説明

搬送台車及びそのベルト繰り出し量の調整方法

【課題】複数のベルトを巻き取ったり繰り出したりする構成が簡易に実現する。
【解決手段】吊り下げベルト214a〜214dによって荷を把持する把持機構215が吊り下げられている。吊り下げベルト214a〜214dを巻き取りドラム224a〜224dが巻き取ったり繰り出したりすることにより、把持機構215が昇降される。巻き取りドラム224a〜224dはいずれも回転軸部材223に固定されており、1つの駆動モータ221が回転軸部材223を回転させることにより、全てのドラムが回転する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のベルトで吊り下げつつ被搬送物を昇降する搬送台車及びそのベルト繰り出し量の調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
被搬送物を懸垂状態で昇降する搬送台車として、被搬送物を複数のベルトで吊り下げるものがある。特許文献1は、4本のタイミングベルトと、これらのタイミングベルトのそれぞれを引き上げるプーリと、プーリを回転させる昇降モータとを有している。昇降モータがプーリを回転させることにより、タイミングベルトが引き上げられたり繰り出されたりする。これによって、タイミングベルトの先端に吊り下げられたワーク保持装置を昇降することができる。
【0003】
【特許文献1】特開2005−22791号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1によると、プーリを支持するプーリ駆動軸が2本設けられている。つまり、4つのプーリを回転させるための回転中心軸が2本設けられている。このような場合に1つのモータで両方の駆動軸を駆動するためには、モータから駆動力を2本の駆動軸に伝達する機構を設ける必要がある。例えば、モータと2本の駆動軸との間に設置されておりモータからの駆動力を直接2本の駆動軸へと伝達する機構を設けたり、特許文献1のように2本の駆動軸間に設置されており駆動軸間で駆動力を伝達する機構を設けたりする必要がある。かかる機構を設けると、装置構成が複雑になり過ぎるおそれがある。
【0005】
本発明の目的は、複数のベルトを巻き取ったり繰り出したりする構成が簡易に実現された搬送台車及びそのベルト繰り出し量の調整方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0006】
本発明の搬送台車は、軌道に支持されつつ前記軌道に沿って走行する搬送台車であって、被搬送物を支持する支持機構と、前記支持機構を吊り下げる複数の吊り下げベルトと、前記複数の吊り下げベルトを巻き取る1又は複数の巻き芯と、前記吊り下げベルトを巻き取らせる回転方向と前記回転方向とは逆方向とに選択的に前記巻き芯を回転させる回動手段と、前記回動手段に前記巻き芯を回転させて前記支持機構を昇降させる昇降制御手段とを備えている。そして、前記回動手段が前記巻き芯を回転させる回転中心軸が全ての前記巻き芯に関して共通である。
【0007】
本発明の搬送台車によると、吊り下げベルトを巻き取る巻き芯が1本又は複数本設けられているが、これらの巻き芯を回転させる際に回転中心軸が共通になるように構成されている。したがって、各巻き芯を回転させるのに複雑な機構を用意する必要がなく、ベルトを巻き取ったり繰り出したりする構成が簡易に実現する。
【0008】
また、本発明においては、前記1又は複数の巻き芯が固定された軸部材をさらに備えており、前記巻き芯が、前記回転方向に関して前記回転中心軸の周りに前記軸部材に対して相対移動可能な固定解除状態と前記軸部材に固定された固定状態とを選択的に取るように、着脱可能に前記軸部材に固定されていることが好ましい。これによると、巻き芯を固定解除状態にした後に、巻き芯を軸部材に対して回転させ、その後再び巻き芯を軸部材に固定することができる。したがって、吊り下げベルトの繰り出し長さを調整可能な構成が実現する。
【0009】
また、本発明においては、前記軸部材に固定された位置調整部材と、前記巻き芯を前記位置調整部材に固定する固定具とをさらに備えており、前記巻き芯及び位置調整部材の一方に、前記固定具に対応する複数の第1の固定部が前記回転方向に沿って前記回転中心軸の周りに配列するように形成されており、前記巻き芯及び位置調整部材の他方に、前記固定具に対応する第2の固定部が形成されており、前記固定具が、前記第1の固定部のいずれかに対して前記第2の固定部を着脱可能に固定することが好ましい。これによると、巻き芯を固定解除状態にした後に、巻き芯を軸部材に対して回転させて第2の固定部を異なる第1の固定部に固定することにより、軸部材に対して巻き芯の回転方向に関する位置を変更することが可能である。また、第1の固定部が回転方向に沿ってあらかじめ配列されていることにより、巻き芯の位置を所望の角度だけ変更することができる構成が簡易に実現する。
【0010】
また、本発明のベルト繰り出し量の調整方法は、本発明の搬送台車において前記吊り下げベルトの繰り出し量を調整する方法である。そして、前記巻き芯を前記固定解除状態にする固定解除工程と、前記固定解除工程で前記固定解除状態にされた前記巻き芯を、前記回転中心軸の周りに回転させる巻き芯回転工程と、前記巻き芯回転工程で回転された前記巻き芯を前記固定状態にする固定工程とを備えている。
【0011】
本発明の調整方法によると、搬送台車の吊り下げベルトに生じた繰り出し長さのずれを解消することができる。
【0012】
また、本発明の調整方法においては、前記1又は複数の巻き芯が前記固定状態にあるときに、前記複数の吊り下げ部材のうちのいずれか1つである基準吊り下げ部材の下端が鉛直方向に関して所定の基準位置に配置されるように、前記軸部材を前記回転中心軸の周りに回転させる基準配置工程と、前記基準配置工程の実行後に、前記基準吊り下げ部材以外の前記吊り下げ部材の下端の位置と前記基準位置との鉛直方向に関するずれを測定する測定工程とをさらに備えており、前記固定解除工程において、前記測定工程で測定がなされた前記吊り下げ部材に対応する前記巻き芯を前記固定解除状態にし、前記巻き芯回転工程において、前記固定解除工程で前記固定解除状態にされた前記巻き芯を、当該巻き芯に固定された前記吊り下げ部材に関して前記測定工程において測定された前記ずれに応じて、前記回転中心軸の周りに回転させることが好ましい。これによると、吊り下げベルトの繰り出し長さがずれている場合に、そのずれに対応した回転量だけ巻き芯を回転させて固定しなおすことにより、繰り出し長さのずれを解消することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の好適な一実施形態である搬送システム1について説明する。図1は、搬送システム1の正面図である。
【0014】
搬送システム1は、例えば半導体基板の製造工場等に設置され、被搬送物となる種々の荷Fを工場内で搬送するためのものである。工場内には種々の製造装置や荷Fの保管装置が設置されており、図1にはそのうちの製造装置99が示されている。これらの装置には、搬送システム1が搬送した荷Fが載置される載置ポートが設けられている。例えば、製造装置99には載置ポート98が設けられている。
【0015】
搬送システム1は、軌道100、及び、軌道100上を走行する搬送台車200を有している。軌道100は、工場の天井付近において、製造装置等の載置ポートの上方を通過する経路に沿って敷設されている。軌道100は、固定部材110によって天井に固定されている。軌道100内には空洞が形成されており、後述の搬送台車200の走行機構210がこの空洞内に収容されている。
【0016】
搬送台車200は、走行機構210を有している。走行機構210は、例えばリニアモータ方式で軌道100に沿って搬送台車200を走行させる機構である。リニアモータ方式が採用されている場合には、走行機構210は、軌道100内に設けられた2次側永久磁石101との磁気的相互作用によって、軌道100に沿った方向に搬送台車200を移動させる。走行機構210の下部には走行車輪211が設けられており、走行車輪211は軌道100内の底面に当接して搬送台車200をその底面上で支持している。また、リニアモータ方式以外の走行方式が採用されていてもよい。例えば、走行車輪211を駆動モータで駆動することにより、軌道100に沿って走行するように走行機構210が構成されていてもよい。
【0017】
走行機構210には、フレーム212を介して水平位置調整機構213が吊り下げられており、さらにその下方には昇降機構220が接続されている。水平位置調整機構213は昇降機構220を水平方向に関して移動する。例えば、搬送台車200が載置ポート98上に停止した際に、載置ポート98内の所定の載置領域の真上に荷Fが位置していない場合がある。水平位置調整機構213は、このような場合に昇降機構220を水平方向に移動することで、載置領域の真上に荷Fが位置するように水平位置を調整するものである。
【0018】
昇降機構220は、吊り下げベルト214a〜214d(図1には吊り下げベルト214c及び214dのみを図示)を介して把持機構215(支持機構)を吊り下げている。把持機構215は荷Fを把持したり、把持している荷Fを開放したりすることができる。これによって、載置ポート98上に荷Fが載置された後に把持機構215に荷Fを開放させたり、載置ポート98上に載置された荷Fを把持機構215に把持させたりすることができる。なお、荷Fを支持する機構であれば、把持機構215のように荷Fを把持する機構でなくてもよい。例えば、荷Fを乗せる台を有する機構であってもよい。
【0019】
また、昇降機構220は、吊り下げベルト214a〜214dを巻き上げたり繰り出したりする駆動モータ221(回動手段)を有している。また、搬送台車200内には、駆動モータ221の駆動を制御する昇降制御部230(昇降制御手段)が設けられている。
【0020】
以下、図2及び図3を参照しつつ昇降機構220についてさらに詳細に説明する。図2は、昇降機構220の内部構成の平面図である。図3(a)は図2の巻き取りドラム224a周辺の拡大図である。図3(b)は図3(a)のB−B線断面図を示している。なお、図2には、昇降機構220の外形が破線で示されている。また、把持機構215の水平位置が二点鎖線によって示されている。
【0021】
昇降機構220は、上記のとおり駆動モータ221を有している。駆動モータ221の駆動軸221aは、カップリング部222を介して回転軸部材223に接続されている。駆動モータ221は、駆動軸221a及びカップリング部222を通じて、図2のA−A直線に沿った軸を回転中心軸として回転運動させるトルクを回転軸部材223に伝達する。以下、図2のA−A直線に沿った回転中心軸を「回転中心軸A」と呼称する。回転軸部材223はA−A線に沿って直線状に延びており、回転中心軸Aの周りに回転できるように支持されている。
【0022】
回転軸部材223には調整板225a〜225d(位置調整部材)が固定されている。図3に示すように、調整板225aは円板状の平板部材であり、円板の中心を回転中心軸Aが通るように回転軸部材223に固定されている。なお、調整板225b〜225dも調整板225aと同様の構成を有しているため、調整板225b〜225dの構成についての説明は適宜省略する。
【0023】
調整板225a〜225dには、巻き取りドラム224a〜224d(巻き芯)が固定されている。つまり、巻き取りドラム224a〜224dは、調整板225a〜225dを介して回転軸部材224に固定された状態(固定状態)にある。巻き取りドラム224aは図3に示すように、円柱形状を有している。巻き取りドラム224aには、円柱の対称軸に沿って延びた貫通孔が形成されており、かかる貫通孔を回転軸部材223が貫通している。これによって、巻き取りドラム224aは、調整板225aに固定されていない状態(固定解除状態)においては、回転中心軸Aの周りに回転可能である。なお、巻き取りドラム224b〜224dも巻き取りドラム224aと同様の構成を有しているため、これらの構成については適宜説明を省略する。
【0024】
調整板225aには、図3(b)に示すように、その厚み方向に貫通する24個の調整孔241(第1の固定部)が形成されている。調整孔241は、調整板225aの中心である点Oを中心とする複数の同心円上に配列されている。なお、点Oは、回転中心軸A上の点でもある。これらの調整孔241のうちの6つの調整孔241は、上記の複数の同心円のうちで最も半径の大きい円に沿って等間隔に配列されており、これによって孔列240aを形成している。また、他の6つの調整孔241は、次に半径の大きい円に沿って等間隔に配列されており、これによって孔列240bを形成している。さらに、他の6つの調整孔241は、次に半径の大きい円に沿って等間隔に配列されており、これによって孔列240cを形成している。そして、残りの6つの調整孔241は、最も半径の小さい円に沿って等間隔に配列されており、これによって孔列240dを形成している。これらの孔列240a〜240dは、点Oを中心とした円周方向に関して90度の幅を有する、互いに重ならない4つの範囲に配列されている。
【0025】
一方で、巻き取りドラム224aにおいて調整板225aに近い方の端面には、ボルト227a〜227d(第2の固定部)が固定されている。ボルト227a〜227dは、上記の端面から調整板225aに向かって突出するように固定されている。また、ボルト227a〜227dは、回転中心軸Aからの距離が、それぞれ孔列240a〜240dの点Oからの距離と同じになるように配置されている。また、回転中心軸Aを中心とする円周方向に関して、互いに90度の角度で離隔するように配置されている。
【0026】
そして、ボルト227aは孔列240aに属した調整孔241のいずれかを貫通している。ボルト227bは孔列240bに属した調整孔241のいずれかを貫通している。ボルト227cは孔列240cに属した調整孔241のいずれかを貫通している。ボルト227dは孔列240dに属した調整孔241のいずれかを貫通している。さらに、ボルト227a〜227dにおいて調整孔241から露出した端部側から、ナット228a〜228dが締め付けられている。図3(b)の破線は、ボルト227a〜227d及びナット228a〜228dの配置の一例を示している。これによって、巻き取りドラム224aは調整板225aに固定されている。
【0027】
巻き取りドラム224a〜224dの周面には、吊り下げベルト214a〜214dの一端が固定されている。そして、吊り下げベルト214a〜214dは、巻き取りドラム224a〜224dの周囲に巻きつけられている。吊り下げベルト214a〜214dは、図2に示すように、いずれも図2の左方に向かって巻き取りドラム224a〜224dから引き出されている。一方で、巻き取りドラム224a〜224dの図2中左方にはガイドローラ226a〜226dが設置されている。ガイドローラ226a〜226dは、いずれも回転中心軸Aに平行な軸を中心に回転できるように支持されている。巻き取りドラム224a〜224dから図2中左方へと引き出された吊り下げベルト214a〜214dは、ガイドローラ226a〜226dによって鉛直下方へと案内され、昇降機構220の下方の把持機構215に向かっている。吊り下げベルト214a〜214dの下端は、上記のとおり把持機構215に固定されている。
【0028】
なお、ガイドローラ226a〜226dの水平位置は、吊り下げベルト214a〜214dが把持機構215を支持する位置を示している。ガイドローラ226a〜226dの設置位置を軌道100の幅方向に関して変更することにより、軌道100の幅方向に関して把持機構215を支持する位置を変更することができる。また、ガイドローラ226a〜226dの設置位置をA−A線に沿った方向に関して変更することにより、A−A線に沿った方向に関して把持機構215を支持する位置を変更することができる。この場合には、調整板225a〜225dが回転軸部材223に着脱可能であることが好ましい。これによって、調整板225a〜225dの固定位置をA−A線に沿って変更することができるため、ガイドローラ226a〜226dの設置位置をA−A線に沿った方向に関して変更することができるようになる。
【0029】
以上の構成において、荷Fを載置ポート98に載置する際に、昇降制御部230は以下のように駆動モータ221を制御する。
【0030】
まず、搬送台車200は、荷Fを保持しつつ軌道100に沿って走行し、載置ポート98へと向かう。このとき、荷Fは、昇降制御部230の少し下方に配置されている。そして、搬送台車200が載置ポート98の上方に停止すると、図示されていないホスト制御部から昇降制御部230へと、荷Fを降下させるように指示する指令が送信される。かかる指令を受信すると、昇降制御部230は、駆動モータ221を制御して、吊り下げベルト214a〜214dを下方へと繰り出す回転方向に回転軸部材223を駆動させる。これによって、巻き取りドラム224a〜224dに巻き取られた吊り下げベルト214a〜214dがこれらのドラムから繰り出される。繰り出された吊り下げベルト214a〜214dは、ガイドローラ226a〜226dに案内されて下方へと繰り出され、これらのベルトに吊り下げられた把持機構215が荷Fと共に降下する。ここで、水平位置調整機構213は、荷Fが降下する間に、載置ポート98上の所定の載置領域内に荷Fが配置されるように荷Fの水平位置を調整する。荷Fの底面が載置ポート98の上面に当接すると、昇降制御部230は、駆動モータ221の駆動を停止する。
【0031】
一方、荷Fを上昇させる際には、昇降制御部230は、駆動モータ221に回転軸部材223を上記の回転方向とは逆方向に回転させる。これによって、吊り下げベルト214a〜214dが巻き取りドラム224a〜224dに巻き取られ、荷Fを把持した把持機構215が上昇する。
【0032】
ところで、回転軸部材223を所定の回転量だけ回転させると、各ドラムも同じ回転量だけ回転することとなる。しかし、吊り下げベルト214a〜214dの厚みに製造時や使用時にばらつきが生じることがある。このような場合、巻き取りドラム224a等へのベルトの巻き取り部分の厚み(図3(b)のt)に差が生じる。ベルトの厚みにばらつきがある場合には、各ドラムが同じ回転量で回転しても、それによって繰り出されるベルトの長さが異なってくる。したがって、ベルトの厚みにばらつきがある場合には、回転軸部材223が所定の回転量だけ回転されて吊り下げベルト214a〜214dが繰り出されたときにも、各ベルトが繰り出される長さが異なってくることとなる。図4は、このように吊り下げベルト214a〜214dの繰り出し長さが異なることにより、各ベルトの下端が異なった位置に配置された場合の一例を示している。図4のようにベルトの下端の位置が異なる場合、ベルトの下端に吊り下げられた把持機構215が水平方向から傾いてしまい、把持機構215が把持した荷Fが各製造装置の載置ポート上に正常に載置されなくなるおそれがある。
【0033】
本実施形態の搬送台車200は、上記のような吊り下げベルト214a〜214dの繰り出し量のずれを修正するため、以下のような工程を実行することが可能なものである。
【0034】
図5は、本実施形態に係るベルト繰り出し量の調整方法の一連の工程を示すフロー図である。まず、調整板225a〜225dに巻き取りドラム224a〜224dが固定された状態において、駆動モータ221を駆動して吊り下げベルト214a〜214dを各ドラムから繰り出す(図5のS1;基準配置工程)。このとき、ベルトを繰り出す量は、ガイドローラ226a〜226dの下端の位置から最も繰り出し量が短いベルトの下端までの距離が、あらかじめ決定した基準長さに至るような量である。図4は、ベルトの繰り出し量の一例として、吊り下げベルト214a〜214dのうち、最も繰り出し量が短いものが吊り下げベルト214bであり、基準長さがLに決定された場合を示している。そして、吊り下げベルト214a、214c及び214dは、それぞれ基準長さLよりΔLa、ΔLc及びΔLdだけ長く繰り出されている。
【0035】
ここで、基準長さは、搬送台車200が荷Fを搬送する各製造装置の載置ポートの高さに応じて決定されている。具体的には、例えば、搬送台車200が荷Fを搬送する製造装置の中で、載置ポートが最も上方にあるものを装置イとし、載置ポートが最も下方にあるものを装置ロとする。そして、装置イの載置ポートの上面からガイドローラ226a〜226dの下端までの距離をL1とし、装置ロの載置ポートの上面からガイドローラ226a〜226dの下端までの距離をL2とする。このとき、基準長さLは、図4に示すようにL1とL2との間の長さに、例えば、L1とL2との平均の長さに設定される。
【0036】
次に、各ベルトの基準長さからのずれを測定する(図5のS2;測定工程)。図4の場合には、吊り下げベルト214a、214c及び214dにおける測定結果は、ΔLa、ΔLc及びΔLdとなる。
【0037】
次に、巻き取りドラム224a、224c及び224dにおいて、調整板225a、225c及び225dとの固定を解除する(図5のS3;固定解除工程)。巻き取りドラム224a、224c及び224dを回転軸部材223に対して回転可能にするためである。より具体的には、これらのドラムのそれぞれにおいてナット228a〜228dをボルト227a〜227dから取り外し、これらのボルトが完全に調整孔241から抜き出されるまで各ドラムを各調整板から離隔させる。
【0038】
次に、図5のS2において測定したずれの大きさに応じて、巻き取りドラム224a、224c及び224dを回転軸部材223に対して回転させる(図5のS4;巻き芯回転工程)。より具体的には、図3(b)に示す状態から巻き取りドラム224a、224c及び224dを時計回りに回転させる。そして、各ドラムにおいて、図3(b)に示される調整孔241とは別の調整孔241にボルト227a〜227dを差し込む。
【0039】
次に、巻き取りドラム224a、224c及び224dを調整板225a、225c及び225dに固定する(図5のS5;固定工程)。つまり、各ドラムにおいて、ボルト227a〜227dをナット228a〜228dで締め付ける。
【0040】
以下、図5のS4の工程についてより詳細に説明する。この工程においては、各ベルトのずれの大きさに応じてそのベルトに対応したドラムを回転させ、元の調整孔241とは異なる調整孔241にボルト227a〜227dを差し込む。図6は、図3(b)の状態から巻き取りドラム224aを回転させて、時計回りに2つ隣の調整孔241にボルト227a〜227dのそれぞれが差し込まれた場合を示している。
【0041】
各ドラムの回転量は、下記の表1に基づいて決定される。表1は、各ベルトに関して測定された繰り出し長さのずれの大きさとドラムの回転角度とを関連付けるものである。なお、表1は、基準長さがLの近傍に設定された場合のずれの大きさとドラムの回転角度とを関連付けるものである。基準長さがL以外に決定された場合には、表1の内容とは異なる内容を含む別の表が用いられる。
【0042】
【表1】

【0043】
表1において「ずれ範囲」は、測定されたずれの大きさの範囲を示している。そして、「角度」は、ずれ範囲に対応するドラムの回転量を示している。a、a、…は、それぞれずれの値を示し、0<a<a<…を満たしている。θは、図6に示すように、一の調整孔241及び点Oを結ぶ線分と、隣りの調整孔241及び点Oを結ぶ線分との間の角度である。本実施形態においては、θは18度(deg)である。
【0044】
そして、表1は、測定されたずれ範囲によって、ドラムをどれだけ回転させればよいかを示している。例えば、図4において吊り下げベルト214aのずれの大きさはΔLaである。そして、ΔLaがa〜aの範囲内である場合には、表1においてドラムの回転量は2θとなる。つまり、吊り下げベルト214aに対応する巻き取りドラム224aを2θに相当する分だけ回転させると、基準長さからのずれが適切に解消されることとなる。ここで、2θは、2つ隣の調整孔241にボルトを移動させるような回転量に相当する。したがって、図3の状態から図6の状態へと、2つ隣の調整孔241にボルトが移動するように巻き取りドラム224aを回転させることによって、吊り下げベルト214aが図6のB方向に巻き取られ、繰り出し長さのずれが適切に解消されることとなる。
【0045】
このように、表1においてa、a、a、aの各値は、ずれの範囲がa〜aのときには1つ隣の調整孔241にボルトが移動するようにドラムを回転させ、ずれの範囲がa〜aのときには2つ隣の調整孔241にボルトが移動するようにドラムを回転させ、ずれの範囲がa〜aのときには3つ隣の調整孔241にボルトが移動するようにドラムを回転させると最も適切にずれが解消するように設定されている。a以降の値についても同様である。このような表1の各値は、基準長さをLとした場合に、各ベルトの繰り出し長さが基準長さからどれだけずれたかを実測し、そのずれを解消するためにどれだけドラムを回転させればよいかを実測することなどによって取得される。
【0046】
以上のように吊り下げベルト214a〜214dのそれぞれの繰り出し量のずれを調整することによって、基準長さだけベルトを繰り出した際のずれが解消される。搬送システム1の構築時にかかる調整工程を実施することによって、ベルトの製造時のばらつき等による繰り出し長さのずれを解消することができる。また、搬送台車200を使用し続けた場合に吊り下げベルト214a〜214dが伸びるおそれがあるが、このような場合にもベルトの繰り出し長さにずれが生じる。このような使用時に生じた繰り出し長さのずれも、上記の調整工程を実施することによって解消することができる。
【0047】
なお、上記のように基準長さがLのときにずれが完全に解消されたとしても、ベルトをL以外の長さに繰り出した場合に各ベルトにずれが全く生じないわけではない。しかし、ベルトの製造技術に関する近年の進歩をかんがみると、ベルトの厚みに生じるばらつきは、ある繰り出し長さのときにずれが解消されれば、それ以外の繰り出し長さのときにずれが問題となるほどではないと考えられる。つまり、繰り出し長さの最小値L1と最大値L2との間のLにおいてずれを解消すれば、L1〜L2の範囲でベルトの繰り出し長さが変動しても、各ベルトの繰り出し長さのずれが実用上問題になることが少ないと考えられる。
【0048】
以下、昇降機構220に代わる他の実施形態について図7を参照しつつ説明する。この実施形態に係る昇降機構320と昇降機構220との違いは、駆動モータ221の駆動力を回転軸部材223に伝達する機構にある。昇降機構320においては、昇降機構220のカップリング部222の代わりに、一対の笠歯車322a及び322bが採用されている。笠歯車322aは、駆動モータ221の駆動軸221aに固定されている。笠歯車322aは笠歯車322bと咬み合っており、笠歯車322a及び322bは、駆動軸221aによるトルクを、その方向を変化させて回転軸部材223へと伝達する。なお、これ以外の構成については上述の実施形態と同様であるため、説明を省略する。
【0049】
この昇降機構320においては、笠歯車322a及び322bによって駆動モータ221の駆動力を回転軸部材223に伝達しており、駆動モータ221を回転軸部材223の延長線上に配置していない。したがって、全体の構成をコンパクトに配置することが可能となっている。なお、この場合でも、1本の回転軸部材223に駆動モータ221の駆動力を伝達すればよいため、回転中心軸が2以上ある場合と比べて全体の構成を簡易にすることができる。
【0050】
<その他の変形例>
以上は、本発明の好適な実施形態についての説明であるが、本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、課題を解決するための手段に記載された範囲の限りにおいて様々な変更が可能なものである。
【0051】
上述の実施形態においては、回転軸部材223の図2中左方にガイドローラ226a〜226dの全てが配置されている。しかし、一部のガイドローラが回転軸部材223の右方に配置されてもよい。図8(a)は、4つのガイドローラのうちの2つが回転軸部材223の左方に、残りの2つが右方に配置されている場合の構成を示している。また、図8(b)のガイドローラ226a〜226cのようにガイドローラが3つ設けられていてもよい。
【0052】
また、上述の実施形態においては、調整板225a〜225dに複数の調整孔241が設けられており、巻き取りドラム224a〜224dにボルト227a等が固定されている。しかし、巻き取りドラム224a〜224dに複数の調整孔が設けられており、調整板225a〜225dにボルトが固定されていてもよい。また、調整孔241は、図3の点O周りの円周方向に関して等間隔に配列されているが、異なる間隔で配列されていてもよい。さらに、孔列240a〜240dに対応してボルト227a〜227dが設けられているが、2列又は3列の孔列に対して2本又は3本のボルトが設けられていてもよい。
【0053】
また、上述の実施形態においては調整孔が離散的に形成されており、ベルトの繰り出し長さを調整する際にドラムを回転することができる角度も飛び飛びの値を取ることとなる。しかし、ドラムを連続的に回転できるように、円周方向に沿って連続的に延びるように調整孔が形成されていてもよい。
【0054】
また、上述の実施形態においては、1本の吊り下げベルトに対して1本の巻き取りドラムが設けられているが、1本の巻き取りドラムで2本の吊り下げベルトを巻き取るように構成されていてもよい。つまり、2本の吊り下げベルトに対して1本の巻き取りドラムと1つの調整板が設けられていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の一実施形態である搬送システムの正面図である。
【図2】図1の搬送システムに設けられた昇降機構の内部構成の平面図である。
【図3】図3(a)は、図2の巻き取りドラム周辺の拡大図である。図3(b)は、図3(a)のB−B線断面図である。
【図4】図1の吊り下げベルトの側面図である。
【図5】図1の搬送システムにおいて吊り下げベルトの繰り出し量を調整する一連の工程を示すフロー図である。
【図6】図3(b)の状態から巻き取りドラムを時計回りに回転させて固定させた状態を示している。
【図7】図2とは別の実施形態に係る昇降機構の内部構成の平面図である。
【図8】さらに別の実施形態に係る昇降機構の内部構成の平面図である。
【符号の説明】
【0056】
1 搬送システム
100 軌道
200 搬送台車
215 把持機構
220 昇降機構
221 駆動モータ
223 回転軸部材
241 調整孔
214a-214d 吊り下げベルト
224a-224d 巻き取りドラム
225a-225d 調整板
227a-227d ボルト
228a-228d ナット


【特許請求の範囲】
【請求項1】
軌道に支持されつつ前記軌道に沿って走行する搬送台車であって、
被搬送物を支持する支持機構と、
前記支持機構を吊り下げる複数の吊り下げベルトと、
前記複数の吊り下げベルトを巻き取る1又は複数の巻き芯と、
前記吊り下げベルトを巻き取らせる回転方向と前記回転方向とは逆方向とに選択的に前記巻き芯を回転させる回動手段と、
前記回動手段に前記巻き芯を回転させて前記支持機構を昇降させる昇降制御手段とを備えており、
前記回動手段が前記巻き芯を回転させる回転中心軸が全ての前記巻き芯に関して共通であることを特徴とする搬送台車。
【請求項2】
前記1又は複数の巻き芯が固定された軸部材をさらに備えており、
前記巻き芯が、前記回転方向に関して前記回転中心軸の周りに前記軸部材に対して相対移動可能な固定解除状態と前記軸部材に固定された固定状態とを選択的に取るように、着脱可能に前記軸部材に固定されていることを特徴とする請求項1に記載の搬送台車。
【請求項3】
前記軸部材に固定された位置調整部材と、前記巻き芯を前記位置調整部材に固定する固定具とをさらに備えており、
前記巻き芯及び位置調整部材の一方に、前記固定具に対応する複数の第1の固定部が前記回転方向に沿って前記回転中心軸の周りに配列するように形成されており、
前記巻き芯及び位置調整部材の他方に、前記固定具に対応する第2の固定部が形成されており、
前記固定具が、前記第1の固定部のいずれかに対して前記第2の固定部を着脱可能に固定することを特徴とする請求項2に記載の搬送台車。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の搬送台車において前記吊り下げベルトの繰り出し量を調整する方法であって、
前記巻き芯を前記固定解除状態にする固定解除工程と、
前記固定解除工程で前記固定解除状態にされた前記巻き芯を、前記回転中心軸の周りに回転させる巻き芯回転工程と、
前記巻き芯回転工程で回転された前記巻き芯を前記固定状態にする固定工程とを備えていることを特徴とするベルト繰り出し量の調整方法。
【請求項5】
前記1又は複数の巻き芯が前記固定状態にあるときに、前記複数の吊り下げ部材のうちのいずれか1つである基準吊り下げ部材の下端が鉛直方向に関して所定の基準位置に配置されるように、前記軸部材を前記回転中心軸の周りに回転させる基準配置工程と、
前記基準配置工程の実行後に、前記基準吊り下げ部材以外の前記吊り下げ部材の下端の位置と前記基準位置との鉛直方向に関するずれを測定する測定工程とをさらに備えており、
前記固定解除工程において、前記測定工程で測定がなされた前記吊り下げ部材に対応する前記巻き芯を前記固定解除状態にし、
前記巻き芯回転工程において、前記固定解除工程で前記固定解除状態にされた前記巻き芯を、当該巻き芯に固定された前記吊り下げ部材に関して前記測定工程において測定された前記ずれに応じて、前記回転中心軸の周りに回転させることを特徴とする請求項4に記載のベルト繰り出し量の調整方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−161333(P2009−161333A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−2204(P2008−2204)
【出願日】平成20年1月9日(2008.1.9)
【出願人】(302059274)アシスト テクノロジーズ ジャパン株式会社 (146)
【Fターム(参考)】