下型14に対してスリーブ26が上昇することで、プラグ型20とワークWとを一体に離型させる、イジェクターとしての機能も有している。そして、スリーブ26の動作は、昇降部18に設けられた油圧シリンダー等により、行われるものである。又、付勢手段24は、図示のコイルスプリングに限定されるものではなく、必要に応じ、他の弾性部材を用いることも、リニアアクチュエータ等、任意に制御された上方への付勢力を発生する手段を用いることも可能である。
更に、後述するように、上型12には、プラグ型20の上端部20aが揺動回転を許容し得る隙間(図6の符号S部参照)を開けて嵌合するための、凹部28が設けられている。
【0026】
又、プラグ型20の上端部20aには、揺動回転を許容し得る隙間(図6の符号S部参照)を確保するために、面取り部20cが形成されている。又、上型12の揺動回転運動を受けて、プラグ型20がその中心軸にぶれを生じるような、半径方向の過大な力を受けることが無いように、上端部20aの端面は、中心部寄りの一定範囲Acの傾斜角度が緩やか(例えば、鉛直軸Cvと直交する面に対する傾斜角度が2°)に設定され、外周部Adの傾斜角度はそれよりも急角度(例えば、鉛直軸Cvと直交する面に対する傾斜角度が5°)に形成されている。従って、上型12の揺動回転運動の際には、中心部寄りの一定範囲Acでのみ、上型12に当接するものである。
又、図示の例では、プラグ型20の上端部20aは緩やかな凸球面状をなし、上型12に設けられた凹部28は、プラグ型20の上端部20aの端面に倣った凹球面をなしている。しかしながら、上型12の揺動回転運動中、プラグ型20の上端部20aとの良好な接触状態が維持される限り、何れか一方が平坦面であっても良い。
【0027】
続いて、図3〜図5を参照しながら、本発明の実施の形態に係る揺動鍛造方法について説明する。
まず、プラグ型20を、ワークWの筒状部Waに挿入する。そして、図3(a)に示されるように、上型12に対して下型14が十分に下降した状態(下死点)で、かつ、スリーブ26が、下型14の貫通穴14b内で、ワークWの筒状部Waの下端部を下方から保持するための適切な高さに保持された状態で、ワークWを下型14にセットする。この際、図3(a)に示されるように、付勢手段24を構成するコイルスプリングが、スリーブ26の内筒部26aに挿通され、スリーブ26から上方に突出する。よって、ワークWの筒状部Waの内周面Wbにプラグ型20が挿入された状態で、プラグ型20の下端部20bに付勢手段24が当接することで、プラグ型20には上方への弾性力が付勢され、ワークWから離間するようにして、上方へと押し上げられる。
なお、通常は、ワークWを下型14にセットする際に、上型12は揺動回転した状態にあり、下型14に対するワークWのセット作業及び取り出し作業は、ロボットその他の搬送機械を用いて無人で行われる。
【0028】
続いて、図3(b)に示されるように、上型12に対し下型14を上昇させる。すると、プラグ型20がワークWから上方へと離間・突出した状態で、ワークWよりも先に上型12へと当接し、付勢手段24を構成するコイルスプリングが縮むことで、プラグ型29に遅れてワークWが上型12に当接することとなる。これにより、プラグ型20はワークWの筒状部Waに押込まれる。そして、その中心軸が、下型14の鉛直方向中心軸Cvに対して芯合わせされつつ、ワークWの筒状部Waの内周面Wbに当接する。又、図5の右半分に示されるように、上型12に設けられた凹部28に、プラグ型20の上端部20aが揺動回転を許容し得る隙間(図6の符号S参照)を開けて嵌合する。
そして、揺動回転運動する上型12に対しワークWが当接した状態で、図4(a)〜(c)に示されるように、上型12の揺動回転運動がなされることで、それに伴い、下型14にセットされたワークWの成形が円周方向に逐次進行していく。なお、図4(a)に示される下型14に対する上型12の位置を位相0°とした場合、図4(b)の上型12の位相は90°、図4(c)の上型12の位相は180°となっている。又、図5の右半分に示される、成形開始時点から、同左半分に示される成形終了時点までの間、プラグ型20は、付勢手段24によって、常時、上型12(凹部28)に向けて付勢されて、上型12との密着状態が維持される。
【0029】
その後、ワークWが所定の厚みまで成形された時点で、下型14を下降させる。更に、下型14に対してスリーブ26を上昇させ、プラグ型20とワークWとを、下型14から一体に離型させる。そして、図8に示されるように、プラグ型20とワークWとを一体の状態のまま、テーブル30等の平坦面に置く(又は落下させる)。すると、プラグ型20は、成形終了時においても、ワークWの筒状部Waの内周面Wbに挿入された状態で、その下端部20bがワークWの筒状部Waから突出した状態となっていることから、プラグ型20がワークWの筒状部Waから上方へと押し出され、プラグ型20はワークWから分離される。
この、下型14からのプラグ型20及びワークWの離型作業、プラグ型20とワークWとの分離作業、及び、分離したプラグ型20及びワークWの各搬送作業は、適宜、ロボットを用いて行われる。
【0030】
さて、上記構成をなす、本発明の実施の形態によれば、次のような作用効果を得ることが可能となる。
まず、本発明の実施の形態によれば、ワークWを下型14にセットした状態で下型14を上昇させて、揺動回転運動する上型12に対しワークWを当接させることで、上型12の揺動回転運動に伴い、下型14にセットされたワークWの成形が円周方向に逐次進行していくものである。
【0031】
しかも、ワークWの筒状部Waの内周面Wbを成形するためのプラグ型20が、上型12及び下型14とは別体をなしている。そして、その中心軸が、下型14の鉛直方向中心軸Cvに対して芯合わせされた状態で、かつ、上型12に対する相対的な位置関係を、上型12の揺動回転運動に応じて変えて行きながら、ワークWと共に上型12に対し当接可能に、下方から支持されている。すなわち、プラグ型20は上型12及び下型14のいずれにも強固に拘束されることなく、上型12の揺動回転運動に際して、プラグ型20は適宜上型12に対する相対的な位置を変えて行くものである。そして、プラグ型20が、上型12の揺動回転運動に対して、一体に動作することなく、又、いわゆる連れ回り等の受動的な動作をすることもなく、下型14の鉛直方向中心軸Cvに対し芯合わせされた状態が維持されることから、プラグ型20に大きな曲げモーメントが生じることもない。しかも、プラグ型20は、その中心軸が、下型14の鉛直方向中心軸Cvに対して芯合わせされた状態にあることから、プラグ型20が不用意に変位して、ワークWの筒状部Waの内周面Wbの成形精度を損なうものでもない。そして、プラグ型20はワークWの筒状部Waの内周面Wbを成形するためのものであることから、プラグ型20によるワークWの筒状部Waの内周面Wbの拘束は十分となる。よって図5に示されるような、余肉部Wdが発生して、本来必要な内周面Wbの形状が得られなくなることもない。
【0032】
又、プラグ型20が、ワークWの筒状部Waに挿入され、ワークWが下型14にセットされることで、プラグ型20の中心軸が、下型14の鉛直方向中心軸Cvに対して芯合わせされるものである。そして、プラグ型20の上型12に対する相対的な位置関係が上型12によって拘束されることなく、上型12の揺動回転運動に応じてプラグ型20の上型12に対する相対的な位置関係を変えて行きながら下方14から支持され、揺動回転運動する上型12に対しワークWを当接させる。これにより、上型12の揺動回転運動に伴い、下型14にセットされたワークWの成形が円周方向に逐次進行し、かつ、ワークWの筒状部Waの内周面Wbについても、プラグ型20による成形が逐次進行していくものである。
【0033】
又、ワークWを下型14にセットした状態で下型14を上昇させて、揺動回転運動する上型12に対しワークWを当接させ、更に、位置決め手段22によって、ワークWと共にプラグ型20を上型12に対し押し付けた状態に位置決めする。これにより、上型12の揺動回転運動に伴い、下型14にセットされたワークWの成形が円周方向に逐次進行し、かつ、ワークWの筒状部Waの内周面Wbについても、プラグ型20による成形が逐次進行していくこととなる。
【0034】
又、上記成形工程中、プラグ型20が、ワークWの筒状部Waに挿入され、ワークWが下型14にセットされた状態で、位置決め手段22の付勢手段24により、プラグ型20は上方へと付勢され、上型12に対し押し付けられた状態に位置決めされるものである。
又、上記成形工程中、プラグ型20が、ワークWの筒状部Waに挿入され、ワークWが下型14にセットされた状態で、下型14を上下方向に貫通するスリーブ26により、ワークWの筒状部Waは下方から保持されるものである。そして、スリーブ26は、成形工程中、ワークWを適切な位置に下支えするのみならず、下型14からのワークWの離型時には、イジェクターとしても機能するものである。
【0035】
又、本発明の実施の形態では、上型12に設けられた凹部28に対して、プラグ型20の上端部20aが揺動回転を許容し得る隙間S(図6参照)を開けて嵌合する。このため、プラグ型20は、上型12に対する相対的な位置関係を、上型12の揺動回転運動に応じて変えて行きながら、ワークWと共に上型12に対し当接可能に、下方から支持されるものとなる。
しかも、揺動回転に連動してプラグ型20の上端部20aと上型12との隙間には、円周方向に逐次隙間Sが形成されるが、隙間Sは上型12に設けられた凹部28内に隠される。よって図7(a)に示されるように、隙間SにワークWの余肉が流動することを、回避することが可能となる。なお、図7(a)の矢印Fは、余肉の流れが、ワークWの内周面Wbと、プラグ型20の壁面との間に流入する様子を示している。
【0036】
よって、ワークWの余肉Wd(図6参照)がアンダーカット部となって、プラグ型20の上端部20aを部分的に覆い、プラグ型20からのワークWの離型が出来なくなることを、回避することが可能となる。
なお、図7(b)に示されるように、プラグ型20の上端部の形状(例えば、面取り部20c)の形状と、上型12のプラグ型20に対向する面の形状とを、適宜調整することにより、ワークWの余肉がアンダーカット部となってプラグ型20の上端部20aを部分的に覆ってしまうような、余肉の流れFを回避することも可能である。この場合には、上型12の凹部28を省略することも可能である。
更に、プラグ型20の、上型12に対する相対的な位置関係が上型12によって拘束されることなく、ワークWと共に上型12に対し当接可能となっている限り、プラグ型20と上型12とを、ボールジョイント等、一方に凸部を他方に凹部を設けた相補的な関係の連結部で、相対的な揺動回転が可能に、かつ、着脱自在に連結することとしても、同様の作用効果を得ることが可能となる。
【符号の説明】
【0037】
10:揺動鍛造装置、12:上型、14:下型、20:プラグ型、20a:上端部、20b:下端部、22:位置決め手段、24:付勢手段、26:スリーブ、28:凹部、W:ワーク、Wa:筒状部、Wb:内周面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1型、及び、該第1型を所定の中心点を基準に揺動回転させる揺動部と、
筒状部を有するワークをセットする第2型、及び、該第2型と前記第1型とを離間接近させて前記ワークを前記第1型に当接させる昇降部と、
前記ワークの筒状部の内周面を成形するための、前記第1型及び前記第2型とは別体をなすプラグ型とを含み、
該プラグ型は、その中心軸が、前記第2型の鉛直方向中心軸に対して芯合わせされた状態を維持しながら、前記ワークと共に前記第1型に対し当接可能に、下方から支持されていることを特徴とする揺動鍛造装置。
【請求項2】
前記プラグ型は、前記ワークの筒状部に挿入され、該ワークが前記第2型にセットされることで、前記プラグ型の中心軸が、前記第2型の鉛直方向中心軸に対して芯合わせされることを特徴とする請求項1記載の揺動鍛造装置。
【請求項3】
前記ワークと共に前記プラグ型を前記第1型に対し押し付けた状態に位置決めするための、位置決め手段を備えることを特徴とする請求項1又は2記載の揺動鍛造装置。
【請求項4】
前記位置決め手段は、前記第2型を上下方向に貫通して前記ワークの筒状部を下方から保持するスリーブと、該スリーブに挿通されて、前記プラグ型を上方へと付勢する付勢手段とを含むことを特徴とする請求項3記載の揺動鍛造装置。
【請求項5】
前記第1型には、前記プラグ型の上端部が前記揺動回転を許容し得る隙間を開けて嵌合するための、凹部が設けられていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載の揺動鍛造装置。
【請求項6】
第1型を所定の中心点を基準に揺動回転させ、第2型に筒状部を有するワークをセットし、前記第1型と前記第2型とを離間接近させ前記ワークを前記第1型に当接させて前記ワークの成形を行う揺動鍛造方法であって、
前記第1型及び前記第2型とは別体をなすプラグ型を、その中心軸が、前記第2型の鉛直方向中心軸に対して芯合わせされた状態を維持しながら、前記ワークと共に前記第1型に対し当接可能に、下方から支持して、該プラグ型により、前記ワークの筒状部の内周面を成形することを特徴とする揺動鍛造方法。
【請求項7】
前記プラグ型を、前記ワークの筒状部に挿入し、該ワークを前記第2型にセットすることで、前記プラグ型の中心軸を、前記第2型の鉛直方向中心軸に対して芯合わせすることを特徴とする請求項6記載の揺動鍛造方法。
【請求項8】
前記ワークと共に前記プラグ型を前記第1型に対し押し付けた状態に位置決めすることを特徴とする請求項6又は7記載の揺動鍛造方法。
【請求項9】
前記第1型に、前記プラグ型の上端部が前記揺動回転を許容し得る隙間を開けて嵌合するための凹部を設け、該凹部に前記プラグ型の上端部を挿入して保持することを特徴とする請求項6から8のいずれか1項記載の揺動鍛造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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