説明

搬送ローラ用転がり軸受

【課題】配向性樹脂製保持器に含有された固体潤滑剤が転移しやすくして、低摩擦化および低トルク化するとともに、耐久性に優れた搬送ローラ用転がり軸受を提供する。
【解決手段】内周面に外輪軌道を有する外輪と、外周面に内輪軌道を有する内輪と、外輪軌道と内輪軌道との間に設けられた複数個の玉と、複数個の玉を転動自在に保持する合成樹脂製環状の保持器とを備え、保持器は、固体潤滑剤を含有した配向性材料から射出成形され、曲げ弾性係数が4000〜10000MPaであり、更に動摩擦係数が0.25以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体潤滑剤を含有した配向性樹脂製保持器が組み込まれた転がり軸受に係り、特に、低トルクと耐久性を要求されるフィルム搬送ローラの支持軸受に好適に用いられる搬送ローラ用転がり軸受に関するものである。
【背景技術】
【0002】
FPD(フラットパネルディスプレイ)や太陽電池等の素材に用いられるフィルムは、異なる材料のフィルムを積層することで発光や発電の機能を発揮することが可能となるが、フィルムの厚さは日々薄くなっており、厚みが数10μm程度のものまで登場している。
従来より、フィルム20は、図10のような互いに平行に配置されてそれぞれ軸心回りに回転する複数本の搬送ローラ21に支持されて搬送されるが、フィルム20の厚みや長さに偏りがあると、積層時に充分な能力が発揮できずに製品不良を引き起こす原因となる。搬送ローラ21の幾つかはフィルム20に駆動力を与える駆動ローラであり、残りの多くは従動ローラである。従動ローラは移動するフィルム20との摩擦力で回転し、フィルム20を円滑に搬送したり、一個前のローラとの相対位置を変化させることでフィルム20の上下方向の角度を変えたりする役目を負っている。従動ローラはフィルム20との摩擦力だけで回転しているため、フィルム20の走行速度とローラ表面の周速度とが同一であることが重要であり、そのため、従動ローラは極めて小さい接線方向の力で回転しなければならない。したがって、フィルム20を搬送する搬送ローラ21の支持軸受22である搬送ローラ用軸受には極めて小さなモーメントで回転起動し、安定して回転しつづける、低トルク性能と耐久性が求められることになる。
【0003】
ところで、フィルム搬送ローラ用の軸受としては、一般的に転がり軸受が用いられており、一例を図11に示す。これは、外輪4、内輪2と波形保持器23から成る深溝玉軸受であり、波形保持器23はプレス成形部品2個で玉5をはさみ、その後、かしめ工程によって結合不可分としたもので、深溝玉軸受では最も一般的な保持器の形式である。波形保持器23は、玉5の球面に倣うように内周面のポケット24を球面に成形しており、全て玉5を抱くように配置されている。この球面の作用により、かしめ完了後は玉5は脱落することはなく、等間隔に所定のピッチ寸法を保持される。このように、波形保持器23は量産性に優れるだけでなく、剛性が高く、広く用いられている。しかしながら、波形保持器23は一体且つ、ポケット24が球面で玉5を抱く構造のため、玉5が自由にポケット24内を移動することはできない。軸受が回転起動する際は、玉5が保持器からの摩擦力を受けて回転し始めるため、起動トルクが大きくならざるを得ない。また、回転中の保持器はこのポケット形状により玉5からの強い圧力を受けることになり、その結果、一部の玉5が内外輪軌道1,3に押し付けられたり、開放されたりする挙動が繰り返される。そのため、摩擦トルク値も大きくなる
という問題があった。
【0004】
この問題の改善の先行技術としては、特許文献1〜4に転がり軸受の潤滑性能や低トルク性能を向上させるための発明が開示されている。
特許文献1には、樹脂保持器の曲げ弾性率を所定範囲に規定して、転動体と保持器ポケットの衝突音発生を緩和し、保持器と転動体の拘束を小さくしてトルク上昇を抑えた樹脂製保持器が記載されている。
特許文献2には、樹脂保持器にチタン酸カリウムウィスカを補強剤として含有させ、保持器変形強度を上げるとともに、チタン酸カリウムウィスカの自己潤滑性により潤滑性能を向上して低トルク化を図った玉軸受が記載されている。
特許文献3には、樹脂保持器の軌道輪案内面を一方の端部だけに設けることで反対側の軌道輪と保持器間にすきまを形成し、そこから潤滑油を軸受内に進入しやすくすることにより、低トルク化を実現した転がり軸受が記載されている。
特許文献4には、保持器ポケットの縁に強度補強部を形成することで高速回転時の保持器捩れを小さくし、保持器と転動体とが不必要に摺動するのを防止することにより、トルク上昇を抑えた転がり軸受が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004‐084867号公報
【特許文献2】特開平09‐133137号公報
【特許文献3】特開2009‐068636号公報
【特許文献4】特開2007‐056930号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の発明は、トルク上昇を抑えながら衝突音を小さくするというもので、より低トルク化を図ったものではない。また、固体潤滑剤を含有した樹脂製の保持器は、転がり軸受の潤滑性能の向上に寄与すると考えられるが、特許文献2の発明においては固体潤滑剤の転移がどの程度生じるかは不明であり、トルクの上昇及び変動を低減するためには安定した固体潤滑剤の転移が必要とされている。本発明が想定しているフィルム搬送分野ではクリーンな環境で使用されるために、特許文献3に記載された軸受外部から潤滑油を供給する潤滑手法は実施することはできない。さらに、保持器が変形すると保持器のポケットと玉が局部接触したり、保持器と軌道輪との摺動摩擦が上昇するという問題があるが、特許文献4に記載の発明は、作用及び効果が高速回転時に限定されると共に軌道輪と保持器との摺動摩擦減少には作用せず、低トルク化の効果は充分とは言えない。
【0007】
本発明は、配向性樹脂製保持器に含有された固体潤滑剤を転動体に転移しやすくして、低摩擦化および低トルク化することができるとともに、耐久性に優れた搬送ローラ用転がり軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記問題を解決するために、内周面に外輪軌道を有する外輪と、外周面に内輪軌道を有する内輪と、前記外輪軌道と内輪軌道との間に設けられた複数個の玉と、該複数個の玉を転動自在に保持する合成樹脂製環状の保持器とを備え、互いに平行に配置されてそれぞれ軸心回りに回転する複数本のローラによって被搬送物を支持して順次搬送する搬送ローラ用転がり軸受において、前記保持器は、固体潤滑剤を含有した配向性材料から射出成形され、曲げ弾性率が4000〜10000MPaであり、更に動摩擦係数が0.25以下であることを特徴とする。
さらに、軸受の外径をDとし、軸受の内径をdとし、軸受の幅をtとしたとき、下記式を満たすことを特徴とする。
(D−d)/2/t≦1.07
【0009】
本発明は、保持器と軌道輪及び転動体との摺動摩擦を減少させるため、曲げ弾性率が4000〜10000MPa(ASTM規格 D‐790)であり、且つ動摩擦係数が0.25以下(鈴木・松原式摩擦摩耗試験機による測定値、P=0.05〜0.3N/mm,V=0.5〜1m/s)の固体潤滑剤を含有する配向性材料で保持器を射出成形により製作するというものである。
保持器と軌道輪及び転動体との摺動摩擦を減少させるには、保持器樹脂材料に固体潤滑剤が含有されている必要があるが、基本的に材料の動摩擦係数がある一定値以下でないと効果が小さい。さらに、固体潤滑剤が相手材に転移するためには、保持器が一定面積、一定時間、相手材と摺動する必要があり、そのためには樹脂材料に柔軟性が要求される。柔軟性が高すぎても構造部品として使用できなかったり、耐久性に難があったりする可能性がある。潤滑性と耐久性のバランスを考慮して、保持器材料の特性を適切に設定したのが上述の数値である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、保持器は、固体潤滑剤を含有した配向性材料から射出成形され、曲げ弾性率が4000〜10000MPaであり、更に動摩擦係数が0.25以下であるので、転動体及び軌道輪と保持器が適切に摺動することから、樹脂製保持器に含有された固体潤滑剤が転動体及び軌道輪に転移しやすくなる。これにより、低摩擦化および低トルク化を図ることができ、また、充分な耐久性を備えることができるという効果が有る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1実施形態である転がり軸受の構造を示す断面図である。
【図2】図1における冠型保持器の正面図である。
【図3】射出成形により保持器を製作する一例である。
【図4】射出成形により保持器を製作する変形例である。
【図5】射出成形により保持器を製作する変形例である
【図6】試験装置の構造を示す外観図である。
【図7】動摩擦係数の時間による変化を示すグラフである。
【図8】試験結果の動摩擦係数と曲げ弾性係数の関係を示すグラフである。
【図9】本発明の第2実施形態である転がり軸受の構造を示す部分断面図である。
【図10】搬送ローラを使用したフィルム搬送装置の説明図である。
【図11】一般的な深溝玉軸受の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は本発明の第1実施形態である転がり軸受の構造を示す断面図、図2は図1における冠型保持器の正面図である。本実施形態の転がり軸受10は、内周面に外輪軌道3を有する外輪4と、外周面に内輪軌道1を有する内輪2と、外輪軌道3と内輪軌道1との間に設けられた複数個の玉5と、玉5を転動自在に保持する合成樹脂製環状の冠型もみ抜き保持器7を備えている。外輪4の両端部内周面には、それぞれ円輪状のシールド板6、6の外周縁を係止し、シールド板6の内径と内輪2の対向する外周面には隙間が設けられている。固体潤滑剤を含有する配向性材料の射出成形により一体に形成された保持器7は、内輪案内とし、円周方向に等配位置で玉5を転動可能に保持するポケット8が設けてあり、隣り合うポケット8の間には柱部11が形成されている。保持器7の片側端面に設けられた開口部9にはパチン代が設定してあり、開口部9を通過してポケット8に収納された玉5は保持器7から脱落しないようになっている。
【0013】
このような転がり軸受10を組立てる場合、所定個数の玉5を内輪軌道1と外輪軌道3の間の位置に等配し、軸受端面側から保持器7を装填し、玉5を全てポケット8に収納する。さらに、玉5或いは軌道にグリース又はオイルを薄膜塗布(図示せず)して軸受を潤滑した後、シールド板6を装填して封止する。
転がり軸受10はアンギュラ形式の軸受とすることもできる。この場合は、上記と同じ組み立て方法でもよいし、或いは、切れ目のない円形状ポケットを持つ保持器に転動体を入れた状態で内輪と一体的に保持し、熱して拡径させた外輪のカウンタボア(外輪口元テーパ部)側から装填して組立ててもよい。
内外輪2、4及び玉5の材料としてはSUJ2やSUS440Cなどがあり、シールド板6の材料としてはSPCCやSUS304など、或いはそれらを芯金にしたゴム成形品でもよい。
【0014】
本実施形態の転がり軸受10は、薄膜塗布されたグリース又はオイルによって玉5と内輪軌道1及び外輪軌道3は潤滑されており、軸受は回転可能な状態にある。保持器7は軸受の回転に伴って内輪2の周りを回転するが、図1に示すように保持器7は内輪案内であるので、内輪2の外径部と保持器7の内径部とが摺動しながら回転する。内輪2の外径部に潤滑剤が薄膜塗布されていても、この摺動によってたちまちグリース(或いはオイル)は剥がれて、保持器7の内径部と内輪2の外径部とはドライ状態で摺動することになる。この時、保持器7の樹脂材料に含有される固体潤滑剤が保持器7から脱離して内輪2の外径部表面に転移し、保持器7と内輪2との摺動の潤滑に供される。これにより、保持器7と内輪2とが摺動しているにも関わらず、固体潤滑剤で潤滑されているため大きな摩擦抵抗を生じることなく、軸受回転のトルクを上昇させることはない。
【0015】
転がり軸受10は薄膜潤滑されているため、軸受回転時におけるグリース(或いはオイル)の撹拌抵抗は小さく、そのため軸受を低トルク化することができる。固体潤滑剤による潤滑はウェットの潤滑で必ず発生する撹拌抵抗を伴わない潤滑であり、その樹脂材料の動摩擦係数がそのまま動摩擦力に影響するため、極力、動摩擦係数の低い樹脂材料を選定するのが好ましい。ただし、前提条件として固体潤滑剤が確実に相手材(図1では内輪外径部)に転移することが必要であり、そのために、後述する根拠に基づいて動摩擦係数と曲げ弾性率とが所定の範囲である樹脂材料を選定する必要がある。曲げ弾性率が小さいほど柔軟性が増し、保持器7は相手材の形状に倣って広い面積範囲で摺動し、固体潤滑剤の転移の機会が多くなる。それにより保持器7の潤滑性が良くなるが、柔軟性が高くなるほど構造体としての剛性が小さくなる為、玉5から保持器7が力を受けると保持器7は回転中に変形してしまい、軸受の回転が不安定になったり、或いは回転起動できなくなったりする。
【0016】
本実施形態では内輪案内の保持器7を示したが、保持器7が外輪案内であっても固体潤滑の作用は同一であり、回転トルクの上昇を抑制することができる。さらに、転動体案内の保持器の場合には、転動体上の薄膜潤滑のはがれた部位と保持器ポケット対向面との摺動は発生するため、本発明の樹脂保持器を用いることで低トルク化に効果がある。
【0017】
次に、射出成形用の樹脂材料である配向性材料の配向性について説明する。射出成形では樹脂材料が金型内で固化する時の材料フローが成形品に表れる。成形品の表面、すなわち金型と接する面は溶融した材料が金型面に平行に流れるため、必ず成形品表面の材料フローは金型面に平行となっている。
【0018】
本発明の樹脂材料は固体潤滑剤を含有しているため、その材料フローが成形品表面と平行になっていることは、摺動抵抗をより少なくする作用がある。射出成形時、溶融した固体潤滑剤が材料フローに沿って流れ、金型表面で樹脂材料固化に伴って凝集し固定されるため、成形品表面には固体潤滑剤の粒子の長軸が材料フローに沿って露呈している。したがって、固体潤滑剤の短軸断面が露呈する場合と比較して、露呈する面積の関係から固体潤滑剤の転移性が増すことにより、潤滑性能が優れることになる。すなわち、無配向性材料を圧縮成形するよりも、配向性材料を配向成形(射出成形)した場合の方が、より大きな面積の固体潤滑剤が露呈するので潤滑性能はより高くなる。
さらに、樹脂材料に炭素繊維等の補強繊維が充填されている場合、補強繊維の方向が摺動抵抗に及ぼす影響が大きい。補強繊維の断面が露呈している面が摺動面となった場合、補強繊維の繊維方向が摺動面表面に平行に露呈している状態と比べて、摺動抵抗は格段に大きい。
【0019】
一方、成形品表面に繊維断面等は露呈しておらず、成形品表面内の固体潤滑剤や補強繊維は成形品表面に平行であっても、それら粒子の長軸が保持器の摺動方向に沿っているかどうかということは別の事象である。摺動方向に沿うように材料フローを調整することで、さらに摺動抵抗の少ない保持器を得ることができる。
例えば、図3のように保持器7の柱間部12に対して径方向にゲート13を設けて射出成形を行えば(図3では保持器外径にゲートを設置)、保持器表面において軌道輪回転方向に対して材料フロー方向も平行になるので、軌道輪案内(図3では内輪)において摺動抵抗を減少することができる。図4は図3の変形例であり、柱部11に対して径方向にゲート13を設けているが、作用は図3と同一である。転動体案内の場合は、図5のように柱間部12に対して軸方向にゲート13を設けると良い。溶融した樹脂はポケット8を取り巻くように流れて材料フローを形成する。転動体の回転方向に沿うように材料フローを形成することが望ましいが、転動体は軸受の接触角に垂直な方向を軸として自転するため、ゲート配置のみで材料フローと転動体回転方向を合致させることは困難である。図5のゲート配置をとれば、ポケット面の材料フローは転動体を一周する帯び状に転動体を取り囲むため、各ポケットの転動にともなう摺動抵抗はどれも同じで、保持器の部位によって偏りが生じるということはなくなる。
【0020】
次に、本実施形態の転がり軸受について、動摩擦トルク試験と耐久試験の2つの回転試験を行なった。
動摩擦トルク試験と耐久試験は、どちらも同型の試験装置を使用し、図6は試験装置の構造を示す外観図である。2個の試験軸受31、31は、軸受内輪を水平軸であるシャフト30に装填し、軸受外輪は軸受ホルダー32に嵌合させた状態で同軸に配列されおり、軸受内輪には予圧バネ33により予圧荷重(アキシアル荷重)を付加している。試験軸受31には摩擦が有るため、シャフト30の回転運動により軸受内輪を回転させると軸受外輪が連れ回りを生じる。配列した2個の試験軸受31の外輪の中間点から接線方向に糸を34伸ばして、その端をフォースゲージ35に接続しており、軸受が定速連続回転の状態において、フォースゲージ35により連れ回りの接線力(接線方向荷重)を測定する。接線力値を軸受のトルク値に代用して試験軸受31の比較を行う。試験軸受31は同一仕様軸受(内径60mm)を2個ペアにして行い、測定値を1/2にして1軸受分としている。
動摩擦トルク試験は内輪の回転速度70min−1、耐久試験は内輪の回転速度420min−1で行なった(大気圧、常温)。図7に接線力の測定例を示すが、接線力値は振れ幅を持つため、中央値と振れ幅量の2つを軸受トルクの代表値とした。
【0021】
試験結果を表1に示す。試験軸受としては、保持器の樹脂材料が異なるだけで、諸元寸法及び薄膜潤滑量等は全て同じである13種類の軸受を用意した。試験軸受における保持器の樹脂材料は市販されている配向性材料であり、射出成形により保持器を製作している。保持器は図2と同形式のポケット開口部を有する冠型もみぬき保持器であり、ポケットは半径方向に同一断面で、内輪案内保持器となっている。保持器の樹脂材料は、試験軸受#21〜24が無充填材料、#25が固体潤滑剤を含有しない炭素繊維充填PPS(ポリフェニレンサルファイド)、#26〜33がPTFEを含有する補強材充填材料である。
【0022】
【表1】

【0023】
表1において、回転試験後30分後の接線力の中央値と振れ幅量、同12時間後の中央値及び耐久試験総回転数を記載している。
試験軸受#21,22,23は30分後の接線力の中央値が格段に高い為、耐久試験は行なわなかった。接線力が高いのは、固体潤滑剤を含有しないことが原因と考えられる。耐久試験の結果、#24,25は保持器が摩耗して破損し、#26,27,31,33は保持器音が発生したため試験を中断したが、試験軸受#28,29,30,32はいずれも目標とする5×10回転に到達した。
以上により、低トルク性能と耐久性能から試験軸受#28,29,30,32が搬送ローラ用転がり軸受に適合すると判定された。
保持器音が生じた試験軸受の保持器は、曲げ弾性率が高めであるか、あるいは曲げ弾性率と摩擦係数の両方の組合せが高めであるかして、固体潤滑剤の転移が不充分となった為と考えられる。
【0024】
試験結果を保持器樹脂材料の動摩擦係数と曲げ弾性率について整理したのが,図8である。搬送ローラ用転がり軸受に適合と判定されたものを○、NGとなったものを×として領域で区切ると、図中の太線で分けられることが判る。すなわち、動摩擦係数が0.25以下で、曲げ弾性率が4000〜10000MPaである配向性樹脂材料を保持器に用いることにより、低トルク性能と耐久性能を満足することになる。特に、曲げ弾性率が7000MPa以上の樹脂材料であれば保持器剛性が確保できるのでより好適と言える。
【0025】
次に、図9は、本発明の第2実施形態である転がり軸受の構造を示す部分断面図である。本実施形態の転がり軸受10は、前記第1実施形態の転がり軸受とほぼ同様であるが、軸受寸法を限定している点が異なる。搬送ローラ用転がり軸受10は、軸受の外径をDとし、軸受の内径をdとし、軸受の幅をtとしたとき、(D−d)/2/t≦1.07を満たす構造としている。フィルム搬送ローラ用の軸受は、低トルク性能を要求されるが、大きな荷重容量を要求されることは少ない。一方、設備のフットプリント性は要求されるため、荷重容量は大きくないが厚み寸法が小さい薄肉軸受と呼ばれる軸受が使用されることが多い。これらは軸受の直径系列で08系、09系に分類されるものである。これらは玉5の直径に対して軸受の断面積が小さいため、内蔵される保持器7も寸法上の制約を受けることになる。
【0026】
図9からわかるように、保持器7に許されるスペースは非常に小さく、シールド板6と干渉しないようにするため、保持器7はシールド板6の嵌合部とは反対側である内輪側に寄せて設置する必要ある。保持器7に玉案内の構造を採用した場合、シールド板6によって断面積が狭くなっている領域に保持器7がより近づくことになるため、シールド板6と保持器7が接触する可能性があるため好ましくない。従って、薄肉軸受の保持器7は、軌道輪案内(図では内輪案内)とならざるを得ない。軌道輪案内の保持器7は必ず外輪4か内輪2と摺動を生じるため、その摺動抵抗を極力軽減した樹脂保持器を使用する必要がある。つまり、薄肉軸受が使用されることが多いフィルム搬送ローラ用の軸受には、本発明の配向性樹脂製保持器が好適と言える。
08,09系の軸受(内径100mm以下)において、軸受の断面高さ寸法(D−d)/2と幅寸法tとの比をとると、その値は最大値で1.07であり、本条件を満足する軸受は全て薄肉軸受である。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の搬送ローラ用転がり軸受は、フィルム搬送ローラの支持軸に好適に適用できる。
【符号の説明】
【0028】
1 内輪軌道
2 内輪
3 外輪軌道
4 外輪
5 玉
6 シールド板
7 保持器
8 ポケット
9 開口部
10 転がり軸受
11 柱部
12 柱間部
13 ゲート
20 フィルム
21 搬送ローラ
22 支持軸受
23 波形保持器
24 ポケット
30 シャフト
31 試験軸受
32 外輪ホルダー
33 予圧バネ
34 糸
35 フォースゲージ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に外輪軌道を有する外輪と、外周面に内輪軌道を有する内輪と、前記外輪軌道と内輪軌道との間に設けられた複数個の玉と、該複数個の玉を転動自在に保持する合成樹脂製環状の保持器とを備え、互いに平行に配置されてそれぞれ軸心回りに回転する複数本のローラによって被搬送物を支持して順次搬送する搬送ローラ用転がり軸受において、前記保持器は、固体潤滑剤を含有した配向性材料から射出成形され、曲げ弾性率が4000〜10000MPaであり、更に動摩擦係数が0.25以下であることを特徴とする搬送ローラ用転がり軸受。
【請求項2】
軸受の外径をDとし、軸受の内径をdとし、軸受の幅をtとしたとき、下記式を満たすことを特徴とする請求項1に記載の搬送ローラ用転がり軸受。
(D−d)/2/t≦1.07

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−226624(P2011−226624A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−99368(P2010−99368)
【出願日】平成22年4月23日(2010.4.23)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】