説明

搬送テーブル駆動用電動機のトルク制御装置

【課題】重量素材搬送時の斜めずれを矯正する機能を有する搬送テーブル構成設備を、長寿命とすること。
【解決手段】スケジュール管理用計算機32から入力される搬送素材名k1とその重量値w1を用い、その搬送素材名k1のスラブを搬送テーブルで搬送する際に、電動機20が起動時に必要なトルクαTを算出する必要トルク算出部30aと、その算出された必要トルクαTを起動トルクとして発生する際に電動機20に流れる電流値を算出し、これを電流制限値iLとする電流制限値算出部30bとを備えてトルク制御装置30を構成する。このトルク制御装置30で、スラブの搬送及び矯正時の電動機20の電流値が電流制限値iLを超えないように制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、厚板工場等において搬送テーブル上で搬送されるスラブが斜めにずれた際に真っ直ぐに矯正する搬送テーブル駆動用電動機のトルク制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図3(a)〜(c)に、厚板工場におけるスラブの搬送テーブルの構成を示し、この搬送時に搬送テーブル上でスラブが斜めにずれた際に真っ直ぐに矯正する際の方法について説明する。
まず、(a)を参照して、搬送テーブル10の構成を説明する。搬送テーブル10は、圧延前の所定厚を有する長方形状の鋼板であるスラブ11を載置して搬送するための複数のテーブルロール12と、ストッパ14と、回動機構部16と、ギア部18と、電動機20と、速度センサ22と、電流検出器24と、電動機駆動装置26とを備えて構成されている。
【0003】
各テーブルロール12は、各々が円柱形状を成し、その両端がベアリング機構によって回転自在に支持され、一定間隔で直線状に配置されている。また、各テーブルロール12の一端部は、チェーンやベルト等の回動機構部16に係合されており、回動機構部16はギア部18に係合され、ギア部18は電動機20の回転軸に係合されている。この構成によって、電動機駆動装置26から電力が供給されることによって電動機20が回転駆動し、この回転駆動力によってギア部18が回転し、更にその回転に応じて回動機構部16が回動して各テーブルロール12が矢印Y1で示す同一方向に回転し、これによってスラブ11が矢印Y1で示す方向に搬送されるようになっている。
【0004】
また、電動機20の回転時には、速度センサ22によってその回転速度が検出されると共に、電流検出器24によって電動機20の負荷電流が検出され、各々の検出値が電動機駆動装置26へ入力される。電動機駆動装置26は、それら入力される検出値に応じて電動機20に供給する電流値及び電圧値を制御することによって、電動機20のトルク及び回転数を所定の値に制御している。
【0005】
ストッパ14は、所定厚みの板状を成し、所定のテーブルロール12の間に配置され、床面に対して垂直方向(上下方向)に移動可能となっている。
このような構成の搬送テーブル10の各テーブルロール12の上に、まず(a)に示すように、スラブ11を載置して矢印Y1の方向に搬送する。この搬送時、スラブ11は当該スラブ11の長手方向が搬送方向と同一となる真っ直ぐな状態で搬送される。
【0006】
しかし、(b)に示すように、スラブ11は搬送時に搬送方向に対して斜めにずれることがある。この際に、(c)に示すように、ストッパ14をテーブルロール12から突き出るように上方に移動させ、このストッパ14に、斜めにずれたスラブ11の先端面を押し付けて真っ直ぐな状態に矯正する。これによって、重量があり人が動かすことが出来ないスラブ11を容易に矯正して適正に搬送できるようになっている。
【0007】
この種の従来技術として、例えば特許文献1に記載のものがある。
【特許文献1】特開平10−7298号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上述したように従来の搬送テーブル10による搬送時に斜めにずれたスラブ11をストッパ14に押し付けて真っ直ぐな状態に矯正する場合、その押付け時に、電動機20のトルクが後述で説明するように過大となると共に、スラブ11から搬送テーブル10への反力及び応力が大きく、このため搬送テーブル10を構成する電動機20並びに、テーブルロール12、回動機構部16、ギア部18等の機械設備が短期間で破損する。言い換えれば、搬送テーブル10の構成設備の寿命が短くなるという問題があった。
【0009】
電動機20のトルクは、通常運転時であれば図4に示すように、起動時に最大のトルクαを必要とし、この起動トルクαは次式(1)により決定される。
起動トルクα=機械系慣性モーメント+搬送素材重量値(スラブ11の重量)×静止摩擦係数 …(1)
即ち、起動トルクαは、機械駆動必要トルクα1と、素材(スラブ11)搬送必要トルクα2と、素材+機械加速必要トルクα3と、素材起動・加速必要トルクα4とを合わせたものとなる。また、電動機20の回転速度は、破線SPで示すように、起動から一定速度まで加速する。
【0010】
しかし、ストッパ14へのスラブ11の押付け時には、図5に示すように、スラブ11がストッパ14へ押し付けられるにも拘わらず電動機20の速度SPが一定に保持されるので、この際に電動機20に必要なトルク(ストッパ押付時必要トルク)βが、起動トルクαよりも大きくなる。この大きなストッパ押付時必要トルクβで、スラブ11がストッパ14に押付けられるので、スラブ11から搬送テーブル10への反力及び応力が大きくなり、搬送テーブル10の構成設備に過負荷が掛かるのでその寿命が短くなっていた。
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、重量素材搬送時の斜めずれを矯正する機能を有する搬送テーブル構成設備を、長寿命とすることができる搬送テーブル駆動用電動機のトルク制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1による搬送テーブル駆動用電動機のトルク制御装置は、両端が回転自在に支持された円柱形状のテーブルロールを一定間隔で配列し、これらテーブルロールを回転機構を介して電動機で回転駆動させる構成の搬送テーブル上に、搬送素材を載置して搬送させ、この搬送時に斜めにずれた搬送素材を、テーブルロール間に配置されたストッパに押し付けて真っ直ぐな状態に矯正する搬送テーブル駆動用電動機のトルク制御装置において、上位管理用計算機から入力される搬送素材名とその重量値を用い、その搬送素材名の搬送素材を前記搬送テーブルで搬送する際に、前記電動機が起動時に必要なトルクを算出する必要トルク算出部と、前記必要トルク算出部で算出された必要トルクを起動トルクとして発生する際に前記電動機に流れる電流値を算出し、これを電流制限値とする電流制限値算出部とを備え、前記搬送及び前記矯正時の電動機の電流値が前記電流制限値を超えないように制御することを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、搬送中に斜めにずれた搬送素材がストッパに押し付けられて真っ直ぐな状態に矯正される場合、電動機に過負荷が掛かるため当該電動機の電流値が上昇する。しかし、トルク制御装置によって、電動機の電流値は電流制限値を超えることはないので、起動トルクを超えたトルクが発生することはない。また、過負荷が掛かっているので電動機の回転数は通常搬送時の回転速度よりも遅くなるが、搬送素材を搬送起動する際に必要な起動トルクは発生されるので、ストッパに押し付けられている搬送素材を斜めから真っ直ぐな正常状態に移動させることができる。
【0013】
従って、従来のように、起動トルクよりも大きなトルクは発生しないので、その大きなトルクで搬送素材がストッパに押付けられることで、搬送素材から搬送テーブルへの反力及び応力が大きくなり、搬送テーブルの構成設備に過負荷が掛かりその寿命が短くなるといったことを防止することができる。つまり、搬送素材から搬送テーブルへの反力及び応力を小さくすることができるので、搬送テーブルの構成設備に掛かる負荷を軽減することができ、その分、寿命を長くすることができる。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように本発明の搬送テーブル駆動用電動機のトルク制御装置によれば、重量素材搬送時の斜めずれを矯正する機能を有する搬送テーブル構成設備を、長寿命とすることができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る搬送テーブル駆動用電動機のトルク制御装置の構成を示す図である。
図1に示す搬送テーブル駆動用電動機のトルク制御装置30は、スケジュール管理用計算機32及び電流制限値算出部30bに電気的に接続されており、必要トルク算出部30a及び電流制限値算出部30bを備えて構成されている。
【0016】
スケジュール管理用計算機32は、前述で説明済みの図3に示した搬送テーブル10での搬送素材の各種情報並びに搬送に係わる情報を管理するものであり、この管理対象のうちの搬送素材が何かを示す搬送素材(ここではスラブ11)k1+重量値w1を必要トルク算出部30aへ出力する。
必要トルク算出部30aは、スケジュール管理用計算機32から入力される搬送素材名k1とその重量値w1を用い、その搬送素材名k1であるスラブ11を搬送テーブル10で搬送する際に、電動機20が起動時に必要なトルクαTを計算する。
【0017】
この計算は、前述した電動機20の起動トルクαの計算式(1)である機械系慣性モーメント+搬送素材重量値(スラブ11の重量)×静止摩擦係数で行うことができる。機械系慣性モーメントは設計時に明白となる既知の固定値であり、静止摩擦係数は搬送素材に対応する既知の固定値である。
従って、必要トルク算出部30aは、各種の搬送素材毎の静止摩擦係数と、機械系慣性モーメントを保持しており、スケジュール管理用計算機32から入力される搬送素材重量値w1と、搬送素材名k1に応じた静止摩擦係数と、機械系慣性モーメントとを上記の計算式(1)に当て嵌めて必要トルクαTを求め、これを電流制限値算出部30bへ出力する。
【0018】
電流制限値算出部30bは、その必要トルクαTを起動トルクとして発生する際に電動機20bに流れる電流値を、当該電動機20が該当する一般的な電動機機のトルクと電流値との関係式から算出し、これを電流制限値iLとして電動機駆動装置26へ出力する。
電動機駆動装置26は、速度制御部26a、電流制御部26b、電圧制御部26cを備えており、電流制御部26bに電流制限値iLが入力されるようになっている。電流制御部26bは、電流検出器24で検出される電動機20へ供給される電流値i1が電流制限値iLを超えない様に制御する。また、速度制御部26aは、速度センサ22で検出された電動機20の回転の速度値s1を所定値に制御し、また、電圧制御部26cは電動機20への供給電圧値を制御する。
【0019】
次に、搬送テーブル10でスラブ11を搬送する際に当該スラブ11が斜めにずれた場合、これを真っ直ぐな状態に矯正する際に、トルク制御装置30によって電動機20のトルクを低減する動作を、図2のフローチャートを参照して説明する。
ステップS1において、トルク制御装置30に、スケジュール管理用計算機32から搬送素材である搬送素材名k1(=スラブ11)+重量値w1を入力する。
【0020】
この入力後、ステップS2において、スケジュール管理用計算機32の必要トルク算出部30aで、それら搬送素材名k1及び重量値w1が用いられ、その搬送対象のスラブ11を搬送テーブル10で搬送する際に電動機20で必要な起動トルクαTが、上式(1)をもとに計算される。この計算された必要トルクαTは、電流制限値算出部30bへ出力される。
【0021】
ステップS3において、電流制限値算出部30bで、その必要トルクαTが起動トルクとして発生される際に電動機20bに流れる電流値が算出され、これが電流制限値iLとして電動機駆動装置26へ出力される。
この後、ステップS4において、図3(a)に示すように、テーブルロール12にスラブ11が載置され、電動機20の駆動によって矢印Y1の方向に真っ直ぐな状態で搬送されたとする。この際、電動機20は、電流検出器24及び速度センサ22での各検出値i1,s1に応じた電動機駆動装置26の制御によって、予め定められた一定回転数に保持されている。
【0022】
その後、ステップS5において、(b)に示すようにスラブ11が斜めにずれ、この時、ストッパ14がテーブルロール12から上方に突出され、このストッパ14に、斜めにずれたスラブ11の先端面が押し付けられて真っ直ぐな状態に矯正する処理が行われたとする。この処理中、電動機20に過負荷が掛かるため、電流検出器24で検出される電流値i1が上昇する。
【0023】
ステップS6において、ここで、従来技術のままであれば、電流値i1は電動機20のスラブ11の搬送時の起動トルクを超えて上昇する。しかし、本実施の形態では、上記ステップS3にて電流制限値算出部30bから電流制御部26bへ電流制限値iLが出力されているので、電流制御部26bによって、電動機20へ供給される電流値i1が電流制限値iLを超えない様に制御される。
【0024】
この制御によって、電動機20の電流値i1は電流制限値iLを超えることはないので、起動トルクを超えたトルクが発生することはない。また、上記のように過負荷が掛かっているので電動機20の回転数は上記搬送時の一定回転速度よりも遅くなるが、スラブ11を搬送起動する際に必要なトルクαT(=起動トルク)は発生されるので、ストッパ14に押し付けられているスラブ11を斜めから真っ直ぐな状態に移動させることができる。
従って、そのストッパ14に押し付けられているスラブ11は、徐々に斜めから真っ直ぐになり、最終的に図3(c)に示すように完全に真っ直ぐな状態に矯正される。
【0025】
このように、本実施の形態の搬送テーブル駆動用電動機のトルク制御装置30によれば、上位管理用計算機であるスケジュール管理用計算機32から入力される搬送素材名k1とその重量値w1を用い、その搬送素材名k1のスラブ11を搬送テーブル10で搬送する際に、電動機20が起動時に必要なトルクαTを算出する必要トルク算出部30aと、その算出された必要トルクαTを起動トルクとして発生する際に電動機20に流れる電流値を算出し、これを電流制限値iLとする電流制限値算出部30bとを備え、スラブ11の搬送及び矯正時の電動機20の電流値が電流制限値iLを超えないように制御するようにした。
【0026】
これによって、搬送中に斜めにずれたスラブ11がストッパ14に押し付けられて真っ直ぐな状態に矯正される場合、電動機20に過負荷が掛かるため当該電動機20の電流値i1が上昇する。しかし、トルク制御装置30によって、電動機20の電流値i1は電流制限値iLを超えることはないので、起動トルクを超えたトルクが発生することはない。また、過負荷が掛かっているので電動機20の回転数は通常搬送時の回転速度よりも遅くなるが、スラブ11を搬送起動する際に必要な起動トルクは発生されるので、ストッパ14に押し付けられているスラブ11を斜めから真っ直ぐな正常状態に移動させることができる。
【0027】
従って、従来のように、起動トルクよりも大きなトルクは発生しないので、その大きなトルクでスラブ11がストッパ14に押付けられることで、スラブ11から搬送テーブル10への反力及び応力が大きくなり、搬送テーブル10の構成設備に過負荷が掛かりその寿命が短くなるといったことを防止することができる。つまり、スラブ11から搬送テーブル10への反力及び応力を小さくすることができるので、搬送テーブル10の構成設備に掛かる負荷を軽減することができ、その分、寿命を長くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施の形態に係る搬送テーブル駆動用電動機のトルク制御装置の構成を示す図である。
【図2】上記実施の形態のトルク制御装置による斜めにずれたスラブを真っ直ぐな状態に矯正する際の電動機のトルク低減動作を説明するためのフローチャートである。
【図3】スラブの搬送テーブルの構成及びスラブ搬送状態を示し、(a)は搬送テーブル上のスラブ搬送状態を示す図、(b)はスラブが搬送方向に対して斜めにずれた状態を示す図、(c)は斜めにずれたスラブをストッパに押し付けて真っ直ぐにした状態を示す図である。
【図4】搬送テーブルの電動機の通常運転時の起動トルク(機械駆動必要トルクα1+素材搬送必要トルクα2+素材+機械加速必要トルクα3+素材起動・加速必要トルクα4)を示す図である。
【図5】搬送テーブルの電動機の通常運転時の起動トルク(機械駆動必要トルクα1+素材搬送必要トルクα2+素材+機械加速必要トルクα3+素材起動・加速必要トルクα4)に、ストッパ押付時必要トルクβを追加して示す図である。
【符号の説明】
【0029】
10 搬送テーブル
11 スラブ
12 テーブルロール
14 ストッパ
16 回動機構部
18 ギア部
20 電動機
22 速度センサ
24 電流検出器
26 電動機駆動装置
26a 速度制御部
26b 電流制御部
26c 電圧制御部
30 トルク制御装置
30b 電流制限値算出部
30a 必要トルク算出部
32 スケジュール管理用計算機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両端が回転自在に支持された円柱形状のテーブルロールを一定間隔で配列し、これらテーブルロールを回転機構を介して電動機で回転駆動させる構成の搬送テーブル上に、搬送素材を載置して搬送させ、この搬送時に斜めにずれた搬送素材を、テーブルロール間に配置されたストッパに押し付けて真っ直ぐな状態に矯正する搬送テーブル駆動用電動機のトルク制御装置において、
上位管理用計算機から入力される搬送素材名とその重量値を用い、その搬送素材名の搬送素材を前記搬送テーブルで搬送する際に、前記電動機が起動時に必要なトルクを算出する必要トルク算出部と、
前記必要トルク算出部で算出された必要トルクを起動トルクとして発生する際に前記電動機に流れる電流値を算出し、これを電流制限値とする電流制限値算出部とを備え、
前記搬送及び前記矯正時の電動機の電流値が前記電流制限値を超えないように制御することを特徴とする搬送テーブル駆動用電動機のトルク制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−247498(P2008−247498A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−87917(P2007−87917)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】