携帯端末、接近検知装置、および接近検知システム
【課題】 人と移動体との距離をより精度よく推定することが可能な携帯端末、接近検知装置、およびそれらを用いた接近検知システムを提供する。
【解決手段】 接近検知システム1は、歩行者Hに所持される携帯端末2および車両に搭載される接近検知装置3を備えて構成される。携帯端末2は、車両V1が通過する際における接近検知装置3から発せられた電波の受信レベルの変化勾配比からレベル補正値を求める。そして、求められたレベル補正値を次に接近してくる車両V2に搭載された接近検知装置3に対して送信する。一方、接近検知装置3は、携帯端末2から発せられた電波を受信して上記レベル補正値を検出する。そして、携帯端末2からの電波の受信レベルをレベル補正値により補正し、補正後の受信レベルに基づいて携帯端末2を所持する歩行者Hの方向および歩行者Hとの距離を推定する。
【解決手段】 接近検知システム1は、歩行者Hに所持される携帯端末2および車両に搭載される接近検知装置3を備えて構成される。携帯端末2は、車両V1が通過する際における接近検知装置3から発せられた電波の受信レベルの変化勾配比からレベル補正値を求める。そして、求められたレベル補正値を次に接近してくる車両V2に搭載された接近検知装置3に対して送信する。一方、接近検知装置3は、携帯端末2から発せられた電波を受信して上記レベル補正値を検出する。そして、携帯端末2からの電波の受信レベルをレベル補正値により補正し、補正後の受信レベルに基づいて携帯端末2を所持する歩行者Hの方向および歩行者Hとの距離を推定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯端末、接近検知装置、およびそれらを用いた接近検知システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、歩行者などの人が所持する携帯端末の発する電波を受信することにより車両周囲に存在する人を検出する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1記載の技術では、人が所持する携帯端末の電波を車両に搭載された車載機で受信し、その受信レベルから、車両と携帯端末を所持する人との距離を求めている。
【特許文献1】特開2005−202874号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、人の身体は誘電体であるので、携帯端末のアンテナの特性は人の身体の影響を受けて変化する。例えば、ダイポールアンテナは身体に近づけるとその利得が低下する。一方、ループアンテナは身体に近づけるとその利得が向上する。そのため、携帯端末を身体に密着して所持する場合と身体から離して所持する場合とでは送受信レベルが変化する。その結果、上述した技術では、求められる車載機と携帯端末との距離の誤差が大きくなるおそれがあった。
【0004】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、人と移動体との距離をより精度よく推定することが可能な携帯端末、接近検知装置、およびそれらを用いた接近検知システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る携帯端末は、移動体に搭載された接近検知装置との間で無線通信を行う受信手段および送信手段を備えた携帯端末において、受信手段により受信された電波の受信レベルを検出する受信レベル検出手段と、移動体が通過する際における受信レベルのピーク値および変化形状に基づいて、レベル補正値を求める補正値演算手段とを備え、送信手段が、レベル補正値を送出することを特徴とする。
【0006】
上述したように人の身体は誘電体であるので、携帯端末を身体に近づけた場合、アンテナの利得が低下または向上(以下「低下/向上」と記載することもある)して受信レベルが低下/向上する。そのため、携帯端末を身体に近づけて所持している人の近傍を移動体が通過する際には、携帯端末を身体から離して所持している人の近傍を通過する場合と比較して受信レベルのピーク値が低下/向上する。一方、移動体と携帯端末との距離が変化した場合にも受信レベルは変化するが、この場合とアンテナの利得が低下/向上した場合とでは、移動体が通過する際における受信レベルの変化形状が異なる。本発明に係る携帯端末によれば、この特性を利用し、受信レベルのピーク値および変化形状に基づいて、携帯端末を身体に近づけたことに起因する受信レベルの低下量または向上量を補正するためのレベル補正値が求められる。
【0007】
一方、携帯端末を人の身体に近づけた場合、アンテナの利得が低下/向上して送信レベルも低下/向上する。すなわち、携帯端末からの電波を受信する接近検知装置側での受信レベルも低下/向上することとなる。ここで、本発明に係る携帯端末によれば、求められたレベル補正値が送信手段によって送信されるため、携帯端末からの電波を受信する接近検知装置側において、携帯端末を身体に近づけたことに起因する受信レベルの低下/向上を補正することが可能となる。
【0008】
上記補正値演算手段は、受信レベルのピーク値が所定の範囲から外れ、かつ受信レベルの変化勾配が所定の勾配よりも大きい場合に、受信レベルの変化勾配に応じてレベル補正値を求めることが好ましい。
【0009】
上述したように、携帯端末を身体に密着させて所持している人の近傍を移動体が通過する際には、受信レベルが低下/向上する。ただし、携帯端末を身体に密着して所持している場合(すなわちアンテナの利得が低下/向上した場合)には、携帯端末を身体から離して所持しているときと比較して、同一の変化形状(変化勾配)を保ったまま全体的に受信レベルが低下/向上する。一方、携帯端末を所持している人と移動体との距離が離れている場合には、アンテナの指向正面から早くずれるため、受信レベルの変化勾配が緩やかになる。
【0010】
本発明に係る携帯端末によれば、この特性を利用することによって、受信レベルのピーク値が所定の範囲から外れ、かつ受信レベルの変化勾配が所定の勾配よりも大きい場合に、受信レベルの低下/向上がアンテナ利得の低下/向上によるものであると判断するとともに、受信レベルの変化勾配から携帯端末を身体に近づけたことに起因する受信レベルの低下量/向上量を補正するためのレベル補正値を求めることができる。
【0011】
上記補正値演算手段は、受信レベルのピーク値が下限しきい値よりも小さく、かつ、受信レベルの変化勾配が所定の勾配よりも大きい場合に、受信レベルの変化勾配に応じてレベル補正値を求めることが好ましい。
【0012】
例えば、ダイポールアンテナなどの身体に近づけることにより利得が低下するアンテナを使用している場合には、携帯端末を身体に密着させて所持している人の近傍を移動体が通過する際に、受信レベルが低下する。ただし、携帯端末を身体に密着して所持している場合(すなわちアンテナの利得が低下した場合)には、携帯端末を身体から離して所持しているときと比較して、同一の変化形状(変化勾配)を保ったまま全体的に受信レベルが低下する。一方、携帯端末を所持している人と移動体との距離が離れている場合には、アンテナの指向正面から早くずれるため、受信レベルの変化勾配が緩やかになる。
【0013】
本発明に係る携帯端末によれば、この特性を利用することによって、受信レベルのピーク値が下限しきい値よりも小さく、かつ受信レベルの変化勾配が所定の勾配よりも大きい場合に、受信レベルの低下がアンテナ利得の低下によるものであると判断するとともに、受信レベルの変化勾配から携帯端末を身体に近づけたことに起因する受信レベルの低下量を補正するためのレベル補正値を求めることができる。
【0014】
また、上記補正値演算手段は、受信レベルのピーク値が上限しきい値よりも大きく、かつ、受信レベルの変化勾配が所定の勾配よりも大きい場合に、受信レベルの変化勾配に応じてレベル補正値を求めることが好ましい。
【0015】
例えば、ループアンテナなどの身体に近づけることにより利得が向上するアンテナを使用している場合には、携帯端末を身体に密着させて所持している人の近傍を移動体が通過する際に、受信レベルが向上する。ただし、携帯端末を身体に密着して所持している場合(すなわちアンテナの利得が向上した場合)には、携帯端末を身体から離して所持しているときと比較して、同一の変化形状(変化勾配)を保ったまま全体的に受信レベルが向上する。
【0016】
本発明に係る携帯端末によれば、この特性を利用することによって、受信レベルのピーク値が上限しきい値よりも大きく、かつ受信レベルの変化勾配が所定の勾配よりも大きい場合に、受信レベルの向上がアンテナ利得の向上によるものであると判断するとともに、受信レベルの変化勾配から携帯端末を身体に近づけたことに起因する受信レベルの向上量を補正するためのレベル補正値を求めることができる。
【0017】
ここで、上記補正値演算手段は、複数の移動体についてレベル補正値を求め、該複数のレベル補正値を平均化することにより上記レベル補正値を算出することが好ましい。このようにすれば、レベル補正値の精度をより向上させることが可能となる。
【0018】
本発明に係る接近検知装置は、移動体に搭載され、上記のいずれかの携帯端末との間で無線通信を行い、該携帯端末との接近状態を検知する接近検知装置において、携帯端末から発せられた電波を受信してレベル補正値を取得する端末情報受信手段と、端末情報受信手段により受信された携帯端末からの電波の受信レベルを検出する端末受信レベル検出手段と、端末受信レベル検出手段により検出された受信レベルをレベル補正値に基づいて補正する補正手段と、補正後の受信レベルに基づいて携帯端末との距離を求める距離演算手段とを備えることを特徴とする。
【0019】
上述したように、携帯端末を人の身体に近づけた場合、アンテナの利得が低下して送信レベルが低下するため、接近検知装置での受信レベルも低下する。しかしながら、本発明に係る接近検知装置によれば、携帯端末から発せられた電波の受信レベルがレベル補正値を用いて補正され、補正後の受信レベルに基づいて携帯端末との距離が求められる。このように、携帯端末を身体に近づけたことに起因する受信レベルの低下量が補正されるため、携帯端末を所持する人と接近検知装置が搭載された移動体との距離をより精度よく推定することが可能となる。
【0020】
本発明に係る接近検知システムは、上記のいずれかの携帯端末と、上記接近検知装置とを備えることを特徴とする。
【0021】
本発明に係る接近検知システムによれば、上述したように、携帯端末によって、該携帯端末を身体に近づけたことに起因する受信レベルの低下量/向上量を補正するためのレベル補正値が求められるとともに、移動体に搭載された接近検知装置に送信される。一方、接近検知装置では、携帯端末を身体に近づけたことに起因する受信レベルの低下量/向上量がレベル補正値を用いて補正され、補正後の受信レベルに基づいて携帯端末との距離が求められる。その結果、携帯端末を所持する人と接近検知装置が搭載された移動体との距離をより精度よく求めることが可能となる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、携帯端末を身体に近づけたことに起因するアンテナ利得の変化量を補正する構成としたので、人と移動体との距離をより精度よく推定することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、添付図面を参照して本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の参照番号を附し、重複する説明は省略する。
【0024】
まず、図1〜3を併せて用いて、第1実施形態に係る接近検知システム1、および該接近検知システム1を構成する携帯端末2並びに接近検知装置3の構成について説明する。図1は、接近検知システム1の構成を示す図である。図2は、接近検知システム1を構成する携帯端末2のブロック図である。また、図3は、接近検知システム1を構成する接近検知装置3のブロック図である。
【0025】
接近検知システム1は、図1中の歩行者Ha,Hb,Hc(以下、総括的に歩行者Hと称することもある)が所持する携帯端末2と、移動体である車両V1,V2(以下、総括的に車両Vと称することもある)に搭載される接近検知装置3とを備えて構成されている。なお、本明細書において「歩行者」とは、歩行している者のほか、例えば自転車や車椅子などに乗って歩道を往来する者も含むものとする。
【0026】
本実施形態に係る携帯端末2は、人の身体に近づけることによりその利得が低下するダイポールアンテナなどを有するものであり、接近してくる車両V1に搭載された接近検知装置3から発せられた接近情報を受信して、携帯端末2の所持者に報知する。また、携帯端末2は、車両V1が近傍を通過する際における接近検知装置3からの電波の受信レベルに基づいて、レベル補正値を求める。そして、求められたレベル補正値を次に接近してくる車両V2に搭載された接近検知装置3に対して送信する。
【0027】
一方、車両V2に搭載された接近検知装置3は、携帯端末2から発せられた電波を受信して上記レベル補正値を検出する。そして、携帯端末2からの電波の受信レベルをレベル補正値により補正し、補正後の受信レベルに基づいて携帯端末2を所持する歩行者Ha,Hb,Hcの方向および歩行者Ha,Hb,Hcとの距離、すなわち歩行者位置を推定する。そして、接近検知装置3は、推定された歩行者位置と自車両の走行状態とに基づいて接近情報を生成し、車両V2の運転者に対して報知するとともに、生成された接近情報を携帯端末2に対して送信する。
【0028】
図2に示されるように、携帯端末2は、所定周波数の電波を送受信するためのアンテナ20を有している。本実施形態では、アンテナ20として、人の身体に近づけることによりその利得が低下するアンテナ、例えばダイポールアンテナが用いられる。アンテナ20で受けた接近検知装置3からの電波は、受信部21において復調された後、受信レベル,ID,車速検出部22へ出力される。受信レベル,ID,車速検出部22では、受信電波の受信レベルが検出されるとともに、受信データの中からID(Identification)情報および車速情報が検出される。すなわち、受信部21は特許請求の範囲記載の受信手段として機能し、受信レベル,ID,車速検出部22は受信レベル検出手段として機能する。
【0029】
受信レベル,ID,車速検出部22には情報提供部23が接続されており、検出されたIDが自身のID(端末ID)と一致した場合、情報提供部23から携帯端末2を所持する歩行者に対して車両Vが接近していることが報知される。情報提供部23は、例えば、音声情報、視覚的な表示情報、およびバイブレーションなどによって車両Vが接近する旨を歩行者に提示する。
【0030】
また、受信レベル,ID,車速検出部22には、レベル補正値算出部24、およびID,レベル補正値送出部25が接続されており、検出された受信レベル、車両IDおよび車速情報がレベル補正値算出部24に出力されるとともに、受信レベルおよび車両IDがID,レベル補正値送出部25に出力される。
【0031】
レベル補正値算出部24では、携帯端末2を所持した歩行者の近傍を車両V1が通過する際における受信レベルと車速が記録され、車速から求められる車両V1の移動距離と受信レベルとの関係が取得される。そして、受信レベルのピーク値および変化形状に基づいて、携帯端末2を歩行者の身体に近づけたことに起因する受信レベルの低下量を補正するためのレベル補正値が求められる。すなわち、レベル補正値算出部24は、特許請求の範囲記載の補正値演算手段として機能する。
【0032】
ここで、図4を参照しつつ、受信レベルの低下が携帯端末2を身体に近づけて所持していることに起因するものであるか否かを判断する方法について説明する。ここでは、図1に示されるように、携帯端末2を所持した歩行者Ha,Hbの右方向(歩行者Hcの右斜め前方)から車両V1が接近し、歩行者Ha,Hb,Hcの前方を通過する場合を例にして説明する。車両V1は、図1において一点鎖線で示される進行方向に沿って走行するものとする。歩行者Ha,Hbは、車両V1の進行方向の近くに位置しているため、車両V1は、歩行者Ha,Hbの至近を通過する。一方、歩行者Hcは、歩行者Ha,Hbと比べて車両V1の進行方向から離れた場所に位置している。そのため、車両V1は、歩行者Hcから離れた場所を通過する。
【0033】
歩行者Haと歩行者Hcは、携帯端末2を身体から離して、例えば鞄などに付けて所持している。一方、歩行者Hbは、携帯端末2を身体に密着させた状態、例えば衣服のポケットに入れて所持している。
【0034】
携帯端末2を所持した歩行者Ha,Hb,Hcの前方を車両V1が通過する際における各携帯端末2での受信レベルと車両V1の移動距離との関係を図4(a),(b)に示す。図4(a)の実線は、車両V1の走行位置から近くかつ携帯端末2が身体に密着して所持された場合の受信レベル、すなわち歩行者Hbが所持する携帯端末2の受信レベルと車両移動距離との関係を示す。一方、図4(a)の破線は、車両V1の走行位置から近くかつ携帯端末2が身体から離して所持された場合の受信レベル、すなわち歩行者Hbの近傍にいる歩行者Haが所持する携帯端末2の受信レベルと車両移動距離との関係を示す。
【0035】
図4(b)の実線は、車両V1の走行位置から遠くかつ携帯端末2が身体から離して所持された場合の受信レベル、すなわち歩行者Hcが所持する携帯端末2の受信レベルと車両移動距離との関係を示す。一方、図4(b)の破線は、(a)の破線と同様に、車両V1の走行位置から近くかつ携帯端末2が身体から離して所持された場合の受信レベル、すなわち歩行者Haが所持する携帯端末2の受信レベルと車両移動距離との関係を示す。
【0036】
図4(a)において実線で示される、携帯端末2が身体に密着して所持された場合の受信レベル(歩行者Hbが所持する携帯端末2の受信レベル)、および破線で示される携帯端末2が身体から離して所持された場合の受信レベル(歩行者Haが所持する携帯端末2の受信レベル)はともに、車両V1が接近するに従って上昇し、もっとも接近したときにピークを示す。そして、その後、車両V1が通り過ぎて距離が離れるに従って低下する。すなわち、携帯端末2が身体に密着して所持された場合の受信レベルは、携帯端末2が身体から離して所持された場合の受信レベルと比較してその形状(変化勾配)は略同一である。しかしながら、図4(a)に示されるように、携帯端末2が身体に密着して所持された場合には、全体的に受信レベルが低下する。これは、人の身体が誘電体であるため、アンテナ20の利得が人体の影響を受けて低下するためである。
【0037】
また、図4(b)において実線で示された、車両V1の走行経路から離れたところに位置する歩行者Hcが所持する携帯端末2の受信レベル、および破線で示された、車両V1の走行経路の近くに位置する歩行者Haが所持する携帯端末2の受信レベルはともに、車両V1が接近するに従って上昇し、もっとも接近したときにピークを示す。そして、その後、車両V1が通り過ぎて距離が離れるに従って低下する。しかしながら、図4(b)に示されるように、車両V1から離れた位置での受信レベルは、車両V1から近い位置での受信レベルと比較して、ピークが小さく、ピーク付近での変化勾配も小さい。これは、歩行者Hcが車両V1の走行経路から離れており、また車両V1に設けられた接近検知装置3のアンテナの指向正面から早くずれるためである。
【0038】
したがって、携帯端末2を所持した歩行者Ha,Hb,Hcの傍を車両V1が通過する際における受信レベルを記録し、そのピーク値および変化形状(変化勾配)を判定することにより、受信レベルの低下がアンテナの利得の低下によるものか、若しくは車両V1との距離が離れていることによるものかを判別することができる。すなわち、身体から離して所持されている携帯端末2の近傍を車両V1が通り過ぎた場合の受信レベルのピーク値および変化勾配と比較して、変化勾配が略同一であるにもかかわらずピーク値が低い場合には、携帯端末2の着用位置が身体に近いために受信レベルが低下していると判断することができる。
【0039】
より具体的には、車両V1が通過する際における接近検知装置3からの電波の受信レベルのピーク値Lmaxと、ピーク前に設定された所定区間R1におけるレベル値の変化勾配X1と、該所定区間R1よりもピーク位置から離れた所定区間R2(ただし、R1の区間長=R2の区間長)における変化勾配X2とを算出し、受信レベルのピーク値Lmaxが判定値(下限しきい値)DLより小さく、かつ所定区間R2の変化勾配X2と所定区間R1の変化勾配X1との比X1/X2が判定値DRより大きい場合には、受信レベルの低下が携帯端末2を身体に近づけたことによるものであると判断される。
【0040】
例えば、図4(a)において実線で示されるように、受信レベルのピーク値Lbmaxが判定値DL未満であり、かつ変化勾配比Xb1/Xb2が判定値DRよりも大きい場合には、携帯端末2が身体に密着して所持されていると判断される。
【0041】
一方、図4(b)において実線で示されるように、受信レベルのピーク値Lcmaxが判定値DL未満であり、かつ変化勾配比Xc1/Xc2が判定値DRよりも小さい場合には、携帯端末2を所持している歩行者Hcの位置が、車両V1の走行位置から離れていると判断される。
【0042】
なお、図4(a),(b)において破線で示されるように、車両V1の走行位置から近くかつ携帯端末2が身体から離して所持されている場合には、受信レベルのピーク値Lamaxが判定値DLよりも大きくなる。すなわち、判定値DLは、予め取得された、携帯端末2と身体との間隔と受信レベル低下量との関係、および携帯端末2と車両との距離と受信レベル低下量との関係に基づいて、携帯端末2と車両走行軌跡との距離が離れているときや携帯端末2を身体に近づけた場合の受信レベルのピーク値よりも大きく、携帯端末2と車両走行軌跡との距離が近くかつ携帯端末2が身体から離して所持されている場合の受信レベルのピーク値よりも小さい値に設定される。
【0043】
また、判定値DRは、予め取得された、携帯端末2と身体との間隔と受信レベルの変化勾配との関係に基づいて、携帯端末2と車両走行軌跡との距離が離れているときの受信レベルの変化勾配比よりも大きく、携帯端末2を身体に近づけて所持している場合の受信レベルの変化勾配比よりも小さい値に設定される(図4(a)(b)に示される一点鎖線参照)。
【0044】
図2に戻って説明を続ける。上述した判断の結果、受信レベルの低下が携帯端末2を身体に近づけたことに起因するものであると判断された場合、レベル補正値算出部24では、携帯端末2を歩行者Hの身体に近づけたことに起因する受信レベルの低下量を補正するためのレベル補正値が求められる。なお、このレベル補正値は、携帯端末2の装着位置と受信レベルの変化量との関係を計測することによって予め設定される。レベル補正値算出部24には、ID,レベル補正値送出部25が接続されており、求められたレベル補正値は、ID,レベル補正値送出部25に出力される。
【0045】
ID,レベル補正値送出部25は、レベル補正値算出部24から入力されたレベル補正値、個別に付与されている携帯端末IDや受信された車両IDなどを送信データ列に付加して、予め定められた通信フォーマットに準拠した送信データ列を生成し、送信部26に出力する。
【0046】
送信部26は、入力された送信データ列に基づいて搬送波を変調してアンテナ20に出力する。その結果、レベル補正値を含む送信データが電波に乗せられてアンテナ20から次に接近する車両V2に搭載された接近検知装置3に送信される。すなわち、送信部26は、特許請求の範囲記載の送信手段として機能する。
【0047】
続いて、図3を参照しつつ、携帯端末2からの電波を受信してレベル補正値を検出し、このレベル補正値を用いて受信レベルを補正するとともに補正後の受信レベルに基づいて歩行者位置を推定する接近検知装置3の構成について説明する。
【0048】
接近検知装置3は、所定周波数の電波を送受信するためのアンテナ30を有している。アンテナ30で受けた携帯端末2からの電波は、受信部31において復調された後、受信レベル,レベル補正値検出部32へ出力される。受信レベル,レベル補正値検出部32では、携帯端末2からの電波の受信状態である受信レベルが検出されるとともに、受信データの中からレベル補正値や携帯端末ID情報などが検出される。すなわち、受信部31および受信レベル,レベル補正値検出部32は、特許請求の範囲に記載の端末情報受信手段として機能する。また、受信レベル,レベル補正値検出部32は、端末受信レベル検出手段としても機能する。
【0049】
受信レベル,レベル補正値検出部32には受信レベル補正/方向・距離推定部33が接続されており、検出された受信レベル、レベル補正値や携帯端末ID情報などは、この受信レベル補正/方向・距離推定部33に出力される。
【0050】
受信レベル補正/方向・距離推定部33には、アンテナ30の指向性を制御する指向性制御部38および情報提供判定部34が接続されている。受信レベル補正/方向・距離推定部33は、指向性制御部38に対して受信すべき方位角の情報を出力する。指向性制御部38は、受信レベル補正/方向・距離推定部33から入力された方位角情報に従ってアンテナ30の指向性を切り替える。受信レベル補正/方向・距離推定部33では、アンテナ30の指向性が切り替えられることによって全方位の受信レベルが取得される。なお、指向性制御部38は、推定された携帯端末2の方向に向けて電波が発信されるようにアンテナ30の指向性を制御することができる。また、指向性制御部38は、後述する車速、ウィンカ情報やナビゲーション情報に基づいて電波が発信される領域を設定することもできる。
【0051】
受信レベル補正/方向・距離推定部33では、携帯端末2からの電波の到来方向および携帯端末2との距離、すなわち携帯端末2の位置が推定される。受信レベル補正/方向・距離推定部33は、アンテナ30の指向性が切り替えられたときに受信レベルが最大となる方位を電波の到来方向、すなわち携帯端末2を所持する歩行者が存在する方向と推定する。
【0052】
また、受信レベル補正/方向・距離推定部33では、受信レベル,レベル補正値検出部32によって検出されたレベル補正値を用いて電波の受信レベルが補正される。なお、受信レベルが補正される際には、例えば、検出された実際の受信レベルとレベル補正値とが乗算されて補正後の受信レベルが算出される。そして、補正後の受信レベルから携帯端末2との距離、すなわち携帯端末2を所持する歩行者との距離が推定される。すなわち、受信レベル補正/方向・距離推定部33は、特許請求の範囲に記載した補正手段および距離演算手段として機能する。
【0053】
上述したように、携帯端末2を人の身体に近づけた場合、アンテナの利得が低下する。その結果、携帯端末2での受信レベルが低下するとともに、携帯端末2からの送信レベルも低下する。ここでは、レベル補正値を用いて受信レベルを補正することにより、携帯端末2を歩行者の身体に近づけたことに起因する送信レベルの低下量、すなわち接近検知装置3での受信レベルの低下量が補正される。
【0054】
また、上述したように、受信レベル補正/方向・距離推定部33には、情報提供判定部34が接続されている。受信レベル補正/方向・距離推定部33で推定された携帯端末2を所持する歩行者Hの方向情報および歩行者Hとの距離情報は、情報提供判定部34に送られる。これらの方向・距離情報に加えて、情報提供判定部34には、車速センサを用いて検出される自車両の速度(車速)情報や、ウィンカ指示器の状態を示すウィンカ情報や、車両に搭載されたナビゲーションシステムから取得される車両の現在位置近傍(特に進行方向前方)における道路形状や道路幅、交差点情報、車線数情報などのナビゲーション情報が供給される。なお、これらのナビゲーション情報は、予めナビゲーションシステムの地図データベースに格納されているものである。
【0055】
一方、情報提供判定部34には、歩行者存在情報提供エリアテーブル35が接続されている。歩行者存在情報提供エリアテーブル35には、車速とウィンカ情報とナビゲーション情報とをパラメータにして異なる領域が設定されている歩行者存在情報提供エリアの情報が予め書き込まれている。情報提供判定部34は、取得した自車両の車速とウィンカ情報とナビゲーション情報に基づいて、歩行者存在情報提供エリアテーブル35からその車速とウィンカ情報とナビゲーション情報に対応する歩行者存在情報提供エリアを読み出すとともに、その後、受信レベル補正/方向・距離推定部33から送られた人の存在方向と距離とに基づいて、その読み出した歩行者存在情報提供エリア内に携帯端末2を所持する人が存在するか否かを判別する。なお、歩行者存在情報提供エリアの情報を歩行者存在情報提供エリアテーブル35内に予め持っているのではなく、所定の計算式に従ってそれらのパラメータに対応する歩行者存在情報提供エリアを逐次導出してもよい。
【0056】
また、情報提供判定部34には、自車両の運転者に対してディスプレイやスピーカを用いて視覚的或いは聴覚的に情報提供を行う情報提供部36が接続されている。情報提供判定部34は、歩行者存在情報提供エリア内に人が存在していると判別した場合、人が歩行者存在情報提供エリア内に存在することを車両運転者に知らせるための指示を情報提供部36に対して行う。情報提供部36は、情報提供判定部34から情報提供の指示を受けた場合、ディスプレイやスピーカを作動させることにより、人が自車両に対する歩行者存在情報提供エリア内に存在して自車両がその人に接触する可能性があることを車両運転者に知らせる。
【0057】
さらに、情報提供判定部34には、携帯端末2に対して車両の接近を報知するための情報を送信する送信部37が接続されている。情報提供判定部34は、歩行者存在情報提供エリア内に人が存在していると判別した場合、受信部31によって取得された携帯端末2のIDの中から歩行者存在情報提供エリア内にある携帯端末2のIDおよび危険情報を送信するための指示を送信部37に対して行う。送信部37は、ID送信の指示を受けた場合、アンテナ30から歩行者存在情報提供エリア内にある携帯端末2のIDおよび危険情報を電波に乗せて送信する。
【0058】
次に、図5,図6を参照して携帯端末2および接近検知装置3の動作、すなわち接近検知システム1の動作を説明する。図5は、携帯端末2によるレベル補正値算出処理の処理手順を示すフローチャートである。このレベル補正値算出処理は、携帯端末2の電源がオンされてからオフされるまでの間、所定のタイミングで繰り返し実行される。また、図6は、接近検知装置3による歩行者方向・距離推定処理の処理手順を示すフローチャートである。この歩行者方向・距離推定処理は、接近検知装置3の電源がオンされてからオフされるまでの間、所定のタイミングで繰り返し実行される。
【0059】
図5に示されるステップS100では、車両V1に搭載された接近検知装置3からの電波の受信レベル、および受信データ中の車両V1の車速情報が取得されるとともに、該車速情報から算出される車両V1の移動距離と受信レベルとの関係が記録される(図4参照)。
【0060】
続いて、ステップS102において、一定時間Ta(例えば、数秒)以上、車両V1からの電波が受信できなくなったか否かについての判断が行われる。ここで、車両V1からの電波が一定時間Ta以上受信できなくなった場合には、車両V1が通過して携帯端末2を所持する歩行者から離れたと判断され、ステップS104に処理が移行する。一方、ステップS102が否定される場合には、ステップS100に処理が移行し、一定時間Ta以上電波が受信できなくなるままで、ステップS100,S102が繰り返し実行される。
【0061】
ステップS104では、ステップS100で記録された受信レベルのピーク値Lmax、および上述した区間R1,R2それぞれの受信レベルの変化勾配X1,X2が求められる。
【0062】
続くステップS106では、受信レベルのピーク値Lmaxが判定値DLより小さいか否かについての判断が行われる。ここで、受信レベルのピーク値Lmaxが判定値DL以上である場合には、受信レベルの低下が生じていないと判断され、ステップS108において、携帯端末2を身体に近づけたことに起因する受信レベルの低下量を補正するためのレベル補正値HLにゼロが設定された後、ステップS116に処理が移行する。一方、受信レベルのピーク値Lmaxが判定値DLより小さいときには、ステップS110に処理が移行する。
【0063】
ステップS110では、受信レベルの変化勾配比X1/X2が、判定値DRより大きいか否かについての判断が行われる。ここで、受信レベルの変化勾配比X1/X2が判定値DR以下の場合には、受信レベルの低下が携帯端末2と車両V1との距離が離れていることによるものであると判断され、ステップS112に処理が移行する。一方、変化勾配比X1/X2が判定値DRより大きいときには、受信レベルの低下が携帯端末2を身体に近づけたことによるもの(アンテナの利得の低下によるもの)であると判断され、ステップS114に処理が移行する。
【0064】
ステップS112では、受信レベルの低下が携帯端末2と車両V1との距離が離れていることに起因するものであるため、レベル補正値HLが更新されること無く前回値が保持される。その後、ステップS116に処理が移行する。
【0065】
ステップS114では、受信レベルの低下が携帯端末2を身体に近づけたことに起因するものであるため、この受信レベルの低下量を補正するためのレベル補正値HLに補正値h1が設定される。その後、ステップS116に処理が移行する。
【0066】
一方、ステップS116では、ステップS108、S112、若しくはS114において設定されたレベル補正値HLがID,レベル補正値送出部25に出力される。そして、上述したように、ID,レベル補正値送出部25において送信データ列に付加された後、送信部26を介して次に接近する車両V2に搭載された接近検知装置3に送信される。その後、本処理から一旦抜ける。
【0067】
続いて、図6に示される歩行者方向・距離推定処理の処理手順を示すフローチャートを参照しつつ、接近検知装置3の動作について説明する。なお、この歩行者方向・距離推定処理は、接近検知装置3を構成する受信レベル補正/方向・距離推定部33により実行される。
【0068】
ステップS200では、アンテナ30の指向性を振ることによって取得された全方位の受信レベルが読み込まれ、受信レベルが最大となる方位が携帯端末2から発せられた電波の到来方向、すなわち携帯端末2を所持する歩行者Hが存在する方向と推定される。
【0069】
次に、ステップS202では、まず受信レベル,レベル補正値検出部32によって検出されたレベル補正値HLが読み込まれる。続いて、このレベル補正値HLとステップS200で読み込まれた受信レベルとが乗算されて補正後の受信レベルが算出される。そして、補正後の受信レベルに応じて携帯端末2との距離、すなわち携帯端末2を所持する歩行者Hとの距離が推定される。
【0070】
続くステップS204では、ステップS200において推定された携帯端末2を所持する歩行者Hの方向、およびステップS202において推定された歩行者Hとの距離が、情報提供判定部34に出力される。
【0071】
本実施形態に係る接近検知システム1を構成する携帯端末2によれば、受信レベルのピーク値Lmaxが判定値DLよりも小さい場合、受信レベルの変化勾配比X1/X2に基づいて受信レベルの低下がアンテナ20の利得の低下によるものか、若しくは車両V1との距離がより大きいことによるものかが判別される。そして、受信レベルの低下がアンテナ20の利得低下によるものであると判定されたときには、携帯端末2を身体に近づけたことに起因する受信レベルの低下量を補正するためのレベル補正値HLが求められるとともに、レベル補正値HLが車両V2に搭載された接近検知装置3に送信される。
【0072】
一方、車両V2に搭載された接近検知装置3では、携帯端末2から発せられた電波の受信レベルがレベル補正値HLを用いて補正され、補正後の受信レベルに基づいて携帯端末2との距離が求められる。
【0073】
その結果、携帯端末2および接近検知装置3を備えて構成される本実施形態に係る接近検知システム1によれば、接近検知装置3において、携帯端末2を身体に近づけたことに起因する受信レベルの低下量が補正されるため、携帯端末2を所持する歩行者Hと接近検知装置3が搭載された車両V2との距離を精度よく推定することが可能となる。
【0074】
次に、図7を参照して携帯端末2によるレベル補正値算出処理の他の処理形態(第2の処理形態)について説明する。図7はこの第2の処理形態を示すフローチャートである。このレベル補正値算出処理も、携帯端末2の電源がオンされてからオフされるまでの間、所定のタイミングで繰り返し実行される。
【0075】
この第2の処理形態は、レベル補正値の平均化処理(ステップS316、S318)が追加されている点で、上述した処理手順と異なる。したがって、ステップS300〜S314は、上述したステップS100〜S114と同一または同様であるので、ここでは説明を省略する。
【0076】
ステップS316では、ステップS308、S312、若しくはS314において直近に設定されたレベル補正値HL’がn個(例えば、3〜5個程度)記憶される。続いて、ステップS318において、ステップS316で記憶されたn個のレベル補正値HL’の平均値(以下「レベル補正平均値」という)HHLが算出される。そして、ステップS320において、ステップS318で算出されたレベル補正平均値HHLがID,レベル補正値送出部25に出力される。その結果、上述したように、ID,レベル補正値送出部25においてレベル補正平均値HHLが送信データ列に付加され、送信部26を介して次に接近する車両V2に搭載された接近検知装置3に送信される。
【0077】
本処理形態によれば、レベル補正値の平均化を行うことによって、レベル補正値の精度をより向上することが可能となる。
【0078】
上記実施形態では、レベル補正値HLを求める際に、車両V1に搭載された接近検知装置3から車速情報を受信し、この車速情報から車両V1の移動距離を算出して、携帯端末2での受信レベルと車両V1の移動距離との関係をグラフ化(図4(a)(b)参照)し、グラフ化された受信レベルのピーク値および変化勾配に基づいて、受信レベルの低下が携帯端末2を身体に近づけたことに起因するものであるか否かを判定した。これに対して、車速情報を取得することなく、携帯端末2での受信レベルと経過時間との関係をグラフ化し、グラフ化された受信レベルのピーク値および変化勾配に基づいて、受信レベルの低下が携帯端末2を身体に近づけたことに起因するものであるか否かを判定し、レベル補正値を設定することもできる。
【0079】
ここで、図8(a)(b)を参照しつつ、車速情報を用いることなく、受信レベルの低下が携帯端末2を身体に近づけたことに起因するものであるか否かを判定し、レベル補正値を設定する方法について説明する。図8(a)の実線は、車両V1の走行位置から近くかつ携帯端末2が身体に密着して所持された場合の受信レベルと経過時間との関係を示す。一方、図8(a)の破線は、車両V1の走行位置から近くかつ携帯端末2が身体から離して所持された場合の受信レベルと経過時間との関係を示す。図8(b)の実線は、車両V1の走行位置から遠くかつ携帯端末2が身体から離して所持された場合の受信レベルと経過時間との関係を示す。一方、図8(b)の破線は、(a)の破線と同様に、車両V1の走行位置から近くかつ携帯端末2が身体から離して所持された場合の受信レベルと経過時間との関係を示す。
【0080】
この方法では、まず、受信レベルがピーク値Lmax’を示す時刻tpと、受信レベルがピーク値Lmax’よりも所定レベルLs低い値を示す時刻t1’との間を区間R1’とするとともに、時刻t1’と、区間R1’における経過時間と等しい時間だけ時刻t1’からピーク位置と反対方向に離れた時刻t2’との間を区間R2’とする。次に、区間R1’におけるレベル値の変化勾配X1’と、区間R2’における変化勾配X2’とを算出する。そして、受信レベルのピーク値Lmaxが判定値DL’より小さく、かつ所定区間R2の変化勾配X2と所定区間R1の変化勾配X1との比X1/X2が判定値DR’より大きい場合には、受信レベルの低下が携帯端末2を身体に近づけたことによるものであると判断する。
【0081】
例えば、図8(a)において実線で示されるように、受信レベルのピーク値Lbmax’が判定値DL’未満であり、かつ変化勾配比Xb1’/Xb2’が判定値DR’よりも大きい場合には、携帯端末2が身体に密着して所持されていると判断される。なお、レベル補正値の求め方は、上述した場合と同一または同様であるので、ここでは説明を省略する。
【0082】
一方、図8(b)において実線で示されるように、受信レベルのピーク値Lcmax’’が判定値DL’未満であり、かつ変化勾配比Xc1’’/Xc2’’が判定値DR’よりも小さい場合には、携帯端末2を所持している歩行者の位置が車両V1の走行位置から離れていると判断される。
【0083】
このようにすれば、車速情報を用いることなくレベル補正値HLを簡易に求めることができる。
【0084】
ここで、図8(a)(b)は、車両V1が歩行者の前をほぼ一定の車速で通過したときの経過時間と携帯端末2での受信レベルとの関係を示したものであるが、横軸が経過時間であるので、車速が変化した場合には横軸方向にグラフが延びたり縮んだりする。すなわち、車速が高い場合にはグラフが横軸方向に縮み、車速が低い場合にはグラフが横軸方向に伸びる。しかしながら、変化勾配の比で比較することにより、受信レベルの低下が携帯端末2を身体に近づけたことに起因するものであるか否かを適切に判定することができる。なお、通過途中で車速が変化したときには受信レベルの変化勾配も変化するが、複数の車載機から得られるレベル補正値の平均値を取ることによって、適切なレベル補正値を求めることができる。
【0085】
次に、図9および図10を用いて、第2実施形態に係る接近検知システム4、および該接近検知システム4を構成する携帯端末5並びに接近検知装置3の構成について説明する。図9は、接近検知システム4の構成を示す図である。図10は、携帯端末5のブロック図である。
【0086】
図9に示されるように、接近検知システム4は、携帯端末2に代えて携帯端末5を備えて構成される点で上述した接近検知システム1と異なる。また、図10に示されるように、携帯端末5は、人の身体に近づけることによりその利得が向上するアンテナ27(例えば、ループアンテナなど)を有する点、およびこのアンテナ特性に対応したレベル補正値算出プログラムが記憶されている点で上述した携帯端末2と異なる。その他の構成は、上述したものと同一または同様であるので、ここでは説明を省略する。なお、接近検知システム4を構成する接近検知装置3は、上述したものと同一または同様であるので、ここでは説明を省略する。
【0087】
ここで、図11を参照しつつ、受信レベルの向上が携帯端末5を身体に近づけて所持していることに起因するものであるか否かを判断する方法について説明する。ここでは、図9に示されるように、携帯端末5を所持した歩行者Hd,Heの右方向(歩行者Hfの右斜め前方)から車両V3が接近し、歩行者Hd,He,Hfの前方を通過する場合を例にして説明する。車両V3は、図9において一点鎖線で示される進行方向に沿って走行するものとする。歩行者Hd,Heは、車両V3の進行方向の近くに位置しているため、車両V3は、歩行者Hd,Heの至近を通過する。一方、歩行者Hfは、歩行者Hd,Heと比べて車両V3の進行方向から離れた場所に位置している。そのため、車両V3は、歩行者Hfから離れた場所を通過する。
【0088】
歩行者Hdと歩行者Hfは、携帯端末5を身体から離して、例えば鞄などに付けて所持している。一方、歩行者Hdは、携帯端末5を身体に密着させた状態、例えば衣服のポケットに入れて所持している。
【0089】
携帯端末5を所持した歩行者Hd,He,Hfの前方を車両V3が通過する際における各携帯端末5での受信レベルと車両V3の移動距離との関係を図11(a),(b)に示す。図11(a)の実線は、車両V3の走行位置から近くかつ携帯端末5が身体に密着して所持された場合の受信レベル、すなわち歩行者Heが所持する携帯端末5の受信レベルと車両移動距離との関係を示す。一方、図11(a)の破線は、車両V3の走行位置から近くかつ携帯端末5が身体から離して所持された場合の受信レベル、すなわち歩行者Heの近傍にいる歩行者Hdが所持する携帯端末5の受信レベルと車両移動距離との関係を示す。
【0090】
図11(b)の実線は、車両V3の走行位置から遠くかつ携帯端末5が身体から離して所持された場合の受信レベル、すなわち歩行者Hfが所持する携帯端末5の受信レベルと車両移動距離との関係を示す。一方、図11(b)の破線は、(a)の破線と同様に、車両V3の走行位置から近くかつ携帯端末5が身体から離して所持された場合の受信レベル、すなわち歩行者Hdが所持する携帯端末5の受信レベルと車両移動距離との関係を示す。
【0091】
図11(a)において実線で示される、携帯端末5が身体に密着して所持された場合の受信レベル(歩行者Heが所持する携帯端末5の受信レベル)、および破線で示される携帯端末5が身体から離して所持された場合の受信レベル(歩行者Hdが所持する携帯端末5の受信レベル)はともに、車両V3が接近するに従って上昇し、もっとも接近したときにピークを示す。そして、その後、車両V3が通り過ぎて距離が離れるに従って低下する。すなわち、携帯端末5が身体に密着して所持された場合の受信レベルは、携帯端末5が身体から離して所持された場合の受信レベルと比較してその形状(変化勾配)は略同一である。しかしながら、図11(a)に示されるように、携帯端末5が身体に密着して所持された場合には、全体的に受信レベルが向上する。これは、人の身体が誘電体であるため、アンテナ20の利得が人体の影響を受けて向上するためである。
【0092】
また、図11(b)において実線で示された、車両V3の走行経路から離れたところに位置する歩行者Hfが所持する携帯端末5の受信レベル、および破線で示された、車両V3の走行経路の近くに位置する歩行者Hdが所持する携帯端末5の受信レベルはともに、車両V3が接近するに従って上昇し、もっとも接近したときにピークを示す。そして、その後、車両V3が通り過ぎて距離が離れるに従って低下する。しかしながら、図11(b)に示されるように、車両V3から離れた位置での受信レベルは、車両V3から近い位置での受信レベルと比較して、ピークが小さく、ピーク付近での変化勾配も小さい。これは、歩行者Hfが車両V3の走行経路から離れており、また車両V3に設けられた接近検知装置3のアンテナの指向正面から早くずれるためである。
【0093】
したがって、携帯端末5を所持した歩行者Hd,He,Hfの傍を車両V3が通過する際における受信レベルを記録し、そのピーク値および変化形状(変化勾配)を判定することにより、受信レベルの向上がアンテナの利得の向上によるものか否かを判別することができる。すなわち、受信レベルのピーク値が高く、かつ変化勾配が略同一である場合には、携帯端末5の着用位置が身体に近いために受信レベルが向上していると判断することができる。
【0094】
より具体的には、車両V3が通過する際における接近検知装置3からの電波の受信レベルのピーク値Lmaxと、ピーク前に設定された所定区間R1におけるレベル値の変化勾配X1と、該所定区間R1よりもピーク位置から離れた所定区間R2(ただし、R1の区間長=R2の区間長)における変化勾配X2とを算出し、受信レベルのピーク値Lmaxが判定値(上限しきい値)DL2より大きく、かつ所定区間R2の変化勾配X2と所定区間R1の変化勾配X1との比X1/X2が判定値DR2より大きい場合には、受信レベルの向上が携帯端末5を身体に近づけたことによるものであると判断される。
【0095】
例えば、図11(a)において実線で示されるように、受信レベルのピーク値Lemaxが判定値DL2よりも大きく、かつ変化勾配比Xe1/Xe2が判定値DR2よりも大きい場合には、携帯端末5が身体に密着して所持されていると判断される。
【0096】
なお、図11(a),(b)において破線で示されるように、携帯端末5が身体から離して所持されている場合には、受信レベルのピーク値Ldmaxが判定値DL2よりも小さくなる。すなわち、判定値DL2は、予め取得された、携帯端末5と身体との間隔と受信レベル向上量との関係、および携帯端末5と車両との距離と受信レベル向上量との関係に基づいて、携帯端末5と車両走行軌跡との距離が離れているときや携帯端末5を身体から離したに場合の受信レベルのピーク値よりも大きく、携帯端末5と車両走行軌跡との距離が近くかつ携帯端末5が身体に密着して所持されている場合の受信レベルのピーク値よりも小さい値に設定される。
【0097】
また、判定値DR2は、予め取得された、携帯端末5と身体との間隔と受信レベルの変化勾配との関係に基づいて、携帯端末5と車両走行軌跡との距離が離れているときの受信レベルの変化勾配比よりも大きく、携帯端末5を身体に近づけて所持している場合の受信レベルの変化勾配比よりも小さい値に設定される(図11(a)(b)に示される一点鎖線参照)。
【0098】
次に、図12を参照して携帯端末5の動作を説明する。図12は、携帯端末5によるレベル補正値算出処理の処理手順を示すフローチャートである。このレベル補正値算出処理は、携帯端末5の電源がオンされてからオフされるまでの間、所定のタイミングで繰り返し実行される。
【0099】
ステップS400〜S404は、上述したステップS100〜S104と同一または同様であるので、ここでは説明を省略する。
【0100】
ステップS406では、受信レベルの変化勾配比X1/X2が、判定値DR2より大きいか否かについての判断が行われる。ここで、受信レベルの変化勾配比X1/X2が判定値DR2以下の場合には、ステップS112において、レベル補正値HLが更新されること無く前回値が保持される。その後、ステップS416に処理が移行する。一方、変化勾配比X1/X2が判定値DR2より大きいときには、ステップS410に処理が移行する。
【0101】
ステップS410では、受信レベルのピーク値Lmaxが判定値DL2より大きいか否かについての判断が行われる。ここで、受信レベルのピーク値Lmaxが判定値DL2以下の場合には、受信レベルの向上が生じていないと判断され、ステップS412において、携帯端末5を身体に近づけたことに起因する受信レベルの向上量を補正するためのレベル補正値HLにゼロが設定された後、ステップS416に処理が移行する。一方、受信レベルのピーク値Lmaxが判定値DL2より大きいときには、受信レベルの向上が携帯端末5を身体に近づけたことによるもの(アンテナの利得の向上によるもの)であると判断され、ステップS414に処理が移行する。
【0102】
ステップS414では、受信レベルの向上量を補正するためのレベル補正値HLに補正値h2が設定される。その後、ステップS416に処理が移行する。
【0103】
ステップS416では、ステップS408、S412、若しくはS414において設定されたレベル補正値HLがID,レベル補正値送出部25に出力される。そして、上述したように、ID,レベル補正値送出部25において送信データ列に付加された後、送信部26を介して次に接近する車両V4に搭載された接近検知装置3に送信される。その後、本処理から一旦抜ける。
【0104】
本実施形態に係る接近検知システム4を構成する携帯端末5によれば、受信レベルの変化勾配比X1/X2が判定値DR2よりも大きく、かつ、受信レベルのピーク値Lmaxが判定値DL2よりも大きい場合に、受信レベルの向上がアンテナ27の利得の向上によるものであると判定される。そして、携帯端末5を身体に近づけたことに起因する受信レベルの向上量を補正するためのレベル補正値HLが求められるとともに、このレベル補正値HLが車両V4に搭載された接近検知装置3に送信される。
【0105】
一方、車両V4に搭載された接近検知装置3では、携帯端末5から発せられた電波の受信レベルがレベル補正値HLを用いて補正され、補正後の受信レベルに基づいて携帯端末5との距離が求められる。
【0106】
その結果、携帯端末5および接近検知装置3を備えて構成される本実施形態に係る接近検知システム2によれば、接近検知装置3において、携帯端末5を身体に近づけたことに起因する受信レベルの向上量が補正されるため、携帯端末5を所持する歩行者Hと接近検知装置3が搭載された車両V4との距離を精度よく推定することが可能となる。
【0107】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態では、受信レベルの変化勾配の比に基づいて、受信レベルの低下が携帯端末2を身体に近づけて所持していることに起因するものであるか否かを判断し、レベル補正値を設定したが、受信レベルの変化勾配の絶対値に基づいて、レベル補正値を設定してもよい。
【0108】
また、上記実施形態では、レベル補正値を2段階で設定したが、ピーク値の大きさに応じて多段階に設定してもよい。なお、この場合には、ピーク値と判定値DLとのレベル差が大きいほどレベル補正値がより大きな値に設定される。
【0109】
さらに、複数の通過車両から取得された各レベル補正値の平均を取ることによりレベル補正平均値を算出する場合、例えば、通過してからの経過時間が短い車両の重み付けをより大きくするように、時間的に重み付けをして平均化するようにしてもよい。
【0110】
上記実施形態では、携帯端末2からの間欠送信波を車両に搭載された接近検知装置3の指向性アンテナで受信して歩行者の位置を推定したが、接近検知装置3の指向性アンテナからの送信波を携帯端末2で受信し、その受信レベル値とレベル補正値を接近検知装置3側に送り返し、それらの値に基づいて歩行者の位置を推定してもよい。
【0111】
また、上記実施形態では、携帯端末2を所持する歩行者がいる方向を推定するために、アンテナ30の指向性をふったが、指向性の向きがそれぞれ異なる複数のアンテナを選択的に切り替えるようにしてもよい。
【0112】
上記第2の処理形態では、レベル補正値の平均化処理を行ったが、携帯端末2における受信レベルのピーク値および変化勾配比の偏差が所定の範囲内にある場合、すなわち歩行者と車両との距離や携帯端末2の所持状態に大きな変化がない場合に限り、上記平均化処理を実行する構成としてもよい。このようにすれば、レベル補正値による受信レベルの補正精度をより向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0113】
【図1】第1実施形態に係る接近検知システムの構成を示す図である。
【図2】第1実施形態に係る接近検知システムを構成する携帯端末のブロック図である。
【図3】第1実施形態に係る接近検知システムを構成する接近検知装置のブロック図である。
【図4】(a)は、携帯端末を身体に密着させた場合の車両移動距離と受信レベルとの関係を示すグラフである。(b)は、距離が大きい場合の車両移動距離と受信レベルとの関係を示すグラフである。
【図5】レベル補正値算出処理の処理手順を示すフローチャートである。
【図6】歩行者方向/位置推定処理の処理手順を示すフローチャートである。
【図7】レベル補正値算出処理の他の処理手順を示すフローチャートである。
【図8】(a)は、携帯端末を身体に密着させた場合の経過時間と受信レベルとの関係を示すグラフである。(b)は、距離が大きい場合の経過時間と受信レベルとの関係を示すグラフである。
【図9】第2実施形態に係る接近検知システムの構成を示す図である。
【図10】第2実施形態に係る接近検知システムを構成する携帯端末のブロック図である。
【図11】(a)は、携帯端末を身体に密着させた場合の車両移動距離と受信レベルとの関係を示すグラフである。(b)は、距離が大きい場合の車両移動距離と受信レベルとの関係を示すグラフである。
【図12】レベル補正値算出処理の処理手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0114】
1,4…接近検知システム、2,5…携帯端末、3…接近検知装置、20,27…アンテナ、21…受信部、22…受信レベル,ID,車速検出部、23…情報提供部、24…レベル補正値算出部、25…ID,レベル補正値送出部、26…送信部、30…アンテナ、31…受信部、32…受信レベル,レベル補正値検出部、33…受信レベル補正/方向・距離推定部、34…情報提供判定部、35…歩行者存在情報提供エリアテーブル、36…情報提供部、37…送信部、38…指向性制御部。
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯端末、接近検知装置、およびそれらを用いた接近検知システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、歩行者などの人が所持する携帯端末の発する電波を受信することにより車両周囲に存在する人を検出する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1記載の技術では、人が所持する携帯端末の電波を車両に搭載された車載機で受信し、その受信レベルから、車両と携帯端末を所持する人との距離を求めている。
【特許文献1】特開2005−202874号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、人の身体は誘電体であるので、携帯端末のアンテナの特性は人の身体の影響を受けて変化する。例えば、ダイポールアンテナは身体に近づけるとその利得が低下する。一方、ループアンテナは身体に近づけるとその利得が向上する。そのため、携帯端末を身体に密着して所持する場合と身体から離して所持する場合とでは送受信レベルが変化する。その結果、上述した技術では、求められる車載機と携帯端末との距離の誤差が大きくなるおそれがあった。
【0004】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、人と移動体との距離をより精度よく推定することが可能な携帯端末、接近検知装置、およびそれらを用いた接近検知システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る携帯端末は、移動体に搭載された接近検知装置との間で無線通信を行う受信手段および送信手段を備えた携帯端末において、受信手段により受信された電波の受信レベルを検出する受信レベル検出手段と、移動体が通過する際における受信レベルのピーク値および変化形状に基づいて、レベル補正値を求める補正値演算手段とを備え、送信手段が、レベル補正値を送出することを特徴とする。
【0006】
上述したように人の身体は誘電体であるので、携帯端末を身体に近づけた場合、アンテナの利得が低下または向上(以下「低下/向上」と記載することもある)して受信レベルが低下/向上する。そのため、携帯端末を身体に近づけて所持している人の近傍を移動体が通過する際には、携帯端末を身体から離して所持している人の近傍を通過する場合と比較して受信レベルのピーク値が低下/向上する。一方、移動体と携帯端末との距離が変化した場合にも受信レベルは変化するが、この場合とアンテナの利得が低下/向上した場合とでは、移動体が通過する際における受信レベルの変化形状が異なる。本発明に係る携帯端末によれば、この特性を利用し、受信レベルのピーク値および変化形状に基づいて、携帯端末を身体に近づけたことに起因する受信レベルの低下量または向上量を補正するためのレベル補正値が求められる。
【0007】
一方、携帯端末を人の身体に近づけた場合、アンテナの利得が低下/向上して送信レベルも低下/向上する。すなわち、携帯端末からの電波を受信する接近検知装置側での受信レベルも低下/向上することとなる。ここで、本発明に係る携帯端末によれば、求められたレベル補正値が送信手段によって送信されるため、携帯端末からの電波を受信する接近検知装置側において、携帯端末を身体に近づけたことに起因する受信レベルの低下/向上を補正することが可能となる。
【0008】
上記補正値演算手段は、受信レベルのピーク値が所定の範囲から外れ、かつ受信レベルの変化勾配が所定の勾配よりも大きい場合に、受信レベルの変化勾配に応じてレベル補正値を求めることが好ましい。
【0009】
上述したように、携帯端末を身体に密着させて所持している人の近傍を移動体が通過する際には、受信レベルが低下/向上する。ただし、携帯端末を身体に密着して所持している場合(すなわちアンテナの利得が低下/向上した場合)には、携帯端末を身体から離して所持しているときと比較して、同一の変化形状(変化勾配)を保ったまま全体的に受信レベルが低下/向上する。一方、携帯端末を所持している人と移動体との距離が離れている場合には、アンテナの指向正面から早くずれるため、受信レベルの変化勾配が緩やかになる。
【0010】
本発明に係る携帯端末によれば、この特性を利用することによって、受信レベルのピーク値が所定の範囲から外れ、かつ受信レベルの変化勾配が所定の勾配よりも大きい場合に、受信レベルの低下/向上がアンテナ利得の低下/向上によるものであると判断するとともに、受信レベルの変化勾配から携帯端末を身体に近づけたことに起因する受信レベルの低下量/向上量を補正するためのレベル補正値を求めることができる。
【0011】
上記補正値演算手段は、受信レベルのピーク値が下限しきい値よりも小さく、かつ、受信レベルの変化勾配が所定の勾配よりも大きい場合に、受信レベルの変化勾配に応じてレベル補正値を求めることが好ましい。
【0012】
例えば、ダイポールアンテナなどの身体に近づけることにより利得が低下するアンテナを使用している場合には、携帯端末を身体に密着させて所持している人の近傍を移動体が通過する際に、受信レベルが低下する。ただし、携帯端末を身体に密着して所持している場合(すなわちアンテナの利得が低下した場合)には、携帯端末を身体から離して所持しているときと比較して、同一の変化形状(変化勾配)を保ったまま全体的に受信レベルが低下する。一方、携帯端末を所持している人と移動体との距離が離れている場合には、アンテナの指向正面から早くずれるため、受信レベルの変化勾配が緩やかになる。
【0013】
本発明に係る携帯端末によれば、この特性を利用することによって、受信レベルのピーク値が下限しきい値よりも小さく、かつ受信レベルの変化勾配が所定の勾配よりも大きい場合に、受信レベルの低下がアンテナ利得の低下によるものであると判断するとともに、受信レベルの変化勾配から携帯端末を身体に近づけたことに起因する受信レベルの低下量を補正するためのレベル補正値を求めることができる。
【0014】
また、上記補正値演算手段は、受信レベルのピーク値が上限しきい値よりも大きく、かつ、受信レベルの変化勾配が所定の勾配よりも大きい場合に、受信レベルの変化勾配に応じてレベル補正値を求めることが好ましい。
【0015】
例えば、ループアンテナなどの身体に近づけることにより利得が向上するアンテナを使用している場合には、携帯端末を身体に密着させて所持している人の近傍を移動体が通過する際に、受信レベルが向上する。ただし、携帯端末を身体に密着して所持している場合(すなわちアンテナの利得が向上した場合)には、携帯端末を身体から離して所持しているときと比較して、同一の変化形状(変化勾配)を保ったまま全体的に受信レベルが向上する。
【0016】
本発明に係る携帯端末によれば、この特性を利用することによって、受信レベルのピーク値が上限しきい値よりも大きく、かつ受信レベルの変化勾配が所定の勾配よりも大きい場合に、受信レベルの向上がアンテナ利得の向上によるものであると判断するとともに、受信レベルの変化勾配から携帯端末を身体に近づけたことに起因する受信レベルの向上量を補正するためのレベル補正値を求めることができる。
【0017】
ここで、上記補正値演算手段は、複数の移動体についてレベル補正値を求め、該複数のレベル補正値を平均化することにより上記レベル補正値を算出することが好ましい。このようにすれば、レベル補正値の精度をより向上させることが可能となる。
【0018】
本発明に係る接近検知装置は、移動体に搭載され、上記のいずれかの携帯端末との間で無線通信を行い、該携帯端末との接近状態を検知する接近検知装置において、携帯端末から発せられた電波を受信してレベル補正値を取得する端末情報受信手段と、端末情報受信手段により受信された携帯端末からの電波の受信レベルを検出する端末受信レベル検出手段と、端末受信レベル検出手段により検出された受信レベルをレベル補正値に基づいて補正する補正手段と、補正後の受信レベルに基づいて携帯端末との距離を求める距離演算手段とを備えることを特徴とする。
【0019】
上述したように、携帯端末を人の身体に近づけた場合、アンテナの利得が低下して送信レベルが低下するため、接近検知装置での受信レベルも低下する。しかしながら、本発明に係る接近検知装置によれば、携帯端末から発せられた電波の受信レベルがレベル補正値を用いて補正され、補正後の受信レベルに基づいて携帯端末との距離が求められる。このように、携帯端末を身体に近づけたことに起因する受信レベルの低下量が補正されるため、携帯端末を所持する人と接近検知装置が搭載された移動体との距離をより精度よく推定することが可能となる。
【0020】
本発明に係る接近検知システムは、上記のいずれかの携帯端末と、上記接近検知装置とを備えることを特徴とする。
【0021】
本発明に係る接近検知システムによれば、上述したように、携帯端末によって、該携帯端末を身体に近づけたことに起因する受信レベルの低下量/向上量を補正するためのレベル補正値が求められるとともに、移動体に搭載された接近検知装置に送信される。一方、接近検知装置では、携帯端末を身体に近づけたことに起因する受信レベルの低下量/向上量がレベル補正値を用いて補正され、補正後の受信レベルに基づいて携帯端末との距離が求められる。その結果、携帯端末を所持する人と接近検知装置が搭載された移動体との距離をより精度よく求めることが可能となる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、携帯端末を身体に近づけたことに起因するアンテナ利得の変化量を補正する構成としたので、人と移動体との距離をより精度よく推定することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、添付図面を参照して本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の参照番号を附し、重複する説明は省略する。
【0024】
まず、図1〜3を併せて用いて、第1実施形態に係る接近検知システム1、および該接近検知システム1を構成する携帯端末2並びに接近検知装置3の構成について説明する。図1は、接近検知システム1の構成を示す図である。図2は、接近検知システム1を構成する携帯端末2のブロック図である。また、図3は、接近検知システム1を構成する接近検知装置3のブロック図である。
【0025】
接近検知システム1は、図1中の歩行者Ha,Hb,Hc(以下、総括的に歩行者Hと称することもある)が所持する携帯端末2と、移動体である車両V1,V2(以下、総括的に車両Vと称することもある)に搭載される接近検知装置3とを備えて構成されている。なお、本明細書において「歩行者」とは、歩行している者のほか、例えば自転車や車椅子などに乗って歩道を往来する者も含むものとする。
【0026】
本実施形態に係る携帯端末2は、人の身体に近づけることによりその利得が低下するダイポールアンテナなどを有するものであり、接近してくる車両V1に搭載された接近検知装置3から発せられた接近情報を受信して、携帯端末2の所持者に報知する。また、携帯端末2は、車両V1が近傍を通過する際における接近検知装置3からの電波の受信レベルに基づいて、レベル補正値を求める。そして、求められたレベル補正値を次に接近してくる車両V2に搭載された接近検知装置3に対して送信する。
【0027】
一方、車両V2に搭載された接近検知装置3は、携帯端末2から発せられた電波を受信して上記レベル補正値を検出する。そして、携帯端末2からの電波の受信レベルをレベル補正値により補正し、補正後の受信レベルに基づいて携帯端末2を所持する歩行者Ha,Hb,Hcの方向および歩行者Ha,Hb,Hcとの距離、すなわち歩行者位置を推定する。そして、接近検知装置3は、推定された歩行者位置と自車両の走行状態とに基づいて接近情報を生成し、車両V2の運転者に対して報知するとともに、生成された接近情報を携帯端末2に対して送信する。
【0028】
図2に示されるように、携帯端末2は、所定周波数の電波を送受信するためのアンテナ20を有している。本実施形態では、アンテナ20として、人の身体に近づけることによりその利得が低下するアンテナ、例えばダイポールアンテナが用いられる。アンテナ20で受けた接近検知装置3からの電波は、受信部21において復調された後、受信レベル,ID,車速検出部22へ出力される。受信レベル,ID,車速検出部22では、受信電波の受信レベルが検出されるとともに、受信データの中からID(Identification)情報および車速情報が検出される。すなわち、受信部21は特許請求の範囲記載の受信手段として機能し、受信レベル,ID,車速検出部22は受信レベル検出手段として機能する。
【0029】
受信レベル,ID,車速検出部22には情報提供部23が接続されており、検出されたIDが自身のID(端末ID)と一致した場合、情報提供部23から携帯端末2を所持する歩行者に対して車両Vが接近していることが報知される。情報提供部23は、例えば、音声情報、視覚的な表示情報、およびバイブレーションなどによって車両Vが接近する旨を歩行者に提示する。
【0030】
また、受信レベル,ID,車速検出部22には、レベル補正値算出部24、およびID,レベル補正値送出部25が接続されており、検出された受信レベル、車両IDおよび車速情報がレベル補正値算出部24に出力されるとともに、受信レベルおよび車両IDがID,レベル補正値送出部25に出力される。
【0031】
レベル補正値算出部24では、携帯端末2を所持した歩行者の近傍を車両V1が通過する際における受信レベルと車速が記録され、車速から求められる車両V1の移動距離と受信レベルとの関係が取得される。そして、受信レベルのピーク値および変化形状に基づいて、携帯端末2を歩行者の身体に近づけたことに起因する受信レベルの低下量を補正するためのレベル補正値が求められる。すなわち、レベル補正値算出部24は、特許請求の範囲記載の補正値演算手段として機能する。
【0032】
ここで、図4を参照しつつ、受信レベルの低下が携帯端末2を身体に近づけて所持していることに起因するものであるか否かを判断する方法について説明する。ここでは、図1に示されるように、携帯端末2を所持した歩行者Ha,Hbの右方向(歩行者Hcの右斜め前方)から車両V1が接近し、歩行者Ha,Hb,Hcの前方を通過する場合を例にして説明する。車両V1は、図1において一点鎖線で示される進行方向に沿って走行するものとする。歩行者Ha,Hbは、車両V1の進行方向の近くに位置しているため、車両V1は、歩行者Ha,Hbの至近を通過する。一方、歩行者Hcは、歩行者Ha,Hbと比べて車両V1の進行方向から離れた場所に位置している。そのため、車両V1は、歩行者Hcから離れた場所を通過する。
【0033】
歩行者Haと歩行者Hcは、携帯端末2を身体から離して、例えば鞄などに付けて所持している。一方、歩行者Hbは、携帯端末2を身体に密着させた状態、例えば衣服のポケットに入れて所持している。
【0034】
携帯端末2を所持した歩行者Ha,Hb,Hcの前方を車両V1が通過する際における各携帯端末2での受信レベルと車両V1の移動距離との関係を図4(a),(b)に示す。図4(a)の実線は、車両V1の走行位置から近くかつ携帯端末2が身体に密着して所持された場合の受信レベル、すなわち歩行者Hbが所持する携帯端末2の受信レベルと車両移動距離との関係を示す。一方、図4(a)の破線は、車両V1の走行位置から近くかつ携帯端末2が身体から離して所持された場合の受信レベル、すなわち歩行者Hbの近傍にいる歩行者Haが所持する携帯端末2の受信レベルと車両移動距離との関係を示す。
【0035】
図4(b)の実線は、車両V1の走行位置から遠くかつ携帯端末2が身体から離して所持された場合の受信レベル、すなわち歩行者Hcが所持する携帯端末2の受信レベルと車両移動距離との関係を示す。一方、図4(b)の破線は、(a)の破線と同様に、車両V1の走行位置から近くかつ携帯端末2が身体から離して所持された場合の受信レベル、すなわち歩行者Haが所持する携帯端末2の受信レベルと車両移動距離との関係を示す。
【0036】
図4(a)において実線で示される、携帯端末2が身体に密着して所持された場合の受信レベル(歩行者Hbが所持する携帯端末2の受信レベル)、および破線で示される携帯端末2が身体から離して所持された場合の受信レベル(歩行者Haが所持する携帯端末2の受信レベル)はともに、車両V1が接近するに従って上昇し、もっとも接近したときにピークを示す。そして、その後、車両V1が通り過ぎて距離が離れるに従って低下する。すなわち、携帯端末2が身体に密着して所持された場合の受信レベルは、携帯端末2が身体から離して所持された場合の受信レベルと比較してその形状(変化勾配)は略同一である。しかしながら、図4(a)に示されるように、携帯端末2が身体に密着して所持された場合には、全体的に受信レベルが低下する。これは、人の身体が誘電体であるため、アンテナ20の利得が人体の影響を受けて低下するためである。
【0037】
また、図4(b)において実線で示された、車両V1の走行経路から離れたところに位置する歩行者Hcが所持する携帯端末2の受信レベル、および破線で示された、車両V1の走行経路の近くに位置する歩行者Haが所持する携帯端末2の受信レベルはともに、車両V1が接近するに従って上昇し、もっとも接近したときにピークを示す。そして、その後、車両V1が通り過ぎて距離が離れるに従って低下する。しかしながら、図4(b)に示されるように、車両V1から離れた位置での受信レベルは、車両V1から近い位置での受信レベルと比較して、ピークが小さく、ピーク付近での変化勾配も小さい。これは、歩行者Hcが車両V1の走行経路から離れており、また車両V1に設けられた接近検知装置3のアンテナの指向正面から早くずれるためである。
【0038】
したがって、携帯端末2を所持した歩行者Ha,Hb,Hcの傍を車両V1が通過する際における受信レベルを記録し、そのピーク値および変化形状(変化勾配)を判定することにより、受信レベルの低下がアンテナの利得の低下によるものか、若しくは車両V1との距離が離れていることによるものかを判別することができる。すなわち、身体から離して所持されている携帯端末2の近傍を車両V1が通り過ぎた場合の受信レベルのピーク値および変化勾配と比較して、変化勾配が略同一であるにもかかわらずピーク値が低い場合には、携帯端末2の着用位置が身体に近いために受信レベルが低下していると判断することができる。
【0039】
より具体的には、車両V1が通過する際における接近検知装置3からの電波の受信レベルのピーク値Lmaxと、ピーク前に設定された所定区間R1におけるレベル値の変化勾配X1と、該所定区間R1よりもピーク位置から離れた所定区間R2(ただし、R1の区間長=R2の区間長)における変化勾配X2とを算出し、受信レベルのピーク値Lmaxが判定値(下限しきい値)DLより小さく、かつ所定区間R2の変化勾配X2と所定区間R1の変化勾配X1との比X1/X2が判定値DRより大きい場合には、受信レベルの低下が携帯端末2を身体に近づけたことによるものであると判断される。
【0040】
例えば、図4(a)において実線で示されるように、受信レベルのピーク値Lbmaxが判定値DL未満であり、かつ変化勾配比Xb1/Xb2が判定値DRよりも大きい場合には、携帯端末2が身体に密着して所持されていると判断される。
【0041】
一方、図4(b)において実線で示されるように、受信レベルのピーク値Lcmaxが判定値DL未満であり、かつ変化勾配比Xc1/Xc2が判定値DRよりも小さい場合には、携帯端末2を所持している歩行者Hcの位置が、車両V1の走行位置から離れていると判断される。
【0042】
なお、図4(a),(b)において破線で示されるように、車両V1の走行位置から近くかつ携帯端末2が身体から離して所持されている場合には、受信レベルのピーク値Lamaxが判定値DLよりも大きくなる。すなわち、判定値DLは、予め取得された、携帯端末2と身体との間隔と受信レベル低下量との関係、および携帯端末2と車両との距離と受信レベル低下量との関係に基づいて、携帯端末2と車両走行軌跡との距離が離れているときや携帯端末2を身体に近づけた場合の受信レベルのピーク値よりも大きく、携帯端末2と車両走行軌跡との距離が近くかつ携帯端末2が身体から離して所持されている場合の受信レベルのピーク値よりも小さい値に設定される。
【0043】
また、判定値DRは、予め取得された、携帯端末2と身体との間隔と受信レベルの変化勾配との関係に基づいて、携帯端末2と車両走行軌跡との距離が離れているときの受信レベルの変化勾配比よりも大きく、携帯端末2を身体に近づけて所持している場合の受信レベルの変化勾配比よりも小さい値に設定される(図4(a)(b)に示される一点鎖線参照)。
【0044】
図2に戻って説明を続ける。上述した判断の結果、受信レベルの低下が携帯端末2を身体に近づけたことに起因するものであると判断された場合、レベル補正値算出部24では、携帯端末2を歩行者Hの身体に近づけたことに起因する受信レベルの低下量を補正するためのレベル補正値が求められる。なお、このレベル補正値は、携帯端末2の装着位置と受信レベルの変化量との関係を計測することによって予め設定される。レベル補正値算出部24には、ID,レベル補正値送出部25が接続されており、求められたレベル補正値は、ID,レベル補正値送出部25に出力される。
【0045】
ID,レベル補正値送出部25は、レベル補正値算出部24から入力されたレベル補正値、個別に付与されている携帯端末IDや受信された車両IDなどを送信データ列に付加して、予め定められた通信フォーマットに準拠した送信データ列を生成し、送信部26に出力する。
【0046】
送信部26は、入力された送信データ列に基づいて搬送波を変調してアンテナ20に出力する。その結果、レベル補正値を含む送信データが電波に乗せられてアンテナ20から次に接近する車両V2に搭載された接近検知装置3に送信される。すなわち、送信部26は、特許請求の範囲記載の送信手段として機能する。
【0047】
続いて、図3を参照しつつ、携帯端末2からの電波を受信してレベル補正値を検出し、このレベル補正値を用いて受信レベルを補正するとともに補正後の受信レベルに基づいて歩行者位置を推定する接近検知装置3の構成について説明する。
【0048】
接近検知装置3は、所定周波数の電波を送受信するためのアンテナ30を有している。アンテナ30で受けた携帯端末2からの電波は、受信部31において復調された後、受信レベル,レベル補正値検出部32へ出力される。受信レベル,レベル補正値検出部32では、携帯端末2からの電波の受信状態である受信レベルが検出されるとともに、受信データの中からレベル補正値や携帯端末ID情報などが検出される。すなわち、受信部31および受信レベル,レベル補正値検出部32は、特許請求の範囲に記載の端末情報受信手段として機能する。また、受信レベル,レベル補正値検出部32は、端末受信レベル検出手段としても機能する。
【0049】
受信レベル,レベル補正値検出部32には受信レベル補正/方向・距離推定部33が接続されており、検出された受信レベル、レベル補正値や携帯端末ID情報などは、この受信レベル補正/方向・距離推定部33に出力される。
【0050】
受信レベル補正/方向・距離推定部33には、アンテナ30の指向性を制御する指向性制御部38および情報提供判定部34が接続されている。受信レベル補正/方向・距離推定部33は、指向性制御部38に対して受信すべき方位角の情報を出力する。指向性制御部38は、受信レベル補正/方向・距離推定部33から入力された方位角情報に従ってアンテナ30の指向性を切り替える。受信レベル補正/方向・距離推定部33では、アンテナ30の指向性が切り替えられることによって全方位の受信レベルが取得される。なお、指向性制御部38は、推定された携帯端末2の方向に向けて電波が発信されるようにアンテナ30の指向性を制御することができる。また、指向性制御部38は、後述する車速、ウィンカ情報やナビゲーション情報に基づいて電波が発信される領域を設定することもできる。
【0051】
受信レベル補正/方向・距離推定部33では、携帯端末2からの電波の到来方向および携帯端末2との距離、すなわち携帯端末2の位置が推定される。受信レベル補正/方向・距離推定部33は、アンテナ30の指向性が切り替えられたときに受信レベルが最大となる方位を電波の到来方向、すなわち携帯端末2を所持する歩行者が存在する方向と推定する。
【0052】
また、受信レベル補正/方向・距離推定部33では、受信レベル,レベル補正値検出部32によって検出されたレベル補正値を用いて電波の受信レベルが補正される。なお、受信レベルが補正される際には、例えば、検出された実際の受信レベルとレベル補正値とが乗算されて補正後の受信レベルが算出される。そして、補正後の受信レベルから携帯端末2との距離、すなわち携帯端末2を所持する歩行者との距離が推定される。すなわち、受信レベル補正/方向・距離推定部33は、特許請求の範囲に記載した補正手段および距離演算手段として機能する。
【0053】
上述したように、携帯端末2を人の身体に近づけた場合、アンテナの利得が低下する。その結果、携帯端末2での受信レベルが低下するとともに、携帯端末2からの送信レベルも低下する。ここでは、レベル補正値を用いて受信レベルを補正することにより、携帯端末2を歩行者の身体に近づけたことに起因する送信レベルの低下量、すなわち接近検知装置3での受信レベルの低下量が補正される。
【0054】
また、上述したように、受信レベル補正/方向・距離推定部33には、情報提供判定部34が接続されている。受信レベル補正/方向・距離推定部33で推定された携帯端末2を所持する歩行者Hの方向情報および歩行者Hとの距離情報は、情報提供判定部34に送られる。これらの方向・距離情報に加えて、情報提供判定部34には、車速センサを用いて検出される自車両の速度(車速)情報や、ウィンカ指示器の状態を示すウィンカ情報や、車両に搭載されたナビゲーションシステムから取得される車両の現在位置近傍(特に進行方向前方)における道路形状や道路幅、交差点情報、車線数情報などのナビゲーション情報が供給される。なお、これらのナビゲーション情報は、予めナビゲーションシステムの地図データベースに格納されているものである。
【0055】
一方、情報提供判定部34には、歩行者存在情報提供エリアテーブル35が接続されている。歩行者存在情報提供エリアテーブル35には、車速とウィンカ情報とナビゲーション情報とをパラメータにして異なる領域が設定されている歩行者存在情報提供エリアの情報が予め書き込まれている。情報提供判定部34は、取得した自車両の車速とウィンカ情報とナビゲーション情報に基づいて、歩行者存在情報提供エリアテーブル35からその車速とウィンカ情報とナビゲーション情報に対応する歩行者存在情報提供エリアを読み出すとともに、その後、受信レベル補正/方向・距離推定部33から送られた人の存在方向と距離とに基づいて、その読み出した歩行者存在情報提供エリア内に携帯端末2を所持する人が存在するか否かを判別する。なお、歩行者存在情報提供エリアの情報を歩行者存在情報提供エリアテーブル35内に予め持っているのではなく、所定の計算式に従ってそれらのパラメータに対応する歩行者存在情報提供エリアを逐次導出してもよい。
【0056】
また、情報提供判定部34には、自車両の運転者に対してディスプレイやスピーカを用いて視覚的或いは聴覚的に情報提供を行う情報提供部36が接続されている。情報提供判定部34は、歩行者存在情報提供エリア内に人が存在していると判別した場合、人が歩行者存在情報提供エリア内に存在することを車両運転者に知らせるための指示を情報提供部36に対して行う。情報提供部36は、情報提供判定部34から情報提供の指示を受けた場合、ディスプレイやスピーカを作動させることにより、人が自車両に対する歩行者存在情報提供エリア内に存在して自車両がその人に接触する可能性があることを車両運転者に知らせる。
【0057】
さらに、情報提供判定部34には、携帯端末2に対して車両の接近を報知するための情報を送信する送信部37が接続されている。情報提供判定部34は、歩行者存在情報提供エリア内に人が存在していると判別した場合、受信部31によって取得された携帯端末2のIDの中から歩行者存在情報提供エリア内にある携帯端末2のIDおよび危険情報を送信するための指示を送信部37に対して行う。送信部37は、ID送信の指示を受けた場合、アンテナ30から歩行者存在情報提供エリア内にある携帯端末2のIDおよび危険情報を電波に乗せて送信する。
【0058】
次に、図5,図6を参照して携帯端末2および接近検知装置3の動作、すなわち接近検知システム1の動作を説明する。図5は、携帯端末2によるレベル補正値算出処理の処理手順を示すフローチャートである。このレベル補正値算出処理は、携帯端末2の電源がオンされてからオフされるまでの間、所定のタイミングで繰り返し実行される。また、図6は、接近検知装置3による歩行者方向・距離推定処理の処理手順を示すフローチャートである。この歩行者方向・距離推定処理は、接近検知装置3の電源がオンされてからオフされるまでの間、所定のタイミングで繰り返し実行される。
【0059】
図5に示されるステップS100では、車両V1に搭載された接近検知装置3からの電波の受信レベル、および受信データ中の車両V1の車速情報が取得されるとともに、該車速情報から算出される車両V1の移動距離と受信レベルとの関係が記録される(図4参照)。
【0060】
続いて、ステップS102において、一定時間Ta(例えば、数秒)以上、車両V1からの電波が受信できなくなったか否かについての判断が行われる。ここで、車両V1からの電波が一定時間Ta以上受信できなくなった場合には、車両V1が通過して携帯端末2を所持する歩行者から離れたと判断され、ステップS104に処理が移行する。一方、ステップS102が否定される場合には、ステップS100に処理が移行し、一定時間Ta以上電波が受信できなくなるままで、ステップS100,S102が繰り返し実行される。
【0061】
ステップS104では、ステップS100で記録された受信レベルのピーク値Lmax、および上述した区間R1,R2それぞれの受信レベルの変化勾配X1,X2が求められる。
【0062】
続くステップS106では、受信レベルのピーク値Lmaxが判定値DLより小さいか否かについての判断が行われる。ここで、受信レベルのピーク値Lmaxが判定値DL以上である場合には、受信レベルの低下が生じていないと判断され、ステップS108において、携帯端末2を身体に近づけたことに起因する受信レベルの低下量を補正するためのレベル補正値HLにゼロが設定された後、ステップS116に処理が移行する。一方、受信レベルのピーク値Lmaxが判定値DLより小さいときには、ステップS110に処理が移行する。
【0063】
ステップS110では、受信レベルの変化勾配比X1/X2が、判定値DRより大きいか否かについての判断が行われる。ここで、受信レベルの変化勾配比X1/X2が判定値DR以下の場合には、受信レベルの低下が携帯端末2と車両V1との距離が離れていることによるものであると判断され、ステップS112に処理が移行する。一方、変化勾配比X1/X2が判定値DRより大きいときには、受信レベルの低下が携帯端末2を身体に近づけたことによるもの(アンテナの利得の低下によるもの)であると判断され、ステップS114に処理が移行する。
【0064】
ステップS112では、受信レベルの低下が携帯端末2と車両V1との距離が離れていることに起因するものであるため、レベル補正値HLが更新されること無く前回値が保持される。その後、ステップS116に処理が移行する。
【0065】
ステップS114では、受信レベルの低下が携帯端末2を身体に近づけたことに起因するものであるため、この受信レベルの低下量を補正するためのレベル補正値HLに補正値h1が設定される。その後、ステップS116に処理が移行する。
【0066】
一方、ステップS116では、ステップS108、S112、若しくはS114において設定されたレベル補正値HLがID,レベル補正値送出部25に出力される。そして、上述したように、ID,レベル補正値送出部25において送信データ列に付加された後、送信部26を介して次に接近する車両V2に搭載された接近検知装置3に送信される。その後、本処理から一旦抜ける。
【0067】
続いて、図6に示される歩行者方向・距離推定処理の処理手順を示すフローチャートを参照しつつ、接近検知装置3の動作について説明する。なお、この歩行者方向・距離推定処理は、接近検知装置3を構成する受信レベル補正/方向・距離推定部33により実行される。
【0068】
ステップS200では、アンテナ30の指向性を振ることによって取得された全方位の受信レベルが読み込まれ、受信レベルが最大となる方位が携帯端末2から発せられた電波の到来方向、すなわち携帯端末2を所持する歩行者Hが存在する方向と推定される。
【0069】
次に、ステップS202では、まず受信レベル,レベル補正値検出部32によって検出されたレベル補正値HLが読み込まれる。続いて、このレベル補正値HLとステップS200で読み込まれた受信レベルとが乗算されて補正後の受信レベルが算出される。そして、補正後の受信レベルに応じて携帯端末2との距離、すなわち携帯端末2を所持する歩行者Hとの距離が推定される。
【0070】
続くステップS204では、ステップS200において推定された携帯端末2を所持する歩行者Hの方向、およびステップS202において推定された歩行者Hとの距離が、情報提供判定部34に出力される。
【0071】
本実施形態に係る接近検知システム1を構成する携帯端末2によれば、受信レベルのピーク値Lmaxが判定値DLよりも小さい場合、受信レベルの変化勾配比X1/X2に基づいて受信レベルの低下がアンテナ20の利得の低下によるものか、若しくは車両V1との距離がより大きいことによるものかが判別される。そして、受信レベルの低下がアンテナ20の利得低下によるものであると判定されたときには、携帯端末2を身体に近づけたことに起因する受信レベルの低下量を補正するためのレベル補正値HLが求められるとともに、レベル補正値HLが車両V2に搭載された接近検知装置3に送信される。
【0072】
一方、車両V2に搭載された接近検知装置3では、携帯端末2から発せられた電波の受信レベルがレベル補正値HLを用いて補正され、補正後の受信レベルに基づいて携帯端末2との距離が求められる。
【0073】
その結果、携帯端末2および接近検知装置3を備えて構成される本実施形態に係る接近検知システム1によれば、接近検知装置3において、携帯端末2を身体に近づけたことに起因する受信レベルの低下量が補正されるため、携帯端末2を所持する歩行者Hと接近検知装置3が搭載された車両V2との距離を精度よく推定することが可能となる。
【0074】
次に、図7を参照して携帯端末2によるレベル補正値算出処理の他の処理形態(第2の処理形態)について説明する。図7はこの第2の処理形態を示すフローチャートである。このレベル補正値算出処理も、携帯端末2の電源がオンされてからオフされるまでの間、所定のタイミングで繰り返し実行される。
【0075】
この第2の処理形態は、レベル補正値の平均化処理(ステップS316、S318)が追加されている点で、上述した処理手順と異なる。したがって、ステップS300〜S314は、上述したステップS100〜S114と同一または同様であるので、ここでは説明を省略する。
【0076】
ステップS316では、ステップS308、S312、若しくはS314において直近に設定されたレベル補正値HL’がn個(例えば、3〜5個程度)記憶される。続いて、ステップS318において、ステップS316で記憶されたn個のレベル補正値HL’の平均値(以下「レベル補正平均値」という)HHLが算出される。そして、ステップS320において、ステップS318で算出されたレベル補正平均値HHLがID,レベル補正値送出部25に出力される。その結果、上述したように、ID,レベル補正値送出部25においてレベル補正平均値HHLが送信データ列に付加され、送信部26を介して次に接近する車両V2に搭載された接近検知装置3に送信される。
【0077】
本処理形態によれば、レベル補正値の平均化を行うことによって、レベル補正値の精度をより向上することが可能となる。
【0078】
上記実施形態では、レベル補正値HLを求める際に、車両V1に搭載された接近検知装置3から車速情報を受信し、この車速情報から車両V1の移動距離を算出して、携帯端末2での受信レベルと車両V1の移動距離との関係をグラフ化(図4(a)(b)参照)し、グラフ化された受信レベルのピーク値および変化勾配に基づいて、受信レベルの低下が携帯端末2を身体に近づけたことに起因するものであるか否かを判定した。これに対して、車速情報を取得することなく、携帯端末2での受信レベルと経過時間との関係をグラフ化し、グラフ化された受信レベルのピーク値および変化勾配に基づいて、受信レベルの低下が携帯端末2を身体に近づけたことに起因するものであるか否かを判定し、レベル補正値を設定することもできる。
【0079】
ここで、図8(a)(b)を参照しつつ、車速情報を用いることなく、受信レベルの低下が携帯端末2を身体に近づけたことに起因するものであるか否かを判定し、レベル補正値を設定する方法について説明する。図8(a)の実線は、車両V1の走行位置から近くかつ携帯端末2が身体に密着して所持された場合の受信レベルと経過時間との関係を示す。一方、図8(a)の破線は、車両V1の走行位置から近くかつ携帯端末2が身体から離して所持された場合の受信レベルと経過時間との関係を示す。図8(b)の実線は、車両V1の走行位置から遠くかつ携帯端末2が身体から離して所持された場合の受信レベルと経過時間との関係を示す。一方、図8(b)の破線は、(a)の破線と同様に、車両V1の走行位置から近くかつ携帯端末2が身体から離して所持された場合の受信レベルと経過時間との関係を示す。
【0080】
この方法では、まず、受信レベルがピーク値Lmax’を示す時刻tpと、受信レベルがピーク値Lmax’よりも所定レベルLs低い値を示す時刻t1’との間を区間R1’とするとともに、時刻t1’と、区間R1’における経過時間と等しい時間だけ時刻t1’からピーク位置と反対方向に離れた時刻t2’との間を区間R2’とする。次に、区間R1’におけるレベル値の変化勾配X1’と、区間R2’における変化勾配X2’とを算出する。そして、受信レベルのピーク値Lmaxが判定値DL’より小さく、かつ所定区間R2の変化勾配X2と所定区間R1の変化勾配X1との比X1/X2が判定値DR’より大きい場合には、受信レベルの低下が携帯端末2を身体に近づけたことによるものであると判断する。
【0081】
例えば、図8(a)において実線で示されるように、受信レベルのピーク値Lbmax’が判定値DL’未満であり、かつ変化勾配比Xb1’/Xb2’が判定値DR’よりも大きい場合には、携帯端末2が身体に密着して所持されていると判断される。なお、レベル補正値の求め方は、上述した場合と同一または同様であるので、ここでは説明を省略する。
【0082】
一方、図8(b)において実線で示されるように、受信レベルのピーク値Lcmax’’が判定値DL’未満であり、かつ変化勾配比Xc1’’/Xc2’’が判定値DR’よりも小さい場合には、携帯端末2を所持している歩行者の位置が車両V1の走行位置から離れていると判断される。
【0083】
このようにすれば、車速情報を用いることなくレベル補正値HLを簡易に求めることができる。
【0084】
ここで、図8(a)(b)は、車両V1が歩行者の前をほぼ一定の車速で通過したときの経過時間と携帯端末2での受信レベルとの関係を示したものであるが、横軸が経過時間であるので、車速が変化した場合には横軸方向にグラフが延びたり縮んだりする。すなわち、車速が高い場合にはグラフが横軸方向に縮み、車速が低い場合にはグラフが横軸方向に伸びる。しかしながら、変化勾配の比で比較することにより、受信レベルの低下が携帯端末2を身体に近づけたことに起因するものであるか否かを適切に判定することができる。なお、通過途中で車速が変化したときには受信レベルの変化勾配も変化するが、複数の車載機から得られるレベル補正値の平均値を取ることによって、適切なレベル補正値を求めることができる。
【0085】
次に、図9および図10を用いて、第2実施形態に係る接近検知システム4、および該接近検知システム4を構成する携帯端末5並びに接近検知装置3の構成について説明する。図9は、接近検知システム4の構成を示す図である。図10は、携帯端末5のブロック図である。
【0086】
図9に示されるように、接近検知システム4は、携帯端末2に代えて携帯端末5を備えて構成される点で上述した接近検知システム1と異なる。また、図10に示されるように、携帯端末5は、人の身体に近づけることによりその利得が向上するアンテナ27(例えば、ループアンテナなど)を有する点、およびこのアンテナ特性に対応したレベル補正値算出プログラムが記憶されている点で上述した携帯端末2と異なる。その他の構成は、上述したものと同一または同様であるので、ここでは説明を省略する。なお、接近検知システム4を構成する接近検知装置3は、上述したものと同一または同様であるので、ここでは説明を省略する。
【0087】
ここで、図11を参照しつつ、受信レベルの向上が携帯端末5を身体に近づけて所持していることに起因するものであるか否かを判断する方法について説明する。ここでは、図9に示されるように、携帯端末5を所持した歩行者Hd,Heの右方向(歩行者Hfの右斜め前方)から車両V3が接近し、歩行者Hd,He,Hfの前方を通過する場合を例にして説明する。車両V3は、図9において一点鎖線で示される進行方向に沿って走行するものとする。歩行者Hd,Heは、車両V3の進行方向の近くに位置しているため、車両V3は、歩行者Hd,Heの至近を通過する。一方、歩行者Hfは、歩行者Hd,Heと比べて車両V3の進行方向から離れた場所に位置している。そのため、車両V3は、歩行者Hfから離れた場所を通過する。
【0088】
歩行者Hdと歩行者Hfは、携帯端末5を身体から離して、例えば鞄などに付けて所持している。一方、歩行者Hdは、携帯端末5を身体に密着させた状態、例えば衣服のポケットに入れて所持している。
【0089】
携帯端末5を所持した歩行者Hd,He,Hfの前方を車両V3が通過する際における各携帯端末5での受信レベルと車両V3の移動距離との関係を図11(a),(b)に示す。図11(a)の実線は、車両V3の走行位置から近くかつ携帯端末5が身体に密着して所持された場合の受信レベル、すなわち歩行者Heが所持する携帯端末5の受信レベルと車両移動距離との関係を示す。一方、図11(a)の破線は、車両V3の走行位置から近くかつ携帯端末5が身体から離して所持された場合の受信レベル、すなわち歩行者Heの近傍にいる歩行者Hdが所持する携帯端末5の受信レベルと車両移動距離との関係を示す。
【0090】
図11(b)の実線は、車両V3の走行位置から遠くかつ携帯端末5が身体から離して所持された場合の受信レベル、すなわち歩行者Hfが所持する携帯端末5の受信レベルと車両移動距離との関係を示す。一方、図11(b)の破線は、(a)の破線と同様に、車両V3の走行位置から近くかつ携帯端末5が身体から離して所持された場合の受信レベル、すなわち歩行者Hdが所持する携帯端末5の受信レベルと車両移動距離との関係を示す。
【0091】
図11(a)において実線で示される、携帯端末5が身体に密着して所持された場合の受信レベル(歩行者Heが所持する携帯端末5の受信レベル)、および破線で示される携帯端末5が身体から離して所持された場合の受信レベル(歩行者Hdが所持する携帯端末5の受信レベル)はともに、車両V3が接近するに従って上昇し、もっとも接近したときにピークを示す。そして、その後、車両V3が通り過ぎて距離が離れるに従って低下する。すなわち、携帯端末5が身体に密着して所持された場合の受信レベルは、携帯端末5が身体から離して所持された場合の受信レベルと比較してその形状(変化勾配)は略同一である。しかしながら、図11(a)に示されるように、携帯端末5が身体に密着して所持された場合には、全体的に受信レベルが向上する。これは、人の身体が誘電体であるため、アンテナ20の利得が人体の影響を受けて向上するためである。
【0092】
また、図11(b)において実線で示された、車両V3の走行経路から離れたところに位置する歩行者Hfが所持する携帯端末5の受信レベル、および破線で示された、車両V3の走行経路の近くに位置する歩行者Hdが所持する携帯端末5の受信レベルはともに、車両V3が接近するに従って上昇し、もっとも接近したときにピークを示す。そして、その後、車両V3が通り過ぎて距離が離れるに従って低下する。しかしながら、図11(b)に示されるように、車両V3から離れた位置での受信レベルは、車両V3から近い位置での受信レベルと比較して、ピークが小さく、ピーク付近での変化勾配も小さい。これは、歩行者Hfが車両V3の走行経路から離れており、また車両V3に設けられた接近検知装置3のアンテナの指向正面から早くずれるためである。
【0093】
したがって、携帯端末5を所持した歩行者Hd,He,Hfの傍を車両V3が通過する際における受信レベルを記録し、そのピーク値および変化形状(変化勾配)を判定することにより、受信レベルの向上がアンテナの利得の向上によるものか否かを判別することができる。すなわち、受信レベルのピーク値が高く、かつ変化勾配が略同一である場合には、携帯端末5の着用位置が身体に近いために受信レベルが向上していると判断することができる。
【0094】
より具体的には、車両V3が通過する際における接近検知装置3からの電波の受信レベルのピーク値Lmaxと、ピーク前に設定された所定区間R1におけるレベル値の変化勾配X1と、該所定区間R1よりもピーク位置から離れた所定区間R2(ただし、R1の区間長=R2の区間長)における変化勾配X2とを算出し、受信レベルのピーク値Lmaxが判定値(上限しきい値)DL2より大きく、かつ所定区間R2の変化勾配X2と所定区間R1の変化勾配X1との比X1/X2が判定値DR2より大きい場合には、受信レベルの向上が携帯端末5を身体に近づけたことによるものであると判断される。
【0095】
例えば、図11(a)において実線で示されるように、受信レベルのピーク値Lemaxが判定値DL2よりも大きく、かつ変化勾配比Xe1/Xe2が判定値DR2よりも大きい場合には、携帯端末5が身体に密着して所持されていると判断される。
【0096】
なお、図11(a),(b)において破線で示されるように、携帯端末5が身体から離して所持されている場合には、受信レベルのピーク値Ldmaxが判定値DL2よりも小さくなる。すなわち、判定値DL2は、予め取得された、携帯端末5と身体との間隔と受信レベル向上量との関係、および携帯端末5と車両との距離と受信レベル向上量との関係に基づいて、携帯端末5と車両走行軌跡との距離が離れているときや携帯端末5を身体から離したに場合の受信レベルのピーク値よりも大きく、携帯端末5と車両走行軌跡との距離が近くかつ携帯端末5が身体に密着して所持されている場合の受信レベルのピーク値よりも小さい値に設定される。
【0097】
また、判定値DR2は、予め取得された、携帯端末5と身体との間隔と受信レベルの変化勾配との関係に基づいて、携帯端末5と車両走行軌跡との距離が離れているときの受信レベルの変化勾配比よりも大きく、携帯端末5を身体に近づけて所持している場合の受信レベルの変化勾配比よりも小さい値に設定される(図11(a)(b)に示される一点鎖線参照)。
【0098】
次に、図12を参照して携帯端末5の動作を説明する。図12は、携帯端末5によるレベル補正値算出処理の処理手順を示すフローチャートである。このレベル補正値算出処理は、携帯端末5の電源がオンされてからオフされるまでの間、所定のタイミングで繰り返し実行される。
【0099】
ステップS400〜S404は、上述したステップS100〜S104と同一または同様であるので、ここでは説明を省略する。
【0100】
ステップS406では、受信レベルの変化勾配比X1/X2が、判定値DR2より大きいか否かについての判断が行われる。ここで、受信レベルの変化勾配比X1/X2が判定値DR2以下の場合には、ステップS112において、レベル補正値HLが更新されること無く前回値が保持される。その後、ステップS416に処理が移行する。一方、変化勾配比X1/X2が判定値DR2より大きいときには、ステップS410に処理が移行する。
【0101】
ステップS410では、受信レベルのピーク値Lmaxが判定値DL2より大きいか否かについての判断が行われる。ここで、受信レベルのピーク値Lmaxが判定値DL2以下の場合には、受信レベルの向上が生じていないと判断され、ステップS412において、携帯端末5を身体に近づけたことに起因する受信レベルの向上量を補正するためのレベル補正値HLにゼロが設定された後、ステップS416に処理が移行する。一方、受信レベルのピーク値Lmaxが判定値DL2より大きいときには、受信レベルの向上が携帯端末5を身体に近づけたことによるもの(アンテナの利得の向上によるもの)であると判断され、ステップS414に処理が移行する。
【0102】
ステップS414では、受信レベルの向上量を補正するためのレベル補正値HLに補正値h2が設定される。その後、ステップS416に処理が移行する。
【0103】
ステップS416では、ステップS408、S412、若しくはS414において設定されたレベル補正値HLがID,レベル補正値送出部25に出力される。そして、上述したように、ID,レベル補正値送出部25において送信データ列に付加された後、送信部26を介して次に接近する車両V4に搭載された接近検知装置3に送信される。その後、本処理から一旦抜ける。
【0104】
本実施形態に係る接近検知システム4を構成する携帯端末5によれば、受信レベルの変化勾配比X1/X2が判定値DR2よりも大きく、かつ、受信レベルのピーク値Lmaxが判定値DL2よりも大きい場合に、受信レベルの向上がアンテナ27の利得の向上によるものであると判定される。そして、携帯端末5を身体に近づけたことに起因する受信レベルの向上量を補正するためのレベル補正値HLが求められるとともに、このレベル補正値HLが車両V4に搭載された接近検知装置3に送信される。
【0105】
一方、車両V4に搭載された接近検知装置3では、携帯端末5から発せられた電波の受信レベルがレベル補正値HLを用いて補正され、補正後の受信レベルに基づいて携帯端末5との距離が求められる。
【0106】
その結果、携帯端末5および接近検知装置3を備えて構成される本実施形態に係る接近検知システム2によれば、接近検知装置3において、携帯端末5を身体に近づけたことに起因する受信レベルの向上量が補正されるため、携帯端末5を所持する歩行者Hと接近検知装置3が搭載された車両V4との距離を精度よく推定することが可能となる。
【0107】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態では、受信レベルの変化勾配の比に基づいて、受信レベルの低下が携帯端末2を身体に近づけて所持していることに起因するものであるか否かを判断し、レベル補正値を設定したが、受信レベルの変化勾配の絶対値に基づいて、レベル補正値を設定してもよい。
【0108】
また、上記実施形態では、レベル補正値を2段階で設定したが、ピーク値の大きさに応じて多段階に設定してもよい。なお、この場合には、ピーク値と判定値DLとのレベル差が大きいほどレベル補正値がより大きな値に設定される。
【0109】
さらに、複数の通過車両から取得された各レベル補正値の平均を取ることによりレベル補正平均値を算出する場合、例えば、通過してからの経過時間が短い車両の重み付けをより大きくするように、時間的に重み付けをして平均化するようにしてもよい。
【0110】
上記実施形態では、携帯端末2からの間欠送信波を車両に搭載された接近検知装置3の指向性アンテナで受信して歩行者の位置を推定したが、接近検知装置3の指向性アンテナからの送信波を携帯端末2で受信し、その受信レベル値とレベル補正値を接近検知装置3側に送り返し、それらの値に基づいて歩行者の位置を推定してもよい。
【0111】
また、上記実施形態では、携帯端末2を所持する歩行者がいる方向を推定するために、アンテナ30の指向性をふったが、指向性の向きがそれぞれ異なる複数のアンテナを選択的に切り替えるようにしてもよい。
【0112】
上記第2の処理形態では、レベル補正値の平均化処理を行ったが、携帯端末2における受信レベルのピーク値および変化勾配比の偏差が所定の範囲内にある場合、すなわち歩行者と車両との距離や携帯端末2の所持状態に大きな変化がない場合に限り、上記平均化処理を実行する構成としてもよい。このようにすれば、レベル補正値による受信レベルの補正精度をより向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0113】
【図1】第1実施形態に係る接近検知システムの構成を示す図である。
【図2】第1実施形態に係る接近検知システムを構成する携帯端末のブロック図である。
【図3】第1実施形態に係る接近検知システムを構成する接近検知装置のブロック図である。
【図4】(a)は、携帯端末を身体に密着させた場合の車両移動距離と受信レベルとの関係を示すグラフである。(b)は、距離が大きい場合の車両移動距離と受信レベルとの関係を示すグラフである。
【図5】レベル補正値算出処理の処理手順を示すフローチャートである。
【図6】歩行者方向/位置推定処理の処理手順を示すフローチャートである。
【図7】レベル補正値算出処理の他の処理手順を示すフローチャートである。
【図8】(a)は、携帯端末を身体に密着させた場合の経過時間と受信レベルとの関係を示すグラフである。(b)は、距離が大きい場合の経過時間と受信レベルとの関係を示すグラフである。
【図9】第2実施形態に係る接近検知システムの構成を示す図である。
【図10】第2実施形態に係る接近検知システムを構成する携帯端末のブロック図である。
【図11】(a)は、携帯端末を身体に密着させた場合の車両移動距離と受信レベルとの関係を示すグラフである。(b)は、距離が大きい場合の車両移動距離と受信レベルとの関係を示すグラフである。
【図12】レベル補正値算出処理の処理手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0114】
1,4…接近検知システム、2,5…携帯端末、3…接近検知装置、20,27…アンテナ、21…受信部、22…受信レベル,ID,車速検出部、23…情報提供部、24…レベル補正値算出部、25…ID,レベル補正値送出部、26…送信部、30…アンテナ、31…受信部、32…受信レベル,レベル補正値検出部、33…受信レベル補正/方向・距離推定部、34…情報提供判定部、35…歩行者存在情報提供エリアテーブル、36…情報提供部、37…送信部、38…指向性制御部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体に搭載された接近検知装置との間で無線通信を行う受信手段および送信手段を備えた携帯端末において、
前記受信手段により受信された電波の受信レベルを検出する受信レベル検出手段と、
前記移動体が通過する際における前記受信レベルのピーク値および変化形状に基づいて、レベル補正値を求める補正値演算手段と、を備え、
前記送信手段は、前記レベル補正値を送出することを特徴とする携帯端末。
【請求項2】
前記補正値演算手段は、前記受信レベルのピーク値が所定の範囲から外れ、かつ前記受信レベルの変化勾配が所定の勾配よりも大きい場合に、前記受信レベルの変化勾配に応じて前記レベル補正値を求めることを特徴とする請求項1に記載の携帯端末。
【請求項3】
前記補正値演算手段は、前記受信レベルのピーク値が下限しきい値よりも小さく、かつ、前記受信レベルの変化勾配が所定の勾配よりも大きい場合に、前記受信レベルの変化勾配に応じて前記レベル補正値を求めることを特徴とする請求項1または2に記載の携帯端末。
【請求項4】
前記補正値演算手段は、前記受信レベルのピーク値が上限しきい値よりも大きく、かつ、前記受信レベルの変化勾配が所定の勾配よりも大きい場合に、前記受信レベルの変化勾配に応じて前記レベル補正値を求めることを特徴とする請求項1または2に記載の携帯端末。
【請求項5】
前記補正値演算手段は、複数の移動体についてレベル補正値を求め、該複数のレベル補正値を平均化することにより前記レベル補正値を算出することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の携帯端末。
【請求項6】
移動体に搭載され、請求項1〜5のいずれか1項に記載の携帯端末との間で無線通信を行い、該携帯端末との接近状態を検知する接近検知装置において、
前記携帯端末から発せられた電波を受信してレベル補正値を取得する端末情報受信手段と、
前記端末情報受信手段により受信された前記携帯端末からの電波の受信レベルを検出する端末受信レベル検出手段と、
前記端末受信レベル検出手段により検出された前記受信レベルを前記レベル補正値に基づいて補正する補正手段と、
補正後の受信レベルに基づいて前記携帯端末との距離を求める距離演算手段と、を備えることを特徴とする接近検知装置。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の携帯端末と、
請求項6に記載の接近検知装置と、を備えることを特徴とする接近検知システム。
【請求項1】
移動体に搭載された接近検知装置との間で無線通信を行う受信手段および送信手段を備えた携帯端末において、
前記受信手段により受信された電波の受信レベルを検出する受信レベル検出手段と、
前記移動体が通過する際における前記受信レベルのピーク値および変化形状に基づいて、レベル補正値を求める補正値演算手段と、を備え、
前記送信手段は、前記レベル補正値を送出することを特徴とする携帯端末。
【請求項2】
前記補正値演算手段は、前記受信レベルのピーク値が所定の範囲から外れ、かつ前記受信レベルの変化勾配が所定の勾配よりも大きい場合に、前記受信レベルの変化勾配に応じて前記レベル補正値を求めることを特徴とする請求項1に記載の携帯端末。
【請求項3】
前記補正値演算手段は、前記受信レベルのピーク値が下限しきい値よりも小さく、かつ、前記受信レベルの変化勾配が所定の勾配よりも大きい場合に、前記受信レベルの変化勾配に応じて前記レベル補正値を求めることを特徴とする請求項1または2に記載の携帯端末。
【請求項4】
前記補正値演算手段は、前記受信レベルのピーク値が上限しきい値よりも大きく、かつ、前記受信レベルの変化勾配が所定の勾配よりも大きい場合に、前記受信レベルの変化勾配に応じて前記レベル補正値を求めることを特徴とする請求項1または2に記載の携帯端末。
【請求項5】
前記補正値演算手段は、複数の移動体についてレベル補正値を求め、該複数のレベル補正値を平均化することにより前記レベル補正値を算出することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の携帯端末。
【請求項6】
移動体に搭載され、請求項1〜5のいずれか1項に記載の携帯端末との間で無線通信を行い、該携帯端末との接近状態を検知する接近検知装置において、
前記携帯端末から発せられた電波を受信してレベル補正値を取得する端末情報受信手段と、
前記端末情報受信手段により受信された前記携帯端末からの電波の受信レベルを検出する端末受信レベル検出手段と、
前記端末受信レベル検出手段により検出された前記受信レベルを前記レベル補正値に基づいて補正する補正手段と、
補正後の受信レベルに基づいて前記携帯端末との距離を求める距離演算手段と、を備えることを特徴とする接近検知装置。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の携帯端末と、
請求項6に記載の接近検知装置と、を備えることを特徴とする接近検知システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2007−279911(P2007−279911A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−103424(P2006−103424)
【出願日】平成18年4月4日(2006.4.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年4月4日(2006.4.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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