説明

搬送ローラーの製造方法

【課題】真円度が高く、反りが少ない搬送ローラーの製造方法を提供する。
【解決手段】矩形板の対向する一対の端部を互いに近接させ、あるいは当接させるように曲げて搬送ローラー本体を形成する曲げ加工を行うステップS1と、曲げ加工によって生じた搬送ローラー本体の内部応力を、加熱して低減させる熱処理処理を行うステップS2と、を有する搬送ローラーの製造方法を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬送ローラーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、シート状の記録媒体上に情報を記録する印刷装置が用いられており、この印刷装置には記録媒体を搬送する搬送ローラーが設けられている。搬送ローラーには中実の棒状部材が一般的に用いられている。
【0003】
一方、中実の材料は重量およびコストが嵩むという課題があるため、特許文献1には、金属板を曲げ加工して円筒軸を成形する技術が記載されている。
円筒軸は、プレス加工(打ち抜き加工や曲げ加工)等を用いて製造される。まず、大型の金属板から、打ち抜き加工等によって略矩形の板材(矩形板)が形成される。次に、曲げ加工によって矩形板を曲げて、略円筒状の円筒軸(円筒体)が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−289496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記プレス加工で曲げて形成された円筒体には、一枚の金属板に圧縮応力と引っ張り応力とが同居した状態の内部応力が生じているため、金属板の端部を互いに近接させた継ぎ目が開くスプリングバックが生じたり、軸方向において継ぎ目側が凸になるように円筒体に反りが加わってしまう場合がある。
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたもので、真円度が高く、反りが少ない搬送ローラーの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明は、金属板の対向する一対の端部を互いに近接させ、あるいは当接させるように曲げて円筒体を形成する曲げ加工工程と、上記曲げ加工工程によって生じた上記円筒体の内部応力を、加熱して低減させる熱処理工程と、を有する搬送ローラーの製造方法を採用する。
このような手法を採用することによって、本発明では、曲げ加工により円筒体に生じた内部応力を、熱を加えて低減・除去することができるため、円筒体の真円度が良好になり、また、反りも小さくなる。
【0008】
また、本発明においては、上記熱処理工程では、上記円筒体を部分的に加熱するという手法を採用する。
このような手法を採用することによって、本発明では、円筒体の真円度及び反りを部分的に修正することができる。
【0009】
また、本発明においては、上記熱処理工程では、上記円筒体の軸心方向における中央部を部分的に加熱するという手法を採用する。
このような手法を採用することによって、本発明では、円筒体の反りが最も強く出る軸方向中央部を部分的に修正することができる。
【0010】
また、本発明においては、上記熱処理工程の後に、上記円筒体の形状を矯正する矯正工程を有するという手法を採用する。
このような手法を採用することによって、本発明では、上記熱処理工程に起因する円筒体の微小変形を矯正して、円筒体の真円度を良好にし、また、反りをより小さくできる。
【0011】
また、本発明においては、上記熱処理工程の後に、上記円筒体の外周面を研磨するセンターレス研磨工程を有するという手法を採用する。
このような手法を採用することによって、本発明では、円筒体の真円度がより良好になり、また、反りも小さくなる。
【0012】
また、本発明においては、上記矯正工程の後に、上記円筒体の外周面を研磨するセンターレス研磨工程を有するという手法を採用する。
このような手法を採用することによって、本発明では、円筒体の真円度がより良好になり、また、反りも小さくなる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】プリンターの全体構成図である。
【図2】搬送部及び排紙部の構成を示す概略図である。
【図3】搬送ローラーの構成を示す概略図である。
【図4】搬送ローラーの成形工程の概略を示すフロー図である。
【図5】大型金属板の平面図である。
【図6】矩形板の平面図である。
【図7】矩形板に対する曲げ加工の前半の工程を示す概略図である。
【図8】矩形板に対する曲げ加工の後半の工程を示す概略図である。
【図9】搬送ローラー本体を枠部から切り離す工程を示す概略図である。
【図10】曲げ加工によって形成された搬送ローラー本体の反りを示す概略図である。
【図11】熱処理の処理形態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の搬送ローラーの製造方法に係る実施の形態を、図1から図11を参照して説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。
以下の説明では、印刷装置として、インクを記録媒体である紙等に噴射し、文字や画像等の情報を記録するインクジェット式プリンター(以下、単に「プリンター」と称する)の例を示す。
【0015】
まず、本実施形態に係るプリンター(印刷装置)1の構成を、図1を参照して説明する。
図1は、本実施形態に係るプリンター1の全体構成図である。
プリンター1は、記録媒体である紙等にインクを噴射し、文字や画像等の情報を記録する印刷装置である。プリンター1は、給紙部2と、搬送部3と、排紙部4と、ヘッド部5と、制御部CONTとを有している。
【0016】
給紙部2は、記録媒体である複数枚の記録紙(記録媒体)Pを保持すると共に、記録紙Pを搬送部3に向けて供給するものであって、給紙トレー21と、給紙ローラー22とを有している。
給紙トレー21は、複数枚の記録紙Pを保持するものであり、水平面との間に所定の角度(45°程度)を形成して設けられている。なお、記録紙Pとしては、インクによる印刷が可能なシート状の記録媒体が用いられ、普通紙、コート紙、OHP(オーバーヘッドプロジェクター)用シート、光沢紙及び光沢フィルム等が用いられる。
【0017】
給紙ローラー22は、回転することで記録紙Pを搬送部3に向けて供給するローラーであり、給紙トレー21の搬送部3側に設けられている。なお、給紙ローラー22の外周面と対向する位置には不図示の分離パッドが設けられており、該分離パッドと給紙ローラー22とが協働して記録紙Pを一枚ずつ搬送部3に供給することができる。
【0018】
搬送部3は、給紙部2から供給された記録紙Pを排紙部4に向けて搬送するものであり、且つ記録紙Pに対する印刷動作が行われる箇所である。搬送部3は、搬送ローラー31と、従動ローラー32と、プラテン33と、ダイヤモンドリブ34と、駆動部6(図2参照)とを有している。
搬送ローラー31は、回転することで記録紙Pを所定の印刷位置に正確に搬送するためのローラーであって、水平面内且つ記録紙Pの搬送方向と直交する方向で延在し、略円筒状に形成された円筒軸である。搬送ローラー31は、搬送部3に設けられ略U字型の一対の軸受(図示せず)に回転自在に軸支され、駆動部6の駆動により回転する。なお、搬送ローラー31の詳細は後述する。
【0019】
従動ローラー32は、略円柱状の部材であって、搬送ローラー31の軸方向に沿って間隔を空けて複数配置されている。また、従動ローラー32は、後述する搬送ローラー31の高摩擦層72(図3参照)に対向する位置に回転自在に設けられている。従動ローラー32には不図示の付勢バネが設けられており、この付勢バネの付勢力によって、従動ローラー32は搬送ローラー31の高摩擦層72に付勢されて接触している。このため、従動ローラー32は、搬送ローラー31の回転動作に従動して回転する。なお、従動ローラー32の外周面には、高摩擦層72との摺動による摩耗・損傷を緩和するため、例えばフッ素樹脂塗装等の低摩耗処理が施されている。
【0020】
プラテン33は、ヘッド部5による記録紙Pへの印刷を行うときに、記録紙Pを下方から支持する箇所であり、水平面に略平行する上面を有している。
ダイヤモンドリブ34は、プラテン33の上面から上方に向けて突出する突部であり、搬送ローラー31の軸方向に沿って間隔を空けて複数配置されている。また、ダイヤモンドリブ34の頂面は、水平面と略平行に形成されており、この頂面によって印刷時の記録紙Pが下方から支持される。
【0021】
排紙部4は、搬送部3から印刷後の記録紙Pを排出するものであって、排紙ローラー41と、排紙ギザローラー42とを有している。排紙ローラー41と排紙ギザローラー42とは、互いに相反する方向で回転でき、この回転によって記録紙Pを引き出して排出する。
【0022】
ヘッド部5は、搬送部3に載置されている記録紙Pに対してインクを噴射するものであって、噴射ヘッド51と、キャリッジ52とを有している。
噴射ヘッド51は、制御部CONTの指示に従いインクを噴射する機器であって、その不図示の噴射口はダイヤモンドリブ34の頂面に対向して設けられている。キャリッジ52は、その下方に噴射ヘッド51を保持するものであって、搬送ローラー31の軸方向で往復移動自在に設けられている。また、キャリッジ52には、制御部CONTの支持に従い、キャリッジ52を往復移動させる不図示の駆動部が連結されている。
【0023】
次に、搬送ローラー31を回転駆動させる構成について、図2を参照して説明する。
図2は、搬送部3及び排紙部4の構成を示す概略図であって、(a)は平面図、(b)は(a)のA矢視図である。
【0024】
上述したように、搬送部3は駆動部6を有している。駆動部6は、搬送ローラー31を回転駆動させるものであって、モーター61と、ピニオンギア62とを有している。
モーター61は、制御部CONTの指示に従い搬送ローラー31を回転させる電動機である。すなわち、制御部CONTがモーター61を制御して駆動させ、搬送ローラー31の回転及び記録紙Pの正確な搬送を実現している。ピニオンギア62は、モーター61の出力軸に一体的に接続されているギアである。
【0025】
搬送ローラー31には、第1駆動ギア35と、第2駆動ギア36と、第3駆動ギア37とが設けられている。
第1駆動ギア35は、搬送ローラー31を回転させるためのギアであって、搬送ローラー31における駆動部6設置側の端部に、圧入によって一体的に接続されている。また、第1駆動ギア35はピニオンギア62と互いに噛合しており、ピニオンギア62及び第1駆動ギア35を介してモーター61の駆動力が搬送ローラー31に伝達され、搬送ローラー31が回転する構成となっている。
【0026】
第2駆動ギア36は、モーター61の駆動力を排紙ローラー41に伝達するためのギアであって、第1駆動ギア35よりも小さい径を有し、第1駆動ギア35と隣接して配置されている。また、第2駆動ギア36は、圧入によって搬送ローラー31に一体的に接続されている。
第3駆動ギア37は、搬送ローラー31の回転駆動力を不図示の他の機器に伝達するためのギアであって、搬送ローラー31の第1駆動ギア35と逆側の端部に、圧入によって一体的に接続されている。
【0027】
排紙ローラー41における駆動部6側の端部には、排紙駆動ギア43が一体的に設けられている。また、排紙駆動ギア43と第2駆動ギア36との間には、中間ギア44が設けられ、中間ギア44は第2駆動ギア36及び排紙駆動ギア43のそれぞれと噛合している。すなわち、第2駆動ギア36、中間ギア44及び排紙駆動ギア43を介して、モーター61の駆動力が排紙ローラー41に伝達され、排紙ローラー41が回転する構成となっている。
【0028】
次に、搬送ローラー31の構成を、図3を参照して説明する。
図3は、搬送ローラー31の構成を示す概略図であって、(a)は側面図、(b)は正面図である。
【0029】
搬送ローラー31は、所定の方向で延在する略円筒状に形成された円筒軸である。搬送ローラー31は、搬送ローラー本体(円筒体)71と、高摩擦層72とを有している。
搬送ローラー本体71は、金属の板材を曲げて略円筒状に形成された円筒軸であり、板材の一対の端部である第1端部(端部)74と第2端部(端部)75とが互いに接する接続部(継ぎ目)76を有している。接続部76は、搬送ローラー本体71の軸方向に沿って延在している。
【0030】
高摩擦層72は、搬送ローラー本体71の両端部以外の外周面に設けられ、記録紙Pとの間の摩擦係数を向上させるための塗装層である。高摩擦層72は、エポキシ系樹脂やポリエステル系樹脂からなる樹脂層と、該樹脂層表面に分散して配置されるセラミックス粒子とを有している。このセラミックス粒子には、酸化アルミニウム(アルミナ)、炭化珪素又は二酸化珪素等が用いられる。セラミック粒子は破砕処理によって粒径が調整されており、また、破砕処理を用いることでセラミック粒子は比較的鋭角な端部を有する形状となっている。
【0031】
続いて、搬送ローラー31を形成する方法について、図4から図11を参照して説明する。
図4は、搬送ローラー31の形成工程の概略を示すフロー図である。
搬送ローラー31の形成工程の概略としては、図4に示すように、まず、金属の板材からプレス加工(打ち抜き加工及び曲げ加工)によって略円筒状の搬送ローラー本体71を形成する(ステップS1)。次に、搬送ローラー本体71を熱処理して内部応力を低減させる(ステップS2)。次に、搬送ローラー本体71の外周面を研磨(センターレス研磨)して、その径、真円度及び振れ(延在方向での湾曲)を調整する(ステップS3)。最後に、搬送ローラー本体71の外周面に高摩擦層72を形成して(ステップS4)、搬送ローラー31の形成が完了する。
以下の説明では、プレス加工によって板材から搬送ローラー本体71を形成する工程であるステップS1と、搬送ローラー本体71を熱処理して内部応力を低減させる工程であるステップS2とを、特に詳細に説明する。
【0032】
プレス加工によって金属の板材から搬送ローラー本体71を形成する工程(ステップS1)を、図5から図9を参照して説明する。
図5は、搬送ローラー本体71の材料となる大型金属板9の平面図である。
図6は、矩形板70の平面図である。
図7は、矩形板70に対する曲げ加工の前半の工程を示す概略図である。
図8は、矩形板70に対する曲げ加工の後半の工程を示す概略図である。
図9は、搬送ローラー本体71を枠部92から切り離す工程を示す概略図である。
【0033】
本実施形態における搬送ローラー本体71の形成には、順送プレス加工が用いられる。この加工法は、材料である金属板を一定のピッチで搬送しつつ、金属板に対して順次にプレス加工(打ち抜き加工及び曲げ加工)を施すものである。
まず、図5に示すような、大型金属板9を準備する。大型金属板9は、1mm程度の厚みを持つ略矩形の鋼板であり、電気亜鉛めっき鋼板(SECC)や冷間圧延鋼板(SPCC)が用いられる。大型金属板9の一対の端部には複数の孔部91が、その端部に沿って所定の間隔を空けて設けられている。孔部91は、大型金属板9に対して順送プレス加工を行うときに、一定のピッチで大型金属板9を搬送するために用いられ、大型金属板9は、隣り合う孔部91の間隔毎に搬送される。
【0034】
次に、図6に示すように、順送プレス加工における打ち抜き加工によって、大型金属板9から矩形板70を形成する。すなわち、大型金属板9から領域Sの部分を打ち抜き、矩形板70及び枠部92を形成する。
矩形板70は、所定の方向で延在する略帯状の矩形板材であって、大型金属板9から領域Sの部分が取り除かれることで形成される。
【0035】
矩形板70の一対の端部である第1端部74及び第2端部75は、矩形板70を略円筒状に形成したときに互いに接触して接続部76を形成する端部である。第1端部74及び第2端部75には、それぞれ凸部79及び凹部80が形成されている。凸部79及び凹部80は、凹部80に凸部79が嵌合することで、第1端部74及び第2端部75の延在方向でのずれを防止するためのものである。なお、凸部79の先端部79a、及び凹部80の底部80aは、共に矩形板70の延在方向と平行して形成されている。
【0036】
枠部92は、矩形板70の延在方向と直交する方向で延在する略帯状の板部であって、大型金属板9から領域Sの部分が取り除かれることで形成される。上述した孔部91は、枠部92の幅方向での略中央部に配置されている。
矩形板70と枠部92との間には、それらを互いに連結する連結部93(いわゆるタイバー)が架け渡され、矩形板70は連結部93を介して枠部92に支持されている。
【0037】
次に、矩形板70に対して、図7及び図8に示す順送プレス加工における曲げ加工を施し、矩形板70を略円筒状に形成する。なお、図7及び図8は、図6における線視B−Bでの断面図である。
【0038】
まず、図7(a)に示すように、第1雄型101と第1雌型102とで矩形板70を押圧し、矩形板70の幅方向での両端部を略円弧状に曲げる。
次に、図7(b)に示すように、第2雄型103と第2雌型104とで矩形板70を押圧し、矩形板70の幅方向での中央部を略円弧状に曲げる。この曲げ加工により、矩形板70の断面形状は第2雄型103側に開口する略C字状となる。
【0039】
次に、図7(c)に示すように、第1上型105及び第2上型106と、下型107との間に断面視略C字状に形成された矩形板70を配置し、且つ、矩形板70の内側に円柱状の芯型108を配置する。
ここで、第1上型105、第2上型106及び下型107の、それぞれのプレス面105a、106a及び107aは、いずれも形成される搬送ローラー本体71の外周面に応じた形状で形成されている。また、芯型108の外周面は、形成される搬送ローラー本体71の内周面に応じた形状で形成されている。なお、第1上型105及び第2上型106は、互いに独立して移動可能である。
【0040】
次に、図8(a)に示すように、芯型108を静止させた状態で、第1上型105を下型107に向かって移動させ、矩形板70の第1端部74側を押圧し、略半円状に曲げる。なお、第1上型105及び第2上型106と同様に、下型107を一対の割型とし、図8(a)に示す工程の際に、第1上型105と同じ側の下型を第1上型105に向かって移動させてもよい。
【0041】
次に、図8(b)に示すように、芯型108を下型107に向けて多少移動させると共に、第2上型106を下型107に向かって移動させ、矩形板70の第2端部75側を押圧し、略半円状に曲げる。
【0042】
次に、図8(c)に示すように、第1上型105、第2上型106及び芯型108を共に下型107に向かって移動させ、矩形板70を押圧する。このとき、第1上型105及び第2上型106は、下型107に当接している。この押圧により、矩形板70は略円筒状に形成され、矩形板70から搬送ローラー本体71が形成される。また、矩形板70の第1端部74及び第2端部75は互いに接触し、接続部76が形成される。
【0043】
最後に、図9に示すように、搬送ローラー本体71と連結部93との間を、カットラインCに従って切断する。なお、搬送ローラー本体71が形成された状態では、凸部79は凹部80に嵌合しているが、凸部79の先端部79aと、凹部80の底部80aとの間には所定の隙間部81が形成されている。この隙間部81は、第1端部74と第2端部75とを軸方向で均一に接触させるために設けられるものである。
以上で、順送プレス加工による搬送ローラー本体71の形成が完了する。
【0044】
次に、搬送ローラー本体71に熱処理を施す。この熱処理について、図10及び図11を参照して説明する。
図10は、曲げ加工によって形成された搬送ローラー本体71の反りを示す概略図である。なお、図10(a)は、搬送ローラー本体71の斜視図であり、図10(b)は、搬送ローラー本体71の断面図である。図11は、熱処理の処理形態を示す概略図である。
【0045】
図10(a)に示すように、上記プレス加工で曲げて形成された搬送ローラー本体71には、軸方向において接続部76側が凸になるように反りが生じる場合がある。これは、図10(b)に示すように、内径側に生じた圧縮応力及び外径側に生じた引張り応力の反力(スプリングバック)が搬送ローラー本体71に対して作用し、接続部76が開くような力が加わるためである。また、この反力により、第1端部74と第2端部75との間が開くと、真円度が低下する。
なお、この反力は、搬送ローラー本体71の軸方向両端部よりも、軸方向中央部において作用しやすく、結果、中央部において反り中心が出現する場合が多い。
【0046】
ステップS2における熱処理工程では、曲げ加工によって生じた搬送ローラー本体71の内部応力を、加熱して低減・除去することにより、搬送ローラー本体71の真円度を良好にし、また、反りも小さくする処理を実施する。
本実施形態の熱処理工程では、図11に示すように、搬送ローラー本体71を部分的に加熱する形態を採用する。また、熱処理工程での加熱部分は、搬送ローラー本体71の反りが最も強く出る軸方向中央部に対して行う。
【0047】
図11における符号95は加熱装置を示し、搬送ローラー本体71の軸方向中央部を囲うようにして部分的に熱処理を施すものである。本実施形態では、加熱装置95として赤外線ランプ加熱装置(アルバック理工株式会社製)を採用し、赤外線を筐体内に配置された放物反射面リフレクタで反射して輻射加熱することにより、搬送ローラー本体71の軸方向中央部に対し熱処理を施す。
なお、ステップS2における熱処理形態としては、熱風による加熱、バーナーによる加熱、あるいはレーザーによる加熱等であってもよい。
【0048】
ステップS2における熱処理工程では、搬送ローラー本体71の材質の変態点以下の温度に加熱保持して、内部応力を低減・除去する低温焼きなまし処理を施す。この処理により、内部応力が低減・除去されると、スプリングバックの作用が小さくなるため、第1端部74と第2端部75との開きが小さくなり、真円度が良好になる。また、搬送ローラー本体71の軸方向中央部に作用する内部応力が低減・除去されるため、軸方向において接続部76側が凸になるような反りを低減させることができる。
【0049】
次に、熱処理工程を経た搬送ローラー本体71の外周面に対して、センターレス研磨加工を施す。この研磨加工によって、搬送ローラー本体71の径、真円度及び振れが適切な精度に調整される。
【0050】
最後に、搬送ローラー本体71の外周面に高摩擦層72を形成する。
まず、搬送ローラー本体71の両端部をマスキングし、エポキシ系樹脂やポリエステル系樹脂を溶媒中に分散させ、この溶液を搬送ローラー本体71の外周面に塗布し、樹脂層を形成する。次に、粉体塗装法を用いてアルミナ粒子等のセラミックス粒子を、上記樹脂層の表面に付着させる。最後に、加熱処理により樹脂層を硬化させ、セラミックス粒子が表面に配置された高摩擦層72が形成される。
【0051】
なお、高摩擦層72を形成する方法としては、粉体塗装法の代わりに、セラミックス粒子を溶媒中に分散させ、この溶液を上記樹脂層の表面に塗布してもよい。また、予めセラミックス粒子をエポキシ系樹脂やポリエステル系樹脂と共に溶媒中に分散させ、この溶液を搬送ローラー本体71の外周面に塗布することで、セラミックス粒子を含んだ樹脂層を形成してもよい。
以上の形成方法によって、図3に示す搬送ローラー31の形成が完了する。
【0052】
したがって、上述の本実施形態によれば、矩形板70の対向する一対の端部74,75を互いに近接させ、あるいは当接させるように曲げて搬送ローラー本体71を形成する曲げ加工を行うステップS1と、曲げ加工によって生じた搬送ローラー本体71の内部応力を、加熱して低減させる熱処理処理を行うステップS2と、を有する搬送ローラー31の製造方法を採用することによって、曲げ加工により搬送ローラー本体71に生じた内部応力を、熱を加えて低減・除去することができるため、搬送ローラー本体71の真円度が良好になり、また、反りも小さくなる。
このため、本実施形態の手法によれば、真円度が高く、反りが少ない搬送ローラー31が得られる。
【0053】
また、本実施形態においては、上記熱処理では、搬送ローラー本体71の軸心方向における中央部を部分的に加熱するという手法を採用することによって、搬送ローラー本体71の反りが最も強く出る軸方向中央部を部分的に修正することができる。さらに、搬送ローラー本体71全体を加熱する場合と比べて、熱処理による予期しない搬送ローラー本体71全体の歪みの発生を抑制することができる。
また、本実施形態においては、上記熱処理の後に、搬送ローラー本体71の外周面を研磨するセンターレス研磨工程を有するという手法を採用することによって、搬送ローラー本体71の真円度がより良好になり、また、反りも小さくなる。
【0054】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0055】
例えば、上述の実施形態においては、ステップS2の熱処理の後に、ステップS3のセンターレス研磨処理を施すと説明したが、ステップS2の熱処理において搬送ローラー本体71に微小な変形が生じた場合や内部応力の低減・除去によっても所望の真円度及び直線性が得られない場合は、ステップS2とステップS3との間に、搬送ローラー本体71の形状を矯正する矯正工程を設ける手法を採用してもよい。
矯正工程では、例えば、端部74,75を近接、あるいは当接させるようなプレス処理を施して搬送ローラー本体71の真円度を調整したり、搬送ローラー本体71の両端部を支持して軸方向中央部に対して反りを相殺するような荷重をかけることで、反りを低減させる。このような手法によれば、上記熱処理に起因する搬送ローラー本体71の変形を矯正して、搬送ローラー本体71の真円度を良好にし、また、反りをより小さくできる。
【0056】
また、例えば、上述の実施形態においては、ステップS2の熱処理では、搬送ローラー本体71の軸心方向における中央部を部分的に加熱するという手法を採用したが、本発明はこの手法に限定されるものではなく、反りによる変形が最も出る部位が中央部以外の部位に生じたら、その部位を部分的に加熱して内部応力を低減・除去する手法を採用してもよい。また、部分的に加熱する手法ではなく、搬送ローラー本体71全体を加熱する手法を採用してもよい。この場合は、搬送ローラー本体71の所望の真円度及び直線性を確保できる上記矯正工程と併用することが好ましい。
【符号の説明】
【0057】
1…プリンター(印刷装置)、31…搬送ローラー(円筒軸)、70…矩形板(金属板)、71…搬送ローラー本体(円筒体)、74…第1端部(端部)、75…第2端部(端部)、P…記録紙(記録媒体)、S1…ステップ(曲げ加工工程)、S2…ステップ(熱処理工程)、S3…ステップ(センターレス研磨工程)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板の対向する一対の端部を互いに近接させ、あるいは当接させるように曲げて円筒体を形成する曲げ加工工程と、
前記曲げ加工工程によって生じた前記円筒体の内部応力を、加熱して低減させる熱処理工程と、を有することを特徴とする搬送ローラーの製造方法。
【請求項2】
前記熱処理工程では、前記円筒体を部分的に加熱することを特徴とする請求項1に記載の搬送ローラーの製造方法。
【請求項3】
前記熱処理工程では、前記円筒体の軸心方向における中央部を部分的に加熱することを特徴とする請求項2に記載の搬送ローラーの製造方法。
【請求項4】
前記熱処理工程の後に、前記円筒体の形状を矯正する矯正工程を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の搬送ローラーの製造方法。
【請求項5】
前記熱処理工程の後に、前記円筒体の外周面を研磨するセンターレス研磨工程を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の搬送ローラーの製造方法。
【請求項6】
前記矯正工程の後に、前記円筒体の外周面を研磨するセンターレス研磨工程を有することを特徴とする請求項4に記載の搬送ローラーの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−63378(P2011−63378A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−215384(P2009−215384)
【出願日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】