説明

携帯型蒸発式ディスペンサ

容器内に、使用者が活性化可能な化学反応熱源と、揮発性化合物とを備え、それにより、活性化熱源による対流が、揮発性化合物を蒸発させ、それを容器の外へ搬出する、蒸発式ディスペンサ。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香剤、アロマテラピー化合物、防虫剤などの揮発性組成物を空気中に散布することに関する。
【背景技術】
【0002】
気体状態で使用する揮発性液体組成物を蒸発させることは、芳香剤、アロマテラピー化合物、防虫剤を含む数多くの用途について周知である。揮発性組成物用のディスペンサは、開放容器のように簡単なものでもよく、または散布補助装置を備えてもよい。散布補助装置は、蒸発のための表面積を増加させる露出芯のように、受動的なものでもよい。それらは、エアゾール缶ディスペンサまたはファンなどの機械的なものでもよい。それらは、蝋燭の燃焼、ブタンの火炎の利用、または、電池もしくは家庭用電流のどちらでも、電気で駆動される抵抗加熱器の利用によって発生させた熱を用いて、揮発性液体を加熱することを含む。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0003】
加熱ディスペンサは、安全性(火炎)、重量(電池または延長コード)、または使用場所の制限(家庭用電流)について1つまたは複数の欠点を有する。
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の一態様は、一種類または複数種類の揮発性組成物を長時間、少なくとも1時間、好ましくは数時間にわたって、火炎または電流を用いずに、蒸発させ、放出することを補助する熱を発生する携帯型ディスペンサである。
【0005】
この発明の別の態様は、底部空気入口および頭部空気出口を有する密閉断熱容器であって、その中に入れた、互いに混合し、または空気に曝すと、永続性のある低温発熱化学反応を起こすことができる固体または液体の反応物質、および前記反応によって加熱可能な揮発性組成物を有する容器と、反応成分が活性化するのを未然に防止する、使用者が操作可能な、または使用者が無効化可能な手段とを備える対流駆動蒸発式ディスペンサである。
【0006】
この発明は、揮発性液体または固体化合物用の携帯型ディスペンサである。ディスペンサは、機械的に活性化可能で、長時間持続性のある低温化学対流ヒータと、散布すべき1種類または複数種類の揮発性化合物とを備える。使用者は、ディスペンサを機械的に作動させることにより、加熱を開始させ、それによりディスペンサを上向きに貫通する空気対流を生じさせる。空気は、ディスペンサの底部に引き込まれ、化学ヒータの1種類または複数種類の成分の近傍またはその中を通過させられ、さらに1種類または複数種類の揮発性化合物上を通過させられる。加熱空気は、蒸発した1種類または複数種類の所望の濃度の化合物を担持して、ディスペンサの頭部から流出する。
【0007】
ディスペンサは、単一の容器を備えることができる。単一容器のディスペンサは、断熱するまたは断熱される外壁を有することができる。あるいは、ディスペンサは内側容器および外側容器を備えることができ、どちらかの容器または2つとも断熱性を有することができる。単一容器、または別の実施形態では内側容器が、使い捨ての化学反応ヒータと、散布すべき1種類または複数種類の揮発性の化合物とを中に有する。その容器は、少なくとも1つの下側空気入口および少なくとも1つの上側空気出口開口を備え、それによって、その容器を貫通する上向きの空気対流が可能になる。使用者が、その物理的分離を機械的に無効化することによってヒータを活性化するまでは、ディスペンサまたはその関連したパッケージが、熱発生反応物質同士を物理的に分離する。本発明では、そのような全ての実施形態を、ディスペンサに関連した物理的分離手段を有すると称する。物理的分離機構がディスペンサ自体に含まれる場合は、機械的活性化手段が、ディスペンサの一部を形成する。化学的反応物が、たとえば、グリセリンなどの燃料と過マンガン酸塩酸化剤、または酸化カルシウムと水などの、少なくとも一方は液体(液体化合物、溶液、または分散体)である、ヒータに含まれる2種類の成分間に生じる場合、両反応物質は、別々の隔室内に配置され、機械的活性化手段は、使用者が操作すると、分離機構を無効化し、別々に収容されていた成分を混合させ、それによって反応させる装置である。バルブ、袋に穴を開ける突起物、位置がずれているがその位置合わせ可能な孔同士が、単一容器または内側容器の一部として備えられ得る、使用者が操作可能な機械的活性化手段の例である。この発明のディスペンサに有用な化学ヒータの実施形態の一部は、反応物質である酸素を供給するのに空気を利用し、空気を単一容器または内側容器に受け入れることによって開始される。そのような実施形態では、単一容器または内側容器には、蔽いをされた空気入口ポートおよび空気出口ポートが設けられ、それらのポートは、分離機構を無効化して化学反応を開始させ、同時に揮発性化合物を散布する空気通路を開けるために、使用者によって開放することができる。別法として、単一容器は、空気通路のため、または空気通路および酸素反応物質両方のために開放された空気入口および出口を備えるが、ただし、使用者によって開封される気密の出荷および展示用パッケージで包装することができ、その場合、反応物質同士の分離機構の機械的無効化は、使用するために、ディスペンサに関する出荷用パッケージを開け、ディスペンサを取り出すことである。
【0008】
2重容器の実施形態では、一連の内側容器、または「詰替え容器(refills)」を用いて、外側容器を再使用することができる。
【0009】
単一容器または内側容器は、空気が対流的に入口から出口まで流れ、作動中、流れている空気が1種類または複数種類の揮発性化合物に接触する単一経路または複数の経路いずれかである通路を備える。好ましくは、揮発性の1種類または複数種類の化合物は、部分的または完全に加熱された空気が接触するように配置され、それによって蒸発率が増加する。
【0010】
ディスペンサの化学的反応ヒータは、空気通路と熱接触状態にあり、それによって空気通路内の空気を加熱する。通路内の空気は、ヒータの反応している成分と接触することができる。あるいは、通路内の空気は、反応している成分から熱伝導型分離体によって物理的に隔てられている場合もある。
【0011】
必要または所望する場合、特に、空気通路の内側ではなくて第1の容器の1つまたは複数の外壁に近接して化学反応ヒータを有する実施形態では、ディスペンサは、使用者を保護し、熱損失を低減し、またはその両方を行うための断熱材を備える。単一容器は、少なくとも容器の1つまたは複数の垂直外壁の内側または外側のいずれかに断熱材層を備えることができる。断熱性は、材料、構造、および厚さの選択によって壁に十分に断熱性を持たせることによって、壁(または複数の壁)自体で実現することもできる。互いに離れていれば、ヒータチャンバと容器の壁(または複数の壁)との間の空隙は、以下で説明するように、構造が適切であれば断熱層として作用し得る。断熱材料の層は、たとえば、紙、ボール紙、またはプラスチック(好ましくは発泡プラスチック)の内側または外側ライナとして形成される。必要なら、頭部を断熱してもよく、一方、使用者が高温の頭部に接触することを、金属ではなくて、断熱性の阻止体を用いて物理的に接触を阻止することによって、防止することができる。
【0012】
2重容器の実施形態は、内側または外側容器に結合された断熱材を備えてもよく、どちらかの容器が断熱性であってもよく、または、両容器の間に断熱層を設けてもよい。特に、少なくとも1つの容器の壁が非金属製である場合、内側容器と外側容器との間の環状の隙間は、必要な断熱性の一部または全てを備えることができる。
【0013】
ディスペンサは、台または脚、紐または紐用の小孔、フック、あるいは垂直面への取外し可能な装着手段を備えることによって、身に着け、懸吊し、あるいは水平または垂直面に配置できるようになされている。
【0014】
ヒータの成分および1種類または複数種類の揮発性化合物は、固体または液体の形態である。1種類または複数種類の揮発性化合物が液体の場合、固形物内に保持されるように、コーティング、吸収、または吸着によって固形物に合体される。
【0015】
ヒータは、通常、酸化または加水分解のどちらかの発熱反応によって熱を発生する。本発明では、用語「化学反応ヒータ(chemical reaction heater)」は、広い意味で、1種類の成分、液体または固体を、流体成分、液体または気体(空気)に接触させ、その結果、熱を発生させることであると理解されるものとする。発熱反応、および使用する特定の成分の種類の選択は、いくつかの規準を用いるが、当技術分野の技術の範囲内である。ディスペンサ内の発熱反応は、少なくとも数分、たとえば3、5または10分間持続するように、緩やかでなければならない。特定の用途、たとえば防虫に対しては、発熱反応は、少なくとも1時間、好ましくは少なくとも2時間、ある種の実施形態では少なくとも12時間は、持続するべきである。発熱反応による温度上昇は、ディスペンサの部品の損傷、揮発性化合物の過熱、または使用者および周囲に対する安全性上の危害に至らないように、比較的低くするべきである。ディスペンサ内の温度は、100℃に達せず、好ましくは70℃以下にするべきである。ディスペンサから出る空気の温度は、約50℃、または、ディスペンサが人の身に着けられる場合は約40℃を超えるべきではない。好ましい加熱成分としては、固体反応物質として鉄粉、炭素粉、および/またはバーミキュライト、ならびに、流体反応物質として空気からの酸素がある。鉄の酸化は、発熱反応である。本発明では、これを「酸化鉄」ヒータと称する。別法は、流体反応物質である水が、固体酸化カルシウム粒子に加えられるものであり、当技術分野では「酸化カルシウム」ヒータと呼ばれる。さらに別法は、酢酸ナトリウム三水和物などの過冷却液相の結晶化であってもよい。さらに別法は、過マンガン酸カリウム(酸化剤)の粒子を含む不活性固体物質床または液体過マンガン酸ナトリウムへのグリセリン水溶液(燃料)の添加である。
【0016】
ヒータの性能は、一部の設計パターンを調節することによって、特定の用途に調製することができる。1種類または複数種類の揮発性化合物の蒸発率は、温度が高いほど蒸発率が高くなるので、ディスペンサに対して、ヒータの温度を変えることによって調節することができる。ヒータの温度は、熱発生反応物質の量の増加、断熱性の向上、またはそれら両方によって上昇させることができる。ヒータの温度は、前記のパラメータを逆向きに変えることによって、低下させることができる。ある程度の上昇は、空気流量の調節、反応物質と空気との間の熱接触表面積の増加によっても達成することができる。空気を部分的に加熱した後、揮発性化合物を通過させ、次いでディスペンサから出る前にさらに空気を加熱することによって、さらに微調整(refinement)を行うことができる。特定のディスペンサに対する対流空気流の増加は、入口および出口ポートの寸法を増加させることによって達成することができる。空気流量の増加は、ヒータから出る空気中での1種類または複数種類の揮発性化合物の濃度を減らすのに利用することができる。制御するのなら、ヒータを通過する空気の圧力降下は、加熱成分および揮発性化合物を構成する固体物質を貫通する空気流の通路の自由領域を増加させることによって低下させることができる。逆の変化をさせて、空気流量を減少させることができる。
【0017】
本発明の1つまたは複数の実施形態の詳細が、添付図面および以下の説明に記載されている。本発明の他の特徴、目的、および利点が、説明、図面、および特許請求の範囲から明らかになろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
様々な図面での同じ参照符号は、同じ要素を示す。
【0019】
図1は、この発明による対流駆動ディスペンサの実施形態を示す断面図である。図1に示される実施形態は、空気活性化型ヒータ、すなわち酸化鉄ヒータを備える。ディスペンサ1は、それらの全てが孔である底部ポート3および頭部ポート4を有する密閉容器である内側容器2を備える。作動中、空気が底部ポート3に入り、頭部ポート4から出る。図示の通り、各ポートは垂直に配向されているが、別法として、それぞれ容器側面の底部および頭部位置に水平に配向することができる。内側容器2は、発熱化学反応を起こすことができる熱反応成分を内蔵する多孔質の紙またはプラスチックのパック5を中に有する。パック5は固体反応物質を収納している。既述の通り、本発明では、囲い込まれた反応領域を「ヒータ(heater)」と呼ぶことがある。この実施形態における複数のパック5は、底部ポート3から頭部ポート4へヒータの中心を垂直に延びる空気通路を画成する。パック5の間、パックの頭部近くで、空気通路中でパックの上に突出して、固体の揮発性化合物、すなわち、多孔質の基盤に保持された液体の揮発性化合物が配置されている。揮発性化合物はアイテム6である。ポート3に整列した孔10を有し、ポート4に整列した孔11を有する外側容器7が、断熱性内側容器2を囲繞している。たとえば人の首からディスペンサ1を垂直に吊り下げるための留金、鎖、または紐を通すのに適した小孔8がパッケージ7の頭部に取り付けられている。単一の容器で全ての機能を果たせるので、外側容器7は内側容器2と一体になり、それは任意選択的であり、必要なら断熱性の囲いを有する。
【0020】
出荷および展示用パッケージ9は、封止プラスチックバッグまたはブリスター包装などの気密パッケージである。パッケージ9は、空気が容器2に入り、ヒータを活性化させるのを防止する。あるいは、頭部および底部空気ポートを覆うようにシールを配置することもできる。この場合、発熱反応の機械的活性化には、場合に応じてパッケージまたはシールを無効化することが含まれる。
【0021】
散布システムを使用するには、使用者は、出荷および展示用パッケージ9を取り外し、ディスペンサ1に垂直な姿勢を取らせる。空気が、ポート3、10および4、11を通って、内側容器2の空気通路に入る。酸化鉄システムの場合は、通路に入った空気が、パック5中の反応物質に接触して、発熱反応を開始する。垂直な対流がその結果生じる。加熱空気は上昇し、発熱反応が、空気を、ポート3、10からヒータに引き込み、パック5の中および周りを通し、揮発性成分6のそばを通して、空気通路内を上方へ通過させ、次いで頭部ポート4、11からディスペンサ1の外に出すが、空気はパック5で加熱され、揮発性成分6は蒸発させられる。1種類または複数種類の揮発性化合物6は、パック5中の発熱反応によって加熱される。
【0022】
ディスペンサ1の形状はそれほど重要ではない。たとえば、それは、水平断面で、円形、楕円形、または矩形でもよい。ポート3、10およびポート4、11の数、パターン、および1つまたは複数の寸法は、個々の用途に対して所望の空気流量を達成するように調節される。パック5には、加熱反応用の成分から成る、またはそれを含む微粒子状の固体が入っている。反応物質を、ばらばらの微粒子として加え、その上に細かな網を被せることによって所定位置に保持することもできる。小孔8は、散布システム懸吊用のフック、もしくはベルクロ(登録商標)(Velcro USA, Inc.、米国ニューハンプシャー州マンチェスター)として周知のフックとループとを兼ね備えた繊維のファスナ(マジックテープ(登録商標))の片側部分、または磁石もしくは取外し可能な粘着片、あるいは、垂直面に散布システムを取り付けるのに適した他の手段で置き換えることができる。別法として、またはそれに加えて、外側パッケージ7は、たとえばテーブルの上面など水平な面上に垂直に散布システムを立てるための基底(図2参照)を備えることができる。
【0023】
図2は、新しい内側容器で詰め替えるのに適した装飾的外側容器25を備えるディスペンサ21を示す断面図である。内側容器22は、外箱に取外し可能に差し込まれていることを除いて、内側容器2(図1)と同様である。それは、空気流のための底部開口、ポート23、および頭部開口、ポート24を有する。それは、上記のように多孔質パック5および揮発性化合物6を中に有する。内側容器22およびその中身は、気密パッケージ(図示せず(図1参照))に入れて供給され、発熱反応は、気密パッケージを取り除くことによって機械的に活性化され、その時点で内側容器22は外側容器に入れられる。
【0024】
断熱性の外側容器25は、取外し可能な蓋27を有する。蓋27は、ヒンジ式に開くことができる蓋でもよい。容器25は、空気用開口、すなわち円周上の複数の孔26を有する基底を備える。蓋27は、空気用開口、すなわちあるパターンの複数の孔28を備える。孔26とポート23との間に空間があるので、位置合わせをする必要がない。同様に、孔28とポート24との間に空間があるので、位置合わせをする必要がない。断熱性の外側容器25は、垂直な面に懸吊または装着するようになすこともできることは理解されよう。
【0025】
別の実施形態では、再使用可能な外側容器25が、パック5および揮発性物質担体6を個々に挿入することができる支持部を中に有することができる。これらの使い捨て構成部品は、封止気密バッグ中に包装され、そのバッグから取り出されると、活性化され散布される。
【0026】
図3は、空気活性化型ヒータと共に用いるのに適し、また、たとえば、過マンガン酸カリウム粒子を含有する固体不活性ペレットを含む酸化剤と水性グリセリンを含む燃料、または代替として、固体酸化カルシウムと水などの、非空気活性化型ヒータと共に用いるのにも適している、異なるタイプの機械的活性化を実現する代替構造を示す。上記の2つのような液体反応物質を利用した発熱反応においては、ディスペンサから液体が漏れるのを防ぐために、散布空気が反応領域を通って流れないことが好ましい。図3は、複数のチャンバを有する断熱性の単一容器ディスペンサであるディスペンサ30を示す。モスボール粒子の多孔質バッグとして示されている揮発性化合物32を中に有する中央の円筒チャンバが、空気通路である。空気通路は、内側円筒壁33、内側底部34、および頭部35によって画成される。内側底部34および頭部35には、入口ポート36および出口ポート37がそれぞれ設けられている。
【0027】
図3はまた、使用者が開放可能な空気通路のための代替構造を示す。底部34および頭部35には、使用前は入口ポート36および出口ポート37のそれぞれを塞ぎ、蒸発した揮発性化合物が出口ポート37を通ってディスペンサから出ていくのを防止する剥離カバー38および40がそれぞれ設けられている。カバー38、40は、無論、図1に示す容器9のような気密容器によって置き換えることができる。
【0028】
円筒壁33は、熱伝導性の、たとえば金属である。ディスペンサ30は、中央チャンバを取り巻く環状ヒータを備える。環状ヒータは、2つの垂直に分かれたチャンバ、すなわち、液体反応物質(図示せず)で満たされた上側環状チャンバ41および固体反応物質43が入っている下側環状チャンバ42を備える。上側チャンバ41は、中空リング44によって画成される。下側チャンバ42は、内側円筒壁33、外側円筒壁46、環状頭部47、および底部34によって画成される。回転可能な環状リング44は、頭部35に回転可能に取り付けられ、内側円筒壁33に摺動的に係合する。下側環状チャンバ42と可回転中空リング44とは摺動関係にある。下側環状チャンバ42の固定頭部47には入口孔48が設けられ、可回転中空リング44には孔49が設けられ、孔49は、可回転リング44を回転させることによって、孔48に位置を合わせたり外したりすることができ、それによって、液体反応物質が底部チャンバ42に流れ込むのを可能にしたり、妨げたりすることがそれぞれできる。外側円筒壁46は、使用者を保護し、また熱損失を低減するために断熱性である。壁46が、その組成および厚さから十分に断熱的でない場合、外側断熱円筒50、たとえば発泡スチロールスリーブを設けることができる。
【0029】
ヒータの機械的活性化には、孔48、49の位置が合うようにリング44を回転させ、それによってチャンバ41、42の分離を解消し、液体燃料を酸化剤、この場合は固体酸化剤43に接触させることが含まれる。カバー片38および40は取り外され、それによって、対流空気流のための通路の開通が達成される。カバー片38および40への代替として、ディスペンサ30を気密パッケージに入れて提供してもよく、その場合には、パッケージを開けることにより、パッケージによって形成されている閉鎖機構を取り除き、空気の流入、流出通路を開通させることになる。散布すべき物質の室温での蒸発率が極めて低い特別な場合には、ポート36、37は遮蔽されなくてもよい。空気は内側チャンバに入り、揮発性化合物の多孔質バッグ32に接触することができる。チャンバ41からの液体反応物質が、重力によってチャンバ42に流入し、そこで固体反応物質43に接触し、発熱反応を開始する。その反応からの熱が、内側チャンバ、空気通路内の空気の温度を上昇させ、それによって、入口ポート36に入り、多孔質バッグ32の周りおよびその中を通り、排出ポート37から出る空気の対流を引き起こす。
【0030】
ディスペンサ30の構造は逆にして、ヒータチャンバ41、42を内側に、揮発性生成物32を外側の環状空気通路チャンバ内に置くことができる。そのような構造は、発熱反応は円筒壁33の内側で起こり、外壁44、46は断熱的である必要はないという利点を有する。中央の反応チャンバ41、42は、図3に示された設計と同様に、位置合わせ可能な孔を有する回転可能な頭部壁および底部壁によって分離することができる。別法として、中央上側のチャンバは、固体反応物質43の上に配置された液体を充填したバルーンにすることができ、その場合、ばねで付勢された鏃を、頭部35または底部34に配置されたトリガをそれに係合させることにより、これを放つことによるような機械的活性化機構が、バルーン壁分離部の機能を無効にする。図3は、使用者が開放可能な空気通路、すなわち、位置合わせ可能な孔を有する摺動的に係合された可回転要素同士にやはり適用することができる構造技法を示す。たとえば、ディスペンサ30の構造を、中央のヒータおよび環状の空気通路によって、上記のように逆にした場合、下側チャンバ42は揮発性化合物32を保持することができ、中空リング44は頭部を開放し、または頭部に通気孔を設けることができる。孔48は、空気通路の出口ポートになり、孔48に位置が合うように孔49を回転させることによって開放することができる。中央空気通路での使用についても、以下のように、同じ手法を用いることができる。すなわち、中空リング44の頭部が、環状ではなくて円形にされた場合、中央部分は、頭部35の上に重なりそれと摺動的に係合し、発熱反応を開始するために孔49を回転させて孔49に位置合わせしたときに出口ポート37に位置が合う孔を、備えることができる。同様な構造を、環状または中央空気通路の空気入口ポートに対して使用して、回転を利用して孔同士を位置合わせし空気入口ポートを開放することができる。回転的に開放可能な空気入口ポート、空気出口ポート、またはその両方は、取外し可能なカバー片、または開放可能な出荷および展示用気密パッケージの代替である。理解されるであろうが、ディスペンサ1(図1)の構造は、同様に逆にして、ヒータ成分を中央にし、揮発性化合物6で囲うことができる。位置合わせ可能な孔を有する回転可能な下側カバーが、空気活性化型ディスペンサに使用される場合、下側カバーの回転により空気通路入口ポートの開放と反応物質間の分離部の除去が同時に行われ、すなわち、発熱反応が開始される。他の活性化機構の構造も、当技術分野の技術に包含される。
【0031】
以下の例は、固体形態および液体形態の揮発性化合物の加熱および散布を示す。
【実施例1】
【0032】
米国特許第3,976,049号による、鉄粉、炭素粉、水、非反応性粒状吸収剤(バーミキュライト)、および塩化ナトリウムの混合物22gを入れた多孔質パックを、幅6.4cm、奥行き2.5cmの断面を有する垂直に配設された高さ10cmのボール紙製チューブ内に配置した。その頭部および底部は開口させた。パックの内容物が、大気中のOと反応し、熱くなり始めた。熱電対を、頭部および底部の開口、ならびにチューブの中央、熱パックの近くに配置した。作動15分後、多孔質パック付近のチューブ、すなわち、加熱領域またはヒータ内が、38℃に加熱された。400分後に45℃になるまで上がり続け、その時点で記録を停止した。底部開口での入口空気は23℃であった。頭部での流出空気は、1時間の間に25℃まで上昇した。作動1時間後、頭部および底部の開口を部分的に蔽って、それらを1.3cm×2.5cmに減少させた。流出空気の温度は、直ちに34℃まで上昇した。これが、徐々に低下し約120分時点で30℃になり、約260分までそこに留まり、その時点で入口空気温度は21℃まで低下し、出口空気温度は、それに対応して28℃まで低下し、そこに留まった。データの記録を400分後に停止し、その時点で加熱領域の温度はまだ45℃であった。この試作ディスペンサは、400分より長く作動することができた。
【実施例2】
【0033】
第2の蒸発式ディスペンサは、同量のヒータ成分を4つの多孔質パックに分けて、製作した。これらを積み重ね、発泡体で巻いて、高さ7.6cm、幅3.8cm、奥行き0.6cmの加熱チャンバを製作した。熱電対を、中央の2つの多孔質パックの間に配置した。これにより、内側容器2(図1)および外側容器7(図1)を単一の断熱容器に統合した散布システムをシミュレートした。この蒸発器は急速に57℃まで、次いで緩やかに90分時点で60℃まで加熱され、その後下がり始めて、240分時点で50℃になった。チューブの頭部の温度は52℃まで急上昇し、30分時点で35℃まで降下し、次いで緩やかに降下し約250分時点で室温になった。
【実施例3】
【0034】
0.36gの一枚の濾紙を、市販の電気加熱ディスペンサから取り出した0.46gの揮発性化合物、すなわち香油で湿らせた。それを、21℃の室内で、天秤の釣合い棹に吊り下げた。その重量を時間を置いては記録した。その重量を油の最初の重量で割って、残存重量%を出した。これが、図4に曲線41として示されている。
【実施例4】
【0035】
実施例1に記載した、鉄粉、炭素粉、水、吸収剤粒子、および塩の混合物22gを入れた2個の多孔質パックを、高さ11cm、断面7cm×4cmのプラスチックの箱内に配置した。パックの内容物が、大気中のOと反応を始め、熱くなった。箱は、頭部に4個の孔、底部周りに8個の孔を有し、孔は全て直径6mmであった。0.34gの一枚の濾紙を、実施例3に記載した市販の香油0.46gで湿らせ、箱の中央の内側、2つの熱パックの間に懸吊した。時間を置いては、濾紙をヒータから取り出し、重量を記録した。その重量を油の最初の重量で割って、残存重量%を出した。これが、図4に曲線42として示されている。熱電対を箱の中、濾紙に対して配置した。記録された温度は、重量測定のために紙を取り出した後毎に、熱電対が置かれた位置に正確に依存して、43℃〜58℃の間で変化した。
【0036】
図4は、実施例3では、室温で2時間後に26%の油が蒸発し、実施例4では、試作ディスペンサ内で、同じ時間内に83%の油が蒸発したことを示している。これは、本発明を使用することによって、蒸発率が約3倍になることを示す。温度を変えることによって蒸発率を調節することができるので、任意の蒸発率を、ヒータの設計を変えることによって達成することができる。すなわち、温度を上げるために断熱材もしくはより多くの加熱物質を加え、また、温度を下げるために断熱材もしくは加熱物質を減らし、あるいは、入口および/または出口のポートの寸法を調節する。
【実施例5】
【0037】
2.81gのナフタリン(融点約80℃)のモスボールを、21℃の室内で、天秤に懸けた。その重量を時間を置いては記録した。その重量をモスボールの最初の重量で割って、残存重量%を算出した。これが、図5に曲線51として示されている。
【実施例6】
【0038】
実施例1に記載した、鉄粉、炭素粉、水、吸収剤粒子、および塩の混合物22gを入れた2個の多孔質パックを、高さ11cm、断面7cm×4cmのプラスチックの箱内に配置した。パックの内容物が、大気中のOと反応を始め、熱くなった。箱は、頭部に4個の孔、底部周りに8個の孔を有し、孔は全て直径6mmであった。2.78gのナフタリンのモスボールを、箱の中央の内側、2つの熱パックの間に懸吊した。時間を置いては、モスボールをヒータから取り出し、重量を記録した。その重量をモスボールの最初の重量で割って、残存重量%を算出した。これが、図5に曲線52として示されている。熱電対を箱の中、モスボールに対して配置した。記録された温度は、モスボールを取り出した後毎に、熱電対が置かれた位置に正確に依存して、43℃〜54℃の間で変化した。
【0039】
図5は、実施例5では、室温で4時間後に2.1%のモスボールが蒸発し、実施例6では、ヒータ内で、同じ時間内に9.4%のモスボールが蒸発したことを示している。これは、本発明を使用することによって、蒸発率が約4倍になることを示す。
【0040】
本発明の多くの実施形態が記載されてきた。それでもなお、添付特許請求の範囲に記載されている本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、様々な変更を加えることができることが理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】人が身に着けるのに適した、この発明によるディスペンサの実施形態の断面図である。
【図2】懸吊および水平面上への載置の両方に適する独立した外箱を有する、この発明によるディスペンサの別の実施形態の断面図である。
【図3】回転させることによって活性化可能なディスペンサの頭部の断面図である。
【図4】この発明によるディスペンサでの、時間経過に対する揮発性化合物の重量減少を示すグラフである。
【図5】この発明によるディスペンサでの、時間経過に対する揮発性化合物の重量減少を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対流駆動蒸発式ディスペンサであって、
少なくとも1つの第1の低い方の空気入口ポートから少なくとも1つの高い方の空気出口ポートまで垂直に上昇する空気通路を有する第1の容器と、
前記第1の容器中に存在し、前記通路中の空気が接触可能である、散布すべき少なくとも1種類の揮発性化合物であり、固体または固体中に保持された液体である少なくとも1種類の揮発性化合物と、
前記空気通路中の空気と熱接触状態で前記第1の容器中に存在し、少なくとも数分の有効作動寿命を有する化学反応ヒータと、
反応物質同士を互いに隔離することによって前記化学反応ヒータの活性化を抑えるために、前記ディスペンサと関連した物理的分離手段であり、使用者によって無効化にすることが可能な物理的分離手段と、
を備える対流駆動蒸発式ディスペンサにおいて、
使用者が前記物理的分離手段を無効化すると、前記ヒータが活性化し、使用中、前記化学反応ヒータが、前記通路を通る空気に対流を引き起こし、それにより、空気が、前記少なくとも1つの底部空気入口ポートを通って入り、加熱され、前記少なくとも1種類の揮発性化合物上を通過せしめられ、
蒸発した揮発性化合物を担持する加熱空気が、前記少なくとも1つの出口ポートを通って散布される、蒸発式ディスペンサ。
【請求項2】
前記少なくとも1つの空気入口ポートおよび前記少なくとも1つの空気出口ポートが、前記ディスペンサと関連する少なくとも1つの使用者が開放可能な閉鎖機構によって塞がれる、請求項1に記載の蒸発式ディスペンサ。
【請求項3】
前記少なくとも1つの使用者が開放可能な閉鎖機構が、前記第1の容器を収容する気密パッケージと、前記ポートを蔽う取外し可能なシール片と、前記少なくとも1つの空気入口ポートに位置合わせ可能な少なくとも1つの孔を有する回転可能な第2の外部下側部分とからなる群から選択される、請求項2に記載の蒸発式ディスペンサ。
【請求項4】
前記発熱反応物質の一方が大気から供給される酸素であり、前記少なくとも1つの閉鎖機構が、前記物理的分離手段を構成する、請求項2に記載の蒸発式ディスペンサ。
【請求項5】
前記少なくとも1つの使用者が開放可能な閉鎖機構が、前記第1の容器を収容する気密パッケージである、請求項4に記載の蒸発式ディスペンサ。
【請求項6】
前記化学反応ヒータが、前記第1の容器内の第1の隔室中に第1の液体反応物質と、前記第1の容器内の第2の隔室中に第2の液体または固体反応物質とを備え、使用者が無効化可能な前記分離手段が、前記第1の液体反応物が前記第2の隔室に流れ込むのを阻止する、請求項2に記載の蒸発式ディスペンサ。
【請求項7】
前記第1および第2の隔室が、前記空気通路から物理的に隔離されている、請求項6に記載の蒸発式ディスペンサ。
【請求項8】
前記分離手段が、少なくとも1対の互いに位置がずれた孔を備え、その1対の孔の位置が合うように動かして、前記分離手段を通り抜ける液体流路を形成することができる、請求項6に記載の蒸発式ディスペンサ。
【請求項9】
前記第1の隔室が、前記第2の隔室内にバルーンを構成し、前記ディスペンサが、前記バルーンに穴を開けるために使用者が放つことができる、ばねで付勢された鏃を備える、請求項6に記載の蒸発式ディスペンサ。
【請求項10】
前記化学反応ヒータが、前記第1の容器内の第1の隔室中に第1の液体反応物質と、前記第1の容器内の第2の隔室中に第2の液体または固体反応物質とを備え、使用者が無効化可能な前記分離手段が、前記第1の液体反応物が前記第2の隔室に流れ込むのを阻止する、請求項1に記載の蒸発式ディスペンサ。
【請求項11】
前記第1および第2の隔室が、前記空気通路から物理的に隔離されている、請求項10に記載の蒸発式ディスペンサ。
【請求項12】
前記化学反応ヒータが、少なくとも2時間の有効作動寿命を有する、請求項1に記載の蒸発式ディスペンサ。
【請求項13】
前記第1の容器を取り巻く断熱材を有する、請求項1に記載の蒸発式ディスペンサ。
【請求項14】
前記空気入口ポートに空気を流入させる少なくとも1つの底部開口と、前記空気出口ポートからの空気を前記ディスペンサから流出させる少なくとも1つの頭部開口とを有する外側の第2の容器を備える、請求項1に記載の蒸発式ディスペンサ。
【請求項15】
前記外側の第2の容器が前記第1の容器と一体になっている、請求項14に記載の蒸発式ディスペンサ。
【請求項16】
前記発熱反応物質の一方が大気によって供給される酸素であり、前記少なくとも1つの底部開口および前記少なくとも1つの頭部開口が、前記空気入口ポートおよび前記空気出口ポートに空気が入るのを阻止する少なくとも1つの使用者が開放可能な閉鎖機構によって塞がれ、前記少なくとも1つの閉鎖機構が前記物理的分離手段を構成する、請求項15に記載の蒸発式ディスペンサ。
【請求項17】
前記第2の容器が、前記第1の容器を断熱する断熱材を備える、請求項16に記載の蒸発式ディスペンサ。
【請求項18】
前記第1の容器が、前記第2の容器に取外し可能に挿入可能である、請求項14に記載の蒸発式ディスペンサ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公表番号】特表2009−502442(P2009−502442A)
【公表日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−525250(P2008−525250)
【出願日】平成18年7月31日(2006.7.31)
【国際出願番号】PCT/US2006/030572
【国際公開番号】WO2007/016705
【国際公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【出願人】(500375394)テンプラ テクノロジー,インコーポレーテッド (5)
【Fターム(参考)】